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ダウンロード - 経済産業省
資源エネルギー庁
省エネルギー・新エネルギー部政策課国際室 御中
平成27年度国際エネルギー使用合理化等対策事業
(海外における卸電力取引所・リアルタイム市場等制度調査)
報告書
2016 年 2 月
環境・エネルギー研究本部
はじめに
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)をはじめとした再生可能エネルギーの世界大で
の導入拡大を図るマルチの枠組においては、現在取組の主流となっている個別要素技術を
起点としたナレッジシェアリングに留まらず、今後は、電力市場制度や取引形態等といっ
た基盤的制度の在り方が与える影響を整理し、一定の因果関係が認められれば当該基盤的
制度そのものも普及拡大策も活動対象としていくよう働きかけることが必要であり、卸電
力取引所(以下「取引所」という。)はその一つの契機となる可能性がある。
加えて、今般の電力システム改革により、小売参入が全面自由化され、取引所の活性化
に対する期待が高まっている。一方、現行法上、取引所の参加者は、電気事業者及び発電
事業者未満の発電事業を営む者が想定されており、大口需要家や金融機関等が参加するこ
とが認められていない。諸外国の例のように、これらの者が取引所取引に直接参加するこ
とが可能となれば、電力の需給調整の仕組みの中で一つの重要な役割を果たすことが期待
される。
また、ボラティリティの高い電源(再生可能エネルギー等)を持つ発電事業者の参入拡
大は、制度的に先行する諸外国において大きなイシューとなっており、我が国の取引所の
制度検討において必要不可欠な要素となっている。
かかる観点から、取引所等にかかる海外の先進的諸制度の調査を通じ、小売市場におけ
る競争促進や需要家の選択肢の拡大に向けた制度的検討を図りつつ、海外の再生可能エネ
ルギーの導入促進に向けたマルチ大での提案の方向性を再検討した。
平成 28 年 2 月
株式会社三菱総合研究所
i
目次
1. 諸外国におけるバランシングレスポンシビリティの構造・電力の需給調整の仕組み ....... 1
1.1 諸外国における卸電力市場の構造と概要 .................................................................... 1
1.1.1 市場モデルと BRP の概念..................................................................................... 1
1.1.2 各国の卸電力市場の概況....................................................................................... 4
1.2 諸外国におけるバランシングレスポンシビリティの構造及び内容.......................... 13
1.2.1 欧州ネットワークコードにおける BRP の位置づけ........................................... 13
1.2.2 ドイツ .................................................................................................................. 14
1.2.3 イギリス .............................................................................................................. 22
1.2.4 フランス .............................................................................................................. 32
1.2.5 米国 ..................................................................................................................... 38
2. 大口需要家等の取引所への直接参加の仕組み ................................................................... 40
2.1 概要 ............................................................................................................................ 40
2.2 取引所への大口需要家等の参加状況 ......................................................................... 43
2.2.1 EPEX Spot ........................................................................................................... 43
2.2.2 Nord Pool ............................................................................................................. 47
2.2.3 N2EX .................................................................................................................... 49
2.2.4 PJM ...................................................................................................................... 51
2.3 大口需要家等が取引所で取引を行うための要件 ....................................................... 54
2.3.1 取引所への参加要件 ............................................................................................ 54
2.3.2 取引に要するコスト ............................................................................................ 55
2.4 取引所から調達した(又は取引所に販売された)電気の託送について .................. 57
2.5 取引所取引における電源と需要の紐付けについて ................................................... 57
2.6 大口需要家の電力取引参加に関するケーススタディ................................................ 57
2.6.1 Norsk Hydro 社(アルミニウム製造) ................................................................ 57
2.6.2 Svenska Cellulosa Aktiebolage(紙・パルプ、消費財メーカー) ..................... 62
2.6.3 Skandinaviska Enskilda Banken(金融機関) .................................................... 66
2.7 大口需要家による電力取引の課題 ............................................................................. 69
2.8 確定数量契約の実態................................................................................................... 71
3. 諸外国における調整力を効率的に確保する仕組み(リアルタイム市場等)に関する調査・
分析 ................................................................................................................................... 74
3.1 諸外国における短期及び中長期の調整力(予備力)確保の仕組み.......................... 74
3.1.1 調整力(予備力)確保のためのリアルタイム市場の状況.................................. 74
3.1.2 調整力(予備力)確保のためのリアルタイム市場の状況.................................. 80
3.1.3 リアルタイム市場の制度と運用 .......................................................................... 88
3.1.4 リアルタイム市場のデータ ................................................................................. 92
3.2 諸外国におけるリアルタイム市場を基にしたインバランス料金の精算方法 ......... 109
2
3.2.1 インバランス料金設定方法 ............................................................................... 109
3.2.2 米国の地点別限界価格方式 ............................................................................... 114
3.3 インバランス精算及びリアルタイム市場の最適な在り方 ...................................... 115
3.3.1 系統運用者の運用するリアルタイム市場が存在しない日本におけるインバラン
ス精算のメリット・デメリット ....................................................................... 116
3.3.2 リアルタイム市場導入に当たっての課題 ......................................................... 117
3.3.3 取引所とリアルタイム市場が相互補完関係となるために必要な方策 ............. 120
3.3.4 再生可能エネルギー由来の発電事業のリアルタイム市場参入のための問題と解
決策 ................................................................................................................... 123
3.4 諸外国における調整力を効率的に確保する仕組みの需給調整における役割分析 .. 124
4. 再生可能エネルギーの導入促進に向けた取引所に関連する制度検討 ............................. 126
4.1 再生可能エネルギーの導入拡大がもたらす卸電力取引への影響 ........................... 126
4.2 再生可能エネルギーの導入促進に向けた取引所取引に関連する提案 .................... 129
3
要約
1. 諸外国におけるバランシングレスポンシビリティの構造・電力の需給調整の仕組み

需給調整(Balancing)は予め定められた範囲に系統周波数を維持するために系統運用者が継続的行う活動・プロセスをいう 。この需給調整プロセスの単
位となる概念が BRP(Balance Responsible Party)であり、欧州の市場モデルと深く結びついている。我が国は BRP モデルを採用している。もっとも、BRP
制度にいくつかのバリエーションが存在する。

BRP モデルは市場参加者が自由な市場取引の結果、分散的・分権的に需給計画が作成されるモデルである。一方、PJM に代表される米国のモデルはパワー
プールモデルと呼ぶことができ、系統運用者が全ての発電・小売の需給計画を中央集中・一元的に作成するモデルであり、BRP の概念は存在しない(換言すれ
ば ISO 自体が一つの BRP と解される)。
米国(PJM)
市場モデル
ユニットコミットメント
英国
ドイツ
フランス
パワープールモデル
北欧
日本(参考)注 3
BRP モデル
ユニットベース
ポートフォリオベース
同時同量
計画値同時同量
計画値同時同量
実同時同量
ユニットベース
計画値同時同量
実同時同量
需給計画
発電会社
発電会社、小売り会社等のエ
Balacing Group
Balance Responsible
Balance Responsible Market
小売事業者
需給
提出主体
小売会社
ネルギーアカウント保有者注1
Manager(BGM)
Entitiy(BRE)
Player(Norway)
(代表契約者)
計画
Gate Close
拘束力有り
拘束力無し
-
1 ポートフォリオ
に提出する計
画の拘束力
拘束力無し
※金融的拘束力は有り
拘束力有り
拘束力無し
Balance Perimeter 注2
基本
ユニット
Balancing Mechanism
Balancing Group
イン
ユニット
ベース
Unit
(BG)
バラ
インバランス
ユニット
2 ポートフォリオ
1 ポートフォリオ
2 ポートフォリオ
ンス
精算
ベース
(発・需別)
(BGM・BRE)
(発・需別)
精算
インバランス
1 時間
1 時間
15 分
ポートフォリオベース
ポートフォリオベース
ユニットベース
ユニットベース
(BMU)
(BG)
(Balancing Actor)
※なお、スウェーデンはポートフォリオベース
期間
BSP
(バランシングサービスプロバイダ)
ユニットベース
30 分
1 時間
注 1)各市場参加者は通常、発電、需要の2つのアカウントを有する 注2)最小単位である Balancing Entity の集合として定義される。
注 3)2016 年 4 月移行、我が国も計画値同時同量へ移行予定。この場合、Gate Close に提出する計画に拘束力が生じ、かつインバランス精算は発・需別の2ポートフォリオの制度と位置づけられる。
iv
30 分
-
2. 大口需要家等の取引所への直接参加の仕組み

調査の結果、北欧では、比較的、需要家が取引所取引に積極的に参加しているが、他地域は需要家参加は活発とは言えない。北欧諸国では、需要家が直接
託送契約、バランス契約を結ぶことができるなど、需要家参加を前提とした制度設計がなされている点が一因と考えられる。また、取引所においても、需要家を直接
対象とした制度ではないが、専門的な取引能力を自らは有さない小規模事業者が参加しやすい Client 制度が整備されていることも、理由と考えられる。

なお、本調査でケーススタディーとして実施したインタビューでは、需要家が自ら電力取引を行う動機として、自社が発電設備を有している場合は不効率な社内取引に代わって、取引所取引
を介することによって電力購入・販売活動が効率的なものとなる、あるいは、大口需要家の場合、電力の購入価格・購入計画自体が営業秘密に該当するため当該秘密を守りたい、等が挙
げられた。
前日市場
米国(PJM)
英国
需要家参加の有無
参加者有り
参加者無し
社数
PJM メンバー756 社の内 39
-
社
独
仏
北欧
参加者有り
参加者有り
※TSO と BRP として契約が必要
EPEX SPOT の参加事業者 234 社の内、
Nord Pool Spot の参加事
需要家は 7 社であり(内 5 社は自社発電
業者 390 社の内、需要家は
所を保有していることを確認)
29 社(内、Paticipant ステ
ータス 3 社、Client ステータス
26 社)
バランシング市場への需要家参加の有無
有り
有り
有り
有り
有り
可
-
可
需要家単独での
バランス契約の直接締結
-
バランス契約は
不可
需要家による託送契約の可否
可能
事例は見当たら
ない
v
可能
事例は見当たらな
い
可能
3. 諸外国における調整力を効率的に確保する仕組み(リアルタイム市場等)に関する調査・分析

需給調整(Balancing)のために系統運用者は各種調整力を調達する必要があるが、各地域の系統運用の歴史的な経緯を反映し、活用可能な調整力の有
無(①自動周波数応答機能、②LFC・AGC 機能、③EDC 機能)、予備力調達における平常時・緊急時の区分は必ずしも共通ではない。
調整力の分類
北欧
【参考】
(ノルウェー)
日本
PJM
イギリス
ドイツ
フランス
米国東部系統
イギリス系統
大陸欧州系統
大陸欧州系統
Nordel 系統
①自動周波数応答機能
○
○
○
○
○
○
②LFC・AGC 機能
○
×
○
○
×(実験中)
○
③EDC 機能
○
○
×(BG 側に帰
○
○
○(現一般電気事業
所属同期系統
日本系統
(東西の別あり)
属)
予備力調達における平常時・緊急時の区分
なし
あり
なし
者)
なし
あり
なし
(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所作成
調整力調達量の考え方の概要

調査の結果、各地域の調整力調達量の考え方は下記の通り整理される。
米国
一次予備力
イギリス
大陸欧州
北欧
発電事業者の義務(原子力発電
周波数が±0.5Hz を超えないために想定される
最大事故を 300 万 kW(150 万 kW
49.5Hz までの低下に対処する
を除く 75 MVA 以上)。NERC の
損失リスク(Normal Infeed Loss Risk)を
原子力発電 2 基)とし、調達量を各
ため緊急時用 120 万 kW 確保
基準でドループ 5%・周波数範囲
評価し、その 1.1 倍である 198 万 kW を確保。
国に配分(発電量シェア配分)。
(需要の応答能力を 20 万 kW
36mHz で設定となっているが、地域
【Hz】
(N-2 原則)【Hz】
と評価、最大事故を考慮して決
で設定可。【Hz】
定)。±0.1Hz に収める平常時
運用に 60 万 kW 確保。【Hz】
二次予備力
最大ユニット相当の 1.5 倍(そのうち
―
各 TSO の割当量は、少なくとも下式を
vi
北欧全体で 300MW を確保
同期予備力を最大ユニット相当確
上回ること【Hz、MW】
保)等【Hz、MW】
三次予備力
【Hz】
10  Lmax  50  50
2
二次予備力と合わせて需要予測誤
統合インバランスの発生確率 0.27%までの水準
各国の裁量に委ねられている。
各国の送電制約を考慮し、一次
差と事故確率を基に設定(PJM:
で短期運転予備力の確保量を決定(最大電
ドイツでは二次予備力と合わせて需要
予備力使用時の系統事故に対
需要予測誤差 2.11%+事故確率
力比 7%程度)。【MW】
予測誤差、事故確率、再エネ誤差率
応する予備力容量(全体で
より算定(二次と合わせて最大電力の
450 万 kW 程度、最大電力の
6%程度)。【MW】
6%程度(2014/15 年冬季需
4.16%=6.27%) 【MW】
給バランス評価))【MW】
リアルタイム市場
リアルタイム市場で供給力としてコミッ
一定規模以上の事業者に参加義務あり。
トした全供給力を対象に運用。
フランスでは一定規模以上の事業者に
供給余力のある事業者は参加
参加義務あり。ドイツに類似の市場は
可能
ない。
(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所作成
需給調整における役割分析

電気事業における需給調整は、市場参加者によるインバランス最小化、バランシング市場等を通じた系統インバランスの解消、平常時周波数制御による周波
数安定化、そして系統事故に起因する周波数低下時の緊急時予備力を用いた緊急時周波数回復に分けて考えることができる。欧米各国とも各機能の実施
方法には様々ある。

市場参加者にインバランス量を最小化するインセンティブを付与することを重視するのか、バランシング市場を構築して予備力で対応しきれない不確実性へ対処
するのか、確保した予備力で需給調整を行うのか、あるいはそれぞれで措置を取るのか、国・地域で力点が異なっていると考えられる。
用途
バランシング
市場
系統インバランス解消
ドイツ
LFC(二次予備力)
北欧
バランシング市場
三次予備力
vii
イギリス
バランシング市場
フランス
バランシング市場
周波数制御
緊急時用予
備力
平常時周波数維持
緊急時周波数回復
一次予備力
平常時用一次予備力
一次予備力
一次予備力
LFC(二次予備力)
バランシング市場
バランシング市場
LFC(二次予備力)
一次予備力(上げ・下げ)
一次予備力(上げ)
一次予備力(上げ)
一次予備力(上げ・下げ)
二次予備力(上げ・下げ)
三次予備力(上げ)
三次予備力(上げ)
二次予備力(上げ・下げ)
三次予備力(上げ・下げ)の
三次予備力(上げ)の残り
残り
バランシング市場(ないしリアルタイム市場)導入に当たっての課題

バランシング市場を導入するに際しては、①役割分担の明確化:どの機能を誰が担うべきか、送電部門とその他事業者の役割分担を切り分ける必要がある。
②同時同量義務との関係:同時同量義務の時間区分を単位に、インバランスと調整力の使用を切り分ける必要がある。③商品設計・商品共通化:国・地
域で需給調整の仕組みが異なっていることが多いが、広域的取引の拡大や負担の公平性確保の観点で、ある程度商品設計を共通化する必要がある。

特に商品設計においては、発電所毎に異なる出力調整能力の違いを反映させるか否かも重要な要素となる。現行の各種電源の需給調整における活用方法を
再検証し、商品設計を検討することが必要である。
4.再生可能エネルギーの導入促進に向けた取引所に関連する制度検討
1.~3.の調査を通じ、各国が再生可能電源の普及拡大を契機として、卸電力市場の再構築に向けた動きを活発化させていることが明らかとなった。特に容量メカニ
ズム、需給調整市場における調整力の kW 価値の市場化の制度設計は、再生可能電源の普及拡大の制約条件を緩和するものである。このような点を踏まえ、再生
可能エネルギーの導入促進に資する取引制度面の提案として次の 3 点が有益であることを示した。

需給調整能力の向上にかかわる電力取引制度に関する国際的なの知見・経験の共有スキームの構築

調整力に関する国際共同調達市場創設のイニシアティブ

再生可能エネルギーの調整力としての価値評価
viii
1. 諸外国におけるバランシングレスポンシビリティの構造・電力の需給調整の
仕組み
1.1 諸外国における卸電力市場の構造と概要
1.1.1 市場モデルと BRP の概念
需給調整(Balancing)は予め定められた範囲に系統周波数を維持するために系統運用者
が継続的行う活動・プロセスをいう1。この需給調整プロセスと BRP(Balance Responsible
Party)の概念は欧州の市場モデルと深く結びついている。BRP モデルは市場参加者が自由
な市場取引の結果、分散的・分権的に需給計画が作成されるモデルである。一方、米国 PJM
モデルはパワープールモデルと呼ぶことができ、系統運用者である PJM が全ての発電・小
売の需給計画を中央集中・一元的に作成するモデルであり、BRP の概念は存在しない(換
言すれば ISO 自体が一つの BRP と解される)。
表 1- 1 諸外国における市場モデルと BRP の概要
米国(PJM)
市場モデル
市場
モデル
発電会社、小
売り会社等のエ
ネルギーアカウン
ト保有者2
拘束力無し
※金融的拘束力
は有り
拘束力有り
ユニット
ベース
Balancing
Mechanism
Unit
インバランス
精算
ユニット
ベース
2 ポートフォリオ
(発・需別)
インバランス
期間
1 時間
1 時間
15 分
30 分
ポートフォリオベ
ース
(BMU)
ポートフォリオベ
ース
(BG)
ユニットベース
ユニットベース
ユニットベース
(Balancing
※なお、スウェーデン
Actor)
はポートフォリオベース
精算
BSP
(バランシングサービスプロバイ
ダ)
計画値
同時同量
実同時同量
Balacing
Group
Manager
(BGM)
Balance
Responsible
Entitiy(BRE)
拘束力無し
Balancing
Group(BG)
Balance
Perimeter3
1 ポートフォリオ
(BGM・BRE)
ENTSO-E Network Code on Electricity Balancing
2各市場参加者は通常、発電、需要の2つのアカウントを有する
3最小単位である
日本
ユニットベース
発電会社
小売会社
基本
ユニット
1
ポートフォリオベース
計画値
同時同量
Gate Close
後の計画の
拘束力
ランス
北欧
計画値
同時同量
需給計画
提出主体
インバ
フランス
BRP モデル
ユニットベース
同時同量
計画
ドイツ
パワープール
モデル
ユニット
コミットメント
需給
英国
Balancing Entity の集合として定義される。
1
実同時同量
Balance
Responsible
Market Player
(Norway)
小売事業者
(代表契約
者)
拘束力有り
拘束力無し
-
-
2 ポートフォリオ
(発・需別)
1 ポートフォリオ
1 時間
30 分
-
1) パワープールモデル
この市場モデルでは、発電事業者は MW 単位で表される物理的な毎時の発電設備容量又
は供給力(availability)を、オファー価格(通常、限界費)で系統運用者(ISO;Independent System
Operator)が運用する強制プール市場(centralized combined market)にて入札する。ISO は
需要予測を実施し、需給バランス計算を行い、単一市場精算価格(MCP; market clearing price)
を導きだす。MCP は、エネルギーとリアルタイムの需給調整費用をカバーする。ISO は給
電指令を発電者(及び制御可能な需要)に発し、精算額を計算する。
このコンセプトに基づく市場は、米国(PJM、NYISO、NEISO、ERCOT、CAISO 等)、
シンガポール、オーストラリアにみられる。
プレスケジューリング期間
有効設備容量の確保期間
15年前(最大)
3年前
1年前
・PJM域内の容量リソース、
特に発電設備は全て
FRR、ないしRPMへの
参加義務付
マ
ー
ケ
ッ
ト
プ
ロ
セ
ス
信頼度
バックストップ
※3年連続で
受渡年にお
ける有効設
備予備力
が、目標値
を1パーセン
ト下回る等
に、最長15
年でPJMが
電源入札
FRR制度
(自社調達)
前日
0時
1ヶ月前
当日
前日
12時
前日
18時
有効設備容量として確定された
リソースは前日市場への入札義
務が発生
当日
0時
精算
発電
時刻
リアルタイム市場
周波数調整市場・一次予備力市場
(一体的運用)
前日市場
運用予備力市場
(一体的運用)
翌日
以降
エネルギー市場
インバランス
精算
PJMは当日、常に最新の需要予
測、発電設備状況に応じて、運
転計画を見直し、必要があれば
個別の発電計画修正を通知
前日市場
入札締切
※インバラン
ス分は実需
給状況に基
づいて、5分
単位で決定
されるリアルタ
イム市場価
格の一時間
平均値を元
に算定される
料金で精算
自社発電(前日市場に0$入札)
相対契約(金融契約、前日市場に0$入札)
前日
市場入札※市場参加
※自主調達無し(PJM前日市場から調達)
者は、前
日市場の
未落札
分を修正
して入札
可能
・故障停止率を考慮した有
RPM市場
効設備量ベースでPJM全
(旧容量市場) 体の所要容量を確保
容量確保
制度
プ
レ
イ
ヤ
ー
Gate
Close
※定検停止、新設電源など物理的なリソース
の確認期間
※変動性電源も一定の容量
価値を評価。省エネ、DR、
送電線建設等もリソースとし
て評価
・30分以内に 出力
調整な予備力。
前日市場で入札
し、予備力として
適格な義務的に
入札
PJM
発電会社
リアルタイム
市場入
札
自社発電分
について、緊
急時は45
分前(+起
動時間)に
運転計画の
変更申請可
周波数調整
市場入札
運用予備力
市場入札
一次予備力
市場入札
・10分以内に出力調整
PJM
発電会社
小売会社
小売会社
実需給断面で、
事前に入札され
たリソースの内、
最小コストとなるリ
ソースセットを同
時最適化システ
ムで決定(リアル
タイム市場、周波
数調整、各種予
備力)
予備力・
周波数調整
精算
アンシラリー市場
PJM
発電会社
小売会社
PJM
発電会社
小売会社
図 1- 1 米国の卸市場のプロセス(PJM の例)
出所)三菱総合研究所作成
2) BRP モデル
BRP モデルは、市場参加者自身がその現物リソース(発電、制御可能な需要)の需給計
画や給電指令を自身の商業戦略に従って決定するという原則に基づくものである。
この市場モデルでは、全市場参加者が需要と供給の資産のポートフォリオを持つ。このポ
ートフォリオには次のようなリソースが含まれる。
 発電資産
 需要
 販売及び/又は購入契約
系統運用者は需給調整の場合を除き、給電指令を出さない。現物リソースの計画と運用は
市場参加者により左右される。BRP モデルでは、市場運用者(電力取引所)と系統運用者
は明確に分かれている。市場運用者は原則として金融・現物商品としての電力取引を円滑に
する責務を担っている。
前日市場や当日市場のような取引所市場は相対契約市場と共存して
2
いる。物理的な系統運用は系統運用者のみが責任を負う。この目的のため、系統運用者は需
給調整サービスの調達及び給電指令に責任を負う。
数年前
(前日、数時間前)
国・TSOによる
容量メカニズム
取引所取引等を通じた
個別事業者間の商業的契約行為
Gate
Close
(数分)
<長期入札市場、商業契約、義務的提供>
バランシング市場
・組織化された市場
ドイツ、スウェーデン
・ 義務的提供
フランス
アンシラリーサー
ビス料金による
精算
RR
(TSOの指令に基づく制
御)
Commercial
~短冊型の電力「契約」を揃えてTSOに提出
「契約」の売買故、ほぼ金融市場と類似
Technical
物理的需給がリアルタイムかつ厳密に一致
するように調整
TSO
TSO
発電
会社
小売
会社
発電
会社
FCR
(自動制
御)
FRR
(自動制御)
インバランス料
金による精算
TSO
BRP
小売
会社
TSOと個別事業
者の精算行為
・組織化された市場
ドイツ、スウェーデン
・ 義務的提供
フランス、英国
・ 商業的契約
英国
相対市場
(OTC)
国・TSO
実需給
(翌日以降)
<短期入札市場>
・多くの地域ではオークションによる市
場調達。典型的には毎日のbidに
基づき、メリットオーダーによって、
TSOが指令
・なお、スウェーデンは相対契約で調達
自社発電
発電
会社
(数10秒)
系統運用者(TSO)のバランシングメカニズム
TSOから個別事業者への給電指令
取引所市場
スポット、先渡し商品
容量
メカニズム
(1時間超~数分)
BSP
小売
会社
発電
会社
注)BSPとBRPは異
なる場合がある
小売
会社
TSO
BRP
発電
会社
小売
会社
図 1- 2 欧州の卸市場のプロセス(一般的な BRP モデル)
出所)三菱総合研究所作成
注)BPR: Balance Responsible Party, BSP: Balancing Service Provider
また、市場参加者は自らのリソース管理や需給計画作成を行う自由と責任を与えられ、そ
の発電設備や卸電力契約の活用を最適化しなければならない。重要かつ必要な条件は、需給
調整責任の原則である。つまり、市場参加者がリアルタイム運用の前にネットポートフォリ
オを得ることになっているということである。ネットバランスからの逸脱は、リアルタイム
バランシング市場で補償されなければならない。
BRP モデルでは、前日のビッド/オファーがポートフォリオベースであるか又はユニット
ベースであるかによりバリエーションがある。
3
1.1.2 各国の卸電力市場の概況
表 1-2 に英国、ドイツ、フランス、ノルウェー、スウェーデン、アメリカの各国の発電事
業者・送配電事業者・小売事業者および取引所の数を示す。
表 1- 2 各国の発電事業者・送配電事業者・小売事業者および取引所の数
発電事業者
送電事業者
配電事業者
英国4
17 社
1 社10
19 社 10
小売事業者
32 社
現物取引所
2 ヶ所
ドイツ
450 社9
4社11
約940社11
フランス5
5社
1社
約160社11
ノルウェー6
183 社
スウェーデン7
154 社
約160社11
183 社
241 社
120 社
約1150社
11
1 ヶ所
74
1 ヶ所
アメリカ8
公営電力:2006
社
私営電力:193 社
協同組合:873 社
連邦営:9 社
パワーマーケター:
181 社
7 ヶ所
注)米国の現物取引所としては、RTO が開設している前日取引所数を記した。2014 年に SPP が前日市場を
開設し、現在計 7 ヶ所(CAISO、MISO、ISO-NE、NYISO、PJM、ERCOT、SPP)となった。
表 1- 3 に各国の主な卸売電力取引所の概要を示す。欧州では EU 電力指令によりある程度
の電気事業の枠組みは規定されているが、具体的な市場の構築方法は各国に委ねられている。
もっとも、英国、ドイツ、フランス、北欧は概ね類似の市場構造となっている。米国では
RTO・ISO で開設されているエネルギー市場を通じて系統制御区域の需給運用を行う形式が
一般的である。
European Commission の英国 2014 country reports に基づく 2012 年のデータ。発電事業者数は、発電量の 95%を占める事
業者数。
5
European Commission のフランス 2014 country reports に基づく 2012 年のデータ。発電事業者数は、発電量の 95%を占め
る事業者数。https://ec.europa.eu/energy/sites/ener/files/documents/2014_countryreports_france..pdf
6
Ministry of Petroleum and Energy “Facts 2015 – Energy and Water Resources in Norway”に基づく。
7
European Commission のスウェーデン 2014 country reports に基づく 2012 年のデータ。発電事業者数は、発電量の 95%
を占める事業者数。https://ec.europa.eu/energy/sites/ener/files/documents/2014_countryreports_sweden.pdf
8
American Public Power Association ”2013-2014 Annual Directory & Statistical Report"に基づく 2011 年のデータ。
9
European Commission のドイツ 2014 country reports に基づく 2012 年のデータ。発電量の 95%を占める発電事業数。
https://ec.europa.eu/energy/sites/ener/files/documents/2014_countryreports_germany.pdf
10
“COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT, Technical Annex to the Communication from the Commission to the
Council and the European Parliament Report on progress in creating the internal gas and electricity market” COM(2010)84 final
11
一般社団法人海外電力調査会“海外諸国の電気事業 第一編 2014”に基づく。
4
4
表 1- 3 各国の卸売電力取引所の概要
英国
N2EX
APX UK
取引所名
取引市場のタ
イプ
ドイツ
任意取引
フランス
スウェーデン
アメリカ
EPEX Spot
Nord Pool
ISO/RTO
任意取引
任意取引
強制取引
939.7 TWh
263TWh
(2013)
(2014)
4.3 TWh、
(当日・
2014)
58.5 TWh
(前日・
2013)
前日スポット市
場
○
○
当日市場
○
アンシラリー
サービス市場
先渡取引
取引所取引量
ノルウェー
808TWh
501TWh
(注)
(2014)
(PJM 2014)
○
○
○
○
○
○
○
-
-
-
-
○
○
-
-
-
-
注)米国は、ISO/RTO が運営する卸売電力市場に、域内すべての発電事業者と小売事業者が市場を通して
取引をすることが義務付けられている。そのため、PJM の域内発電量を記した。
表 1- 4 各国の発電・販売・消費電力量
発電事業者の
電力量
小売事業者の
販売電力量
需要家の消費
電力量
英国
339TWh
(2014)
301.7TWh
(2013)
303TWh
(2014)
ドイツ
581.3TWh
(2014)
487.5TWh
(2014)
487.5TWh
(2014)
フランス
540.6TWh
(2014)
462TWh
(2013)
465.3 TWh
((2014)
北欧
380TWh
(2013)
-
380.5
TWh(2013)
アメリカ
4,048TWh
(2012)
3,687TWh
(2012)
3,832TWh
(2012)
出所:英国は“digest of united kingdom energy statistics 2015”および ofgem” national_report_2014”、ドイツは”
monitoringbericht 2015”、フランスは”The functioning of the electricity CO2 and natural gas wholesale
markets in 2013-2014 Report”および”2015-2016 Annual Directory & Statistical Report”、北欧は”nordic
market report 2014”および”A POWERFUL PARTNER Annual Report 2014” 、アメリカは” 2015-2016
Annual Directory & Statistical Report”、”Electric Power Monthly”に基づく。
(1) ドイツ・フランス(EPEX Spot)
1) 経緯
1996 年、欧州において電力自由化に関する Eu 指令が発令され、ドイツでは 1998 年、フ
ランスでは 2000 年に電力自由化が開始された。それを受け、フランスでは 2001 年に私設取
引所である Powernext が現物電力取引市場を開始した。また、ドイツでは 2000 年にはライ
プチヒ電力取引所(LPX)、欧州エネルギー取引所(EEX)が設置された。しかし両者は、
十分な取引量を確保することができず 2002 年に合併した。合併後の会社名称としては、EEX
を引き継いだ。
2003 年、改正 EU 電力自由化指令が成立し、送配電系統運用者は発電、小売からの独立
5
が求められた。欧州取引所の市場統合の動きに合わせ、EEX と Powernext が 50%ずつ出資
し、2008 年 EPEX Spot が設置された。2009 年、Powernext の現物電力取引市場の業務運営
は、EEX と EPEX Spot に移譲され、先物電力取引市場の業務運営は、EEX および Powernext
の子会社である EEX Power Derivatives に移譲された。
その後、オーストリア、スイスに時間前市場を、ドイツに 15 分前コールオークション12を
スタートし、設立以来取引量を伸ばし続けている(2011 年:313 TWh、2014 年:381 TWh)。
2015 年 4 月、EPEX Spot と APX グループは、卸電力市場の拡大を目的に事業統合を行っ
た。
2) 取引量
EPEX Spot で取引されたエネルギーはドイツ/オーストリアの需要の約 42%を占めている
13。その流動性の高さから、EPEX
Spot 価格はドイツにおけるエネルギー取引の大部分を占
める相対契約を含むドイツ市場の基準価格となっている14。
EPEX Spot の取引量の推移を図 1- 3 に示す。また 2014 年における、国別および市場別構
成比を図 1- 4、図 1- 5 にそれぞれ示す。
取引量は、設立以来増加し続けている。2015 年に APX グループと業務提携を結び今後も
増加見込みである。取引の国別内訳を見るとドイツ/オーストリアが 76%を占め、ついでフ
ランス 18%、スイス 5.6%の割合となる。市場別に見ると前日市場が 92%を占める。
(TWh)
450
382
400
350
314
346
2012
2013
279
300
250
339
203
200
150
100
50
0
2009
2010
2011
2014
図 1- 3 EPEX Spot の取引量の推移
出所)EPEX Spot ホームページより三菱総合研究所作成
12
連続当日市場では、ザラバ取引(The continuous Intraday market)が行われているが、連続市場へのアク
セス権がなく、市場へ参加できない会員が存在していた。そのため、午後 3 時に補完的に 15 分前コールオ
ークション(15-minute Intraday call auction)を開くことで、市場参加を可能にし流動性を高めた。
13
出典:https://www.epexspot.com/document/25343/EPEX%20SPOT's%20presentation
14
出典:BNetzA Annual Report 2014
6
スイス
フランス 5.6%
18%
ドイツ/オーストリア
76%
図 1- 4 EPEX Spot の国別取引量構成比(2014)
出所)EPEX Spot
Annual report 2014 より三菱総合研究所作成
当日市場
8%
前日市場
92%
図 1- 5 EPEX Spot の市場別取引量構成比(2014)
出所)EPEX Spot
図 1- 6
Annual report 2014 より三菱総合研究所作成
2009 年~2013 年の EPEX Spot におけるスポット市場取引高(単位:TWh)
出典:BNetzA Monitoring Report 2014
7
(2) 北欧(Nord Pool)
1) 経緯
ノルウェーでは、
国内の小規模な電力系統が連系されていく過程で小規模な電力プールが
形成されていた。1970 年代には全国規模の電力プールが形成され、それに伴い組織化され
た電力取引市場取引が開始された。
1991 年のノルウェー電力市場の自由化、1995 年のスウェーデン電力市場の自由化を受け、
1996 年にノルウェーとスウェーデンの電力取引所が統合し Nord Pool 社が設立された。その
後、1998 年にフィンランド、2000 年にデンマークが Nord Pool に参加し、4 カ国共通の現物
卸取引所に成長した。同時期に、3 年先渡し季節契約(Seasonally based financial forward
contracts with a threeyear horizon)等の金融商品ラインナップを拡大し、ヘッジツールの提供
も開始した。
2002 年、Nord Pool の現物スポット市場の所有主体は、独立会社として設立された Nord
Pool Spot 社に移譲された。Nord Pool 社は金融デリバティブ取引所(Nord Pool)を運営して
いたが、2010 年に NASDAQ OMX Commodities に買収され、金融取引所機能と Clearinghouse
機能を持つ NASDAQ OMX Commodities Europe となった。同年に、Nord Pool Spot 社と
NASDAQ OMX Commodities が共同で、英国に N2EX を開設した。
2014 年、欧州電力市場統合を目指す、欧州の電力に関する Price Coupling of Regions (PRC)
を受け、Nord Pool Spot は北西ヨーロッパ(NEW)の前日市場価格とカップリング計画を立
ち上げた。また 2014 年 10 月、複数市場において当日および前日取引の機会を提供するため
に、Nord Pool Spot 社は英国の N2EX の独占権を獲得した。
なお、2016 年 1 月、Nord Pool Spot は新たに社名を Nord Pool に変更している。
図 1- 7 NORD POOL で取引される電力で、ノルディック諸国で消費される電力の割合15
15
出所:2016 年 1 月 15 日、
8
2) 取引量
Nord Pool Spot における 2014 年の総取引量は 501TWh16であった。ただし、英国市場であ
る N2EX の取引量を含んだ値である。
Nord Pool Spot の総取引量(N2EX 含む)、北欧・バルトでの前日市場取引量、当日市場
の推移を図 1- 8、図 1- 9、図 1- 10 にそれぞれ示す。
図 1- 8 Nord Pool Spot の総取引量の推移(N2EX 含む)(TWh)
出所)Nord Pool Spot annual report 2014
図 1- 9 Nord Pool Spot の北欧・バルトにおける国別前日市場取引量の推移(TWh)
出所)Nord Pool Spot annual report 2014
http://www.nordicenergyregulators.org/wp-content/uploads/2014/06/Nordic-Market-Report-2014.pdf
16 ”Nord Pool Spot annual report 2014”より
9
図 1- 10 Nord Pool Spot の当日市場取引量の推移(TWh)
出所)Nord Pool Spot annual report 2014
(3) 英国(N2EX)
英国での電力自由化は 1990 年から段階的に進められてきた。1999 年には小売全面自由化
となった。産業用、家庭用事業家の獲得競争が激化しており、料金メニューや内容も多様化
している。
英国での卸電力市場は APX と N2EX の 2 つである。APX は英国での小売全面自由化を受
け、英国発の独立電力取引所として 2000 年に設立された。N2EX は前述のとおり、2010 年
に Nord Pool Spot 社と NASDAQ OMX Commodities による共同出資で設立された。2014 年、
Nord Pool Spot 社は英国の N2EX の独占権を獲得した。
英国の電力先物取引は ICE(the Intercontinental Exchange)を通して行うことも可能である。
英国では相対取引が盛んであり、2012 年には 85%(2011 年:95%)を占めている17。しか
し、APX と N2EX の取引量増加傾向にあり、2011 年には 5%であった取引量取引が翌年に
は 15%に増加している。
N2EX の前日市場における取引量は、143TWh(2013 年)から 135.5TWh(2014 年)に減
少している18。
2010 年に英国で取引された全電力は、約 91%が相対取引(OTC)、約 9%が電力市場
(Exchange)での取引によるものであった19。2013 年の取引高の 84.1%はブローカー経由の
OTC、14.9%が N2EX 経由、残りが APX と ICE 経由であった20。2014 年末現在、N2EX の会
員数は 43 社である。2013 年、英国の N2EX 前日取引高は 135.5TWh であった。下のグラフ
に 2010 年~2015 年における OTC、N2EX、APX、ICE での取引高の推移を示す。
17”
18
19
20
2014 country reports united kingdom”
Nord Pool Spot Annual Report2014
IEA 2012
CMA 2014
10
図 1- 11 英国の電力市場における取引高21
2014 年、英国の前日市場 N2EX の精算、決済、リスク管理業務は Nasdaq OMS から成功裏
に移管された。N2EX 市場の完全統合により、Nord Pool Spot は北欧/バルト海市場及び英国
市場での需要家取引の担保集約などの新しいマルチマーケットサービスを導入することが
できる。
N2EX は Nord Pool Spot の英国の電力市場で、前日の取引と精算に関する流動性の高い市
場として定着し成功を収めている。
その現物市場はオークション市場とスポット市場で構成
される22。
1)
オークション市場は、
関係するオークションがクローズする前に参加者が受領した全取
引高と価格のビッドに基づいて、各受渡し日の 24 受渡し時間に行うオークションによ
る取引の可能性を提供する。
2)
スポット市場は、通常 48 時間以内に受け渡しされる商品の連続取引の市場である。複
数の注文が同時に ETS に登録されると取引は自動的にマッチする。
(4) アメリカ(PJM)
アメリカで州を跨ぐ卸売電力取引の規制権限を有する連邦エネルギー規制委員会(FERC)
は、卸売電力市場における競争促進を図るべく 1996 年にオーダー888・889 を発令し、送発
電部門の機能分離および送電線の第三者への開放を電力会社に義務付けた。
ペンシルベニア州では、1996 年に州電力再編法が成立し、2000 年から全面的に小売自由
化が開始した。
1927 年に設立した PJM は、既存のパワープールを基盤として、エネルギー管理システム
21
OFGEM
22
http://www.nordpoolspot.com/globalassets/download-center/rules-and-regulations/trading-rules_general-trading-terms.pdf
11
等の技術を発展させてきた。1997 年に PJM Interconnection Association より独立し、同年に
入札ベースのエネルギー市場を開始した。更に同年に、オーダー888・889 を受け、FERC
よりアメリカ国内初の独立系統運用機関(ISO)として承認された。
1999 年、更なる競争促進を目的にオーダー2000 で発送電部門の更なる広域化が推奨され
た。それを受け 2001 年、PJM はアメリカ初の地域送電機関(RTO)となった。
その後、Allegheny Power の送電システムの統合、AEP、ATSI、CPP、EKPC 等が PJM に
参加したことにより、卸売電力取引市場における規模および多様性の拡大を続けている。
図 1- 12 PJM のエリア
出所)FERC
HP より
12
1.2 諸外国におけるバランシングレスポンシビリティの構造及び内容
1.2.1 欧州ネットワークコードにおける BRP の位置づけ
EU における電力系統利用者は、系統への電力の投入、引き出しをバランスさせるグルー
プを形成する必要がある。バランシンググループは、現状では各国毎の制度に基づている
が、EC 規則 No 714/2009 に基づいて ACER、及び ENTSO-E が検討中である欧州共通ネット
ワークコードにおいて、共通ルールが定められようとしている。欧州共通ネットワークコ
ードが欧州議会に承認されると、他の EC 規則と同様の法的効力が発生する。
これにより、欧州においては、バランシンググループは以下の3つのレベルで規律され
ることになる。
1) 欧州規則
ACER Framework Guidelines on Electricity Balancing が BRP の機能を定義し、その役割とイ
ンバランス価格設定に関する基本原則を定めている。なお、同ガイドラインにおいて、全て
の系統への電力の投入、
引き出しはバランシンググループによってカバーされるべきことが
明記されている。
ENTSO-E Network Code on Electricity Balancing(以下、NCEB)は BRP の義務を規定して
いる。
NECB 上の BRP の定義は下記の通り。
”Balance Responsible Party means a market-related entity or its chosen representative
responsible for its Imbalances.”23
2) TSO、各国の法令
TSO は BRP に関するルールを設けなければならず、最低限の内容が ENTSO-E Network
Code on Electricity Balancing に定められている。ルールには最低限、次の内容を盛り込まな
ければならない。

BRP になるための要件

連系 TSO とのインバランスの精算に関する支払責任は BRP が負わなければな
らないという要件

インバランスを計算するために TSO がデータ・情報を要求すること

需給計画変更のためのルール

精算手順

ルール違反の効果
インバランスは BRP に割り当てられる量に基づいて計算する。インバランスは、インバ
ランス精算期間中の(a)BRP に帰属する割当量と、(b)その最終的なポジションと当該 BRP に
23
NECB 第 1 条
13
適用したインバランス精算との差として定義される。
3) BRP と TSO の契約
BRP と TSO との間で契約を交わさなければならない。この契約で BRP がインバランスに
関する責任を負うことが規定される。BRP はネットワークコードに基づく複数の義務を負
う。
⋅
需給バランスがとれていなければならない、又はバランシングに関する TSO
の諸条件に従って電力系統の需給調整を支援しなければならない。
⋅
TSO の要請に基づき 1 日前の時間枠でバランスが取れたポジションを提供し
なければならない。
⋅
バランシングに関する TSO の諸条件に基づき、当日越境取引の Gate Close 前
に需給計画を変更することが出来る。
⋅
TSO の同意なく当日越境取引の Gate Close 以降、需給計画を変更できない。
⋅
需給計画変更があったときは TSO に提出しなければならない。
⋅
TSO との間で精算すべきインバランスに関し支払責任を負う。
さらに、Network Code に抵触しない範囲で、各 TSO はその諸条件に特定の追加条件を包
含することができる。
1.2.2 ドイツ
(1) ドイツにおけるバランシンググループの性格と役割24
ドイツでは、各 TSO グループはバランシンググループに分類されており、バランシング
グループには指定のバランシンググループマネージャー(BGM)が置かれる。2015 年 12
月現在、TenneT DE 管轄地域には 2,261 のバランシンググループが設けられている。全ての
市場参加者には、いずれかのバランシンググループに会員又は BGM として所属することが
義務付けられている。バランシンググループは、会員が電力の feed-in や取引の計画を登録
できるようにしており、管轄地域内の引出ポイントや供給ポイントの数に特に制限はない。
バランシンググループマネージャー本人は市場参加者でなければならず、
バランシンググ
ループのポートフォリオのインバランスについて責任を負う。BGM はバランシンググルー
プの均衡を図り、TSO とのネットインバランスの精算について責任を負う。
24
BGM は事業者であることは明確であるが、BG は物的設備を意味する場合とその施設の管理主体を意味
する場合の双方で用いられている。
14
1) バランシンググループ(BG)とバランシンググループマネージャー(BGM の法的位置
づけ
a. BG と BGM
BG は少なくとも一つの系統に対する電力投入、または引出施設から成り立ってなければ
ならない。他の BG のサブ BG としての BG の紐づけは可能である。逆に、各々の電力投入
または引出施設は一つの BG に属する25。
各 BG は Energy Identification Code (EIC)の下で管理される26

。
27
各々の BG に対して BG を形成する系統使用者は送電事業者に対して BGM28を任じ
なければならない。

BGM は一つの BG 内で 15 分毎に電力投入と引き出しのバランスに対して責任があ
り、系統利用者と送電事業者の仲介者として BG のインバランスに対して経済的な
責任を担う。
b. バランシンググループ契約
送電事業者と BGM とバランシンググループ契約29を結ばなければならない。バランシン
ググループ契約には下記事項が含まれなければならない30。
1. 契約目的
2. 送電事業者の権利、義務及び業務
3. BGM の権利及び義務
4. 送電ネットワーク事業者と BGM 間のデータ交換
5. 責任規定
6. 担保が求められる場合の前提条件
7. 契約者の解約権
送電事業者とバランシンググループ契約を締結することにより、
系統利用者は次の卸電力
取引が可能となる(※要精査)。

系統への電力投入

系統からの電力引出

需給計画に基づく電力取引

下位配電事業者の FIT 電源 BG から TSO の FIT 電源 BG への送電

BG による送電ロス取引

BG によるロードプロファイル誤差の取引
25
Strom NZV 第 4 条
26
標準バランシンググループ契約第 2 条 1 項
EIC は、欧州共通で用いられるコーディングスキーム"energy identification coding"の略
https://www.entsoe.eu/data/energy-identification-codes-eic/
28 独語:Bilanzkreisverantwortlichen
27
29
独語:Bilanzkreisvertrag
30
Strom NZV 第 26 条
15
 余剰エネルギー分の引込みと引出し(MaBiS)
サブバランシンググループ:BG は当該 TSO の制御区域内の他の BG に自らのインバラン
スを割り当てることができる(サブ BG)。即ち、サブバランシンググループは 15 分間の
バランスの責任を免れる31。更に、割当を受けた BG は更にそのインバランスを他の BG に
割り当てることができる。この割当は実施にあたって TSO に届け出る必要がある32。
c. BG の信用管理
BG に対して、TSO は必要に応じて合理的な担保を求めることことができる33。なお、割
当によってサブ BG の信用リスクは割り当てられた BG に移転する34。BGM は取引量の大幅
な変更を計画している場合、適宜、TSO にその旨を通知し、適宜担保の調整を行う35。
d. BG 契約の例外的解除
なお、BGM は適切な需給計画管理とインバランスについて責任を負うが36、重大なイン
バランスが度々発生する場合、TSO はインバランスが回避可能であったか等を調査する。
その上で、BGM の契約上の義務違反の疑いが払拭されない場合、TSO は連邦ネットワーク
庁(BNetzA)に報告する37。
TSO はバランシンググループ契約の維持が不合理と見なされる重要な理由がある場合、
契約を通知無しで解除できる。重要な理由としては、BGM の義務違反が繰り返し行われて
いることを BNetzA が監査を通じて認識した場合や、BGM の商業的信用低下等である38。
2) BGM の役割

長期・中期および月単位の需給予測に基づき、主に自社グループの発電所、OTC 市
場により契約上の供給計画を策定する。

Day-Ahead 予測により上記予測とのずれが発生した場合には、EEX 前日市場や OTC
市場などを通じてポジションを調整する。
⇒前日 14:30 までに TSO に計画提出

当日の需要予測により上記予測とのずれ発生した場合は、更に OTC 市場、EEX の
Intraday Market にてポジションの再調整する。
⇒当日 15 分前までに計画を固定
31
標準バランシンググループ契約第 13 条 1 項
32
標準バランシンググループ契約第 13 条 3 項
33
標準バランシンググループ契約第 14 条 1 項
34
標準バランシンググループ契約第 13 条 4 項
35標準バランシンググループ契約第
13 条 4 項
36標準バランシンググループ契約第
5条1項
37標準バランシンググループ契約第
11 条 4 項
38標準バランシンググループ契約第
20 条
16

事後は TSO のメータリングに基づき、下記の算定式で計算されるインバランス量に
相当するインバランス精算を TSO との間で実施する(インバランス精算のインタフ
ェースとして機能)
。
ア)インバランスの定義
バランシンググループのインバランス量(15 分単位)
=Σ自社発電分
~実計量値
+Σ他トレーダーからの調達分
~計画値
+Σ他コントールエリアからの調達分
~計画値
-Σ需要量
~実計量値
-Σ他トレーダーへの販売分
~計画値
-Σ他コントールエリアへの販売分
~計画値
なお、ドイツのバランシンググループの構造を模式的に示すと下図の通である。ドイツは
実同時同量制度であるが、卸取引分に関しては計画値によってインバランスが算定される。
それ故、大手事業者以外は実質的には計画値同時同量制とも理解される。
インバランス量
(15分)
Σ自社発電分
-
+Σ他BGからの調達分
+Σ他コントールエリアからの調達分
=
Σ需要量
+Σ他BGへの販売分
+Σ他コントールエリアへの販売分
注)青字:実績値、赤字:計画値
需給計画
(Fahrplan)
送電系統
(TSO)
EICコード
投入
引き出し
G
C
EICコード
投入
引き出し
BG契約
BG契約
BGM
EICコード
卸取引
計画値
BG契約 BGM
BGM
卸取引
G
計画値
C
G:発電
C:需要
図 1- 13 ドイツのバランシンググループの機能
(2)
送電事業者に対する発電計画提出について
a. 系統アクセス規則(Strom NZV)に基づく発電計画の提出義務39
BGM は需給計画40を TSO に提出する義務を負う。翌日の需給計画は遅くとも 14 時 30 分
39
Strom NZV 第 5 条
17
までに提出することが定められている。但し、14 時 30 分時点の発電計画については、制御
区域を超える電力取引にかかわる計画を除いて拘束力はなく、当日 15 分前までは変更可能
である(Strom NZV 第 5 条)。
各需給計画には、正のバージョンナンバーが付され、その時点で最も大きいバージョンナ
ンバーとなっている計画が有効な発電計画となる。
制御区域内の需給計画は事後的に翌営業日の 16 時までに行うことが可能である。
StromNZV により提出義務が課せられるのは、異なる BG 間の電力取引計画、及び同一
BG 内で異なる制御区域間での電力取引計画の二つである。
事後変更は、発電計画に誤謬が明らかである場合に可能である。これは TSO が受理した
複数の対応する計画が相互に矛盾する場合に各当該 BG に連絡を行い、調整するためのもの
である。
b. Transmission Code による発電計画の提出義務
系統安定運用の観点から、BGM は各制御区域毎に BG 内の全ての発電所の運転計画の集
計値を TSO に提出する義務がある。
系統の潮流管理の観点から、最大出力が 100MW 以上の発電所は常時、運転計画を TSO
に報告する義務がある。
40独語:Fahrplan
18
c. 標準バランシンググループ契約第 2 条 1 項 ENTSO-E ESS
ドイツでは、需給計画の提出は ENTSO-E(欧州送電系統運用者ネットワーク)が策定し
た Scheduling System(ESS)に準拠して行われている41。
ENTSO-E は現在、IEC TC57 WG16(電力取引市場の情報交換に関する国際標準規格)の
リエゾンとして、欧州の電力取引の CIM(共通情報モデル)の策定に取り組んでいる。こ
れは、EU の電力自由化の目的である欧州単一市場創出に向けた重要な活動の一つである。
図は ESS のプロセスフローを示したものである。内、特に系統連系線の送料電容量の割当
に関しては ECAN、系統運用者間の相互調整に関して RGCE、精算プロセスについては ESP
の CIM の策定が進んでいる。
図 1- 14 ENTSO-E ESS のプロセスフロー
出所)THE ENTSO-E SCHEDULING SYSTEM (ESS) IMPLEMENTATION GUIDE VERSION 4 RELEASE 1
(3) バランシングメカニズムにおける発電事業者
発電所は必ず BG に属しているか宣言する必要があり、BGM から TSO に対しては発電所
ごとのスケジュール、需要スケジュール、BG 間の Trade スケジュールを提出する。ただし、
BG 間の Trade スケジュールについては、発電所を指定する必要はない。
BG は、制御区域毎に EIC(Energy Identification Codes)と呼ばれるコードにより特定され、
制御区域内での接続点において計量される。
41標準バランシンググループ契約付属書3
19
発電事業者は制御区域内の BG のみと契約するが、BG 同士は制御区域外との取引も可能
である。発電事業者は、制御区域内の計量ポイントを経由して、BG 内のすべての発電ユニ
ットの時系列毎に発電量の予測データをゲートクローズまでに TSO に送信する必要がある。
Schedule Message
TSO 1
BGM A
Receiver ID:
X-TSO1
BRP A
Schedule Time Series
Bussiness Type
A02
Out Area
Y-TSO1
In Area
Y-TSO1
Out Party
In Party
BGM A
BRP B
BGM A
X-TSO1
②
Bussiness Type
A03
Out Area
Y-TSO1
In Area
Y-TSO2
Out Party
BRPA
In Party
BRP B
BRP B
BRP C
Receiver ID:
BGM C
X-TSO1
BRP C
①
④
Schedule Time Series
Bussiness Type
A03
Out Area
Y-TSO1
In Area
Y-TSO1
Out Party
11XFC-PROD・・・
In Party
BRP C
BRP A
③
BRP B
Schedule Message
Sender ID:
TSO 2
Schedule Time Series
Schedule Message
Sender ID:
Sender ID:
Receiver ID:
Schedule Message
Sender ID:
BGM C
Receiver ID:
X-TSO1
Schedule Time Series
Bussiness Type
A04
Out Area
Y TSO1
In Area
Y TSO1
Out Party
BRP C
In Party
11XFC-CONS・・・
図 1- 15 需給計画内容に応じた提出データ
出所)Nomination of Schedules in Germany using the ENTSO-E Scheduling System (ESS)
表 1- 5 需給計画内容の区分
区分
内容
A01
制御区域内の発電計画
A02
制御区域内の電力取引
A03
制御区域をまたぐ電力取引(容量予約に関する証書有)
A04
制御区域内の需要予測
A06
制御区域をまたぐ電力取引(容量予約に関する証書無)
注)A03、A06 はともに制御区域外の取引の類型であるが、連系線利用の枠組みが異なる。A03 は主にドイ
ツ国外との取引、A06 はドイツ国内の TSO 間の取引に使われる。
20
(4) インバランス料金方式
事業者のインバランス料金は、事業者の発電量超過、不足で区別無く、単一価格システム
で決済される(単一価格システム)。
事業者のインバランス料金は、エリアインバランスの方向により異なる。
事業者のインバランス料金は、TSO がエリアインバランスを解消するために調達した、
二次制御(Secondary control)、三次制御(Tertiary control)に対して支払われる電力量料金の
加重平均価格で決済する。
BG には複数の事業者を含むこともできる。発電者と供給者が同じ BG に含まれる場合、
インバランス量を相殺できる。
※二次制御における容量に対する費用は系統利用料金にて回収。
ア)ドイツの 2012 年のインバランス精算制度改定
2012 年の冬季に、市場参加者による意図的な供給不足状態により、大規模停電のリスク
があったと評価された。連邦ネットワーク庁(BNetzA)は、需給逼迫時に事業者が卸市場
において自力調達するより、TSO の需給調整に依存する可能性があると懸念し、インバラ
ンス料金を改定するに至った。
制度改正の内容は下記のとおりである。

系統が余剰状態(15 分単位)において、EPEX のイントラデイ市場価格(加重平均)
はインバランス料金の上限をなすこととされた。系統が不足状態において、EPEX の
イントラデイ市場価格(加重平均)はインバランス料金の下限をなす。これは、イン
トラデイ市場でインバランスを最小化することを奨励するための措置である。

契約された予備力の 8 割以上を稼働させる必要があった場合は、
罰則としてインバラ
ンス料金を 50%高く設定する(ただし、100 €/MWh 加算が下限)
。

インバランス料金設定方式改定のレビューを行ったパネルは、TSO によって契
約された予備力の稼動率を市場参加者によるバランシングの指標としてとらえ
てよいと評価した。

事業者を一律に罰することに反対をした事業者が多数おり、
パネルの提案に反対
したものの、パネルは電力系統のバランシングは「連帯責任のシステム
Solidarsystem」であるとし、系統が危機状態に陥った時は各事業者のインバラン
スの大小を無視すべきである、と回答した。

「予備力の 8 割以上」という数字には特に厳密な根拠はない。予備力が 2 割を切
った場合は系統の危機的状況であるという評価から 8 割と設定した。(2011 年 4
月 1 日~2012 年 3 月 31 日の期間中、
1%以下の 15 分単位が予備力 2 割を切った。)
21
1.2.3 イギリス
1) 送電線利用制度
a. 送電線利用における法令
2001 年に従来の強制プール制度に代わって導入された NETA(現 BETTA)は卸電力の売
却、購入および送電、並びに需要家への電力の販売と配電に必要なあらゆるシステムとプロ
セスから成る。NETA は前日までの取引は、民間の私設市場(OTC 市場、私設電力取引所)
に完全に任せる一方、当日及び事後精算プロセスを BSC(Balancing and Settlement Code)に
よって詳細にルール化している。
英国の送電線利用制度は下記の要素から構成される。

送電線接続及び利用規約(CUSC;Connection and Use of System Code)

バランシング及び決済規約(BSC;Balancing and Settlement Code)
中核的規則は BSC であり、その制度設計は当日の電力需給量の一致プロセスとその決済
に焦点があてられている。
b. 送電料金の構造
送電利用料金(TNUoS;Transmission Network Use of System)は発電側と小売側で異なり、
それぞれ 27:73 の割合の配分で回収する構造となっている。発電者と小売事業者に対する料
金はゾーンにより異なる。発電事業者の送電料金は容量料金のみである。
発電料金は線形計画法に基いた算定される長期限界費用を反映したものとなっている。
各
ノードの長期限界費用を算定した上で、費用が同程度のノードを地理的にゾーン分けし、ゾ
ーンの平均費用を反映した料金が算定される。したがって、電源立地が望ましい地域(例え
ば需要過密地域)では系統料金面で補助が得られる(マイナスの送電線利用料金)。
小売料金は 30 分値検針対象需要については系統需要ピーク時への寄与度に応じて、30 分
値検針対象外需要については、供給者は毎日ピーク時間帯に消費された kWh あたりの電力
量料金を支払う。
なお、バランシング料金(BSUoS)は送電系統利用料金(TNUoS)の一部ではなく、発
電側、小売側が均等に負担する性質のものである。
c. BSC と Elexon
当日及び事後精算プロセスは BSC(Balancing and Settlement Code)によって詳細にルール
化されている。
市場参加者は Gate Closure(GC)とともに、 BMU(Balancing Mechanism Unit)と呼ばれ
る系統利用単位毎に最終現物計画(FPN)を Natinal Grid に提出しなければならない(ただ
し、一部の発電事業は義務を負わない)。
なお、TSO に提出するのは各 BMU の集計計画値(接続点における電力の注入、及び引出
量)のみであり、どのように電源を調達したかの調達計画は決済機関 Elexon に対して出す。
この情報は、系統運用上重要ではなく、集計計画量と一致する必要はないと考えられる。
22
Natinal Grid は最終現物計画を前提として、バランシングメカニズムによって系統運用を
実施する。バランシング・メカニズムでは、発電事業者や小売事業者は National Grid に対
し、
発電量を増やすもしくは需要量を減らすいずれかの形で送電系統に電力を売却する入札
(オファー)を提出し、発電量を減らすもしくは需要量を増やすいずれかの形で送電系統か
ら電力を購入する入札(ビッド)を提出する。オファーとビッドは発電や需要の各単位(BMU)
で提出する。
以上のスキームを管理する側から見れば、まず、発電事業者、小売事業者の最終的な契約
量情報、当日のインバランスも含む計画量情報、実際に計量された発電量・需要量等、また、
それらを突き合わせ個社毎に精算金額を確定し、
決済する一連の手続きは膨大なものであり、
これを行う市場運営者(Market Operator)として決済機関 Elexon が存在する。
23
d. インバランス精算の構造
以下に、インバランス料金精算に関わる主体・制度の関係図を示す。黄色のフィールドは
精算機関 Elexon の管轄領域を表す。(Elexon は National Grid の子会社であるが、制度上は
別組織である。)
市場参加者は Elexon に直接的にデータを提出するわけではない。全てのデータ提出は系
統運用者・エネルギー契約量集約エージェント(ECVNA)、取引所を通じて行われる。
中央決済量割当
(CVA)
小売量割当
(SVA)
計量システム
(Outstations)
GSP 及び、HH
メータ計量値
中央データ収
集エージェント
(CDCA)
GSPグループデータ
小売事業者
販売量割当
エージェント
(SVAA)
発電BMU のHH
データ
小売BMUのHHデータ
中央登録
エージェント
(CRA)
エネルギー契約
量集約
エージェント
(ECVAA)
エネルギー契約
ECVAA
量集約
エージェント
(ECVAA)
電力取引契約
の通知
バランシングメカ
ニズム報告
エージェント
(BMRA)
決済管理
エージェント
(SAA)
利用者シス
テム
電力
取引所
市場インデッ
クスデータプ
ロバイダー
(MIDP)
需給計画
(PN)
修正後バランシングサービス
データ(BSAD)、及び
ビッド・オファーデータ
資金管理エージェント
(FAA)
FAA
契約
データ
系統利用者のシステム
バランシング
メカニズム
インバランス料、その支
払の請求に関わるレ
ポート
落札されたビッドー・オ
ファーデータ
系統運用者(National Grid)のシステム
図 1- 16 インバランス料金精算制度の関係図
注)四角は主体を示し、矢印は情報の流れを示す。
出所)http://communicatio21.wix.com/bsc-central-services
CVA と SVA
GSP とは送電系統と配電系統の接続点であり、National Grid 管内に 225 箇所存在する。
National Grid は GSP における電力入出、及び National Grid の送電系統に直接接続する発電
設備、需要設備の電力の入出を計量する。
これらの送電系統への電力の流入、流出量に基づく決済用のデータ管理を CVA(Central
Volume Allocation)と呼ぶ。
一方、GSP にぶら下がる配電系統内の決済用の電力量管理は SVA(Supplier Volume
Allocation)と呼ぶ。SVA では、HH メータ(30 分値を計量するインターバルメータ)設置設
備については実計量値、それ以外の設備の電力量の 30 分値についてはプロファイリングに
24
より割り当てられる。これら、プロファイリング、HH メータによる実計量値を併せ、配電
系統下の BMU の決済データが算定される。
なお、GSP は地理的に 14 のグループに分類されている。
図 1- 17 GSP(Grid Supply Point)の概念
出所)”Beginners Guide to Trading Arrangement v4.0” Elexon
各市場参加者は Elexon に対して ECVN(Energy Contract Volume Notifications)及び MVRN
(Metered Volume Reallocation Notifications)を Elexon に提出しなければならない。
ECVN とは、BMU 間42で売買された電力量に関する契約情報の通知を意味する。ECVN は
ECVNA(ECVN Agent)を通じて Elexon(ECVAA43)に提出されなければならない。提出
項目は以下の通り。

該当 ECVNA 又は MCVNA の ID

該当 ECVNA 又は MCVNA のキー

ECVN の参考コード

契約の開始日

契約の終了日(任意項目)

該当するインバランス精算期間(30 分単位)

各インバランス精算期間の BMU への輸出・輸入エネルギー量(MWh)
42同一事業者でもよい
43
Energy Contract Volume Aggregation Agent
25
図 1- 18 ECVN の提出項目
出所)”Volume Notifications v5.0” Elexon
MVRN とは、BMU に出入りする電力量の内、インバランス精算においては別の精算口座
に属することを通知するものである。MVRNA(MVRN Agent)を通じて Elexon(ECVAA)
に提出されなければならない。提出項目は ECVN と同一である。
2) インバランス精算の単位
a. BMU(Balancing Mechanism Unit)の定義と役割
イギリスにおけるインバランス精算は BMU と呼ばれる単位で行われる。
同一 BMU には、
発電所と需要家が混在できる。ただし、各 BMU はプロダクション BMU(発電量が需要量
を基本的に上回り、電力系統に電力を投入する)又はコンサンプション BMU(発電量が需
要量を基本的に下回り、電力系統から電力を引き出す)として特定する必要がある。
BMU には 5 種類がある。BMU は

系統直接接続 BMU(Directly Connected)
:主として送電系統に直接に繋がってい
る大型発電所であり、直接電力系統に計測される。

配電系統在内 BMU(Embedded)
:主としてアグリゲートされた発電所であるが、
大口の需要家の配電系統在内 BMU もある。

相互接続 BMU(Interconnector)
:他送電網(大陸、アイルランド)との電力のや
り取りがある事業者は、Interconnector ごとにコンサンプション BMU とプロダク
ション BMU を必ずペアで登録する。

供給 BMU(Supplier)
:小売事業者の供給量を計測する BMU である。小売事業
者の顧客を束ねて計測する仕組みとなっている。

その他の BMU(Other)
:上記にあてはまらない BMU。
市場参加者は自社保有の発電所及び需要家が全て、自社の BMU(数は問わない)に含ま
26
れるように調整する必要がある。一つの BMU に複数の事業者の発電所・需要家が含まれる
ことはない。各 GSP44に市場参加者毎に少なくとも一つの BMU(Base BMU)が自動的に登
録される。同 GSP 下で複数の BMU を登録することは可能である(Additional BMU)。
BMU を組み替える理由として、需要家の獲得・離脱、または発電所の新規開設・廃止が
挙げられる。その都度、Elexon に報告しなければならない。
2014 年 5 月現在、BMU は 2009 個が登録されている。GSP は 225 ヶ所前後ある。
b. TU(Trading Unit)の定義と役割
全ての BMU は TU に属する必要があり、一つの TU には複数の BMU が属してもよい。
BMU が作成された際に、TU も自動的に作成される。なお、TU に所属する BMU は事業者
が異なってよい。
TU を作成することによって、プロダクション BMU をコンサンプション BMU としてカ
ウントでき、その逆も可能である。下図において、3 つのプロダクション BMU と 1 つのコ
ンサンプション BMU が組み合わせられることによって、
「BMU 4」もプロダクション BMU
としてカウントされる。
図 1- 19 BMU と TU の関係
出所)”Trading Units v6.0” Elexon
市場参加者は BMU を同一 TU に登録することによって、それらの BMU を精算単位にす
ることができ、インバランス精算上有利になることがある。
市場参加者にはプロダクション口座(発電のインバランス)とコンサプション口座(需要
のインバランス)がある。この二つは別々の料金がかかる。プロダクション BMU とコンサ
ンプション BMU をまとめることによって、インバランスの最小化が図れる。

上図の例でいえば、300MWh の発電インバランスと 100MWh の需要インバラン
スをまとめて、200MWh の発電インバランスに最小化できる。

送電ロス料金(TLM)
:TLM はプロダクション BMU とコンサンプション BMU
は料金が異なるので、TU でまとめた方が有利な場合がある。

残金割り当て(RCRC)
:インバランス料金の精算後、過不足額は事業者の投入
エネルギー量に応じて割り当てられる。TU にまとめることによって、系統へ
44
Grid Supply Point、送電系統と配電系統の接続点。
27
の投入量を最小化できる。

バランシングメカニズム利用料金(BSUoS)
:BSUoS は系統への電力投入量に
よって定まるので、TU にまとめることによって最小化できる。

英国には GSP Group が計 14 点(配電事業者ごとに 2 点)がある。TU で束ねる BMU は
GSP を超えてもよいが、GSP Group(すなわち他配電網)を超えてはならない。
図 1- 20 英国における GSP Group
出所)”Beginners Guide to Trading Arrangement v4.0” Elexon
28
3) インバランス料金方式
a. インバランスの定義
BMU のインバランス量(30 分単位)の定義は以下の通り。インバランスは Elexon に対し
て提出する ECVN における計画量との差として計算される。TSO に提出する FPN の計画値は
インバランスと直接関係がない。
インバランス=(実需要/実発電量)-(バランシング・サービス45+ECVN の計画量)
b. イギリスのインバランス料金
インバランス料金は、
事業者の計画に鑑みた発電量超過と不足を区別した二重価格システ
ムで決済される(二重価格システム)。市場参加者のインバランスが系統全体のインバラン
スを悪化させた場合はメイン価格(需給調整市場の価格)を適用、系統全体の安定に資した
インバランスの場合はリバース価格(スポット価格)を適用する。このようにして、経済的
なインセンティブをもって電力系統の安定化が図られている。
補給価格は余剰買取価格より常に高く設定されている。
計算上補給価格が余剰買取価格よ
り低くなった場合は、余剰買取価格の水準が補給価格にも適用される。
4) 2014 年のインバランス精算制度の改定
インバランスの料金は市場参加者が FPN をもって TSO に提出した計画値と実需要・実供
給の差に基づいて決定される(計画値同時同量)。
規制機関 Ofgem は、2012 年に需給調整市場に関する見直し作業に着手した(SCR,
Significant Code Review)。2014 年 5 月 15 日に最終結論を発表した。
主要な目的はバランシングの低コスト化である。ただし、Ofgem は現行制度の二重価格は
新規参入者にとってとりわけ大きいインバランスリスクをもたらすということに言及して
いる。
改定内容は次の 4 つの変更点からなる。

インバランス料金を加重平均から、より限界費用に近い料金に変更する。

バランシングのために命じられた電圧低下・需要家切断(停電)のコストをイン
バランス料金に含める。

予備力の提供の実際のコストが正確にインバランス料金に反映されるように計
算方式を改定する。

45
単一価格に移行する。単一価格への移行は 2015 年に予定されている。
バランシング・サービスとは、需給調整市場に参加するサービスである。インバランス量を特定するに
当たり、TSO の要請で計画量からずれた量を考慮する必要があるため、定義に入っている。
29
電力系統のポジション
事業者の
ポジション
ロング
ショート
ロング
スポット市場価格
(余剰買取)
需給調整市場の加
重平均(余剰買取)
ショート
需給調整市場の
加重平均(補給)
スポット市場価格
(補給)
電力系統のポジション
事業者の
ポジション
ロング
ショート
ロング
需給調整市場の限界費
用(余剰買取)
需給調整市場の限
界費用(余剰買取)
ショート
需給調整市場の限界費
用(補給)
需給調整市場の限
界費用(補給)
図 1- 21 インバランス料金制度の改定
出所)”Electricity Balancing Significant Code Review – Final Policy Decision”より作成
背景として、以下のものがある。

本来、火力発電のような柔軟な電源は、その収益の大部分を卸電力市場よりも BM
のような短期市場から上げることが想定されるが、
インバランス料金が加重平均で
計算されているので、
適切な価格シグナルが発されていないことが指摘されていた。

二重価格は事業者(とりわけ小規模事業者)に不必要なコストを強いている。事業
者がロングポジション(過剰供給)で系統がショートポジション(供給不足)の場
合は、事業者が系統のバランシングを少なくしているのに、現行制度はその価値を
反映していない。反対に、系統がロングポジションで事業者がショートポジション
の際は、改定後プラスになる側面はなくなる。

将来、
エネルギーミックスが変わるにつれてインバランスにかかるコストも増大す
ると思われる。とりわけ風力がたくさん入り、インバランスが増大し、実際にバラ
ンシングができる発電所の数と単価があがるおそれがある。
より高いインバランス
料金を設定することを通じて事業者に系統のインバランスを最小化するよう行
動・工夫を促す。
改定の主な理由として、以下が挙げられる。

限界費用への変更:
⋅
電力系統の供給不足状況を経済的シグナルで伝達する。現行制度では、供
給逼迫状態でも価格が抑えられ気味になっており、
電源調達のための取引
を行うより、インバランス料金を払った方が安く済む場合がある(Missing
Money problem)
。すなわち、事業者が積極的にシステムの安定性に資さな
いインセンティブとなりうる。
⋅
インバランス料金が高くなるので、事業者のインバランス最小化努力・工
夫を促すほか、フレキシビリティをもつようにインセンティブを与える
(イントラデイで計画を変更すること)
。よって、市場によるバランシン
グ行動が増えると期待できる。

単一価格への移行:
⋅
事業者が行ったバランシングがより評価される。
⋅
現行の二重価格制は複雑である上に、不足分に対する請求が BM にかか
る費用を正確に反映していない。単一価格構成は価格構成を単純化し、不
必要なインバランスコストの負荷を低減する。
30
⋅
小規模事業者は多くの場合ロングポジションなので、小規模事業の支援に
つながる。
図 1- 22 英国電力系統における GSP の位置づけ
31
1.2.4 フランス46
(1) フランスにおけるバランシンググループの性格と役割
1) Balance Responsible Entity(BRE)システムと TSO(RTE)の役割
2007 年 7 月以降、電力の自由化によって BRE システムが整備された。これにより、あら
ゆる電力の供給と需要が Balancing Perimeter(BP)の一部に位置づけられることが求められ
ている。
2000 年 2 月 10 日法律47にて、系統運用者である Réseau de Transport d'Electricité(RTE)が

リアルタイムで発電需要のバランスを維持するために予備力を結集すること

ネットワークの混雑の解消に寄与すること

BRE のインバランス決済に使用可能な法的基準価格を生成すること
が規定されている。
RTE は、最適かつ公正な解決策を決定するために、送電ネットワーク上の需給バランス
を常時保つための方法や、それらの実施に伴う技術的・経済的条件を把握しなければならな
い。
2) プログラミング、バランシングメカニズム、Balance Responsible Entity(BRE)システ
ムについて
RTE との参加契約(Participation Agreement)によって、市場参加者は、Programming
Responsible Entity(PRE)、Balance Responsible Entity(BRE)、Balancing Actor のいずれか
のステータスが付与される。各ステータスは、重複することもある48。
計画提出
バランシングオファー
インバランス精算
BA
(Balance Responsible
Entity)
BRE
PRE
(Programming
Responsible Entity)
(Balancing Actor)
a. Programming Responsible Entity(PRE)
PRE は、30 分間隔の発電計画(Call Programme または Forcast Programme)を作成し、RTE
46
本節は主に、”Rules relative to Programming, the Balancing Mechanism and Recovery of Balancing Charges”,
RTE を参考とした。以下、本節では単に”Rule”として引用。
47
Loi n°2000-108 du 10 février 2000 relative à la modernisation et au développement du service public de
l'électricité
48 Rule, 1. DEFINITIONS
32
に送付しなければならない。
b. Balancing Actor(BA)
Balancing Actor(BA)は、Balancing Entity (BE)の集合体として定義される Balancing
Perimeter において、
BE 毎の Upward /Downward のバランシングオファーを RTE に提出する。
c. Balance Responsible Entity(BRE)
Balance Responsible Entity(BRE)は、インバランスの清算主体として、RTE との参加契
約を締結した法的機関であり、契約に基づき両者は、Balance Responsible Perimeter(BRP)
内のインバランスを財務的に補償しあう義務がある。
BRE になるためには、下記の情報について RTE または DSO に申告する。

発電/需要のために PTS/PDS に接続する物理的な場所

フランスの電力取引における購入/販売

相対での購入/販売

電力のインポート/エクスポート(近隣系統運用者との受渡)

送電ロスを補うための RTE または DSO への販売
3) 計画提出
計画値(programme)を提出するのは、Programming Responsible Entity(PRE)。30 分間
隔の各 Programing Entity に関する Call Programme/Forecast Programme を作成し、D 日分のも
のは、D-1 の 16:00(System Access Deadline)までに RTE に提出する49。
Programming とは、PRE が System Access Deadline までに、Programming Perimeter50内の計
画主体(Programming Entities:PE)と予測主体(Forecast Entities)の発電計画(Programme)
を想定するメカニズムであり、これを作成し、RTE に送付するもの。
計画主体または予測主体を構成する発電ユニット群は、同一の BRE に紐付けられ、原則
として同じ電力投入地点(Injection site)に所在しなければならない51。
Programme は 30 分間隔の計画帳(Journal)であり、①発電量、②primary reserve、③Secondary
Reserve の3種類の予測情報からなり、Call Programme と Forcast Programme52に大別される。
その後、RTE は、5分間隔の Call Programme と Forcast Programme を作成する。(これを
Call Programme traced by RTE という。)
49
RTE が翌日の Call Programmes、Forecast Programmes、バランシングオファー等を受領する期限。(ただ
し、EPEX スポットの決定が遅れた場合のみ 17:15 となる)
50
51
52
PRE が RTE 申告した PE と(または)FE からなる範囲のこと。
Rule, 3.1.1
ディスパッチ不能な電源ユニット(Forecast Entity)のために作成される発電量予測のこと。
33
4) バランシングメカニズム53
a. 参加者と形態
バランシングメカニズムの参加者は、自身の Balancing Entity(BE)を申告し、各 BE に
ついて、一つの BRE を指定する必要がある。
BE は、
一つまたは複数の系統接続点から構成される。また、一つのバランス境界(Balancing
Perimeter)のみに所属し、RTE からの電力投入(injection)または引き出し(extraction)の
要求に応じることができる。
なお、フランスではドイツと同様に EIC コードにより、BE は管理される(ただし、BE
は複数の EIC コードのサイトを含み、各 BE は BE ID コードが付与される)。
BE は、フランス境界内の PTS(Public Transmission System)を修正する義務があり、下記
の 5 つの形態がある。

Exchange point BE(インポート/エクスポート54)

PTS(Public Transmission System) Injection BE(発電)

PDS(Public Distribution System) Injection BE(発電)

Remotely Read Extraction BE(需要)

Profiled Extraction BE(需要)
BA は、BE の集合体から構成される Balancing Perimeter を所管する55。ただし、RTE は、
特定の BE が RTE からの Balancing order に繰り返し失敗するような場合、BA の Balancing
Perimeter から除外することができる56。
BA は、自らの Balancing Perimeter の範囲のバランシングオファーを作成し、RTE に提出
する。
BA には、負荷削減分を売る Demand Side Managing Operater(DSMO)と呼ばれる形態も
存在する。
b. バランシングオファーとバランシングオーダー
BA は、Balancing Perimeter 内の BE のために、各価格セグメント(Price Segment57)につ
いて、毎日、以下の情報を含めた Upward/Downward Offer を提出する58。

オファーに関連する BE

日付
53
Article L321-10of the French Energy Code (Code de l'Énergie)に規定
54
インポートとは、連系線を通じた PTS から近隣システムオペレーターへの送電を指し、エクスポートと
は、連系線を通じた近隣システムオペレーターから PTS への送電を指す。
55
「Rules relative to Programming, the Balancing Mechanism and Recovery of Balancing Charges」Article4.2
56
「Rules relative to Programming, the Balancing Mechanism and Recovery of Balancing Charges」Article4.2.1.4
57
6つの時間帯( [00:00; 06:00], [06:00; 11:00], [11:00; 14:00], [14:00; 17:00], [17:00; 20:00], [20:00; 24:00].)
に応じて変わる価格
58
「Rules relative to Programming, the Balancing Mechanism and Recovery of Balancing Charges」Article4.2
34

有効期間

オファーの方向(Upward または Downward)

オファー価格(€/MWh)
BA は、当日(D)のオファーについて、前日(D-1)の 16:00(システムアクセス期限)
までに提出する。
その後も前日 22:00、
23:00 および当日の 21:00 までの各時間に提出
(submit)
、
修正(modify)、引戻(withdraw)のいずれかを行うことができる。
RTE がオファーを確認し、BA に対して、Balancing order を通知する。BA はこれに基づ
いて自身の Balancing Perimeter 内のバランシングを実施する。
図 1- 23 バランシングオファーから決済までの流れ59
バランシングオファーは、「upward offer」と、「downward offer」の2種類がある。

発電計画上は、計画値よりも発電量を増やす場合が Upward Offer、減らす場合
が Downward offer となる。

需要側(需要家/トレーダー)にとっては、需要を減らす場合が Upward Offer、
増やす場合が Downward offer となる。
図 1- 24 発電計画の Donward Offer と Upward Offer60
59
RTE 公表資料” Balancing Mechanism”より
60
RTE HP 資料” Balancing Mechanism”より
35
図 1- 25 需要家/トレーダーの Upward offer61
オファーの提出から実施までの全体の流れは次のとおり。

参加者(BA)がゲートクローズまでに、バランシングオファーを RTE に提出
する。

ゲートクローズから、1時間のリードタイム(Neutralisation leadtime)後に、
RTE はバランシングオファーを要求する(Balancing order)。この期間内には、
ゲートクローズ時に提出/修正/引戻されたバランシングオファーは効力を
発揮しない。

バランシングオーダーから、それに記載されたバランシング実行時刻までには、
30 分のリードタイム(Nobilisation leadtime)が設けられる。
図 1- 26 オファーの提出からバランシング実行までの流れ62
5) インバランス料金
インバランスの定義は次のとおり。
BRE のインバランス量(30 分単位)
=投入量(Injections):
Σ自社発電分(Injections)
~実計量値
+Σ他の発電者(Actors)からの調達分
61
RTE HP 資料” Balancing Mechanism”より
62
RTE HP 資料” Balancing Mechanism”より
36
~計画値
+Σ電力取引による調達分
~計画値
+Σ他コントールエリアからの調達分(imports)~計画値
-引出量(Extractions):
Σ調整した需要量(Adjusted Consumption)
~実計量値
-Σ他プレイヤーへの販売分
~計画値
-Σ電力取引による販売分
~計画値
-Σ他コントールエリアへの販売分(Exports) ~計画値
RTE は、30 分間隔単位の最後に、DSO から提供されたデータに基づき、BRE があらかじ
め申告した計画値と、実際に PTS と PDS に(から)投入(引出)された物理的な電力量と
の間のインバランスを計算する。
インバランス料金は、制御エリアが需要過多か供給過多に応じて、BA の支払う料金が分
類されている。具体的には、エリアのバランスを悪化させる方向では、需給調整市場で調達
される調整用電力の従量料金の加重平均値をベースとして調整した価格を適用し、エリアの
バランスを改善させる方向では、スポット市場価格を適用する。
制御エリアが需要過多の場合、供給過多となっている BA はエリア内の均衡に寄与してい
るため、スポット価格が支払われる。一方、需要過多の BA は上方加重平均価格(Upward
Average Weighted Price63)を用いて定める価格だけ請求される。
制御エリアが供給過多の場合、需要過多となっている BA はエリア内の均衡に寄与してい
るため、スポット価格が支払われる。一方、供給過多の BA は下方加重平均価格(Downward
Average Weighted Price64)を用いて定める価格だけ請求される。
63
詳細の算定式は、
「Rules relative to Programming, the Balancing Mechanism and Recovery of Balancing Charges」
p.104-105 参照
64
詳細の算定式は、
「Rules relative to Programming, the Balancing Mechanism and Recovery of Balancing Charges」
p.104-105 参照
37
1.2.5 米国
1) Order 888
米国では、1996 年の Order 888 において、電力会社に対して送電線に対するオープンア
ク セスを義 務付け、 送電 サービス に関する 約款 を定めた 。この約 款を Open Access
Transmission Tariff と 呼 ぶ 。 そ の ひ な 形 と し て PRO FORMA OPEN ACCESS.
TRANSMISSION TARIFF が公表されている65。このひな形において、インバランス料金の
設定方法についても明記されている。
米国では ISO が運営するリアルタイム市場価格が存在すれば、それをもってインバラン
ス料金としているが、リアルタイム市場が存在しない場合には、表 1- 6 に示すように、実
質的に限界費用を基準とした価格設定がなされている。
表 1- 6 米国のオープンアクセス送電料金規定におけるインバランス価格設定
発電不足
発電超過
±1.5%
基準価格の 100%で補給
基準価格の 100%で買取
±1.5~7.5%
基準価格の 110%で補給
基準価格の 90%で買取
±7.5%~
基準価格の 125%で補給
基準価格の 75%で買取
注)基準価格(incremental cost, decremental cost):送電事業者の最後の 10MW を供給する 1 時間を単位とす
る現実の平均費用
出所)"PRO FORMA OPEN ACCESS TRANSMISSION TARIFF" Order No. 890 Appendix C, February 16, 2007
65
https://www.ferc.gov/industries/electric/indus-act/oatt-reform/order-890-B/pro-forma-open-access.pdf
38
2) PJM におけるインバランス料金精算
PJM はいわゆる強制プール制度であり、PJM の管轄区域で電力を取引を行う場合は、
Operating Agreement に基づき、全量を PJM の運営する卸電力市場を経由する必要がある。
即ち、PJM においては、欧州のような分散型の需給計画策定単位としてのバランシング
レスポンシビリティを観念する余地はない(需給計画は域内の発電、需要が一体的に決定)。
この意味で、PJM における計画値とは、前日市場断面で確定した域内一体としての需給計
画を意味する。
インバランス料金は、
前日市場と連続的に運営されるリアルタイム市場価格によって決済
される66。インバランスの対象となる電力量は前日市場によって確定した需給計画からの偏
差となる。もっとも、PJM では、リアルタイム市場が実需給を反映したエネルギー価格と
解され、内、前日市場の需給計画で確定された分については、前日市場価格によって金融的
に価格が固定されるとの理解が、実態に沿っている。この意味で、BRP モデルにおけるイ
ンバランス精算、計画値同時同量等の概念とは本質的に異なる。
66
リアルタイム市場価格は 5 分毎の価格を平均して 1 時間毎の価格として精算
39
2. 大口需要家等の取引所への直接参加の仕組み
2.1 概要
調査対象国によって若干の差異はあるものの、大口需要家は、各国の TSO(系統運用者)
と「バランス契約(Balance Agreement)」と「送配電契約(Connection Agreement)」を締結し
て Balancing Responsible Party (BRP)になることにより、通常の電力事業者(発電事業者・小
売事業者・トレーダーといった各国規制当局から電気事業ライセンスを取得している企業)
と同様の条件で、取引所に加盟し、電力取引を行うことが出来る。加盟の際には、担保金や
メンバーシップフィーの支払など、電力事業者と同様の審査・手続きを経る。
前章で整理した通り、各国には BRP という概念が存在する。BRP は、送電事業者
(Transmission System Operator: TSO)とバランス契約(Balance Responsibility Agreement)を結び、
2 つの責務(①計画段階において発電/調達と消費/販売のバランスを取った計画を TSO に提
出、②実需給段階で物理的に発生したインバランスを精算することで、金融的に需給バラン
スを達成)を遂行する主体である。BRP は、次図のように自由な形態をとることが出来る。
いずれの場合も、計画段階(GC まで)で、発電/調達(インプット)と消費/販売(アウトプッ
ト)を一致させる。
 発 電と需 要の両 方で構 成される
BRP:電力会社など。
 発電のみで構成される BRP:発電
事業者など。計画段階で需給のと
れたバランスを達成するために、
①相対での電力卸販売、②取引所
を通じた電力販売を行う。
 需要のみで構成される BRP:小売
事業者や発電所を持たない小売事
業者など。計画段階で需給のとれ
たバランスを達成するため、①相
対での電力購入契約、②取引所通
じた電力購入、を行う。
 ブローカーとしての BRP:発電や
消費に関するアセットを持たず、
取引の仲介を行う事業者も BRP と
して登録可能。
図 2-1 BRP の形態67
BRP である大口需要家による電力需給の手続きを、Nord Pool の場合を例にとって次表に
示す。大口需要家は、相対契約と取引所取引を使って、需給の一致した計画を GC までに
67
一般的に、BRP は単独の事業者であっても複数の事業者で構成されていても構わない。英国のみ、複数
の事業者で構成されている必要がある。
40
TSO に提出する必要がある。しかし GC 後は、実需給段階で物理的なバランスを達成する
ための行動を自発的に行う必要はない(TSO の指令なく出力調整は行わない)。つまり、
実需給段階での物理的なバランシングの責任は負っていない。実需給で発生する差分はイン
バランス料金で精算する。
物理的な実需給の一致業務は TSO が行う。具体的には、GC 後の給電指令はバランス調
整市場を通じて行う。リアルタイムで需給が一致しない場合、TSO は優位な価格を提示し
た BRP から順に給電指令する。BRP である大口需要家も、需要調整力をバランス調整市場
に投入することで、実需給調整に参加すること可能である(詳細は 3 章に記載)。
表 2-1 大口需要家(=BRP)による電力需給の手続き(Nord Pool の場合)

一日前段階での需給計画の調整を行うための市場。

BRP は基本的に自身でスケジューリングを行い TSO に提出
するが、ポジションが発電過多または需要過多の場合、ネッ
一日前市場
(Elspot)
トポジションをゼロにするために Elspot で入札を行う。

入札は発電の場合、電源ユニット別ではなく BRP のポート
フォリオとして一本の入札曲線(MW-$)を提出する。
当日市場
(Elbas)

当日段階での需給計画の調整を行うための市場。

Elbas では参加者の Bid と Offer が一致すれば、その都度取引
が成立していく。

Elbas での需給調整は 1 時間前の Gate Close (GC)まで可能

Elbas は、系統制約のない Metering Grid Area (MGA)内での取
引が基本であり、エリアをまたぐ取引は、連系線容量に空き
があり Nord Pool がその旨発表した場合にのみ可能

TSO が実需給段階の調整力を調達するための市場68。

BRP は、相対取引や Elspot/Elbas で販売しない電源を予備力
として入札する。入札は受渡日の 14 日前から行うことがで
き、受渡時刻の 45 分前まで変更可能。上方調整と下方調整
バランス調整市場
のそれぞれについて入札

リアルタイムの需給一致のため、TSO は優位な価格を提示し
た BRP から順に指令していく。この出力調整が行われた際
の価格が、インバランス料金の基準となる。
出所)各種資料より三菱総合研究所作成
実需給後のインバランス精算は、(発電実績値―発電計画値)と(消費実績値―消費計画
値)のそれぞれについて 1 時間ごとに計算する。計画発電量・計画調達量・計画販売量は、
前日の 16:00 までに TSO に報告し、当日の受け渡し 1 時間前(GC)まで変更可能である。
68
3 つの調整力が存在:①Frequency Containment Reserve in Normal Operation (FCR-N):系統周波数を
50±0.1Hz に制御するために使われる電源、②Frequency Containment Reserve in Disturbed Operation (FCR-D):
系統周波数を 49.5~49.9Hz に制御するために使われる電源、③Frequency Restoration Reserve (FRR):15 分
以内に 50Hz に戻すために使用する電源
41
送配電契約(Connection Agreement)は、我が国では一般的に、大口需要家が小売事業者と電
力供給契約を結び、その小売事業者が電力会社の送配電部門と託送契約を締結している。一
方、今回の調査対象国である欧州各国の大半では、大口需要家が直接 TSO と送配電契約を
締結することが出来る。従って大口需要家は、自社の電力需要特性に応じて、相対契約と取
引所取引を使い分けながら電力を調達し、かつ電力の調達先がどれだけ細分化されていよう
とも、どの小売事業者から購入しているか、或いはどこの電源から調達しているか(自社電
源か、相対電源か、市場調達か)は基本的に無関係であり、一つの送配電会社に対して送配
電料金を支払えばよい。なお、直接送配電契約を締結するためには、大口需要家に一定の規
模要件(連系電圧)が課せられる。ノルウェーの場合、TSO と直接契約できるのは TSO グ
リッド(132kV, 300kV, 420kV) または DSO グリッドのうち 132kV に接続している大口需要
家である。逆に、低圧で接続する需要家は、直接送配電契約を締結できないため、自社とし
て BRP になれず、従って取引所取引に直接参加できないと思われる。その場合、小売事業
者から電力を買うしなかいと考えられる
欧州の取引所取引において電源と需要の紐づけという概念は基本的に存在しない69。なぜ
なら、送配電料金は、需要家の特性(地点、kW、kWh)で決まり、どこの電源から調達し
ているかは無関係だからである。
各国における大口需要家への取引所直接参加の概要を、次表に整理する。
表 2- 1 大口需要家による取引所への直接参加の概要
米国(PJM)
英国
参加者有り
参加者
無し
参加者有り
※TSO と BRP として
契約が必要
参加者有り
社数
PJM メンバ
ー 756 社 の
内 39 社
-
EPEX SPOT の参加事
業者 234 社の内、需要
家は 7 社であり(内 5
社は自社発電所を保
有していることを確
認)
Nord Pool Spot の
参加事業者 390 社
の内、需要家は 29
社(内、Paticipant
ステータス 3 社、
Client ステータス
26 社)
バランシング市
場への需要家参
加の有無
有り
有り
有り
有り
有り
可能
事例は
見当た
らない
可能
事例は見当
たらない
可能
需要家参
加の有無
前
日
市
場
需要家による託
送契約の可否
独
仏
北欧
出所)三菱総合研究所作成
69
需給エリアをまたぐ取引では、発電と需要の紐づけ自体は行われていないが、TSO が運営するオークシ
ョンを通じて、連系線容量を確保する必要がある。
42
2.2 取引所への大口需要家等の参加状況
調査対象国/地域の取引所会員企業のうち、大口需要家の会員登録状況を下記に示す。国/
地域によって違いはあるが、登録企業数の 1/4 前後が大口需要家である。業種としては、紙
パルプ・金属・石油といったエネルギー多消費産業が多い。こういった需要家は、大型の自
家発も保有・運転している場合が多く、発電事業者としての参加の側面もあると考えられる。
なお、Nord Pool における参加需要家数が多いのは、詳細は後述するが Client ステータス
の需要家(実際の電力取引業務を第 3 者に委託する需要家)も参加需要家としてカウントさ
れるためである。一方、EPEX など他市場では、そのような需要家は取引所参加者とカウン
トされないため、数が少ない傾向がある。また、大口需要家とは異なるが、比較的多くの金
融機関も参加者として登録されている。
表 2-2 取引所における大口需要家の参加登録状況
Nord Pool
APX NL
APX UK
N2EX
EPEX
335
59
65
42
258
金融/トレーディング
30
24
22
17
74
公営電力事業者
29
0
2
0
3
TSO/DSO
8
0
2
1
9
民間電力事業者/IPP
183
24
31
16
140
大口需要家
85
10
8
8
32
紙及び林産物
16
0
0
0
1
金属/素材
13
1
0
0
4
石油/ガス
9
7
8
7
16
運輸・輸送
8
1
0
0
1
食品
8
0
0
0
1
大口需
不動産管理・開発
7
0
0
0
0
要家の
化学工業
6
0
0
1
2
建設・土木
6
1
0
0
3
小売
6
0
0
0
1
ホテル・レストラン・レジャー
3
0
0
0
0
IT サービス
2
0
0
0
1
医療
1
0
0
0
1
省エネサービス
0
0
0
0
1
業種
合計
内訳
出所)三菱総合研究所作成
2.2.1 EPEX Spot
(1) 取引所への需要家・金融機関等の参加の可否
EPEX Spot の会員になるためには、取引所で電力取引を行う正当な理由が必要でだが、具
43
体的には下記 3 つの条件を満たす必要がある。
1.
取引を行う地域において、BRP(Balance Resonsible Party)に参加し、少なくとも 1
つの TSO(フランス:RTE、ドイツ:50Hertz、Amprion、Tennet、TransnetBW、スイ
ス:Swissgrid、 オーストリア:APG)とバランス契約を締結すること。
2.
EPEX Spot の決済機関である ECC において、決済会員として定められる銀行と契約
を締結していること。
3.
少なくとも 1 名のトレーダーを任命すること。トレーダーになるためにはオンライン
トレーニングコースを受講し、EPEX Spot の試験に合格する必要がある。
需要家、金融機関が参加する際の特別な条件は、特に明記されていない。
(2) 参加状況
EPEX Spot の会員構成を下図に示す。本調査時点(2016 年 2 月)では、258 社の会員が EPEX
Spot で活動している。その大部分は電力事業者とトレーディング企業で、全会員の約 60%
を占める。次に多いのは地方自治体及び地域の供給会社である。その他の会員は、金融機関
や TSO などである。国別会員構成比を見ると、ドイツ企業の 37%が最多であり、フランス
企業は 7%である 。
ドイツの大手多国籍企業である ThyssenKrupp やドイツのアルミニウムメーカーである
Trimet Aluminum SE など、取引に直接参加する工業需要家もいくつかある。ただし、大口需
要家のシェアは 1%程度である。
なお、市場で取引したいが取引所への直接参加を希望しない需要家は、取引会員にブロー
キングやエージェント業務を依頼できる。従って、取引会員は自身だけでなく第三者の口座
を使った取引の実施が認められている。
図 2- 1 EPEX Spot の会員構成70
70
EPEX Spot
HP より
44
図 2- 2 EPEX Spot の国別会員構成71
a. 金融機関
EPEX Spot に参加する金融機関は、卸売電力市場の流動性を向上させる役割を担っている。
具体的な参加金融機関名(例)は以下の通りである。
 Barclays Bank PLC
 BNP Paribas
 BTG Pactual Commodities SA
 Citigroup Global Markets Ltd.
 Deutsche Bank AG
 Macquarie Bank Ltd. (London Branch)
 Société Générale S.A.
b. 大口需要家
大口需要家として 32 社登録されているが、そのうち企業名が判明したのは次の 7 社であ
る。7 社のうち 5 件は、自社で発電設備を保有していることを確認した。確認できなかった
2 社に関しても、発電や燃料取引を行っているので、自家発を保有している可能性が大きい。
これらの大口需要家は、発電所からの余剰電力の売電を主たる目的として、取引所に参加し
ていると考えられる。
表 2- 2 EPEX Spot の大口需要家
社名
1 Hüttenwerke Krupp Mannesmann GmbH
業種
自社発電所の有無
鉄鋼業
あり(火力)
2
Hydro Energi AS
アルミ製造業
あり(水力)
3
ÖBB-Infrastruktur Aktiengesellschaft
鉄道業
あり(水力)
4
Schweizerische Bundesbahnen SBB
鉄道業
あり(水力)
5
ThyssenKrupp AG
鉄鋼業
確認できず
6
Trimet Aluminium SE
アルミ製造業
あり(水力)
7
Enoi S.p.A.
ガス卸売業
確認できず
71
EPEX Spot
HP より
45
1. Hüttenwerke Krupp Mannesmann GmbH
Hüttenwerke Krupp Mannesmann GmbH は、ドイツ デュースブルクに本社を置き、鉄鋼製
品の製造、販売を行っている。従業員数は 3,269 名、粗鋼生産量は年間 600 万トンであり、
ドイツでの粗鋼生産量の約 10%を占める72。また、敷地内に Duisburg-Huckingen 発電所(火
力発電所)を有し、電気と熱を製造して、製鉄所で利用している。なお、2014 年以降は RWE
Generation SE が運営を行っている。当該発電所は 2 つのユニットで構成され、発電出力は
それぞれ 320 MW である。2000 年に、第 1 ユニットが産業ガスを利用するために建設され
た。また電力自由化以降、第 2 ユニットがピーク負荷をカバーするための制御予備力として
採用された73。
2. Hydro Energi AS74
Hydro 社は、アルミナのバリューチェーンを通じて生産、販売を手掛ける世界的なアルミ
製造事業者である。年間電力需要量は約 25TWh である。同社はノルウェーに 24 基の水力
発電所を所有しており、年間発電量は約 10TWh である。発電量の調整が比較的柔軟という
水力発電の特性を活かして、取引価格の高い時間帯での売電を狙っている。
3. ÖBB-Infrastruktur Aktiengesellschaft75
オーストリア連邦鉄道(ÖBB)は、オーストリアの国鉄事業を所管する国有企業グループ
である。ÖBB-Infrastruktur Aktiengesellschaft は、ÖBB -Holding AG の完全子会社であり、鉄
道インフラの運営、鉄道用電源の保有・運営を行っている。また、水力発電所を 10 基保有
している。
4. Schweizerische Bundesbahnen SBB
スイス連邦鉄道は、スイス連邦の国有企業である。スイス連邦のほぼ全域に路線を有して
いる。
2014 年のエネルギー需要量は 2,441 GWh/年である。水力発電所を 6 基保有している76。
5. ThyssenKrupp AG
ThyssenKrupp 社は、ドイツのエッセンに本社を構える世界的な鉄鋼・工業製品メーカー
である。事業分野は、コンポーネント技術、エレベーター技術、産業ソリューション、マテ
リアルサービス、欧州向け鉄鋼、米向け鉄鋼の 6 部門で構成されている。特にエレベーター
では欧州のトップシェアである。産業ソリューション部門では、化学プラントや製油所等の
産業施設の設計、建設を行っている77。
2008 年時点
http://www.hkm.de/fileadmin/Inhalte/Downloads/Unternehmensdarstellung/Stahl-Das_sind_wir.pdf
73 RWE Generation SE ホームページより
http://www.rwe.com/web/cms/en/1757522/rwe-generation-se/locations/germany/duisburg-huckingen-power-plant/
74 http://www.hydro.com/en/Investor-relations/Reporting/Annual-report-2014/
75 http://www.oebb.at/infrastruktur/en/The_Company/Data_and_Facts/index.jsp
76 http://www.sbb.ch/en/group/the-company/facts-and-figures/environment.html
77 2015 年、同社はオーストリアのエンジニアリング会社レポテックと技術提携契約を締結し、レポテック
72
が持つ発電出力 2,000 kW 未満の中規模バイオマス発電設備の日本での販売権を取得した 。同社日本法人
である ThyssenKrupp Otto が実務を担う。
46
6. Trimet Aluminium SE
Trimet 社は、ドイツのエッセンに本社があるアルミニウムメーカーである。フランスのモ
リエンヌバレーに、水力発電所を有しており、アルミニウム精錬所のエネルギー需要の一部
をまかなっている78。
7. Enoi S.p.A.79
Enoi S.p.A は 2000 年に設立されたイタリアのミラノに本社を置くガス会社であり、ドイ
ツ、イタリア、フランスをはじめ、EU の広範囲で事業を展開している
2.2.2 Nord Pool
(1) 取引所への需要家・金融機関等の参加の可否
Nord Pool での取引は、当日市場である Elbas 市場、前日市場である Elspot 市場があり、
Nord Pool の参加要件を満たす参加者は両市場での取引が可能となる。
Nord Pool 市場には、以下の三種類のメンバーシップがある。
 Participant
フルメンバーシップの権限を持ち、自らが取引を行い、Elspot 市場及び Elbas 市場で
取引を実行する。

Client Representative(以下、CR)
自社自身は Participant であるとともに、Client からの依頼を受けて、Client の取引っ

業務を代行する。
Client
取引所との間で電力取引を行うが、自社では行わず、業務を CR に代行してもらう。
Nord Pool から提供されるリアルタイム情報の閲覧のみが可能。
Client は取引を CR に任せることで、自社にて取引を行う部門を設けるコストを削減する
ことができる。また、リアルタイム情報を取引戦略に組み込むことが可能となる。
Nord Pool に参加するルールは、北欧各国で若干異なる。例えばノルウェーでは、規制当
局である Norwegian Water Resources and Energy Directorate(NVE)が発行する取引ライセン
スが必要である。
Nord Pool への参加要件について、一般的な電力会社と大口需要家・金融機関の間に、何か
特別な違いはない。
(2) 参加状況
Nord Pool の会員構成比を下図にに示す80。
78
79
80
TRIMET SE At a glance 2014/15 http://www.trimet.eu/en/geschaeftsberichte/trimet-at-a-glance-2015.pdf
http://www.enoi.eu/web/HomePage.aspx
Nord Pool Spot HP より
47
不明
10
Participant
154
Client
226
図 2- 3 Nord Pool のメンバーシップ別参加状況
出所)Nord Pool
HP より三菱総合研究所作成
ラトビア
10
ドイツ
13
スイス
6
その他
18
エストニア
14
ノルウェー
124
デンマーク
15
リトアニア
17
英国
19
フィンランド
63
スウェーデン
91
図 2- 4 Nord Pool の国別参加状況
出所)Nord Pool
HP より三菱総合研究所作成
a. 金融機関
金融機関としては、以下のような企業が参加している。
 Citigroup Global Markets Ltd
 Deutsche Bank AG London
 J. Aron & Company
 Macquarie Bank Limited
 Morgan Stanley Capital Group Inc.
 Svenska Handelsbanken AB
 Swedbank AB
b. 大口需要家
Nord Pool には、多くの大口需要家が参加している。これは、Client ステータスの需要家(実
際の電力取引業務を第 3 者に委託する需要家)も参加需要家としてカウントされるためであ
48
る。ノルウェーの大口需要家としての参加者は 29 件(Client:26 件、Participant:3 件)で
ある。
自社で発電所を保有している企業は 4 件確認されている。また、3 件は Nasdaq OMX デリ
バティブ市場にも参加している。
表 2- 3 Nord Pool に参加しているノルウェーの大口需要家81
社名
AGA AS
AVINOR AS
Boliden Odda AS
Coop Norge SA
Eiendomsspar Energi AS
ELKEM AS
ERAMET NORWAY AS
EVRY ASA
GDF SUEZ E & P Norge AS
Helse Sør-Øst RHF
Hydro Energi AS
Kraftverkene i Orkla DA
Lindex AS
Mesta Konsern AS
Nammo Raufoss AS
Oslo Lufthavn AS
Pelagia AS
Posten Norge AS
REC Wafer Norway AS
Reitan Convenience AS
Scandic Hotels AS
Shell Energy
StatensVegvesen-Vegdirektoratet
Statoil ASA
Studentsamskipnaden i Oslo
Telenor Eiendom Holding As
Tizir Titanium & Iron AS
Varner Retail AS
Wacker Chemicals Norway AS
業種
ステータス
産業用ガス
航空産業
鉱業
小売業
不動産業
太陽光パネルメーカ
ー
金属・鉱業
ソフトウェア
石油
病院
化学工業
発電
衣料品小売
建設(土木)
武器産業
航空産業
水産業
郵便事業
太陽光パネルメーカ
ー
小売業
ホテル
石油
道路公団
石油
不動産業
通信産業
鉱業
小売業
化学工業
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Participant
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Client
Participant
Client
Participant
Client
Client
Client
Client
Client
発電所
Nasdaq OMX のメ
ンバー
○
○
○
○
○
○
○
2.2.3 N2EX82
(1) 取引所への需要家・金融機関等の参加の可否
N2EX の市場規則83によると、需要家が市場参加者として登録する際は、Nord Pool と同様
81
http://www.Nord Poolspot.com/TAS/membership/より作成
82
http://www.Nord Poolspot.com/TAS/N2EX-day-ahead-market/
83https://www.Nord
49
にメンバーシップ(Participant、Client、CR)を選択する必要がある。需要家や金融機関が
参加する際の特別な条件は、明記されておらず、需要家の参加は確認されない。
(2) 参加状況
N2EX 参加企業のメンバーシップ別、国別の会員構成比を下図に示す。
不明
10
Client
1
Participant
32
図 2- 5 N2EX のメンバーシップ別参加状況
出所)Nord Pool ホームページより三菱総合研究所作成
その他
11
英国
19
スイス
3
デン
マーク
4
ドイツ
6
図 2- 6 N2EX の国別参加状況
出所)Nord Pool ホームページより三菱総合研究所作成
a. 金融機関
金融機関としては、以下のような企業が参加している。





Citigroup Global Markets Ltd
Deutsche Bank AG London
J. Aron & Company
Macquarie Bank Limited
Morgan Stanley Capital Group Inc.
Poolspot.com/globalassets/download-center/rules-and-regulations/n2ex-participant-agreement.pdf
50
b. 大口需要家の有無
N2EX には、大口需要家としては石油/ガス 7 社と化学 1 社が登録されている。しかしこ
れらの企業は、自社設備や事業所への電力供給を目的としたものでなく、取引所を通じた電
力トレーディングに特化しており、そういった意味で大口需要家ではない。
2.2.4 PJM
(1) 取引所への需要家・金融機関等の参加の可否
PJM 市場には、送電事業者・発電事業者・配電事業者・需要家・小売事業者の 5 種類の
参加者が存在する。また、PJM 市場には 5 種類のメンバーシップが存在する。
1.
フルメンバー
メンバー委員会の投票権を有する卸売電力市場参加者
2.
職権規制会員(Ex Officio Regulatory Member)
投票権を持たない規制当局と州政府機関
3.
消費者団体会員(Ex Officio State Office of Consumer Advocate Representatives)
メンバー委員会で投票権を有する
4.
緊急負荷軽減プログラム特別会員(Emergency Customer Load Reduction Program
Special Members)
投票権を持たない緊急負荷軽減プログラムへの参加を目的とした特別な会員
5.
関連会員(Associate Members)
投票権を持たず、PJM 市場に参加していない会員(情報会員のような存在)
取引に参加するためには、上記の資格を考慮し、下記の手続きを完了する必要がある。

参加申込書の提出

PJM 信用方針に沿った信用申請書の提出

PJM Operating Agreement の締結

最低参加基準の履行
(2) 参加状況
PJM の会員は 956 件(2015 年 12 月)である。
メンバーシップ別会員構成比、事業者種別会員構成比を下図に示す。需要家(End User)に
分類されているのは 39 社である。
51
21
13
3
Voting
Affiliate
396
Associate
523
Ex Officio
Emergency Load Program
図 2- 7 PJM のメンバーシップ別会員構成比
出所)PJM
HP より三菱総合研究所作成
51 39
Electric Distributor
End User Customer
247
545
Generation Owner
Transmission Owner
Other Supplier
50
図 2- 8 PJM の事業者種別会員構成比
注)Emergency Load Program および Associate の会員(24 社)は事業者種別が記されていない。
出所)FERC ホームページより三菱総合研究所作成
a. 金融機関
金融機関が PJM に参加するためには、24 時間稼働のトレーディング・デスクを設置する
ことが要件とされている。そのため PJM 市場への金融機関の参加者は少ない。
金融機関の例を下記に挙げる。




Morgan Stanley Capital Group, Inc.
J.P. Morgan Ventures Energy Corporation
Royal Bank of Canada
Barclays Bank, plc
b. 大口需要家
PJM の大口需要家は、事業者種別の End User Customer に該当し、956 件中 39 件が大口需
要家である。PJM に参加する大口需要家は下記の通りである。
52
表 2- 4 PJM に参加する大口需要家
企業名
業種
Air Liquide Industrials U.S., L.P.
Air Products & Chemicals, Inc.
AK Steel Corporation
American PowerNet Management, L.P.
APN Starfirst, LP
ArcelorMittal USA LLC
County of Frederick, Virginia
Division of the Public Advocate of the State of Delaware
Everyday Energy, LLC
Holcim (US) Inc.
Hoosier Energy REC, Inc.
Illinois Citizen Utility Board
Indiana Office of Utility Consumer Counselor (IN OUCC)
Land O'Lakes, Inc.
Lehigh Portland Cement Company
Linde Energy Services, Inc.
Linde, LLC
Maryland Office of People's Counsel
MeadWestvaco Corporation
Miami Valley Lighting, LLC
Michigan Department of Attorney General, Environment,
Natural Resources, & Agriculture Division
Microsoft Corporation
Middlesex County Utilities Authority
New Jersey Division of Rate Counsel
Office of the Attorney General, Kentucky
Office of the People's Counsel for the District of Columbia
Ohio Consumers' Counsel
Pennsylvania Office of Consumer Advocate
Prairieland Energy, Inc.
Praxair, Inc.
Procter & Gamble Paper Products Company (The)
Property Endeavors, LLC
Public Staff- North Carolina Utilities Commission
S.J. Energy Partners, Inc.
Safeway, Inc.
The Hartz Group
The Trustees of the University of Pennsylvania, a
Pennsylvania Non-Profit Corporation d/b/a University of
Pennsylvania
Virginia Division of Consumer Counsel
West Virginia Consumer Advocate Division
業務用ガス
ガス、LNG
金属工業
卸売、小売
不明
金属工業、工業
地方自治体
電力会社
太陽光発電
建設資材
発電・送電・卸売
電力会社
地方自治体
食品工業
建設資材
ガス
ガス
地方自治体
包装
電気照明
○
地方自治体
IT 産業
地方自治体
地方自治体
地方自治体
地方自治体
地方自治体
地方自治体
大学
ガス
製紙
不動産
地方自治体
電力会社
小売
不動産
大学
地方自治体
地方自治体
出所)PJM ホームページおよび各社ホームページより三菱総合研究所作成
53
自社発電所
の有無
○
○
△(建設中)
2.3 大口需要家等が取引所で取引を行うための要件
2.3.1 取引所への参加要件
(1) 大口需要家に対する参加要件
調査対象国によって若干の差異はあるものの、大口需要家は、各国の TSO(系統運用者)
と「バランス契約(Balance Agreement)」と「送配電契約(Connection Agreement)」を締結し
て Balancing Responsible Party (BRP)になることにより、通常の電力事業者(発電事業者・小
売事業者・トレーダーといった各国規制当局から電気事業ライセンスを取得している企業)
と同様の条件で、取引所に加盟し、電力取引を行うことが出来る。ただし、英国については
需要家が直接参加している事例は見当たらない。
表 2-3 大口需要家に対する参加要件
需要家による
取引所直接参加事例
バランス契約の
直接締結
BRP の名称
送配電契約の
直接締結
北欧
(ノルウェー)
オランダ
ドイツ
UK
有
有
有
無
可
可
可
Balance
Responsible
Market Player
可
Programme
Responsible
Party
可
Balancing Group
Manager
可
需要家単独で
のバランス契
約は不可
Balance
Settlement Code
Licensee
不明
(2) 大口需要家の取引所参加を促進する枠組み
大口需要家の登録数が多い Norpool などでは、需要家の取引所参加を促進する枠組みが下
記のように整理されている。
1) Client-Client Representative 制度
Nord Pool では、自社で情報システムや取引人員を有し、実際に取引を行う Participant ス
テータスと、取引所取引を行うものの、取引実務を第三者に委託する Client ステータスが存
在する。Nord Pool に参加する大口需要家の多くは Client ステータスである。Participant ステ
ータスは 3 社のみである。Client は、電力取引に係る法的責務や実需給後のインバランス精
算義務を負うが、
関連する運用業務の全てを Client Representative に委任することができる。
この取り決めにより、既に電力取引部門を持つ会社は、自社リソースを活用して、取引体
制を本格的に整備したくない Client 事業者に対して需給調整サービスを提供できる。一方
Client は、主にシステム投資や人材投資を回避しつつ、他社のリソースを活用して取引所取
引に参加できる。
54
Nord Pool エリアでは、自社で人員・システムを整備し Participant として活動することに
メリットが出来る取引ボリュームは、おおよそ 30-40TWh/年と言われている。負荷率を 60%
とすると、契約規模 5,000MW 程度の需要家に相当し、非常に規模の大きな者しか Participant
にならないことが類推される。
Client 登録企業数の多さを鑑みると、Norpool において本制度は成功していると一般的に
は考えられている。
なお、EPEX でも Client 制度に類似したルールが存在する。市場参加者に、他の会社のア
カウントで取引することを認めており、
これによってい会員は他社のために取引を行うブロ
ーカーとして振る舞うことが可能になっている。
2) 小口参加者(Small Participant)スキーム
このスキームは、需要家の取引所取引を促進するため、小口参加者についてメンバーシッ
プフィーを低減する制度である。Elbas の場合、Client は通常 1,500 ユーロの年間メンバーシ
ップフィーを支払うが、小口スキームではそれが従量料金(0.13 ユーロ/MWh)になる。現
状、需要規模(または発電規模)が年間 166,700MWh 以内の大口需要家は、小口参加者と
して登録する方がメリットがある。
3) Gross Bidding
一般的に Nord Pool では、大口需要家を含む BRP は、自社のネットポジションを Elbas や
Elspot に入札する。例えば、前日段階で発電量想定 10MWh と需要量想定 12MWh を保有す
る大口需要家は、不足分の 2MWh を買い札として市場に入札する。
一方 Gross Bidding は、自社の売り札と買う札を分けて入札できる。上記の場合、発電量
10MWh を売り札として入札し、需要量 12MWh を買い札として入札できる。Gross Bidding
により、市場の流動性が飛躍的に高まる他、市場参加者にとっては、戦略的な電力取引を行
うことで経済的メリットが増加する可能性がある。また、需要家は、社内での取引やマッチ
ングを行う手間を省くことが出来る。また流動性強化により取引総量が増加するので、kWh
あたりの取引手数料の低減にもつながる。
従来は Participant にのみ Gross Bidding が認められていたが、2015 年 2 月から Client も Gross
Bidding 可能となった。
2.3.2 取引に要するコスト
(1) 担保金、取引手数料
担保金(Collateral)とは、市場参加者が市場に差し入れる保証金である。取引企業が破産し
て未清算金が発生した場合、その一部は保証金によって充当される。取引所のクリアリング
ハウスと締結する精算協定書(Clearing Agreement)には通常、必要な担保金額の条項が含まれ
55
ている。
担保金額の設定方法は複雑であることが多く、多くの大口需要家にとっては、その算定が
手間となり、かつ最終的に算出される金額も大きいため、結果として取引所への参加をため
らう場合があると言われている。そこで、担保金計算の単純化への取り組みが一部の取引所
で行われている。Nord Pool では、担保金は、30,000 ユーロまたは過去一週間における Elspot
および Elbas での取引総額のいずれかを選択することになっている。後者の場合、担保金額
は参加者の取引規模の時間経過に応じて変化していくことになる。
担保金の他に、
市場参加者はメンバーシップフィーや取引手数料などを支払う必要がある。
大まかには、メンバーシップフィーなどの固定費(Fixed fee)と取引手数料などの変動費
(variable fee)に分けることができる。取引手数料は通常、市場参加者にとって大きな負担と
はなっていない。Nord Pool では、取引代金の 0.4%程度と言われている。
取引に要するコストの概要を次表に整理する。
表 2-4 取引コストの概要
北欧
(ノルウェー)
担保金
(Collateral)
オランダ
ドイツ
UK
30,000€、または直
所定の方法に基づくが、約定代金の
所定の方法に基
近 一 週間 の取 引代
うち未精算部分が、リアルタイムに
づく。平均的に
金 に 相当 する 費用
計算され、それが担保金相当となる。 は DAM+IDM 取
(後者の場合、取引
引代金の 9-10 日
状 況 に応 じて 担保
分程度
金 額 は毎 日見 直さ
れる
DAM:0.04$/MWh
IDM:0.11€/MWh
DAM:0.07$/MWh
IDM:0.095€/MWh
DAM:0.04$/MWh
IDM:0.10€/MWh
決済手数料
(Settlement)
0.006€/MWh
0.01€/MWh
0.15€/MWh
メンバーシ
DAM+IDM:18,000€
DAM+IDM:10,000€
ップフィー
IDM: 10,800€
IDM:5,000€
取引手数料
(Trading fee)
DAM:
0.02GBP/MWh
IDM:
0.024GBP/MWh
DAM+IDM:
13,400GBP
IDM:
8,000GBP
注)DAM: Day-Ahead Market(一日前市場)、IDM: Intra-Day Market(当日市場)
出所)各種資料より三菱総合研究所作成
(2) システム投資・取引人員
まず、取引所への参加要件のなかに、参加者が配置すべき取引人員などの規定は、殆ど存
在しない。例外として EPEX では、同取引所が開催する取引口座を受講し、修了したトレー
ダー(certified trader)を少なくとも 1 名配置する必要があるとしている。
56
取引所取引業務は、自社人員で行う場合もあれば、Norpool の Client 制度のように第三者
に委託する場合もある。企業の業務内容や、企業内のほかの部門(例;金融、コンプライア
ンス、リスク管理)との業務仕分けにも依存するため、取引人員体制は会社によってまちま
ちである。
取引に必要な情報システムの要件も明確には決まっていない(コンピュータと、取引所が
指定する取引ソフトウェアが必要である、といった程度である)。一般的に、取引デスクに
特別な施設は必要ない。Nord Pool を含む取引所のいくつかは、Web ベースの取引プラット
フォームを提供しているため、参加者がライセンスを購入する必要はない。その他(例;
EPEX, APX)では、参加者からソフトウェア使用料を徴収している。
本調査のインタビュー先からは、大口需要家の取引所参加を妨げる要因として、取引人員
体制の整備コストを挙げるものが多かった。従って、Client 制度のような形で、第三者に取
引を委託するニーズが大きかった。
2.4 取引所から調達した(又は取引所に販売された)電気の託送について
我が国では一般的に、大口需要家は小売事業者と電力供給契約を結び、その小売事業者が
電力会社の送配電部門と託送契約を締結している。一方、今回の調査対象国である欧州各国
の大半では、大口需要家が直接 TSO と送配電契約を締結することが出来る。従って、大口
需要家は、自社の電力需要特性に応じて、相対契約と取引所取引を使い分けながら電力を調
達し、かつ電力の調達先がどれだけ細分化されていようとも、どの小売事業者から購入して
いるか、或いはどこの電源から調達しているか(自社電源か、相対電源か、市場調達か)は
基本的に無関係であり、一つの送配電会社に対して送配電料金を支払えばよい。
2.5 取引所取引における電源と需要の紐付けについて
前提として、TSO と送配電契約(Connection Agreement)を直接締結できる需要家は、電力
供給にあたって小売事業者を介在させる必要はない。前述の通り、送配電料金は、送配電契
約に基づいて、需要家の特性(地点、kW、kWh)で決まる。どの小売事業者から購入して
いるか、或いはどこの電源から調達しているか(自社電源か、相対電源か、市場調達か)は
基本的に無関係である。従って、取引所取引における電源と需要の紐づけという概念は存在
しない。
2.6 大口需要家の電力取引参加に関するケーススタディ
2.6.1 Norsk Hydro 社(アルミニウム製造)
(1) 企業概要
Hydro 社(Norsk Hydro の略称)84は、世界的なアルミニウム会社であり、アルミニウムの
84
www.hydro.com
57
バリューチェーンのすべて(ボーキサイト、アルミナ、アルミ製造用発電、粗アルミニウム
生産、アルミロール製品の輸送・販売、製品リサイクル)について事業展開している。ノル
ウェーに本部を置き、世界中にまたがる 50 ヶ国に 13,000 人の従業員を擁している。日本に
もアルミ金属製品のサプライヤーとして進出している。
Hydro 社はノルウェーで第 2 位の水力発電事業者でもある。水力発電所の総発電量は年間
約 10TWh である。これはノルウェーの人口 660,000 人の年間消費量に相当する。従って、
Hydro 社は大口需要家と発電事業者の両方に該当する。会社の構成は以下の図の通り。
図 2- 9 Norsk Hydro 社の組織構造
この構成の中で、ボーキサイト/アルミナ(Baucite & Alumina)、粗金属(Primry Metal)、アル
ミロール製品(Rolled Products)の 3 つの部門が Hydro 社の大口需要部門である。一方、エネ
ルギー部門(Energy)が発電事業と電力取引を行う。
Hydro 社の発電量・消費量および、取引のポートフォリオを 2015 年第 3 四半期レポート85
から下記に抜粋した。
表 2- 5 Hydro 社による発電状況
85 http://www.hydro.com/upload/Documents/Reports/Quarterly%20reports/2015/report_q3_2015_en.pdf
58
上記表内の 2014 年の数字を用いて、Hydro 社の電力需給管理を整理する。
(2) 調達/消費
2014 年、Hydro 社の総電力消費量は 13.5TWh であり、これは内部電力契約量(internal
contract sales)として計上されている。Hydro 社のエネルギー部門は、自社主要事業部門(ボ
ーキサイト・アルミニウム、粗金属、アルミロール)のために電力調達を行っている。アニ
ュアルレポートでは契約の構造や、内部契約の価格などは公開されていないが、一般的な市
場価格水準で調達していると考えられる。同社はカンパニー制を敷いており、それぞれの部
門が利益の最大化を目指しているため、内部での相互補助関係はない。つまり、エネルギー
部門は他の部門に対して、市場価格から乖離した内部価格を適用することはない。
(3) 発電と卸電力取引
2014 年における Hydro 社の自社発電所の発電量は 10.2TWh であり、自社消費量の 75%を
カバーする。また、ほぼ同規模の電力購入契約(相対契約)も保有している(2014 年、9.3TWh
の買い、1.1TWh の売り)。
表 2- 6 Hydro 社の需給ポートフォリオ(2014 年)
供給(GWh/年)
需要(GWh/年)
自社発電
10,206
自家消費
13,514
相対契約(購入)
9,315
相対契約(売電)
1,187
前日スポット市場(ネット)
4,820
総供給量
19,521
総需要
18,334
注)差分は送配電ロスや誤差と考えられる。
上記のうちスポット取引量はネット(売り越し量)であり、グロスでの取引総量は上表よ
りも圧倒的に大きい。
(4) Hydro 社のエネルギー部門の活動
エネルギー部門の構造は以下の通りである。Hydro 社はノルウェーに数ヶ所の水力発電所
を所有しており、
従来から発電量や発電コストの見通しが得やすい電源として活用されてい
る。ノルウェーにおいて Hydro 社は、Statkraft 社に次いで第 2 位の発電事業者である。当初、
自社発電所は自家消費のためだけに用いられていたが、取引所取引が整備された現在では、
ヨーロッパ全域の市場での取引にも用いている(Nasdaq OMX デバリティブ市場、Nord Pool、
Statkraft の需給調整およびアンシラリーサービス市場など)。
ノルウェーの電力消費量の約 10%を占める Hydro 社のような企業にとって、電力を予想
可能なコストで安定的に調達することは極めて重要である。電力は、アルミニウム製造コス
トの 50%を占める主要コスト要因である。電力価格リスクの把握とヘッジは Hydro 社にと
59
って重要である。不安定な Nord Pool の価格のリスク対策として Hydro 社は自社発電、長期
相対契約、Nasdaq OMX における金融契約の 3 つを組み合わせて対応している。
図 2- 10 Norsk Hydro 社のエネルギー部門の組織
(5) エネルギー部門の役割と活動
Hydro 社のエネルギー部門には、2 つの相反する使命が有る。

自社の発電施設を運営し、売電により利益拡大を図る
 自社の事業部門の競争力を高めるため、電力を安定的かつ安価に調達する
これらの二つの使命を果たすことは大口需要家と発電事業者の両面を有している会社に
はジレンマではあるが、Nord Pool などの電力市場価格を使い、内部補助を回避したリスク
管理を行うことにより、会社の総利益は最大化されると考えている。言い換えると、Nord
Pool を経由した取引を積極的に行うことで、電力と発電の価値が最大化するようなポート
フォリオを形成している。
(6) 取引所取引
1992 年の市場自由化後、ノルウェーにおける、最大級の大口需要家兼発電事業者として、
Hydro 社は大口需要家の中で最も歴史があり、競争力の高いことで知られている。Hydro 社
は下記の市場取引を積極的に活用している。

価格ヘッジのために金融市場(Nasdaq OMX)

Nord Pool スポット(前日市場)と Elbas(当日市場)
 Statnett リアルタイムのバランス市場とリザーブ市場
Hydro 社の電力取引とリスク管理の戦略は以下の基本方針に基づいている。

所有している発電所の電力を前日市場とバランス市場で販売最適化

Hydro 社のほかの部門へのエネルギー供給において金融商品と相対契約でリ
スク(価格不安定)を減らす。

エネルギー部門の市場取引におけるスキルを生かし、様々な市場で取引/先物
60
の利益を上げる。
内部供給契約をカバーする戦略を下図に示す;
図 2- 11 Hydro 社の電力調達戦略
(7) 相対契約
Hydro 社は、その全量ではないが、自社消費量の一部をカバーするために相対契約を複数
結んでいる。下図は、今後 18 年間におけるノルウェー国内での Hydro 社の調達状況(自社
発電、及び長期契約)である。
需要量
Statkraft との契約
相対契約
自家発電
図 2- 12 今後 18 年間の電力調達状況(ノルウェー国内)
Statkraft はノルウェーの国営電力会社であり、従来は長期相対契約、いわゆる「産業契約」、
で大口需要家に安価に電力の供給を行っていた。10 年前までは補助を含む特別なレートで
あったが、その補助が無くなった後も、長期契約はノルウェーの総電力取引の大きな割合を
占めている。
2014 年夏、Statkraft との契約が次期 10 年(2020-2030)の更新時期であったが、Statkraft
と Hydro は、その契約価格の合意に至らなかった。その結果、契約更新は無くなり、Hydro
61
Energy は他のサプライヤーとの長期契約を行うことになった。他の供給事業者として、ス
イスの Axpo トレーディング、ノルウェーの発電/ユーティリティである BKK, Lyse Energy,
Eidiva Energi, Agder Energi 等と契約を結んでいる。
下図はノルウェー国外での Hydro 社の契約締結状況を表している。
需要量
図 2- 13 今後 18 年間の電力調達状況(ノルウェー国外)
アルミロール部門の責任者であり、Hydro 社副社長である Kjetil Ebbesberg は、「自社に
とって有利な電力調達に努めてきた結果、また 2012 年以降取引所における電力価格が低減
しているなかで、今後締結していく電力調達契約も、自社グループ企業の競争力強化に貢献
するだろう」と発言している。
表 2- 7 Hydro 社が最近締結した電力調達契約
契約量
(GWh/year)
契約先
契約期間
補足
Statkraft
ノルウェー
6,400
~2020
1960 年代に締結された確定数量
契約。契約更新せず終了へ
Axpo Trading AG
スイス
900
2018-2025
ドイツの自社アルミ工場への電力供
給
BKK
ノルウェー
500
2021-2030
ノルウェー西部の事業所への電力
供給
Lyse Energi
ノルウェー
700
2021-2031
ノルウェー西部の事業所への電力
供給
Agder Energi
ノルウェー
1,000
2021-2031
ノルウェー西部の事業所への電力
供給
2.6.2 Svenska Cellulosa Aktiebolage(紙・パルプ、消費財メーカー)
(1) 企業概要
Svenska Cellulosa Aktiebolaget (以下 SCA)は、世界的な衛生用品と紙・パルプ製品の会社で
あり、本部はスウェーデンのストックホルムである。ビジネスの三大部門は、パーソナルケ
62
ア、森林製品、ティッシュである。グループ従業員数は 44,000 人であり、ヨーロッパ最大
の私有林を所有している。2014 年には、SCA のグループ総売上高は 1,040 億 SEK86(内訳
は下図参照)であり、営業利益は 110 億 SEK であった。
図 2- 14 SCA 年間収益と営業利益
(2) 電力調達活動
SCA の年間電力消費量は 7TWh である。スウェーデン国内では、消費量の 25%を固定量・
固定価格(確定数量契約)で Statkraft との相対契約を結んでいる。これは、Norsk Hydro の
産業契約と同様の契約であり、2019 年が契約期限である。
残りの 75%については SCA が Client として Nord Pool を通じて調達している。SCA によ
ると、取引所経由で調達する理由としては、小売事業者から調達する場合、SCA の営業秘
密にあたる情報を小売事業者に提供する必要があるからだとしている。これは SCA が大量
消費者であり、大規模小売事業者のみが当該量を供給できるからである。これらの大規模小
売事業者は、自身で発電施設を所有している場合が多く、SCA の消費量のデータを得るこ
とにより、発電量を調節することで価格操作を行う懸念がある。従って、SCA としては自
社の消費電力量を秘匿しつつ電力調達を行う方法を模索した。取引所での取引はすべて匿名
であるため、その電力調達方法は SCA の希望にかなっている。
Nord Pool の Client として、SCA は Client Representative(CR)と契約し、CR が提供する
日々の取引サービスを利用している。SCA は CR に対して、Nord Pool 提出用の消費プロフ
ァイルを毎日知らせている。エネルギーコストを管理するため、SCA は指値型入札を行い、
価格が高い時には取引量を減らしている。従って SCA の事業部門は、製品製造時に電力価
格を考慮しつつ設備運営を行う責任がある。例えば、電力を多量に消費する工程では、工場
の稼働時間帯を週末などのオフピーク時間帯にずらすなどして、
電力費用の抑制につとめる
必要がある。
電力調達だけでなく、SCA は CR に BR 管理も委託している(SCA はインバランスリスク
自体は負っているが、
バランシング管理業務を外部委託することで自社の負担を軽減してい
86 SCA Annual Report 2014
63
る)。SCA によると、Nord Pool の市場拡大要因の一つとして、バランス責任制度の簡潔さが
挙げられる。Nord Pool では、市場参加者がインバランス料金を自ら計算し、その情報に基
づいた様々な意思決定を行うことができる。
営業上の秘密の重要性について SCA は、発電資産を所有しないサービスプロバイダを好
むとも言っている。サービスプロバイダとして、発電所を保有する大きな電力会社と契約を
結ぶメリットは無く、小規模で独立系の会社と契約し、営業秘密が侵害される懸念を軽減す
ることが好ましいと判断している。他方、大規模プロバイダと契約すると、そのプロバイダ
に与えた契約情報をプロバイダ自身に利用されてしまうと SCA は考えている。
(3) Client モデルの長所
SCA のような需要家は、大口需要家ではあるが、人員やシステムを整備して市場取引を
行うほどの規模ではないと考えている。その場合、Client モデルを通じた市場参加こそが、
市場取引のメリットを享受できる最も現実的な方法であると考えている。

Client としての参加か Participant としての参加か
Participant ではなく、Client として参加するメリットとしては、コスト全額を支払わずに
Participant としてのメリットを享受できることである。SCA が取引に関わるすべてのリスク
(担保やバランスリスク)を追うことにより、
第 3 者とサービスプロバイダ契約が可能である。
第 3 者は SCA の取引リスクを負うわけではないので、管理費は低く抑えることができる。
SCA はこの方法が直接参加よりも良いと考えている。

小売事業者からの調達か、取引所からの直接調達か
前述したとおり、SCA は、小売事業者を通した調達よりも Client モデルを選んだ主な理
由は営業秘密の保護である。SCA の規模の電力消費をまかなうためには、大規模小売事業
者が必要であり、それらの小売事業者がデマンド情報を利益追求に使い、SCA に不利とな
る恐れがあるからである。Client モデルは Nord Pool において独立系電力取引業者を通じて
匿名で電力を調達することを可能にしている。
(4) リスク軽減
電力の価格変動リスクは SCA 内部で管理されている。SCA の方針として、電力と天然ガ
スの価格は 3 年後までヘッジしている。リスク管理業務において、金融取引により利益を追
求は行わない。ヘッジは主に、差額決済契約(CfD)のような金融取引や、前述の確定数量契
約を通した価格の固定化によって達成する。下記の図は、SCA の電力需要(2015-17 年)のう
ち、ヘッジ済契約の割合である。
64
図 2- 15 SCA の電力需要(2015-17)におけるヘッジ済契約の割合
SCA は NASDAQ OMX のような金融取引所の参加者では無いため、CfD は金融機関や他
の事業者との間で結ぶ。CfD 締結にあたり、SCA は取引相手方が有するべき信用力につい
て厳しい基準を設けている。特にチェックするのは、相手企業の信用格付けである。SCA
は相手方として、自己資本比率の高い北欧の銀行を好む。これらの銀行は資本があり、金融
市場で大きな存在であり、取引所での取引を促進している(例 NASDAQ OMX).
ヘッジ契約の短所は、契約後に取引価格が低下し、逆に損害が発生してしまう可能性があ
ることである。このリスクを軽減するため SCA は、電力消費量におけるヘッジ契約を 50%
以内に収めることにしている。
(5) 電力取引部門
SCA の取引チームは、フルタイムの職員 1 名と複数のサポート職員しかいない。取引チ
ームの主な業務はビジネス部門からの需要量を合算し、一日前市場のデッドラインまでに
CR に伝達することである。その他のサポート業務としてコンプライアンスがある。エネル
ギー管理者たちが、取引をチェックし、精算が正しく、不一致が無いかを確かめている。
他方、リスク管理チームの業務としてエネルギー価格リスクのヘッジがある。そのために
は市場調査が重要であり、金融機関やブローカー等から情報収集を行い、日々の意思決定に
活用している。
(6) 自社電力需要のタイムリーな把握
SCA は、需要家の市場取引への参加に際して、計量の重要性を指摘している。自社が電
力調達計画を検討する際には、自社の電力消費データ(メーターデータ)にアクセスできる
必要があり、それによって初めて、1)需要プロファイルの把握、2)エネルギーコスト最小化
のための操業管理、を計画できるとしている。
65
2.6.3 Skandinaviska Enskilda Banken(金融機関)
(1) 背景
SEB (Skandinaviska Enskilda Banken)は、北欧の大手金融機関であり、20 か国に 16,000 名
の従業員を擁している。主要顧客として大手のエネルギー事業者を抱えている。コモディテ
ィ部門(その大部分はエネルギー)は市場アクセス、取引、リスク管理および分析に関する
様々な金融サービスやアドバイザリーサービスを提供している。Commodity group team87は
30 名で構成されており、世界的レベルのサービスを提供している。
2002 年頃まで Nord Pool の金融取引市場は、Enron などアメリカ企業の影響を大きく受け
ていた。電力デリバティブ市場(Nord Pool と OTC)での活動は、一部ヘッジ目的もあった
が投機的な目的が大多数を占めていた。
投機取引は、現物の原資産をカバーせずに価格変動を仲裁する目的でポジションを取る。
こうした取引は参加者に多大なリスクをもたらすが、熟練トレーダーにとっては巨大な利益
機会でもある。しかし、2002 年頃の Enron スキャンダルとそれから 10 年後の金融危機(リ
ーマンショック)により、北欧の金融機関は投機取引から Client への市場サービスのみの提
供にシフトした。
(2) SEB 社の見解
現在 SEB が大口需要家を含む電力市場参加者に提供しているサービスには以下のような
ものがある。

Nasdaq OMX 等のデリバティブ市場での仲介業務:顧客に対して、高額なメンバシップ
フィーを支払わずとも金融取引のポジションを取れるよう、取引を仲介する業務。ただ
し、顧客は取引手数料を支払う必要がある。

マージン・コールの低減:Nasdaq 等での取引ルールでは、多額の担保金が必要である
が、SEB は顧客の担保金負担額を低減するサービス(ローン、保証等)を提供する。

アドバイザリーサービス:商品市場での長い経験を持つスペシャリストが、電力取引と
リスク管理についてのアドバイスを提供する。
投機的取引から手を引いて以降、SEB として自己勘定取引は行っていない。現在の
Commodity チーム(30 名)が提供するサービスは、もっぱら顧客向けである。
SEB の Commodities Research チームは、顧客にアドバイスを提供する専門ユニットである。
このチームは、外国為替、金利、株式、マクロ経済に関し市場分析を行う経済リサーチチー
ムと緊密に協同している。
87
http://sebgroup.com/corporations-and-institutions/our-services/markets/commodities
66
同チーム内には、石油、ガス、電力、鉱物、農業製品、貴金属の専門家で構成される
Commodities Sales チームがある。
彼らは、
顧客が最新の市場動向に触れることができるよう、
デイリー及びウィークリーのマーケットレターを発行している。また、顧客に対して、将来
の価格動向に関する見解や取引に関する助言も行っている。
(3) 電力取引における金融機関の後退
金融機関による電力取引は、
米国のエネルギー企業や大手金融機関が欧州市場で活発に取
引していた 2000 年代初期と比べると縮小している。理由として、Enron と TXU Europe の破
綻やそれに続く米国エネルギートレーダーの欧州市場からの撤退、2009 年の金融危機、欧
州の経済停滞、
金融市場と投機取引に対する規制圧力の強化など、
様々な要素が挙げられる。
電力以外の商品取引でも、EU 指令や国内規制による投機取引の抑制・景気低迷による商品
価格下落とボラティリティの減少によって取引機会が減少し、投機的トレーダーが撤退する
結果となった。
67
表 2-5 商品取引企業に影響を及ぼす主要な規制
規制
Basel III (世界全体)
 範囲:銀行、企業
 完全施行: 2018 年
 部分施行:2013 年より
規制がもたらす変化
銀行の自己資本比率上昇
 レバレッジ割合の上限
 目標資産の下限
 流動資産割合の下限
 信用格付けの調整
トレーダーへの影響
金融取引機会の減少
 信用リスクチェックの
強化(信用力の低い相手
との取引が困難に)
 銀行団から シンジケー
トローンが困難に
 取引コストの上昇
Dodd-Frank Act (US)

範囲:スワップ・ディー
ラー

施行:2010 年 7 月より
EMIR (EU)

範囲:デリバティブ取引
すべて

施行:2013 年より
MIFID (EU)

範囲:システム化された
金融機関

施行開始:早くとも 2013
~2015 年
Volcker Rule (US)
 範囲:銀行、金融機関
 効力: 2010 年 7 月より
 完全施行:2012 年第 4 四半
期
相対デリバティブ取引に
対する規制の強化
 マージンに関する条件
の設定
 中央取引レポジトリへ
の報告義務
 時価評価と保証金差し
入れを毎日実施
 取引量制限
 規制機関による監視・
介入の増加
取引モデルが更に複雑化
し、取引コストが上昇
 新しく加わる報告義務
に対応するためのシス
テムとプロセスのアッ
プグレード
 運転資本の積み増し(精
算、マージン、担保)
 コンプライアンス 強化
(取引の追跡、取引量の制
限、等)
銀行の取引業務の制限
 自己勘定取引の制限
(金融的・物理的)
 取引資産の所有権への
制限
銀行が商品取引から撤退・
分離することによる競争環
境の変化
 マーケットメーカーの
減少、ヘッジ取引の減少
 銀行の商品取引部門か
らの撤退と資産売却
 一方で、物理的取引や
M&A に関する新しいビ
ジネス機会
出所)各種資料から三菱総合研究所作成
電力取引の金融的プレーヤーは一般的に、
金融取引及び商品取引に関する様々な規制の対
象となっている。当初は European Market Infrastructure Regulation (EMIR)と Investment
Services Directive (ISD)の規制を受け、それらの改訂版である Markets in Financial Instruments
Directive (MiFID) 、 そ し て 現 在 は REMIT(Regulation on Energy Market Integrity and
Transparency)に規制されている。現物商品としての電力は、一部の規制(MiFID 等)の直接
的な対象にはなっていないが、
金融的商品としての電力は金融商品関連の規制市場の範囲に
入る。
これらの規制には二重の効果がある。まず、市場関係者に対して、コストをかけてでも取
引状況を適切に申告させ、リスク管理とビジネスプロセスを改善させ、市場操作を防ぐイン
68
センティブを与えた。次に、実物取引を行うトレーダーに対しては、上記の規制から除外す
ることにより、取引を通じて利潤を得るチャンスを保全した。
更に MiFID II の登場により、金融プレーヤーに課せられる規制は更に厳しくなると考え
られる。具体的には、金融取引のなかで投機的取引(ヘッジを除く)の割合が一定以上(10%
以上)となる事業者は MiFID II の規制下に置かれ、様々な金融ライセンスを取得する必要に
せまられることになる。これは、実物取引を主要な事業とする企業にとっても、投機的取引
の割合が高い場合は、同様の規制が課せられることになる。
2.7 大口需要家による電力取引の課題
今回の調査を踏まえると、取引所取引に参加する大口需要家は、エネルギー多消費型企業
(自家発を保有し発電事業者としても振る舞う企業や、自社需要が大きく、取引所取引を通
じて電力調達の最適化を図りたい企業など)や一部の金融機関に限られている。また、とり
Nord Pool の事例からも分かるように、自社で取引システムや取引要因を整備する企業は非
常に少なく、大半のケースでは取引所取引に精通した第三者に取引業務を委託している。
このように、
大口需要家が電力取引にアクティブでない理由について、
英国を例にとって、
複数の需要家やトレーダーにヒアリングを行った。
(1) 大口需要家向けの電力供給契約
今回インタビューを実施した英国の小売事業者88は、1 年以上の長期契約を結ぶ大口需要
家に対して「固定部分」と「変動部分」を組み合わせた仕組み電力契約(flex procurement
contract)を提供している。「固定部分」は、需要家が確実に消費すると想定される量とその
価格を固定した部分であり、「変動部分」は、需要家の事業状況(例:工場の稼働状況)に
応じて卸市場価格にリンクして供給する部分である。この仕組み電力契約によって、需要家
の電力調達最適化ニーズに応えているとのことである。
この契約は、小売事業者から電力供給を受けつつ、電力調達の最適化も委託できるので、
需要家が自身で取引所に会員登録する必要はなく、
取引用の情報システムや専門人員を配置
する必要もない。また取引所に対して供託金や取引手数料を直接支払う必要もない(当然、
小売供給価格のなかに該当費用は埋め込まれていると考えられる)。
また、この小売事業者は、系列のトレーディング会社を介して、電力小売に留まらず、バ
ランシンググループ管理(インバランスリスクの管理)、実需給時間帯におけるバランシン
グ電力の提供など、需要家のニーズい応じてテーラーメイドのサービス提供を行っている。
この事業者の意見として、
大口需要家が直接取引所に参加するインセンティブは少ないとの
ことである。
電力調達を最適化するために取引所取引へのアクセスの必要性を感じる大口需
88
今回インタビューを行った小売事業者は、電力小売事業だけでなく、発電事業や電力トレーディングも
行う英国大手電力事業者である。大手として様々な機能を有しているため、このようなサービスを提供で
きると考えられる。
69
要家は存在するが、自社内に取引チームを設けることへの抵抗感が強い。しかし、英国では
既に小売事業者側に柔軟性の高い電力契約形態が用意されており、この小売事業者を通じて、
自社の調達戦略に沿った取引所へのアクセスが可能となっている。
大口需要家がエネルギー調達をどうしてもインハウスで行う場合、電力会社でトレーディ
ングの経験を積んだトレーダーを新たに雇用する必要がある。その場合でも、取引所や OTC
市場を介さず、電力会社の取引デスクに電力調達を依頼する場合が多い。
(2) 取引デスク(Flow desk trading)
大手電力会社は一般的に、大口需要家など顧客の電力調達をサポートするため、専門の取
引デスク(Flow desk)を設置している。取引デスクは、すべての物理的/金融的商品(電力・
ガス・石炭・石油・環境など)について、市場へのアクセスを有している自前の IT システ
ムを開発し、事業遂行に活用している。電力の場合、取引デスクは OTC と取引所を両睨み
し、価格の有利な方を選択して取引を行うことが多い。
なお、このような取引デスクは、慎重な取引戦略を採用し、顧客(需要家)の長期的なメ
リット確保を主眼と置いている。逆に、市場価格が急変した場合に需要家が過大な利益ある
いは損失が出るような、反射的かつ短期的な取引は行わない。ヒアリング先によると、リス
クの高いヘッジ戦略をとるトレーダーは、2008 年のリーマンショックを生き抜けず、その
数は急減しているとのことである。
(3) 取引所の状況
元来、英国における卸電力取引の 90%以上は相対取引であり、取引所取引の割合は 10%
弱でしかない89。
英国で需要家の取引所直接参加が進まないもう一つの理由として、Nord Pool や EPEX で
導入されている Client モデルが英国では実現していない事が挙げられる。このため、大口需
要家が直接取引所取引を行う場合は、Participant として自前のシステム・人員を擁して参入
せざるを得えない。
大陸ヨーロッパ取引所では一般的に行われている電力の CfD 契約は、英国ではあまり使
われていない。エネルギーコストの安定化を図る場合は、電力同士のヘッジではなく電力と
ガスのヘッジ取引の方が一般的である。
89ただし、取引所取引の割合は徐々に拡大傾向であり、2013
いる。
70
年の取引全体の 14.9%が N2EX 経由となって
2.8 確定数量契約の実態
(1) 概要とメリット・デメリット
確定数量契約
(需要家が事前に作成した時間帯ごとの需要計画に基づいて電気を供給する
小売契約)は、契約の不確実性を減らす方法の一つであるが、必ずしも一般的な契約形態で
はない。ただし、今回実施した現地インタビューを通じて、確定数量契約的要素が大口需要
家への販売契約において取り入れられている例が存在した(ノルウェー、英国、オランダ、
ドイツ)。
次表に確定数量契約の概要(メリット・デメリット)を整理する。
表 2-6 確定数量契約の概要(メリットとデメリット)
メリット

長期安定的な電力販売先確保

販売量を固定することで、価格
販売
事業者
デメリット

ヘッジ戦略に注力できる

域外送電する場合も、販売量上
市場価格よりも相当安価な水
準で販売することが多い
限が固定されるので、送電権確
保が容易

確定数量契約には一般的に
Take-or-pay 条項が含まれる。こ
れにより、需要家は、消費しな
かった量に対しても合意価格
で支払わなければならない。消
費しきれなかった量について
大口
需要家

市場価格よりも安価で長期安
は、自身で取引所での売却など
定的に電力供給を受けること
の手当を行う必要がある。

が出来る
確定数量契約に起因するリス
クは需要家が負う。①需要家は
超過した購入電力を前日スポ
ット市場で売却する、②
Take-or-pay 契約責任を負う、③
インバランス責任を負う、など
の対応を迫られる。
出所)三菱総合研究所作成
上記の他に、確定数量契約については以下の特徴にも留意しなければならない。
71
表 2-7 確定数量契約に関する他の特徴
項目
契約約款
概要
確定数量契約と他の一般的な電力供給契約の間に、約款
上の基本的な相違は存在しない
価格条件は、固定価格と変動価格の両ケースが存在する。
価格条件
後者は、卸市場価格や商品価格などと連動させているケ
ースが存在する。
需要家は、確定数量契約だけでなく、超過量については
別途小売供給契約を結ぶ(あるいはスポット市場で購入
省エネインセンティブ
する)ことが多いため、確定数量契約の上限量に自社消
費量を抑制するインセンティブが必ずしも働く訳ではな
い。
出所)三菱総合研究所作成
(2) Statkraft による固定数量契約例
Statkraft はノルウェー国営の大手発電事業者である。ノルウェーにおける水力発電量の
40%以上を発電し、「確定数量契約」と「Nord Pool スポット市場」を組み合わせて売電し
ている。
1950 年代から 60 年代にかけ、ノルウェー政府主導のもとで Statkraft は多くの大口需要家
と超長期の確定数量契約を締結した。その目的は低価格の電力を安定的に提供することで
「国を築く」ことにあった(その代わり、国が補助金で Statkraft に補填)。現在も、ノルウ
ェーの総電力消費量 1/3 程度が、この確定数量契約によって賄われている。2010 年におけ
る確定数量契約の平均価格は、20 øre/kWh 又は 2 Euro cents/kWh 程度と言われている。
こうした超長期契約の大半は、2003 年~2011 年に有効期限を迎えた。Statkraft は契約延
長交渉を行ったが、市場価格ベースでの提案でったため、需要家の多くは Statkraft のオファ
ーを断っている。次に示すグラフの通り Statkrafts の確定数量契約ポートフォリオは現在
20TWh/年に減少している。2020 年以降は、更に 5TWh/年程度にまで減少する見込みである。
72
図 2-2 Statkraft 長期契約ポートフォリオ(2015-2023)
長期契約は多くの場合
「ベースロード契約」と呼ばれる、取引高が固定される契約である。
その場合、価格条件は固定価格と変動価格の両方が存在する。後者は例えば、スポット価格
や大口需要家の商品(アルミニウム等)の価格を index として変動させるものである。確定
数量契約は相対契約であるため、契約条件の詳細は殆ど開示されていない。
73
3. 諸外国における調整力を効率的に確保する仕組み(リアルタイム市場等)に
関する調査・分析
3.1 諸外国における短期及び中長期の調整力(予備力)確保の仕組み
3.1.1 調整力(予備力)確保のためのリアルタイム市場の状況
(1) 調整力の機能
調整力には大きく三種類の機能がある。①自動周波数応答機能、②LFC・AGC 機能及び
③EDC 機能である。

自動周波数応答機能:基準周波数から周波数の実績値の差である周波数偏差に応じ、
発電機側で自動応答するもの。発電機のガバナー機能が該当する。

LFC(Load Frequency Control)・AGC(Automatic Generation Control)機能:周波数偏
差(標準周波数と実績の乖離)及び連系線偏差(計画と実績の差)に基づき送電部門
が発電計画を修正。数秒~数十秒ごとに計算し、数秒間隔で指示値が送付される。

EDC(Economic Load Dispatching Control)機能:需要予測・連系線利用計画に基づき
送電部門が経済性を考慮して発電計画を修正。3 分~5 分間隔で指示値が送付される。
これらの調整機能は世界的に概ね一致しているが、①自動周波数応答機能の設定方法(ど
の周波数帯で応答するのか)や③EDC の利用方法等に違いがあったり、②LFC・AGC 機能
は北欧及びイギリスでは使用されていない等、各国・地域で違いがある。そうした各国・地
域における調整力の考え方の違いを整理したのが、下表である。上述の機能に着目して整理
を行った。
表 3-1 調整力(予備力)の考え方の概要
所属同期
系統
①自動周波数
応答機能
②LFC ・ AGC
機能
③EDC 機能
カリフォル
【参考】
ニア ISO
日本
米国東部
米国西部
日本系統(東
系統
系統
西の別あり)
○
○
○
○
×(実験中)
×
○
○
○
○
○
○
○
○
なし
あり
あり
なし
なし
ドイツ
フランス
大陸欧州
大陸欧
系統
州系統
○
○
○
×(BG 側
に帰属)
北欧
イギリス
PJM
イギリス
系統
○
○
(ノルウェー)
Nordel 系統
○(現一般電
気事業者)
予備力調達に
おける平常時・
なし
なし
緊急時の区分
(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所作成
ここで「予備力調達における平常時・緊急時の区分」とは、予備力の調達を平常時用と緊
急時用に分けて調達している場合が「あり」で、予備力を緊急用に調達し、調達した予備力
を基に平常時用に使用する場合が「なし」としている。また機能に応答時間を加味して各国・
74
地域を比較したのが表 3-2 である。呼び方や要件に大きな違いがあることが分かる。
75
表 3-2 調整力(予備力)の考え方の概要
PJM
CAISO
ドイツ
フランス
イギリス
一次周波数制御予備力
周波数応答予備力
(30 秒(no recommendation))
(>±0.036Hz)(義務(無償))
周波数応答予備力
30 秒(no recommendation))
(>±0.036Hz) (義務(無償))
一次予備力(5 秒) (<±0.2Hz) (663MW)
(義務(提供時有償))
一次予備力(30 秒)
(<±0.5Hz) (700MW) (義務(提供時
有償))
周波数応答予備力
二次周波数制御予備力
三次周波数制御予備力
運転予備力(最大発電ユニット相当)
30 分超予備力
周波数制御(5 分)(最大電力の
瞬動予備力(10 分)
クイックスタート(10 分)
0.7%)(限界価格方式)
運転予備力
代替予備力・補完エネル
ギー
周波数制御(10 分)
コンティンジェンシー予備力
瞬動予備力(10 分)
非瞬動予備力 (10 分)
二次予備力 (5 分) (2,000MW 以
ミニット予備力 (15 分) (最大電力の 3%)
時間予備力・緊急時予備
(Pay as Bid)
上)
力
(Pay as Bid)
二次予備力 (5 分)
三次予備力
(500-1,000MW) (Pay as Bid)
15 分応答予備力 (15 分)
補完的 30 分予備力(30 分)
運転予備力(5 分)
N.A.
一次応答/二次応答/高周波数 (10 秒,
30 秒) (>±0.2Hz, >±0.5Hz) (義務(提
供時有償))
スペイン
スウェーデ
ン
一次予備力(>±0.8Hz)(30 秒-15 分) (最
大電力の 1.5%)
FCR-N(<±0.1Hz, 3 分) 、
FCR-D(>-0.3Hz, >-0.5Hz, 30 秒)
(559MW)
ファスト予備力(2 分)
二次予備力 (100 秒-15 分) (平均
500MW)
N.A.(パイロットプログラムあり)
コンティンジェンシー予備力(5 分-120
分)
ファストスタート(5
短期運転予備力
BM スタートアッ
分)
(5 分-120 分)
プ
(ホットスタンバ
イ)
三次予備力(15 分-2 時間)
マニュアル周波数復旧予備力(FRR-M)(15 分)、自動周波数復旧予備力(FRR-A)(2
分) (最大発電ユニット相当(週))(1,220MW(北欧全体))
(注)FCR-N: Frequency Containment Reserves for normal operating band, FCR-D: Frequency Containment Reserves for disturbances
(出所)NERC, “NERC IVGTF Task 2.4 Report- Operating Practices, Procedures, and Tools”, 2011/3 を基に作成
76
(2) 調整力調達量の考え方
1) 基本的考え方
各国・地域の調整力の調達量の考え方は表 3-3 の通りである。表における予備力の呼称は
大陸欧州における予備力の概念を基に整理している。ここに記載した調達量は送電部門が最
低限調達を義務付けられている量であり、各国の事情や電力系統の状況に応じて調達容量を
積み増すことができるのが通例である。90
表 3-3 調整力(予備力)調達量の考え方の概要
大陸欧州
一
次
予
備
力
イギリス
米国
最大事故を 300 万 kW
周波数が±0.5Hz
49.5Hz までの低下に
発電事業者の義務
(150 万 kW 原子力発
を超えないために想
対処するため緊急時用
(原子力発電を除く 75
電 2 基)とし、調達量を
定される損失リスク
120 万 kW 確保(需要
MVA 以上)。NERC
各国に配分(発電量シ
(Normal Infeed
の応答能力を 20 万 kW
の基準でドループ
ェア配分)。(N-2 原則)
Loss Risk)を評価
と評価、最大事故を考
5%・周波数範囲
【Hz】
し、その 1.1 倍であ
慮して決定)。±0.1Hz
36mHz で設定となっ
る 198 万 kW を確
に収める平常時運用に
ているが、地域で設定
保。【Hz】
60 万 kW 確保。【Hz】
可。【Hz】
北欧全体で 300MW を
最大ユニット相当の
確保【Hz】
1.5 倍(そのうち同期
―
各 TSO の割当量は、
二
次
予
備
力
北欧
少なくとも下式を上回
ること【Hz、MW】
予備力を最大ユニット
相当確保)等【Hz、
10  Lmax  502  50
MW】
三
次
予
備
力
リ
ム ア
市 ル
場 タ
イ
各国の裁量に委ねら
統合インバランスの
各国の送電制約を考
二次予備力と合わせ
れている。
発生確率 0.27%ま
慮し、一次予備力使用
て需要予測誤差と事
ドイツでは二次予備力
での水準で短期運
時の系統事故に対応
故確率を基に設定
と合わせて需要予測
転予備力の確保量
する予備力容量(全体
(PJM:需要予測誤差
誤差、事故確率、再エ
を決定(最大電力比
で 450 万 kW 程度、最
2.11%+事故確率
ネ誤差率より算定(二
7%程度)。【MW】
大電力の 6%程度
4.16%=6.27%)
次と合わせて最大電
(2014/15 年冬季需給
【MW】
力の 6%程度)。【MW】
バランス評価))【MW】
フランスでは一定規模
一定規模以上の事
供給余力のある事業者
リアルタイム市場で供
以上の事業者に参加
業者に参加義務あ
は参加可能
給力としてコミットした
義務あり。ドイツに類
り。
全供給力を対象に運
似の市場はない。
用。
(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所作成
90
2015 年 3 月 20 日に欧州で広域的に発生した皆既日食に際して、ドイツの送電部門は通常、二次予備力・
三次予備力を合計で 400 万 kW(上げ・下げ)調達しているが、同日の日食による太陽光発電の急激な出力
変化に対応するため、200 万 kW~300 万 kW の予備力調達を積み増した(regelleistung.net で提供されてい
る実績値より算定)。
77
2) ドイツの二次予備力・三次予備力算定の考え方
ドイツでは政府が Consentec 社に依頼して、調整力の考え方を整理した。その上で、予備
力調達量算定方法を定めている。予備力で対応すべきリスクとして、①発電所停止、②需要
予測誤差及び変動、③再生可能エネルギー発電予測誤差、④決済時間区分(15 分)を跨る
発電計画の急激な変動、⑤三次予備力の動作遅延に分けて評価し、それら偏差の確率分布を
想定した上で、各分布を合成し、不足確率を上下 0.025%として予備力の算定を行っている。
上記①の発電所停止は過去の発電所停止実績に基づき定める。②の需要予測誤差及び変動
は、
三次予備力で解消すべき平均予測誤差と二次予備力で解消すべき決済時間区分内の変動
で構成される。③の再生可能エネルギー発電予測誤差も、三次予備力で解消すべき平均予測
誤差と二次予備力で解消すべき決済時間区分内の変動で構成される。④の決済時間区分(15
分)
を跨る発電計画の急激な変動は再生可能エネルギー発電の出力変化に対応するものを含
めた市場取引の結果生じた急激な変化を伴う発電計画と実際の出力の差であり、
二次予備力
で対応するとしている。⑤の三次予備力の動作遅延とは、三次予備力の応答には 7.5~22.5
分等の時間を要するために生じる偏差であり、正確な量的検証が難しいため一定の仮定を置
いて二次予備力の調達量増で対応する。こうした形でそれぞれ確立分布を想定し、ドイツで
は四半期毎に予備力調達量の見直しを行っている。
図 3-1 ドイツにおける予備力算定の考え方
(出所)Lion Hirth & Inka Ziegenhagen, “Control Power and Variable Renewables: A Glimpse at German Data”,
2013 年 2 月
3) イギリスにおける一次予備力算定の考え方
イギリスでは Ofgem の認可により定められる”GB Security and Quality of Supply Standard
(GB SQSS)”を通じて最大事故を定めている(現行版は 2012 年 5 月改訂)。周波数が±0.5Hz
78
を超えないために想定される損失リスク(Normal Infeed Loss Risk)は 2014 年 3 月 31 日ま
で 100 万 kW で、2014 年 4 月 1 日以降 132 万 kW とされている。周波数が±0.5Hz の範囲外
に 60 秒間継続しないために想定する損失リスク(Infrequent Infeed Loss Risk)は 2014 年 3
月 31 日まで 132 万 kW で、2014 年 4 月 1 日以降 180 万 kW とされている。現行では損失ロ
スリスクに対して一次応答予備力は 1.1 倍とされているため、
一次応答予備力は 145.2 万 kW
から 198 万 kW に増加した。
図 3-2 イギリスにおける最大事故の想定
(出所)Ofgem,“GB Security and Quality of Supply Standard (GB SQSS)”
4) 米国における一次予備力の見直し
米国における一次予備力に相当する概念は周波数応答に相当するが、
大陸欧州の一次予備
力に相当する発電機のガバナーに、需要家側の機器による周波数応答能力を含んだ、連系系
統の弾力性とも言うべきものである。これまで米国では発電機へのガバナー機能の装備は義
務化され、送電系統運用者の指定する設定を行った上で、稼働状態にある際には常時提供を
求められていた。
例えば PJM では 75 MVA 以上の原子力発電以外の発電機に機能装備が義務化され、+/- 36
mHz の範囲で稼働し 5%を超えない範囲でドループ率を設定するとしている。この周波数稼
働帯は東部系統及び西部系統で共通しており、ドループ率の設定は地域により様々である。
テキサスの ERCOT 系統では 34mHz と 17mHz の範囲で稼働し、ドループ率を 4%~5%とす
るとしている。
各連系系統の周波数応答能力に関してこれまで規制は無かったが、FERC のオーダー794
(2014 年 1 月承認)により、NERC 信頼度基準 BAL-003-1 Frequency Response & Bias Setting
が改定され、各バランス責任事業者(エリアの需給バランス維持に責任を有する者)は、年
間周波数応答測定値が周波数応答義務を下回らなければならないことになった。
東部系統は
多数のバランス責任事業者で構成されるため、
連系系統周波数応答義務×バランス責任事業
者比例シェアで各バランス責任事業者の義務が設定される。PJM の場合、1014MA/0.1Hz×
25%=254MW/0.1Hz となる。PJM では過去の実績から十分な応答力を有しているとして、
監視の強化を行う。CAISO では再生可能エネルギー発電の導入拡大もあり、周波数応答力
79
の確保量と設定の検討を行っている。
3.1.2 調整力(予備力)確保のためのリアルタイム市場の状況
(1) ドイツ
1) 調整力(予備力)の定義と調達・運用方法
ドイツにおける調整力は一次予備力、二次予備力及びミニット予備力(=三次予備力)と
いう三種類の予備力が供されている。ドイツでは当日スポット市場で取引が行われた後、そ
のまま平常時の LFC 機能を用いる需給運用に移行する。また、平常時需給運用のための調
整力と緊急時用に準備する予備力を同一のものを調達・運用しているのも大きな特徴である。
こうした運用となったのは、
発送電分離時にバランシンググループによる需給運用を重視し、
EDC 機能はバランシンググループ側の機能に帰属すると整理されたことに起因すると考え
られる。
市場
閉場45
分前
平常時
運用
一次予備力応答
二次予備力制御
三次予備力制御
緊急時
運用
一次予備力応答
当日市場
同じ予備力を使用
二次予備力制御
図 3-3 ドイツにおける調整力の運用
80
三次予備力制御
各予備力の定義・調達・運用方法は表 3-4 の通りである。
表 3-4 ドイツにおける調整力(予備力)の定義と確保・運用方法
一次予備力 (PCR:Primary 二次予備力 (SCR:Secondary
Control Reserve)
Control Reserve)
ガバナによる自動制御
LFC(負荷周波数制御)による自動
制御
66.3 万 kW(大陸欧州大で割当 上げ代・下げ代各 200 万 kW 以上
量決定)
(四半期毎に調達量を算定)
ミニット予備力 (Minuite
Reserve)
概要
電源脱落や需要予測誤差の
ための手動制御
必要容量
上げ代・下げ代各最大需要の
3%程度(200 万 kW 前後、四
半期毎に調達量を算定)
応答時間、予備 ±<0.2Hz を基準とした線形応 指示後 30 秒で応答開始、5 分以内 指示後 15 分以内で指示値に
力供給時間
答(±0.01Hz は非応答)で、± で指示値に到達し、10 分間持続し 到達し、15 分間持続した後、
0.2Hz で 30 秒以内に 100%稼 た後、5 分以内に元の状況に復帰。 15 分以内に元の状況に復
働となり、15 分持続して 30 秒 復帰後 10 分間は再度指示を受け 帰。復帰後 15 分間は再度指
以内に復帰。復帰後 15 分間は ることは無い。
示を受けることは無い。
再度応答しない。
各予備力の取引 毎週月曜日の 0 時~日曜日の 毎週月曜~日曜分実施(週単位) 毎日一日分(4 時間区分)実
対象期間
24 時分を実施(週単位)
施
最小入札容量 1,000kW(1,000kW 単位)
5,000kW(1,000kW 単位)
5,000kW(1,000kW 単位)
取引される予備 単一商品:上げ代/下げ代の容 4 商品:ピーク、オフピーク時間帯に 12 商品:4 時間毎に対して上
力の商品
量
対して上げ代/下げ代(4 大 TSO 地 げ代/下げ代(4 大 TSO 地域
域毎の制約あり)
毎の制約あり)
入札方法
容量価格のメリットオーダー
容量価格の安い順で調達し、エネ 容量価格の安い順で調達し、
ルギー価格のメリットオーダーで運用を エネルギー価格のメリットオーダー
決定
で運用を決定
市場締切と結果 前週火曜日 15 時に締め切り、 毎週水曜日 15 時に締め切り、毎週 前日 10 時に閉場、前日 11 時
の公開時刻
前週火曜日 16 時に結果公開 水曜日 16 時に結果公開
に結果公表
支払われる費用 容量分
容量分、エネルギー分
容量分、エネルギー分
エネルギー決済 エネルギー分は決済の対象外 エネルギー分も決済対象。但し、決 エネルギー分も決済対象。但
方法
で、BG の同時同量でも調整な 済時間の送電量を決済(決済時間 し、決済時間の送電量を決済
し
外の追従変動分は非考慮)
(決済時間外の追従変動分は
非考慮)
罰金
入札価格の 10 倍
入札価格の 10 倍
前日スポット価格の 3 倍
(出所)50Hertz Transmission GmbH, Amprion GmbH, Elia System Operator NV, TenneT TSO B.V., TenneT TSO
GmbH, TransnetBW GmbH” Potential cross-border balancing cooperation between the Belgian, Dutch and
German electricity Transmission System Operators”, 2014 年 10 月
2) 国際協力の枠組み
2001 年より連邦カルテル庁のガイドラインに基づき予備力の市場調達を開始した。2006
年 12 月からミニット予備力の共同調達を開始し、共同プラットフォームを構築した。2007
年 12 月から一次予備力・二次予備力でも共同調達を開始した。
2008 年 12 月には二次予備力・ミニット予備力のモジュール 1 を開始(Amprion を除く
3TSO)、2009 年 5 月より二次予備力・三次予備力の商品設計共通化、同年 7 月に共同運用
手続きの整備、同年 9 月にメリットオーダーリストの共通化を開始した。残る Amprion も
2010 年 5 月に加入した。同年 7 月に 4TSO で同じミニット予備力価格を適用することにな
った。
2012 年に二次予備力の調達・運用で、
ベルギーTSO の Elia が 1 年間の試行で参加した後、
デンマーク、チェコ及びスイスが加入、2014 年 1 月にオランダが参加して国際的枠組みに
なった(二次予備力の設計等は各国で違いがあり、部分的な共通化を実施)。
81
図 3-4 予備力共通調達市場の枠組み
(2) 北欧(ノルウェー)
北 欧では当 日スポッ ト市 場で取引 が行われ た後 、バラン シング市 場( 英語表記は
Regulating Power Market)で系統インバランスの解消を行うと共に、50Hz±0.1Hz の範囲内
で起動する平常時周波数制御運転予備力(FCR-N)で短期時間の周波数変動の解消を行う。
こうした平常時需給運用と別に緊急時用予備力は調達され、
周波数が大きく低下した際にこ
うした緊急時用予備力を活用する。なお北欧には LFC に該当する機能はこれまで無かった
が、
近年の再生可能エネルギー発電の導入拡大や同時同量義務に伴う決済時間区分を跨った
時刻に発生する周波数変動に対応するため、ノルウェーとスウェーデンが二次予備力の調
達・運用の試行実験を行うようになった。
市場
閉場30
分前
平常時
運用
バランシング市場
一次予備力応答(FCR-N)
違う予備力を使用
当日市場(Elbas)
緊急時
運用
一次予備力応答
(FCR-D)
二次予備力制御
(FRR)試験的導入
図 3-5 北欧における調整力の運用
82
三次予備力制御
(FADR等)
北欧における各予備力の定義・調達・運用方法は表 3-5 の通りである。
表 3-5 北欧における調整力(予備力)の定義と確保量
種類
定義
確保量
調達方法
平常時周波数制御運転
予備力(FCR-N:
Frequency controlled
normal operation
reserve)(一次)
50Hz±0.1Hz の範囲で稼働 北欧系統で少なくと • ノルウェーでは週・日市場で
する予備力で、2~3 分で応 も 60 万 kW 確保(ノ
調達され、単一価格が適用さ
答可能なもの。
ルウェー21 万 kW、
れる。
スウェーデン 23 万 • スウェーデンでは前日・前々
kW 等)
日に調達し、Pay-as-bid で対
価が決まる。
緊急時周波数制御予備
力(FCR-D:Frequency
controlled disturbance
reserve)(一次)
周波数が 49.5Hz 内に維持
するための予備力で、
49.9Hz で起動し、49.5Hz で
要求容量に到達するもので、
自動負荷遮断を含むことが
できる。5 秒以内に 50%へ到
達し、30 秒以内に 100%へ
到達すること。
即応予備力(FADR:Fast FCR-N 及び FCR-D 使用時
active disturbance
に続く系統擾乱に対応するも
reserve)(三次)
の。15 以内に応答可能なも
の。自動負荷遮断を含むこと
ができる。
北欧系統で 120 万 同上
kW(ノルウェー
35.29 万 kW、スウ
ェーデン 41.18 万
kW 等)
スウェーデン 129 万 •
kW(自動負荷遮断
60 万 kW)、ノルウ •
ェー120 万 kW(自
動負荷遮断 60 万
kW)
北欧共通市場で調達(バラン
シング市場)。
ノルウェーでは季節・週のオ
プション市場で事前に十分な
容量を確保。
遅応予備力(SADR:
15 分を超えて応答する能力 未定義(スウェーデ FADR の超過調達で代替。
Slow active disturbance を持つ予備力。供給力不足 ン及びデンマークで 11/15~3/15 に契約(スウェーデ
reserve)(三次)
時に使用。
調達)
ン)。
(注)二次予備力は試験段階であることから協定に記載なし
(出所)ENTSO-E, “AGREEMENT regarding operation of the interconnected Nordic power system (System
Operation Agreement)”, 2014 年
(3) イギリス
イギリスでは当日スポット市場取引後の周波数維持のための需給バランス維持をバラン
シングメカニズムの運用を通じて行っている。一次予備力に該当する一次応答予備力は一定
の周波数の範囲を超えた際に起動する仕様になっている。三次予備力として調達される予備
力は応答速度の速いものも多く、
一次予備力と併せて緊急時からの平常時復帰に活用される
枠組みになっている。
市場
閉場1時
間前
平常時
運用
バランシング
メカニズム(30m毎)
BMと予備力は別々
に調達
緊急時
運用
一次予備力応答
(Frequency
Response)
三次予備力制御
(Fast Reserve、運転
予備力)
当日市場
図 3-6 イギリスにおける調整力の運用
イギリスにおける各予備力の定義・調達・運用方法は表 3-6 の通りである。
83
表 3-6 イギリスにおける調整力(予備力)の定義と確保方法
サービス名
Mandatory
Frequency
Response
周
波
数
応
答
サービス提供へ
の支払内容
系統接続する全ての電源に対し周波数変化 容量・エネルギ
に対応した有効電力のガバナ等による自動
ー支払
出力調整能力を National Grid が確保。50Hz
±0.5Hz 又は 50Hz±0.2Hz を超えた際に稼
働する。(0~30 秒)
Firm Frequency Mandatory Frequency Response とは異な
Response
り、既存の Mandatory Frequency
(FRR)
Response プロバイダーや新しいプロバイダ
ーを対象とし、毎月の入札市場を通じて
National Grid が調達。(0~30 秒)
容量・エネルギ
ー支払
提供サイ 確保方法
ド
発電
義務
発電、需
要
市場
相対契約
Frequency
Control by
Demand
Management
(FCDM)
周波数低下リレーが作動した際に、自動的に エネルギー支払
需要家への供給を遮断することで周波数調
整を提供するサービスで、需要家との交渉に
基づく相対契約により National Grid が確保。
(2 秒以内)
需要
Fast Reserve
必要時に発電側の出力増加と需要側の需要 容量・エネルギ
抑制による調整能力を提供するサービスを、 ー支払
月間入札市場を通じて National Grid が調
達。(2 分以内)
発電、需
要
市場
緊急時に停止状態から迅速に起動し定格出 容量・エネルギ
力(MW)を供給するサービスを発電事業者と ー支払、起動費
相対契約により National Grid が確保。(5~7 用支払
分以内)
発電
相対契約
Short Term
Operating
Reserve
(STOR)
追加的に有効電力を供給するサービス。発電 容量・エネルギ
側の出力増加と需要側の需要抑制の能力
ー支払
を、入札市場を介して committed service(全
ての供給時間枠で対応)と flexible service
(サービス提供者(非 BM ユニットのみ)が供
給時間帯を選択可)のサービスを確保。(240
分以内)
発電、需
要
市場
BM Start-Up
National Grid が BMU の追加的起動を必要と 起動費用支払
したとき、当日稼働していない BMU を起動し
電力を供給するサービスを、発電事業者との
相対契約により National Grid が確保。ただ
し、BMU Start-Up と Hot Standby 状態の 2
種類のサービスが設けられている。
発電
相対契約
Fast Start
運
転
予
備
力
サービスの概要と主な技術要件
(出所)古澤健、「ドイツ・イギリスの需給調整メカニズムの動向と課題-需給調整能力の確保と費用決済
-」、電力中央研究所、2014 年 4 月、Y13018 より作成
(4) フランス
フランスでは当日スポット市場での取引後の需給運用は、1 万 kW を超える設備を有する
バランシンググループに参加が義務化されているバランシング市場で系統インバランスの
解消を行った後、
LFC 機能を有する二次予備力及び一次予備力で周波数維持を行っている。
平常時運用用の一次予備力及び二次予備力は緊急時用と併用されているが、
三次予備力も活
用されるバランシング市場へ当日の供給余力が投入されるため、
大半の系統インバランスが
バランシング市場で解消された後、一次予備力・二次予備力が活用される形になっている。
84
バランス責任事業者(1万kW超の発
電設備)に余剰供給力の投入義務 同じ予備力を使用
市場
閉場45
分前
当日市場
実運用2時間前ま でプログラム事業
者制に基づく発電計画修正あり
平常時
運用
バランシング市場
緊急時
運用
一次予備力応答
一次予備力応答
二次予備力制御
三次予備力制御
二次予備力制御
三次予備力制御
図 3-7 フランスにおける調整力の運用
フランスにおける各予備力の定義・調達・運用方法は表 3-7 の通りである。
表 3-7 フランスにおける調整力(予備力)の定義と確保方法
RTE による購入量
方向
通知時間
適格者
参加
一次予備力(自
動)(FCR)
約 70 万 kW
上げ代、下げ代
30 秒以下
発電
義務
二次予備力(自
動)
(AFRR)
50 万 kW~100 万 kW 上げ代、下げ代
15 分以下
発電
義務
三次予備力
約 100 万 kW(MFRR) 上げ代、下げ代
(バランシング市
場で使用可能)
約 50 万 kW(RR)
上げ代、下げ代
13 分以下
発電・DR
入札
30 分以下
発電・DR
入札
2 時間以下
DR
入札
多様
発電・DR
メリットオーダー
上げ代
XXXkW
バランシング市場 バランス責任事業者(1 上げ代、下げ代
万 kW 超の発電設備)
に余剰供給力の投入
義務あり
(注)FCR:Frequency Containment Reserve 、AFRR:Automated Frequency Restoration Reserve、MFRR:
Manual Frequency Restoration Reserve、RR:Replacement Reserve
(出所)Anne-Sophie Chamoy, Eneegypool, “DEMAND RESPONSE IN FRANCE and MARKET ACCESS”,
2013 年 10 月より作成
(5) PJM
PJM では当日段階で運用され、発電計画の修正が可能な全電源が対象となっているリア
ルタイム市場で系統インバランスの解消が行われた後、
周波数制御市場で周波数変動の調整
が行われている。
緊急時用に確保される瞬動予備力及び補完予備力を含めた供給力確保義務
を通じて当日運用可能な供給力の確保が行われた後、その枠内でリアルタイム市場及び周波
数制御市場で需給運用を行う仕組みになっている。
リアルタイム市場運用
(入札締め切り後も需給に応じて経済運用、5分前給電)
原則的にインバランスはリアル
タイム市場運用で解消
平常時
運用
周波数制御市場
(数秒毎給電)
一次予備力応答
緊急時
運用
一次予備力応答
(義務・無償)
事前確保した予備力の中から
周波数制御市場予備力を調達
瞬動予備力制御
図 3-8 PJM における調整力の運用
85
補完予備力制御
PJM における各予備力の定義・調達・運用方法は表 3-8 の通りである。
表 3-8 PJM における調整力(予備力)の定義と確保方法
名称
調整力の特性
調達の時期
(調達の単位)
調整力の必要量
周波数調整のための調整 2016 年 4 月以降、負荷応
発電設備に義務化・無
力。周波数の変動に自動 答を含めた周波数応答力
償提供
応答。
確保義務(254MW/0.1Hz)
ガバナー応答
最大需要の 0.7%(RFC 基
周波数調整のための調整
準)
Regulation Reserve(周波数制
力。指令後 5 分以内での出
(5:00~23:59)
御用予備力)
力調整能力。PJM からの
深夜電力の 0.7%(RFC 基
<平常時に周波数偏差を±
AGC シグナルに従う機能
準)
0.01Hz
が必要。
(0:00~4:59)
Synchronized
Reserve/
Contingenc
Spinning
y Reserve/
Reserve
Primary
Reserve(事
故時一次予 Non-synchronize
d Reserve/
備力)
Quick-start
Reserve
前日 18:00 までに入
札、当日 60 分前までに
計算、30 分前までに公
開(100kW)
前日市場と同様、前日
少なくとも RFC 地域 135 万
12 時に入札、当日 60
同期発電機による 10 分以
kW、うち Mid Atlantic 地域
内での出力調整能力
分前までに計算、30 分
130 万 kW
前までに公開(100kW)
Synchronized Reserve と
非同期発電機による 10 分
合わせて RTO 全体で 200
以内での出力調整能力(揚
万 kW(同 Mid Atlantic 地
水等)
域で 170 万 kW)
前日市場と同様、前日
12 時に入札、当日 60
分前までに計算、30 分
前までに公開(100kW)
一次予備力と合わせて
Supplemental Reserve/
指令後 10 分~30 分での
前日市場と同様、前日
6.91%×地域の 12 時のピ
12 時に入札締切
Secondary Reserve(事故時二 出力調整能力。(同期発電
ーク負荷予測
次予備力)
である必要なし)
(100kW )
42.7 万 kW(2013 年)
(出所)PJM、“PJM Manual 11: Energy & Ancillary Services Market Operations”
(6) カリフォルニア ISO
1) 概要
カリフォルニア ISO では当日段階で運用され、発電計画の修正が可能な全電源が対象と
なっているリアルタイム市場で系統インバランスの解消が行われた後、周波数制御市場で周
波数変動の調整が行われている。
緊急時用に確保される瞬動予備力及び補完予備力を含めた
供給力確保義務を通じて当日運用可能な供給力の確保が行われた後、
その枠内でリアルタイ
ム市場及び周波数制御市場で需給運用を行う仕組みになっている。
リアルタイム市場運用
(入札締め切り後も需給に応じて経済運用、7.5分前給電)
原則的にインバランスはリアル
タイム市場運用で解消
平常時
運用
周波数制御市場
(数秒毎給電)
一次予備力応答
緊急時
運用
一次予備力応答
(義務・無償)
事前確保した予備力の中から
周波数制御市場予備力を調達
瞬動予備力制御
補完予備力制御
図 3-9 カリフォルニア ISO における調整力の運用
カリフォルニア ISO における各予備力の定義・調達・運用方法は表 3-9 の通りである。
86
表 3-9 カリフォルニア ISO における調整力(予備力)の定義と確保方法
ガバナー応答
Regulation reserve(周波
数制御用予備力)
Operating
reserve
(運転予備
力)
Spinning
reserve(瞬動
予備力)
調整力調整力の特性
の特性
調整力調整力の必要
量の必要量
調達の時期
(調達の単位)
周波数調整のための調整
力。周波数の変動に自動応
答。
2016 年 4 月以降、負荷
応答を含めた周波数応
答力確保義務
(258MW/0.1Hz
発電設備に義務化・
無償提供
周波数調整のための調整
力。指令後 10 分以内での出
力調整能力。カリフォルニア
ISO からの AGC シグナル(4
秒ごと)に従う機能が必要。
非発電所の場合は指令後
15 分以内での出力調整能力
でも可。
2011 年平均:上げ代容
量 33.9 万 kW、下げ代
容量 34.1 万 kW
取引最小単位は
1,000kW ( 非 発 電 設
備は 500kW)
受渡日の 2 日前 18:
00 に調達量を公示、
一日前エネルギー市
場と同じ前日 10:00
に入札
運転予備力の 50%以
上
取引最小単位は
1,000kW ( 非 発 電 設
備は 500kW)
一日前エネルギー市
場と同じ前日 10:00
に入札
瞬動予備力と合わせ
て、需要予測に対し供
給される水力発電の
5%・火力発電の 7%に
常時輸出から常時購入
を 差 し引い た 値 と、 単
一最大事故の大きい値
(運転予備力)
2011 年平均:171.2 万
kW
取引最小単位は
1,000kW ( 非 発 電 設
備は 500kW)
一日前エネルギー市
場と同じ前日 10:00
に入札
同期発電機による 10 分以内
での出力調整能力
Non-spinnin
g reserve(非
瞬動予備力)
非同期発電機による 10 分以
内での出力調整能力(揚水
等)
(出所)カリフォルニア ISO,” Fifth Replacement FERC Electric Tariff”等より作成
2) 広域インバランス市場の形成
カリフォルニア ISO は、
近隣の電力会社と共通のインバランス市場の形成を進めている。
広域的な予備力の持ち合いと再生可能エネルギーの出力変動への対応を行うことが目的で
ある。15 分単位で自動的にインバランスの解消を行うため、5 分単位で給電が実施される市
場になっている。2014 年 11 月に運用が開始された。
87
図 3-10 広域インバランス市場への参加企業
(出所)カリフォルニア ISO ウェブサイト
3.1.3 リアルタイム市場の制度と運用
米国のリアルタイム市場と欧州の需給調整市場の違いを中心にリアルタイム市場の仕組
みを整理する。
(1) 米国におけるリアルタイム市場
米国の RTO・ISO では、RTO・ISO が前日エネルギー市場、リアルタイム市場及びアンシ
ラリー・サービス市場を運営しながら、需給バランス維持を行っている。前日エネルギー市
場及びリアルタイム市場は、
当該エリアで電気事業を行う事業者の強制参加義務が課せられ
ている。
PJM では発電設備の系統連系時に発電設備の性能を審査することが求められる。その際
に各予備力の適合性が PJM によって把握され、表 3-10 の要件に従って各予備力の容量の登
88
録が行われる。PJM を含め米国は各ユニット単位でインバランス精算を行う仕組みになっ
ており、各ユニットが前日エネルギー市場及びリアルタイム市場用に行った入札(発電量と
価格の組み合わせ)を基に前日エネルギー市場での発電計画が決まり、予備力として提供し
た容量を除いた給電可能な発電出力範囲に対し、
リアルタイム市場運用として発電計画の修
正を行う。
最終的に周波数偏差及び連系線潮流偏差の値を基に周波数制御市場で調達した調
整力を用いて周波数の安定化を図る。
表 3-10 PJM における予備力の要件
種類
Regulation
Synchronous
Reserve
Quickstart
Reserve
Primary Reserve
Operating
Reserve
Supplemental
Reserve
要件
PJM による周波数制御予備力として二つのシグナル(RegA(伝統的シグナル)と RegD(蓄
電池等向け動的シグナル))のテスト(40 分)を受け、周波数制御容量の検証を受ける。認
定を受けるには 70%以上の成績を上げる必要あり。
10 分以内に利用可能なオンライン予備力ユニットが対象で、(a)瞬動変化率×10 分と(b)瞬
動最大値―現行出力の小さい値を登録
10 分以内に利用可能なオフライン予備力ユニット(通知時間+運転開始時間が 10 分以内
であること)が対象で、瞬動変化率×(10 分-運転開始時間)の値を登録
Synchronous Reserve+Quickstart Reserve
オフライン・オフラインに関わらず 30 分以内に利用可能な予備力ユニット
• オフラインの場合:30 分以内に利用可能なオフライン予備力ユニット(通知時間+
運転開始時間が 30 分以内であること)が対象で、瞬動変化率×(30 分-運転開始
時間)の値を登録
• 30 分以内に利用可能なオンライン予備力ユニットが対象で、(a)瞬動変化率×30 分
と(b)瞬動最大値―現行出力の小さい値を登録
Operating Reserve―Primary Reserve
(出所)PJM、” PJM Manual 11: Energy & Ancillary Services Market Operations”
リアルタイム市場
指令値
kW
周波数制御
市場指令値
周波数制
御調整代
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
55
60 分
図 3-11 リアルタイム市場及び周波数制御市場指令値
最終的な発受電実績を基にリアルタイム市場価格が算定されるが、各ユニットは前日エネ
ルギー市場価格で一旦決済を行い、
リアルタイム市場価格は前日エネルギー市場で決まった
発電計画と実績の差に課される(これが日本や欧州で言うところのインバランスに該当す
る)。
89
【前日エ ネルギー市場】
【リアルタイム市場】
【前日エ ネルギー市場】
【リアルタイム市場】
発電計画値
発電電力量
発電電力量
発電計画値
LMP=$23
LMP=$20
一日前市場決済額
$20×100MW=$2,000
LMP=$20
LMP=$23
一日前市場決済額
$20×100MW=$2,000
リアルタイム市場決済額
$23×(105-100)MW=$115
リアルタイム市場決済額
$23×(95-100)MW=▲$115
合計$1,885の収入
合計$2,115の収入
図 3-12 二重決済方式の考え方
(2) 欧州の需給調整市場
3.1.2 で整理した通り、欧州の需給調整の方法は多様である。しかし調査対象国は米国の
ように発電・送電部門が一体となった需給運用を行っておらず、送電部門は送電会社化し、
発電部門から需給調整能力の提供を受けて、
系統インバランスの解消と周波数維持を行って
いる。調査対象国の需給調整の枠組みは表 3-11 の通りである。以下では LFC 機能のあるド
イツ・フランスの枠組みと LFC 機能の無い北欧・イギリスの枠組みを整理する。
表 3-11 欧州各国の需給調整の枠組みの違い
バランシング市場
周波数制御
緊急時用予備力
用途
系統インバランス解消
平常時周波数維持
緊急時周波数回復
ドイツ
LFC(二次予備力)及
び三次予備力
一次予備力、LFC(二
次予備力)
一次予備力(上げ・下げ)・二次予備力(上
げ・下げ)・三次予備力(上げ・下げ)の残り
北欧
バランシング市場
平常時用一次予備
力、バランシング市場
一次予備力(上げ)・三次予備力(上げ)
イギリス
バランシング市場
一次予備力、バランシ
ング市場
一次予備力(上げ)・三次予備力(上げ)
フランス
バランシング市場
一次予備力、LFC(二
次予備力)
一次予備力(上げ・下げ)・二次予備力(上
げ・下げ)・三次予備力(上げ)の残り
1) ドイツ・フランス
ドイツ及びフランスでは一義的に生じる系統インバランスはバランシンググループに課
された同時同量義務に基づき解消するという制度設計になっている。
送電部門は同時同量義
務の決済時間区分内(ドイツは 15 分、フランスは 30 分)に生じたインバランスの解消と、
各バランシンググループの同時同量義務から逸脱したインバランスの解消を行うことが主
たる役割となる。決済時間区分内のインバランスは二次予備力を用いて解消し、決済時間区
分を超えたバランシンググループのインバランスは三次予備力を用いて解消することにな
90
っている。一次予備力は 50Hz±0.2Hz の範囲内で稼働し、周波数の安定化に貢献している。
kW
周波数偏差・
連系線偏差
LFC(二次予備力)
系統インバランス
三次予備力
純需要予測
発電計画
発電計画
変化率制限
0
15
30
45
0
15
30
45
0
15
30
45
0
15
30
図 3-13 ドイツ・フランスにおける需給調整の考え方
こうした考え方はドイツとフランスで共通しているが、
実際の運用方法は大きく異なって
いる
ドイツでは周波数偏差及び連系線潮流偏差という系統制御区域内で生じた系統インバラ
ンスの結果に対し、LFC 機能を付与された二次予備力で系統インバランスの解消を行い、
その後三次予備力で代替させる運用を行っている。
フランスではバランシンググループ単位でインバランス精算を行うが、ユニット単位で発
電計画へのコミットメントを求める仕組みになっており、発電計画と総需要予測の差として
生じる系統インバランス予測値に対し、
三次予備力を含めたバランシング市場で決済時間区
分単位でのインバランスの解消を行った後、
周波数偏差及び連系線潮流偏差に応答する二次
予備力で周波数制御を行う運用を行っている。
2) 北欧・イギリス
北欧とイギリスは LFC 機能を装備しておらず、バランシング市場を中心とした需給調整
を行っている。北欧・イギリスともに発電と需要それぞれでバランシンググループを形成さ
せ、発電と需要と別々にインバランス精算を行っている。北欧では同時同量のインバランス
決済時間区分が 1 時間単位となっているが、
送電会社は各発電計画を 15 分単位に細分化し、
発電側に発電計画の修正値を送付する。
送電会社はバランシング市場を通じて需要予測と発
電計画の差である系統インバランスの解消を行う。一次予備力は北欧では平常時用に 50Hz
±0.1Hz の範囲内で稼働する平常時一次予備力及び周波数が 0.3Hz 又は 0.5Hz を上回って
低下した際に稼働する緊急時予備力で周波数安定化の下支えをしている。
91
kW
15分単位のインバランスを
バランシング市場で解消
系統インバランス
需要予測
発電計画
送電系統運用者が
発電計画を15分間
隔値に分解
0
15
30
45
0
15
30
45
0
15
30
45
0
15
30
図 3-14 北欧における需給調整の考え方
3.1.4 リアルタイム市場のデータ
(1) 公表されているデータ
a. ドイツ
表 3-12 ドイツで公表されている情報の範囲
大項目
項目
入札の詳細
(Tender Detail)
事前認証(Prequalification
procedure )
•
事前認証に関する説明を記載。各予備力の事前認証に
関する書類はドイツ語のみ。
各予備力の説明
•
各予備力・需要家調整力の考え方の記載と事前認証に
関する書類を掲示(ドイツ語のみ)。
入札結果
•
各予備力・需要家調整力の入札毎の結果(商品別入札
結果概観、入札単位毎の入札価格・容量)
予備力の実績
•
•
予備力運用データ:期間を指定して各予備力の稼働実
績(指示値・稼働結果)をダウンロードすることができる
(データは一度に最大で 1 ヶ月)
インバランス料金:期間を指定して適用されたインバラン
ス料金をダウンロードすることができる
MOL 偏差:二次予備力及び三次予備力の違反の原因
•
各分野の基礎情報の説明
入札概観
(Tender
overview)
内容
•
予備力入札につ
いて(About
control
reserve)
市場情報の提供、インバラ
ンス料金、技術的側面、系
統制御協力
(出所)regelleistung.net ウェブサイト
b. 北欧(ノルウェー)
ノルウェー送電会社(Statnett)は一次予備力(日・週)・二次予備力(週)・RCOM(週)
の取引情報を公表している(ノルウェー語のみ)。
Nord Pool のプラットフォームを通じて運用しているバランシング市場(Regulation Market)
92
は入札量・調達量・取引価格について情報を公開している。
c. イギリス
National Grid は各市場のレポートを毎月公表している。下表は Balancing Service 全体の状
況を整理したレポート(Monthly Balancing Services Summary)である。但し実際の取引量の
値等、数値が明らかでない場合が多く、具体的な分析が困難な情報提供になっている。
表 3-13
Reactive Power Market
Short Term Operating
Reserve(STOR)
Mandatory Frequency Response
Commercial Frequency Response
Fast Start
Black Start
BM Start up
Fast Reserve(Tendered)
Fast Reserve(Non-Tendered)
Monthly Balancing Services Summary
Balancing Services
Reactive Power Market
Info Provision
Utilisation Volume (MA)
Utilisation Volume (DefaultPM)
Total Spend (MA)
Total Spend (Default PM)
Total
Costs £m
0.00
5.75
Short Term Operating Reserve(STOR)
Including BM and NBM Availability &
Utilisation
Average Contracted Availability Payment
Average Contracted Utilsation Payment
Total Spend
Total Utilisation Volume (MWh)
Mandatory Frequency Response
Holding Volumes & Prices:
Average Volume Held MW
Average Price £/MWh
Total Holding Spend
Total Response Energy Payment Spend
Commercial Frequency Response
No. Of Contracts
Total Spend
Fast Start
Total Spend
Black Start
Total Spend
Number of Stations
BM Start Up
Total Cost of BM Start Up
Number of Instructions
Fast Reserve -Tendered
Total Spend on Availability & Utilisation
Capacity
Fast Reserve Non-Tendered
Total Spend on Availability
SO to SO
Volume Imported
Volume Exported
Total Spend
System to Generator Operational Intertrips Capability Payments
Utilisation Payments
Commercial Intertrip Service
Total Spend
Balancing Services Constraint Contracts
Total Spend
BM Constraints Only
Total Spend
Transmission Constraints
Total Management Cost
Maximum Generation Service
Total Spend
Demand Turndown, Fees and Liabilities
Total Spend
Forward Trading
Traded Gross Volume
Net Cost of Forward Trading
OTC - Power Exchange & Energy:
Buy Volume
Sell Volume
OTC - BMU Specific:
Buy Volume
Sell Volume
PGBT
No. of PGBT Entered Into:
Sourced
Agreed
Average PGBT Prices £/MWh:
Buy
Sell
Volume MWh:
Buy
Sell
Total Cost of PGBT
Summary (exc. Transmission Constraints) Total
Total Value
0GVArh
2,387GVArh
£4.51 /MWh
£133.03 /MWh
6.66
25,920MWh
Primary / Sec / High
309
182
386
2.95
2.02
5.98
予備力調達費
用・調達量
2.68
0.20
10.55
0.42
2.29
15
0.04
6
0.72
280MW
5.84
0GWh
-5GWh
0.45
0.10
0.00
2.28
1.09
31.43
£34.90m
0.00
0.00
系統運用者間融通、
系統制約解消費用
304,695MWh
10.00
175,368MWh
-2801MWh
54,778MWh
-71,748MWh
0
0
0.00
0.00
0MWh
0MWh
先渡取引(BM費用
低減目的)、ゲートク
ローズ前BMユニット
契約
0.00
£80.50m
(出所)National Grid
d. フランス
RTE は 2014 年 12 月よりウェブサイトを通じて、予備力の調達及び運用状況について、
情報の公開を開始している。調達容量と容量価格、運用量とエネルギー価格を随時公表して
いる。予備力の種類別の状況だけでなく、その用途も公表している。
e. PJM
PJM ではアンシラリー・サービスの種類毎に調達方法・調達容量・決済価格・平均費用
の毎時間データを公表している。また市場監視局が公表する”State of Market Report”(市
場監視レポート、年・四半期毎)では当該市場の競争性の評価も行っている。
f. カリフォルニア ISO
カリフォルニア ISO では情報公開システムである OASIS を通じてアンシラリー・サービ
スを含めた各種情報の公開を行っている。また”Market Issues & Performance”という市場の
93
状況を整理した年次報告書でアンシラリー・サービス市場の情報を提供している。但し
OASIS は毎時・毎 5 分という原データ(必要容量、調達量、調達方法、価格)、年次報告
書は年次データの提供を行っており、独自に分析を行うことは難しい状態になっている。
(2) リアルタイム市場の実績データ
1) ドイツ
a. 調整力使用状況
ドイツでは予備力の使用状況に関するデータが公表されているが、集計・整理されたもの
は公表されていない。2015 年 1 月における二次予備力・三次予備力の使用状況は図 3-15 の
通りである。両予備力の使用の大半は二次予備力であり、三次予備力はほとんど使用されて
おらず、LFC 機能中心の制御になっていることが分かる。
万kW
150
100
50
0
-50
-100
-150
三次・下げ
三次・上げ
二次・下げ
二次・上げ
-200
-250
-300
図 3-15 ドイツにおける二次予備力・三次予備力使用状況(2015 年 1 月)
(出所)regelleistung.net
b. 予備力価格
ドイツの予備力価格は容量価格のみ集計して公表されている。一次予備力は容量価格のみ
で決済するが、容量価格の平均価格及び限界価格とスポット価格の関係は図 3-18 の通りで
ある。スポット価格との連動性は低いことが分かる。また平均価格と限界価格の差が非常に
小さい。
二次予備力は前述の通り容量価格とエネルギー価格があるが、容量価格の平均価格及び限
界価格とスポット価格の関係は図 3-19 の通りである。二次予備力でもスポット価格との連
動性は低く、平均価格と限界価格の差が非常に小さいことが分かる。
94
MW
ユーロ/MW
60.0
680
50.0
660
640
40.0
平均価格
620
30.0
20.0
スポット平均
580
調達量
12/8
12/29
11/17
10/27
10/6
9/15
8/4
8/25
7/14
6/2
6/23
5/12
4/21
3/31
540
3/10
0.0
2/17
560
1/27
10.0
1/6
限界価格
600
図 3-16 ドイツ 2014 年一次予備力容量価格の推移
(出所)regelleistung.net
ユーロ/MW
50
45
40
35
上げ代昼間平均価格
30
上げ代昼間限界価格
25
上げ代夜間平均価格
20
上げ代夜間限界価格
15
スポット平均
10
5
12/8
11/10
10/13
9/15
8/18
7/21
6/23
5/26
4/28
3/31
3/3
2/3
1/6
0
図 3-17 ドイツ 2014 年二次予備力容量価格の推移
(出所)regelleistung.net
ドイツの予備力価格は入札曲線と予備力の使用実績が公表されているのみであるため、
各
入札曲線と使用実績を基に二次予備力上げ代・下げ代の調達費用と平均エネルギー費用の推
計を行った。推計結果は図 3-18 の通りである。支出の割合は容量費用が多く、エネルギー
費用の割合が少ないものの、
実際に使用した際には調達費用が大きく増加することが分かる。
95
二次上げ代
万ユーロ
30
二次下げ代
ユーロ/MWh
万ユーロ
120 30
ユーロ/MWh
180
160
25
100 25
140
20
80
20
15
60
15
120
100
80
10
40
10
5
20
5
60
40
20
0
0
エネルギー費用
容量費用
0
0
平均エネルギー費用
エネルギー費用
容量費用
平均エネルギー費用
図 3-18 ドイツ 2014 年二次予備力容量価格の推移
(出所)regelleistung.net
2) 北欧(ノルウェー)
北欧では Nord Pool の提供するプラットフォームを通じてバランシング市場が運営されて
いる(名称は Regulation Power Market)。上げ代価格はスポット市場価格以上、下げ代価格
はスポット市場価格以下となっている。これは北欧の当日取引市場である Elbas は送電会社
間の取引が中心であると共に、
バランシング市場がスポット取引の終わった後の供給余力を
活用する形で前日段階に入札が行われているため、
スポット市場と連続的な価格形成となっ
ていると考えられる。
Regulation Up価格(€/MWh)
300
Regulation Down価格(€/MWh)
80
70
250
60
200
50
40
150
30
100
20
10
50
0
0
0
20
40
60
80
-10
0
スポット価格(€/MWh)
20
40
60
80
スポット価格(€/MWh)
図 3-19 ノルウェーのバランシング市場価格(2014 年)
(出所)Nord Pool
またバランシング市場の入札量は図 3-20 の通りである。電力消費量と比較しても相当量
の入札が行われていることが分かる。実際のバランシング市場での使用量は図 3-21 の通り
である。±100 万 kW 程度のバランシング調整力が使用されており、上げ・下げの使用が複
数時間に跨って行使されることも多いことが分かる。
96
万kW
2,500
2,000
1,500
1,000
500
上げ
下げ
1/29
1/22
1/15
1/8
1/1
0
電力消費量
図 3-20 ノルウェーのバランシング市場入札量(2015 年 1 月)
(出所)Nord Pool
万kW
150
100
50
0
-50
-100
下げ
上げ
1/29
1/22
1/15
1/8
1/1
-150
図 3-21 ノルウェーのバランシング市場稼働量(2015 年 1 月)
(出所)Nord Pool
3) イギリス
イギリスでは Elexon がインバランス精算を担っているが、バランシング市場における取
引の詳細は公表していない。
参考のためインバランス量とインバランス料金の関係は図 3-22
及び図 3-23 の通りである。
インバランス量は±150 万 kW 程度発生していることが分かる。
97
SBP(£/MWh)
500
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
0
50
100
150
200
万kWh
図 3-22 イギリスにおけるインバランス量と SBP の関係(2014 年)
(出所)Elexon Portal
SSP(£/MWh)
150
100
50
0
-50
-100
-200
-150
-100
-50
0
万kWh
図 3-23 イギリスにおけるインバランス量と SSP の関係(2014 年)
(出所)Elexon Portal
4) フランス
フランスにおける予備力の平均使用量は図 3-24、予備力の平均エネルギー価格は図 3-25
の通りである。フランスでは予備力の提供可能な事業者が限定されており、予備力の行使価
格は規制で決められている。
98
万kW
上げ行使
万kW
下げ行使
60
45.0
40.0
FRR
MFRR
35.0
AFRR
FCR
50
30.0
40
25.0
30
FRR
MFRR
AFRR
FCR
20.0
15.0
20
10.0
10
5.0
0
0.0
図 3-24 フランスにおける予備力平均使用量(2015 年)
(出所)RTE Customers Portal
ユーロセント/kWh
上げ代エネルギー価格
ユーロセント/kWh
7.0
6.0
6.0
5.0
5.0
下げ代エネルギー価格
4.0
4.0
3.0
3.0
2.0
2.0
1.0
1.0
0.0
0.0
FCR
AFRR
MFRR
FRR
FCR
AFRR
MFRR
FRR
図 3-25 フランスにおける予備力エネルギー価格(2015 年)
(注)FCR と AFRR の価格は同一
(出所)RTE Customers Portal
これら予備力のうち三次予備力に該当する MFRR(Manual Frequency Restoration Reserve)
及び RR(Replacement Reserve)を含み、1 万 kW を超える設備容量を保持しているバランス
責任事業者に供給余力を応札する義務のあるバランシング市場に関しては、
バランシング市
場への入札曲線と実際の行使状況に関する情報が公表されている。入札曲線の例は図 3-26
の通りである。
このバランシング市場は系統インバランスの解消だけではなく、
送電混雑処理やその他の
系統サービスを維持するための電源運用再構成を含む多様な用途に使用されている。2014
年におけるバランシング市場の使用目的の割合は図 3-27 の通りである。
99
ユーロセント/kWh
60
50
07:30-13:30
40
17:30-19:30
30
20
10
0
0
50
100
万kW
150
200
図 3-26 フランスにおけるバランシング市場入札曲線(2014 年 12 月 9 日)
(注)2014 年 12 月 9 日は 2014 年最大電力発生日
(出所)RTE Customers Portal
系統上方インバランス
系統下方インバランス
混雑上方
混雑下方
系統サービス再構成上方
系統サービス再構成下方
マージン再構成上方
マージン再構成下方
図 3-27 フランスにおけるバランシング市場の行使理由
(出所)RTE Customers Portal
5) PJM
PJM では平均的には前日市場価格とリアルタイム市場価格の値差は概ね小さい。一方で
各地点の需給バランスや送電混雑の状況に応じて、
地点別の価格差が生じやすい市場構造に
なっており、卸電力価格の変動性の高さがインバランス・リスクとなっている。
100
ドル/MWh
ドル/MWh
80
4.0
70
3.5
3.0
60
2.5
50
2.0
40
1.5
30
1.0
0.5
20
0.0
10
-0.5
0
-1.0
前日価格
リアルタイム価格
価格差(右軸)
図 3-28 PJM における前日エネルギー価格とリアルタイム市場価格の推移
(出所)PJM, “State of Market Report”
6) カリフォルニア ISO
カリフォルニア ISO でも平均的には前日市場価格とリアルタイム市場価格の値差は概ね
小さい。一方で各地点の需給バランスや送電混雑の状況に応じて、地点別の価格差が生じや
すい市場構造になっており、卸電力価格の変動性の高さがインバランス・リスクとなってい
る。
ドル/MWh
70
60
リアルタイム
50
前日
40
30
20
10
2015/1
2014/10
2014/7
2014/4
2014/1
2013/10
2013/7
2013/4
2013/1
2012/10
2012/7
2012/4
2012/1
2011/10
2011/7
2011/4
2011/1
0
図 3-29 カリフォルニア ISO における前日エネルギー価格とリアルタイム市場価格の推移
(出所)カリフォルニア ISO” Annual Report on Market Issues and Performance”各年版
(3) リアルタイム市場への需要家参加
需給調整市場に対して需要家が参加する枠組みを提供している国・地域が近年増加してい
る。
調査対象国ではそれぞれ需給調整の枠組みに需要家の参加を許容する仕組みが導入され
101
ている。但し調達及び運用に関する情報が公開されているところは少ないため、ドイツとノ
ルウェー、PJM、カリフォルニア ISO の事例を整理する。
1) ドイツ
ドイツでは送電会社は二種類のデマンドリスポンスを各種予備力と別に調達・運用してい
る。送電会社が調達しているデマンドリスポンスは、以下の通りである。
 SNL(quickly interruptible loads):送電系統運用者の遠隔制御により 15 分以内で応答す
る負荷
 SOL( immediately interruptible loads ):系統周波数が一定範囲まで低下した際に送電
系統運用者による遠隔制御で数秒以内に自動で周波数制御を行う負荷
事前認証を受けた需要家が対象で、いずれも月単位で入札し、最低 5 万 kW・最大 20 万
kW、入札容量最大各 150 万 kW で入札を行う。容量価格は常に一定額(2.5 ユーロ/kW)で
入札が行われている。原則、1 週間で 4 回、一日あたり最大 1 時間、最低 15 分発動する。
連続時間は最大 8 時間で 2 週間間隔を空ける必要がある。4 時間継続する場合は 1 週間間隔
を空ける必要がある。
今のところ各 150 万 kW の調達目標に対して 50 万 kW 程度と少なく、かつ参加している
需要家も限定されている模様である。
万kW
ユーロ/MW
80
3,000
70
2,500
60
2,000
50
g
f
e
40
30
1,500
d
1,000
c
20
b
500
10
0
0
図 3-30 SNL(quickly interruptible loads)調達状況
(出所)regelleistung.net
102
a
容量価格
万kW
ユーロ/MW
50
3000
45
2500
40
35
2000
30
e
d
25
1500
c
1000
b
20
15
a
10
500
5
0
容量価格
0
図 3-31 SOL(immediately interruptible loads )調達状況
(出所)regelleistung.net
2) ノルウェー
ノルウェーでは RCOM(Regulation Option Market)という市場を通じて、三次予備力の調
達を行っている。これはバランシング市場と別に設置されているもので、需要がピークを迎
える冬期における予備力確保の確実性を高めることを目的としている。冬期を通じた入札と
週単位の入札を実施されており、週単位の入札では前週木曜日 14:00 前に結果を公表され
る。2013 年の確保量は 60 万 kW~180 万 kW であり、調達した容量に対して対価を支払う
仕組みになっている。RCOM の落札者はバランシング市場へ入札する義務がある。RCOM
の調達内訳を見ると相当量の電力需要側の入札が行われていることが分かる。
この RCOM は容量メカニズムのように容量支払を発生させることで、デマンドリスポン
スの確保に貢献していると言うことができる。
NOK/MW・週
万kW
200
1,400
180
1,200
160
1,000
140
120
800
100
600
80
60
400
40
200
20
0
0
1 4 7 10 13 16 19 22 25 28 31 34 37 40 43 46 49 52
図 3-32
2014 年 RCOM 市場確保量・価格
(出所)Statnett
103
消費
発電
冬期入札
価格(A)
価格(B)
価格(C)
3) PJM
PJM には容量市場が設置されているため、デマンドリスポンスの導入が進展している。
需給調整用としては緊急時に義務的な負荷抑制を行う同時予備力と、
周波数制御市場で用い
る調整力がある。登録量・活用量ともに同期予備力が多いが、2012 年 10 月以降、持続性は
低いが応答性の高いデマンドリスポンスや蓄電池の導入を促すため周波数制御シグナルの
仕組みを二種類に分けるようになってから、周波数制御市場への参加も増加している。
なお同期予備力は過去の実績を見ると最大で年間 7 回の発動に止まっているが、
毎年テス
トを受ける必要がある。登録されたデマンドリスポンスは 1 時間のテストを受け、テストは
送電ゾーンごとに同時に実施し、48 時間前に通知がある。
万kW
70
60
50
40
同期予備力
30
周波数制御
20
10
2015/10
2015/7
2015/4
2015/1
2014/7
2014/10
2014/4
2014/1
2013/7
2013/10
2013/4
2013/1
2012/7
2012/10
2012/4
2012/1
0
図 3-33 PJM におけるアンシラリー・サービスへの需要家登録状況
(出所)PJM, 各年の“Demand Response Operations Markets Activity Report”より作成
万kWh
セント/kWh
10,000
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
16
14
12
10
8
6
4
2
0
同期予備力使用量
周波数制御使用量
同期予備力単価
産業用電気料金(PA)
周波数制御単価
図 3-34 PJM におけるアンシラリー・サービスへの需要家活用状況
(出所)PJM, 各年の“Demand Response Operations Markets Activity Report”より作成
104
4) カリフォルニア ISO
カリフォルニア ISO では信頼度型と価格反応型のデマンドリスポンスをそれぞれ導入し
ており、2014 年推定で信頼度型 104.7 万 kW、価格反応型 126.9 万 kW 導入している。デマ
ンドリスポンスは供給力価値を認められており、アンシラリー・サービスとしては非瞬動予
備力として参加することができる。
表 3-14 カリフォルニア ISO で提供されているデマンドリスポンス
類型
内容
信頼度型プログラム
ISO が緊急事態を宣言した場合又は地域的緊急時の際に発動される負荷
(Reliability-based programs)
抑制プログラムで、負荷遮断可能契約と空調サイクリングプログラムが対
象となる。
前日価格反応型プログラム
前日市場価格が高騰している際に発動されるもので、ピーク時間帯に高い
(Day-ahead price-responsive
電気料金が適用される。気温予報等が発動条件になる場合もある。
programs)
当日価格反応型プログラム
前日市場や系統状態に応じて発動されるもので、電力会社や抑制サービ
(Day-of price-responsive
スプロバイダーを通じて、直接空調抑制等の負荷抑制を指示されるもの。
programs)
(出所)カリフォルニア ISO、”Market Issues & Performance”2014 年版
(4) 容量価格入札(kW 当たり)とエネルギー価格入札の検証
1) バランシンググループ型コミットメントでの予備力価格
ドイツの二次予備力・三次予備力は kW あたりの単価である容量価格入札で安価な順番に
確保容量が決まり、kWh あたりの単価であるエネルギー価格入札で安価な順番に稼働を決
定する仕組みを採用しており、支払価格は Pay as Bid で決まる。実際の容量価格・エネルギ
ー価格の入札曲線は図 3-35・図 3-36 の通りである。上げ代入札・下げ代入札の間に一定の
幅があることが分かる。これはバランシンググループ単位で二次予備力・三次予備力の入札
が行われるが、
スポット取引やバランシンググループの需給バランス維持を目的として一定
の調整代をグループ内に残して入札が行われていることに起因していると考えられる。
ユーロ/MW
4.0
容量価格(上げ)
3.5
3.0
容量価格(下げ)
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-3,000 -2,000 -1,000
0
MW
1,000
2,000
3,000
図 3-35 ドイツの二次予備力容量価格入札曲線(2015 年 11 月 30 日~12 月 6 日分・昼間)
(出所)regelleistung.net
105
ユーロ/MWh
25,000
ユーロ/MWh
200
20,000
150
15,000
100
10,000
50
5,000
0
0
-5,000
-3,000 -2,000 -1,000
0
MW
エネルギー価格(上げ)
1,000 2,000 3,000
エネルギー価格(下げ)
-50
-3,000 -2,000 -1,000
0
MW
エネルギー価格(上げ)
1,000
2,000
3,000
エネルギー価格(下げ)
図 3-36 ドイツの二次予備力エネルギー価格入札曲線(2015 年 11 月 30 日~12 月 6 日分・昼
間)
(出所)regelleistung.net
このように容量入札価格及びエネルギー入札価格双方でバランシンググループの需給バ
ランス維持を目的として一定の調整代をグループ内に残して入札が行われているが、
容量価
格は予備力として待機していることへの報酬そしてエネルギー価格は実際に稼働した際に
追加的に発生した費用を補てんする報酬として見なすことができる。
容量価格はスポット価
格とバランシンググループの供給曲線の比較で機会費用として見なされる領域で入札が行
われていると考えられる(図 3-37 参照)。一方でエネルギー価格は実際に稼働した際に追
加的に発生した費用で入札していると考えられるが、下げ代の場合には燃料費の節約になる
ためマイナスの入札価格となると考えられるが実際にはプラスで入札が行われていること
が多い。
これはドイツでは再生可能エネルギー発電の導入拡大に伴い下げ代が不足気味にな
っており、
火力発電最低出力制約を考慮して電源の差し換え等で下げ代を確保していること
に起因していると考えられる。
上げ代
下げ代
価格、変動費
バランシンググループの同
時同量を維持するための
供給余力
スポット価格
スポット価格との
差額(機会費用)
スポット価格
との差額(機
会費用)
最低出力制約がある
場合、変動費の高い
電源と差し替えて抑制
バランシンググループ
全体の供給曲線
燃料費
抑制(実
費用の
減少)
需給一致
kW
実燃料費の増加
図 3-37 バランシンググループ型での容量価格設定の考え方
106
2) ユニットコミットメント型での予備力価格
PJM やカリフォルニア ISO での予備力価格の算定は、容量価格と実行価格で形成されて
いる。容量価格はスポット市場で得られなかった機会費用に該当し、実行価格は予備力の行
使に必要な費用で構成される。ここで容量価格に該当する機会費用は、発電計画に対しリア
ルタイム市場での給電可能範囲を提供した後の下げ代・上げ代が提供されるため、ユニット
の供給曲線において給電可能範囲の幅から周波数制御用容量の最大値と最小値の差分とし
て容量が設定される。このため周波数制御用容量の最小値から出力増が上げ代、周波数制御
用容量の最大値から出力減が下げ代と見なされ、機会費用が算定される。
周波数制御予備力上
給電可能
げ提供範囲(みなし)
範囲
価格、変動費
LMPmax
推定機会
費用
仮想的機
会損失
LMP
仮想的燃
料費増加
LMPmin
ユニットの供給曲線
kW
RegMin
RegMax
図 3-38 ユニットコミットメント型での容量価格設定の考え方
3) バランシング市場での価格設定
前述のような予備力価格の考え方と異なり、
バランシング市場はスポット取引後の供給余
力が提供されるためスポット価格と連続的な価格形成となる傾向にある。
一般的にバランシ
ング市場は容量価格のような kW 料金は設定されず、行使した kWh に対する報酬としての
エネルギー価格のみが提供されている。
こうしたバランシング市場価格は、例えば北欧のバランシング市場価格は図 3-19 で見た
ように上げ代はスポット価格以上そして下げ代はスポット価格以下で形成されている。これ
は各バランシンググループにおいてスポット価格を起点として、上げ代・下げ代提供容量と
価格が入札曲線として提供されていることに起因しているものと考えられる。
107
上げ代
下げ代
価格、変動費
スポット価格
バランシンググループ
全体の供給曲線
kW
需給一致
図 3-39 バランシング市場の入札価格決定の考え方
4) まとめ
以上のように予備力価格とバランシング市場価格とでは価格形成方法が異なっている。
ド
イツの場合には系統インバランスの解消と周波数維持という二つの目的のために予備力を
活用しているため、
インバランス料金の算定の根拠となる費用は予備力エネルギー価格とな
っている。一方で北欧やイギリス、フランス、PJM、カリフォルニア ISO ではスポット市場
と連続的な供給余力を活用するバランシング市場又はリアルタイム市場で系統インバラン
スの解消を行っている。91
送電部門が担う需給調整方式の考え方によって、系統インバラ
ンスの解消方法が異なり、
これがインバランス料金の違いを生んでいる点に注意が必要であ
る。
91
北欧及びイギリスではバランシング市場が周波数制御用にも用いられているのに対し、フランス及び
PJM、カリフォルニア ISO では周波数制御はバランシング市場と別の LFC 機能を用いている。
108
3.2 諸外国におけるリアルタイム市場を基にしたインバランス料金の精算方法
3.2.1 インバランス料金設定方法
(1) 概要
各国のインバランス料金設定方法は表 3-15 の通りである。系統インバランスが不足時と
余剰時を分けてインバランス料金を設定している。
表 3-15 各国の同時同量義務とインバランス料金設定の考え方
ドイツ
ノルウェー
スウェーデン
フランス
イギリス
PJM
給電方法
自己給電・
ポートフォリ
オ型
自己給電・ユニ
ット型
自己給電・ポ
ートフォリオ型
自己給電・
ユニット型
―(自己給
電・ユニッ
ト型)
自己給
電・ユニッ
ト型
バランシング
義務
法的・金銭
的義務
法的・金銭的義
務
法的・金銭的
義務
金銭的義務
法的・金銭
的義務
金銭的義
務
ポートフォリオ
数
1 ポートフォ
リオ(発電・
需要のグル
ープ)
2 ポートフォリオ
(発電・需要双
方)
2 ポートフォリ
オ(発電・需要
双方)
1 ポートフォ
リオ(発電・
需要のグル
ープ)
2 ポートフ
ォリオ(発
電・需要双
方)
各ユニット
単一価格
不足・余剰価格
不足・余剰価
格
不足・余剰
価格
不足・余剰
単一価格
数
イ
ン
バ
ラ
ン
ス
価
格
価格
(注)
決定
方法
(不
足)
平均エネル
ギー価格
(二次・三
次)
限界エネルギー
価格(消費・発
電) (バランシン
グ市場)
限界エネルギ
ー価格(消費・
発電)(バラン
シング市場)
平均エネル
ギー価格
(バランシン
グ市場)
平均エネ
ルギー価
格(発電・
消費)(バ
ランシング
市場)
限界エネ
ルギー価
格
決定
方法
(余
剰)
平均エネル
ギー価格
(二次・三
次)
前日市場価格
(発電)、限界エ
ネルギー価格
(消費)(バラン
シング市場)
前日市場価格
(発電)、限界
エネルギー価
格(消費)(バ
ランシング市
場)
前日スポッ
ト価格
当日市場
価格(発
電・消費)
限界エネ
ルギー価
格
(注)イギリスは 2015 年 11 月 5 日からシングルプライス方式へ変更。
(出所)ENTSO-E, “Survey on Ancillary services procurement, Balancing market design 2014”, 2015 年 1 月
(2) ドイツのインバランス料金
ドイツのインバランス料金の設定方法は表 3-16 の通りである。インバランスの精算対象
であるバランシンググループ自身の余剰・不足という状態に関わらず単一の価格が適用され
る仕組みになっている。2014 年実績のインバランス価格とスポット価格を比較したものが
図 3-40 であるが、インバランス価格が予備力のエネルギー価格を基に算定していることも
あり、スポット価格との相関性は低い。
109
表 3-16 ドイツのインバランス料金
系統インバランス不足
系統インバランス余剰
二次予備力・三次
二次予備力・三次
二次予備力・三次
二次予備力・三次
予備力 80%以上使
予備力 80%未満使
予備力 80%未満使
予備力 80%以上使
用
用
用
用
バランシンググルー
二次予備力・三次
二次予備力・三次
二次予備力・三次
二次予備力・三次
プ余剰
予備力平均エネル
予備力平均エネル
予備力平均エネル
予備力平均エネル
ギー価格の 1.5 倍
ギー価格(但し平均
ギー価格(但し平均
ギー価格の 1.5 倍
又は二次予備力・
当日スポット価格を
当日スポット価格を
又は二次予備力・
三次予備力平均エ
下回らないこと)
下回らないこと)
三次予備力平均エ
バランシンググルー
プ不足
ネルギー価格に
ネルギー価格に
100 ユーロ/MWh を
100 ユーロ/MWh を
加算
加算
(出所)50Hertz Transmission GmbH, Amprion GmbH, Elia System Operator NV, TenneT TSO B.V., TenneT TSO
GmbH, TransnetBW GmbH” Potential cross-border balancing cooperation between the Belgian, Dutch and
German electricity Transmission System Operators”, 2014 年 10 月
インバランス価格(ユーロ/MWh)
300
200
100
0
-100
-200
-300
-20
0
20
40
60
80
100
スポット価格(ユーロ/MWh)
図 3-40 インバランス価格とスポット価格の関係(2014 年)
(出所)regelleistung.net 及び Energienet.DK より作成
(3) 北欧(ノルウェー)
ノルウェーではバランシンググループをインバランス精算の単位としているが、
発電と需
要を分けてインバランス量の算定を行っている。
それぞれのインバランス量の算定方法は表
3-17 の通りである。またインバランス量の算定を発電と需要に分けていることに伴い、イ
ンバランス料金も発電と需要を別に算定している。
更に系統インバランスが不足時と余剰時、
均衡時を分けて設定している。それぞれのインバランス料金算定方法は表 3-18 の通りであ
る。原則的にバランシング市場価格と前日スポット価格を基に算定している。前述の通り、
北欧のバランシング市場価格は、不足時にはスポット価格以上、そして余剰時にはスポット
価格以下となっており、不足時・余剰時それぞれに系統インバランスを解消するインセンテ
ィブを提供していると言える。
110
表 3-17 ノルウェーのインバランス算定方法
発電インバランス
実発電量―発電計画値±発電インバランス調整値
需要インバランス
実消費量―消費計画値±取引量±消費インバランス調整値+MGA インバランス
(注 1)インバランス調整値=バランシングサービス提供量
(注 2)MGA インバランス=MGA(計量系統エリア)のインバランス
表 3-18 ノルウェーのインバランス料金算定方法
発電インバランス
消費インバランス
系統不足時間
不足インバランスへ不足インバランス価格を適用、
余剰インバランスへ前日スポット価格を適用
不足インバランス価格を適用
系統余剰時間
不足インバランスへ前日スポット価格を適用、余剰
インバランスへ余剰インバランス価格
余剰インバランス価格を適用
系統均衡時間
前日スポット価格を適用
前日スポット価格を適用
(出所)eSett Oy“Nordic Imbalance Settlement Handbook Instructions and Rules for Market Participants”, 2014 年 4
月
Regulation Up価格(€/MWh)
300
Regulation Down価格(€/MWh)
80
70
250
60
200
50
40
150
30
100
20
10
50
0
0
0
20
40
60
80
スポット価格(€/MWh)
-10
0
20
40
60
80
スポット価格(€/MWh)
図 3-41 ノルウェーのバランシング市場価格(2014 年)(再掲)
(出所)Nord Pool
こうしたインバランス料金を通じた系統インバランス解消だけでなく、
ノルウェーの送電
会社 Statnett は balance agreement を通じて、インバランスを多く出す BRP に対して、卸電力
市場から退出させることができる。
このインバランスの規定は消費インバランス及び発電イ
ンバランス双方に課せられている。2015 年 5 月時点で要改善となっている BRP は 140 社中
で需要側 41 社・発電側 12 社(需要側・発電側双方とも 12 社)であった。
111
表 3-19 ノルウェーのインバランス規制
長期的には受容不可
(月間インバランス量が 180 万 kWh 未満
の BRP に非適用)
消費イン
バランス



発電イン
バランス



評価

短期的には
受容可能
相対的インバランスが 10%以上及
び不足インバランスと余剰インバラ
ンスの差が 2 倍以上
相対的インバランスが 12.5%以上
不足インバランスと余剰インバラン
スの差が 2.5 倍以上

相対的インバランスが 5%以上及び
不足インバランスと余剰インバラン
スの差が 2 倍以上
相対的インバランスが 6%以上
不足インバランスと余剰インバラン
スの差が 2.5 倍以上

長期的に上記条件を満たす場合に
は、卸電力市場への参加が不可と
なる可能性あり

左右ど
ちらで
もない
受容可能


左右ど
ちらで
もない


要監視

相対的インバランスが 6%未満
及び月間インバランス量が 180
万 kWh 未満
相対的インバランスが 6%未満
及び不足インバランスと余剰イ
ンバランスの差が 1.5 倍未満
相対的インバランスが 2.5%未
満及び月間インバランス量が
180 万 kWh 未満
相対的インバランスが 2.5%未
満及び不足インバランスと余剰
インバランスの差が 1.5 倍未満
良好
(出所)Statnett, “Monthly Balance ReportMay 2015”
(4) イギリス
イギリスのインバランス料金は SSP(システム購入価格)と SBP(システム購入価格)と
不足時及び余剰時に別の料金設定となっている。
それぞれバランシング市場における調達費
用を基に算定されている。なお 2015 年 11 月 4 日までは系統インバランスの不足時・余剰時
と事業者の不足時・余剰時を区分してインバランス料金を設定していたが、2015 年 11 月 5
日以降は事業者の不足時・余剰時の区分のみでインバランス料金を設定するシングル価格設
定方式に移行している。
インバランス価格とスポット価格の関係は図 3-42 の通りである。スポット価格(N2EX
前日市場価格)と SSP 及び SBP を比較すると、SSP はスポット価格よりも相対的に安価な
時間帯が多く、SBP はスポット価格よりも相対的に高い時間帯が多いことが分かる。
112
表 3-20 イギリスのインバランス料金設定方法(2015 年 11 月 4 日まで)
システム全体が電力余剰
システム全体が電力不足
バランス余剰の事
業者
【バランスを悪化】
SSP(システム購入価格)
RCRC による精算
【バランスを改善】
市場価格指標
BSUoS による精算
バランス不足の事
業者
【バランスを改善】
市場指標価格
BSUoS による精算
【バランスを悪化】
SBP(システム販売価格)
RCRC による精算
※
BSUoS:系統のバランス維持に係る費用より、一定の算定フォーミュラーに従って 30 分毎の料金単
価を算定
※
SSP・SBP:BM への入札のうち上方・下方それぞれ高い札・低い札 500MWh の加重平均値、BM 契約
費用や運用システム費用、NGC のインセンティブや補正を加えて算定(大半が外部費用)
(出所)古澤健、「ドイツ・イギリスの需給調整メカニズムの動向と課題-需給調整能力の確保と費用決済
-」、電力中央研究所、2014 年 4 月、Y13018 より作成
表 3-21 イギリスのインバランス料金設定方法(2015 年 11 月 5 日以降)
システム全体が電力余剰
システム全体が電力不足
バランス余剰の事業者
SSP(システム購入価格)で受取
SSP(システム購入価格)で受取
バランス不足の事業者
SBP(システム販売価格)で支払
SBP(システム販売価格)で支払
※
SSP・SBP の値はシステムが余剰(不足)の際に余剰(不足)解消に用いた入札・BM 契約費用や運
用費用等を基に算定。
※
SSP=SBP とする。
スポット価格とSSPの関係(2014年)
スポット価格とSBPの関係(2014年)
SSP価格(£/MWh)
450
SBP価格(£/MWh)
450
400
400
350
350
300
300
250
250
200
200
150
150
100
100
50
50
0
0
-50
-50
-100
-100
-150
0
50
100
150
200
250
-150
0
スポット価格(£/MWh)
50
100
150
200
250
スポット価格(£/MWh)
図 3-42 イギリスのインバランス料金とスポット価格の関係
(出所)Elexon Portal 及び N2EX より作成
(5) フランス
フランスのインバランス価格は、全体のインバランス方向(余剰・不足)と同じ方向のイ
ンバランスに対してバランシング市場における上げ・下げ加重平均価格(AWPh)に一定の
係数を乗じた値を用い、逆方向のインバランスに対して EPEX Spot 価格を用いることにな
113
っている。このため前日スポット価格を基準として、事業者は系統インバランスの解消を促
すインセンティブを提供する形になっている。
表 3-22 フランスのインバランス料金設定方法
系統インバランス不足
余剰インバランス
前日スポット価格
不足インバランス
AWPh×(1+K)
(注 2)
系統インバランス余剰
AWPh/(1+K)
(注 1)
前日スポット価格
系統インバランス均衡
前日スポット価格
前日スポット価格
(注 1)前日スポット価格を上限とする。
(注 2)前日スポット価格を下限とする。
※
K は 2011 年以降 0.8 とする。
(出所)RTE Customer’s Portal
€/MWh
300
2015年1月上げ方向バランシング価格
2015年1月下げ方向バランシング価格
€/MWh
100
250
80
200
60
150
40
100
20
50
0
0
-20
上げ状態
上げ加重平均価格
図 3-43
上げ最大価格
下げ状態
下げ加重平均価格
下げ最大価格
2015 年 1 月におけるインバランス状態とバランシング価格
(出所)RTE Customer’s Portal
3.2.2 米国の地点別限界価格方式
米国の RTO・ISO で採用されている LMP(Locational Marginal Pricing:地点別限界価格)
は、送電混雑と送電限界ロス費用を踏まえたスポット価格形成方式である。変電所別に価格
形成を行うが、
変電所ごとの発電限界費用と潮流の方向を踏まえた送電限界ロスを加味して
卸電力価格を計算する。
送電混雑が無い場合のシステム価格と地点ごとの卸価格の差が送電
混雑費用となる。
114
システム価格
混雑費用
限界ロス費用
合計(LMP)
システム価格
混雑費用
限界ロス費用
合計(LMP)
この地点で接続す
れば$19で電気を
買うことができる
$20
$0
$-1
$19
$20
$30
$2
$52
送電容量100万kW
需要120万kW
電力潮流100万kW
発電能力20万kW
$50/MWh
100万kWを指令
発電能力120万kW
$20/MWh
20万kWを指令
図 3-44 地点別限界価格の考え方
この方式の場合、日本や大陸欧州で採用されているゾーン価格形成方式に比べ、送電混雑
解消費用を卸市場に内部化でき、
潮流の状況に応じて地点別でスポット価格に差が生じるこ
とで、電源立地インセンティブを提供することが期待されている。実際、2014 年の LMP を
送電ゾーン別に見ると、年間平均価格で最高価格地域と最低価格地域で 25.7 ドル/MWh の
差が生じている。LMP の高い BGE 及び PEPCO は沿岸部の人口密集地にあり、PJM の純収
益分析でもガス火力発電の固定費回収可能性は高いと評価されている。
ドル/MWh
80
70
60
50
40
30
20
10
PJM
PSEG
RECO
PPL
Pepco
PENELEC
PECO
Met-Ed
JCPL
DPL
EKPC
DLCO
Dominion
DEOK
Day
ComEd
BGE
ATSI
AP
AEP
AECO
0
図 3-45 2014 年送電ゾーン別 LMP 価格
(出所)PJM, “State of Market Report”
3.3 インバランス精算及びリアルタイム市場の最適な在り方
インバランス精算とリアルタイム市場の在り方について以下で整理を行うが、リアルタイ
ム市場という概念は多義的であるため、以下では系統インバランスの解消を目的とした、バ
ランシング市場(ガバナー機能及び LFC 機能は対象外)を対象とする。
115
3.3.1 系統運用者の運用するリアルタイム市場が存在しない日本におけるインバランス精
算のメリット・デメリット
諸外国におけるインバランス料金は、系統インバランスの解消に用いた調整力の調達費用
(エネルギー価格)を基に算定され、直前に行われる卸電力取引の市場価格を参考に、系統
全体が余剰時に市場価格以上、不足時に市場価格以下となることで、同時同量義務の対象者
に系統全体のインバランス量を最小化するインセンティブを提供することを主眼としてい
る模様である。日本の場合もこうした観点で 2016 年 4 月以降のインバランス料金の設計が
行われており、一定の効果が期待できる。
またそうした仕組みが十分でない場合でも、インバランス料金は変動性が高く、そうした
リスクを付与することで、
同時同量義務を順守するインセンティブが提供されていると考え
ることができる(一般的にスポット価格よりも変動性が高い)。
日本、ドイツ、米国 PJM の 2015 年における平均価格を 100 とした際のスポット価格の推
移を示したのが、図 3-46 である。価格の分布状況は図 3-47 に示す通りである。日本の場合、
欧米におけるリアルタイム市場に類する市場がないため、インバランス料金を前日スポット
価格と当日スポット価格との市場連動とすることになっている。しかし、化石燃料の調達が
長期契約中心で短期のスポット調達が少ないこともあって、
スポット価格の変動はあまり大
きくない。このため他国のインバランス料金に比べ、同時同量遵守のインセンティブは小さ
いと言えるが、2016 年 4 月以降の状況を見守る必要があろう。
平均価格=100
450
JEPX
平均価格=100
EPEX
450
350
350
250
250
150
150
-50
-150
-150
-250
-250
-350
-350
平均価格=100
01/01
01/18
02/04
02/22
03/11
03/29
04/15
05/02
05/20
06/06
06/24
07/11
07/29
08/15
09/01
09/19
10/06
10/24
11/10
11/27
12/15
50
-50
01/01
01/17
02/03
02/19
03/08
03/25
04/10
04/27
05/13
05/30
06/16
07/02
07/19
08/04
08/21
09/07
09/23
10/10
10/26
11/12
11/29
12/15
50
PJM
1,500
1,000
500
0
-500
01/01
01/21
02/10
03/02
03/22
04/11
05/01
05/21
06/10
06/30
07/20
08/09
08/29
09/18
10/08
10/28
11/17
12/07
12/27
-1,000
図 3-46 JEPX(日本)・EPEX(ドイツ)・PJM スポット価格(2015 年、平均価格=100)
(出所)JEPX、Energienet.DK、PJM
116
千分率での割合
1,000
JEPX
100
EPEX
PJM
10
1
1,300
1,200
1,100
1,000
900
800
700
600
500
400
300
200
0
100
-100
-200
-300
-400
-500
-600
-700
0
平均価格=100
図 3-47 JEPX(日本)・EPEX(ドイツ)・PJM スポット価格分布(2015 年、平均価格=100)
(出所)JEPX、Energienet.DK、PJM
3.3.2 リアルタイム市場導入に当たっての課題
(1) 商品設計
リアルタイム市場を導入するに際しては、以下の点に留意が必要である。

役割分担の明確化:どの機能を誰が担うべきか、送電部門とその他事業者の役割分担を
切り分ける必要がある。
ドイツではバランシンググループに系統インバランス解消の主
たる責任があるとして、
予備力と別に系統インバランス解消を目的としたリアルタイム
市場を設置していない。日本も同様の考え方を採用するのか検討が必要である。

同時同量義務との関係:同時同量義務の時間区分を単位に、インバランスと調整力の使
用を切り分ける必要がある。
特にバランシンググループ型でユニットを特定化せずに調
整力を提供する場合、結果的に生じたインバランス量のうち、どの部分がインバランス
なのか、調整力で提供したものなのか、客観的に判別することは困難であり、割り切り
が必要となる。

商品設計・商品共通化:国・地域で需給調整の仕組みが異なっていることが多いが、広
域的取引の拡大や負担の公平性確保の観点で、ある程度商品設計を共通化する必要があ
る。日本でも EDC 機能を担う需給制御システムも何分先の指示値を発電機に送付する
か等の具体的な仕組みは必ずしも統一されていない。こうした仕様を統一する場合、大
規模なシステム改修が必要になると考えられる。
特に商品設計においては、
発電所毎に異なる出力調整能力の違いを反映させるか否かも重
要な要素となる。現行の各種電源の需給調整における活用方法を再検証し、商品設計を検討
することが必要であろう。また、調整力の活用はどの程度先までの時間を考慮できるかで、
提供できる調整力の量が異なる。当然、連続的に先の時間までの調整を許容すれば、電源の
調整能力を多く提供することができるが、短い時間で区切って調整力を提供する形式にした
場合、提供できる調整能力は限定されることになる。こうした観点も商品設計では重要と考
えることができる。
117
表 3-23 水力発電所の出力調整幅、出力変化率、起動時間
流込式
河川の自然
流量とそのま
ま利用する
発電方式
概要
ガバナフリー
運転
LFC 調 整 能
力
出力調整能
力
出力調整幅
起動/停止
調整池式
1 日~1 週間
程度の負荷
の変動に対
応できる調整
池を有し、ピ
ーク時に発
電する方式
貯水池式
季節的な河
川の流量変
化を大貯水
池で調整し発
電する方式
×
△
○
○
○
×
×
△
○
○
○
×
70 程度~
100%
―
―
揚水式
上部池と下部池を有し、夜間若しくは休日など
のオフピーク時に揚水し、ピーク時に発電する
方式
発電運転
揚水運転
可変速機
定速機
50 程度~100%
―
―
1 分程度(出力調整幅内の出力変化)
3~5 分/1~2 分
―
5~10 分/1~2 分
(出所)NEDO「再生可能エネルギー技術白書(第 2 版)第 9 章系統サポート技術」2014 年 2 月
表 3-24 火力発電所の出力調整幅、出力変化率、起動時間
汽力発電方式
タイプ
ドラム(35 万 kW クラス)
燃料種別
石油
LNG
コンバインド発電方式
貫流(70 万 kW クラス)
石炭
石油
LNG
石炭
1100 ℃ 級
1300℃級
(単軸 15 万
(単軸 35 万
kW クラス)
kW クラス)
LNG
LNG
ガバナフリー運転
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
LFC 調整力
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
○
◎
○
◎
◎
○
30% ~
100%
20% ~
100%
30% ~
100%
15% ~
100%
30% ~
100%
15% ~
100%
出力調整力
出力調整幅
出力変化率
3%/分
3%/分
起動時間
WSS
20~30 時間
(時間)
DSS
3~5 時間
1%/分
5%/分
5%/分
3%/分
30~40 時間
5~10 時間
単軸△
単軸○
系列◎
系列◎
単軸 80%~
100%
系列 20%~
100%
単 軸 50%
7%/分
10%/分
系 列 20%
~100%
12 時間
―
1(並列 0.5)時間
(注)WSS:Weekly Start up and Shut down、DSS:Daily Start up and Shut down
(出所)NEDO「再生可能エネルギー技術白書(第 2 版)第 9 章系統サポート技術」2014 年 2 月
118
~100%
kW
時間
図 3-48 時間の推移と調整幅の関係
(2) 再生可能エネルギー発電導入拡大対策との関係
スペイン・ポルトガルの共通卸電力市場 OMIE では一定規模以上の事業者に参加義務が
ある強制型卸電力市場を運営している。OMIE の提供している当日取引は、6 つのセッショ
ンで取引を行うのが特徴である。各セッションは①前日 22:00~当該日 24:00、②1:00
~24:00、③5:00~24:00、④8:00~24:00、⑤12:00~24:00、⑥16:00~24:00 に
分かれており、時間帯を跨って発受電計画の修正を行うことができる。このため揚水発電も
取引に参加しやすく、最大限揚水発電を活用することが可能になっている。
前日市場
国際相対取引
先渡
市場取引
国内相対取引
前日市場スケジュール
前日相対スケジュール
(ベース取引)
技術的制約解消
当日の需要・再エネの動向
により調整を実施
アンシラリーサービス調達
前日可変スケジュール
その他技術的プロセス
前日スケジュール
当日市場(6プロセス)
時
間
ご
と
に
区
分
市場運用者
当日最終スケジュール
リアルタイム運用
リアルタイムスケジュール
系統運用者
スケジュール
図 3-49 OMIE の枠組み
(出所)REE 資料より作成
119
万kW
80
60
40
20
0
-20
-40
-60
供給ユニット
-80
購入ユニット
-100
揚水ユニット
-120
22 23 24 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
図 3-50 スペイン OMIE 当日市場(2016 年 1 月 16 日セッション 1)
(出所)OMIE
万kW
40
30
20
セッション1
10
セッション2
0
セッション3
-10
セッション4
-20
セッション5
-30
セッション6
-40
-50
-60
22 24
2
4
6
8 10 12 14 16 18 20 22 24
図 3-51 スペイン OMIE 当日市場(2016 年 1 月 16 日揚水発電計画変更)
(出所)OMIE
3.3.3 取引所とリアルタイム市場が相互補完関係となるために必要な方策
自由化を進めている欧米で採用されているリアルタイム市場は需給制御方式の違いもあ
り、表 3-25 の通り、多様な仕組みが存在している。日本が米国のプール市場型であるリア
ルタイム市場へ移行することも考えられるが、日本でも採用されている卸電力取引所取引が
行われている欧州の枠組みを基に、以下で考察を行う。なお、欧州ではバランシング市場と
いう呼称が一般的であるため、以下ではバランシング市場と呼ぶことにする。
120
表 3-25 各国・地域におけるバランシング市場
所属系 LFC・AGC 制 バランシング市場
統
御の有無
(系統インバランス
解消市場)
使用する電源と制御
デマンドリスポンス
ドイツ
大陸系 LFC 制御
統
二次予備力・三次
予備力運用
二次予備力・三次予備力運用
(二次予備力自動制御・三次予
備力マニュアル制御)
予備力として調達・運
用
北欧
北欧系 なし
統
バランシング市場
三次予備力+BRP 提供バランシ 三次予備力として提
ング(マニュアル制御)
供・運用
イギリス
イギリス なし
系統
バランシング市場
三次予備力+BM 提供バランシ 予備力として調達・運
ング(義務的)(マニュアル制御) 用
フランス
大陸系 LFC 制御
統
バランシング市場
三次予備力+BRP 提供バランシ 予備力として調達・運
ング(義務的)(マニュアル制御) 用
PJM
東部系 AGC 制御
統
リアルタイム市場
給電可能な全電源対象(LMP 型 予備力として調達・運
給電システム)
用
カリフォルニア 西部系 AGC 制御
ISO
統
リアルタイム市場
給電可能な全電源対象(LMP 型 予備力として調達・運
給電システム)
用
(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所作成
一般的に予備力の調達は、
安定供給確保の観点で調達不足を回避するために前日スポット
取引を行う前に行われることが多い。前日スポット取引後、当日スポット取引が行われ、市
場取引閉場後、バランシング取引、予備力運用と続く。
予備力調達
前日スポット
取引
当日スポット
取引
バランシング
取引
予備力運用
安定供給確保のた
め、少なくともス
ポット取引前に調
達。調達費用は託
送料金で回収。
バランシンググ
ループの過不足を
取引。エネルギー
の価格指標となる
ことが多い。
バランシンググ
ループ内の予測誤
差・発電機脱落に
基づく調整。
系統インバランス
の解消のための取
引。予備力のみで
解消する場合もあ
る。
事前に調達した予
備力を使用して、
周波数の維持・安
定化。
図 3-52 予備力調達・運用と市場取引の流れ
(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所作成
予備力の調達がバランシンググループ単位であっても、
各ユニットが提供する予備力は事
前審査が行われた上でユニット毎に提供容量が決まっているため、バランシンググループ内
ではユニット単位で予備力の確保量の検討が行われる。
バランシンググループは各ユニット
の提供できる予備力を集計し、予備力入札を実施する。その結果、各ユニットの提供容量が
決まり、当日の不確実性を踏まえ同時同量義務を達成するための調整代を残した上で、バラ
ンシンググループの需要想定を踏まえ、スポット市場への入札曲線が決まる(図 3-53 参照)。
スポット取引の結果、発電計画が確定する。
バランシング市場はゲートクローズ後に利用可能な供給余力が活用されることが多いが、
バランシンググループ単位で見るとスポット取引を踏まえた発電計画値から、予備力提供分
を除いた出力調整能力が提供可能な調整能力となる。この調整能力には、市場取引閉場に伴
って同時同量義務を維持するために残しておいた余力が利用可能となるため、スポット価格
を起点として、バランシング用調整力が提供される(図 3-54 参照)。
121
同時同量
義務遵守用
調整代
予備力提供
最低
出力
最大
出力
予備力提供
最低
出力
ユニット別市場
取引幅
最大
出力
バランシング
グループで集計
需要想定
供給曲線
買い入札
売り入札
BGスポット
入札曲線
BG需給曲線
図 3-53 予備力提供とスポット入札曲線
(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所作成
需要想定
需要想定+
スポット取引
需要想定+
スポット取引
スポット価格
スポット価格
スポット取引
バランシング バランシング
下げ代 上げ代
BGスポット
取引後
BGバランシン
グ提供
図 3-54 バランシング市場入札
(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所作成
以上が理論的なスポット価格とバランシング価格・入札の関係であるが、スポット取引の
仕組みにより、必ずしもこのように連続的な流れにならない。北欧の場合には前日スポット
市場後にバランシング市場の取引が行われるため、
スポット取引とバランシング取引が連動
している。その一方で、ドイツ及びフランス、イギリスでは複数の当日スポット取引の枠組
みがあり、
スポット取引と系統インバランスの解消を担うバランシング取引の連続性が低い。
122
またドイツの場合には前日スポット取引前に確保した予備力を用いて、系統インバランスの
解消を行い、当該予備力のエネルギー価格を用いてインバランス料金を算定するため、スポ
ット価格と乖離しやすくなる。
このように予備力やバランシング市場の役割をどのようにするか、スポット取引の設計方
法如何では、市場間の連動性が異なることに注意が必要である。
3.3.4 再生可能エネルギー由来の発電事業のリアルタイム市場参入のための問題と解決策
再生可能エネルギー発電の中でも風力発電については、
既に欧州でも調整力の対象として
認められる国が増えている。欧州の風力発電協会である EWEA の調査では、風力発電も部
分的にバランシング市場への参加が許容されており、三次予備力としての参加も認められて
いる国もある。
風力発電及び太陽光発電は、下げ代予備力を提供可能である。ドイツでは再生可能エネル
ギー発電の固定価格買取制度の対象となっている設備は予備力市場への参加は認められて
いなかったが、2012 年よりフィードイン・プレミアム型の買取制度が導入されたことで、
予備力市場への参加が可能になった。しかし実際の予備力市場への参加は僅かに止まってい
る模様である。
これは風力発電の場合には下げ代を提供できるのは風が吹いている場合に限
られており、
予備力市場で提供が求められている時間帯全てに下げ代容量を提供することが
困難であるためである。太陽光発電の場合も、多くの容量が利用可能なのは 10:00~18:
00 であるが、三次予備力のピーク時間帯の時間区分が 8:00~20:00 であるため時間的に
適合しない。922015 年 7 月に公表された「白書~ドイツのエネルギー転換のための電力市場」
では、
予備力調達の短期化を通じて蓄電池や需要家の参加も可能にする仕組みが提言されて
いるが、確かにそうした措置が導入されないと風力発電・太陽光発電の調整力への参加は困
難である。その一方で予備力調達の短期化は、予備力確保の確実性を低下させる面もあり、
供給信頼度維持との関係で難しい判断を行う必要があると考えられる。
92
Lion Hirth and Inka Ziegenhagen、Vattenfall GmbH、” Control Power and Variable Renewables”、2013 年 3 月
123
図 3-55 風力発電の調整力への参加
(出所)EWWA, “Balancing responsibility and costs of wind power plants”, 2015 年 9 月
3.4 諸外国における調整力を効率的に確保する仕組みの需給調整における役割分析
電気事業における需給調整は、市場参加者によるインバランス最小化、バランシング市場
等を通じた系統インバランスの解消、平常時周波数制御による周波数安定化、そして系統事
故に起因する周波数低下時の緊急時予備力を用いた緊急時周波数回復に分けて考えること
ができる。欧米各国とも各機能の実施方法には様々あることが分かった。
市場参加者にインバランス量を最小化するインセンティブを付与することを重視するの
か、バランシング市場を構築して予備力で対応しきれない不確実性へ対処するのか、確保し
た予備力で需給調整を行うのか、あるいはそれぞれで措置を取るのか、国・地域で力点が異
なっていると考えられる。
124
表 3-26 各国・地域における需給調整仕組み
インバランス精算単
位
バランシング市場
周波数制御
緊急時用予備力
平常時周波数維持
緊急時周波数回復
用途
市場参加者のインバ 系統インバランス解消
ランス最小化
ドイツ
1 ポートフォリオ
北欧
2 ポートフォリオ(発 バランシング市場 (三 平常時用一次予備 一次予備力(上げ)・三次予
電、需要)
次予備力+供給余力) 力、バランシング市場 備力(上げ)
イギリス
2 ポートフォリオ(発 バランシング市場 (三 バランシング市場
電、需要)
次予備力+供給余力)
フランス
1 ポートフォリオ
バランシング市場(三次 一次予備力、LFC(二 一次予備力(上げ・下げ)・二
予備力+供給余力)
次予備力)
次予備力(上げ・下げ)・三次
予備力(上げ)の残り
PJM
ユニット
リアルタイム市場(全電 一次予備力、AGC
源対象)
(周波数制御市場)
瞬動予備力(上げ)、運転予
備力(上げ)
カリフォルニア ユニット
ISO
リアルタイム市場(全電 一次予備力、AGC
源対象)
(周波数制御市場)
瞬動予備力(上げ)、運転予
備力(上げ)
二次予備力・三次予備 一次予備力、LFC(二 一次予備力(上げ・下げ)・二
力運用
次予備力)
次予備力(上げ・下げ)・三次
予備力(上げ・下げ)の残り
(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所作成
125
一次予備力(上げ)・三次予
備力(上げ)
4. 再生可能エネルギーの導入促進に向けた取引所に関連する制度検討
4.1 再生可能エネルギーの導入拡大がもたらす卸電力取引への影響
固定価格買取制度に代表される強力な政策によって、太陽光・風力等の再生可能電源の
普及率は世界的に増加しており、各国の電源構成に多大な影響を与える状況が生まれつつ
ある。
従来の卸電力市場(エネルギー取引)は、火力電源の可変費の競争という性格が強かった
が、可変費が0に近い再生可能電源がメリットオーダーのベース電源部分に大きく割り込
むことは、長期的にみて、卸電力市場の価格形成に多大な影響を与えることが予想される。
我が国においても、FIT 電源の買取義務者が送配電事業者に変更され、買い取った FIT 電源
は市場経由の引き渡しを原則とすることが検討されている。この場合、市場規模に比して大
量の FIT 電源が供給される場合の影響の対応が課題とされているところである。
もっとも、可変費0の電源という観点では、原子力・水力とかわることはなく、卸電力
市場(エネルギー市場)のメカニズムそのものに大きな変更を迫るものではない。
問題の本質は、長期的にみて電源構成が大きく変更されることにある。即ち、メリット
オーダーの上で、火力電源がベース電源からミドル電源へ、ミドル電源からピーク電源へ
とシフトするため、時間帯によっては火力電源による調整能力不足が懸念されている。
(1) 需給調整能力の向上
1) 電源の kW 価値に関する市場設計
a. 容量メカニズムと需給調整市場
調整能力不足に関する懸念から、火力電源について kWh 価値のみならず、kW 価値も適
切に市場評価される仕組みが必要とされつつある。このため、米国・欧州で容量メカニズム
の創設、需給調整市場に関する制度設計が活発化している。この2つはともに、電源の kW
価値を卸電力取引に実装する制度としての側面を有する。
発送電分離がなされた自由化市場では、需給調整市場が創設される場合が大半である。
発送電分離により、系統運用者は原則として自社電源を持たないため、需給調整用のリソ
ースを外部調達する必要があり、その調達の公平性確保のために透明性の高い市場取引が
求められるからである。
一方、容量メカニズムについては、中長期的には重要な課題ではあるものの、今ところ
は検討すべき制度の選択肢の一つに過ぎない。制度的措置をもって新規投資を促し、長期
断面で容量を確保すべきか否かは、一義的には各地域の電力需給とその見通しに依存する。
例えば、ドイツでは電力市場改革案として容量市場創設が検討されたが、結果として採用
は見送られた。ドイツでは発電設備過剰の状況にあるため、容量市場を創設したとしても、
当面は容量価値が0と見なされることが確実に予見されためである。即ち、容量メカニズ
ムは、調整力の確保に懸念がある場合に有効であり、電力需給の見通しに基づき、適切な
時間軸に基づいた検討が求められる。
126
b. kW 価値の市場化
系統の調整能力の向上とは、
必要な種類と量の調整力を実需給断面で円滑に確保できる仕
組みづくりを意味する。
もっとも、実需給断面での確実な調整力確保を保障するためには、長期から短期にわたる
マーケットプロセス全体で考える必要がある。
容量メカニズム、エネルギー市場、需給調整
市場の3つの市場メカニズムを模式的に示すと図 の通りである。
まず、容量メカニズムを導入した地域では、我が国でいう供給予備率相当の量の電源
(な
いし、需要削減)が、少なくとも前日段階で、卸電力市場(エネルギー市場)に投入される
ことが保障される93。これにより、卸電力市場の需給逼迫が回避され、いわゆるプライス
パイクの発生も抑制される。次に、卸電力市場で決定される発電計画を前提としつつ、系
統運用者は需給調整市場によって必要な調整能力を調達する。即ち、卸電力市場参加者間
の取引によって系統に開列する電源が定まり、その電源(及び短時間で稼働開始な電源)の
出力増減分を系統運用者が調達する。
再生可能エネルギーが大量導入された場合の問題点は、卸電力市場で決定される電源の
開列状態と系統運用者が実需給断面で必要とする調整力のミスマッチが起きる可能性にあ
る。再生可能電源の出力変動により、必要とされる調整力の量が増加する可能性があり、
更に調整力をもつ火力がメリットオーダーから追い出され、調整力の供給量が減少するこ
とが懸念されている。
Gate
Close
計画断面(供給予備力)
調
整
力
市
場
プ
ロ
セ
ス
エネルギー市場
(KWh価値)
容量メカニズム
(kW価値)
需給調整市場
(kW価値+kWh価値)
取引所取引、OTC等
国・TSO
プ
レ
イ
ヤ
ー
運用断面(運転予備力)
TSO
TSO
BSP
発電
会社
小売
会社
発電
会社
小売
会社
発電
会社
小売
会社
図 4- 1 容量メカニズム・卸電力市場(エネルギー市場)・需給調整市場
出所)三菱総合研究所作成
注)BSP:Balance Service Provider
93
容量市場の先例である PJM を例に取ると、容量市場によって容量支払いの対象となった電源は前日市
場・アンシラリー市場への入札義務が発生する。即ち、前日段階で供給予備率を満たす電源が必ず市場に
参加することになる。この意味で、容量市場とは計画断面の概念であった供給予備率に制度面で強制力を
もたせ、計画断面の予備力と当日運用断面の予備力を連結するしくみといえる。
127
2) 各国の取り組み
この問題に関して各国で様々な検討、試行が始まっている。欧州では、太陽光・風力の
大量普及にもかかわらず、現段階では調整力確保の面では大きな問題は生じていない94。
しかし、将来への対応のため、限られた調整力を効率的に使う仕組みづくりが始まってい
る。具体的には、①市場改革による調整力の必要量の抑制(調整力の国際共同調達市場等)、
②再エネの出力変動予測技術の向上である。これらは運用断面の取り組みである。
一 方 、容 量 メカ ニ ズムの 段 階で は 、米 国 でカリ フ ォル ニ ア州 に おいて 、 Flexibility
Capacity Requirement と呼ばれる制度が導入されている。これは、調整力としての能力も加
味した電源確保義務を小売り事業者に課す制度である95。この制度は、「系統運用と商業的
電力取引の分離」96、という欧米の電力市場設計の基本思想からみて異質の側面を有するが、
一つの試みとして注目に値する。
なお、容量メカニズム(数年先)と需給調整市場(実需給直前)は、大きく時間断面が異
なる制度のように見えるが、その違いは絶対的なものではない。容量市場による供給力確
保は 3~4 年先を対象とするが、その程度の容量価値の担保では電源新設計画のインセンテ
ィブにはならず、老朽火力の延命の効果に留まるとの指摘は根強い。一方、需給調整市場に
おいて、容量分について年間入札とする制度設計例もあるため、実態として両者の効果に大
きな違いはない97。
即ち、容量メカニズムによる電源新設促進効果については、今後の評価を待つ必要がある
一方、既設電源の運用断面での容量確保は、需給調整市場の制度設計によっても対応が可能
である。
(2) 卸電力価格形成と再生可能電源
太陽光、風力発電は天候によって出力が大きく左右される特性がある。現在、我が国で
検討されている送配電による買取は、計画値同時同量制度の下、計画値として卸電力取引
所で取引されることが想定される。この場合、送配電事業者が自ら計画値からのズレを調
整することになるため、小売事業者はインバランスリスクを免れる。また、送配電事業者
が太陽光・風力をとりまとめて地域全体における出力予測を行うため、予測精度の向上が
期待される。
一方、翌日の太陽光・風力の発電量の見通しは卸電力取引の価格形成に大きな影響を与
94
ドイツ、スペインでは天然ガス火力の稼働率が著しく低下した。もっとも、これは卸電力市場における
電源間競争としての発電事業者の経営問題であり、調整力の側面で問題が生じているわけでない。もっと
も、この傾向が続く場合、将来的に調整力の問題が生じる可能性がある。
95
カリフォルニア州の小売事業者(LSE)は、予測ピーク需要+15%の容量確保義務を負い、LSE によって
調達された電源は前日市場とリアルタイム市場への入札義務が発生する(RA:Resource Adequacy Program)。
RA 自体は、いわゆる「分散型容量市場」に相当するが、LSE に課される調達義務の内訳として、調整能力
のある電源の確保義務を課している(Flexibility Capacity Requirement)。この Flexibility Capacity Requirement
は調整能力という「電源の性質」も容量市場に取り込むものである。
96系統運用という技術的側面は系統運用者が一義的に責任を負う、発電事業者・小売事業者は商業取引面に
集中して競争させることによって安価な電力供給を実現する、という考え方。
97
電源新設効果を除けば、需給調整市場による対応は、系統運用者が必要な調整力を直接、自らの責任に
おいて調達するという観点から簡明な制度とも言える。
128
えるため98、系統運用者の予測値の開示のあり方が問題となる。例えば、英国や米国カリ
フォルニア州では、系統運用者が再エネの出力予測をタイムリーに更新・公開しているた
め、市場参加者は再エネ出力の見通しについて同じ前提で入札が行われることとなる。一
方、ドイツでは系統運用者からの再エネ予測が公表されないままスポット取引が行われて
いる。再エネの予測を事業者の入札戦略の一つ要素と位置づけるか否かは重要な論点であ
る。
4.2 再生可能エネルギーの導入促進に向けた取引所取引に関連する提案
(1) 需給調整能力の向上にかかわる電力取引制度に関する国際的なの知見・経験の共有スキ
ームの構築
太陽光・風力等の大量普及により、従来の電力取引制度を再検討する動きが活発化してい
る。
太陽光・風力と競争的な電力市場の共存は電力取引制度の新たな課題であり、中長期的に
は、各国・各地域の電力需給・制度と調和した電源の kW 価値に関する市場設計が求められ
る。また、短期的には既に、太陽光・風力の発電量変動により、卸電力取引における価格形
成が大きな影響を受けており、公平かつ効率的な電力取引制度のあり方が課題となる。
各国は、太陽光・風力の出力予測精度の向上や出力変動に対応する系統技術の開発のみな
らず、電力取引制度の設計面においても、試行錯誤を始めたところである。
今後、IRENA 等の国際的な枠組みを活用しつつ、各国の電力制度面の課題、各国の工夫
などについて、国際的に経験・知見に関する蓄積を共有する政策データベースを構築するな
どの、知見・経験の共有スキームの構築は、世界的な再生可能エネルギーの普及にするもの
と考えられる。
(2) 調整力に関する国際共同調達市場創設のイニシアティブ
太陽光・風力の大量導入によって、中長期的に火力の調整力不足が懸念されつつある。調
整力不足は、
太陽光・風力の接続可能量を制約する大きなリスクとなることが懸念される上、
限られた調整力を地域的に限定された範囲で調達することは、系統運用費の増大を招くデメ
リットもある。
このような点で、
欧州では広域的な需給調整取引を可能とする制度作りに取り組んでいる。
1990 年代より、世界的にも国を超えた kWh 価値に共通電力市場構築は、インドシナ半島、
中東 GCC 諸国等で検討されてきた。これらの動きは現在は必ずしも順調とは言えないが、
再生可能エネルギーを活用した安価な電力供給と電力の安定供給の両立の観点から、
再び同
様の枠組みの再活性化を企図することは意義があると考えられる。
98
既に、我が国においても、JPEX の日中の価格曲線形状は天候の見通しによって大きく変わる状況となっ
ている。
129
(3) 再生可能エネルギーの調整力としての価値評価
本調査の結果、再生可能エネルギーを調整力として評価し、需給調整市場への応札を可能
にする動きがあることが明らかになった。特に風力発電は、リアルタイムで下げ代方向(発
電量を抑制する方向)に出力を柔軟に調節することが可能である。
即ち、太陽光・風力も制度設計如何によっては、調整力として見做すことも可能である。
今後、各国の需給調整市場の設計において、再生可能エネルギーの調整力が適切に評価され
る取引ルールを盛り込むべきことを、IRENA を通じて働きかけることも考えられる。
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