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2 本指ロボットハンドによる指先の転がりを考慮した対象物の把握・操り —拘束の Nonholonomic 性を利用した対象物と接触点の制御— 名古屋大学 ° 中島 明 長瀬 賢二 早川 義一 Grasping and Manipuation of an Object by Two-fingered Robot Hand with Rolling Contact at the Fingertip —Control of the Object and Contact Points by Using the Nonholonomy of the Constraints— ° Akira Nakashima, Kenji Nagase and Yoshikazu Hayakawa, Nagoya University Abstract: In this paper, we discuss grasping and manipulation of an object by two-fingered robot hand, each of which has six degree of freedom. The contact motion between the object and each fingertips is assumed to be the pure rolling. First, we provide a general formulation of a linearizing compensator for the motion of the object, the grasping force and some of the contact points. Second, we propose a control method which regulates of all contact points by utilizing a closed path of the controlled contact points. Numerical examples are shown to prove the efficiency. 1 object はじめに finger1 近年,多指ハンドロボットによる物体の把握・操りにお いて盛んな研究がなされている 1) .ハンドシステムは指 先の滑り・転がりを利用することで接触点の移動が可能 であり,把持点の変更などができる.特に転がり接触で は拘束の nonholonomic 性 2) を利用して接触点の移動を 行なうため,滑りに比べて安定した把握・操りの制御が可 能である.転がりを伴う把握・操りにおける従来の研究で は,接触点の運動は考慮されているものの,対象物の操り による接触点の変化を受動的に考慮し,拘束式に反映さ れているだけのものが多い 3) .また,文献 4) においては, 接触点の一部の制御は行なわれているが,nonholonomic 性を積極的に利用していないため全ての接触点の制御は 成されておらず,内力の制御もされていないため制御則 は完全な記述とはなっていない. 本研究では,6 関節 2 本指ロボットハンドによる転がり 接触での把握・操り系において,対象物の位置・姿勢,把 握力,及び全て接触点の制御を考える.はじめに,対象 物の位置・姿勢,把握力,及び接触点の一部に対する線 形化補償器を導出する.次に,接触点の制御においては, 上記の補償器により接触点の一部の軌道追従がなされて いるものとして,その軌道を用いたレギュレーションを行 なうことを考える.指先が球状,対象物が直方体ならば, 接触点の運動は平面を転がる球の運動となり,Chained form のような正準形に変換できないので一般にその制御 は難しい 5) .この問題に対して本研究では,接触点の一 部が単一の閉軌道を繰り返すことにより,残りの接触点 の全てを目標点へと到達させる手法を提案する.提案す る閉軌道により,目標点に近づけるような閉軌道を決定 するパラメータが必ず存在することを示す.また,本手 法の有効性を数値シミュレーションにより確認する. 2 2.1 モデル化 対象モデル Fig.1 のような 6 関節 2 本指による対象物の把握・操 り系を抽象化した,中心に並進力・モーメントの 6 成分 6 τ i ∈ R (i = 1, 2)が入力可能な指先による対象物の把 f1 p o poco 1 o f1 cf 1 ΣO ith contact point poco (xfi ) 2 finger2 f2 Σ F1 po , φ o pf1 , φf1 pf2 c f2 Σ F2 finger i xfi ΣLf (t) i = ΣCf i +ψi x oi object zfi ΣLo (t) i z oi = ΣCo i y oi yfi pf2 , φf2 ΣB Fig.1 An object grasped by two fingers. 握・操り系を考える.この把握・操り系について以下の ことを仮定する. 仮定 1: 指先・対象物の表面形状は滑らかであり,局所 的に 2 次曲面である. 仮定 2: 指先力は soft-finger タイプとし,並進力 3 成分 に加えて接触点法線回りのモーメントの計 4 成分を 持つ 5) .ただし,指先のへこみは十分に小さく無視 出来るものとし,指と対象物は点接触とする.また 摩擦はクーロン摩擦のみである. Fig.1 左図 において,ΣB は基準座標系,ΣFi ,ΣO はそ れぞれ指 i と対象物の中心に固定された座標系である.右 図における ΣCfi , ΣCoi はそれぞれ接触点 i における指・ 対象物側の接触点座標系,また,ΣLfi ,ΣLoi は指・対象 物表面に固定された局所座標系であり,これらはそれぞれ 時刻 t において ΣCfi , ΣCoi に一致するものである.Rab は ΣB から ΣA への回転行列とする.以後文中で現れる 変数の左肩添え字は表現される座標系を表し,特に表記 のない場合は ΣB で表されているものとする. T 指 1,2 と対象物の位置・姿勢を xf := [ xT f1 xf2 ] ∈ R12 ,xfi := [ pTfi φTfi ]T ∈ R6 ,xo := [ pTo φTo ]T ∈ R6 (p は位置,φ は姿勢)と表し,一般化座標 q を q := 18 T T [ xT とする.接触点の位置は指・対象物 f xo ] ∈ R の座標系から接触点までのベクトル 3 fi 3 pfi cf (αfi ) ∈ R , i poco (αoi ) ∈ R で表す.αfi := [ ufi vfi ]T ,αoi := i [ uoi voi ]T は指・対象物表面の 2 次曲面上の座標であ o −emτ る.接触状態はこの αfi ,αoi と,ΣCfi と ΣCoi の相対 姿勢 ψi(Fig.1 右図)で表すことができるため,contact 5 T T coordinates と呼ばれる η i := [ αT fi αoi ψi ] ∈ R で T T 表され,これらをまとめて η := [ η T 1 η2 ] ∈ おく. 2.2 R10 と V = i · ¸ ¤ ẋfi Glfi (xfi , η i ) − Gloi (xo , η i ) (1) ẋo η̇ i 0 = = Gηi (η i )V blo lf i i vzi Fig.2 e1z m(2) Internal moment F cN A(q, η)q̇ = 0, A(q, η) ∈ R (3) 上式の vxi = 0, vyi = 0, ωzi = 0 を (2) 式の第 1 式に代入 して整理すると, · ¸ ωxi 5×2 η̇ i = A⊥ (η ) , A⊥ (4) i ηi ηi ∈ R ωyi のような転がり運動の式が得られ,この式から ωxi ,ωyi を消去すれば,η i に関する拘束式 3×5 (5) を得る.ここで Aηi A⊥ ηi = 0 である.この (5) 式は指と 対象物の表面形状が反射的でない限り η i に関する完全 nonholonomic 拘束である 7) .接触状態にある指 i と対象 物の相対的な位置・姿勢の集合を gofi とすると,指と対象 物の形状が特異でない限り,gofi と η i の間において局所的 に滑らかな全単射が存在する 8) ので,η i が nonholonomic 拘束 (5) 式を受けるならば gofi も nonholonomic 拘束を 受けることが分かる.したがって,(1) 式と (2) 式の第 1 式により得られる η i と一般化座標 xfi ,xo の関係 £ η̇ i = Gηi Glfi − Gloi · ¸ ¤ ẋfi ẋo 8×18 (7) を得る.ただし A := Āη Ḡ であり, i Aηi (η i )η̇ i = 0, Aηi ∈ R emτ 拘束と 1 本の holonomic 拘束である.これらを接触点 1, 2 についてまとめれば拘束式 · Āη := 6×6 vxi = 0, vyi = 0, vzi = 0, ωzi = 0 C2 e2z pc12 Internal linear force and internal moment. (2) である.(1) 式の Glfi ,Gloi ∈ R はそれぞれ ΣFi か ら ΣLfi まで,ΣO から ΣLfi までの変換行列であり,(2) 式は Montana 6) により定式化されたものである.なお, 5×6 (2) 式において,Gηi ∈ R の 3 列目は 0 ベクトルで あり vzi は η̇ i には寄与しないこと,また 0 = vzi は接触 条件であることに注意されたい. さて,転がり接触を純粋転がりとすれば拘束条件は V blo lf を用いて以下のように表される 5, 6) . i 21 (1) いる 5) .一般化座標 xfi ,xo ならびに η i との関係は £ C1 Internal linear force F cN 接触状態における指と対象物の相対運動を特徴づける ものとして,ΣLoi に対する ΣLfi の速度を ΣLfi で表現 したもの V blo lf := [ vxi vyi vzi ωxi ωyi ωzi ]T を用 b l oi l f i cf 2e cf 1 e12 拘束式の導出 i C2 pc12 C1 (6) · ¸ ¤ ẋfi を (5) 式に代入した Aηi Gηi Glfi − Gloi =0 ẋo は一般化座標に関する nonholonomic 拘束である.また vzi = 0 を (1) 式に代入したものは holonomic 拘束となり, したがって接触点 i における拘束は 3 本の nonholonomic Āη1 04×6 · Gη1 e16 Ḡ := 05×6 ¸ · 04×6 Aηi , Āηi := Āη2 01×5 ¸ 03×1 1 ¸ (8) · 05×6 · ¸ Glf1 Gη2 06×6 e16 06×6 Glf2 −Glo1 −Glo2 ¸ e16 := [ 0 0 1 0 0 0 ] (9) である.よって,拘束式 (7) 式の 8 本の拘束は,6 本の nonholonomic 拘束と 2 本の holonomic 拘束である.な お以降では,場合により A = [ Ah − Ao ],Ah ∈ R8×12 ,Ao ∈ R8×6 と分割した表現を用い,rank Ah = 8,rank Ao = 6 であるとする.これらは指と対象物が特 異な関係でなければ成立するものである. 2.3 内力の表現 8 仮定 2 より,指先力 c F c ∈ R を以下のようにおく. c F c := [ c1 F T c1 c2 T FT c2 ] , ci F ci := [ ci f T ci 4 ci τci ]T (10) 3 F ci ∈ R は接触点 i での指先力,その成分 ci f ci ∈ R は並進力,ci τci は接触点における接平面法線回りのモー メントである.拘束は仕事をしないとすると仮想仕事の原 6 c b 理より b F o = AT o F c が成り立つ.ただし F o ∈ R は 指先力により対象物に加えられる合力である.指先力を対 象物の運動に寄与する操り力 c F cm と寄与しない把握力 6×8 c F cg に分解する.AT であるから,c F cg は 2 自 o ∈R 由度を有しており,その表現に一意性はないが,物理的に 対象物の把持として意味のある表現が必要である.ここ では,後述する内並進力と内モーメントにとり,それぞれ の大きさをあらわす把握力パラメータ hg := [ hgf hgτ ]T を用いて ci £ c F c := c F cm + c F cg (11) ただし c +b F cm := (AT F o, o) B g := [ c (1) F cN c c (2) F cN F cg := B g hg (12) ] (13) b ∧ − RT bcf1 ( pc12 ) emτ 1 bp be · 1z c12 := T b ∧ − −Rbcf ( pc12 ) emτ 2 −1 bp b c12 · e2z c c (1) F cN f1 e12 0 c (2) := cf2 e21 , F cN 0 と表す.行列右肩の − は一般化逆行列,ベクトル右肩 8×2 の ∧ は外積に等しい歪対称行列を表す.B g ∈ R は AT B = 0 を満たす把握力の方向を特徴付けるものであ g o (1) (2) り,c F cN ,c F cN はそれぞれ内並進力,内モーメントの (1) 方向を表す.c F cN は,Fig.2 のように接触点 1 から 2 へと向かうベクトル b pc12 の向きで互いに押しつけ合う ものであり,cf1 e12 ,cf2 e21 はその線分上の単位ベクトル (2) で b e21 = −b e12 である.c F cN は,Fig.2 にあるように b pc12 に直交する平面と接触点 1・2 における接平面の単 位法線ベクトル b e1z ,b e2z により張られる平面の交線方 向 emτ 回りに拮抗するモーメントである. (1) (2) このように c F cN ,c F cN の方向で hg を調整すること により,対象物を把握する力を設定できる.なお,これ (1) (2) らの方向は c F cN · c F cN = 0 であるので,互いに独立に 与えられることに注意する.以降では rank B g = 2 であ るとする. 2.4 運動方程式 以上から把握・操り系は以下で与えられる. −T c M f ẍf + C f ẋf + N f = −AT h Fc + Tf τ c M o ẍo + C o ẋo + N o = AT o Fc (14) [ Ah (xf , η) − Ao (xo , η) ]q̇ = 0 ただし η と q の関係は (6) 式を接触点 1,2 についてま とめた以下で与えられる. · G := Gη1 05×6 η̇ = G(q, η)q̇ ¸· Glf1 06×6 05×6 Gη2 06×6 Glf2 12×12 6×6 (15) −Glo1 −Glo2 ¸ (16) 12×12 Mf ∈ R ,M o ∈ R ,C f ∈ R ,C o ∈ R6×6 ,N f ∈ R12 ,N o ∈ R6 は指・対象物の慣性行列, 6 遠心コリオリ力項,重力項である. · ¸τ i ∈ R は指 i への T f1 06×6 入力である.T f := であり,T fi は指 i 06×6 T f2 の位置・姿勢の速度から位置の速度・角速度への変換行 列である. 3 3.1 制御系設計 制御系設計の方針 (14) 式で与えられるシステムは,これまでの議論から 分かるように速度 q̇ に関する 8 本,位置 q に関する 2 本 の拘束を受けるので,システムが本質的に持つ自由度は 12 q̇ : 10,q : 16 である.一方,入力 τ ∈ R は把握 力の制御に用いる 2 入力を除いた 10 入力を運動の制御に 用いることができるので,この 10 入力により速度の自由 6 度 10 は直接制御可能である.速度の自由度を ẋo ∈ R , 4 v ω := [ ωx1 ωy1 ωx2 ωy2 ]T ∈ R にとり,これらの軌 道追従が成されているとすれば,η は完全 nonholonomic 拘束 (5) 式を受けるので,この拘束を満たす (4) 式に従 い, v ω に適当な軌道を与えることによりレギュレーショ ンが可能である.よって制御系設計の方針としては,【1】 hg ,ẋo ,v ω に対する線形化補償器を設計して,【2】 v ω を用いた η の制御則を設計する,ということになる. 3.2 線形化補償器の設計 T T 線形化によりサーボを行なう変数を v := [ ẋT o vω ] ∈ 10 R とおき,この v を q̇ から取り出すことを考える.q̇ は (7) 式の拘束 A(q, η)q̇ = 0 を受けるので,以下のよう にとる. q̇ = S(q, η)v, A(q, η)S(q, η) = 0 (17) 18×10 この S(q, η) ∈ R を 2.2 節の拘束式 A(q, η)q̇ = 0 の導出の過程を利用することにより導く.(7)∼(9) 式を T T T 中間変数 η̄˙ := [ η̄˙ 1 η̄˙ 2 ]T ,η̄˙ i := [ η̇ T i vzi ] を用いて 以下のように改めて表現する. 8×12 Āη η̄˙ = 0, Āη ∈ R 12×18 η̄˙ = Ḡq̇, Ḡ ∈ R (18) (19) まず,(18) 式を満たす η̄˙ の一般解うち,v ω を自由度に とる解は (4),(5) 式より · ⊥ ¸ Aη1 06×2 01×2 ⊥ ⊥ · ⊥ ¸ η̄˙ = Āη v ω , Āη := (20) Aη2 06×2 01×2 と記述できる.また,(19) 式の一般解は 18 + + q̇ = Ḡ η̄˙ + (I 18 − Ḡ Ḡ)z, z ∈ R (21) + とかける.(I 18 − Ḡ Ḡ)z が本質的に 6 自由度を持つの + + で,Ḡ ,(I 18 − Ḡ Ḡ)z を " # · ¸ + K1 Ḡ1 + + Ḡ := (22) + , (I 18 − Ḡ Ḡ) := K2 Ḡ2 + 12×12 + 6×12 12×18 のように Ḡ1 ∈ R ,Ḡ2 ∈ R ,K 1 ∈ R , 6×18 K2 ∈ R に分割し K 2 が行フルランクとすれば, 6 18×6 z := Dz̄ (z̄ ∈ R , D ∈ R )において + z̄ = (K 2 D)−1 (−Ḡ2 η̄˙ + ẋo ) (23) と選ぶことで,z̄ の 6 自由度を ẋo にとることができる. 以上より,(21) 式に (20),(22),(23) 式を代入して v に ついてまとめれば以下の S を得る. · ¸ S1 12×10 6×10 S := , S1 ∈ R S2 ∈ R (24) S2 ただし, £ + + ⊥ ¤ S 1 := K 1 D(K 2 D)−1 {Ḡ1 − K 1 D(K 2 D)−1 Ḡ2 }Āη £ ¤ S 2 := I 6 06×4 z0 以上から得られた S を用いて v に対する線形化補償 器を導出する.把握・操り系 (14) 式を制御変数である v , hg についてまとめる.(14) 式の運動方程式と指先力に関 する式 (11),(12) 式から b F o を消去し,q̇ = Sv を代入 すれば −T M̄ v̇ + AT (25) h B g hg + V̄ = T f τ T + M̄ := M f S 1 + AT h (Ao ) M o S 2 Cf θ1 Bf 0 z0 6 M̄ (v̇ − u) + AT h B g (hg − ug ) = 0 4 (29) T T が得られる.この両辺に左から S T 1 をかけて,S 1 Ah = T T T T S 2 Ao と Ao B g = 0 に注意すれば,S 1 M̄ (v̇−u) = 0 と T T なる.(26) 式より S T 1 M̄ = S 1 M f S 1 +S 2 M o S 2 である T から S 1 M̄ は正定であるので,v̇ −u = 0 が成り立つ.ま た,v̇−u = 0 を (29) 式に代入すれば AT h B g (hg −ug ) = 0 が得られ,AT , B が列フルランクであれば, hg −ug = 0 g h が成り立つ. 最後に,η̇ と制御変数 v の関係を導く.Ḡ := [ Ḡ1 Ḡ2 ], 12×12 12×6 Ḡ1 ∈ R ,Ḡ2 ∈ R とおけば,(22) 式より + + Ḡ1 Ḡ1 + Ḡ2 Ḡ2 = I 12 ,Ḡ1 K 1 + Ḡ2 K 2 = 0 である ⊥ ので,これらを用いて ḠS = [ 012×6 Āη ] が得られる. (9),(16) 式より G は Ḡ の 6,12 行目を除いたものであ るから, GS = [ 010×6 A⊥ (30) η] が得られる.したがって (15),(24) 式より η̇ = GSv = A⊥ η vω Eo ∆α0o ρθ1 u0o Ao vo z vo0 ẍo = uo , v̇ ω = uω , hg = ug y0 π−ψ+ϕ x, x0 ϕ y (32) (33) (32) 式が対象物の位置姿勢 xo ,把握力パラメータ hg と 接触点における転がり速度 v ω の制御系であり,これら は単純な PID コントローラなどにより制御可能である. また,v ω の軌道を適当に与えれば,(33) 式に従い η が 制御される. 閉軌道の繰り返しによる接触点のレギュ レーション ここでは,指先の形状を球,対象物を直方体に限定して 考える.これにより (33) 式は平面を転がる球のモデルに ∆αo uo u0o The Closed path on the sphere generates the motion in the plane (uo , vo ) and the angle of contact ψ. Fig.3 なる.なお,接触点 1 と 2 は同じモデルになるので,添 え字 i は省略する.球(指)上の接触点 αf = [ uf vf ]T を uf が東経,vf が北緯の向きになるようにとる.この とき η̇ と α̇f の関係 (33) 式は以下のようになる. u̇f 0 1 v̇f 1 0 u̇o = ρ cos vf cos ψ α̇f −ρ sin ψ (34) v̇o −ρ cos vf sin ψ −ρ cos ψ 0 sin vf ψ̇ ρ は球の半径である.ただし v ω と α̇f は · ¸ 0 1 vω = (K gf + K̃ go )M gf α̇f −1 0 2×2 (31) が得られる. 以上から,把握・操り系 (14) 式及び接触点の運動の式 (15) 式は以下のシステムとなる. 3.3 Co ρθ2 (27) T T ただし u := [ uT o uω ] ∈ R ,uo ∈ R ,uω ∈ R は 2 v に対する入力であり,ug ∈ R は hg に対する入力で ある.システム (25) 式にコントローラ (28) 式を適用する と,以下の閉ループ系 η̇ = Do ρθ2 Bo である.したがって線形化補償器は以下のように与えら れる. T T τ = TT (28) f (M̄ u + V̄ ) + T f Ah B g ug A⊥ η vω y0 Af , E f T + V̄ := (M f Ṡ 1 + C f S 1 + AT h (Ao ) C o S 2 )v 10 ρ cot θ2 θ2 (26) T + +N f + AT h (Ao ) N o θ1 sin θ2 Df x が得られる.ただし vo0 (35) 2×2 の関係を持ち,K gf ∈ R ,K̃ go ∈ R ,M gf ∈ 2×2 R は指,対象物の表面形状により決まる行列である 5) .本節では,指上の接触点 αf の閉軌道を繰り返すこ とにより目標点へのレギュレーションを行なう. 閉軌道としては,Li ら 9) により提案された閉軌道の拡 張として,3 つの自由度を持ち,システム (34) 式の特異点 vf = π2 を通らないものを提案する.すなわち,Fig.3 上段 のように球上において Af → Bf → Cf → Df → Ef (Af ) とたどる経路を,Fig.3 下段のように赤道から π + ψ − ϕ だけ傾いて行なうような閉軌道を考える.このときの αo , ψ の変化量 ∆αo ,∆ψ は (34) 式を積分して求めれば · ¸ cos ϕ sin ϕ ∆α0o (θ1 , θ2 )(36) ∆αo (θ1 , θ2 , ϕ) = − sin ϕ cos ϕ {z } | Rϕ (ϕ) ∆ψ(θ1 , θ2 ) = −θ1 sin θ2 (37) ただし · ¸ −ρθ1 + ρ(cot θ2 + θ2 ) sin(θ1 sin θ2 ) ∆α0o := (38) ρ(cot θ2 + θ2 )(1 − cos(θ1 sin θ2 )) となる.なお,∆α0o は Fig.3 上段の (u0o , vo0 ) 平面上の 変化である.各パラメータの範囲は −π < θ1 < π, − π2 < θ2 < π2 , −π < ϕ < π である.閉軌道を決定するパラメー タは θ1 , θ2 , ϕ の 3 つであるので,目標点に合わせてパラ メータを調整することにより αf , ψ を目標点へと持って いくことが期待できる.実際,以下の定理を示すことが できる. T 定理 1 η̃ := [ αT o ψ ] とし,(36)∼(37) 式により与え T られる閉軌道による変化を ∆η̃ := [ ∆αT o ∆ψ ] とお く.一般性を失うことなく目標点を原点とし,η̃ から原 点へと移動することを考える.このとき,以下のことが 成り立つ. ∀ η̃, ∃ ∆η̃ s.t. kη̃ + ∆η̃k < kη̃k (39) 証明は付録を参照されたい.この定理は,(39) 式から分 かるように,任意の η̃ から原点に近づく閉軌道が必ず存 在することを示している. 目標点を原点としたときの制御アルゴリズムを以下に 示す. Step.1: 指上の接触点 αf を原点へと持っていく. Step.2: αf の閉軌道の繰り返しにより αo ,ψ を原点へ と持っていく.k 回目の閉軌道を決定するパラメー タ θ1 [k], θ2 [k], ϕ[k] は以下の最小化問題 (θ1 , θ2 , ϕ) = arg min kη̃[k] + ∆η̃k θ1 ,θ2 ,ϕ (40) を解くことにより求める. 4 シミュレーション 指(球)の半径は指 1,2 ともに 1.0 × 10−2 [m],対象物 は一辺が 0.10[m] の立方体とする.制御目的は,転がり 接触において対象物を落とさないような把握力を加えな がら,対象物の位置・姿勢,接触点を目標値へと持って いくことである.把握力パラメータの目標値は,文献 10) のように指先力から動的に摩擦円錐内に入るように決定 する. シミュレーション結果を Fig.4,Fig.5 に示す.Fig.4 は線形化補償器による軌道追従の様子を表しており,左 から xo ,αf1 ,αf2 ,hg を表す.図では重なっているが, 破線が目標軌道,実線が実際の軌道であり,全ての変数 が目標軌道へと追従している事がわかる.なお αf1 の軌 道の目標軌道は (40) 式により決定している.次に,Fig.5 は αf1 の 閉軌道による η 1 のレギュレーションを表して おり,左図の上 2 つは左から対象物上の接触点 1 の座標 uo1 ,vo1 ,左下は相対姿勢 ψ1 を表す.右図はそれを平面 (uo1 , vo1 ) 上に描いたものであり,矢印により最初と最後 の姿勢 ψ1 が示してある.これらより提案した閉軌道を 描いて αo1 ,ψ1 が目標値(原点)へと到達していること が分かる. 5 おわりに 本研究では,6 関節 2 本指による把握・操り系において, 対象物の位置・姿勢,把握力,接触点の一部に対する線 形化補償器を導出した.また,平面と球のモデルに対し て,球上の接触点(接触点の一部)が単一の閉軌道を繰 り返すことにより,全接触点を目標点へ到達させる手法 を提案し,目標点に近づけるような閉軌道を決定するパ ラメータが必ず存在することを示した.これらの手法の の有効性を数値例にて確認した. 参考文献 [1] 吉川 恒夫, “器用なメカニカルハンド”, 日本ロボッ ト学会誌, Vol.18, No.6, pp.763–766, 2000. 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A 定理 1 の証明 ∆η̃ = [ (Rϕ ∆α0o )T ∆ψ ]T を用いて (39) 式の両辺の 2 乗の差を計算すると kη̃ 0 + ∆η̃k2 − kη̃ 0 k2 0 T 0 = [ 2(RT ϕ αo ) + ∆αo ] ∆αo + (2ψ + ∆ψ)∆ψ となる.このとき,Rϕ が回転行列であることから ϕ を ∆α0o 用いて RT ϕ αo = −kαo k k∆α0 k とできるので,(39) 式は o ∀ αo ,³ψ, s.t. ∃ θ1 , θ2 kαo k −2 k∆α0 k o ´ + 1 k∆α0o k2 + (2ψ + ∆ψ)∆ψ < 0 (41) 【The trajectry of the object】 p 0.1 p oxd 0 1 2 0 1 0 0.5 1.5 2 1 0 0.5 1 u f u 0 0 0.5 1 1.5 v f v 2 h gτ h f 2d 1 0 2 0.1 gτd 1 -1 -1 0.5 2 t [s] 1.5 2 f 2d 2 1 1.5 t [s] 3 ozd 2 1.5 t [s] [rad] 0 -1 1 2 1 h gf [a.u] f 1 v -1 -1.5 φoz φ 2 0 -3 2 3 oyd oy 0 -1 gfd 2.5 -0.5 -2 t[s] φoz [rad] 1 [rad] [rad] 0 φoy φ 2 φ [rad] φox [rad] 3 oxd 0 -1 t[s] φox φ 2 0.1 0.05 t[s] 3 h gf h 3 1d 0.05 h g τ [a.u] 2 3.5 vf 0.5 [rad] 1 1 uf 0 【The grasping force】 f 1 0.5 0 f 2 -0.1 v 1 v -0.05 1d 1 0 -0.1 1.5 f 1 uf 2 0.15 -0.05 u 0.2 p oz [m] p ox 0 3 oz p ozd oyd 0.05 p oy [m] [m] 0.05 oy 【The contact point of finger1,2】 p 0.25 uf p ox p 0.1 -0.5 0 -0.05 -2 -2 -2 -2 -1 -3 -3 -3 -3 -1.5 0 1 2 0 1 t[s] 2 0 1 t[s] 0 2 0.5 1.5 2 0 0.5 1 1.5 -0.1 2 0 0.5 t [s] 1 1.5 2 t [s] The controlled v by the linearization compensator. Fig.4 【The motion of αo1 ,ψ1 】 0.05 1 t [s] t[s] 【The motion of αo1 ,ψ1 on αo1 plane】 0.05 ( u o 1 ,v o 1 ) plane 0.015 [m] [m] initial orientation ψ 0 1 initial point 0 u vo o 1 0 1 0.01 0.005 0 0.5 1 1.5 -0.05 2 0.5 1 1.5 2 t [s] 0 final orientation ψ vo 1 t [s] final point 0 [m] -0.05 3 1 f -0.005 [rad] 2 -0.01 1 ψ 1 0 -0.015 -1 -2 -0.02 -0.005 -3 0 0.5 1 1.5 2 0 0.005 Fig.5 θ1 → 0 または θ2 → 0 ⇐⇒ ∆ψ → 0 θ1 → 0 または θ2 → 0 =⇒ ∆α0o → 0 (42) (43) の性質を持つことに注意する.(42) 式は (37) 式より明ら かであり,(43) 式は (38) 式より θ1 = 0 のときは明らか, また θ2 → 0 ときは,極限をロピタルの定理を用いて計算 すれば得られる.以降では,(i) kαo k 6= 0,ψ 6= 0,(ii) kαo k 6= 0,ψ = 0,(iii) kαo k = 0,ψ 6= 0 の場合に分け て考える. 【(i) kαo k 6= 0,ψ 6= 0. 】(42),(43) 式より −2 kαo k +1<0 k∆α0o k (44) を満たす十分小さな θ1 ,θ2 が存在するので (41) 式が成 り立つ. 【(ii) kαo k 6= 0,ψ = 0. 】このとき (41) 式は µ 1+ ∆ψ 2 kαo k −2 k∆α0o k2 k∆α0o k 0.015 1 0.02 0.025 0.03 [m] The motion of αo1 ,ψ1 by the closed path of αf1 . となる.ここで ∆α0o ,∆ψ は連続関数であり, ψ∆ψ < 0, |2ψ| > |∆ψ|, 0.01 uo t [s] ¶ k∆α0o k2 < 0 (45) となる.(45) 式の括弧内において正の項と負の項の比 µ ¶, µ ¶ ∆ψ 2 ∆ψ 2 kαo k 1 0 1+ 2 = k∆α k + o k∆α0o k2 k∆α0o k 2kαo k k∆α0o k は θ1 → 0 のとき極限 0 であることがロピタルの定理を 用いることで確認できるので,少なくとも θ1 を十分小さ くとれば (45) 式が成り立つ. 【(iii) kαo k = 0,ψ 6= 0. 】このとき (41) 式は µ ¶ k∆α0o k2 + ∆ψ + 2ψ ∆ψ < 0 (46) ∆ψ となる.(46) 式の括弧内の第 1 項,第 2 項は θ1 → 0 の とき極限値 0 を取ることがロピタルの定理を用いて示せ る.したがって θ1 を十分小さくとれば, ¯ ¯ ¯ ¯ k∆α0o k2 ¯ + ∆ψ ¯¯ (47) ψ∆ψ < 0, |2ψ| > ¯ ∆ψ とできるので,(46) 式が成立する.