Comments
Description
Transcript
産業技術総合研究所
実験・技能試験結果を不確かさ 評価に利用するためのJIS規格 制定について 産業技術総合研究所 計測標準研究部門 物性統計科 応用統計研究室 田中秀幸 統計関連の規格の概要と その他の規格との関係 1 統計関連の規格について • ISO TC69 (Application of Statistical Methods) が開発した規格 用語: ISO 3534-1,2:1993, -3:1999 JIS Z8101-1~3 統計−用語と記号− 第1部:確率及び一般統計用語 (改訂作業終了, ISO 3534-1:2006) 第2部:統計的品質管理用語 (改訂作業終了, ISO 3534-2:2006) 第3部:実験計画法 統計関連の規格について 統計的手法: (ISO 5725-1,2,3,4,6:1993, -5:1998) JIS Z8402-1~6 測定方法及び測定結果の精確さ(真度及び精度) 第1部:一般的な原理及び定義 第2部:標準測定方法の併行精度及び再現精度を求めるための基 本的方法 第3部:標準測定方法の中間精度 第4部:標準測定方法の真度を求めるための基本的方法 第5部:標準測定方法の精度を求めるための代替法 第6部:精確さに関する値の実用的な使い方 2 JIS Z8402シリーズの問題点 • 精確さ・真度・精度などの用語を見て分かる ように誤差評価を元にした考え方. 不確かさ評価に関しては言及がなされていない. ただし,JIS Z8402シリーズの解析法は工業用標準物質 の解析等に用いられ,広く普及している. JIS Z8402シリーズと不確かさの間の橋渡しが必要! JIS Z8404シリーズ JIS Z8404 測定の不確かさ JIS Z8404-1: 2006 (ISO/TS 21748: 2004) 第1部:測定の不確かさの評価における併行精度, 再現精度及び真度の推定値の利用の指針 JIS Z8404-2: 2008 (ISO/TS 21749: 2005) 第2部:測定の不確かさの評価における繰返し測 定及び枝分かれ実験の利用の指針 この2つの規格でJIS Z8402を用いた不確かさ評価につ いて解説されている. 3 JIS Q0043について JIS Q0043シリーズ 試験所間比較による技能試験 JIS Q0043-1: 1998 (ISO/IEC Guide 43-1: 1997) 第1部:技能試験スキームの開発及び運営 JIS Q0043-2: 1998 (ISO/IEC Guide 43-1: 1997) 第2部:試験所認定機関による技能試験スキーム の選定及び利用 技能試験方法について規定されてる規格.しかし,同等 性の判定法については0043-1の付属書Aに極簡単に触 れられているのみである. 同等性比較法についての詳細な解説が必要! JIS Z8405について JIS Z8405: 2008 (ISO 13528: 2005) 試験所間比較による技能試験のための統計的方法 JIS Q0043に対する補足の規格.技能試験中の統計 的手法の使用に関して,JIS Q0043に欠けている部分 に詳細な指針を与える. 技能試験を行ったときのデータ処理についての規格! 4 統計に関する規格の関係図 基本規格 用語 JIS Z8101-1 JIS Z8101-2 JIS Z8101-3 統計の基礎 JIS Z8402-1 JIS Z8402-2 JIS Z8402-3 JIS Z8402-4 JIS Z8402-5 JIS Z8402-6 新たな規格 JIS Z8405 JIS Z8404-1 JIS Z8404-2 主要規格 比較 JIS Q0043-1 JIS Q0043-2 標準物質 JIS Q0033 JIS Q0035 不確かさ GUM 各規格の解説 5 JIS Z8404-1:2006 ISO/TS 21748:2004 測定の不確かさ−第1部: 測定の不確 かさの評価における併行精度,再現精度 及び真度の推定値の利用の指針 JIS Z8404-1について • JIS Z8404-1: 2006 測定の不確かさ−第1部: 測定の不確かさの評価における併行精度,再 現精度及び真度の推定値の利用の指針 内容 1:JIS Z8402-2に従って実施した実験から得られ た値を利用した測定の不確かさ評価 2:共同実験による結果と不確かさの伝播則を用い て得られた測定の不確かさとの比較 6 JIS Z8404-1について JIS Z8402-2に従って実施した実験から得られた値 を利用した測定の不確かさ評価 共同実験による結果を用いた不確かさ評価! 共同実験によって,併行分散,室間分散,室間再現分散, 平均値を求める手法がJIS Z8402-2である. JIS Z8404-1について • 共同実験について 共同実験は,試験所間比較とは目的が異なる.試験所 間比較は,参加試験所が適切な測定結果を出せるかど うかを評価するものであるが,共同実験は,各試験所の 併行精度が管理状態にあり,さらにかたよりの試験所成 分が管理状態にあることが前提となっている. 例えば,試験所間比較で合格した試験所のみのデータを 用いる等,実証されたデータを用いる必要がある. 7 JIS Z8404-1について • 測定のモデル式 y = m + B + er y:出力量 m:yの期待値(未知) B:試験所によるかたより er:試験所内効果の誤差(併行精度) JIS Z8404-1について • しかし,mの本当の値は分からないので, y = µ + δ + B + er y:出力量 µ:標準物質の値等の基準値 δ:測定方法のかたより(基準値からのずれ) B:試験所によるかたより er:試験所内効果の誤差(併行精度) 8 JIS Z8404-1について • また,共同実験内で,すべての誤差要因が変 化しているとは限らないので, y = µ + δ + B + ∑ ci xi′ +e y:出力量 µ:標準物質の値等の基準値 δ:測定方法のかたより(基準値からのずれ) B:試験所によるかたより er:試験所内効果の誤差(併行精度) ∑ ci xi′ :δ,B,e に含まれる以外の変動を示す効果 JIS Z8404-1について • 不確かさ算出式(モデル式に伝播則を適用) ( ) u 2 ( y ) = u 2 δˆ + sL2 + ∑ ci2u 2 ( xi ) + sr2 sL2 :Bの分散の推定値 sr2 :eの分散の推定値 ( ) u δˆ :δの不確かさであり,認証値の参照計測標 準または標準物質の測定によって,δを推定 する場合の不確かさに起因するもの u ( xi ):x’iの不確かさ 9 JIS Z8404-1について • 各分散の算出 sL2 sr2 JIS Z8402-2による共同実験から算出. 共同実験の結果を各研究所内での繰返し(併 行精度)と研究所間のかたより(再現精度)を分 散分析法によって分離し,それぞれを求める. また,室間再現分散を sR = sL + sr 2 2 2 と定義する.(JIS Z8402-2より) JIS Z8404-1について • 各分散の算出 ( ) u δˆ :p個の試験所が各n回ずつ測定を行ったとすると µからのかたよりは,δˆ = µ − ∑ i ∑ j ( ) yij で求められる. pn 2 2 2 この不確かさは u δˆ = u ( µ ) + s ( y ) u(µ):標準物質の校 正の不確かさ ここで,s 2 ( y ) は,p個の試験所のかたよりの平均値の 分散とpn個の繰返しのばらつきの平均値の分散を合 2 2 成したものであるから,s 2 ( y ) = sL + sr p pn ( ) 2 2 1 sL2 sr2 sR − 1 − n sr 室間再現分散を用いて表すと,s ( y ) = + = p pn p 2 10 JIS Z8404-1について • 各分散の算出 ∑c u (x ) 2 i 2 i :共同実験とは別個にAタイプ,もしくは Bタイプ評価で求める. 基本的には,このようにして不確かさが算出できる. JIS Z8404-2:2008 ISO/TS 21749:2005 測定の不確かさ−第2部: 測定の 不確かさの評価における繰返し測定 及び枝分かれ実験の利用の方針 11 JIS Z8404-2について • JIS Z8404-2: 2008 測定の不確かさ−第2部: 測定の不確かさの評価における繰返し測定及 び枝分かれ実験の利用の方針 内容 分散分析法(枝分かれ法)を用いた不確かさ評価 について.主に,標準物質の値付けに関して. JIS Z8404-2について • 枝分かれ法 データ構造 週 日 繰り返し モデル式 xijk = M + ai + bij + eijk 参考:2元配置繰り返しあり.交互作用無し xijk = M + ai + b j + eijk 12 JIS Z8404-2について 長期安定性,短期安 週 定性の評価 1週目 2週目 3週目 日 1 2 3 4(回) 1 12.3 12.1 12.3 12.2 2 12.4 12.5 12.3 12.4 3 12.3 12.1 12.2 12.1 4 12.1 12.2 12.1 12.2 1 12.5 12.3 12.3 12.4 2 12.3 12.4 12.2 12.5 3 12.6 12.5 12.4 12.7 4 12.3 12.5 12.4 12.4 1 12.3 12.1 12.0 12.1 2 12.0 11.9 11.9 11.8 3 12.0 11.7 11.7 12.1 4 12.1 12.3 12.1 12.2 JIS Z8404-2について 枝分かれ実験の変動 ( S A = ∑ i ∑ j ∑ k xi − x ) 2 S B( A) = ∑ i ∑ j ∑ k ( xij − xi ) 2 Se = SC ( AB ) = ∑ i ∑ j ∑ k ( xijk − xij ) ( ST = ∑ i ∑ j ∑ k xijk − x ) 2 2 13 JIS Z8404-2について 枝分かれ実験の分散分析表 要因 A B(A) C(AB) T S f SA SB(A) SC(AB) ST V a-1 a(b-1) ab(c-1) abc-1 SA/fA SB/fB Se/fe σ σ σ 2 C ( AB ) 2 C ( AB ) 2 C ( AB ) E(V) + cσ B2 ( A) + bcσ A2 + cσ B2 ( A) JIS Z8404-2について 要因 A B(A) C(AB) T S 1.28375 0.53125 0.45500 2.27 f V 2 0.64188 9 0.05903 36 0.01264 47 σ σ σ 2 C ( AB ) 2 C ( AB ) 2 C ( AB ) E(V) + 4σ B2 ( A) + 16σ A2 + 4σ B2 ( A) σˆ A = 0.1909 σˆ B( A) = 0.1077 σˆ C ( AB ) = 0.1124 となる. 14 JIS Z8404-2について 標準物質の値付けについて 1. ある標準物質に値付けを行い,その値をその測定され た標準物質の付与された特性値とする. 2. ある標準物質のロットからいくつかサンプリングし,測定 を行い,そこから求められた結果をある標準物質のロットす べての付与された特性値とする. このような標準物質の値付けと不確かさ評価法について解 説されている. JIS Z8405:2008 ISO 13528:2005 試験所間比較による 技能試験のための統計的方法 15 試験所間比較の基本 合否判定基準 (技能評価のための 標準偏差:σ̂ ) サンプルの値 (付与された値):X 各参加試験所の測定結果: (必要であれば)参加試験所 の測定の不確かさ サンプルの不確かさ (付与された値の不確かさ):uX 試験所間比較の基本 サンプルの判定 持ち回り試験用サンプル サンプルの値 (付与された値):X 技能評価のための標準偏差:σ̂ サンプルの不確かさ 合否判定の際に用いたり,付与 (付与された値の不確かさ):uX された値の不確かさが合否判定 に影響を与えるかどうかの指針 になる. 定 判 の 結果 測定 各参加試験所の測定結果: x (必要であれば)参加試験所の測定の不確かさ 測定結果 En数等を用いる場合には必須. 16 付与された値の決定 • • • • • 定式化 認証参照値 参照値 熟練試験所による合意値 参加試験所による合意値 試験所間比較の基本 サンプルの判定 持ち回り試験用サンプル サンプルの値 (付与された値):X 技能評価のための標準偏差:σ̂ サンプルの不確かさ 合否判定の際に用いたり,付与 (付与された値の不確かさ):uX された値の不確かさが合否判定 に影響を与えるかどうかの指針 になる. 定 判 の 結果 測定 各参加試験所の測定結果: x (必要であれば)参加試験所の測定の不確かさ 測定結果 En数等を用いる場合には必須. 17 技能評価のための標準不確かさの求め方 規定値を用いる場合 達成期待レベルを用いる場合 一般的なモデルを用いる場合 精度評価実験結果を用いる場合 単一技能試験スキームよって得たデータを用 いる場合 • 技能試験から得た精度の値と設定値との比 較 • • • • • 試験所間比較の基本 サンプルの判定 持ち回り試験用サンプル サンプルの値 (付与された値):X 技能評価のための標準偏差:σ̂ サンプルの不確かさ 合否判定の際に用いたり,付与 (付与された値の不確かさ):uX された値の不確かさが合否判定 に影響を与えるかどうかの指針 になる. 定 判 の 結果 測定 各参加試験所の測定結果: x (必要であれば)参加試験所の測定の不確かさ 測定結果 En数等を用いる場合には必須. 18 技能試験に用いるサンプルの判定 • 付与された値の不確かさが大きい場合には, その不確かさが原因となり,不満足な結果が 出ることがある.よって,付与された値の不確 かさの上限を決める. u X ≤ 0.3σˆ これを満たせば,付与された値の不確かさが原因となり,不 満足な結果が出るということはほぼなくなる. 技能試験に用いるサンプルの判定 これを満たせない場合は,次のことを検討しなければならない. a) その不確かさが上記のガイドラインを満たすような,付与さ れた値の決定方法を探す. b) 付与された値の不確かさを技能試験結果の解釈に使用す る.(En数,z’-スコアを用いる) c) 技能試験の参加者に,付与された値の不確かさが無視でき ないことを通知する. 19 技能試験に用いるサンプルの判定 • 均質性試験,安定性試験を行う 付属書Bに従って,均質性試験,安定性試験を行う. これに合格しないようであれば,参加者は複数の試料を試 験しなければならない.または,技能評価のための標準偏 差に試料の不均一性による分を含めなければならない. 試験所間比較の基本 サンプルの判定 持ち回り試験用サンプル サンプルの値 (付与された値):X 技能評価のための標準偏差:σ̂ サンプルの不確かさ 合否判定の際に用いたり,付与 (付与された値の不確かさ):uX された値の不確かさが合否判定 に影響を与えるかどうかの指針 になる. 定 判 の 結果 測定 各参加試験所の測定結果: x (必要であれば)参加試験所の測定の不確かさ 測定結果 En数等を用いる場合には必須. 20 警戒信号と処置信号 • 警戒信号・・・値ははずれてはいないが,付与 された値よりある程度離れているので,ちょっ と警戒してください,ということ. • 処置信号・・・明らかに値がはずれている.何 らかの処置を考えなければならない. 適合性判定の注意点 • JIS Z8405:2008より 4.1.1 (中略)ここに規定する基準を用いて,検討対象の測定 方法を実施するのに不適格であるとして,試験所を不良と判定 してはならない. En数やz-スコアを用いて判定した結果が処置信号が発令され た場合であっても不適合を宣言してはならない. 処置信号が発令された場合にどのような措置を行うのかの 方針を持ち,それを適用すること. 21 成績を表す統計量の計算 • 試験所のかたよりの推定値 • • • • • • • パーセンテージ差分 順位及びパーセンテージ差分 z-スコア En数 z’-スコア ζ -スコア Ez-スコア 結果の報告(単一技能試験ラウンド) • • • • 成績スコアのヒストグラム 標準化された試験所のかたよりの棒グラフ 標準化された併行性の棒グラフ Youdenプロット • 併行精度の標準偏差のプロット 22 結果の報告(複数技能試験ラウンド) • z-スコアのシューハート管理図 • z-スコアの累積和管理図 • 試験所平均に対する標準化した試験所のか たよりのプロット • ドットプロット 最後に • ISO TC69が作成した不確かさ関連の規格に ついて解説した. • 不確かさ評価法が変ったわけではない.一つ ずつの不確かさ要因にたいしてそれぞれから 引き起こされるばらつきを求めるということは 全く同じ.標準不確かさの機能的な算出法の 紹介である. 23