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超弾性体の変位問題の3D CADおよびアニメーションへの応用

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超弾性体の変位問題の3D CADおよびアニメーションへの応用
学位論文
超弾性体の変位問題の
3 次元 CAD および CG への応用
2002 年 3 月
鈴 木 峰 生
目
次
第1章
1
はじめに
1.1
研究の背景
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.2
本論文の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
1.3
本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
第2章
9
ゴム型の離型問題への応用
2.1
離型問題でのゴム型形状
2.2
汎用有限要素法プログラムによる計算
2.3
計算と実験
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
12
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
2.3.1
シリコーンゴム引張り試験
2.3.2
ゴム型での離型試験
2.4
実験結果
10
・・・・・・・・・・
15
・・・・・・・・・・・・・
16
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18
2.4.1
RTV シリコーンゴム引張り試験結果
2.4.2
離型試験結果
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.5
計算と実験に対する考察
2.6
離型問題のまとめと今後の課題
・・・・・・・・・・・・・
18
21
23
・・・・・・・・・・
26
第3章
3.1
27
表情生成問題への応用
表情生成への応用
・・・・・・・・・・・・・・・・・
i
27
3.2
笑いの表情生成のための検討
・・・・・・・・・・・・・・
29
3.2.1
笑いのための筋
・・・・・・・・・・・・・
3.2.2
写真でみる笑い顔の特徴
・・・・・・・・・・
3.2.3
模型による検討
・・・・・・・・・・・・・
31
33
35
3.3
汎用有限要素法プログラムによる計算 ・・・・・・・・・・
36
3.4
計算と笑いの表情の生成
39
3.4.1
・・・・・・・・・・・・・
有限要素モデル
・・・・・・・・・・・・・
3.4.2
表情生成のための計算条件
・・・・・・・・・・
40
3.4.3
変位・拘束追加による変更
・・・・・・・・・・
42
・・・・・・・・・・
44
39
3.5
笑いの表情生成の結果および考察
3.6
怒りの表情生成のための検討
・・・・・・・・・・・・・・
47
3.6.1
怒り顔の特徴
3.6.2
怒りのための筋
・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
・・・・・・・・・・・・・
49
3.7
汎用有限要素法プログラムによる計算 ・・・・・・・・・・
3.8
計算と怒りの表情の生成
・・・・・・・・・・・・・・
52
3.8.1
有限要素モデル
・・・・・・・・・・・・・
ii
51
52
3.8.2
3.9
表情生成のための計算条件
怒りの表情生成の結果と考察
・・・・・・・・・・・・・
3.10 表情生成問題のまとめと今後の課題
第4章
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
52
54
56
57
結論
参考文献
59
謝
63
辞
iii
第1章
はじめに
1.1 研究の背景
大 量 生 産 シ ス テ ム 支 え る 技 術 に 金 型 に よ る 樹 脂 成 形 が あ る .例 え ば 樹 脂 で 同 一
形 状 品 を 生 産 す る 場 合 ,金 型 を 製 作 し 射 出 成 形 に よ る 手 法 が 広 く 使 わ れ て き て い
る .こ の 特 徴 は ,一 旦 金 型 を 製 作 し て し ま え ば ,同 一 形 状 の も の を 大 量 に か つ 迅
速 に 生 産 で き る 点 に あ る .し か し な が ら ,金 型 の 製 作 に は 成 形 品 の 形 状 と 成 形 品
を型から問題なく取り外すことができるような型の構造を考慮した製品設計お
よ び 型 設 計 が 必 要 で あ る .こ の よ う に 型 か ら 成 形 品 を 取 り 出 す こ と を 離 型 す る と
い う が ,こ れ を 考 慮 し た 設 計 を 行 う に は 専 門 的 な 技 術 と 設 計 に 要 す る 時 間 が 必 要
である.
こ の 金 型 の 設 計 は 紙 上 で 人 が 行 っ て い た が ,コ ン ピ ュ ー タ の 高 速 化 や ダ ウ ン サ
イ ジ ン グ に 伴 い ,コ ン ピ ュ ー タ 上 で 設 計 し ,こ の デ ー タ を 使 っ て 直 接 金 型 を 加 工
することが行われるようになってきた.このコンピュータ上で設計する手法が
CAD (Computer Aided Design) で あ り( 図 1),CAD の デ ー タ を 利 用 し て 直 接 加
工 す る 手 法 が CAM (Computer Aided Manufacturing) で あ る .
1
図 1
CAD に よ る 携 帯 電 話 ケ ー ス の 3 次 元 モ デ ル
特 に 最 近 で は PC (Personal Computer) の 圧 倒 的 な 性 能 向 上 と 低 価 格 化 を 背
景 に , 3 次 元 CG (Computer Graphics) が PC 上 で も 高 性 能 に 動 作 さ せ る こ と が
出 来 る よ う に な っ て き て お り ,CAD 特 に 3 次 元 CAD や CAM と 連 携 し て 設 計 の
流 れ を す べ て PC 上 で 簡 単 に か つ 従 来 に 比 べ れ ば 比 較 的 に 安 価 に 実 現 す る こ と が
出来るようになってきている.
さ ら に ,有 限 要 素 法 解 析 な ど の 手 法 も PC 上 で 設 計 に 活 用 さ れ る よ う に な っ て
き て い る .有 限 要 素 法 (FEM : Finite Element Method) は 1950 年 代 に 航 空 機 の
構 造 解 析 で 開 発 さ れ た 数 値 解 析 手 法 で あ る が , 1980 年 代 に 線 形 解 析 に お い て は
工学のあらゆる分野で実用化されさらに非線形解析の実用化もなされつつある.
そ し て 今 日 で は 非 線 形 問 題 を 扱 う 高 性 能 な 汎 用 プ ロ グ ラ ム も 出 現 し手 軽 に 使 え る
よ う に な っ て き た も の で あ る . ま た , 有 限 要 素 法 は CAD や CAM と も 結 び つ き
2
CAE (Computer Aided Engineering)と 呼 ば れ る 分 野 を 形 成 し 製 造 現 場 に 取 り 込
ま れ つ つ あ る [1, 2].
しかしながら近年の社会環境の変化につれ大量生産から少量多品種生産が注
目 さ れ る よ う に な り ,樹 脂 成 形 の 分 野 で も 従 来 の 金 型 に よ る 成 形 品 の 大 量 生 産 と
は 異 な る 新 し い 技 術 手 法 も 現 れ て き た . そ の ひ と つ に 注 型 成 形 で RP (Rapid
ProtoTyping) と 呼 ば れ る 積 層 造 形 技 術 を 利 用 し て 製 作 し た 型 を 利 用 す る 手 法 が
ある.
注 型 成 形 は ,成 形 型 に 液 体 の 樹 脂 を 流 し 込 み こ れ を 硬 化 さ せ て 成 形 品 を 作 る 手
法であり,多品種のものを少量製作するのに向いている方法である.
RP と は ,図 1 の よ う に PC 上 の 3 次 元 CAD で 成 形 品 の モ デ ル を 設 計 し た 後 ,
モデルデータを高さ方向に一定間隔でスライスして得られる断面形状を光硬化
樹 脂 や 紙 な ど で 積 み 重 ね て 接 合 し て い く こ と に よ り 設 計 し た 3 次 元 CAD モ デ ル
と同一形状の物体を作り上げる技術である.
図 2 は こ の 手 法 で 図 1 の 携 帯 電 話 ケ ー ス の CAD デ ー タ (STL 形 式 : Stereo
Lithography) を も と に 積 層 し て 製 作 し た も の で あ る . 左 側 が 紙 を 積 層 し て 作 成
した物で右側が粉(石膏粉)を積層したものである.
RP で 作 製 し た こ の モ デ ル の こ と を マ ス タ ー モ デ ル と よ び ,こ の モ デ ル か ら 型
取 り を し て 成 形 型 を 製 作 す る こ と に よ り 注 型 成 形 が で き る よ う に な る .こ の 型 取
り用の材料としては,シリコーンゴムが用いられることが多い.
3
図 2
積層造形により作製した携帯電話ケース
図 3 がこの手法で作製した携帯電話の注型用の型であり,上下ふたつ割の型
の う ち 下 側 の 型 を 示 し て い る .こ の 型 も シ リ コ ー ン ゴ ム で 製 作 し て い る .シ リ コ
ー ン ゴ ム は 第 二 次 大 戦 中 に 開 発 さ れ た 主 鎖 が シ ロ キ サ ン 結 合 (Si-O)で 構 成 す る ポ
リ マ ー で あ り 耐 熱 性 ・耐 寒 性 が 優 れ て い る .
図 3
マスターモデルより製作した成形型
こ の シ リ コ ー ン ゴ ム に は 固 形 ゴ ム の ほ か に RTV シ リ コ ー ン ゴ ム な ど が あ る .
4
RTV は Room Temperature Vulcanizable の 略 で , こ の ゴ ム は 室 温 で 架 橋 で き る
こ と が 特 徴 で あ る . つ ま り , 常 温 下 で 液 体 で あ る RTV シ リ コ ー ン ゴ ム 硬 化 剤 を
混 ぜ る こ と に よ り ゴ ム 状 の 固 体 に 変 化 さ せ る こ と が で き る の で あ る .こ の 特 徴 を
利 用 し て 最 近 で は 工 業 分 野( 例 え ば 美 術 工 芸 品 の 型 取 り 等 )や 医 療 分 野( 例 え ば
歯 の 型 取 り 等 )を は じ め と し て 趣 味 手 工 芸 等 で も 使 用 さ れ て き て い る [3].こ れ は
少 量 の 製 品 を 成 形 す る の に 限 れ ば 型 の 耐 久 性 も そ れ ほ ど 問 題 に な ら ず ,か つ 室 温
で簡単に型取りできることやゴムであるため成形品の離型時に型の弾性による
たわみが期待でき金型のような厳密な型設計を必要とされないためと考えられ
る.
架橋されたゴムは外力が加わると変形し外力が取り除かれるとほとんど瞬間
的 に も と の 形 状 に 戻 っ て し ま う .こ の 性 質 を 利 用 す れ ば 金 型 で 樹 脂 成 形 を 行 う 時
には成形品が金型に引っかかって離型できないようなものでもゴム型で成形し
型を変形させることにより型や成形品を損なうことなく離型することが可能に
なる場合がある.
しかしこのような性質を利用する場合でも従来のゴム型による注型成形では
型 を 複 数 個 に 分 割 し ,成 形 後 に 分 割 し た 型 を 取 り 外 し て 成 形 品 を 取 り 出 す の が 一
般 的 で あ り ,例 え ば 人 形 を 注 型 成 形 す る 場 合 に 人 形 の 頭 上 部 分 に 設 け た 樹 脂 を 流
し 込 む 小 さ な 穴 し か な い ゴ ム 型 を 利 用 し て 成 形 し ,樹 脂 が 硬 化 後 こ の 穴 を 広 げ て
あたかもゴム型部分を剥くようにして成形した人形を取り出すことは行われて
いない.
5
これは架橋されたゴムも変形させる力がゴムの引張り強さを超える場合には
破断するためこの剥くように離型するゴム型の設計にもその基準となるものが
必要であり現在のところこれが明らかでないためであろう.
1.2 本論文の目的
シリコーンゴムのような材料は大変形が可能であり荷重を取り除くとほぼ元
の状態に戻るという力学的な特徴をもったものであり超弾性体とも呼ばれてい
る .こ の 超 弾 性 体 を 数 百 パ ー セ ン ト に な る ひ ず み を 含 む 力 学 的 な 解 析 を 行 う 場 合
は材料の非線形性を考慮するとともに幾何学的な非線形性も考慮しなければな
ら な い .さ ら に 大 変 形 の 際 に 接 触 を 発 生 す る よ う な 場 合 に は 接 触 の 前 後 に よ る 非
線 形 性 も 考 慮 す る 必 要 が あ る .線 形 解 析 か ら 実 用 化 さ れ た 有 限 要 素 法 解 析 に お い
ても今日では上記のような様々な非線形問題を扱う汎用プログラムも登場して
きている.
そ こ で 本 論 文 で は 超 弾 性 体 と し て RTV シ リ コ ー ン ゴ ム に 注 目 し , こ れ を 利 用
する新たな応用技術に関して有限要素法解析を用いてその手法を技術的側面か
ら明らかにすることを目的としている.
1.3 本論文の構成
本論文ではシリコーンゴムの変位問題のとして二つの応用技術について進め
た 研 究 に つ い て ま と め て い る . ま ず 始 め に ゴ ム 型 の 離 型 問 題 と し て RTV シ リ コ
6
ーンゴム型を使用する樹脂注型成形法において従来とは異なる新たな離型方法
を 提 案 し 有 限 要 素 法 解 析 に 基 づ い て 行 っ た 研 究 に つ い て 述 べ て い る .次 に こ の 離
型問題の研究を進める上で利用している技術をもとに他分野への応用を検討し,
3 次 元 CG や ア ニ メ ー シ ョ ン の 分 野 へ の 応 用 を 試 み て い る .こ れ は RTV シ リ コ ー
ンゴムを皮膚と仮定した人の顔面モデルを有限要素法解析により変形させた結
果 に よ っ て さ ま ざ ま な 表 情 を 作 り 出 そ う と す る も の で あ り ,こ れ を CG で の 表 情
の 生 成 問 題 と し て ま と め て い る .そ の 後 ,本 論 文 の 結 論 を 述 べ る と と も に 問 題 点
や今後の方針について言及している.
7
8
第2章
ゴム型の離型問題への応用
離 型 問 題 へ の 応 用 で は ,人 形 を 注 型 成 形 で 作 製 す る 場 合 の よ う に ,一 つ の 金 型
で は そ の 型 構 造 上 離 型 で き な い よ う な 成 形 品 形 状 に 対 し て RTV シ リ コ ー ン ゴ ム
型 を 用 い て ,ゴ ム 型 を 破 壊 す る こ と な く あ た か も 剥 く よ う に 離 型 し て ,問 題 な く
成形できる型の設計指針となるものを明らかにすることを目的としている.
こ の 研 究 成 果 は ,樹 脂 成 形 品 の 少 量 多 品 種 生 産 に 反 映 で き る と 考 え て い る .例
え ば ,起 業 家 な ど は 成 形 品 を 利 用 し た 商 品 を 開 発 す る 場 合 ,現 状 で は 必 要 数 以 上
の 製 品 を 成 形 す る こ と に な る 金 型 を 製 作 し 利 用 す る し か 有 効 な 方 法 が な く ,加 え
て 金 型 の 制 作 費 が 高 い こ と も あ り 開 発 を 進 め る こ と が で き な い こ と も あ る .こ の
よ う な 商 品 開 発 に 今 回 研 究 の 対 象 と し て い る 手 法 は 有 効 で あ る と 思 わ れ る .ま た ,
一般の企業においても少量を生産し市場の反応を見極めてから本格的な大量生
産に移行するまで試行段階で役立つものと考えている.
この目的を実現するため,一個の金型ではその型構造上成形品が離型できない
よ う な 部 分 が で き て し ま う 形 状 の 型 を RTV シ リ コ ー ン ゴ ム で 製 作 し そ の 成 形 品 の
離型過程を評価する.評価は,このような型より成形品を取り出す途中の型の変
形 状 態 を 有 限 要 素 法 に よ り 解 析 し て 求 め る と と も に ,実 際 に RTV シ リ コ ー ン ゴ ム
で型を製作し成形品を離型する過程を再現してみてその有限要素法による解析結
9
果 と 比 較 す る こ と に よ り 行 う .こ れ に よ り 提 案 し て い る 新 し い 離 型 方 法 を RTV シ
リコーンゴム型で実現していく際に有限要素法を用いることによりその問題点や
型設計上の有効性を検討することが今回の目標である.
評価に使用するゴム型より取り出す成形品としては,人形や民芸品の置物など
を模した形状の物が考えられるが,今回はまず単純形状の球とし,その球の直径
より小さい穴を樹脂注入用の穴として型に設け,ここから球を離型する過程を対
象としている.
2.1 離型試験のゴム型形状
φ15.0
今回離型試験に利用しているゴム型の基本形状は図 4 に示すとおりである.
φ36.0
球30
25.0
43.0
図 4
ゴム型の基本形状
想 定 し て い る 成 形 品 は 直 径 30mm の 球 で あ り ,ゴ ム 型 は 外 形 形 状 が 直 径 36mm,
10
高 さ は 43mm の 円 筒 と し て い る .樹 脂 を 注 ぎ 込 む 穴 の こ と を 湯 口 と い う が ,こ の
直 径 は 15mm で あ る . こ れ を も と に RTV シ リ コ ー ン ゴ ム で 実 際 に 離 型 試 験 を 行
う試験用ゴム型と有限要素法で解析の数値計算を行うモデルを製作した.
表 1
一般特性
項目
硬化前
外観
灰白色流動性
粘 度 (23℃ )
硬化後
特性値
100Pa
作業可能時間
0.5h
標準脱型時間
8h
外観
白色ゴム状
比 重 (23℃ )
硬 さ (タ イ プ A)
引張り強さ
1.22
40
2.5Mpa
170%
伸び
実 際 の 離 型 試 験 に 供 す る 試 験 片 は 図 4 の 形 状 に 底 部( 図 中 右 端 )を 型 本 体 の 円
筒 部 と 同 じ 外 形 寸 法 で 40mm 延 長 し た も の を 製 作 し 使 用 し て い る .こ の 型 外 形 の
延 長 部 分 は 離 型 試 験 の と き ゴ ム 型 を 固 定 で き る よ う に す る た め の も の で あ る .製
作 に 使 用 し た RTV シ リ コ ー ン ゴ ム の 一 般 特 性 は 表 1 に 示 す と お り で あ る .
11
一方有限要素法の解析計算に用いる 3 次元モデルは図 4 に示している形状を3
次 元 モ デ ラ ー で 製 作 し た の ち , 3 次 元 10 節 点 四 面 体 U-P( 変 位 ‐ 圧 力 ) 混 合 超
弾性ソリッドで中間節点を使用しない条件で有限要素に分割しその節点数は
3800, 要 素 数 は 15900 と な っ て い る .
2.2 汎用有限要素法プログラムによる計算 [4]
構 造 物 の 非 線 形 挙 動 は い く つ か の 原 因 か ら 起 こ る が ,そ の 原 因 は 大 き く 次 の 3
つの種類に分けることができる.
1.
大ひずみ,大変形などの幾何学的非線形
2.
超弾性,クリープなどの材料非線形
3.
変形の過程での接触などの状態変化による非線形
こ の よ う な 原 因 に よ る 非 線 形 の 解 析 を 構 造 非 線 形 解 析 と 呼 ぶ こ と に す る .し た
が っ て 本 研 究 で 用 い て い る RTV シ リ コ ー ン ゴ ム が 非 常 に 大 き な 復 元 可 能 な 弾 性
変 形 を も つ 超 弾 性 材 料 で あ り ,ゴ ム 型 を 非 常 に 大 き な 変 形 を さ せ て 成 形 品 を 離 型
さ せ て い る こ と か ら ,こ の 超 弾 性 材 料 に 対 し て は 有 限 要 素 法 で 構 造 非 線 形 問 題 と
し て 扱 う 必 要 が あ る .そ こ で こ れ ら の 超 弾 性 体 の 構 造 非 線 形 問 題 を Windows NT
上 で 解 析 が 可 能 な 汎 用 有 限 要 素 法 プ ロ グ ラ ム の ANSYS Ver5.6 を 今 回 は 使 用 し て
解析している.
ま た ,こ の プ ロ グ ラ ム に は 解 析 に 使 用 す る 有 限 要 素 モ デ ル を 作 成 し 有 限 要 素 に
分 割 す る 機 能 も 備 え て お り ,今 回 解 析 に 使 用 し た 有 限 要 素 法 の 解 析 計 算 用 3 次 元
12
モデルの製作もこの機能を利用して製作している.
ANSYS Ver5.6 で は 拘 束 条 件 な ど に よ り 与 え ら れ た ひ ず み 量 に 対 す る 応 力 は 超
弾 性 材 料 で は 変 形 し た ボ リ ュ ー ム の ひ ず み エ ネ ル ギ ー 密 度 関 数 (W)よ り 式 ( 1 )
で計算される.
Sij =
∂W ・ ・ ・ ・( 1 )
∂Eij
ここで
Sij : 第 2 パ イ オ ラ ‐ キ ル ヒ フ ォ ッ フ 応 力 テ ン ソ ル
Eij : ラ グ ラ ン ジ ュ ひ ず み テ ン ソ ル
で あ る .し か し な が ら 今 回 は U-P( 変 位 - 圧 力 )混 合 超 弾 性 ソ リ ッ ド を 使 用 し て
お り ,こ の 場 合 ,ひ ず み エ ネ ル ギ ー 密 度 は Mooney-Rivlin 定 数 で 記 述 さ れ る ひ ず
み エ ネ ル ギ ー 密 度 関 数 (W)と 圧 力 の 変 数 か ら 式 ( 2 ) で 表 さ れ る .
W+Q=W-
1
(p-p)2 ・ ・ ・ ・( 2 )
2K
ここで
Q: ボ リ ュ ー ム の 拘 束 条 件 に よ る エ ネ ル ギ ー 増 加 項 目
K: 体 積 弾 性 率
p:W のみから得られる圧力
p:別に加える圧力
である.
こ れ に よ り 変 位 と 圧 力 の 増 分 加 わ っ た 有 限 要 素 マ ト リ ク ス は 式( 3 )で 表 さ れ
13
ている.
 K uu
 pu
 K
K up  u  F R u  ・ ・ ・ ・( 3 )
  =  − 
K pp   p   0  R p 
た だ し {F} : 節 点 に 外 部 よ り 働 く 力
{u } ,{p } : 変 位 と 圧 力 の 相 対 的 な 増 分
{R u } ,{R p } : ニ ュ ー ト ン ラ プ ソ ン 法 で の 復 元 力 ベ ク ト ル
R iu =


∂  
1
(p-p)2  d(vol) 
 ∫  W∂u i  vol 
2K


R ip =


∂  
1
(p-p)2  d(vol) 
 ∫  W∂p i  vol 
2K


K ijuu
∂R iu : 剛 性 の み に よ る 変 位
=
∂u j
K ijup =
p
∂R iu ∂R j
:圧力と剛性による変位
=
= K pu
ji
∂p j ∂u i
K ijpp =
∂u iu : 剛 性 の み に よ る 圧 力
∂p j
このようにひずみエネルギー密度に対応する応力を計算するが,式(1)より
得 ら れ る 応 力 は 工 学 的 に 意 味 の あ る 真 応 力 (Cauchy 応 力 )に 計 算 さ れ て こ の プ ロ グ
ラムでは出力されている.
ま た ,こ の プ ロ グ ラ ム で は Mooney-Rivlin 定 数 に よ る ひ ず み エ ネ ル ギ ー 密 度 関
14
数 (W)を 使 用 す る た め 解 析 を 行 う 超 弾 性 材 体 の 実 験 よ り 求 め た 応 力 と ひ ず み の
値 の 入 力 が 必 要 と な る .そ こ で JIS K6251 に 準 ず る 形 状 の 引 張 り 試 験 片 を 解 析 に
使 用 す る ゴ ム 型 と 同 一 の 材 料 で 作 成 し ,引 張 り 試 験 を 行 う こ と に よ り 応 力 と ひ ず
み の 実 験 値 を 入 力 し て い る [5, 6].
ところで有限要素法の解析モデルは図 4 に示す形状をそのまま 3 次元モデルと
し て 利 用 し て い る .円 筒 や 球 な ど で 構 成 さ れ る 形 状 に 対 し て 有 限 要 素 法 に よ る 解
析 を 行 う 時 に は , モ デ ル の 対 称 条 件 な ど を 設 定 す る こ と に よ り 1/2 断 面 や 1/4 断
面 等 を 用 い て 解 析 が 可 能 で あ る .し か し ,本 研 究 で は ,人 形 の よ う な 非 対 称 で 複
雑 な 形 状 の 評 価 を 目 指 し て お り ,複 雑 形 状 で の 評 価 手 法 の 参 考 の た め に ,球 な ど
の対称形状を使用する場合においても基本的には完全な 3 次元モデルで解析して
いる.
2.3 計算と実験
2.3.1 シリコーンゴム引 張 り試 験
本 研 究 の 解 析 に 使 用 す る RTV シ リ コ ー ン ゴ ム の 実 用 状 態 で の 材 料 定 数 を 求 め る
た め JIS K6251 に 準 じ て 引 張 り 試 験 [5, 6]を 行 い 応 力 と ひ ず み の 関 係 を 求 め た .
さ ら に 実 験 値 と 有 限 要 素 法 解 析 の 計 算 値 と の 比 較 の た め , 作 成 し た RTV シ リ コ
ーンゴムの試験片と標点間形状が同一形状の解析モデルを使い引張り試験と同
様 な 変 位 を 加 え て 静 的 な 超 弾 性 材 料 の 非 線 形 問 題 と し て 数 値 計 算 も 行 っ た .こ の
数 値 計 算 の 3 次 元 有 限 要 素 モ デ ル は ,離 型 試 験 用 3 次 元 モ デ ル と 同 様 な 方 法 に よ
15
り 製 作 し , 標 点 間 の 立 方 体 部 分 を 節 点 数 3200, 要 素 数 15900 の 有 限 要 素 に 分 割
し て い る . そ し て こ の 3 次 元 モ デ ル の 立 方 体 の 上 下 面 を 4mm ず つ 広 が る 方 向 に
のみ変位を設定して各段階で計算を行い応力とひずみを求めた.
2.3.2 ゴム型 での離 型 試 験
図 4 に示すゴム型に注型された樹脂を硬化後に離型する方法には図 5 に示すよ
う な 方 法 が 考 え ら れ る . つ ま り , 成 形 品 を 穴 か ら 引 っ 張 り 出 す (図 中 a), あ る い
は 湯 口 を 成 形 品 が 取 り 出 せ る ま で 広 げ る( 図 中 b),あ る い は 型 の 底 の 部 分 に 圧 力
を 加 え て 成 形 品 を 型 か ら 絞 り 出 す ( 図 中 c) と い う よ う な 方 法 で あ る .
(a) 引張り出す
(b) 広げて出す
図 5
(c) 絞り出す
成形品の離型方法
実 際 の 離 型 で は こ れ ら 個 々 の 方 法 を 組 み 合 わ せ る こ と も 考 え ら れ る が ,今 回 の
離 型 試 験 で は 単 独 の 離 型 方 法 を 考 え ,図 5 の 樹 脂 を 注 型 す る 湯 口 を 広 げ て 成 形 品
を 取 り 出 す 方 法 で 考 え て い る .こ の 方 法 に も と づ き 図 6 に 示 す 変 位 と 拘 束 を 加 え
16
て数値計算と離型の実験をおこなっている.
湯 口 の 広 げ 方 と し て は 円 周 方 向 に 円 形 状 の ま ま 直 径 を 拡 大 す れ ば 図 5 の (a)方
法 と も そ の 結 果 を 比 較 す る こ と が 可 能 に な る が ,実 際 の 試 験 で は 均 一 に 穴 を 広 げ
る 機 構 の 利 用 は 難 し い .そ こ で 図 6 に 示 す よ う に 湯 口 を 4 方 向 に そ れ ぞ れ 変 位 さ
せ る こ と に し た . つ ま り , 離 型 の 実 験 で は 底 面 (図 6 右 端 )を 固 定 し , 湯 口 を 広 げ
る 変 位 は 直 径 5mm の 金 属 棒 を 利 用 し 与 え ,直 径 を 1mm ず つ 広 げ る よ う に し た .
図 6
離型試験の変位条件
こ の 離 型 実 験 の ゴ ム 型 と 試 験 冶 具 の 外 観 を 図 7 に 示 す .図 上 方 の 冶 具 (矢 印 )に
よ り 湯 口 を 1mm 毎 に 広 げ る よ う に し て い る .
そして,数値計算においても同様に底面の自由度をゼロに常に拘束しておき,
湯 口 の 内 壁 の 4 箇 所 を 4 方 向 に 初 期 状 態 か ら 0.5~ 1.0mm ず つ 変 位 さ せ 引 張 り 試
験 片 の 計 算 と 同 様 に 静 的 な 超 弾 性 材 料 の 構 造 非 線 形 問 題 と し て 行 っ た .図 6 の 形
17
状 の 右 側 部 分 ( 図 中 「 固 定 」) が 底 面 で あ り こ の 部 分 は 湯 口 を 変 位 さ せ た 各 状 態
で の 計 算 毎 に す べ て の 方 向 の 自 由 度 が 無 い よ う に 設 定 し ,湯 口 の 直 径 が 25mm か
ら 32mm ま で 約 1mm ず つ 変 位 さ せ る 毎 に 数 値 計 算 を 行 っ て い る .
図 7
ゴム型の離型実験
2.4 実験結果
2.4.1 RTV シリコーンゴム引 張 り試 験 結 果
数 値 計 算 結 果 の 出 力 例 と し て 図 8 に ひ ず み が 100% 時 の 要 素 解 の 変 形 形 状 に お
ける相当応力分布を示す.
一般に金属の弾塑性試験としては、単軸引張り試験や単軸圧縮・せん断試験な
ど 、成 分 毎 の 試 験 し か お こ な え な い .し か し 複 雑 な 負 荷 の か か っ た モ デ ル 内 に は 、
18
軸方向応力やせん断応力が複合して発生する.そこで軸応力やせん断応力それぞ
れ の 成 分 を あ る 仮 説 に 基 づ い た 式 [7]で 演 算 し , 方 向 の な い ひ と つ の 応 力 を 算 出 す
る.これを相当応力と呼ぶ.金属の場合,この合成した相当応力の値が単軸引張
り試験で得られた降伏応力を越えると,実際にその金属は降伏すると考えられて
い る .今 回 は RTV シ リ コ ー ン ゴ ム で も こ の 相 当 応 力 が 成 立 す る と 仮 定 し て 実 験 を
行っている.
図 8
ひ ず み 100%で の 計 算 結 果
この数値計算をもとにひずみと応力の関係をまとめたものが図 9 である.また
19
図 9 中には実際に引張り試験をおこなった結果も実験値として併せて示している.
4.5E+06
4.0E+06
3.5E+06
応力(Pa)
3.0E+06
計算値1
2.5E+06
2.0E+06
1.5E+06
計算値2
1.0E+06
実験値
5.0E+05
0.0E+00
0
0.5
図 9
1
ひずみ
1.5
2
引張り試験結果
計 算 値 1 と は 解 析 プ ロ グ ラ ム が 真 応 力 (τ )に 基 づ い て 出 力 す る 試 験 片 中 の 相 当
応 力 の 最 大 値 で あ る . こ の 応 力 は そ の と き の 力 ( F) を 変 形 し て い る 面 積 ( A) で
割って求めたものである.
τ=
F
A
・・・・(4)
一 般 に 引 張 り 試 験 で は そ の と き に 加 え て い る 力( F)を 変 形 前 の 初 期 の 面 積( A 0 )
で 割 っ て 求 め た 応 力 (σ )で 整 理 す る . こ の 応 力 の こ と を 工 学 応 力 と 呼 ぶ が , 図 9
に示す実験値はこの応力で整理している.
σ=
F
A0
・・・(5)
そ こ で 計 算 値 1 も 実 験 値 と 比 較 す る た め に 工 学 応 力 に 変 換 す る こ と に し ,そ の 変
20
換した結果の値が図 9 中に示す計算値2である.
2.4.2 離 型 試 験 結 果
湯 口 の 直 径 を 30mm ま で 広 げ た と き の 計 算 結 果 が 図 10 で あ る .図 10 の 計 算 結
果は要素の相当応力の分布を示している.これらをもとに計算結果の応力とひず
み の 関 係 を ま と め た も の が 図 11 で あ る .
図 10
30mm 拡 張 時 の 相 当 応 力 分 布
図 11 に お い て も ,図 9 と 同 様 に ,有 限 要 素 法 プ ロ グ ラ ム が 出 力 す る 真 応 力 に 基
づき計算された相当応力を計算値 1 とし,工学応力に換算した値を計算値 2 とし
21
て示している.
と こ ろ で 図 11 で 使 用 し て い る ひ ず み の 値 は , 湯 口 の 初 期 の 円 周 に 対 し て あ る
直径まで広げたときの円周に対する割合であると仮定して計算して求めたもの
を 使 用 し て い る .離 型 試 験 の 実 験 値 は 湯 口 が 破 断 し た と き の 直 径 の 値 で 出 て く る
た め ,こ の ま ま で は 実 験 値 と 数 値 計 算 の 結 果 の 各 値 と 比 較 し づ ら い .そ こ で 今 回
使 用 し た ゴ ム 型 の 湯 口 の 直 径 と ひ ず み の 関 係 を 図 12 に 示 し , 実 験 値 か ら 破 断 時
のひずみを読み取ることができるようにしている.
図 7 に 示 し て い る 冶 具 で 実 施 し た 結 果 で は 湯 口 の 直 径 が 30mm か ら 32mm の
間 の 値 ま で 広 げ た と き に 試 験 片 が 破 壊 し て い る . し た が っ て こ の 結 果 を 図 12 に
重 ね て 示 し , こ の と き の ひ ず み が 0.8~ 1.0 で あ る こ と が わ か る .
6.0E+06
5.0E+06
計算値1
応力(Pa)
4.0E+06
3.0E+06
2.0E+06
計算値2
1.0E+06
0.0E+00
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
ひずみ
図 11
離型試験計算結果
22
0.9
1
1.0
破断
ひずみ
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
15
20
25
30
35
変位後の湯口の最大径(mm)
図 12
湯口直径とひずみの関係
2.5 計算と実験に対する考察
まず引張り試験による結果について検討する.図 9 の引張り試験結果より,引
張 り 試 験 で 破 断 し た ゴ ム の 試 験 片 の 応 力 値 は 表 1 に 示 す 一 般 特 性 値 よ り 20% 程 度
低い値であることがわかる.これは試験片製造時に気泡や不純物が混入していた
ことによる可能性が大きいと推定している.この点を除けば,引張り試験ではひ
ず み と 応 力 の 関 係 は 数 値 計 算 と 実 験 で そ の 傾 向 は 一 致 し , 計 算 値 と 実 験 値 も 20%
程度の違いであった.このことより単純な形状では有限要素法による結果は実験
値を良く表しているといえる.
23
ま た , 離 型 試 験 試 験 片 の 破 断 時 の ひ ず み は 0.8~ 1.0 で あ る . こ の ひ ず み の 値 を
図 9 での引張り試験片の実験値と比較すると,引張り試験の破断時のひずみと離
型 試 験 片 の 破 断 時 の ひ ず み と の 差 は 20% 程 度 以 内 に 収 ま っ て い る . し た が っ て 引
張り試験片も離型試験片のゴム型も材料的には同一であったと考えることができ
る.
次 に 離 型 試 験 結 果 に つ い て 検 討 す る .離 型 試 験 で 得 ら れ た 計 算 結 果 は 図 11 の と
お り で あ る が ,こ れ と 図 12 に 示 す 離 型 試 験 の ゴ ム 型 の 破 断 時 に お け る 湯 口 直 径 と
ひずみの関係を利用して検討する.
図 12 に よ る 破 断 時 の 実 験 値 の ひ ず み を 図 11 の 応 力 の 計 算 結 果 に 当 て は め て み
る と , そ の 破 断 時 の 応 力 は 約 2.5MPa で あ る こ と が わ か る . 引 張 り 試 験 で 破 断 時
の 応 力 の 実 験 値 は 約 0.6MPa で あ り , こ れ と 比 較 す る と 計 算 よ り 求 め た 応 力 値 は
約 4 倍の値になっている.
これは,離型試験でのゴム型形状が引張り試験の試験片の形状に比較すれば複
雑 で あ り ,材 料 の 変 形 状 態 や 応 力 状 態 も 不 均 質 に な っ て く る た め と 考 え ら れ る . つ
まり,単純形状の引張り試験による実験データに基づいておこなった今回の有限
要素法による解析では複雑形状のものの実験値と計算値の誤差が大きくなってい
ると考えることができる.
2.6 離型問題への応用のまとめ
今回の結果では単純形状の物については超弾性体の挙動の傾向を有限要素法の
24
計算によりかなり表現できるが明らかにできた.しかし材料および応力分布の不
均質さを含むと思われる複雑形状のものの挙動を表現する場合には,超弾性体の
挙動の傾向は表現できるが,型設計上限界とすべき強度としては真応力の値で計
算 値 と 実 際 の 応 力 値 と の 間 に ,今 回 の 結 果 か ら は ,4 倍 程 度 の 余 裕 を 見 込 ん で 考 え
る必要があることがわかった.
これによりゴム型設計にも有限要素法による数値計算を応用することができ,
従来の複数分割して成形品を離型するゴム型とは異なり剥くように離型する型設
計に利用していくことが可能であることは確認できたと考えている.
今後はゴム型の有限要素法解析で不均質さに基づく影響を含めて表現できるよ
う計算手法を改良していく.そして,その上で成形品の今回とは異なる取り出し
方法についても同様な解析を行う.また,成形品の形状も単純形状の組み合わせ
た 立 体 や 人 形 の よ う な 複 雑 形 状 の 立 体 の 離 型 に 関 し て も 研 究 を 進 め , RTV シ リ コ
ーンゴム型を利用する樹脂成形技術を検討していく.
25
26
第3章
表情生成問題への応用
ゴ ム 型 の 離 型 問 題 を 技 術 的 な 側 面 か ら み る と き ,超 弾 性 材 料 を 始 め と し て 様 々
な材料の挙動を有限要素法により解析しリアルな変形を表現する技術や有限要
素に分割をする3次元モデルを3次元モデラーにより作製する技術などを利用
し て い る .研 究 を 進 め る に 従 い こ れ ら の 技 術 は CG や ア ニ メ ー シ ョ ン の 分 野 に も
応 用 で き る の で は な い か と 考 え , CG や ア ニ メ ー シ ョ ン の た め の 人 の 表 情 生 成 を
行う研究にも着手した.
3.1 表情生成への応用
人の顔の表情はその人の喜怒哀楽を周囲に伝えるときに重要な役割を担って
い る .こ の 顔 の 表 情 の 変 化 を TV 用 の ア ニ メ ー シ ョ ン な ど で は 人 が 従 来 1 枚 1 枚
原 画 を 手 で 描 い て 表 現 し て い た .し か し な が ら 最 近 の PC の 急 激 な 性 能 向 上 と 低
価 格 化 を 背 景 に , 3 次 元 CG が PC 上 で も 高 性 能 に 動 作 さ せ る こ と が 出 来 る よ う
になってきたこともあり,この人が行っていたアニメーション原画の作製にも
CG が 利 用 さ れ つ つ あ る .
こ の ア ニ メ ー シ ョ ン の 分 野 で PC の 利 用 は 主 に 省 力 化 の 点 か ら 行 わ れ て い た こ
と が 大 き い が ,工 学 の 分 野 で は 人 の 顔 の 表 情 を コ ン ピ ュ ー タ 上 で 合 成 あ る い は 表
27
情 を 認 識 し よ う と す る 研 究 が お こ な わ れ て い る [8, 9]. ま た , バ ー チ ャ ル リ ア リ
ティやエンタテイメントなどへの応用しようという観点からもコンピュータ上
で の 表 情 の 作 製 が 研 究 さ れ て き て い る [10]. 工 学 以 外 の 分 野 に お い て も 研 究 が 進
められており心理学,医療分野にその例が見られる.
例 え ば , 医 療 分 野 に お い て は 形 成 外 科 手 術 の 計 画 支 援 [11, 12]と い う 視 点 か ら
表 情 を コ ン ピ ュ ー タ 上 で 扱 う 研 究 さ れ て い る .こ れ は 人 頭 部 の 組 織 の 一 部 ま た は
全体を様々な手段で 3 次元的に表現し手術計画の立案や手術後の表情を予測して
役 立 て よ う と い う 目 的 の も の で あ る .ま た ,表 情 を コ ン ピ ュ ー タ 上 で 生 成 す る 際
利 用 す る 顔 の 精 巧 な 物 理 モ デ ル を 3 次 元 CT (Computerized Tomography) な ど
により取得した顔表面および骨格形状データを基に作成する研究もなされてい
る [13, 14, 15, 16].
こ の よ う な 状 況 か ら 本 研 究 は CG で の 人 の 表 情 生 成 と い う 点 に 着 目 し ,こ れ を
有 限 要 素 法 に よ り 数 理 的 に 実 現 し よ う と す る も の で あ り , CG な ど の 分 野 に お い
てリアルな人の表情の自動生成することを研究の目的としている.これにより
CG 上 に 登 場 す る 人 の リ ア ル な 表 情 の 数 量 化( 10% の 笑 い 顔 な ど )が 可 能 と す る .
つ ま り ,将 来 的 に は CG や ア ニ メ ー シ ョ ン の 中 で 数 量 化 さ れ た 表 情 を 数 値 入 力
す る こ と に よ り 表 情 が 自 動 的 に 作 製 で き ,リ ア ル な 表 情 を 容 易 に CG や ア ニ メ ー
シ ョ ン 上 で 登 場 す る 人 に 付 加 え る こ と が で き る よ う に な る .ま た ,例 え ば ,近 年
二 足 歩 行 す る ロ ボ ッ ト が 盛 ん に 発 表 さ れ て い る が ,こ れ ら の ロ ボ ッ ト の 顔 に 様 々
な表情を持たせることにも可能になると思われる.
28
有 限 要 素 法 は 1950 年 代 に 航 空 機 の 構 造 解 析 で 開 発 さ れ た 数 値 解 析 手 法 で あ る
が CG と 言 う 観 点 か ら 見 た 場 合 ,顔 面 の 外 科 手 術 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン と し て 顔 面 の
形 状 モ デ ル [17]や 皮 膚 モ デ ル [16]を 表 現 す る の に 利 用 さ れ て い る . そ し て , こ の
有 限 要 素 法 で 表 現 さ れ た モ デ ル に よ り 表 情 を CG 上 に 作 り 上 げ る エ デ ィ タ も 紹 介
さ れ て い る [18].
と こ ろ で 有 限 要 素 法 が CAE の 一 部 と し て 使 わ れ る よ う に な る に つ れ CAD ア プ
リ ケ ー シ ョ ン は 近 年 CG の モ デ リ ン グ 技 術 が 利 用 さ れ て い る も の が 多 く な り ,CG
ア プ リ ケ ー シ ョ ン で 描 い た か の よ う な モ デ ル も 作 製 で き ,そ の モ デ ル を 利 用 し 有
限 要 素 法 で 解 析 が で き る よ う に な っ て き て い る [19].
こ の よ う に 本 研 究 で は CG に お け る 人 の 様 々 な 表 情 の 自 動 生 成 を 最 終 的 に 考 え
て い る が ,こ こ で は ,表 情 一 般 で は な く 笑 い 顔 と 怒 り 顔 に 特 化 し て そ の 程 度 を 調
整 で き る よ う な 詳 細 な 研 究 を 行 っ た .本 論 文 述 べ る 表 情 生 成 問 題 で は 人 の 表 情 に
関 し て 骨 の 構 造 と 筋 の 動 き に よ る 機 能 を 考 慮 し た 解 剖 学 的 な 考 察 を 行 い ,顔 面 の
皮 膚 を シ リ コ ー ン ゴ ム で 仮 定 し た モ デ ル を 利 用 し ,様 々 な 表 情 の 生 成 手 法 と し て
有 限 要 素 法 を 用 い て ,笑 い の 表 情 と 怒 り の 表 情 を 生 成 す る こ と を 目 標 と し て い る .
そして人の表情生成問題へシリコーンゴムの変位問題を応用することについて
検討を行っている.
3.2 笑いの表情生成のための検討
一般的に様々な感情の変化に伴う顔表面の変化を記述する手段として顔画像合
29
成 に 使 わ れ て い る も の に FACS (Facial Action Coding System) が あ る . こ れ は
P. Ekman W. V. Friesen に よ っ て 考 案 さ れ た 視 覚 的 に 識 別 可 能 な 最 小 単 位 で あ る
44 個 の AU (Action Unit) と 呼 ば れ る 顔 面 の 動 き の 単 位 を 組 み 合 わ せ て 幸 福 や 悲
し み な ど の 表 情 を あ ら わ す も の で あ る [20]. こ れ は 数 量 化 が し や す い た め コ ン ピ
ュ ー タ 処 理 に 適 し て お り [8]利 用 さ れ る こ と が 多 い .
笑 い の 表 情 は そ の 形 態 や 程 度 も 様 々 で あ る . FACS を 適 用 し 感 情 に よ る 表 情 の
生 成 の 一 例 と し て 笑 い の 表 情 を 生 成 し て い る 例 が あ る が [18], 本 論 文 で は 実 際 に
撮 影 し た 人 の 顔 写 真( 笑 い と 平 常 時 の 顔 )を 参 考 に し て 目 標 と す る 笑 い の 表 情 を
定 め こ れ を 100%の 笑 い 顔 と 呼 び , こ の 笑 い の 表 情 を 生 成 す る こ と に し て い る .
本論文の笑いの表情生成は以下のような流れで進めている.まず笑いの表情生
成 に 関 係 す る 筋 を 選 び 出 し ,そ の 機 能 を 調 査 す る .同 時 に 人 に よ る 笑 い の 表 情 を
収 集 し そ の 笑 い 顔 の 特 徴 を 把 握 し ま と め ,筋 の 機 能 と の 関 係 を 検 討 す る .こ れ に
基 づ き 頭 蓋 骨 ,皮 膚 ,筋 を 塩 化 ビ ニ ル 樹 脂 ,ラ テ ッ ク ス ,平 紐 で 仮 定 す る 簡 単 な
模 型 に よ り そ の 機 能 を 確 認 す る .そ し て 有 限 要 素 法 プ ロ グ ラ ム 上 に シ リ コ ー ン ゴ
ム を 皮 膚 と 仮 定 し た 頭 部 単 純 モ デ ル を 作 製 し ,筋 の 機 能 に よ る 皮 膚 の 変 位 を 反 映
した解析計算を行い笑いの表情を生成する.
なお,今回は研究の第一段階でもあるので筋の動きによる表情生成とし下顎骨
の動きによる表情の生成は扱わないこととしている.
30
3.2.1 笑 いのための筋
顔面の表情を作り出す筋は表情筋ととばれ骨の表面を始点として皮膚の筋膜
を 終 点 と し て い る . 表 情 筋 は 24 種 類 あ り [16], こ れ ら の 変 形 の 組 み 合 わ せ に よ
り 様 々 な 表 情 が 作 り 出 さ れ て い る .そ こ で こ れ ら の う ち 笑 い の 表 情 生 成 に 影 響 す
る と 考 え ら れ る 6 種 類 の 筋 を 選 び 出 し た .こ れ ら の 筋 の 名 称 と 機 能 を 表 2 に 示 す .
表 2
選択した表情筋
名称
機能
上唇鼻翼挙筋
鼻翼と上唇を引き上げる
上唇挙筋
鼻翼と上唇を引き上げる
小頬骨筋
上唇を上後方に引く
口角挙筋
口角をあげる
大頬骨筋
口角を上外側に引く
笑筋
口角を外側方に引きえくぼをつくる
こ れ ら の 表 情 筋 は , 図 13 に 示 す 様 に , い ず れ も 口 角 と 呼 ぶ 口 の 端 付 近 の 筋 膜
を 終 点 と す る も の で ,筋 の 収 縮 に よ り 始 点 方 向 に 口 角 が 変 位 さ せ ら れ る .こ の 変
位 の 方 向 を 選 び 出 し た 表 情 筋 に つ い て ま と め ,笑 い の 表 情 生 成 に 関 係 す る と 推 定
さ れ る 口 角 付 近 に 働 く 力 の 方 向 を 示 し た も の が 図 14 で あ る .図 14 の 矢 印 が そ の
力の方向を示している.
31
図 13
32
頭部の筋
図 14 表 情 筋 に よ る 変 位 方 向
3.2.2 写 真 でみる笑 い顔 の特 徴
平常時の顔に対して笑ったときにはどのような顔の表面上の変化が見られる
か を 約 20 人 に つ い て 写 真 を 撮 影 し 調 べ た . 彼 ら の 中 で 比 較 的 特 徴 的 な 表 情 の 変
化 が 観 察 さ れ た 6 人 の 表 情 の 変 化 を 図 15 に 示 し て い る . 図 の 中 で 上 段 が 平 常 時
の顔であり下段が笑ったときの顔である.
目 と 口 と 頬 の 3 区 画 に 注 目 し ,こ れ ら 上 下 の 写 真 の 差 か ら 笑 っ た 際 の 顔 の 特 徴
は程度の差はあるが表 3 の様にまとめることができる.
頬 の 領 域( 目 の 下 側 と 鼻 の 縁 と 頬 に 囲 ま れ た 逆 三 角 形 の 領 域 )が 隆 起 し て い る
が ,こ れ は 表 2 で 選 択 し た 表 情 筋 の う ち 主 に 上 唇 鼻 翼 挙 筋 と 大 頬 骨 筋 が 口 角 付 近
を上方へ引き上げることによりこの 2 つの筋の間の領域が盛り上がるためと考え
ら れ る .ま た ,目 が 細 く な る の は ,同 様 に 主 に 上 唇 鼻 翼 挙 筋 と 大 頬 骨 筋 に よ り こ
の 2 つ の 筋 間 の 領 域 が 上 方 へ 持 ち 上 げ ら れ る た め と 考 え ら れ る .な お ,口 が 開 い
33
た り 外 側 上 方 に 口 角 が 持 ち 上 が っ た り す る の は 口 角 挙 筋 ,小 頬 骨 筋 や 大 頬 骨 筋 な
どの直接的な働きと考えられる.
図 15
笑いによる顔面の変化
表 3
笑い顔の特徴
部位
特徴
目
細くなる.上瞼は変わることなく下瞼の中央
部分が上方に持ち上がっている.
口
開く,あるいは閉じたままの場合は口角が外
側上方に持ち上がっている.
頬
隆起している.
34
3.2.3 模 型 による検 討
選択した表情筋の動きにより皮膚表面にはどのような影響があるかを検討す
る た め に 製 作 し た も の が 図 16 に 示 す 模 型 で あ る .
こ の 模 型 で は 塩 化 ビ ニ ル 製 の 半 球 を ラ テ ッ ク ス (図 中 latex)で 覆 い ,口 周 辺 を 模
し た も の に な っ て い る .塩 化 ビ ニ ル 製 の 半 球 と ラ テ ッ ク ス の 間 に は 筋 と 考 え る 平
紐( 図 中 mA,mB)を 配 置 し て あ る .こ の 紐 は 口 角 に 相 当 す る 領 域 の ラ テ ッ ク ス
裏 面 に 端 (図 中 P)を 固 定 し て 片 側 2 本 取 り 付 け て あ る . こ れ を 表 情 筋 と 考 え こ の
紐を引くことにより口周辺のラテックスの動きから皮膚の変化を表現できるよ
うになっている.
図 16
ラテックスによる模型
今 回 は 図 14 に 示 す 表 情 筋 に よ る 変 位 方 向 を 参 考 に 口 角 の 横 方 向 と 上 方 向 に 力
35
を 加 え て そ の 動 き を 観 察 し た . そ の 結 果 を 図 17 に 示 し て い る . mB を 笑 筋 と 考
え 左 右 方 向 に 引 っ 張 り 口 角 に 横 方 向 に 力 を 加 え る こ と に よ り え く ぼ が で き( 図 17
左 破 線 部 ),mA を 口 角 挙 筋 と 考 え 図 中 上 方 向 に 引 っ 張 り 上 方 向 に 力 を 加 え る こ と
に よ り 口 が 開 く ( 図 17 右 破 線 部 ) こ と が 確 認 で き て い る .
これにより筋そのものの動きをシミュレートするのではなく筋の皮膚への付
着点と考えられる部分を変位させる今回の研究手法によっても表情を生成でき
ることが確認できた.
図 17
模型での結果
3.3 汎用有限要素法プログラムによる計算
これらの笑いの表情に関する情報をもとに人の頭部のモデルを作製した.3 次
元構造を考慮した顔の物理モデルは表情筋を解剖学的構造にしたがって配置し
36
た も の [13]や 3 次 元 CT デ ー タ か ら 顔 表 面 及 び 骨 格 形 状 を 取 得 し 皮 膚 ・表 情 筋 の 動
きを非線形ばねで近似しリアルな表情生成機構を検討したものなどが提案され
て い る [14].
しかし本論文では表情生成のために皮膚を仮定したモデルを直接変位させる手
法 の 確 認 で も あ り 簡 略 化 し た モ デ ル を 採 用 し た .そ の た め モ デ ル は 頭 部 の 直 径 を
155mm と し 頭 蓋 骨 は 紡 錘 形 で 近 似 し ,そ の 顔 面 の 皮 膚 は 厚 さ 2mm で 顎 よ り 上 方
で か つ 額 部 分 ま で と し , そ の 物 性 は 型 取 り な ど に 利 用 さ れ て い る RTV シ リ コ ー
ン ゴ ム の も の を 利 用 し て い る . 図 18 に 作 製 し た モ デ ル 全 体 の 外 観 を 示 す .
図 18
頭部の近似モデル
37
RTV シ リ コ ー ン ゴ ム は 非 常 に 大 き な 復 元 可 能 な 弾 性 変 形 を も つ 材 料 で あ り ,こ
のような材料に対して有限要素法では超弾性材料の構造非線形問題として扱う
必 要 が あ る . 今 回 の 表 情 生 成 問 題 に お い て も 皮 膚 を RTV シ リ コ ー ン ゴ ム で 仮 定
しそれを変位させて表情生成を行うため有限要素法による構造非線形問題とし
て扱わなければならない.そこでこれらの超弾性材料の構造非線形問題を
Windows NT 上 で 解 析 が 可 能 な 汎 用 有 限 要 素 法 プ ロ グ ラ ム の ANSYS Ver5.6 を ゴ
ム型からの離型問題に引き続いて使用し解析している.
与 え ら れ た ひ ず み 量 に 対 す る 超 弾 性 材 料 の 応 力 は Mooney-Rivlin 定 数 で 記 述 さ
れ る ひ ず み エ ネ ル ギ ー 密 度 関 数 (W)に よ っ て 決 定 さ れ る . ANSYS Ver5.6 で は こ
のこのひずみエネルギー密度関数を使用するため解析を行う超弾性材体の実験
よ り 求 め た 応 力 と ひ ず み の 値 の 入 力 が 必 要 と な る [4] . そ こ で 本 研 究 で も JIS
K6251 に 準 ず る 形 状 の 引 張 り 試 験 片 を 解 析 に 使 用 す る シ リ コ ー ン ゴ ム と 同 一 の
材 料 で 作 製 し ,引 張 り 試 験 を 行 う こ と に よ り 応 力 と ひ ず み の 実 験 値 を 得 て 入 力 し
て い る [5][6].皮 膚 に 仮 定 し た RTV シ リ コ ー ン ゴ ム の 一 般 特 性 を 表 4 に 示 す .表
情 生 成 に お い て は RTV シ リ コ ー ン ゴ ム を 皮 膚 と 仮 定 し て い る の で 強 度 よ り も 伸
び を 重 視 し ゴ ム 型 の 離 型 問 題 で 使 用 し た も の よ り も 伸 び が 30%ほ ど 大 き な も の
を使用している.
ま た ,解 析 に 使 用 し た 有 限 要 素 法 の 3 次 元 モ デ ル の 作 製 も ANSYS Ver5.6 に 備
え ら れ て い る 機 能 を 利 用 し て 行 っ て い る .一 般 に 円 筒 や 球 な ど 対 称 形 状 を 含 ん で
構 成 さ れ る モ デ ル に 対 し て 有 限 要 素 法 に よ る 解 析 を 行 う 時 に は ,モ デ ル の 対 称 条
38
件 な ど を 設 定 す る こ と に よ り 1/2 断 面 等 を 用 い て 解 析 が 可 能 で あ る .今 回 の 顔 の
モ デ ル に つ い て も 左 右 対 称 で あ る た め 1/2 断 面 等 を 用 い て 解 析 が 可 能 で あ る .し
か し ,本 研 究 で は ,得 ら れ た 表 情 を そ の ま ま CG に 出 力 し 利 用 す る 手 法 も 将 来 的
に視野に置いているため,基本的には完全な 3 次元モデルで解析している.
表 4
使 用 し た RTV の 一 般 特 性
項目
特性値
外観
白色ゴム状
比 重 (23℃ )
1.20
硬 さ (タ イ プ A)
30
1.5MPa
引張り強さ
220%
伸び
3.4 計算と笑いの表情の生成
3.4.1 有 限 要 素 モデル
作 製 し た 頭 部 近 似 モ デ ル の う ち 皮 膚 に 相 当 す る 部 分 は 3 次 元 10 節 点 四 面 体 U-P
( 変 位 ‐ 圧 力 )混 合 超 弾 性 ソ リ ッ ド を 中 間 節 点 無 し の 状 態 で 使 用 し て 要 素 分 割 し
節 点 数 3800, 要 素 数 10700 の 有 限 要 素 モ デ ル と し て い る . ま た , 骨 に 相 当 す る
紡 錘 形 部 分 は 剛 体 と し て 設 定 し て い る .解 析 計 算 で は こ の 分 割 し た 皮 膚 モ デ ル の
39
一定領域に変位を加え骨に相当する紡錘形の剛体部分の表面上を皮膚が滑って
変位する接触問題として扱っている.
3.4.2 表 情 生 成 のための計 算 条 件
筋や皮膚は非線形の張力特性をもっており結果として生成される表情について
も そ の 程 度 も 非 線 形 で あ る .筋 や 皮 膚 の 非 線 形 性 に つ い て は 2 本 の 直 線 の 異 な る
傾 き に よ っ て 近 似 し て 表 情 生 成 し て い る 例 が み ら れ る [14, 15]. 本 論 文 で も 皮 膚
に仮定したシリコーンゴムは非線形材料であり非線形として扱っている.
したがって非線形である筋や皮膚によって生成されている表情もその変化は実
際 に は 非 線 形 と 想 像 さ れ る .し か し な が ら 本 論 文 で は 筋 の 動 き そ の も の を シ ミ ュ
レーションしているのではなく皮膚と仮定するシリコーンゴムを直接変位させ
て 表 情 を 生 成 し よ う と す る 手 法 の 確 認 で あ る こ と か ら ,表 情 の 変 化 は 線 形 と し て
扱い笑いの複数段階の表情を生成するように条件を設定することにした.
つ ま り , 表 3 の 特 徴 を 備 え た モ デ ル を 生 成 で き た と き の 条 件 を 100%の 笑 い 顔
と し ,そ の と き の 変 位 量 を 20%か ら 80%ま で 線 形 に 変 化 さ せ た 各 段 階 の 表 情 も 計
算している.
この変位を加える領域は表 2 の筋の機能と模型や写真による検討結果を参考に
図 19 に 示 す A1 か ら A4 ま で の 4 箇 所 と し た . A1 か ら A4 に 設 定 す る 変 位 量 を
1mm か ら 2mm ず つ 増 減 し 設 定 す る 度 に 解 析 計 算 を 繰 り 返 し て い る が ,こ の 各 領
40
域 に 設 定 し た 最 終 的 な 変 位 量 と そ の 方 向 を 表 5 に 示 し て い る .な お ,表 中 の X 方
向は顔のモデルに正面から向かって右側であり,Y 方向は上方である.
図 19
表 5
領域
変位を設定した領域
各領域の変位量
設 定 変 位 量 (mm)
X
Y
A1
-8
12
A2
8
12
A3
-10
18
A4
10
18
41
ま た ,す べ て の 解 析 計 算 の 際 に 共 通 な 条 件 と し て 目 と 鼻 お よ び 顔 面 の 皮 膚 の 最
外 周 に も 拘 束 を 加 え て い る .つ ま り ,有 限 要 素 モ デ ル の 眼 窩( 眼 球 の 納 ま る 頭 蓋
骨 上 の 孔 )の 外 形 領 域 は 全 周 に わ た り 皮 膚 が 持 ち 上 が る 方 向 で あ る Z 方 向 の 自 由
度 を ゼ ロ に 拘 束 し ,さ ら に 目 元 と 目 尻 の 部 分 に つ い て は Y 方 向 の 自 由 度 も ゼ ロ に
拘 束 し て い る .さ ら に 鼻 部 分 と 頬 部 分 の 交 線 の う ち Y=-25mm 以 上 の 部 分 と 有 限
要 素 モ デ ル の 外 周 ( 2mm 幅 ) の 全 領 域 に 対 し て は 全 自 由 度 を ゼ ロ に 拘 束 し て い
る.
3.4.3 変 位 ・拘 束 追 加 による変 更
表 5 の最大変位量を各領域に与えた解析計算後の有限要素モデルの変形形状が
図 20 で あ る . 口 角 が 斜 め 上 方 に 持 ち 上 が り 頬 の 付 近 が 隆 起 し て お り こ れ は 表 3
の 笑 い 顔 の 特 徴 を 備 え て い る .し か し ,目 の 部 分 に は ほ と ん ど 変 化 が み ら れ な い .
こ の よ う な 表 情 も 実 際 の 人 間 の 感 情( 例 え ば 作 り 笑 い の 表 情 )か ら 現 れ る 場 合 も
あ る と は 考 え ら れ る .し か し 今 回 は 表 3 の 表 情 を 目 標 と し て い る の で 表 情 筋 の 動
き を さ ら に 検 討 し ,目 の 下 側 と 鼻 の 縁 と 頬 に 囲 ま れ た 逆 三 角 形 の 領 域 の 盛 り 上 を
生 成 す る た め に 図 19 に 示 し て い る 領 域 の 変 位 だ け で は な く 目 の 下 部 に も 変 位 を
設定し計算を行うことにした.
図 21 に 示 す 領 域 の う ち 目 の 下 の A5 お よ び A6 の 領 域 が 新 た に 変 位 を 加 え る こ
と に し た 領 域 で あ る .A5 お よ び A6 を 含 め 各 領 域 に 変 位 を 設 定 す る 度 に 計 算 を 行
い最終的な結果を得たときの各領域の変位量とその方向を表 6 に示す.
42
図 20
図 21
目が笑わない表情
変位を追加設定した領域
43
表 6
領域
各領域の最終変位量
設 定 最 終 変 位 量 (単 位 mm)
X
Y
Z
A1
-8
12
*
A2
8
12
*
A3
-10
12
*
A4
10
12
*
A5
*
6
3
A6
*
6
3
な お , 表 中 の X, Y 方 向 は 表 5 と 同 様 で あ り , Z 方 向 は 皮 膚 が 頭 蓋 骨 よ り 持 ち
上 が る 方 向 で あ る .ま た「 * 」は 特 に 変 位 や 拘 束 を 加 え な か っ た こ と を 示 し て い
る.
今回の条件の解析計算においても先の解析計算と同様に目と鼻と顔の外周に
拘束を加えている.
3.5 笑いの表情生成の結果および考察
表 6 の変位量を各領域に与えた解析計算後の有限要素モデルの変形形状が図
22 の 100%の 欄 で あ る .
44
図 22
解析計算による笑いの表情
45
さ ら に 与 え る 変 位 量 を 80%か ら 20%ま で 変 化 さ せ た 変 形 結 果 を あ わ せ て 示 し て
い る . 100%の 笑 い の 表 情 を 表 す 変 形 結 果 で は , 口 角 が 斜 め 上 方 向 に も ち あ が り
頬 の 近 辺 が 隆 起 し て お り ,さ ら に 目 の 下 方 の 領 域 が 上 方 に 移 動 し 目 が 細 く な り 表
3 で 定 め た 笑 い の 顔 の 特 徴 を 満 足 し て い る こ と が わ か る .ま た 80%か ら 20%ま で
の変形結果による表情も程度の異なる笑いの表情と見ることもできる.
次 に 図 15 の 作 成 に 協 力 い た だ い た 人 々 の う ち 比 較 的 特 徴 的 な 表 情 変 化 の あ っ
た 6 人 の 平 常 時 の 顔 及 び 笑 い 顔 の 各 々 計 12 枚 の 顔 写 真 ,図 22 の 100%の 変 位 形
状 の 顔 部 分 ( 正 面 視 ) を 切 り 出 し た 写 真 , 解 析 計 算 に 利 用 し た 図 16 の 頭 部 モ デ
ル の 正 面 視 写 真 と の 総 計 14 枚 の 写 真 を 用 意 し 笑 い 顔 の 判 定 の 実 験 を 行 っ た .
実 験 は , 被 験 者 が 50 名 で そ れ ぞ れ の 被 験 者 に 顔 写 真 と 解 析 モ デ ル の 写 真 が 混
合 し た 計 14 枚 の 写 真 を 笑 い 顔 と そ う で は な い 普 通 の 顔 に 分 類 し て も ら っ た .
そ の 結 果 ,人 物 の 顔 写 真 で は 笑 い 顔 と し て 入 っ て い る す べ て の 写 真 を 選 び 出 し
た の は 被 験 者 の 84%で あ っ た .一 方 50 人 す べ て の 被 験 者 が 図 10 の モ デ ル の 写 真
を笑い顔として選び出した.この実験より,今回解析計算により得られた結果
( 100%変 位 形 状 ) は , 笑 い の 表 情 で あ る と 考 え ら れ る .
これらのことから筋の動きを推定し解析計算に反映させることで単純化した
解 析 モ デ ル に お い て も 笑 い の 一 表 情 を 生 成 で き る こ と が わ か っ た .こ れ に よ り 汎
用有限要素法プログラムによる解析計算を応用することで笑いの表情生成がで
きることは確認できたと考える.
46
3.6
怒りの表情生成のための検討
笑い顔の表情生成の手法をもとに人の怒り顔の表情生成を行う研究を引き続
き進めたがその流れは以下のとおりである.
まず怒り顔の特徴を把握してまとめ,次に怒り顔の表情生成に関係すると思わ
れ る 筋 を 選 び 出 し ,そ の 機 能 を 怒 り 顔 の 特 徴 に 関 連 し て 検 討 す る .そ し て 有 限 要
素 法 プ ロ グ ラ ム 上 に 頭 部 を 仮 定 し た 単 純 モ デ ル を 作 製 し ,筋 の 機 能 に よ る 皮 膚 の
変位を仮定した解析計算を行い有限要素モデルの変形結果による怒り顔を生成
しその表情を検討する.
なお,笑い顔の表情生成と同様に怒り顔においても筋の動きによる表情生成と
し下顎骨の動きによる表情の生成は扱わないこととしている.
3.6.1 怒 り顔 の特 徴
平 常 時 の 顔 に 対 し て 怒 っ た と き に は ど の よ う な 顔 の 変 化 が あ る の か ,ど の よ う
な 顔 が 怒 っ て い る 顔 で あ る の か ,こ の 生 成 し よ う と し て い る 怒 り 顔 の 例 と し て 今
回は仏像にその例を求めた.
参 考 に し た 仏 像 は ,怒 り の 表 情 を う か べ 導 き が た い 人 々 を 強 力 に 仏 の 教 え に 導
い て 救 済 す る 不 動 明 王 像 ,四 天 王 の う ち 武 装 し た 怒 り の 姿 で 西 方 と 秋 を 守 護 す る
広 目 天 像 ,伽 藍 を 外 敵 か ら 守 る た め 憤 怒 の 相 を 持 つ 仁 王 像 の 各 仏 像 で あ る .図 23
にこれらの仏像の表情を示している.
47
図 23
怒りの形相の仏像
図 23 の 各 仏 像 の 表 情 に 表 れ て い る 怒 り 顔 の 特 徴 は , 口 付 近 と 目 の 周 り に 見 ら
れ,それらは表 7 の様にまとめることができる.
表 7
怒り顔の特徴
部位
目
特徴
・眉間に皺ができる.
・眉の目元部分が盛り上がる.
・目尻が上方に上がる.
・頬の部分が盛り上がる.
口
・口が「へ」の字状に曲がる.
・口角が下方に引き下げられる.
な お 今 回 は 表 7 の 特 徴 を 備 え た 表 情 の 生 成 を 試 み ,そ の 特 徴 を 満 足 す る 表 情 を
48
生 成 で き た と き 100%の 怒 り 顔 を 生 成 で き た と 判 断 す る よ う に 考 え る こ と に し て
いる.
3.6.2 怒 りのための筋
図 13 に 示 す よ う な 表 情 筋 が 頭 部 に は 存 在 す る [21]. こ れ ら の う ち 怒 り 顔 の 表
情 生 成 に 影 響 す る と 考 え ら れ る 9 種 類 の 筋 を 選 び 出 し た .こ れ ら の 筋 の 名 称 と 機
能を表 8 に示す.
表 8
選択した表情筋
名称
機能
鼻根筋
眉間の皮膚を引き下げる
皺眉筋
眉間に皺を作る
前頭筋
眉を引き上げる
上唇鼻翼挙筋
上唇・鼻翼を引き上げる
上唇挙筋
上唇を引き上げる
小頬骨筋
上唇を外側に引き上げる
口角下制筋
口角を下方に引く
下唇下制筋
下唇を外側下方に引く
オトガイ筋
オトガイ部の皮膚をあげて隆起を作る
49
こ れ ら の 表 情 筋 と 怒 り 顔 の 特 徴 と の 関 係 を 検 討 す る と ,例 え ば ,目 の 下 の 頬 の
領 域 が 隆 起 す る の は ,表 8 で 選 択 し た 表 情 筋 の う ち 主 に 上 唇 鼻 翼 挙 筋 と 小 頬 骨 筋
が収縮しこの筋の間の領域が盛り上がるためと考えられる.
また目尻が上方に釣り上るのは前頭筋などの働きにより目の外側部分が上方
に持ち上げられるとともに皺眉筋などによっても眼窩周囲の目尻付近の皮膚が
上 方 に 移 動 す る 方 向 に 力 が 働 く た め と 思 わ れ る .そ し て こ の 皺 眉 筋 や 鼻 根 筋 な ど
の収縮により眉間の皺や眉部分の隆起が発生していると考えることができる.
口 の 端 付 近 の こ と を 口 角 と 呼 ぶ が ,口 角 が 下 方 に 引 か れ て 口 が「 へ 」の 字 状 に
な る の は ,こ の 口 角 が 口 角 下 制 筋 な ど に よ り 下 側 に 引 か れ る と と も に 顎 の 部 分 が
オトガイ筋により上側に持ち上げられるためと考えられる.
図 24 表 情 筋 に よ る 変 位 方 向
これらの選び出した表情筋の変化による顔面上の変位を考慮し,怒り顔の表
50
情 生 成 に 関 係 す る と 推 定 さ れ る 皮 膚 上 の 力 方 向 を ま と め た も の が 図 24 で あ る .
図 24 の 顔 面 上 の 矢 印 が そ の 力 の 方 向 を 示 し て い る .
3.7 汎用有限要素法プログラムによる計算
こ れ ら の 怒 り 顔 の 表 情 に 関 す る 情 報 を も と に 人 の 頭 部 の モ デ ル を 作 製 し た .今
回 は 怒 り 顔 の 表 情 生 成 の 手 法 に つ い て の 確 認 で も あ り ,笑 い 顔 の 表 情 を 生 成 し た
物 と 同 じ 形 状 の 図 17 に 示 し て い る 簡 略 化 し た モ デ ル を 同 一 の 物 性 で 使 用 し て い
る.
し た が っ て 有 限 要 素 法 に よ る 解 析 計 算 で は RTV シ リ コ ー ン ゴ ム の 構 造 非 線 形
問題として扱う必要があるので笑い顔の表情生成と場合と同様に汎用有限要素
法 プ ロ グ ラ ム の ANSYS Ver5.6 使 用 し て 解 析 を 行 っ て い る .
与 え ら れ た ひ ず み 量 に 対 す る 超 弾 性 材 料 の 応 力 は Mooney-Rivlin 定 数 で 記 述
さ れ る ひ ず み エ ネ ル ギ ー 密 度 関 数 (W)に よ っ て 決 定 さ れ る . ANSYS Ver5.6 で は
このこのひずみエネルギー密度関数を使用するため解析を行う超弾性材体の実
験 よ り 求 め た 応 力 と ひ ず み の 値 の 入 力 が 必 要 と な る [4].こ れ ら の 値 は ,笑 い 顔 の
表 情 生 成 の 際 利 用 し た も の と 同 一 の RTV シ リ コ ー ン ゴ ム を 利 用 し て い る こ と か ら ,
応力とひずみの実験値も笑い顔の表情生成に使用した値を利用している.
ま た ,解 析 に 使 用 し た 有 限 要 素 法 の 3 次 元 モ デ ル も 基 本 的 に 笑 い 顔 の 表 情 生 成
の と き と 同 様 に ANSYS Ver5.6 の 機 能 を 使 用 し て 作 製 と 有 限 要 素 分 割 を 行 っ て い
る.
51
3.8 計算と怒りの表情の生成
3.8.1 有 限 要 素 モデル
作 製 し た 頭 部 近 似 モ デ ル の う ち 皮 膚 に 相 当 す る 部 分 は 3 次 元 10 節 点 四 面 体
U-P( 変 位 ‐ 圧 力 ) 混 合 超 弾 性 ソ リ ッ ド を 中 間 節 点 無 し の 状 態 で 使 用 し て 要 素 分
割 し 節 点 数 3890, 要 素 数 11000 の 有 限 要 素 モ デ ル と し て い る . ま た , 骨 に 相 当
す る 紡 錘 形 部 分 は 剛 体 と し て 設 定 し て い る .解 析 計 算 で は こ の 有 限 要 素 分 割 し た
皮膚モデルの一定領域に変位を加え骨に相当する紡錘形の剛体部分の表面上を
皮膚モデルが滑って変位する接触問題として扱っている.
3.8.2 表 情 生 成 のための計 算 条 件
こ の 変 位 を 加 え る 領 域 は 表 7 の 怒 り 顔 の 特 徴 と 図 24 の 顔 面 上 に 働 く 力 方 向 を
参 考 に 図 25 に 示 す A1 か ら A14 ま で の 14 箇 所 と し た .A1 か ら A14 に 設 定 す る
変 位 量 を 1mm か ら 2mm ず つ 増 減 し 設 定 す る 度 に 解 析 計 算 を 繰 り 返 し て い る が ,
こ の 各 領 域 に 設 定 し た 最 終 的 な 変 位 量 と そ の 方 向 を 表 9 に 示 し て い る .こ の 最 終
的 な 設 定 変 位 量 で 試 み た 表 情 生 成 に お い て 表 7 の 怒 り 顔 の 特 徴 を 備 え ,こ の 表 情
が 100% の 怒 り 顔 に な る と 考 え る . さ ら に 各 領 域 の 設 定 変 位 量 が 表 9 の 1/2 の 変
位 量 で 変 位 方 向 は 表 9 の 場 合 と 同 一 と し て 生 成 す る 表 情 を 50%の 怒 り 顔 と 呼 ぶ こ
とにする.
52
図 25 変 位 を 設 定 し た 領 域
表 9
各 領 域 の 変 位 量 ( 100% 怒 り 顔 )
設 定 変 位 量 (mm)
領域
X
Y
Z
設 定 変 位 量 (mm)
領域
X
Y
Z
A1
7
*
5
A9
*
-7
*
A2
6
*
7
A10
*
-7
*
A3
4
-6
*
A11
6
-7
*
A4
-4
-6
*
A12
1
*
6
A5
-6
*
7
A13
-1
*
6
A6
-7
*
5
A14
6
A7
*
3
4
A8
*
3
4
53
-7
*
な お ,表 中 の X 方 向 は 顔 の モ デ ル に 正 面 か ら 向 か っ て 右 側 ,Y 方 向 は 上 方 で あ
り Z 方 向 は 皮 膚 が 頭 蓋 骨 よ り 持 ち 上 が る 方 向 で あ る .そ し て「 * 」は 特 に 変 位 や
拘束を加えなかったことを示している.
ま た ,今 回 行 っ て い る す べ て の 解 析 計 算 の 際 に 共 通 な 条 件 と し て 目 と 鼻 お よ び
顔 面 の 皮 膚 の 最 外 周 に も 拘 束 を 加 え て い る .つ ま り ,有 限 要 素 モ デ ル の 眼 の 外 形
領 域 は そ の 全 周 に わ た り Z 方 向 の 自 由 度 の み を ゼ ロ に 拘 束 し て い る .そ し て 鼻 孔
が 存 在 す る 領 域 と 有 限 要 素 モ デ ル の 顔 面 外 周 ( 2mm 幅 ) 領 域 に 対 し て は 全 自 由
度をゼロに拘束している.
3.9 怒りの表情生成の結果と考察
100%の 怒 り 顔 と す る 表 9 の 変 位 量 を 各 領 域 に 与 え た 場 合 と 50%の 怒 り 顔 と す
る変位量を各領域に加えた解析計算後の有限要素モデルの変形形状を並べて図
26 に 示 し て い る .
100%の 怒 り 顔 で は 目 尻 が 解 析 計 算 前 の モ デ ル よ り 上 昇 し , 眉 間 に 皺 が よ る と
と も に そ れ に 続 く 眉 の 部 分 や 目 の 下 の 頬 の 部 分 に 隆 起 が 見 ら れ る .さ ら に 口 部 分
も 口 角 が 下 が り ,口 全 体 が「 へ 」の 字 に な っ て お り 表 7 の 怒 り 顔 の 特 徴 を 備 え た
結 果 に な っ て い る .ま た ,50% の 怒 り 顔 で は 100% の 怒 り 顔 の 特 徴 を 備 え つ つ も
そ の 程 度 は , 変 位 量 が 1/2 に な っ て い る の と 同 様 に 緩 や か で あ り , 不 平 や 嫌 悪 を
示すような表情が生成できていることがわかる.
54
図 26
解析計算による怒り顔
し た が っ て ,こ れ ら の 有 限 要 素 法 の 解 析 計 算 を 用 い る こ と に よ っ て 解 析 モ デ ル
の 変 形 形 状 で 怒 り の 形 相 を た く わ え る 仏 像 と 同 様 な 特 徴 を 備 え る 怒 り 顔 ( 100%
の 怒 り 顔 )や そ れ よ り も 程 度 の 軽 い 不 平 や 不 機 嫌 さ を 備 え る 怒 り 顔( 50% の 怒 り
顔 )の 表 情 を 生 成 で き ,さ ら に 怒 り 顔 の 表 情 の 生 成 に お い て も 程 度 の 異 な る 表 情
の生成も行うことができると考えられる.
55
3.10 表情生成問題のまとめと今後の方針
怒 り 顔 を 生 成 す る こ と が で き ,笑 い 顔 以 外 で も 筋 の 動 き を 推 定 し 解 析 計 算 に 反
映 さ せ る こ と で 有 限 要 素 モ デ ル を 用 い て 表 情 を 生 成 で き る こ と が わ か っ た .ま た ,
解析計算の際の変位量を調整することにより例えば怒りの表情についてもその
程度の異なる表情を生成できることもわかった.
これにより顔面の皮膚をシリコーンゴムで仮定したモデルに汎用有限要素法
プ ロ グ ラ ム に よ る 解 析 計 算 を 応 用 し 様 々 な 種 類・程 度 の 表 情 の 生 成 が で き ,表 情
を有限要素法により数量化していくことができることを確認できた.
今後は筋の動きを更に詳細に計算に反映させるともに骨格や下顎骨の動きな
ども詳細に計算に反映させていくことにより,より正確な表情の生成を行う.
さらに今回は線形と仮定した表情の変化においても非線形である筋の変化量
等 と 各 表 情 と そ の 程 度 の 関 係 付 け 数 値 化 し て い き ,人 の 表 情 の 自 動 生 成 を 行 え る
様にしていきたいと考えている.
56
第4章 結論
本 論 文 で は ,従 来 の 大 量 生 産 社 会 の 変 化 に 伴 い 少 量 多 品 種 生 産 が 注 目 さ れ そ の
新 た な 技 術 手 法 が 求 め ら れ て い る こ と を 背 景 と し ,少 量 生 産 の 一 手 法 で あ る ゴ ム
型を用いた新しい離型方法による注型成形法を提案しその実用化のために求め
ら れ る 型 設 計 の 指 針 に 有 限 要 素 法 に よ る 評 価 を 応 用 す る 研 究 を 進 め て き た .さ ら
に そ の 研 究 を 進 め る 中 で 使 用 す る 技 術 手 法 が CG や ア ニ メ ー シ ョ ン の 分 野 で も 応
用 で き る の で は な い か と い う 点 か ら ,顔 の 皮 膚 を シ リ コ ー ン ゴ ム で 仮 定 し た 3 次
元 有 限 要 素 モ デ ル の 解 析 計 算 結 果 の 変 形 形 状 に よ り CG の た め の 人 の 表 情 生 成 を
行う研究を試みてきた.
そ し て ,ゴ ム 型 の 離 型 問 題 へ の 応 用 も 表 情 生 成 問 題 へ の 応 用 の ど ち ら の 場 合 も
有限要素法を使用しシリコーンゴムなどの超弾性体の変位問題と捕らえて評価
あるいはその計算出力結果を利用していくことが有効であることは基本的に確
認できたと考えている.
し か し な が ら ,ゴ ム 型 を 用 い た 新 し い 離 型 方 法 へ の 応 用 の た め に は 超 弾 性 材 料
の不均一性を反映した有限要素法解析がより正確な評価のため必要であること,
そして人の表情生成においてはより詳細な骨の構造や筋の動きを反映させた有
限要素解析モデルで生成していくことが今後さらに必要ではあることも明らか
57
になった.
そ こ で 今 後 は 本 論 文 中 で 明 ら か に な っ た 諸 検 討 事 項 に 取 組 む と と も に ,こ の 少
量 多 品 種 生 産 を 目 的 と す る 新 し い 離 型 方 法 や CG で の リ ア ル な 人 の 表 情 自 動 生 成
の研究をさらに進めて実用分野で人間の生活を豊にする技術としていきたいと
考えている.
58
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頁 , 1987
[21] 金 子 丑 乃 助 原 著 ,
“【 改 定 19 版 】日 本 人 体 解 剖 学
頁 , 2000
61
上 巻 ”,南 山 堂 ,233- 239
著者の論文等
1.
鈴 木 峰 生 ,“ 注 型 成 形 の た め の ゴ ム 型 か ら の 離 型 方 法 の 数 値 的 考 察 ”, パ ー
ソ ナ ル コ ン ピ ュ ー タ ユ ー ザ 利 用 技 術 協 会 論 文 誌 , Vol.11 No.1, PP.55-62,
2001.
関係する章:第 2 章
2.
鈴 木 峰 生 ,“ CG の た め の 笑 い 顔 の 数 理 モ デ ル 的 考 察 ”, 画 像 電 子 学 会 誌 ,
Vol.31 No.2, 2002.
関係する章:第 3 章
3.
鈴 木 峰 生 ,“ CG の た め の 怒 り 顔 の 数 理 モ デ ル 的 考 察 ”, ITE Technical
Report Vol.26, No.7, PP.19-24, 2002.
関係する章:第 3 章
62
謝
辞
本研究を進めるにあたっては,信州大学工学部情報工学科
中村八束
教授
に 様 々 な 御 指 導 や 貴 重 な 御 助 言 を い た だ き ま し た こ と に 深 く 感 謝 い た し ま す .特
に週末にも時間を厭うことなくご指導いただきましたことは大変ありがたく感
じ て お り ま す .ま た ,色 々 な 御 協 力 や 援 助 を い た だ い て い る 長 野 県 工 科 短 期 大 学
校
宮澤正幸
教 授 ,坂 口 勝 章
助 教 授 に 深 く 感 謝 い た し ま す .そ し て ,長 野 県
工科短期大学校情報技術科に在籍する学生諸君には笑いの表情の収集に協力を
い た だ き ま し た .こ の 場 を 借 り て 感 謝 い た し ま す .さ ら に 本 研 究 で 生 成 し た 笑 い
の 表 情 の 評 価 に は 職 場 を は じ め と す る 多 数 の 方 に ご 協 力 い た だ い て お り ま す .あ
わ せ て 感 謝 い た し ま す .ま た ,本 研 究 を 論 文 に ま と め る 上 で 必 要 と な る 事 務 処 理
では信州大学工学部情報工学科の
堀内美恵子
の場を借りてお礼申し上げます.
63
技 官 に お 世 話 に な り ま し た .こ
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