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LiMo FoundationにおけるLinux OSベース移動端末用

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LiMo FoundationにおけるLinux OSベース移動端末用
Linux OS
端末用プラットフォーム プラットフォーム共通化
LiMo Foundation における Linux OS ベース
移動端末用プラットフォームの共通化活動
® *1
世界初の移動端末向け Linux
グローバルプラットフォームを構築す
森田 光秋 市川 裕一
ることを目的とし,2007 年 1 月,
「LiMo Foundation」を設立した.グロ
ーバルな競争力のあるプラットフォーム構築を目指した LiMo Founda-
照沼 和明 承
錫
tion の取組みについて解説する.
LiMo Foundation は前述の課題を解
Samsung Electronics Co., Ltd.,
決するため,世界初の移動端末向
Vodafone Group は,他のプラット
移動端末に搭載される機能は
けLinuxグローバルプラットフォー
フォームに対して競争力のある移
年々高度化し,ユーザにとって魅
ムを構築することを目的とした団
動端末向けLinuxプラットフォーム
力的で個性的なサービスを提供す
体である.
の確立,安価で拡張性のあるプラッ
1. まえがき
本稿では,LiMo Foundation の概
トフォームおよびプラットフォー
待受画面に流れるテロップで最新
要,提供するソフトウェアアーキ
ムの中長期的,持続的な発展に必要
情報を表示する機能,移動端末の
テクチャ,LiMo Foundation が提供
不可欠なソフトウェア循環型体系
置き忘れや紛失時などに備えた各
するプラットフォームとMOAP
(L)
(エコシステム)の構築,そして幅
るために,音楽や動画の再生機能,
種セキュリティ機能など,より革
(Mobilephone Oriented Applica-
広いユーザ層への利便性向上の確
新的なソフトウェアが必要になっ
tion Platform(Linux))の関係など
立を目指している.各社の貢献ベ
てきている.この流れは日本国内
についての取組みを解説する.
ースの開発を通じて,携帯電話業
だけにとどまらず,グローバルマ
加速している.ユーザが要求する
2. LiMo Foundation
の概要
多様で高機能なサービスの提供に
2.1 設立の目的
ーケットにおいても同様の動きが
界でのLinux 適用拡大をねらう.
2.2 参加メリット
Linux OS は,オープンソースラ
よるソフトウェアの複雑化・高度
本団体は,携帯電話事業者と移
化が進むことで,ソフトウェアの
動端末メーカによるユーザへの魅
誰でも OS のソースコードの参照が
コストも増大する.このコスト負
力的なサービスの提供を可能にす
可能(透明性)であり,サーバや
担を減らすことが,携帯電話事業
るとともに,その市場投入までの
PC では世界中のプログラマにより
者,移動端末メーカ共通の課題と
開発期間の短縮,ライセンス料の
OSの機能の改良(革新性)が行え,
して認識されている.
低減による移動端末の低価格化を
他の OS に比べてよりニッチな用途
このような背景から,2007 年 1
目的とする.さらに,設立メンバ
への拡張(拡張性)が容易である
月,ドコモは携帯電話事業者およ
のドコモ,Motorola, Inc.,日本電
といった3つの特徴を開発コミュニ
び移動端末メーカ 5 社と共に
気株式会社,パナソニック モバイ
ティに与えている.LiMo Founda-
「LiMo Foundation」を設立した.
ルコミュニケーションズ株式会社,
tion は,この 3 つの特徴を活かし
イセンスで提供されているため,
* 1 Linux : Linus Torvalds 氏の日本および
その他の国における登録商標または商
標.
NTT DoCoMo テクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.2
47
LiMo Foundation における Linux OS ベース移動端末用プラットフォームの共通化活動
て,携帯電話業界における商用開
2.3 提供物
ービス要求などの策定を行う.
発モデルの英知を融合することに
LiMo Foundation では,Linux
より,グローバルな競争力のある
OS ベースの移動端末向けソフトウ
移動端末プラットフォームを参加
ェアプラットフォームのソースコ
参加メンバは設立メンバ,コア
メンバへ提供する.具体的に参加
ードをメンバには原則無償で提供
メンバ,アソシエイツメンバの3種
メンバは以下のようなメリットが
する.また,団体外にはLiMo Foun-
のカテゴリに分けられる.
期待できる[1].
dation が規定した API(Application
携帯電話事業者
・移動端末購入コストの低減
*2
2.5 メンバシップ
①設立メンバ
Program Interface)仕様 を公開
最初の5年間,ボード席を確保
し,SDK(Software Development
できる.ボード席以外の基本権
*3
・移動端末開発期間の短縮
Kit) など開発環境を各社が提供す
利はコアメンバと同一である.
・グローバルな新サービス提供
ることにより,第三者による適用
②コアメンバ
に対する安価なサポート,互
製品開発を可能とする.
換性などの確保
移動端末メーカ
・移動端末開発コストの低減
ボード選挙への立候補権,団体
の規則で認められる議決権,全委
2.4 組織構成
員会への立候補権と議長選挙への
LiMo Foundation の組織構成を
立候補権,団体のソースコードの
図 1 に示す.LiMo Foundation は,
アクセス権・修正権および製品出
ボード(取締役会),Executive 委
荷権などといった基本権利が与え
・プラットフォーム共通化によ
員会,アーキテクチャ委員会,リ
られる.団体の活動の中心と期待
り,自社技術者をより差別化
クワイヤメント委員会により構成
されるカテゴリである.
機能の開発へ集約可能
される.また,運営推進スタッフ
③アソシエイツメンバ
・移動端末メーカ間の相互協力
関係の構築
チップベンダ
・自社チップセット用プラット
フォームの確保
・移動端末のソースコードの入
手
ミドルウェアベンダ
として事務局が存在し,団体の
安価な会費で参加でき,ボー
日々の運営と団体におけるメンバ
ドへの立候補権はないが,リク
の活動を管理する.
ワイヤメント委員会への立候補
ボードは13議席あり,そのうち6
権および Working Group への参
議席は設立メンバが確保しており,
加権などがある.ISV(Indepen-
ドコモはボードの議長に就任して
dent Software Vendor) などか
・自社製品の採用機会増大
いる.Executive 委員会はボード会
・プラットフォーム共通化によ
社のメンバで構成され,ボード審
るサポートコストの削減
・有償提供による既存ビジネス
モデルの確保
アプリケーションベンダ
*4
ボード
議事項以外の審議やアーキテクチ
Executive
委員会
ャ委員会,リクワイヤメント委員
会および事務局を統括する実質的
な意思決定機関である.アーキテ
・自社ソフトウェアの採用によ
クチャ委員会は技術関連取りまと
る新サービスや新規顧客の構
めや,下部組織として貢献ベース
築および新規ビジネスの創造
で開発を行う Working Group を持
リクワイヤメント アーキテクチャ
委員会
委員会
事務局
Working Group
図1
LiMo Foundation の組織構成
つ.リクワイヤメント委員会はサ
* 2 API 仕様: OS やミドルウェアなどが提
供する機能を上位のソフトウェアが利用
するためのインタフェース仕様.
* 3 SDK :アプリケーションを作成すると
きに必要となる,ドキュメント,ツー
ル,ライブラリ,サンプルプログラムな
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どからなる開発キット.
* 4 ISV :特定のソフトウェアメーカの傘下
に入っていないソフトウェア会社.
NTT DoCoMo テクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.2
らの参加を期待して設けられたカテ
で共通に使える部分が広がり,低価格
LiMo Foundation が提供するプラット
ゴリである.
化が実現できる.
フォームの範囲である.Platform Scope
2.6 IPR ポリシー
団体が提供する知的財産権(IPR :
内の各機能は,それぞれの機能ごとに
3. ソフトウェア
アーキテクチャの概要
必要に応じて前述のフレームワークと
プラグインで構成される.各機能が提
供する機能の概要を以下に示す.
Intellectual Property Rights)モデル[2]
LiMo Foundation は,移動端末が共
は,オープンソースポリシーに,団体
通で利用するミドルウェア機能をフレ
独特の IPRポリシーを組み合わせてい
ームワークとプラグインという構成で
Application UI Framework
る.以下の 4 つのライセンス種類があ
提供する.フレームワークは,各社の
Application Manager Framework
る.なお,以下に示すコードとは,メ
独自実装機能やハードウェアに依存し
は,アプリケーション起動の機能を
ンバが団体へ提出した団体のプラット
ない機能を提供する抽象化層である.
提供し,また,ダウンロードしたア
フォームの要素となるソースコード,
提供するサービスや実装するハードウ
プリケーション用にセキュアなパッ
オブジェクトコードなどを意味する.
ェアに依存する機能はプラグインとし
ケージインストーラを持つ.Appli-
①OpenSourceLicense(共通コード)
て実装される.フレームワークとプラ
cation UI(User Interface)Frame-
②Foundation Public License(共通
グインという構成により LiMo Foun-
work は,ユーザからの入力制御や
dation のプラットフォームはその一貫
ユーザインタフェースなどを提供
性と柔軟性のバランスを保つ.
し,GUI(Graphical User Interface)
コード)
③Foundation Public License(非共
通コード)
④ProprietaryLicense(有償ライセンス)
① Application Manager Framework/
LiMo Foundation が提供するソフト
ツールキットである GTK +(The
ウェアアーキテクチャの構成[3]を図 2
GNU image manipulation program
に 示 す . Platform Scope の 部 分 が
ToolKit)
を含む.
このうち①と②はメンバ共通コード
であり,団体のプラットフォームに準
Applications
拠する製品はこのコードを必ず有して
Platform Scope
いる.③と④は,サービス,地理的に
ヤリティを徴収できる.本団体の独特
のスキームとして,③と④で提供され
たコードに対して,提供者が団体へ提
Kernel
Space
Linux Kernel
出時に設定した自動移行期間経過後は
①または②のライセンスへ自動移行す
Device Drivers
Other Frameworks
Database
DRM Framework
Multimedia Framework
Messaging Framework
Networking Framework
Security Framework
利者の裁量で設定した非差別的なロイ
Event Delivery / IPC
イセンスされる.非共通コードは,権
Conflict Management
は,すべての著作物と特許が無償でラ
Registry
User
Space
Application UI Framework
分である.メンバ共通コードに関して
Application Manager Framework
製品やサービスの差別化に依存する部
Telephony Framework
Middleware
メンバで共通にできない部分であり,
Modem Interface
Modem
図2
ソフトウェアアーキテクチャの構成
ることとなっており,将来的には無償
NTT DoCoMo テクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.2
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LiMo Foundation における Linux OS ベース移動端末用プラットフォームの共通化活動
システムの設定データなどの
フレームワークであり,論理的
レコードを保存するためのスト
なコネクションの確立および管
4. LiMo Foundationが提供
するプラットフォームと
MOAP(L)の関係
レージ空間を提供する.
理するためのインタフェースを
ドコモは従来より,日本電気株式会
③ Conflict Management
提供する.
社およびパナソニック モバイルコミ
⑧Messaging Framework
ュニケーションズ株式会社と共同で,
② Registry
複数のアプリケーションからの
データ通信を制御するための
共有リソースへの同時アクセス要
メッセージのアカウントやプロファ
複数の移動端末メーカやソフトウェ
求によって発生する競合や,アプ
イルの管理と,SMS
(Short Message
アベンダが,移動端末ソフトウェアの
リケーションからのアクセス要求
S e r v i c e )/ M M S(Multimedia
開発において共通に使用できるソフト
とシステムの状態との競合を解
Messaging Service)/i−mode メー
ウェアプラットフォーム「MOAP(L)
」
決・管理する機能を提供する.
ルなどのメッセージ機能を使って
の開発を行っている[4][5].
④Event Delivery/IPC(InterProcess
メッセージの送受信を行うインタ
Communication)
フェースを提供する.
ットフォームで提供し,ソフトウェ
プロセス間通信におけるメッセ
⑨Multimedia Framework
アの品質の向上と開発コストの削減
ージの作成/フィルタリング/登
オーディオ,イメージ,ビデ
を図るという点で M O A P( L )と
録/発行などの機能を提供する.
オの取込みや再生といったサー
LiMo プラットフォームの目的は一
⑤ Security Framework
ビスを提供し,それぞれの動作
致する.
インストール前にアプリケー
ションやコンテンツのデータを
2 つの相違点は,MOAP(L)が
状態を管理する.
*6
⑩ DRM(Digital Rights Management)
FOMA 専用として開発してきたプラ
スキャンする機能を提供し,イ
Framework
ットフォームであり,現時点でFOMA
ンストール後にもインストール
定義されたルールに従い,音
以外の移動端末に適用されていないの
されたアプリケーションやコン
楽やビデオのようなコンテンツ
に対して,L i M o で は V o d a f o n e
テンツへアクセスする際に,実
データのアクセスおよび利用の
Group, Motorola, Inc., Samsung
行者がどのようなアクセス権限
制限を実現するためのインタフ
Electronics Co., Ltd.,も加わり,グ
を持っているかなどその場の状
ェースを提供する.データがア
ローバルな移動端末を強く意識した
況に対応したセキュリティポリ
クセス可能か,そして再生でき
プラットフォームとなっていること
シーを適用する.
るようにデータを復号してもよ
である.
⑥ Telephony Framework
いかどうかを判断する.
主として電話機能のためのフ
現在,MOAP(L)の優れた部分と
他社の優れた部分を融合し,LiMo
⑪ Database
レームワークであり,ネットワ
create,query,update,delete
プラットフォームを構築する作業を
ーク登録,音声呼制御,ビデオ
などのデータ操作機能を通して,
進めている.将来的に,FOMA端末
呼制御,付加サービス,音声課
*7
*8
*9
ACID (Atomic ,Consistent ,
*10
*11
のさらなる開発効率化を目指して,
金情報,そしてSIM(Subscriber
Isolation ,Durable
)
データ管
ドコモでは図3に示すマイグレーシ
Identity Module)/USIM(User
理のインタフェースを提供する.
ョンプランを検討している.MOAP
*5
(L)が提供するプラットフォーム機
SIM) 制御をサポートする.
能は,FOMAの優れた機能を実現す
⑦ Networking Framework
* 5 SIM/USIM : SIM は携帯電話の契約者情
報を記録した IC カード.主に GSM 方式
の携帯電話で採用されている.USIM は
SIMをベースに機能拡張したもの.
50
共通的なミドルウェア機能をプラ
* 6 DRM :デジタルコンテンツの著作権を保
護するために,再配布制限や不正コピー
防止などの管理を行う機能の総称.
* 7 ACID :データベース管理システムがひ
とまとまりの処理(トランザクション処
理)をするための必要不可欠な 4 つの条
件であるアトミック性: Atomic(* 8 参
照)
,一貫性: Consistent(* 9 参照)
,独
立性: Isolation(* 10 参照),永続性:
Durable(*11参照)の頭文字をつなげた
もの.
NTT DoCoMo テクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.2
MOAP(L)
LiMo取込み
共通機能の移行
LiMo
固有機能
プ
ラ 共通機能
ッ
ト
フ
ォ
ー
MOAP(L)API
ム
LiMo API
構
成
図3
るための固有機能と携帯電話事業者に
依存しない機能を実現する共通機能に
分けられる.今後,現在の MOAP(L)
MOAP(L)
LiMo
アプリケーション
LiMo
MOAP
(L)
MOAP
(L)
・LiMoプラットフォーム
の採用開始
アプリ
ケーション
LiMo
LiMo
MOAP(L)
・LiMo機能の取込み
LiMo
アプリ
ケーション
アプリケーション
・LiMo準拠アプリ搭載可能
・既存アプリ利用可能
・共通機能はLiMo
・固有機能はMOAP(L)
MOAP(L)から LiMo へのマイグレーション
バランスを図っていく.
文 献
[1] LiMo Foundation,“Overview of LiMo
5. あとがき
Foundation,”Ver. 1.2.2, Apr. 2007.
[2] LiMo Foundation,“Foundation Intellectual
で実現している共通機能をLiMoプラッ
LiMo Foundation は,まず設立メン
トフォームと共通化することで,効率
バ 6 社によるプラットフォーム策定作
化が期待できる.FOMAで必要な新規
業を行い,その後2007年4月以降に加
機能は,MOAP(L)で開発し,先進性
わる新規参入メンバを含めて,さらに
を確保する.また,将来的にLiMoプラ
多くの機能の共通化作業を進めてい
ットフォームへの提供も視野に入れ,
る.LiMo Foundation で開発されるプ
バグ修正や機能拡張などに伴うメンテ
ラットフォームを有効に活かし,今後
[5] 吉澤,ほか:“移動端末用ソフトウェア
ナンス工数の低減やライセンス提供な
の移動端末の開発コスト削減と機能の
プラットフォーム“MOAP”の拡充,”本
どにより,先進性と開発コスト削減の
向上をさらに図っていきたい.
誌,Vol.14, No.1, pp.15−18, Apr. 2006.
* 8 Atomic :一連のトランザクションがすべて
実行されるか,またはすべて実行されないか
を保障すること.
* 9 Consistent :データベースが常に整合性を
保っていること.
* 10 Isolation :トランザクション処理が他のト
ランザクションと完全に分離していること.
* 11 Durable :一度終了したトランザクションは
取り消されないことを保障すること.
NTT DoCoMo テクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.2
Property Policy,”Annex A, Bylaws of
LiMo Foundation, 2 April 2007.
[3] LiMo Foundation,“http://www.limofoundation.org”
.
[4] 辻,ほか:“FOMA端末ソフトウェアプラ
ットフォーム“MOAP”の開発,”本誌,
Vol.13, No.1, pp.55−58, Apr. 2005.
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