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第7章 文化芸術立国を目指して 2

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第7章 文化芸術立国を目指して 2
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
5
国立文化財機構
国立文化財機構は,東京国立博物館,京都国立博物館,奈良国立博物館,九州国立博物館の 4 博物
館を設置し,有形文化財を収集し,保管して広く国民の観覧に供するとともに,東京文化財研究所,
奈良文化財研究所を加えた 6 施設において調査研究などを行うことにより,貴重な国民的財産である
文化財の保存と活用を図ることを目的としています(参照:http://www.nich.go.jp)(図表 2-7-21)。
現在国立博物館では国宝・重要文化財を含む約 12 万件の文化財を所蔵しています。また,これらの
文化財を活用し,平常展,企画展などを通じて日本の歴史・伝統文化や東洋文化の魅力を国内外に発
信する拠点としての役割も担っています。平成 20 年度においては,「平城遷都 1300 年記念 国宝 薬
師寺展(東京国立博物館)」,「没後 120 年記念 絵画の冒険者 暁斎 Kyosai −近代へ架ける橋−(京
都国立博物館)」,「天馬−シルクロードを翔ける夢の馬−(奈良国立博物館)」,「国宝 大絵巻展 京
都国立博物館所蔵・寄託の名宝一挙大公開(九州国立博物館)」などの企画展を開催しました。東京文
化財研究所では,日本・東洋の美術・芸能の調査研究や文化財の保存に関する科学的な調査,修復材料・
技術の開発に関する研究を行っているほか,海外の博物館・美術館が所蔵する日本古美術品の修復協
力,アフガニスタンやイラクの文化財保存修復に関する協力など国際交流を進めています。奈良文化
財研究所では,遺跡,建造物,歴史資料などの調査研究や平城宮跡,飛鳥・藤原宮跡の発掘調査など
を進めるとともに,全国各地の発掘調査などに対する指導・助言や発掘調査を行う専門職員などに対
する研修を行っています。
266 文部科学白書 2008
国立文化財機構
第
図表 2-7-21
章
7
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敦煌莫高窟における壁画の状態調査
(提供:東京文化財研究所)
歴史,美術,建造物,庭園など貴重な文化財を実物に即して調査研究を行ってい
ます。また,平城宮跡や飛鳥・藤原宮跡の発掘調査などを進めるほか,新たな保
存技術と研究方法を開発し,全国各地の発掘調査,保存,修復,整備,復元に対
興福寺中金堂発掘遺構
(提供:奈良文化財研究所)
6
する協力や助言,発掘調査を行う専門職員などに対する研修などを行っています。
国立劇場
(1)伝統芸能の保存・振興
我が国の伝統芸能の保存と振興を目的として,国立劇場,国立演芸場,国立能楽堂,国立文楽劇場,
国立劇場おきなわにおいて,歌舞伎,能楽,文楽,組踊など伝統芸能の公開や,伝統芸能の伝承者の養成,
伝統芸能に関する調査研究,資料の収集・展示などを実施しています(日本芸術文化振興会ホームペ
ージ:http://www.ntj.jac.go.jp)。
平成 20 年度は,歌舞伎,能,文楽など計 176 公演(873 回)の自主公演,青少年などを対象とした伝
統芸能の鑑賞教室 8 公演(159 回)を行いました。また,伝承者養成事業では,文楽の分野で 3 名が研
修を修了しました。
(2)現代舞台芸術の振興・普及
我が国の現代舞台芸術振興の拠点として,平成 9 年 10 月に新国立劇場が開場し,現代舞台芸術の
文部科学白書 2008 267
文化芸術立国を目指して
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第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
公演,実演家などの研修などを実施しています。
平成 20 年度は,オペラ,バレエ,現代舞踊,演劇を計 30 公演(224 回)上演したほか,従来からの
オペラ鑑賞教室など 2 公演(12 回)に加えて中学生のためのバレエ公演 1 公演(1 回)を実施し,青少年
向けの公演が一層充実しました。また,現代舞台芸術研修事業では,オペラ(5 名),バレエ(6 名),
演劇(14 名)計 25 名が研修を修了しました。
7
国際文化交流を通じた日本文化の
発信と国際協力への取組
第
節
国際化の進展に伴い,我が国は国際的な文化交流を通じて世界の人々の相互理解を増進し,国際平
和と自由な世界の実現に貢献していくことが求められています。また,21 世紀の国際社会では,文化
芸術の魅力によって世界の国々を引きつけることのできる「文化力」が重要になってきています。特に,
海外でも評価の高い我が国のアニメ,マンガ,映画などメディア芸術を中心に海外への情報発信が求
められています。
文化庁では,文化芸術振興基本法や,それに基づき策定した政府としての基本方針を踏まえ,世界
に誇ることができる芸術の創造とその国内外への発信,文化芸術の国際交流の推進,海外の文化遺産
保護への協力などを通じて,文化芸術立国の実現に向けて施策の充実に取り組んでいます。
1
日本文化の発信による国際文化交流の推進
(1)文化発信戦略に関する懇談会
文化庁では,伝統文化から現代文化まで,多様な日本文化を世界に伝え,日本に対する理解を深め
ていくため,平成 19 年 12 月に「文化発信戦略に関する懇談会」を開催し,日本文化の戦略的な発信に
ついて検討を行ってきました。10 回にわたる議論をもとに,平成 21 年 3 月に,メディア芸術分野に
おける国際的地位の確立などについて提言する「日本文化への理解と関心を高めるための文化発信の
取組について」(報告)がとりまとめられました。今後は,これをもとに,関係省庁・機関と連携協力
しながら,文化発信のための施策を推進します(参照:Topic 1)。
(2)文化庁文化交流使事業
文化庁文化交流使事業は,芸術家,文化人など,文化芸術に携わる人々を,一定期間「文化交流使」
として指名し,世界の人々の日本文化への理解の深化や,日本と外国の文化人のネットワーク形成・
強化につながる活動の展開を図ることを目的とした事業です。「文化交流使」には,日本在住の芸術家,
文化人が海外に一定期間滞在し,講演,講義,ワークショップや実演などを行う「海外派遣型」,海外
在住の芸術家,文化人がその在住国などで同様の活動を行う「現地滞在者型」があり,平成 20 年度は
新たに海外で公演などを行う芸術団体を指名する「短期指名型」が新設されました。
平成 20 年度は,「海外派遣型」文化交流使として 8 名,「現地滞在者型」文化交流使として 2 名を新
たに指名し,能楽・茶道といった日本の伝統文化から囲碁・工芸・文学まで様々な分野で活躍中の内
外の文化人・芸術家の方々による国際文化交流と日本文化の発信活動を展開しています(図 2-7-22)。
また,「短期指名型」文化交流使に指名された 5 団体は,主に日本と周年を迎えた国々で,実演やセ
ミナーなどを通じて,それぞれの専門分野の日本文化を紹介しました。
268 文部科学白書 2008
平成 20 年度文化交流使
第
図表 2-7-22
7
章
<海外派遣型>
*は,前年度から引き続き活動
氏 名
活動国
プロフィール
作家
米国,韓国
千 宗屋
茶道家
米国,フランス,イタリア,英国,ドイツ,
メキシコ,ベルギー
梅若 猶彦
能楽師(シテ方)
,
静岡文化芸術大学教授
フィリピン
小林 千寿
囲碁棋士
フランス,オーストリア,ドイツ,英国
重要無形文化財「彫金」
(各個認定)保持者
中川 衛
米国
常磐津 文字兵衛
常磐津三味線奏者,
作曲家
韓国
福田 千栄子
地歌箏曲演奏家
フィリピン,インドネシア,マレーシア
須田 賢司
木工芸作家
ニュージーランド
本間 博*
将棋棋士
フランス,英国,ドイツ,スペイン,モナコ
門田 秀樹*
囲碁棋士
ブラジル,中南東諸国,南アフリカ,マダガスカル
桂 かい枝*
落語家
米国
橘 右門*
寄席文字書家
英国,ドイツ,ハンガリー
海外派遣型文化交流使の活動(小林千寿)
<現地滞在者型>
氏 名
活動国
プロフィール
上野 宏秀山
尺八奏者
シンガポール
ブーイ 文子
茶道家
タイ,インド
<短期指名型>
団体名
活動国
分野
(財)日本伝統文化
振興財団
狂言
インドネシア
舞踊集団菊の会
舞踊(邦舞)
ブラジル
鬼太鼓座
和太鼓
ブラジル
太神楽曲芸協会
太神楽曲芸
カンボジア
歌舞伎
英国
大歌舞伎
「NINAGAWA十二夜」
ロンドン公演実行委員会
短期指名型文化交流使の活動
(財団法人日本伝統文化振興財団 狂言公演(山本東次郎家)
) (3)国際文化フォーラムの開催
「国際文化フォーラム」は,内外の芸術家,文化人などを招へい
し,座談会,対談,講演などの形式により世界の文化芸術の最新
の情報や文化を取り巻く課題に関する知見を交換する場として,
平成 15 年度から開始した事業です。
平成 20 年度は 10 月 11 日から「文化の多様性」を共通テーマに
東京・京都・奈良において,講演・座談会を行い,文化の意義や
影響力について,世界に向けメッセージを強く発信しました(図
平成 20 年度国際文化フォーラム開会式
表 2-7-23)。
図表 2-7-23
平成 20 年度国際文化フォーラム行事
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文部科学白書 2008 269
文化芸術立国を目指して
島田 雅彦
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
(4)国際芸術見本市(インターナショナル・ショーケース)
国内外の劇場関係者に,「音楽」「ダンス」「演劇」などの分野における我が国の新進の舞台芸術作品
を実演により紹介する国際芸術見本市を,平成 21 年 3 月に恵比寿ザ・ガーデンホールとガーデンル
ーム(東京都目黒区)にて開催しました。「インターナショナル・ショーケース 2009」では,舞台芸術作
品を要約して実演するショーケースの他,「アジアの舞台芸術」をテーマとした映像によるショーケー
スにより国内外の数多くの作品を紹介しました。
(5)海外との共同制作
マンガ,映画といったメディア芸術の分野などにおいて,中長期的な観点から我が国の芸術家・文
化人と諸外国の芸術家・文化人との間の共同制作及びその企画・立案に向けた会合や人材交流事業を
行うことで,我が国のコンテンツ発信の推進やコンテンツ関連人材の育成を図っています。
(6)「国際交流年」に対する文化庁の取組
文化,教育,スポーツなど,幅広い分野で官民を通じた交流事業を開催・実施することによって,
諸外国との友好と相互理解を深めることを目的とした「国際交流年」が設定されています。
平成 20 年は,「日伯交流年:ブラジル移住 100 周年」と「日本インドネシア友好年」に当たり,文化
庁として様々な事業を主催・支援しました。
2
日本語教育の振興
近年,我が国における外国人の増加や諸外国との国際交流の進展により,日本語学習者は増加して
おり,海外で約 298 万人(平成 18 年(独)国際交流基金調べ),国内で約 16 万人(平成 19 年 11 月文化
庁調べ)に上っています。
文化庁では,国内外の日本語学習者の増加や学習目的の多様化や政府内で開催された外国人労働者
問題関係省庁連絡会議などの各種の提言等を考慮し,コミュニケーション手段としての日本語や我が
国の文化の基盤としての日本語の普及・振興を図っていくため,次のような外国人に対する日本語教
育に関する様々な施策を行っています(図表 2-7-24)。
図表 2-7-24
日本語教育に関する施策
事
項
施策の概要
1 日本語教育の指導内容・方法等の調査・研究
多様化する日本語の学習ニーズに対応し,日本語教育の指導内
容・方法の充実を図るため,種々の調査・研究を行っています。
2 日本語教育教材等の開発及び提供
中国帰国者の日本語学習を支援するため,日本語教材や指導参
考書を作成し,無償配布しています。
3 日本語教育に携わる者への情報提供等
日本語教育に対する理解の増進を図るとともに,日本語教育の
水準の向上と日本語教育の推進に資するため,シンポジウム及び
研究協議会を集中的に開催する日本語教育大会を行っています。
4 地域の実情に応じた日本語教育の支援・推進
地域における日本語教育活動を支援するため,人材育成,日本
語教室設置運営,教材作成,連携推進活動の4分野について意欲
的で優れた事業の企画を公募し,内容を選抜した上で,その実施
を委託しています。
5 難民救援のための日本語教育事業
我が国に定住を希望する難民が社会生活に必要な日本語を習得
できるように,通所施設における日本語教育,日本語教育の教材
作成,難民に対する日本語教育相談等について,その実施を委託
しています。
6「生活者としての外国人」への日本語教育支援
外国人が円滑に日本社会の一員として生活を送ることができる
ように日本語教育の充実を図るため,日系人等を活用した日本語
教室,退職教員や日本語能力を有する外国人を対象とした日本語
指導者養成,ボランティアを対象とした実践的長期研修,外国人
に対する実践的な日本語教育の研究開発,日本語教育ハンドブッ
クの作成・配布の各事業について,事業企画を公募し,内容を選
抜した上で,その実施を委託しています。
270 文部科学白書 2008
20 年 1 月に整理をした「今後検討すべき日本語教育の課題」に基づき,これまで,「地域における日本
いて審議を行い,21 年 1 月には,これらの課題についての審議状況の報告を国語分科会に対して行い
ました。
その中で,「生活者としての外国人」に対する日本語教育の目的や,その標準的な内容などについて
は,目的を明らかにした上で,「生活者としての外国人」に対する日本語教育の内容の大枠を示したと
ころであり,今後引き続きこれを整理・精査していくこととしています。
3
芸術文化交流
芸術文化の国際交流の推進は,我が国の芸術文化の発展にとっても,また,我が国が世界の芸術
文化の発展に貢献していく上でも重要であり,文化庁では,様々な施策に取り組んでいます(図表
2-7-25)。
図表 2-7-25
文化庁の国際芸術文化交流事業
人
芸術家等の派遣・受入
物
交 ■人材育成のための芸術家派遣 美術,音楽,舞踊等の各分野において,我が国の新進芸術家が海外の芸術団体等で研修する機会を提供。
流 ・新進芸術家海外研修制度
公演等による交流
■芸術団体等の海外公演・招へい公演,国際共同制作等(芸術団体等に対する支援) 我が国と海外との二国間における芸術交流の推進
公 (我が国芸術団体の海外派遣公演,当該国の芸術団体の招へい公演等)と海外との優れたオペラ等の共同制作や世界で開催される有名な
演 フェスティバル等への参加を支援。
等 ・海外で開催されるメディア芸術祭等への参加に対する支援・国際芸術交流支援事業
■映画に関する国際交流 海外映画祭等において,優れた日本映画を世界に向けて紹介するため,出品等に係る経費及び参加に伴う渡航費
に対して支援。
・海外映画祭への出品等支援
日
本
文
化
の
発
信
等
4
日本文化の発信による交流
■多様な手段による日本文化の発信 国民文化祭や全国高等学校総合文化祭に海外から高校生や文化団体等を招へいするとともに,海外の
フェスティバル等に高校生や文化団体等を派遣し,相互交流することで,地域文化の活性化に資する。
・国際交流による地域文化活性化事業
■優れた現代日本文学を英語・フランス語などに翻訳し,海外へ紹介。
・現代日本文学翻訳・普及事業
国際社会の一員としての文化財国際交流・協力の推進
我が国や世界の文化遺産は人類共通の財産であり,その保護のためには国際的な交流・協力が不可
欠です。我が国は,長年にわたり,国内外の文化財に関する優れた調査研究を行うとともに,保存修
復のための高度な技術を開発し,経験を蓄積してきました。文化財保護の国際的な取組が進展する中
で,我が国に対する期待はこれまで以上に高まっています。このため,文化庁では,次のような取組
を行っています。
(1)文化遺産保護国際協力のための体制づくり
①海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律の制定
平成 18 年 6 月に,「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律」が衆・参両
院の全会一致で可決・制定されました。本法律において,我が国の文化遺産国際協力について,国
や教育研究機関の果たすべき責務,関係機関の連携の強化や基本方針の策定などが規定されました。
また,19 年 12 月には,本法律に基づき,国や研究機関,コンソーシアム *4 等の役割のほか,重点
地域をアジアとすることや ODA との連携強化について規定した基本方針が公示されました。これ
文部科学白書 2008 271
文化芸術立国を目指して
語教育の体制整備」と「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の目的及び標準的な内容等」につ
7
章
育の在り方について検討を行うため,文化審議会国語分科会に「日本語教育小委員会」を設置しました。
第
また,平成 19 年 7 月,近年の外国人の定住化傾向や社会参加の必要性の高まりにより,日本語教
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
らにより,文化面における我が国の積極的な国際貢献の姿勢を国際的にアピールするとともに,国
内の連携協力体制を構築し,関係機関の連携強化による効果的な文化遺産国際協力の実現が可能と
なるよう,積極的に取り組んでいます。
②文化遺産国際協力コンソーシアムの構築
平成 18 年 6 月,関係省庁や教育研究機関,独立行政法人,民間助成団体等が一体となって効果的・
効率的な文化遺産国際協力を推進するため,文化遺産国際協力コンソーシアムが発足しました。文
化遺産国際協力コンソーシアム事務局が中心となって,国内各研究機関等のネットワーク構築や情
報の収集・提供,調査研究等を実施しています。これにより,コンソーシアムの構成機関間の情報・
意見交換の場が確保され,コンソーシアムを通じて編成された各方面の専門家からなる派遣団が海
外において調査を行うような例も現れています。
(2)国際社会からの要請などに基づく国際支援
①文化遺産保護国際貢献事業
文化庁は,平成 16 年度より,「文化遺産保護国際貢献事業」として,紛争や自然災害により被災
した文化遺産について関係国・機関からの要請などに応じ,我が国専門家の派遣,又は相手国の専
門家の招へいを行うなどの緊急対応の専門家交流事業を実施しています。
< 緊急対応事例 >
○平成 16 〜 18 年度
アフガニスタン国立公文書所蔵の文字文化財保存支援事業
○平成 17 〜 18 年度
インドネシア・アチェ州公文書館への支援事業
○平成 17 年度〜
ベトナム・タンロン遺跡への調査団派遣
○平成 18 〜 19 年度
インドネシア・ジャワ島中部地震被災状況調査支援
○平成 20 年度
中国・四川省震災復興に関する専門家派遣事業(ワークショップ開催)
また,平成 19 年度からは海外の国や地域において文化遺産の保護に重要な役割を果たす機関な
どとの交流や協力を行う拠点交流事業を実施しており,インド・アジャンター石窟壁画の保存修復
をはじめ,モンゴルや中央アジア諸国などで協力を実施し,現地で文化遺産の保護に携わる人材の
養成に取り組んでいます。
なお,これらの事業は,文化遺産国際協力コンソーシアム,外務省や国際交流基金その他の関係
機関の協力の下で実施しています。
②アフガニスタンへの文化財協力
文化庁では,
「アフガニスタン等文化財国際協力会議」
(平成 14 年 9 月〜 15 年 8 月)の提言に基づき,
アフガニスタンなどにおける文化財保存修復に関する国際的な協力を行っています。国立文化財機
構東京文化財研究所では「西アジア文化遺産保存修復協力事業」の一環として,バーミヤン遺跡の地
下探査やアフガニスタンの文化財専門家や修復家の招へい研修を行っています。
(3)二国間の国際交流・協力など
①海外展 文化庁は,日本の優れた文化財を諸外国に紹介すること
により,我が国の歴史と文化に対する理解の増進と国際親
善の推進に寄与することを目的として,昭和 26 年以降,
国宝・重要文化財を含む日本古美術品の展覧会を,海外の
色彩の開花:江戸の工芸展 ブラジル,2008.4.27-5.15
*4
コンソーシアム
各研究機関の調査研究や保存修復活動の成果等の情報を集積し,それらの情報交換の拠点となるとともに,各研究機関やそ
れらに所属する研究者の相互交流を進めることを目的とする緩やかな連携組織。
272 文部科学白書 2008
江戸時代の工芸品を代表する陶磁器,漆工品,染色品など,国宝・重要文化財を含む 166 点の日本
②アジア諸国への文化財の保存修復協力
文化庁では,アジア・太平洋地域の文化財建造物保存修復協力事業として,アジア諸国の文化財
建造物の保護に協力しています。
この事業は,相手国の要請に基づき,我が国の文化財保存技術の専門家である文化財調査官など
を派遣し,歴史的建造物の共同調査や保存・修復についての技術協力を行う事業であり,あわせて,
相手国から文化財行政関係者や技術者を招へいし,文化財保護に関する研修を行う事業です。
現在,文化庁では,ベトナム,インドネシア,韓国の三カ国と協力事業を行っています。平成
20 年度の各国の事業は,以下のとおりです。ベトナムにおいてはハノイ西北のドンラム村という
伝統的農村集落の保存事業について,インドネシアにおいてはスンバワ島旧王宮修理事業について,
事業推進のため,我が国の文化財調査官を派遣し現地での技術指導を行うとともに,併せて相手国
の文化財行政関係者や技術者を招へいし文化財保護に関する研修を実施しました。また,韓国にお
いては,第 5 回日韓文化財建造物保存協力協議会開催のための準備を行いました。
③イタリアとの交流・協力
我が国は,文化財の保存修復や国際協力の分野で長年の経験を有するイタリアと,積極的な交流
を行っています。
平成 19 年 3 月には,伊吹文部科学大臣(当時)とルテッリ文化財・文化活動大臣(当時)が,日本・
イタリア文化遺産国際協力の文書に署名しました。平成 20 年 3 月,壁画の保存修復と活用の調和
に関する協力,文化的景観と歴史的街区の保護に関する協力等を実施することで合意し,平成 20
年度からこれらの共同プロジェクトが進行しています。今後も,両国の保存修復などの現場を活用
して,共同研究,相互の専門家の派遣や情報交換などを実施していく予定です。
④イクロムとの連携協力
我が国は,国際機関である文化財保存修復研究国際センター(イクロム(ICCROM))に加盟し,
分担金の拠出(米国に次ぐ第 2 位の拠出国)や国際的な研究事業などに協力するほか,平成 12 年度
からは同センターに文化庁の職員を派遣し,連携の強化を図っています。
⑤国際民俗芸能フェスティバル
文化庁では,我が国の民俗芸能と関連の深い芸能を外国から招き,国内の民俗芸能とともに公開
する「国際民俗芸能フェスティバル」を行っています。平成 20 年度はベトナムの民俗芸能を招へい
しました。
(4)文化財の不法な輸出入などの規制
不法な文化財取引を防止し,各国の文化財を不法な輸出入などの危険から保護することを目的とし
て,我が国は,平成 14 年に「文化財の不法な輸入,輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に
関する条約」を締結しました。あわせて,「文化財の不法な輸出入等の規制等に関する法律」の制定と
文化財保護法の改正を行いました(同年 12 月 9 日から施行)。
法律の主な内容は,以下のとおりです。
○外国の博物館等から盗取されたもので文部科学省令で定める文化財(特定外国文化財)について
は,原則として輸入禁止
○特定外国文化財の盗難の被害者については,民法で認められている代価弁償を条件として,回
文部科学白書 2008 273
文化芸術立国を目指して
古美術品を展覧しました。
7
章
たることから,サンパウロ州立美術館(ブラジル)において「色彩の開花:江戸の工芸」展を開催し,
第
美術館などとの共催により開催しています。平成 20 年度は,日本人のブラジル移住 100 周年にあ
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
復請求期間を 2 年間から特例として 10 年間に延長
○重要有形民俗文化財の輸出については,届出制から許可制へ
(5)武力紛争の際の文化財の保護 我が国は,武力紛争時における文化財の保護を目的とする「武力紛争の際
の文化財の保護に関する条約」などを平成 19 年に締結し,併せて「武力紛争
ブルーシールド
の際の文化財の保護に関する法律」を制定しました(平成 19 年 12 月 10 日か
ら施行)。
法律の主な内容は,以下のとおりです。
○武力紛争時に他国に占領された地域(被占領地域)から流出した文化財
を「被占領地域流出文化財」として指定し,輸入の規制を行う。
○武力紛争時における文化財の識別のため,条約の保護を受ける文化財
等に「特殊標章(ブルーシールド)」を使用することができる。
○武力紛争時において戦闘行為として文化財を損壊する行為又は文化財を軍事目的に利用する行
為等に罰則を設ける。
第
8
節
新しい時代に対応した著作権施策の展開
近年,インターネットの急速な普及や端末の小型化,モバイル化を背景に,デジタル化された情報
がネットワークを介在して流通する時代が到来しています。これに伴って,従来の著作権法が想定し
ていなかった著作物の創造,流通,利用,管理形態が広がっており,従来の著作権法制度の枠組みで
は十分に対応できない可能性があるとの指摘も出てきています。
文化庁では,法制度の整備,円滑な流通の促進,著作権教育の充実,国際的課題への対応の 4 つの
施策を中心に,新しい時代に対応した著作権施策を総合的に展開しています。
1
法制度の整備
著作権法については,これまでも権利の保護と公正な利用の調和を図りつつ,順次制度改正を行っ
てきました。
平成 20 年度は,「文化審議会著作権分科会」に,平成 19 年度に引き続き法制問題小委員会,私的録
音録画小委員会,過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会,国際小委員会の 4 つの小委員会を
設け,様々な課題について活発な議論を行いました。平成 21 年 1 月には,各小委員会の検討結果に
基づいた報告書が取りまとめられ,この報告書の内容を踏まえた著作権法改正案を平成 21 年通常国
会に提出しました。
(1)法制問題小委員会
この小委員会では,著作権法制度の在り方について検討を行っています。平成 20 年度は,19 年度
から引き続いて,①「デジタルコンテンツ流通促進法制」,②権利制限規定の見直し,③海賊版の拡大
防止のための措置等について検討を行いました。
①
「デジタルコンテンツ流通促進法制」については,(ⅰ)コンテンツの二次利用に関する措置とし
て,権利者の所在不明等の場合の利用の円滑化,(ⅱ)インターネット等を活用した新たな創作・
274 文部科学白書 2008
②権利制限規定の見直しについては,社会の様々な要請を考慮し,
(ⅰ)障害者の情報アクセスを
字幕等の作成について,現行の権利制限規定の対象範囲を大幅に拡大するとともに,(ⅱ)情報
検索サービスの実施のためのインターネット上の著作物の複製等,(ⅲ)コンピュータを用いた
情報解析のための複製等,(ⅳ)美術品等をインターネット等で販売する際に行う画像掲載など
の事項について,権利制限規定を整備すべきとの提言がされました。
③海賊版の拡大防止のための措置については,インターネットオークションなどにおける海賊版
の販売状況にかんがみ,海賊版と知りながらその販売などの申出を行う行為を,著作権侵害行
為とみなす旨の規定を設けることが適当とされました。
(2)私的録音録画小委員会
この小委員会では,権利者の許諾を得ずに行うことができる私的使用目的の複製のうち,録音・録
画に関する諸問題について検討を行いました。
平成 4 年に導入された私的録音録画補償金制度は,個人が私的使用目的で行うデジタル方式の録音・
録画について,機器・記録媒体の購入価格に上乗せする形で利用者から権利者に補償金を支払うもの
です。小委員会では,近年における録音録画機器の発達や著作権保護技術の進展などを踏まえ,制度
の抜本的な見直しのための検討を行いましたが,関係者の合意を得ることはできず,引き続き合意形
成を目指すことが必要とされました。
また,私的使用目的の録音・録画に関し,権利者の許諾を得ずに行うことができる範囲の見直しに
ついては,携帯電話向けの違法音楽配信サイトやファイル共有ソフトなどを利用した違法配信を受信
して行う録音・録画が通常の流通を妨げている実態が報告されました。これを受け,このような録音・
録画行為については,①違法と知って行う場合に限定する,②罰則は適用しない,など一定の条件の
下で,原則通り権利者の権利が及ぶものとする方向での対応が必要との意見が大勢になりました。併
せて,利用者保護のため,政府・権利者による周知徹底,適法配信サイトの識別マーク表示の推進な
どの措置が必要とされました。
(3)過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会
この小委員会では,主に権利者不明の場合などにおける著作物の利用の円滑化方策,過去の著作物
等の収集・保存・公開等を行うアーカイブ事業の円滑化方策,著作権等の保護期間の在り方等につい
て検討を行いました。
そのうち,権利者不明の場合の著作物利用,国立国会図書館における所蔵資料の電子化については,
所要の措置を早期に実施に移すべきとされました。また,保護期間の在り方については,延長するこ
ととしないこと双方のメリットを受けられる方法等を含め,著作権法制全体として保護と利用のバラ
ンスの調和の取れた結論が得られるよう検討を続けることが適当とされました。
(4)国際小委員会
この小委員会においては,これまでアジア地域等における海賊版対策施策や世界知的所有権機関
(WIPO)における放送機関及び視聴覚実演の保護に関する国際的ルールづくりへの参画の在り方など
*5
権利制限規定
公益目的などの一定の場合に,著作権者等の許諾を得ずに著作物等を利用できることとする規定。
文部科学白書 2008 275
文化芸術立国を目指して
保障する観点から,視覚障害者などのための録音図書等の作成や聴覚障害者等のための映画の
7
章
ンツを提供するための環境整備としての海賊版の拡大防止策,の 3 点を実施すべきとされました。
第
利用形態に関連する権利制限規定* 5 の見直し,(ⅲ)権利者が安心してインターネットにコンテ
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
について検討してきました。今後も,ネットワーク化,グローバル化,途上国の経済対策など,刻々
と変化する国際動向を分析しつつ,著作権をめぐる国際的課題への対応の在り方や著作権分野の国際
協力などについて,引き続き検討を進めていく予定です。
2
円滑な流通の促進
インターネットの普及は,著作物のデジタル化とあいまって,著作物の流通の形態を劇的に変化させ
ています。このような状況の中,文化庁では,著作物の流通促進の観点から,次の施策を行っています。
(1)著作権契約の促進
権利関係が特に複雑な放送番組などの映像コンテンツについて,その二次利用が期待されている昨
今の現状を考慮し,契約の円滑化の議論や,実際に契約を締結する関係業界の参考となるよう,平成
18 年度から 20 年度までの 3 年間,国内外の契約実態の調査・分析を行いました。その成果報告は 21
年度に公表する予定です。
(2)著作権管理事業法の的確な運用
権利の集中化を通じて著作物などの新しい利用秩序を形成するため,著作権などの管理を行う事業
者を規制する著作権等管理事業法が平成 13 年に施行され,21 年 3 月 31 日現在,35 事業者が文化庁
の登録を受けています。
文化庁では,これらの著作権等管理事業者に対し,業務や財務状況の報告を求めたり,定期的に立
入検査を行うなど,事業が適切に実施されるよう指導監督を行っています(図表 2-7-26)。
図表 2-7-26
著作権等管理事業者の登録事業者数の推移
平成 13 年度 平成 14 年度 平成 15 年度 平成 16 年度 平成 17 年度 平成 18 年度 平成 19 年度
平成 20 年度
新規登録数
21*
8
9
2
4
0
2
廃止数
0
0
1
6
2
0
2
2
2
合計登録数
21
29
37
33
35
35
35
35
(3)インターネットに対応した意思表示システムの構築
他者の著作物を利用したい場合,原則,その著作物の著作権者から許諾を得ることが必要ですが,
著作権者が自由に使ってもらって良いと考える著作物については,あらかじめ利用条件が示されてい
れば,利用者・著作権者ともに,許諾手続きを省略することができます。
このような著作権者が意思表示をする仕組みは,著作物の円滑な流通を促進する上で重要な役割を
果たすものであり,文化庁では,平成 15 年に「自由利用マーク」(参照:http://www.bunka.go.jp/
chosakuken/riyoumark.html)を策定し,普及に取り組んでいます。
さらに,平成 19 年度からは,新たに,著作権者がネットワーク上で自分の著作物を公表する際の「意
思表示システム」の開発に取り組んでおります。今後,平成 21 年度に試行版を公開し,その使用感な
どについての意見を基に改善を行い,平成 22 年度より本格運用を開始する予定です。
3
著作権教育の充実
著作権に関する知識や意識は,広く多くの国民にとって必要不可欠なものとなっており,中学校や
高等学校の学習指導要領においても著作権について取り扱うこととされています。
276 文部科学白書 2008
第
こうした状況に適切に対応するため,文化庁では,平成 14 年度から
著作権に関する総合的な教育事業である「著作権学ぼうプロジェクト」を
章
7
展開しています。児童生徒が楽しく学べる学習ソフトや著作権 Q&A デ
民一般向け,教職員向けなど),著作権教育研究協力校による指導方法
等の研究等を行っています。
詳しくは,文化庁著作権課ホームページに掲載しています(参照:
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/index.html)。
このほかにも,関係機関・団体などが主催する著作権講習会への講師
の派遣や,著作権教育の充実のため関係団体との連携の促進などを行う
「学校における教育活動と著作権」
パンフレット
著作権教育連絡協議会を開催しており,平成 20 年度も引き続きこれら
の施策を推進し,著作権に関する教育・普及啓発について一層の充実を
図っています。
4
国際的課題への対応
デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い,パソコンが 1 台あれば著
作物のコピーなどが簡単にできるようになるとともに,インターネット
「楽しみながら学べる学習ソフト」
(小学生用)
を通じて,国境を越えた著作物の流通が活発に行われるようになりました。
文化庁では,このような現状に対応した適切な海賊版(違法複製物)対策と国際ルールの構築を積極
的に推進しています。
(1)アジア地域における海賊版対策
アジア地域において,近年,音楽やゲームソフト,アニメなどの我が国の著作物に対する関心が高
まる一方で,それらを違法に複製した海賊版の製造・流通が深刻な問題になっています。
海外における海賊版の製造・流通を防ぐためには,我が国の権利者が,自ら侵害発生地において迅
速に対抗措置をとることが不可欠です。
文化庁では,その環境を整備するため,次のような施策を積極的に実施しています。
○二国間協議等を通じた侵害発生国・地域への取締強化の要請
○権利者向けの手引書の作成・セミナーの開催など,我が国企業の諸外国における権利行使の支援
○日欧米連携した海賊版対策
○知的財産保護官民合同訪中代表団の派遣など,官民連携の強化
○ WIPO と協力して実施する途上国対象の研修事業
(2)国際ルールづくりへの参画
著作物は,貿易やインターネットを通じた送信などにより国境を越えて利用されるものであるため,
多くの国において,条約に基づく国際的な保護が行われています。我が国は,文化的及び美術的著作
物の保護に関するベルヌ条約(ベルヌ条約),実演家,レコード製作者及び放送機関の保護に関する国
際条約(ローマ条約),さらには,デジタル化・ネットワーク化に対応した著作権に関する世界知的所
有権機関条約(WCT),実演家及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)などの著作権
関連条約の締結に加え,最近では,WIPO で検討が進められている「放送機関」や「視聴覚実演」の保護
に関する新条約の議論にも積極的に参画しています。さらに我が国は,模倣品・海賊版拡散防止条約(仮
称)(ACTA)早期実現を目指し,交渉に参画するとともに,自由貿易協定(FTA),経済連携協定(EPA)
文部科学白書 2008 277
文化芸術立国を目指して
ータベースの開発・公開,様々なニーズに応じた著作権講習会の開催(国
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
交渉などにおいて国際的な著作権保護の強化を働き掛けています
第
1
9
節
今日的課題に対応した国語施策
国語施策の展開
国語は,国民生活に直接関係し,我が国の文化の基盤を成すものであり,時代の変化や社会の進展
に応じ,その在り方などについて適切に検討し,必要な改善を図っていく必要があります。
(1)これまでの国語施策
国語に関する問題については,これまで国語審議会が中心となって検討を行い,様々な改善を図っ
てきました。具体的には,国語の表記に関して,一般の社会生活における「目安」や「よりどころ」として,
「常用漢字表」,「現代仮名遣い」,「外来語の表記」などが答申され,内閣告示などによって実施されて
きました。その後,国語審議会は,平成 13 年 1 月から文化審議会国語分科会として改組されました(図
表 2-7-27)。
(2)
文化審議会での審議
近年,日本人の国語力の低下を指摘する声がありますが,今後予想される急激な社会の変化に対応
していくためには,これからの時代にふさわしい国語力を身に付けていくことが求められます。
そこで,国語の重要性やこれからの時代に求められる国語力,また,そのような国語力を身に付け
るための方策などについて検討するため,文化審議会国語分科会では,平成 14 年 2 月に文部科学大
臣から諮問された「これからの時代に求められる国語力について」の審議を重ね,16 年 2 月に答申しま
した。その後,国民の大部分が敬語を必要だとしているにもかかわらず,敬語の実際の使用に困難を
感じている人が多いという実態が,文化庁の「国語に関する世論調査」で明らかになったことから,
「敬
語に関する具体的な指針作成」について審議がなされました。18 年 11 月から 12 月にかけて,一般か
らの意見を広く聞いた上で,19 年 2 月に文部科学大臣に「敬語の指針」が答申されました。
現在は,平成 17 年 3 月に文部科学大臣から文化審議会に諮問された「情報化時代に対応する漢字政
策の在り方について」に関する審議を行っており,その審議の一環として,「常用漢字表」の見直しに
ついて検討を行っています。21 年 1 月には,現行の「常用漢字表」に追加する 191 字やその音訓と字体
の案を含む「「新常用漢字表(仮称)」に関する試案」を取りまとめたところであり,今後,これに関する
意見募集などを行った上で,22 年 2 月ころの答申を目指し審議を深めていくこととしています。
(3)国語施策情報システム
国語施策の充実を図り,国民の関心や必要にこたえるとともに,国語に対する認識を深めること
を目的として,平成 14 年 5 月からインターネットを通じて関連する資料を提供しています(参照:
http:// www.bunka.go.jp/kokugo)。
278 文部科学白書 2008
国語審議会及び文化審議会(国語分科会)の主要な答申と実施状況
第
図表 2-7-27
章
7
文化芸術立国を目指して
2
国語に関する意識啓発など
文化庁では,国語施策を改善・普及するため,様々な取組を実施しています。まず,平成 7 年度か
ら毎年「国語に関する世論調査」を実施し,現代の社会状況に伴う,日本人の国語意識の現状について
調査し,国語施策を進める上での参考としています。また,毎年「国語問題研究協議会」,「国語施策
懇談会」を開催し,最近の国語施策についての情報などを提供するとともに,参加者から国語施策に
対しての意見を頂いています。
さらに,子どもたちを中心に,適切な言葉遣いや言葉による表現などを実践的に学び,体験する機
会を提供することを目的とした,「言葉」について考える体験事業を全国各地で実施するほか,各地域
の指導者が言葉の専門家として活躍することができるよう,指導者講習を開催しています。
3
国立国語研究所
国立国語研究所は,我が国の国語施策の立案上,参考となる資料を提供するほか,我が国の国語,
外国人に対する日本語教育に関する研究の中心的な役割を果たすため,様々なことに取り組んでいま
す。具体的には,科学的な調査研究の実施・公表,広く一般を対象とした啓発図書の発行,公開事業
文部科学白書 2008 279
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
の実施,さらには現代日本語の専門研究機関として内外研究機関との連携・協力による国際シンポジ
ウムの開催,大学院教育への参画などを行っています(参照:http://www.kokken. go.jp)。
第
1
10
宗教法人制度の概要と宗務行政の推進
節
宗教法人制度の概要
現在,我が国には,教派,宗派,教団といった大規模な宗教団体や,神社,寺院,教会などの大小様々
な宗教団体が存在し,多様な宗教活動を行っています。そのうち,約 18 万 3,000 の宗教団体が,宗教
法人法に基づく宗教法人となっています(図表 2-7-28,図表 2-7-29)。
宗教法人制度を定める宗教法人法の目的は,宗教団体に法人格を与え,宗教団体が自由で自主的な
活動を行うための財産や団体組織の管理の基礎を確保することにあります。宗教法人制度は,憲法の
保障する信教の自由,政教分離の原則の下で,宗教法人の宗教活動の自由を最大限に保障するため,
所轄庁の関与をできるだけ少なくし,各宗教法人の自主的・自律的な運営にゆだねています。その一
方で,宗教法人の責任を明確にし,その公共性を骨子として全体系が組み立てられています。
図表 2-7-28
図表 2-7-29
宗教法人数
系統別信者数
(平成 18 年 12 月 31 日現在)
出典
2
宗務行政の推進
(1)宗教法人の管理運営の指導など
文化庁では,都道府県の宗務行政に対する指導・助言,都道府県事務担当者の研修会,宗教法人の
ための実務研修会などの実施,手引書や映像教材の作成などを行っています。
また,我が国における宗教の動向を把握するため,毎年度,宗教界の協力を得て,宗教法人に関す
る宗教統計調査を実施し,その結果を「宗教年鑑」としてまとめ,発行するほか,宗教に関する資料の
収集や海外の宗教事情の調査などを行っています。
280 文部科学白書 2008
第
章
7
文化芸術立国を目指して
宗教法人実務研修会 宗教年鑑等
(2)不活動宗教法人対策の推進
宗教法人の中には,設立後,何らかの事情により活動を停止してしまった,いわゆる「不活動宗教
法人」が存在します。不活動宗教法人は,その名義が売買の対象となり,第三者が名義を悪用して事
業を行うなど社会的な問題を引き起こすおそれがあり,ひいては,宗教法人制度全体に対する社会的
信頼を損なうことにもなりかねません。
このため,文化庁と都道府県においては,不活動状態に陥った法人について,吸収合併や任意解散
の認証で,また,これらの方法で対応できない場合は,裁判所に対して解散命令の申立てを行うこと
により,不活動宗教法人の整理を進めています。
(3)宗教法人審議会
宗教法人の信教の自由を保障し,宗教上の特性などに配慮するため,文部科学大臣の諮問機関とし
て,宗教法人審議会が設置されています。
第
11
節
アイヌ文化の振興
文化庁では,従来から,文化財保護の観点によるアイヌ関係の文化財の指定等を行い,北海道教育
委員会が行う事業への支援を行ってきました。平成 9 年 5 月に「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝
統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が成立しました。この法律は,アイヌの人々の誇り
の源泉であるアイヌの伝統等が置かれている状況を考慮し,アイヌ文化の振興等を図るための施策を
推進することにより,アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り,あわせて我
が国の多様な文化の発展に寄与することを目的としてつくられたものです。
文部科学大臣及び国土交通大臣は,同法の規定に基づく業務などを行う団体として財団法人アイヌ
文化振興・研究推進機構を指定し,同法人の行う事業に対して支援しています。同法人は,アイヌ
に関する研究等への助成,アイヌ語の振興及び,アイヌ文化の伝承再生や文化交流・普及事業,優
れたアイヌ文化活動の表彰,アイヌの伝統的生活空間(イオル)の再生事業などを行っています(図表
2-7-30)。
文部科学白書 2008 281
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
図表 2-7-30
事業体系図(平成 20 年度)
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282 文部科学白書 2008
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