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今後の技術協力の方向性に係る調査

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今後の技術協力の方向性に係る調査
平成23・05・19財貿第1号
平成23年度アジア産業基盤強化等事業
今後の技術協力の方向性に係る調査
報告書
平成24年1月
経
済
産
業
省
委託先:新日本有限責任監査法人
平成 23 年度アジア産業基盤強化等事業
今後の技術協力の方向性に係る調査
報
告
書
目
次
1
はじめに........................................................................................................................................ 3
2
技術協力と日本企業の抱える課題 ................................................................................................. 4
2.1
2.1.1
技術協力について .............................................................................................................. 4
2.1.2
近年の環境変化 ............................................................................................................... 24
2.1.3
日本企業の動向 ............................................................................................................... 39
2.2
3
4
5
文献調査 ..................................................................................................................................... 4
ヒアリング実施結果 ................................................................................................................. 54
2.2.1
国内ヒアリング ............................................................................................................... 54
2.2.2
海外ヒアリング ............................................................................................................... 63
研究会、勉強会 ........................................................................................................................... 68
3.1
研究会....................................................................................................................................... 68
3.2
勉強会....................................................................................................................................... 70
技術協力施策の成果レビューと施策の目標値の設定 ................................................................... 78
4.1
技術協力施策の成果レビュー .................................................................................................. 78
4.2
技術協力政策・施策の成果及び効果の測定について ................................................................. 98
今後の技術協力のあり方について ............................................................................................. 101
2
1
はじめに
経済産業省の技術協力政策は、従前より民間ベースの技術協力を主軸として、産業人材育成
及び各国相互の利益となる貿易・投資円滑化のための経済制度・システムの構築支援を進めて
きた。アジア地域との経済関係が深化していく中で、2003 年度(平成 15 年度)及び 2007 年度
(平成 19 年度)にそれぞれ開催された経済産業技術協力研究会での議論と報告書に基づき、
①日本の産業発展の基盤となった技術や制度を「アジア標準」(東アジア共通の産業基盤)と
して各国に展開し整備すること、②現地日系企業または関連企業の産業人材のうち将来の管理
人材となり得る途上国産業人材を、企業の製造現場等を活用した OJT 方式による研修・専門
家制度を通じて育成し、生産性や品質向上を実現すること、③そうした環境整備の前提となる
相手国政府の各種産業政策やインフラ整備等のマスタープラン策定を支援すること等を主要政
策の方向として推進してきた。
しかしながら、昨今の厳しい財政状況の中で、ODA である技術協力事業についても、これ
まで以上に戦略性、効率性と具体的な効果、日本への裨益が強く求められるようになってきた。
また、中国の経済発展やアジア各国との経済連携の進展、あるいは生産拠点としてのみならず
成長する現地市場自体をターゲットとした日系企業の新興国進出拡大、周辺国の企業との競争
激化、更には国内の少子高齢化、更には、環境やエネルギー問題等のリスク要因も従前以上に
その重要性が認識される等、途上国の経済発展状況や日本企業の行動パターンも変化している。
それに応じて、技術協力政策も途上国の経済発展支援に留まらず日本側の経済的利益も考慮し
た Win Win の関係を構築し、日本とアジアの経済発展が継続的な好循環を実現することが要
請されている。技術協力精査の在り方が、転換期を迎えているとも言える。
加えて、東日本大震災が国内産業の生産能力やサプライチェーンに対しても大きな影響を与
えており、それらを踏まえたアジア等新興国との関係等も視野に入れた技術協力のあり方につ
いても検討を行う必要が生じている。
これらの環境の変化を踏まえ、本事業では、今後の技術協力のあり方を検討した。この報告
書は、検討内容を取りまとめたものである。
3
2
技術協力と日本企業の抱える課題
2.1
文献調査
2.1.1
1.
技術協力について
技術協力政策の概観
(1)我が国の技術協力政策
まず、我が国の技術協力政策の全体像と、経済産業省の役割について整理すると以下の図の通
り。経済産業省の経済協力は、経済産業省設置法第4条(所掌事務)に、「通商経済上の国際協
力に関すること」とあり、我が国経済への裨益が重視される。
図
我が国経済協力の全体像と経済産業省の役割
4
経済産業省が実施する技術協力政策については、途上国の経済発展支援および、日本企業の途上
国ビジネス推進に向け、技術協力を効果的・効率的に実施すること、民間企業の技術を活用した
「産業人材の育成」を通じた途上国の経済発展と現地日系企業における人材確保や、日本のシステ
ムの普及展開による「制度インフラ整備」を通じたビジネス環境の整備等を推進することがポイン
トである。
そのために、以下の4つの政策を実施する。
(a)調査
経済協力推進に資する施策立案・案件発掘のための基礎調査を実施。
(b)途上国人材の研修
途上国の技術者、生産管理者を国内に受け入れて研修を行い、民間企業ベースの技術やノウハウ
を移転。
(c)専門家派遣
日本の技術者、経営専門家等を途上国企業へ派遣し、現地産業人材へ技術指導や経営に関する助
言を行う。
(d)研究開発・実証
途上国の技術開発課題の解決及び途上国の研究能力向上に向けた共同研究支援及び日本で確立さ
れた経済制度やシステムの途上国における適用可能性の実証支援。
5
なお、平成14年度をピークにODA総額は減少の一途を辿っており、経済産業省の技術協力予算
も平成20年度以降、大幅に削減される傾向にある。
図
(億円)
140
経済産業省の技術協力予算の推移:技術協力政策の変遷
総額
138.2
138.1
129.3
6.3
その他
6.8
7.2
120
100
予
算
額
80
28
29.7
10.1
9.5
14.7
16.6
12.2
12
60
40
65.2
108.1
5.7
26.5
海外開発計画調査事業
74.5
19.9
5.6
8.7
19.9
20.1
6
8.7
20.4
65.2
3
15
5.2
14.9
8.2
42.1
20
経済連携人材育成支援研修事
業
16
28
20年度
21年度
22年度
貿易投資円滑化支援事業
6.9
経済産業人材育成支援専門家
派遣事業
23.9
経済産業人材育成支援研修事
業
0
19年度
研究協力事業
23年度
こうした予算削減の背景には、近年の事業仕分け等が大きく影響している。行政改革本部で
の事業仕分けをはじめとする各種の再点検の場での結果と、その結果を踏まえた事業の見直し
の内容は以下の通り。
① 第一弾事業仕分け(平成 21 年 11 月)
(対象)経済産業人材育成支援研修事業(AOTS 研修補助事業)
(結果)予算要求の3分の1縮減、高コスト体質の改善
(対応)


企業負担の引上げ

大企業への補助率の引き下げ(補助率を 5/8、2/3、1/2 へ引下げ)

技術研修の渡航費を補助金対象外とし全額企業負担
事業コストの削減

企業実地研修における研修費用を削減

研修生の研修費用を削減(食事代、事務用品代 等)
6


受入れ研修生の受入れ数を縮減
管理コストの削減

海外事務所を半数程度に縮減し管理経費を削減
② 行政事業レビュー(平成 22 年 4 月)
(対象)AOTS 研修事業と JODC 専門家派遣事業
(結果)大企業向けの補助率の引き下げ、一部事業の連携による合理化
専門家派遣事業における大企業の子会社派遣への支援の原則廃止等の見直し
(対応)


22 年度から

大企業向けの補助率を 2/3、5/8 から 1/2 に引下げ

広報活動や企業説明会の共同開催等の事業間連携による合理化
23 年度から

「公募」による法人決め打ち構造の廃止

大企業から自社子会社への専門家派遣支援は政策的重要分野を除き廃止
③ 行政事業レビュー(公開レビュー)(平成 22 年 5 月)
(対象)海外開発計画調査委託費(JICA 委託事業)
(結果)成果の定量的な評価方法の充実
競争性・公平性の担保(案件採択、コンサルタント選定)
(対応)JICA にて検討中
④ 第3弾事業仕分け(平成 22 年 11 月)
(対象)経済産業人材育成支援研修事業
経済産業人材育成支援専門家派遣事業
貿易投資円滑化支援事業
研究協力事業
(結果)見直しを行う(企業負担の拡大)
(対応)
7
 経済産業人材育成支援研修事業

政策的重点分野以外の受入費について大企業の補助率を 1/2 から 1/3 に引き下
げ。
 経済産業人材育成支援専門家派遣事業

23 年度より大企業向け補助のうち資機材費を補助対象外

なお、概算要求において大企業向け補助を政策的重点分野のみに限定したとこ
ろ
 貿易投資円滑化支援事業

実証事業において、大企業採択案件のうち、一部設備費(第三国から調達する
もの)について、費用対象外とする

なお、概算要求段階において、実証事業のプロジェクト実施事業者の旅費、滞
在費等を補助対象外としたところ
 研究協力事業

提案公募型開発支援研究協力事業について、大企業の補助率を 2/3 から 1/2 へ
引下げ
8
(2)専門家による評価
国際経済学の専門家の間では、日本の技術協力(人材育成)について高い評価が得られており、
経済理論的にも、政府による技術援助は正当化される。
【技術協力を評価する論文の例】
① 戸堂氏(東大)論文(「日本のODAによる技術援助プログラムの定量的評価」)
・
我が国の技術援助プログラムは、参加企業に有意な成果をもたらしている。
・
インドネシア鋳造産業について分析したところ、日本の技術協力の結果、平均13~15%の
不良品率の減少(6年分の技術レベルの向上に相当)を達成。
② 田中氏・武井氏(MURC)論文(「開発援助と技術援助」)
・
我が国の技術協力は、これまで様々な分野で高い成果を上げてきた。
・
今後は、途上国の市場規模と技術レベルに適した中間技術(適正技術)の協力を実施する
べき。
なお、今回の調査では、慶応義塾大学の田中辰雄准教授より、技術協力の正当性について、メモ
を作成していただいたので、以下に参考まで添付する。
このメモは、公的当局によって技術援助(技術指導員派遣)が正当化される条件について検討し
たものであり、「労働者の離職率が高く、外部性が存在するケース(市場の失敗)では、公的当局
による技術援助が正当化されうる。特に中小企業を対象とするものは、正当化される可能性が高い」
という結論を導き出している。
9
参考
技術協力に関するメモ
慶応大学経済学部 田中辰雄
命題:日本からの技術指導員派遣(技術援助)はどういうときに必要になるか?
次のように記号を定める。
技術指導員派遣のコスト C
派遣先の労働者の(限界価値)生産性の向上分=賃金の上昇部分 ΔW
派遣先企業の利潤の増加分
Δπ
なお、ここで労働者が身につける技術は企業特殊的ではなく一般技能とし、転職しても同じだけ
の生産性向上があるとする
(1)社会全体としての技術援助の必要性
労働者は技能習得後に確率 1-p で他企業に転職すると仮定する。当該企業に残る確率は p なので、
その企業の期待利潤増加額は pΔπである。その企業が援助無しで自費を払って技術指導員を雇う
条件は、その企業の利潤増加分が派遣費用を上回れば良いから
pΔπ>C
(i)
となる。
一方、社会全体として、技術指導派遣が正当化される条件は、全体の厚生増加額が費用を上回れ
ばよいから
Δπ+ΔW > C (ii)
となる。両者の条件は一致しない。(i)が成立すれば(ii)も成立するが逆は真ではない。すなわち(i)が
成立せず(ii)が成立するときがあり、このとき政府が費用負担して指導員派遣を行う(すなわち援
助する)ことに、社会全体(途上国と日本を含む社会全体)としての合理性が出てくる。
10
(2)日本という国(日本国民)にとっての必要性
(i)式が成立しないとき、日本という国(日本国民)とっては技術指導員を送るメリットが無い
ように思える。しかし、労働者の転職先がまた日本企業であれば、その転職先企業の利潤増加(1-p)
Δπも日本のメリットになるので、日本にとってのメリットは pΔπ+(1-p)Δπ=Δπとなる。こ
れが費用を上回れば、すなわち次式が成立すれば、指導員の派遣は、日本という国の利益の観点か
らでも実行する価値がある
Δπ> C
(iii)
また、派生効果として、当該日本企業が成長すると、その企業の輸出輸入増加で日本国内の企業
の雇用増加・利潤増加をもたらすという利益Δπ’も期待できる。
Δπ+Δπ’> C (iv)
(3)特に中小企業の場合の援助の必要性
中小企業では転職率が高く、自企業に留まってくれる確率pが低い。また技能を学ぶ人数が少な
いのでΔπも小さくなる。したがって中小企業では(i)式が成立しにくくなり技術指導への援助の必
要性が高まる。さらに、中小企業では資金制約から支払える費用に限界があり、C に自己負担分が
あるとそもそも(i)式が成立していても、実行できなくなることがある。ゆえに中小企業の方が大企
業よりも技術指導援助を行う必要性が高い。
☆援助時の補助比率の算定
(i)式が成立せず(かつ(ii),(iii),(iv)式のどれかが成立し)援助が行われているとする。このとき
の援助額は当該企業が損を出さない額なので最低でも
C -pΔπ
以上でなければならない。C は算出可能である。確率pも事後調査で算出できる。Δπが問題であ
るが、主観評価としてアンケート調査などで尋ねることはできるだろう。このような調査を行うこ
とで、適切な補助比率(C –pΔπ)/C は計算することができると考えられる。
以
11
上
(3)諸外国の技術協力への取り組み
我が国以外の米、仏、独等の先進国においても、公的機関が民間と連携しつつ、途上国に対する
技術協力を展開している(以下、OVTA、AOTS等の資料を参考に整理した)。
例えば、米国の援助機関のUSAIDは、2001年に創設された官民が連携して援助を行うスキーム
である「Global Development Alliance (GDA)プログラム」により、官民で連携したプロジェクト
を数多く実施している。プログラム数は、累積で約900件に達する。
参考までに、職業訓練に関連して実施されたGDAプログラムは一例としては以下の通り。
【USAIDのGDAプログラムによる企業連携事例】
連携企業
プロジェクト概要
シスコシステムズ、
HP
情報技術が不足している世界各国において、ネットワーク構築スキ
ル、国際社会での競争力をつけるための研修を実施。
シティバンク、エク
ソンモービル
アラブ諸国における次世代を担うビジネスリーダーの指導と育成・起
業体験
マイクロソフト、ク
アルコム
ベトナムにおけるIT技術者の育成
また、フランス政府が100%出資する特殊金融機関であるAFDは、1998年に誕生した。AFDで
は、企業などと一緒に途上国に対して職業訓練プロジェクト(formation professionelle)を実施
している。
参考までに、AFDが実施した職業訓練プロジェクトの一例は以下の通りである。
【AFDによる職業訓練に関する企業連携事例】
連携企業
プロジェクト概要
プジョー・シトロ
エン
ブラジルにおける自動車のアフターサービス、自動車の維持・修理、新
技術の職業資格取得のための訓練
ドイツにおいては、経済協力開発省の傘下に2002年に設立されたInWEntが、産業界等からの委
託を受け、職業訓練分野を中心とする国際協力等を実施している。なお、InWent自身は、ドイツ
中央政府、州政府、財界の協力体制によって成立している非営利団体である。
12
また、仏、独等は、途上国において技術教育を実施する機関を設立している。
フランスの例
・ タイ・フランスイノベーションインスティチュート(TFII)は、タイの北バンコク・モンク
ット王工科大学(KMUTNB)とフランスの機械工業産業連盟(FIM)、フランスの13企業の
連携によって、1992年に誕生した。
・ TFIIにおいては、調査、研修、コンサルティング等のサービスを現地産業や、タイ、近隣諸
国(カンボジア、ラオス、ベトナム)の大学、工科学校の教員、学生に提供している。
・ TFIIの専門領域は、自動製造システム(Automated Manufacturing Systems)、腐食
(Corrosion)、電気電子、エネルギー、気象、溶接。
ドイツの例
・ タイ・ドイツ協会(TGI)は1995年に設立。タイ工業省およびドイツ政府によって運営される。
現地企業および多国籍企業を対象に、社員研修から製品の製造までの領域でサービスを提供。
約240名を収容可能で、30のラボと実技訓練室を備えている。
・ 特に、オートメーション技術、CNC技術、CAD/CAM、金型製造、成型、保守、品質管理が
TGIの強み。工業分野の企業外訓練・技術センターとして、ハイテク分野における社員教育の
最先端拠点としての役割を担う。
なお、我が国も、タイの泰日経済技術振興協会(TPA)や、ベトナムの経営技術振興センター
(IMT)などを設立している。
名称
泰日経済技術振興協会(TPA:
Technology Promotion
Association<Thailand-Japan>)
経営技術振興センター(IMT: Institute
of Management and Technology
Promotion)
目的
タイの経済発展を目的として、会員の
科学技術知識向上を促進し、広く一般
へ科学技術知識の普及活動を行う。
人的資源開発を通じてグローバルおよび
地域市場におけるベトナム企業、とりわ
け中小企業の競争力の協会に資すること
を目的とする。
設立
1973年1月(職員292名:非営利団
体)
2005年1月(職員6名:非営利団体)
13
2. これまでの技術協力の概観
別章にて、これまでの技術協力の成果についてレビューを行うが、ここでは、簡単に技術協力政
策の内容について整理する。
(1)経済産業人材育成研修事業
経済産業人材育成研修事業とは、民間企業の海外展開において生まれる技術移転を円滑に行うた
めの人材育成ニーズに着目し、研修事業を通じて開発途上国の産業人材の育成を図る事業である。
本事業では、過去50年にわたり累計で約30万人の研修生を受け入れてきた。対象地域の9割はア
ジアであり、自動車、家電等の分野で日系企業の海外生産拠点確立に貢献してきた。
研修の種類
① 受入研修
技術研修
② 海外研修
管理研修
案件募集型
協会企画型
一般研修
実地研修
① 受入研修生の推移及び内訳
受入研修生数は、2007年度~2009年度にかけて約20%減少している。
受入研修生数の推移
2007
2008
2009
技術研修
3,789
3,608
2,839
管理研修
1,324
1,197
1,237
② 海外研修生の推移及び内訳
海外研修生数は、2007年度~2009年度にかけて約10%減少している。
海外研修生数の推移
2007
2008
2009
案件募集型
2,746
2261
1,861
協会企画型
983
747
1,491
14
AOTSの統計によると、2009年度の受入研修生数の内訳は以下の通り。
受入研修生数の国別内訳 (2009年度)
技術研修
管理研修
また、産業別の技術研修の内訳は、以下の通り。
技術研修の産業別内訳
(2009年度)
15
また、海外研修生の国別の内訳は以下の通りである。
海外研修生数の国別内訳 (2009年度)
協会企画型
案件募集型
なお、こうした研修事業の結果として、 親日・知日人材ネットワークが構築されている。日本
の研修事業の元研修生が中心となって、現地企業の人材育成支援事業の実施機関を設立。それらの
機関により研修効果がさらに多くの企業に波及している。前述のタイのTPAとベトナムの、IMTは
そうした組織である。あらためて、両者について説明すると以下の通り。
○ 泰日経済技術振興協会(TPA)
-
AOTS同窓会*1が中心となり、タイ国の経済発展のため日本からタイへの最新技術と知識の
移転・普及、人材育成を行うことを目的に1973 年に設立された公益法人。
-
語学学校、技術書や語学教本等の出版事業、技術セミナー研修、工業計測機器の校正、環境
水質検査、IT事業、工業省からの委託による診断事業など、各種事業を展開している。
-
工学系大学であるTNI(泰日工業大学)を自主財源のみで設立。
○ IMT (ベトナム経営技術復興センター)
-
AOTS同窓会*1が中心となり、人的資源開発を通じてグローバル及び地域市場におけるベト
ナム企業、とりわけ中小企業の競争力を強化することを目的として2005年に設立された。
設立以来、AOTSの研修ブログラムの協力を行っている。
-
タイTPA同様、ベトナムに日本式経営管理方法を普及させる拠点として今後の発展が期待
される。
16
*1
AOTS同窓会
日本で研修し帰国した研修生がAOTS研修という共通体験を基盤に結束し世界各地で自主的に組織し
たNGO。43ヵ国70ヵ所に結成(2011年5月現在)。
名称
泰日経済技術振興協会(TPA)
経営技術振興センター(IMT)
設立
1973 年 1 月
2005 年 1 月
職員数
292 名(2010 年 6 月現在)
6 名(2010 年 10 月現在)
会員・
利用企
業
正会員(日本留学研修経験者)1,518
名、賛助会員(日本留学研修経験者以
外)個人:7,305 名、法人:3,452 社
(2010 年 6 月現在)
約 1,000 社(ほとんどがベトナムローカ
ル企業)
人材育
成関連
事業
語学研修(日本語、タイ語他 1,115 コ
ース、文化・語学関係図書出版)、技
術書・技術情報誌の出版(定期刊行物
30 冊)、研修(経営管理他研修コース
約 2,400 コース)、タイ国5S 大会、
タイ国 QC 大会、泰日工業大学 等
出版、研修(経営幹部用企業内研修を年
間 10 コース以上実施)、調査・研究事業
等
出所:平成22年度アジア産業基盤強化等事業(アジア諸国における産業人材育成に係る調査事業)報
告書 経済産業省
(社団法人
日・タイ経済協力協会
17
委託)
(2)専門家派遣事業
専門家派遣事業とは、日本の民間企業・団体の協力を得て日本の優れた専門家を開発途上国に派
遣し、当該国の人材育成を通じて、同国の産業発展、日系企業の活性化、日本の中小企業の国際化
支援等に寄与することを目的とする事業である。
1979年以来、約60カ国へ約6,800人の専門家を派遣し、現地企業の生産性向上等に大きく貢献し
ている。
専門家派遣件数・派遣者総数、国別、業種別派遣実績の推移(2005年度~2009年度)は以下の
通りである。
18
また、受入企業における階層別の指導人数は以下の通り(2009年度実績)。ワーカークラスへ
の指導が7割を超えている。
出所:2009年度
ODA型専門家派遣事業評価報告書 JODC
19
参考までに、JODC((財)海外貿易開発協会)では、専門家派遣事業の成果について評価を実
施している。
JODCは、OECDのDAC(開発援助委員会)が策定した評価のための5項目( 「妥当性」・「有
効性」・「効率性」「波及性(インパクト)」・「自立発展性」)に準拠し、ODA型専門家派遣事
業の評価を行っている。2009年事業年度の事後評価は以下の通りであるが、評価5項目の観点より
当該事業の高い成果が確認できる。
(参考)JODC評価システムの概要
評価体系・・・派遣の「事前」「中間」「事後」の3段階において、専門家、受入企業、協
力企業及びJODCによる評価が行われている。
(1)事前評価
JODC、経済産業省、および外部有識者から成る「審査委員会」にて案件審査が行われ
る。
(2)中間評価
派遣期間が6ヵ月を超える場合は、専門家及び受入企業による中間評価(中間時点での達成
状況の評価及び最終目標の調整)が実施される。
(3)事後評価
案件ごとに、DAC評価5項目について、専門家帰国後1ヵ月以内に、専門家・受入企業・協
力企業が評価を行い、これを受けてJODCが総合評価を行う。
以下は2009年度に専門家が帰国した164案件を対象にした事後評価のポイントを抜粋した。
①「妥当性」
- 事業目的との整合性について評価
ODA事業目的、受入企業のニーズ、協力
企業のニーズともに、かなり合致する(第4段階以上)が9割を超えている。
5段階評価のうち
ODA事業
目的
受入企業
のニーズ
協力企業
のニーズ
5
4
3
6%
87%
7%
29%
67%
4%
17%
77%
6%
20
②「有効性」
-
ほぼ全ての専門家・受入企業・協力企業が、効果があった(第3段階以上)としている。
5段階評価のうち
専門家の
評価
受入企業
の評価
協力企業
の評価
5
4
3
23%
54%
22%
44%
48%
8%
30%
57%
11%
(5: = 十分に効果あった、4: かなり効果あった、3: 一応効果あった)
21
③「効率性」
- 専門家の派遣期間について評価
- 専門家・JODCともに、「適当であった」と「やや短かった」が80%程度としている。過剰な投
入があったとは考えられにくい。
専門家の
評価
JODCの評
価
適当
やや短い
短い
長い
24%
56%
18
2%
42%
45%
12%
1%
④「インパクト」
- 受入企業、協力企業にとっての波及効果について以下の項目が挙げられている。
⑤「自立発展性」
- 受入企業の自立発展性について評価
-
専門家・JODCともに、ほぼ全ての案件で「自立発展性の可能性がある」としている。
十分ある
専門家の
評価
JODCの評
価
かなり
ある
一応ある
36%
51%
12%
8%
63%
28%
22
なお、今後の課題としては、事業終了後も当該事業による効果が持続しているかを検証すること
が挙げられている。すなわち、現状、事後評価は、専門家帰国後1カ月以内に専門家・受入企業・
協力企業によって作成された直後評価に基づいているため、その後の波及効果をフォローするまで
には至っていない。
23
2.1.2
近年の環境変化
続いて、最近の我が国企業を巡る海外市場の環境を整理する。
(1)アジア新興国市場の成長状況
近年の先進国の成長率の低迷に対してアジアの新興国の成長は著しく、日本企業も有望な事業展
開先として見ている。
【主要国・地域の潜在成長率】
出典:内閣府「世界経済の潮流2010年Ⅰ
特に、2000年代以降の実質GDP成長率を見ると、日本を始めとする先進諸国の成長率が低いの
に対し、アジア諸国は非常に高い数値となっている。また、中産階級が成長してきており、日系企
業にとってはますます魅力的な市場になりつつある。
24
【新興国の中間層・富裕層の推移、見通し】
出所:通商白書2010
こうした中で、日本企業は、中期的な事業展開先として、新興国を有望と見る傾向がますます強
まっている。また、日本企業の現地法人数は、アジア地域で11,227社、全地域に占めるアジア地域
の割合は61.6%となっており、数・割合とも増加傾向にある。
【わが国製造業が中期的な事業展開先として有望と見る国・地域】
出所:通商白書2008
25
【地域別現地法人分布】
【現地法人の地域別分布比率の推移】
出所:経済産業省「第40回海外事業活動基本調査概要」
26
(2)ネクスト・ボリュームゾーン
新興国が魅力的な市場として認識される一方で、約40億人・5兆ドルの市場規模といわれる、
「ネクスト・ボリュームゾーン」と呼ばれる途上国におけるBOPビジネスも注目されている。
【ネクスト・ボリュームゾーン=BOP層の全体規模】
BRICSを始めとした新興国が魅力的な市場として認識される一方で、約40億人・5兆ドルの市場
規模といわれる、「ネクスト・ボリュームゾーン」と呼ばれる、途上国の低所得者層をビジネス対
象と見る「BOPビジネス」が世界中で注目されている。
–
分野別では、食品・エネルギー・住宅等が有力分野として挙げられている。
–
地域別でみると、アジアが全体の約7割を占め、なかでも中国、バングラデシュの市場
規模が大きい。
【BOPビジネス市場規模(分野別)】
27
【BOPビジネス市場規模(地域別)】
出所:みずほ総合研究所「みずほ政策インサイト(2010年2月9日)」、P.2,6
欧米企業等でBOPビジネスが先行する一方で、日系企業は近年BOPビジネスへの取組を始めた
ところ。
(3)新興国に対する民間資金流入量とODA総額の比較
こうした状況下、近年の新興国への民間資金流入量の増加は顕著である。
近年の途上国へのODA総額の推移と民間資金流入量(PF)の推移を比較すると、ODAの増加が
緩やかなのに対して、民間資金流入量が大きく増加している。これは、2002年以降の直接投資
(FDI)の伸びが大きく寄与しているものであり、実際に新興国への民間投資が進んでいることが
確認される。
28
【DAC諸国から途上国へのネット資金流入の推移】
出所:FASID国際開発研究センター「開発への新しい資金の流れ」、P.14
(4)我が国企業の新興国における製品・サービスの市場シェア
わが国企業は近年新興国を有望な市場と見ているものの、競合する外国企業に対して概してシェ
アを確保できていない。
【新興国における製品・サービスの市場シ ェアの状況】
中国、NIES、ASEAN4では、比較的シェアを確保できているが、それ以外の国では苦戦してい
る。
29
【新興国市場において製品を販売するにあたっての最大の競争相手】
出所:通商白書2008
BRICs市場について製品別でみると、デジタルテレビで韓国と競合しているが、パソコン、携帯
電話、トイレタリー・化粧用品ではほとんど市場を獲得できていない。
【BRICs市場における各商品の国籍別企業シ ェア状況】
出所:通商白書2010
30
(5)サプライチェーン構造の変化
アジア現地法人の現地調達率は10年で10%超増加している。こうした中で現地調達の強化や現
地サプライヤーの育成が必要になっている。こうした必要性は、2011年3月13日の東日本大震災や
2011年8月のタイの洪水を受けてさらに高まっているといえる。
加えて、現地市場に適した製品の投入のため、企画・設計機能の現地化の重要性が増加し、設計
開発を担う人材の必要性も指摘されている。
図 我が国のアジア現地法人(製造業)の国・地域別仕入額
(出所:通商白書2010)
31
図 企画・設計機能を現地化するメリット
(出所:ものづくり白書 2009)
32
(6)新興国の優良企業数の増加
新興国の優良企業が増加するなかで、日系企業の新興国での競争も激化が予測される。他方で、
これら新興国企業との連携がビジネスを推進する上で有効になる可能性もある。
Fortune Global 500ランキングを見ても、直近5年間で中国・BRICS・東・東南アジア等、新興
国企業の割合が増加しており、新興国の優良企業が増加していることが確認できる。一方で米国や
日本等の先進国企業は減少傾向にある。
Fortune Global 500ランキング 国別企業数
100%
90%
その他
80%
70%
東・東南アジア
60%
BRICs
50%
中国
40%
日本
30%
20%
10%
0%
2005
2006
2007
2008
2009
2010
出所:Fortune Global 500
http://money.cnn.com/magazines/fortune/global500/2010/index.html
特に中国企業の伸びが著しく5年間で約3倍も増えており、国別の企業数でも2010年は米国・日
本に次ぐ3位。トップ10に中国企業は3社入っている。
【直近6年間Fortune Global 500における主要国企業数の変化】
2010年
2009年
2008年
2007年
2006年
2005年
米国
139
140
153
162
170
175
日本
71
68
64
67
70
81
中国
46
37
29
24
20
16
ドイツ
37
39
37
37
35
37
出所:富士通総研
33
韓国
10
14
15
14
12
11
インド
8
7
7
6
6
5
ロシア ブラジル
6
7
8
6
5
5
4
5
5
4
3
3
(7)アジア等新興国のエネルギー消費量、エネルギー消費効率の推移
新興国のエネルギー消費量は急速に増加しており、環境問題も深刻。一方で新興国ではエネルギ
ー効率が低く、我が国が環境技術面で貢献できる可能性は大きいと考えられる。
一人あたりGDPとエネルギー消費量の推移
( 1971年~2008年)
エ ネルギ ー消費量(石油換算トン)
10000
中国
フランス
ドイツ
1000
インド
インドネシア
日本
タイ
米国
100
100
1000
10000
100000
一人あたり GDP(2000年米ドル)
出所:世界銀行 WDI
新興国のエネルギー消費量は、経済成長に伴って急速に増加。それに伴い、温室効果ガスの排出
量も増加傾向であり、環境問題が深刻化する傾向である。
一方で、新興国ではエネルギー効率性も総じて低い。我が国は、先進国の中でも特にエネルギー
効率が高く、一人あたりでみた温室効果ガスの排出量も小さく、エネルギー・環境技術面で日本が
途上国に対して貢献できる可能性は大きい。
34
300
250
200
150
100
50
0
エネルギー効率性 (石油換算Kg/実質
GDP$1,000)
CO2 排出量
(kg/実質GDP$)
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
35
(8)天然資源をめぐる近年の環境変化
また、新興国の急速な経済成長に伴い、資源需要が急拡大。これに伴い、様々な資源において、
近年急速な価格高騰が進行しており、経済安全保障が急速に重要になりつつある。技術協力が資源
外交のツールになる可能性に留意するべきである。
【天然資源の主な産出国】
出所:通商白書2010
【国際商品市況の推移】
200
150
100
50
出所:日本銀行
36
Jan-11
Jul-09
Jan-08
Jul-06
Jan-05
Jul-03
Jan-02
Jul-00
Jan-99
Jul-97
Jan-96
Jul-94
Jan-93
Jul-91
0
Jan-90
2005年平均=100
250
【近年の傾向】
・ 新興国の輸出国から輸入国への転換、それによる資源ナショナリズムの台頭。
⇒ 一国に輸入依存している品目への危機感の高まり、調達先多様化の動き
・ 資源消費が拡大する一方で、中国やインドなどの新興国のエネルギー効率の低さは問題視
されている。⇒日本の環境・省エネ技術への期待
【資源ナショナリズムの台頭(事例)】
・ 中国のレアアース問題・・・ 日本への輸出制限措置を適用。
・ インドネシアの天然ガス輸出制限・・・ 国内需要増加・枯渇懸念を背景に、日本への輸
出を大幅に削減。
37
(9)中核拠点構想と技術協力
これまでの環境変化の中で、経済産業省では「東アジア産業大動脈構想」を推進している。こう
した構想とあわせて技術協力を推進することで、中核拠点開発の効果がより高まることが期待され
る。
中核拠点開発
ジアの持続的成長を図るため、東アジア産業大動脈構想の広域地域開発の結節点となる地域
を特定した上で、円借款、民間投資、JBIC、NEXI等を有機的に連携させて、集中的にインフ
ラ整備を行う「拠点開発」による方法(先行的インフラ整備の具体的手法)を展開すること。
・
具体的な開発方法は、中核拠点開発地域に、工業団地・電力・道路・鉄道・港湾・空港などの
インフラを重点的に整備するとともに、物流の効率化裾野産業の振興を通じて産業集積地域の
形成を図る。これにより、技術力のある中堅・中小の製造業をはじめとする日系企業が投資を
行い、更に発展できるような環境を創出。
・
技術協力についても、こうした環境整備を後押しすべく、重点的に中核拠点周辺地域に対して
技術協力を実施していくことが考えられる。
Ⅰ . 大都市( 首都圏等)起点の
産業・ 物流インフラ整備
Ⅱ . 中小規模都市周辺の
インフラ 整備( 新規開発)
空港
Ⅲ . 地方中核拠点 開発
都市圏
空港
空港
都市圏
都市圏
都市鉄道
ア クセス
道路
都市間
鉄道
道路
工業団地
工業団地
道路
都市圏
工業団地
港湾
大都市圏内及び工業団地の整備、
物流インフラの更なる 拡充
道路
港湾
工業 団地及び 物流インフラ の整
備 、都市間の 連携(新規開発)
38
港湾
地方都市に おいて新規に工業
団地及び物流インフラ網の 整備
2.1.3
日本企業の動向
(1)日本企業のアジア進出動機
これまでみたような、環境の変化を受けて、日本企業は、海外展開を積極化させつつある。日系
企業のアジア進出動機は、これまでの「生産拠点」から、有望な新興国市場を対象とした「市場開
拓+生産拠点」を目的とするものへと変化しつつある。ポイントは以下の3点である。
・ 日系企業のアジア等新興国進出の動機としては、「生産拠点構築」と「市場開拓」の大きく二
つがある。
・ 新興国への直接投資の目的については、「新興国の現地拠点から当該国内での販売・サービス
提供」が55.9%を占め、次いで新興国の現地拠点から日本への輸出が18.3%となっており、新
興国での事業展開が、より市場開拓重視へとシフトしつつあることがうかがわれる。
・ 新興国市場の開拓に向けた対応については、新興国の成長性と先進国の低迷による環境の変化
によるものが約半数を占める。
【 今後成長が見込まれる新興国市場の開拓に向けた対応】
関心はあるが検
討していない
10%
関心がない
4%
国内外の
競合他社
の消極的
な対応な
ど競争環
境の変化
に追随
5%
新興国の現地
拠点から日本
への輸出
22%
無回答
4%
対応を具体的に
検討中
7%
顧客の積極的な
対応状況や取り
組みの動向を受
け対応
20%
【 わが国企業の新興国・地域への直接投資の目的】
新興国の成長性
や先進国の低迷
等から必要性を感
じ、対応
50%
新興国の現地拠
点からその他国・
地域への輸出
5%
新興国の現地拠
点から当該国内
での販売・サービ
ス提供
68%
新興国の現地拠
点から別の新興
国への輸出
5%
出所:国際経済交流財団(2010) 「今後の多角的通商ルールのあり方に関する調査研究報告書」
39
(2)日本企業の海外事業展開の変化
日本企業の海外事業展開は、これまでの輸出・生産・販売から、今後は製品開発分野の拡大を行
う傾向が顕著である。
野村総研のアンケートでは、開発機能を国内にとどめ、生産・販売機能を海外展開すると回答し
た企業は、現在は46%だが、将来、開発機能も海外展開すると回答した企業、及び国内外の区別な
く展開すると回答した企業を合計すると、75.9%に上る。
他方で、JETRO調査では、海外で事業規模の拡大を図ると回答した企業に対して、どのような
機能の拡大を図る意向があるかという問いに対して、研究開発(基礎研究)は7.0%、新製品開発
は11.8%にとどまっている。
【開発、生産、販売の機能配置(※野村総合研究所調査より抜粋)】
60.0%
現在
50.0%
48.2%
46.0%
目指す姿
40.0%
27.0%
30.0%
20.0%
10.0%
17.5%
16.1%
7.7%
2.9%
2.9%
0.7%
5.1%
0.0%
出所:野村総合研究所(2010)
「わが国製造業のグローバルオペレーションの動向と課題」
40
2.9%
2.9%
【海外で拡大する機能(全体)(※ジェトロ調査より抜粋)】
販売機能
83.7%
生産(汎用品)
45.5%
生産(高付加価値品)
研究開発(基礎研究)
26.6%
7.0%
新製品開発
11.8%
現地市場向け仕様変更
19.2%
地域統括機能
17.5%
物流機能
その他
19.9%
4.4%
0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0%
出所:ジェトロ(2011)
「平成22年度日本企業の海外事業展開に関するア ンケート調査」
(3)今後の日本企業のアジア進出時の課題(全般)
日系企業のアジアでの事業展開における課題は、コスト増によるものが上位を占めるが、従業員
の質や幹部候補人材の採用難、現地人材育成等の人材面での問題も重要な課題として認識されてい
る。
【経営上の課題(全体)】
1位
従業員の賃金上昇
雇用・労働面
60.5%
2位
競合相手の台頭(コスト面で競合)
販売・営業面
54.4%
3位
調達コストの上昇
生産面
52.7%
4位
従業員の質
雇用・労働面
43.4%
5位
原材料・部品の現地調達の難しさ
生産面
43.3%
6位
主要取引先からの値下げ要請
販売・営業面
42.8%
7位
品質管理の難しさ
生産面
40.8%
8位
幹部候補人材の採用難
経営の合理化
40.2%
9位
限界に近づきつつあるコスト削減
生産面
39.8%
10位
現地人材の育成が進まない
経営の合理化
39.1%
出所:ジェトロ(2010) 「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2010年度調査)」
41
【経営上の課題(国別)】
「経営上の課題」は、国別に状況が異なるため、各国個別の対策を立て
ることが必要である。
(4)日本企業のアジア進出時の課題(人材)
また、アジア進出時の人材面での課題として、現地人材の能力の低さ・育成の困難さが共通に指
摘されており、優秀な現地人材を確保するうえで、教育・訓練機会の充実が必要だと認識されてい
る。
【雇用・労働面での問題点】
・従業員の賃金上昇
・従業員の質
・人材の採用難
・解雇・人員削減に対する規制
・従業員の定着率
【経営の現地化を進めるにあたっての問題点】
・現地人材の能力・意識の低さ
・現地人材の育成が進まない
・幹部候補人材の採用難
・本社から現地への権限移譲が進まない
出所:ジェトロ(2010) 「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2010年度調査)」
すなわち、雇用・労働面での共通的な問題点としては、従業員の賃金上昇、人材の質、採用難、
定着率などが各国共通で指摘されている。一方、経営の現地化を進めるに当たっての問題点として
42
は、現地人材の能力・意識の低さや育成の難しさ、幹部候補人材の採用難のような現地側の事情の
ほか、本社から現地への権限移譲が進まないことも指摘されている。
また、優秀な現地人材を確保するために必要な方策として、「教育・訓練機会の充実」が42%を
占める。
【優秀な現地人材を確保するために必要と考える方策】
出所:通商白書2008
さらに、日系企業の進出が先行している中国においては、日系企業の魅力が低く、優秀な人材獲
得の困難に直面している。
【中国における働きたい企業の国籍ランキング】
出所:通商白書2009
43
(5)地域の発展段階に応じた、求められる現地人材の違い
産業の発展段階、日本企業の進出状況等で、それぞれの国・地域で求められる現地人材は異なっ
ている。それぞれのニーズに応じた技術協力/産業人材育成支援を行うことが効果的であると考え
られる。
①産業人材の需給状況
タ・
イ
・
ベ
ムト
ナ
ワーカーレベルについては一定程度の産業人材育成 が行われている。しかしながら、将
来的な人口減少/高齢化に伴う、生産人口の減少、および人件費の高騰が 懸念されてい
る。
他方、中間管理職以上の人材が不足している。
・
企業進出のペースに産業人材の育成が追いついておらず、産業人材育成の質の向上と量
的拡大が求められている。
・
現時点では日本企業の進出が少なく、産業人材の供給・育成に対する要求はまだ大きく
ない。
将来的にはメコン地域開発、EPAの締結などを背景に、日系企業の進出が期待されて
おり、産業人材に育成に対するニーズが拡大することが予想される。将来的に、ワーカ
ーを始め全てのレベルにおいて産業人材不足が懸念される。
カ
ン・
ボ
ジ
ア
・
ラ
オ・
ス
現時点では日本企業の進出が少なく、産業人材の供給・育成に対する要求はまだ大きく
ない。
新興諸国にあった生産拠点をからラオスに移す動きが多く見られ、その結果、産業人材
供給・育成への要望が 大きくなることが予想される。将来的に、ワーカーを始め、全て
のレベルにおいて産業人材不足が懸念される。
② 産業人材育成機関
・さまざまな人材育成機関・企業が多数存在する。
タ ・東アジア他国と比較すると、産業人材の研修参加の機会は非常に多く、基礎的な研修につ
イ
いては自由に選択できる環境が整っている。
・東アジア他国と比較すれば、産業人材育成機関が少なからず存在する。
ベ ・ただし、年間収容定数が小規模な機関が多く、実習設備・施設が量・質とも不十分で、育
ト 成機関が充分に機能しているとは言い難い。
ナ ・欧米式マネジメントを教える機関も多数存在するが、現場に即したマネジメントが教えら
ム
れているかは言い難い。
44
・日本政府の支援でいくつかの産業人材育成機関が設立されている一方、未だ実践的かつ効
カ 果的な産業人材育成を行う機関が少ない。
ン ・多くの研修機関で、実務経験の乏しいカンボジア講師による理論中心の研修を実施してい
ボ る。
ジ
ア
・政府機関関連やその他の職業訓練機関がいくつか存在するが、実践的かつ効果的な産業人
材育成を行う機関が少ない。
ラ
オ ・上記の3国と比較しても、外部の教育機関が数、質ともに充分とは言えない。
ス
③ 日本企業の要望
【研修・教育ニーズ】
・基礎的な研修からシフトし「一段上あるいは先」への研修ニーズが高まっている。具体的
には、経営・組織戦略、新製品開発、新規ビジネス構築などに向けた開発力、技術力、企画
タ 力の向上等があげられる。
イ
【政策的ニーズ】
・産業技術高度化のための制度(例:技術工、スタッフの技術の認定制度、P M 資格)が現
状整っていないため、このような制度が早急に整備されることが望まれている。
【研修・教育ニーズ】
ベ ・生産現場等に即した 5S やカイゼンなど基本的な分野における教育ニーズが高い。
ト
ナ 【政策的ニーズ】
ム
・基本的な・素材や部品等の製造を受け持つ裾野産業の育成が望まれている。
【研修・教育ニーズ】
カ ・大幅に不足している技術系人材の育成が望まれる。
ン ・基礎的教育や一般的な生産管理、安全管理などの概念教育に対する教育ニーズがある。
ボ 【政策的ニーズ】
ジ
ア ・ワーカーを始め現場で通用する基礎的な生産管理技術や生産技術等に関する産業人材育成
に向けた態勢作りが望まれる。
【研修・教育ニーズ】
・ワーカーを始め産業人材の全てのレベルにおいて必要な人材が不足しているが、特に現場
ラ
オ 向きの基礎的な生産管理技術・生産技術に関する教育ニーズが高い。
ス
出所:平成22年度アジア産業基盤強化等事業(アジア諸国における産業人材育成に関わる調査事業)報
告書 経済産業省
(社団法人
日・タイ経済協力協会
45
委託)
続いて、既存調査において現地日系企業、非日系企業を対象に人材ニーズに対するアンケート調
査が行われており、そのアンケート結果概要を下記に引用した。
当該アンケート結果からは、比較的経済発展が進んでいる地域においては、中間管理職層以上の
従業員教育の重点を置いており、他方、今後日系企業等の進出により人材ニーズが拡大すると考え
られる地域については、ワーカー層を含めた全階層の教育ニーズがあるという傾向がみられた。
ワーカーに対して今後
従業員教育で重点を 最も人手不足が
最も重点を置く教育分
置いている層
予想される層
野
タイ ・中間管理職層以上 ・ワーカー層
・安全・衛生・環境
ベトナム ・中間管理職層以上 ・ワーカー層
・品質管理
・中間管理職以 ・安全・衛生・環境
上
カンボジ ・ワーカー層
・中間管理職以 ・基礎教育
ア
・中間管理職層以上 上
・安全・衛生・環境
ラオス ・ワーカー層
・中間管理職以 ・基礎教育
・現場監督層
上
・安全・衛生・環境
・中間管理職以上
・設備保全
国名
中間管理職層に対し
て今後最も重点を置
く教育分野
・横断的経営
・横断的経営
・総務
・総務
・英語
出所:平成22年度アジア産業基盤強化等事業(アジア諸国における産業人材育成に関わる調査事業)報
告書 経済産業省
(社団法人
日・タイ経済協力協会
46
委託)
(5)中小企業の海外展開
中小企業の海外進出は大企業と比較してはるかに遅れているが、近年着実に増加傾向にある。ま
た、将来的に海外進出する潜在性のある臥龍企業の海外展開の拡大も予測される。

中小企業の海外生産比率は大企業と比べてはるかに低いが、近年、徐々に上昇傾向にあ
る。

生産性が高いがきっかけがなく国内に留まっている企業(臥龍企業*)は2000社いると
言われている。これらの企業は、将来的に海外進出する潜在性があると考えられる。
*臥龍企業とは、我が国企業のうち海外展開を行っていない企業の全要素生産性を見た際に中央値を上
回る企業のこと
図 製造業における規模別の海外生産比率
47
図 臥龍企業について
この間、中小企業が海外展開を行わない理由としては、以下のものが挙げられている。
表 中小企業が海外展開を行わない理由
理由
%
必要性を感じない
62.4
国内業務で手一杯で考えられない
32.3
国際業務に必要な知識がない
27.9
国内で国際業務に対応できる人材を確保できない
19.5
資金繰りが不十分・進出資金を調達できない
18.7
国内事業の先行きに不安がある
16.9
現地の輸出・販売先を確保できない
14.1
現地で人材を確保できない
10.9
現地の政治や経済情勢が不安定
9.7
(出所:中小企業白書)
48
(6)海外展開の国内への影響
グローバル化によって長期的には国内雇用は増加する可能性がある。海外展開を通じて、国内の
販売増加に発展するメリットも期待される。
表 海外進出に伴う取引関係の影響
項目
%
現地取引先の開拓に繋がった
45.2
特に影響はない
27.6
現地取引先の開拓が国内での新たな取引に発展した
24.1
国内では直接取引できないような大手企業とも取引できた
15.3
外資系企業との取引に繋がった
13.0
その他
4.3
(出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「最近の製造業を巡る取引環境変化の
実態にかかるアンケート調査」(2005年))
図 海外事業が国内事業に与えた影響
国内への影響なし(現地市
場開拓が目的)
国内事業への影響なし(海
外と国内では異なる製品)
国内事業への影響なし(国
内で他分野に進出)
国内事業の縮小(海外への
生産移転)
国内事業が拡大(海外向け
の輸出が増加)
その他
(出所:JBIC「2005 年度海外直接投資アンケート」
49
参考までに、最近の論文等から、日本企業が海外展開する結果として、我が国の国内雇用にどの
ような影響を与えるかについて論じた資料をピックアップし、以下に要点を整理する。いずれも、
日本企業の海外展開が、我が国全体に対してポジティブな効果があるとしている。
①
小池和男氏(法政大学名誉教授)
「海外日本企業の人材形成―円高と雇用―」[2010](独立行政法人 労働政策研究・研修機
構)
・ 今後の我が国の雇用は、輸出よりは、海外直接投資が支えていくことになる。ただし、海外日
本企業がしっかりと稼げないといけない。稼ぎに貢献するのは、基本的には中堅層の人材であ
る。タイならタイ、アメリカならアメリカ、イギリスならイギリスの庶民の中のまじめな人を
どう育てていくかが一番重要。
・ 海外日系企業は、自国とその地の中堅人材を育てた。中堅層とは、A.技術者(製品設計技術者
よりも、生産技術者や製造技術者)、B.生産労働者の技能レベル上位 1 割層、C.それを支える
層としての生産労働者層の技能上半分層。
・ (海外展開が進むと)日本の中堅層で、ブルーカラーだけではなく、ホワイトカラー(生産技
術者、製造技術者)、あるいは人事、経理と言った事務系も含まれるが、ポテンシャルのある
人材は、ものすごい人手不足になると考えられる。
② 樋口美雄(慶應義塾大学商学部教授)、松浦寿幸(独立行政法人経済産業研究所)
「企業パネルデータによる雇用効果分析 ~事業組織の変更と海外直接投資がその後の雇用に
与える影響」 RIETI Discussion Paper Series
・ 分析の結果、事業組織変更を行った企業は、一度は雇用を大きく減らすものの、時間の経過と
ともにパフォーマンスの改善がみられ、やがて、事業組織変更を行っていない企業よりも急速
に雇用減少率が縮小することが確認された。
・ また、海外直接投資についても、とりわけ海外製造子会社を保有する企業では、企業グループ
内国際分業により実質付加価値、労働生産性が高まり、雇用減少率も小さくなることが確認さ
れた。
③ 戸堂康之氏(東京大学新領域創成科学研究科国際協力学専攻准教授)
「途上国化する日本」[2010](日経プレミアシリーズ)より
・ 臥龍企業(元気なのに十分に活躍できていない企業)をはじめとする日本企業がグローバル化
50
すれば、さらに技術力が向上していく。そして、その技術が他社にも波及して、日本経済全体
の生産性が上がり、所得の向上をもたらす。所得が増えれば自然に内需は拡大して、内需型産
業にもその恩恵が伝わっていく。
・ グローバル化で逆に日本の技術が世界に伝わることで、他の国の経済も活性化する。それによ
って他国の所得が増えれば、結局は日本の外需が増えることにもなる。
・ 新しい技術・知識をただ乗りして利用されてしまうことから、研究開発に対する潜在的な意欲
は阻害されている。だから、政府が介入しない市場経済においては研究開発が十分には行われ
ない。そこで、研究開発を政策によって補助して奨励する必要がある。つまり、研究開発につ
いては政策の介入が正当化されている。
・ 技術進歩を促進するためには、・・・研究開発に対する政策補助ももちろん効果的だ。しかし、
企業のグローバル化も技術進歩を促す効果的な方法である。
・ 垂直的直接投資の場合には、比較的単純であまり技能を必要としない生産工程を途上国に移管
することで、本国では複雑な生産工程やマネジメント、研究開発といった高度な技能を要する
事業に特化することができる。それによって、生産効率が上がり、技術が進歩することが期待
できる。
・ 確かに、対外直接投資や海外生産委託で国内の生産工程の一部が海外に移転してしまうことは、
一見すると国内の精算や雇用が減ることに直結するように思われる。しかし、海外に移転する
工程は労働集約的な単純なものが多く、その移転によって、国内では熟練した技能を必要とす
る高度な生産工程、高度な知識やノウハウが必要なマネジメントや研究開発に集中することが
できる。
・ 日本からの援助が増えればそれが呼び水となって、日本からその国への直接投資が増えること
が実証されている。
・ 日本の途上国援助には、QC 活動やジャストインタイムといった日本の生産技術を移転するよ
うな技術協力があるが、そのような下地があれば日本企業が進出しやすくなるということもあ
る。
(7)アジア地域以外への日系企業の展開
日本企業の海外展開はこれまでに見たようにアジアを中心に進んでいるが、長期的な観点からは、
新興国を中心としたアジア以外の地域へも徐々に展開し続けることが見込まれる。現時点では、下
51
図の通り、アジア以外への進出割合が 7 割を占める一方で、今後進出が増えていくと予想される中
東は 1.1%(650 社)、アフリカは 0.9%(520 社)に留まっている。
中東地域では、アラブ首長国連邦への進出が 48%(314 社)と最も多く、サウジアラビア(13%、
86 社)、トルコ(10%、68 社)がそれに続いている。アフリカでは、南アフリカへの進出企業が
212 社で全体の 4 割に上っており、続いてエジプト(10%、52 社)、アルジェリア(6%、32 社)
となっている。
図
地域別日系企業数(計 57,332 社)及び割合
南米, 779, 2%
中東, 650, 1%
中米・カリブ,
582, 1%
アフリカ, 520, 1%
大洋州, 1,193, 2%
中・東欧、旧ソ連,
1,287, 2%
北米, 6,934,
12%
西欧, 5,198, 9%
アジア, 40,189,
70%
注:地域、企業数、割合の順に表示
出所:海外在留邦人数調査統計(平成 23 年速報版)
中東やアフリカでは、進出企業数自体が少ないものの、中東最大の進出国の UAE は中東地域に
おける販売拠点という特徴があり、製造活動自体はほとんど行われていない。アフリカ各国では、
商社の展開以外には特徴はあまりうかがわれないが、南アフリカについては 1,000 人以上の従業員
を雇用する日系企業も数社存在している。これらは自動車産業に関する企業であり、中東・アフリ
カ地域で唯一の大規模な進出形態といえる。
以下に、これらの地域への進出企業の例として、南アフリカで自動車を生産するトヨタ自動車の
人材育成について参考情報として記載した(2011 年 10 月 5 日開催「学校と社会をつなぐ人づくり」
セミナー発表資料を基に作成)。
52
会社名:Toyota South Africa Motors (Pty) Ltd.(通商 TSAM)
所在地:南アフリカ共和国(本社-ヨハネスブルク、工場-ダーバン)
設立:1962 年 9 月
出資:トヨタ自動車㈱100%(2008 年 8 月~)
従業員数:7,628 名(2011 年 7 月時点)
生産モデル:カローラ、ハイラックス等
生産キャパシティー:220,000 台
輸出先:北アフリカ、ヨーロッパ各国
販売台数(2010 年実績):国内 98,000 台、輸出 64,000 台
【人材育成の難しさ】
・ 失業率が高く、2010 年も約 25%に達する。
・ 専門学校・短大・大学卒が全体の 16%しか存在せず、エンジニア比率も低い(労働力全体の
10%弱)。
・ TSAM において、苦労して採用しても、入社数年で辞めるものと、マネージャークラスにな
ってから他社による引き抜きのため退職する者の割合(2010 年は 8%)が他の世代よりも高
い。
【社員人材育成】
1.人材採用・育成システム:フィーダースキーム
2.人材育成組織:トヨタアカデミー
図 TSAM の社内人材採用・育成システム
53
・ 上図に示す通り、各職域にわたって採用後の育成プログラム(座学+実務実習+能力確認テ
スト)が設けられており、例えば保全要員として採用されたものは養成工として 4 年間の研
修を受ける中で国家資格取得を目指すなど、何らかの結果を生み出すような内容となってい
る。
・ また、従業員教育の奨励等を目的に、成人向け教育プログラムも実施。
・ 成果として、①設備稼働率の向上、②品質改善、③従業員の勤務態度改善がうかがわれた。
一方、課題としては、各職種・個人別キャリアパスを明確化する必要性、社内人材育成を通
じた世代交代促進を行う必要性が挙げられている。
【その他の人材育成事例】
・ T-TEP(Toyota Technical Education Program):優秀なサービス人材採用のため職業訓練学校
へ提供する支援プログラム。1990 年より開始し、53 の国と地域で計 462 校へ導入。
・ 中国~遼寧トヨタ金杯技術学院~:高い専門技術を持ち中国国産車の製造を担う人材の育成
を目的に、設備・機材の無償提供、教員・生徒の来日研修受け入れ支援を実施。
・ インド~トヨタ工業技術学校~:経済的理由等で高校進学が難しい学生対象に専門的技術の
教育を実施。入学金や授業料を全額補助している。
・ サウジアラビア~サウジ日本自動車技術高等研修所~:JICA やサウジアラビア政府が支援し
ている研修所において、自動車整備士資格の習得を目標としたプログラムに対して自動車整
備機器・科目教材提供、専門家派遣の形で協力している。
2.2
ヒアリング実施結果
2.2.1

国内ヒアリング
ヒアリング対象:中小・中堅企業を中心に海外展開を実施している日系企業計 22
社

ヒアリング企業の業種:自動車部品、電子部品、繊維、繊維機械、金型部品、食
品、化学、住宅、通販、皮革、IT、メッキ加工

ヒアリング期間:7 月 5 日~8 月 26 日
1.海外事業の現状について
(1)海外進出のきっかけ
54
・ 海外進出のきっかけとしては、①サプライチェーンの一部として、取引先が進出していくこと
にあわせて、自社も海外への展開を図る企業、②市場競争が激化する中で、高コストの国内生
産を縮小して、海外生産に乗り出す企業、③国内需要が縮小していく中で海外市場(富裕層、
中間所得層、BOP 層)を目指す企業、の三つに分けられる。

「主要取引先の自動車メーカーや住宅機器メーカーからの誘いを受けて米国、中国等に進
出」(自動車部品)

「国内での同業者との競争を勝ち抜くためには、国外生産によってコストを引き下げるこ
とが必須。最近の円高をみて、国外生産をしなかったら、当社は確実に傾いていたと実感」
(化学)

「後継者不足や安価な中国製品の流入に伴い国内市場も縮小する中で、競争力を維持する
ために海外生産を行う必要性があった」(金属加工)

「バングラデシュの貧困層に対して浄水ビジネスを展開することになり、いわゆる BOP ビ
ジネスに比重を移していった」(化学)
(2)事業の概要
・ 製造業については、おおむね、国内生産は高付加価値品や基盤となる製品の生産に重点を置い
たり、研究開発やパイロット生産に特化したりしている一方で、海外生産は「汎用品の生産」
や「組み立て」、「パッケージング」といった活動に集中している。
・ 一方で、中小製造業については、国内には研究開発機能を残しているものの、中核的な技術も
海外に移転している事例が多い。なお、高度技術を海外移転する際には、現地との共同出資で
は独自技術が漏れる懸念が高いことから、独資 100%で事業展開している国においてより高度
な技術による生産を行っているという声も聞かれた。

「日本と中国との製造部品で違いはない。コアな部分もどんどん海外に技術移転が進んで
しまっているのが現状。」(電機部品)

「インドネシアと中国で生産しているが技術を要するものはインドネシアで生産。独自技
術が漏れることを懸念しているため、独資 100%で事業展開しているインドネシアを中心
にしている。」(繊維)
・ また、定年退職した技術者がローカル企業に再就職することに対する脅威を感じている企業も
多い。

「現地に設置した研究所の開発責任者が定年退職して中国ローカル企業に転職。この業界
55
の有名人だったため、クライアントごとローカル企業に持って行かれた。」(電機部品)

「定年で当社を辞めた日本人材がローカル企業に転職していずれはライバル化する可能性
については危惧している」(繊維)
・ 販路の拡大については、サプライチェーンの主取引先との取引を維持しつつ、他の企業との取
引を拡大する先がみられる。また、一部には商社のネットワークを活用する先もみられる。
(3) 技術・人材
・ 中堅・中小企業に関しては、現地の大学や企業との共同研究等を実施している先は、少ない。
・ 中国へ進出する企業では、日本語によるコミュニケーション能力を重視する場合が多い。

「中国では密接なコミュニケーションをとるために日本語は必須。日本語ができる人材も
豊富。中国進出においては、日本語能力は重要な採用ポイントとする」(自動車部品)
・ その一方で、中国以外のアジア等に進出する企業では、日本語にこだわる必要はなく、英語あ
るいは現地の言語でコミュニケーションを行うか、通訳をつければ十分との見解も多い。

「英語~ベトナム語のやりとりで十分であり、日本語~ベトナム語の人材を必要としてい
ない。(自動車部品)」

「日本語人材は必要ない。国際的に渡り合える人材は英語ができれば十分である(自動車
部品)」

「インドネシア語及び日本語でコミュニケーションしている。通訳もいるので、言葉では
問題を感じていない。」(繊維)
(4)その他(取り巻く環境)
・ 賃金の上昇が中国(特に上海等の都市部)やタイで著しく、価格優位性がなくなってきている
・ 税制の違い、ビザ発給の煩雑さ、輸入規制などの問題が少なからず存在している。
・ また、大企業が進出する場合、優秀な人材を大量に採用することから、地元の人材不足が深刻
化する可能性が指摘されている。

「人材層の底上げのために、日本政府が高等教育を支援し、産業人材を育成することは望
56
ましい」(自動車部品)

「現地の大学で講座を持ってビジネスに見合う人材を育成する取り組みに対して支援をい
ただけるとありがたい」(通販)
2.海外事業展開戦略
(1)今後の進出先
① 生産拠点として
・ 現在、中国に出ている先では、今後の賃金上昇や制度変更リスク等を踏まえて、中国以外の進
出先を検討する先が多い。こうした企業の間では、より労賃コストが低いベトナムや、ミャン
マー、人材を確保できるインドネシアを進出対象国として挙げる先が多い。

「中国では、いつ土地利用などに関する制度変更等が実施されるかわからない。こうした
リスクが発現した場合には、すぐに中国の拠点を閉鎖し、国内や他の進出先の生産ウエイ
トを上げる」(化学)
② 市場として
・ 一方、ASEAN 等の経済成長に伴い、新興国では、日本製品の販売拡大の可能性も高まっている。

「シンガポールやタイなどの経済成長に伴って、高級シャツの需要が高まっている。」
(繊維)。

「タイのオフィスビルなどで日本レベルの消火システムへの需要が高まっている」(C 社)
・ また、海外の他社(日系・非日系を問わず)の生産者に向けて営業やメンテナンスを行う機能
を重視する声もある。

「生産以上に、メンテナンス機能が海外での売り上げを拡大するのには重要。こうした営
業、メンテナンス人材の育成にも注力している」(繊維機械)

「海外で現地日系企業の電子部品の需要を吸い上げ、部品の開発・設計は日本で、実際の
製造を海外で行う役割分担ができている。この結果、毎年、新卒の採用(数名)を行い国
内雇用も増えている」(電子部品)
57
③ その一方で、主要取引先の進出先拡大の動向によって進出の有無を決めるという、クラスター
としての動きを考えている企業も複数見られた。
海外展開の多様化の進展
・生産拠点(工場)「のみ」を展開するという例は少なく、むしろ海外市場での販売拠
点、メンテナンス拠点の拡大を重視する声が聞かれるところ。
・この背景には、アジア等を中心に新興国市場が成長し、そこでの消費財の需要、資本財
等の製造が増加するにつれて、日本企業の技術力の高い製品へのニーズが増加しているこ
とが背景にあると考えられる。
・海外展開に成功している企業では、それぞれが自社のビジネスモデルに基づいて、国内
外の生産を差別化、あるいは国内は開発のみといったかたちで最適な展開方法を探って、
世界経済環境の変化に対応しようとしていることが分かる。
・こうした中で、人材の育成等で政府に対して期待する声は強い。
3.人材戦略
(1)採用の方法
・ 現地のネットワークなどを通じて、人材を確保している。中国等では、賃上げは続くものの、
人手不足から事業遂行が困難になるという声は聞かれない。

「管理人材については、人材派遣会社も利用している。工場の単純労働者は敷地外への張
り紙を見て応募してくることも多い」(部品加工)
(2)現地への権限移譲
・ 現地への権限移譲に関しては、最大限、現地化を進めつつ日本人の駐在員の人数を最小化する
ことが現地で成功している企業の成功要因という声がある一方、日本人の主導による経営の重
要性を指摘する声も聞かれる。
(3)留学生等
・ 多くの先で、日本に留学してくる外国人留学生をすでに活用、あるいは活用を検討している。
一方で、母国での就労を希望する留学生が少ない等のミスマッチも指摘されている。

「現在ミャンマーでは、日本への留学生が中心となり販売活動を実施している」(化学)
58

「彼我の賃金差から留学生が現地で幹部候補生として勤務しようとする人材を確保するの
は簡単ではない」(自動車部品)
4.現地人材育成について
(1)自社の研修について
・ 全ての企業で研修の重要性を指摘。ただし、日本国内での研修が必須かどうかについては、企
業によって様々。

「生産工程全体に目配りができ、問題が生じたときに隘路を発見、改善できる「リリーフ
マン」として機能してもらうためには、国内の工場で実際に作業をやってもらう必要があ
る」(繊維)

「以前は日本に連れてきて研修をしていたが、現在は日本での研修は実施していない。理
由はあまり効果がないため」(自動車部品)

「細かな人材育成効果の計算よりも、ひとまず信頼できる従業員を育成することが重要。
ベトナム人 5 名に対して 3 年間かけて国内研修をしているが、費用はすべて自社負担」
(金属加工)
(2)公的補助を受ける研修について
・ JODC の実施する人材育成事業については、中小企業が海外展開する上で大変有益な制度である
という声が多く聞かれた。

「中小企業にとっては海外で技術指導を行うのが最もコストがかかるところであり、JODC
や AOTS の支援がなければ海外に出られない企業は非常に多い。」(通販)

「JODC のプログラムがなければ日本から人材を派遣することを思い切れていなかっただ
ろう」(住宅)
・ AOTS、JODC が実施する人材育成事業が全ての企業に認知されているわけではない。利用した先
でも、改善の要望が聞かれたところ。

「PR 不足である」(電子部品)
・ 具体的には、期間の延長、対象職種の拡大(営業職)、支援対象の企業規模の拡大等の要望が
聞かれている。
59
・ また、シンガポールにて制度化されているような、留学生インターンの制度化に関する要望も
聞かれた。

「学生のうちから日本の企業にインターンで呼び寄せるような制度は、日本企業に貢献す
る人材を育成する上で有効。シンガポールにはこの制度があり、シンガポールで同国企業
にインターンをする外国人学生に月 500 ドルの手当を国が支給している。」(通販)
5.人材育成の他の技術協力等への要望事項
・ 日本政府の力で、中小企業用のレンタル工場スペースを確保するべきだという意見が聞かれる。

「中小企業の海外展開を促進するのであれば、日本政府の影響力が及ぶ工業団地に中小企
業用のレンタル工場スペースを確保し、通関業務や後方事務を実施できる部隊を、進出す
る中小企業で共有できればよい」(電子部品)
・ 経理・法務等のバックオフィス業務については、国ごとに中小企業が共用で使えるようなコソ
ーシングの仕組みがあればありがたいという意見が聞かれる。

「当社は中国ではバックオフィス機能を持っていないが、共用でバックオフィスを持てる
ようなコソーシングの機能が国ごとにあればとてもありがたい」(住宅)
・ 海外進出を成功させるためには事前の現地調査が重要であるため、FS 調査への支援が必要だと
いう意見が聞かれた。

「事前に FS 調査がしっかりされてリスクが回避できるような仕組みがあればありがたい」
(電機部品)

「しっかりした FS があれば金融機関もカネを貸しやすい。中小企業の海外進出の際の FS
作成を日本政府が支援するというのは一つの考え方かもしれない」(金型部品)
・ また、国内の工場が閉鎖し、モノづくりが縮小しつつあるなか、海外への技術移転ができる国
内外の外部専門家に関する情報収集・マッチングのためのツールに関する要望が聞かれた。

「今後は、リタイヤした日本人シニア専門家の業種別ウェブ検索機能が提供されればぜひ
活用したい。同様に、他国にいる現地の専門家についてもウェブ検索ができるようになれ
ばありがたい。」(繊維)
・ また、政府主導での中小企業の海外進出支援についての要望の声も聞かれた。

「中小企業の海外進出支援についてはシンガポール政府の取組が参考になるのではないか。
60
シンガポール政府は、傘下の公社に途上国の工業団地開発を実施させ、そこにシンガポー
ル企業等を進出させている。政府が後ろ盾になっているとわかれば進出企業も心強い。」
(金型部品)
6.サービス業の状況
・ これまでにヒアリングを実施しているサービス業からは、製造業のサービス機能(販売部門)
と同様の声が聞かれている。
7.海外展開による国内への裨益の実態
・ 海外展開により、国内の工場は縮小あるいは閉鎖したという企業が多い一方で、国内工場での
生産は一時的には縮小したものの、中長期的には生産拡大しているという企業もある。自動車
や電機など、継続的に新規市場開拓を行っている場合には、海外に移転した生産能力拡大がそ
のまま市場拡大への牽引力になっているため、国内の製造拠点は機能転換しながら生き続けて
おり縮小しないものとみられる。

「米国に拠点を設立した当初、国内生産は一旦減ったが、その後は回復した。米国で組立
を行うために日本国内での部品生産が必要であることが増加の一因。また、米・中・豪へ
の輸出拡大も一因。」(自動車部品)

「当社は海外展開が進めば進むほど国内雇用が増加する仕組み。我々のビジネスモデルは、
国内外で受注した製品を国内で設計等を行い中国やラオスの工場で製造するので、海外展
開が進めばそれだけ国内の仕事も増える。」(電子部品)
・ その一方で、中小企業からは、海外展開をしていなければ全体としての業績は悪化しており、
進出したことが(苦労は絶えないものの)企業の業績を支える要因になっているという話も少
なくなかった。
8.製造プロセス以外の人材へのニーズの把握
・ 現地人材に関しては、現地の位置づけが、「製造拠点」から「製造+販売拠点」へとシフトし
ていくなか、製造プロセスに加えて、マネジメントや営業に関するニーズが高い。

「高級衣料品の需要の高まりに応じて、企画営業ができる人材が必要になる」(繊維)

「特に現地での資金調達方法、買付け、営業情報の入手に長けた人材に対するニーズが高
い」(自動車部品)
61

「将来的に、国内と同様に技術屋で販売+メンテナンスの両方ができる人材を育成する必
要があるかもしれない」(化学)
・ 中堅~大企業において、製造プロセスに加えて、経理・法務等のバックオフィス系の人材の育
成ニーズが多く聞かれた。
9.大企業のニーズの把握
・ 大企業のニーズも、人材育成に関しては基本的には中小企業と同様の希望が聞かれたが、既に
システム化されている部分に関する海外への移転等、一歩進んだ要望も聞かれた。

「大企業とは中小企業(各事業部、子会社)の集まり」(繊維)

「国内の人材育成プログラムのうち汎用化できるものを JODC 等で提供できないか」(繊
維)
10.日本人のグローバル化ニーズ
・ 海外での事業展開を管理できる日本人の人材が不足していることの問題も指摘されている。

「海外事業を拡大しつつあるがグローバル人材は不足しており育成が急務」(繊維)

「今後の日本人には「英語力」と「20 代での海外での 1 年程度の経験」が必要になる」
(自動車部品)
・ 海外事業に携わる日本人人材の育成に対するニーズも聞かれた。

「若手人材を海外でビジネスできるような人材育成できるようなプログラムがあれば利用
したい」(化学)

「例えば 5 年目くらいの若手社員をジュニア専門家のような形で海外に派遣できればあり
がたい」(住宅)

「企業に入る前から(学生のうちに)海外経験をより多く持つことにより、入社後の海外
赴任にも柔軟な姿勢で対応できると思われる」(金型部品)
62
2.2.2
海外ヒアリング
Ⅰ.出張の概要
1.出張期間
11 月 6 日~11 月 24 日
2.訪問国
インド、バングラデシュ、中国、フィリピン、インドネシア、マレーシア、
カンボジア、ベトナム
3.訪問先数
49 社・機関
4.訪問先の業種
電機、繊維、自動車部品、通信、食品、品質管理、流通、通販、美容院、人材派遣、資源、イ
ンフラ、商社、銀行、政府系機関。
Ⅱ.ヒアリング結果のポイント
1.概要
(1) 海外展開の背景、現況、展開
・ 海外展開の背景については、①コスト削減の必要から生産拠点として展開する(主要取引
先の海外展開に合わせて進出する例を含む)ほか、②進出先の内需市場を確保するために
展開する事例が多く見られている。
・ 特にインドや中国など人口の大きい市場では、②を企図した進出が目立つ。
・ この間、他の新興国に、進出先の提携企業と一緒に展開することを考えたいという声も聞
かれた。

「中国企業と組んで展開していくという戦略もある。中国のアフリカ展開は目を見張るも
63
のがあり、この中で日本環境技術、省エネ技術を生かしていくことができる」(製鉄業)
という声が聞かれた。
(2) 事業遂行上の課題(人材を除く)
・ 新興国の場合、法制度の未整備や、会計制度・税制の変更が頻繁に行われることに対する
不満が多い。(インド、インドネシア、ベトナム等)
・ 「正確な情報がどこにあるのか分からない」(民間団体)といった指摘もある。
・ 国によっては、電力等のインフラが整っていないことを問題視する声も聞かれている。さ
らに後発途上国では、コンプライアンスの問題を指摘する声も聞かれた。
・ インフラ関連では、監督官庁のとのネットワークを構築することが重要という声がある。
(3) 現地への権限移譲
・ ほぼ全ての企業が、現地人材の登用を通じた、現地化の必要性を認識している。ただし、
実際には、現地化が思うように進んでいない実態を吐露する企業もある。

「英語で本社側がスムースにコミュニケーションをとれないために、現地への権限移譲
に時間がかかっている。要するに日本人の問題」(電機)
2.人材関連
(1) 現地人材の採用・育成
・
人材の確保には、現地の人材紹介会社やメディア等を通じて採用を実施。

最近では、R&D 機能の現地化を進めるにともなって、人材を増員する先もみられる。
・
現地人材の研修については、大手の企業では自前のプログラムを持っている先が多い。ま
た、それぞれの進出先によって運用等は異なる。

「他国での成功例にとらわれないようにしなければならない」(食品)
・
将来の幹部人材の育成に、苦心している先が多い。Job Hopping のリスクを軽減するため
に、長期在籍者に対して、日本での研修を実施するなどの対応を実施している。
・
営業人材については、現地人の活用を重視する先が多い。また、営業人材の教育を他地域
64
で行うケースも多い。(タイ⇒インド、タイ⇒カンボジア等)
・
労働者の定着率については、企業や、進出先によって様々であり、必ずしも離職を大きな
問題と捉えていない向きもある。

「コストをかけて教育しても、育ったら海外に移住してしまうのではないか、という懸念
がある」(自動車)といった声も。
(2) 日本人人材の育成
・ 大手企業を中心に、海外で通用する日本人人材を養成するスキームが既にできており、こ
こへきて海外展開を加速させていることから、そのスキームを増強しているという声が聞
かれている。特に今後は新興国人材の育成が重要であることが認識されており、新興国へ
の若手人材派遣のスキームを構築し実際にインド等に派遣している企業がいくつも見られ
る。
・ 一方、中小企業は、日本人人材の育成に苦慮している。また、中小企業の場合は、送り込
める人材に限りがあり、現地法人のトップに送り込まれた技術系のトップは、総務、労務、
会計等への対応に頭を抱えている。
・ なお、行かせたい人材と行きたい人材が異なることを指摘する声もあった。

「海外に出ないと売れないのが分かっており、20 代の社員は多くが海外に出たがってい
る。一方、会社が出てほしいと思っている人手が潤沢な 30 代、40 代は出たがらない。」
(電機)
(3) 日本の既存の支援制度について
・ JODC や AOTS 等を活用している企業は多い一方、支援制度の存在を知らない先も多い。

「ロングステイで滞在している日本人を技術指導員として活用できないか」(自動車)、
「日本の企業を退職したシルバー人材を、一定期間の居住と共に現地での企業活動への貢
献も含めて活用できないものだろうか」(通販)という声もある。
・ AOTS に関しては、申請に要する手間等の問題を指摘する声も聞かれる。

「AOTS はかつて利用していたが、現在は使っていない。理由は①制度が頻繁に変わるこ
と、②申請してから時間がかること、③期間が短いこと。商品企画や工業デザインの分野
では、現地人材が不足していることから、これらの問題が改善すれば活用したい。」(電
機)
65

「AOTS の研修生の制度は一度、調べたことがある。しかし申請手続きが煩雑そうである
こと、大企業の場合、あまりメリットが小さいことから利用しなかった。最大の問題は申
請から実際に利用できるようになるまで時間がかかるように見えたこと。こちらのスピー
ド感にはマッチしていない。JODC の専門家派遣の制度があることは知らなかった。ただ
し、他の企業で指導する義務があるとすると、やはり利用することはない」(電機)
3.日本への裨益について
・ 輸出製品の国内から海外への生産移管を企図した海外展開の場合は、国内雇用の削減とい
う状況を招くが、「新たに進出先の中間層を狙った進出の場合は、日本国内の雇用や生産
を増やすことはあっても、空洞化は起こさない」(政府系機関)という声が聞かれた。
・
日本への資金の還流については、国によって税制上の枠組みや優遇制度の違いがあり、状
況は様々である。

「中国元を外貨に換えられない規制がかかっているため、利益のほとんどは再投資に向け
られており、非常に少ない割合をロイヤリティとして日本に送金」(デパート)や「日本
とフィリピンの間の課税については、フィリピンでは配当に対して 10%の課税(通常であ
れば 25%)となり、両国間の制度上で問題を感じたことはない」(電機)など。
4.政府への要望等
・ 日本人人材の研修、派遣に対する補助を期待する声が強い。

「海外事務所に研修生を送り自前で育成するのにコストがかかっているので国の補助が付
くとありがたい」(電機)、「中小企業の場合、日本人は、技術系のトップしか送れない
ことが多い。そのトップが経理、総務、労務を担当するのは大変。サポートできる日本人
人材の派遣を支援してもらえると良いのではないか」(製網)等。
・ また、学生の段階から英語や国際感覚を磨く必要性を指摘する意見は多い。

「日本人の若者の国際化を急ぐべきだ。例えば、大学生が海外の大学に 1 年留学する際に
もっと政府の補助金を出すといったことはできないのか。対象とする大学の所在地は、日
本企業が力を入れているアジアや、これから伸びると考えられるブラジル、ロシア、トル
コといったところを選定するべき」(電機)や「大学で「海外インターンシップ制度」を
単位化して、アジア地域(例えば、フィリピン、中国、マレーシア)に進出する日系企業
もしくは関連ローカル企業で一定期間の経験を積ませてはどうか」(通販)など
・ その他では、以下の要望が聞かれた。
66

中国やインドについては、「二国間の社会保険制度の企業負担相互免除」を要望する声が
ある。

日本の対外政策が ASEAN に偏っているとして、「ASEAN だけでなく、南西アジアに進
出している日系企業の声も聞くべきではないか」(政府系機関)といった指摘もある。
67
3
研究会、勉強会
3.1
研究会
1.研究会開催概要
日時:平成 23 年 6 月 24 日 13:30~15:30
場所:経済産業省 本館 17 階 第2共用会議室
2.出席者一覧
【座 長】
牟田 博光 東京工業大学 理事・副学長
【委 員】
荒木 光弥 株式会社国際開発ジャーナル 代表取締役・主幹
小野 明 日本商工会議所 国際部長
五味 紀男 淑徳大学大学院 国際経営・文化研究科 講師
田中 辰雄 慶応義塾大学 経済学部 准教授
公益財団法人日本生産性本部
社団法人日本貿易会 経済協力委員会
3.研究会概要
(全体論)
・ 検討の対象国は ODA の対象
・ 「貿易・投資・経済協力」を一体で考える「三位一体論」まで立ち返って、ODA のあり方を見
直すべきである。

DAC は変わりつつある。ドイツ等もエチオピアでドイツの機械産業を売り込むための訓
練センターを展開。
・ 中小企業の課題を 2 つ。①関連企業の現地企業に技術の移転がされる訳であるが、要は構造的
68
に一人くらいしかいけない中小企業が多い中、もし現地メーカーからの納入度が増えることが
成果であるとすれば、おそらく海外に行けない日系企業のほとんどが、ますます進出ができな
い。②中小企業の場合、「よほど強いブランドがないと、金を取れない」というところでまず
息詰まる。
・ 臥龍企業が海外に向かってビジネス展開していくということを後押しするような技術協力政策
を取っていただく必要がある。
(成果)
・ 成果の指標については、成約数といったものだけではなく、「サプライヤーがどれだけ育て、
日本企業にものをおさめたか」、「品質がどれだけ上がったのか」といったものもあるのでは
ないか。
・ 成果の指標としては、単純にどれだけ成約できたかとか、相手国の企業が成長したかどうかと
いうのではなく、たとえば、「日本の企業がどれだけ海外に展開したか」、そういった「日本
の企業と現地の企業がどれだけビジネスマッチングしたのか」が重要か。
・ 経済学的には、技術協力の成果を定量的に評価することは可能。
(研修の対象)
・ 日本製品の強みは、有償無償のサービス。技術協力については、工業に関わるサービスに関わ
る人材ネットワークを構築していくといったことも重要か。
・ 必ずしも研修の場が日本である必要はない。アフリカは欧州で、中南米はアメリカで実施する
こともあるのではないか。
・ 現地での経営・管理を中心とした人材育成、事務的な方面の教育・指導の研修といったものも
検討いただきたい。
・ 日本に来ている留学生、あるいは日本で勉強した人たちを、ネットワークを日本政府がより一
層支援することによって、それを、技術支援を通じて役に立っていければ、効率的ではないか。
・ 約 29 万人の組織化されていない研修生の OB は今、何をしているのか。
・ 日本との関係を重視し、全く日本と縁がない人を教育するよりも、日本や日本企業との関係が
69
あり、産業分野で仕事をしている人を再教育していくときに、サポートしていくのがよいので
はないか。
・ 日本には MBA がないので、限界はあるが、ライン長レベルからもう一つ進めて、デザインく
らいまで含めることはあり得るのではないか。
・ 研修の対象をもう少し若い層に広げることも考えるべきか。
3.2
勉強会
(1)慶應義塾大学 経済学部田中辰雄准教授
・ 日本政府による技術協力を正当化する経済学的なロジックに関して、田中先生から説明の後、
質疑応答が行われた。主要な議論のポイントは以下の通り。

説明内容については田中先生作成の「技術協力のメモ」参照のこと。
(主要な議論)
・ 説明に含まれた指導員コスト(C)、企業利潤増加額(Δπ)、賃金増加額(ΔW)、転職率(1-p)は測
定可能と考えられる。サンプル数が 100 社ほどあれば、有意な調査が可能になると考える。

産業別の効果等を考慮すると、対象サンプルは増えることになる。

日系企業の集積が進んでいる地域で集中的に調査を行うことなどが考えられるか。

Δπについては厳密な測定は困難なので、経営者にアンケートを行って聞き出すしかない。
一方で「C<⊿π*p」の条件下で企業が自ら技能研修を行うと考えると、たとえば、「技
術指導員コストが高いと感じているか」、「研修のコスト(自社負担分)が 20%増加して
も受入を継続するか」等を現地の経営者に質問すること、或いは実際に政府からの C の補
助金変動による公募数の推移を観察(いわゆる顕示選好)により⊿πを推定することが可
能。
・ 企業による自発的技能研修の供給量が下がる最大の要因は労働者のジョブホッピング(離職)
であるため、経済学的に技術協力を正当化しようとすると、転職者のうちどれだけが再び日系
企業に就職するかを調査することが特に重要であると考える。ただし、労働者の転職履歴をト
レースすることはなかなか難しい。転職先企業に、転職してきた従業員の元の職場がどこかを
調査することはできないか。
70

調査の手法としては、企業経営者へのインタビュー、労働者へのアンケート、ウェブ・ス
クリーニング調査等が可能である。

AOTS 研修生 OB のその後の転職状況を追跡調査することはできないか。
・ 中小企業に対する技術協力は重要である。指導員コストを自社のみで負担できない中小企業の
規模を調査結果から見極める必要があるだろう。また、転職の際にどのような規模の企業を選
ぶかについても留意する必要がある。仮に、大企業から中小企業に転職する労働者が多い場合
には、大企業に対して技術指導援助を行うことが結果として日本全体にとって裨益があるとい
うことができないだろうか。
・ 現地下請け企業に対する研修等の支援ついても、同様のロジックが適用できる。日系企業と取
引のある現地企業を日系企業の一部とみなして考えれば良い。現地企業の生産性向上が、部品
の納入先の日系企業の利益につながるはず。
・ 日本語研修や日系企業向けに特に重要な技術を研修内容として選ぶことにより、技術指導を受
けた人材が日系企業以外に流出することを防ぐことができる。ただし、「途上国においてもグ
ローバル化が進展する中で、日本語研修に指導ニーズがあるか」、「技術指導分野としては
Firm-specific ではない General Skill が望ましいとする議論がある中で、日系企業独自の技術を指
導することが受入れられるか」等の問題はある。
・ 人材育成することが日本の国益に合致するか否かを実証する場合、指導分野や派遣地域に留意
して調査対象を設定する必要がある。
・ 中核拠点構想に含まれるチェンナイ、ハノイ等で技術指導援助を重点的に実施することが、日
本経済に対する裨益を大きくすることにつながると思われる。これは、研修を実施した労働者
が転職した先も日系企業になる可能性が高まるためである。
・ 所得移転・公平性の観点から政策の正当性を立証しようとすると、それは「援助」であるから
外務省でやってください、というのが仕分けの議論であった。経済産業省としては、日本企
業・日本経済全体に裨益することを説明する必要がある。
(2)淑徳大学大学院 国際経営・文化研究科 五味紀男 講師
<中小企業の国際展開の現状>

これまでの中小企業による海外進出は、①大企業との連携クラスター内海外進出(自動車産
業)、②独自技術で国内生産し輸出(痛くない注射針等、ニッチ産業)、③海外企業との連
71
携・合弁、④市場を求めて海外へ進出(中国に進出し多くの企業が失敗したパターン)に分類
できる。地理的な拡大の傾向としては、BRICS、VISTA 等である。

また現状では、中小製造業の中でも金属加工業者の進出が非常に多い。これは、NC 装置を使
えば比較的容易なローテク産業であるから。最近では、コンベア昇降装置のメーカーや印刷包
装業等、より付加価値の部分を担う企業が進出し始めている。

①大企業との連携クラスター内のパターンは、自動車部品関連が一巡し、電機関連もピークア
ウトしている。電機関連は Tier 3 くらいからは現地企業であり、大企業が海外に生産拠点を作
っても自動車産業ほどは中小企業の海外進出を促進しなかった。
<今後の技術協力の方向性について>

中小企業を対象とした技術協力の今後の方向性については、ないまぜになっており明確なメッ
セージがないことが一番の問題ではないか。企業の海外展開についての調査は、成功事例が数
多くある一方で全体的な方向性や絵が描かれていない。ファイナンスツール以外の像が見えづ
らい。

ただし、特に中小企業の場合は問題が個々の企業によって異なっており、共通した問題点を抽
出しようとすると、資金回収等の話になってしまう。したがって、約 50 万社あると考えられ
る中小製造業をセグメント分析し海外に出ていけるのはそのうち何社なのかを分かった上で、
どのセグメントに重点的に技術協力を行うか、対象となる各セグメントにどのような支援を行
うかを考える必要がある。

支援の例としては、従来型の技術協力に加えて、日本企業が作った規格をグローバル標準とす
るのを後押しするようなものや、アマゾンやアップルのようにビジネスのアーキテクチャを作
るものも考えられる。

さらに、途上国に市場を求めて進出する場合には、現地に最適なマルチ・ドメスティックな製
品の開発ができるよう技術支援を行うことも重要であると考えられる。

また、中国がやっているような、自国だけに裨益するような援助のあり方は支持されない点も
留意すべき。
<その他>

日本経済の将来を考えると、中小企業のみならず大企業についても日本政府は海外展開を後押
しすべきでは。これには技術協力だけでなく、税制の改正等、海外で稼得した利益を日本に移
転し国内にも再投資するための利益の還元システムを、諸外国並みに改善することも含まれる。

海外で利益を得るためには、日本企業のみを現地経済から分離させずに活動した方が良い。

インドにどのように展開していけるかについては、未知数の部分が大きいため、政府としての
方向性を打ち出すことが重要である。
72
(3)戸堂康之 東京大学教授
(海外展開と雇用)
・ 多数の日本企業に対してヒアリングをしてきたが、海外に工場を移したことからといって、必
ずしも首切りをしている企業ばかりではない。実際には、雇用を維持し、あるいは伸ばしてい
るところが多い。
・ むしろ、海外展開をしなければじり貧になるところを、海外展開することによって、日本の雇
用を守るというケースが多いとみる。当然、海外展開に際して、配置転換をして日本の国内の
生産性を上げようとする動きは伴うが。
・ 海外展開しなかったことによる雇用へのマイナス影響は見えづらいため、一般的な説得力に欠
けてしまうという面があるが、実際は減少を食い止める効果もあるといえる。
・ 私の実証研究は、大きなデータセットを使って、全体として、平均としてどういう状況にある
かを整理している。個々の実態をみれば、成功しているところも失敗しているところもあると
思うが、全体としては海外展開に伴って、雇用は長期的にみて伸びているということである。

経済学の分析によれば、日本企業の海外展開に伴って、「最初に雇用が減るものの、その
後収益が回復に伴い雇用も増加する」という分析もあれば、「雇用が減ることもなく増加
する」という分析もある。使用するデータによって得られる結果は若干異なる。ただし、
長期的にみて減るという分析結果はない。
・ 一般的な日本企業(製造業)の海外展開の姿としては、簡単な工程の製品は海外にシフトする
のだが、重要な部品は日本で生産を続けるというもの。
・ 技術が詰まっている高付加価値の製品というのは生産拠点と開発拠点が近接している必要があ
る。そういう意味では、高付加価値の製品を作っている限りは、日本から雇用は逃げないと思
う。逆に、高付加価値の製品を作れない、人材の質がアジア途上国レベルの企業については、
雇用を守れないというのはあるだろう。こうした企業は淘汰される。
・ 先日、ある金属部品を作っている企業に行って話を聞いてきた。医療機器や航空機の部品など
ニッチのところでやっていた企業で、これまではずっと国内でやってきた。その企業は取引先
の企業の誘いで海外進出セミナーに参加し、その後 JETRO の海外展示会に出品したところ、
そこで出した製品の評価が高く、海外の工場を建てるというところまで話が進んでいった。こ
の企業のケースでは、欧州の顧客に近いところで作るということを判断したとのこと。私は、
73
こうした企業を「臥龍企業」とよんでいる。日本の国内で技術があるにもかかわらず、海外に
出ていくきっかけがないだけの企業はある。こうした企業では、海外に進出しても、国内の雇
用は減らしていない。(国内工場はいわきにあり、震災後操業を停止していたが、現在再稼働
に向けた準備が進んでいる)

面談していて、その企業の方から聞いた印象的な言葉は、「どういう山に登ればよいのか
がわからないのだ」という言葉。登れる山が分かれば、そこを攻めるということだ。
(政策)
・ 海外展開が進まない理由は、情報が行きわたっていないということ。企業の中には Web にアク
セスすることはあまりしないため、情報を知らないものの、技術力が世界レベルの企業はある。
「Web にアクセスして海外の情報をとらないからダメな企業である」いうことではないと思う。
・ 中小企業等の海外展開については、情報が最も大きな壁だと感じている。実際のところ、資金
制約や人材の制約はあまり大きな課題ではないのではないかと思う。多くの中小企業は、大手
の下請けをやっていれば、日々食べていけるという感覚になっている。そういうところには、
必要な情報を流せば外に出ていくのだと思う。

金融政策の問題は、ばらまきになってしまい、いい企業にも悪い企業にもカネを流してし
まうところ。
・ むしろ、JETRO の海外展示会等の方が、本気の企業しか来ないので良いと思う。そうしたとこ
ろに出てきた企業を支援した方が、カネはかからないし、効果的だと感じている。
・ ちなみに、前述の企業は、海外の展示会に製品を出品する段階では、英語を話せる人材はいな
かった。その後、海外に機会があるということが判明し、そこから英語のできる人材や中国人
の留学生等を採用して動き出した。
・ 人材育成については、日本語も現地語もできる外国人留学生を雇うというのはきっかけになる
と思う。
・ なお、日本人の人材が育成されていないという点については、大学の責任も大きい。最近、秋
田にある国際教養大学が、開学来、数年で、入試のランキングで東大・京大に続く存在となり、
注目されている。そこは、学生に在学中に留学 1 年を義務化していることや、基本的に英語で
授業しているところがポイント。企業側が卒業生を即戦力としてみなしている。また、この大
学は、教員の質も高い。日本の大学は組織がフラットなので、特に文系(理系は少し違うが)
は競争がなく、教員の質に問題がある。しかし、国際教養大学は、学長がリーダーシップをと
74
って教員も競争環境下にある。終身雇用でもない。
・ なお、日本人の若者の海外に行く意欲が落ちているというのはウソ。2005 年以降、確かに留学
生は減っているが、それでも 1990 年代のレベルよりは高い。
(震災と空洞化と産業集積)
・ 私自身、空洞化を懸念していない。どんどん海外展開をすればするほど日本が強くなるという
見方。震災、円高の影響で海外に出ようとする企業が増えているわけだが、もっと出て行った
方が良いと思う。円高を利用して、資産を買うべきだ。むしろ恐れるべきは、円の暴落ではな
いだろうか。
・ 良い海外進出と悪い海外進出を区別する方もおられるが、私は、出られる企業は、どんどん出
ていくべきだと思う。特に東北地方の企業は海外展開が進んでいないが、もっと出ていくべき
だ。東北地方の企業の問題は国際化が全く進んでいないこと。
・ 日本企業がフルセットで出て行って空洞化が生じるというケースがあるという話はあまり信じ
られない。基本的に、日本に人材がいる限り日本に残せるものはあると思う。基本的には外に
出すものは出し、中に残せるものは残すということで良いのではないか。
・ 日本の地図を逆さにしてみると、自動車産業が集積している九州はアジアに近い。同じように
東北にも自動車が集まりつつあるが、必ずしもうまくいっていない。東北は逆さ地図を見ると
アジアの縁にある。地理的な近接性は産業の発展に影響しているかもしれない。なお、各地方
が同じような特性をもって、同じような発展をしていくということはないと思う。地理的な状
況(強み)を反映して、それぞれ発展の仕方が違うと思う。
・ 日本で産業集積を人為的に作るという政策があるが、海外で作るという話も同様で意味はある
と思う。広く立地、その地の人材育成に対して補助金を出すというのは、政府の政策として正
当性がある。海外展開にあたって、壁があって出ていけないというのであれば、そうした企業
をまとめて出すことは意義があると思う。ODA の活用が可能。
(製造業と非製造業)
・ サービス産業のグローバル化は遅れている。もちろん、美容院や物流など最近は出ていく動き
もあるが、製造業と比べれば遅い。ニーズはあると思う。ただし、製造業と違って、製品を持
75
っていくというのではなく、システムの構築が必要になる。例えば、クロネコヤマトなどが好
例。そもそも製造業ほど簡単ではない。なお、臥龍企業の中に非製造業は少ない。そもそも、
非製造業は参入障壁があり、海外に出ていくインセンティブもない。
・ 製造業の場合、海外展開については、輸出か海外直接投資(FDI)という二つの選択肢がある。
しかし、非製造業の場合は、輸出という選択肢がないので、必然的に「海外展開=海外直接投
資」となる。輸出と比べて、海外直接投資のほうがより難しいので、非製造業の海外展開のほ
うがハードルは高いと言える。また、海外投資に二の足を踏む企業は臥龍企業とはいえないの
ではないか。私が考える臥龍企業とは、行きたくても行けないというよりは、やれること(海
外で通用すること)が分かっていないという企業。
(援助の効果)
・ 援助の先兵効果1という考え方を著書の中で記載しているが、技術協力によって、日本企業が集
まりやすい環境を作るというのは政府の役割。この点で、私は日本の技術協力はもっと評価さ
れてしかるべきだと思う。技術協力によって、地元の企業のレベルも上がり、日本企業も進出
しやすくなる。経済学的には、「規模の経済性」を働かせるために、初期投資を政府が実施し
て民間企業の進出コストを下げるということだ。なお、技能検定などを普及させて、日本企業
が入りやすくするということも効果があると思う。
・ 日本にとっての援助は重要な外交上の手段。自分自身いくつかの研究をやって、効果があると
結論付けている。私自身は、現在の技術協力をずっと続けていただきたいと思う。例えばタイ
の自動車などは成功例だが、こうしたものを他にも展開していくべきだと思う。
・ 個人的には、アフリカ等にこれまでのやり方を展開していくことが必要だと思う。私自身は、
エチオピアの研究をやっているが、ポテンシャルは高いと思う。その可能性を中国や韓国に持
っていかれるのは、どうかと思う。中国は、援助を使ってエチオピアに食い込んでいる。政権
(独裁)も、中国を目標としている。
・ アフリカに関しては、JICA ボランティア等は現地で仕事をすることを通じて多くの情報を持っ
1
「日本の援助に先兵効果があるのは、援助をすることによって普通では手に入りにくい途上国の情報が日本に入
り、企業にとっての投資の障壁が下がるからではないかと考えられる。一方で、途上国の教育レベルや金融機関の
普及度が十分に高いような場合には、直接投資によって途上国の経済成長が促進されるという実証研究の結果も得
られている。」(戸堂 2011)
76
ている。そういった情報を集約できれば何らかの事業を立ち上げられるという意味で、本来は
協力隊等による先兵効果が期待される。協力隊 OB も含めて、このような現地の事情に精通し
た人材を、もっと先兵隊として活用できたら良いと思うのだが、現状はなかなかうまくいって
いない。
・ アフリカについては、実際よりもハードルが高く見えていると思うが、これはまさに情報がな
いことが原因となっていると言えよう。
・ 援助の効果をはかるのは難しい。特にアフリカの場合は、外交の効果が大きいと考えるが、そ
れをどう評価するかは難しい。国民に対して外交の効果も含めて示し、納得してもらう必要が
あると思うが、その方法がない。東大の澤田先生が、日本の援助を多く受けている国は、国連
で日本と同じような投票行動をするという研究をされているが、その効果を金額で評価しろと
なると、それは困難だ。
77
4 技術協力施策の成果レビューと施策の目標値の設定
4.1
技術協力施策の成果レビュー
本項では、経済産業省が関与する技術協力政策に関し、主要なものについて取り上げて、事業の
概要についてレビューをする。
具体的には、技術協力政策のうち、経済協力の推進のために実施される「制度インフラの構築支
援」、「産業人材育成の取組強化」等と、中小企業事業環境の整備を目的として行われる「国際展
開の支援」について整理する。
Ⅰ.制度インフラの構築支援
1.海外開発計画調査
(1)事業目的
・ 経済産業省の施策分野である鉱物資源獲得に向けた資源外交や EPA 交渉などの戦略的な外交
ツールとして活用されるとともに、我が国の先進的な環境に配慮したエネルギー技術等の協力
を通じて開発途上国の経済発展に貢献することを目的とする。
(2)事業概要/実績
・ 25 ヵ国において、(独)国際協力機構(JICA)及び JICA が委託する民間企業等 21 社によ
り、40 件のプロジェクトを実施。主に、マスタープランの策定とフィージビリティ・スタデ
ィを行う。
① マスタープランの策定
日本国政府が開発途上国からの要請等を受けて、要請国の国造りに必要なセクター・地域等
における最も経済的で効果の高い総合的な開発計画(マスタープラン)の策定を支援するとと
もに政策提言を行う。
78
【具体的事例】
ベトナム国「電力セクターマスタープラン調査」(平成17年5月~平成18年6月)
本調査において、ベトナム国の2006年から2015年までの「第6次電力開発計画」策
定を支援。同開発計画に基づき、ニョンチャック2発電所(天然ガスコンバインドサ
イクル発電所)のIPP事業にJPOWERが参画(ペトロベトナムパワー筆頭株主、権益
5%獲得)。
② フィージビリティ・スタディ
具体的な個別プロジェクトの実現可能性について、詳細技術、コスト、組織、運営管理等の
各側面から分析(フィージビリティ・スタディ)を行う。
(3)事業評価結果の概要
・ 開発調査結果の活用度(事業化を含む): 平成20年度 82.4%
・ 当該国、分野の課題を包括的にとらえ、無償資金協力、円借款事業、技術協力プロジェクトか
ら専門家、青年海外協力隊の派遣に至るまで種々のODAスキームの特徴と強みを勘案した我
が国支援戦略・計画を提案するなど、その戦略的な意義は大きい。
・ マスタープラン調査には、「正論を主張すること(こうあるべきだ)」と「最初に実施すべき
優先度の高いアクションを見出すこと」の2つの役割がある。この両方の役割を持つマスター
プラン策定を支援するスキームは、世界の援助機関にはないものであるので、JICAのマスタ
ープラン調査は、重要な意味を持つ。
(以上 H22年度評価書より)
2.貿易投資円滑化支援事業
(JODC、AOTSが実施)
(1)事業目的
・ 日本の経済発展の基盤となった経済・社会システムや我が国が有する技術・ノウハウ等の育
成・共有を促進させる研修、専門家派遣、実証事業を実施することにより、開発途上国におけ
る貿易・投資活性化のための環境整備を行い、経済発展を阻害している産業構造、経済制度、
さらには低所得者層の社会的課題の整備・解決・改善を図る。それにより日本と共通した産業
79
基盤整備が進み、ひいては現地と貿易等取引を行う日本産業界への裨益にも繋がる事も目的と
する。
(2)事業概要/実績
① 研修事業(AOTS)
11ヶ国の992名に対し研修を実施した。
【具体的事例】
ASEAN化学産業における環境対策に関する研修では、GHS(化学物質の有害性の
分類基準を国際的に統一し、その分類に応じて国際的に調和された表示を化学物質に
付す制度)の重要性や法制度、分類基準やラベルといった基礎的事項の紹介から、ビ
ジネスの場で使用される実際の化学品等混合物の分類の実習、GHS実施上の技術的課
題等について、受講者の知識に応じて初級~上級にランク分けした上で、計89人に研
修を実施した。特に上級・指導員クラス向けの研修では、GHS制度整備の実施や、教
育・普及活動をできる人材を育成することにより、各国におけるGHS制度の効果的な
実施に繋げている。
② 専門家派遣事業 (JODC)
9ヶ国に対し延べ243名の専門家を派遣。
【具体的事例】
インドネシア環境基準遵守・改善協力案件では、西ジャワ州における公害防止管理者
制度の試験制度立ちあげを目的とした指導をし、平成17,18年度に公害防止管理者パ
イロット試験の実施が成功し、それぞれ53名、79名の合格者を輩出。この結果を受け
て本格的な公害防止管理者試験制度へ移行すべく、西ジャワ州では義務化条例が制定
され、同試験制度構築が達成された。
③
実証事業 (AOTS、TRI)
8ヶ国を対象に6件の実証事業を実施。
80
【具体的事例】
平成19年度、カンボジア王国のITセキュリティ基盤構築に関する実証実験では、立ち
後れた通信インフラ環境においても、ITセキュリティを構築することにより、従来の
紙による公文書の伝達に比べ業務上の多くの改善が見込まれることを実証した。セキ
ュアチップを内蔵したICカードによる施設内外への入出管理に対しても必要性が十分
認められ、早期の導入希望が判明した。閣僚、政府高官など約500名超が出席したセ
ミナーでは、副首相自ら展示機器を操作され本事業に対する関心の強さを示し、セミ
ナー後に早速セキュリティプロジェクトの責任者が任命されるなど大きな成果を得
た。
(4)事業評価結果の概要
① 研修事業
平成21年度に実施した研修について、研修生からの評価は、総合満足度が受入研修では「大
変良い」または「良い」が94.0%、海外研修では、「大変高い」、「かなり高い」または「ど
ちらかといえば高い」が89.0%であり、研修生の高い満足度がうかがえる。
② 専門家派遣事業
(ベトナムGAP政策対話における先方政府関係者発言、平成21年5月)
日本の専門家も一緒に工業団地の産業廃棄物調査に入り、非常にわかりやすく有益だった。
コンピュータによるデータ管理は新しい内容だった。ベトナム関係機関は日本の管理方法を
更に勉強したいので継続的に協力をお願いしたい。
③ 実証事業
平成20年度に実施した「中国大連における工場インフラ設備のインバータ適用による省エネ推
進のための実証事業」について、ユーザーから、「中国における環境保護・省エネへの投資拡
大が見込まれ、その具体性、即効性が要望される中で、こうした実証事業の取り組みは現地ニ
ーズにあっており、今後も重点的に実施するべきである。」との評価を得ている。
3.アジア産業基盤強化等事業
(1)事業目的
・ 我が国経済にもメリットをもたらすアジア諸国を中心とした開発途上国の貿易投資環境整備等
81
を戦略的に進めていくための調査・評価事業を行い、政策立案(制度構築支援、人材育成支援
事業等)に当該調査結果を反映させることを目的とする。
(2)事業概要/実績
・ 9件実施したうちその結果が22年度政策実施において4件活用されており、割合にして約4割が
活用されている。
・ 開発途上国における貿易投資環境の整備に係る政策立案・制度構築支援、人材育成支援等施策
を立案する際や、様々な技術協力ツール(※)を効果的に活用していく際に、当該調査結果が
活用されるとともに、調査に係る相手国に対して啓蒙活動や調査結果に基づく提言活動を行う
ことで相手国の政策立案に活用される割合が80%になることを目標としている。
※海外開発計画調査委託費、貿易投資円滑化支援事業(専門家派遣事業・研修事業・実証実験
事業)、経済産業人材育成支援研修事業、経済産業人材育成支援専門家派遣事業、研究協力推
進事業
(3)事業評価結果の概要
・ 技術協力ツールを利用して実施した制度構築事業において、その後の制度運営状況につき調査
したケースでは、調査結果を踏まえ、政策対話を通じて制度の運用改善方法を相手国に提言し
た。相手国政府からは提言に対する謝意が表明され、また、その後の自立的な制度運用に関す
る決意が表明されるなど、本事業の調査結果は有効に活用されている。
具体的には、平成18年度に実施した「CLM地域における天然ゴム加工品の標準化・流通拡
大可能性調査」は、カンボジアにおけるゴム加工業の高度化にむけた提言がなされ、カンボジ
ア商業大臣から高く評価されている。
Ⅱ.産業人材育成の取組強化
経済産業人材育成支援研修事業
<成果目標>
途上国の、日本の生産技術協力、インフラ・システムに対する期待は高く、生産現場の技術力向
上に直接貢献する本研修事業は、こうした期待に応え、日本の技術に加え企業文化を理解する真の
親日的な産業人材、将来のリーダーを育てるもの。研修で育った人材が、途上国の経済的な自立発
82
展の基礎となる人材となり、また、将来、日本と経済産業面をはじめ幅広い分野で、日本との友好
関係を築く人材を育成し、こうした人材・人脈を構築し途上国と日本の共存共栄の礎を築いていく
ことを目的とする。また、民間企業による各国の産業人材育成を行うことにより、途上国のみなら
ず日本の産業発展にも寄与する人材を育成することを目標とする。
具体的には、研修生の総合満足度及び受け入れ企業各社の研修目標達成度について80%以上とす
る。
<成果指標>
年度実績
成果指標名
受入研修総合満足度
受入企業各社の研修目標達成度
19 年度
20 年度
21 年度
96.6%
97.2%
95.4%
90.6%
96.8%
92.0%
4.産業技術者育成支援研修事業(AOTS 実施)
(1)事業目的
・ 開発途上国の経済発展を支える産業人材の育成を目的に、民間企業の海外展開において生まれ
る技術移転を円滑に行うための人材育成ニーズに着目し、研修事業を通じて開発途上国の産業
人材の育成を図るもの
(2)事業概要/実績
① 受入研修
a. 技術研修(一般研修+実地研修):
・製造技術等の固有技術の習得
・国別内訳(H21 年度)
国名
中国
タイ
ベトナム
インド
インドネシア
フィリピン
一般研修
29%
20%
14%
12%
9%
6%
実地研修
29%
19%
14%
8%
11%
6%
b. 管理研修:
83
・企業経営や工場管理に必要な各州管理技術の習得
・国別内訳(H21 年度)
国名
タイ
インド
中国
ベトナム
バングラデシュ
フィリピン
インドネシア
管理研修
17%
15%
13%
10%
7%
6%
6%
② 海外研修
AOTS 企画型:
・AOTS が 8 カ国で企画・実施する 2~5 日の短期集中型研修
・国別内訳(H21 年度)
国名
インド
インドネシア
タイ
ベトナム
フィリピン
マレーシア
管理研修
26%
15%
11%
11%
10%
9%
案件募集型:
・企業・団体等の協力機関による研修計画を募って実施する研修
・国別内訳(H21 年度)
国名
バングラデシュ
タイ
インド
中国
インドネシア
ベトナム
管理研修
19%
14%
13%
13%
11%
8%
(3)評価手法の概要
・ 2002 年度より、①評価結果を公開し公益法人として説明責任を果たすこと、②研修事業の効
84
果・効率性を高めるために必要な情報を収集することという 2 つの目的のもと、「AOTS 研修
事業評価システム」を導入、翌年度から運用開始。
<評価項目と評価指標>
(A)研修効果
(B)自立発展性
(C)友好関係
(D)研修環境
(E)効率性
(F)妥当性
(1)満足度
(2)目標達成度
(3)行動変容度
(4)業績向上度
(5)部署内での伝達
(6)部署内での活用
(7)部署の業績向上
(8)自社の業績向上
(9)他企業への波及
(10)日本との友好関係
(11)第三国との友好関係
(12)自国への働きかけ
(13)ソフト面
(14)ハード面
(15)研修ニーズの発現から研修開始までの時間
(16)研修実施のための時間
(17)研修成果を得るための費用
(18)費用対効果
(19)総費用とミッションの達成度
(20)研修内容の研修目的に対する合致度合い
(21)研修生の資質の適切性
(22)実施者側の研修目的と受益者側の研修ニーズの関係
(23)研修結果と研修目的の関係
(24)各事業の目的と結果の関係
85
<評価対象と評価分類>
事前 中間 直後 事
評価 評価 評価 後
評
価
対象
一般研修
技
受
(日本語研修)
入 修術
研 実地研修
研
修
管理研修
協会企画型
外
研
海
案件募集型
修
◎:全件実施
◎
◎
◎
○
◎
○
◎
○
◎
◎
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
○:サンプリング実施
<評価時期・評価内容・評価者>
評価分類
/評価時期
事前評価
研修開始前・開始時
中間評価
研修中
直後評価
研修終了時
事後評価
研修終了後
評価内容
評価者
案件審査
研修生の初期能力の測定
モニタリング(研修の進行確
認、意見交換会等)
研修生の目標達成度・満足度
評価、研修環境評価
研修成果の発現度合い、自立
発展性、友好関係、効率性、
妥当性等に関する評価
審査委員会
研修生
AOTS
研修生、受入企
業、協力機関
研修生、研修生
派遣企業等
(4)事業評価結果の概要
<受入研修>
a. 技術研修:
・一般研修の目標達成度の達成率は 92%、総合満足度の達成率は 98%と高評価。
・一般研修→実地研修への円滑な移行ができている(連携が取れている)という評価が多い。
・受入企業の満足度は 7 割程度と相対的に低い。
86
b. 管理研修:
・研修生の目標達成率は 91%、総合満足度達成率は 96%。
<海外研修>
企画型:
・総合満足度達成率は 90%
・目標値に達しない研修生が 3 割を超えるコースが 2 コースあった
案件募集型:
・総合満足度達成率は 93%
5. 産業人材裾野拡大支援事業(JODC 実施)
(1)事業目的
・ タイ、ベトナムにおいて日本や日本企業への関心・興味を喚起するための講座を大学に開設す
るとともに、現地日系企業における日本企業体験、日系企業による就職のための企業 PR、ジ
ョブフェアなどを実施することにより、日系企業への就職を希望する人材の裾野拡大を図るも
の
(2)事業概要/実績
<タイ>
7 つの大学で実施し、合計約 900 人の大学生が本事業に参加。
<ベトナム>
4 つの大学で実施し、合計約 250 人の大学生が本事業に参加。
(4)事業評価結果の概要
・ 現地高等教育機関等に対するアンケート結果によると、「本事業の講義内容は興味が湧く」と
回答したのは 100%と高い評価を得た。また、日系企業に対するアンケート結果によると、
「大学に日本的なものづくりの講義を実施した場合、学生や企業双方にとって有効」と回答し
たタイの日系企業は 95%。ベトナムの日系企業は 88%と本事業に対する有効性が確認された。
87
事業名:経済産業人材育成支援専門家派遣事業
<成果目標>
経済のグローバル化が進展する中で、それに対応すべく開発途上国の製造技術、インフラ・システ
ム等の人材育成支援を通じて、安定的成長及び環境改善を支援するとともに、我が国にも還元され
るような相互利益となることを目標とする。
具体的には、事業の妥当性、有効性、効率性、波及性、自立発展性について、それぞれ 80%以上
を目指す。
<成果指標>
年度実績
成果指標名
事業の妥当性(ODA の事業目的に合致)
事業の有効性(技術向上目的の達成度 60%
以上)
事業の効率性(専門家が専門知識・技術活
用について「活かされた」と評価)
事業の波及性(業務改善や受入国への社会
貢献といった間接的な効果をもたらす可能
性が期待できる)
事業の自立発展性(受入企業又は付加指導
先の自立発展可能性)
19 年度
20 年度
100%
専門家
100%
受入企業
97%
100%
専門家
94%
受入企業
96%
100%
100%
96%
99%
97%
99%
88
6. 経済産業人材育成支援専門家派遣事業(JODC 実施)
(1)事業目的
・ 産業界で培われた優秀な技術や知見を持つ専門家を派遣することにより、開発途上国の民間企
業の製造現場や現地教育機関等における産業人材育成・技術移転を通じ、当該国の経済発展に
寄与することを目的とするもの
(2)事業概要/実績
<ODA 型(産業技術等向上支援専門家派遣事業)>
・専門家派遣実績(帰国者ベース)164 件
・国別派遣実績(H21 年度)
国名
タイ
中国
フィリピン
インドネシア
ベトナム
件数
54
25
23
21
14
割合
33%
15%
14%
13%
9%
・業種別内訳(H21 年度)
業種
一般機械
金属
電気・電子
情報サービス
繊維
プラスチック
件数
31
17
15
14
11
11
割合
19%
10%
9%
9%
7%
7%
・受入企業の資本構成(H21 年度)
資本
日本資本 = 100%
日本資本 ≥ 50% , < 100%
日本資本 < 50%
ローカル資本
割合
48%
27%
8%
17%
・日系受入企業における協力企業の規模(H21 年度) 中小企業 68% 大企業 32%
・受入企業における階層別指導人数(H21 年度) ワーカークラス 74% マネージャー・リーダークラス 26%
89
※ 付加指導(受入企業と取引関係等にある現地企業等への指導・助言)については省略して
いる。
(3)評価手法の概要
・ 1999 年に評価システムの構築に着手し、評価基準の確立、様式の策定・改善などを経て、
2008 年に「評価委員会」を設置。DAC5 項目に準拠。
<評価基準>
評価基準
妥当性
有効性
効率性
波及性
(インパクト)
自立発展性
内容
 事業の目的に沿うものであったか。
 専門家派遣の目標は受け入れ企業・協力企業のニーズに合致して
いたか
 専門家の専門知識・技術は課題解決のために適切であったか。
 専門家派遣による効果・成果はあったか。
 技術向上目標及び人材育成目標は達成されたか。
 資源(時間や専門家の専門知識・技術)は効率的に活用されたか。
 受入企業における指導環境は良好であったか。
 専門家派遣の間接的効果あるいは波及的効果は期待できるか。
 専門家派遣終了後も指導の効果が持続すると期待できるか。
 受入企業は指導内容を自立発展させる可能性があるか。
<評価時期・評価内容・評価者>
評価分類
/評価時期
事前評価
中間評価
専門家派遣期間中
事後評価
評価内容
評価者
資格要件審査・案件審
査
審査委員会への諮問
達成状況の評価、最終
目標の調整
妥当性、有効性、効率
性、波及性、自立発展
性
90
JODC
審査委員会
専門家、受入企業
専門家、受入企業、協
力企業、JODC
(4)事業評価結果の概要
<ODA 型(産業技術等向上支援専門家派遣事業)>
① 妥当性
・事業目的との整合性
- ODA 事業目的、受入企業のニーズ、協力企業のニーズともに、かなり合致する(第 4 段
階以上)が 9 割を超えている。
ODA 事業目的
受入企業のニーズ
協力企業のニーズ
5 段階評価のうち
5
4
3
6%
87%
7%
29%
67%
4%
17%
77%
6%
(5: = 非常に合致、4: かなり合致、3: 一応合致)
- 専門家の知識・技術の適合性についても、かなり適切であったが 9 割を超える。
② 有効性
・目標達成度
- 技術向上目標および人材育成目標の達成度について、ほぼ全ての専門家・JODC が、
実行目標の「60%以上」がほぼ達成された(第 3 段階以上)としている。
- 指導目標(協力企業から見た専門家派遣目標)の達成度についても、ほぼ全ての協力企
業が、実行目標の「60%以上」が達成された(第 3 段階以上)としている。
5 段階評価のうち
5
4
3
技術向上目標:
・専門家の評価
・受入企業の評価
人材育成目標:
・専門家の評価
・受入企業の評価
指導目標:
・協力企業の評価
22%
25%
51%
50%
25%
23%
18%
18%
50%
55%
28%
22%
10%
61%
25%
(5: = 100%、4: 100%>, ≥80%、3: 80%>, ≥60%)
・専門家派遣の効果
-
ほぼ全ての専門家・受入企業・協力企業が、効果があった(第 3 段階以上)としている。
91
5
23%
44%
30%
専門家の評価
受入企業の評価
協力企業の評価
5 段階評価のうち
4
3
54%
22%
48%
8%
57%
11%
(5: = 十分に効果あった、4: かなり効果あった、3: 一応効果あった)
③ 効率性
・専門家の派遣期間
- 専門家・JODC ともに、「適当であった」と「やや短かった」が 80%程度としている。
やや
短い
56%
45%
適当
専門家の評価
JODC の評価
24%
42%
短い
長い
18
12%
2%
1%
④ インパクト
・受入企業における波及的効果(上位 5 つ)
1
2
3
4
5
受入企業の評価
従業員勤労意欲の向上
顧客満足度の向上
コスト低減
日本式経営への理解向上
売上増加
専門家の評価
顧客満足度の向上
コスト低減
従業員勤労意欲の向上
日本式経営への理解向上
派遣国への社会貢献
92
・協力企業にとっての波及的効果(上位 5 つ)
1
2
3
4
5
受入企業の評価
受入企業との関係強化
コスト低減
顧客満足度の向上
受入企業の日本式経営への理解向上
技術移転のスピードアップ
⑤ 自立発展性
・受入企業の自立発展性
- 専門家・JODC ともに、ほぼ全ての案件で「自立発展性の可能性がある」としている。
専門家の評価
JODC の評価
十分
ある
36%
8%
かなり
ある
51%
63%
一応
ある
12%
28%
7.研究協力事業費
(1)事業目的
・ 開発途上国だけでは解決が困難な途上国固有の技術開発課題を、我が国民間企業等が途上国民
間企業等と共同で解決することを通じて、開発途上国の自立的発展に不可欠な研究開発能力を
向上させることを目的とする。
(2)事業概要/実績
・ アジア 7 ヶ国において我が国民間企業等と途上国民間企業との研究協力事業を 15 件実施。
(3)事業評価結果の概要
・ 技術系人材の育成を通じて開発途上国の自立的発展に不可欠となる研究開発能力の向上を図る
という本研究協力事業の目的に対して、一定の効果が得られている。
指標
相手国能力向上への貢献度
H20 年度
83.3%
93
指標
研究継続度
実用化達成度
H20 年度
83.3%
0%
【有識者の評価】
当該研究事業は、「研究成果の実用化」及び「アジア各国の研究開発に係る能力向上に対す
る貢献」といった観点からも有効に機能していることが認められる。(平成 20 年 1 月、
NEDO 外部審査委員会「中間評価報告書」より抜粋)
【ユーザーのニーズ】
これまでも高い公募倍率で推移してきたところ、今年度(平成 22 年度)の公募倍率は約 10
倍であり、当該事業のニーズは引き続き高い。
8.アジア生産性向上事業
(1)事業目的
・ アジア地域の生産性向上を推進するため、アジア生産性機構(APO)を通じ国際研修、専門
家派遣、視察団受入等を行う。また、18 年度からはアフリカの生産性向上に対する支援を拡
充。
(2)事業概要/実績
・ アジア生産性向上事業(H21 年度)
・生産性視察団の受入れ 6 回(参加者は延べ 57 ヶ国、延べ 112 人)
・生産性研修の実施 3 回(参加者は延べ 43 ヶ国、延べ 55 人)
・日本人専門家の派遣 11 回(4 ヶ国、延べ 11 人)
・ アフリカ生産性向上事業(H21 年度)
・訪日視察団・研修 1 回(4 ヶ国、12 人)
・専門家派遣 3 回(5 ヶ国、延べ 8 人)
(3)事業評価結果の概要
・ 研修全体の満足度、アクションプラン作成予定者の割合、研修成果の組織内共有活動を実施し
94
た割合がそれぞれ 80%以上達成する事を目標としており、21 年度においてはほぼ達成できて
いるため、有効的に活用されていると言える。
指標
研修全体の満足度
経営改善のためのアクションプランを作成
研修成果の組織内共有活動の実施
H21 年度
100%
86%
70%
・ 日本主催プロジェクト参加者の満足度は高く、毎年開催されるAPO理事会とAPO各国生産
性機関代表者会議の場でも参加者からAPOの果たしている役割に賛辞が表明され、日本のリ
ーダーシップに大きな期待が寄せられている。
9.国際連合工業開発機関拠出金
(1)事業目的
・ 国際連合工業開発機関(UNIDO)が東京事務所を通じて実施する工業開発協力事業に対し必
要な資金を拠出する
(2)事業概要/実績
・ 実施状況(H21 年度):

途上国投資事促進専門官の招へい 8 ヶ国(個別企業面談延べ 158 回)

投資促進セミナーの開催 35 回(参加者延べ 3,461 人)

投資促進アドバイザーの派遣 9 ヶ国
(3)事業評価結果の概要
指標
途上国担当者の満足度
途上国担当者及び面談した日本企業からの満足度
セミナー参加者の満足度
受入れ国の政府投資促進機関等からの満足度
H19 年度
80%
75%
75%
80%
・ 東京 ITPO のサービスを利用した経験のある日本の企業に対するアンケート調査結果(2007
年/6 段階評価)

「ITPO 東京のスタッフの質」は 24 社が最高点の Grade6と評価しており、全社平均で
は 4.65
95

「提供された情報の有効性」については全社平均で 4.58

「ニーズにタイムリーに応えたかどうか」については全社平均で 4.55

その他を含め、ITPO 東京が提供するサービスの質に関わる 9 項目の調査全体では全社平
均で 4.57

「業務上の目的達成に貢献したか否か」については回答者の 86%が Yes と回答し、No と
いう回答はなかった。
Ⅲ 国際展開の支援
10.中小企業国際展開等円滑化推進事業(AOTS 実施 中小企業研修事業)
(1)事業目的
日本の中小企業の取引先等である海外企業の技術者等を対象にした研修を実施することにより、
日本の中小企業の国際化を支援するもの
(2)事業概要/実績
<受入研修>
技術研修(一般研修+実地研修):
・製造技術等の固有技術の習得
・一般研修は 年間 12 コース(6 週間コース 11、9 日間コース 1)、研修生 20 名(中国 7 名、
フィリピン 6 名、タイ 5 名、インドネシア 2 名)
・実地研修は 受入企業 37 社、研修生 81 名(中国 36 名、タイ 15 名、ベトナム 11 名、フィリ
ピン 6 名 等)
<海外研修>
・「現地職員等研修」= 現地従業員を対象、年間 12 コース(ほとんどが 2 日コース)、研修
生 417 名(インドネシア 138 名、中国 124 名、フィリピン 72 名、マレーシア 47 名、タイ 36
名)
・「日本人派遣員等研修」 = 日本人駐在員・指導員を対象、年間 1 コース(1 日コース)、研
修生 25 名(日本 25 名)
96
(3)事業評価結果の概要
<受入研修>
一般研修
・コース実施直後の目標達成度の達成率は 89%
・総合満足度の達成率は 100%
・効果があったと評価した研修生の割合は 94%
・研修生の目標達成度合について、受入企業の 87%が満足と評価
実地研修
・知識・技術の 80%以上を習得した研修生 約 7 割
・受入企業による指導内容・方法等に満足した研修生 約 90%
・受入企業は約 8 割の研修生が実地研修の目的を 70%以上達成したと評価
<海外研修>
・総合満足度の達成率は約 90%
・全てのコースで総合満足度平均が目標値を超えた
・目標値に達しない研修生が 2 割を超えるコースは無し
97
4.2
技術協力政策・施策の成果及び効果の測定について
1.評価の前提
評価活動を実施するには、まず事業の計画段階で、どのような成果が期待されるか又は目標とす
るかを設定することが不可欠である。これは、
・
予算や人員の「投入」によりどのような活動がなされたか
・
その結果どのような成果が生まれたか
・
さらには事業の目標がどの程度達成されたか
という、様々な段階で検討する必要がある。
さらに、事業目標の達成が施策・政策レベルにどのように寄与するのか、ロジック・モデルを構
成して、政策から事業にわたるシナリオ設定、共通の目標を有する事業の相互連携効果、事業群の
全体的な効果と日本企業への裨益などを、検証可能な指標で表しておくことが重要である。
2.評価可能性
政策の方向性に沿って施策が策定され、その施策を具体化した事業が実施されていること、及び
直接的な指標は事業レベルにならないと捉えづらいことから、施策・政策レベルまで評価の対象を
上げて行くには、タイミングとのバランスも考慮する必要があると思料される。
(1)事業レベル
成果・目標の評価可能性(人材育成事業の場合)
タイミング
短期(終了時)
評価レベル
アウトプット中心(例:研修人数、参加者満足
度)
中期(終了 2~3 年後) 成果 1(例:研修参加者生産性向上、企業の評
価)
長期(終了 5 年以上) 成果 2(例:当該産業の成長)
つまり、短期的には比較的入手しやすい指標を設定することが可能であるが、中長期的になると、
指標の設定方法が複雑になる。人材育成事業の場合は、中期的には例えば研修参加者と非参加者間
の比較分析が必要であるとともに、研修参加の有無以外に生産性向上に与えた要因も検討する必要
が生じる。長期的には人材育成事業以外の産業成長要因を織り込む必要がある。
98
(2)施策レベル
一般的かつ最も現実的な方法は、施策の実施手段として共通の目標を有する事業があることから、
各事業の評価結果の総合分析を行うことである。例として、下に JICA におけるプログラム評価の
項目や視点を示した。
上表の評価の視点により得られた結果(シナリオの適切性、妥当性、効率性、有効性、インパク
ト(連携効果を含む)、持続性、日系企業への裨益等)を、例えば「高い・普通・低い」に分けて
点数化すると、数値で効果を把握することが可能となる。
99
(3)政策レベル
施策レベルで検討した数値を、例えば予算割合に応じて施策間に重みづけを行い、技術協力政策
の全体的な成果・効果を算出することが可能であると思われる。例えば、アジア開発銀行では、国
別援助プログラムの評価において、各評価基準に対して 3~0 の 4 段階のレーティングをつけると
ともに、評価基準間の重みづけを行うことにより加重平均評点を算出することにより効果の数値化
を図っている。下表は各セクターごとに評点をつけ、さらに予算割合に応じてセクター間でも重み
づけを行って総合評点を導き出している。技術協力政策の評価においては、下表のセクターを 4.1
に示した各施策に置き換え、評価基準を検討した上で、施策の集合体である政策全体を評価するこ
とが、現実的な観点から可能な方法であると思われる。
評価基準
1. 戦略的位置づけ
2. プログラムの妥当性
3. 効率性
4. 有効性
5. 持続性
6. 開発インパクト
加各
重基
負準
荷の
0.10
0.10
0.20
0.20
0.20
0.20
全評価基準によ る 総合評価 1.00
エネルギー
22%
各セクター/ 主題のパーセンテージ割合
金融
教育
給水及び衛生
11%
11%
11%
輸送
22%
医療
11%
農業及び天然資源
11%
全セクターの総合評価
100%
評価
加重平均評価
評価
加重平均評価
評価
加重平均評価
評価
加重平均評価
評価
加重平均評価
評価
加重平均評価
評価
加重平均評価
評価
加重平均評価
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
2.0
0.30
0.30
0.60
0.60
0.60
0.40
2.80
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
2.0
0.30
0.30
0.60
0.60
0.60
0.40
2.80
2.0
2.3
2.0
1.0
2.0
2.0
0.20
0.23
0.40
0.20
0.40
0.40
1.83
3.0
3.0
2.0
2.0
2.0
2.0
0.30
0.30
0.40
0.40
0.40
0.40
2.20
1.0
1.8
2.0
2.0
1.0
1.0
0.10
0.18
0.40
0.40
0.20
0.20
1.48
2.0
2.3
2.0
2.0
2.0
2.0
0.20
0.23
0.40
0.40
0.40
0.40
2.03
1.0
2.0
1.0
1.0
1.0
1.0
0.10
0.20
0.20
0.20
0.20
0.20
1.10
2.3
2.6
2.3
2.2
2.2
1.8
0.23
0.26
0.47
0.44
0.44
0.36
2.20
100
5
今後の技術協力のあり方について
最後に本章では、国内の文献調査、内外のヒアリングを通じて得た結果を踏まえて、今後の技術
協力のあり方について整理してまとめとする。
⑤ 技術協力の対象
震災、円高の影響から、多くの日本企業が、海外展開を積極化している。こうした中で、製造業
だけでなく、サービス業を含む幅広い業種で、人材育成等の技術協力に対するニーズが強い。 技
術協力も幅広い業種を対象として検討するべきである。
なお、積極的な海外展開の背景には、①新興国市場における中間所得層の拡大(現地消費者の日
本の財・サービスに対するニーズが増加)、②日系製造業の海外生産の拡大に伴い、日本のサービ
スへの需要の拡大などがあげられる。
(1)海外進出意欲の高まり
製造業を対象とした、JBIC のアンケートの結果(2011 年 7 月~9 月回収)によると、海外事業を
強化するとした企業は過去最高(87.2%)となり、中堅・中小企業を含め海外事業の強化姿勢が鮮
明となった。
図
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
中期的(今後3年程度)海外事業展開見通し
「縮小・撤退
する」
82.2
79.2
65.8
82.8
87.2
「現状程度を
維持する」
「強化・拡大
する」
2007 2008 2009 2010 2011
図
中期的(今後3年程度)海外事業展開見通し
(中小企業のみ)
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2007
2008
2009
2010
2011
(出所:国際協力銀行「2011 年度 海外直接投資アンケート結果」)
(2)中間層の拡大
アジアを中心に、新興国で中間層が拡大している。こうした新しい購買層を対象にビジネスを展
開しようとする企業も増えつつある。 例えば、日系企業の関心の高い、中国とインドネシアにつ
いて市場の概要を整理すると以下の通りである。
102
103
(3)サービス業について:流通
このところ、製造業だけではなく、サービス業の海外展開も目立つ。分野としては、幅広い分野
での展開が見られるが、特に小売りの海外展開は目覚ましい。
参考までに、流通各社の海外展開状況をまとめると下記の通り。
企業名
進出先
セブンイレブン
中国:1,732 台湾:4,783 韓国:4,755
ア:1,305 メキシコ:1,286 他
ローソン
中国:700 台湾:2,797 韓国:6,453 タイ:661
米国:8
イオン
中国:28
ン:331
ロッテマート(韓
国)
中国:87 インドネシア:25 ベトナム:2
韓国:1,429
タイ:13
タイ:6,206
マレーシ
ベトナム:10
マレーシア:27
フィリピ
(韓国・ロッテマートの海外展開について)
外食チェーンからは、「ロッテマートが世界中に展開しつつあるが、韓国政府の後押しを得ている
ようだ」との指摘もあった。また、「ロッテマートが展開すると、韓国製品が進出国で売れる」と
いう指摘もある。
この関連で、「日系のスーパー、コンビニエンスチェーンでは、当社の製品を並べてもらいやすい
ので、日本政府が日系の流通企業の進出を後押ししてもらえればありがたい」(食品)として日本
の流通業の展開支援の要望も聞かれている。
(4)サービス業について:全般
以下、小売業だけでなくサービス業全般に対して実施したヒアリング結果のうち、特徴的なポイ
ントを整理した。
104
業種
海外展開に関する見方
小売
「当社では、日本の市場が縮小する中で、これまで出店してこなかっ
た国への進出を急ぐことを今春、決定した。現在、日本、中国、
ASEAN の三本社制。ASEAN では、今後、中間層が拡大することが
期待される一方、外資系小売りの進出が少ない国を狙う。」
梱包
「精密機械等の梱包には、技術が必要。そのため、日本の物流企業か
ら『途上国の工業団地に進出して、当社の梱包技術を活かしてはどう
か』という誘いを受けた。現地の人材育成は、①日本に連れて行く、
②日本からベテランの技術者を連れてくる、のどちらかを検討中」
外食チェーン
「現在の海外売上比率は、15%程度。この比率を将来的には 50%に
まで引き上げることが目標。基本的には、「高品質」、「誠実」とい
う日本ブランドを積極的に打ち出して、展開をはかる方針。これまで
の経験から、日本のブランド力はあると認識。」
美容室
「日本の美容師の技術レベルは世界一。現地の日本人関係者だけでな
く、欧米等の駐在員のニーズも取り込んでいる。他方、日本の国内の
美容師は供給過多。今後、彼らに英語を教育して、海外展開を促すべ
き」
工業団地
「円高に伴って、日本の製造業の海外展開がさらに一段と進み、日系
企業の工業団地に対するニーズが増加している。こうした進出企業に
対するサービスとして、工業団地内に医療サービス設備、日本食レス
トランの開設準備を進めている。」
人材派遣
「特に中小企業は駐在員が 1 人であることが多く、現地語のできる日
本人を現地採用したいという希望が多い。管理職についても、駐在員
から現地採用者に切り替えたいという意向を持つ企業も少なくな
い。」
百貨店
「顧客としては、日本人ではなく現地人をターゲットとしており、特
に富裕層が満足するような質の高いサービスを提供することを強化し
ていく。現地人社員には自分で物事を考えて行動する重要性を教えて
いる」
マスコミ
「海外進出企業が増加する中、確度が高く、分析がなされた全方位的
な情報を提供していくことは、円滑に企業活動を展開していくために
ますます重要になる。」
通信
「1億4千万人という市場規模を魅力として海外進出。データ通信サ
ービスを海外で広めること、第3世代方式で当社方式を採用してもら
うこと、という当社の海外戦略に沿ったものだった。」
105
2.育成すべき人材①:営業人材
現地市場での販売拡大に向けた営業人材育成へのニーズが高まっている。単なる販売ではなく、
現地でのネットワーク構築や、技術・アフターサービスへの理解等のプラスアルファが求められて
いる。
現地向けの製品開発を行うための現地ニーズ把握を行う人材が必要なことが認識されつつある。
(1) 営業人材に対するニーズ
具体的には、ヒアリングを通じて、以下のコメントが聞かれた。

「高級衣料品の需要の高まりに応じて、企画営業ができる人材が必要になる」(衣料品製
造)

「特に現地での営業情報の入手に長けた人材に対するニーズが高い」(自動車関連)

「将来的に、国内と同様に技術屋で販売+メンテナンスの両方ができる人材を育成する必
要がある」(化学)

販売や調達については現地のビジネス慣行に精通し、人脈を持っている必要があり、現地
人材を中途採用するケースが多い。
(2)現地ニーズの把握
新興国を本格的に市場として検討する流れのなか、これまでは日本と同じ仕様の製品を、そのま
ま途上国でも生産することが多かった日系製造業がローカル・フィットを掲げるようになった。そ
して、その土地向けの製品開発のために、対象国に製造拠点がない場合であっても利用者のニーズ
を吸い上げる動きが増えている。
(3)教育方法
こうした人材の教育については、基本的には OJT により実施している。ただし、営業人材の教
育を他地域で行うケースも少なくない。(タイ⇒インド、マレーシア⇒カンボジア等)
106
3.育成すべき人材②:マネジメント人材
マネジメント人材への需要は高いが、定着に課題。国によってはそもそもマネジメント人材の不
足や育成困難などが指摘されている。 マネジメントンについては、ほぼ全ての企業が、現地人材
の登用を通じた「現地化」を進めている。ただし、実際には現地化が思うように進んでいない実態
を吐露する企業もある。

「幹部候補として日本での研修に送り込むかどうかを見極められるまで定着してくれない」
(電気機械)

「せっかく育ててきた幹部候補の社員が最近、辞めていくことが問題。他国での過去の成
功体験にとらわれず、進出先では、常に新しい目で最善の方策を考えていく必要があると改
めて感じている」(食品)
【参考】
バングラデシュでマレーシア企業との合弁で事業展開する日系企業では、マレーシア
的経営より学ぶべき点もあると指摘。この合弁先企業は、年に一度現地幹部を全世界か
ら招集し泊りこみの研修を実施することでマレーシア方式への洗脳と忠誠心を持たせる
ことに成功しているとしている。
日系企業はこのような現地幹部人材のマネジメント訓練を実施していないため日本人
をいつまでも現地に置く必要があるが、マレーシア企業は現地にマレーシア人を置かな
くても十分にマレーシア式に事業をコントロールしているとのこと。
別のベトナムの日系企業では、「日系企業は、英語の欠如から、会社の理念や仕事の
やり方を共通化できないため、結果として現地化が遅れる」との指摘があった。
107
表 「本社-海外子会社」間の調整メカニズムの国際比較
日本企業
欧米企業
本社への経営資源・権限
への集中
3.14
5
2.94
5
本国人駐在員による監
督・監視
3.71
1
2.35
6
本社・子会社の権限の明
文化
3.26
4
3.09
4
業務手順やルールのグロ
ーバルな標準化
2.77
6
3.82
2
現地人幹部への経営理念
の浸透
3.49
2
4.18
1
本社と現地人幹部との個
人的信頼関係
3.46
3
3.82
2
(資料)古沢 昌之「グローバル人益資源管理論」(白桃書房、2008 年)、p165 より
(注)5 点=大変重視、3 点=どちらともいえない、1 点=全く重視せず、として回答してもらったものの平均値。
日本 CHO 協会に加盟する多国籍企業 320 社のうち 128 社から回答を得たもの。2007 年 5 月に実施。
108
4.現地人採用
国によって、ワーカークラスの採用は比較的容易である一方、マネジメントクラスの採用には苦
労している国もある。 大学とのネットワーク構築や企業ブランドの浸透等の努力が見られる。
(1)マネジメント層の採用
職業あっせん業者を使う企業が多数。特に、日系人材紹介会社が進出している国では、このよう
な仲介業者を使う場合が多い。大卒・大学院卒の採用に関しては、大学とのネットワーク作りやイ
ンターン採用等により、新卒の学生の青田買いを行う日系企業も散見される。
また、新興国では、一部の大手メーカーを除いて日本ブランドの知名度はまだまだ低い。他国企
業との人材獲得競争にさらされるなか、日本や日本式経営に魅力を感じてもらえるような情報発信
を希望する声も聞かれた。
(2)ワーカー層の採用
一方、ワーカー層については、大半の先で工夫次第では人が集まるとしている。ラジオを通じて
工業団地の宣伝をする、労働省にレターを出してもらい地方の学校を行脚する、口コミで募集する
等の手段により採用活動を行う。
<日系就職あっせん企業の声(中国)>
・日本語ができる人材への需要は、日本人が海外でも日本語を話す限り続く。また、日本
語のできる現地人材は、日系企業の現地化に果たす役割も大きいため、日本として支援を
強化できる分野ではないだろうか(例:日本語学部・学科への支援)。
・転職は概ね 2~3 割程度発生する。高いと考える企業がいる一方で、文化の違いとしてそ
もそも仕方のない現象として受け止めている企業も多い。なお、日系企業の人気は全般的
に低く、1 位は国有企業、2 位は欧米企業。日系企業はその次である。優秀な人材に高い給
料を払うことをせず、日本と横並びの基準が適用されがちであることも一因。
・日系企業は採用した人材を育てていきたいという意識が比較的強いので、研修への支援
は期待される。
109
5.日本人の人材育成
現地人材育成のみならず、特に若手層を中心とする日本人人材の育成の必要性が多く指摘されて
いる。また、学生の段階からインターン等で海外経験を増やす必要性を指摘する声も聞かれた。
(1)日本人人材
大手企業を中心に、海外で通用する日本人人材を養成するスキームが既にできているが、ここへ
きて海外展開を加速させていることから、そのスキームを増強しているという声が聞かれている。
特に今後は新興国人材の育成が重要であることが認識されており、新興国への若手人材派遣のスキ
ームを新たに構築するなどして、人材を派遣している企業がいくつも見られる。
もっとも、単独企業で研修を行うとコスト高となるため、例えば、「インドへの進出を行う他企
業とまとめてインド赴任前研修を実施できないか」(自動車)という声も聞かれた。

なお、現地が社員を受け入れる場合には「5 年程度の業務経験を積み一通り仕事を覚
えた人材でないと、本人の目的意識が低く効果が薄い上に受入側の負担も大きい」(電
機)という声もある一方で、将来的な現地事務所のトップ候補人材の育成のためにも、
「業務の知識は多少薄くても、最低限日本的な仕事のやり方を教えられる若手が海外勤
務する機会を作るべきだ」(電機)という声もある。
(2) 学生の海外経験
グローバル人材の育成には、「留学への補助金や海外拠点への日本人学生インターンを増やすこ
とによって若いうちに海外を経験させることが有効ではないか」という意見が少なからずあった。
なお、新規採用のグローバル人材としては留学生を積極的に採用するという声が複数聞かれた。
また、グローバル採用を拡大することで世界から優秀な人材を採用し、「日本人にはもはやこだわ
らない」(衣料品)という声も聞かれている。
110
6.海外展開の雇用への影響
現地の需要を取り込むことを目的とする海外展開については、国内雇用への影響はない。 この
間、国内を開発に特化している企業では、海外での販路拡大がそのまま国内雇用の拡大につながっ
ているとしている。もっとも、円高等を背景に、コスト競争力を強化するために海外生産を開始す
る際には、国内の雇用が削減される可能性がある。
(1) 海外進出による国内雇用拡大効果
国内から海外への生産移管を企図した海外展開の場合は、国内雇用の削減につながる可能性があ
るが、「新たに進出先の市場を狙った場合は、日本国内の雇用を増やすことはあっても、空洞化
はない」(JETRO)という指摘が聞かれる。
海外展開が直接、国内の雇用増加につながるとした企業の一つは、「我々のビジネスモデルは、
国内外で営業活動を行い、その受注した製品(試作品の製造)を国内で設計等を行い、中国の協力
等で製造するわけだが、当然のことながら世界展開が進めば、それだけ国内の仕事も増える。毎年、
着実に雇用を増やしている」(電機)としている。
また、ある自動車部品製造業では、「日本車の海外販売が拡大するなかで、国内の雇用も増えて
いる。海外での生産は組立が中心であり、そのための部品は国内工場で生産するなど、全ての製造
工程が移転するわけではないので、国内での製造ラインは縮小しない」としている。
表 海外事業展開見通しと国内事業展開見通しのクロス集計
中期的事業展開見通し
海外事業
国内事業
強化・拡大する
(506 社)
現状程度を維持
(73 社)
縮小・撤退する
(1 社)
強化・拡大する
現状程度を維持
縮小する
検討中
強化・拡大する
現状程度を維持
縮小する
検討中
強化・拡大する
現状程度を維持
縮小する
検討中
回答社数
142
303
33
28
8
57
3
5
1
0
0
0
(出所:国際協力銀行 「2011 年度 海外直接投資アンケート結果」)
111
7.中小企業支援
中小企業の場合、現地に送る日本人人材が限られ、多くの企業が頭を抱えている。中小企業群と
しての「中小企業の共有サービスに関する支援」、「進出前の FS 調査支援」などが政策要望とし
て聞かれた。
(1) 中小企業の海外展開について
中小企業は日本人人材の育成に苦慮している。また、中小企業の場合は送り込める人材に限りが
あり、現地法人のトップに送り込まれた技術系のトップは、総務、労務、会計等への対応に頭を抱
えている。これに対し、「労務、総務人事を現地で担当する日本人を対象として、海外に赴任する
前にトレーニング・プログラムを実施すると有効ではないか」(ジェトロ)との意見があった。
(2) 具体的な支援策の要望
中小企業の共有サービスに関する支援
日本政府の力で、中小企業用のレンタル工場スペースを確保するべきだという意見や、経理・法
務等のバックオフィス業務については、中小企業が共用で使えるようなコソーシングの仕組みがあ
ればありがたいという意見が聞かれる。「中小企業の海外展開を促進するのであれば、日本政府の
影響力が及ぶ工業団地に中小企業用のレンタル工場スペースを確保し、通関業務や後方事務を実施
できる部隊を、進出する中小企業で共有できればよい」(中小企業各社、コンサルティング会社)
など。
進出前の FS 調査支援
海外進出を成功させるためには事前の現地調査が重要であるため、FS 調査への支援が必要だと
いう意見が聞かれた。「事前に FS 調査がしっかりされてリスクが回避できるような仕組みがあれ
ばありがたい」(電機)、「しっかりした FS があれば金融機関もカネを貸しやすい。中小企業の
海外進出の際の FS 作成を日本政府が支援するというのは一つの考え方かもしれない」(金型製
造)、など。
112
参考:中小企業への支援事例(工業団地について)
中小企業への支援として、日本政府に対して、海外における工業団地の設置や運営を期待する声
が聞かれた。
(1) シンガポール政府の取組
例えば、シンガポール政府は、政府傘下の企業を使って、企業の対外進出支援を実施していると
のこと。

「シンガポール政府は、傘下の公社に途上国の工業団地開発を実施させ、そこに企業等
を進出させている。政府が後ろ盾になっているとわかれば進出企業も心強い」(金型成型)

「シンガポールは、ベトナム政府と一緒に VSIP という工業団地をベトナム国内に 3 か所
設立している。色々と整っている工業団地としてベトナム国内で評価されているが、何か
問題があると、シンガポール政府が横から出てくるという話を聞く」(団体)
(2) 中小企業群への支援と自治体の役割
また、中小企業の進出に際して、自治体の役割について指摘する声も聞かれた。

「タイの大田区工業団地が成功している理由は、区内の企業を進出させるだけでなく、
実際に区が人材を送って進出企業の面倒をみていること。経済産業省も海外に不慣れな企
業を送り出すのであれば、送り出して終りとせず、送り出した後も面倒を見続けるべき。」
(団体)

「最近は、地方の中小企業が、末端の孫請け同士でまとまって工業団地に出ようとする
動きがある。これまでに何件か引き合いがあった。今後、地方自治体や商工会がリードす
るかたちでまとまった数の企業が一緒に出てくる展開は増えるとみている」(商社)
(3)日系企業の要望
こうした中で、工業団地の開発に関心を持つ企業からは、日本政府と共同で事業を展開する可能
性について言及する声も聞かれた。

「日本政府がアセンダス(シンガポールの都市開発企業)のような都市デベロッパー事
業会社を設立するということは難しいだろうか。そういう事業会社があれば、当社も一緒
にビジネスをしたいと考える」(プラント)
113
8.教育機関への支援
進出先の産業育成の観点から、進出日系企業が教育・訓練機関の新設、あるいは既設の施設のリ
ハビリなどを要請されるケースもある。進出企業からは、こうした取り組みに対して日本政府の支
援を求める声も聞かれた。こうした支援が、日系企業自身の雇用に対してもプラスに寄与すると期
待される。

ある精密機械業では、カンボジアの進出に際して、相手国政府から、カンボジア工科大
学や、設備が老朽化している職業訓練校に教員を派遣し、新規設備の導入を支援している。
こうした活動を通じて、相手国政府との友好的な関係を維持し、将来的に優秀な人材を採
用するためのルートを確保することを同社は期待している。こうした活動について「新規
設備の導入などで日本政府の支援が得られると良いのだが」としている。

バングラデシュでは、ガーメントトレーニングセンターの設立に関する日本政府支援へ
の要望が複数企業より挙げられており、実際に独自で実施しようという動きもある。ある
品質管理業では、ミシンメーカー(機材提供)、衣料品製造(技術指導)との協力の下、
トレーニングセンターの設立に向けて準備中であり、政府支援への期待の声が聞かれた。
また、同国内では、同様のトレーニングセンター設立に関する要望が、他のミシンメーカ
ー等からもあるとのこと。
【他国の事例:インテル<米国>】
教育機関への支援は、他国企業も実施している。例えば、米国の IT 企業であるインテル
の取り組みを高く評価する声が聞かれた。
「最近、欧米企業の進出が目立つ。まだ投資額総額では大きくはないが、進出の仕方が派
手。例えば、最近インテルが出てきたが、今までロシア製の旧式の設備しかなかったホー
チミン工科大学に最新のラボを導入し、教授も送り込んで、そのかわり優秀な学生はイン
テルによこせと。技術者の質が高まることは確実で、ベトナム政府の評価は高い。」(在
ベトナム団体関係者)
114
9.インフラ輸出と資源の獲得
インフラ輸出や資源の獲得にあたっては、相手国政府等との人的なネットワークの構築が重要と
の指摘が聞かれた。
インフラ開発権の獲得をしやすくするべく、「入札仕様書に日本仕様を積極的に盛り込めるよう
に先方に対応してもらう必要がある」という電力会社の声が聞かれたほか、資源関連企業からは、
「相手国政府機関との人脈構築が安定的な資源確保に繋がっている」という声があった。具体的に
は以下の通り。
(1)インフラ輸出
日本の製品の導入を促進するためには、高品質の日本基準を、進出対象国の基準として採用させ
ることが重要である。特にインフラ輸出に関しては、「専門家派遣制度を拡充してほしい。日本企
業の高い技術を、直接、日本の専門家が相手国政府に宣伝でき、入札などの際に、日本に有利な仕
様書を作成することにつながり、日本企業が落札する可能性が高まる」(電力会社)としている。
(2)資源確保
資源ナショナリズムの高まりに伴い資源国が自国資源への規制を強めている。この点、技術協力
等を通じて監督官庁、現地公社等との人的交流を持つことは、将来的に日本の資源権益を守るため
に重要。関連企業では、「かつて、こうした組織から JOGMEC の研修で日本に来た人たちが現在、
相手先の石油関連機関で重要な地位を占めており、ネットワークとして機能している」(石油会社)
としている。
以
115
上
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