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セミナー・パネルディスカッション概要(PDF/318KB)
2015 年 10 月 14 日 JICA 南アジア部 2015 年 10 月 9 日 ( 金 ) 開 催 JICA セ ミ ナ ー : ニ ュ ー ヨ ー ク 大 学 バ ー ネ ッ ト ・ ル ー ビ ン 教 授 に よ る 「 「 変 革 の 10 年 」 を 迎 え た ア フ ガ ニ ス タ ン ~ 今 後 の 展 望 と 課 題 ~ 」 概 要 1. 講 演議事録 10:00-10:05 開会のご挨拶(荒井南アジア部長) 本セミナーに参加いただき感謝。政府関係者、研究者、有権者、NGO 関係者のほか、一 般企業からも参加いただいている。 国土面積は日本の約 1.7 倍、人口 3,000 万人を擁するアフガニスタン。アフガニスタンは その地政学的な重要性から、「文明の十字路」といわれ、南アジアと中央アジア、そして、 西アジアと東アジアを結ぶ交通の要衝であった。また、歴史上、大国の進出により争いの歴 史と民族・言語・文化の多様性に向き合ってきた。 2014 年 9 月に実施された大統領選挙は、史上初めて民主的な選挙により政権が交代し、 ガーニ政権が誕生。今年アフガニスタンは「変革の 10 年」を迎え、ガーニ政権によるアフ ガニスタンの自立に向けた本格的な取り組みが開始。 一方、先週(9 月末)、クンドゥズ州を巡るタリバンとの交戦が勃発したほか、依然とし て IS を名乗る勢力などによるテロ攻撃が発生しており、アフガニスタンは不安定な情勢が 継続。 このような状況の中、日本をはじめとする国際社会は、アフガニスタンにおける平和構築 と復興支援を継続して積極的に行ってきている。2012 年 7 月の「アフガニスタンに関する 東京会合」では、5 年間で開発分野及び治安維持能力の向上に対し、最大約 30 億ドル規模 の支援を行うことを表明。 この日本政府の支援方針を踏まえ、JICA は治安状況に細心の注意を払いながら、アフガ ニスタンの平和と繁栄、日本とアフガニスタン友好のさらなる発展のため、雇用創出を含む 経済成長と民生の安定化や人材育成に貢献する事業を展開してきた。 ①カブール首都圏開発を中心とするインフラ整備と農業・農村開発を最重点分野として位置 づけ、 ②5 年間で 500 人の長期研修員を日本の各大学院に受け入れる未来への架け橋・中核人材育 成プロジェクト(PEACE)を実施、 ③来週(10 月 12 日)から、トルコと協力し、アフガニスタン女性警察官に対するジェンダ ー分野のセミナーを実施。日本はこれまで600名以上のアフガニスタンの女性警察官に対 する訓練実施を支援し、女性に対する暴力防止、被害者救済等に係る警察官や司法関係者、 地域住民向けの訓練や啓発活動を支援。この訓練の一環として、来週からトルコにおいてア フガン女性警官に対するセミナーを実施予定。 このような状況の中、現在アフガニスタンが直面する課題を考察し、アフガニスタンの平 1 和構築に向けて、日本と国際社会は何が出来るのか、また、何をすべきなのかという今後の 支援のあり方を考えるひとつの機会として、アフガニスタン研究の第一人者でもあるニュー ヨーク大学国際協力センターのディレクターを務める、バーネット・ルービン教授を招いた。 多忙なスケジュールにもかかわらず、今回訪日していただき感謝。 ルービン教授は、アフガニスタン戦争開始直後の2001年11月~12月ブラヒミ・ア フガニスタン国連事務総長特別代表シニアアドバイザー、2009年から4年間米国務省大 統領付特別代表(アフガニスタン・パキスタン担当)シニアアドバイザーを務めたほか、20 13年には、冷戦期から911米国同時多発テロ発生に伴うテロとの闘いまで、ご自身のア フガニスタン経験やアフガニスタン政策にかかる提言等を綴った著書「Afghanistan from the Cold War through the War on Terror」を出版。 ルービン教授にはセミナーの後、JICA 研究所所長の畝伊智朗氏がモデレーターを務め、 カレーズの会理事長レシャード・カレッド医師、日本エネルギー経済研究所中東研究センタ ー長の田中浩一郎氏、JICA 国際協力専門員の中原正孝氏がディスカッサントとして参加す るパネル・ディスカッションにも参加いただく。本日、この場がアフガニスタンの平和と繁 栄に向けた支援に関する積極的な意見交換の場となることを期待。 10:05-10:50 バーネット・ルービン氏基調講演 本日はお招きいただき JICA に感謝。この後中国を訪問する予定。 2012 年 7 月の東京会合において、国際社会は東京宣言を表明し、「持続的な経済発展と 開発と財政的な自立を通じて、平和で安定した自律的なアフガニスタンを実現する」ことを 目指している。この達成に向けて、2015-2024 年を変革の 10 年と位置付け、多くのドナー が支援を行ってきた。しかし、アフガニスタンは現在も 19-20 世紀の植民地宗主国の影響に より、援助なくして自立的な持続的な国家運営ができない構造となっている。財政的な依存 (Fiscal non-self-reliance)はアフガニスタン国家の構造的な特徴といえる。 この歴史は、19 世紀にカルカッタの東インド会社への補助金要求に始まり、インドの財 政危機により停止されるまで続いた。2012 年の東京宣言よりも 1879 年の第二次アフガン 戦争時のガンダマク条約はより拘束的であり、補助金と引き換えにアフガニスタンは英国の 外交政策に従属する国家となった。また、補助金と引き換えに後にデュランド・ラインが引 かれることになる。 その後、王位に就いたアミールは英国政府の助言に従って外交を執り行い、補助金の支援 を受け取り続けた。その後、1919 年に即位したアマヌッラーは、第一次世界大戦により財 政危機に陥り疲弊した英国に対し、第三次アフガン戦争を起こし、独立を獲得したものの、 増税等を試みた結果、国家としての体制は脆弱となり、1929 年退位。1950 年台には、アフ ガニスタンはソ連への軍事支援を求め、ソ連依存を強めた結果、クーデター、ソ連軍侵攻へ と続いた。政府はソ連軍なしでも 3 年間持続したが、ロシアからの援助なしでは 7 ヶ月し 2 か持たなかった。 東京宣言はこの 10 年間で先細りしつつある、アフガニスタンへの補助金・援助の過去か らの継続であるが、アフガニスタンの歴史における負の連鎖を断ち切ろうとしたものである。 一方で、9.11 以降の国際社会への関心もあり、またアフガニスタンが内陸国であり国内市 場が育っていない状況からも、かつてない援助依存の状況を生み出していると言える。パキ スタン・米国との関係等もあり、国家へのプレッシャーは相当なものとなっている。 アフガニスタン国内市場の未成熟のみならず、国際市場への連結は深水港へのアクセスが パキスタンのカラチのみであり、かつてはデリーへのアクセスがあったが、インド・パキス タン国境のアクセスがないため 1300 ㎞、18 時間程度の距離にあるデリーへは、中国を経由 するしかない(5000 ㎞、100 時間想定)。それ以外の国際市場へのアクセスはパキスタン、 イラン、ロシアまたは中央アジアの 3 ルートしかなく、パキスタンルートは港湾(1400-1500 ㎞カラチーカブール)の利権をパキスタンに与える。1947 年まではデリー経路で高価な養 蚕製品、果物、ドライフルーツやナッツを輸出し、カラチを通じた英国へは羊肉を輸出する 等、家畜産業が盛んであり、関税と外国援助が政府の主な歳入だった。 今日、アフガニスタンを経済的に自足させるためには、国家が必要とする支出を賄えるよ うな状況が必要である。一方で、実際の必要な支出は、2013 年のデータでは歳出が 23 億 USD、米国の財政支援が 40 億 USD と言われる中で歳入は 20 億 USD 程度であり、総支出 の 1/3 しか賄えていない。また、開発プロジェクトや殆どの治安関連支出は予算に計上され ていない。現状を総括すると、アフガン政府の歳入は国家の治安関連支出の 1/3 を賄うのみ であり、教育、保健医療、司法制度、議会、行政府、高等和平評議会への支出分は一切残ら ないと言えよう。別の見方では、治安関連支出の 65 億 USD はアフガニスタンの推定 GDP203 億 USD の 1/3 に匹敵する。 よって、アフガニスタンが持続的かつ自立的な国家を達成するためには、国家の国内外に おける治安上の懸念を下げることが最も重要である。国際関係で言えば、対パキスタン関係、 及びタリバンとの政治協議や対パキスタン関係にも影響する武装勢力ネットワークへの対 応が必要である。 東京宣言の特筆すべき点として、この点を明確に意識していることが挙げられる。つまり、 平和と治安維持が安定し繁栄した国家の建設の基礎であり、アフガニスタンの治安維持と安 定への脅威となるテロリズムは地域的及び国際的平和と治安への脅威でもあること、そして、 テロリズムと過激派の地域的な側面を意識した協力が必要であることを明示している点で ある。また、将来的に国際社会の支援が漸減することを想定し、移行期の 10 年においてア フガニスタンの国軍・警察の強化を支援し、アフガニスタン政府が自身で治安維持できるよ うな体制を作ることが必要である点についても言及されている。また、政治的要素としては、 3 和解の進展が必要であり、脅威レベルを下げることと同様に中止されるべきである。 一方、治安懸念の改善と同様に重要なのが、アフガニスタンが優位性を持つ分野での投資 の誘致である。世界最大規模で知られる芥子生産に合法課税できれば歳入が確保され、財政 危機の解決策になるとの声も聞かれるが、合法化はできない。芥子生産は政府関係者の汚職 やタリバンの収入となっている側面がある。他の手段としては、高価な養蚕製品等伝統産業 の再興、またエッセンシャルオイル・香水の原料はあるが、生産によってアフガン治安維持 に必要な歳入は賄えていない。一つには、周辺を電力輸出超過国の中央アジアや湾岸と、電 力不足で知られるインド、パキスタンに囲まれていることから、例えばタジキスタンの水力 発電をパキスタンに供給する CASA1000 や、ガスパイプを通過させる TAPI (タジキスタン、 アフガニスタン、パキスタン、インドのパイプライン)プロジェクトの通過料で稼ぐことも できる。また、鉱物資源も豊富であるが、これらは採掘・精製及び電力、水、道路、鉄道等 への投資がなければ使われることがなく、同じく鉱物資源を有する月と同様の状況である。 世界最大規模の銅資源があるが、治安上、なかなか開発が進まない。 東アジアの成長、とりわけ中国の影響が、中央アジア・南アジアに影響を与える可能性が ある。中国、インドがメインの出資者である AIIB の存在が一つの例であり、不安定な治安 状況からアフガニスタンのインフラに即時の投資は望めないが、中国資本の影響は存在して いると言える。 アフガニスタンの安定と自立発展はパキスタンが関係しており、ガーニ大統領が就任後、 外遊先として中国とパキスタンを訪問したことにも表れている。中国への訪問は、パキスタ ン訪問への布石と、今後の和平プロセスと地域経済協力方針への合意を得るものであった。 パキスタン訪問ではパキスタン軍総司令本部も訪問し、和平プロセスへの提案を示している。 これは、東京宣言でも述べられた、アフガニスタン政府を自立的国家へ変革するプロセスで ある。 2010 年、ムシャラフ前政権下のパキスタン国軍アッシュファク・パーベス・カヤニ前司令 官は、アフガニスタンからの脅威として、特にパキスタンとの国境地域で武装勢力や分離主 義者らに対して武器の供与及び訓練を実施しているインド情報局当局者らの存在を挙げた。 これは、デュランド線によりアフパク両国に分かれたパシュトゥーン人を更に分裂させるこ ととなり、アフガニスタン政府に対してデュランド線を国境として認めるよう求めるものだ った。 アフパク関係を巡り、ガーニ大統領は、初めに、パキスタン・タリバン運動(TTP)指導者 層に対する掃討作戦の支援を通じて治安情勢に取組んだ。また、パキスタンに対して、国境 付近にかかる両国軍及び情報局の協力を申し出たほか、インドとの軍事協力の縮小やアフパ ク両国間の貿易促進などを約束した。ガーニ大統領は、これまでも、そして今後もデュラン 4 ド線を国境として認めることはないとみられるが、歴史的対立にあるアフパク関係を転換さ せ、経済相互関係の強化を目指しているものとみられる。 地政学的な観点からみても、アフガニスタンは貿易の通過点として重要な位置にある。中国 と欧州を陸路で結ぶ経済圏「シルクロード経済ベルト(OBOR)」構想を推進するためエネ ルギー資源や交通網などに対する巨大な投資を行っている。これは、南アジア、中央アジア、 中東、地中海、欧州の間に位置するアフガニスタンにとっても有益なものになろう。今年 4 月に習近平国家主席がパキスタンを訪問した際、OBOR 構想の実現に向けて総額 460 億ド ルの資金援助を発表した。OBOR はインド及びアフガニスタンを含む近隣諸国連携のプラ ットフォームであるとしているが、公表された OBOR 構想の地図にはインド及びアフガニ スタンが含まれていない。また、中国は、パキスタンのグワダル港経由で中東と中国を結ぶ 「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」を進めているが、これには、印パ両国間における 係争中の領土ジャンムー・カシミール州が含まれているなど、インドは CPEC を通じて、 中国が領土問題を巡りパキスタンを支援しているとの見方を示している。 一方、インドとイランは、OBOR と競い合うことになる可能性がある、イラン南東部チャ ーバハール港開発計画を進めている。これは、ペルシャ湾からイラン国内シスタン・バロチ スタン地域、そしてアフガニスタン国内の環状道路へ通じる経済ルートの構築である。また、 両国は、同ルートに鉄道整備も進める計画である。その他、米国及び国連安全保障理事会か らのイランへの経済制裁が段階的に解除されることで、同経済ルートへの投資が増加するこ とも予想される。 これらの動きは、現代で初めて、経済的な重要性が紛争を解決する事例となる可能性を秘め ている。これは、東京会合で示されたアフガニスタンの自立に向け、国際社会による地域へ の投資を促進し、また、地域の発展にどうやって貢献出来るかという具体的な構図を示すこ とになる可能性がある。「変革の 10 年」はアフガニスタンだけのものではなく、地域の変 革でなければならない。 しかし、実際には、アフパク両国は依然として対立関係にあり、タリバン勢力はパキスタン を拠点にして活動し、反アフガニスタン政府勢力はパキスタンと協力しデュランド線を認め させるような動きを取り、中国を巻き込んだ印パ間のカシミール問題及び米イラン間の対立 と疑惑は依然として継続している。これら全ての要因が、タリバンとの和解交渉、アフパク 両国関係の改善および海外からの投資を妨害すると同時に、複雑に絡み合い対立と紛争を招 いている。 クンドゥズ州は中央アジアと中国を繋ぐ投資を導く重要な場所である。しかし、今となって は誰が同州に投資しようと考えるであろうか?我々は、どうすれば対立する当事者に対して 潜在的利益を実質的な利益として与えることが出来るだろうか?これが、我々が東京宣言の 5 実施に向けて課された任務である。 11:05-11:50 パネル・ディスカッション (畝所長)これまでアフリカの平和構築に携わってきた中で、ルービン先生のお話を伺い、 アフリカの紛争構造に比べてアフガニスタンは非常に複雑な構造であり、これまでの歴史、 地政学的視点、経済的な視点も把握していないと見えてこないということを学んだ。本日は、 アフガニスタンの現状がどのようになっているのか、また援助実施機関である JICA として これからどのように取り組んでいくべきか、短い時間であるが議論を深めていきたい。まず は、田中先生よりルービン氏へのコメントと、特にアフガニスタン情勢についての質問を頂 きたい。 (田中氏)多様な課題がある中で、アフガニスタンにとっての一番の問題は治安と理解。治 安に関する四つの問題を整理したい。①ガバナンスに関わる問題、②タリバン指導部に関わ る問題、③外国軍国際治安支援維持部隊に関わる問題、そして④開発支援、経済の問題。① は、政治改革、汚職・腐敗、国民和解のための対話等、全て 2012 年の東京宣言に入ってお り、歴代のアフガン政権も遂行しようとしてきた。②はタリバン最高指導者であったムッラ ー・オマールが 2 年前に死亡していたことが発覚し、後継者が指名された。後継者の選任プ ロセスへの批判が出ている状況。タリバンに対してはパキスタンの軍情報部が影響を持って いるといわれる中で、ハッカーニグループ由来の強硬派の立ち位置。アフガンの武装勢力中 で存在を示すようになった IS の影響がある。③については、カルザイ政権時代よりも、外 国軍への批判は下がりつつあるが、クンドゥズの事案が生じた。外国軍がいた頃からゆがめ られている状況。④外国軍の存在は、基地エコノミーというほど、国内経済へのカンフル剤 となっており、経済へのマイナスの影響は予見通りだが、埋め合わせできていない。ガーニ 大統領は、国際社会からの復興支援を企業的・投資的観点で結び付けようとしてきた傾向有。 悪いことではないが、中国のような、ある種リスクを負った国家プロジェクトとして出てこ ない限り、コーポレートビジネスとしては成り立たないと感じている。 (畝所長)他のディスカッサントからコメントあればお願いしたい。 (レシャード先生)講演は非常にポイントをつかんだもの。2012 年の東京会合の中では、 国際社会から開発のみならず、治安の為にもう少し積極的な関与をしようという発言にあっ たにも関わらず、実際の行動には現れなかった。協議が必要であると認識していたにも関わ らず、主催国である日本がその役割を果たせなかったことが問題であると認識。 (中原専門員)ルービン先生の講演の中では東京会合について紹介されていたと理解。 TMAF について触れられているが、国際社会側においてもフラストレーションがあるように 感じている。アフガニスタン政府側が果たすべき役割を果たした上で国際社会が支援すると 6 いう枠組みであったにも関わらず、支援が所与のものと感じているように認識されること。 二点目はクンドゥズの陥落。アフガン政府がもっと取るべき手立てはなかったのかと国際社 会は感じている。開発については、触れられている通り、国内の政治・治安の不安定状況が 開発にも影響しており、開発のみに焦点を当てて議論するのは難しいものと理解している。 (ルービン氏)コメント頂き感謝。アフガン政府、国際社会双方にフラストレーションが生 じていると考える。国際社会は非現実的な期待を政府に対して抱いている。アフガニスタン は個人と国家の制度的枠組みが無い状況(戸籍登録もセンサスもない)中で、E-Tazkera を 元に投票用紙を配布し、大統領選挙を実施。国際社会はアフガニスタンをテロの温床としな いことを目的にアフガニスタンを支援しているが、もっと現実的な方法で支援すべきである。 (田中氏)タリバン時代のアフガニスタンから関わっている中で、国民の不満については聞 いていたが、タリバン政権崩壊後の国家建設への期待は国際社会・国内とも非常に高かった といえる。結果的にうまく行かなかったが、一つだけ指摘すると、アフガン人のメンタリテ ィ・思考回路が平和な状態に慣れていない。内戦がまだ存在し、復興の期間を経ても、暴力 が身近にあるが故に、人の心理的なレベルが戻っていないのが非常に残念なこと。すぐに暴 力に訴える、噂に流されてデモが突然暴徒と化す、等の事例がある。扇動者の存在、失業等 の経済的な背景はある。 (レシャード先生)国民が平和を受け入れる体制になっていないというのはまさにその通り だが、この点はアフガニスタンの民族構造等を理解しないと難しいだろう。大国が介入する 際には、部族間の対立を煽って成功しているが、その後長く影響が残っている状況。部族間 の平等性をどう保つかというのも一つの課題と考える。 (畝所長)アフガニスタンの現状・課題を踏まえて、我々が何をすべきかという議論を、一 昨日アフガニスタン出張から帰国された中原専門員よりお願いしたい。 (中原専門員)アフガニスタンに 4 日間のみ出張したが、クンドゥズの影響が若者たちに影 響を与えることを聞いている。今後何が起こるのか、過去のトラウマのようなものが残って いて、都市の陥落によるフラッシュバックのようなイメージを受けた。外務省前で旅券発給 を待つ人々の列、大使館前で査証を待つ人々等を見るに、国民のフラストレーションが溜ま っているように感じる。ガーニ大統領が一年前の就任演説で取り組みとして挙げたのが、汚 職対策、経済開発等。大統領は強力なリーダーシップを経済開発で取ろうとしている。組閣 時に全大臣を交替させ、新しい人材を登用。国際社会にも知られず、十分なバックグラウン ドを持っていないと思われる人材も活用。次に、経済のバックボーンである農業開発に取り 組んでおり、Food policy を大統領自身が農業省と議論して策定している。また、大統領は 統合的なアプローチを行っている。灌漑開発において、関係三省を統合する取り組みを農業 省にリードするよう指示している。政府の非効率さの改善として、重複を避けるようにして 7 いる。三点目は行政サービスの改善。政府の行政能力は低いことから、官民連携の推進が進 められている。四点目は、政府人材の育成への関心。JICA の PEACE プロジェクトに関心 を有し、帰国研修員との直面談、帰国後の復職を支援するよう示唆している。JICA を含む 国際社会は、過去 14 年間はアフガニスタンに対する期待が大きすぎたということも振り返 りながら、大統領の持つイニシアチブを長期的に支援する必要があると感じている。 (畝所長)農業のレンズを通して説明頂いた。ルービン先生も指摘された通り、国際社会は 忍耐強く付き合う必要性があると感じた。 (レシャード先生)治安の影響で国際社会の支援は滞っていると認識。具体的な指標を基に 紹介したい。新生児死亡率、妊産婦死亡率、医療従事者による分娩、安全な水へのアクセス 等、まだ指標は悪い。治安の問題では、市民の被害のうち、子供の割合が殆どであることが 指摘される。医療の問題としては、医師不足は 10 万人に対して 25 人程度と圧倒的に少な い。一つの病院を利用する人口で比較すると、都市・地方間の格差あり。医療教育の問題も あり、人材の海外流出(海外の大学を卒業しても、母国の開発に貢献できていない)も課題。 子どもの栄養状態で、栄養不足が 100%に近い県が 3 県ある。カレーズの会はカンダハル県 で活動している中で、社会情勢の悪化から保健指標の悪化が懸念されている。患者の 60% は成人女性で感染症の影響が生じており、保健教育にも取り組んでいる。日本の NGO は少 ないが、NGO 間で連携を行い、草の根でできることに取組んでいる。JICA にも保健医療協 力に取組んでもらっており、治安上なかなか現地派遣ができない困難は理解するが、引き続 きの協力をお願いしたい。 (中原専門員)ISAF を派遣している国は活動を行う地域に軍を厚くする等の連携をしてい る。長年アフガニスタンの人々の意識調査を行うアジア財団の調査結果によれば、これまで 国民に認知されているのは保健・教育分野の支援。広く国民に裨益する協力は継続していく 必要がある。 (ルービン氏)保 健医療と政治の関係についてコメントし たい。アフガニスタンには Epidemic disease(紛争後のフラストレーション、ストレス、怒り)が蔓延している。コミ ュニティベースのプログラムが必要であり、JICA にもぜひ支援頂きたい。 (レシャード先生)精神的疾患(PTSD)は三番目に多い病気。過去に子どもと女性を対象 にしたカウンセリングを行っていたが終了してしまい、現在はケアされていない状況。 11:50-12:20 質疑応答 (林氏、カブール大学研究員)これまでアフガニスタンは他国に所有されていた状況だった が、アミーン・サイカルの言葉に言及すると、Weak states, strong society であると言える。 8 Tribal society は非常に強固である。今日の議論は国家の観点で State building について述べ られているが、コインの裏側である農村社会と国家の関係についてご意見を伺いたい。 ⇒(ルービン氏)国家と社会は固定化されたものではないと考える。アフガニスタンは伝統 的な社会であるが、劇的に変化しているものと理解。Tribe は過去のままではなく、変化し 続けている。 (松浦氏、国際開発ソリューションズ)何が問題なのかというのを考えながら話を聞かせて 頂いた。人材育成が鍵ではないかと考えた。長期的に国家建設をしていくようなエリート教 育、各セクターのプロフェッショナル育成の双方が重要、また一般市民のメンタリティに対 して市民レベルの教育(識字を含む)、海外での出稼ぎ・送金ができるような方向性を含め て経済開発を行う必要性があると感じた。日本の東京会合後のリードを取りきれなかったと の指摘があったが、日本としてこれからこうした人材育成にどのように取り組んでいくのか、 PEACE の人材は中央に集中しているが、地方部の人材育成、政府ができること、市民社会 ができることについてアイディアがあれば伺いたい。ここでの議論がアフガニスタン国内で 行われていくことが重要と考える。 ⇒(レシャード先生)治安の問題も有、PEACE 等の支援が成果を挙げている。日本での研 修は高いので、インドでの第三国活用も一案と考える。現地での教育が一番。基礎教育支援 においては、向上しつつあるが、地方部ではまだ行き着いていない。国際社会には継続支援 頂きたい。ご紹介した母親への教育も社会への教育の基礎と考える。女性が女性を教育する 仕組みの確立が必要。識字率は依然低く、教育においても教員不足が生じている。一番問題 なのは、国づくりを行うエリート教育が厳しいところ。海外で育った優秀な人材を以下に国 づくりの中に関与させるか、今後積極的に考えるべきポイントである。 ⇒(中原専門員)省庁の局長レベルは殆ど海外留学組。公務員の潜在的な能力を信じず、海 外のコンサルタントに頼りがちな状況。農業省はスカラーシップにて海外で学んだ人材が帰 ってきている。また、県の農業事務所長もこれまで専門性がない人々が務めていたが、今は 公募で優秀な人材を配置しようとしている。 (根本氏、NHK ワールド)クンドゥズの攻撃において一日で陥落した件につき、タリバン が強いために起きたのか、アフガン軍が弱くて起きたのか、どのように評価されているのか 伺いたい。 ⇒(ルービン氏)クンドゥズの例は、いずれにしても政治的な脆弱性であると言える。クン ドゥズは過去にもムジャヒディンに攻撃を受けた同様の経験がある。 ⇒(田中氏)攻める側の視点では、タリバンのモチベーションが高いと感じる。タリバン新 指導部は内部での挑戦、IS からの挑戦が生じていることもあり、自分たちの能力の高さを 積極的に示す必要性が生じている。今後数年間は特に北部において治安面での注意が必要と 感じている(元々狙い易い地域であると言える)。 (アバイ氏(インド)、金沢星陵大学)農民の子供、社会の教育に対して JICA はどのよう 9 な協力を行っているか。 ⇒(中原専門員)農村の子どもに特化した JICA 支援は恐らくない。アフガニスタンは非常 に若い社会と理解している。これまでの支援の成果として、基礎教育向上、特に女性の教育 であるが、基礎教育が充実するほど高等教育へ向かう人が増えることになるのではないか。 (ファティミ大使)質問ではなくコメントだが、アフガニスタンを代表して御礼したい。 JICA のこれまでの協力と今回のセミナー実施に感謝申し上げる。アフガニスタン支援にお いては、日本は米国に次ぐ二番目のドナー。2002 年以降、多くの成果が達成されたが、ま だすべきことは多く、アフガニスタンの変革の 10 年に対して継続的な支援をお願いしたい。 改めて各位に感謝申し上げる。 (以上) 10