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ドーピング問題を考える
望月喜市
4 年に 1 度のスポーツの祭典、南米初の夏季オリンピックがブラジル・リオ
デジャネイロで 8 月 5 日夜(日本時間 6 日朝)に開催された。史上最多の205
か国・地域が参加し、1万1千人を超える選手が 21 日まで 17 日間の熱戦を
繰り広げる。弾劾手続きで停職中のルセフ大統領は開会式を欠席し、テメル大
統領代行(副大統領)が開会を宣言した。聖火台に点火したのは 04 年アテネ
五輪男子マラソン銅メタリスト、バンデルレイ・デリマ氏であった。今度の五
輪では内戦や過激派組織「イスラム国」の勢力拡大などで混乱が続くシリアの
選手や「難民五輪選手団」も参加した。
ロシアは「国家ぐるみのドーピング問題」に揺れ、参加が危ぶまれたが、結
局、参加申請 389 人に対し、271 人が参加するとの発表があった(8 月 4 日
現在)。ロシア・オリンピック委員会のジューコフ会長は、参加人数はさらに
増える可能性があると述べるとともに、「ロシア選手は選手村でドーピングの
追加検査を受けている。・・・国際陸連の決定でイシンバイワ選手ら違反歴の
ない選手も含めて陸上チームとして除外されたたことについて“不公平だ”とも
述べた」(道新 8 月 5 日夕刊)。
リオ五輪のドーピング問題を検討しよう。ドーピングに絡んで参加できない
ケースには、(1)薬物利用が証明された前歴がある選手への罰則としての参加
取り消しと、(2)開催時点での薬物反応陽性による参加禁止の 2 つがある。ス
ポーツ仲裁裁判所(CAS)は 7 月 26 日、リオに 2 カ所の臨時出張所を設置
し、五輪で初めて反ドーピング専門の部署を設置したと発表した。
前歴問題では、 国内予選を勝ち抜き、リオ五輪への参加リストに入った各国
選手につき、2004 年アテネ、2008 年北京、2012 年ロンドンなどどこまでさ
かのぼって薬物利用の前歴有無を調査するのだろうか。報道では、違反選手は、
北京では 8 か国、ロンドンでは 9 か国に及ぶという。今度の参加者のなかで複
数の国の参加者が違反経歴を持っていると発表されているのだ。ロシア選手だ
けが大きく問題視されるのは、公平ではない。さらに違反後何年で解除される
かに関して統一基準がないことも問題である。前歴問題に関する報道のいくつ
かを次に示そう。
★「国際オリンピック委員会(IOC)は 7 月 22 日、2008 年北京五輪と 12 年のロ
ンドン五輪で、ドーピング違反を調べるため採取した検体を再検査したところ、新たに 45
選手分から禁止薬物が検出されたという。これまでの結果と合わせると、北京、ロンドン
で 1243 検体を調べ、計 98 選手分の検体から禁止薬物の陽性反応があったことになる」
(朝日 0723)。
★「IOCは 15 年 8 月から、リオ五輪に出場しそうな選手から最新機器で再検査を始
めた。今回は北京で 386、ロンドンで 138 の検体を選んだ。陽性になった北京の 30 検体
は 4 競技で 8 か国・地域の選手で、うち 23 選手はメダリストだという。ロンドンで陽性
になった 15 検体の選手は 2 競技で 9 か国・地域に渡る。ドーピング規程違反が確定すれ
ばリオ五輪に出場できず、メダルは剥奪される」(朝日 0728)。
★「IOCは 7 月 22 日、最新の分析技術によるドーピング検体の再検査第 2 弾で、新たに
2008 年北京五輪で 4 競技、8 か国・地域の 30 選手(うち 23 選手がメダリスト)、12 年ロ
ンドン五輪で 2 競技、9 か国・地域の 15 選手が陽性反応を示したと発表した。予備のB検体
も含め違反が確定すれば、8 月のリオ五輪に出場できない。第1弾で違反が確定した分を合わ
せると、両五輪で再検査した 1243 検体のうち陽性反応を示したのは 98 選手となった。リオ
五輪の期間中や大会後に第3、第 4 弾の再検査を予定しており、バッハ会長は、「新たな再検
査はドーピングと戦うIOCの決意を示している」とコメントした。」(道新 0723)。
★「平泳ぎなどのユリア・エフィモアらロシアの 8 選手の資格停止に対する不服申し
立てをスポーツ仲裁裁判所(CAS)が認めた。つまり、エフィモアはドーピング違反歴
があるが、出場停止期間は終えているから参加を認めたという。
IOC は 7 月の理事会で、過去に違反歴があるロシア選手の参加を禁じた。しかし他
国は同様のケースでも出場を許されている。陸上男子 100 メートルのメダル候補、ジ
ャステン・ガトリン(米)は、「復権」を果たした代表例だ。国籍によって、過去の
違反に対する処遇が違うという「ダブル・スタンダード:二重基準」の矛盾を、CAS
は問題視しているわけだ。
ロンドン五輪で旗手を務めたシャラポワ・テニス選手は今年 3 月にドーピング違反
が発覚し、 2 年間の出場停止処分を受けた(いつから 2 年間か不明、ロンドン五輪で
違反があったならは停止期間はすでに済んでいるはず)。棒高跳び(北京で金)のイ
シンバエワの場合、違反歴は無いものの、ロシアを拠点とする陸上チームの参加を認
めないという国際陸連の決定により閉め出された。
その他、陸上では、3,000 メートル障害で(ロンドン五輪)金を取ったザリポワや同
じくロンドンで(競歩)金を取ったキルジャプキンは、違反時点から 8 年経過してい
るのに、参加資格が得られないのはおかしい」(要旨、一部引用者のコメントが入っ
ている、朝日 8 月 7 日)。
国際陸連はなぜロシアの陸連を全体として排除したのかの理由について説明
する責任があると思う。
ソチ冬季五輪で、ロシアは検体の取り換えなど組織的隠ぺいをしたとされ
ているが、この問題は次回の冬季オリンピックで問題にすべきことである。現
在の問題は、ソチ五輪に参加したロシアの選手のなかで、夏季リオ五輪に参加
している選手がいるとすれば、その選手は罰則の対象になる可能性があるが、
冬と夏の両五輪に参加する選手がいるとは思えない。問題なのは冬季ソチ五輪
の罪(?)を、ロシア陸上全体の連帯責任とし、違反の有無を調査することな
し陸上に所属するすべての選手の参加権を理不尽にも奪ったことだ。とくに悲
劇的なのは、棒高跳びの世界チャンピオン、エレーナ・イシンバエワ選手の出
場権を奪ったことである(同選手は年齢的にも今回が最後の機会になるかもし
れない)。
以上をまとめると、(1)過去 2 回の夏五輪に参加し、薬物使用履歴を持つ数
カ国の選手は、資格停止期間が経過していると思われるが、リオ五輪への参加
に関してロシアにはとくに厳しいなど「2 重基準」になっている。(2)2014年
2 月のロシア・ソチ冬季五輪の検体すり替え事犯については、次の冬季五輪関
連で検討されるべきで、今回の夏季リオ五輪の検討事項ではない。なぜなら、
冬季五輪に参加したロシア選手が、今回の夏季五輪にも参加している可能性は
ゼロに近いからだ。(3)ロシアから参加申請のあった 389 人すべての選手の参
加を許可し、リオ五輪でのドーピング検査を受けさせるべきだ。
最後に、今
回のドーピング事件の反響の大きさを踏まえ、ロシア大統領は次の決定をした
ことをお伝えしたい。
★「プーチン大統領は 7 月 22 日、ロシア・オリンピック委員会(ROC)に対し、
ドーピングの取り締まりを強化するため、ロシア人だけでなく、外国人の専門家も含
む独立委員会を接する設置するよう指示した」(道新 7 月 23 日)。
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