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e-NEXI 2013 年 12 月号 ➠特集 2013 年度上半期の保険引受実績について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 独立行政法人 日本貿易保険 営業第一部 営業企画グループ ➠カントリーレビュー 潜在力と危うさを併せ持つモンゴル経済・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 ➠NEXI ニュース ~最前線で働く~ NEXI パリ事務所長最近の活動報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 発行元 発行・編集 独立行政法人日本貿易保険(NEXI) 総務部 総務・広報グループ e-NEXI (2013 年 12 月号) 1 2013 年度上半期の保険引受実績について 独立行政法人 日本貿易保険 営業第一部 営業企画グループ 2012 年度の日本貿易保険の引受実績は、リーマンショックの影響により引受が大幅に減少した 2009 年度の 8.2 兆円を除けば過去 5 年間で最低額となる 8.3 兆円であった。大型案件の引受が増加したに も関わらず 2012 年度の引受実績が振るわなかった要因には、2012 年年末まで続いた円高、また主に欧 州や新興国等の我が国からの輸出相手先国の景気停滞により、貿易一般保険をはじめとする輸出を 対象とした保険の引受が大きく減少したことがあげられる。 2013 年に入ると状況は一転して為替は円高の是正傾向が続いており、欧州等向けの輸出は徐々に 回復しつつある。これに伴い、2013 年度上半期(4~9 月)における日本貿易保険の引受実績は対前年 度同期比で 26%増の 4.6 兆円となった。このままの傾向が続けば、2013 年度はリーマンショック前の約 10 兆円には及ばないまでも過去 5 年間で最多の引受実績額を達成する可能性が出てきた。 一方、輸出を対象とした保険の保険引受額を見ると、必ずしも引受額が伸びてはいない輸出貨物や 国・地域も存在する。また、為替の影響によって外貨建てでは保険引受金額が同じであっても、2013 年 度上半期の引受金額(全て円換算して計上)は昨年度よりも多く計上されている部分もある。以下に、 輸出を対象とした保険を中心として、投資又は融資を対象とした保険の概要についても、それぞれ 2013 年度上半期の日本貿易引受傾向を見てゆくこととする。 図 1 上半期の保険引受実績 (全保険種) 出所:日本貿易保険 注:受再はアジア再保険、フロンティング、米輸銀からの航空機再保険等を含む。 1 e-NEXI (2013 年 12 月号) 2 図 2 地域別保険引受実績 出所:日本貿易保険(金額ベースで割合を計算) 1. 輸出を対象とした保険 (1) 2013 年上半期の保険引受動向 決済期間が 2 年未満である輸出を対象とした保険には、貿易一般保険(図 3 の個別、消費財、設備 財、企業総合、技術提供)、限度額設定型保険、簡易通知型包括保険、中小企業代金保険、輸出 手形保険、そして日系企業の海外現地法人の現地からの輸出を対象とする受再があり、それぞれの引 受状況は以下の通りである。 図 3 輸出(2 年未満案件)を対象とした保険の引受実績 出所:日本貿易保険 注:受再はアジア再保険、フロンティング等を含む。 2 e-NEXI (2013 年 12 月号) 輸出を対象とした保険のうち、貨物別の内訳が確認できる保険種1の引受金額を見ると、表 1 の通りで あった。同表の対前年度同期比をみると、財務省の貿易統計における 2013 年度上半期の我が国から の主要商品別輸出2と近似の傾向を示している。 表 1 輸出を対象とした保険:2013 年度上半期 引受実績の貨物別内訳 出所:HS コード等より日本貿易保険作成 表 1 において、引受金額の大きい上位 3 貨物である鉄・鉄鋼製品輸出、プラント等(技術提供等を含 む)、乗用車・貨物自動車等、は 2012 度上半期においても同じく上位 3 貨物であった。また、鉄・鉄鋼 製品は消費財包括保険で、プラント等輸出は設備財(機械)や技術提供等包括保険で、乗用車・貨 物自動車等は主に企業総合保険による保険引受が多く、図 3 においてこれらの各保険種の引受金額 が伸びている(但し、設備財(機械)では産業用機械や原動機類の輸出額減少の影響から引受金額が 減少している)。 一方、船舶・舶用部品や産業用機械(建機含む)、原動機類は円高是正傾向となってからも引受金 額は伸びていない。主な原因として、船舶等については 2010 年から続く市況の低迷が、産業用機械や 原動機類については主要輸出先の新興国(中国他)が景気低迷のため未だに需要回復していない事が 考えられる。 1 対象は貿一・中小・手形。限度額、簡易包括、受再は簡易引受のため貨物別の引受額を確認することができない。 http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2013/2013_416.pdf p.3 の伸び率参照。この財務省統計は船 積時点における輸出額の統計を統計品目コードに基づき分類したものである一方、日本貿易保険では保険種によって は輸出契約時点で輸出額が計上されること及び統計品目に複数商品・役務を含む「プラント等」という独自のコードが加 わっていること等から、正確には両者の統計には時点や分類方法の違いが存在するが、大まかな傾向の比較は可能であ る。 2 3 3 e-NEXI (2013 年 12 月号) 表 2 輸出を対象とした保険:引受実績の国別内訳 (上位 10 ヶ国) 出所:日本貿易保険 注:船積前カバーのある保険種において、仕向国と支払国等が異なる場合には双方の引受額が計上されている。 次に表 2 で 2013 年度上半期の国別引受実績をみると、中国、韓国、インドネシアといった我が国から の主要輸出先向け輸出の保険引受額が減少していることが分かる。一方、同じアジア地域ながら 2013 年度上半期には大型プロジェクトの増加に伴う原動機類や産業用機械輸出の増加よってベトナム(前 年度同期は 13 位・676 億円)が躍進し、マレーシアも原動機及び産業用機械類の輸出がそれぞれ 2 倍 近く伸びたことから全輸出についても対前年度同期比で倍以上となった。 (2) 為替レート及び我が国からの輸出額全体の推移との関係 2013 年度上半期の為替レートの平均値(TTM の月平均値)を 2012 年度上半期の平均値と比較す ると、対ドルで 24.5%、対ユーロで 29.2%の円安であった(図 4 参照)。 また、2013 年上半期の我が国からの輸出総額(円建て)は 2012 年度上半期の 9.8%増であった(図 5 参照)。 但し、輸出における価格、数量及び単価につき 2010 年を基準年とした指数で見てみると、2013 年度 上半期の輸出総額の増加要因は主に輸出単価及び輸出価格(為替減価含む)によるところが大きく、 数量ベースでみると、むしろ輸出は減少(特に米国及びアジア向け)していた(表 3 参照)。 4 4 e-NEXI (2013 年 12 月号) 図 4 為替レート 5 図 5 我が国からの輸出額の推移 出所:三菱 UFJ リサーチより作成 出所:財務省貿易統計より作成 表 3 我が国からの輸出額の要因分析 出所:財務省貿易統計3より作成 一方、2013 年度上半期の輸出を対象とした保険の引受額は対前年度同期比で 22%増加しており、 表 4 の通り我が国の全輸出に占める保険引受額の割合も 1.1%増加した。 表 4 全輸出に対する輸出を対象とした保険のカバー率 出所:財務省貿易統計及び日本貿易保険データより作成 (3) 今後の見通し 現在の為替レート及び輸出傾向が続いた場合には、2013 年度通年の輸出を対象とした保険の引受額 は過去 5 年間で最多の引受実績額を達成する可能性が高いと考えられる。しかし、将来については、我 が国からの輸出数量が 2010 年以降減少しつつあるといった懸念材料も存在している。今年度以降の保 険引受動向については、現在の円高是正傾向や我が国企業の大型案件受注傾向が今後も続くかどう 3 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001115454 また、各月の輸出額についての価格及び数量要 因分析については http://www.nli-research.co.jp/report/flash/2013/flash13_136.pdf 中のグラフ参照。 5 e-NEXI (2013 年 12 月号) か、輸出数量が増加に転じるかどうかといった状況次第であると考えられる。 2. 投資及び融資を対象とした保険について 返済期間が 2 年以上に及ぶ投資及び融資を対象とした保険の引受状況は以下の通り。2013 年度上 半期は、海外投資保険が対前年度同期比 88%、それ以外の融資を対象とした保険(海外事業貸付 保険、貿易代金貸付保険(B/C)、海外 ECA からの受再の引受合計額)は同 24%引受が増加した。 図 6 海外向け投融資(2 年以上案件)を対象とした保険の引受実績 出所:日本貿易保険 (1) 投資を対象とした保険 海外投資保険の引受相手先国の上位 5 ヶ国は以下のとおり。 表 5 引受実績の国別内訳 (上位 5 ヶ国) 出所:日本貿易保険 表 5 で、特に上位 3~5 位の国向けの投資引受額は、2013 年度上半期は前年度同期よりも1ヶ国当 たりの海外投資額が数百億円規模で大型化した。また、海外投資保険の引受件数(証券ベース4)を確 認すると、2012 年度上半期の 74 件に対し、2013 年度上半期は 78 件と大きな差は無かったところ、上 4 証券ベースのため、複数被保険者がいる場合には実際のプロジェクト数よりも件数が多く見える場合もあり留意が必要 であるが、大まかな引受件数の傾向把握は可能。 6 6 e-NEXI (2013 年 12 月号) 7 表のとおり引受総額は大幅に増えており、より大型の投資案件について保険引受が行われていることが伺 える。 また、財務省の統計より我が国の海外直接投資総額5に占める海外投資保険引受額の割合をみると、 2013 年度上半期は 4.7%となり 2012 年度上半期の 3.9%から 0.8%カバー率が増えている。 更に、表 5 の上位国の顔ぶれからも分かるとおり 2013 年度上半期はアジア各国向けの海外投資保険 が伸びたが、財務省統計では我が国から全アジア向け海外直接投資額が▲5%となっており、投資保険 の利用割合が高まっているものと考えられる。 (2) 融資を対象とした保険 融資を対象とした保険及び受再(2 年以上)の引受相手先国上位 5 ヶ国及び件数は以下のとおり。 表 6 融資を対象とした保険 引受実績の国別内訳 (上位 5 ヶ国) 表 7 受再(2 年以上) 引受実績の国別内訳 (上位 5 ヶ国) 出所:表 6~7 いずれも日本貿易保険 表 8 融資を対象とした保険の引受件数 出所:日本貿易保険 まず融資を対象とした保険をみると、もともと同保険の引受上位国は、融資対象となるプロジェクトの有 無や規模の大小によって国の顔ぶれが頻繁に変動する傾向にあるところ、表 6 のとおり、昨年度からベトナ ム向けの引受(主に発電所案件等)が伸び続けている。 また、2013 年度上半期の引受状況を前年度同期と比較すると、引受件数が 22 件(▲64%)減少した 5 財務省 国際収支状況の対外直接投資の統計値によると、我が国からの海外直接投資額は 2012 年度上半期が 5 兆 2,072 億円(内アジア向け 1 兆 5,087 億円)、2013 年度上半期(円為替影響 24.5%を排除後)は 6 兆 4,271 億円 (同 1 兆 4,259 億円)で 23%増(アジア向け▲5%)となる。 7 e-NEXI (2013 年 12 月号) ものの、引受金額は昨年度に比べ円建てで 18%増加(円が対ドルで 24.5%安となった影響を勘案すると 対前年同期比で▲5%)となっており、引受対象プロジェクトが前年度より大型化しつつあると見られる。 表 9 本邦所在金融機関の対外資金フロー動向 出所:日銀(BIS 統計) (現時点では、2013 年 7~9 月の統計は未発表) 注:+は我が国所在の金融機関(邦銀の海外支店等除く)からの資金流出、-は我が国に所在の金融機関への 資金流入を示す。各銀行の本支店勘定を通じた自行海外支店及び海外現地法人との取引から生じる債権・債務 も対象としている。 なお、表 9 のとおり 2013 年度 4~6 月の本邦所在金融機関からの対外資金フローは流入超となって いる。また財務省の対外資産負債残高統計(速報)より 2013 年 4~9 月の対外資金フローを試算し 為替影響を排除して前年度同期と比べて見ると、2013 年度上半期は 2012 年度上半期よりも日本か ら海外向けの貸付が減少した可能性があった。 融資を対象とした保険の我が国からの全輸出関連融資のどれくらいの額をカバーしているかについては、 対外資金フローに係る統計値との単純比較により算出することは困難であるものの、我が国から海外へ の全貸付額が減少したと見られる一方で表8のとおり引受金額は拡大していることから、2013 年度上 半期における我が国から海外への全貸付額に対して融資を対象とした保険ついた貸付が占める割合 (カバー率)は前年度同期よりも高まっているものと推測される。 一方、受再(2 年以上)については航空機(部品の一部が日本製)の途上国向け輸出が順調に伸び たことから引受(受再)額が増加したと考えられる。 (3) 今後の見通し 海外投資保険について、財務省国際収支状況の対外直接投資の統計値を基に試算すると、2013 年度上半期にドル建ての全海外直接投資額は対前年度同期比 24%増加しており、実際に我が国 からの海外投資が増加していることから、今後も引受金額が伸びる余地があると考えられる。 一方、融資を対象とした保険は例年会計年度末が近くなると保険申込みが集中する傾向にある。 2013 年度についても、9 月以降新規及び継続案件に係る引受相談件数が徐々に増加しつつあるため、 年度末に向けて引受金額が増加して昨年度を超える引受額を達成する可能性が高いと考えられる。 また、受再(2 年以上)は今後も対象貨物は航空機(本邦品部分)案件が中心となる見込みであるが、 元受保険者(海外 ECA)が途上国向けの複数の航空機輸出につき既に保険引受を内諾しており、今 後受再の申請も行われる予定であることから、当面は安定的に引受(受再)金額が伸びるとみられる。 以上 8 8 e-NEXI (2013 年 12 月号) カントリーレビュー:モンゴル ~ 潜在力と危うさを併せ持つモンゴル経済 ~ <Point of view> 銅や石炭など大規模な鉱物資源を有するモンゴルは、鉱業セクターに牽引され、2011 年は 17.5%増 と高い経済成長率を達成した。しかし一方で、鉱物資源に依存する経済は、鉱物価格の変動と輸出先 (中国)の動向に左右される不安定さがある。また、鉱山の開発には外資の技術と資金が必要だが、 2013 年に入り、外国からの直接投資が減少しており、外貨準備高の減少や通貨安など足元の経済に 陰りを落としている。筆者は 11 月、現地調査の機会に恵まれ、聴取したことを基に現状の経済について 取り纏めた。 1.モンゴル経済の概要・・・限られた資源大国 モンゴルの面積は日本の約 4 倍だが、人口は 280 万(2012 年)ほどで、人口の約半数は首都ウランバ ートルに集中している。第 2 都市であるダルハンの人口が約 10 万人なので、首都への一極集中は著しい。 気候は大陸性気候で、空気は乾燥し、冬は長く寒さは厳しい。雪解けは 4 月後半から 5 月で、厳しい気 候はプロジェクトの建設スケジュールなどに影響することもある。 歴史的には人民党による一党独裁の社会主義国だったが、強く影響を及ぼしたソ連(当時)の体制 崩壊によって 1990 年に複数政党制が導入された。1991 年には、計画経済から市場経済に移行したが、 現在、移行後 22 年であり、市場経済の経験は未だ浅い。 1990 年代はカシミヤや羊毛など農牧業が主体であったが、石炭、銅、鉄鉱石、金など豊富な鉱物資 源を有し、2005 年以降は鉱業が主要産業になっている。GDP の産業別構成では、鉱業が 20%を占め、 鉱業とその関連産業によって名目 GDP は 2005 年の 23 億ドルから 2011 年は 87 億ドルと 6 年のうちに 約 4 倍に拡大した。鉱山開発では世界最大級の埋蔵量を誇る銅のオユトルゴイ鉱山、石炭のタバントル ゴイ鉱山が有名だが、他に手つかずの鉱床もあり、鉱物資源を梃子にした高成長が期待されている。 一方で、鉱業以外に競争力のある産業は無く、鉱物資源・収入は輸出の約 8 割(図 1 参照)、歳入 の約 2 割を占めており、鉱物価格の変動に左右されるボラティリティーの高い経済構造である。2009 年、 国際収支危機となり、IMF から支援を受けたが、このときも銅価格の下落が引き金となった。最近では石 炭価格が下落傾向で、輸出や石炭鉱山の入札などにも影響を落としている。 また、北はロシア、南は中国に挟まれた内陸国で港がない。国内は、鉄道等輸送インフラが未整備の ため、鉱物は主にコスト高のトラック輸送が主となり、石炭のほぼ全量を中国に輸出するなど、鉱物の輸 出先が一国(中国)に集中している(図 2 参照)。輸入についても中国とロシアの 2 ヵ国で輸入全体の半 数を占めている。2012 年から原油の採掘も始まり(12 年は 47 万トン採掘)、豊富な鉱物資源を持つ国 ながら、輸出先が限られた資源大国と言える。 9 9 e-NEXI (2013 年 12 月号) (出所:統計局) 2.直接投資の減少で国際収支が悪化・・・望まれるオユトルゴイ第 2 工期の着工 鉱業はモンゴルの経済発展を支える基幹産業であり、鉱山開発には外国企業の技術と資金が必要だ が、2013 年に入り、外国からの直接投資(対内直接投資)が減少している。2013 年 1-10 月で、対内直 接投資は前年同期比▲50%と減少幅も大きい。鉱業省によると、鉱業セクター向けの対内直接投資 は前年同期比▲32%の減少だが、対内直接投資の約 7 割が鉱山開発向け(1990~2013 年 6 月迄の 累計額ベース)であり、また、経済が鉱業に依存していることや、関連産業への波及効果も考えれば、鉱 業向け投資が減少したことによる負の影響は大きい。 例えば、同国の経常収支は恒常的に赤字で、2012 年は GDP 比▲32.6%と大きな赤字を計上してい るが、毎年、経常赤字を上回る直接投資が海外から入り、総合収支で黒字(流入超)を維持してきた (表 1 参照)。しかし、2012 年から直接投資の流入速度が落ち、2013 年に入ると前年比で減少するよう になり、直接投資で経常赤字を補填することができなくなった。直接投資の減少を主因に総合収支でも 流出超となり、外貨準備高を取り崩しており、外貨準備高は 2013 年 1 月の 40.8 億ドルから 10 月末時 点、23.8 億ドルに減少している。中銀は、外貨準備高は輸入の約 5 ヶ月分、短期対外債務の約 1.5 倍 あり、現行の水準なら大きな問題は無いと見ているが、このまま対内直接投資の減少が続けば問題も生 じかねないと懸念している。 対内直接投資が減少した理由として、2012 年 5 月に急遽、施行した外国投資管理法(鉱業を含む 戦略的業種に対する外国企業の投資(49%超出資)は国会承認を必要とした。2013 年 10 月廃法)や、 オユトルゴイ鉱山開発の第 1 工期(露天掘り)が終わったことが挙げられる。しかし、より深刻とされるのは、 モンゴル政府と合同で開発にあたるリオ・ティント社との間で、コスト等を巡り意見の食い違いがあり、第 2 工期(坑内掘り)に着工できずにいることである。オユトルゴイ鉱山開発は、海外からの投資に対するモン ゴル政府の姿勢を示す象徴的なプロジェクトとして、リオ・ティントとの間でどのように決着するか外国投資 家の注目を集めている。 政府は、対内直接投資の減少を重く見ており、外国投資管理法を 2013 年 10 月に廃し、新たに外国 投資法を施行し(旧外国投資法を廃止)、戦略的業種(鉱業、金融、通信)への投資について政府の 許可を必要とするのは、外国の国有企業のみとなった。また、オユトルゴイの第 2 工期について、ワーキン 10 10 e-NEXI (2013 年 12 月号) グ・グループが解決に向け作業しており、鉱業省では、モンゴル側、リオ側の双方の利益が満たされ速やか に解決されることを期待しているとの発言があった。政府は直接投資の重要性を認めつつも、資源にはモ ンゴル国民の目もあり、安易な妥協はできない立場にあることが窺える。 外貨準備高の減少防止のためにも、第 2 工期への速やかな着工が望まれるが、現時点では着工の 見通しは見えていない。 表 1 国際収支 経常収支 貿易収支 輸出 輸入 サービス収支 所得収支 移転収支 資本収支 直接投資 証券投資 その他投資 誤差脱漏 総合収支 外貨準備高 (単位:百万ドル) 2010 ▲ 887 ▲ 180 2,908 3,089 ▲ 295 ▲ 599 187 1,744 1,630 894 ▲ 932 118 873 2,288 2011 ▲ 2,759 ▲ 993 4,818 5,810 ▲ 1,161 ▲ 843 238 2,864 4,620 77 ▲ 1,947 ▲ 78 28 2,451 2012 ▲ 3,362 ▲ 1,553 4,385 5,938 ▲ 1,100 ▲ 948 239 4,930 4,408 2,325 ▲ 1,924 138 1,705 4,126 2013* ▲ 2,834 ▲ 1,209 3,480 4,689 ▲ 1,100 ▲ 642 117 1,256 1,967 ▲ 165 ▲ 638 ▲ 101 ▲ 1,397 2,389 注:2013*は 1-10 月の 10 ヶ月間 (出所:中銀) 3.最近の国内経済・・・通貨トグログ安とインフレ懸念 実質 GDP 成長率は、2011 年 17.5%、2012 年 12.4%と 2 桁の高い経済成長が維持されているが、 2013 年 1-9 月期で 11.5%成長であり、2011 年をピークに低下傾向にある。 また、石炭価格の下落と輸出先の中国の成長鈍化によって、鉱物輸出が不振であることや外国から の直接投資の減少を主因に、通貨トグログが 2013 年に入ってから続落しており、2013 年年初 1,390.5 ト グログ(=1USD)から 11 月末は 1,735.5 トグログ(=1USD と、年初比で約 25%下落している。中銀では可 能な限り、トグログの為替レートを市場に任せる方針であるが、輸入物価の上昇によりインフレ率が高いと 判断した場合などには市場介入を行うことも排除していない。現在、インフレ率は 10%と 7 月の 8%から 上昇に転じているが、中銀はまだ許容範囲としている。しかし、石油製品(輸入全体の約 20~25%)や 食品も輸入していることから、トグログ安によるインフレ圧力は高い。為替レートの続落を回避するため、 市場介入の可能性も拭えず、外貨準備高が減少する要因になりかねない。 11 11 e-NEXI (2013 年 12 月号) (出所:中銀) 4.政府は開発を重視する方向・・・持続的成長に奏功する資金配分が可能か 公的債務を慎重に管理するため、財政安定化法によって、2013年から財政赤字はGDP比▲2%内に 収めること、及び公的債務はGDP比40%が上限と定められ、2014年の予算案(議会で承認済み)も当 指標が遵守されている。しかし、鉱山開発やインフラ整備を始め開発資金の需要は強い。現在、政府で は、公的債務の定義の見直しや公的債務(GDP対比)の上限値の引き上げ等を検討しているが、これ は、開発のための資金需要に応える側面があるようだ。 政府は、2012年、開発プロジェクトへの融資を専門とするモンゴル開発銀行(DBM)、及び経済開発省 を新たに設立した。経済開発省は、マクロ経済、国内外の投資について企画・立案し、プロジェクト審査 も担い、開発の方針に大きく関与することになった。現在、モンゴル開発銀行(DBM)も経済開発省の傘 下にある。経済開発省の設立で、大蔵省の職掌は予算、資金調達、債務管理となった。2012年3月に、 政府保証付きでモンゴル開発銀行(DBM)が5.8億ドル、同年11月に政府がチンギス債(ドル建て国債) 15億ドルを国際債券市場で発行した。大蔵省によれば、起債で調達した資金のほとんどがモンゴル開発 銀行(DBM)によるプロジェクト資金に充当された。 対外公的債務残高のうち98%が国際機関や外国政府からのソフトローン(2011年末)と推計され、返 済負担は商業ベースの借入に比べ緩和されていたが、国際市場での資金調達は将来の返済負担増に つながる。限られた資金を持続的な成長に寄与するプロジェクトに配分する必要があり、それには、経済 開発省に的確なプロジェクト分析が求められるが、現地では、当省の専門家不足を懸念する声も聞かれ た。 最後に オユトルゴイ鉱山開発の第1工期が完了し、7月から当工期からの輸出が始まった。また、第2工期では、 オユトルゴイ鉱山の埋蔵量の約8割が採掘されることになり、順調に進めば、輸出の増加と鉱業や関連 産業への投資が期待できる。手つかずの鉱床もあり、経済の潜在力は高い。しかし、大規模な鉱物資 12 12 e-NEXI (2013 年 12 月号) 源を有効に活かし、安定した成長路線に乗るまでには、インフラの未整備や開発資金の不足など難題も 多い。特に足元の経済と外貨準備高の動向は注意を要する状況で、鉱業向けの対内直接投資の回 復を図ることは、喫緊の課題である。 以上 スフバートル広場 スフバートル広場から見た国立オペラ劇場 (ピンク色の建物) 13 13 e-NEXI (2013 年 12 月号) ~最前線で働く~ NEXI パリ事務所長最近の活動報告 NEXI パリ事務所長 小山智 皆様こんにちは。NEXI パリ事務所長の小山です。 パリではシャンゼリゼ通りにイルミネーションが点灯され、冬とクリスマスを感じる季節になりました。 さて、当事務所の業務については昨年 11 月の e-NEXI に掲載いたしましたが、今回は最近の動きを 中心に業務内容に合わせて 3 点紹介させていただきます。NEXI 及び当事務所を活用いただく上での御 参考になれば幸いです。 1. 御相談案件のフォローアップ、域内情報収集・分析 当事務所の担当地域は、欧州、ロシア・CIS、中東・中近東、アフリカと広範囲ですが、この地域では 御存知のように数多くの案件が進んでいます。各地でのインフラ案件(電力、輸送、水など)、ロシア・CIS や中東地域を中心とした石油・天然ガス案件、資源案件など中長期・投資に加え多くの短期案件も御 相談を受けています。案件が円滑に進むよう、私と二人の次長で分担し、本店と連携しつつできる限り現 地に伺い、各国政府、貿易保険機関、関係者と協議を行っています。特に欧州内では、進出日系企 業の輸出を御支援できるよう現地保険機関(独ユーラーヘルメス)とこれまでの長期に加え短期保険につ いても再保険協定を結び、その実行に努めています。欧州内の金融危機、一部の国での信用不安等に より、再保険ニーズが高まったことも背景にあります。一方で日本企業の進出が進むロシアでもこの 4 月に 同国の貿易保険機関である EXIAR と協力合意を締結した上、共同でセミナーを開催しました。これらに 御関心の案件があれば本店でも当方でもお気軽に御相談ください。 域内の金融、経済、更にはカントリー情報等については、日系及び海外の金融機関・企業、各国 ECA、国際機関、各国大使館、ジェトロ等と情報交換を行い、引受方針の見直しや適切な商品・サー ビスの提供に活かすよう努めています。今年になってからは、政情不安定な一部北アフリカ地域、カントリ ー情報が少ないけれども TICAD で注目されるサブサハラ・アフリカ、プロジェクト実施が期待される CIS 諸 国、中東欧、バルト 3 国等の案件形成や情報収集のため、現地出張とともに多様な情報を持つ欧州系 金融機関等との情報交換にも力を入れています。 EXIAR との覚書締結式(2013 年 4 月) 写真提供:共同通信社 (安倍晋三総理大臣及びプーチン大統領ご臨席) 左:NEXI 板東理事長、右:EXIAR フラトコフ長官 14 14 e-NEXI (2013 年 12 月号) 2. 域内 ECA 及び政府機関との連携強化 欧州では数多くの ECA が互いに切磋琢磨しつつ活動しており、私たちも積極的に情報交換をしていま す。特に重要な ECA である独、仏等とは定期的に個別に二国間協議を実施し、数日にわたりビジネス 動向、カントリー情報等について集中的に議論を行っています。この一年間では、独、仏及びオーストリア、 イタリア等と開催しました。また、世界中の ECA や民間保険機関が集まるベルンユニオンでは、NEXI は運 営委員となり、中心的な役割を果たしています。今後は各国機関に限らず、MIGA 等の国際機関との連 携による御支援も進めていく予定です。 日独二国間協議 会議風景(2012 年 10 月) 日仏二国間協議 会議風景(2012 年 11 月) 3. 国際的なルール作りへの参画 パリに本部のある OECD の輸出信用部会では、輸出信用の供与条件などに関する国際的ルールを 定め、状況の変化を踏まえて参加国が見直し、新設等の協議を行っています。一般的な原則とともに、 航空機、気候変動、原子力等に特別なルールもあります。ルールを守るだけでなく、自らルール策定に関 与することが重要との意識の下、政府とも連携しつつそれぞれの分野で各国と厳しい交渉を続けています。 また OECD に加盟していないため、このルールが適用されていない中国等との協議が今年春から本格化 しています。既に 3 度の公式会合が開催され、日本の立場を主張しています。 OECD 本部の会議場 また、パリクラブ関連会合にも参加しています。同会合は、対外債務の支払困難に陥った国に対し、 主要先進国が債務救済措置等を講じることで問題解決に貢献するとともに、メンバー各国の債権回収 15 15 e-NEXI (2013 年 12 月号) の最大化を図るべく方策を協議するためのものです。本年 1 月にはミャンマーとの間で、同国の国際社会 復帰に向けた重要なステップとなる債務救済措置の合意に達しました。また、パリクラブにおいても非メン バー国との協力の在り方につき検討が行われているところ、本年 10 月には G20 議長国ロシアとカンファレ ンスを共催し、IMF のラガルド専務理事の他、途上国を含む多くの国からの参加を得て、債権・債務各 国間で包含的な対話が行われました。 パリクラブ会合の会議場 以上、最近の動きを中心に説明いたしましたが、案件の御相談がある場合には本店とともにお気軽に 当方に御連絡下さい。お待ちしています。 【パリ事務所の住所、連絡先】 c/o JETRO, 27 rue de Berri, 75008, Paris, France Tel. +33 (0)1 4261 5879 Fax. +33 (0)1 4261 5049 (以上) 16 16