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認知症と活動志向性の関連 The relationship between Alzheimer`s

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認知症と活動志向性の関連 The relationship between Alzheimer`s
健康医療科学研究 第 4 号 2014
[原著論文]
PP. 15 − 24
認知症と活動志向性の関連
― 神経心理検査(認知機能評価尺度)による US-ADNI 登録者の検討 ―
認知症と活動志向性の関連
―神経心理検査(認知機能評価尺度)による US-ADNI 登録者の検討―
前野信久・神原良輔1・Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative
The relationship between Alzheimer’s disease and
action-orientation
- A study using the neuropsychological tests in the US-ADNI -
Nobuhisa MAENO, Ryosuke KANBARA1, and Alzheimer's Disease
Neuroimaging Initiative
Background: A daily exercise is taken as one of the prophylaxis of Alzheimer’s disease (AD).
However, the evaluation scale getting interest to an exercise function and an athletic capability,
exercise and activity has not been found. Therefore, in this study, we extracted items considered to be
related to action-orientation or extroversion from the neuropsychological tests to evaluate an existing
lifestyle and to preliminarily evaluate the relationship between AD and action-orientation. Objective:
The subjects included 134 mild cognitive impairment (MCI) patients and 521 AD patients which were
as registered by US-ADNI. Methods: We extracted items as follows, "community affairs" and "home
and hobbies" of the CDR (Clinical Dementia Rating), GDS (Geriatric Depression Scale)-Q2: "Have
you dropped many of your activities and interests?", GDS-Q9: "Do you prefer to stay at home, rather
than going out and doing new things?", GDS-Q13: "Do you feel full of energy?", GDS total score, and
MMSE (Mini-Mental State Examination). Results: All of our extracted items considered to be related
to action-orientation or extroversion showed a significant difference between the two groups. As for
GDS-Q2 which were considered to be most closely related to action-orientation or extroversion, in the
AD group, there were many replied answers of "an energy and interest declined". By contrast, in the
MCI group, there were many replied answers of "an energy and the interest did not decline", and it
might be what associated in line with the guideline that could find a characteristic of action-orientation
or extroversion of MCI and AD. However, in GDS-Q9 and Q13, the characteristic of both groups was
shown to have the same tendency. Therefore, the possibility to discriminate the difference with the
evaluation scale of the action-orientation between these two groups seemed to be less likely.
Conclusions: In the neuropsychological tests to evaluate an existing lifestyle, it was thought to be
difficult to get MCI and AD a characteristic of action-orientation or extroversion. The development of
an evaluation scale specializing in the action-orientation is expected to clarify the role of the daily
exercise routine and activity consciousness for as the protective efficacy of the dementia.
Keywords:アルツハイマー病,軽度認知障害,活動志向性,神経心理検査,US-ADNI
Alzheimer’ disease, Mild Cognitive Impairment, Action-orientation, Neuropsychological tests,
Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(US)
1
愛知淑徳大学 健康医療科学部 スポーツ・健康医科学科 学部生
− 15 −
健康医療科学研究 第 4 号 2014
1. はじめに
平成 25 年度の高齢社会白書によれば、我が国の総人口は、平成 24 年 10 月 1 日現在、1 億 2,752
万人である。65 歳以上の高齢者人口は、過去最高の 3,079 万人となり前年の 2,975 万人から 104 万
人の増加となり、総人口に占める高齢化率も 24.1%(前年 23.3%)となっている。男女別の 65 歳
以上の高齢者人口では、男性が 1,318 万人、女性は 1,762 万人、性比(女性人口 100 人に対する男
性人口)は 74.8 であり、男性対女性の比は約 3 対 4 となっている。また、高齢者人口のうち、「65
~74 歳人口」は 1,560 万人(男性 738 万人、女性 823 万人、性比 89.7)で総人口に占める割合は
12.2%、「75 歳以上人口」は 1,519 万人(男性 580 万人、女性 939 万人、性比 61.8)で、総人口に
占める割合は 11.9%である(表 1)。高齢化率を先進諸国で比較すると、我が国は 1980 年代までは
下位、90 年代にはほぼ中位であったが、2005(平成 17)年には最も高い水準となり、世界のどの国
もこれまで経験したことのない高齢社会を迎えている(図 1)。高齢化の速度についても、高齢化率
が 7%を超えてからその倍の 14%に達するまでの所要年数(倍化年数)を比較すると、フランスが
114 年、スウェーデンが 82 年、比較的短いドイツが 42 年、イギリスが 46 年であるのに対し、我が
国は、1970(昭和 45)年に 7%を超えると、その 24 年後の 1994(平成 6)年には 14%に達してい
る(表 2)。我が国の高齢化は、世界に例をみない速度で進行している。
表1
高齢化の現状
表2
出典)総務省「人口推計」(各年 10 月 1 日現在)
(注)「性比」は、女性人口 100 人に対する男性人口
高齢化速度の国際比較
出典)1950 年以前は国際連合(UN),The
Aging of Population and Its Economic and
Social Implications(Populatuin Studies,
No26,1956),及び Demographic Yearbook, 1950
年移行は国際連合(UN),World Population
Prospects: The 2008 Revision(中位推計)によ
る。ただし、日本は総務省統計局「国勢調査
報告」及び国立社会保障・人口問題研究所「日
本の将来推計人口」公益財団法人 長寿科学
振興財団 健康長寿ネットより
一方、人口の高齢化に伴い認知症(アルツハイマー病 Alzheimer’s disease: AD)の患者数も増加し
ている。2010 年に厚生労働省より発表された認知症患者数はおよそ 200 万人程度と言われてきたが、
昨年の 2012 年に新たに発表された患者数は、462 万人に上ることが分かった。2012 年の報告は、厚
生労働省の研究班が 4 年にわたって調査を行ったもので、本人との面接に加えて医師の診断などを
組み入れ、精度を高めたものである。2012 年の全国の高齢者の数が 3079 万人であり、今回の調査
では、高齢者の 15%が認知症という診断結果となり、3079 万人の 15%から 462 万人という数がは
じき出された。また、認知症の前段階として軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)の概
念が提唱され、正常と AD の間に移行期のような状態が存在することが明らかとなっている。MCI
患者が AD に移行する確率は、1 年で 12%、4 年で約半数程度であると推測されている(Petersen et al.,
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認知症と活動志向性の関連
― 神経心理検査(認知機能評価尺度)による US-ADNI 登録者の検討 ―
1999)。2012 年の調査では、認知症になる可能性がある MCI 患者も約 400 万人いると推計され、実
に 65 歳以上の 4 人に 1 人が認知症とその“予備軍”となる計算であり、早急な対策を迫られている。
認知症研究の最前線として、Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)研究が立ち上が
っている。ADNI は、アルツハイマー病の脳画像診断先導的研究の略であり、米国(US-ADNI)で
は 2003 年からスタートしており、全米の 57 施設から健常高齢者 200 名、MCI 患者 400 名、AD 患
者 200 名の計 800 名以上がリクルートされている。National Institute on Aging( NIA)、National Institute
of Biomedical Imaging and Bioengineering(NIBIB)、Food and Drug Administration(FDA)の他、民間
の製薬会社、NPO 法人などによる 6000 万ドル規模の公的研究資金を基に、調査項目として臨床診
断の他、血液検査、腰椎穿刺、認知機能検査、MRI や PET による画像診断などの検査が行われてい
る。ADNI 臨床研究はアルツハイマー病の治療薬開発に欠かせない病気の進行過程を忠実に示す客
観的な評価法の確立を目指しており、客観的評価法が定まれば、将来、アルツハイマー病の早期診
断、予防、そして治療薬のスムーズな開発に繋がることが期待されている。US-ADNI においては、
データの公開性・共有性が極めて高く維持され、すべての臨床データと検査結果、画像データはす
みやかに品質管理、補正と匿名化を施され、ウェブサイト上に公表されており、ADNI に参加する
研究者と製薬企業のみならず、誰からもアクセス可能なようにデータベース化されている。
US-ADNI 研究は、2014 年現在 ADNI-GO、ADNI-2 研究に引き継がれている。
出典)UN, World Population Prospects:
The 2010 Revision(一部改変)
各国は国連の人口推計(2010 年)のうち中位推計、
日本に関しては、2010 年までは総務省「国勢調査」、
2015 年移行は国立社会保障・人口問題研究所「日本の
将来推計人口(平成 24 年1月推計)」の出生中位・
死亡中位仮定による推計結果による。
図1
高齢化率の国際比較の推移
近年、アルツハイマー病の予防法の一つに、日常的な運動習慣が挙げられている。それを裏付け
る研究成果として、例えば、Larson(2006)は、「60 歳以上の高齢者 1740 人を平均 6 年間追跡し、
運動の習慣と認知症発症の関連を調べた前向きコホート研究の結果、週 3 回以上定期的に運動する
人ではそうでない人に比べ、認知症全体とアルツハイマー病の発症リスクが約 3 割、有意に減少す
ることが確かめられた」と報告している。その他にも多くの研究において、アルツハイマー病の予
防 策 と し て 運 動 習 慣 が 有 効 で あ る こ と が 証 明 さ れ て い る ( Yu et al., 2012; Baker et al., 2010;
Lautenschlager et al., 2008; van Uffelen et al., 2008; Scherder et al., 2005)。
認知症および MCI 患者を対象とした運動介入のエビデンスとして、上述の Lautenschlager ら(2008)
は、ADAS-cog(Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive component)、WMS-R-LM(Wechsler
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健康医療科学研究 第 4 号 2014
Memory Scale-Revised-Logical Memory)、 CDR( Clinical Dementia Rating)、BDI(Beck Depression
Inventory)などの神経心理検査(認知機能評価尺度)を使って、運動介入の効果を証明している。
一方、認知症患者の神経心理検査として一般に用いられているこれらの評価尺度が、被験者の運動
習慣および活動志向性や外向性などを聞き出すツールとして使用が可能であるのかは興味深い。
今日の我が国では、加速度的に進む高齢化に伴い、個人での認知症の予防策が重要となっている。
運動が個人でできる認知症の予防策として有効であることは既に周知のこととなってきているが、
個人の運動習慣、運動機能や能力、そして運動や活動に対する志向性や興味を聞き出すような一般
化された評価尺度は見当たらない。そこで本研究では、個人の活動志向性や外向性を調査する質問
紙として、これらの神経心理検査が有効であるのか否か、US-ADNI の登録者の MCI 群と AD 群に
ついて、既存の生活習慣を評価する認知機能評価尺度の中から、活動志向性や外向性に関連すると
思われる項目を抽出し、運動習慣の尺度として予備的に使用することで、認知症と活動志向性の関
連を検討した。
2. 対象と方法 2.1. 対象者の抽出方法
US-ADNI における臨床データや検査結果は、すべて以下のサイトからダウンロードした。ダウン
ロードは 2013 年 4 月に行った。(Download site: http://www.loni.ucla.edu/ADNI/)
対象は 2013 年 4 月時点の US-ADNI の全登録者で診断名が明らかである 1,195 名のうち、2009 年
の初回登録時から 2013 年 4 月までの 5 年間のフォローアップができている例を今回の対象者とした。
登録期間において、登録期間中に一度でも MCI と診断された被験者は MCI 対象者とし、MCI 群は
134 名(男性:80 名、女性:54 名、平均年齢 75.0±5.8 才)であった。同様に、登録期間中に一度
でも AD と診断された被験者は AD 対象者とし、AD 群は 521 名(男性:311 名、女性:210 名、平
均年齢 75.2±6.7 才)であった。MCI 群と AD 群の 2 群間に年齢による有意差は認めなかった。ま
た、登録期間中に一度も MCI および AD と診断されなかった対象者すなわち健常高齢者のままであ
った例は 13 名のみであった。
対象者の属性を表 3 に示す。なお、MCI の定義は Petersen ら
表3
対象者の属性
(1999)により提唱された以下の 5 項目を満たすものである。
① 本人や家族より記憶障害の訴え
② 正常高齢者に比較して、記憶が低下 ③ 全般的認知機能は概ね正常 ④ 日常生活上問題なし ⑤ 認知症ではない 2.2. 測定項目
本研究では、以下のすべての測定項目について、登録期間中において、最も重度な点数で登録さ
れたデータを抽出した。
1)Clinical Dementia Rating(CDR)評価スケール(Morris, 1993)
観察式による認知症の重症度判定:記憶、見当識、判断力と問題解決、社会適応(地域社会の活
動)、家族状況および趣味・関心、介護状況の 6 項目について、5 段階で重症度を評価する。
・健康(CDR:0)
・認知症の疑い(CDR:0.5)
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― 神経心理検査(認知機能評価尺度)による US-ADNI 登録者の検討 ―
・軽度認知症(CDR:1)
・中等度認知症(CDR:2)
・高度認知症(CDR:3)
のいずれかに評定する。
本研究では、CDR 評価スケールにおいて、活動志向性や外向性に関連すると思われる“地域社会
の活動”“家族状況および趣味・関心”の 2 つを測定項目として使用した。
2)Geriatric Depression Scale(GDS)評価スケール(Yesavage et al., 1982-83, Nyunt et al., 2009)
高齢者うつ病評価尺度:高齢者の抑うつ状態を診断する尺度。認知症があっても答えやすい検査
になっており、30 項目の質問からなり、5 点以上がうつ傾向、10 点以上がうつ状態、20 点以上がか
なり抑うつ状態と評価される。GDS は信憑性が高く専門知識なしでも活用できる鑑別方法として活
用されている。
本研究では、GDS 評価スケールにおいて、活動志向性や外向性に関連すると思われる以下の 3 つ
と GDS の総得点を測定項目として使用した。
・GDS-Q2 “毎日の活動力や周囲に対する興味が低下したと思うか”
・GDS-Q9 “外出したり新しいことをしたりするよりも家にいたいと思うか”
・GDS-Q13“自分が活気にあふれていると思うか”
・GDS の総得点
3)Mini-Mental State Examination(MMSE)評価スケール(Folstein et al., 1975)
簡易認知機能検査:MMSE は総得点 30 点。見当識、記銘力、注意・計算、言語機能、口頭命令動
作、図形模写など 11 の設問からなり、口頭による質問形式で行われ認知機能を簡便に評価できる。
一般に 23 点以下の場合、認知症などの認知障害がある可能性が高く、正常例は 28 以上とされる。
本研究では、MMSE 評価スケールの総得点を測定した。
2.3. 統計解析
CDR の“地域社会の活動”、“家族状況および趣味・関心”については、2 群間の重症度の分布の差を
χ 2 乗検定によって、2 群間のスコアの平均の差を t 検定によって比較した。GDS の Q2“毎日の活
動力や周囲に対する興味が低下したと思うか”、Q9“外出したり新しいことをしたりするよりも家
にいたいと思うか”、Q13“自分が活気にあふれていると思うか”については、2 群間の回答者の比
率の差をχ 2 乗検定を用いて比較した。GDS の総得点、MMSE 評価スケールの総得点は、2 群間の
平均の差を t 検定を用い比較した。統計処理には SPSS Statistics Version 20.0 の解析用ソフトを用い、
有意水準を 5%未満とし 2 群間の p 値を比較した。
3. 結果
本研究の結果を表 4-6 に示す。活動志向性や外向性に関連すると思われる全ての測定項目におい
て、2 群間に有意な差異が認められた。CDR の“地域社会の活動”、“家族状況および趣味・関心”につ
いては、MCI 群では、CDR:0 から 1、すなわち、健康−認知症の疑い−軽度認知症にかけて対象者
の分布が認められ、AD 群では、CDR:0.5 から 2、すなわち、認知症の疑い−軽度認知症−中等度認
知症にかけて対象者の分布が認められた(表 4)。GDS の Q2“毎日の活動力や周囲に対する興味が
低下したと思うか”については、p 値が 0.02 を示し、他の測定項目と比較して 2 群間の差異が最も
小さかった。AD 群では“はい”(活動力や興味が低下した)と回答した例が半数以上(53.2%)を
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健康医療科学研究 第 4 号 2014
占めたが、MCI 群では“いいえ”
( 活動力や興味は低下していない)と回答した例が 6 割近く(58.2%)
を占めた。Q9“外出したり新しいことをしたりするよりも家にいたいと思うか”については、両群
とも“はい”(外出をしたがらない、家にいたい)と回答した例が多く、AD 群の方がその特徴が
顕著であった。一方、Q13“自分が活気にあふれていると思うか”については、両群とも“はい”
(自分は活気にあふれている)と回答した例が極めて多いもの、AD 群の方がその特徴が顕著であ
り、MCI 群では“いいえ”(自分は活気にあふれていない)と回答した例が 9%を占めた(表 5)。
CDR の“地域社会の活動”、“家族状況および趣味・関心”の得点についても、2 群間に有意な差異が認
められた。MCI 群はその平均値が共に 0.5-1.0 内のスコアを示したが、AD 群は “地域社会の活動”
が 1.0 を下回り、“家族状況および趣味・関心”は 1.0 を上回るスコアを示した。MMSE の総得点につ
いても、2 群間に有意な差異が認められ、診断基準を反映した結果が得られた。また、GDS の総得
点についても、2 群間に有意な差異が認められ、AD 群の方が抑うつ状態の得点が高いことが判明し
た。さらに、両群とも、男性の方が抑うつ状態の得点が高いことも明らかになった(表 6)。しかし、
両群とも、性差による統計的な有意差は認められなかった。
表4
CDR の“地域社会の活動”“家族状況および趣味・関心”の結果
**:p<0.01, ***:p<0.001
表5
GDS-Q2“毎日の活動力や周囲に対する興味が低下したと思うか”、-Q9“外出したり新しいこと
をしたりするよりも家にいたいと思うか”、-Q13“自分が活気にあふれていると思うか”の結果
*:p<0.05, **:p<0.01
表6
CDR の“地域社会の活動”“家族状況および趣味・関心”,GDS 総得点,MMSE の結果
***:p<0.001
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認知症と活動志向性の関連
― 神経心理検査(認知機能評価尺度)による US-ADNI 登録者の検討 ―
4.考察
US-ADNI および国内で研究が開始されている J-ADNI(2007 年開始)研究においても、対象者の
ADL(Activities of Daily Living:日常動作)を評価する指標は組み込まれていない。そこで、本研
究では、US-ADNI の登録者を対象として、MCI と AD の活動志向性や外向性について、既存の CDR
や GDS などの生活習慣を評価する認知機能評価尺度の中から、活動志向性や外向性に関連すると思
われる項目を抽出し、運動習慣の尺度として予備的に使用することで、認知症と活動志向性の関連
を検討した。まず、US-ADNI の MCI 患者の特徴として、J-ADNI の主任研究員である東京大学神経
病理学の岩坪威教授は、US-ADNI の MCI 患者は、MCI の後期で AD に近い患者が多く含まれてい
ることを指摘している(株式会社メディカルトリビューン 医師向け専門情報サイト「 MT Pro
2011.2.15」)が、本研究においても、MCI 群における CDR の“地域社会の活動”“家族状況およ
び趣味・関心”の得点の平均値は共に 0.5-1.0 内のスコア(それぞれ 0.71±0.54、0.82±0.65)を示し
た(表 6)。MCI の基準は CDR 総合判定が 0.5 であるが下位項目ではやや高いスコアを示した。一
方、AD 群における CDR の“地域社会の活動”“家族状況および趣味・関心”の得点の平均値は、
それぞれ 0.95±0.62、1.15±0.68 を示し、AD の基準である CDR 総合判定が 0.5 および 1.0 を満たす
結果が得られた(表 6)。
本研究の結果において、CDR や GDS の下位項目の活動志向性に関連すると思われる項目につい
て、両群間で回答者の比率やその得点が有意に異なることが判明した。これによって MCI と AD の
活動志向性や外向性の特徴として、明らかな違いを見出すことができることを期待したが、例えば、
GDS の Q9、Q13 においては、両群とも“外出をしたがらない、家にいたい”“自分は活気にあふ
れている”の特徴は同じ傾向として示され、2 群間の活動志向性の差異を明確に弁別する評価尺度
となりうる可能性は低いように思われた。一方、最も活動志向性に当てはまると思われた GDS の
Q2“毎日の活動力や周囲に対する興味が低下したと思うか”については、AD 群では“活動力や興
味が低下した”と回答した例が多く、MCI 群では逆に“活動力や興味は低下していない”と回答し
た例が多く認められ、MCI と AD の活動志向性や外向性の特徴を唯一、見出すことができた指標と
なった可能性がある。しかしながら、GDS の Q2 の有意確率は他の測定項目と比較して 2 群間の差
異が最も小さく、本研究では MCI 群のサンプルサイズが AD 群に比べ少ないため、検出力に影響を
与えた可能性もある。すなわち、αエラーであった可能性もあり、今後、MCI のサンプルを増やし
た解析が必要であろう。また、今回の研究では、CDR や GDS を用いた活動志向性や外向性につい
て、MCI と AD の両群間において、明確な特徴を示すが結果を得ることができなかったが、今後、
例えば、MCI 群のうち、AD 移行群と AD に移行しなかった群(非 AD 移行群)などにおいて、こ
れらの認知機能評価尺度を用い活動志向性や外向性に特徴が認められるか否か、検討すべき課題で
ある。
運動療法の介入効果を示す評価尺度(アウトカム)に関して、寺谷ら(2008)は、「運動」「運
動療法」「活動」のキーワードによって 1997〜2007 年の 10 年間におよぶ認知症研究を検索した結
果、運動療法介入前後の知的(認知)機能評価を測定するスケールには、ほとんどの論文において
MMSE が採用され、知的機能面以外を推し量る尺度については、各施設で試行的に使われている評
価票が多いことを報告している。例えば、木村ら(2010)は、
・運動は“毎日する”“週 2・3 回”“週に 1 回”“月に 2・3 回”
・1 日に歩く時間は“1 時間以上”“1 時間程度”“30 分程度”“15 分程度”“ほとんどない”
・足腰への自信は“すごくある”“どちらかといえばある”“どちらでもない”“あまりない”
・転んだ経験が“ある”“ない”、転倒への不安が“ある”“ない”
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といった尺度を高齢者の運動習慣の調査に利用しているが、このような簡易で答えやすい形式の運
動習慣を聞き出す質問票の利用は、高齢者への質問としても受け入れやすいものであるといえる。
今後、内容妥当性や信頼性を検証しつつ、このような質問紙の利用も検討する必要がある。
5. 結語
CDR や GDS などの生活習慣を評価する認知機能評価尺度の利用においては、MCI と AD の 2 群
間の活動志向性や外向性の差異を明確に弁別する評価尺度となりうる可能性は低いように思われた。
認知症の予防効果としての日常的な運動習慣や活動に対する意識付けの役割を明確化するためにも、
運動習慣や活動志向性に特化した評価尺度の開発が望まれる。
Acknowledgements
本研究に用いられたデータは、すべて Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative 研究から得られ
た。US-ADNI 研究への研究参加対象者の方々、US-ADNI 研究に関連する施設の方々に深くお礼申
し上げます。
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