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日米加の経済類似性

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日米加の経済類似性
大阪経大論集・第60巻第5号・2010年1月
資
277
料
日米加の経済類似性
林
由
子*
要旨
本稿では,日本,アメリカ,カナダの経済類似性について,2005年の日本を含めた13カ国の
データから,古典的多次元尺度構成法を用いて検討を行った。その結果,アメリカとカナダ間
のつながりは経済水準の類似性には表れないが,経済変動の類似性には表れた。また,こうし
た変動は,もともとの都市基盤,特に人口構造に影響を受ける可能性が示唆された。さらに,
経済水準及び経済変動を含めた分析より,アメリカは他国とは異質である存在であることが示
された。
1.は
じ
め
に
本稿では,GDP,消費,輸出入等および高齢化や都市人口といった経済要素から日本
と北米の経済類似性についての検討を行っていく。
カナダとアメリカは,北米自由貿易協定に象徴されるように,経済の強い結びつきが存
在する。もともとはイギリスの植民地であったカナダは,1947年に独立し共和国となった
後,地理的にも近いことから大きな経済力を持っていたアメリカとの経済および政治面で
の結びつきを強めていった。これらの結びつきは,カナダから見たアメリカとの貿易関係
に見てとれる。2008年現在のカナダの対米貿易において,その輸出依存率,輸入依存率は
それぞれ75.5%と57.3%に上る(図1a)。これに対してカナダの日本への輸出および輸入
依存率は,いずれも2.4%である。
一方,日本と北米間の貿易関係を日本側から見てみると,日本から見たアメリカへの輸
出額は1位,輸入額も2位となっているが,制度的には APEC を通じた結びつきの強さ
があるにもかかわらず,アメリカに対する輸出および輸入依存率はそれぞれ17.5%と10.2
%にとどまる。また,カナダのそれは,それぞれ1.4%および1.7%となっている(図1b)。
最後に,アメリカから日本およびカナダとの貿易関係を見てみると,2007年において,
カナダに対する輸出および輸入依存率はそれぞれ21.4%と16.0%であり,カナダへの輸出
額は1位,輸入額においても2位となっている。これに対し,日本への輸出入額はいずれ
も4位であった(外務省(2008))。
* 本稿は,大阪経済大学中小企業研究所の2006/2007年研究助成「アメリカ大陸における流通機構の
動向,消費者の潮流に関する研究」の成果の一部である。
278
大阪経大論集
第60巻第5号
このように貿易関係から見た,アメリカとカナダの結びつきは,日本と両国間の結びつ
きに比べて強いことが伺われる。
カナダの輸出
カナダの輸入
100.0%
100.0%
80.0%
75.5%
80.0%
60.0%
60.0%
40.0%
40.0%
57.3%
20.0%
20.0%
2.4%
2.4%
0.0%
0.0%
アメリカ
アメリカ
日本
日本
データ出所:Statitics Canada
[図1a:カナダの輸出および輸入依存率 (2008年)]
日本の輸出
日本の輸入
30.0%
30.0%
25.0%
20.0%
25.0%
17.5%
20.0%
15.0%
15.0%
10.0%
10.0%
5.0%
1.4%
0.0%
10.2%
5.0%
1.7%
0.0%
アメリカ
カナダ
アメリカ
カナダ
データ出所:財務省「貿易統計」
[図1b:日本の輸出および輸入依存率 (2008年)]
アメリカの輸出
アメリカの輸入
30.0%
25.0%
30.0%
25.0%
21.4%
20.0%
20.0%
15.0%
15.0%
10.0%
5.4%
5.0%
16.0%
7.4%
10.0%
5.0%
0.0%
0.0%
カナダ
日本
カナダ
日本
データ出所:外務省(2008)
[図1c:アメリカの輸出および輸入依存率 (2007年)]
日米加の経済類似性
279
こうした経済間の結びつきは経済活動の類似性にどのように表れるのであろうか。これ
を見るために,本稿では,2005年の日本,アメリカ,カナダを含めた主要13カ国のデータ
からその人口構造を含めた経済の類似性について多次元尺度構成法を用いて,2次元への
投影から検討を行っていく。多次元尺度構成法は心理学の分野で頻繁に用いられる手法で
あるが,経済分野への応用例も見られる1)。
本稿の構成は以下の通りである。まず2節で多次元尺度構成法についての若干の説明を
行った後,3節で古典的多次元尺度構成法を用いた分析を行っていく。そして4節でまと
めを行う。
2.多次元尺度構成法
多次元尺度構成法は,観測された非類似度にできる限り近づけて,通常,低い次元上に
その非類似性をあらわすものである (Groenen and Velden (2005))。多次元尺度構成法に
は大きく,計量多次元尺度構成法と非計量多次元尺度構成法が存在する。後者は,入力デ
ータが相対順序に従っている場合に用いられる2)。ここでは前者の計量多次元尺度構成法
を用いた分析を行っていく。
今,は分析者によって先に指定される次元数であり,は に集約された 次元
の布置の座標行列であるとする。
多次元尺度構法は,
を観測された非類似度としたとき,以下で定義される非類似度
の距離 と を最も近づける を探すものである。非類似度の距離には,一般には
以下のようなミンコフスキー距離が仮定される。
通常は,r=2 のケース,ユークリッド距離が用いられる。
そして以下の(3)式のような適合度 や の相関係数二乗値
と () 等を用いてフィットの評価を行う。
ここで, は相対誤差をあらわす 。
1)たとえば, Syrquin (1978), Nelson and Rabianski (1988), Camacho et al. (2006)。
2)非計量多次元尺度構成法の代表的なものとしては,Kruskal の手法と Sammon mapping がある。
Kruskal の手法と Sammon mapping の違いは,ストレス関数におけるエラーを標準化するか否かに
ある。それゆえ Sammon mapping は,相対的に小さな距離を強調することになる。
280
大阪経大論集
第60巻第5号
3.推
3.1
デ
ー
定
タ
ここでは非類似度 を構築する変数として,主要な経済変数と人口構造に関する変数
を用いる。また経済変数は,経済の水準を表す変数のみを用いたグループと,変化を表す
変数のみを用いたグループの分析を行う。それゆえ本稿では4つの変数グループにより,
北米経済と日本経済の類似性についての検討を行っていく。ここでのデータはいずれも
World Development 2008 から取り出したものである。それぞれのグループに用いた変数
を付表1に示している。
推定に用いた国は,日本,アメリカ,カナダ,イギリス,フランス,イタリア,スペイ
ン,スウェーデン,ノルウェー,デンマーク,オランダ,ニュージーランド,韓国の13カ
国である。
3.2
古典的多次元尺度構成法
それぞれの変数は明らかにスケールが大きく異なるため,これらのデータをまず各変数
の標準偏差を用いて標準化をおこなった。そして標準化された値に対してユークリッド距
離を用いて非類似度 を求めた。ここでは,計量多次元尺度構成法として,古典的多次
元尺度構成法を用いて布置座標を求めた。そして,第1および第2番目に重要な主成分を
2次元の平面上にプロットした結果を図3から6に示している3)。
Norway
United States
Spain
2
Denmark
1
Canada
Korea, Rep.
United Kingdom
0 New Zealand
Sweden
−1
Netherlands
France
−2
−3
Japan
Italy
−2
0
2
4
6
[図3 経済1(総合)]
日米加の経済類似性
281
2
United States
United Kingdom
1
Spain
Italy
New Zealand
Japan
France
0
Canada
Korea, Rep.
Netherlands
−1
Denmark
Sweden
−2
Norway
−2
−1
0
1
2
3
[図4 経済2(水準)]
Korea, Rep.
2
Spain
1
New Zealand
Japan
United Kingdom
Canada
0
United States
Sweden
France
Italy
−1
Denmark
Netherlands
Norway
−3
−2
−1
0
1
2
3
[図5 経済3(変動)]
3)いくつかの結果は,結果の考察を容易にするために左右あるいは上下の変換を行った。
282
大阪経大論集
第60巻第5号
Korea, Rep.
2
1
Canada
Spain
Italy
0
Netherlands
Japan
DenmarkUnited States
Norway
New Zealand
United Kingdom
France
Sweden
−1
−3
−2
−1
0
1
2
[図6 人口構造]
図4の結果より,経済水準のみのデータによる推定からはアメリカとカナダの距離より
も日本とアメリカの距離が近いことが示されている。このことは,中本(2001)が述べて
いるように,「カナダ経済はアメリカ経済の10分の1経済」 と表現されるように,その経
済規模は小さく,むしろ日本のほうが経済規模に関してはアメリカに近いとの事実と合致
するものである。
これに対して,経済の変動に基づく変数による推定からは,逆の結果が得られている。
図5より,アメリカとカナダの経済の変動に基づく位置関係はかなり近く,その類似性は
日本との類似性よりも強いことが分かる。これに加えて,図6より,都市人口比率や高齢
化率等を基にした変数による推定結果からは,日本とアメリカに比べて,アメリカとカナ
ダの類似性の強さが見て取れる。
それゆえ,図4および図5の結果より,貿易等によるつながりは経済水準の類似性には
表れにくいが,経済変動の類似性に表れてくると考えうる。
また,図6の結果から,こうした変動は,もともとの都市基盤,特に人口構造に影響を
受ける可能性が示唆される。
さらに,図3より,総合的な経済変数に基づく推定結果はアメリカが他国に対して異質
である存在であることを示している。つまり経済水準および変動項目すべてを考慮すると
アメリカは他の国々とは異なっているということである。
日米加の経済類似性
4.結
283
論
本稿では,日本,アメリカ,カナダの経済類似性について2005年の日本を含めた13カ国
のデータに基づいて,多次元尺度構成法を用いて検討を行った。非類似度の尺度として,
経済の15変数を含めたグループ,水準と変化を表わす経済変数を含めたグループおよび人
口構造に関する変数を用いた。これら4つの変数グループから,北米経済と日本経済の類
似性について検討を行った。
その結果,経済水準のみのデータに基づく推定結果からは,アメリカとカナダよりも,
むしろ日本とアメリカがより類似しており,変動に基づく経済変数のみを用いた場合には,
逆に,アメリカとカナダの類似性が日本とアメリカのそれよりも強いとの結果が得られた。
つまり,貿易等によるアメリカとカナダ間のつながりは経済水準の類似性には表れないが,
経済変動の類似性には表れるということである。またこうした変動は,人口構造に影響を
受ける可能性が示唆された。さらに,経済水準及び経済変動を含めて分析を行った結果よ
り,アメリカは他の12カ国とは異質である存在であることが示された。
参考文献
Camacho, M. and Prez-Quiros, G. and Saiz, L. (2006) “Are European business cycle close enough
to be just one?” Journal of Economic Dynamics and Control, vol. 30, pp. 1687
1706.
Everitt, S. (2005), An R and S-PLUS Companion to Multivariate Analysis, Springer-Verlag ( R
と S-PLUS による多変量解析』石田基広訳,シュプリンガージャパン)
外務省(2008)「日米経済関係」外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/
keizai/j_us.pdf
外務省(2009)「カナダ経済と日加経済関係」外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/
area/canada/keizai.html
Gnanadesikan, R. (1997), Methods for Statistical Data Analysis of Multivariate Observations, Wiley
Groenen, P-J-F. and Velden, M. (2005), “Multidimensional Scaling,” Encyclopedia of Statistics, in
Everitt, B. and Howell, D. C. (Eds.), vol. 3, pp. 1280
1289.
中本悟(2001)「加米経済の発展と一体化」, カナダの経済
その軌跡と展望』加勢田博編,
昭和堂
Nelson, T. R. and Rabianski, J. (1988), “Consumer Preferences in Housing Market Analysis : An
Application of Multidimensional Scaling Techniques,” AREUEA Journal, vol. 16, no. 2, pp. 138
159.
齋藤尭幸・宿久洋(2006)『関連性データの解析法』共立出版
Syrquin, M. (1978), “The Application of Multidimensional Scaling to the study of Economic Development,” The Quarterly Journal of Economics, pp. 621639.
284
大阪経大論集
第60巻第5号
[付表1]
変数名
経済1(総合)
1.総固定資本形成(成長率)
2.GDP (成長率)
3.インフレ率
4.政府最終消費支出(成長率)
5.一人当たり GNI
6.所得支払い
7.消費者物価指数
8.財・サービスの輸入(成長率)
9.サービス輸入
10.財・サービス・所得の輸入
11.財・サービス・所得の輸出
12.経常収支
13.総貨幣準備高(金を含む)
14.サービス等の付加価値(成長率)
15.純経常移転
経済2(水準)
1.一人当たり実質 GDP
2.一人当たり実質家計最終消費支出
3.GDP に占める家計最終消費支出割合
4.サービス業における雇用者比率
経済3(変化)
1.総固定資本形成(成長率)
2.GDP (成長率)
3.インフレ率
4.政府最終消費支出(成長率)
人口構造
1.寿命(年)
2.都市人口比率
3.65歳以上人口比率
4.合成特殊出生率
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