Comments
Description
Transcript
金融市場論 Financial Markets
金融市場論 Financial Markets 2007年度前期 金融機関のビジネスモデルとその変容 大学院商学研究科 齋藤一朗 OUTLINE ¾ 伝統的な金融機関のビジネスモデル ¾ 道内金融機関の健全性と費用効率 ¾ コア業務としての資金仲介業務 ¾ 預貸業務における費用効率 ¾ ビジネスモデル変革の方向性 伝統的な金融機関のビジネスモデル 【価値提供の仕組み】 【価値提供の仕組み】 ・地域全体に張り巡らされた ・地域全体に張り巡らされた 店舗ネットワーク 店舗ネットワーク ・顧客からのあらゆるニーズに ・顧客からのあらゆるニーズに 応えるフルバンキング体制 応えるフルバンキング体制 (事業のフルライン志向) (事業のフルライン志向) 【顧客に提供する価値】 【顧客に提供する価値】 ・提供される金融商品・サービス ・提供される金融商品・サービス の信頼性 の信頼性 ・リレーションシップの質 ・リレーションシップの質 ・魅力的なプライシング ・魅力的なプライシング ・専門的なアドバイス ・専門的なアドバイス ・店舗へのアクセスの容易さ ・店舗へのアクセスの容易さ ・ブランド、評判 ・ブランド、評判 など など 地域に定在する 地域に定在する 家計、企業・団体 家計、企業・団体 および地方自治体など および地方自治体など ・店舗をマネジメントの基本単 ・店舗をマネジメントの基本単 位とする「個店主義」的なオペ 位とする「個店主義」的なオペ レーション レーション ・proprietaryなシステムで統 ・proprietaryなシステムで統 合された業務プロセス 合された業務プロセス (機能のフルライン志向) (機能のフルライン志向) ・マス・マーケティングによる ・マス・マーケティングによる 「規模の経済」の追求 「規模の経済」の追求 【ターゲット顧客】 【ターゲット顧客】 【提供する商品・サービス】 【提供する商品・サービス】 ・預金、貸出、為替取引といった伝 ・預金、貸出、為替取引といった伝 統的な金融商品・サービス 統的な金融商品・サービス ・銀行の固有業務に付随する商品・ ・銀行の固有業務に付随する商品・ サービス サービス ・投資信託等の窓口販売 ・投資信託等の窓口販売 ・クレジットカードやリースなど、関連 ・クレジットカードやリースなど、関連 会社が提供する周辺サービス 会社が提供する周辺サービス D Depositor 預金の受入 預金の受入 D’ 流動性管理 流動性管理 Loanable Fundの析出 Loanable Fundの析出 全般管理 全般管理 Capital Capital Human Resources Human Resources and and Facilities Facilities Capital Capital and and Profit Profit Financial Intermediary Process システム・インフラ システム・インフラ Screening Screening 貸出の実行 貸出の実行 Monitoring Monitoring L Borrower 回収 回収 資金の流れ L’ 道内金融機関の健全性と費用効率 道内金融機関の健全性と費用効率( 2 0 0 6 年3 月期) 100 ( O H R ー コ 80 ア 業 務 粗 利 益 60 ベ ) ス 相関係数 0.108 40 0 10 20 30 40 自己資本比率 銀行 信用金庫 信用組合 50 60 傾向的には… • 業態別では、信用金庫の健全性が相対的に高い。 【2006年3月期】 自己資本比率の平均値 銀 行の平均値 信用金庫の平均値 信用組合の平均値 14.49% 9.32% 17.17% 7.73% • 業態別では、銀行の費用効率が相対的に高い。 【2006年3月期】 OHRの平均値 銀 行の平均値 信用金庫の平均値 信用組合の平均値 69.79% 59.44% 67.46% 81.24% • だが、健全性の高い金融機関が、コスト効率の面 で秀でているわけではない。 自己資本比率とOHRの間に、相関関係は認めら れない。 これからのビジネス・モデルを展望する際には、 如何にして利益の増大を図り、自己資本の充実に 結びつけていくか、という最もPrimitiveな視点が 重要。 コア業務としての資金仲介業務 道内金融機関の資金運用効率と費用効率(1 998 年3月期との対比) 30 O H R の 変 化 幅 20 10 ( 0 -2 -1 0 -10 ) % ポ -3 イ ン ト -20 コア 業務粗利益率の変化幅( %ポイント) 銀行 信用金庫 信用組合 1 傾向的には… • 98年3月期以降、道内金融機関における資産の運 用効率は低下する傾向にある。 コア業務粗利益率の変化幅(平均) 銀 行の変化幅(平均) 信用金庫の変化幅(平均) 信用組合の変化幅(平均) ▲1.98%ポイント ▲0.21%ポイント ▲0.67%ポイント ▲1.95%ポイント • 98年3月期以降、道内金融機関における資金運用 業務の費用効率は上昇する傾向にある。 OHRの変化幅(平均) 銀 行の変化幅(平均) 信用金庫の変化幅(平均) 信用組合の変化幅(平均) 4.86%ポイント ▲ 4.35%ポイント 4.13%ポイント 10.59%ポイント • コア業務粗利益率の低下とOHRの上昇からみえて くるもの • 地域金融機関のコア・ビジネスである資金仲介業 務の“低収益・高コスト”体質の露呈 • もう一段のコストダウンが必要? • より抜本的には、伝統的なビジネスモデルを変革 することが必要? 預貸業務の費用効率 預貸業務OHRの分布(2006年3月期) 金融機関数 60%~69% 70%~79% 80%~89% 90%~99% 100%~109% 110%~119% 120%~129% 130%~139% 140%~149% 合 計 5 1 6 12 2 7 1 1 1 36 銀 行 信用金庫 2 1 3 信用組合 2 1 4 9 1 6 1 1 1 25 2 3 1 1 8 預貸業務の費用効率( 19 9 8年3 月期との対比) 160 0 6 年 度 預 貸 業 務 O H R 140 120 100 80 60 40 40 60 80 100 120 9 8 年度 預貸業務OHR 銀行 信用金庫 信用組合 140 160 傾向的には… • 2006年3月期のOHR(預貸業務)とコア業務粗利 益ベースとを比べてると、 OHR(コア業務粗利益ベース) 69.79% OHR(預貸業務) 93.35% *預貸業務に関わる経費として、経費総額の98%を一律配賦 • 北海道における預貸業務は、採算割れギリギリの 状態? • 業態別には、 銀 行 OHR 59.44%→預貸業務 67.37% 信用金庫 OHR 67.46%→預貸業務 96.44% 信用組合 OHR 81.24%→預貸業務 93.03% • OHR(預貸業務)を98年3月期と比較してみると、 平 均 98.3月期 96.57%→06.3月期 銀 行 98.3月期 78.81%→06.3月期 信用金庫 98.3月期 103.47%→06.3月期 信用組合 98.3月期 78.89%→06.3月期 93.35% 67.37% 96.44% 93.03% • マス・リテール戦略のKey Factor of Successは、 「如何にしてコストダウンを図り、クリティカルマ スを確保するか」 • 採算性の観点から、伝統的な預貸業務 ( Proprietaryなシステムで統合されてきた業務プ ロセス)は、果たして持続可能か? ビジネスモデル変革の方向性 • 地域金融機関と大手銀行業のビジネスモデルを比 べてみても、そこには営業エリアの広狭、あるい は顧客企業の大小の差こそあれ、その基本的な構 造に、本質的な差異は見出しがたい。 • このため、わが国の銀行業では同質的競争に陥り やすく、プライシングを梃子としたシェア競争が繰 り返し行われてきた。 • では、数多ある金融機関の中で、敢えて「地域金 融機関」をひとつのセグメントとして括り出すこと の意義は何か?地域金融機関に固有の「強み」は 何か? 銀行業に求められるコンピタンス 【組織能力とリーダーシップ】 ・ビジョン ・リーダーシップ ・組織設計と人的資源管理 ・予算統制と業績評価 ・経営情報システム 【卓越した金融仲介技術】 ・Screening(審査) ・Monitoring(債権管理) ・資金プールの形成と流動性創出 ・リスクの負担と管理 【効率的な業務オペレーション】 ・オペレーション・プロセスの設計 ・コスト・コントロール ・ITの効果的な活用 ・統合化マネジメント 【優れたマーケティング能力】 銀行業に求められる 5つのコンピタンス ・顧客理解とセグメンテーション ・商品・サービスの開発力 ・プライシング ・ブランディング ・セールス力 【戦略的なデリバリー・チャネル】 ・セグメント別のチャネル構築 ・効率的な店舗ネットワーク ・ダイレクト・チャネルの活用 ・マルチチャネル・マネジメント • Nationwideに展開する大手銀行業と地域金融機関 を比較するならば、ハイタッチな顧客接点が地域 金融機関にとっての1つの強みとなろう。 • 対面交渉を通じてこれまでに築き上げてきた密接 な対顧客関係と、顧客ベースを維持・拡大するた めのデリバリー・チャネルこそが、地域金融機関 のコア・コンピタンスになると考えられる。 • とはいえ、現在の店舗を中核とするデリバリー・ チャネルのあり方は、大きな転換点を迎えている。 ¾ 伝統的な銀行業のデリバリー戦略は、店舗の立地と店舗 形態を決定する出店戦略そのものであった。銀行業は、 マーケットとしての魅力が高くしかも店舗規制をクリアで きる出店用地の確保に努め、効率的な店舗ネットワーク の構築に大きな関心を払ってきた。 ¾ 一方、顧客の側においても、取引金融機関を選択する際 の理由として、店舗へのアクセスの容易さを挙げること が多かった。 ¾ 店舗は、顧客と銀行業を繋ぐアクセス・ポイントとして、 また競合他行によるマーケットの浸食を阻止する拠点とし て、重要な役割を担ってきた。 ¾ 1990年代に入ると、収益確保の観点から人件費・物件費 のローコスト化が図られ、営業エリアが重複する店舗を 中心に統廃合が進められた。 ¾ だが、その一方で、情報通信技術の発展に対応した投 資等(IT化投資)から新たな物件費負担が生じ、店舗 当たりの物件費はさほど低下しなかった。 ¾ このため、物件費をさらに削減するためには、より踏み 込んだ店舗数の削減を要すると思われる。 ¾ しかし、店舗数を減らすことは、地域金融機関の強みで ある店舗ネットワークの放棄を意味し、店舗に蓄積され てきた預金残高や貸出金残高などとともに、それらがも たらしてきた収益の逸失に繋がる。 道内金融機関の経費動向 経費の変化(1998年3月期との対比) 職員1人あた 人件費増減率 職員数要因 り人件費要因 平 均 4.8 5.7 -0.7 銀行平均 6.5 14.1 -5.5 信金平均 -9.0 5.3 -13.0 信組平均 47.2 3.6 39.4 物件費増減率 平 均 銀行平均 信金平均 信組平均 14.7 66.9 5.1 25.1 1店舗あたり 物件費要因 1.8 45.7 1.9 -15.1 店舗数要因 15.2 8.1 3.6 54.1 (単位:%) 交絡項 -0.1 -2.0 -1.3 4.3 交絡項 -2.3 13.1 -0.5 -13.9 • リテール・ブランチ・バンキングは、今後も収益を 生み出すことができるのか? デリバリー・チャネルの革新 • 店舗規模の最適化 ¾ 店舗密度の高い都市部においては、店舗を 統合することで、 コストの重複投入を抑制し、町村部においては、代理店制 度 を活用したより低コストで代替的なチャネルへの移行か、より小 型で効率的な店舗へのリニューアルを検討する必要がある。 • 価値創造の拠点としての機能強化 ¾ 経常的な金融取引(例えば、預金の預入・払戻や振替、振込な ど)の大部分がダイレクト・チャネルに移行する中で、店舗は顧 客の獲得や取引を深耕する拠点としての重要性を増している。 • 顧客セグメントに応じた業務プロセスの設計 ¾ 伝統的な銀行業においては、「個店主義」「フルバンキ ング体制」の考え方をベースに供給側の論理で業務プロ セスが組み立てられてきた。だとすれば、これからの銀 行業が採るべき方向性は、顧客セグメントに応じた業務 プロセスの見直しと、それに適合したチャネルの再構築 となろう。 顧客セグメントと業務プロセス 顧客セグメント 法人顧客層 大企業 機関投資家 個人顧客層 コア取引層 ノンコア取引層 法人マス層 個人富裕層 (コア取引層) 資産形成層 ローン利用層 個人マス層 リモート選好層 収益見合いの経営資源投入 専門的なアドバイス 業務合理化の 方向性 営業拠点の集約化 ハイタッチな 人的対応 セントラル・コントロール型の オペレーション・スキームの導入 Passiveな 人的対応 本部支援機能 ダイレクト・チャネルの 活用 問題企業 企業再生支援 債権回収