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- 1 - 事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める決議 特定商取引

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- 1 - 事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める決議 特定商取引
事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める決議
特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)等につき、以下
の立法措置を講ずることを求める。
1
訪問勧誘の事前拒否制度
事業者による訪問勧誘を拒絶する意思を有する消費者が、戸口等、訪問勧
誘を行おうとする事業者が視認可能な場所に訪問勧誘を拒絶する旨の記載さ
れた張り紙、シール、ステッカーなど(以下「訪問販売お断りステッカー」
と総称する。)を掲示・貼付した場合には、事業者は当該消費者に対して訪
問勧誘をしてはならないとすべきである(ステッカー方式のDo-Not-Knock制
度)。
仮に、消費者が個別に訪問勧誘拒絶の意思を公的機関に登録する制度(レ
ジストリ方式のDo-Not-Knock制度)を採用するとしても、登録手続を簡易な
ものにするとともに、登録をした消費者の氏名や住所のリストを事業者に開
示することは好ましくないので、ステッカー方式との併用制を採用し、消費
者が「公的機関への登録済みの訪問販売お断りステッカー」を貼付すれば、
訪問勧誘拒絶意思の公示としては足りるもの(ステッカー貼付による公示方
式)とすべきである。
2 電話勧誘の事前拒否制度
事業者による電話勧誘を拒絶する意思を有する消費者が、公的機関等に電
話番号を予め登録し、事業者は、電話勧誘をするに先立って登録の有無を確
認し、かつ、登録された電話番号に電話勧誘をしてはならないものとすべき
である(Do-Not-Call制度)。
事業者による登録の有無の確認の方法としては、事業者には登録された電
話番号のリストは開示せず、事業者が保有するリスト上の番号を登録先機関
に対して提供して登録の有無を確認させ、登録先機関は、登録されていない
電話番号についてのみ開示するという方式(リスト洗浄方式)を採用すべき
である。
3 実効性の確保
上記1及び2については、その規制に反する勧誘行為を効果的に抑止する
ために、罰則、行政処分及び民事効を伴うものとすべきである。
また、特定商取引法の適用対象外の取引(特に特定商取引法第26条第1
項第8号にあたる取引)についても、1及び2については適用除外とせず、
または、1及び2に準じた制度を導入すべきである。
以上のとおり決議する。
2015年(平成27年)11月27日
近 畿
- 1 -
弁
護
士
会
連
合
会
提
案
理
1
由
はじめに
当連合会は、2003年(平成15年)に開催した第26回近畿弁護士会
連合会大会において、他の弁護士会等に先駆け、事業者が、要請・同意のな
い消費者に対して、契約の締結についての勧誘又は勧誘を受ける意思を確認
する行為を行うこと(以下「不招請勧誘」という。)の禁止を求める決議を
採択し、電話、訪問、ファクシミリ及び電子メールによる広告・勧誘につい
ては、契約関係にあった消費者に対するものを除いては、事前に消費者の承
諾を得ない勧誘を行うことを禁止するとともに、これに違反してなされた契
約については、消費者がこれを取り消すことができるものとすべきことを提
案した。
また、2005年(平成17年)に開催した第27回近畿弁護士会連合会
大会においても、消費者契約法の改正に関し、消費者の意向や希望を無視し
た不招請の勧誘行為を禁止し、その違反を契約の取消事由とすべきことを提
言した。
さらに、不招請勧誘規制の一つのあり方としてのいわゆるDo-Not-Call制
度に注目し、本年3月には、海外調査団をオーストラリア及びシンガポール
に派遣し、両国の電話勧誘拒否登録制度の調査を実施した。本年7月14日
には、特定商取引に関する法律における訪問販売、電話勧誘販売の勧誘規制
の強化(不招請勧誘の禁止または勧誘の事前拒否制度の導入)を求める意見
書を提出しているところである。
2 不招請勧誘の規制の必要性
不招請勧誘は、勧誘される者にとって、多くの場合、それ自体が迷惑な行
為である。特に、訪問及び電話による不招請勧誘は、私生活の平穏を害する
ものであり、プライバシーを損なう行為である。このことは、わが国の行政
機関や消費者団体等が実施した近年のアンケート調査において、訪問勧誘及
び電話勧誘を不要だとする人は、実に約96%にも及んでいることにも裏付
けられているところである。
そもそも、事業者からの勧誘を受けるか否かは、消費者の自由である。な
ぜなら、商品及び役務について、消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が
確保されるべきであるが(消費者基本法第2条第1項)、そのためには、勧
誘を受けるかどうかについても、消費者の自己決定権の下に位置付けられる
必要がある(「消費者基本計画」2015年(平成27年)3月24日閣議
決定)からである。したがって、消費者の意向を踏まえることのない事業者
からの勧誘はなされるべきはない。
加えて、訪問及び電話による不招請勧誘は悪質商法の温床になっている。
訪問及び電話による不招請勧誘は、不意打ち的で一方的な勧誘となりがちで
あり、しかも、衆人の目の届かない密室で行われることが多いため、不招請
勧誘をきっかけとして、消費者が不当又は不正な取引に巻き込まれる危険が
避けられない。また、必ずしも不当・不正なものとはいえない場合でも、自
律的な意思決定が難しくなり、本来望んでもいなかった不本意な取引に巻き
込まれてしまう危険もある。このようなことを回避し、自主的かつ合理的な
選択ができるような状況を制度的に確保するための規制が必要である。
- 2 -
3
現行法の不十分性
現行の特定商取引法は、訪問販売及び電話勧誘販売について、訪問及び電
話による勧誘を受けた消費者が、勧誘にかかる契約を締結しない意思表明を
した場合には、当該消費者に対する継続した勧誘や再勧誘をする行為のみを
禁止している(特定商取引法第3条の2第2項、同法第17条。継続勧誘・
再勧誘の禁止)。
一方、消費者が、「訪問販売お断り」などと書かれたステッカーを玄関ド
ア外側に貼るなどして、予め、包括的に、事業者からの勧誘行為を拒絶する
意思を表明していたとしても、そのような行為は、前記勧誘にかかる契約を
締結しない意思表明とは認められていない(消費者庁「特定商取引に関する
法律第3条の2等の運用指針-再勧誘禁止規定に関する指針-」)。
したがって、消費者が、予め、包括的に、訪問及び電話による勧誘行為を
拒絶する意思を表明していた場合であっても、特定商取引法第3条の2第2
項、同法第17条の適用はなく、消費者のこのような意思を無視した訪問勧
誘、電話勧誘が許容されているのが現状である。
その結果、消費者には、そもそも、望んでもいない、求めてもいない勧誘
であったとしても、事業者からの訪問及び電話による勧誘を事前に拒絶・回
避する手段が現行法上一切なく、事業者からの勧誘への応答を否が応でも強
いられることとなってしまう。つまり、事業者からの勧誘にその都度対応を
した上で、当該事業者に対し、個別に、勧誘を受けない、あるいは、契約を
締結しない、との意思を、いちいち表明しなければならないという対応をし
なければならないことになるのである。
そして、一旦勧誘が始められてしまうと、不意打ち的な勧誘であることも
あり、事業者と消費者との間の交渉力の格差がより顕著なものとなることが
避けられない。そのため、消費者が勧誘・契約を断ることも難しくなり、そ
の結果、消費者は、望みもしない契約、すなわち不本意な契約を締結させら
れてしまうのである。
全国の消費生活センターに寄せられた相談件数をみても、訪問販売につい
ては、特定商取引法第3条の2第2項が新設された2008年(平成20
年)以降も大幅な減少は見られず、むしろ、家庭訪販については増加してい
る。また、電話勧誘販売にあっては、従前から特定商取引法第17条の規定
が存在しているにもかかわらず、2008年(平成20年)以降は相談件数
が大幅な増加傾向にある。
特に危惧される点は、高齢者に対する訪問販売及び電話勧誘販売である。
訪問販売及び電話勧誘販売は、店舗販売・通信販売等の他の取引類型に比
べ、高齢者を契約当事者とする相談の占める割合が高くなっている。これ
は、自宅にいる機会が多い高齢者が多いことや認知症あるいは軽度認知障害
(MCI)により判断能力の低下した高齢者が多いことに起因していると思わ
れる。しかも、高齢者の世帯は、単独世帯と夫婦のみ世帯が過半数を占めて
おり、その割合も今後さらに増加していくことが予想されているところであ
る。
認知症あるいは軽度認知障害(MCI)の高齢者の人口も、2010年(平
成22年)には、約820万人と推定されているが、今後さらにその数は増
加していくといわれている。上記に述べたように、現行の特定商取引法は、
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このような高齢者をも含めた消費者の自主的かつ合理的な選択についての配
慮が不十分であるといわざるを得ず、今後、ますます高齢者を対象とする訪
問販売及び電話勧誘販売における消費者被害ないしトラブルが増加すること
が強く危惧される。
4 規制の方式について
不招請勧誘の規制のあり方は、大きく二つに分けられ、①消費者からの要
請や同意がある場合に限り、訪問や電話による勧誘を行うことができる(逆
にいうと、消費者からの要請や同意がない場合には、訪問や電話による勧誘
行為を禁止する)というオプト・イン方式と、②原則として、事業者は、自
由に訪問や電話による勧誘をすることができるが、例外的に、消費者から訪
問や電話勧誘を拒絶する意思の表明がなされた場合に限っては、当該消費者
に対する訪問や電話による勧誘を禁止するというオプト・アウト方式の種
の規制方式がある。前者は、端的にいわゆる不招請勧誘を禁止するものであ
り、現行の特定商取引法では、電子メール広告の送信や訪問購入においての
み導入されている。後者には、前述の現行の特定商取引法第3条の2第2項
や同法第17条のように継続勧誘・再勧誘の禁止にとどまるもののほか、勧
誘の事前拒否も認めるタイプのもの(勧誘の事前拒否制度)がある。この勧
誘の事前拒否制度を採用する条例・規則を制定している地方自治体も少なく
ないが、これらの地方自治体においても罰則・行政処分等は条例上規定して
いないため、実効性が十分に担保されていない。
既述のように、訪問販売や電話勧誘販売を望まない消費者が圧倒的に多数
を占めている現実に照らすとオプト・イン規制が合理的である。また、認知
症等の高齢者などに、事前に勧誘拒否の意思表示を行うことは必ずしも期待
できないことを考えると、オプト・アウト規制ではこれらの弱い消費者が保
護を受けられないこととなってしまうことからすると、オプト・イン規制の
方が消費者保護に資することは明らかである。これらの点は、当連合会が本
年7月14日付意見書において述べたとおりである。
もっとも、事業者の営業活動の機会の確保に最大限に配慮し、オプト・イ
ン方式の規制を採用しないとしても、上記のように現行法の規制では消費者
の保護として不十分であることから、少なくとも、勧誘の事前拒否を認める
タイプのオプト・アウト規制の導入が必要である。
5 営業の自由との関係について
これに対し、営業の自由に対する過剰な規制ではないかとの指摘も存在す
る。しかし、オプト・イン規制であっても、それは営業活動そのものの規制
ではなく、営業活動に対する時・場所・方法の規制に過ぎず、訪問勧誘や電
話勧誘以外の方法による勧誘行為を禁止するものでもない。また、同意のあ
る場合等の勧誘を規制するものでもない。消費者の生活の平穏を守るととも
に、自主的かつ合理的な選択を確保するための合理的な規制である。現に、
電子メール広告の送信、訪問購入、さらには金融商品等の勧誘においても、
規制として認められているところである。
オプト・アウト規制についても同様のことがいえるが、オプト・アウト規
制は、オプト・イン規制よりも、より緩やかな規制であり、営業の自由に対
する過度な規制ではないことはより一層明らかである。そもそも、訪問や電
話による勧誘を望まないことを表明している消費者に対して、その意向を無
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視して勧誘を行うことなどが、果たして「営業の自由」ということで正当化
されるのか、はなはだ疑問である。
現に、消費者庁も、訪問販売お断りステッカー等に関して、地方自治体に
おける条例による規律については、「特定商取引法における再勧誘禁止規定
の解釈によって何ら影響を受けるものではなく、特定商取引法と相互に補完
し合うものと考えています。」としたうえで、「張り紙・シール等がある場
合には、事業者は商道徳として、そのような消費者意思を当然尊重する必要
がある」としているところである。
ちなみに、諸外国においては、勧誘の事前拒否の制度については、電話拒
否サービス(Telephone Preference Service)や郵便拒否サービス(Mail
Preference Service)という制度があり、事業者団体が積極的に自主規制と
して実施していた(あるいは実施している)ところである。わが国において
も、一般社団法人日本コールセンター協会による「迷惑セールス電話拒否サ
ービス(TPS制度)」や公益社団法人日本通信販売協会による「MPS」という
サービスもあった。
このような勧誘の事前拒否制度は、取引できる見込みの少ない者を予め勧
誘対象から外すことができ、無理な勧誘をしない事業者にとってはメリット
のある制度であると同時に消費者の意向を尊重する制度でもあり、業界全体
の信頼をも確保できる制度なのである。このような制度を自主規制として実
施することもなく、営業の自由の過度の規制であるとして、ただ単に反対す
る意見はおよそ説得力を持ちえない。
6 訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock制度)
訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock制度)は、訪問販売の勧誘を受けたくな
い消費者が、戸口等に「訪問販売お断りステッカー」などを貼付し(ステッ
カー方式)、あるいは、公的な拒否登録簿に住所を登録(レジストリ方式)
して勧誘を拒絶する意思を表示し、登録のあった住所への勧誘を禁止するも
のである。
海外では、訪問販売の勧誘については、オーストラリアやアメリカ合衆国
の多くの地方自治体等において、訪問販売を拒否する表示を無視した勧誘を
罰則付きで禁止している。アメリカ合衆国の地方自治体では、レジストリ制
度を採用する例もある。
わが国では、地方自治体の消費生活条例により、行政処分や罰則等はない
ものの、予め拒絶の意思を表明している消費者に対する勧誘を禁止している
ところも少なくない。
特定商取引法において訪問勧誘拒否制度を導入するにあたっては、ステッ
カー方式とレジストリ方式の2つの方式のいずれを採用するかが問題となる
が、わが国では、既に極めて多くの自治体において、条例による規律の有無
を問わず、「訪問販売お断りステッカー」を消費者に配布する取組みが広が
っていることや、消費者の意思表明にとって手間がかからず、また、登録機
関創設・維持運用のコストも省ける点に鑑み、ステッカー等に法的効果を与
える制度(ステッカー方式)の方がより好ましい。仮にレジストリ方式を採
用するのであれば、消費者が容易に登録できる制度とすべきである。また、
拒否登録のあった住所リストを事業者に開示することは、リストの悪用の恐
れも否定できないことから、拒否登録の公示は、登録済であることを示すス
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テッカーの貼付によって行えば足りるとすべきである。
7 電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call制度)
電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call制度)は、電話勧誘を受けたくない
消費者が、その電話番号を登録し、事業者が登録された番号に対して電話勧
誘を行うことを法的に禁止する制度である。
アメリカ合衆国、アルゼンチン、イギリス、イタリア、インド、オースト
ラリア、オランダ、カナダ、韓国、シンガポール、スペイン、ノルウェー、
ベルギーなど多くの国々で、拒否登録制度が導入されている。フランスも、
2014年(平成26年)に法改正を終え、現在導入に向けての準備を進め
ている。なお、ドイツ、オーストリア等では、要請・同意のない電話勧誘を
禁止するというオプト・イン規制を採用している。
電話勧誘の事前拒否制度を導入する国にあっても、事業者が、登録機関に
登録をしている電話勧誘拒否者の電話番号の開示を要求し、登録機関がこれ
を事業者に開示するリスト開示方式を採用する国と、事業者が手持ちの電話
番号を登録機関に照会し、電話勧誘拒否制度への登録をしていない電話番号
を開示するリスト洗浄方式を採用する国とがある。規制違反の勧誘を完全に
は止めることは困難であるし、また、リストの流出及び漏えいされる危険も
考えられ、さらには、消費者は必要以上の電話番号の開示を望まないことを
踏まえるならば、リスト洗浄方式を採用することが妥当である。
8 実効性確保のための制度
いずれの制度を導入するにしても、制度の実効性を確保するために、違反
に対しては、行政処分及び罰則を設けることが必要である。さらに、訪問勧
誘拒否制度及び電話勧誘の事前拒否制度の実効性を確保し、違反した事業者
に不当な利得を保有させず、違法な勧誘による被害を被害者に回復させるた
め、規制に違反した勧誘行為によって契約が締結された場合、消費者は、当
該契約の無効(取り消しまたは解除)を主張することができるという民事規
定を導入することが必要である。
また、現在の訪問販売及び電話勧誘販売については、広範な適用除外(特
に特定商取引法第26条第1項第8号)が存在することから、訪問販売及び
電話勧誘販売の事前拒否の制度については、これら適用除外の範囲を限定す
るか、少なくとも、電子メール広告の送信に関する規律のように別途法的手
当てを講ずべきである。
以 上
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