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癌に罹患した夫とその妻との心理面接について

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癌に罹患した夫とその妻との心理面接について
広島文教女子大学紀要 33,1998
癌 に罹息 した夫 とその妻 との心理面接 について
― ― 夫 婦 同席 面接 過程 につ い ての
検討 ――
藤
土
圭
三
A Study on the Counsehng Process wth a Cancerous Chent and his Wife
Keis5 Fuiito
間
題
本研究 は症例研究 であるが, 2つ の 目的をもっている。一つ はキ ューポラ 。ロスが提案す る
患者心理 の 5段 階が どの ように示 されるかを確認す ること,二 つ には治療困難 な息者 とその家
族 の心 のケアに当たって, どのような対応 が よ り効果的であ るかを検討す る ことにある。定年
退職直後 の男性が癌 に罹息 し,入 院治療 を余儀 な くし,妻 は夫 の看病 に専念す る状況になった。
この時,息 者 とその妻 はどの ような心的経過 を示すであろ うか。本研究 では,癌 疾患 に苦 しむ
夫 と看病 にあたる妻 との同席面接 と夫 の死亡後 3年 間に渡 って行 って きた妻へ の心理面接過程
について継時的 に検討す る。特 に息者 とその妻 の心的過程 の変化 と心 の癒 しを中心 に検討す る。
「
がん」 力ざ
その息者 と家族 と関係者 に与 える心理 的影響 につい てキューボラ 。ロス は詳細 に検
討 した。息者 は癌疾患 で ある こ とを知 らされて,「それ は違 い ます。 それは事実 ではあ り得 な
い」 と言 う言葉 で反応する。 これは衝撃装置 としての否認機制 の働 きである。 自験例 において
も45才の別 の癌患者 は,完 全否認 の ままで死亡 した。第二段階 は怒 りである。見 るものすべ て
が怒 りの種 となる。患者 は総 じて,不 安 であ り,恐 怖 があるためか,担 当ナース に対 して,当
た り散 らした り,攻 撃的 になった りす ると言 う。否認が維持 で きな くなると,息 者 は怒 り,憤 り,
羨望,妬 みなどの諸感情 を示す ようになる。第三段階 は取引である。取引 はあま り注 目されな
い し,期 間 も短 い。第四段階 は抑鬱 であ る。末期息者が 自己の疾患 を否認 で きな くな り,症 状
がい くつか現 れるようにな り,衰 弱が激 しくなると,感 情喪失,憤 怒な どか ら,喪 失感や抑鬱
が強 くなる。末期息者 の示す抑鬱 には二種類 の ものがある。その一つ は,疾 病か らくる反応性
抑鬱 で ある。二 つ は患者が世界 との訣別 を覚悟 す るため に経験す る準備的悲嘆 (preparatOry
grieOである。 しか も,上 記抑鬱状態へ の対応 は第一 の もの と第二の もの とでは基本的 に違 っ
た対応策が必要である。第五段階 は 「
受容」 である。間争 は終 わ り,長 い旅路 の前 の最後 の休
息 の時が きた ことを意味す る。以上がキュー プラー ・ロスの主張す る息者 の示す心理過程で,
否認 ・怒 り 。取引 ・抑鬱 ・受容 の五段階である (キューボラ ・ロス 1969)。
本研究 は症例検討であるか ら,上 記段階が典型的に示 されてい るとは言えないが,幾 つかの
段階 は示 されると予想 される。 しか し,そ の表現 はス トレー トなものではな く,屈 曲 した もの
であろう。息者 の心理過程 の検討 に次 いで,今 一つの研究 目的 は息者 とその家族 の心 の癒 しに
関す る検討 である。癒す と言 う言葉 は,広 字苑 (岩波書店 昭 和48年判)に よると 「
病 。飢
餓 。心 の悩 みな どを治す こと」 と言 う。 また癒 す と治療 とは同義 で あ る とも言 う (新大字典
1993年版 講 談社)。特 に癒す と言 う用語 は心 を治す ことに注 目してい る。
逃れることの出来ない課題 を背負 わされた患者 の,そ れが故 に生起 す る心の問題 を癒す こと
―-129-一
が可能なのだろ うか。癌患者 とその妻 の不安 。悩 み,抑 鬱 に如何 に対応す るかに注 目す る。癌
ettgは 身体的 ・心理的 ・社会的 ・spintua suffettgの
4つ の側面が重な り合 い
息者 の total s面
相互作用状況 にある。身体的側面 の苦痛 では,痛 みなどの苦痛,心 理的苦痛では,不 安状況ヘ
の怒 り,社 会的苦痛 では,疎 外感,存 在感 の希薄化,経 済的不安,spidtualな苦痛 では,自 分
が何 故 こうなったのか,こ んなことになるのに何故 に生 まれて きたのかの意味な どが上 げられ
る。緩和医療 (医学)で は,上 記 の各側面 にわたる苦痛緩和 を図る ことを目的 とす る (田村里
子 1997)。
1.心
理 面 接 の 目的
息者 は食道癌 (進行癌)で 入院中, リンパ節転移 を伴 う61オの男性 で,患 者 とその家族 は食
道癌である ことを通知 されてい る。本研究 では,癌 疾患 に苦 しむ息者 とその妻 の心 を癒すため
に心理面接 (カウ ンセ リング的接近)を 試み,そ の有効性 を検討す るを目的 とす る。息者 とそ
の妻 との面接過程で は,(1)息 者 の気持 ・感情 ・潜在意識 について丁寧 に傾聴す る (2)患者 の
ヽ
気持や感情 ・潜在意識が 自由に表現出来 るような関係 1亡
理的相互交流 の豊かな関係)を 形成
す る (3)患者 の現実 を可能な限 り詳 しく理解 し,あ るが ままを話題 にし,息 者 の現実認知が よ
り正確 なもの となるようにする,な どに留意 しなが ら,通 常 の心理面接 の考 え方 と技法 を応用
して患 者 の心 の癒 しに接近す る こ とが どの程度可能 であるかを検討する。
2.事
例
紹
介
「
患者 とその妻 か ら聴取」患者 は61オの定年直後 であ った。妻 は50才代 で, 2人 の子供 (2
人共20歳代後半 で,共 に男子)の 4人 家族。息者 は定年 までは,地 域ブロ ックを統括す る管理
職 であ った。退職前 には会社 の計 らいで, 1泊 2日 の人間 ドックに入 り,健 康診断 を受 けた。
異常 は発見 されなか った。退職後 は妻 と二人での旅行 を希望 し,温 泉巡 りを楽 しんでい た。 4
月中旬,公 園散歩中にふ らつ きを感 じ,公 立病院脳神経科 を受診 した。脳内の血流不良 と言 わ
れ,治 療 した。今度 は食事が通 りに くくな り,下 血 したので,同 じ病院内科 に受診 した。即刻
入院 とな り (Ha/11/21),主治医か ら癌 と通知 された。治療 としては,放 射線療法 ・化学療法
などの治療 を受けた。患者が治療中,患 者死亡後 は患者 の妻 と面接契約 を結 び,約 3年 間にわ
たって心理面接 を実施 した。
「
主治医 より文書 と面接 での患者紹介」
息者 は61オの男子 で,発 病年 の 3月 に定年退職 し,夫 婦 で温泉旅行 を楽 しんでいた。
4月 中旬 ,公 園散歩中にふ らつ きを感 じ,公 立病院脳神経科 を受診 した。脳内の血流不良 と
言 われ,治 療 した。今度 は食事が通 りに くくな り,下 血 したので,同 じ病院内科 に受診 した。
即刻入院 とな り (Ha/11/21)癌が発 見 された。息者 は食道癌 (進行癌)で , リ ンパ節転移 を
伴 っている。治療 としては,11月 24日よ り放射線療法 を開始。早晩,食 道狭窄や出血 (大出血
による急変 もあ り得 る)が あ り,経 口摂取不良,病 変進行 などが予想 され,予 後不良。息者 の
QOLを 重視 した医療方針 を取 っている。疾病説明 につい ては家族 と話 し合 い,息 者 にも伝 え
てい る。 ただ し病名説明のみにとどめ,転 移 については伝 えてい ない。12月9日 ,息 者 に病名
を伝 えた。息者へ の病名通知 の内容 は食道癌 で,進 行癌,今 後 さらに食道狭 窄や大出血の危険
性 がある。病変が大 きいので放射線療法で病変 の縮小 をはか りたい と伝 える。患者か らの質問
一-130-―
癌 に罹患 した夫 とその妻 との心理面接について
で , 完 治 す る確 率 は ? 〈 5 0 % く らい と説 明〉 予 後 につ い て は ? く これか らの経 過 を見 な い と
はっ き りわか らない〉 転移 は ? く 現在 , 転 移 は見 られ ない〉 と説 明 してあ る と言 う。
3.心
理 面接 の 日程
心理面接 (心理治療)の 構造 は週一 回, 1時 間の面接 ,息 者 とその妻 の同席面接,対 面法。
面接場所 は医療相談室。Fig.1は息者 とその妻 の面接 日程である。同席面接 は11回,患 者 の症
状悪化や治療 の都合 か ら,息 者 自身 は来談 出来ず,妻 のみの面接 6回 ,息 者死 亡後 (Hb/5/
11:17時20分)妻 との面接再開まで20回の面接。19回日は電話 で,夫 が5/11日17時20分死亡,
5/13日葬儀 を実施 した との連絡 を受ける。5/15日の予約 は夫死亡 のため取消。息者死亡後,#
20(5/23)家庭 を訪問 して面接 ,面 接終結時 に,〈 もし希望 があれば,面 接 を継続 したい,希 望
されれば,電 話 を ください〉 と伝 える。 #21(Hb/6/26)か ら #40(Hd/4/19)ま での20回の面
接 は,一 回 ご とにクライエ ン ト (息者 の妻)の 方か らの電話 で,面 接 の 申 し込みを受 けて,そ
の都度,面 接契約 を結 んで,面 接 した。 ♯21回以後 の面接 は大学研究室 を利用 。
1.
Ha/12/21
2,
12/22
妻 のみ
Dr
妻 のみ
Hb/06/26 妻 と面接
07/03 妻 と面接
07/20 妻 と面接
3.
12/27
4.
Hb/01/09
夫婦同席
5,
01/17
夫婦同席
07/27 妻 と面接
08/08 妻 と面接
11/13 妻 と面接
12/07 妻 と面接
6.
01/23
夫婦同席
7.
01/31
夫婦同席
8.
02/06
夫婦同席
9,
02/16
夫婦同席
10,
02/22
夫婦 同席
Hc/01/25 妻 と面接
03/15 妻 と面接
04/15 妻 と面接
11.
03/02
夫婦同席
04/27 妻 と面接
12.
03/09
05/21 妻 と面接
13.
03/27
夫婦同席
妻 のみ
14.
04/04
夫婦同席
07/24 妻 と面接
15.
04/11
16.
04/25
夫婦同席
妻 のみ
17.
05/08
18,
05/12
19.
05/14
妻 のみ
患者死亡 (11日17時)
TEL (13日 :葬儀)
09/10 妻 と面接
10/15 妻 と面接
11/11 妻 と面接
20。
05/24
訪問 妻 と面接
07/01 妻 と面接
12/12 妻 と面接
Hd/02/25 妻 と面接
04/19 妻 と面接
Fig.1 息 者 とその妻 の面接 日程
1は 息者 とその妻 との面接 日程表である。第一 回目の面接 は,息 者 の妻 との面接 で,夫
Fig。
の症状 について詳 しく聴取す る。第二 回目に主治医 と面接 ,息 者 の状態 にについて,説 明 を受
ける。第三回目は夫 も来談する予定 であ ったが,治 療 の関係 で,妻 のみ来談す る。夫 の言葉 と
して,心 理面接へ の期待 の高 いこ とを知 らされる。四回目か ら十二回目までの面接 は夫 も元気
で,夫 婦同席面接 が定常的 に行 われた。十三 回目は夫 の治療 の関係 で面接 は妻 のみ となった。
十四回 と十五回は同席面接が行われたが,夫 の症状が進行 し,十 六回目と十七回日の面接 は妻
のみ となった。夫 の症状が急激 に悪化 し,十 八 回目には死亡 された。
一-131-一
十九回日は妻か ら電話連絡があ り,葬 儀 をす ませたとの こと。二十回目で,治 療者が家庭 を
訪問 して面接す る。二十一 回目の面接 を契約 した。以来,四 十回日の面接 まで,継 続的面接が
行 われた。 この間,長 男 の結婚,長 男 の嫁 の父親 の死亡,妻 の実母 の死亡な ど,離 別が続 いた
が,長 男夫婦 に男子誕生 もあった。初回面接か ら約 2年 間の定期的面接 であ ったが,夫 が死亡
してか らの面接 では,そ の都度,契 約 を結 んでの面接であ った。 したが って本研究 では,息 者
の心理的変遷過程 と夫 の死亡後 の妻 の心理的変遷過程が時間系列的 に検討 された。本事例 の場
合 には,夫 婦 は 2人 で 1人 と考 えられるほど,心 理的に親密な関係 にあ り,夫 婦 を一事例 とし
て検討す る こ とに意義があると考 えられる。Hd年 4月 以後,He年 3月 の現在 では,妻 の心理
的 自立 は進展 し,す でに心理面接 を必要 としな くなったとも思える状況にある。
心理面接過程 中の本事例 の家族 の出来事 は (1)5月 1日 に長男 の仮結婚式 (息者死亡 の 2週
間前),(2)6月 11日の長男夫婦 の結婚披露宴, 2年 後,長 男 の嫁 の父死亡 (59才),同 年 6月
末,患 者 の妻 の実母死亡 (86オ),息 者死亡後 3年 目の 2月 ,長 男夫婦 に男子が誕生す る。
4.心
理 面 接 期 の 紹介
第一期 (#1[Ha/12/21]― #3[Ha/12/27]):不 安 ・心配期 :ど う しょう !表 情 が暗 く,沈
みが ち。第二期 (#4[Hb/1/9]一 #10[Hb/2/22]):安 定期 :症 状が安定 して来たためか,生
い立 ち,仕 事,社 会事情 な どについて語 る。第三期 (#11[Hb/3/2]一#16[Hb/4/25]):衰 退
期 :右 下腹部 に癌転移が発見 さる。長男 の仮 の結婚式 をす る。妻が長男 の結婚準備 のため上京。
第四期 (#17[Hb/5/8]一#19[Hb/5/14]):働 哭期 :体 力 の減退 が激 しく,結 婚後 (仮結婚式)
息子夫婦が任地 に帰 る前 に,息 者 と長男夫婦 は長 い 問,手 を取 り合 って,深 い交流。 「#18:
5/11,17:00,死 亡」 「汁19[5/14,電話 で連絡受 ける」。第五期 (#20[Hb/5/24]一#28[Hc/1/
25]):悲 哀 ・動揺期 :息 者死亡後 10日目,訪 問面接 ,息 者死亡後 は妻が月に 1回 程度 の害J合で
来談する。息者 の妻 とのカウンセ リング関係 が契約 された。当初 は悲哀 と動揺 が激 しか ったが,
漸次安定す る。夫 (息者)力 ざしの こ した長男 の結婚式 があ り,そ の準備 もあ って,少 しずつ前
向 きとなった。 しか し,一 人になると,こ み上 げる涙 をどうす ることもで きなか った。第六期
(#29[Hc/3/15]一#40[Hd/4/19]):安 定 。積極的行動期 :旅 行 にも積極的 に参加す るよ うに
なる。長男 に男子が誕生する。
5.心
理 面 接 過程 の 紹介
第一期 (#1[Ha/12/21]一 #3[Ha/12/27]):不 安 ・心配期 :
#1(Ha/12/21):患 者 の妻 との面接 :不 安 と心 配で感情的。#2(Ha/12/22):主 治医 と面接。
#3(Ha/12/27):患 者 の妻 との面接 :経 過報告。
患者が症状 と発症経過 について詳 し く語 る。不安 が強 いため表情 は沈 みがちである。 これに
対 して治療者 はしっか りと受容す る。息者 は涙 ぐみなが らも発病時 の働奨が続 く。同席する妻
か らは夫へ の思 いや りが表現 される。治療者が次回の面接 を希望す るか と問 うに,夫 婦 とも面
接 を希望す る。 (#3)緊 張感 が取 れて来 た感 じ。患者 さんが微熱があ って来談 で きなか った。
〈
患者 さんのの状態 に変化がないか ?〉 と聞 くに,放 射線照射 の結果 を見せて もらった。主治
医 は良い方向へ の変化 はない と言 う。限度一杯 の放射線照射 を完了 し,状 態が どうなるかを観
察 し,以 後 は薬 (抗癌剤)に よる治療 について検討す ると言 う。抗癌剤 を服用す るようになる
と,副 作用がでるのではないか と思 うので,放 射線照射 で うまくゆけばと祈 るばか りと言 う。
―-132-一
癌に罹息した夫とその妻 との心理面接について
治療者 は息者 とその妻 の募 る不安 を理解す る。GJ作 用 の不安 があ り,心 配 !〉そ うです。同
室息者 さんの苦 しみを見 るにつ けて も,不 安 です と言 う。 く
そうですね !〉 と返す。
。
面接理解 :病 名通知後 で,不 安 心配 の強 い時期 であ った。医学的治療 は計画通 り続けられ
てい る。治療効果 を期待す る気持 ちが強 い。 と同時に副作用 に対す る不安があ る。
3回 の面接 で,息 者 とその妻 は激 しい不安 。心配 を示 した。治療者は,不 安 と困惑 をしっか
りと受容 した。息者 は 自己の病 を否認す ると言 うよ り,病 名通知 に対 して,激 しい不安 ・心配
を示 した。治療者 は息者 とその妻 の不安 ・心配 をしっか りと共感 し,受 容 し続け,更 に状態が
深刻 な場合 には,息 者 と妻 の側 に寄 り添 い,支 える関係 を形成 した。 ここでの治療者 は息者 と
その妻 を励 ますで もな く,慰 めるで もな く,知 的解釈 をするで もな く,ひ たす ら側 に寄 り添 い,
側 にあ りて,側 か ら離 れない関係 の形成 に努力 した。息者 とその妻 は治療者 の形成す る この関
係 の中で癒 され,現 実 を直視 し,受 容 し,引 き受けてきたように思 う。
病名通知 を受けて,働 奨す る患者 とその家族 に取 って,大 切 な治療者機能 は上記関係 (癒し
の関係)を 形成 し,提 供す ることにある。
第二期 (#4[Hb/1/9]― #10[Hb/2/22]):安 定期 :
#4(Hb/1/9):息 者 とそ の妻 の面接 :微 熱。 #5(Hb/1/17)息 者 の妻 との面接 :流 動食。
#6(Hb/1/23)息 者 とその妻 の面接 :前 向 きな話。 #7(Hb/1/31)患 者 とその妻 の面接 :遺 伝
と環境 の話。 #8(Hb/2/6)患 者 とその妻 の面接 :呼 吸困難。 #9(Hb/2/16)息 者 とその妻 の
面接 :ボ ンベ持参。 #10(Hb/2/22)患 者 とその妻 の面接 :ボ ラ ンチア活動 に関心。
放射線療法が終 わ り,点 滴 (抗癌剤)と なる。息者 は 2/2に主治医 と面談 して,今 後 の治療
について相談す る。今後 どうなるかは 2/2の主治医の判断に待 つ ことと言 う。期待 と不安 の錯
綜す る複雑 な心理状況 にある。 このためか息者 は話題 を捜 して色 々 と話す。病気 と遺伝 につい
て,長 時間話す。それ も病気その ものの遺伝 と言 うよ り,生 活習慣 とか,気 質 ・性格 について
「
遺伝 と環境 の関連性」 につい て話す。 自分 の生真面 目な神経過微 な性格 が病気 を誘発 す るの
ではないか と言 う。呼吸困難 となる。不安 が強 くなるか と感 じたが,安 定 していた。2/2日 に
主治医 と相談 したが,今 後 の治療 について話があ るのではないか と期待 したが,息 者 か らは,
相談結果 についての話 はないので,〈主治医 との相談 はどうな りました ?〉 と聞 くに,こ れか
らは化学療法 を中心 と言 う話 で した と言 い,深 入 りした くない感 じ。 (2/16)呼吸困難 とな り
ボ ンベ持参 で来談。現役時代 の仕事 について詳 しく語 る。二人 の子 どもの仕事や教育 について
も語る。長男 の結婚 について,熱 意 を込めて語 る。微熱 はあるが,前 向 きに生 きようとしてい
る。息者 の 自我 の健康 さを感 じる。病棟看護婦 の指導 で,「生 きが い療法」 の本 を読 んで,病
気 を正 しく知 りたい と言 う意欲 を示す。 これに対 し治療者 は,く疾病 の容観的理解 に協力 はで
きないが,病 か ら貴方 が感 じる感情体験 (思いや気持 ちな ど)に つい て話 し合 うことは出来
る〉 と伝 えて,面 接 の方向づ けをす る。流動食 が食べ れるようにな り,元 気 が出たとの こと。
TVを 見 て,世 情 に通 じる。息子 の結婚問題 が当面の課題 として意識 され,で きるだけ早 い時
期 に息子 の婚約者 と会 いたい と言 う。阪神淡路大地震 の話 か ら,オ ランダの避難所 の話 にな り,
日本 の災害対策 の拙劣 さを語 る。息子 が建築技師 としてT市 で働 いてい ると言 うこともあ って,
建造物 の損傷 に深 い関心があ る。特 に新幹線が崩落 した ことには関心が深 い。話振 りに追力 も
あ り,意 識的 ・論理的であ る。第二期 では,病 に対 して積極的な対応 を匂 わせる。 「
生ある間」
は前向 きに,充 実 した生活 をしたい と言 う。否定的 にはもの ごとを考 えないで,明 る く生 きよ
うとす る。特 にボラ ンチア活動 に注 目し,中 田氏 (子どもがボランチア活動中死亡,父 親 もボ
ラ ンチアに参加す る)に 注 目す る。 自分 の職業生活 についての実績 を語 る。 自分 は高度経済成
―-133-―
長期その ものであ り,そ の担 い手 であ った とい う。症状が安定 していた時期 であ ったために,
社会的事件 (神戸淡路大震災)に ついて語 り,生 き方,長 男 のことなど積極的 に語 る。
面接理解 :治 療者 は息者 の前向 きな生 き方 について積極的 に傾聴 し,前 向 きな生 き方 を支持
す る。積極的 ・能動的 な治療関係 が形成 される。病床 にあ りなが らも充実 した生活が続 く。 K
市 の地震が発生 し,連 日 TVに 被害が報道 されるので,息 者 はその被害状況 を詳 しく分析す る。
まるで 自分 の病 を忘 れてい るかの感 じである。現実遊離 かなと感 じるほどの熱心 さである。 こ
れに対 して治療者 は積極的 に傾聴す る。患者 も満足感 を示す。 しか し,息 者 は#8面 接当 た り
から呼吸困難 とな り,酸 素 ボ ンベ を持参す る。中国氏 のボランチア活動 に強 く共鳴 し,自 分 も
元気 になれたら,ボ ラ ンチア活動 に参加 したい と発言する。第二期 は息者 の症状が比較的安定
していた と言 うこ ともあ り,更 に大 きな社会事件が加 わって,息 者 は積極的 ・能動的な生 き方
を示す。
第二期 (#11[Hb/3/2]一#16[Hb/4/25]):衰 退期 :
#11(Hb/3/2)息 者 の妻 との面接 :癌 の転移。 #12(Hb/3/9)面接 は中止。#13(Hb/3/27):
息者 の妻 との面接。 #14(Hb/4/4)息 者 の妻 と面接 ,途 中か ら息者 も参加。♯15(Hb/4/11)患
者 とその妻 の面接。#16(Hb/4/25)息 者 の妻 との面接 :仮祝言 の話。
右側下腹部へ の癌転移 を主治医 よ り知 らされて,動 転 し号泣する 〈
転移が発見 されたのです
ね〉 と対応す る。 く
そ うです, とうとう来 るべ きものが きたと言 う感 じです〉 く
そ うで うね,悲
しいですね,思 い きり泣 いて下 さい,側 にい ます〉 「さめざめ と泣 く。チ ッシュを取 りよせる。
チ ッシュで拭 い なが ら,」 く
切 ないです !〉 〈
そうですね,お 気 の毒 とし
夫がかわいそうです〉 く
か言 い ようがあ りません〉 くこんなに早 く転移す るとは思 い もしませんで した〉 く
先生が進行性
と言 われた意味が今や っと分 かった気 が します〉 く
な
進行性 とい うのはこれだ ったのですね〉 く
るほど〉 く
息子 に電話 して,良 か った ら帰 って来 るように言 い ました〉 く
そうですね,よ く相談
して ください。 ご主人の下腹部 に転移が始 まった と言 うことは事実 です か ら〉 く
はい,そ うで
`
す,事 実なのですね〉 「
涙 くみ,何 度 もハ ンカチ とチ ッシュで涙 を拭 う。衝撃 に打 ひしがれて,
息子 の声 が 聞 きたい」 と言 う。 く
やは り衝撃 の時 に頼 りになるのは身内 なのだろ うか。血のつ
`
なが りの強 さを感 じる〉 「
不安 ・心配 を繰 り返 し訴 える」 〈
共感 につ とめる〉 「
涙 くむ,沈 黙す
る,沈 黙 を破 るように,不 安 と心 配 を訴 える」 「H大 学 のT先 生の癌 に対す る遺伝子療法 につ
`
いて新 聞記事 を読 み,電 話 を して,可 能性 を聞い たが,す く
には無理 と言 われた との こ と」
〈
主治医 に相談 して も,同 意見 と聞いて,安 心 した〉 と言 う。 く
やるだけのことをや って,出 来
ない と感 じ取 り,納 得 した〉 と言 う感 じである。
積極的 に聞いて納得す ることは,気 持 ちの安定 につ ながることになる。痩せ る夫 を引 き受け
ようとす る妻 の気持 ちが感 じられる。現実 を引 き受 け よう とす る。 〈
夫 は痩せて しまい ました
が,落 ち着 いてい ます〉 と言 う。 く
それに長男 の結婚式 が決 まったので,家 に帰 る度 に烏、
子に
い
い
い
こと
電話 して,長 時間,話 し合 を して る〉 とのこと。同 じ
を何度 も話て る様子。家 に
帰 った時 には鉢植 えの手入れをした りす る。疲 れるのではないか と思 い なが らも,好 きなよう
にさせ てやろ うと思 っている。 「
夫 が病 に対 して受容が出来 つつ あるのではないか」 と妻 は感
じ,確 実 に進行す る夫 の病気 を引 き受けようとしてい る。
長男 の結婚 のための結納 をするとの こと。夫婦 とも長男 の結婚式 に気持 ちが向いてい る。主
治医 に酒 を飲みたい 旨 を伝 えたところ,少 々ならよい と許 しをえた。自分 は酒好 きなので,ウ
イスキー を飲んでみたい と言 う。 ダブルで,数 杯 は飲 めていたのに一杯 も飲 むと顔が真 っ赤 に
なる し,そ の赤 さは尋常 なものではな く,病 気 のためか と,強 く感 じた とのこと。 く
残 してい
一-134-一
癌に罹息した夫 とその妻 との心理面接について
るブラ ンデー を思 い きって飲 んでみたいです〉 と言 う。あれほ ど美味 しか った酒が こんなにも
反面,七 分粥 のご
飲 めな くなった ところに,こ の病のす ご さを感 じてい るのか も知れない。 く
故郷 の
飯 には甘味 さえ感 じ,美 味 しいです〉 と言 う。味 (味覚)が 原点 に帰 るのだろ うか。 〈
った〉
と言 う。
きしめんも美味だ
選挙結果 について語 る。運 日 TVを 見 てい るので,情 報 には詳 しい。特 に無党派 の勝利 と言
われることに,企 業人 らしい危惧 の念 を抱 く。病院で知 り合 った同室 の息者 さんや看護婦 さん,
主治医 には感謝 してい る。主治医に対する信頼 は高 い。 「もっとよい治療法 があるか も知れな
いが,私 としては主治医 の治療 を全面的に信頼 したい」 と言 う。
面接理解 :第三期 は息者 の病状 か ら11月か ら6月 に変更 した した長男 の結婚式へ の参列 も不
可能か も知れない と言 う考 えか ら, 5月 1日 に先方 の両親 とお嫁 さんをH市 に呼 んで, S神 社
で 「
仮祝言」 を挙げるとにす る。押 し寄せて くる病気 に魔力 を感 じる。息者 の命あ る内になす
べ きことをしてお きたい と言 う気概 を強 く感 じる。治療者 も積極的 に支援す る。
第四期 (#17[Hb/5/8]一#19[Hbん /14]):働哭期 :
#17(Hb/5/8)息 者 の妻 との面接 :病状が急速 に悪化。#18(Hb/5/12)主 治医 よ り電話 ,患
者 が死亡。 #19(Hb/5/14)息 者 の妻 よ り電話 :夫 が11日に死亡 し,13日 に葬儀 だった。 15日
の予約面接 は中止 の 申 し出。
息者 の病気 が急速度 に悪化す る。夫 の状態 を妻 も引 き受けようとす る。夫 は 自分 の病気 を理
解 しようとし,あ る程度,そ れが出来 てい るのではないか と感 じる。2-3日前 に夫 は痛 みが強
く苦 しんだ。主治医の手配で,痛 みを感 じな くな り安定 したとのこと。痛 み さえなければ落ち
着 いてい る感 じ。夫 は,激 しい体力 の落ち込 みを,寂 実 とした感 じで引 き受 け ようとしてい る。
夫 は 6月 の結婚式 には出席出来ない もの と覚悟 してい る様子。病気 に対す る理解 が進んでい る
と言 う妻 の発言が印象的であ った。
静 かに しか し着実 に押 し寄せて くる病 に対 し,夫 婦 はそれぞれの立場で引 き受け よう とされ
る気持 ちが治療者 に伝 わって きた。治療者 の とって,死 に直面 した夫婦 の気持ち をどれだけ深
く引 き受けられるか は大 きな課題である。 ここでは受容 で もない,共 感 で もない もっと大 きく
深 い関係が必要であ る。
患者 の死亡後始 めての面接。患者 の死亡後 は何時 か ら,面 接 を再会すべ きかについて計 って
いたが,患 者 の妻か ら電話があ り,面 接希望 があ ったので,患 者宅 を訪間す る。始 めての自宅
“
訪問。 F町 のマ ンシ ョンに行 く。座敷 には祭壇があ り,写 真 と戒名 とお花 が捧 げてある。 ろ
ろ
"に
"と
工̀
は灯明が点 じてある。5/10の午後 か ら息者 の苦
線香が置 いてあ る。
うそ く
うそ く
痛が強 くな り,個 室 に変 わる。夫 は,他 の息者が個室に移 ると大抵死亡すると言 うことを知 っ
ていたので,個 室 に行 くことを嫌 った。看護婦 のは計 らいで,処 置室 に変 わろ うと言 うことに
した。5/10の夜 は,妻 も病室 (処置室)に 泊 まる。 5月 14日 (日曜 日)の 電話 で,息 者 の死亡
について妻 よ り連絡 を受ける。12月21日以来,約 6カ 月間,20回 の面接 を実施 した。原則 とて
面接 は息者 とその妻 との同席面接 であ ったが,息 者 の状態 により,妻 一人 との面接 もあ り,息
者 の状況 を妻 を通 して聞 く場合 もあ った。患者 を抱 えた家族が どのような心理的変遷 をた どる
かを息者 とその妻 を通 して観察 ・参加 した。押 し寄せて くる不安 と働哭 を引 き受け,対 処す る
家族へ の援助活動 であった。面接初期 は息者 にも希望 があ り,「生 きが い療法」 な どにも関心
を示 し,比 較的元気 で前向 きであ った。治療者 は患者 の前向 きを活用 して,息 子 の結婚 を取 り
仕切 ることで,希 望が持 てるように した。家族内での死 と再生の過程であろうか ?家 族が夫
(父親)の 癌 とその経過 をどのように引 き受け,理 解 し,対 応するか。治療者 は,6か 月間の軌
一-135-―
跡 をた どったことになる。本事例 の場合 (1)「発病不安」:下 血 し,診 察 を うけ,即 刻入院 と
いわれ,発 病不安 に襲 われる。病名 を知 らされる。医療者 か らの指導 を受けて 「
生 きが い療法
の考 え方」 を参考 にし,安 定化 の方向 に向 う。 (2)「不安 の中の希望」:癌 関係 の書物 を多数,
丹念 に読書 し,付 箋 をつ けての詳読 で,闘 病不安 を読書 によ リサポー トしようとしてい る感 じ。
息者 の読書態度 には患者 自身の性格や生活態度が よ く示 されていて,完 全欲の強 い 。気配 り 。
徹底性 などが示唆 される。 (3)「経過不安」:治 療効果が及 ばす,体 力 の衰 えが激 しく,痩 せて,
肌がかさかさとな り,見 るか らに病弱 となる。 (4)「疾病受容」:生 きてい る内 に息子 の結婚 を
させたい と言 う気持 ちが強 く,5月 1日に仮祝言 をす る。結婚式 を終えた息子夫婦がT市 に帰 る
とき,患 者が息子 の手 を取 って,何 時 まで も離そ うとしなか っことは息子 との永久 の別れを実
感 し,何 かを伝 えたのではないだろ うか ?家 族内での死 と再生 としたい。 (5)「死 の受容 ?」 :
妻か らの報告 にもある ように 「
息者は 5月 の初頭 には死 を受容 (理解)し た」 と感 じる。5/10
は苦痛 を訴えたとのことであるが,そ の後 は静 かに死 を迎 えた とのこと。本事例 の場合 ,発 病
と同時に入院 し,わ ずか 6か 月足 らず で,永 眠 した。急 ぎす ぎた結末 と言 えようか。その心理
的経過 は全体的 に安定 し,激 しい働哭や不穏 は示 されなかった。それだけに息者 の 自我 とその
家族力動 は健全で,安 定 していたのであ ろ う。適応可能性 の高 い息者 とその家族 だったのだろ
う。
第五期 (#20[Hbん /24-#28[Hc/1/25]):悲 哀 ・動揺期 :
「
面接再開」 (Hb/5/21)に息者 の妻か ら電話があ り,面 接 の 申込 を受ける。 #20(Hb/5/24)
に家庭 を訪問 し面接 を開始す る。葬儀 を済 ませ,長 男 の結婚式 も終わ り,落 ち着 いた。 しか し,
激 しい うつ気分 だ と言 う。医師にかか り,診 察 を受けて薬 を賞 っているとのこと。主症状 は眠
れない,の ど周辺 に異物感があ り,い が らわ しいであ った。離別 か ら来る反応性 うつ状態 と判
断で きる。 しか し,そ の程度 は軽症 と判断で きるが,客 観的 に判断す るために YG性 格調査 を
依頼す る。快 く引 き受けて もらえる。次回 を約束 して面接 を終 える。
#21(Hb/6/26):性 格調査 の結果説明 と今後 の面接契約 を確認す る。面接契約 として 「クラ
イエ ン ト (息者 の妻)が 希望 される時 に電話 で予約 して,面 接 をす る」 と言 う方法 を取 った。
#22([Hb/7/3)予 約面接 :面 接期待が大 きく,20分 も早めに来談す る。 うつが軽 い ときに
は喉 の詰 まり感 がな くなるが,今 日の ように うつが強 くなると,ま た詰 まり感があるとのこと。
♯23(Hb/7/20)予約面接 :明 るい顔 で来談。 N県 の薬師寺 に行 って きた。夫 が写経 を して
いた し,薬 師寺 のT先 生 を敬愛 していたので,写 経 をもって行 って きた とのこと。その前 にO
市 の妹や母 にもあって,色 々 と話 して気持 ちが楽 になった。東大寺 を歩 き,薬 師寺 では平山学
長が書 いてい る絵 があると言 うので,そ の写真 を買 って きた。夫が亡 くなる前 に (10日前)写
真 を写 したが,そ の折 りの写真 をみると,何 か影が消えてい る感 じで,薄 い感 じが したと言 う。
やは り写真 にはその人の生 きざまが正直 に出てい るのではあるまいか と言 う。 うなずける。
#24(Hb/7/27)予 約面接 :不 治 の病 を抱 えた家族 の心理 を克明 に伝 えられる。病 とい うの
は発生原因は生物的事象 であ るが,訴 えることは心理現象 であ り,医 療者 は息者 の生物次元 に
はよ く対応 で きるが,心 理的事象へ の対応 は難 しい。患者 はお手上 げ とな り,患 者 とその家族
の混乱 と動転 を引 き受ける人がほ しい とのこと。治療者 の機能 は,息 者 とその家族 の混乱 を引
き受けることである。慰めで もな く,元 気付 けで もな く,優 しさで もな く,い たわ りで もない
心理的交流 関係が必要 となる。強 いて言えば,共 に居 る関係 とで も言えようか。
#25(Hb/8/8)予 約面接 :水 玉模様 の 開襟 シャッ,〈暑 いですね〉 本当に暑 いです くこの 間
は,仏 壇 を買 い ました。二人 の息子 も帰 って くれて,一 緒 に買 い に行 きました〉。廻己
達 も終わ
―-136-一
癌に罹患した夫 とその妻 との心理面接について
りましたが,ま だ入仏式 が終 わってい ません。 お寺 さん と相談 して,新 盆 の時 に子 どもととも
に入仏式 をします〉 と言 う。 くこれで夫 の居所 がで きました。 やは り仏 の元 に行 くのですね。
社会保険事務所,税 務署,区 役所 などか ら次 々と連絡があ り,名 義書換 の要求が どんどん来 ま
す。何 か もの悲 しい感 じです。税 金 も,年 金 支給額 も変わるそ うです〉 〈
夫 は不運 です〉 と
いって涙 ぐむ く
夫 は年金がでる前 か ら,社 会保険事務所 に行 って, 自分 の年金がい くらになる
かを計算 した りして,な にか らなにまで手際 よ く,早 手回 しにやるし,あ んま りや りす ぎたの
でこんなことになったのか さえ思 い ます〉 と言 う。
治療者 は息者 の妻 の語 りを丁寧 に積極的 に傾聴 し,治 療者 の判断 に元 ず く反応 は出来 るだけ
少な くした。 ここで必要な面接技術 は積極的傾聴 であ る。息者 の妻 の発言 の中に含 まれる行間
の意味 を理解す ることに集中 した。仏壇 を買 って,夫 の居場所が出来 たと言 う発言 は,夫 の遺
骨 を安置す ると言 う以上 に深 い妻 と夫 との離別 の意味 の表現 と理解 したい。社会保険事務所,
税務署な どか らの通知 は,妻 自身の社会的地位 の変化 を無理矢理 に強い られる切 なさではない
だろ うか。他界 した夫 の性格特徴 を表明す ることは,夫 へ の敬愛 を表す もと考 える。
#26(Hb/11/13)予 約面接 : く夫 が他界 して,半 年 になる。 11月11日は私 (クライエ ン ト)
の誕生 日で,夫 の死亡が 5月 11日で長男 の結婚 が 6月 11日で,11日 にす ごい重みを感 じる〉 と
重 い11日ですね〉 と言 うと,くそ うです〉 と言 う。 この間,兄 が帰 ってて きたので,灯
言 う。 〈
油 を買 い込 んだ。男手 がないので,帰 った ときにと思 って,買 った。下 の子 が,S県 なら家 が
買 えそ うなので,一 緒 に住 まないか と言 う。私 は寒 い所 (S県 は寒 い地方)は いやだと言 う。
どう しようか と悩 んでい るとの こと。治療者 は,11日 に思 い を馳せる来談者 に共感 しなが ら,
自分 の老後 について考 えは じめてい るクライエ ン トを感 じる。切実 な問題である。
#27(Hb/12/7)予 約面接 :今 日は気分が優 れない とのこと。治療者 はクライエ ン トの抑鬱
気分 を受容す る。
♯28(Hc/1/25)予 約面接 :ク ライエ ン トの実母 が入院 した。 O市 とH市 を行 った り来 た り
してい る。 こちらに居て も,一 人で,思 い出に沈むが,0市 に行けば,実 母 。兄弟が い るので,
度 々行 っていると言 う。 H市 では,寂 しいけれ ど,静 かな生活 とのこと。
第六期 (#29[Hc/3/15]一#40[Hd/4/19]):安 定 ・積極的行動期 :
#29(Hc/3/15)予 約面接 :2月 の予約 はな く, 3月 に一度,申 し込があ ったが,中 止 の 申
し出があ り,今 日になる。 1月 に長男 の嫁 の父親 (59)が死亡 し,葬 式 に出た とのこと。父親 は,
急 に様態 が悪 くな り,死 亡 した とのこと。 自分達 は,他 県 で働 いていた と言 うこともあ り,夫
婦 が密着 していた。夫 の葬儀後,実 母 の様態 が悪 くな り,実 母 の元 で生活 してい た。実母 は薬
が効 いたのか一度 は危篤状態 になったのに,再 び元気 にな り,意 識 もはっ きりして きた。体 に
つ けてあ る装置 をむ しり取 った りして困 るとの こと。息子 (弟)は 元気 に働 いてい る。息子が
S県 で一緒 に住 まないか と言 って くれ るが,決 断がつかない。 H市 のマ ンシ ョンに一人で暮 ら
すのは しんどいこ とで,寂 しい と言 う。部屋 に飾 っている夫 の写真 をみてい ると,涙 が溢 れて
しまう。悲 しい と,涙 ぐむ くしん どいで しょう。切 ないですね〉 と対応す る。 く
側 にい ます〉
と伝 える。治療者 は近親者 の死亡に よるクライエ ン トの衝撃反応 を受容 し,直 面 で きるように
援助す る。 くしん どいで しょう,切 ないで しょう〉 と言 う対応 はクライエ ン トの直面機能 を促
進 で きるように援助す るを目的 とした ものであ る。
#30(Hc/4/15)予 約面接 : く先 日まで,0市 の母親 の ところに行 っていた〉 〈
母親が最近 は
頭が冴えて きて元気 になった〉 〈
弟 (息子)と 共 に住 むか と考 えたが,息 子 は帰 るのは遅 い し,
仕事 は持 ち帰 る し,一 緒 に住 むの もどうか と思 う〉 とのこと。 〈自分 の妹 (0市 で生活)は 何
一-137-一
時 まで も泣 いてい ないで,元 気 を出 しなさい〉 と言 う。 くしか し,貴 方 (治療者)は 泣 きたい
だけ泣 いて下 さい〉 と言 う。 (30年以上 も一緒 だった夫 のことです か ら,そ んなに早 くあ きら
める ことは出来ないです〉 と言 う。 「
泣 きたい だけ泣 いて,泣 きなが ら供 養 して下 さい」 と伝
える。そ して 「
お話 にお いで下 さい」 と言 う。 しか し くクライエ ン トが旅行 したい気持 ちに
いいこ とだと思 い ます〉 と支持す る。
なった〉 と言 う。 く
面接理解 :ク ライエ ン トに少 しずつ変化が見 られるようになる。夫亡 き後 の生活 について考
えるようになる。旅行 もしてみたい気持 ちを表明される。
時間の経過 と共 に,ク ライエ ン トの気持 ちに少 しずつ変化 をみる。旅行 をして見たい と言 う
気持 ちになったことは大 きな変化であろ う。
♯31(Hc/4/27)治 療者 が クライエ ン トの家 を訪問 して面接 :4/22に クライエ ン トか ら電話
があ り,見 てほ しい TVが あ るので,来 てほ しい と言 う。訪間す る。NHKの 放映 した TVを
見 る。浅井 え り子 と言 うマ ラソン選手 の夫 の死亡 (癌による)を 題材 として残 された妻達 の生
き方についての TVで あ った。
治療者に対 して TVを 一緒 に見 てほ しい と言 う行動 は,ク ライエ ン トが夫 の亡 き後,如 何 に
生 きるかを決める過程であった もの と推察す る。
第一話 は50才位 の夫 を死 なせた妻の話 し。第二話 は40才位 の女性,第 三話 は35才の婦人の場
合 を レポー トした。 ゲス トとして,林 家三平 の夫人 と,精 神科医が出た。林家 の妻 は夫 が死ん
だ時,小 さい子 どもが いたので,夫 のことは全てを忘れようとして,身 近かなものは無 い もの
に して,日 の前 か ら消 して しまった。育 てると言 う現実が追 って くるので,感 傷 に慕 ってはお
れなかったとの こと。50才位 の夫 の妻 は学校 の数学教師で,夫 も高校教師だ った。夫 の死 を引
き受けて,悲 嘆に くれていた。 しか し,誰 かに励 まされて,後 を押 されて,元 気 を出 して,学
校 に勤 めだ した。二番 目の女性 は夫婦 でマ ラソンに出ていた。夫 は体育 の先生で,妻 は高校 三
年生で,そ の まま結婚 した。 い まで も夫 の持 ち物 をそのまま家 に置 いて,靴 などもその まま靴
箱 にいれて残 してい る。遺稿集 を出 してい る。夫 の闘病 日誌 と自分 の看護 日誌 をまとめて,出
版 した。三番 目はまだ若 い未亡人で,35才 とのこと。死亡 した夫 はオリンピ ックに も出るよう
なスポー ツ選手 であ った。合宿 のために北海道にきて,合 宿 していた時 に知 り合 い となった。
しか し,彼 は病気 とな り,選 手 としての活動 がで きな くなったので,妻 の里で,夫 とともに牧
場 をや っていた。 しか し,夫 は トラックターの下敷 きになって急死 した。妻 は彼 を自分が殺 し
た と感 じてい る。彼女 はカウンセ ラーからカウ ンセ リング受けて,再 生 し,新 聞配達 の仕事 を
始 めてい る。牧場 は年老 いた両親 と未亡人 と2人 の子 どもでは,経 営が無理なので,60頭 の牛
を売 り払 ったた。TVを 見 て後,次 の ような話 し合 い をした。 (1)「側か らの元気 をだせ」 に
ほだされて,抑 うつ状況か ら脱却 して,働 くと言 う場合 がある (2)何もか も黙殺 して,忘 れよ
うとす る (3)子 どもが小 さか ったので,め そめそは しておれない,生 活 に一生懸命 になる (4)
遺稿 集 な どを出 して,喪 失体験 を整理 しよ う とす る人。 これ にはか な りの時 間が必 要 (4)
シ ョックが大 きく,専 門家 の援助 を受ける人 (5)時間 をかけて,癒 して行 く。泣 きたい時 には
泣 いて,話 したい時 には話 し合 う。 クライエ ン トの場合 は家 の 中に遺骨 もある し,夫 の遺影 も
ある。すべ てをその ままにし,そ の中で,夫 を思 い,夫 と話 しあ ってい る。声 も聞 こえる感 じ
であ るとのこと。心 ゆ くまで交流 し,時 間 をかて,心 を癒 す ことについて話 し合 う。クライエ
ン トが この方法 を選択 したのはクライエ ン トの性格特徴 が関係す るもの と推察 で きる。同時に
クライエ ン トが この TVを 治療者 と共 に視聴す ることを希望 したのは,ク ライエ ン ト自身が夫
の亡 き後 の生 き方 を選択するための思考過程 に治療者 の参加 を求めた もの と推察 で きる。
#32(Hc/5/21)予 約面接 :そ の後,ク ライエ ン トは夫 の遺骨 を菩提寺 に納骨 のために明 日
一-138-―
癌に罹息した夫 とその妻 との心理面接について
から0市 に行 くとのこと。 クライエ ン トはこのことを治療者 に伝 えるために来談 した。クライ
エ ン トの内的過程 に一つの変化が起 こった もの と推察 で きる。す なわち,ク ライエ ン トと亡夫
との間 に心 的距離が出来 た もの と推祭出来 る。
#33(Hc/7/1)予 約面接 :久 しぶ りの面談,元 気 が よい。多忙 さがクライエ ン トを元気づ け
てい る。 これか らどの ように して生 きるかを語 る。特 に実母 の遺言 で,自 分 の家 の後始末 と,
実母 の家 の後始末 の両方 を引 き受けてい る。お墓 も両方 を見て行 くようになると言 う。一気 に
多忙 な未亡人 となる。表情 も明る く張 りのある表情 となる。
#34(Hc/7/24)予 約面接 :今 日は元気が よい。明 るい感 じ。外国旅行 に行 こ うか と言 う気
持 ちが持 てる。夫 は生前,仕 事 の関係 で, コー ロ ッパ に出張 していたので,自 分 も行 って見 た
い気持 ちだ し,長 男が新婚旅行 を ヨー ロ ッパ にしたのは,そ のためだと思 うと言 う。更 にクラ
イエ ン トは,映 像 ライブラリイーで映画 を見 るようになった と言 う。 これはクライエ ン トに,
心 のゆとりが出て きた もの と思われる。
#35(Hc/9/10)予 約面接 :そ れが思 い切 つて ヨー ロ ッパ (ドイツ ・ス イス ・フランス ・イ
ギリス)に 行 って きました。 8月 27日に,W空 港か ら,N空 港 をへ て,ロ シアの上空 を通 って,
ドイツの空港 について,主 にチ ャー ターバスで, 4つ の国 を回って きた。 フランスか らイギ リ
スヘ は,海 底 トンネル を通 った。 3時 間で通過 した。同行者 は妹 と姪 とクライエ ン トの 4人 旅
であ った。
夫が死亡 して 3年 目で,ク ライエ ン トに大 きな心理的変化があ った もの と推察す る。
#36(Hc/10/15)予約面接 :先 日まで長男夫婦 の ところに行 っていた。胎児 の超音波が VTR
で撮 られてい るので,胎 児 の鼓動が よ く見 える。柴又 にも行 った,水 天官 にも行 った。夢 タウ
ンに日航 の作 ったホテル にも行 った。息子 が設計 して,建 てた老人 ホームにも行 ってみた。非
常階段 が階段 ではな くスロー プであ り,凄 い なと思 った。 自分 には波があ って,つ い先 日は凄
く落ち込 んで,塞 ぎ込 んで,夫 が恋 しくな り,落 ち込んでいた。 自分達夫婦 は,余 りにも持 た
れあ っていた ものだか ら,残 された私 にはす ごい穴があいて しまったと言 う。
頼 りきつて生活 して きた ことは まず か ったのだろ うか と言 うので,〈そのように考 えるより
も,頼 りあ って暮 らして きたか ら,何 時 まで も,夫 を偲 ぶ ことがで きる と考 えた方が よい〉 と
言 う。夫 の死亡後 の夢 で,夫 がベ ッ トで,泣 いてい る夢 を見た と言 う。
#37(Hc/11/11)予約面接 :今 日はクライエ ン トの誕生 日とのこと。赤飯 をたい て夫 にも供
えた とのこと。先 日,大 山,蒜 山 に旅 した。蒜山ではジンキスカン鍋 をたべ た。大山 ライ ンは
きれいだった。特急 I号 が走 っていた。変 わった汽車 だった。旅 はたの しか った。近 くのお寺
さんが きて くれた。お寺 さん も気楽 くに暮 らしなさい と言 う。元気 よ く生活 しなさい と言 う。
長男夫婦 も順調。来年 2月 には子 どもがで きる。弟 と長男が正 月 にはH市 に帰 る。 H市 で親子
3人 で正 月 を迎 えると言 う。
#38(Hc/12/12)予約面接 :来 週か ら0市 に行 くと言 う。 お墓参 りをして,実 家 の掃除 をし
た り,風 通 しをしたい と言 う。長男 の嫁 も来年 2月 には出産予定 だ し,順 調 に経過 してい る感
じで,嬉 しい。 2月 生 まれだか ら,学 校 に行 くようになると心配 だと言 う。長男 も小柄 だった
ので,幼 稚園では,ご 飯 もたべ ないで,帰 って来 る し,可 愛そうだった。小学校 で も小柄で,
`
苦労 した らしい。関西 にある33ケ寺 め くりに行 った,至 れ り尽 くせ りの贅沢 な巡ネしだったと言
う。大阪球場 にバ スが来ていて,大 変 だったけ ど,旅 は楽 しいかった し,料 理 もよか った。年
寄 り夫婦 と女 ばか りが 目立 ったと言 う。
#39(Hd/2/25)予 約面接 :話 が孫 のことにな り,父 親 (息子)の 小 さい時 の写真 をみたら,
っ
そ くりだった。本当 によ く似 てい る。それに亡 くなった父親 にもどこか似てい る感 じと言 う。
一-139-一
今年 は夫 の 3回 忌 をむかえ,母 親 の 1回 忌 だ と言 う。 く
時が流れてい る。それを受け入れ るク
エ
ン
ライ
トを感 じる〉
#40(Hd/4/1)予 約面接 :先 日まで,T市 と0市 を旅 して きた。始 めT市 に行 き,孫 の世話
をした。可愛 い。40日目。写真 を見せて もらう。可愛 い男 の子 が写 っている。身長 ・体重 は標
準 に成長 している とのこと。 O市 に移 り,妹 とともに紀南地方 を旅 し,K市 に行 く。妹 は教師
をしてい るので,忙 しい。それで も今回は紀南地方 に旅 して くれた。温泉 に入 り,露 天風 呂か
らの朝 日はす ご く感動的 だった。バ ックの中に夫 と孫 の写真 を入れて !
6.面
接 経 過 とその 考 察 ― 穂 しの た めの カ ウ ンセ リン グー
本事例 の患者は定年直後 に罹患 し,治 療 を受 けたが, 7か 月で死亡 した。患者 とその家族 に
対 し継続的 カウンセ リング関係 を契約 し,患 者 とその家族へ の心理的面接 を試みた。第一期 で
は息者 は不安 ・心配 を示 したが,否 定 。拒否的感情が全 く示 されなか ったとは言 えないが,激
しい ものではなかった。患者 は主治医 を信頼 し,医 師の治療計画に協力的であ ったと言 えよう。
但 し患者は癌 についての啓家書 を丁寧 に,付 箋 を付 け,傍 線 を伏 しなが ら,詳 読 し多読 した。
結果,癌 につ ての豊富 な知識 を獲得 し,詳 しい 自己診断を行 っていた。 しか し,こ れ も状態が
悪化するにつれて興味がな くなった。第二期 は安定期 で,心 理面接 も安定的 に実施 で きた。患
者 は現職時代 の仕事 を振 り返 りなが ら,並 行的 に社会事情 にも注 目し,意 欲的治療生活 をした。
症状 の進行 に連れて,長 男 の結婚式 を取 り仕切 り,仮 の結婚式 を挙行 した。第三期 は麦退期息
者 の痛 が転移 し,状 態が一層悪化 した。治療者 の 目にも患者 の衰退が はっ きり観察 された。息
者には,否 認 ・怒 り 。取引 も明確 には示 されず,一 気 に抑鬱状態 となったが,そ の抑鬱 を患者
は受容 し,静 かに命 を引 き取 った。息者 は 自分 の症状 にあわせるかのように長男 の結婚 だけは
見届 けたい と言 う気持ちがあ り,結 婚 を取 り仕切 るべ く,努 力 したが,病 の進行が急速度で,
長男 の結婚式 まで,命 が持 たない と感 じた息者 は長男 の仮 の結婚式 を,近 くの神社 で挙行 した。
両家 の両親 と長男夫婦 と言 う内輪 の仮祝言であ ったが,息 者 は父親 としての責任 を呆 た した。
長男夫婦が息者 と分かれて任地 に赴 く時 の別れは感動的であ ったとのこ と。患者 の場合,結 果
的に見て,キ ューボラ 。ロスの主張す る過程通 りには経過 しなかったが,部 分的には,肯 定す
るものが あ った。 これは息者 の 自我成熟度がたかったことと,医 療者 の援助が効果的であ った
ためであろ うか。
患者 の死亡後,妻 は一時期 ,動 揺 したが,長 男 の正式な結婚式,妻 の実母 の死亡など,次 々
と押 し寄せ る重 く煩雑 な事態 を乗 り越 え,時 の経過 と共に元気 を取 り戻 し,夫 が生前仕事 で出
張 していた ヨー ロ ッパ地域 にも旅行 した。最近 は長男夫妻に孫が生 まれ,夫 の再来 と感 じ,慈
しみなが ら,Hd/4に は姉妹 で南紀地方 を旅 した。
避ける ことので きない課題 を背負 っている患者 の心 を癒 す ためには (1)肉親が癌疾患 で死亡
され,悲 嘆に くれる患者 とその家族が い る。患者 と家族 は悲嘆にくれる。空元気 に立ち回 った
り,攻 撃的 になった り,卑 屈 になった り,涙 ぐんだ り,抑 うつ的になった り,心 身症状 を示 し
た り,悲 嘆症状 は多彩 である。治療者 は悲嘆 に暮れる息者 とその家族 の側 にい ること。 (2)治
療者が クライエ ン トと面接契約 を結ぶ。その面接契約は,治 療者が 「もしよければ,継 続的に
面接 を継続 させてほ しい」 と言 う契約 である。 (3)クライエ ン トの悲嘆症状 をで きるだけ丁寧
に,克 明に,丹 念 に傾聴 し,そ れを受容す る。 ここでの受容 とは息者 とその家族が,こ の人は
私達 のこの切 なさが分か って くれそ うだと言 う実感 を持 てるような雰囲気 をクライエ ン トが持
てるような関係 を作 ることである。 (4)クライエ ン トの伝 える悲嘆感情 に共感するも共感 して
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癌に罹患した夫 とその妻 との心理面接について
い ることをクライエ ン トに豊かに伝 えるようにする。共感 とは,治 療者が患者 とその家族 の感
情体験 に参加 ・観察が出来るような関係 である。換言すれば,あ たか もその人であるかの よう
な感 じで,そ の人の こ とを考 える。 (5)積極的傾聴 ・受容 ・共感 の面接技法 を活用 して,ク ラ
イエ ン トの心が流れるような関係 (相互交流 の豊かな関係)を 形成す る。 (6)この関係 を患者
が求める間,継 続す る。患者 とその家族 は相互交流 の豊かな関係 を長時間継続す ることで,息
者 とそ の家族 の心 は癒 される ことになる。 (7)クライエ ン トの心 のメカニ ズム に添 って 「
説
明」 を加えて,知 的な理解 を深 めることが必要な場合 もある。本事例 の場合 は息者 とその妻 も
共に健康 な心性 の持 ち主であ り,癒 しの関係 を継続す る ことで,患 者 とその妻 の癒 しに機能す
ることがで きた もの と推察 で きる。
付記 :本研究 は平成 9年 11月8日 -9日 ,名 古屋市国際会議場 で行 われた第21回日本死 の臨床
研究会年次大会で,富 山医科薬科大学医学部看護学科澤田愛子氏 ・久留米大学医学部精神科三
木浩司氏 の両氏 を座長 とし,又 遺族 の了解 を得 て報告 した。両座長 か らの貴重な コメン トを頂
くと共 に,遺 族 の方 の発表会場へ の同席 も頂 いた。 ここに記 して感謝 申 し上 げる。
引 用
文
献
E・ キ ューボラー ・ロス著/川 田正吉訳 1995死 ぬ瞬間一 死 にゆ く人 々 との対話 Pp 65-190読売新聞社
田村里子 1997「 オ ン コロ ジー ソー シャル ワー ク」 柏 木哲 夫 ・石谷 邦彦編 緩 和 医療学 pp 215-221
三輪書店
参 考
文 献
河合千恵子 1991酉己
偶者 を失 う時一 妻 たちの晩秋 ・夫 たちの晩秋 広 済堂
日野原重明 1995老 い と死 の受容 春 秋社
日野原重明 1987Vヽの ちの終末 をどう生 きるか 春 秋社
本家好文 1996が ん と知 るとき伝 えるとき 家 の光協会
柏木哲夫 1997死 にゆ く患者 の心 に聴 く 中 山書店
河合隼雄 1996生 と死 の接点
岩
波書店
池 雅 之 1998胃 癌末期女性 の症例 日 本心理臨床学会第17回大会論文集 pp 328-329
松本晃明他 1998分 裂病者 の ター ミナルケアか ら得 られた もの 日 本心理臨床学会第 17回大会論文集
pp 100-101
― 平成 10年 9月 30日 受 理―
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