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4- 活動銀河核ジェッ ト

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4- 活動銀河核ジェッ ト
 小特集
● 宇宙ジェットの物理
4.活動銀河核ジェット
亀野誠二,廣谷幸一
(国立天文台VSOP室)
Astrophysical Jets Associated with Active Galactic Nuclei
KAMENO Seiji and HIROTAM Kouichi
〈磁オ∫onα1As170no〃zごcα10わ56ryα1oリン,〃琵αんα181田8588,/αPαn
(Receive(l l7April2000)
Abstract
Active galactic nuclei(AGNs)are astronomical oblects at the center of external galaxies.They emit most
powerfulradiationpower(∼1035−1041W)intheuniverse.SomeAGNsshowjetsemanatingfromtheircen−
ters with relativistic spee(1s.The AGN jets provide us opportunities to investigate properties of relativistic
plasma,such as its formation,acceleration,collimation mechanisms,and composition.Recent ra(1io observa−
tions with high spatial resolutions have revealed the detaile(i structures ofAGNjets.Here we introduce the
nature ofAGNjets,basedon observational results.
Keywords:
active galactic nuclei,relativistic jets,ra(iio interferometry
4.璽 はじめに
度がケプラー回転で説明でき,3.6×107MO(1MO(太陽
活動銀河核(Active Galactic Nuclei:以下AGNと略
質量)ニ2×1030kg)の質量が内包されていてることか
す)は系外銀河の中心に見つかる天体で,単一の天体と
らブラックホールが存在するものと考えられている
しては宇宙で最も大規模な放射パワー(∼1035−1041
[1].またM87銀河では水素再結合線放射の位置と速度
W)を示すエンジンだ.このエンジンはエネルギー変換
効率(静止質量を放射エネルギーに変換する割合)が数
がやはりケプラー回転を示すことから,半径18pc内に
%程度と高く,ブラックホールに物質が降着するときの
[2,3],ブラックホール存在の証拠と考えられている.
重力エネルギーがその源であると理論的には予想されて
AGINは明るいものでは母銀河の1,000倍もの放射パ
2.4±0.7×IO9MOの質量が集中していることがわかり
いる.太陽のエネルギー源として発見された核融合を人
ワーを持つ一方で,そのエネルギー生成領域のサイズは
類のエネルギー源にする試みが行われているように,
小さい.AGNの中には数時間から数日の時問スケール
AGNのエネルギー発生機構は将来のエネルギー源とな
で明るさが変動するものがあり,したがってエンジンの
る可能性を持つ.
空間的な広がりは数光時間から数光日より小さいはずで
AGNにブラックホールの存在を示唆する観測事実が
ある.このことも,AGNのエネルギー源がブラックホー
いくつか見つかっている.例えばNGC4258銀河では中心
ルであることの証拠となるだろう.
から半径α13−0.26pc(1pc(パーセク)ニ3。1×1016m)の
AGNというエンジンからの「排気ガス」として,ジェ
範囲から水蒸気メーザー放射が出ていて,その位置と速
ットが観測されることがある.ジェットは中心核から2
側∫ho〆s6一耀α必たα1n8no@ho∫θんα。雁丸nαo.ααノρ
648
小特集
亀野,廣谷
4.活動銀河核ジェット
3C380
本が反対方向に吹き出していて,大きいものでは母銀河
も
の100倍程度の数Mpc(IMpcニ106pc)もの長さに到達
困鳩i無
するものもある.ジェットが1本しか観測されないAGN
もあるが,先端部に形成される電波ローブ(吹きだまり)
>
一⊃ b
が両極にあることから,実際にはやはり2本が吹き出し
一 『一
ていて,相対論的な効果によって片側しか検出できない
>
.七
のだと説明されている.ジェットの流れは見かけ上光速
の
⊆
を超えるものが観測されていて,超光速現象と呼ばれて
Core
(Year1990.8)
Φ 騨
れが光速に十分近い相対論的な速度を持っている証拠で
o
ある.このような相対論的な流れにまでプラズマを加速
⊇7
いる.実際の速度はもちろん光速より小さいものの,流
\麹
v脇.
×
Core
(Year1992.3)
u_ 9
する仕組みを解明することは興味深い.
AGNの多くは宇宙論的な遠方にあるため1ジェットの
細かい構造を調べるにはミリ秒角(mas(milli arc sec
れ
ヒ
門02
二生85×10−9radian))を切る高い分解能が要求される.
105 104 105
105
Frequency[MHzl
最近のVLBA(Very Long Baseline Array)1)やVSOP
(VLBISpace Observatory Programme)2)といった電波
干渉計の登場によって,ジェットの内部構造が詳細にわ
Fig.1 Radio spectra of the quasar3C380161。The total flux den−
sity shows a power−law spectrum,which is dominated by
かってきた.本稿ではそれらの結果をもとにAGNジェッ
synchrotronradiationemittedfromthelets.Thecorecom−
トの特徴について説明する.
ponenthasaspectrumwith apeakatGHzfrequencies.
its spectral cut off at Iow frequencies can be due to a syn−
chrotron self−absorption by optically thick pIasma
4.2AGNジェットからの電磁波放射
初めてAGNジェットが観測されたのは可視光の波長
離して測定したスペクトルは69GHzにピークを持って
域で,乙女座銀河団の中心にある巨大楕円銀河M87の乾
いて,低周波側でシンクロトロン自己吸収によるカット
板写真に「中心核に連結する奇妙な光線」が発見された
オフを受けていることがわかる.このように光学的に厚
[4].このジェットは高い偏光率を示すことから,シンク
くなる周波数レmは,領域の角サイズθd[rad]とフラック
ロトロン放射であると考えられた[5].その後1960年代
ス密度S、n(JyllJy(Jansky)ニ10一26WHz−1m−2)および
に電波天文学の技術が発展すると,M87が二つ目玉の強
磁場強度β(Gauss)で
い電波源であることがわかり,ジェットが中心核から二
㎞一・マ×1・3(舞)ぢ(岳)百(1島,)芳[Hzl
つ目玉の片方へと伸びる構造が明らかになった.電波放
射も高い偏波率を示し,またべき乗則で表される右下が
一2.0×10−13暗B
りのスペクトルを示すことから,やはりシンクロトロン
(1)
放射であることが示された.
Fig.1にクェーサー3c380の電波での連続スペクトル
と与えられる[7]。輝度温度は乃二62S/2んレ2θ1で与えら
[6]を示す.フラックス密度S,は,周波数レのべき関数
れる量で,観測された光子のエネルギー密度を黒体放射
S,㏄レ“で表され,スペクトル指数α=一〇.7と右下がりに
で実現するのに必要な温度である.ここで6は光速,5
なっている.これは,エネルギー分布がN(E)㏄E2・+1
はフラックス密度,たはボルツマン定数である.シンク
とべき乗則の多電子系からの光学的に薄いシンクロトロ
ロトロン放射のような非熱的放射では,実際の電子温度
ン放射で説明できる.一方,中心核成分(といってもエ
に比べて高い輝度温度が観測される.ところが輝度温度
ンジンというよりはジェットの根元)だけを空間的に分
が非常に高くなると逆コンプトン散乱効果によって,電
1)VeryLongBaselineArray=米国国立電波天文台が運用している超長基線電波干渉計で,口径25mの電波望遠鏡10台を,9,000
kmの範囲に配置して開口合成観測を行っている.
2)VLBISpaceObservatoryProgramme:日本の宇宙科学研究所が1997年に打ち上げた電波天文衛星「はるか」を使った宇宙空
問電波干渉計.最大で30,000kmの基線長を持つ開口合成観測を行っている.
649
プラズマ・核融合学会誌 第76巻第7号 2000年7月
16h4GmcoS i6h52醗oos I6h24mOGS
欝凱轟誹
2.O
1.5
Core
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匡
○
O −1
一2
一3
MliliARC SEC
Fig.3 Polarized radio image of a BL Lac object1803+784[141.
o o
グ・4ρpc協。O
ρ
・1 0
駿
6
一一 〇
1
Distribution oftheε一vector(tick〉is registeredwiththeto−
tal intensi重y map(contour)。The ellipse at the bottom−left
corner shows the synthesized beam.The let emanates
fromthecoretothewest(rightinthefigure)withsmallwig−
o
gles、The E−vector,which is perpendiculartothe magnetic
観
。 ρ% O l
field,isalmostparaUeltotheleteverywhere.Itimpliesthat
o ,一ゲ 〆
㌧♂ラ8
りρ」」o oo
themagneticfield hasaheiical structurewith asmaII pitch
甲」 『川【F 、
⑲ cコ ぜ
angIe.
1050−5−10
RlghヒAscenslon(m・S)
Mop⊂enter】 RA3 15凝 52.010、 D巳cコ +8252 16〆匹05 (2000・O)
まっすぐな構造が保たれているのだ.VSOPによる観測
MoρPσokO.156み/boqm
Co醍ours箔=一f.{1 1、11 2覧25445a,91 17、855.6
COhlours %し 71、5
結果を解析すると,中心から4pcに渡って開口角は10と
Boom冊H叱O.5xO,5(mσs)dO。
Sudou H.etaI.2000,in湾3昂opんy5’cα’p’1θ’!o∼πεπαRθソθα’84わ)ア
S即08γ乙β1,ISAS,Sagamihara
いう細さである.
Fig.2 Radio images ofthe radio galaxy NGC6251。(Top):An
このようにジェットを絞り込む機構については,MHD
imagewiththeconnected radio interferometerarrayVLA
モデル[1王,12]や円盤コロナモデル[13]などが提案され
[9].Double−sided jets emanating from the core(cross)
extend fod.6Mpc around.(Bottom)l An enlarged image
ているが,これらのモデルを検証するだけの観測結果は
ofthe centerwith VSOP[101.The filled circle shows the
restoring beam(spatial resolution),whosefull width athalf
まだ得られていない.MHDモデルを支持する結果の一
maximum(FWHM)is O.5mas.The jet keeps its straight
structure in morethan60rders of magnitude.
つとして,ジェットの根元における磁力線の構造を紹介
波の光子がX線や7線にまでたたき上げられ,電子は冷
ベクトルを重ねて描いたものである.等高線の東端(左
却される.このため輝度温度には発<1012Kという上限
端)に中心核があり,そこから西側(右側)に延びる構
がある[8].このことから中心核成分(ジェットの根元)
造がジェットである.ジェットのうねりに追随するよう
の磁場強度はB>0.3Gaussという値が得られ,エネル
に,電場ベクトルがいたるところでジェットの流線に平
ギー密度の高い領域であることが示唆される.
行である様子がわかる.シンクロトロン放射の場合には
する.Fig.3はBLLac型天体1803+784をVSOPで観測
した結果[14]で,電波の輝度(等高線)に,偏波の電場
電場ベクトルは磁場に垂直に観測されるので,この結果
は磁力線がいたるところでジェットの流れに垂直である
4.3AGNジェットについての観測事実
4.3.1 ジェットの長さと細さ
ことを示している.MHDモデルで予測される螺旋状の
Fig.2はlooMpcの距離にある電波銀河NGc6251の電
磁力線構造をジェットの方向に近い視線から観測する
波写真である.電波ローブの広がりは1.6Mpcにまで達
と,磁力線のポロイダル成分が卓越して,ジェットの流
していて,ほぼまっすぐなジェットが伸びている構造が
れに垂直な磁場構造が得られると考えられている.
わかる.その根元をVSOPによって拡大してみると,l pc
4.3.2 相対論的な流れ
のスケールでもほぼまっすぐな構造で,幅はわずか0.1
Fig.4はVSOPによって得られたクェーサー3C380
pc程度である[10].つまり,7桁ものスケールに渡って
(用語解説参照)の波長6cmでの電波像[15]である.中
650
小特集
4.活動銀河核ジェット
5C580at4,816GHz 1998Jul O4
亀野,廣谷
上o
OTO81 5GHz VSOP20/08198
u
OTO81 8GHz VLBA O6!11/98
ω
の
日
u
旨 5
而
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C工
C1
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そ飼
の
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⊆ o
O r−
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oΦ
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, 0
K費otA
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酉
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㊤
の ら の ロら ドエの
5 0 −5 一工O
Relaしive R.A. (milliarCSeC)
Relaしive R.A. (milliarcsec)
10
庄
o
uΦ
OTO81 15GHz VLBA O6111/98
u①
の
の
u
■
Cl
σ 5
Corε
耐
H
働
E
、 O
0 −10 −20
o
Mop cenヒer【 RA; 1829 51.759、 Dec: +4844 46、971 (2000.O)
適
\
u
ω
RlghtAscensl・n(mos)
u
旨
0 5
u
Φ
Φ
>
ρ
ω
0.45
』風・
o
而
餌
り ム ロ
O
>
0 0,05 0伊1 0r15 0,2 0、25 0,5 0.35 0.4 。 P
E…
.H冒5
Beom FWHM:0.75x O.75(mQs)qヒOo
リロ
OTO81零2GHz〉LBAO6/11/98
H
Φ
MoPPeoklo、467Jy/beom
㊨
D
邸
o
Jy/beom
ω
匡
一〇
σレ,
6
5 0 −5 工0 工0 5 0 −5 10
尺elaしive R.A. (milliarcsec) Relative R.A. (milliarcsec}
Fig,4 A radio image ofthe quasar3C380atλ=6cm、
Iguchi S.et aL2000,submitted to PASJ
Fig.6 Radio images of a BL Lac object OT O81at frequencies
3C 380 ComponenしA
Relaしlve posltlonIrom電hecore
5,8,15,and22GHzl161.
Mo亘ion o鎚heco即ponentA
o
こン
認一
三
になる.βが1に近くてθが小さいときにはβ、Pp>1が起
8.554
器
8
田
一ト
焉
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O o
d
2
i …
こりうる.これが超光速現象(用語解説参照)で,すで
【
實o
に100個を超えるAGNジェットで見つかっている.超光
88.41go4.フ
SPEED=O.256土じJεcr−195945
q
D.DOI mc$/γeor O25yeor
速現象は,AGNジェットが相対論的な速度を持つ流れで
彊
o
Q
》
2 3 4 5 6 7
R.A.Ofrset[max]
o
あることを示している.
1985 i990 1995 2000
4.3.3相対論的ビーミング効果
Year
ジェットと視線とのなす角φが小さい場合に光速に近
Fig,5 Motion ofthe knotA in3C380relative to lts core.(Left):
Position ofthe knotAatdifferentepochs.(Right):Angular
い速度でジェットが運動すると,放射が光行差のために
distanceofthe knotAfrom thecore、
前方に絞られ,明るさが増幅を受ける.これを,Doppler
心核から北西(図の右上)方向に伸びるジェット構造が
beamingという.増幅量は式(3)で定義されるドップ
明らかにされていて,約50pcの位置に成分Aと呼ばれ
ラー係数δを使って式(4)のように定式化することがで
るノット(ジェットの瘤)がある.17年間にわたる観測
きる.
から成分Aが動いていく様子を示したのがFlg.5であ
る.成分Aは中心核からほぼ直線的に離れていき,その
δニ
厨
見かけの速度は毎年0.236masの割合である.3C380まで
1一βcosφ
の距離が1.9Gpc(赤方偏移3)z=0.693)であることから,
&一s詳(、耕一sノ(、巽)』
(3)
(4)
この速度はβ・ppニ5と,光速の5倍に相当する.ジェット
が速度β(光速で正規化した値)を持ち,視線方向に対し
上付き*は共動系で見た物理量を示している.スペクト
て角度θで近づいてくるとき,見かけの速度β。ppは
ル指数αが関係するのは,スペクトルがS,㏄レαのべき乗
則であることを前提としていて,ドップラー効果で周波
βsinθ
βaPP=1一βC。Sθ
(2)
数が変化するためである.このように共動系でのフラッ
クス密度S*が,我々にはSとして増幅を受けて観測され
3)天体から放射された電磁波の波長が宇宙膨張によって伸びる割合を表し,2=埜で定義される.λoは静止系での波長で,
λ0
λは観測された波長.標準的な宇宙モデルでは赤方偏移が距離の指標となる.
651
プラズマ・核融合学会誌 第76巻第7号 2000年7月
る.例えばβニ0.9,φ=10。といったパラメータでスペク
’Table1 0bserved and estimated propertles of OTO81.
トル指数αニー0.7の場合,δ=3.83で,144倍もの増幅を
Parameters
受ける.逆に遠ざかる側のジェットは同じだけ減衰して
α
暗くなるため,観測されないことが多い.これが多くの
レm(GHz)
Sm(Jy)
AGNでジェットが片方しか見えないことの原因であろ
βaPP
う.
Component D
一〇.08 ± 0.01
Component Cl
一〇.98± 0.01
15.8±1
2.37±0.3
5.00 ± 0.05
0.90 ± 0.09
<7.6±0.5
11.2±2.3
0.222 ± 0.003
1.396 ± O.059
TB(K)
2.5±0.1×1011
長・観測時期における電波像である[16].中心核は成分
δ
32よ1:9
5.O±0.5×1010
2.5士1:野
Dの中にあると考えられるが分解できていない.成分D
7
16.5土1:1
19.9土易
の放射の大部分は生まれたばかりのノット成分であると
φ
<O。.68
9Q.0±1:1
θ
Fig.6はBLLac型天体のひとつ,OT O81のいろんな波
考えられる.ジェットのノット成分C1は,1997−1999年
にわたる観測によって見かけ上βappニ11.2±2.3で運動し
_β、PP+δ2+1
7−
ていることがわかった.
(6)
2δ
成分DとC1について,観測結果からスペクトル指数
α,スペクトルのピーク周波数レmとピークフラックス密
という関係が得られ,観測で測定しやすいδとβ。ppを使
度Sm,見かけの運動速度β、ppおよび角サイズθが測定で
って(視線角φと独立に)ローレンッ因子を求めること
きる.これをまとめたのがTable1である.特徴的なの
ができる.この結果は成分DとC1のどちらでも20に近
は,サイズの小さい領域から大きなフラックス密度が出
い値が得らた.成分DとC1がほぼ同等のローレンツ因
力されていることである.このため,輝度温度は1010K
子を持っているにもかかわらず,見かけの速度が成分
を超えて逆コンプトン限界に近い大きな値になってい
DではC1に比べて遅いことから,Dの視線角が
る.式(3)で定義されたドップラー係数δを観測結果か
φ<oo.68と小さいことが結論づけられる.このようにジ
ら見積もるには,Readheadが定式化した方法[8]があ
ェットの吹き出し部分は相対論的効果の強く効いている
る.電子のエネルギー密度が磁場のそれと等分配状態に
領域である.
あるという仮定を式(王)に与え,諸補正を加えて精密化
4.3.4流れの不安定性・加速と絞り込み
し,得られる共動系での輝度温度と観測される輝度温度
VSOPで明らかになった事実として,まっすぐに見え
との比からドップラー係数を求める,という原理であ
るジェットの根元を0.1−l pcのスケールで拡大すると
る.
かなりの確率で「うねり」が検出される,ということが
ある.前出のNGC625玉ではVSOP観測によって,ジェッ
δ一「(・岬(・額(1肥
トの開口角1。の細さの中に周期1.7pcでうねっている構
造が検出された.
・聡(1臨)列嵩
Fig.7は距離70Mpcにあるセイファート銀河3c84
をVSOPで観測した結果[18]である.中心核から南側に
(5)
吹き出したジェットは,1pcまでは開口角40。にわたっ
ここでF(α)は数値的に与えられている補正関数[17]で
てうねっている.この領域でノットの見かけの速度は
あり,zは天体の赤方偏移,hはハッブル定数4)を
βapp=0.055−0.21の範囲で,それぞれの成分が中心核を
瑞=100h kms−1Mpc弓とした規格化パラメータであ
背にして放射状に広がっている[19].ところが中心核か
る.この結果得られたドップラ係数δは表にもあるよう
らlpcの位置で急速にジェットは絞り込まれていて,ほ
に成分Dで32と大きく,強い増幅を受けていることがわ
ぼ一点に収束する.1pcを過ぎるとジェットはほぼ一定
かる.また,ローレンッ因子7=毒についても,式
の幅を保ちながら緩やかなうねり構造を示す.この領域
(2)と式(3)を代入すれば
では見かけの速度は超光速で,β、ppニ1.1が得られてい
る.ジェットは中心核から6pc伸びたところで繭状の衝
撃波面を形成し,そこから東西(左右)両側に反流が流
4)宇宙膨張の割合を示すパラメータで添え字0は現在値を示す。2が1に比べて十分小さい場合には距離が02/Hoで与えられ
る(ハッブルの法則).逆数1/砺は宇宙年齢のタイムスケールを与える・
652
4.活動銀河核ジェット
小特集
r
L
亀野,廣谷
も明るい点)の位置を測れば,周波数間のコアの位置ず
れ(core−position o∫fset,Ωc[pc・GHz])を知ることができ
る.従来,Ω、の値は,異なる周波数で観測された電波マ
ップを重ねるために用いられてきた.
\.,
初めてΩ。の物理的意味を掘り下げて議論したのは,
Lobanov(1998)である.彼はシンクロトロン自己吸収の
理論を用いることにより,周辺物質の圧力勾配力によっ
て小さな開口角に閉じ込められているジェットの電子密
度と磁場が銀河核から離れるに従って変化していく様子
R−9htAsoe(3陪on〔mos)
を調べた.その理論的予想を3C309.1,CygA,3C345
“op c齢1●r RA O3094巳垢O D響c ←415Q42τ16〔㎜O)
ド叩P岡L か!b的吊
などのVLBI観測結果と比べることにより,ジェットの
Fig,7 Radlo image of3C84at廿1e center of the Seyfert galaxy
周辺物質の密度・圧力が銀河核からの距離とともに変化
NGC1275【181.
する様子は,幅広い輝線を輻射している領域(broadline
region)で期待される密度・圧力分布とよく合うことを
れ出ている様子がわかる.特に東側の反流は顕著だ.反
示した.
流は中心核に対する速度は小さい(β、pp<0.2)が,本流
次に,Lobanovの研究[21]を精密化することにより,
との間には大きな相対速度を持つ.
広谷ら[22]が定常なジェットの明るさ(Lki、,kinetic lu−
ジェットがl pcの場所で絞り込まれ,そこで急激な加
minosity)をΩ。で表した.AGNの静止系で測ったとき,
速が起こっていることから,この点がノズルの役割をし
Lki。は次で与えられる:
ているのだと考えられる.ではこのような絞り込みを起
偏一c@)島響(1吉2)響
こすしくみは何であろうか.多波長の観測から,3C84の
(7)
周囲l pc程度のところには自由一自由吸収を起こす低温
・高密度のプラズマが存在することがわかっている.
定数C(α)は,プラズマの組成にはほとんど依らない.例
この物理量は3C84についてはまだわかっていないが,
えば,純粋な(電子と陽電子から成る)対プラズマに対
同様な自由一自由吸収を示すセイファート銀河OQ208
しても純粋な(電子と陽子から成る)通常プラズマに対
をVSOPで観測した結果では,温度104<7も<6×107K,
してもCは同程度の値をとる(詳しくは文献[22]を参
密度600<%e<7×105cm−3のプラズマが10pcの領域に
照).一方,δの値については,エネルギー等分配を仮定
存在することがわかっている[20].3C84でも同様な低
して式(5)から求める他に,・シンクロトロン自己コン
温・高密度のプラズマがノズルとなっている可能性があ
プトン散乱で期待されるX線輻射量[23]を観測値と比較
り,自由一自由吸収を起こすプラズマの分布を調べるこ
することにより下限値を求めたり,・M87ジェットのよ
とが今後の課題である.
うに視線とジェットのなす角φがわかっている場合には
l pcを過ぎたジェットの本流と反流は,ほぼ平行にう
δ<CSCφにより上限を求めたりすることにより,値の範
ねった構造を示している.このうねりは,本流と反流と
囲を制限することができる.式(7)から求めた活動銀河
の相対速度が大きく,7ρ02β2》B2を満たすであろうこと
核ジェットの明るさは,次に述べるように,ジェットの
から(ρは質量密度),ケルヴィンーヘルムホルツ不安定
組成を決定する際の重要な条件の一つとして利用するこ
性に起因する構造であろうと考えられる.
ともできる.
4.4 コアの位置ずれからわかるジェットの明
4.5 活動銀河核ジェットの組成
るさ
AGNジェットの形成・伝播を理解するためには,ま
ジェットの吹き出し口では,シンクロトロン自己吸収
ず,その組成を決定することが重要である.しかしなが
により,中心(ブラックホール)に近づくほど電波フラ
ら,それが通常プラズマ(6一,ヵ),対プラズマ(6±》のどちら
ックス密度は高い周波数にピークを持つ.したがっ
からなるのか,という基本的な問題すら,いまだに決着
て,2周波以上のVLBI観測により(光学的厚みが薄
していない。
い)遠方の成分で位置を同定した上でそれぞれのコア(最
この間題を解決する最初の試みは,Wardleら[24]によ
653
プラズマ・核融合学会誌 第76巻第7号 2000年7月
レmとそこでのフラックス密度S、、、[Jy]により(粒子密度に
関係なく)次の関係式によって求まる:
β㏄S、E2塩θ1δ/(1+2)。但し,gは赤方偏移である.彼ら
は5GHzのVLBI観測結果[26]を用いて,β<0。2Gを導
いている.
・直線B 電波輻射領域がシンクロトロン自己吸収に対
して光学的に厚くなるための条件として,彼らはジェッ
ト共動系での電子密度峠[cm−3]に対して次の制限を導
いた:
魂B2>27認,,・
(8)
この結果を磁場の強さ(直線A)と合わせて,ノ〉ざの下限
Fig.8 Physicalconditionsofmagneticfields(10gβ[G】)and the
electron densities(log IV訂cm一31)in a radiation field,re−
値ハな,、,i、,二507温,を導いている・
stricted by the theory of synchrotron self−absorption.The
・直線D1,D2 Kineticluminosity(ゐ1、i,、)がわかれば,
crossingPointofthelinesAandBgives∼まmin,asstated
intext、
峠(㏄CLl、i,、θ診を独立に求めることができる.定数C
はジェットの組成を反映しており,純粋な対プラズマ(又
は通常プラズマ)に対してはC=1(または0.Ol程度)
ってなされた.彼らはクェーサー3C279をVLBAを用い
て15,22GHzでの偏光観測を行い,CWというコアに近
となり,直線D1(またはD2)を与える.直線D2が
いジェット成分が対プラズマから成ることを証明した.
還曲よりも小さな魂を与えれば,通常プラズマが卓越
その論理は次のとおりである:
する可能性を棄却できる.
(1)CW成分からの輻射は1%の円偏光を示す.これを
Reynoldsらはジェットがゐki,,の数十%を輻射に散逸し
シンクロト白ン輻射によるintrinsicなものと考えること
ていると考える成分Aの明るさ等から,定常性を仮定し
は不可能なので,非一様媒質中を伝播する直線偏光の一
た上でM87のジェットに対してはゐki、、∼1043ergss−1を
部が円偏光にFaradayconvertされたと考える.この過程
見積もっている.ゐki.は電子密度に比例する形で求まる
は最もエネルギーの低い電子によっておこり,CW成分
ので,対(または通常)プラズマに対しては
に対しては71ni,,<20の制限を与える.ただし,シンクロ
くな=柑ki。∼1・3×102cm−3(または1・3cm−3)を得てい
る.この条件を1畷、.i.と突き合わせ,通常プラズマが卓越
トロン輻射をしている多電子系のエネルギー分布をべき
乗則で近似し,その下限のエネルギーを7、,、i、、吻,62と置い
する可能性を排除している.
ている.
しかしながら,Reynoldsらの論文では,直線Bの制限
(2)CW成分は10%の強い直線偏光も示す.これは内部
として与えられている式(8)は,M87の1972年9月と
のファラデー回転に厳しい上限を課す.すなわち,もし
1973年3月の5GHzでの観測で得られたパラメータのみ
通常プラズマを主成分とする場合には電子と陽子の質量
を用いて導出されている.そのために,M87以外の天体
がほぼ等しいことを意味し,7、ni。>100でなければならな
にはもちろん,M87に対してすらこれ以外の観測には適
い.もし対プラズマを主成分とする場合には,ファラ
用できなかった.
デー回転は起こらないので葡。に対する制限を与えな
そこで広谷らは,一般の天体に同じ議論が適用できる
い。
ように,彼らの手法を一般化して直線8を与える一般式
(3)以上(1×2〉の制限から,「CW成分は7mi、《100を満た
として
す対プラズマから成る」という結論を得る.
溜乱(1お≠s鴫φ(1炉)蛎講
次の試みは,Reynoldsら[25]によってなされた.彼ら
(9)
はシンクロトロン自己吸収の理論を電波銀河M87のジ
ェットに応用し,以下の手順で電波輻射領域の物質組成
を導いた([27]).ただし,Z)Lは天体までの距離である.
を考察した:(Fig。8)
・直線A 磁場と粒子密度が一様な輻射領域に対して
ここで,一般式(9〉を用いて組成を判定する条件は,実
は,磁場の強さは自己吸収による折れ曲がりの振動数
は(観測的に決定することが難しい)7mi。に依存しない.
654
小特集
4.活動銀河核ジェット
亀野,廣谷
この点は注目に値する.その理由は,
参考文献
。式(9)により直線Aとの交点として求まるノ〉* は
e,min
[1]M.Miyoshiαα乙,Nature373,127(1995).
・一方,対プラズマを仮定したときの趣,1、i,、、(直線D1)
[3]RJ.Harmsααム,Astrophys.J。Lett.435,L35(1994).
[2]H.C.Fordαα乙,Astrop薮s.J.Lett.435,L27(1994).
7盗、,に比例する.
[4]H.D。Curtis,Pub1,Lick Obs。13,9(1918).
は7晶,に比例する.
[5]W.Baade,Astrophys.J.123,550(1956).
・両者の比くな1、i、,/柑、,、i、、が1から100の間にあるときに通
[6]S.Kamenoαα乙,Publ.Astron.Soc.Japan47,711(1995),
常プラズマが卓越する可能性を棄却できるので, (コ
[7]A.G.Pacholczyk,Rα4∫o As∫ro1フhys’os(W.H.Freeman
ア付近のジェットに対して典型的な)α∼一〇。5のとき
an(i Company,San Francisco,1970).
には7,,,i、,の依存性が消える.
[8]A.C.S.Readhead,Astrophys.J.426,51(!994).
ということによる.
[9]R,A,Perley6砂乙,Astrophys.J.Supp1.54,291(1984).
[10]H.Sudouαα乙,As’roρhysicαZ Ph6non昭nα1∼召v6α184わy
次に彼らは,その手法をクェーサー3C279のジェット
助α66VLB1(ISAS,Sagamihara,2000).
に応用した.7線観測からLl、i、,の値を見積もることによ
[11]S.Koideαα乙,Astrophys.J.Lett.495,L63(1998).
り,文献から電波スペクトルを知ることができる3つの
[12]S.Koideαα乙,Astrophys.」,522,727(1999)。
ジェット成分については,そのすべてが対プラズマから
[13]J.Fukue,Pub1.Astron.Soc.Japan51,425(1999).
[14]D.Gabuzda61αよ,Asrro1,h』ys’cαZ P舵η01η6nαR6v6α1α油』y
成ることを発見した[27].これにより,3C279のジェッ
Sρα6召V乙B1(ISAS,Sagamihara,2000).
トは独立な2つの方法により対プラズマを主成分とす
[15]S.Kamenoαα乙,As∼roρhys∫cα1Ph6non¢6照R8v6α164勿
る,と結論づけられたことになる.
Sρα06VLB1(ISAS,Sagamihara,2000).
さらに彼らは,同じ手法をクェーサー3C345のジェッ
[16]S.Iguchiαα乙,sむめ1n∫π召4オo Publ.Astron.Soc.Japan
トにも応用している[27].このジェットのLki,を推測す
(2000).
るために,[21]に報告されているΩ。の値三〇.7pcGHz
[17]M.A.Scott and A.C.S。Readhead,Mon.Not Roy.As−
を引用し,前節の手法によってム、i、∼104a5ergss−1を導
tron.Soc.180,539(1977). ・
いている.次に,このLki,,から各ジェット成分ごとの
[18]K.Asadaαα乙,ASfroP妙s∫cαJ P加πo醒ε照Rεv召αごε4わy
燈ki,、(直線D1)を計算し,それを成分ごとの聖、.i、
助αc召VLB1(ISAS,Sagamihara,2000).
[19]V.Dhawanαα乙,Astrophys.J.Lett.498,111(1998).
と比較しなければならない.そのために,彼らは[28,29]
[20]S.Kamenoαα乙,Publ.Astron.Soc.Japan52,209(2000).
に報告されている5つのジェット成分に関する詳細な
[21]A.P.Lobanov,Astron.Astrophys。330,79(1998).
VLBI多周波観測の結果を用い,各観測時期におけるそれ
[22]K.Hirotani81α乙,sめ吻π64∫o Astrophys。J.(2000).
ぞれの燈,.i。を計算した。それにより,電波スペクトル
[23]A.P。Marscher,Astrophy&J.264,296(1983).
がわかる(組成を上述の方法によって議論できる)5つ
[24]」.F.C.Wardleαα乙,Nature395,457(1998エ
[25]C.S.Reynol(lsαα乙,Mon.Not.Roy.Astron.Soc.283,873
の成分はすべて,電子・陽子対プラズマから成ることを
(1996)。
発見している。
[26]H.K,Pauliny−Tothααム,Astrophys.」.86,371(1981).
[27]K.Hirotaniαα乙,Publ.Astron.Soc.Japan51,263(1999).
[28]J.A.Zensusαα乙,Astrophys.」.443,35(1995),
[29]S.C.Unwinαα乙,Astrophy&J。480,596(1997).
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