Comments
Description
Transcript
詳細 - 日本心理学会
日心第71回大会 (2007) 認知症高齢者の指先容積脈波の検討 ― 絵の具を用いた描画の前後における血流のカオスアトラクターの変化について 鈴木貴子 ・ (早稲田大学総合健康教育センター ・ 鈴木 ― 平 桜美林大学リベラルアーツ学群) key words:認知症高齢者・描画・指先容積脈波 (目的) 認知症高齢者に対するアクティビティの充実が求められ るようになり、各施設でのさまざまな取り組みが報告されて いる。しかしながら、その取り組みはあまりに多様であると 同時に、通常福祉分野の職員に、準備、実施が任されている と言える。また、それぞれのアクティビティについての基礎 研究は、日本ではほとんど行われていないのが現状である。 本研究では、アクティビティといった形態を実施する以前 に、認知症高齢者が「色を選び描く」という行為前後の変化 について生理データを用いて検討した。鈴木他(2006)では、 縦横の描画範囲において、重度のアルツハイマー型認知症患 者群(以下 AD 群)と脳血管型認知症患者群(以下 VD 群)の 2 群で検討を行い、その結果 VD 群の方が有意に長く描いてい ることが明らかとなった。本研究では同じ研究対象者の描画 と、生理データとして指先容積脈波を用いて検討することで、 重度認知症高齢者の実態の一助となるのではないかと思わ れる。 なお、容積脈波のカオスアトラクタは、精神状態をよく反 映することが知られており、認知症や心理的ストレス、精神 疾患などの症状に対応してダイナミカルな構造が低下する ことが明らかとなっている(田原、印刷中)。 (方法) <研究対象> 高齢者を対象とした精神科の入院者・デイケア利用者であ り、病院長の許可を得た患者でかつ本研究の趣旨に同意した 認知症患者を対象とし、AD 群、VD 群の2群にて実験を行っ た。 AD 群は、男性は 1 名、女性 11 名、計 12 名(平均年齢 80.00 歳,SD=8.53)であり、平均発症期間は 38.00 ヶ月(SD=19.70) 、 HDS-R の平均得点は 6.18 点(SD=5.15)であった。一方 VD 群は、男性 6 名、女性 4 名、計 10 名(平均年齢 79.83 歳,SD=6.93) であり、平均発症期間は 31.90 ヶ月(SD=24.90)、HDS-R の 平均得点は 8.67 点(SD=4.66)であった。日常生活自立度 (Table1)ならびに寝たきり度(Table2)は、次の通りであった。 Table1 対象者の日常生活自立度 A1 A2 J1 J2 AD VD 10 5 1 4 0 0 時間は 1 分半から 2 分であった(pre test)。 次に、ボードにはさんだ A4 のケント紙 1 枚を渡し、箱の 中に並んでいる 14 色の絵の具の中から、好きな色を選びた いだけ選んでもらい、診察室の机の上に置いてもらった。そ の中で一番好きな色を、チューブのままケント紙の上に絵の 具を出して自由に線を引いてもらった。同様に、選択した他 の色についても同様に自由に描いてもらった。描画終了後、 ケント紙を二つ折りにし、広げてもらった。その状態のまま、 再度両手人差し指に指先容積脈波測定用のクリップはさみ、 測定を行った(post test)。最後に、絵の具で描いた感想、 ケント紙を広げてみられた絵について内省を求め、実験を終 了した。 <条件> デイケア利用者が普段使用している診察室にて、実験者と 1 対 1 で行った。落ち着かない対象者については、対象者の 顔なじみの看護師に同席してもらった。 (結果) 描画の前後で指先容積脈波の測定が可能であったのは研 究対象者のうち、AD 群 6 名、VD 群 4 名であった。それぞれ について分析を行った。ここでは例としてそのうち AD 群 1 人の指先容積脈波のカオスアトラクタの結果を提示した (Figure1~Figure4)。ここでは、基底変動成分調整前の pre (人) 1 1 Table2 対象者の寝たきり度 IIa IIb IIIa IIIb IV (人) M AD 0 1 0 0 9 2 VD 0 0 3 0 6 1 <材料> 指先容積脈波測定器ならびに測定用クリップと、A4 ケント 紙、そのケント紙をはさむ A4 のプラスチックボード、14 色 のチューブ入りの絵の具を用意した。絵の具については、認 知症高齢者でも押し出すことが可能な柔らかなプラスチッ ク製のチューブ入り絵の具を用いた。 <課題> まず、本研究の趣旨を説明し承諾を得た後、指先容積脈波 測定用のクリップを両手人差し指にはさみ、測定開始の合図 を伝えた。研究対象者が了承した後に測定を開始した。測定 test、post test の結果を Figure1、Figure2 に示し、基底変 動成分調整後の pre test、post test の結果を Figure3、 Figure4 に示した。本研究の結果、pre より post の方が血流 のダイナミカルな構造が顕著となったことがうかがえる。 (考察) 本研究では、描画の前後で血流のダイナミカルな構造に違 いが見られた。しかしながら対象者が少なかったことや、実 際にその構造の変化が個人へどのような影響をもたらすか といったことは、今後の検討課題といえるだろう。 ここでは紙面の都合上、事例として 1 名の対象者のみ紹介 した。ポスター発表の際は、指先容積脈波のデータが得られ た各対象者のデータと描画についても発表する予定である。 (SUZUKI Takako, SUZUKI Taira)