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1/18 生理学講義ノート 生 殖 器 Index 総 論 ・・・・ 02 男 性 ・・・・ 03 女 性

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1/18 生理学講義ノート 生 殖 器 Index 総 論 ・・・・ 02 男 性 ・・・・ 03 女 性
生理学講義ノート
生 殖 器
Index
総 論
・・・・
02
男 性
・・・・
03
女 性
・・・・
09
SRY 遺伝子
・・・・
16
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生殖器系 総論
ヒトは有性生殖 sexual reproduction を行い、配偶子 gamete の接合は体内受精 internal fertilization による。接合
子 zygote の発育は胎生 viviparous である。・・・誰でも知ってることを言ってるだけなんですが、正確第一で専門用
語を使うとわけがわからなくなります。まず最初に、「配偶子 gamete」とは精子 sperm と卵子 oocyte の総称です。
精子は男性の精巣 testis で産生され、卵子は女性の卵巣 ovary で産生される。「性 sex」という言葉はいろんな意
味で用いられるけど、生殖器系の機能に関する限り、精子を産生する(=精巣を持つ)のが男性 male で、卵子を産
生する(=卵巣を持つ)のが女性 female。
精子は交接 intercourse により、女性生殖器内に送りこまれる。「交接」なんていう聞いたことのない言葉を使う理由
は、この過程を普通にセックスと言ってしまうと、「性 sex」と区別がつかなくてわけがわからなくなるから。ヒト以外の
生物では「交尾」になるわけですが、英語にするとどちらも intercourse。
異なる配偶子が運よく出会ったとします。これらが結合してひとつの細胞になる過程が「接合 zygosis」で、できた細
胞が「接合子 zygote」。精子と卵子の場合は、ひとつの細胞になる過程が「受精 fertilization」、できた細胞が「受精
卵 fertilized egg」。受精卵は、接合子のひとつです。ヒトの場合、人為的操作を加えない限り、受精は女性の体内で
起きる(=体内受精である)。
受精卵は子宮内膜に着床 implantation し、発育して胎児 fetus になる。胎児への栄養は胎盤 placenta を介して
母体から供給される(=受精卵の発育は胎生である)。胎児は分娩 delivery により母体との連絡を絶たれ、新生児
newborn になる。受精卵の着床から胎児の分娩までの過程を母体側からみると妊娠 pregnancy で、胎児側から見
ると胎生期発生 embryogenesis。
このスキームは上記の一連の出来事を時系列で示したもの。これらの出来事のうち、生理学で扱うのは配偶子の形
成と交接のところまでです。受精・着床から分娩に至る経過を扱うのが周産期医学。基礎の科目のうち胎児を扱うの
が人体発生学で、遺伝子のレベルまで降りれば遺伝学そのもの。これらは各々の講義で勉強してください。
Note: 「有性生殖 vs 無性生殖、体内受精 vs 体外受精、胎生 vs 卵生・・・」
生物が子孫を残す方法は千差万別百花繚乱なんでもあり。なんとか系統立てて説明しようとすると有性生殖・体内
受精・胎生その他もろもろの言葉が出てくる。有性生殖する生物もあれば、無性生殖するものもある。体内受精に対
しては体外受精、胎生に対しては卵生。おのおのどういう区別なのか、調べてみてください。以下、ヒトの生殖に話を
しぼります。
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男性生殖器 male reproduction system
男性生殖器 male reproduction system の 3 つの要素
生殖器の構造を理解しようとすると、外側の骨盤 pelvis の話から。骨盤は 1 個の仙骨と、それぞれ左右 1 対の腸
骨・恥骨・坐骨からなる。自分の腰を触ってみて、横にあるのが腸骨、後ろが仙骨、前が恥骨。正中部では左右の恥
骨が結合組織でくっついてる、ここが恥骨結合 pubic symphysis。下の図のように縦切りでみると、後ろの仙骨、前の
恥骨結合しか見えない。骨盤腔の前のほうに膀胱 urinary bladder があり、尿道 urethra が陰茎を通過する。後ろの
ほうには直腸がある。男性の場合、精巣・陰茎を含む生殖器の主要な部分は骨盤腔外で、外から見える。精路、付
属生殖腺など見えない部分が骨盤腔内にある。次のページででてくるけど、女性の場合生殖器のほとんどの部分が
骨盤腔内にある。男女共通して、外から見える部分を外生殖器 external genitalia と呼ぶ。
男性生殖器は機能的に 3 つの部分に分かれる。第一に精巣と精路は精子を産生・貯留する。次に、付属生殖腺は
精子以外の精液の成分を産生する。最後に陰茎は交接のためにある。以下この順番に見ていきます。
精巣と精路 testis & seminal tracts
男性の配偶子=精子 sperm は精巣 testis で産生される。精巣は陰のう scrotum のなかに収まっている。精巣で
産生された精子は、精巣上体 epididymis を経て精管 vas deference を通り射精管 ejaculatory duct に輸送される。
射精管は尿道に開口する。精路 seminal tract (=精巣上体・精管・射精管)の機能は、精子の成熟を助けると同時
にそれを貯留すること。
Note: 精巣は空冷式
胎生 5 週頃に胎児の腹側体腔に生殖腺 gonads の原基 (=原始生殖腺 primordial genital ridge)ができる。ここか
ら男性では精巣、女性では卵巣が発生する。卵巣は発生に伴って場所を移動しないので、ずっと骨盤腔にある。精
巣は発生に伴い下降して出生時には陰のう内に収まる。これなぜなんでしょうね、配偶子をつくるような重要な器官
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を体表面にもってくるなんて危ないと思いませんか?わざわざ体表面に移動させるのは、精子形成には低温環境が
必要なためである、と考えられている。体内温度 38oC という高温は、精子形成細胞のように活発な細胞分裂を行う
細胞には都合が悪いようです。陰のうがしわしわなのも、ラジエターのように熱の放出を促進するため。次のページ
ででてきますが、女性の卵巣では、卵子の数を増やすための有糸分裂は胎生期に終わっていて、出生後は減数分
裂を行うのみ。また、体温が水温と同じである魚類ではオスの精巣はメスの卵巣と同じ場所にある。
精子の形成 spermatogenesis
精巣を縦切りにしてみると次の図のとおり。精巣中隔で区切られた小部屋に曲精細管 seminiferous tubule がぐにゃ
ぐにゃと曲がってつまってる。曲精細管は精巣網、精巣上体管を経て精管につながる。
精子は曲精細管で産生される。曲精細管を輪切りにしてみると、精子のおおもとである清祖細胞 spermatogonia が
管壁の基底膜にくっついてる。清祖細胞は幹細胞 stem cell の一種で、非対称性分裂 asymmetric division による
自己再生 self-renewal を行う。分裂後、基底膜から離れた細胞は次第に管腔側に移動、移動すると同時に減数分
裂を行って精子に分化する。中間段階の細胞を精母細胞 spermatocyte と呼ぶ。これら以外に精子形成に重要な
役割をはたす細胞が 2 種類。ひとつは曲精細管の中にいるセルトリ細胞 Sertoli cell。図のように精子形成細胞を取
り囲んでいて、それらを支持することが第一の役割と考えられている。もうひとつが曲精細管の外にいるライディッヒ
細胞 Leydig cell。ライディッヒ細胞は男性ホルモンであるテストステロンを産生する。
後ででてきますが、精子の産生は下垂体前葉ホルモン(gonadotropin=LH & FSH) およびテストステロンの支配下に
あり、思春期 puberty に始まり、老年期まで続く。
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精子の分化のようすをもうちょっと詳しく見ておく。減数分裂 (meiosis メイオーシス)と普通の有糸分裂 (mitosis マイ
トーシス)の違いについては遺伝学で勉強してください。減数分裂は第一次と第二次の 2 段階からなり、染色体のセッ
ト数が半分になる。清祖細胞のゲノムの染色体のセット数は 2n。精母細胞の段階で減数分裂が行われ、これが n に
なる。下の図で分裂していく精母細胞、出来てくる精子の細胞質がつながってるのに注目してください、これなんでこ
ういうふうになってるか想像できるでしょうか?
精母細胞が減数分裂を行って染色体数が半分になるということは、46XY の核型から 23X または 23Y になるというこ
と。X、Yのふたつの性染色体のうち、Y がなくても細胞は困らない(当然ですね、女性は Y を持っていない)。23X の
精子は Y がなくても分化・生存できる。ところが、X には細胞の分化・生存に必要な遺伝子がいくつか乗っているの
で、(X を持たない)23Y の精子はうまく分化・生存できない。精子の分化過程で細胞質がつながっていることにより、X
に乗ってる遺伝子の産物が 23Y の精子に供給される。
Note: 減数分裂の仕組みは何度聞いてもわかりにくいですね。ほとんどのひとがセンター試験で生物を選択してい
たようですが、苦労したところのひとつかと思います。n、2n という表記は、染色体のセットの数を表してる。これを「染
色体の数」と考えると混乱する(そう書いてある教科書も多いんですが・・・)。また、細胞ひとつあたりの DNA 量とも明
らかに違うことに注意してください。ヒトでは染色体のひとつのセット n は常染色体 22 本と性染色体 1 本の計 23 本。
配偶子は 1 セット持ってる(=一倍体 haploid である)。普通の体細胞は 2 セット持ってる(=ニ倍体 diploid である)。
上の図で、精祖細胞は体細胞と同じく 2 セット持ってる。これが有糸分裂して一次精母細胞になる。有糸分裂だから、
セット数は変わらない。有糸分裂の途中、S期で DNA が複製されてその量は 2 倍になるんですが、その状態で 4n で
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はないことに注意してください。セット数は変わらないから、S 期の終わりでは「複製された 2n」を持ってるというのが
正しい。一次精母細胞 (2n)が第一減数分裂により 2 つの二次精母細胞(n)になる。第一減数分裂では DNA が複製さ
れるから、二次精母細胞は「複製された n」を持っている。二次精母細胞が第二減数分裂により 2 つの精子になる。
第二減数分裂では DNA が複製されないから、精子は「複製されていない n」を持つことになる。以上のことを DNA 量
でいうと、一次精母細胞の DNA 量を 1 として、二次精母細胞の DNA 量は 1 のまま、精子の DNA 量は 1/2。さて、こ
こで問題です、ひとつの一次精母細胞から精子はいくつできるでしょうか?
Note: 健康な成人男性は毎日約 3000 万の精子を産生する、のだそうです。思春期からだいたい 50 年くらい続くとし
て一生では 3000 万 x365x50≒5000 億。例えばこの間に 2 人の子供を持つとすると、あるひとつの精子についてその
ゲノムが次世代に伝わる確率は 2/5000 億、ほとんどゼロ。次のページででてきますが、女性の場合排卵される卵
子の数は一生でおよそ 400 なので、2 人の子供を持つと、あるひとつの卵子のゲノムが次世代に伝わる確率は
1/200。こういう数字がどういう意味をもつのか、皆さん考えてみてください。
男性生殖器の内分泌支配
下垂体前葉から 2 種類の性腺刺激ホルモン gonadotropin、LH (lutenizing hormone 黄体化ホルモン)と FSH
(follicle-stimulating hormone 卵胞刺激ホルモン)が分泌される。LH、FSH ともに日本語では女性の性腺だけに効く
ような名前になってるけど、精巣での精子の産生もこれらの性腺刺激ホルモンの支配下にある。思春期にはいると、
視床下部からの GnRH (gonadotropin releasing hormene) の分泌が亢進し、LH、FSH の分泌を刺激する。LH はライ
ディッヒ細胞に働いて、テストステロン testosterone の産生を亢進させる。テストステロンは FSH と共同で精子形成
を促進する。一方 FSH はセルトリ細胞に働いて ABP (androgen-binding protein アンドロゲン結合蛋白質)の産生を
促す。ABP はテストステロンと結合してそれを安定化する。
テストステロンおよびジヒドロテストステロン dihydrotestosterone は代表的な男性ホルモン(=アンドロゲン)であり、
その効果は精子形成細胞だけではなく全身の細胞に及ぶ。その結果が思春期での二次性徴であり、男性らしい骨
格・体格になり、外生殖器が発育する。ひげが生えてくる、声がわりがするなどの変化も起きる。
精巣から視床下部・下垂体前葉へのネガティブフィードバックについて簡単に見ておきます。テストステロンは GnRH、
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LH、FSH の分泌を抑制する。セルトリ細胞はペプチドホルモンであるインヒビンを産生する。インヒビンは LH、FSH の
産生を抑制する。
Note: テストステロンによる性の表現型の決定
思春期での二次性徴の誘導、精子形成の促進という役割のほかに、テストステロンをはじめとする男性ホルモンは
胎生期での性の表現型の決定に必要。「性」は遺伝子型としての性とその表現型としての性に区別できる。Y 染色体
を有する胎児では、Y 染色体上の SRY 遺伝子が働く結果、胎生6週以前の臨界期にライディッヒ細胞が一過性にテ
ストステロンを分泌する(=アンドロゲン サージ)。このサージの結果、胎児は”雄性化”する。最もわかりやすいとこ
ろでは、男性生殖器の発育が誘導される。このサージの影響は生殖器系のみではなく全身の組織におよぶ。脳では、
男性の脳と女性の脳の器質的・機能的違いが生じる。SRY による分化誘導については最後のページでまとめます。
男性脳・女性脳について興味のある人は「話を聞かない男、地図が読めない女」を読んでみてください。彼・彼女の
気持ちがもっとよくわかるようになる・・・かもしれません。米子市立図書館にあります。
性の遺伝子型と表現型はたいてい場合一致しているけど、一致していない場合もある。また、各々の組織での性の
表現型がそろっていないこともある。脳での表現型とその他の組織の表現型が一致しないことが「性同一性障害」の
原因のひとつであるらしい。
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付属生殖腺 accessory sex glands
付属生殖腺は精子以外の精液成分を産生する。下の図の 3 つ、精のう seminal vesicle、前立腺 prostate、そして尿
道球腺。尿道球腺の別名がカウパー線 Cowper's gland。
精のうからのフルクトース、前立腺からのクエン酸はともに精子のエネルギー源になる。精のうのプロスタグランジン
については後述。凝固性蛋白質は精液の粘性を増す。前立腺特異抗原はプロテアーゼのひとつ。他のプロテアーゼ、
酸性フォスファターゼなどとともに精液の粘性を調節している。セルロプラスチンは内因性の抗生物質。カウパー線
からは粘液がでる。これらの分泌物のため精液はアルカリ性になり、膣の酸性環境下で精子の生存を助ける。
Note: プロスタグランジン prostaglandin: PG
PG はアラキドン酸の代謝産物で内因性生理活性物質の代表選手。神経や血液のページででてきたんだけど覚えて
ますか?もともと精液から単離されたときに、前立腺 prostate から分泌されるんだろうということでこの名前になった。
化学構造から A~J に分類される。そのうち PGE、PGF は子宮筋を収縮させるので陣痛促進薬として用いられる。
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陰茎の機能
陰茎 penis の機能は女性の生殖器内に精子を送り込むこと。そのためには勃起 erect しないといけない。陰茎の
大部分は海綿体と呼ばれる静脈洞が占める。勃起は、性的興奮により副交感神経の緊張が亢進、海綿体静脈が拡
張(=血管平滑筋が弛緩)して血流量が増加することによる。交感神経の緊張亢進により、精管・射精管の蠕動運動
が起きると同時に精のうが収縮、精液は尿道を経て体外へ排出される (=射精 ejaculation)。
陰茎を含む外生殖器への自律神経系 ANS の出力は脊髄のどのレベルからだったでしょうか、自律神経のページ
を復習してください。性的興奮を引き起こす入力は体性神経系 SNS からはいり、視床下部の自律神経中枢にいたる。
ここからの出力が脊髄を下行するから、脊髄のどのレベルの障害でも性機能不全の原因になりうる。
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女性生殖器 female reproduction system
女性生殖器の 4 つの要素
外生殖器 external genitalia から見てみると、膣口 vaginal orifice、尿道口 urethral orifice の左右に小陰唇 labium
minus、その外側に大陰唇 labiummajor がある。前方に陰核 clitolis。発生学的に陰核は男性の陰茎に、小陰唇/大
陰唇は陰のうに相当する。
女性生殖器の主要な部分は骨盤腔内にある。膀胱の後ろに膣 vagina、その上に子宮 uterus。子宮からは左右の
卵管 uterine tube が卵巣 ovary まで伸びる。
後ろから見ると次の図。左半分は卵管・卵巣をちょっと引っ張って、卵管・子宮を輪切りにしてる。卵巣はじん帯で子
宮壁に固定されている。卵管の末端部、卵巣に接する部分が卵管漏斗 infundibulum of uterine tube。
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子宮の解剖をもうちょっと見ておきます。上から下へ、子宮底 fundus、子宮体部 body、そして膣腔にはいってる部
分が子宮頚部 cervix。婦人科の悪性腫瘍で最も頻度が高いのが子宮がんですが、そのほとんどは子宮頚部に発
生する。子宮壁の内側が子宮腔 uterine cavity、子宮壁は子宮内膜 endometrium、筋層 myometrium、外膜
perimetrium の 3 層からなる。後で月経周期 menstrual cycle の話が出てきますが、これは妊娠が成立しないときの
子宮内膜の周期的変化。
女性生殖器の 4 つの組織はおのおの特異的な機能を持つ。卵巣は周期的に卵子を形成し(=卵巣周期 ovarian
cycle)、成熟した卵子を排出する(=排卵 ovulation)。卵管は卵子を子宮へ輸送する。受精は通常この輸送過程で
成立する。子宮は卵巣周期に合わせて内膜の状態を変化させ着床に備える (=月経周期 menstrual cycle)。交接
の際、膣は陰茎を受け入れ、精液が子宮内へ到達するのを助ける。以上の機能は基本的に非妊娠時の機能。妊娠
が成立すると(=受精卵が着床すると)卵巣周期・月経周期はともに停止する。子宮内膜に胎盤が形成され、子宮は
胎児の発育の場となる。分娩時には膣は産道になる。
卵子の形成 oogenesis
卵子の形成過程を見るまえに、精子のそれを復習しておきます。精巣には精祖細胞という幹細胞がいる。思春期に
はいると精祖細胞は有糸分裂を開始し、一次精母細胞ができる。一次精母細胞は第一次減数分裂により二次精母
細胞になり、二次精母細胞は第二次減数分裂により精子になる。前のページの問題「一次精母細胞からいくつ精子
ができるか」の答えは 4 です。卵子も基本的には同じ細胞分裂の経過を経て形成される。けれども、タイムスケジュ
ールがまるっきり違います。また、一次卵母細胞から卵子はひとつしかできません。
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胎生時、原始生殖腺 primordial genital ridge に移動してきた原始生殖細胞はそこで卵祖細胞 oogonia に分化する。
卵祖細胞は有糸分裂を繰り返し、数百万の数になる。その多くは出生までに閉鎖卵胞となって変性消失する。生き
残った細胞は一次卵母細胞 primary oocyte となって第一次減数分裂を開始するが、その途中で分裂を停止する。
これらの多くはその後変性消失し、思春期には約 4 万の一次卵母細胞が生き残る。思春期にはいると、ゴナドトロピ
ンの刺激によりそのうちのいくつかが第一次減数分裂を再開し、二次卵母細胞 secondary oocyte となる。二次卵母
細胞は第二次減数分裂を開始するがこれも途中でいったん停止する。第一次減数分裂を再開した細胞のうち、通常
はひとつのみが排卵にまで至る。排出された二次卵母細胞は、そのままでは変性消失してしまう。受精が成立すると、
第二次減数分裂を再開し最終的に卵子となる。
う~ん、なかなかややっこしいですね、二段階の減数分裂がそれぞれいったん停止するというところがポイントです。
なんでこんなふうになってるんでしょうね、精子と同じように思春期にはいって幹細胞の分裂を開始して、減数分裂が
完成してから排出したほうがすっきりしてると思いませんか?受精が成立するまで第二次減数分裂を止めておくの
は単為生殖を防ぐため、というのは想像できるのですが。
一次卵母細胞、二次卵母細胞の減数分裂は非対称的であり、細胞質はどちらかの娘細胞に独占される。細胞質を
得られなかった娘細胞は極体 polar body と呼ばれ、変性消失する。それで、ひとつの一次卵母細胞からひとつの
卵子のみができる。
卵胞周期/月経周期は初潮 menarche に始まり閉経 menopause で終わる。一回の周期は約 1 ヶ月であり、この間
に通常ひとつの二次卵母細胞が排卵される。それで、女性の一生の間に排卵される二次卵母細胞の数は約 400
に過ぎない。
次の図は卵巣での卵子形成過程を簡単に示したもの。時間経過に伴う変化を描いた図であって、各段階の細胞が
同時に存在するわけではないことに注意して下さい。
精子の形成過程を思い出してもらうと、精子形成を助ける細胞がいましたね、曲精細管の中にいるセルトリ細胞と、
外にいるライディッヒ細胞。これらの細胞は精子形成に伴って増殖することはありませんでしたが、卵子形成を助け
る細胞はその形成過程にともなって分裂増殖し、卵子のまわりに卵胞 follicle と呼ばれる組織をつくる。下の図で、
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初期の一次卵母細胞のまわりをこれらのお助け細胞が囲んでいて、これが一次卵胞。卵胞の細胞は増殖して内側
の顆粒細胞 granular cell と、外側の卵胞細胞 theca cell の 2 層に分かれてくる。顆粒細胞は卵胞液を分泌し、こ
れが溜まってくるとニ次卵胞。減数分裂の進行にともないニ次卵胞は大きくなって成熟卵胞となる。排卵の際、卵胞
膜は卵巣の外膜と融合し、内容物である二次卵胞細胞が顆粒細胞とともに排出される。残った顆粒細胞・卵胞細胞
は混じりあって黄体細胞となり、黄体を形成する。妊娠が成立しない場合、黄体は退縮して白体となる。もし妊娠が
成立すると、黄体は通常の 2 週間を過ぎても存在する。これは胚子の絨毛膜から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピ
ン human chorionic gonadotropin hCG が黄体の退縮を抑制するためである。
下の図は成熟卵胞を拡大したもの、各細胞の位置を確認してください。
性周期の内分泌性支配
以上のような卵子および卵胞の形成サイクル(=卵巣周期 ovarian cycle)は、下垂体前葉から分泌されるゴナドトロ
ピン(=FSH & LH)の支配下にある。卵巣周期の前半、FSH が卵胞の形成を促進し、卵胞膜細胞 theca cell はエスト
ロゲンを分泌、その量は次第に増加する。エストロゲンの濃度が一定以上に高くなると、ポジティブフィードバックによ
り FSH、LH の分泌が一過性に亢進する。このピークは LH のほうが高く、LH サージと呼ばれる。LH サージに 24-48
時間遅れて排卵が起きる。その後 LH は黄体の形成を促進する。
卵胞膜細胞はエストロゲンを分泌、その量は周期前半に増加して LH サージの間に低下する。これに代わって後半
には黄体から主にプロゲステロンが分泌される。これらのステロイドホルモンは子宮内膜に周期的変化をひき起こす
(=月経周期 menstrual cycle)。エストロゲンの刺激により子宮内膜は増殖して厚くなり、その中には血管網が発達
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する。プロゲステロンの刺激により分泌が増加する。妊娠が成立せず黄体が退縮し、プロゲステロン・エストロゲンの
濃度が低下すると、肥厚した内膜組織は脱落し、月経血として排出される。
このようなホルモン濃度の周期的変化は、視床下部および下垂体前葉のゴナドトロピン分泌細胞に対するステロイド
ホルモンのフィードバック効果により生じる。ネガティブとポジティブの効果が組み合わさったややこしい仕組みです。
周期の初期では、卵胞から分泌されるエストロゲンはネガティブに働いてゴナドトロピン分泌を抑制しているが、ある
一定濃度を超えると逆にポジティブに働いて分泌を促進し、LH サージを引き起こす。周期の後半では、黄体から分
泌されるインヒビン(これはステロイドではありません、ペプチド)はゴナドトロピン分泌を抑制している。周期の最後の
ほうで黄体が白体となってプロゲステロン・エストロゲン濃度がある値以下に下がると、ゴナドトロピン分泌が促進さ
れ、次のサイクルが始まる。
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以上が卵巣周期・月経周期の話ですが、ステロイドホルモンの効果はもちろん生殖器だけではなく全身の細胞にお
よぶ。とくにエストロゲンは代表的な女性ホルモンであり、思春期でのその濃度の増加は生殖器の発育にくわえて、
骨格・体格の変化、乳腺の発育などの二次性徴をもたらす。
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SRY 遺伝子による性の表現型の誘導
最後に、Y 染色体上の SRY 遺伝子による性の表現型の誘導について。これまででてきたいろんな細胞の役割の復
習と思ってください。ヒトの場合、胎生期発生のデフォルトは雌です。胎生期に何もおきないと女の赤ちゃんになる。Y
染色体をもつ男の子では、胎生 5 週頃に Y 染色体上の SRY 遺伝子が発現される結果として、男の赤ちゃんになる。
SRY は sex-determining region on Y の略で転写因子をコードしている。
下の図で、原始生殖腺 (一番上の四角)に原始生殖細胞が遊走してきて、定着する。原始生殖腺には将来生殖細
胞の分化を助ける細胞がいる。Y を持たない胎児の場合、原始生殖腺は卵巣に分化し、原始生殖細胞は卵子形成
細胞に、お助け細胞は顆粒細胞または卵胞膜細胞になる。卵胞膜細胞はエストロゲンを分泌し、女性のフェノタイプ
を誘導する。これがデフォルトです。
Y を持つ胎児の場合、胎生 5 週頃にお助け細胞の一部で SRY 遺伝子が発現する。発現した細胞はセルトリ細胞に
分化し、しなかった細胞はライディッヒ細胞に分化する。セルトリ細胞は、生殖細胞を精子形成細胞に分化させ、ライ
ディッヒ細胞に働いてテストステロンを分泌させてアンドロゲンサージを引き起こす。また、セルトリ細胞は抗ミューラ
ー管ホルモンを分泌し、ミューラー管から女性生殖器(卵管・子宮・膣)が発生しないようにする。これに代わってアン
ドロゲンサージの結果男性生殖器が発生する。
Note: 非常にまれですが、SRY 遺伝子が胎生期にうまく働かないことがあります。その場合、性の表現型はどうなる
でしょう?いろんなスポーツで薬物によるドーピングが問題になってるのは皆さん知ってると思いますが、もうひとつ
問題なのが「この女性選手はほんとに女性か?」というものです。「この男性選手はほんとに男性か?」というのは問
題にならない。現行では、頬粘膜細胞の DNA の核型を調べて性別をチェックしているのですが、これは妥当でしょう
か?
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問 題
(1) 男性ホルモン(アンドロゲン)はどれか?
1.
2.
3.
4.
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
精液はアルカリ性である。
膣内は酸性である。
受精は通常卵管で成立する。
受精卵の核型は通常 46XX か 46X Y のいずれかである。
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
その産生はゴナドトロピンにより刺激される。
ひとつの一次卵母細胞からひとつの卵子のみができる。
卵祖細胞の増殖は、胎生期に終了する。
一回の卵胞周期で排卵される卵子は、通常ひとつのみである。
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
エストロゲン
プロゲステロン
テストステロン
ジヒドロテストステロン
(2) テストステロンを産生するのはどれか?
1.
2.
3.
4.
ライディッヒ細胞
セルトリ細胞
精祖細胞
精子
(3) 精子について、正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
その産生はゴナドトロピンにより刺激される。
核型は 23X か 23Y のいずれかである。
ミトコンドリアを持つ。
セルトリ細胞がその成熟を助ける。
(4) 精液に含まれるのはどれか?
1.
2.
3.
4.
テストステロン
ゴナドトロピン
プロスタグランジン
フルクトース
(5) 正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
(6) 卵子について、正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
(7) 月経周期について、正しいのはどれか?
A. 1
1.
2.
3.
4.
子宮内膜の機能的、形態的変化である。
妊娠が成立すると停止する。
排卵は FSH により誘発される。
エストロゲンが基礎体温を上昇させる。
17/18
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
(8) 妊娠により尿中で濃度が増加するのはどれか?
A
B
C
D
LH
FSH
hCG
エストロゲン
(9) 女性の二次性徴を引き起こすのはどれか?
A
B
C
D
(10)
LH
FSH
hCG
エストロゲン
胎児の性分化について正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
A. 1
遺伝子型としての性は受精時に決まる。
表現型としての性は、SRY 遺伝子に支配される。
表現型としての性のデフォルトは雌性である。
雄でのみアンドロゲンサージが起きる。
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
E
A
D
E
D
D
B
C
D
D
解答
18/18
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
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