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e-NEXI
2009 年 12 月号
➠特集
インサイド ベルン・ユニオン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
前ベルン・ユニオン(BU)議長
今野 秀洋
➠NEXI ニュース
第 6 回日中バイ協議の開催について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
発行元
発行・編集 独立行政法人日本貿易保険(NEXI)
総務部広報・海外グループ
e-NEXI (2009 年 12 月号)
インサイド ベルン・ユニオン
前 ベルン・ユニオン(BU)議長
前 日本貿易保険(NEXI)理事長
今野 秀洋(こんの・ひでひろ)
ベルン・ユニオン(BU)とは、各国の貿易保険機関などが集まる国際組織である。 日本は、1970 年に
通商産業省貿易保険課が加盟し、現在は NEXI がその地位を引き継いでメンバーとなっている。筆者は、
2009 年 10 月までの 2 年間、議長(President)としてこの国際組織の運営に携わった。そこで内側から見
た BU(正式名は International Union of Credit and Investment Insurers)を紹介し、この国際組織につ
いてご理解いただく一助としたい。
BUソウル総会(2009 年 10 月)で
ベルンにないベルン・ユニオン
ときどき、ベルン・ユニオンの本部はスイスにあるの? と聞かれることがあるが、BU の事務局はロンドンに
所在し、レマン湖のほとりのあの美しい町には何もない。ベルン・ユニオンの名前は、1934 年の第一回会
合がベルンで開かれたことに由来する。ちなみに、当初メンバーは、仏、英、伊、西の 4 つの貿易保険機
関だったが、言い伝えによると会合場所をベルンにしたのは、会議の提唱者がそこで愛人と逢うついでがあ
ったための由。古き佳き時代というべきか。
なお、そのおかげで、BU は今でもスイス法人として登録されている。
多様なメンバー
現在 BU のメンバー数は、49 で、この中には公的貿易保険機関をはじめ、公の機能を持った民間会
社、および純粋な民間保険会社が含まれている。
そのなかで、公的機関および民間会社の公的部門は輸出信用機関(ECA)とよばれ、数の上で最も
多い。ほとんどの先進国と新興国は ECA を持っており、近年では途上国でも ECA を持つ国が増えている。
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そのうち BU の正式メンバーになっているのは先進国・新興国と主要途上国の ECA であり、途上国で最近
生まれた ECA は別途プラハ・クラブという姉妹組織をつくって活動している。プラハ・クラブを入れると、BU フ
ァミリーのメンバーは 75 にのぼり、かつその数は年々増加している。
民間メンバーは、出自も事業形態もさまざまだが、そのなかで目立つのは二種類の保険会社である。
その一つは、ATRADIUS, COFACE および Euler Hermes という欧州の取引信用保険会社である。このい
わゆるビッグスリーは、欧州統合にともなって欧州域内の短期貿易信用も扱うようになり、さらにそれが発
展して先進国およびカントリー・リスクの少ない一部途上国向けの短期貿易信用も対象とするようになっ
た。もう一つは、民間の海外投融資にともなうカントリー・リスクや信用リスクを対象とする保険を取り扱うも
ので、CHARTIS(旧 AIG)、CHUBB など、米系の企業が多い。
総会会議風景
ECA と民間会社メンバーとの本質的な違いは、前者では最終的なリスクの取り手が政府、つまり納税
者なのに対し、後者では株主であることである。むろん民間保険会社は再保険市場を活用することが多
いため、最終的なリスクの帰属先には再保険会社の株主も入る。このような ECA と民間会社の違いは、
それぞれの行動様式に反映される。ECA は自国の輸出や対外投資を振興するという公的なマンデートの
もとに事業を展開し、民間保険会社は利潤動機に従って行動する。
公的な ECA と民間の保険会社が一つの国際組織を構成しているのは、考えようによっては面白い現
象である。"民業圧迫“などという言葉から類推すると、”呉越同舟“の観なきにしもあらずといえよう。しか
し、実際に BU のなかでは、公的機関と民間会社が角突きあわせる光景に出会うことはなく、むしろ実に
和気藹々と意見交換をしている。唯一壁と言えそうなものは、ECA だけで構成される中長期委員会とい
う会議の存在だが、これは ECA が OECD 輸出信用ルールという独特の規範に縛られており、民間会社が
各国独禁法の制約の下にあるという法的環境の違いによって説明できる。それですら、近年では委員会
の境を越えた横断的議論の場が多くつくられる傾向にある。
公的機関と民間会社が同じ船に乗っているわけは、その設立経緯をみると明らかである。 実は BU は
設立当初から、公的機関と民間会社の集まりだった。これが 1934 年に帝政ロシアの債務問題について
話し合ったのが BU の始まりといわれている。以来、国境を越えた取引リスクを引き受ける保険者達は、債
権の保全・回収に共通の利益を見出してきた。そこから、カントリー・リスク評価、取引手順の標準化、経
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験・ノウハウの相互交換などという現在の活動内容が出てきたのは自然のなりゆきだったといえよう。
今日各メンバーの立場に立ってみると、まず ECA としては、基本的に各国に一つしかないために、BU を
通じて他国の ECA と交流することが、同業他社のノウハウを学ぶ貴重な機会となる。同時に、ECA といえ
ども独立採算(長期収支相償)を旨として事業を遂行しており、民間メンバーの持つ市場センスから多く
の示唆を得ることができる。他方、民間メンバーからすると、ECA の持つ豊富な情報にアクセスできることに
加えて、ECA と肩を並べて BU に参加しているということ自体が、国際的信用を高めるメリットをもたらして
いるようである。
BU 総会会議場風景
世界システムの一環としての ECA
ECA というと、ニッチな分野の特殊な機関というイメージが強いが、BU の場を通じて全体を見渡すと、
実はこれが国際経済システムの重要な一環を形成していることがわかる。
プラハ・クラブを含む BU ファミリーに加盟する ECA64 機関の年間総与信額は、リーマンショック前の
2007 年ですでに約 5 千億ドルと、世界銀行グループの総与信額の約 20 倍にのぼっている。しかも、日、
米、独、仏など主要国の ECA の財務状況に共通して見られる現象として、1980 年代初頭のメキシコ債
務危機に始まって、中南米債務危機、イラン・イラク戦争、ソ連の崩壊、湾岸戦争と相次ぐ国際危機の
なかで、いずれの機関でも保険金支払いが累増し、大幅な債務超過に陥った。ほぼ 20 年にわたって債
務超過を続けた後、各々の ECA が漸く財務の健全性を回復するには、今世紀初頭の世界的好況と資
金余剰を待たなければならなかった。つまり、ECA の財務をアグリゲートすると、変動を繰り返す世界金融
状況に対して、貿易と実物投資の安定的な流れを支えるショック・アブソーバーの役割を果たしている姿
が見えてくる。
今後の国際情勢を展望すると、地政学的なリスクはむしろ増大しており、金融的なブームとバストの繰
り返しも避けられないと見ざるをえない。これに対して、IMF や世界銀行などの国際機関の対応には限り
があり、各国政府が運用する ECA が貿易金融の安定装置として重要な役割を担い続けるものと考えら
れる。
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華やかな集まり
BUの会議に出ていると、汎欧州主義の歴史を感じることがある。中世欧州の貴族社会は血縁関係
で結ばれていたそうだが、いまでも西洋の人々の間では、国を越えたつながりに関与することに大変高い価
値がおかれているようである。各国 ECA の優秀な幹部が、雑用といってもよいBUのさまざまな仕事に、惜
しげもなく時間を割いている様子は、実利だけでは説明しきれないものを感じる。2009 年の 9 月に、パリの
NEXI 事務所で開かれた管理委員会の折にも、BU 創立 75 周年を記念して歴代議長と事務局長をディ
ナーに招待したが、欧州域内はもとよりトルコやイスラエルからまでも、たかだか 3 時間程度の夕食会に航
空運賃をいとわず駆けつけてくれた。そういえば BU のディナーといえば、昔の写真を見るとタキシード姿で宮
殿のような部屋に座っており、まさに貴族の集まりのようである。
今日では、BU のメンバーは新興国・途上国にも広がり、会議も儀礼的な要素は少なくなって、実務的
な内容の濃いものになっている。それでも、夕食会などに歴史の残り香のような華やいだ雰囲気が漂って
おり、これが BU という会議体の権威保持にそこはかとなく役立っているような気がする。
BU 議長主催ランチ会場風景
BUルールとは
BU では、輸出信用条件に関する規律の確立・維持という観点から、さまざまな了解事項を定めてきた。
それが時とともに錯綜してきたので、1970 年に一般了解事項(General Understanding)という形で諸規
律の整理取りまとめが行われ、それが逐次改定されてきたのが「BU ルール」といわれるものである。その後、
ECA の中長期保険については、OECD のガイドラインが整備され、加えてメンバーの増加と多様化もあっ
て、従来の BU 独自の規制的ルールは実情に合わなくなってきた。そのような状況変化を踏まえ、2008 年
10 月のバンフ総会において、一般了解事項が廃止され、新たに、10 の指針(Guiding Principles、以下
GP)とこれをベースとした「短期 GP」、「中長期 GP」、「海外投資に関する GP」という分野別指針が採択
された。 それが今日 NEXI でも適用されているものである。
議長の役割
議長というと、会議の議事進行役というイメージが強いが、実はそれは仕事のほんの一部にすぎない。
BU の Statute(基本規約)では、President が、事務局長の任命、諸会議の招集など BU の運営責任
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を負うことになっている。そのため、まず議長就任演説や年頭所感などを通じて BU の活動方針を明らかに
し、メンバーの中から一定のルールで互選された管理委員会に相談しながら、事務局の助けを借りて、そ
の活動方針にそって BU を運営していくのがこの 2 年間の仕事だった。ただ、事務局といっても全部で 6 人
程度の小さい所帯なので、主なメンバーにいろいろ仕事を割り振ると同時に、NEXI の多くの役職員にサポ
ートしていただいた。
筆者が当初に掲げた活動方針は、次のようなものだった。
①
Guiding Principles を完成して、メンバーが多様化している BU の Identity を確立するとともに、B
Uおよび貿易保険事業に関する対外イメージの向上をはかること、
②
新しいイントラネット導入、データベースの改良、ワークショップの充実などを通じて、メンバー間の
実務レベルの情報交換・ノウハウの交流を拡充すること
前者の Guiding Principles は、筆者が Vice President のときに議長をつとめた作業部会ででき上がっ
た10の基本原則を、短期、投資、中長期の各分野にブレークダウンして、時代遅れになった旧 General
Understanding に代わるものにしようというもの。後者は、BU がメンバーにとって本当に役立つためには、メ
ンバーの経営幹部の間だけではなく、実務レベルでさまざまなネットワークが機能しなければならないという
考えにもとづくものだった。
結果はどうだったかというと、①の Guiding Principles は大勢の人々の膨大な作業を経て、完成した。
②の方は、事務局の IT 担当者がしばらく空席になったことなどのハプニングもあり、データベースなどまだま
だし残しがあるが、メンバーの実務レベルの交流には弾みがついてきたと感じている。
以上のことはともかくとして、実はこの2年間の最大のテーマは世界金融危機対策であった。とくに 2008
年 9 月のリーマンショックを契機に、金融市場が突然機能停止状態に陥ってからは、セーフティネットとして
ECA の鼎の軽重が問われることになった。NEXI では、海外子会社の運転資金支援など、機動的な対応
につとめたが、BU としても、各地の市場情報の交換、ECA 間の対応策についてのノウハウ交流、ECA の
活動に関する対外アピールなどに全力をあげて取り組んだ。アジア再保険ネットワークもそのなかから出て
きたものである。
個人的な感想になるが、金融危機対策についても、また BU メンバーを実務上裨益するための諸事業
についても、もっとやるべきだったと思うことは少なくない。 一つ勇気付けられたのは、議長退任の際に、事
務局はじめ何人かの友人達から、この 2 年間でアジア各国の ECA が自信をつけて積極的に発言・行動
するようになったと言われたことである。これはアジア諸国にとってプラスだったということに加えて、BU という国
際組織の将来を念頭においての言葉だったと思われる。BU がグローバルな組織として発展していくために
は、成長するアジアを組織の中に取り込むことが不可欠だから。アジアから出た議長としては、これを以って
瞑すべすしということであろう。
末筆ながら、この 2 年間 BU 運営にご協力いただいたお客さま企業の皆様と NEXI 役職員の皆さんに
心からお礼を申しあげたい。
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第 6 回日中バイ協議の開催について
2009 年 12 月
独立行政法人 日本貿易保険
中国政府の輸出信用機関である SINOSURE(China Export &Credit Insurance Corporation)と
NEXI との間では、年に1回、定期的に意見交換を行うバイラテラル協議を開催していますが、本年の会
合は、11 月 18 日、19 日の両日、京都で行われました。
本協議は、従来、副総裁と理事レベルでの協議として行ってきましたが、今回は、SINOSURE 側から
は王毅(Mr. Wang Yi)総裁をヘッドに梁志东(Mr. Liang Shidong)副総裁、短期及び中長期・投資引
受部門、国際部門、カントリーリスク分析部門の関係者等、総勢9名が来日しました。NEXI 側からは、
鈴木理事長をヘッドに、加藤理事、シンガポール事務所長、総務部、営業第1部、営業第2部、債権
業務部から直接の担当責任者など9名が参加しました。また、両機関の間で、協力のための覚書
(MOU: Memorandum of Understanding)への署名式も 11 月 18 日に行われ(別添「貿易保険ニュース」
参照)、今回の会合はトップ同士の意見交換と MOU の締結により、SINOSURE と NEXI との協力促進の
上からも新たな一歩となりました。
今回の協議は、両機関にとって世界的な金融危機の中での初めての本格的な意見交換となり、双
方のビジネスの状況、金融危機対応の現状、ECA の果たすべき役割などについて、率直かつ真剣な議
論を行いました。さらに、貿易保険商品や引受の手続きなど実務面でも詳細な質疑を行い、議論の時
間が足りない状況となり、懇親会や議場会でも活発に情報交換を行いました。次回もトップ同士の協議
とし、協議の時間を拡張することなども提案もあり、貿易保険分野での日中間の関係は、今後、一層緊
密なものとなっていくこととされています。
折しも紅葉の美しい季節の中で、京都の町を散策し、中国側のみなさんにも日本の文化を堪能して
いただけたようです。個人レベルでも相互の交流を深めたことは、日常的な情報交換ネットワークの強化に
大いに役立つものとなりました。
メンバー全員での集合写真
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協議風景
発言する王総裁
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