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なぜザンビアは資源に依存してきたのか?

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なぜザンビアは資源に依存してきたのか?
2007 年 3 月修了
新領域創成科学研究科 国際協力学専攻
なぜザンビアは資源に依存してきたのか?
― 資源依存の構造的因果関係 ―
石曽根 道子(学籍番号:47−46886)
指導教員:佐藤仁 助教授
キーワード:ザンビア、銅、資源依存、経済停滞、構造的因果関係
Ⅰ 背景と対象
Ⅱ 目的と意義
国に豊富な天然資源が賦存することは何を意味す
本研究は、植民地期以来、銅資源に依存してきた
るのか。天然資源に恵まれている国は、社会経済を
ザンビアを事例に、資源依存の構造的な因果関係を
発展させるための潜在的ポテンシャルをもつ
考察した。具体的には、銅資源を中心に、ザンビア
(Ascher 1999)
。しかしながら、豊富な資源をもつ
がおかれてきた社会的環境、歴史的背景、地理的条
途上国の過去 30 年の歴史を振り返ると、天然資源
件などにも着目しながら、ザンビアが銅に依存して
は必ずしも国の発展に寄与してきたわけではなかっ
きた要因について論究した。
た。サックスとワーナーは、むしろ依存できるほど
貧困問題が著しいアフリカにおいては、援助だけ
資源に恵まれた国は低成長に陥る傾向にあると指摘
ではなく、アフリカに存在する資源を活かしながら
している(Sachs and Warner 1995)
。特にサブサハ
持続的な発展を考える必要があろう。したがって、
ラ・アフリカ諸国では、それが顕著に見られる。
アフリカ諸国の発展を考えていく意味においても、
資源依存と低成長の関係については、
「資源の呪い
説(Resource Curse)
」をはじめ、さまざまな理論
が提唱されてきた。しかし、それらは資源依存国で
生じている一般的な傾向を示すものが多く、一国の
なかで起こっている現象の連鎖を構造的に捉えたも
のは少ないといえよう。したがって、本研究は資源
富裕国で一般的に生じている事象を考察するのでは
なく、ザンビアを事例に取り上げることにした。
そこで、既存研究をもとに、ザンビア経済が停滞
している要因を調べたところ、ザンビアが低成長に
アフリカにおける資源への依存問題を扱うことは重
要だと考えた。
Ⅲ 研究方法
本研究は、主にザンビアの鉱業法など文献調査に
よる。文献を通して、植民地時代から現在に至るま
で、ザンビアの銅事情を調査した。ザンビアの歴史
的背景や南部アフリカの潮流にも着目し、資源依存
の構造的な因果関係をまとめた。
Ⅳ 結論
至っている要因は銅への極端な依存であることが判
ザンビアが銅に依存してきた要因を解明するにあ
明した。資源に依存することが低成長をもたらすの
たって、以下に示すように時代を 2 つに区分して考
だとすれば、次に問うべきところは、その国が資源
察した。
に依存する要因ではないだろうかと思索した。
(1)1964 年の独立直後の依存
ザンビアの銅依存は植民地時代にさかのぼる。銅産
業を中心とした経済構造は、植民地時代に、南ロー
デシアの白人入植者や外資系産銅会社といった「よ
つまり、経済的な独立を目指して行った国有化が、
そ者」によって作られてきた。植民地支配の下、ザ
不幸にもザンビアの経済を脆弱にするというパラド
ンビアの鉱業権および銅の収益は「よそ者」によっ
ックスが生起したといえる。
て管理されていた(図1参照)
。
Ⅴ 今後の課題
図 1 独立直後、銅依存に至った因果関係
ガバナンス/制度
1950年代
経
連邦下のもと、
南ローデシアとの
従属的関係
済
国際市況
以上の結果を踏まえ、今後の検討課題を次に示す。
第1に、個人レベルにおける資源の便益や負担の分
アフリカの潮流
配構造についてである。本研究は国レベルの経済危
北ローデシアの銅鉱業
南ローデシアの製造業
機を中心に論じ、
民衆の貧困問題には触れていない。
銅以外の産業が
1960年代
人々の暮らしの向上を伴ったうえで国の経済発展を
輸出代替工業化
育たない経済構造
目指すには、鉱物資源の便益(雇用の機会など)や
1964年独立
カウンダ政権誕生
国の発展→資金必要
銅価格の上昇
負担(環境破壊など)が、人々にどのように分配さ
れているのかについても目を向けなければならない。
独立時の
銅依存
第 2 に、ザンビアと「呪い」を回避した国との資
(2)1970 年代から現在までの依存
源依存構造を比較することである。ザンビアでは、
独立後、ザンビアは、これまで搾取されていた銅
政府による産銅会社の国有化が銅依存をさらに助長
の利益をザンビア人のもとに取り戻すため、銅企業
した。だが、この現象が全ての資源依存国に当ては
のザンビア化、つまり国有化を行った。すなわち、
まるわけではない。ザンビアと他国との資源依存の
外資系企業の手中にあったザンビア経済を奪還し、
構造を比較することによって、
「呪い」を回避する政
経済的な独立を目論んだ。ところが、国有化はザン
策を見出せるのではないか。
ビア経済を豊かにするどころか、ザンビアの銅依存
第 3 に、天然資源は収奪の対象だけでなく、協調
体質を後押しするものとなり、結局ザンビア経済を
の動機付けにもなったのではないだろうか。内陸国
苦しめる結果となった。財政難に苦しむザンビア政
であり、銅からの輸出収入に依存しているザンビア
府にとって、産業の多角化を掲げようともそれを実
にとって、銅を港まで運び出す輸送ルートの確保は
行する術はなく、現在に至るまで銅依存からの脱却
必至であった。ザンビアは、これらの輸送問題によ
を果たせずにいる(図2参照)
。
る被害を最小限に抑えるために、隣国との協調を余
儀なくされたのではないか。
図 2 1970 年以降、銅依存に至った因果関係
参考文献
アフリカ社会
ガバナンス/制度
経
済
国際市況
ザンビア国内
1960年代
政治および経済の
独立を目指す
社会主義路線
独立時の
銅依存
財政支出増
人材(管理能力)不足
投資環境悪化
輸入(外貨)依存
輸送コスト高
1980年代
1990年代
機械不足
他産業の発展制約
∥
オランダ病
1970年代
南ローデンシアとの国境封鎖
アンゴラの内戦勃発
↓
輸送問題
銅価格の上昇
マクロ経済の脆弱化
銅企業の
国有化
石油ショックによる
スタグフレーション
→ 銅需要低下
銅価格下落
銅の生産量
減少
銅セクターの
不況
外貨不足
↓
財政収入減少
国家計画(=産業多角化)の
資金減少
↓
産業多角化進まず
銅依存
高橋基樹、2000、
「経済情勢」
『南部アフリカ援助研
究会報告書 第4巻 ザンビア・本編』、国際
協力事業団。
Ascher, W. 1999. Why governments waste natural
resources: Policy failures in developing
countries. The Johns Hopkins University
Press. (佐藤仁訳、2006、
『発展途上国の資源
政治学』
、東京大学出版会)
Sachs, Jeffrey D. and Warner, Andrew M. 1995.
"Natural Resource Abundance and
Economic Growth." National Bureau of
Economic Research. Working Paper. No.
5398.
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