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トルコ共和国イスタンブール市免震病院新設計画(PDF
平成 16 年度 地球環境・プラント活性化事業等調査 「トルコ共和国 イスタンブール市免震病院新設計画」 に係る F/S 調査報告書 報告書要約 平成 17 年 3 月 鹿島建設株式会社 トルコ共和国 イスタンブール市免震病院新設計画 * 完成予想図 * 対象地域国 イスタンブール アンカラ * イスタンブール市およびベイリックデュズ区(約 1/250,000) ● イスタンブール 敷地 マルマラ海 第1章 プロジェクトの内容 1-1 プロジェクトの背景 トルコの第 8 次 5 カ年計画(2001~5 年)の中で、保健・医療分野に関しては、平 等・公正の原則の下、国民の健康確保に貢献することを使命として活動していくこと を表明している。 また、イスタンブール州には医療施設整備のための投資計画があり、その中で 2004 年に施設整備の計画は 15 ある。本プロジェクトの対象であるベイリクデュズ病院 もその 1 つであり、2004 年 1 月 13 日付け官報にも掲載されており、トルコ国内では 緊急性の高いプロジェクトとして位置づけられている。 一方、トルコは地震多発地帯にあることから、1999 年のコジャエリ(マルマラ地方) 大地震をはじめ度重なる多くの大震災により甚大な被害を受けてきた歴史をもつ。 被災地では、医師・看護師・病院職員らが献身的な活動を続けてきたが、病院施設 も他の建築物と同様、大きな被害を受けていることから、震災直後の医療活動に重 大な支障をきたした苦い経験が多々ある。 今後も同規模程度の大地震が、トルコ全 域で発生する可能性が高いことが指摘されており、「災害時の防災拠点となり得る、 地震に強い病院の整備」が、保健省の急務となっている。 本プロジェクトは、トルコ官報 2004 年投資計画(2004 年 1 月 13 日付け)にあると おり、優先度の高い位置づけとなっており、これを嚆矢として今後段階的に整備され ていく保健省病院は、地震に強い病院として計画されることが予定されている。 1-2 プロジェクトの必要性 本プロジェクトでは、病院が地震からの影響を受けずに、継続的な医療サービスの 提供、入院患者と職員の安全確保、震災直後の被災者受入が可能となるよう、まず 構造的に堅牢な病院を必要としている。構造計画上の地震対策としては、①耐震、 ②制震、③免震の手法が考えられる。 医療施設では、震災直後も機能していなければならず、建物の構造体に被害がな いばかりでなく、医療機器・什器備品の転倒防止、高度医療機器への障害抑制、設 備配管等の損傷回避が不可欠となる。また、災害時の避難・搬送の観点から中層以 下で計画されることが望ましいことや、将来的な改修工事に対して上部構造に制約 を与えぬことも、重要な観点である。 以上を総合的に勘案すると、免震構造は、医療施設の構造計画に極めて適した 手法といえる。 1-3 プロジェクトの計画概要 1-3-1 イスタンブール市ベイリクデュズ病院概要 本プロジェクトでは、教育・研修医療機関としての能力に加え災害拠点病院として 機能し得る病院を整備する。医療レベルとして必要とされるものは、表-1 のとおりま とめられる。 表-1 医療レベル的に必要とされる仕様 項目 延床面積 病床数 診療科目 仕様・内容 約 78,000 ㎡ 400 床 (除 ICU,CCU,NICU 等) 内科、外科、産科、小児科、等臓器別疾病診療科を含む計 22 科 病棟、外来、救急、検査、画像診断、手術、分娩、リハビリテーション、透析、薬局、 主要部門 中央材料、栄養、洗濯、管理・運営 その他付帯施設 職員宿舎、幼稚園、駐車場(約 300 台) また、本プロジェクトで免震構造を採用することにより、災害に強い病院-災害拠 点病院として整備されるが、その性能がさらに充実するのに必要とされる仕様は、表 -2 のように考えられる。 表-2 災害拠点病院として必要とされる仕様 項目 構造 電気設備 情報通信設備 機械設備 その他 仕様・内容 免震構造 空冷型自家発電機 燃料備蓄(3 日分) UPS(500KVA) 2 回線受電 衛星通信 受水槽容量(3 日分) へリ・ポート シェルター(約 1,000 ㎡) 備考 幹線道路(E-80 号線)から近いため、ライフライン の復旧が比較的早いと思われる。 1-3-2 プロジェクト・サイト 敷地はイスタンブール市西端のブュックチェクメジェ県に位置しており、周辺は中 高層住宅が林立する比較的高級な住宅地の一角である。イスタンブール市を東西 に横断する最も重要な幹線道路である国道 E-80 号線からわずか 1km 南に入った場 所であり、上位医療機関である医療複合施設まで車で約 30 分といった、交通アクセ スに優れた敷地である。 敷地面積は約 40,000m2 弱であり、一部は傾斜地であることから建設用地に向かな い箇所もあるが、計画敷地としては十分な広さといえる。 現在の土地所有者は保健省であり、用地取得に関する問題はない。また、周辺住 民にとっても利便性の高い施設であることから、施設建設に関する賛成は多くとも反 対は尐ないことが予想される。 建設予定地のインフラ関連の状況には、問題はない。 1-3-3 プロジェクト事業予算規模 プロジェクト事業総額は US$108.9mil(約 119.8 億円=約 161.7 兆トルコリラ)となる。 [US$1=110、日本円=1,485,000 トルコリラ] 内訳は、建設費が US$64.8 mil(約 71.3 億円)、うち、日本からの調達となる免震装置及びそれに付随する建設機器材 が US$9.8 mil(約 10.8 億円)、医療機器費用(日本調達)が US$22.5 mil(約 24.8 億 円)、什器・備品費が US$4.0mil(約 4.4 億円)、設計コンサルタント費が US$8.0mil (約 8.8 億円)、予備費 US$8.1mil(約 8.9 億円)である。 1-3-4 円借款要請及び実施に係る関係機関の概要 本プロジェクトの主たる実施機関は、保健省研究・計画・調整部となる。 保健省は、 円借款の要請及び実施者であると同時に以下に上げる関連機関との調整を図り、総 合的な推進役を担う。 第2章 2-1 イスタンブール市免震病院の詳細 技術的実行可能性 トルコではこれまで幾多の大地震が発生し、多くの尊い人命や貴重な財産が失わ れてきた。また地震学的に見ても、トルコと周辺地域は地震発生の原因となるプレー トがぶつかり合う場所で、多数の活断層が存在し、非常に活発な地震活動地域とな っている。特にイスタンブール市の周辺には過去に大被害をもたらしてきた北アナト リア断層が存在し、近い将来にも活動が懸念されている。 従って、免震病院の耐震設計に必要な地震動を想定する際には、世界的にも最 も厳しい耐震基準を考慮している日本の免震建物に適用されている考え方に準拠し て、当該敷地における適切な地震動を評価し、日本と同等以上の耐震性能レベルを 確保することとする。 また、ベイリクデュズ病院に適用すべき建築構造として、耐震構造、制震構造、免 震構造の 3 種類について比較検討を行った。 制震構造や免震構造は最近良く耳にする言葉であるが、制震構造は 20 階以上の 超高層ビルに適しており、本プロジェクトで想定している 8 層程度の建物では、建物 に加わる地震力を耐震構造より若干小さくしてくれるにすぎないのである。 重要度係数により耐震グレードをアップさせた耐震構造でも、構造的被害を食い 止められる設計は可能であっても、二次部材、設備配管、什器・備品、高度医療機 器等の損傷は免れ得ず、震災後に使用不能に陥る可能性が大なのである。 これらの結果から明らかなように、8 層程度でマッシブな形状の構造物では、免震 構造の耐震安全性は圧倒的に増すのである。 本プロジェクトで計画されている免震構造は、トルコでは未だ実績が極めて尐ない ものであり、その設計・施工の過程において協力するトルコ国内関係者にとって貴重 な経験と成り得るであろう。 設計においては、日本の構造技術者からの指導により、免震構造を前提とした場 合の建築・設備計画で配慮すべき仕様・規制等を、トルコ国内での実情に適応させ る役務が主となるが、これが新たな現地工法でのディテールの開発・改善につながる ことが考えられる。 また、施工においては、施工精度の向上、工期の短縮、品質管理といった現地の 建築生産技術の改善・向上に寄与することが十分予想される。 これらの技術移転を容易にするためには、(社)日本免震構造協会が一般人向け に編集した「はじめての免震建築」および設計・施工技術者向けの「免震構造入門」 のトルコ語翻訳版作成は非常に有効であると思われる。また、トルコに日本流免震技 術を流布させる最良の手段となるであろう。 2-2 財務的経済的実行可能性 ベイリクデュズ病院に免震構造を導入する場合、建設費は導入しない場合に比べ て US$9.8mil 高くなる。しかし、建設予定地のブュックチェクメジェ県においてコジャ エリ地震レベルの地震が起こった場合、物的損失については建造物の建て替え費 用と医療機材の損失をあわせて US$35.9mil の損失回避が可能である。また、米国 の人命評価額を応用すると、人的被害に関しては 370 名の死亡と US$139.5mil の経 済損失を食い止めることが可能である。免震構造は、物的・人的損失を最小限にとど めるための必要最小限のコストといえる。 通常、公共投資に関するプロジェクトの F/S 調査においては費用・便益分析が行 われ、算出される内部収益率(Internal Rates of Return、IRR)により対象プロジェクト の財務的・経済的実行可能性を評価する。しかし、当該プロジェクトは病院、しかも 保健省病院の建設であり、利潤を追求することが使命ではない。また、現状において 保健省病院は独立採算を求められているが、病院の収益を保健省に納める仕組み にはなっておらず、高額機材の更新についても保健省予算により手当がされている。 この意味からも、病院の IRR を求める必要はない。 本プロジェクトにおける財務的・経済的実行可能性の検証に際して、本調査にお いては、プロジェクトにより建設されるベイリクデュズ病院が独立採算による運営が可 能かどうかを検証した。 本プロジェクトの対象となるベイリクデュズ病院は診療圏人口約 75 万人(ビュクチェ クメジェ県:Büyükçekmece District、チャタルカ県:Çatalca District、シリブリ県:Silivri District)であり、これは通常時の裨益人口となるが、災害時においてはイスタンブー ル全市をカバーする災害拠点病院としての活動も行うこととなる。また、ベイリクデュ ズ病院と同等規模のアタチュルク病院の診療圏人口を比較しても、新病院が開院し た場合アタチュルク病院と同様に多くの患者が訪れることが予測される。 アタチュルク病院における収支実績から判断しても、トルコにおける医療施設の運 営は初期投資部分を除けば、十分に実行可能であることが判断されている。また、 新病院に配置される医療スタッフの配置もすでに策定されており、本件実行の可能 性は高いと判断される。 2-3 プロジェクトの資金調達の見通し イスタンブール市はトルコ最大の都市であり、災害時に拠点となりうる病院を当該 市内に持つことは、トルコ政府にとって急務の課題である。また、本プロジェクトにより 建設される病院は、平時には通常の教育研究病院として、地域住民のための医療 活動の中心的な機能が期待できる。故に、本プロジェクトの実施に掛かる支出はトル コ政府にとって極めて必要性が高いと言える。 しかしながら、プロジェクトコストは大きな支出であるため、プロジェクトの早期実現 のためには、初期投資額をソフトローンで資金調達することが望ましいと考えられる。 トルコ保健省の本プロジェクトにおけるファイナンス返済計画を一般的なケースで 比較検討すると、他ケースより国際協力銀行( JBIC)の円借款:本邦技術活用 (STEP:Special Term for Economic Partnership)の条件が、据置期間を含むローン 返済期間が長く、利息年率が低率であるため、トルコ保健省のプロジェクトコスト負担 が非常に軽くなる。 また、トルコ政府は、免震技術を活用した病院建設に強い興味を持っており、技術 導入も含め日本の協力を求めている。さらに、本プロジェクトへの他ドナーの重複が 認めらないため、STEP を活用した円借款の優位性が明らかであり、F/S 結果を基に、 日本政府に円借款の正式要請が検討されている。 2-4 我が国企業の参画可能性 免震構造においては、地震国である我が国の得意分野であり、本邦建設業者の 免震技術は世界でもトップクラスである。 また、1995 年の阪神淡路大震災、2004 年 の新潟中越地震等、近年の度重なる震災経験から、その技術はさらに研究が重ねら れ、経験と実績を踏まえた点では世界に類を見ない。トルコ国は震災被害を多く受 けているが、免震構造における経験が尐なく、自国での現状の技術では免震構造の 設計および施工は困難である。 特に、病院といった専門性が高く、多様な技術が包 含される施設においては、免震構造の設計、仕様の決定、施工会社の選定におい ては、高度な技術力と豊富な経験を有する我が国企業の参画が不可欠である。 また、日本の医療機材は最新のテクノロジーを基盤に開発され、海外においても その精度、品質共に高い評価を得ている。「医療機材は医療技術そのものである」と 言われることから、医療関係者は常に最新の機器を望んでいるし、患者の立場からも サービスの質に直結するといった観点から、機器の性能は切実な問題である。 日本 の医療レベルは世界的にも非常に高く、そのレベルを維持発展させている日本の医 療機器は、技術的にも価格的にも十分な競争力を有している。 2-5 プロジェクトの実施スケジュール このプロジェクトが JBIC による STEP ローンとして実施されるとすると、トルコによる 借款要請の表明を受け、E/N(Excange of Notes)、L/A(Loan Agreement)を経た後、 基本設計~詳細設計~入札までの概ね建設開始まで 1 年半、病院建設工事期間 が約 2 年、基本設計から開院までは 4 年程度が必要となる。 2-6 相手国実施機関の実施能力 実施機関であるトルコ保健省の予算(2003 年)は 3,570 兆 TL であり、その半分以 上が治療サービスに、30%弱がプライマリヘルスケアに向けられている。また、約 70%が人件費である。 トルコの会計年度は 1 月 1 日~12 月 31 日である。各省庁は、大蔵省によって示さ れる概算要求枠をもとに次年度予算の作成作業を進め、7 月中旬までに素案を大蔵 省に送る。これをもとに、大蔵省は 9 月より各省庁と協議を行った後、次年度予算案 を作成して、国家計画機関(State Planning Organization、SPO)及び内閣と協議を開 始する。そして、11 月までには閣議における承認を得て、首相府、SPO、財務省 (Undersecretariat of Treasury、歳入をつかさどる機関)及び大蔵省(歳出・省庁間配 分を管理する機関)による最終チェックの後、12 月に政府予算が発表される。 各病院の機材整備は全て入札により行われる。まず、各科の主任医師を中心に必 要な医療機材をリストアップし、院長・副院長レベルによる検討を経て調達を行う機 材を決定する。高額機材の場合は保健省に予算を申請し、承認を受けた後に入札 を行う。ベイリックデュズ病院のような研究・教育病院の臨床検査部や放射線部とい ったいわゆる中央診療部門には、建物の新旧にかかわらず高度な自動分析装置や CT、MRI が設置されている。 トルコでは、医師数が専門医と一般医をあわせて約 12.5 万人に対して、看護師が 約 12 万人と、1:1 の割合になっている。また医師に関しても、1985 年までは専門医数 が一般医数を大きく上回る状況が続き、一般医数が上回るようになったのは 90 年に 入ってからのことである。 トルコでは、全国に 46 カ所ある大学の医学部を卒業した後、一般医の資格を得る。 さらに、専門医を目指す医師は、高等教育評議会が主催する国家試験を受ける必 要がある。試験は年に 2 度行われ、何度でも受験可能である。そして、合格者は最初 の配属先として研究・教育病院に配置され、専門医としてのキャリアの第一歩を踏み 出す。また、看護師及び技師に関しては、全国に 333 カ所ある専門学校において教 育を受け、それぞれ専門の資格を得る。 本プロ ジェクトの担当部署は、調査・計画・調整部( Department of Research, Planning and Coordination)である。また、州保健局においては、副局長であり州内 施設整備計画の責任者である Dr. Celal Sahin が担当である。 2-7 円借款要請に向けたアクションプランと課題 本プロジェクト実施においては、トルコ保健省が内貨コストの確保、及びローンの 借り入れにつき、トルコ国会及び財務省から承認を得る必要がある。また、病院建設 については、環境省と保健省の間で定められた環境アセスメントに沿った対応が求 められる。 しかしながら、トルコ保健省は本病院建設を早急に行いたいという強い意向があり、 財政的な手続きを国会・財務省に対して遅滞なく行う見込みである。また、病院建設 自体は環境に与える影響が尐なく、また医療廃棄物等の処理についても、その他病 院と同様に法令に基づき行われるため、問題ないと判断される。 ただし、約 6 ヶ月の調査業務で得られた知見や、トルコ側に対して実施した打合せ を考慮すると、本 F/S が短い検討時間のコンセプシャルなデザインに基づいており、 実施設計中に更に効果的な免震構造、建築計画を見直すことが望まれる。