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III.企業の雇用制度(組織の経済学の応用) 1.賃金 (1)賃金決定(決定
III.企業の雇用制度(組織の経済学の応用) 1.賃金 (1)賃金決定(決定要素・体系・水準)の課題 ①内的整合性(internal consistency) ②外的整合性(external consistency, competitiveness) ③インセンティブ整合性(incentive compatibility) ④管理コスト(administration costs) (2)賃金決定要素の類型 変動給--労働者の output によって変動。例: 出来高給(piece rate)、歩合給。 個人の output output の絶対水準 集団の output output の相対ランク 固定給--労働者の output から独立、しばしば input に依存。例: 時間給(time rate)。 「人」--労働者自身の属性で決まる。例: 年齢給、勤続給、職能給。 「仕事」--労働者が就いている仕事の属性で決まる。例: 職務給。 (3)代表的な賃金類型 ①出来高給--労働者の一定期間の生産水準に、あらかじめ決めた単価を掛ける。 ・ インセンティブ効果とリスク負担。 ・ アウトプットの測定問題(←アウトプットの多面性)。 ・ 単価の設定問題(←技術変化や市場環境変化への対応)。 ②集団刺激給--ある集団の output を基準に、報酬を決める。 ・ アウトプットの測定は個人単位より容易。 ・ 「タダ乗り」問題の発生。 ・ 集団の範囲が大きいと、インセンティブ効果↓、リスク負担↑。 ③個人間の相対ランクを用いた刺激給--労働者の output の順位を基準に報酬を決める。 ・ 労働者間に共通な要因の影響を除去。 ・ 共謀してさぼる可能性、一方で、抜け駆けの可能性。 ・ 相手への妨害行動(sabotage)の可能性。 ④職務給--仕事を難易度、重要度等によってランク付けし、それに応じて賃率を決める。 ・ 職務評価の「混乱」--評価しているのは「仕事の内容」か「仕事の価値」か。cf. comparable worth 問題、「職務評価」は「市場評価」を出し抜けるか? ・ 労働者の職務配置問題--柔軟な配置転換の障害となる可能性。 ・ 同一職務内の労働者の能力差、業績差等はみていない →範囲給(レンジ)で対応。 9-1 労働経済論(奥西) ⑤職能給--労働者の職務遂行能力のランク(職能資格)を設定し、労働者の能力向上に応じて昇 格させる。賃金は職能資格等級に対応して決まる。 ・ 長期的な技能向上のインセンティブ。 ・ 労働者の柔軟な配置転換とも適合的。 ・ 運用次第では「年齢給」的に。 ・ 「潜在」能力と「顕在」能力のギャップ(←「ポスト不足」問題)。 (4)賃金体系に関する理論 ・ 年齢↑→ 賃金↑ ①人的資本論: 技能↑→ 賃金↑。 ②自己選択: 「後払い賃金」→長期雇用志向労働者の選抜。 ③保険: 若年期に低賃金(一種の保険料支払い)→高年期に低賃金を回避。 ④生計費・選好: 生計費↑→ 賃金↑、労働者は右上りの賃金プロファイルを選好。 ⑤後払い賃金によるインセンティブ: 若年期に低賃金、高年期に高賃金。 →インセンティブ効果。定年、退職金を説明。 (5)賃金水準に関する理論 ①賃金の限界生産力説 ・ 企業の利潤最大化行動 →「賃金=限界価値生産力」で労働需要が決まる。 ・ 市場の需給均衡 →「労働需要=労働供給」で市場賃金が決まる。 ②不効用補償賃金(compensating wage differentials) ・ 賃金以外の労働条件の重要性--仕事の快・不快、安全性など。 ・ (労働者の生産性が同じ場合) 賃金以外の労働条件↓ → 賃金↑。 ・ アダム・スミスの「5 つの事情」(『国富論』第 10 章、第 1 節) a.職業自体が快適であるかないか。 b.職業を習得するのが簡単で安上がりか、それとも困難で費用がかかるか。 c.職業における雇用が安定しているかいないか。 d.職業に従事する人たちに寄せられる信頼度が大きいか小さいか。 e.職業において成功する可能性があるかないか。 ③不完全情報による賃金格差--同じ能力で異なる賃金 ・ 職探しの理論 9-2 労働経済論(奥西) ・ 統計的差別の理論 ④トーナメント・モデル ・ 事前に賃金等級(相対ランク)を設定 ・ 事後的なアウトプットの順位で賃金等級に割り振る ・ 『ウィナー・テイク・オール』(ロバート・H・フランク、フィリップ・J・クック著、日本経済新聞社刊) →一見わずかな生産性格差が大きな賃金格差に。 ⑤効率賃金(efficiency wage) ・ 一般に「高賃金→高コスト→低利潤」と考えられるが・・・。 ・ 「高賃金→高利潤」となるいくつかのルート。 a.レントを失うまいとする労働者の努力↑。 b.優秀な労働者が応募↑。 c.労働者の労働規範(返報性規範)↑。 d.転職↓→ 募集・採用・訓練費用↓ (cf. ヘンリー・フォードの「日給 5 ドル」)。 (6)福利厚生 ①定義--福利厚生費、付加給付、フリンジ・ベネフィット≒賃金以外の労働費用。 ・ 法定福利費: 健康保険、厚生年金保険、労働保険、船員保険の保険料(事業主負担額)など。 ・ 法定外福利費: 事業主独自の施策に基づく負担分で、住居、食事、医療保健、文化・体育・娯 楽、慶弔見舞、理・美容、販売店などに関する費用。 ・ 退職金等: 退職一時金(解雇予告手当を含む)、中小企業退職金共済制度への掛金、退職年 金の費用(適格年金への掛金、調整年金への企業上積分など)。 ・ その他: 教育訓練費、募集費、作業服の費用、転勤に関する費用、社内報に関する費用、表 彰等に関する費用、現物給与の費用など。 ②意義--なぜ賃金で払わないのか? ・ 労務管理目的(従業員の定着促進、モラール向上など) cf. カフェテリア・プラン。 ・ 費用の節約(税制の影響、リスクのプールなど)。 ・ 企業の paternalism ―「温情主義」vs.「選択の自由」を制限。 ・ 生活保障に関する政府、企業、個人の役割分担の問題。 ③企業年金の類型 ・ 確定給付型(defined benefit): 給付額は、退職時賃金と勤続年数など、あらかじめ決められ た算式によって決まっている。退職時期の決定に影響。 cf. 伝統的な日本企業の退職金・企 業年金制度。 ・ 確定拠出型(defined contribution): 給付額は、定期的に積み立てた掛け金とその運用益に よって決まる。 退職時期の決定に中立的。cf. 日本でも 2001 年 10 月から「確定拠出年金法」 が施行。 9-3 労働経済論(奥西) (補論)成果主義賃金について (1)職能給システムの行き詰まり ①年齢・勤続給的な運用(+高齢化→人件費↑)。 ②職能資格等級で測られた潜在能力と、実際の能力発揮程度のギャップ(ポスト不足)。 ③抜擢、降格人事の困難さ。 ④全社一律(職種横断的)制度の問題。 (2)いくつかの対応(1990 年代以降) ①職能評価基準の見直し→コンピテンシー評価(高業績者の行動特性を基準)。 ②定期昇給の廃止→年俸制、毎年の評価により変動する賃金(ランク)。 ③業績評価の拡大→資格等級の括りを大きくし(ブロード・バンディング)、その中は業績評価で差 をつける。 ④職務給(役割給)の導入→職務・役職を、職務の難易度、組織目標への貢献度の大小によって ランク付けし、それに賃金を対応させる。職務・役職が変われば賃金も変わる。 ⑤賞与割合の増加、賞与の業績連動の強化。 ⑥仕事に関係ない各種手当(例:家族手当、住宅手当)の縮小、廃止。 (3)大きな方向性 ①賃金カーブのフラット化。 ②同一年齢内格差の拡大。 ③インプット、プロセス評価(能力、努力)→アウトプット評価(成果、業績)。 ④長期インセンティブ→短期インセンティブ。 ⑤管理職→非管理職。 (4)残された課題 ①人事評価、成果測定の難しさ ・ 理論的には、組織目標(例:ROE)への各人の貢献度合い。 ・ 現実の評価が持つさまざまな副作用(例:評価される行動と評価されない行動→評価されない 行動は重要でないか? ラチェット効果)。 ・ 誤ったインセンティブの懸念(外発的動機付け↑ → 内発的動機付け↓) ②納得性の問題 ・ 評価基準、評価結果の納得性(例:目標管理制度、360°評価)。 ・ 仕事選択の納得性(例:社内公募、社内 FA 制度)。 ・ 評価に主観性、あいまいさは残る。最終的には、本人の選択(「志願兵」かどうか)。 9-4 労働経済論(奥西)