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文化芸術立国を目指して

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文化芸術立国を目指して
第
7
第2部
文教・科学技術施策の動向と展開
章
文化芸術立国を目指して
第7章のポイント
文化は,人々に感動や生きる喜びをもたらし,心豊かな
生活を実現するために不可欠なものです。少子高齢化が進
み,従来型の経済成長に期待することが困難になる時代に
あって,魅力ある充実した文化を持つことは国際的にも国
の地位を高める大きな意味を持つことになります。
本章では,文化庁が進めている,「クール・ジャパン」と
も称され世界的に高い評価を得ている映画やアニメーション
などのメディア芸術の振興や,国民の宝である文化財の保存
・活用のための取組,新しい時代に対応した著作権施策や国
語施策等を紹介します。
1
文化発信戦略に関する懇談会「日本文化への理解と関心
を高めるための文化発信の取組について」(報告)
グローバル化が進展する中,伝統文化から現代文化まで,多様な日本文化を発信して魅力ある日本の姿
を伝え,日本に対する諸外国の理解を深めることが強く求められています。また,そのことが,国内外の
文化の更なる発展にもつながっていきます。
文化庁では,平成 19 年 12 月に「文化発信戦略に関する懇談会」を開催し,文化発信の戦略を総合的に検
討してきました。20 年 7 月には,それまでの 7 回にわたる議論をもとにした中間まとめが取りまとめら
れました。その後,中間まとめで提言された事項のうち,特に速やかに取り組むべき事項を中心に更に具
体的議論を深め,21 年 3 月に,
「日本文化への理解と関心を高めるための文化発信の取組について」(報告)
が取りまとめられました。本報告においては,メディア芸術分野における国際的地位の確立などの 6 項目
について,速やかに着手すべき内容が提言されています。
今後は,本報告をもとに関係省庁・機関と連携協力しながら,文化発信のための取組を推進します。(参
照:http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/kondankaitou/bunkahasshin/)
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240 文部科学白書 2008
,
2
文化財の総合的把握の取組
これからの文化財保護の取組では,文化財を個別に保護するだけでなく,地域の歴史や文化を背景とし
て,一定のテーマで周辺の環境まで含めて総合的にとらえることが必要です。こうした認識により,平成
19 年 10 月の「文化審議会文化財分科会企画調査会報告書」で提言されたのが,「歴史文化基本構想」を市町
村が策定することです。
市町村が策定する「歴史文化基本構想」に関する国の取組としては,今までの取組に加えて次のものがあ
げられます。
まず,「文化財総合的把握モデル事業」です。これは,平成 20 年度より 3 年間の予定で,20 件の市町村
において実際に「歴史文化基本構想」を策定するものです。実際に策定された 20 件の「歴史文化基本構想」
を分析することで,策定における課題や望ましい方向性を明らかにし,各市町村が「歴史文化基本構想」を
策定しやすくするための指針を作成する予定です。
次に,「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」(通称…歴史まちづくり法)です。
この法律は,文部科学省(文化庁),農林水産省,国土交通省が共同で担当しており,「地域におけるそ
の固有の歴史及び伝統を反映した人々の活動とその活動が行われる歴史上価値の高い建造物及びその周辺
の市街地とが一体となって形成してきた良好な市街地の環境」を「歴史的風致」と定義し,その維持と向上
を図るために制定されたものです。
歴史まちづくり法では,市町村が「歴史的風致維持向上計画」を申請し,国が認定を行うことで,市町村
は認定を受けた計画について,まちづくりに関する支援制度などを受けることができます。「歴史的風致
維持向上計画」を作成するためには重要文化財などがあることが条件となっています。つまり,歴史まち
づくり法においても,文化財の周辺を保護するということがポイントになっています。
このように,市町村が「歴史文化基本構想」に基づく取組を実行していくうえで,歴史まちづくり法は有
効な施策の一つとなることが期待されます。 㸡
文部科学白書 2008 241
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
第
1
1
節
文化振興施策の総合的な推進
文化芸術振興基本法と基本方針
文化芸術の振興に対する国民の要望の高まりなどを背景に,議員立法として,
「文化芸術振興基本法」
が,平成 13 年 11 月 30 日に成立し,同年 12 月 7 日に公布・施行されました。
この法律は,文化の中核を成す芸術,メディア芸術,伝統芸能,生活文化,国民娯楽,出版物,レコード,
文化財などの文化芸術の振興に関する基本理念を定め,国と地方公共団体の責務を明らかにするとと
もに,文化芸術の振興に関する施策の基本となる事項を定めることにより,文化芸術活動を行う人々
の自主的な活動を促進し,文化芸術の振興に関する施策の総合的な推進を図ろうとするものです。
「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(「基本方針」)は,この文化芸術振興基本法に基づき,文
化芸術の振興に関する施策の総合的な推進を図るため,政府が策定するものです(図 2-7-1)。
図表 2-7-1
第 2 次基本方針 文化芸術振興の基本的方向
平成 19 年 2 月に閣議決定された第 2 次基本方針は,文化芸術振興の今日における意義や様々な社
会情勢の変化などを考慮して,おおむね 5 年間(平成 19 年〜 23 年度)を見通し,文化芸術の振興に当
たっての基本的な視点や重点事項,基本的施策などを提示しています。
文化庁では,文化芸術振興基本法と第 2 次基本方針に基づき,文化芸術で国づくりを進める「文化
芸術立国」を目指して,文化芸術の振興に総合的に取り組んでいます。
242 文部科学白書 2008
文化審議会
第
2
項について,幅広い観点から調査審議を行います。
文化庁では,文化審議会におけるこれまでの答申や提言・報告を受けて,各種施策に取り組んでい
ます。
〈これまでの主な答申など〉
○
「文化を大切にする社会の構築について−一人一人が心豊かに生きる社会を目指して(答申)」
(平
成 14 年 4 月)
○
「文化芸術の振興に関する基本的な方針について(答申)」(平成 14 年 12 月)
○
「これからの時代に求められる国語力について(答申)」(平成 16 年 2 月)
○
「今後の舞台芸術創造活動の支援方策について(提言)」(平成 16 年 2 月)
○
「地域文化で日本を元気にしよう !(報告)」(平成 17 年 2 月)
○
「文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて(答申)」(平成 19 年 2 月)
○
「敬語の指針(答申)」(平成 19 年 2 月)
文化審議会には,国語分科会,著作権分科会,文化財分科会,文化功労者選考分科会の 4 分科会の
ほかに,文化政策部会が置かれ審議が行われています。 3
文化芸術振興のための予算措置
平成 20 年度においては,文化芸術立国推進
図表 2-7-2
平成 20 年度文化庁予算(分野別)
プロジェクトとして,世界水準の文化芸術と
人材の育成などを総合的に行う「文化芸術創造
プラン」や「『日本文化の魅力』発信プラン」を引
き続き推進しています(図 2-7-2)。
このうち,
「文化芸術創造プラン」
では,①最
高水準の舞台芸術公演・伝統芸能などへの重
点支援,②世界に誇れる
「日本映画・映像」
の振
興,③新進芸術家やアートマネジメント人材の
育成,④子どもの文化芸術体験活動の推進,の
四つを柱とした施策を実施しています。
また,
「
『日本文化の魅力』発信プラン」では,
個性と魅力ある地域文化の発信,優れた日本文
化の発信による国際文化交流,コンテンツ * 1
の保護と発信に取り組んでいます。
さらに,国民共有の貴重な財産である文化
財の次世代への継承と国際協力を推進すると
ともに,特別史跡平城宮跡の整備や美術館・博物館などの活動推進による文化芸術振興のための文化
拠点の充実を図っています。
*1
コンテンツ
映画,音楽,演劇,文芸,写真,アニメーション,コンピュータゲームその他の文字,図形,色彩,音声,動作,映像若し
くはこれらを組み合わせたもの,又はこれらを提供するためのプログラムであって,教養又は娯楽の範囲に属するもの。(「コ
ンテンツの創造,保護及び活用の促進に関する法律」の定義による。)
文部科学白書 2008 243
文化芸術立国を目指して
に文化審議会が設けられました。文化審議会では,文化の振興や国際文化交流の振興に関する重要事
7
章
平成 13 年 1 月の中央省庁等改革により,文化振興に向けた政策立案機能を強化するため,文化庁
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
このほか,日本芸術文化振興会に設けられた芸術文化振興基金では,芸術文化活動に対する幅広い
助成を行っています。
4
文化芸術活動に関する税制措置
(1)文化芸術団体に対する寄附金に関する税制措置
一般に,企業が寄附を行った場合は,当該寄附金について,一定額まで損金算入することが認めら
れています。さらに,芸術の普及向上や文化財などの保存活用,博物館の設置運営等を主な目的とす
る特例民法法人のうち,一定の要件を満たす「特定公益増進法人」に対する寄附金については,個人の
場合には寄附金控除,企業などの法人の場合には一般の寄附金の損金算入限度額に加えて,さらに別
枠で損金算入することが認められています。
特に個人の寄附に関しては,平成 18 年分の所得税より,寄附金控除の対象となる寄附金の適用下
限額が「1 万円を超える額」から「5,000 円を超える額」に引き下げられるとともに,19 年分の所得税より,
寄附金控除の対象となる寄附金の限度額が総所得金額等の 30%から 40%に引き上げられるなど,個
人レベルの,文化芸術に関する支援についても税制措置の拡充が行われています。
(2)文化財に関する税制措置
文化財の分野でも,重要文化財などとして指定,選定,登録された家屋やその敷地については,固
定資産税を非課税や課税標準を 2 分の 1 とするなど,所有者が文化財を適切に管理する上で必要な税
制上の優遇措置を講じています。また,重要文化財を国や地方公共団体などへ譲渡した場合は所得税
が非課税(史跡などに指定された土地については,特別控除)となり,建造物(登録有形文化財・重要
伝統的建造物群保存地区内の伝統的建造物を含む。)とその敷地については,相続税額の算出において,
一定の評価減を行うこととされています。また,平成 21・22 年度の措置として,公益社団・財団法
人が所有する重要無形文化財の公演のための施設について固定資産税・不動産取得税・都市計画税の
課税標準を 2 分の 1 としています。
さらに,優れた美術品の美術館・博物館における公開を促進するために,登録美術品として登録さ
れた美術品については,相続税の物納の特例措置が設けられています。
第
1
2
節
芸術創造活動の推進
芸術創造活動の活性化支援
(1)文化芸術創造プランにおける芸術創造活動の活性化支援施策
我が国の文化芸術の振興を図るために,世界水準の舞台芸術,世界に誇れる日本映画・映像,世界
に羽ばたく新進芸術家,感性豊かな文化の担い手の育成を総合的に行うことを目的として,文化庁で
は,従来の支援施策を再構築して,平成 14 年度に「文化芸術創造プラン」を創設し,創造活動に対す
る支援を行っています。
①最高水準の舞台芸術公演・伝統芸能等への重点支援など
最高水準の舞台芸術公演・伝統芸能等に対しての重点支援や音楽・舞踊・演劇の国際フェスティ
バル,芸術による国際交流を推進しています(図表 2-7-3)。
244 文部科学白書 2008
最高水準の舞台芸術公演・伝統芸能等に対する重点支援
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②「日本映画・映像」振興プラン
我が国の映画・映像水準の向上を図るため,国内における製作・上映,海外への発信,人材育成
事業などを支援するほか,映画フィルムの収集・保管を進め,世界に誇れる映画・映像の振興を推
進しています(参照:本章第 3 節)。
③世界に羽ばたく新進芸術家などの人材育成
多様な文化芸術を継承し,発展させ,創造していくためには,その担い手として優秀な人材を得
ることが不可欠です。このため,新進芸術家海外研修制度や芸術団体等が行う人材育成事業への支
援を実施し,新進芸術家などの人材の育成を図っています。特に,新進芸術家海外研修制度では,
これまで多数の優秀な芸術家を輩出しています(図表 2-7-4,図表 2-7-5)。
子どもたちが本物の舞台芸術や伝統文化に触れ,日頃味わえない感動や刺激を直接体験すること
により,豊かな感性と創造性をはぐくむとともに,我が国文化を継承・発展させる環境の充実を図
っています。
図表 2-7-4
新進芸術家海外研修制度のこれまでの派遣者の例
若杉 弘
(音楽:指揮
森下 洋子
(舞踊:バレエ 昭和 50 年度)
昭和 42 年度)
絹谷 幸二
(美術:洋画
昭和 52 年度)
佐藤 しのぶ
(音楽:声楽
昭和 59 年度)
野田 秀樹
(演劇:演出
平成4年度)
諏訪内 晶子
(音楽:器楽
平成6年度)
野村 萬斉
(演劇:狂言師 平成6年度)
崔 洋一
(映画:監督
平成8年度)
鴻上 尚史
(演劇:演出
平成9年度)
長塚 圭史
(演劇:演出・劇作・俳優
平成 20 年)
文部科学白書 2008 245
文化芸術立国を目指して
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7
章
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第
図表 2-7-3
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
図表 2-7-5
世界に羽ばたく新進芸術家などの育成
①新進芸術家の養成・発表への支援
・新進芸術家海外研修制度
美術,音楽,舞踊,演劇等の各分野における新進の芸術家等が海外の大学
や芸術団体等で,実践的な研修に従事する機会を提供しています
1年派遣,2年派遣,3年派遣,特別派遣(80 日間)があり,
平成 20年度は,
1年派遣:101名,2年派遣:19 名,3年派遣:2名,特別派遣:27名,
15 歳以上 18 歳未満の部:5名の 154名を派遣しています。
・新進芸術家の育成公演事業
新進芸術家海外研修制度により研修を行った若手芸術家に研修成果を発表
する機会を提供するとともに,各芸術団体の新進芸術家にも発表の機会を
提供しています。
平成 20年度の公演事業
<美術分野>「
『DOMANI・明日』展 2008文化庁芸術家在外研修の成果」
<音楽分野>「明日を担う音楽家たち2009」
<舞踊分野>「エトワールへの道程」
<演劇分野>「珊瑚囁」「運転免許わたしの場合」
②芸術団体等が行う養成発表機会の充実
・芸術団体人材育成支援事業
次代の芸術界を担う創造性豊かな人材を育成するため,芸術団体等が行う
人材育成事業,調査研究事業等を支援しています。
(2)芸術文化振興基金
芸術文化振興基金は,政府の出資金と民間からの出えん金を原資として,多様な芸術文化活動に対
して,安定的・継続的に幅広く援助を行うため,平成 2 年 3 月に設けられました。現在,約 653 億円
(国
からの出資金約 541 億円,民間からの出えん金約 112 億円)
の運用益により,芸術家や芸術団体が行う
芸術の創造や普及活動,地域の文化施設における公演・展示活動などに対して助成を行っています。
< 芸術文化振興基金からの助成額(平成 20 年度)>
○芸術家及び芸術団体が行う芸術の創造又は普及を図るための活動約 12 億 2,590 万円
○地域の文化の振興を目的として行う活動約 3 億 510 万円
○文化に関する団体が行う文化の振興又は普及を図るための活動約 1 億 3,730 万円
2
芸術祭の開催
芸術祭は,内外の優れた芸術作品を鑑賞する機会を広く一般に提供するとともに,芸術の創造とそ
の発展を図ることを目的に,昭和 21 年度から毎年秋に開催しています。
平成 20 年度は,皇太子同妃両殿下の御臨席の下,芸術祭祝典として,国際音楽の日記念,「沖縄の
唄と踊り」を行うとともに,オペラやバレエ,オーケストラ,歌舞伎,文楽,能楽の主催公演を実施
しました。演劇,音楽,舞踊,大衆芸能の参加公演部門や,テレビ,ラジオ,レコードの参加作品部
門では,それぞれの部門に設置した審査委員会で審査を行い,優れた公演・作品に対して,文部科学
大臣から芸術祭大賞などが授与されました。
3
企業からの文化発信の取組への支援
(1)メセナ活動への支援
(社)企業メセナ協議会は,企業によるメセナ(芸術文化支援)活動の推進のために,芸術文化支援を
246 文部科学白書 2008
を実施しています(図表 2-7-6)。
どの法人の場合には一般の寄附金とは別枠での損金算入が認められます。
平成 14 年度には,助成の対象となる分野をメディア芸術・文学など,活動主体をアマチュアのう
ちプロ並みの活動を行う文化芸術団体・個人など,活動形態をセミナーやワークショップなどにも拡
大しました。また 15 年度からは,各都道府県の文化振興財団などとの提携を進め,芸術文化支援に
関する相談窓口の全国展開を進めています。
この制度を利用して,平成 19 年度には,209 件の活動が認定を受け,法人・個人から 1,447 件,約
10 億 4,365 万円の寄附が同協議会を通じて行われました。
図表 2-7-6 (社)企業メセナ協議会の助成認定制度
(2)企業の取組の顕彰
文化庁では,(社)企業メセナ協議会との連携の下,企業で働く人々や,地域住民,子どもたちに芸
術文化活動への参加の機会を提供することなどにより,企業を取りまく人々の「文化力」の向上を図る
企業の取組に対して表彰を行っています。
4
著作物の再販制度
再販売価格維持行為* 2 は,原則独占禁止法違反となる行為ですが,新聞,書籍・雑誌,レコード盤,
音楽用テープ,音楽用 CD といった著作物については,昭和 28 年以来,例外的に独占禁止法の適用
が除外されています(著作物再販適用除外(いわゆる再販制度))。著作物再販制度により,新聞社,出
版社,レコード会社などが取引先である卸売業者や小売業者などに対して,卸売価格や小売価格を示
して,これを維持させることができます。この制度の下で,新聞販売店,書店,レコード店において,
これらの著作物の全国的な定価販売が可能となっています。
文化庁では,再販制度は,国民のニーズの多様化・高度化に応じた多種多様な著作物を,身近な場
所において容易に確実に入手することを可能にしているとの考えから,文字・活字文化や音楽文化の
振興普及のため,その維持・存続に向けて取り組んでいます。公正取引委員会は,平成 13 年 3 月に,
競争政策の観点からは再販制度を廃止するべきであるが,同制度の廃止について国民的合意が形成さ
れるに至っていない状況にあるとして,当面この制度を存置することとし,再販制度の廃止について,
国民的合意が得られるよう努力を傾注するとともに,著作物の取引実態の調査・検証に努めることと
しています。
*2
再販売価格維持行為
小売店等による販売価格をメーカー等が拘束する行為。
文部科学白書 2008 247
文化芸術立国を目指して
この制度の認定を受けた文化芸術活動に対して寄附を行う場合,個人の場合には所得控除,企業な
7
章
法人として認定されており,主要事業の一つとして,民間の芸術文化支援を促進する「助成認定制度」
第
行う企業相互の連携を図ることを目的として平成 2 年に設立されました。同協議会は,特定公益増進
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
第
1
3
節
映画・メディア芸術の振興
日本映画の振興
映画は,演劇,音楽や美術などの諸芸術を含んだ総合芸術であり,
国民の最も身近な娯楽の一つとして生活の中に定着しています。また,
ある時代の国や地域の文化的状況の表現であるとともに,その文化の
特性を示すものです。
さらに,映画は海外に向けて日本文化を発信する上でも極めて効果
的な媒体であり,有力な知的財産として位置付けられています。
●全国ロケーションデータ
ベースシステム(JLDB)
http://www.jldb.bunka.go.jp/
文化庁では,平成 16 年度から「日本映画・映像」振興プランを策定し,①魅力ある日本映画・映像
の創造,②日本映画・映像の流通の促進,③映画・映像人材の育成と普及,④日本映画フィルムの保
存継承,⑤メディア芸術振興総合プログラム(平成 18 年度から)を推進しています(図表 2-7-7)。
具体的には,国内での映画などの製作支援,短編映画作品製作に
よる若手映画作家育成事業などの人材育成のほか,日本映画の海外
映画祭への出品等支援やアジアにおける日本映画特集上映など海外
への日本文化発信をとおして,我が国映画の一層の振興に取り組ん
でいます。
また,日本映画に関する情報提供として下記データベースの整備
●日本映画情報システム(JCDB)
http://www.japanese-cinema-db.jp/
も進めています。
図表 2-7-7 「日本映画・映像振興プラン」
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2
アニメ,マンガなどのメディア芸術の振興
第 81 回アカデミー賞において,滝田洋二郎監督の「おくりびと」が外国語映画賞を,また,加藤久
仁生監督の「つみきのいえ」が短編アニメーション賞を受賞したことに示されるように,我が国の映画,
アニメ,マンガ,ゲームなどのメディア芸術は国内のみならず海外でも高く評価されています。文化
庁では,メディア芸術の一層の振興を図るため「メディア芸術総合振興プログラム」を策定し,文化庁
248 文部科学白書 2008
え,43 の国と地域から 2,000 作品を越える応募が寄せられました。「アート」,
「エンターテイメント」,
るとともに,メディア芸術の振興に寄与した方 1 名に功労賞を贈呈しました。
受賞作品は,毎年 2 月に東京・六本木の国立新美術館で展示しています。また,国民文化祭開催県
と連携して実施する「メディア芸術祭地方展」や,日本のメディア芸術を海外の方々により深く知って
いただくための「メディア芸術祭海外展」を開催しています。
この他,インターネット上に「メディア芸術プラザ」(参照:http://plaza.bunka.go.jp/)を開設し,
メディア芸術祭受賞作品や受賞作者の紹介,メディア芸術関連の各種シンポジウムなどの情報を掲載
しています。
また,メディア芸術の国際的な拠点の整備の在り方について検討するため,有識者で構成する「メ
ディア芸術の国際的な拠点の整備に関する検討会」を開催し,平成 20 年 8 月から,映画やメディアア
ートなどに関する有識者により議論を深めています。
アート部門大賞「Oups!」作者:
Marcio AMBROSIO ©Oups!
エンターテインメント部門大賞「TENORI-ON」
作者:岩井 俊雄 /「TENORI-ON」開発チーム代表
西堀 佑 © 岩井俊雄 / ヤマハ株式会社
アニメーション部門大賞「つみきのいえ」作者:
加藤 久仁生 © ROBOT
第
1
4
節
マンガ部門大賞「ピアノの森」作者:一色 まこと © 一色まこと / 講談社
子どもたちの文化芸術活動と
地域における文化芸術の振興
子どもたちの文化芸術活動の推進
文化庁では,子どもたちが,本物の文化芸術に直接触れたり,創造活動に参加したりすることにより,
多くの感動体験を得て,感受性豊かな人間として成長するように,以下の施策を実施しています。
文部科学白書 2008 249
文化芸術立国を目指して
「アニメーション」,「マンガ」の 4 つの部門ごとに大賞 1 作品,優秀賞 4 作品,奨励賞 1 作品を顕彰す
7
章
ィア芸術作品を発信する観点から開催している文化庁メディア芸術祭は,平成 20 年度に 12 回目を迎
第
メディア芸術祭をはじめとした様々な取組みを行っています。その一つとして,国内外へ優れたメデ
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
(1)本物の舞台芸術に触れる機会の確保
子どもたちが優れた舞台芸術を鑑賞するとともに,芸術団体などによる実演指導,ワークショップ
に参加し,さらにはこれらの団体と本番の舞台で共演するなど,舞台芸術に身近に触れる機会を提供
しています。
(2)伝統文化こども教室事業
次代を担う子どもたちに対し,土・日曜日などにおいて,学校・文
化施設などを拠点とし,民俗芸能,工芸技術,邦楽,日本舞踊,武道,
茶道,華道などを計画的,継続的に体験・修得できる機会を提供する「伝
統文化こども教室事業」を実施しています。
小鼓こども体験教室(山形県 鶴岡市)
(3)学校の文化活動の推進
優れた活動を行っている芸術家や伝統芸能の保持者などを出身地域などの学校に派遣し,優れた技
の披露や,文化芸術活動のすばらしさ,地域の誇りなどについての講話を通じて,子どもたちの文化
芸術への関心を高める「学校への芸術家等派遣事業」を行っています。
また,高校生に文化部活動の成果発表の機会を提供し,創造活動の推進と相互の交流を深めるため,
「全国高等学校総合文化祭」(平成 20 年度は 8 月 6 日から 8 月 10 日まで群馬県で開催),「全国高等学
校総合文化祭優秀校東京公演」(平成 20 年度は 8 月 30 日,31 日に開催)を毎年実施しています。
(4)地域人材の活用による文化活動支援事業
地域の文化芸術人材を活用し,学校での文化芸術にかかる指導や,放課後・休日などにおける文化
芸術活動を地域ぐるみで支援する体制整備を図る取組を支援しています。
2
地域における文化芸術活動への支援
文化庁では,優れた文化芸術に身近に接することができ,地域に根付いた文化芸術活動が活発に行
われるようにするため,個性豊かな文化芸術の振興,文化芸術を支える人材の育成など,地域におけ
る文化芸術の振興を図っています。
(1)舞台芸術の魅力発見事業
舞台芸術の鑑賞機会が大都市圏に偏りがちであることから,質の高い舞台芸術の全国展開を促して
います。あわせて,舞台を楽しむための工夫・演出を加えることにより,舞台芸術に親しむ機会の少
ない人たちの興味・関心を喚起し,我が国の舞台芸術の振興を図っています。
(2)「文化芸術による創造のまち」支援事業
地域における文化リーダー(指導者)や文化芸術団体の育成,文化芸術活動の発信・交流,大学と
地域との交流・連携の促進を通して,地域の文化芸術活動の活性化と環境作りを図る取組を支援して
います。
(3)ふるさと文化再興事業
ふるさと文化再興事業は,地域において守り伝えられてきた個性豊かな祭礼行事,民俗芸能,伝統
工芸などの伝統文化の継承・発展を図り,一体的・総合的な保存・活用を推進するため,都道府県が
250 文部科学白書 2008
事業です。
章
7
国民の文化芸術活動への参加意欲を喚起するとともに,国民の文化芸術活動の水準を高めるため,
全国規模の文化の祭典である国民文化祭を,都道府県などとの共催で開催しています。平成 20 年度は,
11 月 1 日から 11 月 9 日まで茨城県で開催しました。
文化ボランティアの推進
文化庁では,「文化芸術に自ら親しむとともに,他の人が親しむのに役立ったり,お手伝いしたり
するようなボランティア活動」を「文化ボランティア活動」ととらえ,文化ボランティアを推進し,各
地域で多様な活動が行われるよう,環境整備を図っています。
平成 20 年度からは,文化ボランティア・コーディネーター養成プログラムの開発・実施・普及を
行う「文化ボランティア支援拠点形成事業」を実施しています。11 月には,全国の委託団体が一堂に会
し,活動の中間報告を行うとともに,コーディネーターを養成す
る上で抱えている課題などについて話し合いました(於:沖縄県立
博物館・美術館)。
この他,各地域で活動する文化ボランティア実践者や文化行政
担当者などが集まる「文化ボランティア全国フォーラム」を開催す
るなど,文化ボランティア関係者間の情報交換や交流を支援して
います。
コーディネーターフォーラムの中で行われた
ワークショップ
4
文化芸術創造都市の推進
い
近年,美しい景観やその自治体固有の文化的資源を活かすことにより,住民の創造性をはぐくむと
ともに,新しい産業やまちの賑わいに結びつけることを目指す自治体が増えてきました。文化庁は,
このように都市政策の中心に文化政策を据える自治体を応援するた
め,平成 19 年度に表彰制度を創設しました(図表 2-7-8)。
平成 20 年度には,表彰式に併せて,記念シンポジウム「創造性を
はぐくむ都市へ」を開催しました(1 月 30 日,於:国立新美術館)。
青木保文化庁長官がコーディネーターを務め,建築家の安藤忠雄氏
や劇作家・演出家の平田オリザ氏など 5 名のパネリストを迎えて,
文化芸術の創造性に着目した都市の在り方やその形成について議論
が行われました。
図表 2-7-8
平成 20 年度受賞都市(篠山市)の取組
伝統的建造物の空間を活かした
まちなみアートフェスティバル
文化庁長官表彰(文化芸術創造都市部門)受賞都市一覧
平成 19 年度
平成 20 年度
横浜市(神奈川県)
札幌市(北海道)
金沢市(石川県)
豊島区(東京都)
近江八幡市(滋賀県) 篠山市(兵庫県)
沖縄市(沖縄県)
萩市(山口県)
文部科学白書 2008 251
文化芸術立国を目指して
(4)国民文化祭
3
第
作成する計画に基づいて実施される伝承者などの養成,用具などの整備,映像記録の作成を支援する
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
第
1
5
節
文化財の保存と活用
文化財保護制度の概要
我が国には,人間と自然とのかかわりの中で生まれ,地域の風土や生活を反映し,他国の文化との
交流を通じてはぐくまれてきた豊かで伝統的な文化が存在します。それらは,現代を生きる私たちに,
我が国の歴史や古くからの生活の様子を伝えると同時に,その根底にある知と技を伝え,日々の暮ら
しに精神的な豊かさや感動,生きる喜びを与えてくれます。また,地域で継承されてきた伝統的な文
化は,人々の手によって掘り起され,再認識されることにより,地域の人々の心のよりどころとして
連帯感をはぐくみ,共に生きる社会の基盤を形成する役割を担っています。
文化財は,このような伝統的な文化が結実した一つの形であり,我が国の歴史や文化の理解に欠く
ことのできない貴重な資産であるとともに,現在,将来の社会の発展向上のために無くてはならない
ものです。その意味においても,文化財は,将来の地域づくりの核ともなるものとして,確実に次世
代に継承していくことが求められます。
このため,国は,文化財保護法に基づき,文化財のうち重要なものについて指定などを行い,現在
の状態からの変更,修理,輸出などに一定の制限を行うことで保存を図っています。そのため,有形
の文化財については保存修理,防災,地方公共団体による買上げなど,無形の文化財については伝
承者養成や記録作成などに対して助成などを行うことで,所有者の負担の軽減を図っています(図表
2-7-9,図表 2-7-10)。
図表 2-7-9
国指定等文化財の件数
252 文部科学白書 2008
第
章
7
文化芸術立国を目指して
図表 2-7-10
文化財保護の体系
,
,
,
,
,
文部科学白書 2008 253
,
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
,
2
,
有形文化財の保存と活用
(1)有形文化財とは
建造物,絵画,工芸品,彫刻,書跡,典籍,古文書,考古資料,歴史資料などの有形の文化的所産で,
我が国にとって歴史上,芸術上,学術上価値の高いものを総称して有形文化財と呼んでいます。この
うち,「建造物」以外のものを「美術工芸品」と呼んでいます。
(2)国宝,重要文化財の指定など
国は,有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定し,さらに世界文化の見地から特に価値の
高いものを国宝に指定して保護しています。また,近年の国土開発や都市計画の進展,生活様式の変
さら
化などにより,社会的評価を受ける間もなく消滅の危機に晒されている多種多様な近代などの有形文
化財については登録という手法で緩やかに保護しています(図表 2-7-11,図表 2-7-12)。
図表 2-7-11
平成 20 年度の重要文化財(建造物)の指定
平成 20 年6月9日指定(計 10 件)
きゅうじょうぞうじょうしせつ
・シャトーカミヤ旧醸造場施設
平成 20 年 12 月2日指定(計 7 件)
こんけじゅうたく
・金家住宅
きゅうとうきょうかがくはくぶつかんほんかん
こだまけじゅうたく
・旧東京科学博物館本館
・小玉家住宅
かなざわじょうどぞう(つるまるそうこ)
・金沢城土蔵(鶴丸倉庫)
だいあんじ
きゅういびがわきょうりょう
・大安寺
・旧揖斐川橋梁
さいふくじ
いしやまでら
・西福寺
とよはし いしおかだいいちはつでんしょしせつ
・石岡第一発電所施設
・石山寺
せいきょうかいせいしとふくいんしゃまたいせいどう
・豊橋ハリストス正教会聖使徒福音者馬太聖堂
まいづるきゅうちんじゅふそうこしせつ
・舞鶴旧鎮守府倉庫施設
おおえばしおよびよどやばし
・大江橋及び淀屋橋
きゅうよしまつけじゅうたく
・旧吉松家住宅
よどがわきゅうぶんりゅうしせつ
・淀川旧分流施設
おおのきょうかいどう
・大野教会堂
えがみてんしゅどう
・江上天主堂
国宝青井阿蘇神社
写真提供:人吉市教育委員会
254 文部科学白書 2008
平成 20 年度の国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定
第
図表 2-7-12
国宝
章
7
考古資料の部
文化芸術立国を目指して
しまねけんかもいわくらいせきしゅつどどうたく
島根県加茂岩倉遺跡出土銅鐸
重要文化財
,
重要文化財(美術工芸品)
紙本著色梓弓図
,
,
国宝(美術工芸品) 島根県加茂岩倉遺跡出土銅鐸
文部科学白書 2008 255
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
(3)保存・活用のための取組
我が国の有形文化財は,木材などの植物性材料で作られているものが多く,その保存・管理には適
切な周期での修理が必要であるとともに防火などの防災対策が欠かせません。これらは所有者が行う
ことが原則ですが,多額の経費を要することから国庫補助により行われることがほとんどです。
特に,地震や火災などの災害から文化財を守るためには,国や地方公共団体の協力の下で,所有者
などが事前に対策を講じることが重要なため,文化庁では文化財建造物の地震時における安全性の確
保についての考え方を取りまとめ,具体的な耐震診断の指針と手引を策定しています。さらに,平成
17 年度からは耐震診断の一部についても国庫補助を行っています。こうした施策を通じて文化財を後
世に残せるよう支援しています。
なお,美術工芸品の活用について,重要文化財の鑑賞機会の拡大を図るため,展示や体験学習を行
うのに適した文化財保存施設の整備を推進するとともに,博物館などの施設が開催する展覧会につい
て一部の経費を負担しています。
また,建造物では,所有者が保存活用計画を策定するための指針を取りまとめるほか,「文化財建
造物活用への取組―建造物活用事例集」を作成するなど,活用の事例について幅広く紹介を行ってい
ます。
さらに,平成 18 年度から,文化財建造物活用の新たな取組を創出するため,NPO による文化財建
造物活用モデル事業を実施しています。20 年度は 11 事業を採択し,NPO 等に委託して事業を実施し
ました。
3
無形文化財の保存
(1)無形文化財とは
演劇,音楽,工芸技術,その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高い
ものを「無形文化財」と呼んでいます。無形文化財は,人間の「わざ」そのものであり,具体的にはその
わざを体現・体得した個人又は団体によって表現されます。 (2)重要無形文化財の指定や保持者などの認定
国は,無形文化財のうち重要なものを重要無形文化財に指定し,同時に,これらのわざを高度に体
現しているものを保持者又は保持団体として認定しています
(図表 2-7-13)
。保持者の認定には,
「各
個設定」
(重要無形文化財である芸能又は工芸技術を高度に体現・体得している者を認定するもの
(こ
の保持者がいわゆる
「人間国宝」
)
)
,
「総合認定」
(二人以上の者が一体となって舞台を構成している芸
能の場合,そのわざを高度に体現している者が構成している団体の構成員として認定するもの)
,
「保
持団体認定」
,
(重要無形文化財の性格上個人的特色が薄く,かつ当該わざを保持する者が多数いる場合,
これらの者が主たる構成員となっている団体を認定するもの)
,の 3 方式が採られ我が国の伝統的なわ
ざの継承を図っています。
(3)保存のための取組
重要無形文化財の各個認定の保持者に対し,わざの錬磨向上と伝承者の養成のための特別助成金を
交付するとともに,重要無形文化財の保持団体や地方公共団体などが行う伝承者養成事業,公開事業
などに対して補助を行っています。このような施策を通じて無形文化財の保存を図っています。
256 文部科学白書 2008
平成 20 年度の無形文化財の指定,認定(平成 20 年 9 月指定・認定)
第
図表 2-7-13
章
7
4
民俗文化財の保存
(1)民俗文化財とは
衣食住,生業,信仰,年中行事などに関する風俗慣習,民俗芸能,民俗技術や,これらに用いられ
る衣服,器具,家屋その他の物件で我が国民の生活の推移を理解する上で欠くことのできないものを
「民俗文化財」と呼んでおり,有形と無形のものがあります。
(2)重要有形・無形民俗文化財の指定など
国は,有形,無形の民俗文化財のうち,特に重要なものを「重要有形民俗文化財」,「重要無形民
俗文化財」に指定し,その保存を図るとともに,重要有形民俗文化財以外の有形民俗文化財のうち,
保存や活用のための措置が特に必要とされるものを「登録有形民俗文化財」に登録しています(図表
2-7-14)。また,重要無形民俗文化財以外の無形の民俗文化財のうち,特に記録作成などを行う必要
があるものを「記録作成などの措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択しています。
図表 2-7-14
平成 20 年度の民俗文化財の指定(平成 21 年 3 月指定・認定)
○重要有形民俗文化財(計1件)
みやけはちまんじんじゃほうのうこそだてきがんえま
三宅八幡神社奉納子育て祈願絵馬
○重要無形民俗文化財 (計7件)
あき た の い た や み せ い さ く ぎ じ ゅ つ
秋田のイタヤ箕製作技術
しんじょうまつりのやたいぎょうじ
新庄まつりの山車行事
きづみのふじみせいさくぎじゅつ
木積の藤箕製作技術
えっちゅうふくおかのすげがさせいさくぎじゅつ
越中福岡の菅笠製作技術
さえきどうろう
佐伯灯籠
みささのじんしょ
三朝のジンショ
あ つ きのしんめいまつり
阿月の神明祭
重要無形民俗文化財 木積の藤箕製作技術
(3)保存のための取組
民俗文化財は,日常生活に基盤を置くものであり,近年の急激な社会構造や生活様式の変化によっ
て変容・衰退の恐れがあります。このため,重要有形民俗文化財に指定された衣服や器具・家屋など
を保護するための管理や修理,保存活用施設の整備などの事業を支援するとともに,重要無形民俗文
化財に関する伝承者の養成や用具などの修理・新調,記録の作成などの事業に対し補助を行っていま
す。このような施策を通じてそれぞれの地域に根差す民俗文化財の保存を図っています。
文部科学白書 2008 257
文化芸術立国を目指して
重要無形文化財「木版摺更紗」保持者 鈴田滋人
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
5
記念物の保存と活用
(1)記念物とは
貝塚,古墳,都城跡,城跡,旧宅などの遺跡で我が国にとって歴史上又は学術上価値の高いもの,庭園,
橋梁
(きょうりょう)
,峡谷,海浜,山岳などの名勝地で我が国にとって芸術上又は観賞上価値の高いも
の ,動物や植物,地質鉱物で我が国にとって学術上価値の高いものを総称して記念物と呼んでいます。
(2)史跡,名勝,天然記念物の指定など
国は,記念物のうち重要なものを,遺跡は「史跡」に,名勝地は「名勝」に,動物,植物と地質鉱物は
「天然記念物」に指定し,特に重要なものについては,「特別史跡」,「特別名勝」,「特別天然記念物」に
指定しています(図表 2-7-15)。
また,今日の地域開発の進展や生活様式の急激な変化にともない,残存することが困難な状況にあ
る記念物については登録という手法で緩やかに保護しています。登録記念物については,遺跡関係,
名勝地関係,動物や植物,地質鉱物関係の 3 つの種別があります。
図表 2-7-15
平成 20 年度の史跡・名勝・記念物の指定
天然記念物 小笠原南島の沈水カルスト地形
(3)保存・活用のための取組
史跡などの保存を担保するため,現状変更行為などについては許可制をとっています。史跡などの
土地所有関係や土地利用形態は多様であり,現状変更の目的も多岐にわたるため,その許可に際して
は,関係者の所有権その他の財産権との調整を図りながら対応しています。
史跡などを確実に次世代に伝えるためには,調査研究に基づき本質的価値を把握した上で,保存と
管理の基本方針を定めることが必要です。保存管理計画はこの基本方針を具体化したもので,その主
要な目的は,史跡などを構成する諸要素を分類して,重要度や保存活用方法などの観点から地区を区
分すること,個々の史跡などの特性に基づいた現状変更の許可に関する取扱い基準を定めることです。
管理団体が実施するこのような史跡などの保存管理計画策定に対して,国庫補助事業を行っています。
258 文部科学白書 2008
歴史的建造物などの修理,各種の防災工事・災害復旧などを内容としています。一方,後者は来訪者
復元,園路などの各種施設整備などがその内容となります。所有者や管理団体が実施する史跡などの
整備には国庫補助事業として対応するとともに,必要に応じて助言や指導を行っています。
6
文化的景観の保存と活用
(1)文化的景観とは
文化的景観とは,地域における人々の生活又は生業,当該地域の風土により形成された景観地で我
が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないものを言います。
(2)重要文化的景観の選定
文化的景観を有する都道府県又は市町村では,景観法(平成 16 年法律第 110 号)や条例などに基づき,
当該都道府県又は市町村が策定する文化的景観保存計画により,文化的景観の適切な保存・活用を図
っています。このような文化的景観のうち,国は,都道府県又は市町村の申出に基づき,特に重要な
ものを重要文化的景観として選定しています(図表 2-7-16)。
図表 2-7-16
平成 20 年度の文化的景観の選定(平成 20 年 7 月,平成 21 年 2 月認定(計 8 件))
四万十川流域の文化的景観
中流域の農山村と流通・往来
(3)保存・活用のための取組
都道府県又は市町村が行う文化的景観に関する調査や文化的景観保存計画の策定,普及・啓発,重
要文化的景観の整備などに関する事業に国庫補助を行っています。
また,平成 17 年度から 19 年度にかけて実施した「採掘・製造,流通・往来及び居住に関連する文
化的景観の保護に関する調査研究」の成果に基づき,農林水産業に関連する文化的景観のみならず,
都市・鉱工業などに関連する文化的景観についても,適切な評価・保存・活用を図っていきます。
文部科学白書 2008 259
文化芸術立国を目指して
が史跡などへの理解を深め快適に見学できる環境を提供するためのもので,具体的には遺構の表示や
7
章
質的価値を構成する諸要素の保存のためのもので,具体的には境界標などの管理施設の設置,石垣や
第
また,史跡などの整備は,「保存のための整備」と「活用のための整備」があり,前者は史跡などの本
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
7
伝統的建造物群の保存と活用
(1)伝統的建造物群とは
周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値が高いものを「伝統
的建造物群」と呼んでおり,城下町や宿場町,門前町,農漁村集落などがこれに当たります。
(2)重要伝統的建造物群保存地区の選定
伝統的建造物群を有する市町村では,伝統的建造物群やこれと一体をなして価値を形成している環
境を保存するために伝統的建造物群保存地区を定め,伝統的建造物の現状変更の規制などを行い,歴
史的集落や町並みの保存と活用を図っています。国は,伝統的建造物群保存地区のうち,市町村の申
出に基づき,我が国にとってその価値が特に高いものを,重要伝統的建造物群保存地区に選定してい
ます(図表 2-7-17)。
図表 2-7-17
平成 20 年度の重要伝統的建造物群保存地区の選定(平成 20 年 6 月 9 日選定(計 3 件))
かなざわしかずえまち
金沢市主計町伝統的建造物群保存地区
おばましおばまにしぐみ
小浜市小浜西組伝統的建造物群保存地区
ひらどしおおしまむらこうのうら
平戸市大島村神浦伝統的建造物群保存地
金沢市主計町伝統的建造物群保存地区(写真提供:金沢市)
(3)保存・活用のための取組
伝統的建造物群を有する市町村が,伝統的建造物群保存地区を定めるために行う伝統的建造物群の
保存状況などの調査並びに重要伝統的建造物群保存地区において,伝統的建造物の修理,伝統的建造
物以外の建築物などの修景,伝統的建造物群と一体をなして価値を形成している環境の復旧,防災計
画を策定するための調査,防災のための施設・設備の設置,建造物や土地の公有化などの市町村が行
う事業に国庫補助を行っています。
8
文化財保存技術の保存
(1)文化財保存技術とは
我が国の固有の文化により生み出され,現在まで保存・継承されてきた文化財を,確実に後世へ伝
えていくために欠くことのできない,文化財の修理技術やそれに用いられる材料や道具の製作技術な
どを「文化財保存技術」と呼んでいます。
(2)選定保存技術の選定並びに保持者などの認定
国は,文化財保存技術のうち,保存措置を講ずる必要があるものを選定保存技術として選定し,保
護を図っています。また,そうした技術・技能を正しく体得しているものを保持者として,技術・技
能の保存のための事業を行う団体を保存団体として認定しています(図表 2-7-18)。
260 文部科学白書 2008
平成 20 年度の選定保存技術の選定
第
図表 2-7-18
章
7
平成 20 年度の選定保存技術の選定(20 年9月選定・認定)
けっぱつ
こはぐら すけのり
おきなわでんとうげいのう
結髪(沖縄伝統芸能) 保持者
こなみ 文化芸術立国を目指して
○選定保存技術の選定・保持者の認定
のりお
古波藏 佐紀(雅号:小波 則夫)
○選定保存技術の保持者の追加認定
てばたせいさく
手機製作
保持者
おおしろ よしまさ
大城 義政
○選定保存技術の保存団体の追加認定
たてぐせいさく
建具製作
たたみせいさく
畳製作
ぜんこくでんとうたてぐぎじゅつほぞんかい
保存団体
全国伝統建具技術保存会
保存団体
文化財畳保存会
ぶんかざいたたみほぞんかい
選定保存技術「結髪(沖縄伝統芸能)
」
保持者:古波藏佐紀(雅号:小波則夫)
(3)保存のための取組
文化財の修理技術や,それに用いられる用具および道具の製作技術の保存のため,保持者や保存団
体が行う技術の錬磨,伝承者の養成,記録作成事業に対して補助を行っています。このような施策を
通じて文化財保存技術の保存を図っています。
9
埋蔵文化財の保護
埋蔵文化財とは,国や地域の歴史や文化の成り立ちを明らかにする上で欠くことのできない国民共
有の財産であり,個性豊かな地域の歴史的・文化的環境を形づくる貴重な資産です。
これまでの埋蔵文化財行政は,開発事業などに伴う遺跡の内容を確認するための発掘調査,それを
踏まえた現状保存のための調整,そして現状保存することができない場合には記録を保存するために
行う発掘調査(以下,記録保存調査)を円滑かつ迅速に実施することが大きな課題でした。
こうしたことから文化庁では,「埋蔵文化財発掘調査等の整備充実に関する調査研究委員会」を開催
し,出土品の取扱い,発掘調査の経費と期間の積算標準の策定など様々な課題について調査研究を進
めてまいりました。その成果については調査研究ごとに報告書を取りまとめ,文化庁より各都道府県
に通知を行ってきました。それを受けて,各都道府県において取扱い基準を策定するなど,所要の施
策が行われております。平成 20 年 3 月には,同委員会において記録保存調査の実施に民間調査組織
を導入する場合の考え方を示した「今後の埋蔵文化財保護体制のあり方について」(報告)がまとめら
れました。
10
古墳壁画の保存活用事業
(1)高松塚古墳の整備及びキトラ古墳の壁画取り外し
高松塚古墳では,平成 19 年の石室解体時に使用した墳丘上の仮設覆屋を撤去し,平成 20 年 7 月よ
り仮整備に伴う発掘調査を開始しました。キトラ古墳では,平成 19 年 7 月に開始した天井天文図の
取り外し作業が平成 20 年 11 月に終了したことにより,絵が確認されている部分の取り外しはすべて
終了しました。現在,取り外した壁画は国宝高松塚古墳壁画仮設修理施設において,高松塚古墳の壁画・
石室石材とともに保存修理を行っています。
(2)普及・公開事業の実施
平成 20 年 1 月 26 日(土)に奈良県において「高松塚古墳シンポジウム〜石室解体レポート〜」
(主催:
文部科学白書 2008 261
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
文化庁,国立文化財機構奈良文化財研究所,国立文化財機構東京文化財研究所,奈良県教育委員会,
明日香村)を開催しました。また,国立文化財機構奈良文化財研究所飛鳥資料館の春期特別展(5 月)に
おけるキトラ古墳壁画の十二支「子(ね)」「丑(うし)」「寅(とら)」の特別公開や,高松塚古墳壁画・石
室石材の修理作業を行っている国宝高松塚古墳壁画仮設修理施設内修理作業室の一般公開(春・秋の 2
回)などの公開事業を実施しました。
(3)古墳壁画保存活用検討会及び高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会の設置
高松塚・キトラ古墳の保存活用を行うために必要な事項等を一体的に調査研究するため,平成 20
年 5 月に「国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会」,「特別史跡キトラ古墳の保存・活用等に関する
調査研究委員会」を再編し,「古墳壁画保存活用検討会」及び「高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会」を
開催し,さらに古墳壁画保存活用検討会の下に「保存技術ワーキンググループ」を開催しました。両検
討会は必要に応じて適宜情報を提供しながら検討を行うこととしています。
11
世界遺産と無形文化遺産
(1)世界遺産の登録の推進
①世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)
「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)は,顕著な普遍的価値を持
つ文化遺産・自然遺産を,人類全体のための世界の遺産として損傷・破壊などの脅威から保護する
ことを目的として,1972(昭和 47)年のユネスコ総会において採択されました。我が国は 1992(平成
4)年に同条約を締結し,2009(平成 21)年 1 月現在で締約国は 186 か国に上ります。
毎年 1 回開催される世界遺産委員会は,締約国からの推薦に基づき,顕著な普遍的価値を持つと
認める文化遺産・自然遺産を世界遺産に登録し,平成 20 年 7 月現在,878 件の遺産(文化遺産 679 件,
自然遺産 174 件,複合遺産 25 件)が,我が国では 14 件の遺産(文化遺産 11 件,自然遺産 3 件)が登
録されています(図表 2-7-19:我が国の世界遺産一覧)。
我が国の世界遺産一覧
図表 2-7-19
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世界遺産への登録を推進することは,我が国の貴重な文化遺産の国際的な価値が評価されるとと
もに,登録を目指す過程で地域における総合的な文化財保護の取組が格段に充実するという点で,
大きな意義があります。
262 文部科学白書 2008
遺産暫定一覧表として世界遺産委員会に提出することが求められています。
泉の文化遺産」については,2008(平成 20)年 7 月に開催された世界遺産委員会において「記載延期」
との審議結果であったため,現在,世界遺産委員会において示された課題の整理を図りつつ,2011(平
成 23)年の記載を目指し準備しています。また,「国立西洋美術館(本館)」については,日本を含む
6 か国共同推薦による「ル・コルビュジエの建築と都市計画」の一部として,2008(平成 20)年に推薦
書を提出し,2009(平成 21)年 6 月に開催される世界遺産委員会において,記載の可否が審議され
る予定となっています。
また,2006( 平成 18)年,2007( 平成 19)年には,世界遺産暫定一覧表に記載する遺産について,
地方公共団体からの提案を受け付け,文化審議会文化財分科会世界文化遺産特別委員会において調
査審議を行いました。この調査・審議の結果に基づき,2007(平成 19)年には 4 件,2009(平成 21)
年には 3 件を,新たに暫定一覧表に追加記載しました。
(2)無形文化遺産の保護に関する取組
2003(平成 15)年のユネスコ総会において,無形文化遺産の保護に関し拘束力のある初めての国際
的な法的枠組みとして「無形文化遺産の保護に関する条約」が採択され,2006(平成 18)年 4 月 20 日に
発効しました。
我が国は,本条約の策定段階から主導的役割を果たすとともに,本条約の早期発効を促すため,
2004(平成 16)年 6 月,3 番目の締約国となりました。
本条約は,締約国に対し,国内の無形文化遺産を特定するための目録の作成を求めるとともに,ユ
ネスコにおいて「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」や「緊急に保護する必要がある無形文化遺産
の一覧表」を作成することなどを内容としています。
本条約への対応を図るため,文化審議会文化財分科会に「無形文化遺産保護条約に関する特別委員
会」を開催し,調査・審議を行いました。その結果,
・文化財保護法に基づいて,国が「重要無形文化財」や「重要無形民俗文化財」,「選定保存技術」に指
定・選定した文化財の一覧を,我が国の無形文化遺産の目録としてユネスコに提出
・「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」には,14 件の無形文化遺産を提案
・「緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧表」には,当面提案を行わない
こととなりました。
この対応については,文化審議会文化財分科会及び外務省・文化庁連絡会議においても了承され,
平成 20 年 9 月末,我が国の無形文化遺産の目録及び「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」への 14
件の提案書がユネスコに提出されました。
なお,本条約の策定に先立つ 2001(平成 13)年から 3 回にわたって,
「人類の口承及び無形遺産の傑作」
としてユネスコにより宣言された,日本の「能楽」,「人形浄瑠璃文楽」,「歌舞伎(伝統的な演技演出様
式によって上演される歌舞伎)」を含む 90 件については,2008(平成 20)年 11 月,イスタンブールで
開かれた本条約の第 3 回政府間委員会において「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」への統合が決
定されました。
文部科学白書 2008 263
文化芸術立国を目指して
現在,我が国の世界遺産暫定一覧表に記載されている文化遺産は,11 件です。このうち,「平
7
章
締約国は,世界遺産の候補としてふさわしいと考えられる文化遺産・自然遺産の一覧表を,世界
第
②世界遺産の登録・推薦に向けた国内の取組について
第 2 部 文教・科学技術施策の動向と展開
第
1
6
節
美術館・歴史博物館・劇場などの振興
我が国の美術館・歴史博物館の概要
我が国には 1,196 館の登録博物館・博物館相当施設がありますが,そのうちの 828 館が美術博物館(主
として美術に関する資料の収集・展示・保管を行う博物館)と歴史博物館(主として歴史や民俗に関す
る資料の収集・展示・保管を行う博物館)であり,全体の約 7 割を占めています(参照:第 2 部第 1 章
第 4 節 3(3))。
2
公私立の美術館・歴史博物館への支援
文化庁では,美術館・歴史博物館が地域住民の文化芸術活動・学習活動の場として積極的に活用され,
文化芸術の発信の拠点としての機能が充実するよう,展覧会をはじめとする事業に対する支援や人材
養成などを行っています。
(1)芸術拠点形成事業(ミュージアムタウン構想の推進)
公私立の美術館・歴史博物館は,地域文化の中核としてその活動を通じて果たす役割は大きく,地
域活性化の取組との連携を視野に入れた積極的な活動が望まれています。
ミュージアムタウン構想は,美術館・歴史博物館の施設や運営全体を地域に開くことにより,常に
人々が集い,人々に親しまれる,魅力あふれる場を構築することを目指すものです。
本事業では,子どもたちに本物の美術・文化財に触れる機会を提供するとともに,これらの取組を
通じて,地域の文化資源を生かした魅力あるまちづくりを実現することを目的とし,美術館・歴史博
物館を拠点に,地域の子どもたちが文化芸術体験活動を行う事業に対して支援を行っています。
(2)美術館 ・ 歴史博物館を支える人材の養成など
公私立の美術館・歴史博物館の学芸員などの専門的な知識や技術を向上させ,美術館・歴史博物館
活動の充実を図ることが求められています。このため,文化庁では,国立美術館・国立博物館などの
協力を得て,企画展示セミナー,運営研究協議会など,様々な研修会や講習会を実施しています。
3
登録美術品制度の実施
優れた美術品の美術館や博物館における公開を促進することによ
り,国民が美術品を鑑賞する機会を拡大することを目的とする「美術品
の美術館における公開の促進に関する法律」(平成 10 年 12 月施行)に
基づいて,「登録美術品制度」が設けられています。
この制度は,優れた美術品について,個人や企業などの所有者から
の申請に基づき,専門家の意見を参考にして文化庁長官が登録を行う
ものです。
登録された美術品は,所有者と美術館の設置者との間で結ばれる登
録美術品公開契約に基づき,当該美術館において 5 年以上の期間にわ
たって計画的に公開・保管されます。また,登録美術品については,
米原雲海作「清宵」
264 文部科学白書 2008
国立美術館
国立美術館は,独立行政法人として,東京国立近代美術館,京都国立近代美術館,国立西洋美術館,
国立国際美術館,国立新美術館それぞれの特色を生かしつつ,5 館が連携・協力して,美術作品の収集・
展示,教育普及活動やこれらに関する調査研究を実施しています。また,我が国の美術振興の拠点と
して,海外の美術館や作家との交流,公私立美術館への助言を行っています(国立美術館ホームページ:
http://www.artmuseums.go.jp/)
(図表 2-7-20)。平成 20 年度においては,所蔵作品展とともに,
「沖
縄・プリズム 1872−2008」(東京国立近代美術館),「椿昇 2004−2009: GOLD/WHITE/BLACK」
(京都国立近代美術館),「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」(国立西洋美術館),「アヴ
ァンギャルド ・ チャイナ − < 中国当代美術 > 二十年−」(国立国際美術館・国立新美術館),「エミ
リー・ウングワレー展 −アボリジニが生んだ天才画家−」(国立新美術館・国立国際美術館)など 40
回の企画展を開催した他,教育普及事業として美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修
などを実施するとともに,文化庁との共催による「第 3 回アジア美術館長会議」を開催しました。また,
東京国立近代美術館フィルムセンターでは,巡回展として,優秀映画鑑賞推進事業を全国 193 会場で
実施しました。
図表 2-7-20
国立美術館
*3
フィルム・アーカイブ
映画フィルムと関連資料を文化財として収集・保存する機関。
文部科学白書 2008 265
文化芸術立国を目指して
4
7
章
これまでに 28 件の美術品が登録美術品として登録されました(平成 20 年 12 月現在)。
第
相続税の物納の特例措置が設けられています。
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