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今月の技術と経営

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今月の技術と経営
平成27年12月1日
第506号
今月の技術と経営
農 政 部 農 業 経 営 課
目
次
1 今月の農政情報 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・
第68回関西茶業振興大会岐阜県大会が盛況のうちに閉幕 ・・・・・
1
1
~生産者と関係機関が一丸となって、美濃茶のブランド力を証明~
(農産園芸課 川部満紀)
2 気象災害等を踏まえた農作業のポイント
・・・・・・・・・・・・・・
3
(高橋宏基、市原知幸、尾関 健、臼田浩通)
(1)
麦
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
(2) 大 豆 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
(3) 野 菜 ~雪害対策~ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
(4) 果 樹 ~雪害対策~ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
(5)
~雪害対策~ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
(6) 花 き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
茶
3 専門項目に関する情報
・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ 11
(1) トマトの生産を取り巻く現状と今後の研究方向 ・・・・・・・・ 11
~野菜茶業課題別研究会より~
(加留祥行)
(2) 2020 東京オリンピックまでに進めたい! ・・・・・・・・・・・ 13
畜産物の国際規格認証
(中島敏明)
今
月
の
農
政
情
報
第68回関西茶業振興大会岐阜県大会が盛況のうちに閉幕
~生産者と関係機関が一丸となって、美濃茶のブランド力を証明~
1 はじめに
関西茶業振興大会は、加盟する6府県(愛知県・三重県・滋賀県・京都府・奈良県・岐阜県)の産地で生
産される茶の特徴を明らかにし、生産技術や品質向上を図るととも に、茶の国内需要の増進並びに
日本茶業の発展に寄与することを目的として、昭和22年に第1回が開催され、今年の岐阜県大会で68
回を数える歴史ある大会である。岐阜県での開催は9年ぶり9回目となる。
県では、本大会開催にあたり、平成26年2月の「キックオフ会議」を皮切りに、「オール岐阜県」を合
言葉に関係機関と連携して、以下の3点を目的として準備を進めた。
1 岐阜県の生産者の団結力向上・茶の生産技術の向上
2 品評会入賞により産地知名度と商品ブランド力をアップ
3 お茶の持つ魅力を消費者に広くPR
2 第68回関西茶業振興大会岐阜県大会の概要
(1) 主要行事
① 第68回関西茶品評会出品茶審査会
日程 平成27年8月5日(水)~7日(金)
場所 揖斐川町健康広場いびがわアリーナ
② 第68回関西茶品評会出品茶入札販売会
日程 平成27年9月16日(水)
場所 揖斐川町健康広場いびがわアリーナ
③ 第68回関西茶業振興大会岐阜県大会式典
日程 平成27年11月15日(日)
場所 揖斐川町地域交流センター
(2) 品評会出品点数
(点)
茶種
出品点数(県内出品数)
普通煎茶
292(108)
深蒸し煎茶
59
(0)
かぶせ茶
32
(1)
玉露
41
(0)
114
(0)
てん茶
合計
538(109)
大会ポスター
(3) 品評会入賞状況(県内分)
① 産地賞
茶種
1位
3位
普通煎茶
揖斐郡揖斐川町
加茂郡白川町
- 1 -
② 大会会長賞(個人)
(点)
茶種
1等
2等
3等
合計
普通煎茶
9
9
9
27
③ 特別賞(1等に入賞した出品者に授与される)
特別賞名
受賞者
農林水産大臣賞
(農)桂茶生産組合
太田 恒雄 氏
農林水産省生産局長賞
(農)桂茶生産組合
太田 英一 氏
(農)桂茶生産組合
太田 清和 氏
美濃西部製茶組合
河村 三成 氏
(農)三川茶生産組合
今井 幸郎 氏
全国茶生産団体連合会長賞
(農)桂茶生産組合
花木
全国茶商工業協同組合連合会理事長賞
(農)桂茶生産組合
太田 哲朗 氏
(農)中野茶生産組合
渡辺 正樹 氏
(公社)日本茶業中央会長賞
日本茶業学会長賞
毅
氏
(農)白川北茶生産組合 大岩 正史 氏
3 おわりに
本大会では、生産者の努力及び関
係農林事務所農業普及課の支援の
結果、出品目標の100点を超える
109点の出品、更には普通煎茶の
部で産地賞、農林水産大臣賞を獲得
するという快挙を成し遂げた。
また、入札販売会、大会式典いず
れも多くの方にご参加頂き、盛況の
うちに開催され、大会全般を通して
成功といえる大会となり、当初に掲
げた3つの目的も概ね達成できた。
この成功はオール岐阜県として
生産者と関係機関が一丸となった
結果である。
今後は、この成功を一過性に終わ
らせない取り組みが必要となる。
大会式典では、茶産地を次世代に
つなぐことをキーワードに右記の
大会宣言を採択した。この大会宣言
の具現化を目指し、大会により構築
された関係機関の連携体制を継続
して、取り組みを推進していく必要
がある。
大会式典で採択された大会宣言
- 2 -
気 象 災 害 等 を 踏 ま え た 農 作 業のポイント
紅葉もそぞろに高温・多雨・日照不足気味に推移した晩秋・・・
暑すぎず爽やかに過ぎた 10 月。
遅れ気味だった水稲
ハツシモの収穫作業もようやく終わり、晩秋の深い蒼
碧の空の下で冬の準備作業に勤しむ姿を思い描いてい
たが、11 月に入るとそれまでの秋晴れが嘘のように愚
図ついた天候で終始した。
ちょうど夏秋野菜が終わり、
秋冬野菜や小麦の播種作業が本番を迎える大切な時期で、
本来なら最も天候が安定する時期に、県下全域で記録的
とも言える1ヶ月降水量となった。当然のことながら
野菜の生育や麦の播種作業は遅れ、直前に迫った大豆
の収穫作業にも支障が出る可能性がある。
過去1ヶ月の気候について全国的に見ても高温・多
雨・日照不足で推移したことから、11 月 17 日には高松
市で平年より 2 ヶ月も早くツバキが開花し、15 日には北
海道中杵臼で日降水量 115.5mm を記録した。浅間山の初
冠雪は半月以上も遅れ、沖縄県那覇市では 11 月 18 日に
観測史上最も遅い熱帯夜を記録した。
本県の 10 月 27 日から 11 月 26 日までの過去 1 ヶ月間
の天候を見ると、岐阜市では平均気温 15.2℃(対平年
+2.1℃)、降水量 184.5mm(同 188%)、日照時間 138.7
時間(同 80.2%)で、高山市では平均気温 10.3℃(対平
年+2.9℃)、降水量 162mm(同 162%)、日照時間 85.8
時間(同 79.9%)と気温はかなり高く、多雨・日照不足
図1 アメダス気象図(岐阜市:11/25 現在)
傾向の強い1ヶ月間となった(図 1、2、3)。
スーパー・エルニーニョ現象の影響で暖冬の様相!
ここ 11 月末になって一気に真冬の様相を呈しているが、これでもやっと平年並みの気温である。名古屋地
方気象台が 11 月 25 日に発表した 2 月までの 3 ヶ月予報でも、気温はやや高め、降水量も多めで愚図ついた
天候が続くとの予想、いわゆる‘暖冬’である。これは、監視海域の海水面水温の基準値との差が年末にか
けて極大となり、来春まで続くと予想されている‘スーパー・エルニーニョ現象’がその一因と言われてい
るが、暖冬が農作物に及ぼす影響について十分意識するとともに、特に暖冬年に多い凍霜害に対する回避技
術を早めの備えが大切になってくる。
光沢のある濃緑の葉に被る白い雪がよく似合うサザンカが花を咲かせ、暖冬とは言え、めっきりと冬を感
じる寒さが戻ってきた。12 月 7 日は二十四節気でいう‘大雪’。外景色にも白さが混じりポインセチアやシ
クラメンが街頭を飾るようになると、いよいよクリスマスである。シベリア高気圧によるホワイト・クリス
マスの演出を期待したい。
図2 過去1ヶ月の降水量(10/27~11/26)
図 3 過去1ヶ月の日照時間(10/27~11/26)
図1 アメダス気象図(岐阜市:10/25 現在)
- 3 図1 アメダス気象図(岐阜市:10/25 現在)
寒波、凍霜害への対応と省エネルギー対策
省エネルギー対策 ~施設野菜、施設花き類等を中心に~
寒波到来に対する栽培管理に加え、特に施設園芸農家を中心に生産コスト、暖房費の節減に向けた適切
な栽培管理に努める必要がある。
(1) 暖房機器の点検整備
① 暖房機器のバーナノズルの燃焼カス等による汚れは、燃料と空気の正常な混合を阻害し、完全燃
焼を妨げるので良好な燃焼を確保する。
○ ノズルの交換
傷つきやすいブラッシング清掃は避ける。
○ エアシャッターの調節
適正な空気量は、エアシャッターを閉めて煙突から黒煙を発生させ、そこからエアシャッ
ターを徐々に開けて黒煙の発生が止まる位置から少し開けた位置に調節する。
○ バーナノズル周辺のディフューザー廻りのススや汚れの除去
○ 燃焼用空気取り入れ口の設置
夜間の燃焼用空気量の不足を来さないように燃焼用空気取り入れ口を設置
② 暖房機器の燃焼室内に燃料かすが付着すると効率的な熱交換が妨げられ、燃焼効率の低下を招く
ので缶体の熱交換を高める。
○ 熱交換面である缶体の清掃
缶体部分の燃焼ススの除去やスクリュープレートの掃除を実施し、缶体への伝熱を円滑に
する。
(2) 施設内の環境改善
① 施設内の保温対策を実施することにより加温用燃料の節減を図る。
○ ハウスに直接寒風が当たらないように、周辺に防風ネット等を設置する。
○ 周壁部や谷部など被覆のつなぎ目の点検補修により気密性を保持する。
○ 温度が下がる時間帯に保温用のサイドカーテンを吊すようにする。
○ 多量の燃料を消費する品目にあたっては、
・ トンネル、マルチ、べた掛け資材など、二重、三重の被覆資材を導入するとともに内張り
を二層にする。
・ 内張資材をポリエチレンからPOフィルムや塩化ビニールに変更する。
・ 外周部には、保温性の高いポリ多層フィルムを設置する。
○ 夜間の変温管理ができる多段式サーモスタットの設置を検討する。
② 施設内の温度ムラは、暖房効率が悪く、余分な燃料を消費することにもなるので、送風ファン
及び温風ダクトの調整により温度ムラを無くし均一な生育を確保する。
○ 送風量を確保できるようファンを点検・調整する。
○ 従来の親ダクトだけから通路ごとのダクトを配置したり、サイドに親ダクトを一周するような
環状ダクト方式にするなど、吹き出し口の風量調整を行いながらハウス内温度の均一化に努め
る。
○ 循環扇の設置及び活用により温度の均一化に努める。
○ 温度センサーの位置の確認を行う。
(3) 適切な温度管理の実施
作物別及び品種別の感温特性を踏まえた上で、生育ステージに合わせた最適暖房温度の設定な
ど、適切な温度管理に努める。また、日照不足や高温障害、炭酸ガス不足を招かないなど、換気
にも十分な注意を払う。
防霜対策のポイント
● 晴天無風で、前日午後7時の気温が6℃以下の時が霜の降りる気象条件と言われるが、午後7時の気温
が8℃前後でも寒気が南下して移動性高気圧が通過するような条件では降霜の恐れがある。
- 4 -
● 「霜害から作物を守る」には,まず霜害が発生する危険性がある場所を、温度計による低温出現の分布、
煙やゴム風船の動きから知ることが重要である。
● 寒気の流入方向や溜まる場所が判ればその侵入を防いで霜道を変え、霜溜まりを解消するように障害物
を取り払う。園地周囲の防風施設(垣・林・ネット)が冷気の流れをせき止めるような場所に設置されて
いる場合は、巻き上げて・下枝を除去しておく。
● 農家段階の防霜対策として、燃焼法・煙霧法・送風法・被覆法・散水氷結法などがある。
● 飛騨地方のように、1m以上の積雪深がある場合、沈降力によりパイプハウスの損壊、果樹の幹・枝折
れによる損傷が発生するので、事前の補強措置や除雪など早めの被害回避に努める。
1 麦
10 月の好天から一転して多雨傾向となったため思うように播種作業が進まなかったが、
11 月末の段階でほ
ぼ播種作業は完了した。
今年の冬は、エルニーニョ現象の影響もあって、気温は高め、降水量もやや多めの暖冬予想であり、今後
やや茎立ち傾向の生育を示す可能性がある。したがって、凍霜害を含め暖冬下での栽培管理には十分留意い
ただきたい。
(1) 雑草対策
播種時の土壌処理除草剤の効果が期待できない場合は、一年生イネ科雑草と広葉雑草が混在して発生
が多くなった場合、麦葉齢2L~3L期以降に(ハーモニー細粒剤Fなど)茎葉除草剤の散布を行う。
また、播種後に散布した土壌処理剤は元来 30~40 日位で効力が無くなるだけでなく、厳寒期が暖冬で
経過すると、雑草の多い圃場が目立つようになる。生育の中盤以降に使用できる除草剤としては、エコ
パートフロアブル、アクチノール乳剤、ハーモニー75DF 水和剤などがあるが、必ず使用時期や使用量等
を確認して使用する。
(2) 踏 圧
播種作業、出芽が順調である場合、暖冬による茎立ちには注意したい。特に、播性の高くない農林6
1号やタマイズミの生育が旺盛の場合、田面が乾いている状態を確認の上で、12 月~1月末までの間に
踏圧作業の実施を検討する。
① 踏圧のねらい:節間伸長(茎立ち)時期の遅延
※ 麦踏みは根張りを良くし、麦を硬化させることで耐寒・耐乾性を高め、さらに分げつを促進する効
果がある。このため、凍霜害の回避や倒伏防止、有効茎の確保にもつながる。
② 実施時期:年末(本葉 3~4 葉期)~茎立ち前(2 月上旬)までに1~2回行うのが理想であるが、本
県のように地下水位が高く、冬期においても低温で降水量が多い地域では、凍上害よりも排水不良が問
題となっている。したがって、1回の実施が妥当であろう。
※ 麦踏みの際はローラーをゆっくり走らせる。土壌が乾燥している状態であれば、トラクター車輪に
よる踏みつけの害はほとんどない。
※ ただし、土壌水分が高いときの麦踏みは、土が締まって、根張り及び排水性も悪くするので厳禁!
2 大豆
飛騨地域の「タチナガハ」の収穫が終了し、岐阜・西濃地域から東濃地域で栽培されている晩生種「フク
ユタカ」の収穫が始まりつつある。特に、フクユタカは、播種作業の遅れから、播種直後の高温・乾燥気味
の天候に恵まれたものの、8 月中旬以降の低温・多雨・日照不足の影響から生育は緩慢となり、主産地であ
る西濃地域を中心に、収穫量は平年より少なく昨年に引き続き不作年の予想である。
- 5 -
しかし、ここまでの管理を無駄にしないためにも、収穫に向けた適切な作業をお願いしたい。
● 収穫水分の目安
茎水分:50%未満〔子実水分:20%未満〕を目安に作業を行う。
● 広葉雑草(特に、イヌホオズキ、ホソアオゲイトウなど)や大豆の青立ち株の密度を下げる。
青立ち株率:5%未満(合格大豆以上)まで抜き取り等の除草作業を行う
● 帰化アサガオ類(マルバルコウ等):木質化した蔓で覆われた箇所は細断しておくのがよい。
3 野 菜 ~雪害対策~
野菜の被害は積雪荷重による直接害に加え、二次的には低温害、光線不足による生育不良、融雪による湿
害等も発生する。
表1 積雪の深さ別透光線量
雪の深さ
透過する光の量
表面
1
10cm まで
1/40
10~20cm
1/90 ~ 1/3
20~30cm
1/400 ~ 1/40
30~40cm
1/4000 ~ 1/150
40~50cm
1/60000 ~ 1/2000
(1) 事前対策
1 大雪が予想される場合は、トンネル支柱の間隔を狭くする。また、被覆するビニールの両端をしっか
○
りと固定する。
2 露地栽培で雪により出荷ができないと予想される場合は、早めにトンネル被覆をし、計画出荷に努め
○
る。
(2) 事後対策
① 圧雪でトンネル支柱が下がったり、被覆資材がゆるんだりするので、降雪後早めに手直しする。
② トンネル栽培では、降雪後、強い日射しにより葉やけを起こす場合があるので注意する。
③ 露地栽培では圧雪で生育が一時的に停滞するので、降雪後、トンネルやべたがけ資材により生育を促
す。
④ 全壊したハウス等で、野菜の被害が少なく回復の見込みのあるものは、低温障害を受けないようトン
ネルやべたがけ資材等で野菜を保温し、施設を早急に再建する。
⑤ いちごは 5℃以下になると生育が停滞し、奇形果も発生する。被害の状況に応じて、摘花(果)等に
よる花(果)房、茎葉の整理を行うとともに葉面散布剤等により早急に株の回復を図る。
⑥ だいこんでは 2~5℃の低温に 15~20 日遭遇すると抽だいが発生するが、生育初期(本葉 2 枚程度ま
で)は日中の高温(30~35℃)により夜間の低温感応が打ち消されるので、日中の高温管理に努める。
⑦ 回復見込みのないものは早めに株を整理し、再播種できるものは再播種する。
⑧ 露地野菜等では長期の積雪は光線不足、折損等の原因となるので、出来る限り融雪促進に努める。
4 果 樹
(1) 果樹の生育状況
- 6 -
県内の各果樹の生育について、平坦地のカキは、「富有」の最盛期が平年より早く、11 月末でほぼ収
穫終わりに近づいている。品質は農業技術センターの調査では、平年より小さい結果となったが、昨年
より遅かったものの着色は平年より早く、糖度は非常に高かった(表1、図1)。
飛騨地域のリンゴも 11 月中にほぼ終了し、中山間農業研究所本所の調査では、
「ふじ」は着色も順調
で、平年より2日早い収穫期となり、終了も 2 日程度早まった。果実は大玉傾向で推移し、最終的に大
きく、糖度は平年並み程度の結果となった(表2、図2)
。
表1 カキの生育相(農業技術センター、11/25 現在)
品種
早秋
太秋
富有
年度
2015
2014
平年
2015
2014
平年
2015
2014
平年
発芽期 展葉期 3/16
3/16
3/17
3/19
3/21
3/24
3/19
3/20
3/24
4/3
4/4
4/7
4/5
4/8
4/12
4/7
4/9
4/13
始
5/13
5/18
5/19
5/12
5/17
5/19
5/15
5/20
5/21
開花期
盛
5/15
5/20
5/21
5/14
5/19
5/20
5/17
5/21
5/23
終
5/17
5/20
5/23
5/16
5/23
5/24
5/20
5/25
5/26
始
9/30
10/3
9/29
10/14
10/15
10/15
11/4
11/5
11/6
収穫期
盛
10/11
10/9
10/3
10/26
10/29
10/23
11/11
11/17
11/19
終
10/11
10/9
10/7
11/5
11/12
10/30
11/25
11/27
11/30
平均果重 糖度
(g)
(brix)
307
17.6
263
17.0
242
16.3
416
15.2
365
17.9
340
17.2
249
18.0
277
17.1
273
17.0
図1 カキの果実肥大と着色推移(富有、11/25 現在)
表2 リンゴの生育相(中山間農業研究所本所、11/27 現在)
品種
つがる
年度
発芽期 展葉期 2015
4/4
4/21
2014
4/3
4/18
平年
4/5
4/20
ふじ
2015
4/3
4/21
2014
4/4
4/17
平年
4/5
4/20
※ 平年はH17~H26の過去10ヶ年平均
始
5/1
5/4
5/5
5/1
5/4
5/4
開花期
盛
5/3
5/8
5/8
5/3
5/8
5/8
終
5/8
5/14
5/14
5/7
5/13
5/13
収穫期
平均果重 平均糖度
始
終
(g)
(%)
9/4
9/16
380
12.9
9/4
9/18
328
13.5
9/5
9/22
347
13.6
11/9
11/27
391
15.5
11/10
11/28
342
15.4
11/12
11/29
368
15.8
図2 リンゴ果実肥大推移(ふじ、11/27 現在)
- 7 -
(2) 雪害対策
昨年飛騨地域では、大雪により果樹で約 1 億 7 千万円の被害があり、果樹生産者はかなりの痛手を負
った。その二の舞を踏まないように、雪の降る前からできる対策に取り掛かることが必要である。
今年は大型で記録的なエルニーニョ現象が発生しており、世界各地で異常気象が起こっている状況の
中、日本では太平洋沿岸地域へは暖かい空気が流れ込みやすいため、西日本から関東までは暖冬になる
可能性があると予想されている。そのため気候の変化も起こりやすく、冬場の大雪など例年以上に天気
には注意が必要となりそうである。
図1 飛騨地域の雪害(モモ)
図2 飛騨地域の雪害(リンゴ)
① 事前対策
・ 果樹の雪害は、冠雪・加重・積雪の沈降や傾斜地等での積雪の移動時に発生する力により、枝裂け・
倒伏が発生する。
・ 多雪地帯では、根雪前に荒せん定を行い、主枝等の太枝については、支柱で補強する。
また、幼木を仕立てる場合には、主幹部を長く、骨格枝の分岐部を高くする。
・ リンゴ等では、野ネズミ・野ウサギ等による幹・枝等の食害が発生するので、幹の周りに金網を巻
き、必要に応じて忌避剤を利用する。特に幼木では被害が大きくなるので徹底する。また、草生・敷
きわらを行っている場合、野ネズミが巣を造りやすので、株元をきれいにしておく。
・ ナシ、ブドウ等棚栽培では、降雪前にせん定を行い、中柱を入れて棚を補強する。
棚上の積雪が多ければ、雪を払い落とす。
② 事後対策
・ 出来るだけ早く、園地の除雪を行う。除雪が行えない場合は、融雪促進のために、消雪資材・土・
木炭等を雪面に撒くとよい(散布後積雪があると効果がないので、再度散布する)。樹が積雪に埋まっ
た場合は、できるだけ早く雪中から枝を掘り起こす。
・ 樹冠下の雪踏みを行い、雪層の沈降を少なくする。また、樹上の雪層と周囲の雪層をスコップで切
断し、沈降力を軽減させる。
・ 大枝等の完全に裂けたものは、切り直しを行い、保護剤を塗布しておく。
・ 程度の軽い枝裂け、ひび割れ等の回復の見込みのあるものは、カスガイ・ボルト等で早目に固定し
接合を図る。傷口には保護剤を塗り、病原菌の侵入を防ぐ。また、側枝等についても同様に処理する
と良い。
・ 幼木等で倒伏したものについては、できるだけ根を切らないように起こして支柱を添える。
・ 棚栽培等で棚が損傷した場合は、速やかに補修する。直ちに補修困難な場合は、大枝を支柱で支え、
雪の沈降による被害を防ぐ。棚の倒壊がひどい場合には、周囲線等を切り離すことも考える。
5 茶 ~雪害対策~
- 8 -
(1) 被害発生の条件と様相
多雪地帯の発生状況は、枝条の折損、茶時の凍傷、株割れ現象などの雪の物理的圧力による直枝の被
害と、積雪、融雪によって誘起される赤焼病、灰色かび病、茶葉の凍傷、排水不良園での湿害等間接的
被害を表す。
一般的には、積雪量が多いほど、また雪質が湿っている場合ほど被害が大きい。地形、場所、樹齢、
樹型などによって被害様相は異なってくる。 一方、寒干害の発生しやすいような地形では、降雪によ
って株面の湿度低下を防ぎ、寒干害の被害を軽減することもある。
写真4 融雪後の赤焼けの症状
写真3 雪解け後の株割れ状態
(2) 事前対策
枝条の折損、株割れ現象は雪の物理的圧力であることから、これらを防ぐには栽植法、仕立て手法、
手摘み園の結束、成木園の直接被覆法によって被害を軽減できる。
(3) 事後対策
① 枝条折損部の除去
枝条が折れた場合、雪が解けてから折れた部分の下から切除し、樹冠回復に努める。
② 摘採面の整枝
降雪が多いと摘採面が不揃いになり、そのまま摘採すると古葉や木茎が生葉に混入し、荒茶品質が
低下するため、摘採面を均一に浅く整枝する。整枝前には必ず株割れ部分を元に戻してから整枝する。
③ 更新による樹型確保
被害がきわめて大きく、樹型確保が困難で一番茶の収穫の期待ができない場合は、 3 月になった
ら中切り、または台切り更新を行い、樹型回復に努める。
④ 被害園の肥培管理
気象災害の共通的な肥培管理として、施肥量は少し多く、適期施用する。また、病害虫防除を徹底
するとともに、湿害のでやすい茶園では排水に努め、樹勢回復につなげる。
6 花 き
(1) フランネルフラワー
① 翌春出荷の作型
a.7月に播種した苗は、11月末までに鉢替えを終えている。もし、鉢替えが終わっていない場合は、
直ちに鉢替えを行う。
b.鉢土の水分状態を確認し、かん水ムラによる過湿、過乾の状態にならないよう適切なかん水管理を
行う。
c.良品質な株の出荷を目指すためには、厳冬期に入る前にある程度株を生育させることがポイントと
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なる。
d.秋出荷用の未開花株は、翌春まで管理する間に根詰まりによる老化で下葉が黄化する恐れがある。
早めに鉢替え(サイズアップ)する。なお、鉢替えができない場合は、追肥を行い、株を維持させる。
【フランネルフラワー「フェアリーホワイト」の作型】
月・旬
作型
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下
春出荷作型
○:播種
:鉢上げ(2.5 号)
:鉢替え
③ 親株管理等
a.親株はスペーシングにより株間を十分に確保して管理する。
b.同じハウスで別の品種と混在させないよう十分に注意する。
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■■:出荷
専 門 項 目 に 関 す る 情 報
トマトの生産を取り巻く現状と今後の研究方向
~野菜茶業課題別研究会より~
近年の国民の野菜に対するニーズはますます多様化・高度化する一方で、野菜の生産を取り巻く情勢は厳
しく、今後、生産の維持拡を図るには優れた品種・魅力ある品種の育成や栽培技樹の開発が必要である。そ
こで、野菜の中で産出額が最も多いトマトについて生産の現状と問題点を整理し、今後の研究および技術開
発の推進方向を明らかにするために国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構及び野菜・茶業研究
所野菜育種・ゲノム研究領域が担当し開催された。
本県においてもトマトは重要な品目であるので、本会議の内容を報告する。ただし、未発表の内容もある
ため、概要のみを簡潔に報告させていただく。
第1日
1 トマトの消費動向とニーズ
(東京青果(株))
家計消費の中で野菜の支出額は減少しておらず、
トマトは野菜の中で唯一消費量と生産量が増加しており、
単価も比較的安定しているため今後も生産量の拡大が予測されている。
特にミニトマトの需要は高く、今後も生産・消費とも右肩上がりで伸びていくと予想されおり、また、ア
イテムの細分化も一層進んでおり、消費者に買ってもらうための意識付けも必要である。
2 トマトの健康機能性
(京都大学)
トマトの摂食により生活習慣病の発病リスクを低減されることは、各種研究により報告されているが、こ
の効果を発揮する機能性成分等は解明すべき点が多く残されている。
トマトに含まれるアミノ酸等の種類は多く、カロテンやリコペンなどの抗酸化成分の存在は知られている
が、多くの機能性は未知数である。最近新たな機能性成分が見出され、肥満・糖尿病モデルマウスで肝臓中
の中性脂肪の低下と血糖値の改善が見られた成分がある。
また、ジュース等への加工により機能性成分の増加が認められたものもある。
3 全ゲノム情報を活用したトマト育種技術の高度化の取組
(農研機構 野菜・茶業研究所)
2012年にトマトの全塩基配列は公表されており、それに伴うDNAマーカーも細かくマーキングされ
ており育種などに効果的な利用ができるようになってきている。
ゲノム解読や情報処理手法は急激に進展しており、大きな影響力をもって、その手法を基にした品種開発
が主力になってくる。
4 トマトの長期多段どり栽培の現状
(サンファームオオヤマ(有))
栃木県では、軒高5mの高軒高ハウスでのハイワイヤー(3.3m)誘引とCO2 制御、飽差管理、光環
境制御等の環境制御技術の革新により大幅に収量は増加し、単収30トンを超える栽培が行われている。し
かしながら、日本では、高軒高、環境制御環境に適した品種の開発は、オランダと比べて遅れているため、
研究機関と連携しながら品種比較試験を行っている。
栽培環境に応じた品種で、よりその特性を生かせるような栽培技術も開発していくことが、経営の安定の
ためには必要である。
5 トマト育種の世界史
(タキイ種苗株式会社)
トマトの育種の歴史は浅く、グローバル化によって変化してており、栽培種、野生種の特徴を活かして使
用目的に即した様々な品種を育成しており、今後も時代のニーズに即した食味や耐病性等の育種が行われて
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いる。
日本では、食用の栽培は明治に入ってから始まり、海外から入った品種を中心に各試験場等で選抜された
品種がたくさん栽培されていたが、1940年にF1 品種が商業化されて以降、民間育種が中心となった。
第2日(第2分科会)
6 千葉県におけるトマト葉かび病レース4.9.11の発生と市販品種の抵抗性
(千葉県農林総合研究センター 病理昆虫研究室)
千葉県内での、葉かび病抵抗性品種において発生が見られる品種についての検討を行い、種苗業者でレー
スごとの抵抗性が未公表の品種について解明された。
現在、Cf-2,Cf-4,Cf-5、Cf-6、Cf-9、Cf-11の葉かび抵抗性遺伝子が存在し
ており、近年の品種ではCf-9を導入した品種が発売され一定の効果はあった。
しかしながら、それを打破する葉かび病も現地ですでに確認されている。
岐阜県内においても、面的な広がりは無いが、すでに打破系統は確認されている。
7 高接ぎ法によるトマト青枯れ病防除
(農研機構 中央農業総合センター)
温暖化に伴い、全国的に青枯れ病の発生が拡大しており、現状の接ぎ木法や薬剤による防除でも効果が十
分でない場合があった。
そのため、接ぎ木による防除メカニズムを解明した。高接ぎでは、台木の持つ、植物体内での青枯れ病菌
の移行と増殖の抑制能力を最大限に活用し穂木への感染を抑制できるため、第3葉上で接ぎ木を行う。現地
実証においてもその防除効果は高く、また、生育等にも影響が無く、十分に普及出来うる技術であり、民間
種苗会社での販売が実現している。
また、廃糖蜜を利用した土壌還元消毒と組み合わせることで、高い防除効果を維持することができた。
トマトは近年、需要の伸びや生産量の拡大、環境制御技術の発達等により、多方面での研究開発が進んで
おり、常にこれらを意識しながら現地で活用できる技術があれば積極的に取り入れ、他産地に負けない産地
づくりが必要になっていると考えられた。
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2020 東京オリンピックまでに進めたい!畜産物の国際規格認証
1 はじめに
2020 年7月 24 日から 9 月 6 日まで東京で開催される夏季オリンピック/パラリンピックまで4年半となっ
たが、農業分野においては「国産の農畜水産物が選手村の食材として使用できるか否か?」について関心が
高まっている。食材が国を超えて広く流通する欧米では、GLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)、HACCP(ハセップ)、
ISO22000(アイエスオー 22000)など客観的に食品の安全性を確保するための国際規格認証制度が確立されており、
食品を取扱う者
(特に食品を輸出するもの)
にはこれらの国際規格認証が義務付けされていることが多いが、
食品の海外輸出を行う機会が少なかった我が国は食品衛生に関する国際規格認証の取り組みが非常に遅れて
いる。しかし 2012 年のロンドンオリンピック以降、国際的なスポーツ大会等では食中毒事故の発生防止のた
め国際規格の認証を受け「高い精度で食の安全を確保」された食材のみが供給を許される方向にあり、すで
に 2016 年に開催されるリオデジャネイロオリンピックの会場で使用する水産物については国際規格認証を
取得したものに限ることが発表されている。また TPP 発効後の農畜水産物輸出には、国際規格認証取得が最
低限必要な条件となることが予想されることから、
今回は畜産物に関する国際規格の概要等について述べる。
2 GAP(農業生産工程管理:Good Agricultural Practice)とGLOBALG.A.P.
GAP は、20 世紀後半の EU で農業による深刻な環境汚染が問題になったことを受け、EU 共通農業施策(CAP)
の中で減農薬、減化学肥料、自然・資源の保護、景観維持と環境保全、生物多様性の促進等を内容とする規
則として「GAP 規範」が定められ、家畜糞尿や化学肥料による土壌の硝酸態窒素汚染や化学合成農薬の多用
の規制が開始されるとともに、農業補助が価格保証から環境保護の取り組みに対する直接支払へ転換された
ことに始まっている。21 世紀に入り GAP 規範は「環境負荷をゼロにする」から「環境にプラスを奨励する」
考え方となり、現在多くの EU 加盟国では国毎に水準の高い GAP 規範(環境や景観に対する便益)を定め、そ
れを実行することが直接支払の条件になっている。また、1990 年代に EU 各国はそれぞれに良質な農産物の
生産に対する認証制度を開始していたが、EU 域内に広く流通する青果物について国毎に異なる基準では扱い
にくいことから 1997 年に EU 域内に広く店舗を有するスーパーマーケットが EUREP(欧州小売業団体)を結
成し、2001 年に EUREPG.A.P.を発足して IFA(農場認証制度)を開始した。EUREPG.A.P.の対象は畜産(牛・
羊・豚・家禽等)水産及びすべての植物生産であり、その基準は EU 加盟各国ですでに定められていた「GAP
規範」のいずれにも共通する部分を取り出して共通の適正農業規範としたため、この規範が EUREP の組織に
参加する小売店が許容できる「最低限の評価基準」となり、EUREP 加盟店は国が規定している農業者の最低
限の義務である EUREPG.A.P.を守らない生産者とは取引しないという明確な方針を出したと言える。また EU
域内に多い小規模家族経営農業者にとって GAP を実践することは容易ではないため、農業技術指導員制度に
より農家一人一人が公認の技術員によるサポートを受けられるしくみを同時に開始している国が多い。2007
年に EUREPG.A.P.は GLOBALG.A.P.に名称変更するとともに EU に農産物を販売しようとする関係者に認証取得
を呼びかけたことにより現在世界各国で 13 万農場以上が認定されており、欧州の大手小売業では
GLOBALG.A.P.認証が取引の最低条件で事前に認証を得ておかないと商談・納品ができない場合が多い。また
大手小売店の一部では GLOBALG.A.P.以上の独自の品質基準による認証制度を運用しており、
テスコの Nature
Choice やウエイトローズの LEAF(Linking Environment and Farming)などは基準を満たした農産物につい
て差別化した販売を行っている。
一方、2009 年に国際的な小売・食品製造流通事業者等の団体である TCGF(The Consumer Goods Forum)に
よって運営される GFSI(国際食品安全イニシアチブ:Global Food Safety Initiative)が設立され、農水
産物を含む食品安全に関するガイドライン(ガイダンス ドキュメント)を発行し、それまで世界各国で成
立していた種々の食品安全認証や GAP がこれに合致しているかどうかを審査・承認することによって数多く
の認証制度の標準化を図った。
このことにより GFSI の承認規格であればどの規格認証を受けても同等性が認
められることとなり 2014 年 8 月現在、GLOBALG.A.P.(事務局:ドイツ)、SQF(Safe Quality Food、米国)、
Canada GAP(カナダ)、PrimusGFS(米国)など 11 の規格が同等の GAP 認証として承認されている。
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3 HACCP(ハセップ)とISO(アイエスオー)
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、1960 年代のアポロ計画時に、アメリカ
航空宇宙局(NASA)が宇宙食の衛生管理のために考案した手法であるが、現在、FAO(国連食糧農業機関)と
WHO(世界保健機構)が合同で設立したコーデックス食品規格委員会は、食品の安全性を向上させる手段とし
て HACCP に基づいたアプローチを行うことを推奨している。
従来の食品衛生の管理手法は、
できあがった食品の一部分だけを抜き取って行う検査が一般的であったが、
HACCP は、原料の入荷から製造・出荷までのあらゆる工程で発生する生物的・化学的・物理的「危害要因」
をあらかじめ分析(Hazard Analysis)し、その段階のコントロールを失うと最終製品に許容レベル以上の
危害要因が残留する危険性の大きいステップを必須管理点(Critical Control Point)として連続的に監
視・記録し、その工程を検証することにより製品の安全性を確保する衛生管理の手法である。従来の抜き取
り検査による衛生管理に比較してより効果的に問題のある製品の出荷を未然に防ぎ、危害原因の追究が容易
になる特長がある。HACCP 導入施設においては、各部門から選任された従業員による HACCP チームが、HACCP
計画の策定を行い、PDCA サイクル(Plan-Do-Check-Action)を用いた運用・管理により、食品の安全性・信
頼性を継続的に改善してゆくことが可能となる。EU では一次生産者(農家等)を除き食品取扱い業者には
HACCP が義務づけられており、アメリカでは水産食品、食肉及び食肉製品はすでに義務付けられ、食品安全
近代化法によりすべての食品事業者に HACCP のハザード分析を義務付ける案が示されている。
ISO(国際標準化機構:International Organization for Standardization)は、工業分野の国際規格を策
定するための非政府組織でスイスジュネーブに本部を置いている。食品分野の ISO 規格としては「製品の品
質」マネジメントシステムの国際規格である「ISO9001」と HACCP 手法に基づき消費者へ安全な食品を提供す
るための「食品安全」マネジメントシステムの国際規格である「ISO22000」等があり、認証にあたっては策
定された HACCP マネジメントシステムの有効性や PDCA サイクルが自律的に機能していること等が審査の基準
となる。また、GFSI は ISO22000 とそれを発展させた ISO/TS22002-1(または ISO/TS22002-4)を統合した承
認規格である FSSC22000 を制定しており、ISO22000 とともに普及が進んでいる。
一方、アメリカの農業生産サイドの制度として、各農場が適正農業規範(GAP)及び適正運用規範(GHP)
を適用しているかをアメリカ合衆国農務省(USDA)が審査・認証する GAP/GHP プログラムがあり、その基準
はアメリカ食品医薬品局が 1998 年に発表した
「微生物による生鮮青果物の食品安全性への危害要因を最小限
にするための手引き」を基本とし、HACCP 手法を用いた食品の安全性向上に重点がおかれている。
GFSI は、農業生産についてドイツの Food Plus 社が認証を行う GLOBALG.A.P.(一次生産・選果・貯蔵に対
応する規格、日本での取得 196 件(2014 年 6 月現在)、畜産規格あり)、アメリカの FMI(Food Marketing
Institute)が認証を行う SQF(一次生産から輸送・流通までの食品安全・品質管理規格、日本での取得 54
件、畜産規格あり)、アメリカの Azzul 社が認証を行う PrimusGFS(野菜の生産・貯蔵・包装の品質管理規
格)カナダの CanAgPlus 社が認証する CanadaGAP(園芸の一次生産・選果・貯蔵の食品安全規格)の 4 規格
を同等の GAP 認証として承認しているが、
現在日本国内で GFSI の同等性認証を受けた制度により認証を行う
機関は 8 社ですべて GLOBALG.A.P.制度認証を行う外資系の会社である。
4 厚生労働省のHACCPとJGAP、農場HACCP
厚生労働省は、平成7年(1995 年)の食品衛生法改正で、乳・乳製品・清涼飲料水・食肉製品・魚肉練り
製品及び容器包装詰加圧加熱殺菌食品(レトルト食品)の6種類の食品について HACCP の概念を用いた総合
衛生管理製造過程(以下「マル総」)の承認制度を創設したが、これは製造加工段階の汚染排除対策として
の衛生管理の承認であり生産農場段階の取り組みは対象になっていない。現在、乳・乳製品及び食肉製品で
は国内の大手量販店において販売されている製品のほとんどはマル総承認施設で製造されている状況である
が、承認対象業種が限定されていることから、食品加工施設のグローバル衛生基準である ISO22000 や
FSSC22000 の普及にともない民間承認を取得する施設が出てきている。
厚生労働省は食品輸出促進のためには HACCP の普及が急務であることから、
平成 26 年 4 月 28 日にと畜場、
食鳥処理場業者が講ずべき衛生措置の基準に関する省令改正、平成 26 年 10 月に食品等事業者が実施すべき
管理運営基準(ガイドライン)を定め、すべてのと畜場、食鳥処理場、食品等事業者について HACCP 方式を
用いる場合、用いない場合を選択制とした管理運営基準を定めたが、あくまでも将来的な HACCP 義務化を見
- 14 -
据えた最初のステップと位置付けている。
一方、農業生産についての諸外国の GAP では、概ね国毎を単位として農場を評価するものさしである「GAP
規範」と肥料や農薬の取り扱い等に関する具体的な注意事項を定めた「実践ガイドブック」を定め、それに
従い制度運営団体毎に基準書を作成することが一般的であるが、
我が国では 2004 年に農林水産省消費安全局
が生鮮農産物安全性確保対策事業で野菜衛生管理規範を定めたものの、農産物生産農場について統一された
GAP 規範を策定せず各制度を実施する組織ごとに異なる GAP 基準を定める方法をとったため、97 年以前の EU
と同じく各種流通企業・農協・生協・都道府県等が独自に策定した数百種類の GAP が混在する状況となって
いる。しかしこれらの制度は多くの場合農産物(野菜・果樹等)生産農場のみが対象の制度であったため、
畜産物生産農場について 2009 年に農林水産省消費安全局が定めた農場 HACCP 認証基準に従い中央畜産会等が
審査を行う農場 HACCP 認証制度が開始され、平成 27 年 4 月現在で 52 農場(乳牛 6、肉牛 8、豚 21、鶏 17)
が認証されている。
ただ残念なことに 2015 年 10 月現在、
日本国内の GAP 認証制度や農場 HACCP 制度では GFSI
による諸外国の制度との同等性認証を受けた制度が存在しないため、EU 等への輸出においては GFSI 認証を
受けた制度の認証取得が必要な状況となっている。
5 今後の課題
高山市の飛騨食肉センターを運営する飛
騨ミート農業協同組合連合会は、EU・米国・
カナダ・香港・シンガポール・フイリピン・
タイ・マカオ等への輸出食肉施設の認定を
受けているが、その前提条件として 2007
年 3 月 に ISO22000 の 認 証 を 取 得 し 、
ISO22000 の手順により前提条件プログラ
ム(PrP)、衛生標準作業手順書(SSOP:
Sanitation
Standard
Operation
図1飛騨食肉センター外観と看板
Procedures)等からなる HACCP プランを作
成実施している。
しかし、
これは牛のと畜解体から牛肉の卸販売に至る過程の衛生水準に関する承認であり、
肉牛飼育農家の衛生水準を担保するものではない。
海外の食品流通においては、
すでに GFSI 認証を取引基準として生産から小売までの食品サプライチェーン
全体の安全性の確保を図る制度が確立されており、一次生産者の GFSI 認証と加工流通段階の ISO22000(又
は FSSC22000)認証は、海外の大規模小売店舗等を通じて本格的な農産物販売に取り組む国内農業者や加工
流通業者にとって取得が避けられない基準である。また、欧米のみならずアジア・アフリカ・中南米などの
多くの国々で GFSI 認証の取り組みが進んでいる現状からすると、TPP 発効後に海外輸出を計画する日本の農
業者にとって GFSI 認証を受けた国際認証を取得することが最低限の必要事項となると思われる。
従来、HACCP や GAP にはハード整備に多大なコストが必要とか膨大な資料作成が必要という誤解があった
が、現在は HACCP の土台となる前提条件プログラムを実施した上で HACCP による危害分析を実施し、工程に
問題があれば取扱い方法等を変更することで効果的に製品の衛生管理体制を整備する手法という本来の考え
方に進んでいる。HACCP(又は GAP)の目的は、すべての食品取扱者が HACCP 手法により衛生管理を実施し、
PDCA サイクルにより食品の安全性・信頼性を常に進化させることであり、商品に付加価値をつけるために認
証を取得することではないと言える。
平成 26 年 6 月 24 日に閣議決定された日本再興戦略には、農産物の輸出促進に向け我が国主導の規格づく
りとともに GLOBALG.A.P.の取得促進が盛り込まれた。また、平成 27 年 3 月 31 日に閣議決定された新たな食
料・農業・農村基本計画では食品の安全確保、輸出促進、技術革新のため農林水産省のガイドラインに則し
た一定水準以上の GAP の普及・拡大の推進とともに HACCP、GLOBALG.A.P.の認証促進、国際的な取引にも通
用する GAP に関する規格・認証の仕組みの構築の推進が示され、学識経験者等をメンバーとする GAP 戦略会
議で課題解決に向けた議論が展開されている。しかし東京オリンピック開催や TPP 発効に向けて農畜水産物
生産に関する基準は GLOBALG.A.P.をはじめとする GFSI 規格に準拠してゆくことが予想されている。
本年7月に、宮崎大学農学部付属農場の牛乳・牛肉生産過程が我が国の畜産農場ではじめて GLOBALG.A.P.
- 15 -
認証を取得したが、今後国内の農畜産物生産農場で GLOBALG.A.P.取得の動きが加速した場合、従来ある国内
規格が価値を失う可能性を否定することはできない。東京オリンピックの舞台で安全でおいしい和食文化を
アピールし TPP 発効後の農畜産物輸出拡大に弾みをつけるため、各分野の農業指導者が国等からの情報収集
に努め農業者等に対して迅速で的確な指導を行ってゆくことが望まれている。
<参考文献>
1
今瀧博文:GAP は輸出先国による非関税障壁か、日本政策金融公庫農林水産事業本部 AFC フォーラム
(2014.8)
2 北海道上川農業改良普及センター:GAP 導入の手引き(2015.2)
3 田上隆一:日本と欧州の GAP 比較と GAP の意味、2020 東京オリンピックで国産野菜を供給できない
可能性、一般社団法人日本生産者 GAP 協会,GAP 普及ニュース(2010.9)(2012.11)(2014.10)
4 豊福肇ら:JA 飛騨ミートにおける SSOP 及び HACCP に基づく食品安全管理システムによる微生物制御とそ
の微生物学的検証、日獣会誌 66 718~724(2013)
5 農林水産省農産部農業環境対策課生産工程管理班:農業生産工程管理(GAP)に関する情報、農林水産省
ホームページ(2015.4)
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