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美術部会

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美術部会
美術科における評価・評定の在り方
Ⅰ
学習評価の進め方について
1
内容のまとまりにおける観点別学習状況の評価の進め方について
(1) 指導と評価の一体化を図る効率的な評価方法
もともと各観点の能力は、教師の適切な指導の下、生徒がそれぞれの学習活動に取り組むプ
ロセスの中で徐々に高まっていくものである。そこで、次の図1のように、学習の進度に合わ
せて段階的に指導と評価を重ね、最終的にすべての生徒をB規準以上にするような方法が考え
られる。もちろん、授業改善のための評価は時期に関わらず日常的に行われるべきだが、まず
は、学習の初期の段階でCの生徒をしっかりと把握し、丁寧に指導していくことが肝要である。
A
評価
評
評価
Aの生徒を把握
B
評価
価
Bへの指導を充実
Cへの指導を重視
C
第1次
第2次
第3次
学 習の 初 期 では 、 C
の生徒 を把 握し 、B と
なるよ うに Cへ の個 別
指導を重視する。
図1
第4次
学 習の 中 期 では 、 全
員をB 以上 にす る。 C
への個 別指 導は 継続 す
る。
第5次
第6次
授業
学 習の 後 期 では 、 B
の中か らA の生 徒を 把
握する 。C がい る場 合
は個別指導を継続す
る。
(2) 評価規準をもとに判断する際の教師の力量を高める
特に美術科のように校内に同一教科の教師が少ない場合は、研究会等を通じて互いに具体例
を持ち寄り、研修していくことが大切である。例えば、教師同士が持ち寄った作品を、評価規
準をもととして「発想や構想の能力」、
「創造的な技能」等を評価してみる。
「~という視点でA
と評価する」
「~ということからBと評価する」など、互いに交流することによって、妥当性・
信頼性のある評価が実現できるようにすることが重要である。
また、題材のねらいを明確にするという意味からも、生徒への評価の観点や観点別評価の規
準を伝えたり、何がどうできればよいかを具体的に説明したりすることも大切である。
(3) 学習指導計画に基づく学習評価
学習指導要領解説美術編では、図2のように各学年において、「A表現」の(1)と(3)及び(2)
と(3)、並びにア、イ、ウの事項、さらには「描く」「つくる」活動がバランスよく学習できる
ように指導計画を作成することが示されている。したがって、3年間を見通して偏りのない学
習指導計画を作成することは、効果的・効率的な評価及び妥当性・信頼性のある評価のために
も重要である。
図2
「A表現」の指導計画の作成例
A表現
学年
(1)の発想や構想と(3)の技能
ア 主題の創出
イ 表現の構想
1
年
描 く
つくる
○
○
○
○
2
年
描 く
つくる
描 く
つくる
○
○
3
年
(2)の発想や構想と(3)の技能
ア 構成や装飾
イ 伝達
ウ 用途や機能
○
○
○
○
○
○
○
○
2
学期末・学年末における観点別評価の総括の方法について
(1) 判断の基準(いわゆるカッティングポイント)について
各学年を通じて、すべての観点の観点別学習状況及び評定について、目標の実現状況が 40%
以上のものを「おおむね満足できる」状況、そのうち 80%以上のものを「十分満足できる」状
況と判断する。
目標の実現状況
判断の基準
「十分満足できる」状況と判断されるもの
「おおむね満足できる」状況と判断されるもの
「努力を要する」状況と判断されるもの
観点別評価
80%~100%
A
40%~79%
B
0%~39%
C
(2) 観点別学習状況の総括における重み付け
美術科においては、
「A表現」で扱う作品制作のように、比較的時間をかける中で、一つの評
価規準をじっくりと評価する場合と、
「B鑑賞」のように、1単位時間の中で評価する場合もあ
る。もちろん、それぞれの関連を図り、一体的に指導していくことが重要であるが、図3のよ
うに長い期間の中では各題材の授業時数によって、評価する観点に重み付けをすることも必要
と考える。また、題材によっては、関心・意欲を高めたり、創造的・独創的な表現に挑戦する
試行錯誤をしたりするプロセスを評価するなど、指導のねらいや評価の観点の特性を踏まえて
総括することが大切である。したがって、学習の途中段階で行った評価、あるいは学習の最終
段階で行った評価に着目して総括する場合も考えられる。いずれの場合においても、重み付け
をする場合は、ねらいの明確化や、生徒の学習状況を適切に把握することが大切である。
①
②
③
④
⑤
観点
表現
表現
鑑賞
表現
鑑賞
関心・意欲・態度
B
題材
総括
例
発想・構想の能力
A
C
B
A
創造的な技能
B
A
B
C
A
A
A
B
B
B
鑑賞の能力
B
B
A
B
A
A
B
B
B
図3
比較的時数の多い題材の評価結果に重み付けをし、学期末に総括する
3
評定への総括の進め方について
(1) 判断の基準(素点を基にしたカッティングポイント)について
目標の実現状況
判断の基準
「十分満足できる」もののうち、特に目標の実現状況が高いと判断されるもの
評定
90%~100%
5
「十分満足できる」状況と判断されるもの
80%~89%
4
「おおむね満足できる」状況と判断されるもの
40%~79%
3
「努力を要する」状況と判断されるもの
10%~39%
2
(2) 評定への総括における各観点の重み付けについて
評価の観点
美術への
関心・意欲・態度
発 想 や構 想 の能 力
創造的な技能
鑑賞の能力
配分(%)
25 /100
25 /100
25 /100
25 /100
「美術の基礎的な能力」とは、関心や意欲などを基に、豊かに発想や構想をし、創造的な技
能を働かせてつくりだす表現の能力と、造形的なよさや美しさ、作者の心情や意図と表現の工
夫などを感じ取り味わうなどの鑑賞の能力であると定義されている。このことから、すべての
観点をバランスよく評価することが重要である。すなわち「A表現」及び「B鑑賞」の活動を
通して、これらの能力の調和的な発達を実現することにより目標が実現されることから、美術
科における重み付けはしないことが妥当である。
Ⅱ
記録に残すための効果的・効率的な評価方法等について
1
美術科における観点別評価方法
授業の過程においては、一人の生徒に対し、ほんの一瞬と言ってよいほどの短時間で直感的に
評価しているのが現実である。しかし、美術科は、できあがった作品類を放課後やその他の時間
に一人一人の生徒の学習の姿を思い出し、自己評価等も参考にしながらじっくりと時間をかけて
評価できる特質も持っている。美術の作品からは、生徒の学びの達成度を様々な観点で推し量る
ことができるとともに、試行錯誤の過程も見取ることができるため、重要な評価方法である。
では、作品を含め美術科ではどのような評価方法が一般化されているだろうか。次の表には様々
な観点に応じた評価方法を例示する。ただし、あくまでも題材のねらいや内容、あるいは生徒の
学習状況等に応じて、効率的な方法を選択したり組み合わせたりしながら評価することが重要で
ある。したがって、次に示すすべての評価法を取り入れる必要はない。また、こうした評価方法
を用いて記録するだけでなく、今後の指導に生かしたり、教師の指導法の改善に生かしたりする
ことも重要である。
※
評 価 方 法(例)
観 観察法
点
授業観察
ここに示す評価方法は一部であり、あくまでも例示である。
評
○
価
の
視
点
座席表等を用いて、授業中の活動状況を記録する。表現の場合、用具の使用
方法や制作のプロセス、巧緻性、試行錯誤の様子等を記録する。また、鑑賞の
Ⅰ
場合、発表、個人やグループ活動での状況、ワークへの記述の様子等を記録す
る。
美
※
授業が評価の記録のみに終始しないよう、観察の観点や場面をあらかじめ設
術
定しておき、要点のみを記録する。また、活動の事実と教師の印象を分別して
へ
おく。また、挙手、発言等を安易に数量的に評価しない。
の
○
制作進度が他より早い場合、より高い目標を再設定したり、新たな課題に取
関
り組んだりしている。また、制作進度が遅い場合、課外での補填を希望する等
心
の自主性について評価する。
・
意 記録法
ワーク
欲
○
ワークシートへの記述のパターンは次の通りである。①自分の考えを記述。
②板書を記述。③級友の発言(板書以外)を記述。④教師の発言(板書以外)
シート
・
を記述。⑤教科書や副読本を記述。①~⑤の組み合わせの記述。ワークの構成
態
にもよるが、上記の分類に基づき、自他の考えや客観的事実を絡めて記述でき
度
ているかを評価する。丁寧さ等は参考程度。
○
作品
作品の課題設定の状況について記録する。高い目標を掲げ、課題解決に物理
的・心理的負荷のある作品制作に取り組んでいる。あるいは、提示された条件
の範囲内で、最大限に工夫を凝らそうとしている。課題設定が個人の適性や能
力に応じているかどうかは他の観点と合わせて評価する。
資料
○
作品制作や鑑賞の参考資料を一定量、収集している。また、ファイリングし
ている等の保管方法も記録する。
グループ
○
活動記録簿
美術鑑賞
グループ学習の様子を掌握するため、活動の様子等を記録係に記録させ、事
後にその様子を推し量る。ただし、参考程度の扱いとする。
○
レポート
美術館での鑑賞をした際、データや感想を記述し、パンフレットや入場券等
と一緒に提出。提出については個人の自主性に委ね、評価の扱いも参考程度と
する。
自己・相互
評価法
ワーク
○
当該題材における個人の意欲や関心等を含めた取り組み状況について、自己
評価させたり、相互評価させたりするなど、個人内評価を取り入れる。
シート
評価カード
観察法
授業観察
○
発想・構想の能力を必要限度、客観視するための視点は次の通りとする。
観 記録法
点
・流暢性(特定の問題を解決するために必要なアイデアの総数を評価)
ワーク
・柔軟性(様々な角度から異なった考えを出すことができる。具体的には、出
シート
Ⅱ
されたアイデアを分類したカテゴリーの数を評価)
アイデア
・独自性(出現頻度が少ないアイデアを評価)
スケッチ
発
・精緻性(アイデアを具現化させるために見通しをもって有効な方法を考慮し
作品
想
テスト法
ている状況を評価)
定期テスト
・
・再定義(他の活用法について見立てることができる状況を評価)
ワーク
構
シート
※
実際には、題材のねらいに応じて、これらの内容の一部を焦点化し、課題と
想
して与える。また、課題外でもよい点があれば賞賛する。
の
能 自己・相互
力 評価法
ワーク
○
シート
当該題材における発想や構想に関する状況について、事前・事後などに自己
評価させたり、相互評価させたりするなど、個人内評価を取り入れる。
評価カード
観 観察法
点
授業観察
○
表現活動の事前に設定した個人の課題や表現意図に従い、次のことが達成で
きているかを評価する。〔共通事項〕
Ⅲ
記録法
・表現意図に応じて、素材や用具を選択・併用して表現しようとしている。
アイデア
・全体と部分のバランスを意識して描写しようとしている。
スケッチ
創
・イメージする色を自由につくろうとしている。
造
・多様な技法から選択・併用して表現しようとしている。
作品
的
・拡大や重複、並置、方向性等の構成要素を自在に扱おうとしている。
な
・制作のプロセスや効率的な手法を理解し、実践しようとしている。
技
・全体的な進度も考慮して制作しようとしている。
能
※
上記の視点は、授業にてより具体化した条件として提示する。特に、これら
の評価を作品完成後だけに行うのでなく、制作過程において行うことが重要で
ある。
テスト法
定期テスト
○
パフォーマンステスト
※
技術や技法、用具等に関する知識・技能。
彫刻刀の扱いやポスターカラーの塗り方などのパフォーマンステストを取り
入れる。
自己・相互
ワークシート
評価法
評価カード
観 観察法
点
授業観察
○
当該題材における制作に関する状況について、事前・過程・事後等に自己評
価させたり、相互評価させたりするなど、個人内評価を取り入れる。
○
座席表等を用いて、発言内容等を記録する。
※
言語表現の巧拙や発言量がそのまま評価に反映されないように配慮すると
Ⅳ
ともに、評価としては、あくまでも参考程度の扱いとする。また、具体的視点
は次の通りとし、それぞれのよさを主体的に受け止められているかを評価する。
鑑
・作者の心情や意図について触れようとしている。
賞
・作品の表現の特徴や個性的表現を発見しようとしている。
の
・複数の作品から共通点や相違点を発見しようとしている。
能
・作品の機能や役割を理解しようとしている。
力
記録法
ワークシート
○
グループ活動記録簿
観点Ⅰ「美術への関心・意欲・態度」の記録法(ワークシート)の視点と同
じ。また、具体的視点は観点Ⅳ「鑑賞の能力」の観察法(授業観察)と同じ。
美術鑑賞レポート
テスト法
定期テスト
自己・相互
ワークシート
評価法
評価カード
○
作品の色や形、構成、素材等に関する知識。
○
作品の技術や技法に関する知識。
○
作品の表現意図に関する知識。
○
当該題材における鑑賞(ものの見方や感じ方)の広がりや深まりに関して、
自己評価させたり、相互評価させたりするなど、個人内評価を取り入れる。
2
「関心・意欲・態度」の内容のまとまりにおける総括について
学力の三要素の一つである「主体的に学習に取り組む態度」は、言うまでもなく、それ自体が
基礎的・基本的な知識・技能の習得や思考力・判断力・表現力等の育成につながるとともに、当
該教科の学習に対する積極的な態度につながっていくなど、他の観点に係る資質や能力の定着に
密接に関係する重要な要素である。したがって内容のまとまり全体を通じて継続的に発揮される
ことが期待される。また、適切な指導によって徐々に高まっていくというプロセスが重要である。
そこで、図4のようにB→C→Aと評価された生徒は、最終的な伸びを考慮しつつも全体の平均
値をとり、Bと評価することが妥当であると考える。
※「評価1~3」は評価した時期の例
A
評価1
総括B
評
評価3
評価2
B
価
C
第1次
図4
3
第2次
第3次
第4次
第5次
第6次
授業
「発想・構想の能力」「創造的な技能」の内容のまとまりにおける総括について
この観点は、
「思考・判断・表現等」に該当するものであり、自分の考えや思い、表したいこと
などを表現するために、どのような材料を使って、どのような色や形、構図で表すとよいかを考
えていることを評価する観点である。それは、身近なものや作品、友達の意見などから新たな表
現を思い付いたりしている様子も含む。この観点の「表現」とは「発想力や構想力」つまり、主
題を生み出す、表現の構想を練るといった思考に直結する表現ととらえることが大切である。
例えば、具体的に言えば、アイデアスケッチを描いたり、自分が作ろうと考えているものを図
や絵で説明したりする活動が考えられる。この観点の生徒の状況を総括するに当たっては、最終
的な結果だけではなく、その過程の中で能力を発揮した段階を評価することが重要である。下の
図5は、内容のまとまりの初期の評価1の段階ではCであったが、評価2では一気にAとなり、
最終的にはBとなっている。この場合、平均値をとってBとするよりも、
「できなかったことがで
きた」という意味で、最も能力を発揮したことを重視しA評価とすることが適切である。
A
総括A
評
評価1
B
評価2
価
評価3
C
図5
第1次
4
第2次
第3次
第4次
第5次
第6次
授業
「鑑賞の能力」の内容のまとまりにおける総括について
鑑賞の能力については、表現活動に比べて全体的な時数が少ないため、内容のまとまりにおい
ては、複数の評価物をまとめて評価することも考えられる。例えば、図6のように同一の題材の
内容をワークシートに2回記述させた場合に、一度にまとめて評価するという方法もある。
A
B
評価2
価
まとめて評価
総括B
評価1
評
C
図6
第1次
第2次
第3次
授業
5
「A表現」及び「B鑑賞」における関心・意欲・態度の評価事例
(1) 題材名
(2) 目
○
「15 歳のわたし
~心の世界を表現しよう~」中学校3年
標
心の世界の表現に関心をもち、自己の内面を深く見つめて考えたこと、夢、想像や感情な
どを造形的な効果を生かして創意工夫して表現するとともに、他者の作品から作者の心情や
意図と創造的な表現の工夫などを感じ取り味わう。
(3) 指導と評価の計画
学習のねらい、学習活動
※「●」は学習のねらい、「◇」は学習活動
( )内の数字は指導時数
1
学習活動における具体の評価規準
観点Ⅰ
観点Ⅱ
観点Ⅳ
課題の把握と発想・構想(3)
ア①
●自分の表現意図に合う材料や用具を用いて心の
世界を表現することを理解し、題材への関心を高
める。
◇参考作品などを鑑賞し、作者の主題、意図と
表現の工夫などについて意見を述べ合う。
観点Ⅰ美術への関心・意欲・態度 ( ア① ア② )
・表現の場面では、心の世界を表現することに関心を
もち、主体的に表現していこうとする意欲や態度を
継続的にみる。最初の1時間は、 ア① に照らして
(C)の生徒のみを記録する。(C)の生徒は、(B)に
なるように指導する。第一次を通して、常に集中し
て学習に取り組むなど、特に顕著な場合のみ(A)を
評価する。【ワークシート・制作の様子】
●自己の内面を見つめ直し、表現する主題を生み
出す。
◇自己の興味、関心、性格、思い出や夢などを
思い浮かべ、表現したい主題を考える。
イ①
●主題を基に構想を練る。
◇主題を基にアイデアスケッチなどにより構想
をまとめる。
イ②
2
観点Ⅲ
指導方法・留意点
※ここでは説明のため、吹き出
しの中に解説を加えて記述。
制作(6)
観点Ⅱ発想や構想の能力 ( イ① イ② )
・イ① では、心の世界などを基に主題を生み
出しているか、(C)のみを記録し(B)にな
るように指導する。(主題を基にどのよう
な構想を練っているかを重視するので、主
題のみの イ① )の段階では、(A)は評価し
ない。)
・イ② は、前半は(C)の生徒のみを記録に取
り、(C)の生徒を(B)になるように指導す
る。(A)の生徒は、制作の後半に評価する。
【アイデアスケッチ・制作途中の作品】
●構想を基に自分の表現意図に合う表現方法を
工夫する。
◇絵の具や粘土、ボール紙など、構想を実現す
るための材料や用具を用いて制作をする。
ア②
ウ①
●構想を練り上げる。
◇制作を進めていく中で、より主題にあったも
のに構想に改善を加えていく。
観点Ⅲ創造的な技能 ( ウ① )
・制作の前半は(C)の生徒のみを記
録し、(B)になるように指導する。
後半(A)の生徒を評価する。
【制作途中の作品】
※形が具体的になっていく中で イ② の構想が更
に練られ、(A)の姿などが見取れるようになる。
3
鑑賞(1)
ア③
●他社の作品から、作者の主題、意図と創造的
な表現の工夫などを感じ取る。
◇お互いの完成作品を鑑賞し、自他の作品につ
いて批評し合う。
エ①
( ア③ )
・視点をもって感じ取ろうと
する態度などをみる。
観点Ⅳ鑑賞の能力 ( エ① )
・主題を表現するための、形
や色彩、材料の工夫などを
感じ取り、根拠に基づいて
自分の考えを述べている
かなどを見取る。
【ワークシート・発言内容】
【鑑賞の様子】
イ②
ウ①
【完成作品からの評価】
※ イ② ウ① については、完成作品から再度評価し、授業内での評価を確認し、必
要に応じて修正する。また、特に発想や構想については、主題の意図や構想の工
夫などを記述したワークシート等を合わせて見取ることも必要である。
Ⅲ
学習意欲の適切な評価方法について
1
「美術科への関心・意欲・態度」等の評価に妥当性・信頼性をもたらすために
特に美術科においては、その学びや成長を評価規準に照らして測定・数値化しにくいという声
が聞かれる。実際に関心・意欲・態度や鑑賞の能力等は、個人の内面的活動が主となるため、学
習活動の表面化した一場面のみをとらえて評価することは困難である。それは、語彙の豊富さや
活発さなど、本来評価すべき能力と異なる力を評価してしまう危険性を内包しているからである。
つまり、美術科の学習においては、生徒一人一人の学習特性や個性に応じて全体的・総括的に評
価すべき要素が数多くあり、安易に数値化しようとすることが必ずしも適切とは言えない。
また、指導と評価の一体化を図ることで、妥当性・信頼性をもたらすことも可能である。例え
ば、一人の考えであっても十人が同じ考えを持てば、限りなく客観的な考えとなるように、個人
の主観も他者との主観を協調させることによってある程度の信頼性を持たせることができる。し
たがって、授業の中で適宜、相互評価の場を設けたり、他の学級の生徒や先輩が制作した参考作
品を提示したり、学習目標に照らし合わせて、「どんな点が優れているか」、「どのような改善
点があるか」などを全体で共有したりする場面を持つことも大切である。その中で、その生徒が
どのような思いをもって主題を設定し、どのような態度で制作に臨んだかを考えることによって、
作品制作や鑑賞への意欲を高める手だてにもなる。
「関心・意欲・態度」について、遠藤友麗(聖徳大学教授、元文部科学省初等中等教育局 視学
官)が「学習指導の要諦と絶対評価の実際」の中で次のように語っている。
「関心・意欲・態度」については,生徒一人一人の個性や学習への取り組み方によってかな
り現れ方が異なる。したがって,「関心・意欲・態度」については,個人内評価の要素も取り
入れ,意欲・態度の伸びや深まりを個に応じてプラス評価していく必要がある。その際,「関
心・意欲・態度」それぞれの特質や発達による重点の置き方などをしっかりと考えて評価規準
の文言を設定していくことが求められる。興味・関心・意欲・態度という内容は一見同じよう
な中味ではあるが,人間の発達や学習への取り組み方によって質的な変化・成長が見られる。
「興味」とは「あれ,何だ?おもしろそうだな!」という感情に裏付けられた「意欲の源とな
る飛びつき」のことであり,学習の可能性の入り口にいる初発の状態で,幼児や小学生低学年
では重要な要素になる。それがきっかけとなり「やってみたい,できるようになりたい」など
という「関心を持つ」レベルになる。また,「意欲」とは「よしやってみよう。ぜひやりたい。
しっかりやろう」という方向性を持った学習心情に支えられて,「自分が積極的に課題に向け
てアクションを起こす」ことであり,小学生中学年では特に大切になる。そして,更に「態度」
とは「目標に向かって苦労してでも創意工夫し困難を乗り越え努力を重ね学び続けていく積極
的,具体的,継続的取組みの姿」「課題や目標のよりよい実現のために自ら様々な態度形成を
していく」などの要素が加わる。小学生高学年から中学生以上に特に形成されてくる価値であ
る。この「苦労があっても我慢と努力をして乗り越えていく過程」があってこそ,
「やったぞ!
できた! 自分はがんばればできるんだ!」という感情を実感し成就・自己実現感や自己有効
感などをもてるようになり,そのことが次の一層高い課題への挑戦意欲につながっていく。そ
の四つ全体に共通して必要なバックボーンは「その活動や学びに没頭して取り組んでいる」と
いう持続的な構えである。したがって,学びに向かう意欲面の評価を行うに当たっては,この
ように,興味・関心・意欲・態度という中味の質的・成長発達的な違いをしっかりとふまえて
評価規準の文言を設定し,一人一人の学びのレベルに合わせながら関心,意欲,態度という三
つの要素の質的違いを適切に評価していくことが求められる。
アンダーライン(本稿執筆者)
このように遠藤は、「関心・意欲・態度」にはそれぞれの特質があり、発達の段階を踏まえ
て、指導・評価することの重要性を語っている。
2
「美術への関心・意欲・態度」における評価規準の設定例
それぞれの学校において、
「評価規準に盛り込むべき事項」を基に、本題材の目標に基づき、
「題
材の評価規準」を設定していく。さらに、
「評価規準の設定例」を基に、指導計画に位置付ける「学
習活動における具体の評価規準」を設定していくとよい。題材により、そのまま転記してよいも
のもあれば、具体的な言葉にしなければならないものもある。
例:「A表現(1)(3)感じ取ったことや考えたことの表現」
①
対象を見つめて感じ取った形や色彩の特徴の美しさなどを表現することに関心をもち、主体
的に主題を生み出そうとしている。
②
想像したことなどを表現することに関心をもち、主体的に主題を生み出そうとしている。
③
主題などを基に主体的に構成を工夫して構想を練ろうとしている。
④
形や色彩などの表し方、材料や用具の生かし方などを主体的に工夫して表現しようとしてい
る。
⑤
3
材料や用具の特性などから制作の順序などを主体的に考え、表現しようとしている。
「美術への関心・意欲・態度」及び「鑑賞の能力」の関連
前述したように、主体的な学習態度は他の観点に係る資質や能力の定着に密接に関係する重要
な要素である。その中でも特に、
「B鑑賞」の学習において「美術への関心・意欲・態度」と「鑑
賞の能力」は共通する要素が含まれている。もともと、どちらも内面的活動が主となるため、そ
の結果を具体的・数量的に評価することが困難であることもある。また、次の表のように、【「B
鑑賞」の評価規準の設定例】を見れば分かるように、
「美術への関心・意欲・態度」と「鑑賞の能
力」は相互に関連していると言えよう。
(1) 第1学年
【「B 鑑賞」の評価規準に盛り込むべき事項】
美術への関心・意欲・態度
美術の創造活動の喜びを味わい,身の回りの造形や美
術作品,美術文化などに関心をもち,主体的によさや
美しさを感じ取ろうとしている。
鑑賞の能力
感性や想像力を働かせて,造形的なよさや美しさ,作
者の心情や意図と表現の工夫,美と機能性の調和,生
活における美術の働きなどを感じ取り見方を広げた
り,美術文化の特性やよさなどに気付いたりしている。
【「B 鑑賞」の評価規準の設定例】
美術への関心・意欲・態度
・造形的なよさや美しさ,作者の心情や意図と表現の
工夫などに関心をもち,主体的に感じ取ろうとして
いる。
・目的や機能と美しさの調和,作者の心遣いや願いな
どに関心をもち,主体的に感じ取ろうとしている。
・自然物や人工物の形や色彩などに関心をもち, 主体
的にそのよさや美しさ,生活の中の美術の働きなど
を感じ取ろうとしている。
・美術の文化遺産や美術文化に関心をもち,主体的に
よさなどを感じ取ろうとしている。
鑑賞の能力
・造形的なよさや美しさ,対象のイメージ,作者の心
情や意図と表現の工夫,主題と表現技法の選択や材
料の生かし方などを感じ取り,自分の思いや考えを
もって味わっている。
・伝える,使うなどの目的や機能と形や色彩などの美
しさの調和,作品全体のイメージ,使う人に対する
作者の心遣い,作品に込められた作者の思いや願い
などを感じ取り,自分の思いや考えをもって味わっ
ている。
・身の回りにある自然物や人工物の形や色彩などから
そのよさや美しさ,生活を美しく豊かにする美術の
働きなどを感じ取り,自分の思いや考えをもって味
わっている。
・身近な地域や日本及び諸外国の美術の文化遺産など
を鑑賞し,そのよさや美しさなどを感じ取り,美術
文化の特性やよさに気付いている。
(2) 第2学年及び第3学年
【「B 鑑賞」の評価規準に盛り込むべき事項】
美術への関心・意欲・態度
美術の創造活動の喜びを味わい,身の回りの造形や美
術作品,生活を美しく豊かにする美術の働きや美術文
化などに関心をもち,主体的に見方や理解を深めよう
としている。
鑑賞の能力
感性や想像力を働かせて,造形的なよさや美しさ,作
者の心情や意図と創造的な表現の工夫,目的や機能と
の調和のとれた洗練された美しさなどを感じ取り味わ
ったり,生活を美しく豊かにする美術の働きや美術文
化などについての理解や見方を深めている。
【「B 鑑賞」の評価規準の設定例】
美術への関心・意欲・態度
鑑賞の能力
・形や色彩などの特徴や印象,本質的なよさや美しさ, ・形や色彩などの特徴や印象などから全体の感じ,本
作者の心情や意図と創造的な表現の工夫などに関
質的なよさや美しさ,作者の心情や意図と創造的な
心をもち,主体的に感じ取ろうとしている。
表現の工夫などを感じ取り,自分の価値意識をもっ
て味わっている。
・目的や機能との調和のとれた洗練された美しさ,つ ・目的や機能との調和のとれた洗練された美しさ,作
くり手の意図や願いなどに関心をもち, 主体的に
品全体のイメージ,つくり手の意図や願いなどを感
感じ取ろうとしている。
じ取り,自分の価値意識をもって味わっている。
・美術作品などに取り入れられている自然のよさなど ・美術作品などに取り入れられている自然の形や色彩,
に関心をもち,主体的に生活を美しく豊かにする美
材料などからよさなどを感じ取り,安らぎや自然と
術の働きについて理解しようとしている。
の共生などの視点から,生活を美しく豊かにする美
術の働きについて理解している。
・自然や身近な環境の中に見られる造形的な美しさな ・自然や身近な環境の中に見られる形や色彩,材料な
どに関心をもち,主体的に生活を美しく豊かにする
どの造形的な美しさなどを感じ取り,安らぎや自然
美術の働きについて理解しようとしている。
との共生などの視点から,生活を美しく豊かにする
美術の働きについて理解している。
・日本の美術の概括的な変遷や作品の特質などに関心 ・日本の美術の概括的な変遷や作品の特質などをとら
をもち,主体的に日本の美術や伝統と文化などを理
え,日本の美術や伝統と文化のよさなどを味わい理
解しようとしている。
解している。
・日本と諸外国の美術や文化の相違と共通性などに関 ・日本と諸外国の美術や文化との相違と共通性に気付
心をもち,主体的に美術文化への理解を深めようと
き,それぞれのよさや美しさなどを味わい,美術を
している。
通した国際理解を深め,美術文化を継承し創造して
いくことの意義を感じている。
このように、
「美術への関心・意欲・態度」と「鑑賞の能力」には、相互連関がうかがえる。し
たがって、鑑賞の学習にて記述したワークシート等からある程度の意欲を見取ることも可能であ
ると考える。
4
鑑賞ワークシートから「美術への関心・意欲・態度」を評価する視点について(実践事例)
(1) 題材名
(2) 目
①
富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」
第2学年及び第3学年
標
神奈川沖浪裏に描かれた静と動等の対比、西洋絵画との対比によって示される造形的な事
実から、表現のよさや工夫を味わい理解している。
②
造形作品との対話によって、葛飾北斎が富嶽三十六景を通して伝えたかったメッセージを
読みとろうとする。
(3) 評価の観点「美術への関心・意欲・態度」
次頁の図7は、ワークシートの設問「北斎が富嶽三十六景で表現したかったこと、語ろうと
したことについて自分の気付きをまとめよう」に対する実際の記述内容である。さらに、それ
らを(2)目標の②に照らし合わせて5つの段階に分けて評価した結果が右端である。
1の段階の生徒は語彙が少ないこともあるが、それ以上に設問「北斎のメッセージ」とは関
連のない記述に留まっている。このことから、
「鑑賞の能力」についてはC評価となる。しかし、
造形的な気付きをもとに「舟に揺られる人々の心情を北斎が描こうとした」ことを伝えようと
している姿が読み取れる。したがって「美術への関心・意欲・態度」をB評価とする。
図7
実際のワークシートへの記述内容
段階
・
記述内容の段階
富士山よりも大きな波、それだけ大きい波で大変だったことを言
いたかった。
・ 一つの富士山でもいろいろな角度から描くことによって印象がま
ったく変わる。
2
・ 小さくも描かず、いきなり見てわかるような大きさでもなく表し
ていてすごく惹かれるものがある。
・ 強い風が吹こうとも、稲妻がきてもびくともしないもの。
・ 対比によって富士の大きさを表している。
3
・ 形の方向性や対比などのいろいろな表現方法を取り入れて、見た
人が小さな富士にも気付くようにしている。
・ 富士を単に画面一杯に描くよりも、富士を小さくし周りに描かれ
たもの との 関係に よっ て富 士の持 つい ろいろ な表 情を 語ろう と し
たのだと思う。
・ 富士山の偉大さや美しさを多くの人に知ってもらおうとしていろ
4
んな仕掛けをしたのだと思う。
・ 富士山はいつもどんな出来事があってもびくともせずにドーンと
出来事を見届けているんだと思う。遠くから、人間の生活を見つめ
ているということを語りたかった。
1
発問と の関 連性が
薄い
表面的な気付きや
個人的な感想に留ま
っている
鑑賞
意欲
C
B
造形上の特徴の記
述に留まっている
B
表現の工夫と表現
意図を結び付けよう
としている
A
主体的な鑑賞の態度がうかが
え、「関心・意欲・態度」が高
まっていると判断できる。
・
いろいろな方法で富士の雄大さや偉大さを強調し、この絵を見た 表現の背後に隠され
人々に「日常の小さな出来事に慌てずに、おおらかに生きろ」と伝 た意図を読みとろう
5
えたかったのだと思う。
としている
・ 北斎は自分自身を富士の姿に映して、人々を温かく見守っている
のだと思う。
A
図8
段階 鑑賞
1
C
2
3
B
4
5
A
生徒の実態
指導の方向性
対象が自分にとって「快」「不快」であるかが判断基準となっており、「快」 何が見 える かを具
でなかった場合に対象への興味・関心が見い出せず、連想が関連のないものへ 体的に示唆すること
飛躍してしまう。見ていても、漠然と眺めるだけに終始することが多い。
が必要と考える。
対象各部の概念的な名称の理解だけに終始してしまう。
「これは木で…」
「こ
それが どの ような
れは目、鼻で…」といったように、見えたものを頭の中のイメージに置き換え 状態にあるかを示唆
て理解し、それ以上詳細に見ることをしていない。対象が何であるかが判断基 する。
準となっている。
対象の特徴を客観的に見出すことができる。対象がどのような状態であるか
対象を さら に分析
を自分の経験や知識の中のイメージと連結させて理解することができる。ただ 的に比較させ的確に
し、ある程度の特徴は見いだせてもそれが表象的な把握に終始し、全体の把握 その特徴を見いだす
へと繋がらない。対象各部の様相からくるイメージが価値基準となっている。 ことを示唆する。
対象の特徴を「部分と部分」、
「全体と部分」あるいは他の対象と対比させる
さらに 多様 な関連
中で的確に把握することができる。また、その対象をさらに理解するために新 から分析し、自己の
たな知識を欲する。分析結果との関連を交えて自己の解釈を展開したり、論理 価値観を築くように
的にイメージを膨らませたりすることができる。
示唆する。
自己の解釈や論理的イメージを新たな知識と照らし合わせ、冷静かつ客観的
他者の 価値 感と比
な価値判断を行うことができる。また、直感的な印象を越え、背後に隠れてい 較するように示唆す
るかもしれない事象を読みとろうと洞察することができる。対象の価値や美に る。
あこがれを抱くようになる。
鑑賞ワークシートの評価結果をもとに、次の鑑賞の学習においては、それぞれの段階の生徒
の指導に生かすことが重要である。
「鑑賞の能力」で見られた図7の各段階の生徒に対し、図8
の「指導の方向性」に記述したように、より深いものの見方や感じ方を示唆することは、
「分か
った」
「できた」という次なる学びへの喜びとなる。その姿を、私たち教師が認め、賞賛すると
き、指導と評価が一体化した学習意欲の適切な評価となると考える。
※参考資料
・遠藤友麗「学習指導の要諦と絶対評価の実際」
・評価規準の作成のための参考資料(中学校)
平成 22 年 11 月 国立教育政策研究所 教育課程研究センター
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