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小児喘息の心理学的考察

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小児喘息の心理学的考察
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小児喘息の心理学的考察 : 第1報 親子関係について
笠井, 和; 高橋, 艶子; 高尾, 幸江; 川田, 和子
東京女子医科大学雑誌, 36(12):704-708, 1966
http://hdl.handle.net/10470/14759
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
66
倭編杢鰺。8第三41鞘〉
小児喘息の心理学的考察
第1報 親子関係について
東京女子医科大学小児科教室(主任 磯田仙三郎教授)
助教授 笠
カサ
井
和
イ
カズ
講師 高 橋
タカ
ハシ
高尾幸江・川
タカ
ユ
キエ
エ
艶
子
ツヤ
コ
田 和 子
カワ
タ
カズ
コ
(受付 昭和41年10月8日)
した.この観察を行なった国立東京第一病院二宮
緒 言
気管支喘息はアレルギー心疾患であることは衆
分院の喘息患児について,気象の他にも諸種因子
知の通りである.そのアレルゲンの探索も進めら
が発作発来に関係することを考え,家庭の状況,
れ,近来は減感作療法も行な:われて良豆果をあげ
性格検査,自律神経機能の検査等も併せ行なった
た報告も少なくない.しかし,アレルギーが抗原
のであるが,今回は親子関係検査の結果について
抗体反応であるなら,それに基づく生体反応は普
報告する.
遍的であるが,喘息の発作は限られた人であり,
対象ならびに研究方法
限られた時期であり,同一患者においても時,状
態により,大いに影響をうける.この発作という
対象:国立東京第一病院二宮分院に昭和37年8月に入
院していた喘息患児30名の父親と母親である.
生体反応を不適応の症状とすれぽ,アレルギー反
研究方法=品川不二郎・品川孝子共心になる田研式親
応のおこる場について種々の因子が関係すること
子診断テストを使用し,入院中の患児の家庭にテスト用
が考えられる.内因的および外因的因子があげら
紙を郵送して,その両親にできるだけ明細に記入するこ
とを依頼し,記入後返送して貰った.そしてそれを整理
れる.遺伝的因子,身体的因子(自律神経失調,
内分泌異常,神経症,体質等),気象的因子,感
検討したものである.
田研式親子診断テストの概略を述べる.このテストは
染,環境,人間関係その他があり,これらの因子
が生体の自律神経の状態に影響をあたえ,平衡状
態を破ることによってアレルギー反応が惹起され
質問紙法形式によるもので,第1部と第2部よりなって
いる.その内容は,第1部は両親の態度の評価,第2部
は子供の問題徴候の記録である.第1部の両親の態度,
るともいわれている.
問題項目は親の望ましくない態度で,拒否,支配,保
私共はこの1因子として気象的条件が喘息発作
に関係あると古くからいわれているので,その関
護,服従,矛盾(不一致)の5型に分類され,更にそれ
係にっき調査した結果,移動性高気圧が患者居住
厳格型,期待型,干渉型,不安型,溺愛型,盲従型,不
地を通る時に発作の多発する傾向を見出して報告
一致型,矛盾型の合計10型に分類されている.第2部の
ぞれ2つの型に分けて,消極的拒否型,積極的拒否型,
Kazu KASAI, Tsuyake TAKAHASHI, Yukle TAKAO Kazuke KAWATA (Department of Pediatrics,
Tokyo Women’s Medical College): Psychological consideTation on infantile asthma. Report 1. Parent−
child relationship.
磯田仙三郎教授 古稀祝賀・定年退職記念論文
一 704 一
67
3
支配
(巖格型)
わかった.両親と子供,その他には1人という程
度が多い.その家族の住む住居環境は,多くは住
4
(期待型)
宅地に住み,工場地帯や田舎は少ないようで,第
2
甲
家でなく自分の持家に住んでいる.
保
護
I
これらの結果から一般環境を見ると,比較的恵
まれた環境に住み,小家族で,経済的にも多少の
余裕があり,兄弟姉妹数も少なく,両親の目,愛
6
C肖i亟白勺/巨否型)
(不安型)
8
服従
(盲従型)
型
5図に示す通りである.その住居は,大多数が借
5
(干渉型)
(積極的拒春型
父
2010
7
(溺愛型)
1
{丑
矛盾型
L旦不『凹型
第1図 診断ダイヤグラフ
子供の問題徴候は,反社会性,非社会性,自己評価,
ノ人
退行,生活習慣等の項目があげられている6).
テスト集計は第1部では各項目毎に記入された得点
3 人
2人
第2図 同胞数
4人
を%に換算し,それを第!図の如きダイヤグラフに記入
する.このダイヤグラフは中心が99%で,周辺に進むに
20
つれて低い%になり,50%が普通で中心に近い程よく,
20%以下は危険地帯,20∼40%は準危険地帯となってい
る.つまり,中心に遠い程望ましくない状態ということ
・になる・第2部は各項三惑に記入された得点の多少によ
P0
.り判定される.
検査結果ならびに考察
前述の方法によって得られた検査成績を,一般
環境と親の自己評価に大別して,検討し考察して
見る.
ノ人
2人
3 人
4人
第3図 第何子
一般環境:まず対象とされる喘息児の同胞数を
.見たのが第2図である.2人が最も多く,次いで
E
1人子が多いことが見られる.またその同胞の中
で何番目が多いかというと,第3図の如く第1子
すなわち長男,長女が著しく多いことがわかる.
伺胞数の少ないことは,近来家族計画が普及して
1夫婦当りの子供数が少なくなっていることにも
よると思われるが,第1子,1人子が喘息児に多
いことは常にいわれていることで,本検査におい
ても認められた.次に子供達の家族数について見
ると第4図に示す如く,比較的小家族が多い事が
3人4人5人6人
7人 8人 10人不明
第4図 家族数
一 705 一
68
3
支配
(厳格型)
4
(期待型)
移
黎
2
・≡顎’一’_ 勿
5
・一X ty52XXt.
/// X /fdoV XXX.
(手責雫亟白勺‡巨否型)
∠
,
辮
70
\
(司L渉型)
・
誓 11;1タ \
ノ
、 農
保
護
’
楡濾
.E
6
X)4af一’r=.=一.LN一//
㈱亟的拒否型)二一一一一一’
(不安型〉
劣
第5図 住 宅
8
服従
7
(盲従型)
(溺愛型)
型
父
紐
平均
9矛盾型
47
41
44
ノ0不一致型
45
44
44.5
一一一一
一一
c
平均
第7図 全体の平均値
i人数
Q010%
住宅地 市街地
立場 田園
テ毎浜
不明
第6図 環 有
情が充分行きとどく環境であると思われる.しか
し一方から見れば,子供数の少ないこと,少なく
産んでよく育てようという希望から親の子に対す
る期待は大きく,子の身体に対する完全をのぞん
で不安もある上に,良環境,経済的の余裕等か
0∼20
2’∼30 3’∼40
41∼99
第8図 期待型(黒一父,斜線一拝)
ら,親の見栄などの入り込むすきも多いのではな
待,干渉,不安,溺愛,盲従の五項目に多く問題
いかと考えられるのである.
両親の自己評価=親子診断テストの中の第1部
があるとして,この点にっき考察をして見る.期
の結果から,その両親の自己評価を前述の如く,
待型というのは,子供の素質,能力,適性,希望
支配(厳格型,期待型),保護(干渉型,不安型),
等を無視して,ひたすら親の要求する方向や水準
服従(溺愛型,盲従型),拒否(積極的拒否,消極
に従わせる型である.第8図に見る如く,極めて
的拒否)に分類し,その各型の平均値をダイヤグ
なりゆきにまかせているグループと,極度に期待
ラフに記入すると第7図のようになる.このグラ
しているグループとの人数の割合はほぼ同様にな
フによると,父親は積極的拒否のみが普通で,他
っていて,中間的のものの存在が少ないことは注
は準危険地帯に属していて,母親は不安型が危険
目すべきであろう.
地帯に属し,残りは全部準危険地帯である.この
次に問題になる不安型は第9図に示す如く,危
検査では,親の自己評価は殆ど全部が準危険地
険地帯に属する親が圧倒的に多く,第7図のダイ
帯,危険地帯に属していることを現わしている.
ヤグラフ平均においては,母親は準危険地帯とは
父親は期待,不安,溺愛,盲従の四項目,母親は期
いえ危険地帯に近いものである.主に母親は毎日
一 706 一
69
人数
人数
Q0
Q0
P0
m
0∼20
21∼30 3ノ∼40
41∼99
0∼20
21∼30 3ノ∼40 41∼99
第11図 干渉型(黒一子,斜線一母)
第9図 不安型(黒一父,斜線一母)
1[品数
不安感に悩まされているものが殆ど全体をなして
奄Q0
いる.その不安の因子として「1人で外出させな
い」,「怪我や病気に必要以上に心配をする」,
「風邪をひかないように厚着をさせる」等があげ
られていた.このように子供の日常生活,健康,
交友関係等に殆ど無意味と思われる程の不安や心
配をいただぎ,そのため必要以上の責任をとり,
過度の援助や保護を与えるものである.この不安
0∼20
型は,大阪の養護学校の気管支喘息児の親子関係
2ノ∼30
31∼40 41∼99
テストにおいても多く,父親,母親共に危険地帯
第12図 溺愛型(黒一父,斜線一母)
に属していた.喘息児の親,殊に母親はいろいろ
の本を読み,ある程度の知識を有し,よく気のつ
く神経質なものが多いようで,過保護,甘やかし
過ぎ等があることはいわれているが,この調査で
もそれは父母の不安を起点としたものであること
盲従となる場合も多く見られ,これもまた盲従型
が多いことがわかった.
盲従型は第10図で,両親共に関係深く,準危険
地帯である.盲従型とは,親はどんな犠牲を払っ
ても子供の要求を受け入れている型で,子供の主
張を全面にに受け入れて禁止することをしない親
Q0
P0
21∼30 31∼40
と考えられるのである.これは親の自信,権威の
そう失した今日の社会性とも関係のあるものと考
えたい.
干渉型は,父親には普通の程度であるが,母親
にのみ危険度が高く出ている.この場合は第11図
のようになり,期待型と似ているが,干渉型のみ
が母親に強く現われているというのは,父親と母
親の子供の養育に当る場面に相違があり,前述の
期待,盲従,不安等の型の親ならば,干渉型にな
り易い傾向もまた否めないということを意味する
ように思われる.一般に母親の体に余裕のあるも
のに干渉型の多いことは考えられることである.
溺愛型は第12図のように,父親では極度に溺愛
の態度をとるものと,全く反対の否定の人とが同
数ぐらいである.この否定的な親は,父親が教育
方針に自信のある教育関簾者であり,自分だけで
なく妻にも自分の方針を認めさせようとしている
人に多く見られた.その場合,母親は逆に溺愛型
人数
0∼20
である.父が厳格で無関心な性格である時,母が
4ノ∼99
第10図 盲従型(黒一父,斜線一母)
一 707一
70
を示すものもあるが,この愛は子供の数に関係な
が,本調査の喘息児の両親に多くあった事を知る
く弱い子供に与えられている.大阪の調査では,
ことができた.この状態が喘息発作にどう関係す
溺愛型についてはあまり問題はないらしく普通の
るかはわからないが,少なくも児の情緒不安定状
範囲内を示しているが,地域差,対象の差なども
態は,何かの形で自律神経不安定状態をもたらす
関係するのかも知れない.
ものと考えられ,それと諸種因子と関連して発作
以上,親の望ましくない態度のうち,本調査に
をおこすのではないかと思い,更に自律神経機能
おいて喘息児の親達が示したものについて検討し
検査の一つである.メコリール試験も少数に行な
たが,この他の予循型,消極的拒否型,厳格型,
ってある.なお児の性格面については第2報に報
不一致型,積極的拒否型の中にも少数ながら実に
告する.
悪い親子関係を持った者もあった.その2,3を述
結
語
べて見よう.消極的拒否型の親は,それとなく他
喘息児の親子関係について,国立東京第一病院
人に愚痴をこぼしたり,子供の要求.約束等を忘
二宮分院に入院している児の親を対象として,田
れたり,子供の欠点ばかりが目についたり,子供
研式親子診断テストを行なった.
を信用し難いものとして,どこかで子供を嫌って
1)一般環境としては,比較的恵まれた環境と
いるような無視,放任,無関心,不信用,悪感
、思われた.同胞数少なく,第1子, 1人子が多
情,不一致感を示す親である.このようにはっき
く,同居家族数も少なく,住宅地に住み,自家の
り表現されないものに反して,明らかに短気な性
.者が多く,経済的にもある程度の余裕のあること
格で,子供に体罰を用いたり,口やかましく叱言
がうかがわれた.
をいったり,すべてに行動を禁止し,体罰虐待,
2)子供に対する両親の態度としては,父親は
屈辱過罪な要求などをする積極的拒否型の親,あ
期待,不安,溺愛,盲従,母親は期待,不安,溺愛,
るいは両親個々は父は父として,母は母として安
盲従,干渉を示すものが大多数を占めていた.
定した,また頑固な教育方針を持っているが,そ
3) この結果から,喘息児を持つ家庭には,両
の持っているものが父と母と一致していないもの
親が共通して持っている危険な親子関係の特徴が
もあった.例えば父は放任で母が溺愛するとか,
あるように思われた.
4)少数ながら他の型においても望ましくな
片親のみが子供の教育や躾iに積極的に責任を持
い,危険な親子関係も認められている.
ち,一方はまかせきりのような:場合で,このよう
な場合に子供は2つの権威の問に入って著しく不
なお喘息児の性格面については,第2報におい
て述べる.
安定となっている.一また親の要求,親の考えだけ
を無理に通したり,ひどくきびしく大人のようで
あることを要求したりするものもあった。
前述の親と子の家庭における関係は,一体とな
終にのぞみ,御懇篤な御指導,御助力を頂いた中鉢
博士,御校閲頂いた磯田教授に深謝いたします.
(本論文の要旨は,第29回東京女子医科大学学会総会
において報告した.)
って互の神経症的傾向を形成しているが,両親の
文
態度を中心として悪循環となって益々助長される
献
1)高尾健嗣:小児の神経精神医学南山堂(昭33)
のではないかと懸念されるものが多かったこと
2)A皿ene F.H.: Psychotherapie with Children
は,考えさせられることである.
(1942)黒丸四郎訳問題児の心理療法(昭36)
一般環境,親の自己批判を併せて見ると,比較
3) Lippmmn, S.: Treatment of the child in
emotional Confiict.
.的に外的には恵まれた家庭環境を持っているが,
一その両親と子供との関係で,時には過剰に愛を持
4)森脇 要。池田教授。高木俊一郎=子供の心
理療法 慶応通信(昭34)
5)久保良英=家庭の環境と児童の身体 児研苑
ソ,また愛というものを知らなかったり,ただ子
供を怖れたりする親の態度から,子供を一種の神
経症的情緒不安定に追い込んでいると思われる点
(大11)
6)品川不二:夫:親子関係 日本文科社(昭34)
一 708 一
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