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低温排熱有効活用のための水蒸気回生 ヒートポンプシステムの開発

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低温排熱有効活用のための水蒸気回生 ヒートポンプシステムの開発
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5
低温排熱有効活用のための水蒸気回生
ヒートポンプシステムの開発
-基本概念と省エネルギー効果の予測-
Development of Adsorption Heat Pump System
for Regenerating High Temperature Steam
– Basic Concept and Estimation of Effective Utilization of Energy –
中 曽 浩 一
Koichi Nakaso
板 谷 義 紀
*
・ エリフィナ
**
Yoshinori Itaya
オクタリアニ*・ 野 田 敦 嗣
Erfina Oktariani
・ 中 川 二 彦
***
Tsuguhiko Nakagawa
*
・
Atsushi Noda
・ 深 井
潤
*
Jun Fukai
(原稿受付日 2010 年 12 月 22 日,受理日 2011 年 8 月 2 日)
More reduction in energy consumption is requested for the industry section because a large quantity of waste water at low
temperatures is released in the industrial processes. It has potency and possibility for contribution in the energy saving if the
waste water can be regenerated to be steam again. To recover waste heat at a low temperature from hot water, adsorption heat
pump system can be used as of its advantages. Though most of existing heat pump is indirect heat exchange type, it has some
problems such as low heat exchange rates and high capacities of heat exchanger. In this study, the direct heat exchange type
which took out heat by contacting directly zeolite and water is proposed. The adsorption heat pump using zeolite-water is
theoretically investigated based on adsorption isobar curves. As a result, the ratio of the amount of recovered steam of 140°C
to input waste water of 80°C is more than 0.55 when adsorption process is only considered. On the other hand, the ratio is
0.038 when desorption process is also considered as heat source. From these calculations, the heat pump system has potential
to reduce the energy of 1.4 million ton of crude oil especially for the field of ironworks.
Storage (CCS)と革新的製鉄プロセス CO2 Ultimate Reduction
1.はじめに
in Steelmaking process by innovative technology for cool Earth
化石燃料の資源的制約および地球温暖化問題などを背景
50 (COURSE50)の 2 分野で,21 分野ある Cool Earth-エネル
として,省エネルギーの更なる要請はますます強まってい
ギー革新技術計画の中核技術に位置付けられている
る.石油危機を契機として,産業部門のエネルギー消費は,
.鉄
鋼向けでは,NEDO の大きな戦略的事業の一つとして
他の運輸,民生部門で大きく伸びているのに対して,ほと
COURSE50 が進められている.この中で実用化の期待が大
んどゼロ成長であるものの,全消費量の過半数を占めてい
る
2)
きいアミン法はアミン液を 120℃以上に加熱する熱源が必
1)
.このため,産業部門にはこれまで以上のエネルギー
要になる.また,COURSE50 が目標とする CO2 分離で 10%
消費削減が求められている.
以上の CO2 削減を達成するためには,粗鋼生産量が 1000
なかでも特にエネルギー消費量の大きい鉄鋼分野に着目
万 t/年規模の製鉄所において 200 万 t-CO2/年以上の CO2 を
すると,製鉄所では転炉フード,連続鋳造設備のモールド,
分離する必要があり 3),それには,新たに 140℃の蒸気に換
鋼材加熱炉のスキッドなどで使用される冷却水の出口温度
算して 180 万 t-蒸気/年相当の熱源が必要になる.この蒸気
は 60~90℃と低く,従来の技術では回収が難しいため排熱
量は現在製鉄所で使用される総蒸気量とほぼ等しく,既に
として捨てられている.このような未利用温水廃熱は粗鋼
回収可能な排熱の大半を蒸気で回収済みの国内製鉄所では,
生産量 1000 万 t/年規模の製鉄所において 1000~2000 t/h 発
従来技術で更なる蒸気を回収し,CO2 分離に必要な量を確
生している.
保することは不可能である.従って,Cool Earth-エネルギ
一方,CO2 の分離・回収は Carbon Dioxide Capture and
ー革新技術計画のロードマップ通りに CO2 分離技術の導入
*
九州大学大学院 工学研究院 化学工学部門
〒819-0395 福岡市西区元岡 744
E-mail : [email protected]
**
岐阜大学工学部 機械システム工学科
〒501-1193 岐阜市柳戸 1-1
E-mail : [email protected]
***
岡山県立大学 情報工学部 情報システム工学科
〒719-1197 岡山県総社市窪木111
E-mail : [email protected]
を進めるためには,化石燃料を使うボイラーを設置するか,
従来蒸気を使っていた設備のエネルギー源を電力などのよ
り価値の高いエネルギーに振替える必要が出てくる.もち
ろんこれらの手段でも CO2 は削減できるが,これらの方法
はエネルギーの使用合理化に逆行し,大きなコスト増加も
招く.そこで,従来は棄てていた未利用低温廃熱から CO2
9
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5
分離に必要なエネルギーを再生し,回生する技術を開発・
実用化することが極めて重要になる.
添字
化学産業分野でのエネルギー消費量は,鉄鋼分野に次い
A
:領域 A
で多く,なかでも石油化学産業でのエネルギー消費量は,
a
:空気
化学産業の 53%を占めている.また,CO2 排出量は全体の
AB
:領域 A から B への移動
6%に及んでいる .しかし,石油化学業界の製造プラント
ads
:吸着
のエネルギー効率は世界最高レベルにあるため,革新的な
B
:領域 B
省エネルギー技術開発が喫緊の課題となっている.NEDO
des
:脱着
平成 21 年度エコイノベーション推進事業「石油化学業界に
in
:流入
おける革新的エネルギー変換に関する探索研究」 によると,
out
:流出
石油化学製品製造プラントで使用された温度領域別エネル
s
:水蒸気
ギー量は,143℃以上の蒸気のエネルギー利用量が極めて大
w
:水
きい.また,同様の石油化学製品製造に係る排温水と排ガ
z
:ゼオライト
4)
5)
スの排熱量に関する排出温度領域別データからは,30-
50℃の排温水と 80-150℃程度の排ガスが主要な未利用廃
2.既存の蒸気発生技術
熱であり,温水と排ガスの基準温度をそれぞれ 30℃と 80℃
既存の蒸気生成技術としてはボイラーが一般的である.
とすると,そのエネルギー量は製造時に使用した蒸気エネ
しかし,ボイラーは省エネルギー性が低いため(COP<1),
ルギーの 74%にも相当することが報告されている.このよ
その利用では化石燃料消費および CO2 排出削減を達成でき
うな現状から,50-100℃の未利用廃熱から 150℃以上,理
想的には 180℃程度の蒸気生成技術のニーズは極めて高い.
本報では,まず,既存の蒸気生成技術を述べ,著者らが
ない.このほか,圧縮式ヒートポンプが挙げられるが,120℃
レベルの開発研究が進行中で,COP は 3 – 6 程度であるが
汎用機で生成できる温度レベルは 100℃以下である.150℃
目指す吸着式ヒートポンプを利用した蒸気生成システムの
以上の蒸気発生を行うには,更なる研究期間が必要となる.
概要を説明する.さらに,本システムの性能評価の一例と
圧縮式ヒートポンプ開発の問題点としては,冷媒の選定,
して,温排水(100℃以下)から 150℃以上の蒸気生成の性
メカニカルシールの耐熱・耐圧性などがある.さらに,水
能を解析した.最後に,製鉄所における省エネルギー効果
を冷媒として用いるのであれば,圧縮比が大きくなってし
を示す.
まうこと,メカニカルシールと水との相性,不凝縮ガスの
混入などの問題も解決しなければならない 6)-9).
記号
蒸気再圧縮回収機(Vapor Recompression, VRC)も蒸気コ
cp
:比熱
[J/kgK]
ンプレッサーによる排蒸気の回収・再圧縮を行い,蒸気を
M
:質量
[kg]
再生する 10).現時点では,圧縮式ヒートポンプと同様に高
mw
:水の分子量
[kg/mol]
温生成は難しく,低圧低温の蒸気をせいぜい 100℃から
p
:水分圧
[Pa]
Pt
:全圧
[Pa]
また,吸収式ヒートポンプの昇温モードによる蒸気生成
Qdes
:ゼオライトの脱着熱
[kJ]
技術も考えられる.しかし,実際には,代表的な吸収剤で
R
:気体定数
T
:温度
[K]
それ以上の温度では腐食速度が大きくなり,耐食性の素材
T
:基準温度
[K]
の開発が必要となる 11).
V
:体積
x
:吸着量
[kg-水/kg-乾きゼオライト]
H
:吸着熱
[J/kg]

:空隙率
[-]

:蒸発潜熱

:密度
*
110℃へ加熱するために用いられている.
ある臭化リチウム水溶液では 120 ℃までの実績しかない.
[J/mol K]
[m3]
3.蒸気生成吸着式ヒートポンプの概要
吸着式ヒートポンプは,これまで冷熱生成技術として注
目され,多くの研究が報告されている 12).著者らの知る限
り,昇温モードを利用して蒸気生成を試みているのは,三
[J/kg]
輪の報告であるが,その内容は基礎研究に留まっている 13).
[kg/m3]
冷熱生成,温熱生成を問わず吸着式ヒートポンプの実用
10
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5
4.1 予熱工程
化への関門の一つは,如何にして吸着材と冷媒の熱交換速
度を高く維持するかということである.すなわち,粒子状
概略を図 3 に示す.生成器下部でゼオライトと水の接触
の吸着材を反応器内に充填した場合,粒子充填層の有効熱
する領域を領域 A とし,水と接触していない上部領域を領
-1
伝導率は 10 W/(mK)オーダーと非常に小さい.これが,熱
p4
平衡吸着量,x [kg-水/kg-ゼオライト]
交換器を介して吸着材内に蓄積された熱エネルギーを熱媒
体に伝える際に,十分な熱交換速度が得られない原因とな
る.そこで,熱交換器の伝熱面表面に吸着材を塗布・固着
するなどの技術が開発されている 14).また,経験的に気体
の流通経路を確保するための通気管を設置したり 12),熱伝
導率の高い材料を添加するなどしている.しかし,いずれ
にしても,反応器内に熱交換器および気体流路を設置する
ことは,装置の有する顕熱を増やす結果になるので望まし
いことではない.
p1
p: 水蒸気分圧 [Pa]
状態3
x3
吸着完了
x4
状態4
x2
状態2
x1
開始点 状態1
O
一方,ここで注目する蒸気発生システムでは,水系の吸
p3
p2
T1
T2
温度,T [K]
着を利用すれば,熱媒体も水(蒸気)であるので,熱交換
器を介さずとも良いことがわかる.本稿では,本システム
図 1
の可能性を示すため,水系の吸着材として代表的なゼオラ
吸着等圧線と基本サイクル
イトを用いることにする.シリカゲルも有力な吸着材候補
であるが,一般的に耐水性・耐熱性に問題があり,水との
接触で 180℃の蒸気生成を考える場合,反応器内の局所温
吸着による発熱,
温度,圧力上昇
バルブ:開/閉
度が 200℃以上になると予想されるため,シリカゲルの使
蒸気
バルブ:設定圧力
を超えた場合のみ
開放
吸着による発熱,
蒸気発生
蒸気
発生器
用は現状では難しい.
排水
排水
(a) 予熱工程
(b) 蒸気発生工程
図 1,2 に,ゼオライトの吸着等圧線図およびヒートポン
プサイクルの概略を示す.ゼオライト粒子を充填した蒸気
生成器を考える.ゼオライトは初期状態(状態 1)にある
湿潤ガス
とする.蒸気生成器に温水を導入し,温水の一部をゼオラ
バルブ:開放
イトに吸着させ,その吸着熱で生成器内温度を上昇,およ
残留蒸気の排出
脱着に伴う吸熱,
吸着材の再生
バルブ:閉→開
所定の圧力まで
低下させる
脱着に伴う吸熱,
温度低下
び,一部の温排水を蒸気させる.その結果,蒸気生成器の
温度は蒸気温度 T2,および水蒸気分圧 p2(状態 2)まで上
排水で予熱した乾燥ガス
(c) 減圧工程
(d) 再生工程
昇する(A:予熱工程).その後,さらに蒸気生成器内に温
水を導入し,吸着熱で目的温度の蒸気を生成する(B:生
図2
システムの概略
成工程).このときゼオライト吸着量は最大(状態 3)に達
する.以上の操作は主に蒸気生成器内の圧力を制御するこ
Ms,out
とで行う.その後,蒸気生成器の弁を開放し,生成器内を
Ms,B
減圧させ(減圧工程)状態 4 に達した後,ゼオライト粒子
を,加熱した乾燥空気に接触させて脱着させ,状態 1 に戻
領域 B
す(C-D:再生工程).
発生蒸気を
吸着して発熱
吸着式ヒートポンプはバッチシステムなので,連続的に
蒸気を発生させるために実際には多塔式のシステムとなる.
Mz,B
蒸気 Ms, AB
領域 A
Mw,A
水の吸着で発
熱,蒸気発生
4.数値モデル
Mz,A
低温排水
Tw,in, Mw,in
図1の各状態で吸着平衡が成り立っていると仮定し,1
塔の蒸気生成器に対する物質・熱収支から蒸気生成量を算
出した.なお,水蒸気は理想気体と仮定した.
図3
11
予熱過程の概略
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5
域 B とする.領域 A における水の物質収支は次式で与えら
温度上昇に消費された熱量である.
れる.
ここで空隙体積と投入水量,蒸気体積,蒸気温度,圧力
Mw, in – Ms, AB – Mz, A (x2A – x1) = Mw, A
の関係を求める.領域 A では粒子の隙間は水で満たされる
(1)
ので,空隙率をとおけば,
ここで,Mw, in は投入水質量,Ms, AB はゼオライトとの接触
Mw, A = {/(1 – )}(w/z) Mz, A
で蒸発し,領域 A から B へ移動した水蒸気質量,MzA は,
(5)
領域 A でのゼオライト質量である.左辺第 3 項はゼオライ
ここに,は密度である.領域 B の隙間に存在する水蒸気
トに吸着される水の質量を表し,x は吸着量(温度 T,水蒸
について状態方程式より
気分圧 p の関数)である.なお,領域 A のゼオライトは水
p2VB = (Ms, B/mw) R T2B
に浸っていることを考慮すると,x2A を温度 T2A,全圧 P2
(6)
での吸着量とする.Mw, A は,蒸発せずに領域 A の空隙(粒
VB は,領域 B での空隙体積,mw は水の分子量,R は気体
子の隙間)に存在する温水質量である.添え字の w,z,s
定数である.VB は,全空隙体積と領域 A に存在する水の体
は,それぞれ,水,ゼオライト,水蒸気である.また,数
積(MwrA/w)との差に等しい.よって,
字は図1中の各状態に対応する.領域 A での熱収支は次式
VB = {/(1 – )}{(MzA + MzB) /z} – Mw, A/w
で与えられる.
4.2 蒸気発生工程
cpw Mw, in (Tw, in – T*) – Ms, AB {cpw (T2A – T*) + 
予熱終了後,温水をさらに導入して蒸気を発生させる.
+ H Mz, A (x2A – x1) – cpw Mw, A (T2A – Tw, in) – cpz Mz, A (T2A – T1)
=0
(7)
蒸気発生器内は飽和状態となっていると考えられるので,
(2)
物質収支は以下のように与えられる.
左辺 1 項目は生成器へ流入する熱量,第 2 項は生成器から
Mw, in3 – Ms, out3 + Mw, A – Mz, A (x3– x2A) – Mz, B (x3 – x2B) – Mw3 –
流出する熱量,第 3 項は吸着による発熱量,第 4 および 5
Ms3 = 0
項は粒子の隙間に存在する水,およびゼオライトの温度上
昇に消費された熱量である.cp は比熱,H は吸着熱,Tw_in
左辺第1項 Mw,
*
(8)
in3
は蒸気発生用に導入する水質量,第 2
は反応器入口での水温,T は基準温度である.また,は蒸
項 Ms, out3 は発生器より排出される蒸気質量,第 3 項は予熱
発潜熱,T2A は沸点に一致し,ともに全圧 Pt の関数で与え
完了時に領域 A に存在した水,第 4,5 項は領域 A および
る.
B でそれぞれ吸着される水質量,第 6 項 Mw3 は蒸気発生工
領域 A で発生した水蒸気が上部(領域 B)のゼオライト
程で蒸発せずに粒子の隙間に存在する水質量,第 7 項 Ms3
に吸着され,温度上昇する.このとき,領域 B での物質収
は粒子の隙間に存在する蒸気質量である.熱収支は以下の
支は以下で与えられる.
ように与えられる.
Ms, AB – Ms, out – Mz, B (x2B – x1) = Ms, B
左辺第 1 項は領域 B へ流入する蒸気量,Ms,
cpw Mw, in3 (Tw, in – T*) – Ms, out3 {cpw (T3 – T*) + }
(3)
+ cpw MwA (T2A – T*) + H Mz, A (x3 – x2A)
out(左辺第 2
+ H Mz, B (x3 – x2B) – cpz Mz, A (T3 – T2A) – cpz Mz, B (T3 – T2B)
項)は反応器から排出される水蒸気質量,Mz, B は領域 B で
– cpw Mw3 (T3 – Tw, in) – Ms3 {cpw (T3 – Tw, in) + } = 0
のゼオライト質量,左辺第 3 項目はゼオライトに吸着され
(9)
た水蒸気質量である.右辺の Ms, B は,粒子の隙間に存在す
左辺第1項は流入熱量,第 2 項は反応器から流出する熱量,
る水蒸気質量である.なお,x2B は領域 B(温度 T2B,水蒸
第 3 項は予熱完了時に反応器下部(A 部分の粒子の隙間)
気分圧 p2)での吸着量である.
に存在した水の熱量,第 4 および 5 項は領域 A および B で
熱収支は以下のように与えられる.
の吸着熱,第 6 および 7 項は領域 A および B の顕熱,第 8
および 9 項は,粒子の隙間に存在する水の顕熱および残留
Ms, AB {cpw (T2A – T*) +  – Ms, out {cpw (T2A – T*) +  + cps (T2B
蒸気の熱量である.
– T2A)} + H Mz, B (x2B – x1) – cpz Mz, B (T2B – T1) – cps Ms, B (T2B
– T2A) = 0
予熱過程と同様に,粒子層の隙間に存在する水蒸気につ
(4)
いて,状態方程式より
左辺第 1 項は領域 A から B への熱の流入量,左辺第 2 項は
p3Vs3 = (Ms3 /mw) R T3
熱の流出量,左辺第 3 項目はゼオライト吸着による発熱量,
第 4,5 項はゼオライト,および粒子間に存在する水蒸気の
(10)
ここで Vs3 は,粒子層の空隙に存在する水蒸気体積である.
12
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5
り補われるため,Mwdes は必要な排水量の最大値である.以
式(7)と同様に,
Vs3 = {/(1 – )}{(MzA + MzB) /z} – Mw3 /w
上の各工程での物質収支および熱収支を連立させた.表1
(11)
に計算で用いたゼオライト(13X ゼオライト)と水,水蒸
となる.右辺第一項は粒子以外の体積を表し,第二項は粒
気の物性値と計算条件を示す.ゼオライト-水蒸気の吸着
子層の空隙部に存在する水体積である.
熱は実測データに基づいた値である.ゼオライト-水の吸
4.3 脱着過程(減圧工程+再生工程)
着熱は,これに蒸発潜熱の影響を考慮した.なお,予熱お
蒸気発生過程の後,粒子間隙に残っていた水をドレイン
よび蒸気発生工程では容器顕熱の発生蒸気量に及ぼす影響
から排水し,脱着用の乾燥空気を導入する.乾燥空気は排
を考慮するため影響薄肉円筒容器に従って円筒状の耐圧容
水で予熱して導入する.本計算では,熱交換(予熱)前の
器を設計した.一例として最高圧力 1.0 MPa の場合,内径
乾燥空気温度を Tain,予熱後の乾燥空気温度を T1,蒸気発
0.65 m × 高さ 3.0 m × 肉厚 6 mm のステンレス製容器
生器出口温度は脱着による吸熱のため温度 Tdes まで低下す
を考慮している.これは,ゼオライトの顕熱の 23%に相当
ると仮定する.このとき脱着熱 Qdes は空気から供給された
する.実際には容器の材質および肉厚は圧力に依存し,排
熱に等しいので
水の注入方法によっても容器形状が変化するため,容器顕
Qdes = H Mz (x3 – x1) = cpa Ma (T1 – Tdes)
熱の影響は異なる.
(12)
ここに,Mz は蒸気発生器内の全ゼオライト質量,( = MzA +
5. 計算結果
MzB ) を,Ma は脱着空気質量である.Tdes は脱着温度である.
80℃の排水温度から 180℃の蒸気を発生させた場合を例
排水と乾燥空気の熱交換については,簡単のため排水は T1
として,初期吸着量 x1 と蒸気発生量および脱着必要熱量の
から Tain まで冷却されると仮定する.このとき排水が失っ
関係を図4に示す.これより,初期吸着量は発生蒸気量と
た熱量と乾燥空気の得た熱量は等しいので,
脱着必要熱量に大きく影響するので,ゼオライトの初期吸
cpa Ma (T1 – Tain) = cpw Mwdes (T1 – Tain)
(13)
p1 = 1.7 Pa
200
と与えられ,これより,
(14)
蒸気発生量 [kg]
cpa Ma = cpw Mwdes
式(12)および(14)を組み合わせ,乾燥空気予熱のための熱交
換効率を 0.8 と仮定すると,脱着に必要な排水量 Mwdes は
p1 = 55.2 Pa
150
p1 = 236.6 Pa
100
以下の式で与えられる.
Mwdes = {H Mz (x3 – x1)} / {0.8 cpw (T1 – Tdes)}
0.1
初期吸着量 [kg−w/kg−z]
式(15)より脱着に必要な温排水量を求めた.なお,脱着熱
1000
0.7
Mz [kg]
1000
4400 (固-気)
x1 [kg/kg]
0.08
2200 (固-液)
x3 [kg/kg]
0.27
z [kg/m3]
2240
p1 [Pa]
100
cpw [kJ/kgK]
4.2
P1 [Pa]
101300
w [kg/m ]
1000
Tw, in [K]
323 – 363
cps[kJ/kgK]
2.3
Tain [K]
293

0.55
Tdes [K]
313
H [kJ/kg]
3
p1 = 1.7 Pa
物性値および計算条件
脱着必要熱量 [MJ]
cpz [kJ/kgK]
0.2
(a)蒸気発生量
の一部は実際にはゼオライトおよび蒸気発生器の顕熱によ
表1
p1 = 1950.1 Pa
50
(15)
800
p1 = 55.2 Pa
600
p1 = 236.6 Pa
400
p1 = 1950.1 Pa
0.1
初期吸着量 [kg−w/kg−z]
0.2
(b)脱着必要熱量
図4
初期吸着量が蒸気発生量,脱着必要熱量へ及ぼす熱
量の比較
13
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5
着量を出来る限り小さくすることが重要である.そのため
こで国内の主要製鉄所(10 製鉄所-12 地区)において,NEDO
には,脱着工程に使用する乾燥ガスの水蒸気分圧を極力小
の COURSE50 プロジェクトの大きな成果の一つとして期
さくする必要がある.図中には初期吸着量に対応した脱着
待されるアミン法を適用すると仮定し,その CO2 分離に必
空気での水蒸気分圧 p1 も併示している.すなわち,80℃の
要なエネルギーを本研究で提案する水蒸気回生システムで
排水で x1=0.1 を得るには,空気の水蒸気分圧は 55.2Pa(= 露
賄うものとする.具体的には,国内の 10 製鉄所(12 地区)
点温度-26℃)である.デシカント空調機などで,露点温度
へ,未利用低温排熱の高温蒸気回生システムで賄える 150
-60℃の空気を再生できることを考慮すれば,この乾燥空気
万 t/年・地区規模の CO2 削減システムを導入する場合を考
の製造は実現可能であると考えられる.
える.これは,国内全体で 1,800 万 t-CO2/年の削減となる.
次に,排水温度と生成蒸気温度が蒸気発生量と蒸気発生
これを実行するのに,COURSE50 の開発目標であるアミン
熱量に及ぼす影響を検討した.その結果を図5および6に
液 120℃以上への加熱と 2.0GJ/t-CO2 が達成されたとして,
示す.各図の縦軸は投入水量(熱量)で規格化してある.
蒸気温度 140℃(2.8GJ/t-蒸気),熱交換器効率 80%を仮定す
まず,蒸気温度より排水温度の方が発生蒸気量・熱量に大
ると,必要な蒸気は,1,800 万 t-CO2/年×{(2.0GJ/t-CO2/
きく影響することがわかる.これは生成蒸気温度により発
2.8GJ/t-蒸気)/0.8}=1,600 万 t-蒸気である.この蒸気を未
生蒸気量は変化するが,利用できる熱自体は排水温度によ
利用の低温排熱から再生して回生する.仮に,分離後の CO2
る初期条件で決まり,同時に脱着のための熱量も蒸気温度
を地下貯留せずに大気放散したとしても,省エネと CO2 削
より排水温度に依存するからである.また,排水温度 80℃,
減が達成される.その理由は,製鉄所では高炉ガスを発電
蒸気温度 140℃のとき,質量比で約 0.038,熱量比では約 0.57
燃料として使っており,CO2 を除去した高炉ガスを用いる
であった.排水温度が 50℃の場合でも,排水が有する熱量
0.1
の 5-6 割は再生できることがわかる.この熱損失は主にゼ
発生蒸気質量/投入水質量
オライトの顕熱分である.以上の計算は吸着と脱着の1サ
イクル分を考慮した計算結果である.次に,適用するプラ
ント等にて,予熱の不要な温度の比較的高い排気ガスを脱
着に使用できる場合を考える.吸着のみを考慮した場合の
計算結果を図7および8に示す.先ほど示した吸着と脱着
の1サイクルを考慮した場合と比べ,発生蒸気量比,熱量
比ともに1オーダーほど向上することがわかる.なお,図
8では,排水温度が低いほど,発生蒸気熱量比が高い結果
排水温度
50℃
60℃
80℃
90℃
70℃
0.05
0
120
140
160
180
蒸気温度 [℃]
となっているが,これは,基準温度を 20℃としているため,
同じ投入水量であっても排水温度の低い方が投入熱量を小
図5
さく見積もるためである.計算では,排水温度の低い場合,
各排水温度での蒸気温度と蒸気発生量比(蒸気発生
量/投入水量)1サイクル
発生する吸着熱が少なくなるため,投入すべき水量も少な
くなる.このため,排水温度が低いほど投入熱量が小さく
0.65
なる傾向にある.
発生蒸気熱量/投入水熱量
以上より,脱着工程が本システムに大きく影響を及ぼす
ことがわかった.プラントでの排熱やヤード窒素などを利
用できれば,加熱乾燥空気製造のエネルギーは新たに投入
するエネルギーとして考慮する必要はないため,高い効率
で稼動できる可能性もあることが示された.
6.省エネルギー・CO2 削減効果の推算
60℃
80℃
90℃
70℃
0.6
0.55
0.5
6.1 CCS導入時のCO2分離のエネルギー源として活用
排水温度
50℃
120
140
160
180
蒸気温度 [℃]
以上の計算を基に,本システムを製鉄所へ適用する場合
を試算した.製鉄所へ CO2 分離・回収技術の適用する際の
図6
最大の課題は分離に必要なエネルギー源の確保になる.そ
生熱量/投入熱量)1サイクル
14
各排水温度での蒸気温度と蒸気発生熱量比(蒸気発
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5
ことで,ガスタービンコンバインド発電の効率が 48 から
1. ゼオライトと温排水の直接接触で生成する飽和蒸気
52%程度へ向上できることが最近の研究で明らかにされて
量と,ゼオライト再生に用いる乾燥空気を加熱するた
いる
15)
.ちなみに,10 製鉄所(12 地区)で副生ガスによる総
めに必要な温排水量を見積もり,1 サイクルあたりに
発電量は 300 億 kWh/年以上であることから,CO2 分離に未
必要な温排水と発生蒸気の質量,熱量をそれぞれ見積
利用の排水を使えば,仮に分離した CO2 を地中貯留せずに,
もった.排水温度 80℃,蒸気温度 140℃のとき,質量
大気放散しても,25 億 kWh/年の電力が創出でき,大幅な
比で約 0.038,熱量比では約 0.57 であった.脱着工程
省エネと CO2 削減になる.この創出電力は,COURSE50 で
で温度の高い排ガス等を利用できれば更なる効率改
実施されている物理吸着法による CO2 分離および貯留する
善が期待できる.
際のエネルギー源として使うことができる.
もし水蒸気回生技術を用いない場合,化石燃料焚きボイ
2. 国内製鉄所だけでも,本システム活用で潜在的に省エ
ラーを用いて,蒸気を発生することになる.燃焼ボイラー
ネルギー量が CO2 分離エネルギー源として 129 万 kL/
の熱効率を96%とすると,1,600万t/年の蒸気発生に必要なエ
年,低圧蒸気発生用に 13 万kL/年の最大で原油換算
ネルギーは原油換算で,1,600万t-蒸気×2.8GJ/t-蒸気/0.96/
142 万 kL/年と試算される.
(38.2GJ/kL×0.95)=129万kL/年となり,CO2の分離・回収では
謝辞
石油燃料焚きボイラーを熱源にした場合,約130万kL/年の
化石燃料の消費を増やし,それに伴うCO2排出量が約340万
本研究の一部は,石油化学工業協会,九州大学グローバ
t-CO2/年増加する.これはエネルギーの使用合理化に反し,
エネルギー資源輸入国である我が国ではエネルギーコスト
0.7
の増加を招き,産業競争力が低下する.
発生蒸気質量/投入水質量
6.2 燃料による低圧蒸気の発生削減
製鉄所では鉄鋼生産に 0.2t-蒸気/t-steel が消費されており,
その殆どは排熱回収によって得られているが,約 10%は燃
料を燃焼するボイラーにより得ている.この量は,0.2t-蒸
気/t-steel×0.1×8000 万 t-steel/年=160 万 t-蒸気/年となる.こ
の 160 万 t/年の蒸気発生に必要な熱量は,燃焼ボイラーの
熱効率を 96%とすると,原油換算で,160 万 t-蒸気×2.8GJ/t蒸気/0.96/(38.2GJ/kL×0.95)=13 万 kL/年である.燃焼ボ
60℃
80℃
90℃
70℃
0.6
0.5
0.4
イラーによる発生蒸気は,本未利用低温排熱の高温蒸気回
排水温度
50℃
120
140
160
180
蒸気温度 [℃]
生システムで代替すれは削減可能となる.但し,蒸気単価
を 2000 円/t とすると,従来からの指標である蒸気代替用途
図7
各排水温度での蒸気温度と蒸気発生量比(蒸気発生
および燃料削減の単純省エネ効果だけでは,経済性効果の
量/投入水量),吸着のみ
ポテンシャルは 32 億円/年程度のため,省エネおよび CO2
排出量削減に対する戦略的な価値は極めて過小評価されて
15
発生蒸気熱量/投入水熱量
しまうことになる.このことから,本技術の価値は前項で
示したように,他のエネルギー消費設備と組み合わせたシ
ステムを構成して,未利用低温排熱の利用を積極的に拡大
することによって,新たな革新的省エネルギー技術を生み
出すために,コアとなる省エネ要素技術といえる.
7.結論
本研究では,温水とゼオライト粒子を直接接触させて蒸
排水温度
50℃
60℃
80℃
90℃
10
5
120
気を生成する技術(直接熱交換方式)の新規開発を目的と
70℃
140
160
180
蒸気温度 [℃]
して,プロセスの概念を解説し,蒸気発生量と省エネルギ
図8
ー効果を見積もったところ,以下のことがわかった.
各排水温度での蒸気温度と蒸気発生熱量比(蒸気発
生熱量/投入水熱量),吸着のみ
15
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5
械学会論文集 B, 64, (1998), 2991-2997.
ル COE プログラム「新炭素資源学」,および,科学研究費
9)
補助金(課題番号 22760691)の助成により行われた.ここ
尾崎浩一, 遠藤尚樹, 矢部
彰, 小林敏雄; 気液二相
圧縮過程を用いた圧縮式ヒートポンプの研究(準定常
に謝意を表す.
圧縮過程による成績係数の向上), 日本機械学会論文
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3)
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究(第 1 報, 圧縮機の概念と基本運転特性), 日本機
16
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