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更年期障害と漢方/更年期障害と鍼灸

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更年期障害と漢方/更年期障害と鍼灸
ちんぴ
きじつ
そろそろ終わりの時期になりましたが、ミカンが大好きという方も多いことと思います。か
くいう私もその一人です。今回お話ししますのは、ミカン科の薬です。
成熟したみかんの皮をむくといい香りがしますね。気分がさわやかになりませんか。漢方で
ちんぴ
は、このミカンの皮を乾燥したものを陳皮と読んでおり、気の巡りをよくし、胃腸の機能を高
めたり、咳止め、痰切りの目的で用いられます。陳という文字は、新陳代謝という語句の中に
見られる陳です。またお酒飲みならお分かりだと思いますが、紹興酒でも陳年という言い方が
ありますね。その陳(熟成した)と考えてよいでしょう。古いほど良いとされており、そのた
りっくんしとう
ぶくりょういん
けいひとう
へいいさん
め陳皮とよばれているのです。胃腸機能を高める目的では、六君子湯、茯苓飲、啓脾湯、平胃散
じいんしほうとう
じんそいん
せいはいとう
しんぴとう
などが、咳や痰に対し用いる処方としては、滋陰至宝湯、参蘇飲、清肺湯、神秘湯などがあり
ます。
きじつ
ちんぴ
ダイダイやナツミカンの成熟する前の実を枳実と読んでいます。苦味があり、陳皮と同様胃
腸機能を高める目的などで使用されます。陳皮より作用が強く、体内にたまった毒を取り去っ
つか
たり、胸や腹の痞えを取ったり、腹痛や便通異常の改善に用います。主に消化器症状に用いる
だいさいことう
しぎゃくさん
だいじょうきとう
ぶくりょういん じゅんちょうとう
ましにんがん
ものとして、大柴胡湯、四逆散、大承気湯、茯苓飲、潤腸湯、麻子仁丸などが、主に呼吸器症
じんそいん
ちくじょうんたんとう
しんのうほんぞうきょう
状に用いるものとして、参蘇飲、竹 温胆湯などがあります。この枳実は、
『神農本草経』では
ちゅうほん
かゆ
けいがいれんぎょうとう
中品に「痒み」をとることが記載されています。皮膚症状に用いるものとして、荊芥連翹湯、
せいじょうぼうふうとう
はいのうさんきゅうとう
清上防風湯、排膿散及湯などがあります。
身近な植物ですが、実は薬として服用している方も意外といらっしゃるのです。 (担当:佐藤 弘)
∼お知らせ∼
厚生労働省では、平成 18 年 4 月 1 日から診療報酬改定を予定しております。それに伴い受診
される皆さまがご負担する医療費に変更がございますのでご了承くださるようお願い申し上げ
ます。なおご負担する医療費について疑問な点や不明な点がありましたら、ご遠慮なく窓口ま
40 歳半ばを過ぎた頃から、急にのぼせたり、
急に汗をかくようになったり、前よりイライラ
するようになったり。また、動悸やめまい、し
びれなどが気になって病院を受診したけれど、
特に異常はありませんよ、と言われたり。みな
さん、こんな経験はありませんか? それらは
『更年期障害』かもしれません。
一般には、閉経をはさんで前後10年間ぐらい
の時期のことを『更年期』といいます。そして
この時期におこる様々な症状を『更年期障害』
と呼んでいます。たびたび検査をしても、異常
が認められないこと(特定の臓器に病気がない
こと)が特徴です。
今までの妊娠のために必要だった体の仕組み
から、閉経後の体の仕組みへと変わっていく
『更年期』にはちょうど女性ホルモンの分泌が
減少し、体中でアンバランスを生じやすくなり
ます。また、親・兄弟との別離、子供の独立、夫
の定年といった環境の変化も一因ではないかと
言われています。
漢方薬は、ひとつの薬で様々な症状に対応す
ることが可能です。ですから様々な症状が起こ
りうる更年期障害は、漢方薬の得意分野の一つ
といえるかもしれません。
かみしょうようさん
更年期障害によく使われる処方に加味逍遙散
があります。比較的体力の無い方で、冷えのぼ
せ、めまい、動悸、頭痛、不安、不眠、肩こり、
急な発汗、イライラなど症状が多彩で、しかも
日によって症状が変化する場合にいいようで
す。
症状も、体格、体力、環境なども個人差があ
りますので、ほかの漢方薬の方が効く場合もあ
ります。思いあたる方は漢方治療を考えてみて
はいかがでしょうか。 (担当:新 桂一)
でお申し出下さい。
また当院では適正な医療費の請求を行うため、毎月初めのご来院時に健康保険証を拝見させ
て戴いておりますのでよろしくご協力くださるようお願い申し上げます。 (担当:中川秀二)
ご協力いただいているアンケート機は、患者様のさまざまな苦痛や状態を患者様ご自身で評
価するために考案されたシステムで通称トムラスといいます。トムラスには検査データや毎回
編集担当が代わってから 3 号目の刊行となりました。今後、取り上げてほしいテーマやご質問
などがございましたら、お気軽にご意見箱に投函して頂ければ幸いです。 (担当:津田、棚田、 田、近田)
の治療内容なども入力されていますので、自覚症状が治療によってどのように変化したのかを
把握することができ、今後の治療を考える上でも大切な情報が蓄積されているのです。そして、
これら膨大なデータを解析することによって、より適切な治療法を確立しようと考えておりま
す。患者様には毎回ご不便をおかけいたしますが、何卒ご協力ください。どうしても入力がご
発行所:〒 163-0804 東京都新宿区西新宿 2-4-1 新宿NSビル4階 東京女子医科大学 附属東洋医学研究所
負担に思われる方は、遠慮なく治療担当へお申し出下さい。
TEL 03-3340-0821 http//www.twmu.ac.jp/IOM/index.html (発行責任者)
所長 佐藤 弘
なお、個人情報については外部に漏れることのないよう厳重に管理しております。
(担当: 田久実子)
わが国は超高齢化社会を迎えつつあります。
す。高齢者に使う漢方薬には、このほか、慢性
更年期障害の症状は多種多様であり、その原
が治療の基本となります。鍼灸治療では、下腹
ちょうとうさん
かんげん
じんゆ
ご高齢の方に漢方はどんなふうに役立つでしょ
脳循環障害を改善する釣藤散、腹部手術後の腸
因が加齢による性ホルモンの分泌低下であるこ
部の「関元」、腰部の「腎兪」、内くるぶしとア
うか。
管通過障害で腹部がガスで膨満している場合に
とは知られています。加齢に伴う諸症状を東洋
キレス腱の間にある「太谿」などのツボを取穴
老化は個人差が大きく症状も様々ですが、高
用いる大建中湯、
“こむらがえり”に即効性のあ
たいけい
だいけんちゅうとう
ごぞう
じん
医学では「五臓」のひとつである「腎」との関
します。 冷え、のぼせ、発汗、肩こり、関節
しゃくやくかんぞうとう
齢者に共通の特徴は、新陳代謝が低下している
る芍薬甘草湯など、西洋医薬にない効果を期待
わりで捉えます。
「腎」といっても西洋医学でい
痛、憂鬱、イライラ、頭痛、腰痛、頭重、倦怠
こと、体内の水分量が減少して乾燥傾向がある
できるものがあります。
う腎臓とは少し意味合いが違い、人間の成長や
感、動悸、下腹痛、めまいなど、更年期障害の
こと、運動能力・消化吸収能力・心機能・腎機
いっぽう、高齢者に副作用の出やすい漢方薬
発育、生殖や便・尿の排泄、脳や耳との関連が
症状は多種多様で出現状況には個人差がありま
能など身体機能全般が徐々に低下して予備能力
もあります。とくに気をつける必要があるのは
深いとされています。女性でも男性でも年をと
すので、状況に応じて適宜ツボを加えたりもし
ると、成長が止まり、生殖能力は衰え、残尿感
ます。例えば、足の冷えが強ければ内くるぶし
まおう
が少ないこと、慢性病にかかっている方が多
かっこんとう
生薬・麻黄を含む漢方薬です。麻黄は、葛根湯、
まおうとう
さんいんこう
く、しかも一人で複数の病気をかかえている人
麻黄湯などに含まれ、交感神経系を刺激するエ
や頻尿、物忘れや難聴などの症状がでてくると
の上方で脛の骨の際にある「三陰交」などのツ
も少なくないこと、などです。
フェドリン、抗炎症作用を持つプソイドエフェ
考えるとわかりやすいでしょう。
ボを加えたりしていきます。
じんき
漢方では、病人の体質体格、病名や症状など
ドリンを含みます。麻黄を含む漢方薬には、狭
「腎」は父母から受け継いだ「腎気」を蓄える
更年期は、子供の独立、身内の介護、住宅ロー
細かい個人差を考慮して治療方針をたてます。
心症などの重い心臓疾患を悪化させる可能性、
場所とされ、「腎気」は生後自らの生命活動に
ン、リストラなど多くのストレスにさらされる
同じ病気でも若い人と高齢者では違う治療を行
排尿障害(とくに前立腺肥大症のとき)
、胃腸障
よって充実していきます。中国の古典(素問:
時期でもあり、これらのストレスによって症状
じょうこてんしんろん
い、また胃腸が丈夫で体力があるか、胃腸虚弱
害、不眠などの副作用を起こす可能性がありま
上古天真論篇)には、女性は 28 歳、男性は 32
が増悪することが考えられ、長期的なヘルスケ
で薬の副作用が出やすいかなどによって異なっ
す。なお、高血圧症や糖尿病のように検査値以
歳で最盛期となり、その後は徐々に「腎気」が
アとして鍼灸治療を続けてみるのも良いでしょ
た薬を用います。新陳代謝低下は漢方の「陰証」
外に症状のない病気では、西洋医薬のほうが有
衰退していくと記されていますが、とくに更年
う。また、これから更年期をむかえる方々には、
と呼ぶ状態に相当し、代謝を盛んにして身体を
効な場合が多いと思われ、漢方薬だけにこだわ
期は「腎気」の衰退が顕著に現われやすい時期
予防医学的な立場から少しでも快適な更年期を
る必要はありません。
といえるかもしれません。
「腎気」が不足した状
過ごせるよう鍼灸治療を試してみることをお勧
いんしょう
ぶ し
はちみじおうがん
温める生薬、たとえば附子を含む八味地黄丸な
じんきょ
どを用います。体内水分量の減少を漢方では
こそう
ついでに申し上げれば、漢方薬にせよ西洋医
えびこ
態を「腎虚」といい、この「腎虚」を補うこと
めします。 (担当:蛯子慶三)
じおう
「枯燥」と呼びますが、これには地黄や薬用人参
薬にせよ、適切な食事、適度な運動、適度の体
などを含む漢方薬が用いられます。地黄は、前
重があってこそのものです。新しい時代の養生
はちみじおうがん
じゅうぜんたいほとう
記の八味地黄丸のほか、十全大補湯などに含ま
(長生きのための生活)を心がけましょう。
ひい
れます。消化吸収能力の低下は「脾胃の虚」と
(担当:稲木一元)
おうぎ
呼ばれる状態で、人参と黄蓍を含み、体力を補
ほざい
い 免 疫 を 高 め る 薬 (「 補 剤 」) を 用 い ま す 。
じゅうぜんたいほとう
ほちゅうえっきとう
十全大補湯、補中益気湯などです。また、漢方
薬はひとつの薬で二つ以上の病気や症状に効く
場合があり、複数の病気を持つ高齢者に向いて
いると言えます。たとえば八味地黄丸は、前立
腺肥大症、腰痛、坐骨神経痛、足腰の衰え、さ
らには性機能障害などに効く可能性がありま
かんげん
じんゆ
たいけい
さんいんこう
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