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JSAI2000デジタルアシスタントプロジェクトの報告 1

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JSAI2000デジタルアシスタントプロジェクトの報告 1
JSAI2000 デジタルアシスタントプロジェクトの報告∗
角 康之
ATR 知能映像通信研究所
e-mail: [email protected]
はじめに
1
2
学会イベントでの電子的サービス
2000 年 7 月 4∼7 日に早稲田大学国際会議場で開催さ
れた第 14 回人工知能学会全国大会(以下,JSAI2000)の
参加者への電子的サービスを提供することを目的として
とではない.電子メールや Web の普及にともない,会議
実施された JSAI2000 デジタルアシスタントプロジェク
ども電子的メディアを活用することが当たり前になって
ト
1
学会イベントで電子的サービスを行うことは珍しいこ
の案内,論文募集,発表投稿,さらには論文の査読作業な
きた.しかし,そういった会議や発表に関する電子的な
について報告する.
JSAI2000 デジタルアシスタントの目的は,学会イベン
データは,主にイベント主催者がイベント運営のために
トのひとつである JSAI2000 での参加者間の情報交流を促
利用するだけで,イベント参加者の情報共有促進のため
進することである.学会では他にも,学会誌,電子メー
に積極的に利用する試みはあまり多くなかった.
ル,Web などのメディアを利用した情報交流の場が提供
近年,社会的イベントや興味,趣味を共有するコミュニ
されているが,全国大会のような学会イベントは,参加
ティの形成や活動を支援するソフトウェアシステム(コ
者一人一人が情報享受者であると共に情報発信者となり, ミュニティウェア)の必要性が指摘されている [1].学会
顔を合わせて,出会い,議論する場であり,情報交流の効
は,その構成員が情報発信者であると同時に情報利用者
果が高い.しかし,会期中に効率良く情報交流の場を活
や評価者になる.また,学術的な興味に基づいた出会い
用することは意外と難しく,興味を共有する人とすれ違っ
の場でもある.そう言った意味で,学会は知識交流型コ
たり,聴講すべき発表を聴き逃したりすることが珍しく
ミュニティの典型例である.JSAI2000 デジタルアシスタ
ない.また,会期中に興味を共有する人と知り合ったり
ントプロジェクトは,コミュニティウェア構築の試みでも
議論が高まったとしても,会議が終わるとその成果を活
ある.
かすことができずに,一過性のものになることが多い.
過去に類似した試みがいくつかなされてきた.Salomon
そこで JSAI2000 デジタルアシスタントは,大会中の発
ら [2] による,1989 年に開かれた CHI(ACM の会議)で
表と発表者の情報を利用して,大会期間中の個人案内や
のキオスク端末を利用した会場情報サービスは,初期の試
情報交流を支援するシステムを提供し,さらに,システ
みとして興味深い.発表,参加者,開催地の情報を提供し,
ム利用者の利用データを活用して会期後の継続的な情報
提供サービスのユーザインタフェースの評価を行った.
Dey ら [3] は,携帯情報端末と,無線 ID タグによるユー
交流の場を提供することを目指した.
具体的なサービス内容は,携帯ガイドや情報キオスク
ザの位置認識技術を利用して,会議参加者のアシスタン
を利用した会場案内サービスと,会場や会期に限らず提
トシステムを試作した.彼らは,会議の発表データとして
供される Web によるオンラインサービスである.本プロ
論文だけでなく発表マテリアルも利用し,会期後の情報
ジェクトでは,発表の申し込み,会期前の Web 上でのオ
共有の促進を目指しており大変興味深い.しかし,具体
ンラインプレビューサービス,会場での個人ガイドサー
的なイベントでの試用評価については報告されていない.
ビスや参加者間の情報共有サービス,会期後のオンライ
多くの人が集まる場所での,興味を共有する人間同士
のコミュニケーション促進を目指した研究の事例として,
ンサービスを一貫して支援した.
内容,サービス利用のデータ集計結果,ユーザによるア
Meme Tag と Community Mirror[4] が知られている.こ
れは,対面したユーザ同士が短いメッセージを交換できる
ンケートの結果を報告する.
電子的な名札と,メッセージの流通の様子を可視化する
本稿では,プロジェクト運営の実際と提供サービスの
大型スクリーンで構成される.実際に多くの人が集まる
∗
1
場所でのコミュニケーション促進をねらったものであり,
人工知能学会誌, Vol.15, No.6, pp.1012-1026, 2000 年 11 月.
http://www2.mic.atr.co.jp/JSAI2000/
1
大変興味深い.しかし彼らの試みでは,ユーザの間でや
3.2
り取りされる情報は短いメッセージだけであり,コミュニ
ティの拠り所になり得る情報や知識を対象としていない.
JSAI2000 デジタルアシスタントと最も関連する試みに,
ICMAS’96 Mobile Assistant Project[5] がある.国際会議
参加者のうち 100 人に携帯情報端末を貸し出し,メール
サービスや会議の情報サービスを提供した.情報サービス
るオフィシャルサービスとして企画され,筆者とその所
属研究所である ATR 知能映像通信研究所によって運営さ
筆者の研究グループは,1997 年からモバイルアシスタ
ントの研究プロジェクトを始め,ATR 研究発表会の見学
ガイドシステムの試作 [6] や,1999 年度人工知能学会全
者による情報発信のためのサービスや,電子的な対話の
国大会でのデジタルポスタ会場を対象とした小規模なシ
場が提供された.定量的なユーザ利用データの分析結果
も報告されており,大変先見的な試みであったと言える.
本プロジェクトも運営や会期後のデータ分析において,
ICMAS’96 Mobile Assistant Project を大いに参考にし
ステム試用デモ [7] を行ってきた.
筆者が JSAI2000 のプログラム委員であったこともあ
り,JSAI2000 ではオフィシャルサービスとしてデジタル
アシスタントプロジェクトを実施することがプログラム
た.しかし,ICMAS’96 Mobile Assistant Project とは異
なり,JSAI2000 デジタルアシスタントプロジェクトには,
携帯情報端末だけでなく情報キオスク端末も利用したこ
委員会で企画され,筆者がその担当者となった.
本来はシステムやその運営のリソースは,学会会員か
ら広く募る方が良いのであろうが,今回に限っては,シス
とや,会期中の会場サービスだけでなく会期前後のオン
テムは筆者の研究グループが ATR で開発してきたものを
ラインサービスと統合的にシステム構築を行ったことな
利用し,ATR の研究プロジェクトの一貫としてプロジェ
どの特徴がある.本稿では,それらの特徴に焦点を当て
クト運営を行った.また,発表データの収集や会場での
て,本プロジェクトのサービス内容を紹介し,その評価
システム設置は,大会事務局(学会事務局と連企画)と
データの報告を行う.
の共同作業であった.
プロジェクトの概要
3.1
本プロジェクトは,JSAI2000 のプログラム委員会によ
れた.
には,あらかじめ用意された情報の閲覧だけでなく,利用
3
プロジェクト実施の経緯
3.3
JSAI2000 の概要
データ収集
本プロジェクトのデータ収集の一貫で,発表受付の Web
JSAI2000 は,一般参加者からの発表申し込みによる発 サイトを立ち上げた.発表に関するデータ(タイトル,発
表(口頭発表,デジタルポスタ,近未来チャレンジ)と, 表者,発表概要,キーワード,希望発表カテゴリ等)のた
招待による発表(特別講演,AI レクチャ,パネルディス めの入力フォームを用意し,Web からの申し込みと同時
カッション)のセッションカテゴリがあった.発表件数 にデータベースの更新(発表データと発表者データの作
は全部で 250 件にのぼり,そのうち約 20 件が招待による 成)と受付確認の電子メールの発信を自動的に行う CGI
発表,残りの 230 件あまりが発表申し込みによるもので
プログラムを作成し,利用した.発表申し込みの形態は
あった.
現在過渡期にあり,今年はまだ Web の申し込みだけでな
口頭発表,近未来チャレンジ,AI レクチャ,パネルディ
く,電子メールでの申し込みも同時に受け付けた.ただし
スカッションは,基本的に登壇による口頭発表形式であ
電子メールでの受付窓口は大会事務局(連企画)だった
る.4 つの会場で並行してセッションが進行された.デジ
ので,ATR と連企画の間で発表データの同期を取る必要
タルポスタのみ,実機デモを含むポスタ形式の発表であっ
が生じた.
た.デジタルポスタは全部で 31 件だったので,8 件ずつ
発表データを受け付けた段階で,発表者(連名著者も
4 つのセッションが組まれ,1 日に 1 セッションずつ実施
された.
含む)は自動的に JSAI2000 デジタルアシスタントのユー
ザとして登録され,ユーザ ID とパスワードが自動的に割
会期は 4 日間であり,その間の参加者人数は例年通り
り振られた.過去の経験で,運営者側が発行したユーザ
だとすれば 600 人前後である.会場は早稲田大学の国際
ID とパスワードを各ユーザに周知するのに苦労した.そ
会議場で,1 階の大会議室(A 会場)と 3 階の 3 つの会議
こで今回は,ユーザ ID を電子メールアドレスにし,パス
室(B,C,D 会場)が口頭発表会場であった.デジタルポ
ワード等の個人情報はプロジェクトの Web ホームページ
スタは 3 階のロビー(E 会場)に 8 つのブースが用意さ
上でなされるリクエストに応じて,電子メールで自動送
れた.1 階のロビーは受付であり,デジタルアシスタント
信するようにした.
の端末貸し出し受付も 1 階で行った.
2
人工知能, インターネットオークション, オークショ
発表申し込みの段階で入力された情報以外にも,本プ
ン, ゲーム理論,mobile agent
ロジェクトの枠組みの中で情報交流に役立つと思われる
情報,つまり個人情報(所属,性別などのプロファイル
この例を見るとわかるように,言い換えや英語表現の
や,ホームページ,顔写真)や発表に関する情報(ホーム
違いへの対処だけでなく,筆者の主観に依存したトピック
ページや参考画像)を,発表者本人が思いついたときに
のグループ分けを行った.なお,シソーラスの階層は 2 階
プロジェクトホームページ上で入力・更新できるように
層のみで,複数の代表キーワードに属するキーワードは
した.
3.4
存在しないようにした.
キーワードの準備
3.5
発表データの閲覧サービスや会場での個人ガイドを実
システム構成
ここでは,デジタルアシスタントサービスを提供する
現するには,各発表やユーザの興味を何らかの属性デー
システムの全体構成を示す.JSAI2000 デジタルアシスタ
タを用いて定量化する必要がある.そこで,本プロジェ
ントとして提供されたサービスは,大きく分けると,全
クトでは各発表と各ユーザの興味を複数のキーワードの
国大会会場で提供されたサービス(オンサイトサービス)
セットで表現する手法を採った.
と,Web を利用して提供されたオンラインサービス(オ
1999 年度大会では,システムデモ担当者の筆者が 200
数件の全発表データを見渡し,約 40 のキーワードを選定
フサイトサービス)の 2 つに分けられる.
オンサイトサービスの目的は,実際に会場に足を運ん
し,それらを各発表に数個ずつ設定し,同時にユーザの
興味を表すキーワードベクトルとして利用した.しかし,
そのような作業は大変な労力を要するし,アドホックで
だ大会参加者が,発表を聴講し,人と会って議論するこ
とによって,他の参加者と情報交流することを促進する
ことである.したがって,
「今」,
「ここで」,
「誰と」といっ
あり,データ修正に対する柔軟性も低い.
た,実時間の状況に応じたサービスを提供することを目
そこで本プロジェクトでは,発表申し込み時点に発表
指した.
者自らが入力したキーワードを利用した.しかしそのま
オフサイトサービスは,Web を利用して継続的に情報
までは似たトピックを指すものでも些細な表現の違いで
サービスを行うものであり,大会の会場や期間と言った
別々のトピックを指すことになってしまい,キーワードの
時空間の制約を取り除くことが目的である.
総数も大変な数になってしまう.そこで,簡単なシソーラ
システムの全体構成を図 1 に示す.システムは,会
スを作った.このシソーラスも筆者自身が適当に作ったも
場でユーザが利用する携帯機器(携帯ガイドシステム
のであるのでアドホックなものであるのは確かだが,直接
キーワードを編集するよりも作業量は軽減された.また,
発表に関する一次データには手を加えずに,キーワードを
PalmGuide,または赤外線バッジ)と,そのバックボー
ンでオンライン情報を提供する Web をベースとしたシス
テムで構成されている.
必要とする各種アプリケーションが必要に応じてシソー
PalmGuide は会議参加をガイドする携帯ガイドシステ
ムである.PalmGuide 自体は常時ネットワークに接続す
ラスを参照するようにシステムを構築したので,データ
修正に対する柔軟性も保つことができた.
るものではなく,必要に応じて,PalmGuide 同士,また
筆者が本プロジェクト用に用意したシソーラスの例を
は会場に設置された情報キオスク端末と赤外線通信する
以下に示す.なお,コロン(:)の左がアプリケーション
ことで,ネットワーク資源にアクセスする.
でキーワードとして利用される代表キーワードであり,右
情報キオスク端末やその一種であるエージェントサロ
に並んでいるのがその代表キーワードに集約されるキー
ンは,会場(早稲田大学)の LAN に接続され,インター
ワード,つまり発表者が入力したキーワードである.
ネットを介して ATR の Web サーバにアクセスする.会
• オントロジー:オントロジー, オントロジー工学
場の LAN には,赤外線バッジ各々の固有 ID を検知する
複数の赤外線センサを持つロケーションサーバもつながっ
• エージェント:エージェント,Agent, 分身エージェン
ている.そして,ネットワークを介してユーザの位置情
ト, インタフェースエージェント, 対話エージェント,
報を提供し,例えば,情報キオスクで提供される会場地
擬人化エージェント, パーソナルエージェント, 情報
図サービスに利用される.
収集エージェント, キャスターエージェント
Web サーバは,大会プログラムのデータやユーザのデー
タ,また,PalmGuide や赤外線バッジの個人ユーザによ
• 分散人工知能:分散エージェント, マルチエージェン
ト, マルチエージェントシステム, 市場モデル, 超並列
る利用に関するデータを逐次蓄えると共に,CGI を通し
3
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図 1: システム構成
て送られてくるリクエストに答えて,サービスコンテン
4.1
ツを個人用に加工して情報を提供する.
携帯個人ガイドシステム
大会会場での個人ガイドを提供するシステム PalmGuide
Web サーバは,会場でのオンサイトサービスに情報提
供するリモートサーバとして働くと同時に,会期前後の
期間を含むオフサイトからのアクセスに対しても,発表
を提供した.PalmGuide は,PalmOS をベースにした
PDA (Personal Digital Assistant) の上で動作する.会
期中の 4 日間,会場の入口に端末貸し出しの受付ブース
申し込み,ユーザ登録,大会情報の閲覧などのサービス
を設け,PalmGuide をインストールした端末(日本 IBM
を提供する.
の WorkPad3 )の貸し出しを行った.貸し出しの際には,
以上のように,本プロジェクトは,Java アプレットや
まずユーザ登録がなされていることを確認し,パーソナ
Perl で作成された約 40 の CGI プログラムを持つ Web
ルエージェントのキャラクタを選んでもらい,それらの
サーバ,携帯情報端末上で動作する PalmGuide,Web の
ユーザ情報にもとづいて PalmGuide を個人化して,端末
ブラウザ上で JavaScript や Microsoft エージェント2 を
を貸し出した.
利用して作られた情報キオスクとエージェントサロン,会
エージェントキャラクタは図 2 に示す 8 種類の中から好
場で位置検出データを提供するロケーションサーバ,と
きなものを選んでもらった.これらのキャラクタは,ユー
いった具合いに,様々なプラットフォームと開発言語を組
ザが PalmGuide を接続した際に,情報キオスクやエー
み合わせたハイブリッドなシステムになっている.
ジェントサロンに乗り移りアニメーション表示される.そ
うすることで,手元の PDA 上のサービスと,会場に設置
された据え置き型ディスプレイのサービスに一貫性を持
提供されたサービスの内容
4
たせた.
以下に各サービスの概要を示す.なお本稿で紹介する
WorkPad は,情報の入出力手段として解像度 160×160
システムの詳細は,特に断わらない限り文献 [8] を参照頂
ドットのモノクロ液晶タッチパネルを提供する.また,赤
きたい.
2
3
http://www.microsoft.com/msagent/
4
http://www.ibm.co.jp/pc/home/c workpad.html
味あり)を入力するためのダイアログボックスをポッ
プアップ表示するようにした.この評価データは,次
の聴講推薦を計算する際に利用される.
• 名刺交換の履歴の閲覧:PalmGuide をインストール
した端末を向かい合わせて赤外線通信することで,名
刺交換が行える.名刺交換した相手の一覧を閲覧す
ることができる.
4.2
赤外線バッジシステム
PalmGuide よりももう少しカジュアルな携帯デバイス
図 2: 準備したパーソナルエージェントの 8 種類のキャラ
として,位置検出のための赤外線バッジを貸し出した.赤
クタ
外線バッジは,会場内での電子的な名札として身につけ
て利用するものである.
外線ポートを持つので,WorkPad 同士や他のパソコンと
会場の所々に設置された赤外線センサがバッジから定期
の無線通信が可能である.
的に発信されているバッジ ID を検出し,バッジユーザの
位置データを取得する.複数のセンサで獲得されたデー
タは 1 台のサーバに集められ,各ユーザの現在位置が参
照できるようなテーブルとして更新され,ネットワーク
上にブロードキャストされる.その情報を利用して,様々
なアプリケーションがユーザの位置情報を利用したサー
ビスを提供することができる.今回は,情報キオスク上
での地図表示やユーザの見学日記作成に,赤外線バッジ
システムのデータを利用した.
赤外線バッジシステムは ELPAS 社の EIRIS4 というシ
見学した展示の評価
を入力している画面
ステムを利用した.各バッジは 4 秒ごとにそれぞれのユ
ニークな ID を赤外線で発信し,近くの赤外線センサがそ
の信号を受信してユーザの存在を認識する.
希望者に配られた赤外線バッジ
デジタルポスタの発表ブース
図 3: PalmGuide の画面例
発信ボタン
図 3 に PalmGuide の画面例を示す.PalmGuide 上では
設置された
赤外線センサ
以下の 4 つの機能が提供された.
• 大会プログラムの閲覧(図 3 の左)
:日にち,セッショ
ン,発表の順に階層的に閲覧できるようにデザイン
した.各発表の概要や発表者の情報も閲覧できる.
• 聴講推薦の表示:現在の時刻,上記で入力された発表
図 4: 赤外線バッジとセンサ
への評価,後述のインタラクティブオーバービュー
で選択されたキーワードのデータを利用して,次に
図 4 にバッジの外観を示す.裏にはボタンがあり,その
聴講すべき発表の推薦をリスト表示する.
ボタンを押すとそのバッジの ID と共に特定の信号が発信
される.今回は,このボタンを「見学マーキングボタン」
• 聴講履歴の入力と閲覧:聴講した発表をチェックする
として利用した.すなわち,口頭発表を聴講したりデモ
ためのチェックボックスを提供した(図 3 の右).各
発表タイトルの横にある聴講済のチェックをすると,
を見学した際に,その発表が気に入った場合にはそこで
4
その発表の評価(1:興味なし,2:まあまあ,3:興
5
http://www.nc.nissho-ele.co.jp/ELPAS/
ボタンを押してもらうことにした.そして,そのデータ
をそのユーザの見学日記作成に利用した.
図 4 にあるように,会場に赤外線センサを設置した.
サーバ設置の関係で複数のフロアに同時にセンサを設置
することが難しかったので,今回は会場の 1 階(口頭発
表会場 A)でのセンサ設置は諦め,3 階にのみ設置した.
具体的には,3 つの口頭発表会場(会場 B,C,D)とデジタ
ルポスタ会場(会場 E)の各ブース(8 つ),そして後述
のエージェントサロンに 1 つ設置したので,合計 12 個の
センサを設置した.
4.3
情報キオスク
各口頭発表会場の入口近くに 1 台ずつ,合計 4 台の情
報キオスク端末を会場に設置した.図 5 に示すように,キ
オスク端末は通常の Windows パソコンに液晶タッチパネ
図 6: 情報キオスクの画面例
ルをつないだもので,街角にあるキオスク端末のような
情報キオスク端末は,PalmGuide や赤外線バッジのユー
感覚で利用することができる.
ザでなくても,利用することができる.PalmGuide ユー
ザの場合は,PalmGuide を赤外線接続することで情報キ
オスクのサービスを個人化することができる.具体的に
は,パーソナルエージェントが PalmGuide から情報キオ
スクに移動することで,画面上にはエージェントのキャラ
クタアニメーションが表示され,情報キオスクの利用案
内をしてくれる.また,インタラクティブオーバービュー
の内容を個人化することができ,キーワードの選択など,
前回利用したときの状態が再現される.
図 5: 情報キオスク端末を利用している様子
4.4
情報キオスクでは,以下のようなオンラインサービス
インタラクティブオーバービュー
Web を介して提供されるオンラインサービスのひとつ
を提供した.
として,インタラクティブオーバービューを提供した.こ
• 会場のフロアマップを提供した.画面の地図をタッチ
しながら,今現在,発表が行われているセッションや
めのビジュアルインタフェースである.発表や参加者間
発表の概要を閲覧できる.また,赤外線バッジシステ
の意味的な関連性をグラフ表示する Semantic map と呼
ムの情報が反映され,各会場のにぎわいや,そこに
ぶ Java アプレットを利用しており,本プロジェクトにお
れは,JSAI2000 の全発表と全参加者の情報を閲覧するた
いる人が誰なのかを見ることができる(図 6 参照). いてはサービス名をインタラクティブオーバービューと
• 全発表のインタラクティブオーバービューを提供した.
ユーザは,発表間の意味的な関連性を見たり,キー
した.
インタラクティブオーバービューの利用画面例を図 7 に
示す.ビジュアルインタフェースとしての Semantic map
ワードや参加者名から関連情報を閲覧することがで
の機能の詳細は文献 [8] を参照頂くことにして,ここでは
きる.
概要のみ紹介する.画面には発表のアイコン(長方形の
• 情報キオスクはインターネットに接続されているので, アイコン),トピックを表すキーワードアイコン(長円形
上記の会場地図やインタラクティブオーバービュー のアイコン),発表者のアイコン(長円形の別の色のア
から,各発表や発表者の詳細情報(発表概要,後述 イコン)が表示される.Web サーバ上のデータベースに
のディスカッションボード,発表者によって提供され は,各発表ごとに,キーワード,発表者が登録されてお
た Web ホームページ)を閲覧することができる.
6
h·ª·„+¡·q1¥tƒ
¡·q1B¦±Ž
\+1B¦±Ž
\+*1–·›•·s;1¥®j
\+12jN–·›•·s;1¥®j
×/ã;1¥®j
‚^tf~r¢®—·„;1¥®j
図 7: インタラクティブオーバービューの画面例
り,ユーザが選択したキーワード,発表者のアイコンと, 的に提供したホームページへのリンクをたどっていくこ
とができる.
それらが登録されている発表のアイコンが画面上に表示
される.その際,それらの登録関係を示すためにリンク
会場では情報キオスクのデフォルト画面や,エージェン
が表示される.また,大会中に PalmGuide ユーザが自分
トサロンの背景にインタラクティブオーバービューを表
の見学チェックの際に特定の発表について「興味あり」の
示し,オフサイトサービスにおいてもインタラクティブ
評価をつけた場合(図 4.1 参照),それらのアイコンの間
オーバービューを提供した.オフサイトサービスとして利
にもリンクがはられる.
用する際には,大会前の大会プログラムのプレビューと
画面の右側には,キーワードと登録された全てのユー
して利用したり,大会後の個人情報アクセスの入口として
ザ名がリスト表示され,そこから興味のあるものを選択
利用される.図 7 の例では,今インタラクティブオーバー
することができる.また,発表アイコンを右クリックする
ビューを利用しているユーザが自分のユーザ詳細ページ
ことでまだ選択されていないキーワードや発表者のアイ (画面左下)を開いているので,そこには,見学日記への
コンを表示することができ,ユーザはその機能を使って
リンクも表示される.他人の見学日記は参照できないよ
連想的に関連情報を閲覧することができる.
うにした.
画面の下部には,発表カテゴリの絞り込み選択のための
チェックボックスが用意されている.また,Web 上のシステ
4.5
ムであることの利点をいかして,現在選択中のキーワード
を検索クエリにして既存の検索エンジン(www.goo.ne.jp)
ディスカッションボード
大会期間前後の,発表者と聴講者の間の知識交流を深
に検索クエリを行う Web 検索ボタンを提供した.現在選
める手段の一つとして,オンライン上のディスカッション
択中の発表者や発表トピックに関連するページがヒット
ボードを提供した.ディスカッションボードは各発表ごと
したり,それ以外の関連ページを即時に見つけることが
に一つずつ用意され,各発表の詳細ページ(図 7 の右下
でき,単純な機能であるが意外と役立つものだと考える. のリンク)から入場することができる.会期前にあらか
本プロジェクトでは,インタラクティブオーバービュー じめ面白そうな発表の発表者に対して質問を投げかけた
をオンラインサービスのフロントエンドインタフェース
り,会期後により深い議論やその後の進捗状況を報告し
と位置づけた.図 7 にあるように,発表アイコンや参加
あったりするために活用されることを意図してサービス
者アイコンをダブルクリックすることで個別の詳細ペー
提供した.
ジを開くことができ,そこからさらに,各発表者が自発
図 8 にディスカッションボードの画面例を示す.インタ
7
PalmGuide使用時に
ユーザが選んだ
エージェントキャラクタ
名刺交換をした相手のリスト
発表タイトル
見学日時
発表概要
図 8: ディスカッションボードの画面例
興味が
あった発表
フェースはインタラクティブオーバービューとほぼ同じ
であり,発言と発言者の間の意味的な関係を可視化する
興味が
なかった発表
ことを意図している.発言アイコン(長方形のアイコン)
とその発言者のアイコン(長円形のアイコン),そして,
発表者が
提供した図
発言の際にサーバが自動抽出したキーワードのアイコン
(長円形の別の色のアイコン)が互いにリンクで結ばれる.
なお,キーワード抽出の際の構文解析ツールとして,奈
図 9: 見学日記の例
良先端科学技術大学院大学で開発された「茶筅5 」を利用
している.
ことで,間接的にユーザにおしゃべりやディスカッション
の話題を提供することを意図している.キオスク端末へ
4.6
見学日記
の接続のときと同じように,PalmGuide を赤外線接続す
ると,PalmGuide 上のパーソナルエージェントが画面上
PalmGuide もしくは赤外線バッジを利用することで,
に乗り移る.
ユーザの見学行動に応じた電子的な足跡が Web サーバに
エージェント同士のおしゃべりの内容は,各 PalmGuide
蓄積される.そのデータを使ったサービスのひとつとし
ユーザのそれまでの見学履歴や各発表に対する評価デー
て,見学日記の自動生成を行った.
タを利用したものである.興味が近いユーザ同士のエー
図 9 は PalmGuide ユーザの見学日記の例である.そこ
ジェントは,ユーザになり変わって,互いに自分達が気に
には,聴講した発表の一覧と,PalmGuide を使って名刺
入った発表を紹介し合ったりそれについての感想を述べ
交換した相手のリストが表示され,Web 上の各詳細ペー
あったりする.そのおしゃべりにつられて,ユーザ同士が
ジへのリンクが提供される.
会議に関係するより深いディスカッションを始めること
ができると考えた.
4.7
図 10 に,エージェントサロンの画面例と,会期中の様
エージェントサロン
子を示す.エージェントアニメーションの背景には,そこ
参加者同士の対面による「出会いと語らいの場」とし
にいるユーザたちの見学履歴に応じてフィルタリングさ
て,会場にエージェントサロン [9] を設置した.エージェ
れたインタラクティブオーバービューが表示される.画面
ントサロンは,複数のユーザが同時に利用できるように
はタッチパネルになっているので,エージェントのおしゃ
大画面のタッチパネルと Windows パソコンで構成されて
べりに応じて,インタラクティブオーバービューを触わ
いる.本プロジェクトでは,3 階会場のロビーの一角に設
りながら関連情報にアクセスすることもできる.
置した.
エージェントサロンは,複数のユーザの PalmGuide に
5
常駐しているパーソナルエージェントを大画面に乗り移
システムの利用データの分析
らせて,そこでエージェント同士におしゃべりをさせる
ここでは,システム利用のデータを分析し,サービス
5
利用の傾向やユーザの利用形態を読み取る.
http://cl.aist-nara.ac.jp/lab/nlt/chasen/
8
パーソナルエージェント
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ユーザアイコン
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発表アイコン
サロンエージェント
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個別の発表の
詳細ページ
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(1) 画面例
図 11: 発表申し込みの推移
Web による発表申し込みは,発表申し込み者に締め切り
を守らせるにあたって,少なからず効果があったことが
読み取れる.
発表申し込みの際に,JSAI2000 デジタルアシスタント
プロジェクトでの発表データ利用の可否について答えて
もらった.大会前の Web によるプレビューサービスの公
開にあたって,特許出願等の理由からアブストラクトを
公開されると困る,というケースがありうるからである.
(2) 2 人のユーザが利用している様子
具体的には,アブストラクトの公開の可否とそのタイミ
ングについてたずねた.その結果は以下の通りだった.な
図 10: エージェントサロン
5.1
お,以下には招待による発表も含んでおり,招待による
発表は無条件で「許可」にカウントした.
発表申し込みの受付
• 開催日前から許可する:214 件
プロジェクトの一貫で,Web による発表申し込み受付
• 開催日まで許可しない:29 件
を行った.Web による申し込みは ATR が運営するプロ
ジェクトホームページ上で行い,同時に,電子メールに
よる発表申し込みを学会事務局で受け付けた.その結果,
• 許可しない:7 件
Web による申し込み数が 217 件,電子メールからの申し
込み数が 16 件であった.人工知能学会の全国大会で発表
5.2
サービス利用者の人数分布
申し込みを Web で行うのは初めての試みであったにも関
本プロジェクトのユーザには,以下のいくつかの種類
わらず,ほとんどが Web による申し込みであった.
がある.ただしこれらは個人識別できるユーザの種類の
発表申し込み数の推移を図 11 に示す.正式な発表申し
みである.
込み締め切りは 3 月 24 日であったが,念のために,申し
込みページは週明けの 3 月 27 日の朝 10 時まで開けてお
• 登録ユーザ:本プロジェクトに登録されたすべての
いた.締め切り後に入力された発表データは 5 件のみで
ユーザ.発表申し込みの際に自動的に登録された発
あった.そのかわり,25 日以降の電子メールによる発表
表者や,オフサイトサービスの一貫で自ら登録した
申し込みは 10 件であった.電子メールによる申し込みは
ユーザが含まれる.
全体で 16 件しかなかったので,そのうちの半分以上が締
• PalmGuide ユーザ:会場での PalmGuide サービス
め切り後の申し込みであることになる.また,大会事務
を利用したユーザ.
局の経験談では,例年締め切り後に送られてくる発表申
し込みが全体の 1/3 程度を占めるということであったが,
今年は上記のたった 15 件のみであった.以上のことから,
9
• 赤外線バッジユーザ:会場での赤外線バッジサービ
スを利用したユーザ.
• オフサイトサービスユーザ:オフサイトサービスの
ページに少なくとも一度はログインしたユーザ.
会場では,PalmGuide 用の貸し出し端末を 50 台用意し
た.一度貸し出した端末は,会期中そのまま貸し出して
いたので,同一端末を複数のユーザに貸し出す割合は低
かった.図 12 にあるように,PalmGuide ユーザは 65 人
登録ユーザ(615人)
オフサイトユーザ(203人)
379人
162人
であったが,この中には,貸し出し端末ではなく,自分の
PalmOS 搭載端末を利用したユーザ(確認したのは 5 人)
が含まれる.最近,PalmOS 搭載端末の普及が延びてい
るので,近い将来同様のサービスを考えるとき,端末の
11人
P 9人
ユ alm
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ザ id
(6 e
5人
)
23人
7人
22人
貸し出しは必要なくなるかも知れない.
赤外線バッジは,100 個以上準備していたが,利用者数
2人 ジ
ッ 人)
は少なかった.情報キオスク上の会場地図アプリケーショ
線バザ(54
外
赤ユー
ン(図 6)は多くの赤外線バッジユーザがいることで効果
が上がるものであると期待したが,低調であった.本来,
こういったバッジは大会参加者全員に配られると利用効
果が上がり,かつ,貸し出し回収作業の手間が大幅に軽減
大会参加者(例年600人強)
されるが,EIRIS の赤外線バッジは高価で,600 人の会議
参加者全員の分を用意することは不可能であった.今後
図 12: システム利用ユーザの種類と人数分布
は,回収不要な程度の安価な無線 ID タグを利用したバッ
ジやカードを採用するのもひとつの手段である.
これらのユーザグループは互いに重なり合う.その関
会場での赤外線バッジの準備は混乱を来たすと予想し,
係と人数分布を図 12 に示す.これから以下のことが読み
会期に先だちプロジェクトホームページ上で,赤外線バッ
取れる.
ジの利用希望者を募集した.しかし,募集期間が極めて
短く(3 日間),自発的な応募はわずか 15 人であった.そ
• オンサイトで PalmGuide もしくは赤外線バッジを利
用したユーザの半分以上はオフサイトサービスにも
こで,大会のプログラム委員に協力を依頼し,さらに 17
人分のバッジを事前に用意した.
ログインしていることがわかる.
図 12 の結果の理解をさらに深めるために,オフサイト
• オフサイトサービスユーザのうち,オフサイトサー
ビスのみを利用しているユーザが 203 人中 162 人も
いる.これは,大会参加とは関係なしに,オフサイ
サービスユーザ(オフサイトサービスに,少なくとも 1 度
はログインしたユーザ)の数を,そのユーザ登録手段に
応じて分類して集計してみた.
トサービスのみを利用したユーザが少なからずいた
1 件以上の発表の著者となっている発表者と,発表がな
くてもセッション座長である人など,事前に大会に参加
する可能性があることがわかっているユーザについては,
ことが影響している.
• PalmGuide,赤外線バッジ,オフサイトサービスのい
自動的にユーザ登録がなされる.一方,聴講のみで大会
ずれも利用していないユーザが,登録ユーザの 60%以
に参加する人や,大会に参加しないでオフサイトサービ
上を占める 379 人いた.その中の多くは,登壇者以
スのみを利用する人は,自発的にユーザ登録する必要が
外の発表者であり,発表申し込みと同時に自動的に
ユーザ登録はされたものの,大会には参加しなかっ
ある.
たり,システムの利用動機が低いユーザであったと考
表 1: オフサイトサービスへログインしたユーザの数
える.また,キオスク端末のみを利用しているユー
ザは数え上げる手段がないので,これらのユーザが
すべて JSAI2000 デジタルアシスタントをまったく
自動登録ユーザ
自発的な登録ユーザ
全体
利用していないわけではない.
登録 ログイン ログイン率
(人)
(人)
( %)
479
87
18.16
136
116
85.29
615
203
33.01
• PalmGuide ユーザと赤外線バッジユーザに大きな重
なりがある.これらのシステムの利用は希望者に提
表 1 は,自動的に登録されたユーザと,サービスを利用
供されたものなので,本プロジェクトに興味を示す
するために自発的に登録したユーザの,オフサイトサー
人は両方とも使ってみようとする人が多かったため
ビスへのログインの割合を比較したものである.前者の
であろう.
ログイン率は 5 人中 1 人に満たない程度であるが,後者
10
はログイン率が高い.システム利用の動機が高いためで
オフサイトサービス利用
あろう.
オフサイトサービスの利用傾向
5.3
ホームページ閲覧
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
日
6
2
月
6
ここでは,オフサイトサービスの利用状況の推移を見
日
7
2
月
6
日
8
2
月
6
日
9
2
月
6
日
0
3
月
6
日
1
月
7
日
2
月
7
日
3
月
7
日
4
月
7
日
5
月
7
日
6
月
7
日
7
月
7
日
8
月
7
日
9
月
7
日
0
1
月
7
日
1
1
月
7
日
2
1
月
7
日
31
7月
日
41
7月
大会期間
る.図 13 は,あらかじめ自動登録されていない人による
で
ま
日
13
月
7
で
ま
日
13
月
8
ユーザ登録と,オフサイトサービスログインの頻度を,一
日ごとに集計してそのアクセス数の推移をグラフにした
図 14: オフサイトサービスへのアクセスの推移
ものである.なお,オフサイトサービスは大会の 10 日前
の 6 月 24 日から開始し,6 月 26 日夜に人工知能学会が会
インタラクティブオーバービュー
見学日記
議等の告知案内用に運営しているメーリングリストでア
ディスカッションボード起動
ディスカッションボード発言
100
ナウンスを行った.
80
60
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0
日
1
月
7
日
2
月
7
日
3
月
7
日
4
月
7
日
5
月
7
日
6
月
7
大会期間
日
7
月
7
日
8
月
7
日 で で
日
日
3
2 日
9 日
1
0 日
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1 1
1
月
日 日
月 月
7 7
月 7
7 7月 13 13
7 月
月
8
7 月
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日
日
日
0
9 日
8
7 日
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月
月 6
月
6 6
6 月
6 月
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20
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40
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図 15: オフサイトサービスの利用の推移(約 2ヶ月間の 1
日ごとの集計)
次に,図 14 で見たサービス利用数の推移をさらに詳細
図 13: ユーザ登録とオフサイトサービスへのログインの
に見るために,個別のサービスごとの利用頻度の変化を
推移
図 15 に示す.インタラクティブオーバービューはほぼ一
貫してアクセス数が高く,会期前のプレビューとして機
ユーザ登録数,ログイン数,共に,週末の落ち込みを
能していたことがわかる.ディスカッションボードは,大
挟みながらも,大会期間前後を通して,利用数を保って
会前後を通してそれなりに起動はされているが,発言数
いることがわかる.また,会期前のログイン数が期間中
は極めて少なかった.記名によるディスカッションシステ
よりも多いことは注目に値する.Web というメディアを
ムなので,書き込みの動機付けやユーザ間の議論参加意
利用して,会期前に参加者間の情報共有を促進するため
識を共有するアウェアネスを高める仕組みが今後重要で
の手段を提供することへの可能性を示している.
あると考える.見学日記は会期中のオンサイトサービス
同様に,オフサイトサービス利用と,プロジェクトホー
利用が反映されるサービスなので,大会期間以降のみに
ムページへのアクセスの推移をグラフにしたものを図 14
利用されている.見学日記は継続的な情報交流の手段と
に示す.オフサイトサービス利用とは,会場以外から Web
しては便利であると考えたが,アクセス数は芳しくない.
を介してオンライン上のサービス(インタラクティブオー
見学日記の利用動機は,ユーザ本人の会期中のオンサイ
バービュー,ディスカッションボード,日記閲覧,個人情報
トサービスの利用量だけでなく,他のユーザが発信する
変更,パスワード変更)を実行したしたときの CGI アクセ
情報の量に強く依存すると考えるが,今回は発表者によ
スを数えたものである.ホームページアクセスは,ホーム
る情報発信が少なかったためであろう.
ページ上でプロジェクトについて紹介している html ファ
イルが参照された回数を数えたものである.このグラフ
5.4
を見ると,先の図 13 と傾向が似ていることがわかる.大
会前後を通してホームページの閲覧よりもサービス CGI
オンサイトサービスの利用傾向
ここでは,会場でのサービス利用の傾向をみるために,
へのアクセスの方が多いことがわかるが,会期終了から 1
最もカジュアルなシステムとして多くの人に利用された情
週間以上たつと,サービス利用の方が減少することが読
報キオスクの利用頻度を会期中 1 時間ごとに集計したグ
み取れる.
ラフを図 16 に示す.会場には据え置き型の端末として,4
11
ラフ形状と似通っていることが確認できる.目立った傾
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c·sb®ƒp¨®Ñª
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向としては,見学日記アクセスが,会期の前半よりも後
半になるにつれて増えていることである.PalmGuide や
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赤外線バッジの利用データが増えていくにつれて,見学
‰‡
日記閲覧の動機が高まるからであろう.
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図 16: 情報キオスク利用の推移
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台の情報キオスク端末と,1 台のエージェントサロンを設
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置した.そこで,PalmGuide を赤外線接続することによっ
‡‘‡‡
‡
てサービス内容を個人化して利用した回数と,PalmGuide
を接続せずにゲストユーザとして利用した回数を分けて集
図 18: オフサイトサービスの利用の推移(大会期間中の
計した.エージェントサロンについては,PalmGuide によ
1 時間ごとの集計)
る接続のみが本来の利用の仕方なので,PalmGuide による
接続回数を数えた.その結果,ほぼ一貫して,PalmGuide
会場地図とエージェントサロンはオンサイトのみのサー
による接続無しのキオスク利用が最も多かった.デジタル
ビスであるが,他の 3 つのオンラインサービスはオフサ
ポスタセッション,プレナリセッション,レセプションな
イトサービスでも提供されている.図 17 で示した会場で
どの大会プログラムとシステム利用頻度に相関が見られる
の利用傾向と比較するために,オフサイトからのこれら 3
かと思っていたが,特に目立った相関は見られなかった. つのサービス利用についてのグラフを図 18 に示す.利用
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頻度のグラフの山が午後から夕方にシフトしていること
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が読み取れる.また,オフサイトからのアクセスの場合
Ž¬ã
でもオンサイトの時と同様に,会期後半になるにつれて
Ž¬Žã
見学日記閲覧の利用回数が増えていることが確認できる.
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5.5
‰‡
ˆŒ
PalmGuide ユーザのサービス利用傾向
ここまでは全ユーザによるシステム利用量の総数を見
ˆ‡
てきたが,ここでは個別のユーザごとのシステム利用傾
Œ
向を見る.
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‡‘‡‡
‡
オンサイトサービスのサービス利用傾向を,ユーザ識
別しながら分析するために,PalmGuide 上のサービス利
用傾向を調べる.図 19 が各機能ごとの利用回数に対する
図 17: オンサイトサービスの利用の推移
ユーザ数の分布である.PalmGuide を利用したキオスク
据え置き端末(情報キオスク端末とエージェントサロ
端末へのアクセスや名刺交換については,まったく利用し
ン)を通して利用されるオンラインサービスの利用頻度
なかった人が最も多く,利用回数が多くなるに連れて徐々
の推移を図 17 に示す.インタラクティブオーバービュー
にユーザ数が少なくなっていく傾向が確認できる.それ
の利用数が他のサービスに比べて顕著に大きくなってい
に対し,見学チェック機能は,ユーザごとに利用回数がま
るが,これは,情報キオスクのデフォルト画面をインタ
ちまちであることがわかる.見学チェックの数が 10 を越
ラクティブオーバービューにしているためである.グラ
えるユーザ数が全体の半数を越え,30 を越える見学チェッ
フの形状が図 16 の PalmGuide 無しのキオスク利用のグ
12
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(1) 見学履歴入力
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(2) PalmGuide によるキオスクアクセス
(2) インタラクティブオーバービュー起動
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(1) オフサイトサービスへのログイン
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(3) 名刺交換利用
(3) インタラクティブオーバービュー上でのキーワード選択操作
図 19: PalmGuide の利用頻度のユーザ分布
図 20: オフサイトサービスの利用頻度のユーザ分布
クを行ったユーザが 11 人もいることは期待以上の結果で
た結果を図 20 (2) に示す.多くのユーザが数回程度はイ
あった.
ンタラクティブオーバービューを起動していることがわ
かる.
5.6
インタラクティブオーバービューの利用の実態を見る
オフサイトサービスユーザのサービス利 ために,キーワード選択操作の回数を数えてみた結果を
用傾向
図 20 (3) に示す.一度もキーワード選択しないユーザが
同様に,オフサイトサービスユーザ(オフサイトサー
1/3 以上いることから,とりあえず起動してみた,という
ビスに 1 度以上ログインしたユーザ)のサービス利用傾
ユーザが少なからずいることがわかる.その一方で,ロ
向を調べた.図 20 (1) からわかるように,ログイン回数
グイン数やサービス起動数で見られたような,使用頻度
については約半数のユーザが 1 回のみであった.多いユー
が上がるにつれてユーザ数が単調に減少するという傾向
ザは 2ヶ月の調査期間内に 40 回近くログインしている.
は見られず,キーワード選択操作の数はユーザによって
オンラインサービス中で最も利用されていたのはイン
様々であることがわかる.20 回程度キーワードを選択操
タラクティブオーバービューなので,それについて調べ
作を行うユーザが最も多いようだが,多いユーザは数 100
13
回もキーワード選択を行っている.ちなみに,最も使用
数と,ディスカッションボード起動数および見学日記閲覧
回数の多いユーザはそのほとんどが大会期間前の操作で
の間に相関が見られるので,インタラクティブオーバー
あった.つまり,大会参加前のプレビューの段階で,丁寧
ビューを開いた際には,そこを入口としてディスカッショ
に発表データを閲覧したのだと思われる.
ンボードや見学日記も閲覧する割合が高いことが読み取
れる.
5.7
各種サービス間の相関分析
ユーザの情報発信
5.8
さらに詳細なサービスの利用傾向を調べるために,ユー
ザ個人ごとのサービス利用頻度データを利用して,各種
オフサイトサービスの一貫として,ユーザ自ら発表デー
サービス間の相関分析を行った.
タや個人データを情報発信できる仕組みを提供した.具体
まず最初に,PalmGuide ユーザを母集団にして相関分
的には,ユーザ自らが Web 上で公開している情報の URL
析を行った結果を表 2 に示す.ここでは,PalmGuide が
を入力すると,その URL へのリンクを発表詳細ページや
提供する機能だけでなく,PalmGuide ユーザのオンライ
ユーザ詳細ページに自動的にはりつける CGI を提供した.
ンサービス全般の利用傾向を調べるために,オフサイト
利用された件数は以下の通りである.
サービスへのログイン数や各種オンラインサービスの利
• 発表に関するホームページ登録数:4 件
用頻度についても調べた.
• 発表に関する画像データ登録数:2 件
文献 [5] にならい,相関の値が 0.4 以上になっているも
のについてはサービス間に相関があると解釈して,太字
• 個人ホームページ登録数:44 件
で表示した.意外なことに,PalmGuide が提供する機能
• 個人の顔写真データ登録数:15 件
同士の相関は見られなかった.また,見学チェックや名刺
交換の利用が見学日記閲覧と相関を持つのではないかと
発表数やユーザ数の多さに比べると上記の数字はかなり
想像していたが,それも期待を裏切った.一方,オフサ
低いものだった.
イトサービスへの会期前のログイン回数と,調査期間中
Web をメディアとして利用した継続的な情報共有の枠
組みとしては,このような各ユーザ主導による分散的な
全体のログイン回数の間に顕著な相関が見られる.つま
り,オフサイトサービスへのログインのほとんどが会期
アーキテクチャに基づくことが重要であると考えるが,少
前になされていると解釈することができる.また,会期
なくともその仕組みが数人のユーザには理解されて機能
前のログイン数とインタラクティブオーバービューの起
したことは確認できた.今後は,その利用動機を高める
動数の間にも相関が見られる.したがって,少なくとも
工夫が必要であると考える.
PalmGuide ユーザについては,会期前から本プロジェク
トのサービス利用の動機付けが高かったということを意
味している.
アンケートによる評価分析
6
表 2 からは,PalmGuide の機能間の相関よりもオンラ
インサービス間の相関が確認された.そこで,分析の母集
貸し出していた携帯端末(WorkPad)の返却の際にア
団をオフサイトサービスユーザにして同様の相関分析を
ンケート回答をお願いし,35 人から回答が得られた.
行えば,その傾向はさらに顕著に現れると想像する.結
果を表 3 に示す.なお,図 12 に見られるように,オフサ
6.1
イトサービスユーザの多くが PalmGuide ユーザではない
ので,PalmGuide の機能についての分析は省く.
各サービスへの主観評価
会場で提供したサービス(PalmGuide,情報キオスク,
結果は予想通り,オンラインサービスの利用頻度間の
エージェントサロン)について,それらの機能を利用し
相関が高かった.PalmGuide ユーザと傾向が異なり,会
たか(または,気づいたか),そして,その場合それらは
期前,会期中,会期後のログイン数が,ログインの合計
有効だったかをたずねた.また,大会前に Web を通して
数およびインタラクティブオーバービューの起動数と相
提供されたプレビューサービスについても同様に回答し
関を持っている.このことは,オフサイトサービスユー
てもらった.表中の数字は人数である.回答結果を集計
ザについては,大会期間に関係なく,長いタイムスパン
したものを表 4 に示す.
で継続的にオフサイトサービスを利用していることを意
アンケート結果から読み取れることを以下に箇条書き
味している.また,インタラクティブオーバービュー起動
する.
14
表 2: PalmGuide ユーザによる各種サービス利用データ間の相関関係
kiosk
record
card
login(1) login(2) login(3) login(t) overview discuss
kiosk
1
record
.2605
1
card
.0926
.2716
1
login(1)
-.1853 -.0520 -.0014
1
login(2)
-.0410
.0868
.0030
-.0785
1
login(3)
-.0102
.2878
-.0249
-.0359
-.0821
1
login(t)
-.1914
.0493
-.0076
.9388
.1332
.2223
1
overview
-.1920
.0576
-.0039
.6668
.3514
.1474
.7669
1
discuss
.0532
.3783
.1080
.0296
.1075
.3567
.1521
.1215
1
diary
.0502
.1928
.0062
-.0733
.3778
.0000
.0167
.4245
.3617
kiosk:キオスクアクセス,record:見学チェック,card:名刺交換,
login(1,2,3,t):オフサイトサービスログイン(会期前, 会期中, 会期後, 合計),
overview:インタラクティブオーバービュー,discussion:ディスカッションボード,diary:見学日記
diary
1
表 3: オフサイトサービスユーザによる各種サービス利用データ間の相関関係
login(1) login(2) login(3) login(t) overview discuss diary
login(1)
1
login(2)
.3161
1
login(3)
.2803
.3315
1
login(t)
.9207
.5687
.5720
1
overview
.8737
.4912
.5347
.9354
1
discuss
.6898
.2064
.2771
.6557
.6684
1
diary
.2732
.1908
.0465
.2675
.4226
.2762
1
login(1,2,3,t):オフサイトサービスログイン(会期前, 会期中, 会期後, 合計),
overview:インタラクティブオーバービュー,discussion:ディスカッションボード,
diary:見学日記
• PalmGuide で提供された機能については,名刺交換
機能を除いて,概ねほとんどのユーザに利用され,そ
• 大会前のオンラインサービスを利用し,それに有効
性を認めるユーザは少なかった.オフサイトで提供さ
の有効性についても好意的な結果が得られた.
れるサービスよりも会場でのサービスの方が,利用
の動機付けが強いので,より有効に働くのであろう.
• PalmGuide から情報キオスク端末へのパーソナル
エージェントの移動については,その枠組みが初め
6.2
て利用するユーザに受け入れられるか不安であった
が,概ね受け入れられたようである.
電子的サービス一般について
学会イベントにおいて今後もデジタルアシスタントが
• 情報キオスクから,発表者が提供している Web ホー
ムページを参照できるようになっていたが,その機
必要であると思うかという質問に対しては,35 人中 27 人
が必要であると答え,必要ないと答えた人は 1 人もいな
能自体に気づいていない人が多かった.このことは, かった.とは言うものの,端末やバッジの配布について
発表者による情報発信そのものが大変少なかったこ は,全員に配るべきと答えた人が 10 人であるのに対し,
と(5.8 節参照)が影響していると考える.
希望者だけで良いという人が 19 人と多かった.
では,どのようなサービス提供の形態が望ましいかと
• 情報キオスクで提供しているインタラクティブオー
バービューとエージェントサロンの背景に表示してい
いう質問(複数回答)には,携帯 PDA を望む人が最も多
く 29 人であり,バッジを望む人が 10 人,キオスクを望
る Semantic Map は内容は同じものであり,発表や
大会参加者の関連をグラフ表示するものである.が,
む人が 10 人で,携帯パソコンを望む人は 3 人だけだった.
エージェントサロンでの Semantic Map の方が,有
効性についての反応が若干良かった.1 人で利用する
6.3
コメント
タイプの情報キオスクよりも,複数のユーザで一緒
選択式のアンケートに加えて,自由記入のコメントを
に会議情報を共同ブラウズすることが有効であるこ
書いてもらった.そのうちのいくつかを紹介する.
とを示していると考える.
15
表 4: 各サービスのユーザ評価
サービス内容
PalmGuide
・発表の概要表示
・お勧めの発表の提示
・見学履歴と評価の記録
・名刺交換
情報キオスク
・PalmGuide からのエージェントの移動
・インタラクティブオーバービュー
・会場地図
・Web ホームページへのリンク
エージェントサロン
・エージェントのおしゃべり
・背景に表示された Semantic Map
大会前のオンラインサービス
・インタラクティブオーバービュー
・ディスカッションボード
使った・気づいた
はい いいえ 無回答
はい
いいえ
有効だった
どちらでもない
無回答
33
30
25
19
1
4
9
16
1
1
1
0
28
13
16
7
2
8
3
6
1
8
11
11
4
6
5
11
29
21
23
14
6
14
12
21
0
0
0
0
17
14
15
8
0
5
2
3
9
6
6
9
9
10
12
15
25
25
10
10
0
0
11
18
2
1
10
4
12
12
13
9
22
26
0
0
8
2
3
3
7
9
17
21
• PDA では表示・操作共に不十分なので,サービスソ
フトやデータが PC カードで提供され,自分が持ち込
なサービスは,互いに作用し合うことでその利用の動機
や効果を高めるものであると考える.したがって,今回
んだノートパソコンで利用できるようになると良い. のような電子的サービスを継続的に続けていき,学会コ
ミュニティの中の文化として根付かせることが必要だと
• 興味を共有する人との待ち合わせやミーティングを
調整するサービスがあると良い.
考える.
なお興味深い傾向として,オフサイトサービスユーザ
• PalmGuide や赤外線バッジで入力した発表に対する
評価を,発表者にフィードバックすると良い.
の中には,必ずしも大会に参加していないユーザが少な
からずいることがわかった.そうだとすると,今回のよ
うなデジタルアシスタントサービスは,大会参加者に限
• ディスカッションボードの周知と,利用を促進する
るべきサービスなのか,少なくとも学会員に限るべきな
仕掛けがあると良い.
のか,それとも学会活動内容の発信手段として広く開放
• PalmGuide に,スケジュール管理やアラーム機能が
欲しい.
すべきなのか,学会の在り方や,学会イベントへの参加
形態を考え直す材料になるかも知れない.
最後に,本プロジェクトで残された課題を列記するこ
• 電子化データの中に発表論文自体を含むか,もしく
とで,今後の人工知能応用研究の課題の提案としたい.
は予稿集との連携(ページ数を掲載する等)を高め
• オントロジーの生成と運用:本プロジェクトでは 3.4
て欲しい.
節に示したように非常にアドホックなシソーラスを
• 見学日記はありがたい.
利用した.学会イベントなどで実用できるような人
工知能コミュニティの知識流通基盤としてのオント
7
ロジーが求められる.そのためには,コミュニティの
おわりに
中で協調的にオントロジーを生成し運用していく技
術が求められる.
2000 年度人工知能学会全国大会で実施されたデジタル
アシスタントサービスについて,実データを交えて詳細
• 発表プログラムの半自動生成:プログラム委員会で
に記述した.今後,このような試みがなされるときの参
大会プログラムを作成する際に,インタラクティブ
考になれば幸いである.
オーバービューの利用を試みたが断念した.インタ
今回の試みは,サービスを運営する側も利用する側も
ラクティブオーバービューは,情報から情報へ連想
経験が浅かったこともあり,本当の意味で,情報交流のた
的・発散的に探索するためのツールであるが,プログ
めに活用されたと言えるところまではいっていないと感
ラム生成は収束解を見つける作業であるからである.
じた.オンラインによる会期前後の情報発信や共有,会
プログラム生成は典型的な制約充足問題であるので,
場での発表,聴講,顔を合わせた議論を支援する電子的
是非,その研究領域の成果を活用すべきである.
16
• 見学推薦とプランニング:実環境での行動を伴うユー
ザ個人個人の状況を認識するユーザモデリング技術
[2] Gitta B. Salomon. Designing casual-use hypertext: The
CHI’89 InfoBooth. In Proceedings of CHI’90, pp. 451–
458. ACM, 1990.
と,それに合わせた見学推薦や見学のプランニング
[3] Anind K. Dey, Daniel Salber, Gregory D. Abowd, and
Masayasu Futakawa. The conference assistant: Combining context-awareness with wearable computing. In The
third International Symposium on Wearable Computers,
pp. 21–28. IEEE, 1999.
技術が求められる.
• 大量データからの知識発見:デジタルアシスタント
サービスでは,大量の発表データや参加者の行動デー
タを扱う.大量データからの知識発見技術を,コミュ
ニティ内の情報共有のプロセスに組み込む応用研究
が重要であると考える.
• 出会いや対話の支援:デジタルアシスタントサービ
スは多くの個人情報を扱い,それを元にしてユーザ
[4] Richard Borovoy, Fred Martin, Sunil Vemuri, Mitchel
Resnick, Brian Silverman, and Chris Hancock. Meme
Tags and Community Mirrors: Moving from conferences
to collaboration. In Proceedings of CSCW’98, pp. 159–
168. ACM, 1998.
[5] 石田亨, 西村俊和, 八槇博史, 後藤忠広, 西部喜康, 和氣弘明,
森原一郎, 服部文夫, 西田豊明, 武田英明, 沢田篤史, 前田晴
美. モバイルコンピューティングによる国際会議支援. 情
報処理学会論文誌, Vol. 39, No. 10, pp. 2855–2865, 1998.
間の出会いや対話の支援を試みるプラットフォーム
である.それは,人と人の間にメディアとしての機
[6] 角康之, 江谷為之, シドニーフェルス, ニコラシモネ, 小林
薫, 間瀬健二. C-MAP: context-aware な展示ガイドシス
テムの試作. 情報処理学会論文誌, Vol. 39, No. 10, pp.
2866–2878, 1998.
械的な知性が介在して個人に分散した情報の活用を
したり,個人のプライバシーの問題を扱う必要があ
るという点で,典型的なマルチエージェントシステ
[7] 角康之, 間瀬健二. 展示見学を対象としたコミュニティ支
援システム. 第 13 回人工知能学会全国大会, 1999.
ムの応用対象であると考える [10].
謝辞
[8] 角康之, 間瀬健二. 実世界コンテキストに埋め込まれたコ
ミュニティウェア. 情報処理学会論文誌, Vol. 41, No. 10,
pp. 2679–2688, 2000.
JSAI2000 デジタルアシスタントプロジェクトは,多く
の方々の協力のもとに実施された共同プロジェクトであ
[9] 角康之, 間瀬健二. エージェントサロン:パーソナルエー
ジェントを介した知識交流支援. 第 14 回人工知能学会全
国大会, 2000.
[10] 角康之, 角薫, 間瀬健二. 出会いを支援するエージェント.
長尾確(編), エージェントテクノロジー最前線, 第 8 章,
pp. 167–200. 共立出版, 2000.
る.システムの開発,プロジェクト運営,会場での作業の
ほとんどを担当頂いた山本哲史氏,宅見正氏,田中康博
氏,エージェントキャラクタのデザインとイラストレー
ションを担当頂いた中尾恵子氏,ATR 知能映像通信研究
所のネットワーク管理者の大槻弘幸氏,EIRIS システム
の準備にご協力頂いた日商エレクトロニクス,本プロジェ
クトの運営を支援頂いた大会事務局の八木橋利昭氏,岩
田和秀氏,森本悦子氏と JSAI2000 プログラム委員会およ
び大会委員会の皆様,本プロジェクトを研究の一貫とし
て実施する機会を与えて頂いた ATR 知能映像通信研究所
の酒井保良会長,中津良平社長,間瀬健二室長,データ
作成や会場での受付業務に携わって頂いた学生アルバイ
トの皆様,そして本プロジェクトにご協力頂いたすべて
の皆様に深く感謝します.なお,本プロジェクトの一部は
人工知能学会の活性化資金により実施された.
参考文献
[1] Toru Ishida, Toyoaki Nishida, and Fumio Hattori.
Overview of community computing. In Toru Ishida, editor, Community Computing: Collaboration over Global
Information Networks, chapter 1, pp. 1–11. John Wiley
& Sons, 1998.
17
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