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成果報告書(PDF
財団法人福岡県産業・科学技術振興財団
産 学 官 共 同 研 究 開 発 事 業
研究成果報告書
テロメア蛍光イメージング試薬の開発
テロメア蛍光イメージング試薬の開発
(平成16年度~平成17年度)
目
次
【研究総括】
テロメア蛍光イメージング試薬の開発
・・・・・・1
九州工業大学工学部
教授 竹中 繁織
【研究報告】
1. テロメア DNA 蛍光イメージング試薬の分子設計
・・・・・・7
九州工業大学工学部
2. テロメア DNA 配列特異的 PCR プライマーのデザインと合成
・・・・・・25
株式会社ジーンネット
3. テロメア DNA 配列特異的 PCR 条件検討
・・・・・・26
株式会社ジーンネット
4. テロメア DNA 検査プロトコールの確立
・・・・・・33
九州工業大学工学部
株式会社ジーンネット
【成果実績】
・・・・・・35
研究総括
九州工業大学工学部
1
教授
竹中繁織
はじめに
癌 は 「 心 臓 病 」、「 脳 卒 中 」 と 並 び 、 日 本 人 の 三 大 死 因 の 一 つ で あ る 。 癌 に よ る 死 亡 率 は
年々増加の傾向にある。しかし、近年の医学のめざましい進歩によって早期診断法と治療
が確立しつつある。特に早期の胃癌、大腸癌、子宮癌、乳癌などは早期発見によってほぼ
100 パ ー セ ン ト 完 治 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 し た が っ て 、 癌 の 治 療 に お い て 早 期 発 見 が
重要となっている。そのため、癌の早期発見の手段として腫瘍マーカーを用いた診断が用
い ら れ る 場 合 が あ る 。腫 瘍 マ ー カ ー は 、
「腫瘍細胞が産生する物質または腫瘍の存在に応じ
て非腫瘍細胞が産生する物質であり、その測定が腫瘍の存在を示唆し、臨床診断補助や転
移・再発の早期発見に有用なもの」と定義されており、現在、図1に示すような数多くの
腫瘍マーカーが存在する。例えば、主に大腸癌に対しての腫瘍マーカーである腫瘍胎児性
抗 原 ( CEA) や 、 主 に 肝 臓 癌 に 対 し て の α -フ ェ ト プ ロ テ イ ン ( AFP) な ど が あ る 。 し か し 、
これらの腫瘍マーカーは、癌細胞だけが特別に作り出すのではなく、癌細胞ほどではない
が正常細胞でも作られるため擬陽性を示す場合もある。したがって、いくつかのマーカー
に対して検出を行い、それらの結果を組み合わせて腫瘍の種類を特定するための参考資料
に用いるのが現状である。これらの腫瘍マーカーの検出は、現在いくつもキット化されて
いるが、数日かかることもあり測定時間の短縮などの多くの問題が残っている。
そのような背景において、近年、新たな腫瘍マーカーとなり得るものとしてテロメラー
ゼ と い う も の が 注 目 さ れ て い る 。 こ れ は テ ロ メ ア DNA と い う 染 色 体 の 末 端 に 存 在 す る 配 列
を伸長させる酵素である。この酵素は通常の体細胞ではほとんど見られないが、表1に示
すようにあらゆる腫瘍細胞で高い割合で発現することが知られている
1)
。したがって、患
者のテロメラーゼ活性を調べることにより、これまで早期発見が難しかった癌などの診断
にも有用であると考えられる。
図1.さまざまな腫瘍マーカーの例
1
表1.ヒトがん細胞におけるテロメラーゼ活性
組織
テロメラーゼ活性陽性率
組織
テロメラーゼ活性陽性
率
肺癌
239/284
84%
ウイルムス腫瘍
6/6
100%
非小細胞癌
192/235
82%
網膜芽細胞瘍
17/34
50%
小細胞癌
15/15
100%
脳腫瘍(良性含む)
276/56
49%
7
頭頸部扁平上皮癌
147/180
82%
星膠腫
20/51
39%
食道癌
27/31
87%
異型星膠腫瘍
17/66
26%
胃癌
72/85
85%
多型膠芽腫
157/24
65%
1
2
大腸癌
123/138
89%
乏突起膠腫
33/51
65%
膵癌
41/43
95%
髄膜腫
30/138
22%
肝癌
149/173
86%
神経芽細胞腫
99/105
94%
乳癌
382/444
86%
皮膚扁平上皮癌
15/18
83%
子宮頸癌
53/57
93%
基底細胞癌
73/77
95%
子宮体癌
32/34
94%
メラノーマ
6/7
86%
卵巣癌
51/59
86%
文化型甲状腺癌
93/157
59%
前立腺癌
202/243
83%
未 分 化 型 甲 状 腺 癌 -髄 様 癌
6/7
86%
膀胱癌
172/185
93%
肉腫
10/10
100%
腎癌
159/233
68%
褐色細胞腫(良性含む)
5/26
19%
テロメアとは
テ ロ メ ア と は 、図 2 に 示 す よ う に 真 核
細胞の染色体の末端で見られる配列で、
ヒ ト の 染 色 体 で は 、 TTAGGG 塩 基 の 配 列
が 2~ 3000 回 繰 り 返 さ れ 、染 色 体 末 端 の
安定化に必要であると考えられている。
実 際 、テ ロ メ ア を 欠 く 染 色 体 は 癒 合 や 転
座 を う け る こ と が 知 ら れ て い る 。こ の テ
ロメアは細胞分裂を繰り返すたびに短
く な る た め 、” 命 を 刻 む 時 計 ” と も 言 わ
れ て い る 。 ま た 、 こ の 配 列 は G( グ ア ニ
ン )に 富 ん だ 配 列 を 有 し て い る た め 、in
vitro に お い て 、カ リ ウ ム イ オ ン な ど の
図2.細胞内のテロメアの局在
2
図 3 . G-quartet(左 ) 4 本 鎖 DNA 構 造
塩 存 在 下 で 4 つ の グ ア ニ ン が Hoogsteen 水 素 結 合 す る こ と に よ り 図 3 に 示 す よ う な 4 本 鎖
DNA 構 造 を 形 成 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 た だ し 、 カ リ ウ ム イ オ ン 存 在 下 で の 4 本 鎖 DNA
構造についてはまだ完全には解明されておらず、いくつかの構造が存在していると考えら
れている。図3に示している構造はその中の 1 つを示している。
3
テロメラーゼとテロメアの複製
テ ロ メ ラ ー ゼ は テ ロ メ ア DNA を 伸 長 さ
せる酵素であり、テロメアの反復配列に
相 補 的 な 配 列 を 持 つ 鋳 型 RNA と 逆 転 写 酵
素、その他の制御ユニットからなる複合
体 で あ る 。RNA 要 素 は TERC( Telomeric RNA
Component)、逆 転 写 酵 素 は TERT( Telomere
Reverse Transcriptase) と 呼 ば れ る 。 テ
ロ メ ア DNA の 真 の 末 端 部 分 は 、 一 般 に グ
アニンに富んだ配列が 1 本鎖で突出して
いると考えられているが、テロメラーゼ
図4.テロメラーゼの伸長反応
の鋳型部分にこの真の末端の 1 本鎖部分
が ア ニ ー リ ン グ し た 後 、 残 り の 鋳 型 RNA 上 の 相 補 的 な 繰 り 返 し 配 列 を 鋳 型 に 用 い て 、 テ ロ
メ ア 1 本 鎖 DNA の 3’ 末 端 に 同 様 の 繰 り 返 し 配 列 を 伸 長 さ せ る ( 図 4 )。 1 回 分 の 繰 り 返 し
配 列 が 伸 長 さ れ た 後 は 、 テ ロ メ ラ ー ゼ が 1 回 分 だ け 3’ 末 端 方 向 に ス リ ッ プ し て 、 同 様 の
機 構 に よ っ て 繰 り 返 し 配 列 の 伸 長 を 続 け る 。こ の よ う な elongation-translocation の 機 構
に よ り 、 テ ロ メ ア 末 端 DNA は 、 伸 長 さ れ て い く 。 ま た 、 こ の 酵 素 は 通 常 の 体 細 胞 で は 見 ら
れず、癌細胞のほとんどで発現することが知られている。したがって、現在、このテロメ
ラ ー ゼ 活 性 を 検 出 す る こ と で 癌 診 断 が 行 え る と 考 え ら れ( 図 5 )、さ か ん に 研 究 が な さ れ て
い る 。 そ の 中 で も テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 検 出 法 と し て 一 般 的 に 行 わ れ て い る の が 、 TRAP assay
と呼ばれるものである。
3
正常細胞
がん細胞
テロメア部分は複製できない
テロメラーゼを持つ
細胞分裂によりテロメア
が短縮化する
分裂により短縮したテロメ
アを伸長することができる
やがて細胞死を引き起こ
す (細 胞 に は 寿 命 が あ る )
無限増殖能を獲得する
図5.正常細胞と癌細胞におけるテロメラーゼ活性の違い
4
TRAP(Telomeric Repeat Amplification Protocol) assay
現 在 、テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 の 測 定 法 と し て 広 く 行 わ れ て い る の が 、1994 年 に Kim ら に よ っ
て 報 告 さ れ た TRAP( Telomeric Repeat Amplification Protocol)法
2)
で あ る 。TRAP 法 は 、
テ ロ メ ラ ー ゼ に よ っ て テ ロ メ ア 反 復 配 列 を 付 加 、 伸 長 さ せ る 反 応 と 、 PCR に よ っ て そ の 伸
長産物を増幅する反応、そして最後に電気泳動で判定という 3 ステップよりなっている。
TRAP 法 の 概 略 を 図 6 に 示 し た 。 ま ず 、 細 胞 抽 出 液 を テ ロ メ ラ ー ゼ の 基 質 と な る TS プ ラ イ
マ ー( テ ロ メ ラ ー ゼ 基 質 と PCR フ ォ ワ ー ド プ ラ イ マ ー( FP)を 兼 ね た オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド :
5’ -AATCCGTCGAGCAGAGTT-3’ (18 mer)) と 反 応 さ せ 、 テ ロ メ ア 配 列 を 付 加 さ せ る 。 TS プ ラ
イ マ ー は そ の 3’ 末 端 に テ ロ メ ア 反 復 配 列 類 似 の 配 列 ( AGAGTT) を 持 つ た め 、 テ ロ メ ラ ー
ゼ の よ い 基 質 と な る 。ま た 、テ ロ メ ラ ー ゼ は 酵 素 自 体 が 内 蔵 し て い る RNA 鎖 を 鋳 型 に し て 、
6 塩基の合成と転移を繰り返すことによってテロメアを付加、伸長させるので、酵素によ
る生成物はテロメア反復配列の反復数が異なる 6 塩基ごとのものができる。そして、次に
図 6 . TRAP assay の 概 略 図
4
こ の 伸 長 産 物 を TS プ ラ イ マ ー と テ ロ メ ア 反 復 配 列 に
相 補 的 な 配 列 を も つ CX プ ラ イ マ ー を 用 い て PCR に よ り
増 幅 さ せ る 。 こ の PCR 反 応 で は 、 最 初 の サ イ ク ル の ア
ニ ー リ ン グ の 際 に 、CX プ ラ イ マ ー は 伸 長 産 物 の ラ ン ダ
ムな位置にアニールするため、増幅産物はテロメア反
復配列の反復数が異なった長さのものが増幅される。
そして最後に、増幅産物を電気泳動すると、図7に示
す よ う な 6bp ご と の ラ ダ ー と し て 検 出 で き 、 こ れ よ り
テロメラーゼ活性の有無、強弱を判定することができ
る。
図 7 . TRAP assay に
し か し な が ら 、こ の TRAP assay は 電 気 泳 動 を 行 う た
め 、操 作 が 煩 雑 で 、時 間 が か か る と い う 問 題 点 が あ る 。
5
よ り 得 ら れ た 6bp ご
とのラダー
本研究開発の目的及び概要
上記の問題点を踏まえ本研究では、従来法よりも簡便なテロメラーゼ活性検出法を開発
することを目的とした。手法としては手間と時間を省くために、従来法で行われている電
気泳動を行うかわりに、本研究で新たにテロメア蛍光イメージング試薬を開発し、これを
利 用 し た テ ロ メ ア DNA の 簡 易 検 出 を 達 成 す る も の で あ る 。 検 出 原 理 を 図 8 に 示 し た 。 テ ロ
メ ラ ー ゼ を TS プ ラ イ マ ー に 作 用 さ せ 、テ ロ メ ア DNA 伸 長 反 応 を 行 う 。そ の 後 、A-PCR 反 応
を 行 い 、そ の 伸 長 産 物 を 増 幅 す る 。こ の 増 幅 産 物 に は ヒ ト テ ロ メ ア 配 列 を 有 す る 1 本 鎖 DNA
が 多 く 含 ま れ て い る の で 、こ れ に カ リ ウ ム イ オ ン を 加 え る こ と で 4 本 鎖 構 造 を 形 成 さ せ る 。
そ し て 最 後 に 、 テ ロ メ ア 蛍 光 イ メ ー ジ ン グ 試 薬 ( 4 本 鎖 DNA 構 造 に 対 し て 相 互 作 用 し 、 蛍
光変化を示すようなリガンド)を用いれば、テロメラーゼ活性を検出することができると
考えられる。
本 プ ロ ジ ェ ク ト 前 の 予 備 的 検 討 か ら 著 者 ら が 開 発 し た テ ト ラ ア ク リ ジ ン ペ プ チ ド ( TAP)
が 4 本 鎖 DNA へ の 強 い 結 合 と 蛍 光 増 強 が 示 唆 さ れ て い た 。 そ こ で 当 初 は TAP を 中 心 に 検 討
を加えたが、実サンプルを用いた系ではバックグラウンド蛍光のために実用レベルの蛍光
増 強 は 得 ら れ な か っ た 。 そ こ で フ ル オ レ セ イ ン リ ジ ン ア ク リ ジ ン 誘 導 体 ( FKA) を 合 成 し 、
図8.本研究のテロメラーゼ活性蛍光検出
5
その適用を行った。これらの誘導体も実サンプルへの適用は可能であったものの検出感度
や使用する緩衝液の違いによってその蛍光強度は変化した。そこで、緩衝液の種類に依存
せず大きな蛍光変化を示す試薬の開発を目指してアクリジンオレンジ誘導体について検討
し た 。そ の 結 果 、ビ ス ア ク リ ジ ン オ レ ン ジ( BAO)の 設 計・合 成 に 成 功 し 、こ れ を 利 用 し た
テ ロ メ ア 4 本 鎖 DNA の 蛍 光 検 出 に 成 功 し た 。さ ら に 発 展 さ せ BAO を 利 用 し た 簡 易 TRAP assay
を確立することができた。最終的には、本アッセイ法を発展させプレートリーダーを利用
したハイスループット検査への応用を試みた。テロメア蛍光イメージング試薬の開発が当
初の予定より時間を要したため臨床サンプルへの適用は十分おこなうことができなかった。
今後、臨床データを集めることによって、その有用性を示すことによりキット販売へと展
開する予定である。
参考論文・引用文献
1) 井 出 利 憲 , 檜 山 英 三 , 檜 山 桂 子 , が ん と テ ロ メ ア ・ テ ロ メ ア ー ゼ , 75 (1999).
2) N. W. Kim et al., Science, 266, 2011 (1994).
6
1 . テ ロ メ ア DNA 蛍 光 イ メ ー ジ ン グ 試 薬 の 分 子設 計
九州工業大学工学部
1-1
教授
竹中繁織
プロジェクト全体における本研究開発部分の位置付け
す で に 著 者 ら が 開 発 し た テ ト ラ ア ク リ ジ ン ペ プ チ ド( TAP)ま た は そ の 誘 導 体 に よ っ て 優
れたテロメア蛍光イメージング試薬の開発を行う。
本 試 薬 の 開 発 に よ っ て TRAP assay の 蛍 光 に よ る 簡 易 検 出 が 可 能 に な る と 期 待 さ れ る が 、
そ の 際 に 試 料 中 の 夾 雑 物 、 緩 衝 液 の 変 化 な ど に 影 響 を あ ま り 受 け ず 、 テ ロ メ ア 4 本 鎖 DNA
に結合することによる蛍光増大能の高い試薬を開発することが必要である。これによって
高感度検出が可能になると期待される。
1-2
目的と目標
本 研 究 で は 、す で に 著 者 ら が 開 発 し た テ ト ラ ア ク リ ジ ン ペ プ チ ド( TAP、図 9 )を 利 用 し
た TRAP assay の 蛍 光 検 出 を 検 討 し 、そ こ で 得 ら れ た 結 果 を も と に 、よ り 優 れ た 試 薬 の 開 発
を 行 う こ と を 目 的 と し て い た 。 TAP は 合 成 オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド の テ ロ メ ア DNA 四 本 鎖 構 造
に対して強く結合し、蛍光増強を示すことを明らかにしていたので、当初合成テロメア 4
本 鎖 DNA( オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド ) を 利 用 し た 系 で 成 功 し た TAP を 用 い て 、 テ ロ メ ラ ー ゼ に
よ り 伸 長 反 応 後 の PCR 産 物 の 蛍 光 イ メ ー ジ ン グ を 試 み た が 、 十 分 な 蛍 光 増 大 は 得 ら れ な か
っ た 。 こ れ は 、 PCR 産 物 が オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド の 場 合 と 異 な り 二 本 鎖 DNA 構 造 を 取 っ て お
り、これが解かれて 4 本鎖への構造変化が起こり難いためと考えた。また、試料中の夾雑
物のためにバックグラウンド蛍光が高く、実用レベルで使用するには不十分であった。
そ こ で 、 新 た に TAP を リ ー ド 化 合 物 と し て フ ル オ レ セ イ ン -リ ジ ン -ア ク リ ジ ン ( 以 後 略
号 と し て FKA と 呼 ぶ ) シ リ ー ズ の 試 薬 を 開 発 し た 。 そ の 中 で FKA-5( 図 1 0 ) を 用 い る こ
と に よ り テ ロ メ ラ ー ゼ 伸 長 後 の PCR 産 物 の 蛍 光 イ メ ー ジ ン グ が 達 成 で き た 。蛍 光 強 度 は PCR
産 物 の 長 さ に 影 響 す る こ と が 明 ら か と な っ た の で 、 PCR プ ラ イ マ ー と そ の 反 応 条 件 の 検 討
に よ り 、 検 出 に 最 適 な PCR 産 物 を 得 る 条 件 を 見 出 し た 。 し か し な が ら 、 テ ロ メ ア DNA 存 在
下での蛍光変化がさほど大きくないことや使用する緩衝液による蛍光の若干のぶれなどが
生ずることなどから臨床検査試薬として応用するためには、不十分であった。
CF3COO H
H
N
CF3COO
Cl
N
Cl
H3CO
H3CO
NH
NH
(CH2)4
H3C C N C
C
O H H
O
H H
O
N C
C
(CH2)4
N C
H
(CH2)4
NH3
2
NH2
C
H O
2CF3COO
3
図9.テトラアクリジンペプ
チ ド (TAP)の 構 造
図 1 0 . FKA シ リ ー ズ の 例 と し て の FKA-5
7
最終的に、リジン側鎖による連結方法は同じで、当初のアクリジン骨格上の置換基とそ
の 分 子 内 の 個 数 を 変 化 さ せ た ビ ス ア ク リ ジ ン オ レ ン ジ( BAO)を 用 い る こ と に よ り 、FKA シ
リーズよりも高性能なテロメア蛍光イメージング試薬の開発に成功した。
1-3
実験方法及び実験条件
本 研 究 で は 、FKA シ リ ー ズ の 試 薬 を ペ プ チ ド 合 成 機 に て 種 々 合 成 し た が 、最 終 的 に は BAO
がその中で最も高性能であったので、ここではその合成法について実験結果で述べる。ま
た 、 得 ら れ た 試 薬 に 関 し て 合 成 オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド を 用 い て 、 4 本 鎖 DNA 構 造 に 対 す る 親
和 性 に つ い て 吸 収 ス ペ ク ト ル や 円 二 色 性 ( CD) ス ペ ク ト ル を 用 い た 検 討 を 行 っ た 。
1-4
実験結果
1-4-1
BAO の 合 成
BAO は 、4 つ の リ シ ン か ら 成 る ペ プ チ ド 骨 格 の 両 末 端 リ シ ン 残 基 側 鎖 に 、ア ク リ ジ ン オ レ
ン ジ を 導 入 し た 構 造 を 有 し て い る 。そ の 合 成 と し て は 、ま ず 、色 素 部 分 で あ る 9-(methylmercapto)acridine の 合 成 を 行 っ た 。 そ の 後 、 ペ プ チ ド 骨 格 を 合 成 し 、 そ れ に 対 し て ア ク
リジンオレンジを修飾した。以下にその合成スキームを示す。
Step 1. Synthesis of 9-(methylmercapto)-acridine
S
S
N
N
N
EtONa
N
220~230℃
N
H
N
S
CH3I
EtOH
N
N
2
1
CH3
N
3
Step 2. peptide elongation
linker
Fmoc
Fmoc-Lys(Mtt)-OH
Fmoc-Lys(Boc)-OH
linker
Lys(Mtt)
Lys(Boc)2 Lys(Mtt)
5
4
(CH3CO)2O
5
linker
Lys(Mtt)
Lys(Boc)2 Lys(Mtt) NHAc
Acetylation
6
3
linker
6
Lys(AO)
50℃
Lys(Boc)2 Lys(AO)
NHAc
7
Step 3. Cleavage and purification
N
CF3COOH
HPLC
Cleavage
purification
H
N
NH
(CH2)4
H3C C N C C
O H H O
7
N
H
N
N
NH
(CH2)4
N C C NH2
H H O
H H O
N C C
(CH2)4
NH3
2
Bis-acridine orange (BAO)
8
N
NH2
1-4-1-1
Acridinethione(AO_S)の 合 成
75% Acridine Orange( AO) 7.32g( 0.7mmol) と 98% 硫 黄 0.80g( 24.5mmol) を 50ml ナ
ス フ ラ ス コ に 入 れ 、よ く か き 混 ぜ た 。そ し て ス パ ー テ ル で 混 合 物 を か き 混 ぜ な が ら 、220℃
の オ イ ル バ ス で 加 熱 攪 拌 し た 。 3.5 時 間 後 、 ナ ス フ ラ ス コ を オ イ ル バ ス か ら 取 り 出 し 、 室
温 で 冷 却 し た 。次 に 反 応 物 を 取 り 出 し 、そ れ を 加 熱 し な が ら 少 量 の ピ リ ジ ン に 溶 解 さ せ た 。
その後、吸引濾過を行い、残渣をアセトンで洗浄し、再び吸引濾過を行った。そして最後
に 減 圧 乾 燥 す る こ と に よ り 赤 褐 色 結 晶( 収 量 :3.50g、収 率 : 57%)を 得 た 。融 点 : 300℃ 以
上 。 1 H-NMR 測 定 と MALDI TOF MASS 測 定 を 行 い 、 目 的 物 の 同 定 を 行 っ た 。 な お 、 MALDI TOF
MASS 測 定 に つ い て は 、 マ ト リ ッ ク ス と し て α -CHCA を 、 溶 媒 に メ タ ノ ー ル を 用 い た 。
c
S
MALDI TOF MASS 測 定
d
理論値
(H3C)2N
e
b
N
H
N(CH3)2
測定結果
[M+H] + = 298.433
m/z = 299.37
a
1
H-NMR( 400MHz DMSO 基 準 :TMS)
δ 値 (ppm)
帰属
分裂
積分比
3.1
e
s
13.7H / 12H
6.4
b
d
2.0H / 2H
6.9
d
d
2.1H / 2H
8.6
c
s
2.0H / 2H
11.7
a
s
0.7H / 1H
1-4-1-2
9-(methylmercapto)-acridine( AO_SMe) の 合 成
AO_S 3.39g( 11.4mmol) に C 2 H 5 ONa 0.94g( 13.8mmol) エ タ ノ ー ル 溶 液 43ml を 加 え 、 1.5
時 間 加 熱 還 流 し た 。 そ の 後 、 50℃ ま で 冷 却 し 、 次 に CH 3 I 1.87g( 13.2mmol) エ タ ノ ー ル 溶
液 7.3ml を 1 時 間 か け て 滴 下 し た 。引 き 続 き 、20 時 間 攪 拌 後 、不 溶 物 を 吸 引 濾 過 し 、ろ 液
に 活 性 炭 を 加 え て 攪 拌 し 、30 分 間 放 置 し た 。そ し て 、吸 引 濾 過 で 活 性 炭 を 取 り 除 い た 。そ
の後ろ液を沸騰させて、これに熱水を適量加えた。それを室温に戻してから一晩冷蔵庫で
保存し、再結晶させた。そして吸引濾過を行い、結晶を減圧乾燥して赤色針状晶(収量:
1.85g、 収 率 : 52%) を 得 た 。 融 点 : 122.5〜 125℃ 。 1 H-NMR 測 定 と MALDI TOF MASS 測 定 よ
り 、 AO_SMe の 同 定 を 行 っ た の で そ の 結 果 を 以 下 に 示 す 。 な お 、 MALDI TOF MASS 測 定 に つ い
て は 、 溶 媒 に エ タ ノ ー ル 、 マ ト リ ッ ク ス に α -CHCA を 用 い た 。
9
c
b
S
a
CH3
e
N
1
H-NMR(400 MHz
CDCl 3
N
N
d
基 準 TMS)
δ 値 (ppm)
帰属
分裂
積分比
2.5
a
s
2.5 H / 3 H
3.2
e
s
12.0 H / 12 H
7.1
d
s
1.2 H / 2 H
7.2
c
d
1.8 H / 2 H
8.5
b
d
1.7 H / 2 H
100
MALDI TOF MASS 測 定
313.57
理 論 値 : [M+H] + = 312.459
% Intensity
80
測 定 結 果 : m/z = 313.57
60
40
20
0
100
150
200
250
300
350
400
450
500
Mass (m/z)
1-4-1-3
Resin-linker-Lys(Mtt)-Lys(Boc)-Lys(Boc)-Lys(Mtt)-NHAc の 合 成
ペ プ チ ド 合 成 機 を 利 用 し て Resin-linker-Lys(Mtt)-Lys(Boc)-Lys(Boc)-Lys(Mtt)-NH 2
を合成し、その後手動でそのアセチル化を行った。合成スキームを以下に示す。
Fmoc-Lys(Mtt)-OH
Fmoc-Lys(Boc)-OH
linker Fmoc
linker
Lys(Mtt) Lys(Boc)2 Lys(Mtt)
NH2
(CH3CO)2O
linker
Lys(Mtt) Lys(Boc)2 Lys(Mtt) NHAc
Acetylation
a) Resin-linker-Lys(Mtt)-Lys(Boc) 2 -Lys(Mtt)-NH 2 の 合 成
リ ア ク シ ョ ン ベ ッ セ ル に Fmoc-NH-SAL Resin 400mg( 0.62mmol/g) を 入 れ た 。 そ し て カ
ー ト リ ッ ジ 1、 4 番 目 に Fmoc-Lys(Mtt)-OH 620mg( 4eq) を 、 カ ー ト リ ッ ジ 2、 3 番 目 に
10
Fmoc-Lys(Boc)-OH 460mg ( 4eq)を 入 れ 、Applied Biosystems 社 の 433A peptide synthesizer
によりアミノ酸の伸長反応を行った。合成終了後、生成物はデシケーター内で減圧乾燥し
た。
性 状 : 白 色 粉 末 、 収 量 : 820 mg
b) Resin-linker-Lys(Mtt)-Lys(Boc) 2 -Lys(Mtt)-NH 2 の ア セ チ ル 化
ま ず 、反 応 容 器 に resin 820mg を 入 れ 、適 量 の ク ロ ロ ホ ル ム で 洗 浄 し た 。次 に そ れ に NMP
4ml、 無 水 酢 酸 0.1ml、 ト リ エ チ ル ア ミ ン 0.15ml を 加 え 、 1 時 間 攪 拌 し た 。 そ し て 最 後 に
再 び 適 量 の ク ロ ロ ホ ル ム で 洗 浄 し た 。そ の 後 カ イ ザ ー テ ス ト( 0.5% ニ ン ヒ ド リ ン /n-BuOH)
を 行 い 、 resin に 呈 色 が 見 ら れ な か っ た の で ア セ チ ル 化 が 行 え た こ と を 確 認 し た 。
1 - 4 - 1 - 4 . Bis-acridine orange( BAO) の 合 成
こ の 合 成 は ま ず 、 Mtt 基 の 脱 保 護 、 そ の 後 3.6-ジ メ チ ル ア ミ ノ ア ク リ ジ ン の 修 飾 、 最 後
に resin か ら の 切 り 出 し と Boc 基 の 脱 保 護 と い う 3 段 階 よ り 成 っ て い る 。 合 成 ス キ ー ム を
以下に示す。
AO_SMe
linker Lys(Mtt) Lys(Boc)2 Lys(Mtt) NHAc
linker Lys(AO) Lys(Boc)2 Lys(AO) NHAc
50℃
N
CF3COOH
Cleavage
HPLC
purification
H
N
NH
(CH2)4
H3C C N C C
OHHO
N
H
N
N
N
NH
(CH2)4
N C C NH2
H HO
H HO
N CC
(CH2)4
NH3
2
Bis-acridine orange (BAO)
a) Resin-linker-Lys(AO)-Lys(Boc)-Lys(Boc)-Lys(AO)-NHAc の 合 成
Step 1
Mtt 基 の 脱 保 護
褐 色 ビ ン に peptide resin 320mg( 0.124mmol)を 入 れ 、こ れ に 過 剰 の ジ ク ロ ロ メ タ ン( DCM)
を 加 え 、 1 時 間 か け て 膨 潤 さ せ た 。 そ の 後 、 DCM を 窒 素 ガ ス で 除 去 し た 。 次 に 20ml の ク リ
ー ベ ッ ジ カ ク テ ル ( DCM:TFA:TIS=94:1:5)を 加 え て 30 分 間 攪 拌 し 、 吸 引 濾 過 を 行 っ た 。 そ
の 後 、DCM、TEA、DCM で 洗 浄 し 、カ イ ザ ー テ ス ト を 行 い 、resin に 呈 色 が 見 ら れ た の で Mtt
基の脱保護が行えたことを確認した。そして最後に減圧乾燥した。
Step 2
3.6-ジ メ チ ル ア ミ ノ ア ク リ ジ ン の 修 飾
ま ず 、 褐 色 ビ ン に peptide resin を 入 れ 、 こ れ に NMP 16ml を 加 え て 1 時 間 攪 拌 し て 膨 潤
さ せ た 。 そ の 後 TEA 0.16ml を 加 え て 攪 拌 し 、 さ ら に AO_SMe 200mg( 5eq) を 加 え 50℃ で 攪
拌 し た 。24 時 間 後 、吸 引 濾 過 を 行 い 、resin を DCM、TEA、DCM、TEA で 洗 浄 し た 。こ こ で カ
イ ザ ー テ ス ト を 行 っ た が 、 resin に 呈 色 が 見 ら れ 、 ま だ 反 応 が 完 了 し て い な か っ た 。 そ こ
で 前 の 操 作 と 同 様 、 peptide resin に NMP 16ml を 加 え て 1 時 間 攪 拌 し て 膨 潤 さ せ た 。 そ の
11
後 、 TEA 0.16ml を 加 え て 攪 拌 し 、 さ ら に AO_SMe 200mg( 5eq) を 加 え 、 50℃ で 攪 拌 し た 。
49 時 間 後 、吸 引 濾 過 を 行 い 、resin を DCM、TEA、DCM、TEA で 洗 浄 し た 。そ し て カ イ ザ ー テ
ス ト を 行 っ た が 、 ま だ resin に 呈 色 が 見 ら れ 、 反 応 が 完 了 し て い な か っ た 。 そ こ で 再 び 前
の 操 作 と 同 様 、 peptide resin に NMP 16ml を 加 え て 1 時 間 攪 拌 し て 膨 潤 さ せ た 。 そ の 後 、
TEA 0.16ml を 加 え て 攪 拌 し 、 さ ら に AO_SMe 390mg( 10eq) を 加 え 、 50℃ で 攪 拌 し た 。 66
時 間 後 、 吸 引 濾 過 を 行 い 、resin を DCM、TEA、DCM、TEA で 洗 浄 し た 。そ し て カ イ ザ ー テ ス
ト を 行 っ た と こ ろ 、 resin に 呈 色 が 見 ら れ な か っ た の で 、 反 応 が 完 了 し た こ と を 確 認 し 、
減圧乾燥を行った。
性 状 : 紫 色 固 体 、 収 量 : 約 0.25g
b) Resin か ら の 切 り 出 し 及 び 側 鎖 の 脱 保 護
丸 底 ス ピ ッ ツ 管 に peptide resin 0.25g を 入 れ 、 こ れ に 4ml の ク リ ー ベ ッ ジ カ ク テ ル
( TFA:m-cresol:thioanisole=92.5:2.5:5)を 加 え て 室 温 で 3 時 間 攪 拌 し た 。そ の 後 、吸 引
濾 過 を 行 い 、resin を TFA で 洗 浄 し た 。氷 浴 中 で そ の ろ 液 を 30ml の ジ エ チ ル エ ー テ ル に 加
え て 10 分 間 放 置 し 、 そ の 後 遠 心 分 離 機 ( 10 min、 25℃ 、 5000rpm) に か け 、 上 澄 み 液 を 取
り除いた。次に酢酸エチルを加えて超音波処理後、遠心分離機にかけ、上澄み液を取り除
い た 。 そ し て 最 後 に ジ エ チ ル エ ー テ ル で 洗 浄 し 、 減 圧 乾 燥 し た 。 そ の 後 、 MALDI TOF MASS
測 定 を 行 い 、 目 的 物 の 同 定 を 行 っ た 。 な お 、 マ ト リ ッ ク ス に は α -CHCA を 用 い た 。
性 状 : 褐 色 粉 末 、 収 量 : 約 5mg
100
1101.65
% Intensity
80
MALDI TOF MASS 測 定
理論値
60
測定結果
[M+H] + = 1100.33
m/z = 1101.65
40
20
0
500
1000
1500
2000
Mass (m/z)
上 記 の MALDI TOF MASS 測 定 結 果 か ら 目 的 物 で あ る BAO に 由 来 す る ピ ー ク が 見 ら れ る の で 、
BAO を 合 成 で き た こ と を 確 認 で き た 。 純 度 チ ェ ッ ク の た め に HPLC 測 定 を 行 っ た 。
《 HPLC 測 定 》
生 成 物 を 超 純 水 に 溶 解 さ せ 、 HPLC 測 定 を 行 っ た 。 測 定 条 件 は 以 下 に 示 す 。
12
[測定条件]
グラジエント条件
0
50
60
65(min)
A液
95
0
95
95(%)
B液
5
100
5
5(%)
溶 離 液 A: 0.1% TFA 水 溶 液
溶 離 液 B: 70% ア セ ト ニ ト リ ル /0.1% TFA 水 溶 液
カ ラ ム : Inertsil ODS-3
2
100
試料注入溶媒:超純水
流 速 : 1ml/min
80
1.5
A.U.
60
1
40
0.5
Bのグラジエント条件
検 出 波 長 : 410nm
20
0
0
0
8
16
24
32
40
48
56
64
R.T. / min
上 記 の HPLC の ク ロ マ ト グ ラ ム よ り 、2 つ の 大 き な ピ ー ク が 見 ら れ た 。し た が っ て 、HPLC
による精製を行うことにした。
1-4-1-5
HPLC に よ る 精 製
生 成 物 を 超 純 水 に 溶 解 さ せ 、 HPLC 測 定 を 行 っ た 。 測 定 条 件 は 以 下 に 示 す 。
[測定条件]
グラジエント条件
0
15
20
25(min)
A液
70
40
70
70(%)
B液
30
60
30
30(%)
溶 離 液 A: 0.1% TFA 水 溶 液
溶 離 液 B: 70% ア セ ト ニ ト リ ル /0.1% TFA 水 溶 液
カ ラ ム : Inertsil ODS-3
試料注入溶媒:超純水
流 速 : 1ml/min
検 出 波 長 : 410nm
13
After purification
Before purification
4
60
5
55
4
A.U.
2
40
1
3
45
2
40
1
35
35
0
0
30
0
5
10
15
20
30
0
25
Bのグラジエント条件
45
55
50
Bのグラジエント条件
50
3
60
A.U.
5
5
10
15
20
25
R.T. / min
R.T. (min)
【考察】
上 記 の HPLC チ ャ ー ト は 、左 が 精 製 前 の 、右 が 精 製 後 の ク ロ マ ト グ ラ ム で あ る 。R.T.=12min
付 近 の ピ ー ク を 分 取 し た 。 分 取 後 の ク ロ マ ト グ ラ ム を 見 る と 、 R.T.=7min 付 近 の ピ ー ク は
なくなり、1 本だけのピークが見られるので、純度よく目的物を得ることが出来たと考え
ら れ る 。 HPLC 精 製 後 、 MALDI TOF MASS 測 定 に よ り 目 的 物 の 同 定 を 行 っ た の で 、 そ の 結 果 を
以 下 に 示 す 。 な お 、 マ ト リ ッ ク ス は α -CHCA を 用 い た 。
100
1100.91
MALDI TOF MASS 測 定
% Intensity
80
理論値
測定結果
[M+H] + = 1100.33
m/z = 1100.91
60
40
20
0
500
1000
1500
2000
Mass (m/z)
【考察】
MALDI TOF MASS 測 定 の 結 果 よ り 、 目 的 物 で あ る BAO に 由 来 す る ピ ー ク が 1 ピ ー ク で 見 ら
れ る の で 、 HPLC 測 定 に よ る 精 製 が う ま く 行 え た こ と が わ か る 。
1-4-2
BAO の 特 性
本 研 究 で は 、 塩 存 在 で 4 本 鎖 DNA 構 造 を 形 成 す る テ ロ メ ア DNA の 蛍 光 検 出 を 目 的 と し て
い る 。 し た が っ て 、 溶 液 中 で の BAO の 基 本 的 特 性 を 調 べ る こ と は 、 テ ロ メ ア 蛍 光 検 出 の 条
件 設 定 を 行 う 上 で 大 変 重 要 で あ る 。 そ こ で 、 以 下 に 示 す よ う に BAO の 基 本 的 な 特 性 に つ い
て検討した。
14
1-4-2-1
モル吸光係数の算出
化合物の分光学的性質の中で最も基本的な物性の 1 つがモル吸光係数である。これはあ
る波長で化合物が持つ吸収に関する光学的パラメータである。このモル吸光係数は以下に
示 す よ う な Lambert-Beer の 法 則 に よ り 算 出 で き る 。
【実験操作】
BAO 0.0014g を 超 純 水 424µl に 溶 解 さ せ 、 3.00mM ス ト ッ ク 溶 液 を 調 製 し た 。 こ れ を 適 量
ずつセルに加えていき、各濃度における吸光度を測定し、それよりモル吸光係数を算出し
た。
《吸収スペクトル測定》
[測定条件]
buffer: 10mM Tris-HCl( pH 7.40)、 [KCl]=150mM、 測 定 温 度 : 25℃
0.5
0.35
y = 0.01413 + 0.031351x R= 0.99993
Absorbance at 416 nm
Absorbance
0.4
0.3
BAO
0.2
0.1
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0
200
250
300
350
400
450
500
550
2
4
6
8
10
12
[BAO] / µM
Wavelength / nm
図 1 1 .BAO の 吸 収 ス ペ ク ト ル 変 化( 左 )と 検 量 線( 右 )
【結果】
3.00mM の ス ト ッ ク 溶 液 を 2µl か ら 1µl ず つ 添 加 し て い き 、濃 度 を 変 化 さ せ て い っ た と き
の 吸 収 ス ペ ク ト ル が 図 1 1 の 左 図 で あ る 。 そ の ス ペ ク ト ル よ り 、 416 nm に お け る 吸 光 度 を
セ ル 中 の BAO の 濃 度 に 対 し て プ ロ ッ ト し た 検 量 線 が 図 1 1 の 右 図 で あ る 。Lambert-Beer の
法 則 よ り 、検 量 線 の 傾 き が モ ル 吸 光 係 数 と な る 。こ れ よ り BAO の モ ル 吸 光 係 数 を 算 出 し た 。
そ の 結 果 ε416
nm
=31400cm - 1 M - 1 と な っ た 。
1-4-2-2
KCl 添 加 に 伴 う BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル 変 化
実 際 に テ ロ メ ア DNA の 蛍 光 検 出 を 行 う 際 に は 、 テ ロ メ ア DNA が 4 本 鎖 DNA 構 造 を 形 成 す
る よ う に KCl 存 在 下 で 行 う 。 そ こ で KCl 添 加 に 伴 い 、 BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル に ど の よ う な
変化が生じるのか測定した。
15
[測 定 条 件 ]
buffer: 10 mM Tris-HCl( pH 7.40)、 [BAO]=4µM
装 置 : Perkin-Elmer LS-55 Luminescence Spectrometer、 λ e x =429nm
Slit width EX/EM=5nm/5nm、 測 定 温 度 : 25℃
70
0 mM
Fluorescence Intensity
60
KCl
400 mM
50
40
30
20
10
0
450
500
550
600
650
Wavelength / nm
図 1 2 . KCl 添 加 に 伴 う BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル 変 化
【考察】
図 1 2 の 結 果 よ り 、 KCl の 添 加 に 伴 っ て BAO の 蛍 光 強 度 は 減 少 し た 。 こ の 原 因 と し て は
KCl の 濃 度 が 高 濃 度 で あ る た め 、 塩 が 強 く 水 和 し 、 疎 水 的 な ア ク リ ジ ン オ レ ン ジ の 環 同 士
が stacking し た た め で は な い か と 考 え ら れ る 。
1-4-2-3
pH 値 変 化 に 伴 う BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル 変 化
BAO は あ る 条 件 下 で は リ シ ン の 側 鎖 の ア ミ ノ 基 と ア ク リ ジ ン オ レ ン ジ 部 分 の 10 位 の 窒 素
が プ ロ ト ン 化 さ れ る た め 、蛍 光 ス ペ ク ト ル 測 定 に お い て BAO の 蛍 光 強 度 は pH の 影 響 を 受 け
る と 推 測 さ れ る 。 し た が っ て 、 10mM MES/1mM EDTA-2Na( pH 5.65、 6.25、 6.65) と い う 条
件 で BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル 測 定 を 行 っ た 。 以 下 に そ の 結 果 を 示 す 。
[測 定 条 件 ]
buffer: 10mM MES/1mM EDTA-2Na( pH 5.65、 6.25、 6.65)、 [BAO]=4µM
装 置 : Perkin-Elmer LS-55 Luminescence Spectrometer、 λ e x =429nm
Slit width EX/EM=5nm/5nm、 測 定 温 度 : 25℃
【考察】
図 1 3 の 結 果 よ り 、 pH 値 に よ る BAO の 蛍 光 強 度 は pH 6.25 と い う 条 件 で や や 高 く な っ た
も の の 、ほ と ん ど 蛍 光 強 度 に 差 は 見 ら れ な か っ た 。予 想 と し て は pH 値 を 下 げ る こ と で ア ク
リ ジ ン オ レ ン ジ 部 分 の 10 位 の 窒 素 が プ ロ ト ン 化 さ れ て 、静 電 反 発 が 強 ま り 、ア ク リ ジ ン オ
16
80
70
60
50
40
30
20
10
0
5.65
6.25
6.65
pH
図 1 3 . pH 値 に よ る BAO の 蛍 光 強 度
レ ン ジ 同 士 が stacking せ ず 、蛍 光 強 度 は 大 き く な る と 考 え て い た 。し か し 、結 果 は 異 な る
も の で あ っ た 。 こ の 原 因 は 10 位 の 窒 素 の pK a が 約 5.3 で あ る た め 、 今 回 の pH の 範 囲 で は
ほとんどプロトン化されないため、蛍光強度に差が見られなかったのではないかと考えら
れる。
1-4-3
BAO と 合 成 telomere DNA の 相 互 作 用 解 析
図 1 4 に 示 し た よ う に ま ず 基 礎 検 討 と し て 、 K + な ど の 特 定 の 塩 存 在 下 で 4 本 鎖 DNA 構 造
を形成することが知られているヒトテロメア配列を有するオリゴヌクレオチドを用いて
BAO と の 結 合 評 価 を 行 っ た 。
用 い た オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド の 配 列 : 5’ - TTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGG - 3’
図14.本研究の概要
1-4-3-1
CD ス ペ ク ト ル 測 定 に よ る 合 成 telomere DNA の 構 造 評 価
G-rich な 配 列 を 有 す る telomere DNA は 、 K + 存 在 下 で 分 子 内 4 本 鎖 構 造 を 形 成 す る 。 ど
の 程 度 の 塩 濃 度 で 4 本 鎖 構 造 を 形 成 す る の か を 把 握 す る た め に 、 KCl を 添 加 し な が ら 合 成
telomere DNA の CD ス ペ ク ト ル 測 定 を 行 っ た 。 以 下 の 図 1 5 に そ の 結 果 を 示 す 。
17
[測 定 条 件 ]
buffer: 10mM Tris-HCl( pH 7.40)、 [telomere DNA]=4µM
装 置 : J-820 Spectropolarimeter、 感 度 : 100mdeg、 走 査 速 度 : 10nm/min
レ ス ポ ン ス : 8msec、 デ ー タ 間 隔 : 0.2nm、 バ ン ド 幅 : 2nm、 積 算 回 数 : 1 回
測 定 温 度 : 25℃
8 10
4
6 10
4
4 10
4
2 10
4
KCl
2
[q] / deg cm dmol
-1
21.9 mM
0 mM
0
-2 10
4
-4 10 4
200
250
300
350
Wavelength / nm
図 1 5 . KCl の 添 加 に 伴 う 合 成 telomere DNA の CD ス ペ ク ト ル 変 化
【結果と考察】
図 1 5 よ り 、 KCl を 添 加 し て い な い 状 態 で の telomere DNA の CD ス ペ ク ト ル は 、 285nm
に negative band、 260nm に positive band、 240nm に negative band を 有 し て い る 。 こ れ
は 1 本 鎖 DNA に 特 徴 的 な ス ペ ク ト ル で あ る 。 KCl の 添 加 に 伴 い 、 ス ペ ク ト ル は 295nm に
positive band、240nm に negative band を 有 し た ス ペ ク ト ル 変 化 が 観 察 さ れ 、telomere DNA
が 分 子 内 4 本 鎖 構 造 を 形 成 し て い る こ と が 確 認 で き た 。 ま た 、 4µM telomere DNA は 約 22mM
の KCl の 添 加 で 飽 和 に 達 す る こ と が わ か っ た の で 、 以 後 の 測 定 は こ れ ら の 数 値 を 参 考 に 行
うことにする。
1-4-3-2
吸 収 ス ペ ク ト ル 測 定 に よ る BAO と 合 成 telomere DNA の 結 合 評 価
BAO と 4 本 鎖 DNA 構 造 と の 結 合 評 価 を 行 う 上 で 、 ま ず 始 め に 吸 収 ス ペ ク ト ル 測 定 を 行 っ
た。その結果を以下の図16に示した。
[測 定 条 件 ]
buffer: 10mM Tris-HCl( pH 7.40)、 [KCl]=150mM、 [BAO]=5µM
装 置 : Hitachi U-3310 spectrometer、 測 定 温 度 : 25℃
18
0.25
0.21
0.2
Absorbance
Absorbance
0.2
0.15
0.1
0.05
0
0.19
0.18
0.17
0.16
350
400
450
500
0.15
550
0
5
Wavelength / nm
10
15
20
[DNA] / µM
図 1 6 . 合 成 telomere DNA 添 加 に 伴 う BAO の 吸 収 ス ペ ク ト ル 変 化
【結果と考察】
図 1 6 の 結 果 よ り 、 BAO に 対 し て 合 成 telomere DNA を 添 加 し て い っ た と こ ろ 、 BAO の 吸
収 極 大 に お い て 淡 色 効 果 と 若 干 の red shift が 観 察 さ れ た 。 そ の 後 、 さ ら に 添 加 し て い っ
た と こ ろ 、 濃 色 効 果 と red shift が 観 察 さ れ た 。 こ の こ と か ら BAO が 4 本 鎖 DNA 構 造 と な
んらかの相互作用をしていることが示唆された。また、スペクトルが 2 段階で変化してい
る こ と か ら 、 BAO と 4 本 鎖 DNA 構 造 と の 結 合 に は 2 つ の 過 程 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 こ
の 2 つの過程については、どのような結合に由来するものなのか解明できていない。推測
と し て 、 最 初 の 過 程 と し て は 大 過 剰 の BAO に 対 し て 少 量 の DNA を 添 加 し て い る た め 、 静 電
的 な 結 合 に よ る も の で は な い か と 考 え ら れ る 。 こ の こ と は 1 つ 目 の 過 程 が 薄 い DNA 濃 度 で
飽 和 し て い る こ と と 一 致 す る 。 ま た 、 2 つ 目 の 過 程 に つ い て は あ る 程 度 高 い DNA 濃 度 で あ
る た め 、静 電 的 結 合 と は 異 な る 様 式 で 結 合 し て い る の で は な い か と 考 え ら れ る 。今 回 、BAO
の 4 本 鎖 DNA 構 造 に 対 す る 結 合 様 式 は 、 BAO と DNA と の 比 率 に よ っ て 変 化 し た 。 ポ リ イ ン
タ ー カ レ ー タ ー の 場 合 は 、 今 回 の よ う に DNA と そ の 化 合 物 の 比 率 に よ っ て 結 合 様 式 が 変 化
することが知られている。したがって、今回の結果もこのような原因によるものであるの
かもしれない。詳細についてはさらに検討を行う必要がある。
1-4-3-3
CD ス ペ ク ト ル 測 定 に よ る BAO と 合 成 telomere DNA の 結 合 評 価
前 項 で 示 し た よ う に 、 吸 収 ス ペ ク ト ル 測 定 の 結 果 よ り 、 BAO と telomere DNA が な ん ら か
の 相 互 作 用 を し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 そ こ で 、 BAO と telomere DNA の 結 合 様 式 を さ ら
に 解 析 す る た め に 、 CD ス ペ ク ト ル 測 定 を 行 っ た 。 な お 、 測 定 は 詳 細 に 検 討 す る た め に
telomere DNA に BAO を 添 加 し て い く パ タ ー ン と BAO に telomere DNA を 添 加 し て い く パ タ
ーンの 2 つを行った。
a) BAO の 添 加 に 伴 う 合 成 telomere DNA の CD ス ペ ク ト ル 変 化
BAO と 合 成 telomere DNA と の 相 互 作 用 解 析 を 行 う た め に 、 CD ス ペ ク ト ル 測 定 を 行 っ た 。
なお、測定はカリウムイオンの存在下及び非存在下で行った。その結果を以下の図17に
示す。
19
[測 定 条 件 ]
buffer: 10mM Tris-HCl( pH 7.40)、 [telomere DNA]=4µM、 [KCl]=150mM
装 置 : J-820 Spectropolarimeter、 感 度 : 100mdeg、 走 査 速 度 : 10nm/min
レ ス ポ ン ス : 8msec、 デ ー タ 間 隔 : 0.2nm、 バ ン ド 幅 : 2 nm、 積 算 回 数 : 1 回
測 定 温 度 : 25℃
カリウムイオン存
在 下 (1(1 本
鎖) 構 造 )
カリウムイオン非存在下
本鎖
) 造)
カリウムイオン存在下
カリウムイオン存
在 下 (4
(4本鎖構造
本鎖構
1.5 10
5
1 10
5
(b)
-1
1 105
10 µM
5 10
5 10
4
(a)
2
[θ
θ] / deg cm dmol
BAO
2
[θ
θ] / deg cm dmol
-1
0 µM
4
(a)
0
0
0 µM
-5 10
4
-1 10
5
BAO
18.8 µM
(b)
-5 104
200
250
300
350
400
450
500
200
250
300
350
400
450
500
Wavelength / nm
Wavelength / nm
図 1 7 . BAO の 添 加 に 伴 う 合 成 telomere DNA の CD ス ペ ク ト ル 変 化
(左 : K + あ り 右 : K + な し )(a:telomere DNA, b:BAO+telomere DNA)
【結果と考察】
図 1 7 の 左 図 よ り 、 合 成 telomere DNA に BAO を 添 加 す る こ と で 、 420nm 付 近 に 負 の 誘 起
CD が 観 察 さ れ た 。 ま た 、 295nm 付 近 の positive band が 減 少 す る 傾 向 が 見 ら れ た 。 こ の こ
と か ら 、 吸 収 ス ペ ク ト ル の 結 果 同 様 、 BAO が telomere DNA の 4 本 鎖 構 造 に 相 互 作 用 し て い
る こ と が 示 唆 さ れ る 。 ま た 、 図 1 7 の 右 図 よ り 、 BAO を 添 加 す る こ と で 、 350nm~ 500nm 付
近 の CD ス ペ ク ト ル に 大 き な 変 化 が 観 察 さ れ た 。 し た が っ て 、 BAO が 1 本 鎖 telomere DNA
となんらかの相互作用をしていることが示唆される。このことは蛍光スペクトルの結果と
も矛盾しない。ただ、吸収スペクトル測定の結果とは異なり、飽和に達するまでに必要な
BAO の 濃 度 が 18.8µM と い う 高 い 数 値 に な っ た 。こ の 原 因 に つ い て は ま だ 解 明 で き て い な い 。
ま た 、 図 1 7 の 左 図 と 右 図 を 比 較 し た 場 合 、 350nm~ 500nm 付 近 の CD ス ペ ク ト ル が 全 く 異
な る た め 、 BAO は telomere DNA の 4 本 鎖 構 造 と 1 本 鎖 に 対 し て 、 そ れ ぞ れ 異 な る 様 式 で 結
合しているものと考えられる。
b) 合 成 telomere DNA の 添 加 に 伴 う BAO の CD ス ペ ク ト ル 変 化
a)と 同 様 に BAO と 合 成 telomere DNA と の 相 互 作 用 解 析 を 行 う た め に 、 CD ス ペ ク ト ル 測
定 を 行 っ た 。今 回 は a)と は 異 な り 、BAO に 対 し て 合 成 telomere DNA を 添 加 し て い く 方 法 で
行っている。なお、測定はカリウムイオンの存在下及び非存在下で行った。その結果を以
下の図18に示す。
20
[測 定 条 件 ]
buffer: 10mM Tris-HCl( pH 7.40)、 [BAO]=5µM、 [KCl]=150mM
装 置 : J-820 Spectropolarimeter、 感 度 : 100mdeg、 走 査 速 度 : 10nm/min
レ ス ポ ン ス : 8msec、 デ ー タ 間 隔 : 0.2nm、 バ ン ド 幅 : 2nm、 積 算 回 数 : 1 回
測 定 温 度 : 25℃
5
1 10
5
8 10
4
6 10
4
カリウムイオン存
在 下 (1(1本
鎖) 構 造 )
カリウムイオン非存在下
本鎖
5 µM
2
-1
[θ
θ] / deg cm dmol
2
[θ
θ] / deg cm dmol
-1
カリウムイオン存在下
本鎖構造
カリウムイオン存
在 下(4(4
本 鎖) 構 造 )
1.2 10
DNA
4 104
2 10
4
(a)
(b)
3 10
4
2 10
4
1 10
4
(a)
0
-1 10
4
0 µM
-2 10
4
DNA
-3 10
4
5 µM
-4 10
4
(b)
0 µM
0
-2 10
4
200
250
300
350
400
450
500
200
250
300
350
400
450
500
Wavelength / nm
Wavelength / nm
図 1 8 . 合 成 telomere DNA の 添 加 に 伴 う BAO の CD ス ペ ク ト ル 変 化
(左 : K + あ り 、 右 : K + な し ) (a:AO, b:BAO+telomere DNA)
【結果と考察】
図 1 8 の 左 図 よ り 、 BAO に 合 成 telomere DNA を 添 加 す る こ と で 、 420nm 付 近 に 負 の コ ッ
ト ン 効 果 が 観 察 さ れ た 。 BAO の み で も 負 の コ ッ ト ン 効 果 が 見 ら れ る が 、 比 較 す る と こ れ ら
は 明 ら か に 異 な る も の で あ る 。し た が っ て 、BAO の み の 時 と 比 較 し て 、4 本 鎖 DNA 構 造 と 相
互 作 用 し て い る と き の BAO の 立 体 構 造 は や や 変 化 し て い る こ と が わ か る 。 ま た 図 1 8 の 右
図 よ り 、 合 成 telomere DNA を 添 加 す る と 、 350nm~ 500nm 付 近 の CD ス ペ ク ト ル に 図 1 7 と
同 様 に 大 き な 変 化 が 観 察 さ れ た 。し た が っ て 、BAO の み の と き と 比 較 し て 、1 本 鎖 telomere
DNA に 相 互 作 用 し て い る と き の BAO の 立 体 構 造 は 大 き く 変 化 し て い る こ と が わ か る 。
c) 蛍 光 ス ペ ク ト ル 測 定 に よ る BAO と 合 成 telomere DNA の 結 合 評 価
c-1) 合 成 telomere DNA の 添 加 に 伴 う BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル 変 化
吸 収 ス ペ ク ト ル 測 定 及 び CD ス ペ ク ト ル 測 定 の 結 果 よ り 、BAO が 4 本 鎖 構 造 と 相 互 作 用 す
る こ と が 示 唆 さ れ た 。こ の 結 果 を も と に 次 に 蛍 光 ス ペ ク ト ル 測 定 を 行 い 、BAO が 4 本 鎖 DNA
構造と結合し蛍光変化を示すか観察した。なお、測定はカリウムイオンの存在下及び非存
在下で行い、その結果を以下の図19、図20にそれぞれ示す。
21
[測 定 条 件 ]
buffer: 10mM Tris-HCl( pH 7.40)、 [KCl]=150mM、 [BAO]=0.5µM
装 置 : Perkin-Elmer LS-55 Luminescence Spectrometer、 λ e x =429nm
Slit width EX/EM=5nm/5nm、 測 定 温 度 : 25℃
カリウムイオン存
在 下(4
(4本鎖構造
本鎖構
) 造)
カリウムイオン存在下
Fluorescence Intensity (at 510 nm)
Fluorescence Intensity
250
2.8 µM
200
150
DNA
100
50
0 µM
0
450
500
550
600
250
200
150
100
650
50
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
[DNA] / µM
Wavelength / nm
図 1 9 . 左 : 合 成 telomere DNA の 添 加 に 伴 う BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル 変 化 (4 本 鎖 )
右 : DNA 濃 度 に 対 す る 510nm で の 蛍 光 強 度 変 化
カリウムイオン存
在 下 (1 (1
本本鎖
鎖構
) 造)
カリウムイオン非存在下
1 µM
300
Fluorescence Intensity
Fluorescence Intensity (at 510 nm)
350
250
200
DNA
150
100
50
0
450
0 µM
500
550
600
650
Wavelength / nm
350
300
250
200
150
100
50
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
[DNA] / µM
図 2 0 . 左 : 合 成 telomere DNA の 添 加 に 伴 う BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル 変 化 (1 本 鎖 )
右 : DNA 濃 度 に 対 す る 510nm で の 蛍 光 強 度 の 変 化
【結果と考察】
図 1 9 の 結 果 よ り 、 合 成 telomere DNA の 添 加 に 伴 い 、 BAO の 蛍 光 強 度 は 約 25 倍 ま で 増
大 し た 。 こ の こ と よ り 、 BAO を 用 い た telomere DNA 蛍 光 検 出 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 蛍 光
増 大 の 原 因 と し て は 、 現 在 の と こ ろ 完 全 に 解 明 で き て い な い が 、 結 合 の 際 に BAO が 4 本 鎖
DNA 構 造 内 部 の 疎 水 場 に 移 行 す る こ と で BAO が 固 定 さ れ 、 熱 無 放 射 失 活 が 抑 制 さ れ た こ と
や 水 溶 液 中 で 分 子 内 ス タ ッ キ ン グ に よ り 消 光 さ れ て い た BAO が 4 本 鎖 DNA 構 造 に 結 合 す る
22
ことによるタッキングが解消されたためと考えられる。
ま た 図 2 0 の 結 果 よ り 、 合 成 telomere DNA の 添 加 に 伴 い 、 BAO の 蛍 光 強 度 は 約 40 倍 ま
で 増 大 し た 。 こ れ よ り 、 CD ス ペ ク ト ル 測 定 の 結 果 と 同 様 、 BAO は 1 本 鎖 DNA に 対 し て も 相
互作用しているものと考えられる。しかしながら、この相互作用は 4 本鎖構造に対するも
のと同様には考えることはできない。なぜなら、この測定ではカリウムイオン非存在下と
い う 条 件 で 行 っ て い る た め 、 カ チ オ ン 性 の BAO と ポ リ ア ニ オ ン の DNA と の 静 電 的 相 互 作 用
が強く働くからである。このことは、図20の右図に示す通り、飽和に達するまでに必要
な DNA 濃 度 が 小 さ い こ と か ら も わ か る 。本 ア ッ セ イ 系 に お い て は K + イ オ ン を 設 定 す る こ と
によりこの効果は除外できるので問題とはならない。
c-2) Scatchard plot に よ る BAO と telomere DNA の 結 合 解 析
高分子に n 個の結合座席があり、それぞれの結合座席間に相互作用がなく、n 個それぞ
れ の 結 合 座 席 と 低 分 子 と の 結 合 の エ ネ ル ギ ー が 等 し い と き は 、そ の 結 合 は Langmuir の 吸 着
式 に 従 う こ と が 知 ら れ て い る 。 以 下 の (1)に そ の 式 を 示 す 。
r=nKC/(1+KC)
(1)
(た だ し 、 r: 飽 和 度 =DNA 濃 度 に 対 す る 結 合 し て い る リ ガ ン ド 濃 度 の 割 合 、 C: 結 合 し て い
な い リ ガ ン ド の 濃 度 、 K: 結 合 定 数 、 n: 結 合 サ イ ト の 数 )
(1)式 を 変 形 さ せ る と 、 以 下 の (2)式 が 得 ら れ る 。
r/C=K(n-r)
(2)
式 (2)に 従 っ て r/C に 対 し て r を プ ロ ッ ト し て K と n を 求 め る や り 方 を Scatchard Plot
と 呼 ぶ 。 Scatchard Plot す れ ば 、 勾 配 よ り K が 、 r/C=0 の と き n=r と な り 、 結 合 サ イ ト の
数 n を求めることが出来る。
c-1)で 示 し た 合 成 telomere DNA の 添 加 に 伴 う BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル 変 化 よ り 、Scatchard
Plot を 行 い 理 論 曲 線 (2)に fitting さ せ 、結 合 定 数 K、結 合 サ イ ト の 数 n を 求 め た 。以 下 の
図 2 1 に fitting さ せ た と き の グ ラ フ を 示 す 。
【結果と考察】
図 2 1 の 結 果 は 、 BAO と 4 本 鎖 DNA 構 造 と の 結 合 に つ い て Scatchard 解 析 し た も の で あ
る 。 な お 、 1 本 鎖 DNA と の 結 合 に つ い て は fitting す る こ と が で き な か っ た 。 以 下 に 得 ら
れた結合定数 K と結合サイト数 n の値を示す。
23
結 合 定 数 K=2.3×
K=2.3 × 10 7 M - 1
結 合 サ イ ト 数 n=1.5
Scatchard Plot
2.5 10
7
y = m1*(m2-M0)
値
m1
2 10
2.2714e+07
m2
7
カイ2乗
1.4589
0.033419
4.2817e+12
R
r/C
エラー
1.2843e+06
NA
0.99055
NA
1.5 107
1 10
7
5 10
6
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
1.1
1.2
1.3
r
図 2 1 . Scatchard Plot
上 の 結 果 か ら 、 BAO と 4 本 鎖 構 造 と の 結 合 に 関 し て 、 結 合 定 数 は K=2.3×10 7 M - 1 、 結 合 サ
イ ト 数 は n=1.5 と い う 値 が 得 ら れ た 。 高 塩 濃 度 条 件 下 に も 関 わ ら ず 、 結 合 定 数 が 10 7 オ ー
ダ ー と い う 高 い 値 で あ る こ と よ り 、 BAO が 4 本 鎖 DNA に 対 し て 強 く 結 合 す る こ と が 示 唆 さ
れ る 。 ま た 、 結 合 サ イ ト 数 が 1.5 で あ る の で 、 BAO は 4 本 鎖 DNA と 3:2 と い う 比 で 結 合 し
ている計算になる。
1-5
研究成果
テ ロ メ ア DNA 蛍 光 イ メ ー ジ ン グ 試 薬 BAO の 合 成 に 成 功 し た 。ま た 、吸 収 ス ペ ク ト ル と CD
ス ペ ク ト ル を 用 い た 合 成 テ ロ メ ア DNA と の 相 互 作 用 の 検 討 か ら BAO が テ ロ メ ア 4 本 鎖 DNA
に強く結合することが明らかとなった。
1-6
今後の課題と取組
本研究課題は十分達成できたものと考えられる。
24
2 . テ ロ メ ア DNA 配 列 特 異 的 PCR プ ラ イ マ ー の デ ザ イ ン と 合 成
(株)ジーンネット
2-1
技術開発部員
原口正人
プロジェクト全体における本研究開発部分の位置付け
テロメラーゼ蛍光検出試薬に対して最も良い性能を示すプライマー配列を検索する。
テ ロ メ ア DNA 構 造 は 特 異 的 繰 り 返 し 配 列 か ら 構 成 さ れ て い る 。こ の た め 、こ の 構 造 を PCR
に よ り 効 率 よ く 増 幅 す る に あ た っ て は 、 PCR プ ラ イ マ ー 配 列 の 最 適 化 が 必 要 と な る 。
2-2
目的と目標
PCR 反 応 後 の DNA に テ ロ メ ラ ー ゼ 蛍 光 検 出 試 薬 を 作 用 さ せ た と き に 強 い 蛍 光 変 化 を 示 す
よ う な 最 適 条 件 を 見 出 す こ と を 目 的 と す る 。 こ れ を 実 現 す る た め に は 、 BAO の 結 合 と 蛍 光
変 化 に 最 適 な PCR 産 物 を 得 る よ う な PCR プ ラ イ マ ー 配 列 や PCR 条 件 に つ い て 検 討 す る 。
2-3
実験方法及び実験条件
設 計 配 列 を も と に DNA 合 成 装 置 を 用 い て プ ラ イ マ ー の 合 成 を 行 っ た 。 当 初 は リ チ ウ ム イ
オンを用いて合成装置で伸長されたオリゴヌクレオチドを固相担体から切り出していたが
( ユ ニ バ ー サ ル CPG)、リ チ ウ ム イ オ ン を 最 後 ま で 完 全 に 取 り 除 く こ と が で き ず 、こ れ が テ
ロ メ ア DNA 配 列 に 悪 影 響 を 示 す こ と が 明 ら か と な っ た 。 そ こ で 切 り 出 し に リ チ ウ ム イ オ ン
を 用 い な い 手 法 ( ス タ ン ダ ー ド CPG) に よ っ て こ れ を 除 外 す る こ と に 成 功 し た 。
2-4
実験結果
最 終 的 に は 、TS、CX プ ラ イ マ ー は 以 下 の デ ザ イ ン が 最 も 効 率 良 く PCR 増 幅 が 可 能 で あ っ
た 。 ま た 、 最 終 的 に 採 用 し た 非 対 称 PCR( A-PCR) に お い て も 以 下 の TS プ ラ イ マ ー 配 列 が
有効であることがわかった。
TS プ ラ イ マ ー : 5’ -AAT CCG TCG AGC AGA GTT-3’
CX プ ラ イ マ ー : 5’ -CCA ATC CCA TTC CCA TTC CCA TTC CCA TTC GGC GCG-3’
2-5
研究成果
本システムに利用可能なプライマー配列を決定できた。また、合成上問題となる部分を
洗い出し本系に適した合成法を確立できた。
25
3 . テ ロ メ ア DNA 配 列 特 異 的 PCR 条 件 検 討
(株)ジーンネット
3-1
技術開発部員
原口正人
プロジェクト全体における本研究開発部分の位置付け
テ ロ メ ア DNA 配 列 特 異 的 PCR 条 件 検 討 を 検 討 し 、蛍 光 検 出 試 薬 適 用 の 際 の 最 適 化 を 図 る 。
テ ロ メ ア DNA 構 造 は 特 異 的 繰 り 返 し 配 列 か ら 構 成 さ れ て い る 。こ の た め 、こ の 構 造 を PCR
に よ り 効 率 よ く 増 幅 す る に あ た っ て は 、 PCR プ ラ イ マ ー 配 列 の 最 適 化 が 必 要 と な る 。
3-2
目的と目標
本 研 究 は 、TRAP 法 を さ ら に 簡 便 に 行 う た め に 、ゲ ル 電 気 泳 動 を 行 う 代 わ り に BAO を 用 い
たテロメラーゼ活性の蛍光検出を目指すものである。その手法としては、図22に示して
い る 通 り 通 常 の TRAP 法 で 行 わ れ て い る PCR 反 応 を 行 う の で は な く 、A-PCR を 行 い 、そ の 後 、
得 ら れ た 増 幅 産 物 に 対 し て K + 存 在 下 で BAO を 添 加 す る こ と に よ り 、テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 を 蛍
光で検出するというものである。
以 下 の 実 験 で は 、実 際 に そ の 方 法 で 行 い 、テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 を 検 出 で き る か 、確 認 し た 。
図22.本研究のテロメラーゼ活性蛍光検出
3-3
実験方法及び実験条件
テ ロ メ ラ ー ゼ に よ る 伸 長 反 応 及 び A-PCR 反 応 に よ る 増 幅 反 応 に つ い て 検 討 し た 。
Intergen 社 の TRAP EZE テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 検 出 キ ッ ト を 用 い て TRAP 法 を 行 っ た 。 た だ し 、
プ ラ イ マ ー は キ ッ ト の 中 の も の は 用 い ず 、 Genenet 社 製 の も の を 用 い た 。 以 下 に キ ッ ト の
内容を示す。
26
キットの内容
1. 1×CHAPS Lysis Buffer (8200 µl)
10mM Tris-HCl,pH 7.5
4. TS Primer( 112µl)
5. Primer Mix( 112µl)
1mM MgCl 2
RP Primer
1mM EGTA
K1 primer
0.1mM Benzamidine
5mM β-mercaptoethanol
TSK1 template
6. PCR-Grade Water( 8200µl)
0.5% CHAPS
10% Glycerol
2. 10×TRAP Reaction Buffer
7. TSR8( control template)
( 32 µl)
( 560µl)
0.1amole/µl
200mM Tris-HCl,pH 8.3
8. Control Cell Pellet
15mM MgCl 2
Telomerase positive cells
630mM KCl
(10 6 cells)
0.5% Tween 20
10mM EGTA
3. 50×dNTP Mix( 112µl)
2.5mM each dATP, dTTP, dGTP and
dCTP
プライマーの配列
TS primer: 5’ -AATCCGTCGAGCAGAGTT-3’
CX primer: 5’ -CCCTTACCCTTACCCTTACCCTTA-3’
【実験操作】
以 下 の ① か ら ⑥ の サ ン プ ル を 調 製 し 、 そ れ ぞ れ PCR 用 滅 菌 チ ュ ー ブ ( 0.2 ml 用 ) に 加 え
た 。そ の 後 、サ ー マ ル サ イ ク ラ ー で 20℃ 、30 分 間 イ ン キ ュ ベ ー ト し た( テ ロ メ ア 伸 長 反 応 )。
そ し て 、 サ ー マ ル サ イ ク ラ ー で 94℃ /30 秒 、 59℃ /30 秒 、 72℃ /1 分 30 秒 の 33 サ イ ク ル で
3 ス テ ッ プ PCR を 実 行 し た 。
サンプル①
10×TRAP Reaction buffer
50×dNTP Mix
0.1µg/µl TS primer
0.1µg/µl CX primer
Taq ポ リ メ ラ ー ゼ
dH 2 O
テ ロ メ ラ ー ゼ (5000 cells/µl)
5.0 µl
1.0 µl
1.0 µl
0.25 µl
0.4 µl
40.35 µl
2.0 µl
50.0 µl
サンプル②:サンプル①のテロメラーゼ濃度を
サンプル③:サンプル②のテロメラーゼ濃度を
サンプル④:サンプル③のテロメラーゼ濃度を
サンプル⑤:サンプル④のテロメラーゼ濃度を
27
3
3
3
2
倍希釈したもの
倍希釈したもの
倍希釈したもの
倍希釈したもの
サ ン プ ル ⑥ (negative control)
10×TRAP Reaction buffer
50×dNTP Mix
0.1µg/µl TS primer
0.1µg/µl CX primer
Taq ポ リ メ ラ ー ゼ
dH 2 O
1×CHAPS Lysis Buffer
5.0 µl
1.0 µl
1.0 µl
0.25 µl
0.4 µl
40.35 µl
2.0 µl
50.0 µl
Sample 1
Sample 2
Sample 3
Sample 4
Sample 5
Sample 6
200
67
22
7
4
0
テロメラー
ゼ濃度
(cells/µl)
3-4
実験結果
3-4-1
PCR の 結 果
PCR 終 了 後 、 テ ロ メ ア の 伸 長 反 応 と PCR 反 応 が 進 行 し て い る の か を 確 認 す る た め に 、 サ
ン プ ル ① か ら ⑥ を µTAS 電 気 泳 動 装 置 ( Agilent) に ア プ ラ イ し た 。 そ の 結 果 を 図 2 3 、 図
24に示す。
図 2 3 . TAS 電 気 泳 動
【結果と考察】
今 回 は 通 常 の TRAP 法 で は 行 わ れ な い A-PCR を 行 っ た が 、図 2 4 の 結 果 よ り 50s か ら 60s
に か け て 、 な だ ら か な ピ ー ク が 観 察 さ れ た 。 こ れ は 6bp ご と に 増 幅 さ れ た 増 幅 産 物 に 由 来
28
す る ピ ー ク だ と 考 え ら れ る 。 し た が っ て 、 テ ロ メ ア 伸 長 反 応 と PCR 反 応 は 進 行 し て い る と
判 断 し た 。 ま た 、 sample 1 か ら 6 へ と テ ロ メ ラ ー ゼ 濃 度 が 小 さ く な る に つ れ て 、 ピ ー ク も
減少していることもわかる。
図 2 4 . そ れ ぞ れ の サ ン プ ル の µTAS 電 気 泳 動 の エ レ ク ト ロ フ ェ ロ グ ラ ム
3-4-2
BAO に よ る テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 の 検 出
BAO を 用 い て 、 実 際 に テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 を 検 出 で き る の か 確 か め る た め に 蛍 光 ス ペ ク ト
ル 測 定 を 行 っ た 。実 験 操 作 と し て は 560µl の buffer に 対 し て 40µl の サ ン プ ル を 添 加 す る
という方法を行った。その結果を図25、図26に示す。
29
[測 定 条 件 ]
10mM Tris-HCl( pH 7.40)、 [KCl]=150mM、 [BAO]=0.5µl
装 置 : Perkin-Elmer LS-55 Luminescence Spectrometer、 λ e x =429nm
Slit width EX/EM=5nm/5nm、 測 定 温 度 : 25℃
120
80
60
40
BAO
20
500
550
600
120
100
BAO+sample 2
80
60
40
BAO
20
0
450
650
500
550
600
100
80
60
40
20
Sample 4
100
BAO+sample 4
60
40
BAO
550
600
650
Fluorescence Intensity
100
Fluorescence Intensity
100
80
80
BAO+sample 5
60
40
20
BAO
0
450
500
550
600
600
650
60
BAO+sample 6
40
20
BAO
0
450
500
550
Fluorescence Intensity at 510 nm
120
110
100
90
80
70
60
50
50
100
150
200
Number of cells / cells/µ
µl
図 2 6 . テ ロ メ ラ ー ゼ 濃 度 に 対 す る BAO の 蛍 光 強 度 変 化
30
600
Wavelength / nm
図 2 5 . A-PCR 産 物 の 添 加 に 伴 う BAO の 蛍 光 ス ペ ク ト ル 変 化
0
650
80
Wavelength / nm
Wavelength / nm
550
Sample 6 (negative control)
Sample 5
120
500
500
Wavelength / nm
120
0
450
BAO
0
450
650
120
20
BAO+sample 3
Wavelength / nm
Wavelength / nm
Fluorescence Intensity
Fluorescence Intensity
Fluorescence Intensity
Fluorescence Intensity
BAO+sample 1
100
0
450
Sample 3
Sample 2
Sample 1
120
650
【結果と考察】
図27に蛍光光度計とタイタープレートによる検体のテロメラーゼ活性測定結果を示し
た 。最 適 化 し た 測 定 条 件 下( 10mM Tris-HCl buffer( pH 7.40)、 [BAO]=0.5µM、[KCl]=150mM、
λ e x =429nm)蛍 光 測 定 を 行 っ た 。図 2 7 に 示 し た よ う に い ず れ の 場 合 も テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 と
蛍 光 強 度 と の 間 に 良 好 な 相 関 関 係 を 示 し 、 検 出 下 限 は 、 蛍 光 光 度 計 の 場 合 0.25cells/ml
で タ イ タ ー プ レ ー ト の 場 合 0.1cells/ml で あ っ た 。従 来 法( TRAP ア ッ セ イ )は 40cells/ml
が検出下限であることからも本手法は、簡便性のみならず検出感度の向上も達成できるこ
とが明らかとなった。
蛍光スペクトル測定
検出下限:0.25
cells/ml
検出下限:
プレートリーダー測定
検出下限:0.1
cells/ml
検出下限:
図 2 7 . BAOを 用 い た テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 の 蛍 光 評 価
A-PCR 後 、 蛍 光 法 で は 全 量 400µl 中 の BAO 濃 度 が 0.5µM に な
るように希釈し測定した。プレートリーダーも同様の操作で
100µl の 溶 液 と し て 測 定 を 行 っ た 。
3-5
研究成果
図 2 6 の 結 果 よ り 、 Sample 1 か ら 6 へ と テ ロ メ ラ ー ゼ 濃 度 が 減 少 す る に つ れ て 、 BAO の
蛍 光 強 度 に も 減 少 が 見 ら れ 、 テ ロ メ ラ ー ゼ 濃 度 と BAO の 蛍 光 強 度 の 間 に 相 関 が 見 ら れ た 。
こ の こ と か ら BAO を 用 い た テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 の 蛍 光 検 出 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 テ
ロ メ ラ ー ゼ 濃 度 に 注 目 す る と 、 4cells/µl と い う 低 濃 度 で も テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 を 検 出 で き
た こ と に な る 。 TRAP assay の 検 出 限 界 が 細 胞 50 個 分 と い う テ ロ メ ラ ー ゼ 濃 度 だ と 言 わ れ
ているので、単純に比較はできないが感度は悪くないものと考えている。
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3-6
今後の課題と取組
し か し な が ら 、BAO の 蛍 光 変 化 が 2 本 鎖 DNA へ の 結 合 に よ る も の な の か 、4 本 鎖 DNA 構 造
への結合によるものなのかはわからない。これについては、さらに検討する必要がある。
ま た 、テ ロ メ ラ ー ゼ が 含 ま れ て い な い Sample 6 に つ い て も 、約 6 倍 程 の 蛍 光 強 度 の 増 大 が
観 察 さ れ た 。こ の 原 因 と し て は 、TRAP assay キ ッ ト 中 に 含 ま れ る 界 面 活 性 剤 で あ る Tween 20
や タ ン パ ク 質 で あ る Taq ポ リ メ ラ ー ゼ に BAO が 結 合 し 、 蛍 光 強 度 変 化 を 示 し た と 推 測 さ れ
る。しかし、これについては全く検討していないため、詳細は述べることができない。こ
れ に つ い て も 、今 後 、検 討 し て い く つ も り で あ る 。BAO を 利 用 し た TRAP ア ッ セ イ の 簡 便 化
に成功した。
ゲ ル 電 気 泳 動 法 を 利 用 し な い 本 手 法 を TRAP ア ッ セ イ の 簡 便 化 法 と し て 市 場 に 出 す こ と
が 可 能 と 期 待 さ れ る 。 本 BAO 試 薬 の 販 売 を 行 う 。 TRAP は 癌 診 断 法 と し て 期 待 さ れ て い る 。
海 外 で は 活 発 に 研 究 さ れ て い る に も 関 わ ら ず 、国 内 市 場 規 模 に は 限 界 が あ る 。こ れ は 、TRAP
アッセイが手作業によるところが多く、臨床検査として利用するには不十分なためだと考
え ら れ る 。本 研 究 成 果 は TRAP 法 の 簡 便 化 に 大 き く 寄 与 し た も の で あ り 優 位 性 は 高 く 、こ の
臨床データをつむことにより市場拡大は極めて大きいものと期待される。
本 研 究 成 果 で あ る BAO 試 薬 と こ れ を 利 用 し た TRAP ア ッ セ イ を セ ッ ト で 市 場 に だ す こ と が
で き る 。こ れ に よ っ て 地 域 産 業 の 振 興 に つ な が る も の と 考 え ら れ る 。ま た 、TRAP ア ッ セ イ
を利用した癌診断法の発展に寄与できるものと期待され、その発展に伴って市場を獲得で
きると期待される。
32
4 . テ ロ メ ア DNA 検 査 プ ロ ト コ ー ル の 確 立
九州工業大学工学部
(株)ジーンネット
4-1
教授
竹中繁織
技術開発部員
原口正人
プロジェクト全体における本研究開発部分の位置付け
1 ~ 3 ま で の 成 果 を も と に テ ロ メ ラ ー ゼ 活 性 の 蛍 光 検 出 法 ( テ ロ メ ア DNA 検 査 プ ロ ト コ
ール)を確立する最終段階である。
4-2
目的と目標
1~3の成果を踏まえ最終的なプロトコールを確立する。
4-3
実験方法及び実験条件
九州大学大学院医学研究院から頂いたサンプルを用いて最終的なタイタープレートを利
用 し た テ ロ メ ア DNA 蛍 光 検 査 プ ロ ト コ ー ル と し て 以 下 の 手 順 で 実 験 を 行 っ た 。
4-4
実験結果
最 終 的 に 確 立 し た テ ロ メ ア DNA 蛍 光 検 査 プ ロ ト コ ー ル を 図 2 8 に 示 す 。
4-5
研究成果
BAO を 利 用 し た 簡 便 か つ 迅 速 な テ ロ メ ア DNA の 蛍 光 検 出 法 を 上 記 プ ロ ト コ ー ル に よ っ て
確立することができた。
33
図 2 8 . テ ロ メ ア DNA 蛍 光 検 査 プ ロ ト コ ー ル
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成果実績
(1)口頭発表
「 ビ ス ア ク リ ジ ン オ レ ン ジ (BAO)を 利 用 し た テ ロ メ ア DNA 蛍 光 検 出 」,日 本 化 学 会 第 86 春 季
年 会 , 日 本 大 学 ( 千 葉 県 ), 2006 年 3 月 27 日 -30 日 .
(2)論文発表(関連したもの)
Keiji
Mizuki,Takahiko
Nojima,
Bernard
Juskowiak
&
Shigeori
Takenaka,
"Tetrakis-acridinyl peptide: Distance dependence of photoinduced electron transfer
in DNA duplex," Anal. Chim. Acta , in press.
Keiji Mizuki, Yutaka Sakakibara, Hiroyuki Ueyama, Takahiko Nojima, Michinori Waki
& Shigeori Takenaka, "Fluorescence enhancement of bis-acridine orange peptide, BAO,
upon binding to double stranded DNA," Organic & Biomolecular Chemistry , 3 , 578-580
(2005).
(3)雑誌掲載
なし
(4)特許出願
なし
(5)商品化
現 在 、( 株 ) ジ ー ン ネ ッ ト か ら の 商 品 化 を 進 め て い る 。
(6)受賞
なし
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