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大学生バスケットボール選手の敏捷性能力に及ぼす ラダートレーニングの

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大学生バスケットボール選手の敏捷性能力に及ぼす ラダートレーニングの
島根大学教育学部紀要(自然科学)第43巻 137頁∼143頁 平成21年12月
137
大学生バスケットボール選手の敏捷性能力に及ぼす
ラダートレーニングの効果
−有効性とトレーニング期間に関する検討−
犬塚 剛弘*・原 丈貴**
Takahiro Inuzuka * and Taketaka Hara **
Effect of ladder training for agility performance on university basketball player
-A study in the efficacy and training period-
要約
本研究では,ラダートレーニングがバスケットボール競技に必要とされる敏捷性能力に及ぼす効果について明らか
にするとともにラダートレーニングの効果が現れ始める期間について検討することを目的とした.対象は,大学生男
子バスケットボール選手13人であり,ラダートレーニングを実施するトレーニング群8人,実施しないコントロール
群5人に分けた.トレーニング群は,通常の練習後にラダードリルを週に3回12週間計36回行った.トレーニング効
果の評価として,4種目のラダーテスト,方向転換走,一往復走,T字走,ドリブル走,反復横跳び,垂直跳びを行った.
トレーニング群では方向転換走(p<0.05),一往復走(p<0.01),T字走(p<0.01),ドリブル走(p<0.01)において
有意な記録の向上が認められたが,コントロール群では,有意な記録の向上は認められなかった.トレーニング効果
の現れ始める期間について見ると,方向転換走と一往復走では,トレーニング前の記録と比べて、トレーニング実施1ヵ
月後以降の記録から有意(p<0.05)な向上が認められ,T字走とドリブル走では,トレーニング実施2ヵ月後以降の
記録から有意(p<0.001)な向上が認められた.以上の結果から,ラダートレーニングは大学生男子バスケットボール
選手の敏捷性の改善において有効であり,週3回のラダートレーニングでトレーニング効果を得るためには2ヶ月間必
要であるということが示唆された.
【キーワード:ラダートレーニング,敏捷性能力,バスケットボール,トレーニング期間】
Ⅰ.はじめに
る.SAQと は, 速 さ の 三 要 素 と さ れ るspeed,agility,
quicknessの頭文字をとったもので,SAQトレーニング
バスケットボールは,5人対5人で一つのボールを使
は1980年代後半にアメリカで誕生した.当時のアメリカ
い,コート上に敵味方の選手が入り乱れ,攻守がめまぐ
では,筋力トレーニングが重視されていたが,筋肉を鍛
るしく変わるスポーツである.攻撃の失敗が守備の始ま
えるだけでは競技パフォーマンスの向上に限界があると
りであり,守備の成功が攻撃の始まりとなる.バスケッ
考えられていた.そこで各競技の専門的な動きに注目し
トボールでは,シュート成功率を高めるためやリバウン
筋力トレーニングと並んで動作技術を重視するようにな
ドを取るために高く跳ぶこと,速攻や切りかえの早いゲ
り,筋力を効率よくパフォーマンスに結びつけるには動
ーム展開に競り勝つために速く走ることが求められる.
きを重視すべきではないのか,筋力を生かすトレーニン
バスケットボール選手として高いパフォーマンスを発揮
グや競技専門の技術に結びつけるトレーニングがあるの
するためには,試合状況に応じて多彩な動きを適時に選
ではないかと考えられるようになった.そうした背景の
択し効果的なタイミングで行わなければならないため,
下SAQトレーニングが考案された1). SAQトレーニン
直線的なスピードに加えて,素早い巧みなフットワーク
グでは,どのような場面でどのような速さが必要なのか
動作や方向転換動作が必要不可欠となる.
「速くプレー
を考え,それに応じた動作を的確に行うことが重要であ
する」ということは単に自らの身体を速く動かすことで
るとされる2).SAQトレーニングには,ラダートレーニ
はなく自分のイメージ通りのタイミングや速度で動くこ
ング,ミニハードルトレーニング,バイパートレーニン
とであり,敏捷性能力を高めることで速く正確に動くこ
グなどがあり,その中の一つのラダートレーニングとは,
とが可能となる.敏捷性はスピードと調整力とで構成さ
梯子状の縄を置き,マス目に従いある一定の動きで素早
れ,双方がバランスよく高まることで向上する.敏捷性
く身体を動かすトレーニングである.神経系のトレーニ
能力を高めるために実際のトレーニングの現場では,正
ングであり,脳から神経を伝い筋肉に刺激が伝達される
確なプレーの追及と並んで,プレーをいかに速く行うか
までの伝達速度を上げることによって反応を早くするこ
が常に課題となっている.
とを狙いとしている1).
そこで注目されているのが,SAQトレーニングであ
ラダートレーニングに関する先行研究において小粥ら
*
島根大学教育学研究科教育内容開発専攻
島根大学教育学部健康・スポーツ教育講座
**
138
大学生バスケットボール選手の敏捷性能力に及ぼすラダートレーニングの効果−有効性とトレーニング期間に関する検討−
(2002)3) は大学生のバスケットボール選手を対象とし
行った.上級トレーニングでは中級のステップを発展さ
て,ラダートレーニングがラダーテストや立位ステッピ
せたバックシャッフル1)2)と,主にクイックネスを向上
ング,20mスクウェアランなどの敏捷性能力の改善に有
させるトレーニングであるワンマンスクイックエクササ
効であることを示しており,また,原田ら(2007)4)は
イズ1)2)の4種目を行った.
女子中学生バスケットボール選手を対象に50m走,方向
変換走,立位ステッピング,反復横跳びからラダートレ
C.トレーニング効果の測定
ーニングの有効性を示している.しかしこれらの報告は,
トレーニング効果の評価として,3種目のラダーテス
実際のバスケットボール競技に必要とされる動きをもと
ト,方向転換走,一往復走,T字走,ドリブル走,反復
に検証されたものではないため、バスケットボール競技
横跳び,垂直跳びを行った.ラダーテストの測定は,ト
に必要とされる動きに対するラダートレーニングの効果
レーニング実施前とトレーニング実施3ヶ月後の計2回
については明らかではない.さらに小粥3)や原田ら4)は,
行った.方向転換走,一往復走,T字走,ドリブル走,
5週間程度のトレーニングでラダーの効果を示している
反復横跳び,垂直跳びの測定は,トレーニング実施前と
が,先行研究が少なくラダートレーニングの効果が現れ
トレーニング実施1ヶ月後,2ヶ月後,3ヶ月後の計四
始める期間についても不明な点が多い.バスケットボー
回行った.各測定は,いずれも通常の練習を行った後に
ル競技に必要とされる動きに対するラダートレーニング
実施した.
の効果や効果が得られるための期間について明らかにす
ることは,バスケットボールのさまざまな現場でラダー
1.ラダーテスト
トレーニングを活用するための一資料になりうると考え
測定に用いたラダーテストは,1マス2歩(ラダーテ
られる.
スト1),両足ジャンプ(ラダーテスト2)
,開閉ジャン
そこで本研究では,ラダートレーニングがバスケット
プ(ラダーテスト3)の3種類とした.測定は,スター
ボール競技に必要とされる敏捷性能力に及ぼす効果につ
トの合図で動き始めてから,最後のマス目に足が入るま
いて明らかにするとともに,ラダートレーニングの効果
でとした.記録は,ストップウォッチを用いて手動計測
を得られるために必要な期間について検討することを目
し,1/100秒単位までとした.1人1回の測定を行った.
的とした.
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Ⅱ.方法
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A.対象
対象は,大学生男子バスケットボール選手13人であり,
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ラダートレーニングを実施する群(トレーニング群:8
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2.方向転換走
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⑽න૏߹ߢ
図1に示したように,25m方向転換走コースを1周す
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ੱ1
ることで行った.ストップウォッチを用いて手動計測し,
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1/100秒単位までとした.計測は,方向転換は,ポール
に触れることで行い,1人1回の測定を行った.
人)
,実施しない群(コントロール群:5人)に分けた.
ߟ޿ߡᬌ⸛ߔࠆߎߣࠍ⋡⊛ߣߒߚ㧚
対象者の年齢,身長,体重,競技歴は,それぞれ20.9±
1.6歳,171.6±6.4cm,
2±5.9kg,11.2±2.8年 で あ る.
Τ62
㧚.ᣇᴺ
なおラダートレーニング実施期間中は両群とも,バスケ
ットボールのスキルトレーニングや戦術練習は通常通り
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に行った.対象者には,事前に本研究の主旨,トレーニ
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ング内容や測定内容に関して説明を行い,参加への承諾
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を得た.
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┹ᛛᱧߪ㧘ߘࠇߙࠇ
20.9r1.6 ᱦ㧘171.6r6㧚4cm㧘62.2r5.9kg㧘
B.ラダートレーニング
11.2r2.8
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トレーニング群は,通常の練習後にラダードリルを週
start and
goal
࿑㧝
ᣇะォ឵⿛
図1 方向転換走
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߽㧘ࡃࠬࠤ࠶࠻ࡏ࡯࡞ߩࠬࠠ࡞߿ᚢⴚ✵⠌ߪㅢᏱㅢࠅߦⴕߞߚ㧚ኻ
に3回12週間で計36回行った.トレーニングに使用した
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ラダーは,長さ13m,一マスの大きさは0.42m四方であ
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3.
一往復走
28m バスケットコートのエンドラインからエンドラインま
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ߒߡ⺑᣿ࠍⴕ޿㧘ෳട߳ߩᛚ⻌ࠍᓧߚ㧚
る.トレーニング内容は,初級,中級,上級と3つに分
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での距離28mを往復する時間を測定した.ターンは,エ
けて行った.トレーニングは初級を4週間,中級を4週
ンドラインを踏む,または踏み越えることで行った.ス
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⑽න૏߹ߢߣ
タートは,スタンディングスタートで行い,ストップウ
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ੱ 1 ࿁ߩ᷹ቯࠍⴕߞߚ㧚
間,上級を4週間の順で行った.初級トレーニングでは
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ベーシックステップとされている1マス1歩,1マス2
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3 ࿁ 12
1)2)
歩,両足ジャンプ,開閉ジャンプ,スラローム
の4
ㅳ㑆ߢ⸘
36 ࿁ⴕߞߚ㧚
࠻࡟࡯࠾ࡦࠣߦ૶↪ߒߚ࡜࠳࡯ߪ㧘
㐳ߐ 13m㧘
種目を行った.中級トレーニングではベーシックステッ
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0.42m ྾ᣇߢ޽ࠆ㧚࠻࡟࡯࠾ࡦࠣౝኈߪ㧘ೋ⚖㧘
ォッチで手動測定し,1/100秒単位までとした.1人1
回の測定を行った.
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㧠
プより複雑なステップであり,主に姿勢やバランスを整
ਛ⚖㧘਄⚖ߣ 3 ߟߦಽߌߡⴕߞߚ㧚࠻࡟࡯࠾ࡦࠣߪೋ⚖ࠍ 4 ㅳ㑆㧘
えるアジリティトレーニングであるシャッフル,シャッ
ਛ⚖ࠍ 4 ㅳ㑆㧘਄⚖ࠍ 4 ㅳ㑆ߩ㗅ߢⴕߞߚ㧚ೋ⚖࠻࡟࡯࠾ࡦࠣߢߪ
フル2,シザーズ,リッキーマーティン1)2)の4種目を
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4.T字走
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図2に示したようにエンドライン中央からスタート
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し,フリースローラインまで走った後,両サイドのスリ
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㐳ߐ 13m㧘
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ࡠ࡯࡜ࠗࡦ߹ߢ⿛ߞߚᓟ㧘ਔࠨࠗ࠼ߩࠬ࡝࡯ࡐࠗࡦ࠻࡜ࠗࡦ਄ߦ޽
ーポイントライン上にあるポール間をサイドステップで
ࠆࡐ࡯࡞㑆ࠍࠨࠗ࠼ࠬ࠹࠶ࡊߢ⒖േߔࠆ㧚ࡈ࡝࡯ࠬࡠ࡯࡜ࠗࡦਛᄩ
7.垂直跳び
移動する.フリースローライン中央までサイドステップ
߹ߢࠨࠗ࠼ࠬ࠹࠶ࡊߢ⒖േߒߚࠄࠛࡦ࠼࡜ࠗࡦ߹ߢߪࡃ࠶ࠢ࠳࠶
で移動したらエンドラインまではバックダッシュで戻
ࠪࡘߢᚯࠅ㧘ࠧ࡯࡞ߣߒߚ㧚ࠬ࠲࡯࠻ߪ㧘ࠬ࠲ࡦ࠺ࠖࡦࠣࠬ࠲࡯࠻
垂直跳びは,体力診断テストに準じて行った.測定は,
2回行い、良い方を記録とした.
り,ゴールとした.スタートは,スタンディングスター
ߢⴕ޿㧘ࠬ࠻࠶ࡊ࠙ࠜ࠶࠴ߢᚻേ⸘᷹ߒ㧘1/100 ⑽න૏߹ߢߣߒߚ㧚
トで行い,ストップウォッチで手動計測し,1/100秒単
1 ੱ㧝࿁ߩ᷹ቯࠍⴕߞߚ㧚
位までとした.1人1回の測定を行った.
࡜ࡦ
ࠨࠗ࠼ࠬ࠹࠶ࡊ
139
D.統計処理
測定値は,平均値と標準偏差で示した.トレーニング
前後における各測定値の比較には,対応のあるt検定を
ࡃ࠶ࠢ࡜ࡦ
用いた.トレーニング群において有意に記録が向上した
࠾ࡦࠣߢ޽
測定項目については,反復測定一元配置分散分析を行っ
㧚
た.有意差が見られた測定項目については,多重比較検
定としてフィッシャーのPLSD法を用いた.有意水準は
いずれも5%とした.
࠻㧘ᣇะォ
Ⅲ.結果
⋥〡߮ࠍⴕ
࡟࡯࠾ࡦࠣ
A.敏捷性能力に対するラダートレーニングの効果
㨀ሼ⿛㧘࠼
表1は,トレーニング前後におけるトレーニング群,
ࠣታᣉ೨ߣ
図2 T字走
࿑ 2 T ሼ⿛
࿁ⴕߞߚ㧚
ࠬ࠻ 1)㧘ਔ
࠻ 3)ߩ 3
㧘ᦨᓟߩࡑ
ࠍ↪޿ߡᚻ
ⴕߞߚ㧚
ߔࠆߎߣߢ
対象群の各測定項目の結果である.
両群のトレーニング前後の比較ではトレーニング群は
5.ドリブル走
㧡㧚࠼࡝ࡉ࡞⿛
図3に示したようにコート上の片側に5つのポールを
࿑3 ߦ␜ߒߚࠃ߁ߦࠦ࡯࠻਄ߩ ஥ߦ5 ߟߩࡐ࡯࡞ࠍ⟎޿ߡⴕߞ
置いて行った.エンドラインからスタートし,最初のボ
ߚ㧚ࠛࡦ࠼࡜ࠗࡦ߆ࠄࠬ࠲࡯࠻ߒ㧘ᦨೋߩࡏ࡯࡞ߦኻߒߡᄖ஥߆ࠄ
ールに対して外側からジグザグドリブルで移動し,ハー
ࠫࠣࠩࠣ࠼࡝ࡉ࡞ߢ⒖േߒ㧘ࡂ࡯ࡈ࡜ࠗࡦ߆ࠄ࡜ࡦ࠾ࡦࠣࠪࡘ࡯࠻
フラインからランニングシュートを行う.リバウンドは
ࠍⴕ߁㧚࡝ࡃ࠙ࡦ࠼ߪߣࠄߥ޿߽ߩߣߒ㧘ࠪࡘ࡯࠻ᓟ㧘ߘߩࠧ࡯࡞
とらないものとし,シュート後,そのゴールのエンドラ
ߩࠛࡦ࠼࡜ࠗࡦ਄ߦ⟎޿ߡ޽ࠆࡏ࡯࡞ࠍ૶޿㧘ห᭽ߦࠫࠣࠩࠣ࠼࡝
イン上に置いてあるボールを使い,同様にジグザグドリ
方向転換走(p<0.05)
,一往復走,T字走,ドリブル走(い
ࡉ࡞߆ࠄ࡜ࡦ࠾ࡦࠣࠪࡘ࡯࠻ࠍⴕ߁㧚ࡏ࡯࡞ࠍᜬߞߚ⁁ᘒߢࠬ࠲࡯
ブルからランニングシュートを行う.ボールを持った状
࠻ߩว࿑ࠍߒ㧘ᦨᓟߪࡏ࡯࡞߇࡝ࡦࠣࠍᛮߌߚᤨὐ߹ߢࠍࠬ࠻࠶ࡊ
態でスタートの合図をし,最後はボールがリングを抜け
みられなかった.
ずれもp<0.01)において有意に記録が向上した.コント
ロール群については,いずれの測定項目にも有意な記録
の変化はみられなかった.ラダーテスト1,ラダーテス
ト2においてトレーニング群はトレーニング後に有意(p
<0.05)に記録が向上したが,
コントロール群については,
ラダーテストのいずれの測定項目も有意な記録の変化は
࠙ࠜ࠶࠴ߢᚻേ⸘᷹ߒ㧘1/100
⑽න૏߹ߢߣߒߚ㧚⸘᷹ਛߪ
た時点までをストップウォッチで手動計測し,
1/1002秒ᧄߩ
B.敏捷性能力に対するトレーニング効果の現れ始める
単位までとした.計測中は2本のランニングシュートや
࡜ࡦ࠾ࡦࠣࠪࡘ࡯࠻߿࠼࡝ࡉ࡞ࠍⴕ߁߇㧘࡜ࡦ࠾ࡦࠣࠪࡘ࡯࠻ߪ㧘
ドリブルを行うが,ランニングシュートは,どちらかを
ߤߜࠄ߆ࠍᄬᢌߒߚ႐วߪ߿ࠅ⋥ߒߣߒ㧘࠼࡝ࡉ࡞ਛߦⷙቯߩࠦ࡯
失敗した場合はやり直しとし,ドリブル中に規定のコー
ࠬࠍᄖࠇߚࠅ㧘⪺ߒߊࠦ࡯ࠬ߆ࠄᄖࠇߚ႐วߦߟ޿ߡ߽߿ࠅ⋥ߒߣ
スを外れたり,著しくコースから外れた場合についても
ߒߚ㧚1 ੱ 1 ࿁ߩ᷹ቯࠍⴕߞߚ㧚
やり直しとした.1人1回の測定を行った.
࠼࡝ࡉ࡞ࠪࡘ࡯࠻
࡜ࡦ
期間
トレーニング群で有意に記録が向上した測定項目につ
㧮㧚 ᢅᝰᕈ⢻ജߦኻߔࠆ࠻࡟࡯࠾ࡦࠣലᨐߩ⃻ࠇᆎ߼
いてトレーニング実施前,1ヶ月後,2ヶ月後,3ヶ月
ࠆᦼ㑆
後の測定記録の推移を図4に示した.
方向転換走と一往復走では,トレーニング前の記録と
࠻࡟࡯࠾ࡦࠣ⟲ߢ᦭ᗧߦ⸥㍳߇ะ਄ߒߚ᷹ቯ㗄⋡ߦߟ޿ߡ࠻࡟
比べ,トレーニング実施1ヵ月後以降に有意な記録の
࡯࠾ࡦࠣታᣉ೨㧘1 ࡩ᦬ᓟ㧘2 ࡩ᦬ᓟ㧘3 ࡩ᦬ᓟߩ᷹ቯ⸥㍳ߩផ⒖
改善が認められた(p<0.001∼p<0.05)
.T字走とドリブ
ࠍ࿑ 4 ߦ␜ߒߚ㧚
ル走では,トレーニング前の記録と比べ,トレーニン
ᣇะォ឵⿛ߣ৻ᓔᓳ⿛ߢߪ㧘࠻࡟࡯࠾ࡦࠣ೨ߩ⸥㍳ߣᲧߴ㧘࠻࡟
グ実施2ヵ月後以降に有意な記録の改善が認められた
࡯࠾ࡦࠣታᣉ㧝ࡨ᦬ᓟએ㒠ߦ᦭ᗧߥ⸥㍳ߩᡷༀ߇⹺߼ࠄࠇߚ
(p<0.001∼p<0.01)
.
(p<0.001㨪p<0.05)㧚㨀ሼ⿛ߣ࠼࡝ࡉ࡞⿛ߢߪ㧘࠻࡟࡯࠾ࡦࠣ೨ߩ
⸥㍳ߣᲧߴ㧘࠻࡟࡯࠾ࡦࠣታᣉ 2 ࡨ᦬ᓟએ㒠ߦ᦭ᗧߥ⸥㍳ߩᡷༀ߇
Ⅳ.考察
⹺߼ࠄࠇߚ(p<0.001㨪p<0.01)㧚
大学生男子バスケットボール選手に対して,ラダーを
Φ㧚⠨ኤ
用いて週3回3ヶ月間のトレーニングを行ったところ,
トレーニング群ではラダーテスト1,2と方向転換走,
ᄢቇ↢↵ሶࡃࠬࠤ࠶࠻ࡏ࡯࡞ㆬᚻߦኻߒߡ㧘࡜࠳࡯ࠍ↪޿ߡㅳ
3
࿁ 3一往復走,T字走,ドリブル走の記録が有意に向上し,
ࡩ᦬ߩ࠻࡟࡯࠾ࡦࠣࠍⴕߞߚߣߎࠈ㧘࠻࡟࡯࠾ࡦࠣ⟲ߢߪ࡜࠳
図3 ドリブル走
࿑ 3 ࠼࡝ࡉ࡞⿛
敏捷性能力に対するラダートレーニングの有効性が示さ
࡯࠹ࠬ࠻
1㧘2 ߣᣇะォ឵⿛㧘৻ᓔᓳ⿛㧘㨀ሼ⿛㧘࠼࡝ࡉ࡞⿛ߩ⸥
㍳߇᦭ᗧߦะ਄ߒ㧘ᢅᝰᕈ⢻ജߩᡷༀߦኻߔࠆ࡜࠳࡯࠻࡟࡯࠾ࡦࠣ
れた.さらにトレーニング期間についてみると,方向転
㧢㧚෻ᓳᮮ〡߮
6.反復横跳び
෻ᓳᮮ〡߮ߪ㧘ᢥㇱ⑼ቇ⋭ߩᣂ૕ജ࠹ࠬ࠻ߦḰߓߡⴕߞߚ㧚᷹ቯ
反復横跳びは,文部科学省の新体力テストに準じて行
ߪ㧘2
࿁ⴕ޿㧘⦟޿ᣇࠍ⸥㍳ߣߒߚ㧚
った.測定は,2回行い,良い方を記録とした.
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換走,一往復走ではトレーニング実施1ヶ月後に,T字
ะォ឵⿛㧘৻ᓔᓳ⿛ߢߪ࠻࡟࡯࠾ࡦࠣታᣉ
1 ࡩ᦬ᓟߦ㧘㨀ሼ⿛㧘࠼
走,ドリブル走では,トレーニング実施2ヵ月後には有
࡝ࡉ࡞⿛ߢߪ㧘
࠻࡟࡯࠾ࡦࠣታᣉ 2 ࡨ᦬ᓟߦߪ᦭ᗧߥ⸥㍳ߩะ਄߇
意な記録の向上が認められたことから,ラダートレーニ
⹺߼ࠄࠇߚߎߣ߆ࠄ㧘࡜࠳࡯࠻࡟࡯࠾ࡦࠣߩലᨐ߇ᓧࠄࠇࠆᦼ㑆ߣ
ングの効果が得られる期間として,2ヶ月間のトレーニ
㧣㧚ု⋥〡߮
ု⋥〡߮ߪ㧘૕ജ⸻ᢿ࠹ࠬ࠻ߦḰߓߡⴕߞߚ㧚᷹ቯߪ㧘2 ࿁ⴕ޿‫ޔ‬
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140
大学生バスケットボール選手の敏捷性能力に及ぼすラダートレーニングの効果−有効性とトレーニング期間に関する検討−
表1 トレーニング前後における測定結果
⴫ 㪈 䊃䊧䊷䊆䊮䉫೨ᓟ䈮䈍䈔䉎᷹ቯ⚿ᨐ
䊃䊧䊷䊆䊮䉫⟲(n=8)
pre
䉮䊮䊃䊨䊷䊦⟲(n=5)
post
*
pre
post
ᣇะォ឵⿛
৻ᓔᓳ⿛
T ሼ⿛
䊄䊥䊑䊦⿛
෻ᓳᮮ〡䈶
ု⋥〡䈶
(⑽)
(⑽)
(⑽)
(⑽)
(࿁)
(cm)
㪈3.5㫧0.4
8.8㫧0.3
9.3㫧0.2
㪈4.2㫧0.8
57.8㫧5.4
57.8㫧4.9
㪈3.2㫧0.5
8.4㫧0.3**
8.6㫧0.2**
㪈3.5㫧0.7**
59.4㫧5.㪈
59.3㫧5.0
㪈3.4㫧0.2
8.7㫧0.2
8.9㫧0.4
㪈3.7㫧0.3
59.4㫧4.0
62.0㫧5.㪈
㪈3.4㫧0.5
8.7㫧0.4
9.㪈㫧0.5
㪈4.2㫧㪈.0
59.6㫧4.7
60.8㫧2.5
䊤䉻䊷䊁䉴䊃 㪈
䊤䉻䊷䊁䉴䊃 2
䊤䉻䊷䊁䉴䊃 3
(⑽)
(⑽)
(⑽)
4.7㫧0.8
4.4㫧0.4
4.3㫧0.4
3.9㫧0.3䋪
4.0㫧0.2䋪
3.9㫧0.4
4.9㫧0.6
4.6㫧0.2
4.7㫧0.㪈
5.2㫧0.5
4.7㫧0.3
4.9㫧0.5
* p<0.05
** p<0.0㪈 pre
vs post
(⑽)
13.8
13.6
13.4
b
13.2
a
13.0
c
12.8
12.6
12.4
pre
1 䊱᦬ᓟ
2 䊰᦬ᓟ
3 䊰᦬ᓟ
(⑽)
8.9
8.8
8.7
8.6
8.5
8.4
8.3
8.2
8.1
8.0
a
b
pre
ᣇะォ឵⿛
(⑽)
14.6
14.4
14.2
14.0
13.8
13.6
13.4
13.2
13.0
12.8
1 䊱᦬ᓟ
2 䊰᦬ᓟ
b
3 䊰᦬ᓟ
৻ᓔᓳ⿛
(⑽)
9.6
9.1
c
b
c
8.6
c
8.1
pre
1 䊱᦬ᓟ
2 䊰᦬ᓟ
3 䊰᦬ᓟ
7.6
࠼࡝ࡉ࡞⿛
pre
1 䊱᦬ᓟ
2 䊰᦬ᓟ
3 䊰᦬ᓟ
T ሼ⿛
a;p<0.05 b;p<0.01 c;p<0.001(vs pre)
࿑ 4 ᷹ቯ⸥㍳ߩផ⒖
図4 測定記録の推移
犬塚剛弘・原 丈貴
141
ングが必要であることが示唆された.
えられる.さらに,T字走においては,ラン,切り返し
バスケットボールの動きを改善させるために,パワー
のほかに左右にサイドステップを行う.サイドステップ
ポジションというものが重視されている.パワーポジシ
を行う際の基本的な姿勢は,パワーポジションであり,
ョンとは,静止した状態から動き始める際に一番力を発
パワーポジションの姿勢が固定され左右の動きをスムー
揮できる姿勢のことである.理想的なパワーポジション
ズにしたことが記録を向上させた要因ではないかと考え
の姿勢は,トリプルナインティーズといわれ,足首,膝,
られる.
股関節の3つがそれぞれ90度の角度を保つこととされて
ドリブル走では,トレーニング群の記録が有意に向上
いる2).バスケットボールでは,守備の姿勢がパワーポ
した.ドリブル走では他の測定項目と違いドリブルの技
ジションに近く,このパワーポジションはサイドステッ
術も要する測定である.トレーニング実施期間中は両群
プや攻撃への切りかえの初動となる重要な姿勢である
とも同じ通常練習を行い,ラダートレーニングにおいて
2)
もボールコントロール技術を向上させるようなトレーニ
で行われ,トレーニング中に動きながらパワーポジショ
ングを用いていない.また,両群ともに競技歴は長く,
ンを意識して行うことで理想的な姿勢が身に付くとされ
3ヶ月のトレーニング期間にドリブル技術が向上したと
.ラダートレーニングはパワーポジションに近い姿勢
1)
る .また,パワーポジションが固定されておらず身体
は考えにくい.これらのことから,ドリブル技術が向上
の中心と重心が遠ければ遠いほど動き出しの際にスピー
したのではなく,直線的な加速力や切り返し能力に改善
ドにロスが生じるとされている1).ラダートレーニング
がみられ記録が向上したのではないかと考えるられる.
によってさまざまな複雑な動きや切り返しを反復するこ
垂直跳びについては,記録の向上はみられなかった.
とで,バランス能力や姿勢が改善し,さらにパワーポジ
垂直跳びは,上方向に跳ぶ力を必要とする.ラダートレ
ションに近い姿勢でラダートレーニングを行ったので,
ーニングは最大筋力を向上させる目的で行うものではな
左右の動きや切り返しの能力が向上し,バスケットボー
く,横の動きや前後の動きに改善をもたらす目的で行う
ルにみられる動きの改善につながったのではないかと考
ものである.そのために今回の対象では,垂直跳びに必
えられる.
要な筋力そのものを向上させる効果はないと考えられ
方向転換走,一往復走,T字走では,トレーニング群
る.
において記録が有意に向上したが,この要因の一つと
今回の研究では,ラダートレーニングの評価方法とし
して,切り返し方が改善されたと考えられる.この3種
てバスケットボールの実際の動きをもとにした測定項目
目に共通して挙げられる動きは,直線的な動きから方向
を取り入れた.ラダートレーニングによってバスケット
を変え再び直線的な動きに移行することである.方向を
ボールの実際の動きを基にした測定項目の記録は改善さ
変える際にある程度スピードを落とさなければならない
れることが示されたが,本研究の結果のみでは改善され
が,筋力だけに頼るとスピードが遅くなることや,障害
るメカニズムまではわからない.今後は,ラダートレー
につながることがある1).また,理想的な方向転換を行
ニングが敏捷性能力を改善するメカニズムについて詳細
うには,筋力の他にバランスや姿勢も重要とされている
に検討していく必要がある.
1)
方向転換走と一往復走については,トレーニング実施
方向を変えて再び動き出すことであるが,動きを止める
1ヶ月後以降に記録の改善が認められていることから,
際に慣性力が働き,重心は中心から離れようとするため,
基本的なステップのラダートレーニングを週3回4週間
重心と中心をより近づけることが理想的な方向転換とさ
行うだけで,ラダートレーニングがバランス能力や切り
.方向転換は,直線的に動いている際に動きを止め,
1)
れている .ラダートレーニングによって,バランス能
返しなどの敏捷性能力に効果を与えることが示唆され
力や姿勢が改善され,より素早く方向転換を行えるよう
た.トレーニング実施2ヶ月目からの中級トレーニング
になり,方向転換走,一往復走やT字走の記録が向上し
ではアジリティトレーニングの要素を多く取り入れた結
たと考えられる.一往復走についてみてみると,原田ら
果,T字走,ドリブル走では,トレーニング実施2ヶ月
4)
(2007)
はラダートレーニングを行っても50m走の記録
後以降に記録の改善が認められた.このことから,バス
に変化がみられなかったと報告し,直線的な動作を行う
ケットボール競技の動きをもとにした敏捷性能力を向上
運動能力に対してラダートレーニングはほとんど影響を
させるためには,ラダートレーニングを2ヶ月実施する
及ぼさないものとしている.今回の研究では,クイック
必要があることが示唆された.また,本研究の対象者は
ネスの要素を重視するラダートレーニングを多く取り入
競技歴の長い者が多いにもかかわらず,敏捷性能力に改
れた.クイックネスのトレーニングは,静止状態から無
善がみられたことから,競技歴に関係なくラダートレー
駄なく,スムーズに加速できるようにすること狙いとし
ニングの効果は得られるのではないかと考える.今回は
ている.一往復走は50m走と違い1回の方向転換が行わ
週3回,12週間のトレーニングで効果が得られたが,ト
れるためスタート時と方向転換直後の2つの局面で加速
レーニング期間をさらに延ばして行う場合では記録の向
が必要となる.ラダートレーニングによって直線的な動
上はみられるのか,また今回の研究よりも短期間で効果
作を行う運動能力ではなく,切り返しの能力とともに加
を得る方法についても検討を進めていく必要がある.
速力といわれる動き出しの2,3歩のクイックネスに改
善がみられ一往復走の記録が向上したのではないかと考
142
大学生バスケットボール選手の敏捷性能力に及ぼすラダートレーニングの効果−有効性とトレーニング期間に関する検討−
男子バスケットボール部員の皆様に感謝いたします.
Ⅴ.まとめ
参考文献
本研究では,大学生男子バスケットボール選手に対し
て,ラダートレーニングを週3回12週間(計36回)行う
ことによって,敏捷性能力に及ぼす影響と効果の現れ始
めるトレーニング期間について検討した.その結果,ト
レーニング群では,方向転換走,一往復走,T字走,ド
リブル走,ラダーテスト3種目中2種目において記録の
1 池田哲雄(2007)スポーツ・パフォーマンスが劇
的に向上するSAQトレーニング.日本SAQ協会編.
ベースボールマガジン社:東京
2 鈴木荘夫(1999)スポーツスピード養成SAQトレー
ニング.日本SAQ協会編.大修館書店:東京
改善が認められ,バスケットボールの競技力向上に有効
3 小粥智浩,山本利春,松村佳隆(2002)バスケット
であること,また,方向転換走と一往復走はトレーニン
ボール選手の敏捷性能力に対するラダートレーニン
グ実施1ヵ月後以降に,T字走とドリブル走はトレーニ
ング実施2ヶ月後以降に記録の改善が認められたことか
グの効果.体力科学.第6巻:pp.705.
4 原田剛,鳥賀陽信夫,金高宏文,山本正嘉(2007)
ら,ラダートレーニングの効果を得るためには2ヶ月間
女子中学生バスケットボール選手を対象としたラ
必要であることが示唆された.
ダートレーニングの効果.スポーツトレーニング科
学.第8巻:pp.5-12.
謝辞
本研究を進めるにあたり協力していただいた島根大学
Fly UP