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子どもが自ら課題意識をもつ第1学年算数科学習指導の研究

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子どもが自ら課題意識をもつ第1学年算数科学習指導の研究
子どもが自ら課題意識をもつ第1学年算数科学習指導の研究
∼「ふりかえり」活動の連続化を重視した学習活動を通して∼
1.主題設定について
(1)主題の意味
子どもが自ら課題意識をもつというのは、学習において子どもが 、「やってみたい 」「でき
るようになりたい」という内発的な欲求に基づいて自分から課題を持つことである。
「ふりかえり」活動とは、学習途中や終末に子どもが自分の学習過程を言語化することで、
自分が何が理解できていて、何が理解できていないのかを整理し、次時の課題を把握する活動
を指す。
「連続化」とは、ふりかえり活動から次時の課題把握、課題把握からふりかえりといった活
動を連続して行うことを指す。
(2)主題設定の理由
①児童の実態から(略)
②学校研究から(略)
③
現代社会の要請から(略)
2.研究の目標
第1学年算数科の指導において、「ふりかえり」活動の連続化の工夫を通し、子どもが課題
意識を持つための算数科学習指導のあり方を究明する。
3.研究の仮説
第1学年算数科の指導において、下記のように「ふりかえり」の連続化の工夫をすれば、子
どもは自ら課題意識を持つことができるであろう。
①「ふりかえり」カードの工夫
②教師の肯定的評価活動(意味づけ
価値づけ
方向づけ)の工夫
③「ふりかえり」の交流の場の工夫
4.研究の構想
(1)仮説実証のための手だて
①「ふりかえり」カードの工夫
子どもが自らの学習過程をふりかえるための手だてとして、キャラクターを登場させ、
課題を明確にするとともに、キャラクターへ手紙を書くという手法を単元を通して行う。
②教師の肯定的評価活動(意味づけ
価値づけ
方向づけ)の工夫
「ふりかえり」活動における子ども一人ひとりとの対話を大事にし、適切な支援を行う。
意味づけ・・「君の考えにはこんな意味があるんだね」と肯定的な評価を行うことで、子
どもの内的な認知構造に位置づけること。
価値づけ・・「君の問題解決の方法にはこんな価値があるんだね」と価値的な評価を行う
ことで、個のよさを外的な普遍性のある価値体系位置づけ、その子の価値体
系を再構成しまわりの子のモデル像にすること。
方向づけ・・「○○君とよく似ているね。参考にしてごらん。」「こうするともっとわかり
やすいよ」とモデル像に照らして、指導と評価の一体化を行うこと。
③「ふりかえり」の交流の場の工夫
子どもの学びのよさや考え方のよさを交流の中で価値づけていく。子ども一人ひとり
の効力感や成就感を高めるとともに、モデル的な意見を聞くことで自らの課題を明らか
にする。
(2)授業の流れの構想図
„
成就感 効力感
モデルの提示
よさの価値づけ
交流
できたこと できなかったこと
次時の課題
課題把握
個別の課題
子ども
課題解決
ふりかえり
自分のペース
自力課題解決
対話
意味づけ
価値づけ
方向づけ
意味づけ
価値づけ
方向づけ
課題意識をもつための授業の流れ
少人数学習・欠落体験の補足
4.研究の実際
(1)理論研究(略)
(2)子どもの実態と考察
既習事項については、数の概念や大小、たしざん、ひきざんの意味については全員が理解で
きていたが、計算をするときにブロックなどが必要な子が※名・10の合成・分解が念頭でで
きない子が※名いる。
また、事前の実態調査で算数が好きと答えた子どもは※名、きらいと答えた子どもは※名だ
った 。。嫌いな理由は「ひきざんがきらい 」「計算がわからない」などで、好きな理由は「計
算がおもしろい」といったもので、計算の好き嫌いが、算数の好き嫌いの理由になっていた。
(3)実証授業の計画
①単元名
「ひきざん2」
②単元の目標
③単元構成
次
時
一 1
主眼および主な学習活動
評価規準
○(十何)−(1位数)で繰り下がりのあるひき算について、既習方法 ○13−9の計算方法を、既習方法を生
を生かして、計算方法を見つけ答えを出すことができる。
かして考え答えを出すことができる。
・問題場面を把握し、単元の学習課題をつかむ。
(関)(考)
・自分なりのやり方で、計算方法をみつけ答えを出す。
2 ○(十何)−(1位数)で繰り下がりのあるひき算について、計算方法 ○繰り下がりのあるひき算の仕方を自ら
を作り上げることができる。
工夫して計算できる。 (考)
・合理的な計算方法について話し合う。
3 ○減数が6以上(9,8,7,6)のひき算の計算ができる。
・自分の得意な方法で計算する。(ユニット)
4 ○減数が5以下(5,4,3,2)のひき算の計算が
で求めることができる。(表)
できる。
・自分の得意な方法で計算する。(ユニット)
二
○問題をひき算の式に表し、答えを計算
で求めることができる。(表)
1 ○ひき算カードを使って、繰り下がりのあるひき算について習熟する。 ○既習の計算方法を使って、ひき算の計
(習熟度別)
2 ○ゲームを通して計算について習熟する。
5 (コース別)
三
○問題をひき算の式に表し、答えを計算
1 ○繰り下がりのひき算のまとめをし、テストをする。
算ができる。
(表)
○ゲームによる減法計算が確実にできる。
(表)
○繰り下がりのあるひき算の計算の仕方
を理解している。 (知)
④
指導上の留意点
○単元を通してゲームのキャラクターを登場させ、そのキャラクターから出される問題をク
リアしていき、単元全体が1つのストーリーになるように構成を工夫して、子どもたちの
興味・関心を持続させながら、主体的に課題を解決させていきたい。
○学習形態を子どもの実態や単元の内容に応じて学級内コース別や学年内コース別など工夫
し、自分にあった学習方法を確立できるようにしたい。
○毎時間のふりかえりでは、学習中個別に声かけをして、内容面や意欲面を価値づけること
で、自分の課題やがんばりに気づき、自分の力でふりかえることができるようにしたい。
○ひき算の意味を具体物をより多く操作することで、理解させたい。
(4)
①
本時の指導計画
主眼
(十何)−(1位数)で繰り下がりのあるひき算について、既習方法をもとに計算方法
を見つけ計算することができる。
②
本時の授業仮説
本時学習において、次のような手だてをとれば、上記の主眼が達成できるであろう。
○課題把握の場において、単元全体が一つのストーリーになるように工夫したり、キャラク
ターからの手紙を聞かせたりすることにより、学習に対する興味・関心を高め、児童が課
題意識をもって解決に向けての主体的な思考活動ができるようにする。
○深める場において、既習の問題を想起させることで、ひく数が9のように大きな数でもひ
き算で表すことができて、答えが求められそうだということを意識させる。
○ふりかえりの場において、既習の方法を使って計算できたかに着眼し、学習をふりかえら
せ、交流させる。
○評価の場において、既習事項を生かして計算しているかを評価し、価値づける。
③
展開
学
習
活
動
つ
1.ニャースからの手紙を教師に読ん
か
でもらい、場面について話し合う。
む
形態
全
具体的な支援の手だて及び留意点
評価規準
○ニャースからの手紙を読むことにより、問題文の意 ○ 課 題 に つ い
味を明確にし、どんな場面かをとらえさせる。
て意欲的に考
T1
えようとして
ポケモンセンターにゼニガメが
いるか。
(観察)
13びきいました。ロケット団が
9ひきつかまえました。のこりの
ゼニガメは、なんびきでしょう
○どんな計算になるのか考える。
○既習の繰り下がりのないひき算を想起させ、既習の ○ 既 習 事 項 と
計算とのちがいに着目させる。T1
見
○今までのひき算との違いに気づく。
いているか。
2.めあてをつかみ、見通しを持つ。
○いくつになるかを見つけるだけでなく、答えの見つ (観察・発表)
通
す
の違いに気づ
け方を考えることを把握させる。T2
○答えを予想する。
○計算の仕方を考える。
いままでのけいさんをつかって、しかたをかんがえよう。
3.自分なりのやり方で計算の仕方を
考え、答えをだす。
AB
それぞれ自分の得意だった方法を
◎既習事項を
思い出させる。
生かそうとし
深
○数えひき
め
○減加法
A
既習経験を思い出せたか。
る
○減々法
B
既習経験を生かすことができたか。
○数式
ているか。
(観察・発表)
○やり方がわからずとまどっている児童には、今まで ○ 既 習 経 験 を
自分がしていたやり方を思い出させ、その方法で答え も と に 計 算 で
をみつけさせる。
きているか。
○指で計算しようとして指が足りずに困っている児童 ( 観 察 ・ プ リ
には、数図ブロックなど他の方法もあることに気づか ント)
せる。
○数図ブロックを操作して解決した児童には、式や言
葉で表させて、自分の考えを確かめさせる。
○数式の操作で解決した児童には、仕方を数図ブロッ
クや絵や言葉で表させて、自分の考えを確かめさせる。
4.それぞれの考え方を発表し、交流
A
する。
自分の得意な方法が正しくできてい
るか支援する。
B
自分の得意な方法で答えが出せたら、
ブロック操作をさせて、確認させる。
AB自分の得意な方法で答えが出せたか。
ふ
5.本時学習をまとめる。
り
○友だちの考
え方をよく聞
○答えは同じでも、計算の仕方がちがうことを確認さ き 、 自 分 の 考
か
○ふりかえりカードに記入し、交流す
せ、自分の考えとは違うものも受け入れ、そのよさが え 方 と 比 べ よ
え
る。
見つけられるようにする。T1
る
うとしている
か。
(観察・発表)
A
自分の言葉で計算方法がふりかえら
○ふりかえっ
れるように支援する。
たことを書く
B
ことができた
自分の考えを図に書いてふりかえら
れるように支援する。
か。
(観察・ふり
かえりカード)
AB
めあてにそって、ふりかえったこ
とをかくことができたか
(5)授業の実際
①「ふりかえり」カードの工夫
「ふりかえり」の実際については、「子どもに何をふりかえさせるのか」ということを意識し
ながら、できたこと・できなかったこと・実感したこと・がんばったこと・学び方などをポイ
ントに
・教師が子どもの思考をつかむために(教師の授業のふりかえり)
・学習を深める手だてとして、子ども自身の気づきを拡げ、その子のよさを位置づける
・子どもが自分で自分の良さや課題に気づく
・課題をより個別なものにしてアプローチし、次の時間の課題設定つなげるように
・ふりかえりの中身を家庭に伝えながら、家庭と連携した協育へ
ということを意識しながら実践した。
ひきざん(2)では、導入からキャラクター
を登場させ、意欲づけを行った。キャラクター
から毎回手紙が来て 、「キャラクターにやり方
をおしえよう」というめあてをもち、取り組ん
だ。このことは、意欲を持続することにはたい
へん有効だった。
「ふりかえり」は、キャラクターに手紙を書い
て、自分がしたやり方を教えるという形にした。
また手紙には必ず返事を書き、
「できたこと・できなかったこと」
「どうしてできたのか」
「ど
こがこまったのか」追求していくようにした。
②教師の肯定的評価活動(意味づけ
価値づけ
方向づけ)の工夫
抽出児であるAは、
「ふりかえり」カードにどう書いていいのか分からないようだったので、
「どこがこまったの」とか「どうしたらできたの」と聞きながら、「すぐできなくてこまった
けど、ブロックを使ったらできたね」という風に声かけをし、そのことを手紙に書くように支
援を行った。
この単元は少人数の分割で行い、全員の子どもと対話しながら、意味づけ・価値づけ・方向
づけを行うように心がけた。
③「ふりかえり」の交流の場の工夫
ふりかえりの交流はクラス全体で行った。
A は「すぐできなくてこまったけど、ブロックを使ったらできた」と書いていたので、クラ
スの中で価値づけながら 、「○○ちゃんもいっしょね」といっていくことで 、「ぼくといっし
ょの人がいたんだ」という効力感を持たせるようにした。また他の意見も出させ、同じように
価値づけ、それぞれが自分にあったやり方で頑張っているということが、感じられるようにし
た。
また 、「次チャレンジしてきても、またそのやり方でできそうね」という風に次の時間の課
題(めあて)が持てるようにした。
交流の場面では、少人数で行うことで意見の出しにくい子が発表できるよさ実感した。しか
し、学級全体ですることで、いろいろ意見やモデルになるような発展的な意見を交流すること
ができるのも特に低学力の子にとっては必要な
ことではないかと感じた。友だちの意見を聞い
て 、「おともだちのやりかたでもとってもわかり
やすかったよ 。」といろいろなやり方を知り、よ
り合理的な考え方を見つけようとする子の姿も
見られた。
(6)考察
手紙を毎時間書くという「ふりかえり」を積
み重ねてきたことで、子どもたちは「問題をよ
く読まなかったから、まちがえたよ。次は気をつけるよ」といったことも書けるようになって
きて、少しずつ自分を見つめる力がついてた。そこで習熟の時間では、一人ひとり個別のめあ
てをもつようにした。
前時の「ふりかえり」をもとにしながら、自分でその時間のめあてを考えさせた 。「あたま
でします 」「さくらんぼけいさんでします」「一問もひっかからないようにします」「おはなし
のもんだいをよくみます」といったように自分の「ふりかえり」が次の時間の自分の課題へと
つながり、課題意識を持ち学習に取り組む子どもたちの姿が見られた。
習熟の時間は自分のペースに合わせて教室を移動していくという形態で行ったが、子どもの
「ふりかえり 」(手紙)にあるできなかったことに対して、「なぜできなかったのか 」「どうし
たらできそうなのか」を対話(意味づけ・価値づけ・方向づけ)や手紙への返事の中で追求し
ていったことが、個別の課題がより明確になり、子どもの主体的な姿になったと考える。
ふりかえりから課題設定
課題設定からふりかえりと連続性を持たせることで、子ども自
身による主体的な学習の中で、個に応じた課題克服ができるようになった。
5.研究のまとめと今後の課題
(成果)
・手紙に書くという手法は、子どもが自らの学習過程を客観的にふりかえることに有効であ
った。
・「ふりかえり」の連続化により、次時の自分の課題が何なのかが把握でき、習熟の場面で
は、個別の課題を持つことができた。
・教師の肯定的な評価活動により、子どもの学びのよさを交流の中で価値づけていくことは、
成就感や効力感を高めることに有効で、子どもの次時の課題意識へとつながる。
(課題)
・課題を把握しきれなかった子どもにとっては、交流もあまり意味あるものにならず、「ふ
りかえり」から課題設定というサイクルができなかった。発達段階も考慮したふりかえり
のあり方を模索していく必要がある。
・「ふりかえり」を含め、個に応じた支援をより効果的に行うために、習熟度別などの学習
形態の工夫を図る必要がある。
・課題意識を継続させるためにも、既習事項の徹底を図る必要がある。また就学前と連携し
た欠落体験の補足も行っていかなければならない。
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