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高等教育の多様な発展のために
第 3 第2部 文教・科学技術施策の動向と展開 章 高等教育の多様な発展のために 第3章のポイント 高等教育機関は,我が国の高度な教育と研究の中核を担っ ており,幅広い教養と,各学問分野の専門的知識・技能を有 する人材の育成や高度な研究を通じて,広く社会経済の発展 に貢献しています。 文部科学省では,国際競争力のある大学づくり,個性輝く 大学づくりを推進するため,各大学における大学教育改革の 取組を支援するとともに,大学の設置認可制度と認証評価制 度の的確な運用により,大学の質の保証と向上を図っていま す。 また,医療人の養成や大学病院の充実,奨学金事業の 充実,就職支援の強化など今日の社会的な課題に対する 取組も重点的に進めています。さらに,大学入学者選抜 の改善,高等専門学校の充実,高等教育の多様な発展の ための様々な取組を推進しています。 「中長期的な大学教育の在り方について」 中央教育審議会諮問−平成 20 年 9 月 11 日− 平成 20 年7月の「教育振興基本計画」は,平成 20 年度からの5年間を,高等教育の転換と革新に向け た始動期間と位置づけており,中長期的な高等教育の在り方について検討して,結論を得ることを求めて います。これを受けて,同年9月 11 日,鈴木恒夫文部科学大臣(当時)が中央教育審議会に「中長期的な大 学教育の在り方について」の諮問を行っており,現在,大学分科会が具体的な審議を進めています。 諮問事項は以下の三つです(各事項には,さらに具体的な複数の項目が含まれています)。 (1)社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について (2)グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について (3)人口減少期における我が国の大学の全体像について なお,これらとあわせて,関連する行財政システムの検討も行うこととしています。 大学分科会は,平成 21 年1月に審議経過を公表しており,その後も審議を継続しています。 「「中長期的な大学教育の在り方について」諮問に係る大学分科会の審議経過について」の項目の関係 これまでの審議の焦点としては,近年,我が国では大学数と学生数が大きく増えたことを受けて,大学 教育の質保証(上図1(2))と量的規模(同3(1))の2つを挙げることができます。このうち質保証について は,「設置基準」,「設置認可審査」,「認証評価」の3つの制度の役割の再検討が課題です。また,我が国の 大学にとって妥当な量的規模を検討していくことも求められています。その際,個性化と特色化が進む各 大学の機能別分化をどう促進するか(同3(4))も重要な論点です。 このほか,現在の大学の制度や教育は,学部などの組織が中心ですが,これを学位プログラムを中心と する考え方に再構成することで,教育目標を明確化し,体系的な教育課程を整備するアプローチも考えら れ,その検討も行われています(同1(1))。 (詳しくは,大学分科会のホームページ参照:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4 /index.htm)。 142 文部科学白書 2008 第 1 1 節 個性が輝く大学を目指して 高等教育改革の状況 高等教育機関,とりわけ大学は,我が国の高度な教育と研究の中核を担っており,幅広い教養と, 我が国の大学・短大への戦後の進学率は,昭和 50 年代から平成 2 年頃までほぼ横ばいだった期間 表 2-3-1)。このような中,社会人や留学生も含めて,様々な背景を備えた学生の入学が見られ,大 学教育の質を保証した上で,各大学が,それぞれの実情を踏まえつつ,社会や学生からのニーズにこ たえる教育を実施していくことが求められます。 図表 2-3-1 18 歳人口及び高等教育機関への入学者数・進学率等の推移 (出典)文部科学省「学校基本調査」 ,総務省統計局「人口推計」より文部科学省作成 また,社会経済のグローバル化が急速に進み,大学間の国境を越えた協働と競争が活発になってお り,大学の質保証には,国内だけでなく,諸外国の動向を踏まえた国際的な視野からの検討も不可欠 です。 これらを背景とする高等教育改革の内容は,極めて多岐にわたります(図表 2-3-2)。昭和 62 年に 設置された大学審議会は,「教育研究の高度化」,「高等教育の個性化」,「組織運営の活性化」の 3 点を 主要な審議事項として,大学設置基準の大綱化,自己点検評価の導入などをはじめとする様々な答申 を行い,それに基づいて各種の改革がなされました。平成 13 年以降,大学審議会に替わって,中央 教育審議会の大学分科会が,大学改革に関する審議を行っており,これまで法科大学院をはじめとす る専門職大学院制度の創設,設置認可の弾力化と認証評価制度の導入などが進みました。 中でも,平成 17 年の中央教育審議会の答申「我が国の高等教育の将来像」は,中長期的に想定され る高等教育の将来像を全体的に示した重要なものです。この答申では,大学の機能として 7 種類(① 文部科学白書 2008 143 高等教育の多様な発展のために を除くと上昇を続け,現在は大学・短大あわせて 55.3%,専門学校を含めれば 76.8%に達しています(図 3 章 の成果は,そこで学んだ個人の利益にとどまらず,広く社会経済の発展に貢献するものです。 第 各学問分野の専門的知識・技能を有する人材の育成に重要な役割を果たしています。また,大学教育 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 世界的研究・教育拠点,②高度専門職業人養成,③幅広い職業人養成,④総合的教養教育,⑤特定の 専門的分野(芸術,体育など)の教育・研究,⑥地域の生涯学習機会の拠点,⑦社会貢献機能(地域貢献, 産学官連携,国際交流など))を挙げ,各大学が,これらの各機能への比重の置き方の違いによって, 緩やかに機能別に分化していくことを想定しました。 この答申を受けて,中央教育審議会は,同じ年に答申「新時代の大学院教育」を公表し,大学院教育 の実質化と,国際的な通用性・信頼性の向上などについて提言しています。文部科学省では,この提 言を体系的・集中的に実施し,国際的に魅力ある大学院教育を実現するため,平成 18 年に「大学院教 育振興施策要綱」を策定しました。 さらに,中央教育審議会は,平成 20 月 12 月に,学部段階(学士課程)の教育に関する答申「学士課 程教育の構築に向けて」を公表しています。各大学が,どのような学生を受け入れて,どのような教 育を行い,どのような人材として社会に送り出すかは,各大学の個性・特色の根幹であり,各大学に 対し,そうした三つの方針を明確にして示すことを求めています。そして,専攻分野を横断して,学 士課程教育を通じて期待される学習成果を「学士力」として,各大学の参考指針となるよう示していま す(図表 2-3-3)。(「3. 教育内容・方法の改善・充実」と「第 3 節 3. 高大接続の改善」参照)。 現在,中央教育審議会の大学分科会では,平成 20 年 9 月に「中長期的な大学教育の在り方について」 の諮問がなされたことを受けて,大学の質保証システムの在り方など,様々な事項に関し総合的な審 議を行っています(参照:本章 Topic)。 図表 2-3-2 高等教育改革への平成 20 年度の取り組み 144 文部科学白書 2008 図表 2-3-3 学士課程教育の構築に向けて 学士課程教育の構築に向けて 第 章 3 高等教育の多様な発展のために 2 大学の国際競争力の向上 (1)卓越した教育研究拠点の形成 グローバル化が一層進展し,国際競争が激化する今後の社会においては,国際競争力のある大学づ くみ くりをさらに推進し,世界に伍する教育研究を積極的に展開することが求められています。 このため,文部科学省では,「新時代の大学院教育」(平成 17 年 9 月中央教育審議会答申)や 14 年 度から実施している「21 世紀 COE プログラム」の成果などを受けて,我が国の大学院の教育研究機能 文部科学白書 2008 145 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 を一層充実・強化するため,19 年度より,若手研究者の育成機能の強化や拠点の国際性をより重視し た「グローバル COE プログラム」を実施し,国際的に卓越した教育研究拠点の形成を重点的に支援し ています(20 年度実績:申請 315 件(130 大学),採択 68 件(29 大学))。 なお,「21 世紀 COE プログラム」については,採択大学における事業終了後の教育研究活動の持続 的展開やその水準の向上を目的として,5 年間の支援期間が終了した拠点に対して事後評価を実施し ています。 (2)国公私立大学を通じた大学教育改革の支援 個性輝く大学づくり,国際競争力の強化などが求められる中,大学における教育の質の充実や世界 で活躍し得る人材の養成は,極めて重要な課題であり,各大学における大学教育改革の取組を一層促 進していくことが必要です。 このため,文部科学省では,以下のプログラムを実施し,国公私立大学を通じた競争的環境の下で, 個性・特色ある優れた取組を選定し,重点的な支援を行うとともに,社会に広く情報提供することに より,大学教育改革の促進を図っています(図表 2-3-4)。 図表 2-3-4 国立私立大学を通じた大学教育改革の支援の充実等 , , ①人材養成目的の明確化を踏まえた高等教育の質の向上 質の高い大学教育推進プログラム(平成 20 年度から実施) 各大学の人材養成目的の明確化と教育活動についての PDCA サイクルの確立など組織的な教育の 質向上に向けた様々な取組を支援しています(20 年度実績:申請 939 件,選定 148 件)。 ②社会的ニーズに対応する人材養成と大学の多様な機能の展開 (ア)社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム(平成 19 年度から実施) 大学,短期大学,高等専門学校における教育研究資源を活用し,社会人の学び直しニーズに対応 した教育プログラムを展開する優れた取組を支援しています(20 年度実績:申請 150 件,選定 34 件)。 146 文部科学白書 2008 (イ)新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム(平成 19 年度から実施) 大学,短期大学,高等専門学校が実施する,新たな社会的ニーズに対応した優れた学生支援の取 組を支援しています(20 年度実績:申請 230 件,選定 23 件)。 (ウ)専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プログラム (平成 19 年度から「専門職大学院等教育推進プログラム」として実施) 高等教育機関における高度専門職業人養成などの一層の強化を図ることを目的として,国公私立 います(20 年度実績:申請 59 件,選定 26 件)。 第 大学が行う,産業界などとの連携に基づいた教育方法などの充実に資する先導的な取組を支援して 章 3 ③大学の国際化と国家戦略としての留学生政策の推進 (ア)長期海外留学支援(平成 17 年度から実施) 海外の大学院等の学位取得などを目的とした学生等の海外派遣の取組のうち,優れた取組を支援 しています(20 年度実績:応募 124 名,選定 72 名)。 (イ)海外先進教育研究実践支援(平成 16 年度から実施) 教職員の資質向上などを目的とした海外派遣の取組のうち優れた取組を支援しています(20 年度 実績:(教育内容・方法等の改善に資する取組)申請 66 件,選定 18 件,(教職員の教育研究能力等 の向上を図る取組)申請 274 名,選定 154 名)。 (ウ)国際共同・連携支援(平成 20 年度から実施) 大学の国際化戦略に基づき,単位互換やダブル・ディグリープログラム* 1 を総合的・体系的に行 い相互連携を促進する取組や,将来のより密接した教育連携に資する優れた取組を支援しています (20 年度実績:(総合的・体系的な相互連携を促進する取組)申請 33 件,選定 6 件,(将来のより密 接した教育連携に資する取組)申請 72 件,選定 13 件)。 ④大学院教育の抜本的強化 大学院教育改革支援プログラム (平成 19 年度から実施) 産業界をはじめ社会の様々な分野で幅広く活躍する高度な人材を養成するため,国際的水準のコ ースワークの充実などの大学院における優れた組織的・体系的な教育の取組を支援しています(20 年度実績:申請 273 件,採択 66 件)。 ⑤地域振興の核となる大学間連携の推進 戦略的大学連携支援事業(平成 20 年度から実施) 大学連携による共通・専門教育の先進的なプログラム開発や,教員の教育内容などについての 組織的な研修(ファカルティ・ディベロップメント* 2)の共同実施など,国公私立の複数の大学に よる多様で特色ある大学間の戦略的な連携の取組を支援しています(20 年度実績:申請 94 件,選 定 54 件)。 ⑥大学・大学病院が連携した医師などの養成システムの推進 (ア)大学病院連携型高度医療人養成推進事業(平成 20 年度から実施) 複数の大学病院がそれぞれの得意分野による相互補完を図りつつ緊密に連携し,質の高い専門医 や臨床研究者を養成するための優れた取組を支援しています(20 年度実績:申請 28 件,選定 19 件)。 *1 ダブル・ディグリープログラム 複数の大学が,単位互換制度を活用して,学生に複数の学位プログラムを修了させることにより複数の学位を授与する取り組 みのこと。 *2 ファカルティ・ディベロップメント(FD) 教員が授業内容・方法を改善し,向上させるための組織的な取組。例えば,教員相互の授業参観の実施,授業方法についての 研究会の開催,新任教員のための研修会の開催等が挙げられる。学部については平成 20 年度,大学院については平成 19 年度 より FD の実施が義務付けられている。 文部科学白書 2008 147 高等教育の多様な発展のために 大学教育の国際化加速プログラム 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 (イ)がんプロフェッショナル養成プラン(平成 19 年度から実施) がん医療の担い手となる高度な知識・技術を持つがん専門医師など,がんに特化した医療人を養 成する優れた取組を支援しています(20 年度:継続支援 18 件)。 ⑦産学連携による高度人材育成の充実 (ア)産学連携による実践型人材育成事業(平成 20 年度から実施) 多様な社会の要請に対応できる人材や,新たな産業を創出する創造性豊かな人材など,実践的な 人材を育成するため,産学連携による実践的な環境下での教育プログラムの開発・実施を支援して います。(20 年度実績:申請 93 件,選定 12 件)。 (イ)先導的 IT スペシャリスト育成推進プログラム(平成 18 年度から実施) 世界最高水準の IT 人材として求められる専門的スキルを有し,企業などにおいて先導的役割を 担う人材を育成する拠点形成を支援しています(20 年度:継続支援 8 件)。 3 教育内容・方法の改善・充実 学部段階における教育,いわゆる学士課程教育をめぐっては,多年にわたり様々な議論が重ねられ ました。平成 20 年 12 月の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」は,各大学が教学経営 において「学位授与の方針」「教育課程編成・実施の方針」「入学者受入れの方針」を明確に示し,学士 課程教育を組織的・総合的に運用するとともに,教職員の職能開発や質保証システムを強化すること で,学士課程教育の全体の質を保証する仕組みを実質化することを提言しています。 これらにより,各大学における教育内容・方法の改善・充実にあたっては,学位授与の方針や教育 研究上の目的を定め,それらと整合性・一貫性をもった,教育課程編成・実施の方針を明確化するこ とが必要です(図表 2-3-3)。 具体的には,以下のような取組が重要です。 ①体系的な教育課程の編成 学習成果や教育研究上の目的を明確化した上で,その達成に向け,順次性のある体系的な教 ふかん 育課程の編成が必要です。また,学生の幅広い学修を保証するため,多様な学問分野の俯瞰を 可能とする教育課程の工夫などの意図的・組織的な取組も期待されます。 ②単位制度の実質化 そんしょく 単位制度の国際的な通用性の観点から,学習時間の実態を国際的に色ない水準にすること が必要であり,例えば,大学設置基準に基づいて,講義であれば 1 単位当たり最低 15 時間の授 業時間数の確保が必要です。 各大学においては,単位制度の実質化に向けて,シラバス* 3,セメスター制* 4,キャップ制* 5, 厳格な成績評価(GPA(グレード・ポイント・アベレージ)制度* 6)などの諸手法の導入について も積極的な検討が期待されます。 *3 シラバス 授業科目名,担当教員名,講義目的,講義概要,毎回の授業内容,成績評価方法,教科書や参考文献,その他履修する上で 必要となる要件について記した授業計画のこと。 *4 セメスター制 日本で多く見られる通年制(一つの授業を 1 年間通じて実施)とは異なり,学期(セメスター)ごとに各授業を完結させる制 度。1 学期の中で少数の科目を集中的に履修することで学習効果を高めることを目的とする。 *5 キャップ制 単位の過剰登録を防ぐため,1 年間,あるいは 1 学期間に履修登録できる単位の上限を設ける制度。過剰な単位登録は,1 単 位あたり 45 時間相当の学修を要するという原則を妨げることから,単位制度の実質化を目的として導入される手法の一つ。 *6 GPA(グレード・ポイント・アベレージ)制度 授業科目ごとの成績評価に対し,4・3・2・1・0 のようにグレードポイントを付与し,この単位当たりの平均を出して,その 一定水準を卒業などの要件とする制度のこと。客観的な成績評価方法の 1 つとして,各大学において導入が図られている。 148 文部科学白書 2008 ③教育方法の改善 各大学においては,体験活動などの学生の主体的な参画を促す授業となっているか,少人数 指導の推進や情報通信技術の活用などの様々な学習支援体制が整備されているかなどについて 点検し,その結果に応じて改善することが必要です。 ④厳格な成績評価 各大学においては,成績評価に当たって,各授業科目の到達目標や成績評価基準をあらかじ 評価に当たっていくことが重要です。 章 3 ⑤教員の職能開発 ファカルティ・ディベロップメントが重要であり,平成 20 年度からファカルティ・ディベロッ プメントが学士課程で義務化されたことも踏まえ,各大学において積極的な取組が必要です。 ⑥大学関係団体による自主的・自律的な質保証 上記のような各大学における取組に加え,大学関係者による自主的・自律的な教育内容の質 保証の取組も重要であり,学協会や大学団体などによる分野別のモデルカリキュラムの作成な どの取組も重要です。 社会に開かれた高等教育 (1)社会人受入れへの対応 「教育振興基本計画」 (平成 20 年 7 月閣議決定)においては,だれもが生涯のいつでも必要な時に学び, また,何度でも新たな挑戦を行うことができる社会の実現に向けて,大学等において,社会人をはじ めとする幅広い学習者の要請に対応するための取組が求められています。このため,文部科学省では, 社会人の受入れを一層促進できるよう以下のように制度の弾力化などに取り組んできており,職業を 有しながら大学で学ぶことを希望する人々の学習機会が拡大しています。 制度等の名称 制度等の概要 実績(平成 19 年度) 長期履修生制度 職業を有している等の事情に応じ,修業年限を超えて計画的に教育課 程を履修し卒業できる制度 231 大学が導入 科目等履修生制度 正規の学生でなくても,大学等の授業科目を履修して単位を修得する ことができる制度 712 大学が導入 夜間大学院 通信制大学院 サテライト キャンパス 夜間において教育を行う大学院 28 大学が設置 通信教育を行う大学院 23 大学が設置 大学の本校に継続的に通うことが困難な者が教育を受けることができ る本校以外のキャンパス 173 大学, 25 短大が設置 また,平成 19 年度には学校教育法を改正し,大学の学生以外の者に大学等で高度かつ専門的な内 容を体系的に学べる機会を提供するとともに,大学等の積極的な社会貢献を促進するため,大学等が 社会人など学生以外の者を対象とした一定のまとまりのある学習プログラム(履修証明プログラム) を開設し,その修了者に対して履修証明書(サーティフィケート)を交付できる制度(履修証明制度) を創設しました。現在,離職中の保育士らが新しい能力を身につけて現場に復帰できるよう支援する 「HPSJapan 養成教育プロジェクト」を開設した静岡県立短期大学や,小・中・高等学校から生涯学習 に至るまでの情報教育支援士を養成する「初等中等教育及び生涯学習のための情報支援士養成プログ ラム」を創設した九州工業大学などをはじめ,様々な大学等が積極的に履修証明プログラムの開設・ 実施に取り組んでおり,20 年 5 月現在,26 大学で 33 プログラムが実施されています。 文部科学白書 2008 149 高等教育の多様な発展のために 大学が組織的に教育活動を展開したり,多様化する学生に対して適切な教育指導を行う上で, 4 第 め明確化するとともに,GPA をはじめとする客観的な評価システムを導入し,組織的に学修の 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 さらに,文部科学省では,平成 19 年度から「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」を 実施し,大学等の教育研究資源を活用した社会人等(ニート・フリーターを含む)の再教育やキャリア アップに有効な短期かつ体系的な教育プログラムの開発・普及に関する事業を 160 件支援しています。 具体的には,情報通信関連企業の在籍者や求職者などを対象に,座学講義と実習などを通して,コン ピューターネットワーク技術の修得を図る取組や,出産や育児等の理由により離職し,看護師資格を 有しながら現在働いていない看護師の再就業支援を図る取組などが実施されています。 これらの取組を活用することで,社会人などの多様なニーズに応じた体系的な教育,学習機会の提 供が促進されることが期待されます。 (2)産業界との連携 近年,社会,経済が高度化,複雑化し,グローバル化が一層進展する中で,今後も我が国が活力あ る社会を築き,国際社会での競争力を維持・強化していくためには,多様な社会の要請に対応できる 人材や,新たな産業を創出する創造性豊かな人材の養成が不可欠となっています。 このため,文部科学省は,インターンシップ (就業体験) の推進,産学連携による教育プログラムの開発・ 実施といった,大学等と産業界との連携・協力による教育の充実を図るための支援を行っています。 また,産学協同により,ものづくり過程の全体を見渡し,技術の目利きをすることのできるものづ くり技術者の育成を図る教育プログラムや,高度専門人材の育成に資するため,大学院生を対象とす る質の高い長期インターンシップ・プログラムを開発・実施する「産学連携による実践型人材育成事業」 を実施しています。 さらに,大学界と産業界が人材育成における対話と行動を行う場として,文部科学省と経済産業省 は,「産学人材育成パートナーシップ」を推進し,平成 20 年 7 月に「中間とりまとめ」を公表しました。 このように高等教育段階における地域社会・産業界との連携が,社会の要請を的確に反映し,多様 性と質を高めながら一層推進されることにより,これからの知識基盤社会を支える高度で有為な人材 を育成していくことが期待されています。 第 1 2 節 高等教育の更なる発展に向けて 大学の質の保証と向上のための制度改革の取組 (1)設置認可制度の的確な運用 大学の設置や組織改編は,大学の質の国際的な通用性の確保や学生保護のため,設置審査などの所 定の手続を経て行われます。公私立大学の場合,文部科学大臣による認可が必要です。国立大学につ いては,国立学校であるため認可を必要としませんが,公私立大学に準じて,設置審査を経ることと しています。 文部科学大臣は大学の設置などの申請を受けると,申請内容が大学設置基準などの法令に適合して いるかどうかについて,学識経験者などからなる大学設置・学校法人審議会に諮問します。大学設置・ 学校法人審議会には,「大学設置分科会」「学校法人分科会」の 2 つの分科会が置かれており,大学設 置分科会では,大学設置基準などに基づき教学面を審査し,学校法人分科会では,私立大学の財政計画・ 管理運営面を私立学校法などに基づき審査し,それぞれにおいて各種基準に適合していると認めたも のについて,文部科学大臣が認可を行います。 他方,文部科学省では,規制改革の流れを受けて,平成 15 年度から,大学・学部などの新増設や 150 文部科学白書 2008 収容定員の増加を原則として認めない取扱いを,医師の養成などの一部の分野を除いて撤廃したり, 授与する学位の種類や分野を変更しない学部・学科などについて,届出による設置を可能とするなど, 設置認可制度の大幅な弾力化を進めました。その結果,大学の新規参入や組織改編を促進する環境が 整い,多くの大学が様々な学部などを認可申請又は届出によって設置しています(参照:本章第 4 節 1 (1))。また,構造改革特別区域制度により,株式会社の設置する大学も参入しています。 しかしながら,近年,大学の設置に関する構想等が十分に練られていない事例が増えてきており, などの中には,開設後,数年も経たないうちに再び届出により新たな学部などに転換するなど,安易 法令違反が確認され,改善勧告を受けた大学もあります。 大学は,一度開設されると,そこには学生が入学してくるため,簡単に計画変更や組織改編をする わけにはいきません。そのため,大学などの設置認可の段階においては,学生保護の観点から,最低 限の質が確保できているかどうかを適切に審査することが重要です。また,各大学においては,安易 に学部などを設置するのではなく,しっかりと準備をした上で認可申請又は届出をすることが求めら れています。 (2)認証評価制度 平成 16 年度から,学校教育法において,すべての大学,短期大学,高等専門学校が定期的に,文 部科学大臣の認証を受けた第三者評価機関(認証評価機関)から評価を受ける制度を導入しました。 この制度は,①評価結果を受けて大学等が自ら改善を図ること,②評価結果が公表されることによ り,大学などが社会による評価を受けることを目的としており,大学等の評価は 7 年以内ごと,専門 職大学院の評価は 5 年以内ごとに受けることになっています。 また,認証評価制度の特色としては,①各認証評価機関が定める評価基準に従って評価を実施する こと,②大学等が複数の認証評価機関の中から評価を受ける機関を選択することが挙げられ,これら により,大学等の自主性・自律性に配慮しつつ,各大学等の教育研究の特性に応じて適切に評価され る仕組みになっています。 認証評価機関となるには,文部科学大臣から認証される必要があり,平成 21 年 2 月までに 8 機関 が認証されています。なお,文部科学大臣が評価機関を認証する場合には,大学関係者など,有識者 の意見を踏まえつつ認証を行うため,中央教育審議会へ諮問することとされており,その答申を踏ま えて認証を行っています。 これらの機関は平成 20 年度末までに,大学 381 大学,短期大学 194 大学,高等専門学校 58 校,法 科大学院 68 専攻,会計専門職大学院 5 専攻,経営系専門職大学院 14 専攻,助産専門職大学院 1 専攻 の認証評価を行い,その結果を公表しています。 さらに,大学がその社会的責任を果たしていくためには,自らの教育研究の理念・目標に照らして, 教育研究活動の状況を不断に点検・評価し,自らの責任において自己改善に努めていくことが基本と なります。そのため,上記の認証評価制度とは別に,学校教育法において,すべての大学が自己点検・ 評価を行い,その結果を公表することを義務付けています。 2 理工系人材の養成 我が国が「科学技術創造立国」を目指し,発展していくためには,今後さらに,先導性・独創性を発 揮し,国際社会に貢献していくことが期待されており,このような我が国の科学技術を支える理工系 文部科学白書 2008 151 高等教育の多様な発展のために な組織改編と言わざるを得ない事例も出てきています。この他,株式会社の設置する大学の中には, 3 章 16 件となっています。また,大学設置・学校法人審議会による審査を経ないで届出で設置された学部 第 保留,取下げ又は不認可となった件数は,平成 19 年度審査では 14 件であったのが,20 年度審査では 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 人材として,倫理観を備え,創造性豊かな質の高い人材の育成が強く求められています。 平成 18 年度から 22 年度における我が国の科学技術の基本方針を示した「第 3 期科学技術基本計画」 (18 年 3 月 28 日閣議決定)においても,知の創造と活用において,創造性豊かで国際的にリーダーシ ップを発揮できる広い視野と柔軟な発想を持つ人材を育成するため,大学における人材育成機能の強 化について言及されています。それとともに,技術者の養成についても,この計画の中で,大学,高 等専門学校,専修学校などにおいて,将来のものづくり人材を含めた技術者養成のための実践的教育 を進めるとしています。 大学,高等専門学校における取組として,技術者教育プログラムの認定制度* 7 を利用するケースが 増えています。これは,日本技術者教育認定機構(JABEE)が大学・高等専門学校などにおける技術者 教育の質的向上や技術者教育の国際的な通用性・共通性を担保する観点から行っているもので,平成 19 年度からは新たに大学院修士課程における技術者教育プログラムの認定が始まり,19 年度までに 368 のプログラムが認定されています。 3 医療人の養成 医師不足による地域医療の崩壊,高齢化による疾病構造の変化,患者のニーズの多様化,生命科学 や医療技術の急速な進歩などを背景として,国民の期待にこたえる「良き医療人」の養成が一層重要と なっています。文部科学省としても,医療人の養成を担う各大学と協力しながら,様々な改革を進め ています。 (1)医師の養成 ①医師不足への対応 小児科や産科などの診療科や地域における医師不足が社会的に大きな問題となっており,地域の 医療を担う医師の養成が重要となっています。このため平成 21 年度の医学部入学定員については, 「経済財政改革の基本方針 2008」(20 年 6 月閣議決定)を受けて増員を行い,8,486 名(前年対比 693 名増)としました(図表 2-3-5)。併せて各大学では,地域枠や奨学金などの充実による地域定着策 や産科・小児科医養成のための教育・研修の充実などの取組を行っています。 また,平成 20 年 9 月には,厚生労働省と合同で「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」を開 催し,より良い医師の養成と医師の地域偏在に対応するという観点から,臨床研修について研修プ ログラムの弾力化や臨床研修病院の指定基準の見直しなどの提言がなされました。 ②医学教育の改善・充実 医師については,人間性豊かで高度な臨床能力を持ち,患者中心の医療を実践できる医療人の養 成に大きな期待が寄せられています。これまで,医学生が卒業までに最低学ぶべき教育内容を精選 した「モデル・コア・カリキュラム」を作成するとともに,診療参加型臨床実習開始前の標準評価試 験(共用試験)を導入するなど各大学におけるカリキュラム改革などを進めてきました。また,前述 の「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」においても,卒前,卒後の一貫した医師養成を図ると いう観点から,臨床実習の充実を図るなど医学教育のカリキュラムの見直しを行うことが提言され ました。これを受け,平成 21 年 2 月に「医学教育カリキュラム検討会」を開催し,基本的な臨床能 力を確実に修得させる臨床実習をはじめとする医学教育の強化,地域や診療科に必要な医師を確保 するための効果的な養成方策などの医学教育の改善・充実方策について検討を行いました。 *7 技術者教育プログラムの認定制度 大学など高等教育機関における技術者教育の内容を外部機関が審査し,一定の水準を確保している教育プログラムを認定す る制度。 152 文部科学白書 2008 図表 2-3-5 医学部医学科における入学定員(募集人員)の推移 第 章 3 高等教育の多様な発展のために (出典)文部科学省調べ (2)歯科医師の養成 歯学教育に関しては,モデル・コア・カリキュラムの作成を通じて診療参加型の臨床実習の強化を 図るとともに,医学教育と同様に共用試験を導入するなど,歯科医師となる者の資質能力の向上に向 けた取組が進められています。 平成 20 年 7 月に,「歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」を開催し,国民から信頼 される確かな臨床能力を備えた歯科医師を養成する質・量ともに適正な歯学教育について議論を行い ました。21 年 1 月には,「歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議 第 1 次報告〜確かな 臨床能力を備えた歯科医師養成方策〜」において,①歯科医師として必要な臨床能力の確保,②優れ た歯科医師を養成する体系的な歯学教育の実施,③歯科医師の社会的需要を見据えた優れた入学者の ひら 確保,④未来の歯科医療を拓く研究者の養成,の 4 つの観点からの提言をとりまとめました。 引き続き歯学教育の質保証の方策などの課題について検討を行います。 (3)薬剤師等の養成 医療技術の高度化,医薬分業の進展等に伴い,医薬品の安全使用,最適な薬物療法の提供,患者へ の適切な服薬指導の実施など,医療の現場において医療の担い手としての薬剤師の役割が重要となっ ています。平成 18 年 4 月から薬剤師養成のための薬学教育は6年制の学部・学科において実施する一方, 薬学教育が医薬品の研究や開発など,多様な分野に進む人材を養成してきたことを踏まえ,4 年制の学 部・学科も置いています。質の高い薬剤師養成のため薬学教育の改革の推進を図るため,平成 21 年 2 月より 「薬学系人材養成の在り方に関する検討会」を開催し,新薬学教育制度のもとでの大学院教育の 在り方や今後の社会的要請を踏まえた薬学教育の在り方などについて検討を進めています。 (4)看護師等医療技術者の養成 看護師など医療技術者の養成に関しては,質の高い医療技術者,教育者,研究者の養成を目的とし 文部科学白書 2008 153 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 た大学・大学院の設置が増えています。 看護職の養成については, 「看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標 (平成 16 年 「看 護学教育の在り方に関する検討会」 報告書) 」 において,卒業時における看護実践能力の到達度を示しま した。また 19 年には大学 ・ 短期大学における看護学教育の発展について検討を行い, その内容も踏まえ, 20 年に保健師助産師看護師学校養成所指定規則を改正し,看護職の養成に必要な教育内容の充実を図 っています。さらに,看護師を養成する大学数の増加に伴い,実習施設の不足などの問題が生じてい ることから,21 年 3 月から大学における看護系人材養成の在り方について検討を始めています。 (5)がん医療への取組 がんは,我が国の死亡率第 1 位の疾患である一方,放射線療法や化学療法など複数の治療法を組み 合わせたがん治療ができる専門家が全国的に少なく,その育成が急務とされています。また,近年の 高度化したがん医療の推進は,医師のみにより可能なものではなく,高度ながん医療に習熟した看護 師,薬剤師,その他の医療技術者(コメディカル)などが参画し,チームとして機能することが何より 重要です。 そのため,文部科学省では,平成 19 年度から,大学と大学病院が連携して,優れたがん専門家を 養成するための横断的な教育プログラムを構築する「がんプロフェッショナル養成プラン」を実施し, 18 件(92 大学)の取組を選定しました。 また,がん対策基本法に基づき,平成 19 年 6 月に閣議決定された「がん対策推進基本計画」において, ①大学において,がん診療に関する教育を専門的に行う教育組織の設置等の環境整備,②緩和ケアに 関する大学の卒前教育の充実及びがん診療に携わるすべての医師に対する緩和ケアの研修の推進等の 具体的な課題が掲げられており,それらについても,本プランを通じて各大学の取組を支援するなど 積極的な対応を図り,がん医療に携わる質の高い人材の養成を推進していきます。 (6)大学病院の充実 ①周産期医療体制などの整備 周産期医療体制が大きな社会問題となっており,地域医療の「最後の砦」として,大学病院への期 待はますます高まっています。特に,深刻な医師不足の中で,周産期医療の人材養成の充実は重要 な課題となっています。 このため,文部科学省では,我が国の周産期医療体制の強化に貢献するため,「大学病院の周産 期医療体制整備計画(平成 20 年 12 月 5 日文部科学大臣発表)」を策定し,国立大学病院の周産期医 療体制の 4 カ年整備計画と国公私立大学病院の周産期医療に関する人材養成の強化に取り組んでい ます。 ②国立大学病院に対する経営改善支援 平成 16 年度から国立大学は法人化され,附属病院についても自主・自律的な運営により効率的 な経営が求められています。附属病院は国立大学の一部局ですが,投じられている予算,マンパワ ー(人的資源),自己収入の大きさなどを考慮すれば,国立大学法人の経営に大きな影響を及ぼす ことになり,その経営改善の推進と経営基盤の確立が急務となっています。 文部科学省では,これらの課題に対応するため,各大学病院に対して,経営改善の一層の推進を 促すとともに,教育・研究・診療機能の維持・充実の観点から財政措置を行い,経営基盤確立のた めの支援を行っています。 154 文部科学白書 2008 3 第 節 大学入学者選抜の改善 大学進学希望者の能力・適性,履修歴などが多様化していく中で,各大学は,入学者受入れの方針 (アドミッション・ポリシー)を明確にするとともに,高等学校教育にも配慮しつつ,大学入試の改善 に不断に取組むことが必要です。 大学入試センター試験の改善・充実 平成 2 年度入試から,大学入試センター試験が実施されており,各国公私立大学が,それぞれの入 学者受入方針と創意工夫に基づき,入試で利用する教科・科目を自由に定めること(アラカルト方式) ができるようになっています(21 年度利用大学数:643 大学,154 短期大学)。 また,平成 24 年 1 月に実施される大学入試センター試験から,「地理歴史・公民」,「理科」におけ る科目選択の弾力化,「倫理,政治・経済」の科目の新設が行われることとなります。 2 高大接続の改善 これまで,各大学においては,受験生の能力・適性などを多面的に判定できるよう,面接,小論文 などの評価尺度の多元化,アドミッション・オフィス入試* 8,推薦入試といった入試方法の多様化など, 大学入試の改善に向けた取組が進められてきました。 しかし,いわゆる大学全入時代を迎え,総じて大学入試の選抜機能が低下し,入試によって大学進 学希望者の学力水準を担保することが困難な状況になりつつあります。他方,高等学校でも,大学入 試の存在自体が大学進学希望者の学習意欲を喚起することが困難な状況になりつつあります。現在, アドミッション・オフィス入試や推薦入試は,受験者は一定の学力を有しているとの前提の下,必ず しも学力を課さない形態で普及しており,学力の担保を課題とする大学もあります。 こうしたことから,平成 20 年 12 月の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」では,今 後は,高等学校と大学が選抜だけでつながる関係から,客観的できめ細やかな学力の把握とそれに基 づく適切な指導によって学力向上が図られるよう,共に力を合わせて取り組む関係へと転換すること が必要との提言がなされています。また,その方法の一つとして,高等学校の指導改善や大学の初年 次教育,大学入試などに活用可能な「高大接続テスト(仮称)」に関する協議・研究などの取組も期待さ れています。 第 1 4 節 高等教育機関の多様な展開 国公私立大学の充実 (1)国公私立大の整備充実 【国立大学】 国立大学は,我が国の学術研究と研究者養成の中核を担うとともに,全国的に均衡のとれた配置に *8 アドミッション・オフィス入試 詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接を組み合わせることによって,受験生の能力・適性や学修に対する意欲,目的意 識等を総合的に判定する選抜方法。 文部科学白書 2008 155 高等教育の多様な発展のために 1 3 章 た。これらの提言を受けて,文部科学省では大学入試の改善に向けた様々な施策に取り組んでいます。 第 これまでにも中央教育審議会などにおいて大学入試の改善に関する様々な提言が行われてきまし 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 より,地域の教育,文化,産業の基盤を支え,学生の経済状況に左右されない進学機会を提供するなど, 重要な役割を果たしてきました。 平成 16 年には,大学の自主性・自律性を向上させ,教育研究活動を活性化する観点から,それま で国の組織の一部であった国立大学が法人化されました。これは国立大学を国の人事や予算などの枠 組みから外し,大学自らの責任と判断で運営できるよう,その裁量を大幅に拡大したものです。 ①法人化後の国立大学法人の取組について 法人化後,各国立大学法人は,その個性や特色を生かした取組を積極的に展開してきました(図 表 2-3-6)。 各国立大学法人の取組 図表 2-3-6 , , , , , , , , , , , ②国立大学の再編・統合 国立大学の再編・統合は,教育研究の一層の発展という観点から,各大学間の自主的な検討結果 を踏まえて行われています。国立大学の数は平成 14 年 4 月には 101 大学でしたが,14 組 29 大学 が統合し,現在 86 大学となっています。 ③学部の整備充実 平成 20 年度においては,学問の進展に対応し社会的要請の強い人材を養成するため,各大学に おいて学部などの整備が行われました。金沢大学では,幅広い分野の知識・技術を修得し,社会の ニーズに対応できる人材を養成するために,8 学部から 3 学域 16 学類に改組を行いました。また, けん 観光分野において,我が国における経済活動・地域振興などに重要な役割を果たし,観光を牽引し ていく人材を養成するために,和歌山大学が観光学部を,琉球大学が観光産業科学部を設置しまし た。 ④大学院の整備充実 平成 20 年度においては,近年の学校教育を巡る課題の複雑・多様化に伴い,より高度な専門性 を備えた力量ある教員の養成を目的とする「教職大学院」について,北海道教育大学が教育学研究科 に高度教職実践専攻を設置するなど 15 大学が研究科や専攻を開設しました。 156 文部科学白書 2008 また,9 大学が 11 研究科等(医工学研究科など)を,30 大学が 83 専攻(アニメーション専攻など) を設置しました。 【公私立大学】 公私立大学においては,平成 15 年度(16 年度開設)4 月から学部・研究科などの設置について広く 届出制を導入しており,16 年度(17 年度開設)以降においても活発な組織改編が行われています(15 年 度開設 278 件,16 年度開設 472 件,17 年度開設 392 件,18 年度開設 482 件,19 年度開設 353 件,20 ら株式会社による大学等の設置も行われています。 3 章 高等教育の多様な発展のために 図表 2-3-7 第 年度開設 345 件,21 年度開設 313 件(図表 2-3-7))。また,構造改革特別区域制度により,16 年度か 近年の公私立大学の設置状況 ①学部の整備充実 平成 20 年度に設置認可された大学(21 年度開設)は 15 校(大学 11 校,短期大学 4 校)でした。設 置形態としては新規に参入するものが 1 校,公立大学の設置が 3 校(うち 1 校は統合によるもの), 既設の学校法人が新たに大学を設置するものが 7 校でした。そのうち,短期大学を廃止して大学を 新設するものが 3 校で,4 年制大学志向の高まりから,短期大学から 4 年制大学への転換が続いて います。また,短期大学を新設する 4 校はすべて専門学校を改組するものでした。 そのほか,社会的な要請に対応した各大学における自主的な取組により,特に看護・医療技術系 の専門的な職業の人材を養成する学部の整備が引き続き進んでいるほか,子ども学部,子ども教育 学科といった,教育・保育系の学部・学科が設置されています。 ②大学院の整備充実 平成 20 年度に設置認可された大学院(21 年度開設)は 8 校でした。また,研究科・専攻を設置す るもののうち,教職大学院は 2 校,教職大学院を除く専門職大学院は 3 校でした。 その他についても,スポーツ・健康科学研究科,法心理学専攻といった多様な研究科・専攻が設 置されています。 (2)専門職大学院の新たな展開 社会が多様に発展し,国際的競争も激しくなる中で,多様な経験や国際的視野を持ち,高度で専門 的な職業能力を持つ人材が多く必要とされるようになってきています。このような社会のニーズに対 応するため,高度専門職業人の養成に目的を特化し,理論と実務を架橋する実践的な教育を展開する 専門職大学院を平成 15 年に創設しました。 平成 20 年 4 月現在,法曹養成(法科大学院),教員養成(教職大学院),会計,経営管理,MOT(技 術経営),公共政策などの多様な分野で計 174 専攻(うち法科大学院 74 専攻)が開設され,それぞれの 文部科学白書 2008 157 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 個性・特色に応じた教育を実施しています。このうち法科大学院は,旧来の司法試験という「点」のみ による選抜ではなく,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての新た な法曹養成制度の中核的機関としての役割を果たしています。また,近年の社会構造の急激な変化や 学校教育が抱える課題の複雑・多様化に伴い,より高度な専門性と豊かな人間性・社会性を備えた力 量ある教員が求められていることから,専門職大学院の一類型として「教職大学院」制度を創設し,20 年度から教職大学院が開設されています。 (3)短期大学教育の充実 短期大学は,学校教育法において 4 年制大学と目的や修業年限を異にする大学として位置付けられ ており,制度創設以来,私立短期大学を中心に量的整備が図られ,特に女子の高等教育の普及や実践 的職業教育の場として大きな役割を果たしてきました。 短期大学の個性・特色は,身近な高等教育機関として,短期間で,大学としての教養教育やその基 礎の上に立った専門教育を提供する点にあります。このような特徴の明確化に資するよう,平成 17 年に短期大学卒業者に対する「短期大学士」の学位制度が創設されました。これにより,諸外国と同様 に学位が授与されることになり,我が国の短期大学卒業者が外国の大学に留学する際や,我が国の短 期大学に留学していた外国の学生が帰国して就職する場合に,短期大学卒業という学歴や知識・能力 が適切に評価され,学生の国際交流に資するものと考えられます。さらに各短期大学においては,学 位授与機関として,教育内容の一層の改善・充実に向けた取組が進められることが期待されています。 また,短期大学は地域と連携協力して多様な学習機会を提供することが期待されており,このよう な期待にこたえる一つの取組として,社会人を含めた地域の多様な需要により柔軟に対応していくこ とを目的とした総合的な学科(地域総合科学科)の設置が進められています(平成 20 年度現在,28 短期 大学 34 学科)。 地域総合科学科は,学科の分野を特定せず,複数の異なる分野の科目やコースを用意し柔軟な履修 を可能とすることにより,学生や地域の様々な需要にこたえていくことを目的とした学科の総称であ り,(財)短期大学基準協会によって,その特色と教育の質について適格認定が行われています。 2 高等専門学校の充実 高等専門学校は,中学校卒業後という早い年齢段階からの,実験・実習を重視した,5 年間一貫の 専門的・実践的な技術教育を特徴とする高等教育機関です(図表 2-3-8)。 工業の分野を中心に,平成 20 年 5 月現在,国立 55 校,公立 6 校,私立 3 校の計 64 校が設置され ていますが(図表 2-3-9,図表 2-3-10),その教育成果は,産業界から高い評価を受けており,最近 の平均求人倍率は 20 倍前後に達し(図表 2-3-11),例年 100%近い就職率となっています。 卒業後には,大学 3 年次への編入学制度などによる進学の道が開かれており,平成 20 年 3 月の高 等専門学校卒業者のうち約 42%に当たる 4,316 人が,専攻科や長岡,豊橋の技術科学大学をはじめと する国・公・私立大学などに進学しています。 高等専門学校には,より高度な教育研究を行う課程として 2 年間の専攻科があり,現在すべての高 等専門学校のうち 60 校に設置されています。大学評価・学位授与機構が認定した専攻科の修了者は, 一定要件を満たせば,同機構から学士の学位を授与されることとなっており,高等専門学校機構の専 攻科はすべて同機構の認定を受けています。また,専攻科修了後の大学院進学率も最近では約 30%と なっています(図表 2-3-12)。 各高等専門学校においては,地域活性化や地域貢献への取組が積極的に行われており,地域共同テ クノセンターなどを拠点として,地元企業・各種団体との共同研究・技術支援などを通じて,地域産 158 文部科学白書 2008 業の振興と,ものづくり技術者の育成を推進しています。 近年,科学技術の高度化が進むなど,高等専門学校をめぐる状況は大きく変化しており,これらに 対応するため,高等専門学校教育の一層の充実・強化が求められています。平成 20 年 12 月の中央教 育審議会「高等専門学校教育の充実について」答申においては,こうした社会経済環境の変化に積極的 に対応した高等専門学校教育の充実の方向性について示すとともに,地域産業界との連携促進や教育 基盤の充実,工業・商船以外の分野への展開など,その具体的方策について提言しています。 図表 2-3-9 高等専門学校分布図 3 章 分野別学科教・入学定員 第 図表 2-3-8 高等教育の多様な発展のために 図表 2-3-10 設置者別学校・学科・学級数及び入学定員 文部科学白書 2008 159 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 図表 2-3-11 卒業者の進路状況の推移 図表 2-3-12 高等専門学校専攻科修了生の大学院進学状況 専門学校の現状と最近の施策 3 (1)専門学校の現状 専修学校は,社会の変化に即応した実践的な職業教育,専門的な技術教育などを行う教育機関とし て発展してきました。特に,高等学校卒業程度を入学対象とする専門課程(専門学校)の生徒数は,平 成 20 年 5 月現在約 58 万人となり,新規高等学校卒業者の約 15.3%が進学しており,大学への進学(約 45.9%)に次ぐ割合となっています。専門学校は,我が国の高等教育の多様化・個性化を図る上でも重 要な役割を果たしています。 (2)最近の施策 専門学校における学修の成果については,修業年限 2 年以上,総授業時数 1,700 時間以上などの要 件を満たすと文部科学大臣が認めた学科の修了者に「専門士」の称号が付与されるほか,一定の要件を 満たす専門学校修了者の大学への編入学が認められており,平成 20 年 5 月現在の編入学者数は 2,637 人となっています。また,修業年限 4 年以上,総授業時数 3,400 時間以上などの要件を満たす学科の 修了者に対し,「高度専門士」の称号や大学院への入学資格を付与する制度が,平成 17 年 9 月に創設 され,平成 21 年 2 月現在,419 学科がその対象学科として認められています。 第 1 5 節 奨学金事業の充実と就職支援の強化 奨学金事業の充実 (1)国の奨学金事業の現状 ①奨学金事業の現状 国の奨学金事業は日本学生支援機構が実施しており,経済的理由により修学に困難がある優れた 学生などに対し奨学金を貸与するとともに,卒業後の返還金の回収などを行っています。この奨学 金事業は,昭和 18 年度に創設され,平成 19 年度までの 65 年間に奨学金の貸与を受けた奨学生の 総数は約 852 万人,貸与総額は約 9 兆 1,182 億円に達しています。日本学生支援機構の奨学金には, 無利子奨学金(第一種奨学金)と有利子奨学金(第二種奨学金)の 2 種類があり,有利子奨学金は,在 160 文部科学白書 2008 学中は無利子で,卒業後は年利 3%を上限とした利子が課されるものです。 ②学生の学ぶ意欲にこたえる事業の充実 学ぶ意欲と能力のある学生などが経済的な面で心配することなく,安心して学べるようにするた め,平成 20 年度においては,事業全体で約 122 万人(対前年度比約 7 万 5 千人増)の学生などに対して, 約 9,305 億円(対前年度比約 801 億円増)の奨学金を貸与することとしています(図表 2-3-13,図表 2-3-14)。 奨学金事業規模の推移 奨学金事業費総額 高等教育の多様な発展のために 政府貸付金 財政融資資金 財投機関債 3 章 図表 2-3-14 第 図表 2-3-13 返還金等 高等学校等奨学金事業交付金 (出典)文部科学省調べ (出典)文部科学省調べ また,家計支持者の失業や災害による被害などによって家計が急変し,緊急に奨学金を必要とす る学生に対応するため,「緊急採用奨学金制度(無利子奨学金)」を年間を通じて随時受け付け,これ まで希望者全員を採用しています。 なお,高等学校や専修学校高等課程の生徒に対する奨学金事業については,平成 17 年度の入学 者より,都道府県に移管されており,各都道府県において確実に事業が実施できるよう,平成 20 年度は高等学校等奨学金事業交付金約 291 億円を措置しています。 ③返還金回収業務の改善 日本学生支援機構の奨学金事業は,卒業した奨学生からの返還金を奨学金の原資として活用する 貸与制により実施しており,現在,事業費総額の 3 割程度が返還金で賄われている(他の財源は, 無利子奨学金については政府貸付金,有利子奨学金については財政融資資金や財投機関債など)た め,返還金が確実に回収されることが,奨学金事業を実施していく上でますます重要となっていま す。このため,日本学生支援機構においては,各学校の協力を得て,(ア)奨学生に対する返還意識 の徹底,(イ)口座振替制度による返還の促進に努めるとともに,(ウ)延滞者に対する法的措置の早 期化や債権回収業務の民間委託など,返還金回収業務の強化に努めています。 (2)奨学団体等の奨学金事業 我が国における奨学金事業は,日本学生支援機構のほかに特例民法法人や地方公共団体あるいは学 校や民間会社などによって,多様な形態で幅広く実施されています。平成 15 年度の日本学生支援機 文部科学白書 2008 161 第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開 構の調査によると,約 2,800 の奨学団体などが,約 27 万人の奨学生に対し,総額で約 721 億円を支給 しています。 これら奨学団体などによる奨学金事業は,それぞれの設立目的に基づいて特色ある事業を行ってい るところに大きな意義があり,国の奨学金事業とあいまって,教育の機会均等と優れた人材の育成の 観点から大変有益なものとなっており,その一層の充実が図られることが期待されます。 2 就職支援の充実 (1)学生の就職活動 ①就職率の動向 文部科学省と厚生労働省が共同で実施した就職状況調査によると,平成 19 年度大学等卒業者の 就職率は次表のとおりです(図表 2-3-15)。全体として見れば,就職率は 8 年続けて上昇し,8 年 度の調査開始以降最も高い水準となっています(図表 2-3-16)。 しかしながら,米国におけるサブプライムローン問題に端を発した世界金融危機は実体経済にも 深刻な影響を及ぼし,このような状況の中で,大学などの新規学校卒業者の内定取消しの問題が生 じるなど,学生の雇用環境が不安定となっています。 図表 2-3-15 平成 19 年度大学等卒業者の就職状況(平成 20 年 4 月 1 日現在) (出典)文部科学省,厚生労働省調べ 図表 2-3-16 就職率の推移 (注)数値は各年の大学,短期大学,高等専門学校を含めた値を示す。 (出典)文部科学省,厚生労働省調べ ②就職・採用活動の状況 平成 21 年度(22 年 3 月)に卒業する予定の学生の就職・採用活動については,20 年度と同様に, 大学側(国公私立大学などで構成される「就職問題懇談会」)は「平成 21 年度大学,短期大学及び高等 専門学校卒業予定者に係る就職について」の申合せを行い,企業側((社)日本経済団体連合会)は「大 学卒業予定者・大学院修了予定者等の採用選考に関する企業の倫理憲章」を定め,双方がそれぞれ を尊重し,相互に十分周知して行動するという形で行われています(図表 2-3-17)。 162 文部科学白書 2008 また,大学側から別途企業側に対し,「倫理憲章」の趣旨に即した採用活動を求める「平成 21 年度 大学,短期大学及び高等専門学校卒業予定者に係る就職に関する要請」を行い,企業側においては, 会員企業の賛同を得て,秩序ある就職・採用活動の実現に向けた「倫理憲章の趣旨実現をめざす共 同宣言」を公表しました。 図表 2-3-17 「申合せ」及び「倫理憲章」 第 章 3 高等教育の多様な発展のために (2)学生の就職に対する支援施策 文部科学省では,大学などの就職指導担当者と企業の採用担当者が一堂に会して情報交換・協議を 行う「全国就職指導ガイダンス」を日本学生支援機構などの関係機関と実施するなどし,大学側には学 生への就職指導の一層の充実を,企業側には学生の雇用枠の拡大や採用選考活動の早期化是正などの 要請を行っています。 また,大学などの新規学校卒業者の内定取消し問題について,各大学などが公共職業安定所などと 連携しつつ,適切な対応を行うよう周知徹底するとともに,大学などにおける対応状況について実情 把握を行い,大学などの就職支援体制の充実に努めています。 文部科学白書 2008 163