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血管疾患に超音波検査を いかに活用するか
特 集 特 特 集 集 11 超音波画像診断 1 超音波画像診断 血管疾患に超音波検査を いかに活用するか 京都大学医学部附属病院 検査診断部 佐藤 洋 はじめに 1)内中膜複合体厚(IMT) (図1) 頸動脈を観察すると、3層からなる血管壁エコ 血管疾患の評価において、超音波検査は有用な ーが観察できる。血管内腔からみて、高エコーの 検査法である。しかしながら、検査範囲は広く実 第1層と低エコーの第2層の部分を内中膜複合体 際の検査では効率のよい検査が求められる。 (intima-media complex;IMC) と称している。また、 本稿では、多岐にわたる血管超音波検査の重要 その厚みを IMT(intima-media thickness)と呼ぶ。 事項と、超音波の新技術を血管検査にいかに応用 正常では 1.0mm を超えることはないとされるが、 できるのか、①頸動脈検査、②閉塞性動脈硬化症 動脈硬化が進行してくると IMT が厚くなること 評価、③深部静脈血栓症評価について述べる。 が知られている。この頸動脈 IMT は、脳梗塞症 例だけでなく、虚血性心疾患や閉塞性動脈硬化症 頸動脈検査 でも肥厚するために、全身の動脈硬化の評価指標 として用いられる。 頸動脈超音波検査は、検診領域、脳血管領域、 2)不安定プラークを評価する(図2) 心臓外科領域など多くの診療科が関心をもち、血 限局性の隆起性病変をプラークと呼んでいる。 管超音波検査の中でも、最も普及している検査で 頸動脈超音波では、体表面からのアプローチでプ ある。 ラークの質的な診断がある程度可能である。なか でも“安定プラーク”と“不安定プラーク”の鑑別 第1層≠内膜 第2層≠中膜 図1 頸動脈 IMT IMT 第3層=外膜 巻頭カラー参照 Vol.38 No.5 601 図2 変化していく頸動脈不安定プラーク 図 2a 図 2b 図 2c 頸動脈に認めるプラーク(a)が1年後(b)にはやや大きくなり、プラーク内部に嚢胞状構 造を伴っている。さらに1年後(c)には潰瘍化していた。 巻頭カラー参照 図3 3次元表示:頸動脈分岐部プラーク例 種々の3次元表示方法が可能となり、血管内腔とプラークの広がりなどがわかりやすい。 巻頭カラー参照 は重要である。 流欠損など、腎機能評価に有用である。 3)3次元で血管を診る(図3) 5)石灰化病変の狭窄度をパルスドプラ法で推定 血流情報も合わせた形での血管の3次元表示 する(図6) が、ワークステーションを使わずに超音波装置内 石灰化病変があると超音波検査では、音響陰影 で容易に可能となってきた。血管の分岐形態やプ により血管狭窄の程度を知ることができない。し ラーク立体的構造など、理解しやすくなった。 かしながら、パルスドプラ法にて石灰化病変直後 4)Advanced dynamic flowを活用する(図4、 の血流をサンプリングして、高速であれば石灰化 図5) 病変は高度狭窄、高速でなければ高度狭窄ではな カラードプラ表示では“Blooming artifact”によ いことが推定できる。頸動脈では、最高流速が り、実際の血管内腔よりも血流シグナルが過大表 2m/sec 以上あれば、外科的治療が必要な狭窄性 示される傾向にあるが、カラードプラとパワード 病変といわれている。 プラの特性を合わせ持った新しい血流表示方法の “Advanced dynamic flow”は“Blooming artifact” が少なく、狭窄性病変の正確な判断が可能となる。 閉塞性動脈硬化症評価 また腎臓では区域動脈、葉間動脈、弓状動脈、小 下肢動脈超音波検査において、下肢動脈の閉塞 葉間動脈まで描出が可能となり、腎梗塞による血 性病変により下肢虚血をきたす閉塞性動脈硬化症 602 2006 年 5 月 特 集 図 4a 1 超音波画像診断 図 4b 巻頭カラー参照 図4 Advanced dynamic flow:内頸動脈高度狭窄例 a:縦断像、b:横断像 カラードプラ表示では“Blooming artifact”により実際の血管内腔よりも血流シ グナルが過大表示される傾向にあるが、カラードプラとパワードプラの特性を合 わせ持った“Advanced dynamic flow”は“Blooming artifact”が少ない。 図 5a 図 5b 図5 Advanced dynamic flow で診る腎臓 a:腎全体像。区域動脈や葉間動脈、弓状動脈が描出されている。 b:腎皮質部分拡大像。葉間動脈から施行してみると、弓状動脈さらには小葉間動脈までもが描出さ れている。 巻頭カラー参照 の評価が検査の大半を占めることになる。検査範 囲が広いために的確な病変範囲の把握には、検査 を始める前の問診、触診など理学的所見を重視し たい。 1)写真を合成して長い縦断像を作る(図7) 超音波検査は、1画面に描出できる範囲が血管 造影等よりも短いために、病変の全体像を第3者 に伝えるテクニックとして、血管の縦断像を合成 していき、長い縦断像を作る工夫も必要と考える。 その際に、パワードプラを併用すると血管造影に 近い像を得ることができる。閉塞や狭窄があれば、 Vol.38 No.5 図6 石灰化病変の狭窄度をパルスドプラ法で推定 する(内頸動脈起始部高度狭窄例) 巻頭カラー参照 603 図 7a 図 7b 巻頭カラー参照 図7 パワードプラ法による大腿動脈縦断像の合成写真 a:開存例、b:浅大腿動脈閉塞例。約8cm の長さにわたり(両矢印)閉塞している。 図 8a 図8 血流波形から閉塞性病変を推定する(左総腸骨動脈閉塞例) a:右総大腿動脈、b:左総大腿動脈 図 8b 巻頭カラー参照 治療方針決定のためにも、病変の長さも同時に評 が存在している。ただし末梢側の閉塞性病変の存 価したい。 在は評価できない。ACT でいえば、150msec 以 2)血流波形から閉塞性病変を推定する(図8) 上であれば、計測部位より中枢側に狭窄性病変の 閉塞性動脈硬化症を B-mode で血管を描出し、 存在を疑う。 パルスドプラで血流波形をみる収縮期の立ち上が 血管狭窄部位の評価:大腿動脈レベルで“post りが急峻で、dicroitic notch が明瞭な、いわゆる stenotic pattern”であれば、腸骨動脈レベルでの 三相性波であれば、中枢側に閉塞性病変はないと 閉塞性病変が考えられる。また大腿動脈レベルで いえる。収縮期立ち上がり時間(ACT)は100msec は三相性波で、膝窩動脈レベルで“post stenotic 程度である。収縮期の立ち上がりのなだらかで、 pattern”であれば、浅大腿動脈レベルでの閉塞性 dicroitic notchが不明瞭な単相性波、 いわゆる “post 病変が疑われる。また血流速は、個人差があるた stenotic pattern”であれば、中枢側に閉塞性病変 めに狭窄性病変が中枢側にあるか否かの判断に 604 2006 年 5 月 特 集 1 超音波画像診断 図 9a 図 9b 図 9c 図9 Panoramic View:探触子の軌跡を長い 連続写真として表現できる a:浅大腿動脈 Stent 留置例 b:膝窩動脈瘤閉塞例 c:下腿浮腫例 巻頭カラー参照 図10a 図10b 図10c 図 10 コンベックス型探触子で下腿を診る(背側アプ ローチ) a:右下腿横断像、健常例。下腿前面の皮膚が描出されている ことから、下腿全体が観察されていることがわかる。 b:右下腿横断像。 c:同縦断像ヒラメ静脈血栓症(慢性期)。拡張したヒラメ静脈 内に器質化した血栓(太矢印)を認める。 巻頭カラー参照 Vol.38 No.5 605 は、左右の同一レベルの血管と比較すると、血流 いることが多く、まず拡張している血管を捜す。 低下の有無の判断がしやすい。検査依頼が、症状 体位は座位がよいが、座位が困難な場合は立膝位 のある肢だけの場合でも、必ず両側をチェックす で行う。探触子による圧迫にて変形せず、血流シ る。 グナルが無い静脈であれば、血栓症の可能性は極 3)Panoramic Viewで血管の縦断像を作る(図9) めて高い。しかし急性血栓では、血栓自体のエコ 探触子を移動させていった画像の軌跡を残すよ ー輝度が低く、探触子の圧迫では血栓が変形して うな描出法で、リアルタイムに任意断面を長く描 しまうこともあるので注意が必要である。深部静 出できる。検者が頭の中でもつイメージを具体化 脈血栓の検索は広範囲のアプローチが必要となる できる新技術である。閉塞性動脈硬化症、動脈瘤、 ために、熟練を要する検査法のひとつである。装 下肢腫張の原因検索など利用価値が高い。 置の条件設定次第では“異常でない(血栓がない) ” にもかかわらず、 “異常像(血栓がある) ”のよう 下肢深部静脈血栓症評価 に見えるリスクを常に持っている。常に、適切な 装置条件での検査が望まれる。 肺血栓塞栓症の、塞栓源としての下肢静脈血栓 の超音波評価が注目されている。なかでも下腿の “ひらめ筋”内の“ひらめ静脈血栓症”は、ほとん まとめ ど下肢症状を示さないにもかかわらず、肺塞栓を 様々な新技術の画像を紹介しながら、血管疾患 きたす例があり、正確かつ時に迅速な診断が求め に対する超音波検査の有用性を述べた。血管超音 られる。 波検査は検査範囲が広く、適切な探触子の選択と 1)コンベックス型探触子で下腿を診る(図10) 条件設定が重要である。同じ部位を観察する場合 下腿静脈の血栓スクリーニングに用いる探触子 でも動脈疾患を評価する場合と、静脈疾患を評価 には、意外にも腹部エコーに用いるコンベックス する場合とでは装置の条件設定も大きく異なる。 型探触子が有効である。背側アプローチによる横 また新しい治療法が登場してくると、それに対応 断走査で、下腿のほぼ全体を描出できるために、 した新しい評価法が必要となってくる。超音波の オリエンテーションがつきやすく、短時間での検 新技術をいかに利用して、診断価値の高い検査と 査が可能である。血栓が存在する血管は拡張して していくか常に努力していきたい。 参 考 文 献 1) 半田伸夫 : 頸動脈エコーによる動脈硬化病変のガイド 査、アーチファクト . Medical Technology 別冊 超音波 ライン(案)脳神経超音波学会.頸動脈エコーガイド エキスパート1. 頸動脈・下肢動静脈超音波検査の進 ライン作成委員会.動脈硬化性疾患のスクリーニング 法に関する研究会. Neurosonology 15: 20-33, 2002 2) 佐藤 洋 : 頸動脈エコー法の撮り方と読み方.Heart View 6: 178-189 増刊号, 2002 3) 佐藤 洋:血管超音波検査における装置設定と基本走 606 め方と評価法 . 19 - 42, 2004 4) 佐藤 洋:末梢動脈疾患を診る 無侵襲診断で診る . Heart View: 1167-1172, 2003 5) 佐藤 洋:超音波 深部静脈 . Vascular Lab 増刊 血管 検査マニュアル : 231-237, 2005 2006 年 5 月