Comments
Transcript
Page 1 Page 2 《特集》 グローバリゼーションは世界に何をもたらすか
\n Title Author(s) Citation グローバル化の進展と国際マーケティングの新展開 中野, 宏一; Nakano, Koichi 経済貿易研究 : 研究所年報, 35: 127-135 Date 2009-03-25 Type Departmental Bulletin Paper Rights publisher KANAGAWA University Repository ー1 2 7- ( 特集) グローバ リゼー ションは世界 に何 をもた らすか グローバル化の進展と国際マーケテイングの新展阿 中 野 宏 一 1. は じめに 2. グローバ リゼ ーシ ョンの功罪 と国際 マ ーケテ ィ ング 3. 国際 マ ーケテ ィングの標準化 を妨 げ る もの ( 1 )製 品 の標準化 ( 2)新興 国市場 の出現 ( 3) 国家間 におけ る諸条件 の相違 4. 国際 マ ーケテ ィングにおけ る製 品戦 略 ( 1)適応 と標準化 の両立 ( 2)世界 同時発売体制 の確 立 ( 3) 国際標準 の浸透 5 . 国際 マ ーケテ ィングにお け る価格戦 略 ( 1 )低価格戦 略 ( 2) 高価格戦略 6. 国際 マ ーケテ ィングにおけ るチ ャネル戦 略 ( 1 ) チ ャネルの短縮化傾 向 ( 2) チ ャネノ レ・リーダーの変遷過程 7. 国際 マ ーケテ ィングにおけ る プ ロモ ーシ ョン戦 略 ( 1 )広告表現 の適応 と標準化 ( 2 )販促用 品 な どの制作 問題 8.おわ りに 1. は じめに 本稿 の タイ トル に "グローバ ル化" とい う言葉 が入 ってい るが, この言葉 は人, モ ノ, カネ,情報 の国 際移動 の進展 を意味す る。 また " 国際 マ ーケテ ィング" とい う用語 も入 ってい るが, この言葉 は モ ノの う ち消費財 , とりわけ ブラ ン ド品 につい て, その製 品,価格, チ ャネル, プロモ ーシ ョンの 4つ を統合 的 に 国際展 関す る もので あ る。 この こ とを前提 として,以下 で は グ ローバ ル化 の急速 な進展 に伴 い 国際 マ ーケテ ィングが突 き進 んでい る方 向性 を確認 した うえで, この 4つ の マ ーケテ ィング手段 の国際展 開 の新動 向について説明す る0 ー 1 2 8 - グローバル化の進展と国際マーケティングの新展開 2. グ ローバ リゼ ー シ ョンの功 罪 と国際 マ ーケテ イング "グ ローバ リゼ ー シ ョン" とい う言葉 は, い ろい ろな意 味 で評判 が悪い こ とは周 知 の とお りで あ る。 カネ の面 で の グ ローバ リゼ ー シ ョンは ア ジア通 貨危機 で,最 近 で はサ ブプ ライム問題 で悪評 で あ る. また農業 部 門 で は新 興諸 国 の食料 自給 構 造 が破壊 され る一 方 で, 巨大作 物 企業 の世界 制覇 が進行 してい る, とい う 批判 が あ る。本稿 にお け る " 国際 マ ーケテ ィ ング" とい うテ ーマ に限定 して も,次 の よ うな批判 が あ る1 ) 。 第 1は,- ンバ ーガ ーな どの ア メ リカ文 化 を世 界 中に強 引 に撒 き散 らす もの で あ る, とい う批判 で あ る。 これ に対 して は, フ ァース ト ・フー ドに対 して ス ロー ・フー ドを, とい う批判 的運 動 が生 じてい る。 第 2に,外 国 の低 賃 金 労 働 力 を利 用 して低 価 格 品 を調 達 す る こ とに よ り,企 業 間競 争 に勝 と う とす る が, その低 賃 金 労働 の 中に は,安全 や衛 生 な どの環 境 面 で の劣 悪 な労働 や児 童 労働 な どが含 まれてい る, とい う批判 が あ る。 これ に対 して は, マ ス コ ミを含 めて社 会 か ら広 く批判 が な され, フェア トレー ド運動 が生 じてい る。 第 3に,現地 に不適 切 な マ ーケテ ィ ングを展 開す る, とい う批判 が あ るO例 えば,発展途上 国 で は,粉 ミル クを溶 かす に は水 が不 衛 生 で あ り,冷蔵 庫 が な く,衛 生管 理 が行 き届 か ない とい うこ とが あ るに もか か わ らず,外 国企 業 が粉 ミル クの宣伝 をす る, とい う批判 が あ る。貧 困家庭 で は,粉 ミル クを使用 基 準 よ り薄 め る とい うこ ともあ る。 これ に対 して は法 で規制 す る とい う方法 が あ る。例 えば タイで は粉 ミル クの 広告 を禁止 してい る2 ) 0 この よ うに評 判 の悪い "グ ローバ リゼ ー シ ョン" で あ るが,筆者 は,次 の 3つ の意 味 で, この評判 の悪 い グ ローバ リゼ ー シ ョンを擁護 しよ うと思 う。 第 1に, 日本 人 が グ ローバ リゼ ーシ ョンを批判 す る ときに, グ ローバ リゼ ー シ ョンだ けに起 因 しない マ イナ ス現 象 まで もグ ローバ リゼ ーシ ョンだ けのせい に して しま うこ とが あ る, とい うこ とを指 摘 したい。 例 えば, 日本 の失業 問題 は グ ローバ リゼ ーシ ョンンだ けで は な く, 日本経済 に固有 の問題 で あ る " バ ブル の崩壊 " や 日本経 済 の競 争 力低 下 に も起 因す るに もかか わ らず, グ ローバ リゼ ーシ ョンだけ に原 因 を求 め て しま う, とい うこ とが あ る。 第 2に, 中国 をは じめ とす る新 興経 済諸 国群 の経 済発 展 の要 因 と して, グ ローバ リゼ ー シ ョンを挙 げ な い わ け に はい か ない 3)O 日本 経 済 は低 迷 してい る。地 方経 済 の疲 弊 は はな はだ し く, 自殺者 数 は高水 準 で 推 移 してい る。 また,『労働 経 済 白書 ( 2 0 08年)』 に よれ ば,仕 事 に生 きがい を感 じる人 の割 合 が大 き く 低 下 してい る4 ) 。 しか し世 界 を見渡 せ ば,ブ ラジル, ロシア,イ ン ド,中国,中近東諸 国,オ ース トラ リア, イ ン ドネ シア, ベ トナ ム, ア フ リカの一 部諸 国 な どは,過 去 よ りも好 景 気 で あ る。「日本 は経 済成 長 を実 現 したか ら, い ま さ ら競 争 は した くない」 とい うわ けに はい か ない 。 " 競 争 " そ の ものが悪い ので は ない 。競 争 は発展 の原動 力 で あ る。人 間 は努力 す る こ と,競 争 す るこ と, その もの を厭 わ ない 。努力 して も報 われ ない こ とを徒 労 とい うが, これ が困 る。例 えば ワーキ ングプア ー が それで あ る。競 争 の もつ 負 の面 を さまざ まな社 会 的制度 で規制 しなが ら, グ ローバ リゼ ー シ ョンの プ ラ ス面 を人類 は享 受 すべ きで あ ろ う。 第 3に, グ ローバ リゼ ー シ ョンは今 に始 ま った もので は ない こ とを指摘 したい。企 業 の海 外進 出 は,今 から1 00年程 前 の ア メ リカにお け る ビッグ ・ビジネ スの成 立 と共 に本格化 したが,経 済活 動 の国際化 とい 1) この点については,土井一生 「 多国籍企業の S CRと企業倫理」江夏,太田,藤井編 『国際 ビジネス入門』中央経済社, 2 0 08年を参照のこと。 2) 電通編 『 電通広告年鑑 ' 03 /' 0 4』電通,20 0 3年の 「 海外市場 タイ」の項目による0 3) 例えば,世界銀行の報告によれば,発展途上国で 1日を 1 ドル以下で生活する貧困層の人 口割合は 1990年の 29%から 20 0 4年には 1 8%に低下 した ( Wo r l dBa n kURLht t t ) : / /go. wor l dba n k. o r F/ OI m OCI T O) 。但 し,経済のグローバル化に伴 う 所得格差の拡大への対応策が求められている。 4) 『 労働経済白書 ( 2 00 8) 』8 0- 81ページ ( 資料出所は内閣府 「国民生活選好度調査」) によれば,「 仕事のや りがい」に 満足感をもつ人の割合は 1 9 80年前後には 3 0% を超えていたが,2 0 05年には 1 6. 6%に低下 している。 グローバル化の進展と国際マーケティングの新展開 ー 129 - う意 味で の グ ローバ リゼ ーシ ョンは,紀元前 か ら今 日まで貿易 とい う形 で行 われて きた。 この貿易 は人類 の歴史 におい て さまざまな乳蝶 を生 んで きた。植民地化,奴隷 の売買, ア- ン戦争 な ど枚挙 に暇 がない。 しか し人類 はその よ うなマ イナス面 を少 しずつ克服 しなが ら前進 して きたので あ るO グ ローバ リゼ ーシ ョンは,近年 の情 報 や輸 送 の技術 革新, さらには W T Oや F TAな ど経済 の国際化 を 促進 す る世界 的 な制度 の確立 に よ り, その進展速度 が早 くな ったた めに クローズア ップされてい るので あ るO グ ローバ リゼ ーシ ョンの速度 が速 くな る と, それが内包 してい る負 の面 もそれだ け大 き く露呈す るこ とは,予想 され るこ とで あ る。抵抗 し難 い歴史 の大 きな流 れ を否定 す るので はな く, マイナス面 を克服 し なが らプラス面 を享受す る知恵 を出 し合 うこ との方が生産 的で あ ろ う。 市場原理主義 , あ るい は " む きだ しの資本主義" とい われ る ものが どん なに大 きな弊害 を もた らす のか について は,世界 の人 々 は十分 な体験 を もった。 グ ローバ リゼ ーシ ョンに伴い 国家 の制御機能 が弱体化 し た。弱体化 したか らこそ, 国家 に よ り大 きな役割 が期待 され る ところで あ る。 しか し, それ は規制 の強化 に よ り自由な市場競争 を妨 げ る とい う危 険性 を もは らむO特殊法人 の乱立 な どに よる税 の無駄遣いや経済 活動 を萎縮 させ る規制 を行 う政府 で はな く,「 健全 な社 会」 をは ぐ くむ ための政府 の役割 が求 め られ る。 ここで言 う健 全 な社 会, とは後 述 の 「3 ( 3)国家 間 にお け る諸 条件 の相違」 で説 明す る よ うな 日本 人 の遺伝 子 に起 因す る 日本人 の性格 を念頭 に置い た社会 を意味す る。 また,地球環境 問題 の よ うな世界各 国 に影響 の及ぶ 問題 について は,従来以上 に国際協調 に よるル ールの確 立 と監視 の重要性 が増 してい る。但 し, これ らの点 につい て詳述 す るこ とは本稿 の 目的で はない。 3. 国際 マーケテ イングの標準化 を妨 げるもの ( 1)製品の標準化 i nt e r na t i ona lc or por a t i ons ), 多 国 籍 企 業 ( mul t i na t i ona lcor por a t i ons , 本 稿 の対 象 企 業 は, 国 際 企 業 ( mul t i na t i ona le nt er pr i s es ,mul t i na t i ona l丘r ms ), グ ロ ーバ ル 企 業 ( gl oba lc or por a t i ons ,gl o ba l負r ms )な ど と表 現 され て きた が,論 者 に よ って そ の定 義 は さ ま ざ まで あ る。 こ こで は多 国籍 企 業 を, ダユ ング ( Dunni ng) に従 い, [ 海 外直接投 資 を行い , 2ヶ国以上 で付加価値活動 を所有 し, また は何 らか の方法 で コン トロール してい る企業」 として定義す る5)。 この よ うな定義 は, ダニ ング自身 が指摘 してい る よ うに, 学会 や実業界 ,OECD ( 経 済 開発機構) や UNCTAD ( 国連 貿易 開発会議) な どで使 われてい る最 も一 般 的 な定義 で あ る。 さて,マ ーケテ ィングは製 品 ( Pr oduc t ),価格 ( Pr i c e),チ ャネル ( Pl a ce),プロモ ーシ ョン ( Pr omot i on) とい う 4 Pを総合 的 に ミックス して展 開す る もので ある, とい うのがマ ッカ ーシー ( Mc Cart hy) 以来 の伝 統 的 な考 えで あ るが6),正確 に言 えば, この 4 Pは等 し く重要 なので はな くて,肥 田 日出生 が指摘 した よ うに,製 品が 中心 なので あ る7)0 国際 マ ーケテ ィング研 究 の所 期 の段 階で は,例 えば カテオ ラが,現在 で は第 1 3版 が 出てい る,か の名 著I nt e r nat i onalMar ke t i n gで指摘 して きた よ うに, マ ーケテ ィングを, とりわけ製 品 を異 な る国際環境 いか に適応 させ るか, が重要課題 で あ った8)。 しか しその後,経営 に優 れた多国籍企業 は,技術 的 に優 れて, したが って機能性 と信頼性 に富 み,低価 格 で,世界 中の人 々 に受 け入 れ られ る国際商 品 を提供 す る とい う方 向,す なわち " 標準化" を目指 した。 5) Du n n i n ga ndLu nd a n, Mu l t i n a t i o n a l En t e r pr i s e sa n dt h eGl o b a l Ec o n o my, 2 nd e d. , Ed wa r dEl ga r , 2 0 0 8 , p . 3 . 6) 正確には,マッカーシーよりも早 くに,-ワードが 1 9 5 7年にマーケティング手段を製品,チャネル,価格,広告,対 人販売,立地に分類 し,さらに彼は,1 9 6 3年には製品,チャネノ レ,価格,広告,セールスマンに分類 した。Ho wa r d , J . A. , Ma r k e t i n gMa n a g e me n t : An a l y s 昔 Sa n dDe c i s i o n, I r iA, w 1 9 5 7 , p . 5 . 高品質の時代』 日本経済新聞社,1 9 8 0年,3 0-3 2ページ。 7) 肥田日出生 『 8) Ca t e o r aa n dGr l a1 m, a I nt e r n at i o n a l Ma r k e t i n g, 1 3 t he d. , Mc Gr a wHi l l / I r in, w 2 0 0 7 , p . 1 0 . ー1 3 0- グローバル化の進展 と国際マーケティングの新展開 標準化 は,規模 の生産性 や マ ス ・マ ーケテ ィングの展 開 とい う視 点 か らも必要 な こ とで あ る9)。 また,経 済 の グ ローバ ル化 の進展 に よ り,世界 の人 々 のニ ーズの同質化傾 向 もみ られた こ とも相 まって,標 準化 が 国際 マ ーケテ ィングの一般的 な方 向 とな ってい る。 この点 につい て の初期 の著名 な研究 として はバ ゼルの論文 が あ るが10), その後 の体 系的 な研究 として, ノ、ンプ トン-バ ス ク ( Ha m pt onandBus ke) が あ る11) 。彼 らは,従来 の多国籍企業 と今後 の グ ローバ ル企 業 とを比較 して,経営 や マ ーケテ ィングの さまざまな局面 において, どの よ うなパ ラダイム ・シフ トが生 じるか につい て,一覧表 ( 「国際 マ ーケテ ィングにお け る多国籍パ ラダイム とグ ローバ ル ・パ ラダイ ムの 仮説」 ) を掲 げて考察 した。 それ に よれ ば, これ まで の多国籍 企業 は, 国家 間 の相違 のた めに製 品 の市場 へ の適応 を必要 したが,今後 の グ ローバル企業 は,製 品 は グ ローバ ル ・ニ ーズに適応 す る よ うにな り,製 品適応へ の関心 は抑 え られ る, と考 えてい る。 しか し筆者 は, グ ローバ リゼ ーシ ョンと共 に, これか らは世界 の人 々の差異 に注 目す る " 適応" が再 び 重要視 され,国際 マ ーケテ ィング戦 略 の大 きな課題 とな るで あ ろ う, と考 える。 それは,次 の 2つ の意味 におい て の こ とで あ る。 ( 2)新興 国市場 の出現 第 1は,経済 的 な意味 におい て の新興諸 国の台頭 で あ る。 日本 や欧米諸 国の経済停滞 に対 して, ブラメ ル, ロシア, イ ン ド, 中国 に加 えて, 中近東諸 国, オ ース トラ リア, ベ トナム, イ ン ドネ シア, ア フ リカ の一部諸 国の経済 は急成長 し,世界 の消費 市場 は多極化 してい る。現在 は,い わゆ るサ ブプライム問題 で これ らの市場 も混乱 してい るが, 中 ・長期 的 には多極化傾 向が進展 す る もの と思 われ る。 したが って,今 後 は これ まで の よ うな, これ ら諸 国で の低賃 金労働 を利用 した製 品 を輸入す る とい うビジネ スに加 えて, これ ら諸 国 を目標 市場 とす る国際 マ ーケテ ィングが本格 的 に展 開 され るこ とにな る と思 われ る。 これ まで の主要市場 で あ った欧米 の市場 は比較的 に同質 的 なので標 準化戦略が有効 で あ ったが, 上に挙 げた新興諸 国 の市場 は, 自然環境 や文化 ・宗教 な どの面 で異質性 の大 きな市場 で あ る。 この意味 で, " 過 応" の再 重視 が必要 とな るで あ ろ う。現実 に も, 日本 の 自動車 メ ーカ ーや大手家電 メーカ ーは,す で にそ の よ うな方 向に シフ トしつつ ある12)0 ( 3) 国家間 にお ける諸条件 の相違 国際 マ ーケ テ ィングにお け る標 準化 を妨 げ る第 2の要 因 として は,気象 な どの地 理 的条件 ,法律 の相 逮 ,経済水準,宗教 や文化 の相違 な どが あ る。 これ らは従来 か ら挙 げ られて きた要 因で あるが,本稿 で は 人種 に よる性格傾 向の違 い もまた その重要 な要 因 とな るで あ ろ う, とい うこ とを指摘 したい。 人種 間 におけ る性格傾 向には相 当の相違 が存在 し, その こ とが世界 の多様 な文化 を形成 した と思 われ る。 この点 につい て参考 にな るのは,遺伝子 の研究 で あ る1 3 ) 。 1 9 9 6年 は,世界 の精神 医学界 に衝撃 を与 えた 2本 の論文 が発表 された年 で あ った。一 つ は科学雑誌 『ネ イチ ャー ・ジ ェネテ ィックス』 に発表 された 「 新奇性追及」 に関す る研究 で あ る。要約すれ ば, ドーパ ミ 9 ) 「標準化 の経済性」に関す る最近 の論文 として,竹 田志郎 「多国籍企業 の経営パ ラダイム ・「標準化 の経済性」の追求」『世 界経済評論 ( Ⅵ) 1 . 5 2 , No . 1 2 ) 』2 0 0 8年 1 2月号がある。 1 0) Buz z e l , R. D. ," Cn a yo us t a nda r d i z emul t i na t i o na l ma r ke t ng? i ' 'Har v ar dBus i ne s sRe v i e w( No v , De c . 1 9 6 8 ) , 11 ) Ha mp t o n,G.M.a ndBus ke ,E. ,` T̀heGl o ba lMa r ke t ngPe i r s pe c t i ve "i nCa uS v i g1 ,S. T( e d),Adv anc e si nI nt e r nat i o nal Mar ke t i n g, Vo l . 2 , 1 9 8 7 . 1 2) 例 えば,「ホ ンダは成長性が高い新興国のニーズに合 った開発体制 を構築 し,シェア拡大 を目指す。 」( 『日本経済新聞』 2 0 0 8年 9月 2 6日)や 「松下 は新興 国各 国の生活様式 を反映 した専用仕様 の製品 を現地営業部 門 と日本 の開発部門が共 同 で開発す る体制 に移行。製 品 の大半 は販売先 の国 または近隣 国の組 み立 て工場 で生産す る。」 ( 『日本経済新 聞』2 0 0 8年 8 月 9日 ( 夕刊) とい う報道からも,このような動きを知ることができる。 1 3) 以下での遺伝子 に関す る記述 は,大野裕 『弱体化す る生物, 日本人』講談社 ,1 9 9 9年 に拠 る。 グ ローバ ル化 の進展 と国際 マ ーケテ ィングの新展 開 1 3 1 一 ン第 4受容体 ( D4DR) の設 計 図 の遺伝子 のなか に, 同 じア ミノ酸 の酉己列 が繰 り返 され る回数 が人 に よっ 新奇性追及」傾 向が強 くな る とい うこ て違 ってい る部分 が あ る14)。 これが繰 り返 され る回数 が多い ほ ど 「 とを明 らか に したので あ る15)。 さらに興味深い こ とは, この繰 り返 し回数 は人種 に よってか な り異 な り, 3 6の人種 を調 査 した ところ,世界 的 に は 4回が最 も多 く, アメ リカで は 7回が最 も多 くて次 に 4回が 多 い, ア ジアで は 4回が最 も多 くて次 に 2回が多い とい う。 この こ とについ て大野裕 の グル ープが 日本人 を 対象 に調べ た結果 も同様 で あ った, との こ とで あ るo も う抄 とつ の論 文 は,1 9 9 6年 に科 学雑誌 『ネ イチ ャー』 に発表 された もので, セ レ ト- ンの遺伝 子 の 違い が不安 の強 さに影響す る, とい う研究 で あ る。 これ は神経伝達物質 の取込 み作業 をす るセ レ トニ ン ・ トラ ンスポ ーター ( 5 HTr) の一部 に, あ る種 の塩 基 を もつ遺伝子 とそれ を もた ない遺伝子 が あ り, それ ぞれ 1遺伝子 , S遺伝子 と呼 ばれてい るが, この研究 は, S遺伝子 をもつ人 は 1遺伝子 を もつ人 に比べ て 不安 で神経質 な傾 向が強 い とい うこ とを報告 した1 6 ) 。 そ して, アメ リカ人 は S 遺伝子 と 1遺伝子 の両方 を もつ人 が最 も多 く,次い で 1遺伝 子 だけ を もつ人 が多い, との こ とで ある。 これに対 して,大野裕 の グル ープが 日本人 を対象 に調べ た結果 は, S遺伝子 だ け を もつ人 が最 も多 くて,次いで S 遺伝子 と 1遺伝子 の 両方 をもってい る人 が多か った, とい う。 これ ら二 つ の研究 を合 わせ る と, アメ リカ人 は新奇性 に富 み,不 安感 に強 く, 日本人 を含 む アジア人 は 保 守的で,不安感 を抱 きやすい傾 向が あ る, と言 えそ うで あ る。 もち ろん, この よ うな遺伝子 の違い で人 の性格傾 向が全 て決 まるわけで はないが,大野裕 は次 の よ うに 説 明 してい る。「・・・生 まれつ きの性格傾 向は人種 に よって あ る程度 は決 ま ってい る よ うです。少 な く とも私 た ちの研究結果 か らは,私 た ち 日本人 は, よ く言 えば 慎重 に,逆 の言い方 をすれば臆病 に生 まれつ く傾 向が あ る よ うなのです。 これ は,社会学的 に もまた医学的 に も, 日本人や ア ジア人 の性格 の特徴 とし てい われて きた特徴 とも符号 します 。 」 1 7 ) 上記 の よ うな意味 におい て " 適応" との兼 ね合 いが,今後 は重要課題 とな るこ とと思 われ る。 なあ この人種 に よる性格傾 向の違い を認識 してお くこ とは, 国際 マ ーケテ ィングのみな らず,企業買 収 な どの国際 ビジネス全般 の遂行 に際 して重要 な こ とで あ る。 以上 の よ うな問題 意識 を念頭 に,以下 で は国際 マ ーケテ ィングの 4 Pについ て,20世紀後半 の多国籍企 業 と2 1世紀 に入 ってか らの多国籍企業 の動 向 を対比 して その相違 を指摘 す る とい う方法 で,主 に 日本企 業 の国際 マ ーケテ ィングの近年 の特徴 につい て説 明す る。 4. 国際 マーケテ イングにお ける製 品戦略 ( 1)適応 と標準化 の両立 製 品 を海外市場へ適応 させ るには,次 の よ うな視 点が あ る。 ・政治 的,法律 的適応 ・技術 的適応 ・経済 的適応 ・地理 的適応 ・文化 的適応 日本 の ビジネ スマ ンは,「欧米諸 国 の市場 は 日本 市場 とは異 な る」 とい う意識 が強 くて,海外 市場へ の 適応 に熱心 で ある。 これ に対 して,欧米諸 国 の企業 は標準化 を目標 とす る戦 略 を とる傾 向が 目立 った。確 か に機能性 に優 れた商 品,快適 な商 品 な どには グ ローバル なニ ーズが あ り, 同質性 がみ られ る。 とりわけ 欧米 の 巨大 多国籍企業 は,い わゆ る " 市場革新行動" を とる例 が 目立つ。 これ は,企業 が積極 的 なマ ーケ テ ィング戦 略, と りわけ積極 的 な広告 ・宣伝戦 略 を とり,市場環境 その もの を変革す る よ うな企業行動 を 意味す る。例 えば,5 0年 ほ ど前 に,「スカ ッ トさわやか, コカ ・コーラ」 の キ ャッチ フ レーズ を用 い た大 0 '', h 78 78 89 3 8 ・,r T o&,,, i,,, A o ぺ ∼べ べ 善書 書書 上上上上 同同同 同 )ヽ ノ) ) 4 56 7 1 32- グローバル化の進展 と国際マーケティングの新展開 規模 な宣伝 で 日本市場へ の浸透 に成功 した コカ ・コーラ社 が その例 で あ る。 また保守 的 なオ ース トラ リア で,有名人 が ジ ー ンズ を着 用 す るテ レ ビ CM を繰 り返 し流 す な ど して,若 者 の間 に ジー ンズ を浸透 させ るこ とに成功 した リーバ イ ・ス トラウス社 の例 もあ る。 国際 マ ーケテ ィング研究 にお け る重要 問題 に,適応 か標準化 か, とい う問題 が あ るが, これか らは, こ れ らを二者択一 の問題 として捉 えるので はな く, これ らの両立 が課題 とな るで あろ う。 「 適応 と標準化」 の両立方法 の一つ として クラス ター分析 が あ る。各 国の消費者行動 ,所得水準, 自然条 件 な どを分析 して,比較 的 に同質 的 な市場 をグル ープ化 し,各 グル ープにそれぞれ のモデル を投入す る と い う方法 で あ る。 「適応 と標準化 」 を両立 させ る第 2の方法 は,基本設計 の共有化 で あ る。本社 が製 品 の基本設計 ( 製造) し,外観 や付加機能 は現地工場 が現地仕様 で製造 して完成 させ る とい う方法 で あ り, トヨタ ・カ ロー ラの 最新 モデル は この例 で あ る。 ( 2)世界 同時発 売体制 の確立 多国籍企業 の成 立決定要 因 に関す る初期 の有名 な理論 として,バ ーノ ンの プロダ ク ト ・サイ クル モデル が あ る18)。 アメ リカの多国籍企業 は, アメ リカ市場 で 自社 製 晶が プ ロダ ク ト ・ライ フ ・サイ クル ( PLC) の衰 退期 を迎 える と,外 国市場 に次 々 と進 出 して当該 製 品 の PLC を展 開す る結果 , 多国籍 企業 が成 立す る, とい う趣 旨の理論 で あ る。 今 日で もその よ うな企業 は存在 す るで あ ろ うが,先発 の 巨大 多国籍企業 はすで に世界 の各地 に拠点網 を 構築 してい る。近年特 に 目立つ のは, その よ うな拠 点網 か ら製 品 を世界 同時発売 して, グローバ ルで ス ピ ーデ ィな経 営戦 略 を展 開 してい る多国籍企業 が多い こ とで あ る。 この間 の事情 を 日本企業 につい て言 えば,従来 は, まず 日本 で発売 して完成度 を高 めてか ら海外 で も発 売 してい た。 ところが,近年 は技術 の進歩 が早 くて製 品 の ライ フ ・サ イ クルが短 くな ってい るた め, 同 じ スペ ックで世界 同時発売せ ざるを得 ない, とい う事情 もあ る19)0 マ イ ク ロ フソ フ トのパ ソ コ ン OS, ア ップル の 「 i Po ne 3G」, トヨタ ・カ ローラの最 新 モ デル は世 界 同 時発 売 の例 で あ る。 さ らに,最 近 の例 で は ソニ ーや シ ャープが薄 型 テ レビの世界 同時発売 を発 表 してい る20)0 ( 3)国際標準 の浸透 貿易商 品 の品質検査 は,取 引 ご とに検査証 明書 を提 出 して確認す る, とい うのが伝統 的 な方法 で あ る。 ところが グ ローバ リゼ ーシ ョンに伴い,近年 は輸 出品 の製造工場 その もの を検査 して, 国際標 準 に適合 し てい る工場 か否 か を認定 して包括的 な品質管理 をす る, とい う方法 が取 られ る よ うにな って きた。い わば " 結果管理" か ら " 工程管理" へ の流 れで あ る。I SO の認定 な どがその例 で あ る。 多国籍企業行動 の近年 の傾 向 として, この国際標準 ( 国際規格) をめ ぐる主導権争い があ る。 ビデオの VHSとベ ータの規格 をめ ぐる争い にみ られた よ うに, 自社製 品 が国際規格 にな る と世界 市場 を制 覇 で き る。規格 には国家規格 ,公 的規 格 (デ ジ ュ リ規格),民 間規格 が あ るが,近年 で は国家 が 自国 の製 品 を国 際標準 にす る よ うに と後押 しして, 国家 間 の争い の様相 を豊 してい る。詳細 は省 略す るが, 国際標準 をめ 18) Ve r no n, R. ,… I nt e r na t i o na lI n v e s t me nta ndI n t e na r io t na lTr a dei nt l l ePr o duc tCy c l e " ,Quar t e r l yJ o ur nalo fEc o no mi c s , Ma y 1 9 66 , pp.1 9 0 -2 0 7. 19) 『日本経済新 聞』2 00 7年 1月 1 5日 20) 「ソニ ー とシャープはそれ ぞれ薄型 テ レ ビの主力 モデル を世界 中で, ほぼ同時期 に発売 す るこ とを決 めた。 (中略) デ ジタル製 品 は陳腐化 す るス ピー ドが速い うえ,薄型 テ レビの場合 は価格競争 も激 しい。新技術 を搭載 した製 品 を従来 よ り 」( 『日本経済新 聞』2 0 0 8年 1 0月 10日)0 も早 く海外 に投入 して競争力 を高 め る。 グローバル化の進展 と国際マーケティングの新展開 ー 1 3 3 - ぐる問題 が,国際 マ ーケテ ィングにおける製品戦略の重要課題 として浮上 してい るこ とを付記 してお く。 5. 国際 マーケテ イングにおける価格戦略 ( 1)低価格戦略 日本 の多国籍企業 の初期段階 において は,小 島清 が指摘 した ように,先端技術製 品ではな くて比較優位 ) 0 を失 った製品 をアジア諸 国で販売す る, とい う例 が 目立 ち,小 島は 「日本型 多国籍企業」 と名づ けた21 この ような企業 は,現地 の所得水準 に価格 を合 わせ るために,低価格品 を製造 ・販売 した。具体的 にい え ば,機能 な どが シ ンプルで低価格 な製品 を製造 ・販売 した。 この場合 には, 日本市場 に逆輸入 されて親 ブ ラン ドのイメージが低下 しない よ うに,第二 ブラン ドを使用す るこ ともある。 近年では, 日本企業 も先端技術製品の グローバル ・マ ーケテ ィングを展 開 してい るので,標準化製品で M &A) や競合企業 との戦略提携 な どに よ り, は " 良い商品 を安 く" とい う原則 にの っとり,吸収合併 ( " 選択 と集 中", " 量産効果" な どに よ り,価格競争での優位 を確保 す る努力 を してい る。 日本企業 に よる M&A は近年急増 してお り,本稿 の執筆段階で ある 20 0 8年 1月か ら 8月 までにおいて, , 0 0 0億 円 を超 える製造業 の事例 として,武 田薬 品工業,第一三共 ,TDK,リコー,大塚製薬 買収金額 が 1 がある22)0 また戦略提携 の最近 の事例 としては,パ ナソニ ック と日立製作所 の薄型 テ レビ事業 の提携 があ る。 これ 0万 台超調達 し, その一方で 日立 の海外工場 がパ ナ ソ は, 日立 がパ ナ ソニ ックか らプラズマパ ネル を年 1 ニ ックか ら薄型 テ レビの組 み立て を受託 して,パ ナソニ ックに納入す る とい う提携で ある。受託台数 は年 0 0万台に達す る可能性 もある, との こ と。 また技術開発 で も協力 して,次世代 プラズマパ ネル を共 同 間1 開発す る, と報道 されてい る2 3 ) O これは価格下落で激化す る市場競争 における戦略提携 の一例 である。 ( 2)高価格戦略 先端技術製 品 の場合 には, " 高品質 ・高価格戦 略"があ る。 この戦略 には, トップ ・ダウ ン ・マ ーケテ ィング戦略 とフル ライ ン上級移行 マ ーケテ ィング戦略がある。前者 は高品質 ・高価格商品 を高級専 門店や 高級 デパ ー トでのみ販売 し,高級訴求 の宣伝 を繰 り返 して ブラン ド・イメージを確立 してか ら,徐 々にマ ス ・マ ーケテ ィングを展 開す る, とい う戦略であ る。後者 は,普及品か ら高価格 晶 まで を用意 してお き, 国民所得 の上昇 に合 わせて,主力商 品 を高価格商品へ と移行 させて ブラン ド ・イメージを確保す る とい う 戦略で ある。 今後,多国籍企業が新興市場 の開拓 に本格的 に乗 り出す場合 に も,低価格戦略 と高品質 ・高価格戦略 の 両方が必要 になるで あろ う。 なぜ な ら新興諸 国に も高所得層が あるか らで ある。 6, 国際マーケテ イングにお けるチ ャネル戦略 ( 1) チ ャネルの短縮化傾向 一般 に商品は, メーカ ー-卸-小売-消章者, とい うノ レー トで流通す る。 しか し,仔細 にみ る と商品,企業,市場 に よって異 なる。生産財 と消費財 に よって,大企業 と中小企業 に よって,所得水準 の高い国 と低い国な どに よって販売ル ー トは異 な るO しか し流通 の近代化 に伴 って, マ ーケテ ィング ・チ ャネルは一定 の方 向に移行す る, とい う法則性がみ られ る。 それは長 くて細 くて間接的 なチ ャネルか ら短 くて太 くて直接的なチ ャネル- の移行で ある。 21) 小 島清 「日本型 多国籍企業 のあ り方」『世界経済評論 』1 9 7 5年 8月号 。 22) 『日本経 済新 聞』208年 9月 1 3日。 23) 『日本経済新 聞』208年 9月 18日。 - 134 グローバ ル化 の進展 と国際 マ ーケテ ィングの新展 開 - よ り具体 的 にい えば, まず メ ーカ ーが貿易商社 を利用 して輸 出す る間接輸 出か ら直接輸 出へ の移行 が あ る。50年 ほ ど前 には, 日産 自動車 で さえ丸紅 を通 して対米輸 出 を してい た ので あ る。次 に,海外販 売代 理店 の利用 か ら自社 の直販組織 へ の切 り替 え もある。 日本 の大手 メーカ ーの多 くは, かつて の海外販 売代 理店 の利用 か ら, グ ローバ リゼ ー シ ョンに伴い,今 では海外 に直販組織 を構築 してい る。外 国の メ ーカ ー の多 くも,対 日進 出の当初 は代理店 を利用 してい た。例 えば, ル イ ・ヴ ィ トンで さえ 日本 の代理店 を通 し て販 売 してい た。 しか し,短 くて直接 的 な販売組織 のほ うが, ブラ ン ド管理 が よ くで きるので あ る。 もち ろん海外 に直販 組織 を構築 す るには,相 当 の売上 高,資金力 ,運営 ノウ- ウが必要 で あ る。 グローバ リゼ ーシ ョンの進展 と共 に, チ ャネル は この よ うな進化 を遂 げて きたので あ る。 しか し今後 ,新興諸 国で チ ャネル を構築 す る場合 には,現地 の流通事情 に伴い,一時的 には間接 的 なチ ャネル を選択 せ ざるをえない場合 が あ るこ とが予想 され る。例 えば, 中国で は 2004年 1 2月に 「外商投 資 商業領域管理弁法」 が発効 して流通分野 の対外開放 が な されてい るが, イ ン ドで は現在 も小売業 へ の外資 参入 が許可 されてい ない。 ( 2)チ ャネル ・リー ダーの変遷過程 商 品 は一般 に, メーカ ー-卸 -小 売- 消費者 ( 産業 ユ ーザ ー), と流通 す るが, その際 に,主 体 的 な, あ るい は中心 的 な役割 を果 たす業者 をチ ャネ) L ,・リーダー とい う。 江 戸 時代 の 日本 におい て は,一 般 に卸 商 が チ ャネル ・リーダ ー として の役割 を果 た してい た.明治 時 代 の産業革命 を経 て,戦後 の 日本 で は メ ーカ ーが チ ャネル ・リーダー として浮上 して きた. さらに,高度 成 長期 を経 て大衆 消費 市場 が 出現 す る と,大手 小売 商 の購 買交渉 力 が高 ま り, プ ライベ ー ト・ブ ラ ン ド ( PB)晶 を製造す る よ うにな り,大手小売商 の中にはチ ャネル ・リーダー とな る もの も出現 した。 PA ( S pe c i lt a ys t o r er e t il a e ro fPr iv a t el a be l 近 年, グ ロ ーバ リゼ ーシ ョン と共 に, この傾 向 の 中か ら S r e l ) と言 われ る業 態 が 出現 した。 この言葉 は, も とも とア メ リカの ギ ャップ社 が 自社 の ビジネ スモ Appa デル を自称 して使用 したので あ るが, 日本 で もフ ァース トリテ ィ リング社 (ユニ クロ) や良品計画社 ( 無 印良品) が この ビジネ スモデルで躍進 してい る。 SPAはその名 の とお り,元 々 は アパ レル業界 の PBで あ る。消費者 に最 も近い位置 にあ り消費者 ニ ーズ を よ く知 る立場 にあ る小売商 が,商 品 デザ イ ンや素材 な どを自 ら企 画 して,製造 コス トの低 い海外 な どで 製造 して 自 らが販売す る とい うもので あ り,小売商 の製造へ の関与度 が PB よ り高い, とい う点 に特徴 が あ る。 この ビジネ スモデル は, 日本 で は アパ レル業界 は もとよ り家具,総合 ス ーパ ー,靴, メガネな どの 業界 に も広 まってい る。 日本 の チ ャネル ・リーダーは, グ ローバ リゼ ーシ ョンと共 に, 卸商- メ ーカ ー- メーカ ー+小売商 とい う変遷 をた どってい るので あ る。 7. 国際 マーケテ イングにお けるプロモー ション戦 略 ( 1)広告表現 の適応 と標準化 広告表現 で必ず守 らなければな らない のは,各 国の広告規制 で あ る。 タバ コ, アル コール,性 的表現 な どについて は, 国 に よって さまざまな規制 が あ る。 それ以外 の広告表現 において は,現地 の人 々 の感 性 な どへ の適応 を配慮 しなけれ ばな らない。広告表現 とは,例 えば テ レ ビCMの勧誘表現, テ レビCM の長 さ,比較広告 な どで, これ らに対 す る感覚,表現 の 特徴 な どは国 に よって さまざまで あ る。 したが って,国際広告 におい て は,一定 の現地適応 が必要 で あ る。 グローバル化の進展 と国際マーケティングの新展開 - 13 5 - しか し国際企 業 の場合 には, 自社 についての一定 のイメ ージを確保 す る必要 があ る。現地 の広告代理店 に完全 に委 ねて しま うと, その企業 の イメ ージが世界各 国でバ ラバ ラにな る。製 品戦略 と同様 に, ここで も 「 適応 と標準化」 の両立 問題 が生 じる。 この間題 へ の対処方法 の一 つ は,商品広告 は現地 出稿 に よ り適応 を行い,企業広告 は本社 出稿 に よ り標 準化 す るこ とに よ り調和 を図 る, とい う方法で あ る。 も う一 つ の対処 方 法 は, テ レ ビCM の場合 に世 界共通 の基本 シー ンを本社 で製作 して配 布 し,現地 で はその基本 シー ンを利用 して現地適応 の CFを製作 す る, とい うもので あ る。 トヨタ自動車 の世界各 国で のテ レビ CFは, この よ うに して製作 されてい る一例 で あ る。 ( 2)販促用 品 な どの制作 問題 販促用 品 には,会社案 内, カ タログ,パ ンフ レッ ト,価格表 , ポス ター, チ ラシな どが あ り, さらに商 品 に よって は化粧箱 ( 内梱包),商 品周 りの付属 品 ( 同時梱包 晶 とも言い,取 り扱い説明書,修理保証書, 愛用 者 カ ー ド, ア ンケ ー ト用紙 な ど), ラベル な ども必要 にな るO これ らの使用 言語 は当然 に現地語 で あ るが, これ らを本社 で製作 して現地 に配布す るのか,現地 で それ ぞれ製作 す るのか, とい う問題 が あ る。 本社配布 の多い会社 の考 え方 は, その理 由 を印刷 の仕上 が り具合 な どにす るこ ともあ るが,最大 の理 由 は商標 や ロゴマ ークを本社 で管理 す るこ とにあ る。現地販 売会社 とい って も,必ず しも 100% 出資の子会 社 とはか ぎ らない ので,勝手 な使 われ方 を防止 し,CI(コーポ レー ト・アイデ ンテ ィテ ィ) を世界 的 に確 立す る, とい う意 図 に よる。 一方,現地制作 の多い会社 は,現地 の こ とは現地 で なければ理解 で きない, あ るい は現地 が独 自に ブラ ン ド管理 す る, とい う考 え方 をす る。経 営権 がか な り現地委譲 されてい る会社 にみ られ る。 以上 , プロモ ーシ ョンにおい て も,製 品戦略 と同様 に,適応 と標準化 の兼 ね合い と両立が課題 とな って い る。 8. お わ りに グ ローバ ル化 の進展 と共 に, 多国籍企業 の国際 マ ーケテ ィングが どの よ うな方 向に向か ってい るのか, につい て概観 した。 製 品戦 略 とプ ロモ ーシ ョン戦 略 につい て は,普遍性 と地 域 性 の両方 を加 味 した方 向へ 向か う。価格 戦 略 は所得格差 と消費者 ニ ーズ を捉 えて低価格戦略 と高 品質 ・高価格戦略 の両方が これ まで と同様 に採 られ る。 チ ャネル戦 略 につい て は, グ ローバ リゼ ーシ ョンを反 映 して太 くて短 く直接 的 なチ ャネル- と向か う, とい う方 向性 を提示 した。 多国籍企業 の展 開す る国際 マ ーケテ ィングは資本 の論理 に基づいて展 開 され る もので あ るか ら,時 には 暴走 す るこ ともあ る。 自由競 争 が確保 され る よ うなル ーノ レの確立 と遵守 が必要 で あ る と同時 に,健全 な社 会 をは ぐくむた めの コ ン トロール もまた必要 で, さらには国際社会 に よる監視 が必要 とな る。 その よ うな コ ン トロール の も とで, 国際 マ ーケテ ィングが世界 の人 々 の豊 か な生活 に寄与す るこ とを期待 したいO *特 に注記 しない場合 も,筆者 の下記 の著書 を,本稿 の次の各章 で利用 してい る。 『最新貿易 ビジネス ( 3訂版)』 白桃書房 ,2 0 08年 - 4章 ,5章 ,6章 『貿易 マ ーケテ ィング ・チ ャネル論 ( 第 4版)』 白桃書房 ,2 00 2年 ・・5章 0 06年 ・・7章 『海外市場開拓 の実務 と情報収集』 ( 神奈川大学経済貿易研究所研究叢書) 白桃書房 ,2