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プレキャストコンクリートピースを用いた無アンカー増設耐震壁の構造検証

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プレキャストコンクリートピースを用いた無アンカー増設耐震壁の構造検証
安藤建設技術研究所報 Vol.15 2009
プレキャストコンクリートピースを用いた無アンカー増設耐震壁の構造検証実験
田畑
卓*
西原
寛*
桜井
徹**
Structural Experiment of Reinforced Concrete Non-anchored Shear Walls
with Precast Concrete Pieces
by Taku TABATA, Hiroshi NISHIHARA and Toru SAKURAI
Abstract
We conducted an experiment on RC infilled shear walls in which a shear wall element composed of precast
concrete pieces was glued to the outer frame through the steel plate. The specimen is a one-layer, one-span
frame on a 1/2 scale. The principal parameter is the width of steel plate. As a result, it was suggested that all
width of steel plate is effective for glue joints strength. Including the past experimental data, the evaluation
method of ultimate shear strength and ductility index value was examined.
要
旨
プレキャストコンクリートピースを組積して構成された壁板要素を,外周フレームの内側に
鋼板を介してエポキシ樹脂により接着接合する増設耐震壁工法を開発し,その構造性能を実験
的に検証した。実験では実大の 1/2 縮尺とした 1 層 1 スパン架構試験体を用い,主なパラメータ
を鋼板幅(接着幅)とした。その結果,接着耐力に対しては鋼板の全幅が有効であること,また,
増設耐震壁のせん断終局耐力および靭性指標値は,既往の工法と同様に RC 耐震改修指針に基づ
いて評価できることが確認された。
キーワード:増設壁/エポキシ樹脂/接着/せん断耐力/破壊形式
1.はじめに
課題がある。このようなことから,人力での組積作
既存建築物の耐震補強としてRC耐震壁を増設す
業が可能なように小型化したプレキャストコンクリ
る場合には,従来,既存外周フレームにあと施工ア
ートピースにより増設壁を構築するものとして,現
ンカーを用いて増設壁と既存外周フレームとの一体
場でのコンクリート打設をなくするとともに,これ
性を確保するとともに,増設壁を現場打ちコンクリ
らの増設壁と既存外周フレームとの接合に,あと施
ートにより構築するのが一般的である。しかし,あ
工アンカーではなく,エポキシ樹脂による接着接合
と施工アンカーは振動,騒音,粉塵を伴うため,建
を採用した増設耐震壁工法の開発に着手した。
物を使用しながら補強工事を行うのが困難であり,
本報では工法の概要を示すとともに,これらの構
また,コンクリートの現場打設作業は,打設用配管
造性能を検証するために行った,実大の約1/2縮尺
を設置するためのスペースの確保や騒音等の問題の
とした1層1スパン試験体による載荷実験の結果を報
ほか,休日や夜間での補強工事が要求される場合,
告する。
プラントからのコンクリート調達が難しいといった
*
技術研究所構造研究室
** 技術研究所材料施工研究室
61
安藤建設技術研究所報 Vol.15 2009
外周定着プレート
後打ち部(無収縮グラウト)
壁筋(ネジ付き鉄筋)
PCa ピース
PCa ピース
外周定着プレート
図 2 構成要素・収まり
図 1 工法概要
2.工法概要
図1に工法概要,図2に構成要素および収まりを示
す。本工法は予め高ナットが溶接された“外周定着
プレート”と称する鋼板を,エポキシ樹脂により既
存外周フレームの内側四周に接着するとともに,小
型のPCaピースを相互にエポキシ樹脂で接着しなが
ら既存外周フレームの内側に組積して,増設壁の後
打ち部分となる梁下,柱際および壁中央縦列部分に
無収縮グラウトを圧入することにより増設耐震壁を
表1
試験体一覧
試験体
RCW
BLW1
BLW2
BLW3
b×D=300×300mm
形状
柱
12-D13 (USD685) pg=1.69%
主筋
2-D6@200 (SD295A) pw=0.11%
帯筋
t×L×h=125×2100×1400mm
形状
1-D10&D13@75
縦筋 [pw] [email protected] 1-D10@75
[1.06%]
壁 (SD295A)
[0.76%]
[0.76%]
1-D13@100
横筋 [pw] 2-D6@90 1-D10@100
[1.02%]
(SD295A)
[0.57%]
[0.57%]
外周定着
125
200
-
250
プレート幅 (mm)
構築する。PCaピースは幅300mm,高さ200mm,厚
さ(壁厚)200~250mmのモジュールで,1ピース当た
500
りの重量は約30kgである。また,各PCaピースには
壁筋を挿入するためのシース管が内蔵されるととも
に,後打ち部との境界面にコッターが設けられてい
1400
る。壁筋は一端にネジを有する異形鉄筋を用い,外
周定着プレートとネジ接合し,他端は壁中央で重ね
継ぎ手するものとしている。シース管内には壁筋配
筋後,無収縮グラウトを圧入する。
610
3.実験計画
3.1 試験体
表1に試験体一覧,図3に試験体形状および配筋を
3400
は実大の約1/2縮尺とした1層1スパンの耐震壁であ
り,試験体数は全4体である。外周フレームの形状
寸法および配筋は全試験体共通とし,加力梁および
基礎スタブは十分な剛性と耐力を有するよう設計し,
柱はせん断破壊型とした。RCWは一体打ち壁試験
体で,BLW1~3がPCaピースによる増設壁試験体で
ある。増設壁試験体では外周定着プレートの幅(接
着幅)を主な実験パラメータとした。すなわち,RC
62
300
2100
図3
125
300
示す。また,図4にPCaピース形状を示す。試験体
300
試験体形状および配筋
耐震改修指針[1]によれば,増設壁で想定されるせ
ん断破壊の形式は,外周フレームと壁板とが一体と
なってせん断破壊する場合と,柱のパンチングシア
破壊を伴って接着面がすべり破壊(あるいは接合部
せん断破壊)する場合に大別することができるが,
15
プレキャストコンクリートピースを用いた無アンカー増設耐震壁の構造検証実験
本実験計画では外周定着プレートの全幅が接着に有
95
効との仮定のもと,BLW1では外周定着プレートの
シース管35φ
15
幅寸法を壁厚の2倍(=250mm)として一体せん断破壊
シース管38φ
壁厚と同一幅(=125mm),BLW3では200mmとしなが
25 50 25
100
15
と接着面すべり破壊の耐力を拮抗させ,BLW2では
ら,壁筋量を増やし確実に接着面すべり破壊を生じ
9
るよう計画した。
37.5
表2~表4に使用材料の材料特性を示す。
3.2 載荷方法
図4
定軸力を加えた状態で,加力梁の左右に等荷重の水
平力を載荷した。軸力は柱 1 本当たり 0.15σB ・Ac
(σB:柱コンクリート圧縮強度,Ac:柱断面積)で
ある。水平力の載荷は,層間変形角(R)による変形
制 御 と し , R=1/1600rad. , 1/800rad. , 1/400rad. ,
表2
種別
D13 (USD685)
D13 (SD295A)
D10 (SD295A)
D6 (SD295A)
φ3.2 (SWM)
PL (t=6 SS400)
し載荷を行った後,R=1/67rad.まで載荷を行った。
部位
図 6 に層せん断力(Q)-層間形角(R)関係,図 7 に最
終ひび割れ状況例を示す。
各試験体とも R=1/1600rad.のサイクルで,柱に曲
85
125
鋼材の材料特性
降伏強度 引張強度 破断伸び
(%)
(N/mm2) (N/mm2)
柱主筋 (共通)
690
938
11.3
壁筋 (BLW1~3)
347
505
22.3
壁筋 (BLW1~3)
364
510
18.9
壁筋 (RCW)、帯筋
371
538
18.4
スパイラル筋
618
外周定着プレート
312
471
36.5
表3
4.1 破壊性状
40
使用箇所
1/200rad.で各 2 回,R=1/100rad.で 1 回の正負繰り返
4.実験結果
37.5
PCa ピース形状(最上段角部ピース)
図 5 に載荷装置を示す。試験体の基礎スタブを異
形 PC 鋼棒により反力床に固定した後,両側柱に一
75
150
コンクリートの材料特性
柱(共通)、壁(RCW)
PCaピース(BLW1)
PCaピース(BLW2)
PCaピース(BLW3)
加力梁
スタブ
シース内無収縮グラウト
後打ち部無収縮グラウト
圧縮強度
(N/mm2)
33.2
56.0
57.6
60.0
44.1
42.2
65.8
70.5
ヤング係数 割裂強度
(N/mm2) (N/mm2)
2.63
2.63×104
3.99
2.84×104
3.89
2.91×104
4.25
2.97×104
3.04
2.86×104
3.00
2.99×104
2.01
2.25
げひび割れ,壁板にせん断ひび割れが発生した。
増設壁試験体では,壁板の後打ち部分(無収縮グラ
ウト圧入部分)に軽微な乾燥収縮ひびわれが多数発
生しており,これらから拡幅する性状を示した。
一体打ち壁試験体の RCW はその後,R=1/400rad.
のサイクルで柱頭にせん断ひび割れが発生し,変形
表4
エポキシ樹脂の材料特性
圧縮強度 接着強度 引張強度
(N/mm2) (N/mm2) (N/mm2)
外周定着PLの接着
CP300W
115.0
16.8
50.4
PCaピース相互の接着
AC406TW
107.0
20.1
外周定着PL周りのシール S930W
84.1
※接着強度は引張りせん断試験による
使用箇所
製品名
角の増大にしたがって壁板全体に多数のせん断ひび
割れが発生した。R=100rad.に向かう途中で引張り
側柱主筋が降伏し,ほぼその直後に壁全体を対角線
状に横切るようにせん断ひび割れが拡大して一気に
耐力が低下した。
リニアウェイ
2000kNオイル
ジャッキ
増設壁試験体の BLW1 は変形角の増大に伴って
1500kNオイル
ジャッキ
1650
PCa ピース部分にも多数のせん断ひび割れが発生し
610
たが,これらのせん断ひび割れは殆ど拡幅せず,
R=1/200rad のサイクルで壁脚部と基礎スタブとの
ずれ変形を生じるとともに,圧縮側柱脚に発生した
せん断ひび割れが顕著となり最大耐力に至った。最
1500kNオイル
ジャッキ
図5
加力装置
大耐力以降はスリップ型の履歴ループを描くが,
1/67rad.)まで PCa ピース相互の目地に沿うような
RCW のような急激な耐力低下はみられず,比較的
ひ び 割 れ は 観 察 さ れ な か っ た 。 BLW2 は
安定した挙動を示している。また,最終加力時(R=
R=1/800rad.のサイクルで最大耐力に至った。この
63
2500
Q (kN)
RCW
BLW1
2000
Q (kN)
安藤建設技術研究所報 Vol.15 2009
1500
2000
1500
1000
1000
500
500
-15
-10
0
-5
-500 0
5
10
15
20 -15
0
-5
0
-500
-10
R (×10 -3rad.)
-1000
-15
-10
-2500
2000
-2000
2000
BLW3
1500
Q (kN)
-2000
-1500
Q (kN)
5
1500
1000
1000
500
500
0
0
-5
0
-500
5
10
15
20 -15
-10
BLW1
BLW3
-5
0
-500
-3
5
-1000
-1000
-1500
-1500
-2000
-2000
図6
2000
2000
BLW2
壁下部
壁上部
1000
壁下部
壁上部
500
0
-5 -4 -3 -2 -1 0
-500
1
2
15
20
層せん断力-層関変形角関係
Q (kN)
1500
10
R (×10 -3rad.)
R (×10 rad.)
BLW1
10
15
20
R (×10 -3rad.)
-1000
-1500
BLW2
RCW
3 4 5
δs (mm)
図7
Q (kN)
BLW3
2000
1500
1500
1000
1000
500
500
0
-5 -4 -3 -2 -1 0
-500
1
2
3 4 5
δs (mm)
0
-5 -4 -3 -2 -1 0
-500
-1000
-1000
-1000
-1500
-1500
-1500
-2000
-2000
最終ひび割れ状況例
Q (kN)
壁下部
壁上部
+Q/2
1
2
3
4
5
+Q/2
+δs
δs (mm)
+δs
-2000
図8
外周定着プレート接着面の水平すべり変位
時点では柱にせん断ひび割れはみられず,壁板の
示 す 。 外 周 定 着 プ レ ー ト 幅 が 広 い BLW1 お よ び
せん断ひび割れも軽微であった。R=1/200rad.のサ
BLW3では,壁頂部のすべり変位は最終加力時にお
イクルで圧縮側柱の柱頭にせん断ひび割れが発生
いても1mm以下に留まり,層間変形角の増大に対
するとともに,加力梁と壁頂部との間で明確なず
しては,壁脚部のすべり変位が増加する傾向を示し
れ変形が認められ,それ以降,除々に荷重が低下
ている。これらの最大耐力時におけるすべり変位は
した。BLW3 は BLW1 と比べると,壁板に発生
3mm程度であった。一方,外周定着プレート幅を
するせん断ひび割れの本数が少ない傾向にあった
壁厚と同一としたBLW2は,最大耐力時において壁
が,ほぼ同様の破壊性状を示した。
頂部,壁脚部とも殆どすべり変位を生じておらず,
それ以降は壁頂部のすべり変位が顕著に増加する性
4.2 接着面のすべり変位および帯筋の歪み性状
状を示した。
図8に増設壁試験体における外周定着プレート接
図9に正加力時の帯筋の歪み分布を示す。壁頂部
着面の水平すべり変位(δs)と層せん断力(Q)の関係を
のすべり破壊を生じたBLW2は,引張側柱において
64
BLW3においても,圧縮側柱ではR=1/200rad.以降,
最下段①の歪みが顕著に増大する性状を示しており,
各試験体ではこれらの柱がパンチング破壊に至って
R=1/200rad.以降,除々に荷重が低下したものと推察
600
を示す。ここで,増設壁試験体の初期剛性計算値は
②
εw (%)
0.2 0.3
εw (%)
0.1 0.2 0.3
a) 引張側柱
1400
BLW1
BLW2
1200
R=1/800
R=1/400
R=1/200
R=1/100
0.1
1000
800
④
②
0
0.1
εw (%)
0.2 0.3
図9
Q (kN)
1200
1000
εw (%)
0.1 0.2 0.3
b) 圧縮側柱
1200
RCW
1000
せん断ひび割れ発生
600
600
次モーメント(mm4)
κ w' =
{
}
2
0.6
0
0.8
1200
BLW2
80%低減
1000
(
)
n = tw /bc
bc , Dc:両側柱の幅,せい(mm)
b) ひび割れ耐力
表 5 にひび割れ耐力に関する実験値と計算値の対
応を示す。曲げひび割れ耐力の算定は式(2),せん
断ひび割れ耐力の算定は式(3)によった。増設壁試
0.2
0.4
BLW3
0.6
0.8
80%低減
低減なし
800
600
⎤
⎡
⎧15 ⎫
2 2
4
⎢v + u (1 − v )⎨ 8 ⎬ 1 − u − u ⋅ v ⎥
⎩ ⎭
⎦
⎣
u = ( l w -Dc)/( l w +Dc)
0.4
低減なし
ν =1/6
5 1 − u 3 (1 − v )
1000
0.2
R (×10 -3rad.)
0
800
Ece= (Ecf・Ac+ Ecw・Aw)/(Ac+Aw)
tw , l w :壁厚(mm),両側柱の中心間距離(mm)
ho , h:壁内法高さ(mm),および加力点高さ(mm)
3(1 + u )
0.0
Q (kN)
Ief , Iew : 外周フレームおよび壁板の等価断面 2
Gc= Ece/{2(1+ν)}
200
R (×10 -3rad.)
0
1200
80%低減
せん断ひび割れ発生
曲げひび割れ発生
400
曲げひび割れ発生
200
のヤング係数(N/mm2)
BLW1
低減なし
400
Ecf , Ecw:外周フレームおよび壁板コンクリート
0.1
800
ここで,
Ks = Q/R = Gc・tw・ l w ・h/(κw’・ho)
εw (%)①
0.2 0.3
帯筋の歪み分布
低減なし
800
Kf = Q/R = 3(Ecf・Ief +Ecw・Iew)/h2
⑤
③
であることを考慮したものである。
(1)
BLW3
200
ング係数がコンクリートのそれに比べて 1/10 程度
K = 0.8/(1/Kf +1/Ks)
0.1
400
て式(1)より算定した[2]。これはエポキシ樹脂のヤ
示していることがわかる。
εw (%)①
0.2 0.3
600
RC 耐震壁の場合に対して 80%に低下するものとし
同図より,実験値と計算値は概ね良好な適合性を
③
400
0
スタブ上面からの高さ(mm)
図 10 に初期剛性に関する実験値と計算値の対応
R=1/800rad.
R=1/400rad.
R=1/200rad.
R=1/100rad.
800
BLW1とBLW3では部材全長に渡って歪みを生じる
a) 初期剛性
④
200
性状を示し,いわゆる柱部材としてのせん断破壊を
⑤
1000
BLW2では②の歪みが増大する傾向をしているが,
4.3 実験値と計算値の対応
BLW3
BLW2
1200
される。また,これらと反対側の柱に着目すると,
生じたことが推察できる。
BLW1
Q (kN)
る。壁脚部でのすべり破壊を生じたBLW1および
1400
Q (kN)
R=1/200rad.以降,最上段⑤でのみ歪みが増大してい
スタブ上面からの高さ(mm)
プレキャストコンクリートピースを用いた無アンカー増設耐震壁の構造検証実験
せん断ひび割れ発生
400
600
せん断ひび割れ発生
400
曲げひび割れ発生
曲げひび割れ発生
200
200
R (×10 -3rad.)
0
0
0.2
図 10
表5
試験体
RCW
BLW1
BLW2
BLW3
0.4
0.6
R (×10 -3rad.)
0
0.8
0
0.2
0.4
0.6
0.8
初期剛性に関する実験値と計算値の対応
ひび割れ耐力に関する実験値と計算値の対応
曲げひび割れ発生時
実験値 計算値 実験値
(kN)
(kN)
計算値
550
577
0.95
599
603
0.99
500
607
0.82
549
609
0.90
せん断ひび割れ発生時
実験値 計算値 実験値
(kN)
(kN)
計算値
799
689
1.16
699
841
0.83
649
850
0.76
647
863
0.75
験体の実験値と計算値の比は,曲げひび割れ耐力に
65
安藤建設技術研究所報 Vol.15 2009
関して 0.82~0.99,せん断ひび割れ耐力に関して
果に基づきエポキシ樹脂の接着強度を式(7a)より評
0.75~0.83 であり,計算値は幾分高めの評価を与え
価し,後者は文献[2]による壁板の圧縮ストラット
る傾向にあるものの,実験値と比較的良い対応を示
の 影 響 を 考 慮 し た 式 (8) を 用 い た 。 曲 げ 終 局 耐 力
している。せん断ひび割れ耐力は,一体打ち壁試験
(Qmu)は式(9)による。
体より幾分低いものの,これらは乾燥収縮ひび割れ
Qsu = min(Qsu1 , Qsu2)
の影響によるものと判断される。
⎧⎪ 0.053 pte (18 + Fc f )
Qsu 1 = ⎨
⎪⎩ M (Q ⋅ l ) + 0.12
+ 0.85 pse ⋅ σ wy + 0.1σ 0 e ⋅ be ⋅ je
(4)
0.23
bMcr =
(σt +σo)Ze
(2)
ここで,
σt:コンクリート引張強度(N/mm ) = 0.563 σ B
σB:柱のコンクリート強度(N/mm2)
2
σo:軸方向応力度(両側柱および壁板の全断面積
2
に対する値)(N/mm )
(5)
ここで,
Fcf:外周フレームのコンクリート強度
pte:等価引張鉄筋比(%)
=100at /(be・l )
at:引張側柱の主筋全断面積
cQcr= τcr・tw・ l w /κw
(3)
l :壁の全長
= l w + Dc
l w :両側柱の中心間距離
ここで,
τcr:せん断ひび割れ応力度
τcr = ( σt + σt・σo)
2
be:等価壁厚
σt =0.313 σ B
0.5
σB:壁板のコンクリート強度(N/mm )
2
κw =
}
{
}
3(1 + u ) 1 − u 2 (1 − v )
4 ⋅ 1 − u 3 (1 − v )
{
}
= ΣA / l
ΣA :両側柱と壁の断面積の合計
p se :等価横筋比(%) = awh (be ⋅ s )
awh , s :1 組の壁横筋の断面積および間隔
σwy:壁横筋の降伏強度
σ0e:軸方向応力度 = N (be ⋅ l )
σ 0e ≤ 8 N/mm
2
je :応力中心間距離
c) 終局耐力
増設壁のせん断終局耐力(Qsu)は式(4)~式(8)より
算定する。これらはRC耐震改修指針[1]に準拠して
Qsu2 = min(Qsu2f , Qsu2w)
(6)
いるが,本工法では接着接合工法を採用しているた
Qsu2f = Qjf +pQc +α・Qcu
(7)
め,外周フレームと壁板との接合界面での破壊を考
Qsu2w = Qjw +ΔQwu+pQc +α・Qcu
(8)
慮したせん断耐力(Qsu2)は,破壊面を外周フレーム
ここで
と外周定着プレート間の接着面に想定した場合
pQc:引張側柱頭部のパンチングシア耐力[1]
(Qsu2f),および外周定着プレートと壁板との接合面
Qcu:圧縮側柱の終局耐力[1]
に想定した場合(Qsu2w)の小さい方の耐力で与えるも
Qjf:エポキシ樹脂の接着耐力で次式による
のとしている。また,前者においては次節の検討結
表6
Q jf = 0.30 Fc f ⋅ t s ⋅ l wo
(7a)
本実験および既往実験の結果と計算結果詳細
実験値
各要素のせん断耐力計算値
終局せん断耐力計算値
実験値/計算値
文献
試験体名 Qmax 破壊
Qjf
Qmu Qmax Qmax Qmax Qmax Qmax
pQc αQcu Qjw ΔQwu Qsu1 Qsu2f Qsu2w Qsu
No
(kN) 形式 (kN) (kN) (kN) (kN) (kN) (kN) (kN) (kN) (kN) (kN) Q su1 Qsu2f Qsu2w Qsu2 Qsu
BLW1
1704 SL
908
555
138
380
577 1121 1600 1649 1121 2181 1.52 1.07 1.03 1.07 1.52
本
実
BLW2
1232 SL
454
555
138
648
498 1236 1147 1839 1147 2181 1.00 1.07 0.67 1.07 1.07
験
BLW3
1564 SL
726
555
138
648
498 1236 1419 1839 1236 2181 1.27 1.10 0.85 1.10 1.27
[2] FW-N-B
657 SL
237
259
83
123
279
570
579
743
570
916 1.15 1.13 0.88 1.13 1.15
[3]
A
657 SL
156
258
78
94
216
465
492
645
465 1193 1.41 1.34 1.02 1.34 1.41
MA
348
F
163
177
20
99
230
276
360
525
276
276 1.26 0.97 0.66 0.97 1.26
[4]
SA
779 FS
165
250
77
99
235
353
493
662
353 1030 2.21 1.58 1.18 1.58 2.21
No.1
554 S
322
165
40
153
83
387
527
441
387
488 1.43 1.05 1.25 1.25 1.43
[5]
No.2
649 SL
322
165
40
153
83
387
527
441
387
488 1.68 1.23 1.47 1.47 1.68
LS
393 SL
91
107
63
100
104
347
261
374
261
985 1.13 1.50 1.05 1.50 1.50
[6]
531 S
91
107
63
100
104
347
261
374
261
985 1.53 2.03 1.42 2.03 2.03
LSH*1
[破壊形式] SL:接着面すべり破壊 S:一体せん断破壊 F:曲げ破壊 FS:曲げ降伏後の一体せん断破壊 *1 LSHは接合部にアンカー筋を併用
66
プレキャストコンクリートピースを用いた無アンカー増設耐震壁の構造検証実験
ここで,
ts:外周定着プレートの全幅
1.2
l wo :壁板の内法スパン長さ
1.0
Qjw:壁筋のせん断強度で次式による
)
ΔQwu :壁板の圧縮ストラットによるせん断耐力
0.6
(8c)
pw' ⋅σ wy ' Fcw < 0.1 のとき
0.2
Qsu1/Qmu
0.0
Δqwu = 0.07 − 0.3 pw' ⋅σ wy ' Fcw
0.0
pw' ⋅σ w' Fcw ≥ 0.1 のとき
1.4
Δqwu = 0.04
1.2
ここで
1.0
Fcw:壁板のコンクリート強度
(ただし,Fcw≦Fcf +10N/mm2)
tw:壁板の厚さ
pw’ ・ σwy’ :壁筋比と壁筋降伏強度の積で,壁
縦筋と壁横筋の小さい方の値とする
Qmu = M wu H wo
M wu = (at ⋅ σ y + 0.5 N )⋅ l w
SLf (本実験)
SLf
S or FS
F
0.4
成分で次式による
ΔQwu = Δqwu ⋅ Fcw ⋅ t w ⋅ l wo
0.8
(9)
(9a)
0.8
at , σy:引張側柱主筋の全断面積および降伏強度
0.8
1.0
0.4
1.6
0.2
Qsu2/Qmu
0.0
0.0
1.4
1.2
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
0.8
SLf (本実験)
SLf
S or FS
F
0.6
合した既往の無開口増設壁の実験結果 [2] ~ [6] を抽
0.4
出した。図11に検討に用いた試験体の最大耐力実験
0.2
Qsu/Qmu
0.0
算結果の詳細を示す。なお,既往実験における破壊
形式は文献の記述に従ったが,明確な記述がないも
1.4
Qsu2f > Qsu2w
外周フレームと壁板とをエポキシ樹脂により接着接
値と本評価式による計算値の対応を,また表6に計
1.2
SLf (本実験)
SLf
S or FS
F
1.0
実験結果のほか,鋼板(外周定着プレート)を介して
0.6
アンカー併用
N:両側柱軸力の合計
これらの終局耐力式の妥当性を検証するため,本
0.4
0.6
ここで,
H wo :RC 増設壁の反曲点高さ
0.2
Qmax/Qmu
(
τ au = min 0.7σ wy ' , 0.4 Fcw ⋅ Ecw ⋅ p w'
(8a)
(8b)
Qmax/Qmu
Q jw = τ au ⋅ t w ⋅ l wo
Qmax/Qmu
1.4
0.0
図 11
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
終局耐力に関する実験値と計算値の対応
のは破壊性状から判断した。
図11中段に示した図は実験値と Qsu2の対応である。
接合部せん断破壊に関わる Qsu2wは,文献 [5]の2体に
ここで,計算値 Qsu2 は全 11 体中 9 体で接着面すべり
対して1.25倍以上の余裕度となっており,これらは
破壊 (Qsu2f) , 2体で接合部せん断破壊 (Qsu2w)で決定し
検証試験体数として必ずしも多くないが,式 (8) は
ている。いずれの試験体も安全側の評価となってい
本来,既存外周フレームと壁板との接合に,あと施
ることがわかる。特にQsu2fの算定にあたっては,外
工アンカーを用いた場合を対象に提案された評価式
周定着プレートの全幅を接着に有効と仮定して計算
であり,本工法においても接着面のすべり破壊を生
値を求めているが,外周定着プレート幅を変動因子
じなければ (あるいは壁筋の定着が十分であれば),
(壁厚の 1.0 ~ 2.0倍)とした本実験結果においては,
これらと同等の耐力を有するものと考えられる。
試験体相互の耐力差を適切に評価できており,有効
図 11 上段は Qsu1 との対応である。本実験の試験
接着幅に関する評価の妥当性が認められる。一方,
体は全て接着面すべり破壊により最大耐力に至った
67
安藤建設技術研究所報 Vol.15 2009
ものの,BLW1 では計算値の 1.5 倍以上の耐力を有
接着強度τs (N/mm 2 )
4
することが確認できる。特に,BLW1 は最終破壊状
況においても軽微なせん断ひび割れが数本発生した
3
程度であり,また,いずれの試験体も PCa ピース
の目地に沿うようなひび割れは観察されていない。
2
従って,本評価式による一体破壊せん断耐力は十分
SL(本実験)
SL
S or FS
SL(鋼材要素)
0.08σB
0.38√σB
[9]
[10]
な余力を有するものと判断される。
図11下段は,同図上段と中段に示した計算値の小
1
0.30√σB
さい方の値,すなわち増設耐震壁のせん断終局耐力
圧縮強度σB (N/mm 2 )
との対応である。せん断終局耐力の計算値は殆どが
0
一体破壊せん断耐力 (Qsu1) で決定しており,必ずし
も実験報告による破壊形式と一致していない。これ
0
10
図 12
20
30
40
接着強度とコンクリート圧縮強度の関係
らは,一体破壊せん断耐力の計算値が実験結果を過
小評価しているものと考えられる。
4.4 外周定着プレートと外周フレームの接着強度
前述した式 (7a)では外周フレームのコンクリート
強度に基づいて,外周定着プレートの接着強度を与
えるものとしている。しかしながら,本実験はコン
Ru (×10 -3 rad.)
25
20
15
SL(本実験)
SL
S or FS
F
F=2.0
10
クリート強度を実験パラメータに含めておらず,検
証用データとしては必ずしも十分でない。そこで,
前掲の既往実験結果のほか,鋼材による耐震要素を
エポキシ樹脂により既存フレームの内側に接着接合
した実験結果 [7][8] を加え,評価式の妥当性を検証
F=1.0
5
Qsu/Qmu
0
0.0
0.2
0.4
図 13
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
2.0
限界部材角とせん断余裕度の関係
した。
図 12 は式 (10)から架構実験の接着強度の実験値
ついて,限界変形角 Ru とせん断余裕度 (Qsu/Qmu) の
を算定し,既存外周フレームのコンクリート圧縮強
関係を調べたものである。ここで,せん断余裕度は
度との関係を調べたものである。同図中には既往の
式(4)~式(9)より算定し,限界変形角 Ru は最大耐力
接着強度式[9][10]も併せて示す。
の 80% に耐力が低下したときの変形角と定義した。
図中には RC 耐震診断基準[11]に基づく計算値も実
τs ={Qmax-(pQc+α・Qcu)}/(ts・ l w)
(10)
線で示してある。RC 耐震診断基準によれば,靭性
指標 F は,Qsu/Qmu≦1.0 で F=1.0,Qsu/Qmu≧1.3 で
既往の実験は概ねコンクリート強度が 20N/mm2
F=2.0 で与えられ,この場合の限界変形角 Ru とし
以上の範囲で行われている。実験結果がばらついて
ては F=1.0 で Ru=1/250rad.,F=2.0 で Ru=1/82rad.程
いるため,接着強度とコンクリートとには明確な相
度が想定されている。
関性はみられないものの,これらの下限を与えると
同図より,本実験の限界部材角は,既往の実験結
いう点では,既往の式は概ね妥当な評価となってい
果と同様に,RC 耐震診断基準による靭性指標値を
る。しかしながら,本実験も含めて未だ危険側とな
上回る結果を示しており,靭性指標 F 値は RC 耐震
る実験データが存在し,必ずしも安全側の評価とい
診断基準に準拠し評価できるものと判断される。
2
えない。前述した式(7a)は,15N/mm 以上の範囲で
はこれら既往の式よりも低めの強度を与え,実験値
を安全側に評価することができる。
5.まとめ
プレキャストコンクリートピースを組積した,接
着接合工法による増設耐震壁について,構造実験を
4.5 靭性指標 F 値
図 13 は 4.3 節に示した既往実験および本実験に
68
実施した結果,以下の知見が得られた。
1) 一体せん断破壊を生じた一体打ち試験体は,最
プレキャストコンクリートピースを用いた無アンカー増設耐震壁の構造検証実験
大耐力に達して急激に耐力が低下したが,接着
[7] 服部晃三,平松一夫,岸本剛:接着接合によ
面すべり破壊を生じた増設壁試験体は,最大耐
る耐震補強壁の水平加力実験 (その 2),日本建
力以降の耐力低下が比較的緩やかで安定した挙
築 学 会 学 術 講 演 梗 概 集 , C-2 , pp447-448 ,
動を示した。
2007.8
2) 増設壁の初期剛性は一体打ち壁の 80% とみなし
て評価することができる。
3) 本実験および既往実験の最大耐力は,本報に示
[8] 毛井崇博,宮内靖昌:接着接合された鉄骨ブ
レース補強骨組の力学特性,日本建築学会構造
系論文集,第 539 号,pp103-109,2001.1
すせん断終局耐力式により良好に評価できた。
[9] 小宮敏明,益尾潔:鉄骨増設ブレース補強用
特に,本実験における接着面すべり破壊時の終
の接着接合部および間接接合部の終局耐力,コ
局耐力は,外周定着プレート幅との相関性が認
ンクリート工学年次論文報告集, Vol.22 , No.3 ,
められ,その全幅を接着に有効として評価する
pp1657-1662,2000
ことの妥当性が確認できた。
4) せん断余裕度と限界変形角の関係より,本工法
[10] 宮内靖昌,毛井崇博:エポキシ樹脂を用いた
接着接合部の力学性状に関する実験研究,コン
における靭性指標 F は, RC 耐震診断基準に基づ
クリート工学年次論文報告集, Vol.23, No.1 ,
いて評価可能であると判断される。
pp967-972,2001
[11] 日本建築防災協会:既存鉄筋コンクリート造
謝辞
建物の耐震診断基準・同解説,2001
本実験は 3C 技術推進プロジェクト「 WG57 プレ
キャスト増設耐震壁の開発」の一環として行われま
した。関係各位には記して感謝の意を表します。
参考文献
[1] 日本建築防災協会:既存鉄筋コンクリート造
建物の耐震改修設計指針・同解説,2001
[2] 日本建築総合試験所 構造部:鉄筋コンクリー
ト増設壁耐震補強設計・施工指針,2001
[3] 増田安彦,栗田康平,江戸宏彰,古屋則之:
プレキャストブロックを組積して構築した耐震
壁のせん断耐力性状に関する研究,コンクリー
ト工学年次論文報告集,Vol.25,No.2,pp1459-
1464,2003
[4] 杉本訓祥,増田安彦,木村耕三,小柳光生:
プレキャストブロックを組積して構築した耐震
壁の曲げ耐力性状に関する研究,コンクリート
工学年次論 文報告集, Vol.25 , No.2 , pp1465-
1470,2003
[5] 毛井崇博,楠寿博,小南勝義,藤村勝:ノン
アンカー工法による RC 補強耐震壁の実験的研
究,日本建築学会大会学術講演梗概集, pp393-
394,2000.9
[6] 栗田康平,増田安彦,木村耕三:小型プレキ
ャストブロックを用いた増設耐震壁工法 ( その
9) ,日本建築学会大会学術講演梗概集, pp2932,2008.9
69
安藤建設技術研究所報 Vol.15 2009
70
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