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横浜市環境科学研究所報 第 28 号 横浜市内の事業所排水及び河川水中のアンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、 硝酸性窒素の調査結果 初貝 下村 飯塚 江口 留美 光一郎 貞男 憲治 (環境科学研究所) (環境科学研究所) (環境科学研究所) (環境保全局水質地盤課) Survey of Ammonia Nitrogen, Nitrite Nitrogen and Nitrate Nitrogen in industrial effluent and rivers in Yokohama Rumi Hatsugai, Kouichirou Shimomura, Sadao Iizuka (Yokohama Environmental Science Reserch Institute) Noriharu Eguchi (Yokohama Environmental Protection Bureau Water Pollution & Ground Subsidence Division) 要旨 水質汚濁防止法でアンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物、硝酸化合物(以後「アンモニア等」と略)が有害 物質に追加され、それぞれアンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素(以後「硝酸性窒素等」と略)として排水基準 が設定された。硝酸性窒素等の横浜市内の水質汚染の実態を把握するため、汚染源と河川水の調査を行った。主な汚染源 と考えられたのは、①事業所排水 ②生活排水の2つであった。市内でアンモニア等を使用している事業所は、メッキ業、 鉄鋼業、化学工業、硝子製造業、塗装業など種類が多く、アンモニア、硝酸、硝酸アンモニウム、亜硝酸ナトリウムなど の化合物が主に使用されていた。これらの事業所の多くの排水処理施設は凝集処理が主で、排水中の窒素分の除去を考慮 した施設ではないが、放流水中の硝酸性窒素等の濃度は、いずれも排水基準を満たしていた。一方、硝酸性窒素等の環境 への負荷の最も大きい生活排水は、その 99%以上が下水処理場で処理されており、各下水処理場では窒素分を除去する 高度処理施設の設置も始まっていて、放流水中の硝酸性窒素等の濃度は排水基準を満たしていた。また市内の 27 の河川 水中の硝酸性窒素等の濃度を測定したが、いずれの調査地点も環境基準を満たしていた。 1 はじめに 平成 12 年に硝酸・亜硝酸性窒素が水質の環境基準に設 定された。これを受けて平成 13 年に水質汚濁防止法が改 正され、アンモニア等が排水基準の有害物質として追加 された。横浜市では水質汚濁防止法に基づき、市内の事 業所でのアンモニア等の使用実態調査と排水中の濃度の 測定を行っており、また同法の測定計画に従って市内の 主要河川の 21 地点で硝酸性窒素等の化学物質の調査を定 期的に行っている 1)2)。筆者らは横浜市内の硝酸性窒素等 の水質汚染の実態を調査した。硝酸性窒素等の公共水域 の汚染源としては事業所排水、生活排水、農地への施肥 が挙げられるが、今回は直接河川に影響していると考え られる事業所排水と生活排水に着目し調査した。同時に 27 の河川水の硝酸性窒素等を測定したので、その結果を 報告する。 2 調査方法 2-1 事業所排水 平成 14 年 5 月から平成 15 年 11 月 の期間に、水質汚 濁防止法に基づき横浜市環境保全局が立入調査した事業 所の中から 40( 11 の下水処理場を含む)を選び、延べ 100 の放流水中の硝酸性窒素等の測定を行った。 2-2 河川水 横浜市は測定計画の補足調査として、年4回独自に市 内の 27 の中小河川調査を行っており、平成 14 年 11 月、 平成 15 年 2 月、 5 月に行った 27 調査地点、延べ 81 の河 川水の硝酸性窒素等を測定した。 2-3 測定方法 ① アンモニア性窒素: JIS K0102 42.5 ② 亜硝酸性窒素:JIS K0102 43.1.2 ③ 硝酸性窒素: JIS K0102 43.2.5 3 調査結果 横浜市内の硝酸性窒素等の公共用水域の主な汚染源は 次の 2 つと考えられた。 ① 事業所等からの排水 ② 一般家庭からの生活排水 3-1 事業所排水 調査結果を表ー1に示した。横浜市内でアンモニア等 の化合物は 、メッキ業 、鉄鋼業 、化学工業 、硝子製造業 、 塗装業など多くの種類の事業所で使用していた。最も事 業所の数が多かったメッキ業では、アンモニア、硝酸、 硝酸アンモニウムが素材の酸洗い、金属の剥離等の工程 で使用されていた。塗装業では、前処理工程で亜硝酸ナ トリウム 、硝酸ニッケル、硝酸亜鉛等が使用されており 、 火力発電所、硝子製造業ではアンモニアが排煙脱硝工程 で、また化学工業では硝酸ナトリウム、硝酸カリウムな どの硝酸化合物を熱媒体として密閉型で使用し、アンモ - 72 - ニアを乳化剤として使用していた。一方、水族館は魚等 の餌や糞に、食品製造業では原料に含有しており、また 飲食業では屎尿排水等に含まれていた。排水基準は 100mg/l で 表ー1に示した方法で計算されるが、最も濃 度が高かったのは、飲食業(大型浄化槽)の 76mg/l で次 い で 鉄 鋼 業 の 73mg/l、 メ ッ キ 業 の 23mg/l、 塗 装 業 の 22mg/l、食品製造業の 19mg/l、電器部品製造業の 15mg/l で 、他の業種の最高濃度は排水基準の 1/10 以下であった。 各事業所の排水処理施設は、食品製造業で生物処理を採 用しているが、ほとんどの事業所は凝集処理であり、窒 素分の除去は考慮されていなかった。 3-2 生活排水 硝酸性窒素等の公共用水域への汚染源として最も負荷 量の大きいのは生活排水である。一人当たり1日に窒素 を 10 g排出するといわれており、 350 万人の人口を抱え る横浜市では、その排出量は莫大な量となる。横浜市の 生活排水は、その 99%以上が下水処理場で処理され公共 用水域に放流さている。表ー 2 に市内 11 箇所の下水処理 場の放流水中の硝酸性窒素等の濃度の平均値をに示した 。 下水処理場も事業所と同様に排水基準が適用されるが、 いずれも排水基準を満たしていた。各下水処理場では標 準活性汚泥法の他に窒素、リンの処理を目的とした高度 処理施設の設置を進めており 3)、9 つの下水処理場の放流 水は環境基準を下回っていた。 3-3 河川水 表ー3に 3 回の調査の平均濃度を示した。環境基準は 、 亜硝酸窒素と硝酸性窒素の合計が 10mg/l と規定されてい る。いずれの調査地点も環境基準を満たしていが、比較 的濃度が高かったのは砂田川、矢指川や横浜市の西部の 大門川、相沢川、和泉川、宇田川などで、最も高かった のは大門川の 7.5mg/l であった。 4 まとめ 横浜市内の硝酸性窒素等の水質汚染の実態を把握する ため、市内の事業所と河川水の調査を行い次のことがわ かった。 ① 事業所排水は排水基準を満たしていたが、大半の排水 処理施設は凝集処理が主で、硝酸性窒素等の除去が考 慮されていなかった。 ② 生活排水は、 99%以上が下水処理場で処理され放流さ れており、放流水は排水基準を満たしていた。各下水 処理場では高度処理設備の設置が始まっていた。 ③ 調査した 27 の中小河川の調査地点では、環境基準を 下回った。 5 参考文献 1) 横浜市環境保全局:横浜市公共水域及び地下水の水 質測定報告書 平成 13 年度 2) 横浜市環境保全局:横浜市水環境計画年次報告書 平成 15 年度 3) 横浜市下水道局:水質試験年報 平成 14 年度 表ー1 事業所の放流水中の硝酸性窒素等の濃度 ( mg/l ) メッキ業 鉄鋼業 化学工業 塗装業 飲食業 食品製造業 旅館 水族館 魚飼育 火力発電所 電機部品製造業 廃棄物処理業 硝子製造業 研究所 自動車製造業 事業所数 検体数 アンモニア性 窒素 亜硝酸性 窒素 硝酸性 窒素 アンモニア性窒素X0.4 +亜硝酸性窒素+硝酸性窒素(1) 8 2 11 9 0.0~40 0.0~170 0.1~4.3 0.1~1.1 1.2~20 0.3~10 1.3~23 2.7~73 2 2 2 6 2 9 0.8~2.3 0.1~13 0.1~34 0.0~0.1 0.0~0.5 0.0~0.1 0.1~2.1 0.1~16 0.1~75 0.3~2.5 0.0~22 2.0~76 2 2 3 2 0.0~0.1 0.0~0.2 0.0~0.5 0.0~0.3 0.1~19 1.8~5.1 0.2~19 2.1~5.2 3 1 1 5 2 2 0.0~1.2 0.0~0.1 0.0~0.0 0.0~0.0 0.0~0.0 0.0~0.2 1.7~2.2 0.6~1.8 6.7~15 2.1~2.2 0.6~1.9 6.7~15 1 1 1 1 0.0 0.6 0.0 0.1 1.3 1.6 1.3 1.9 1 1 1 5 0.5 0.9~8.2 0.0 0.0~0.0 1.8 0.0~0.8 2.0 0.4~3.5 (1) 排水基準 : アンモニア窒素濃度X0.4+亜硝酸性窒素濃度+硝酸性窒素濃度=100mg/l と規定されている。 - 73 - 表ー2 下水処理場の放流水中の硝酸性窒素等の平均濃度(1) ( mg/l ) 下水処理場 調査回数 検体数 アンモニア性 亜硝酸性 硝酸性 窒素 窒素 窒素 アンモニア性窒素X0.4 (2) +亜硝酸性窒素+硝酸性窒素 A 2 4 0.10 0.03 8.9 9.0 B 2 2 2.4 0.08 14 15 C 3 8 0.24 0.05 7.4 7.5 D 2 4 0.16 0.04 9.0 9.1 E 2 4 0.31 0.28 8.5 8.9 F 3 3 0.09 0.00 11 11 G 3 6 0.07 0.00 5.4 5.4 H 3 6 0.73 0.16 5.5 6.0 I 1 1 0.10 0.02 10 10 J 1 2 0.05 0.00 7.8 7.8 K 1 1 0.32 0.19 4.4 4.7 (1) 平成14年5月 から15年11月に水質汚濁防止法に基づいて立入調査し、測定した平均値 (2) 排水基準 : アンモニア性窒素濃度X0.4+亜硝酸性窒素濃度+硝酸性窒素濃度=100mg/l と規定されている。 - 74 - 表ー3 横浜市内の中小河川水中の硝酸性窒素等の平均濃度(1) 調査地点 アンモニア性 窒素 亜硝酸性 窒素 硝酸性 窒素 1 砂田川 0.05 0.14 4.7 ( mg/l ) 亜硝酸性+硝酸性 (2) 窒素 4.8 2 黒須田川 0.10 0.03 1.5 1.5 3 布川 1.2 0.08 1.3 1.4 4 寺家川 0.06 0.01 0.4 0.4 5 鴨志田川 0.28 0.06 1.4 1.5 6 奈良川 0.10 0.02 1.3 1.3 7 大場川 0.04 0.01 1.6 1.6 8 鴨居川 0.16 0.11 3.5 3.6 9 岩川 0.06 0.03 2.3 2.4 10 梅田川 0.14 0.03 2.4 2.4 11 白鳥川 0.46 0.09 1.6 1.7 12 帷子川 0.28 0.05 2.5 2.6 13 矢指川 0.57 0.25 4.8 5.1 14 今井川 0.27 0.08 1.8 1.9 15 中堀川 0.09 0.06 2.5 2.6 16 二俣川 0.17 0.13 3.1 3.2 17 新井川 0.33 0.17 4.2 4.4 18 くぬぎ台川 0.13 0.07 3.5 3.6 19 菅田川 0.05 0.14 4.2 4.3 20 日野川 0.08 0.04 2.0 2.0 21 大門川 0.17 0.10 7.4 7.5 22 相沢川 0.10 0.08 5.6 5.7 23 和泉川 0.18 0.06 4.7 4.8 24 宇田川 0.24 0.06 4.5 4.6 25 阿久和川 0.38 0.10 2.6 2.7 26 平戸永谷川 0.16 0.06 2.7 2.8 27 舞岡川 0.05 0.02 1.9 1.9 (1) 3回の調査の平均値 (2) 環境基準 : 亜硝酸性窒素濃度+硝酸性窒素濃度= 10mg/l と規定されている。 - 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