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消費者主導の時代を生き残るために ~今、流通業は、何に

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消費者主導の時代を生き残るために ~今、流通業は、何に
消費者主導の時代を生き残るために
~今、流通業は、何に取り組むべきか~
プロフィール
神戸大学大学院経営学研究科
教授
小川 進
様
神戸大学経営学部卒業、同大学大学院経営学研究科博士
課程前期修了。神戸大学経営学部助手、助教授を経て、
マサチューセッツ工科大学にて経営学博士取得。帰国後、
神戸大学経営学部にて商学博士を取得し 2003 年より教授。
著書に『イノベーションの発生論理』『競争的共創論』
などがある。
■ インターネットを自在に使いこなす、今どきの消費者
今、ネット時代、消費者が情報を発信する時代、消費者間のコミュニケーションがネッ
トを通じて活発に行われている時代になってきています。
普段の生活の中に、情報を使うとか発信するというのが入りこんでいて、インターネット
を使って情報を集めて何か自分のしたいことをするというのが当たり前となっています。
学生に話を聞くと、授業を受けながらツイッターでつぶやいたり、過去の試験問題をツ
イッターを通じて集めるのはごく普通に行っていますし、洋服を買うのも、リアルの店舗
にはほとんど行かず、携帯電話を使って洋服を買っているようです。
学生でなくても、本を買うときには、インターネットの書籍を販売しているサイトで買っ
たり、夜ごはんの献立を決めるときにレシピサイトを見たりということを普通に行ってい
ます。
つまり、消費者は、タブレットPCや携帯電話などの情報端末を使いこなして、動画で
も静止画でも、文字情報でも、それをふんだんに使って、調べたいものがあったらサクサ
ク調べるということをやっている。自由に、自分たちのしたいように、最新の情報端末を
使いこなして生活しているのが今の消費者の姿ですね。
一方、企業では、情報の管理というのはたいへん厳格に、あるいは厳しく細心の注意を
払ってやらなければならないこともあり、流通企業が持っている情報システムというのは、
必ずしも最新の機能、性能を備えているとは限りません。セキュリティ上、欲しいデータ
に到達するまでに、いくつもステップを踏む必要があったり、場合によっては、消費者が
サクサク情報を見つけていくスピードと比べると反応が遅かったりするのが現状です。
極端な言い方をすれば、消費者は、最新式の武器を持って生活をしているけれども、企業
は、竹やりでそういう消費者と向かいあおうとしてるというような、ある種こっけいな状
況が生じているのではないでしょうか。
消費者は、発想力豊かに、情報端末を使って情報をやり取りしている、それが常識にな
っているということを、流通企業を経営している人たちが実感しているのかどうか、今問
われているのではないかと思います。
■ 主役は消費者~ヒット商品誕生の隠れたメカニズム
流通企業は、年間を 52 週にわけて、それぞれごとに商品企画や販売企画をたてるというの
が基本的な経営だと思いますが、去年と同じことを今年やる、あるいはこの時期にはこう
いう商品が売れるから今年もこれをやる、というふうになりがちです。
しかし実際には、去年と同じ商品、このシーズンだからこの商品、というのではなくて、
ある日突然、何らかのきっかけで話題になったものがどっと売れるということがたくさん
起きています。
たとえば、今、女性の間でひじょうに人気のある雑誌では、あるエリアに住んでいる普
通の人が、どういう料理器具を使っているとか、どういうものを買っているかというのを
発信していくという企画で構成されています。これまでのように、有名な女優さんが買っ
ている商品とか、プロの誰かが使っている料理器具を紹介するという記事ではありません。
専門家やプロが仕掛けたものではなく、ごく普通に生活している人たちが日常の中で使っ
ているものが、口コミやネットのコミュニケーションを通じて話題になり売れていくので
す。
こういった消費者の流れ、商品の売れ行きに対応しようとすると、ネットで流れている、
あるいは、少なくともネットを使った情報の、消費者間のコミュニケーションをきちっと
追跡するということが必要です。
従来型の流通企業の商品企画、販売企画は、こういう動きに対して無力になりつつあり、
消費者に寄り添っていくという姿勢や行動がないと事業そのものが縮小してしまう、とい
うのが今なんですね。
もうひとつ、世界規模の調査でわかってきたことがあります。
それは、多くの大ヒット商品は、もともと消費者自らが作ったものだということです。
スケートボードとか食洗機とかマウンテンバイクとかはすべて、消費者が自分で楽しむた
めに作ったものだったんですね。それが、口コミとかネットを通じてほかの人に広まり、
欲しい人の依頼に応じて作ってあげたりするわけです。ところが、だんだん数が増えてく
ると対応しきれなくなる。そういった状況になって、大手のメーカーなどが生産したり販
売したりする権利を獲得して、市場に出して大ヒットするという流れがかなりあることが
明確になってきました。
世界的に有名な組み立て式ブロック玩具の例では、ヒット商品のほとんどが、その玩具
メーカーのファンの、それも大人が作った商品です。
あるファンが、たとえば映画に出てくるキャラクターをブロック玩具で自分の作品として
作り、ネットで公開します。オリジナリティが高いものだと、欲しいという人がたくさん
いて大人気となります。その人気の高い作品を、その玩具メーカーが製品化して売ってい
るのです。
消費者起点で生まれて最終的には店頭で販売されて大ヒットするということは、これか
らますます増えてくる可能性があって、そういった流れをきちんと把握できるような仕組
みが必須になってくると考えられます。
■ 従来の“常識”にとらわれず、新たなビジネスモデルの構築へ
今から 20 年前の情報革命で、POS情報の分析ができるようになりました。
それまで工場からどの商品がいくつ出荷されたかという情報しか持っていなかったメーカ
ーが、いつ、どのお店で、何がどれぐらい売れたか、つまり、実際に消費者が何を買って
いるかという情報を入手できるようになったのです。
それによって、店頭で得られた情報をベースにした商品開発が可能となり、それが、新し
い商品企画のパターンになったわけです。
今はITがさらに進化して、今まで気づかなかったこともわかるようになってきていま
す。
まず、これまで、流通企業は、売れた商品が消費者の欲しいものだと思ってきました。
しかしよく考えると、店頭で自分が欲しい商品がなかったら、買うのをあきらめるか、別
の商品を買いますね。
また、消費者が何を買うかを決めるのは店頭である、というのが流通企業の前提でした。
ところが、今の消費者は、たとえば、冷蔵庫の前で情報端末を持って、レシピサイトを見
て、冷蔵庫の中に入っているものと比べながら、何を今日の晩御飯で食べるか、料理する
かというのを決めています。そのレシピの材料を求めて店頭に行くわけですから、何を買
うかを決めているのは、店頭ではなくて、家の冷蔵庫の前です。そもそもの前提が変わっ
てきています。
そして、レシピサイトを見るときに、消費者は、情報端末の検索の窓のところに、自分
は今どういう商品を調べたいのか、どういうものを作りたいと思っているのか、どういう
気分なのかということを、キーワードとして打ち込みます。
その検索の窓に入れているキーワードを分析すれば、その人はその商品を買いにきたので
はなく、欲しいものはもっと別のところにあったということがわかります。
ということは、その検索ワードをきちんと入手して、あるいはパートナーと共有すること
によって、より本当に消費者が欲しいものを店頭に並べることができるわけです。
こうしたことが、技術的にはすでにできるようになっているということをきちんと認識し
て、そうした仕組みを組み込むということを、今日からでも取り組まなければならないと
思います。
さらに、消費者が最初に欲しいと思っている新奇性の高い商品は、流通企業にとっては
十分採算がとれる量だけれど、メーカーにとってみれば、ロットが揃わないというケース
が多々でてきます。
そういった商品については、流通企業がキーになるべきだと思います。
流通企業が消費者と一緒に商品企画をしてパイロット的に作って販売する。それがヒット
したら、メーカーが本格的に大量生産して、低コストで生産して売るという、そういうビ
ジネスモデルが今後ますます増えていくのは間違いないと思っています。
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