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2014年度年次報告 - World Bank

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2014年度年次報告 - World Bank
日本開発政策・人材育成基金
2014年度年次報告
組織・制度のキャパシティ・ビルディング
― 開発成果の達成に向けて
世界銀行グループ
開発金融
日本政府
PHRD は、日本政府からの多大な支援を受けて世界銀行が運用する信託基金です。世界銀行グループの
援助受入適格国を対象に、技術面および組織・制度面の能力強化を支援するためのグラントを提供して
います。
数字で見る
2014年度末現在のPHRD
少額のグラントがもたらす
大きな効果
病気蔓延の抑制
大流行の防止
5,000 人の医療従事者 が
鳥・ヒトインフルエンザの対策と備えに
関する研修に参加
(カンボジア)
稲作農家の生産性向上
安価な食糧へのアクセス拡大
飢餓に苦しむアフリカの人々への食料供給
25万4,000
1,500
戸の稲作農家 がPHRDの
支援により新たな田植え技術を取り入れ、収穫量を拡大
世帯 を対象に30の村で
鳥インフルエンザに有効な治療を提供し
より効果的な予防策を実施(カンボジア)
(コートジボワール、
ギニア、
リベリア、
シエラレオネ)
10万6,245 ヘクタール を耕作
9万2,645 ヘクタール で、近代的な
生活の質の向上
6万371
戸
の農家 がアグリビジ
稲作技術による田植えを実施
ネスの近代的プロセス
を学習(アンゴラ)
政府の制度とプロセスの改善
9,000
人の公務員 が、政府
予算をより効果的に管理するための
財務スキルを向上(タジキスタン)
2,700
インフラ整備
人の公共部門会計担当者 が
1,448
km
1,100 人分の
新規雇用
の地方道路網を整備し
観光関連の
人の移動と物品の流れ
を創出。PHRDの支援
を改善(ラオス人民
で実現した設備投資に
民主共和国)
よる観光インフラ整備が
貢献(モザンビーク)
最新の会計基準や会計実務に関する知識を習得
(アゼルバイジャン)
気候変動への対応
5万1,000 トン の 二酸化炭素 を隔離(モルドバ)
信託基金・パートナーシップ
局長からのメッセージ
日
本開発政策 ・ 人材育成基金(PHRD)の 2014 年度の実績を見ると、PHRD が引き続き、
受益国の貧困削減と経済成長に求められる技術面および組織 ・ 制度面の能力構築に対し
特筆すべき役割を果たしている事が改めて分かります。日本政府(GoJ)と世界銀行グループ
(WBG)は、開発パートナーとして効果的に協調しながら、PHRD の適応性と柔軟性を育んで
きました。その結果 PHRD は、変化し続ける開発環境の中にあっても、日本政府と世界銀行
グループの相互の戦略や目標に沿った形で存在意義を維持しています。しかし、日本の政府開
発援助(ODA)大綱の重点課題の見直しが行われ、また、世界銀行グループの戦略や極度の
貧困の削減と繁栄の共有の促進という 2 つの目標に対応していくためにも、PHRD はその成
果や効果を高めるために基金の目標を更に練り直し、焦点を見直す事が急務となっています。
更に、世界銀行グループの組織改革、及び成果の実現とモニタリングへのアプローチの明確化
を勘案した修正も進められています。
「世界銀行グループが一体となった」アプローチと「グロー
バル ・ プラクティス」モデル、更には信託基金の世界銀行グループ全体の成果枠組みへの統合
に伴い、こうした変革がより大きな結果をもたらす事が期待されています。
本年次報告では、2014 年度に実施された 40 件の PHRD グラントをはじめとする活動を概説
します。また、達成された主な成果についても詳しく説明します。全般的には、開発目標およ
び進捗状況の達成に関しては、グラント全体として満足できると評価されました。終了したグ
ラントは目標が達成されており、実施中のグラントもほとんどがグラント目標を達成できる見
込みです。
主な技術協力(TA)プログラムでは、いくつかのコンポーネントで幅広い成果が認められま
した。例えば協調支援 TA グラントは、複数の受益国で推定 1 万 8,000 人の受益者及び 200
ii
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
以上の機関を対象とした能力構築の支援、1,500 世帯に対する鳥インフルエンザ治療と農村獣
医 2,000 人以上の研修(カンボジア)、観光業の活性化および民間部門での雇用創出支援(モ
ザンビーク)、インフラ整備及びサービス提供の強化(ラオス人民民主共和国、ナイジェリア)、
炭素隔離を通じた地球規模の恩恵(モルドバ)などを支援しました。「稲作研究・生産性」プ
ログラムのグラントでは、新たなコメ品種や技術の提供により西アフリカで推定 25 万戸の農
家が恩恵を享受した他、農業改良指導員 2 万 5,000 人の研修、灌漑インフラの整備(モザンビー
ク)を行いました。「減災・復興」プログラムのグラントでは、例えば洪水防御、洪水リスクマッ
ピング・管理戦略(モンゴル)、構造的 ・ 地震危険度評価(ブータン、ネパール)、バヌアツの
津波警報など、複数の受益国で災害情報システムなどが改善されました。「障害と開発」では、
能力開発(ルーマニア)、スロープの建設(ギニア、モロッコ)、職業技能訓練の提供(ジャマ
イカ)、障害者の経済 ・ 社会参加の促進に向けた意識向上などを支援しました。少しずつでは
ありますが、こうしたグラントにより変化が生まれ始めています。PHRD の TA 以外のコンポー
ネント(日本/世界銀行共同大学院奨学金制度、日本・世界銀行パートナーシップ・プログラム、
日本人スタッフ・長期コンサルタント(ETC)プログラムなど)も 2014 年度に素晴らしい成
果を上げ、それぞれの目標を達成しています。
PHRD は、日本と世界銀行グループとの強力なパートナーシップの表れであると同時に、日
本と受益国の間の関係を育てる事も目指しています。PHRD の政策枠組みに基づき、日本政
府の代表がグラント調印式に出席する事もしばしばあります。また、現場では受益国政府と世
界銀行グループのスタッフが、国際協力機構(JICA)をはじめとする日本の機関と連絡を取
り合っています。更に、グラント活動を紹介するパンフレットやポスター、教材には必ず日本
の国旗が記され、グラント活動に支援を提供したドナーが日本である事が受益者に分かるよう
になっています。
PHRD の今後の政策枠組みは、パートナー間での定期的な議論、特に 2013 年 10 月に東京で
行われた年次協議を契機に変化しています。この年次協議では、これまでの進捗を踏まえつつ
も、絶えず変化を遂げる世界の開発環境の中で存在意義を維持していくためには、PHRD プ
ログラムの変革が必要である事が合意されました。こうした変更点や新たな重点課題について
の詳細は、改訂後のプログラム文書に記載され、実施に移されます。
世界銀行グループは、PHRD を通じた日本政府による多大な資金のご提供、ならびに途上国
における有益なプログラムへのご支援に感謝を申し上げます。PHRD は、他のプログラムで
は支援対象とならないコミュニティに手を差し伸べ、その多くの場合、他に類を見ない手法で
支援を実施するなど、日本政府と世界銀行グループが貧困削減にインパクトをもたらすプログ
ラムであり続けています。こうしたご支援、ならびにこの有意義かつ友好的なパートナーシッ
プに、心より感謝申し上げます。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
iii
目 次
信託基金・パートナーシップ局長からのメッセージ ii
略語 viii
概要 x
第 1 章
序論 1
第 2 章
2014年度のプログラム概要 3
PHRD 資金 3
TA の中核プログラム 5
TA 以外のプログラム 6
第 3 章
技術協力協調支援プログラム 8
TA 協調支援プログラム 8
TA 協調支援プログラムの成果 11
TA 協調支援グラントの意義の維持と持続的インパクト 13
成果の実例 13
iv
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
第 4 章
アフリカにおける稲作研究・生産性 19
プログラムの概要 19
西アフリカ農業生産性向上プログラム 21
稲作研究・生産性向上 23
全体的実績 24
成果の実例 25
第 5 章
減災・復興(DRR) 27
DRR プログラムの概要 27
2014 年度の DRR グラントの実績 31
成果の実例 34
第 6 章「障害と開発」(D&D) 36
D&D プログラムの概要 37
D&D への取組みにおける PHRD のアプローチ 38
D&D グラントの全体的パフォーマンス 40
成果の実例 41
第 7 章
その他(TA以外)のプログラム 42
日本/世界銀行共同大学院奨学金制度 42
日本・世界銀行パートナーシップ・プログラム 45
日本 PHRD スタッフ・ETC プログラム 46
グローバル・ディベロップメント・ネットワーク(GDN) 49
PHRD が支援し、世界銀行が管理するその他のプログラム 51
ドナー資金によるスタッフ採用プログラム(DFSP/JPO)
51
第 8 章
モニタリングと評価 52
第 9 章
今後の展望 54
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
v
囲み一覧
囲み 1
TA 協調支援:「満足」の評価を受けたグラントの例 11
囲み 2
TA 協調支援:「やや満足」の評価を受けたグラントの例 12
囲み 3
TA 協調支援:「やや不満足」の評価を受けたグラントの例 12
囲み 4
能力/制度の強化 14
囲み 5
研修の実施 15
囲み 6
天然資源と環境に対する管理の強化 16
囲み 7
社会・インフラサービスの提供の向上 17
囲み 8
灌漑・水資源管理の改善 18
囲み 9
金融・民間セクター開発の強化 18
囲み 10 改良型農業技術の採用 25
囲み 11 コメ生産量の増加 26
囲み 12 DRR:「やや不満足」の評価を受けたグラント 32
囲み 13 DRR:「やや満足」の評価を受けたグラント(計 5 件から抜粋) 32
囲み 14 DRR:「満足」の評価を受けたグラント 33
囲み 15 沿岸資源管理の強化 34
囲み 16 災害への備えの強化 34
囲み 17 気候変動への適応 35
囲み 18 障害者の社会参加の向上 41
図一覧
図 1
PHRD への拠出額、2010 〜14 年度(単位:100 万ドル) 4
図 2
PHRD 実行額:合計とプログラム別、2010 〜14 年度(単位:100 万ドル) 4
図 3
PHRD の未実行残高と TA プログラム未配分残高、2010 〜14 年度(単位:100 万ドル) 5
図 4
TA 協調支援:配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 9
図 5
TA 協調支援:地域別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 9
図 6
TA 協調支援:セクター別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 10
図 7
TA 協調支援:テーマ別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 10
図 8
TA 協調支援:パフォーマンス評価、2014 年度:開発目標と進捗状況 11
図 9
稲作研究・生産性:配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 21
図 10
WAAPP-1C 支援の PHRD グラントの実績、2014 年度 22
図 11
稲作研究・生産性:パフォーマンス評価、2014 年度:開発目標と進捗状況 24
図 12
減災・復興:配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 29
図 13
DRR:地域別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 29
図 14
DRR:セクター別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 30
図 15
DRR:テーマ別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 30
vi
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
図 16
DRR:パフォーマンス評価、2014 年度:開発目標と進捗状況 31
図 17
障害と開発:配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 37
図 18
D&D:地域別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 38
図 19
D&D:セクター別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 38
図 20
D&D:テーマ別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル) 39
図 21
JJ/WBGSP の通常プログラム及びパートナーシップ・プログラムの奨学生数、
1987〜 2014 年 43
図 22
日本・世界銀行パートナーシップ・プログラム:拠出額と実行額、2010 〜14 年度 46
図 23
日本人スタッフ・ETC グラント承認件数、2010 〜14 年度 47
図 24
日本人スタッフ・ETC グラント:拠出額と実行額、2010 〜14 年度 47
図 25
日本人スタッフ・ETC の採用:地域別内訳、2014 年度 48
表一覧
表 1
JJ/WBGSP プログラムに対する日本からの拠出 44
表 2
日本・世界銀行パートナーシップ・プログラム:2014 年度のグラント概要 45
表 3
日本人スタッフ・ETC グラント:2014 年度のグラント 48
表 4
リサーチ部門日本国際開発賞:2014 年度の成果 50
表 5
プロジェクト部門日本国際開発賞:2014 年度の成果 50
表 6
PHRD が支援するその他の世界銀行プログラム 51
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
vii
略 語
APL
ARRC
ASCEND
CAADP
CARD
D&D
DFi
DFPTF
DFSP
DO
DRR
ECOWAP
ED
ETC
FAO
FY
GDN
viii
Adaptable Program Loan
アダプタブル ・ プログラム ・ ローン(過去の教訓を生かした融資)
Africa Rice Research Center
アフリカ稲研究センター
Alumni and Scholars Capacity Enhancement Network for Development
奨学生・元奨学生の開発分野の能力向上ネットワーク
Comprehensive African Agricultural Development Program
包括的アフリカ農業開発プログラム
Coalition for African Rice Development
アフリカ稲作振興のための共同体
Disability & Development
障害と開発
Development Finance
開発金融総局
Trust Funds and Partnerships Department
信託基金・パートナーシップ局
Donor Funded Staffing Program
ドナー資金によるスタッフ採用プログラム
Development Objective
開発目標
Disaster Reduction and Recovery
減災・復興
Economic Community of West African Agriculture Policy
西アフリカ諸国経済共同体による農業政策
Executive Director
理事
Extended Term Consultant
長期コンサルタント
Food and Agriculture Organization
食糧農業機関
Fiscal Year
年度
Global Development Network
グローバル・ディベロップメント・ネットワーク
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
GoJ
GRM
ICM
IDA
IP
IRRI
ISR
IT
ITAIS
JGF
JPO
JICA
JSDF
MRU
NRDS
ODA
OPCS
PDO
PHRD
TA
TICAD
TF
TOR
TTL
WAAPP
WBG
Government of Japan
日本政府
Grant Reporting and Monitoring
グラント報告 ・ モニタリング
Implementation Completion Memorandum
実施完了メモランダム
International Development Association
国際開発協会
Implementation Progress
進捗状況
International Rice Research Institute
国際稲研究所
Implementation Status and Results Report
進捗状況 ・ 成果報告書
Information Technology
情報技術
Integrated Tax Administration Information System
統合的税務行政情報システム
Japan Grant Facility
日本グラント・ファシリティ
Junior Professional Officer
ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー
Japan International Cooperation Agency
国際協力機構
Japan Social Development Fund
日本社会開発基金
Mano River Union
マノ川同盟
National Rice Development Strategies
国家稲作振興戦略
Official Development Assistance
政府開発援助
Operations Policy and Country Services
業務政策・国別サービス総局
Project Development Objective
プロジェクト開発目標
Policy and Human Resources Development
日本開発政策・人材育成基金
Technical Assistance
技術協力
Tokyo International Conference on African Development
アフリカ開発会議
Trust Fund
信託基金
Terms of Reference
業務指示書
Task Team Leader
タスクチーム ・ リーダー
West Africa Agricultural Productivity Program
西アフリカ農業生産性向上プログラム
World Bank Group
世界銀行グループ
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
ix
概 要
世
界的に開発を取り巻く状況が変化する中、日本開発政策 ・ 人材育成基金(PHRD)は引
き続き、世界銀行グループの援助受入適格国における貧困削減と経済成長のために必要
とされる技術面および組織 ・ 制度面の能力の構築を目的として掲げています。この目的につい
ては、日本政府と世界銀行グループ間の協議を通じて定期的に見直され、対象の絞り込みが行
われています。
2014 年度、PHRD プロジェクトには 1 億 5,530 万ドルが配分されましたが、この内 3,890
万ドルが技術協力(TA)協調支援グラント向けでした。
「稲作研究・生産性」、
「減災・復興(DRR)」、
「障害と開発(D&D)」という 3 つの重点テーマへの配分額は、それぞれ 7,620 万ドル、2,170
万ドル、1,850 万ドルでした。2014 年度末現在、6,170 万ドルが実行され、32 の受益国で
40 件のグラントに提供されました。
PHRD TA グラント・プログラムは、2014 年度も引き続き、技術面や組織 ・ 制度面の能力構
築のために有効で持続的な貢献を行いました。PHRD は、その支援規模の大きさ、そしてキャ
パシティ ・ ビルディングに焦点を絞っている事から、貧困削減と経済成長回復に必要な能力育
成の重要な手段となっています。極度の貧困を撲滅し繁栄の共有を持続可能な形で促進するた
めには、引き続き技術面や組織 ・ 制度面の能力が不可欠です。PHRD の中核である協調支援
TA グラント・プログラム及び 3 つの重点テーマを通じ、受益国が抱える複雑で多面的な課題
への対応を続けています。
継続中の協調支援 TA プログラムでは、農業、金融、運輸、行政、水と衛生、保健の分野にお
ける技術協力活動を 12 カ国 16 件の協調支援グラントで支援しました。これらのグラントは、
x
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
推定 1 万 8,000 人の受益者及び 200 以上の機関を対象とする能力構築に充てられました。
「稲
作研究・生産性プログラム」では、アフリカにおける食糧不足と栄養不良の問題解消に向け、
イネ種子研究及び稲作生産性向上のための 7 件のグラントを提供しました。これらグラント
により推定 25 万戸の農家が恩恵を受けた他、農業改良指導員 2 万 5,000 人への研修が行われ
ました。更に、切望されている耐暑性と耐寒性を備えたイネ種子が、2018 年度までに開発さ
れる見込みです。「減災・復興」プログラムでは、10 件のグラントが提供されました。具
体的には、洪水防御、洪水リスクのマッピング・管理戦略、構造的 ・ 地震危険度評価、
脆弱性評価、沿岸域防護体制、津波警報を含む災害情報システムなどにより、
極めて脆弱なアジア諸国および太平洋島嶼諸国での災害への備え強化および
災害の影響軽減が図られています。「障害と開発」プログラムでは、7 件
のグラントにより障害者の平等な社会参加や移動への支援が図られてい
ます。具体的には、技術面や組織 ・ 制度面の能力構築、スロープの設
置と設備の供給、障害者に対する学校やコミュニティでの意識の啓発、
職業技能訓練の提供、教員への研修、公共交通機関における障害者の
移動支援、障害者の状況把握を提供しました。
全体として、PHRD TA グラント 40 件の実績は、ほぼ満足のいくもの
でした。中でも TA 協調支援プログラムと稲作研究・生産性向上プログ
ラムでは、90%以上のグラントで、技術面や組織 ・ 制度面の能力開発の
目標達成が見込まれています。この 2 つのプログラムには、それぞれ約
67%、40%のグラント資金が充てられています。いずれのグラントも、より
広範な投資プロジェクト内の不可欠な要素として、技術面や組織 ・ 制度面の能力開
発活動を全般的に支援しています。そのためグラント活動の進捗状況はメインのプロジェ
クトの進捗にいくらか依存する事になりますが、同時にグラント活動のインパクトの範囲も拡
大され効果も増幅します。例えば、稲作研究・生産性向上のグラントは、IDA のアダプタブル
・ プログラム ・ ローン(APL)が支援した過去の稲作研究プロジェクトから教訓を得て、その
恩恵を得ています。こうした 2014 年度のグラントから、比較的少額の PHRD グラントであっ
ても、大規模なプロジェクトやプログラムの一部として実施する事で、大きな成果や幅広いイ
ンパクトを生み出せる事が実証されたのです。
一方、「減災・復興」及び「障害と開発」の 2014 年度の進捗は、より緩やかなものでした。
これらのグラントは比較的範囲の狭い新たな重点分野を取り上げ、少額の資金で防災及び障害
者の福祉向上の政策と実務に大きな変化をもたらす事を目指しています。しかし、受益国にお
いても、またより大きな開発の世界においても、これまでほとんど注目されてこなかったテー
マであるため、こうした問題を前面に押し出し、その重要性や意味合いを政府や市民に訴える
ためには、成すべき事が山積しています。また、災害の起こりやすい国、あるいは紛争国のよ
うに障害者が多い国においてさえ、能力や支援がほとんど存在しない事が一般的です。更に、
いずれの分野のグラントも、より大きなプロジェクトやプログラムの一部に組み入れる事で、
グラント活動が支えられ成果が高まるといった恩恵も受けられていません。このような実施上
の課題には、管理者、スタッフ、受益国政府、ステークホルダーによる注意深く継続的なモニ
タリングと一層の努力が求められます。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
xi
こうした教訓は、既存の能力が限られている領域での能力構築には一般的に考えられている以
上の努力、時間、資金が必要である事を改めて突き付けています。次に、実施中のプログラム
(アフリカ稲作研究など)を基に行われる PHRD グラント、あるいは日本の政府開発援助(ODA)
大綱の重点部門におけるプロジェクトの一部として能力開発に充てられる PHRD グラントは、
そうしたプロジェクトの成功やインパクトに貢献する大きな成果を生み出す傾向があります。
最後に、PHRD が支援する TA 以外のプログラム(奨学金、パートナーシップ、スタッフ・
ETC プログラムなど)も引き続き、PHRD の行動計画全体を支える重要な要素です。
xii
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
第1章
序 論
日
本政府(GoJ)と世界銀行グループ(WBG)のパートナーシップである日本開発政策・
人材育成基金(PHRD)は、途上国による人材育成及び組織 ・ 制度面の能力強化を支援す
る事を目的としています。設立以来 27 年間、PHRD は、世界銀行グループの援助受入国がよ
り良い開発政策を策定し、重要なニーズに対応する強固なプロジェクトを準備し、世界銀行プ
ロジェクトの開始時や実施中の質を高めるために能力強化を図るなど、多種多様な開発活動を
提供してきました。また、気候変動、危機に瀕する生態系の保全、アフリカ地域の農業、減災・
復興、障害と開発といった主要な開発イニシアティブを支援しています。PHRD は、世界銀
行グループが運営する信託基金の中でも最大規模であり、研究、開発専門家の研修、知識の普
及、ステークホルダーと政府間のパートナーシップ強化を支援してきました。
開発を取り巻く状況は、日本政府が、PHRD の前身である日本グラント・ファシリティ(JGF)
を設立した 1987 年から大きく変化しています。しかし、そうした変化に取り残される事なく、
常にその目標や活動範囲を適応させている事が PHRD の特徴の 1 つと言えます。JGF 時代に
おける技術協力グラント 1 や、経済成長のための世界銀行プロジェクトの準備と実施から、現
在の PHRD 下でのアフリカの人々の食糧確保のための持続可能な稲作支援 2 まで、PHRD は、
各種国際機関と協力し、日本の政府開発援助(ODA)大綱に沿って最大のインパクトをもた
らす事のできる開発重点分野に常に取り組んでいます。
日本グラント・ファシリティ取決め書、1987 年 6 月 3 日。
PHRD 技術協力グラント・プログラム、2009〜13 年度、政策文書(2010 年 9 月改訂)。
1
2
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
1
PHRD の適応性が高い事は、2000 年のインパクト評価の結果が示す通りです。経済成長、人
材の育成、経済政策策定の能力強化を本来の目的とする一方で PHRD は、プロジェクト準備、
奨学金、日本人職員やコンサルタント、危機対応、機能強化のためにグラントを提供してきま
した。同様に、現在も援助受入適格国の技術面や組織・制度面の能力強化を図っており、農業
生産性と研究、減災・復興、障害と開発という 3 つの重点テーマの他、農業、金融、行政、
運輸、保健、水と衛生におけるキャパシティ・ビルディングを支援しています。
こうした適応性の高さも手伝い PHRD はこれまで、個々のテーマや開発重点分野でグラント
額以上のインパクトをもたらしてきました。この事は、2000 年の PHRD 調査でも統計的に示
され、現場での数々の事例がそれを裏付けています 3。2000 年のインパクト評価では、PHRD
グラントを得て準備された投資プロジェクトが 143 受益国の貧困削減に役立っただけでなく、
PHRD グラントなしで準備された投資プロジェクトよりも高い開発効果を上げた事が明らか
になりました。また、PHRD が支援した研修やキャパシティ・ビルディングのプログラムに
は波及効果があり、技術面や組織・制度面の能力が強化された結果、セクター別プログラムや
機関の有効性が高まり、経済成長の伸びや貧困削減にも貢献しました。本報告でも、そうした
成果を一部紹介しています。受益国における技術面や組織・制度面の能力強化が、自然災害の
ような事態への対応能力を高めるだけでなく、アフリカにおける飢餓や栄養不良への対策の一
環としてコメの収穫量増大が見込めるようになるなど、望ましい結果をもたらしているのです。
PHRD が状況の変化に迅速かつ適切に対応し、こうした影響を与えられる要因の 1 つとして、
日本政府と世界銀行グループが毎年行なう年次協議が挙げられます。これにより PHRD は、
最大のインパクトを与える開発重点分野に注力できるのです。2013 年 10 月に開かれた年次
協議では、PHRD がこれまでも、そして現在も、開発課題への取組みを促進するために役立
つ有益なパートナーシップ手段である事が改めて確認されました。このように PHRD は、日
本にとっても世界銀行グループにとっても、柔軟かつ意義のある存在であり続けています。
本年次報告では、2014 年度の PHRD の活動を、TA プログラムを中心に紹介しています。TA
プログラムには、協調支援活動と「アフリカ稲作研究・生産性」、「減災・復興」、「障害と開発」
という 3 つの重点テーマ領域があります。以下の各セクションでは、PHRD プログラムの規
模や構成に関する概要、TA 協調支援活動における資金の配分と活用、3 つの重点テーマにつ
いて世界各地で達成された成果の事例を紹介します。また、日本/世界銀行共同大学院奨学金
制度、日本・世界銀行パートナーシップ・イニシアティブ、日本人スタッフ・長期コンサルタ
ント(ETC)プログラムなど、TA 以外のプログラムについて概説した章もあります。更に、
モニタリングと評価、今後の展望についても簡潔に取り上げています。
3 Development Impact:Japan PHRD Fund, Resource Mobilization and Co-financing, World Bank (2000),
p.vi.
2
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
第2章
2014 年度の
プログラム概要
PHRD 資金
PHRD 設立から 2014 年度末までの期間に、日本は人材育成及び組織・制度面の能力の強化を
支援するために PHRD を通じて総額 28 億 8,000 万ドルを拠出してきました。2014 年 6 月
30 日までの累積実行額は 23 億 7,000 万ドルです。2014 年度の PHRD のプログラムは、TA
プログラム(協調支援活動及び 3 つの重点領域「アフリカ稲作研究・生産性」、「減災・復興」、
「障害と開発」)と、TA 以外の活動、すなわち日本/世界銀行共同大学院奨学金制度、日本・
世界銀行パートナーシップ・イニシアティブ、日本人スタッフ・長期コンサルタント(ETC)
プログラム、グローバル・ディベロップメント・ネットワーク(GDN)、世界銀行グループが
管理するその他の信託基金やイニシアティブへの資金移転で構成されています。
2010 ~ 14 年度の年間平均拠出額は約 9,200 万ドル、2013 年度の拠出額は 1 億 500 万ドル、
2014 年度の拠出額は 9,900 万ドルでした(図 1、基礎データは付録統計資料を参照)。2012
~ 13 年度には TA の中核プログラムへの追加拠出はありませんでしたが、2014 年度には第 5
回アフリカ開発会議(TICAD V)のために 760 万ドルが拠出されました。残りの拠出額の大
半(51%)は、様々なマルチドナー信託基金への移転のために多国間プログラムに配分され
ました(図 1 参照)。
TA プログラムの実行額は、数年間にわたる減少(2010 年度の 3,800 万ドルから 2012 年度
には 1,000 万ドルに)の後、大幅に改善し、2013 年度と 2014 年度にはそれぞれ 2,300 万ド
ルに達しました(図 2 参照)。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
3
図
1
PHRD への拠出額、2010 〜14 年度(単位:100 万ドル)
120
100
その他
80
スタッフ・グラント
パートナーシップ
60
奨学金
多国間
40
TAプログラム
20
-
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
出典:DFPTF
2014 年度末のプログラム全体の流入額(拠出、収入、還流など)と流出額(実行、手数料、
PHRD 以外のプログラムへの資金移転など)を計算すると未実行残高は 3 億 6,500 万ドルと
なり、2013 年度の残高 3 億 7,800 万ドルと比べて 3%(1,300 万ドル)減少しています(図 3)。
特に TA プログラムでは、2012 年度と 2013 年度に追加拠出がなかった一方で、承認済みグ
ラントが加速度的に実行され、未配分残高は 2011 年度の 2 億 2,800 万ドルという高水準から
2013 年度は 1 億 1,200 万ドルまで減少しました。TICAD V プログラムに対する拠出により、
2014 年度の未配分残高は 1 億 1,400 万ドルの微増となりました。
図
2
PHRD 実行額:合計とプログラム別、2010 〜14 年度(単位:100 万ドル)
80
70
60
TAプログラム
気候変動
50
奨学金
40
パートナーシップ
スタッフ・グラント
30
その他
20
合計
10
0
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
出典:DFPTF
4
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
PHRD の未実行残高と TA プログラム未配分残高、2010 〜14 年度
(単位:100 万ドル)
3
400
350
300
流入額
250
流出額
200
未実行残高
未配分TA
150
100
50
0
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
出典:DFPTF
TA の中核プログラム
現在、PHRD TA の中核プログラムは「アフリカ稲作研究・生産性プログラム」、「減災・復興
(DRR)
」、「障害と開発(D&D)」という 3 つのテーマと TA 協調支援プログラムで構成されて
います。これらプログラムへの配分額は合計 1 億 5,530 万ドルですが、ここには総額 3,890
万ドルの協調融資枠での活動も含まれます。日本政府と世界銀行グループはアフリカ地域にお
ける食糧生産と栄養不良の問題に集中的に取り組んでおり、現在、資金の約 2 分の 1 に相当
する 7,620 万ドルが「稲作研究・生産性」に割り当てられています。その他 2 つの重点テー
マである「減災・復興」と「障害と開発」への配分額は、それぞれ 2,160 万ドル、1,850 万
ドルでした。2014 年度末現在、32 の受益国で 40 件のグラントに 6,170 万ドルが実行済みで
す。これに加えて「気候変動」枠では、過去に承認済みのグラントに対して約 64 万ドルが
2014 年度に実行されました。
協調支援枠では、世界銀行グループが定義する地域区分の内 4 地域―アフリカ地域(AFR)、
東アジア・大洋州地域(EAP)
、ヨーロッパ・中央アジア地域(ECA)、中東・北アフリカ地
域(MENA)―において、複数のセクター(農業・漁業・林業、金融、保健・その他の社会サー
ビス、行政・法律・司法、運輸、水・衛生・治水)での技術面や組織 ・ 制度面の能力開発のた
めの支援を提供しました。2009 年度までに 16 件の協調支援グラントが承認されており、
2014 年度はこれらのグラントが推定 1 万 8,000 人の受益者の研修や能力開発に加え、中央政
府及び地方政府の 200 以上の機関での組織の有効性や政策策定・実施能力の向上に充てられ
ました。2014 年度は新たに 430 万ドルが実行され、合計実行額は 2,630 万ドル(68%)と
なりました。16 件のグラントの内 7 件が 2014 年度に終了し、この内 6 件は終了時に全額が
実行済みでした(第 3 章参照)。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
5
図
1 つめの重点テーマである「アフリカ稲作研究・生産性プログラム」には、(i)国際稲研究所
(IRRI)及びアフリカ稲センター(ARRC、旧 WARDA)による、暑さや乾燥に強いイネ品種
の開発、(ii)アフリカ稲作研究・生産性向上プログラムの支援、という 2 つの目標が設定さ
れており、現在、この 2 つの目標に沿った 7 件のグラント(総額 7,620 万ドル)が提供され
ています。同プログラムは 2009 年度に開始され、遅くとも 2018 年度までに完了の予定です。
2014 年度末現在、累積実行額は 3,040 万ドルで、2014 年度にはその 2 分の 1 弱の 1,420 万
ドルが実行されました。このプログラムは既に、ニーズに基づいた研究、新技術、研究者の共
有といった目覚ましい成果をもたらしています。恩恵を受けた農家は 25 万戸と推定され、2
万 5,000 人以上の農業改良指導員や補助スタッフへの研修も行われています。このプログラ
ムを通じて、待ち望まれてきたイネ種子の開発も 2018 年度末までに実現の見込みです(第 4
章参照)。
2 つめの重点テーマである「減災・復興(DRR)」は、災害の起こりやすい国、特に太平洋島
嶼諸国を含むアジアの国々で自然災害への脆弱性低減を目的としています。気候変動をはじめ
とする各種原因による洪水の危険を低減するため、10 件のグラントが、洪水対策を中心に、
技術面や組織 ・ 制度面の能力開発を支援しています。2011 年度の開始以来の合計配分額は
2,170 万ドルで、この内 2014 年度までの累積実行額は 290 万ドルに上ります。グラントの対
象となっている 10 カ国にもたらされた成果としては、洪水リスク軽減のための予防的工事、
洪水リスクのマッピング、洪水管理の戦略策定、構造的 ・ 地震危険度評価、脆弱性評価、沿岸
域防護体制、災害情報システムなどが挙げられます。災害情報システム分野での支援では、脆
弱国における災害への備えを強化して影響を軽減するための津波警報の開発が行われました。
しかし、全体として DRR プログラムの進捗ペースは遅く、世界銀行グループや受益国が更に
関心を高め、より一層努力する事が必要です(第 5 章参照)。
3 つめの重点テーマ「障害と開発(D&D)」は、受益国における障害をめぐる問題への理解を
深めるための活動を支援する事です。本報告が対象とする期間中の配分額は 1,850 万ドルで
した。このテーマに沿った 7 件のグラントは、技術面や組織 ・ 制度面の能力構築の他、スロー
プの建設や各種の設備器具の購入、障害者のアクセスや移動支援などに充てられています。更
に、障害者に社会や職場での平等な機会を提供する政策の策定に加え、学校やコミュニティで
の意識の啓発、職業技能訓練の提供、教員への研修、公共交通機関における障害者の移動支援、
データベース作成などを通じた障害者の状況把握などにも充てられました。精神障害者の福祉
の向上を具体的な目標としたグラントも 1 件あります。プログラム全体のグラントは総額
1,850 万ドルで、2014 年度の累積実行額はこの内 200 万ドルでした。このプログラムの実施
状況は第 6 章で概説します。
TA 以外のプログラム
これまで同様、PHRD は日本/世界銀行共同大学院奨学金制度、日本・世界銀行パートナーシッ
プ・イニシアティブ、日本人スタッフ・長期コンサルタント(ETC)プログラム、世界銀行グ
6
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
ループが管理する他の信託基金やイニシアティブへの資金移転など、TA 以外の活動も支援し
ました(第 7 章参照)。
日本/世界銀行共同大学院奨学金制度(JJ/WBGSP):このプログラムは、技術や知識を移
転し、途上国における人材育成の促進や強化を図る事を目的として、加盟国の国籍を有する人
材を対象に大学院教育を受けるための奨学金を提供しています。対象となるのは、開発関連分
野で働く中堅の人材です。このプログラムの 2014 年度の実行額は 1,470 万ドルでした。
日本・世界銀行パートナーシップ・イニシアティブ:このプログラムは、主要な開発問題にお
ける日本のステークホルダーと世界銀行の関係を一層確たるものとし、国際的な開発課題に対
する日本国民の関心を高め、援助協調イニシアティブの強化を図るものです。また、日本国内
で開発に対する日本国民の関心を喚起する事も目的としており、そのための開発援助政策や援
助協調に関する調査、研究、セミナー、会議、ワークショップへの資金提供、日本と世界銀行
グループのパートナーシップ強化のための活動、世界銀行グループの活動に関する日本国内で
の広報を行っています。2014 年度末現在、配分額の 67%が実行済みです(累積実行額は 1,230
万ドル、2014 年度の実行額は 420 万ドル)。
日本人スタッフ・長期コンサルタント(ETC)プログラム:本プログラムは、世界銀行グルー
プの職員又は長期コンサルタント(ETC)として日本人を採用するため、2003 年に設置され
ました。その目的は、世界銀行グループで中堅又は幹部として働く日本人職員を増やし、そう
した職員が世界銀行グループの業務に携わる事で専門知識や経験が活かされ、開発金融に関す
る知識の交流が図られる事にあります。本プログラムは、世界銀行グループの ETC、有期雇用、
無期雇用の職員を支援しており、2014 年度末までの日本からの拠出額は合計 5,337 万ドルで
した。この内 40%が実行済み(累積 2,077 万ドル)で、2014 年度の実行額は 420 万ドルで
した(詳細は「日本人スタッフ・長期コンサルタント(ETC)プログラム」のセクションを
参照)。
PHRD の支援により世界銀行が管理するその他のプログラム:PHRD は、世界銀行グループ
の PHRD 以外のプログラムへの資金の移転を通じて世界銀行グループの様々な活動を支援し
ています。2014 年度は 13 件の移転が完了し、その総額は 6,480 万ドルでした(詳細は「TA
以外のプログラム」のセクションを参照)。
その他:開発関連分野での研究を支援するため 2008 年に設置された日本/インドネシア大統
領奨学金プログラム(JIPS)のために、2014 年度も引き続きグラント(86 万ドル)が実行さ
れました。このプログラムに対する日本からの拠出額は 800 万ドルで、一回で行われました。
グローバル・ディベロップメント・ネットワーク(GDN)は、国際開発賞を支援しています。
国際開発賞は、経済学や社会科学の研究者の研究能力を向上させ、途上国で社会から取り残さ
れている人々に恩恵をもたらす革新的な社会開発プロジェクトに資金を提供するために設けら
れました。日本政府は、GDN を通じて(a)リサーチ部門日本国際開発賞(ORD)と、(b)
プロジェクト部門日本国際開発賞(MIDP)という 2 つの賞を支援しています。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
7
第3章
技術協力協調支援
プログラム
TA 協調支援プログラム
このプログラムの目的は、援助受入適格国で行われる世界銀行プロジェクトの組織・制度面
の能力開発コンポーネントに協調融資を行う事にあり、2014 年度には 16 件のグラントが
提供されました。いずれのグラントもこの目的に沿っており、世界銀行プロジェクトの実施、
人材の育成や開発政策の策定という特定の側面に重点が置かれています。この内 12 件のグ
ラントは、国家公務員や地方公務員に対する、プロジェクトやプログラムの実施、政策や手
順の策定、サービス提供のための能力の構築に焦点を置いたものでした。
2014 年度当初の時点で実行中だった 16 件のグラントの内、7 件は 6 月 30 日までに終了し、
9 件が引き続き実行中です。2014 年度の合計実行額は 430 万ドルで、累積実行額は、配分
額 3,900 万ドルの 67%に相当する 2,630 万ドルでした(図 4)。2014 年度に終了したグラ
ントの大半で、ほぼ全額(グラント額の 98%)が実行されています。
グラント活動は、世界銀行グループが定義する地域区分の中から 4 地域、すなわちアフリカ
地域(AFR)、東アジア・大洋州地域(EAP)、ヨーロッパ・中央アジア地域(ECA)、中東・
北アフリカ地域(MENA)で行われました。アジア・大洋州地域への TA グラントが件数(7
件)・配分額(1,590 万ドル)共に最も多く、これにヨーロッパ・中央アジア地域(1,160
万ドル)、アフリカ地域(1,070 万ドル)が続き、中東・北アフリカ地域への TA グラント
は 1 件のみ(エジプト、2014 年度に終了)で配分額は 70 万ドルでした。TA グラントが実
施された国は、アルバニア、アンゴラ、アゼルバイジャン、カンボジア、エジプト、キルギ
ス共和国、ラオス人民民主共和国、モルドバ、モザンビーク、ナイジェリア、タジキスタン、
ベトナムでした。グラント実行率が高かったのはヨーロッパ・中央アジア地域(80%)で、
8
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
TA 協調支援:配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
4
図
45.0
38.9
40.0
35.0
30.0
26.3
24.6
25.0
67%
20.0
14.3
15.0
12.3
10.0
配分額
累積実行額
14.0
98%
50%
5.0
0.0
進行中(9件)
終了(7件)
合計(16件)
出典:DFPTF
アフリカ地域(72%)がこれに次いでおり、中東・北アフリカ地域での 1 件は終了時の累
積実行率が 100%でした。詳細は図 5 に示しています。
この 16 件の協調支援グラントの金額をセクター別に見ると、農業・漁業・林業への配分額
が最も高くなっています(図 6)。配分額が最も少なかったのは保健・その他の社会サービ
スで、金融も単独セクターとしては低い配分額でした。配分額に対する累積実行額の割合は
それぞれのセクターにおける実施の複雑さが反映されており、社会サービスでは全額が実行
されています。
TA 協調支援:地域別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
5
18.0
15.9
16.0
14.0
12.0
11.6
10.7
9.3
10.0
7.7
8.0
72%
6.0
8.6
54%
配分額
累積実行額
80%
4.0
2.0
0.0
0.7
アフリカ地域(3件)
0.7
100%
東アジア・
ヨーロッパ・
中東・
大洋州地域(7件)
中央アジア地域(5件)
北アフリカ地域(1件)
出典:DFPTF
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
9
図
図
6
TA 協調支援:セクター別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
16.0
14.0
13.6
11.2
12.0
82%
10.0
配分額
8.0
7.0
6.0
1.9
2.0
0.0
4.7
3.8
4.0
3.0
3.0
2.3
100%
金融
保健・その他の
3.9
4.0
82%
59%
34%
49%
農業・漁業・林業
累積実行額
6.8
行政・法律・司法
運輸
水・衛生・治水
社会サービス
出典:DFPTF
図 7 に示したテーマ別の内訳はセクター別配分と呼応しており、環境・天然資源管理と農村
開発を合わせると最大の配分額になります。配分額が最も少なかったのは人間開発です。2 番
目に配分額が多かったテーマは金融・民間セクター開発でした。配分額に対する累積実行額の
割合は、人間開発が 100%で、環境・天然資源管理も高い実行率(95%)を達成しています。
図
7
TA 協調支援:テーマ別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
10.0
9.4
9.0
8.0
7.0
6.0
7.8
6.9
6.6
95%
5.0
73%
累積実行額
3.0
3.0
3.0
100%
2.0
2.8
2.0
53%
31%
1.0
環境・
金融・
天然資源管理
民間セクター開発
人間開発
公共セクター・
農村開発
ガバナンス
出典:DFPTF
10
配分額
5.3
5.0
64%
4.0
0.0
6.9
6.5
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
都市開発
TA 協調支援プログラムの成果
短期的な成果と中間結果を把握し、グラント実施の進捗状況の測定を目的とするグラント報告
・ モニタリング(GRM)及び実施完了メモランダム(ICM)の評価によると、TA 協調支援グ
ラント 16 件中 14 件(88%)が全体的なグラント目的の達成で満足(「やや満足」以上の評価)
と評価されています。2 件のグラントについては 2014 年度の
開発目標と進捗状況の両方で不満足(「やや不満足」以下)と
評価されました(図 8)。2014 年度に終了したグラント 7 件
の内 6 件は、持続可能な成果が得られるであろうと評価され
ています。未終了のグラントも含む 16 件のグラントの成果に
ついて正確な量的評価を示すのは簡単ではありませんが、実
TA 協調支援:
パフォーマンス評価、
2014 年度:
開発目標と進捗状況
行中のグラントの 88%で、設定された目的とそれに沿った成
8
図
不満足(2件)
果の達成が見込まれています。
12.5%
こうした評価はタスクチームにより提供され、セクター/グ
ローバル・プラクティス及びカントリー・マネージャーが評
価内容を精査します。評価内容が現実に即していないと思わ
れる場合には、マネージャーがフィードバックやレビューを
加える事もあります。従って、評価はグラントの成果に関す
るグローバルなアセスメントであると言えます。次に紹介す
87.5%
る「満足」又は「やや満足」と評価されたグラントの例(囲
み 1 と囲み 2)が示す通り、評価の対象は、成果達成のため
に投入された資源やサービスなども含まれ往々にして複雑と
満足(14件)
出典:DFPTF
なりがちです。しかし、この評価システムはそれらを効果的
囲み 1
TA 協調支援:
「満足」の評価を受けたグラントの例
実行中の PHRD TA 協調支援グラント「TF056896:ナイジェリア-連邦道路整備プロジェクト」の 2014 年度の評価は「満
足」でした。このグラントの目的は、世界銀行グループのプロジェクトにおける組織・制度面の能力開発コンポーネントに対し
て協調融資を行う事にあります。同プロジェクトは、一部の支線道路の提供と管理に民間セクターの参加を促す事により、民間
セクター主導型の経済成長につながる適切な連邦道路インフラの開発・保守を持続可能な形で進めるための支援を提供します。
同グラントは、中央政府の公共事業・交通省、ならびに州レベル及び地区レベルのスタッフ合計 1,500 人の研修に充てられまし
た。この研修の結果、スタッフは道路設計マニュアル、路面補修の方法、更には交通安全及び交通モニタリングの基準を策定し
ました。こうして策定された基準や手順は全て実際に使われており、安全性、保守、効率の改善を示す成果事例が集まっています。
また、公共事業・交通省、州事務所、地区事務所での財務管理や調達のプロセスも改善され、コスト削減効果や物品・工事の引
き渡しの迅速化につながっています。こうしたキャパシティ・ビルディング活動がプロジェクトの全体的な実施に影響を与えて
いる事が、グラント目的の達成が「満足」と評価された根拠となっています。主要区間の修繕の完了を考慮して終了日が延期さ
れましたが、2016 年のプロジェクト終了までに、グラント及びプロジェクトの目的は全面的に達成される見込みです。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
11
囲み 2
TA 協調支援:
「やや満足」の評価を受けたグラントの例
「TF057140:エジプト-都市交通インフラ整備プロジェクト準備グラント」に対する 2014 年度終了時の最終評価は「やや
満足」でした。この協調支援グラントは、関連する都市交通プロジェクトの技術協力に充てられました。プロジェクトの目的は「サー
ビス提供の効率的かつ協調的な管理、地方財政及び資産管理の強化のための中長期的な制度・規制の構築、ならびにインフラ、サー
ビス提供、土地開発への戦略的投資を通じた大カイロ圏の 3 県における効率性及び居住適性の改善」でした。グラント活動は
2009 年から実施され、グラント資金は、主要な都市交通サブプロジェクトであるヘリオポリス・トラム系統の修繕及び延伸の
ための基本技術設計及び入札文書の作成に充てられました。グラント実行中に政府は、技術設計契約の修正を行うため、グラン
トの未実行部分のほとんどを再配分するよう要請しました。この契約修正により、設計が変更され、当初の予定よりも長いトラ
ム系統の建設が行われました。グラント終了時点でトラム系統の設計作業は完了していましたが、入札文書については、政府が
官民連携を検討していた事から完了しませんでした。こうした経緯と、72 万ドルのグラント全額が実行された事に鑑みタスクチー
ムは、終了時のグラント目的の達成に対する評価を「やや満足」としました。
に捉える世界的尺度となっています。こうした成果の統合が、グラントの目的達成へとつなが
るのです。
このプログラムの全てのグラントが良好な成果を達成できたわけではありません。開発の問題
を抱えている国もある中、開始が遅れたグラントもあれば、実施に際して障害に直面したり、
政策や目的、環境が変わってしまったグラントもありました(囲み 3 を参照)。
囲み 3 TA 協調支援:
「やや不満足」の評価を受けたグラントの例
「TF057847:ベトナム-税務行政の近代化」は、税務行政近代化のための IDA プロジェクトの中のキャパシティ・ビルディ
ングのコンポーネントに対する協調融資です。このグラントは 2007 年度に承認され、リスクベース監査、コンプライアンス・
変更及びプロジェクト管理に関する財務省職員の知識共有と能力強化のための一連の研修・ワークショップに充てられました。
研修のねらいは、アップグレードされた税務管理システム(TMS)ソフトウェアや統合的税務行政情報(ITAIS)システムの使
い方に職員が精通する事でした。このプロジェクトの下で ITAIS の調達も予定されていましたが、2 つの県で TMS の導入に成
功したにもかかわらず、政府は ITAIS を調達しても政府の既存システムと相いれないと判断し、プロジェクトの取消を示唆して
きました。7 年近くかけてようやく実施されたものの、キャパシティ・ビルディングの目的は一部しか達成されませんでした。
12
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
TA 協調支援グラントの意義の維持と
持続的インパクト
キャパシティ・ビルディング。グラント額は、多くの場合小規
模であるにもかかわらず、研修、メンタリング、教育の活動は、キャ
パシティ・ビルディングに大いに貢献してきました。例えば、
「TF056832:カンボジア-鳥・ヒトインフルエンザ対策・準備緊急
プロジェクト」では、300 万ドルの協調支援グラントにより 5,000 人
の医療従事者が研修を受け、鳥インフルエンザが発生した 30 の村で推定
1,500 世帯の治療に当たりました。同じく協調支援グラントの「TF092396:
カンボジア
ヒトと家畜の健康
プログラム:
タジキスタン-公共財政管理近代化プロジェクト」では、財務省職員 9,000 人が
会計、情報技術(IT)、予算編成に関する研修を受けました。16 件のグラント全てが大
規模な人間開発プログラムを実施したわけではありませんが、全体としてこの 16 件の TA グ
ラントは、行政、農業、水と衛生、保健、運輸といった分野で能力開発の実現に大きく役立ち
ました。
機関と政策の強化。TA 協調融資グラントは、研修を受けた人数といった直接的で測定可能な
結果をはるかに超えたインパクトをもたらします。能力を身につける事は、財政制度や保健制
度の改善や IT システムの刷新につながるだけではありません。政策、実務、サービスの向上
をもたらし、多くの人々、しかも、ほとんどの場合そうした政策やサービスがなければ生活が
改善される事のない困窮者に恩恵をもたらす事が多いのです。スタッフが研修を受けると、彼
らが所属する機関で、スタッフの、そして機関の効率性や有効性が高まり、新たなサービスや
より良いサービスを提供できるようになります。例えば、ラオス人民民主共和国の計画局は、
「TF095057:ラオス人民民主共和国-農村開発のための持続可能な林業プロジェクト協調支援」
を通じて環境インパクト評価を実施し、気候変動の影響への緩和策を講じる事が可能になりま
した。
貧困の削減。PHRD TA 協調支援プログラムでは 9 件のグラントが現在も実行中ですが、いず
れも実施業績が「満足」と評価されており、受益国における技術面や組織 ・ 制度面のキャパシ
ティ・ビルディングへの大きな貢献が続いています。こうしたキャパシティ・ビルディングは、
関連プロジェクトのインパクトや業績の向上にも貢献し、究極的にはプロジェクト自体の目的
の達成を可能にし、運輸、農業、保健、行政といった分野での改善を通じて、貧困削減という
最終目標の達成も支援します。日本政府は、世界銀行グループと連携して、PHRD プログラ
ムの焦点を農業、防災、障害の重点開発テーマに絞る事を決定していますが、TA 協調支援グ
ラントは引き続き、極度の貧困の撲滅と繁栄の共有の促進という日本と世界銀行グループの目
標に深く関わっていきます。TA 協調支援グラントは、柔軟性と適応性があり、また、コミュ
ニティの福祉向上や貧困の撲滅を妨げるような障害に直面するコミュニティのために、運輸、
農業、保健、その他の様々な分野で改善をもたらす役割を担っており、支援の継続に値するも
のと言えるでしょう。
成果の実例
PHRD プログラムは、こうした協調支援を提供する事により、様々な国、セクター、テーマ
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
13
家畜と村民の健康維
持を通じて、生活
の質を高める
で数多くの世界銀行プロジェクトを補完しています。世界銀行プロジェクトの様々な成果達成
に、PHRD グラントもその範囲内で貢献しているのです。グラント資金は世界銀行グループ
の資金と合同で管理されている事もあるため、直接的な因果関係を特定するのは多くの場合、
困難ですが、PHRD グラントは、プロジェクトの準備や実施における具体的な側面に対して
資金を提供しています。2014 年度の PHRD による協調支援信託基金のほとんどは、能力と制
度の強化、研修の実施、天然資源や環境管理の向上、社会・インフラサービス提供や灌漑・水
資源管理の改善、金融及び民間セクター発展のための環境の強化など、いくつかの選ばれた側
面に対象を絞っています。ほとんどの場合、こうした活動の結果はプロセスや手順の改善と関
係しており、目に見えるインパクトが現れるまでには中長期の期間を要します(例えば、
PHRD グラントによりセクター戦略が改善されたとしても、その戦略が採択され、長期にわたっ
て実施される必要があります)。従って、「成果」は、このような全体的な視点で捉えられるべ
きです。グラント報告・モニタリングで得られたそうした成果や結果の例を、いくつかの囲み
記事で紹介します。
囲み 4 能力/制度の強化
「TF055065:アルバニア-沿岸地域管理・浄化プロジェクト」は、アルバニアの沿岸地域及び海洋の天然資源を保護し、持続
可能な観光業の開発促進に役立っています。
◦ 沿岸部の 13 村のコミュニティでの投資の特定や継続的な実施監督など、プログラム実施能力を強化
◦ ポルトロマーノのホットスポットの浄化を支援するためのステークホルダー及びコミュニティの能力開発・研修プログラムを
提供
◦ 定期的なモニタリング・評価(M&E)を含め、プロジェクト実施のための能力を大幅に向上
「TF092396:タジキスタン-公共財政管理近代化プロジェクト」では、公共部門の支出管理の効率性と透明性の強化を目指し
ています。
◦ 研修センターの実績に関する焦点を絞り込んだ指標やロードマップ案など、財務省の研修センター再編のための事業計画を策
定
◦ ISO レベルの品質管理システムに基づくセンター運営の効率性向上のための管理システム立ち上げ、及び文書化
「TF057847:ベトナム-税務行政の近代化」は、関連プロジェクトにおけるキャパシティ・ビルディングのコンポーネントに
資金を提供しました。
◦ リスクベース監査、コンプライアンス・変更及びプロジェクト管理に焦点を置き、過去数年間にわたる知識共有及び能力強化
のための一連の研修・ワークショップを開催
「TF056325:ベトナム-沿岸都市環境衛生プロジェクト」は、プロジェクトの対象都市であるドンホイ、クイニョン、ニャチャ
ンで環境衛生を持続可能な形で改善し、都市住民の生活の質を高めました。
◦ 関連部署、企業、自治体の運営機関に携わるスタッフのキャパシティ・ビルディングに貢献
◦ 都市女性連合(WU)が策定した道路管理と学校美化の活動など、環境保護活動を組織
14
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
囲み 5 研修の実施
「TF057845:アンゴラ-自作農による市場志向型農業」は、IDA プロジェクトによるキャパシティ・ビルディング活動に協調
融資を行いました。
◦ 4 万 4,515 人の自作農を対象にコミュニティ組織とリーダーシップ、生産の系統化、白トウモロコシ、豆、ジャガイモ、キャッ
サバの農業技術に関する研修を行い、この内 14,737 人の研修は FAO のファーマー・フィールド・スクールを通じて実施
◦ EDA(アンゴラの農業開発院州事務所)の技術者 59 人を含む 1,087 人を対象に、コミュニティにおけるリーダーシップの
研修を、EDA 技術者 32 人を対象に参加型農村評価方法の研修を、それぞれ実施
「TF056832:カンボジア-鳥・ヒトインフルエンザ対策・準備緊急プロジェクト」では、カンボジアにおける鳥・ヒトインフ
ルエンザ(AHI)感染によるヒト及び養鶏セクターへの影響を最小限に留め、抑制の準備を整え、ヒトインフルエンザのパンデミッ
クに対応できるよう、カンボジア総合 AHI 対策国家計画の実施を支援しました。
◦ 同プロジェクトにより見直されたカリキュラムに沿って、新たに着任した 2 千人以上の村落家畜衛生ワーカー(VAHW)に
対する研修や、従来からいる農村獣医 3 千人以上に対する復習研修を実施し、プロジェクトが目標とした研修参加人数の
700 人を大幅に上回る
◦ ヒトの健康に関するコンポーネントでは、州・地区の緊急対応チームの受講比率、大流行の兆候発生 24 時間以内の調査・警
告発動の割合、感染が疑われる患者に対する感染対策・症例管理ガイドラインに従った治療の割合について、それぞれ目標を
達成
◦ プロジェクト期間中の医療従事者 500 人に対する症例管理、及び感染対策に関する研修の実施
「TF092394:ラオス人民民主共和国-カムムアン県農村生計プロジェクト」は、カムムアン県における灌漑開発など、サービ
スやインフラを分散して提供するため、計画立案プロセス及び財政管理を強化しています。
◦ 県・地区の職員およそ 700 人(内 191 人が女性)に対して研修を実施する事により、受講者は研修で得た知識を応用して
より良いサービスの提供が可能に
「TF093083:ラオス人民民主共和国-道路セクター・プロジェクト協調支援」は、
(i)2 つの主要国道と地方道路網での道路サー
ビスの改善、(ii)台風「ケッツァーナ」により被害を受けた道路の修繕、(iii)道路セクターの迅速な災害対応のための緊急事態
対策基金の設置と運用開始を目指しています。
◦ 公共事業・運輸省の県・地区の職員約 1,500 人(内 28%が女性)を対象に、技術・戦略研修コースを実施
◦ 2 つの県(ウドムサイ県とフアパン県)の地区職員に対する技術研修の試行による公共事業・運輸省や県事務所の機能強化
「TF093088:モルドバ-持続可能な統合的森林管理及び植林による炭素隔離のためのコミュニティ支援プログラム」は、新た
に植林されたコミュニティの森林の持続可能性確保、ならびに炭素隔離と大気中の温室効果ガス濃度低下を通じて地球規模の利
益実現を図りました。
◦ 林業研究所(FRI)のスタッフならびに参加コミュニティの市長や技術者に研修を実施
「TF092396:タジキスタン-公共財政管理近代化プロジェクト」は、公共部門の支出管理の効率性と透明性の強化を図るもの
です。
◦ 実地の技能開発研修の実施
◦ 様々な組織で予算関係の職務に携わる約 9 千人を対象とした予算の執行と編成、会計、IT プログラムに関する研修の実施
「TF056325:ベトナム-沿岸都市環境衛生プロジェクト」は、プロジェクトの対象都市であるドンホイ、クイニョン、ニャチャ
ンで環境衛生を持続可能な形で改善し、都市住民の生活の質を高めました。
◦ 下水、廃水処理、固形廃棄物の管理部門で従事するスタッフに対する実地研修の実施
◦ プロジェクト・マネジメント・ユニット(PMU)のスタッフに対する、設計、モニタリング・評価(M&E)、監査、プロジェ
クト完了報告などの分野におけるサブプロジェクトの管理と効率向上のための研修の実施
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
15
囲み 6 天然資源と環境に対する管理の強化
「TF055065:アルバニア-沿岸地域管理・浄化プロジェクト」は、アルバニアの沿岸地域及び海洋の天然資源を保護し、持続
可能な観光業の開発の促進に役立っています。
◦ ブトリント国立公園保護区域管理計画の中の社会評価コンポーネントを完了
◦ 南岸開発計画に参加型アプローチを適用
「TF095057:ラオス人民民主共和国-農村開発のための持続可能な林業プロジェクト協調支援」は、天然の生産林の持続可能
な管理を通じて、ラオス人民民主共和国の農村部の貧困緩和を支援しています。具体的には、(i)参加型の持続可能な森林管理
(PSFM)の全国的な普及を可能にするため、政策、法律、ガバナンス、インセンティブの枠組みの改善、(ii)国内で重要度の高
い自然生産林の PSFM への組み入れ、(iii)持続可能な林業、コミュニティ開発、実行可能な生計向上システムの構築による利益
を通じた村民の福祉と生活の向上を目指しています。
◦ 材木やそれ以外の林産物の不法な収穫や取引の規制のための森林監視局(DOFI)の人材能力強化
◦ 森林法執行のための法的枠組みとガバナンスの枠組みを改善し、森林犯罪に対する県・全国レベルの監視や報告の向上支援
◦ 森林法の執行及びガバナンス戦略の策定
「TF054759:モザンビーク-国境をまたぐ保全地域及び観光開発プロジェクト」では、国境をまたぐ保全地域(TFCA)での
環境的に持続可能な観光セクターの成長によるコミュニティの収益拡大を目指しています。
◦ マプト特別保護区及びフチ回廊地帯における観光業の枠組みを策定し、承認を取得
◦ ルボンボ TFCA 地区における観光業を拡大
◦ ビランクーロ地区、ススンジェンガ地区、マンシア地区の観光基本計画(TMP)を策定
◦ 目標の 20 を超える 24 のコミュニティ自治会を設立
◦ 設備投資を通じて 1,100 人分以上の新規雇用を創出し、18 コミュニティの 3 千人が恩恵を享受
◦ ポンタ・ド・オウロ海洋保護区の指定
「TF093088:モルドバ-持続可能な統合的森林管理及び植林による炭素隔離のためのコミュニティ支援プログラム」
◦ 植林されたコミュニティ森林と牧草地が生長し、参加コミュニティへの環境・天然資源の恩恵を創出
◦ コミュニティによる天然資源の管理能力の強化
◦ メインとなるモルドバ・コミュニティ林業プロジェクトの検証及び UNFCC 登録を完了。暫定認証排出削減量のクレジット
交付によって証明された炭素隔離を通じた地球規模の利益の実現
◦ 目標の 500 ヘクタールを上回る 1,453 ヘクタールの統合的森林区域の確立
◦ 目標の 5 万トンを上回る 5 万 1,000 トンの二酸化炭素の隔離
◦ 森林管理方法の採用を 100%達成
「TF056325:ベトナム-沿岸都市環境衛生プロジェクト」は、プロジェクトの対象都市であるドンホイ、クイニョン、ニャチャ
ンで環境衛生を持続可能な形で改善し、都市住民の生活の質を高めました。
◦ ドンホイ市における排水・固体廃棄物に関する新たな規制を承認;政府職員が洪水マッピングを新しく開発し、水理モデルを
再検討
◦ クイニョン市及びニャチャン沿海都市で、未回収廃棄物による汚染を取り上げた「クリーンで健全な都市パートナーシップ」
などの環境意識向上プログラムを開始;正しい公衆衛生及び廃棄物・排水の収集の重要性についての意識を向上
16
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
囲み 7 社会・インフラサービスの提供の向上
「TF056832:カンボジア-鳥・ヒトインフルエンザ対策・準備緊急プロジェクト」では、カンボジアにおける鳥・ヒトインフ
ルエンザ(AHI)感染によるヒトや養鶏セクターへの影響を最小限に留め、抑制の準備を整え、ヒトインフルエンザのパンデミッ
クに対応できるよう、カンボジア国家総合 AHI 対策計画の実施を支援しました。
◦ 目標を上回る 30 の村落(1,440 世帯)において、プロジェクトが推奨する予防法を 2 種類以上採用する事により、病気の
予防効果を拡大
◦ 鳥、ヒトのいずれにも大流行が疑われる場合の対応迅速化など、動物とヒトへの医療サービスを共同で進める事で、鳥インフ
ルエンザのリスク対応における有効性の向上
◦ 村落家畜衛生ワーカー(VAHW)による高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)と疑われる症例の報告件数が増加;こうした症
例報告に対する 24 時間以内の調査の実施
◦ インフルエンザ様疾患(ILI)の監視を 6 カ所から 10 カ所に拡大
「TF057140:エジプト-都市交通インフラ整備プロジェクト準備」では、関連する都市交通プロジェクトの技術協力に資金を
提供しました。
◦ インフラ、サービス提供、土地開発への戦略的投資を通じた大カイロ圏の 3 県における効率性および居住適性を改善
◦ 中長期的な制度面・規制面の基盤を強化
◦ ヘリオポリス・トラムの修繕・延伸の基本設計契約の完了
「TF093083:ラオス人民民主共和国-道路セクター・プロジェクト協調支援」は、
(i)2 つの主要国道と地方道路網での道路サー
ビスの改善、(ii)台風「ケッツァーナ」により被害を受けた道路の修繕、(iii)道路セクターでの迅速な災害対応のための緊急事
態対策基金の設置と運用開始を目指しています。
◦ 国道 6A 号・1B 号を改善し、地方道路の路面補修を改良
◦ 全長 1,448 km の地方道路網を強化
「TF056896:ナイジェリア-連邦道路整備プロジェクト」では、メインとなるプロジェクトにおける組織・制度面の能力開発
のコンポーネントに対して協調融資を行っています。
◦ 全国に広がる 14 件の定期保守契約の完了
◦ 2 件の大規模な道路修繕契約の完了
◦ ガバナンス・説明責任行動計画の完了
「TF056325:ベトナム-沿岸都市環境衛生プロジェクト」は、プロジェクトの対象都市であるドンホイ、クイニョン、ニャチャ
ンで環境衛生を持続可能な形で改善し、都市住民の生活の質を高めました。
◦ インフラ及び都市景観の改善と開発に貢献し、都市部の一部地域における洪水を最大限抑制
◦ 衛生、保健、生活水準の向上
◦ 環境の保護と改善の重要性に対する認識の向上
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
17
ベトナム:
沿岸都市環境衛生
プロジェクト
プロ
ジェクト
実行前
囲み 8 灌漑・水資源管理の改善
ヴィンタイ村の
「TF056324:キルギス共和国-水管理改善プ
ダットラン再定住地
ロジェクト」では、(i)灌漑農業の生産性を持続
可能な形で向上するための灌漑サービスの提供
と水管理、(ii)水の利用者及び国のための全国
的な水資源ガバナンスの改善を図っています。
◦ 2 件の河川流域計画の作成、及び承認
◦ 修復された灌漑施設で再利用される水量の割
合(回収率)が 74%から 89%に向上
◦ 大量の水供給の結果、水利組合(WUA)へ
プロ
ジェクト
実行後
の調査で満足度が上昇
◦ 修復後、主要作物の全体的な収穫量が増加
◦ 全国的な水管理戦略の策定
囲み 9 金融・民間セクター開発の強化
「TF057849:アゼルバイジャン-企業部門・公共部門の説明責任」は、国際的なベスト・プラクティスに沿って公共部門・企
業部門の財務報告における説明責任と透明性を強化し、改革を持続していくための制度強化を支援しています。
◦ 改良された会計システム(FARABI)を配備し、当初契約されていたモジュールをパイロットサイト 39 カ所で実施
◦ 公共部門会計担当者 2,700 人を対象に再研修を実施
「TF054759:モザンビーク-国境をまたぐ保全地域及び観光開発プロジェクト」では、国境をまたぐ保全地域(TFCA)での
環境的に持続可能な観光セクターの成長によるコミュニティの収益拡大を目指しています。
◦ ルボンボ、リンポポ、チマニマニの各 TFCA 地区における民間の観光・保全関連活動の拡大に貢献
◦ ルボンボ、リンポポ、チマニマニの各 TFCA 地区での投資家満足度が 62%上昇
「TF093085:ベトナム-金融セクター近代化及び情報システム・プロジェクト」は、ベトナムの金融セクターの主要 3 機関、
すなわちベトナム国家銀行、信用情報センター、ベトナム預金保険機構の有効性の強化を支援しています。このプロジェクトは、
中核的機能の強化と国際的慣行に沿った組織管理の改善に焦点を置いています。
◦ 新たな事業プロセスを設計し、技能不足評価、ユーザー・ニーズの明細、機能要件を策定し、ベトナム国家銀行スタッフに対
する銀行業務監督、金融政策、報告制度、会計、内部監査などの分野の研修を実施
18
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
第4章
アフリカにおける
稲作研究・生産性
プログラムの概要
本プログラムは、アフリカにおける稲作生産性とコメ生産高の向上を目的としています。この
目的を達成するため、(i)アフリカ向けに改良されたコメ品種の開発、(ii)稲作研究における
制度・組織面及び人材の能力強化、改良型や適切な稲作技術の普及定着と農家での採用・利用
状況への投資など、特定の国における国家稲作振興戦略(NRDS)の実施に対する支援が行わ
れます。前述の目的は、アフリカにおける稲作研究の強化と稲作生産性の向上に向けた取組み
を支援するアフリカ稲作振興のための共同体(CARD)、包括的アフリカ農業開発プログラム
(CAADP)、アフリカ開発会議(TICAD)が定めた枠組み及び重点課題に合致しています。
2014 年度、進行中のグラントは 7 件(7,620 万ドル)で、内 3,040 万ドルが実行済みです(図
9)。いずれのグラントも、暑さと乾燥に強いイネ種子の開発、アフリカにおける稲作生産性
強化のための研究支援という 2 つの関連した目的に沿っています。7 件のグラントの内 4 件は、
西アフリカ農業生産性向上プログラムの第 3 フェーズ(WAAPP-1C4)を通じてイネ種子研究
を支援するものです。WAAPP-1C の 4 件のグラントへの配分額は合計 3,500 万ドルで、内 2,030
万ドルが実行済みです。それ以外の 3 件のグラントは、マダガスカル、モザンビーク、タン
ザニアでの稲作研究と生産性向上を図りました。この 3 件への合計配分額は 4,110 万ドルで、
内 1,000 万ドルが 2014 年度末までに実行済みです。7 件のグラントはいずれも農村開発のテー
4 PHRD グラントは、現在の WAAPP-1C プログラム参加 8 カ国の内 4 カ国(コートジボワール、ギニア、リベリア、
シエラレオネ)を支援しています。WAAPP-1C の残り 4 カ国(ベナン、ガンビア、ニジェール、トーゴ)は、IDA のア
ダプタブル・プログラム・ローン(APL)が支援しています。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
19
数 字 で 見 る ア フリカ 稲 作 研 究 ・ 生 産 性
配分額:
進行中のグラント:
対象:
7件
4 カ国
近代的な
農業技術を
採用した農家:
25万4,000 戸
20
7,620 万ドル
実行額:
3,040 万ドル
耕作面積:
10万6,245
ヘクタール
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
稲作研究・生産性:配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
9
90.0
80.0
76.2
70.0
60.0
50.0
40.0
30.0
30.4
40%
20.0
実行額
35.0
20.3
58%
10.0
0.0
配分額
41.1
10.0
24%
合計(7件)
WAAPP-1C(4件)
稲作研究(3件)
出典:DFPTF
マへの支援ですが、セクターは農業・漁業・林業(配分額 6,190 万ドル、実行額 2,290 万ドル)
と、産業・貿易-農業関連産業(配分額 1,430 万ドル、実行額 750 万ドル)に分かれています。
西アフリカ農業生産性向上プログラム
4 件 の WAAPP-1C プ ロ グ ラ ム・ グ ラ ン ト に よ り、 西 ア フ リ カ 諸 国 経 済 共 同 体 農 業 政 策
(ECOWAP)の残り 4 カ国に CAADP の適用が広がりました。これらのグラントは、IDA の
アダプタブル ・ プログラム ・ ローン(APL)による 10 年を期間とする WAAPP プログラムで
これまでに良好な成果を上げた 2 つのフェーズ 5 を基にしています。WAAPP の過去の業績と
しては、規制の調和化、専門センターの設置、需要主導型研究システムの実施、研究者や公開
技術の共有などが挙げられます。WAAPP-1C での 4 件の PHRD グラントは、マノ川同盟(MRU)
に加盟するこれら 4 カ国 6 でコメが主要な産物である事から、稲作生産性を高めるための研究
開発に集中的に取り組んでいます。過去 40 年間でコメの需要は、生産量の増加を上回るペー
スで増大しており、そのため、4 カ国全てがコメの主要輸入国へと転じました 7。WAAPP-1C
の全体目標は、MRU 諸国におけるコメ生産量を 2018 年までに倍増させる事にあります。し
かし、グラントの実施に影響を与えているのが、MRU 加盟 4 カ国がいずれも脆弱国である事
です。いずれも長年にわたる紛争や戦争から抜け出つつあるところであり、人材、インフラ、
5 WAAPP-1A では 2007 年にガーナ、マリ、セネガルを承認、WAAPP-IB では 2010 年にブルキナファソ、コートジ
ボワール、ナイジェリアを承認。
6 コートジボワール、ギニア、リベリア、シエラレオネ。
7 2008 年の合計コメ輸入量は約 130 万トン。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
21
図
そして組織・制度面の能力が失われています。更に、この内 3 カ国は、2012 年のエボラ出血
熱大流行の後遺症に今なお苦しんでいます。
WAAPP-1C の具体的な目標は、参加国が、ECOWAP が掲げる西アフリカ地域の優先農産品
に則した主要農産物の技術改良を生み出し、その採用を促進する事です。MRU 加盟各国は、
アフリカ・ライス・センター(アフリカ・ライス)、及び西・中央アフリカ農業研究・開発協
議会(CORAF/WECARD)の支援を得て、JICA が支援する CARD プロセスを通じたそれぞ
れの国家稲作振興戦略(NRDS)を作成しています。WAAPP-1C は 2011 年度に承認され、
2012 年に起きたエボラ出血熱の大流行にもかかわらず 3 年後には MRU 加盟 4 カ国で大きな
成果を挙げました。2014 年度(図 10)、4 カ国での受益者数は 25 万 4,000 人に達し、その
内 46%が女性でした(2016 年度までの最終目標は受益者 60 万人、女性比率 40%)。このプ
ログラムで開発された改良技術を活用して約 9 万 3,000 ヘクタール(目標は 2016 年度まで
に 32 万ヘクタール)が耕作されており、そうした耕作地では収穫量が 50 ~ 150%増加して
います。改良技術を利用する農家は約 9 万 1,000 戸(目標は 2016 年度までに 23 万戸)に上
ります。研修、学術交流、地域・全国向け広報誌の発行、支援対象研究プロポーザルのいずれ
も、4 カ国全てで目標が達成されており、研修に関しては目標を上回りました。4 件のグラン
トの実施についての 2014 年度の評価は「満足」でした。しかしこの内 3 カ国は、エボラ出血
熱の大流行のために評価が下がるおそれもあります。
図
10
WAAPP-1C 支援の PHRD グラントの実績、2014 年度
700,000
600,000
600,000
500,000
400,000
320,000
300,000
254,000
240,000
116,840
100,000
46%
受益者(合計)
女性受益者
93,000
91,000
改良技術
改良技術
(ヘクタール)
(生産者の戸数)
出典:DFPTF
22
2014年度実績
230,000
40%
200,000
0
2016年度目標
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
稲作研究・生産性向上
稲作研究・生産性向上のコンポーネントを支援する 3 件のグラントは、マダガスカル、モザ
ンビーク、タンザニアで行われています。「TF016875:マダガスカル-灌漑・流域管理プロジェ
クト」は、特定の灌漑地とその周辺流域における稲作生産性向上を目的としています。このグ
ラントは、稲作研究の強化とアフリカにおける稲作生産性の向上を支援するアフリカ開発会議
(TICAD)のプログラム及び JICA 稲作生産性プロジェクトと連動しており、受益農家 7,230
戸のコメ収穫量増加を目指した灌漑・流域開発及び稲作研究に資金を提供しています。2014
年度末現在、配分された 1,270 万ドルからの実行はまだ開始されていません。
2011 年度に承認されたモザンビークにおける「TF010214:PROIRRI -稲作のための持続可
能な灌漑と開発」は、3 つの県で新設もしくは改良された灌漑施設による市販
用農産物の生産量拡大と農家の生産性向上を目的としています。このグ
ラントは、受益農家や農務省職員に対する技術協力及び研修、灌漑・
排水インフラの設計、環境緩和策の策定に役立てられています。
灌漑・排水インフラの整備は、この 3 年間で目標の 1,900 ヘク
タールに対してわずか 50 ヘクタールに留まりました。現在、
新たに 870 ヘクタールについて調達が進められています。
920 ヘクタールについては、灌漑・排水インフラの設計、
及び水利用者のための法整備も完了しています。しかし、
研修に関しては、コンサルタント雇用の遅れから、実施さ
れていません。これまでにグラント配分額 1,425 万ドルの
内 250 万ドルが実行されましたが、プロジェクト及びグラ
ントの実施に対する評価は「やや不満足」となっています。
「TF011170:タンザニア-農業セクター開発プロジェクトへ
の補完的資金供給」は研究開発サービスの規模拡大、キャパシ
ティ・ビルディング、市場との結びつきを支援する PHRD グラン
トで、受益者 3 千人を対象とした研修、貯蔵施設の建設、設備の調
達に役立てられました。農場での新技術の実地説明、相互訪問、視察に
より、地区レベルの灌漑スタッフ、農業改良指導員、農家が恩恵を享受しました。
2014 年度末までに 1,420 万ドルのグラントの 50%以上(750 万ドル)が実行されました。
しかし、こうした活動は、プロジェクトの主目的であるコメ生産高の増加と貧困の削減には余
り結びついていません。このプロジェクトとグラントは、2015 年 12 月をもって終了の予定
です。目的達成についてのプロジェクトの評価は「やや満足」となっています。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
23
全体的実績
この重点テーマにおける 7 件のグラントの実績は、受益国が困難な環境に置かれているにも
かかわらず、ほとんどが「満足」(図 11)と評価されています。いくつかの国では長期にわた
る内戦によって農村地域も影響を受け、多数の村民や農民が暴力から逃れるために都市部に移
りました。こうした事態により、暑さと乾燥に強いイネ種子の開発とコメ生産量の増加という
目的の達成がいっそう重要性を増しています。更に、研究の促進や、研究者、農業改良指導員、
農家への研修における PHRD 技術協力の重要性も高まっています。現在、西アフリカの 14 カ
国で進められている耐性の高いイネ種子開発の目標達成には、そうした国々における研究開発
の交流がプラスに働いています。
地域内で開発された稲作生産性向上の成果や技術は、WAAPP-1C の目的達成に向けて PHRD
が支援する 4 カ国にも恩恵をもたらしています。しかしこの内 3 カ国は、エボラ出血熱の大
流行により、農村部が荒廃し、新たな種子や技術の普及が中断しています。調達、あるいは実
施開始の遅れといった実施面での問題もまた、稲作生産性向上の妨げとなっています。稲作研
究・生産性向上のコンポーネントを支援している 3 件のグラントには、パフォーマンスにば
らつきが見られます。モザンビークにおけるグラントは、灌漑インフラ整備の進展が限定的で
あるため、「やや不満足」と評価されており、タンザニアにおけるグラントは、稲作生産性に
一定の向上が見られるため、「やや満足」と評価されています。マダガスカルでのグラントは、
「満足」と評価されています。アフリカ向けの耐性の強いイネ種子の開発及び稲作の生産性向
上という主目的は、2016 年度までに達成可能であると見込まれるものの、そのためには一部
グラントの期間延長が必要になる可能性があります。
図
11
稲作研究・生産性:パフォーマンス評価、2014 年度:開発目標と進捗状況
8
7
7
100%
6
6
86%
5
満足
4
不満足
3
2
1
1
14%
0
開発目標の評価
0
進捗状況の評価
出典:DFPTF
24
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
成果の実例
これらのグラントの目標は、ECOWAP が示す西アフリカ地域の最優先農産品に則して、参加
国の最重要農産物の改良技術とその採用を促進する事です。いずれのグラントも進行中である
事から、指標は暫定的なものですが、主な指標は、新たな技術や作物品種を採用した農民の数
(多くの場合男女別に集計しその比率を確認)と目標値の比較、改良された品種や技術を使用
した耕作面積(ヘクタール)といった成果を測定するものです。今のところ、収穫量の増大、
余剰農産物の増大、貧困削減や繁栄の共有を促進する所得の増大などを示す一貫性のある情報
はありません。同様に、栄養状態の変化や成長阻害の減少に関する情報も、一般的には頻繁に
収集されるデータではないため、まだ得られていません。従って、「成果」とは、厳密に選ば
れた現時点での結果指標に限られており、それに応じた扱い方をするべきです。
囲み 10 改良型農業技術の採用
これら 4 件のグラントは、農業知識・技術、マーケティング・システム、インフラへのアクセスを拡大し活用を促進する事に重
点が置かれています。
「TF010826:コートジボワール- WAAPP-1C のアフリカ稲作研究・生産性向上プログラムを支援する PHRD TA プログ
ラム」
◦ 新品種や新技術を採用した農家 2 万 852 戸(目標の 69.5%)が恩恵を享受
◦ 改良技術で 1 万 421 ヘクタールを耕作(目標は 3 万 6,000 ヘクタール)
「TF099674:ギニア- WAAPP-1C のアフリカ稲作研究・生産性向上プログラムを支援する PHRD TA プログラム」
◦ 新たなコメ品種や農業技術を採用した農家 1 万 772 戸(目標の 88%)が恩恵を享受
◦ 改良技術で 4 万 2,000 ヘクタールを耕作(目標は 3 万 5,000 ヘクタール)
「TF099511:リベリア- WAAPP-1C のアフリカ稲作研究・生産性向上プログラムを支援する PHRD TA プログラム」
◦ 新品種や新技術を採用した農家 4 万 6,522 戸(目標の 64.5%)が恩恵を享受
「TF099510:シエラレオネ-西アフリカ農業生産性向上プログラム(WAAPP)第 1 フェーズのプロジェクト」
◦ 新技術を採用した農家 6 万 7,101 戸(目標の 67%)が恩恵を享受
◦ 新技術を使用して 2,224 ヘクタールを耕作
「TF011170:タンザニア-農業セクター開発プロジェクトへの補完的資金供給」
◦ 農産物の輸出高全体に占める農産加工品輸出高の比率で目標を達成
◦ 灌漑区域を開発
◦ トラクターの使用により自作農の効率が向上
◦ 農業改良指導員のカバー率が 59%に上昇、ファーマー・フィールド・スクール(FFS)を通じて更なる技術を採用
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
25
囲み 11 コメ生産量の増加
下記のグラントは、コメ生産量増加を主な目的としています。
「TF010826:コートジボワール- WAAPP-1C のアフリカ稲作研究・生産性向上プログラムを支援する PHRD TA プログ
ラム」
◦ 5 万 3,483 戸の農家が恩恵を享受(目標の受益者数は 5 万戸);現時点では女性受益者の割合(1 万 2,500 戸、25%)が
目標の 40%を下回る
「TF099674:ギニア- WAAPP-1C のアフリカ稲作研究・生産性向上プログラムを支援する PHRD TA プログラム」
◦ 目標を超える稲作農家 3 万 2,522 戸が恩恵を享受(目標の受益者数は 2 万戸)
◦ 新技術を使用して 5 万 1,600 ヘクタールを耕作
「TF099511:リベリア- WAAPP-1C のアフリカ稲作研究・生産性向上プログラムを支援する PHRD TA プログラム」
◦ 6 万 4,288 戸の農家が恩恵を享受(目標の受益者数は 5 万戸)、内 4 万 248 戸が女性受益者(目標は 2 万戸)
◦ 改良技術を使用して 3 万 8,000 ヘクタールで稲作(目標は 3 万 6,000 ヘクタール)
「TF010214:モザンビーク- PROIRRI -稲作のための持続可能な灌漑開発」
◦ マニカ州の契約栽培農家制度で 224 ヘクタールの灌漑建設計画を開始
◦ 50 ヘクタールが完了、174 ヘクタールが進行中
「TF099510:シエラレオネ-西アフリカ農業生産性向上プログラム(WAAPP)第 1 フェーズのプロジェクト」
◦ 新品種や新技術を採用した農家 2 万 9,615 戸(目標の 50%)が恩恵を享受
「TF011170:タンザニア-農業セクター開発プロジェクトへの補完的資金供給」
◦ 20 の灌漑施設で稲作生産性が 4.1 トン / ヘクタールから 5.8 トン / ヘクタールに上昇(目標は 6.0 トン / ヘクタール) 26
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
第5章
減災・復興(DRR)
DRR プログラムの概要
「減災・復興(DRR)」プログラムは、災害に見舞われやすい国、特にアジア地域の国々で自
然災害への脆弱性を軽減する事を目的としています。災害に対する都市の強靱性強化、早期警
戒システムの向上、そして意識や能力の向上を図る有益な知識・学習計画の実施に重点が置か
れています。このプログラムは、甚大な被害をもたらした 2011 年 3 月の東日本大震災の直後、
日本政府により人道的支援の観点から 2011 年度に設立されました。災害の起こりやすいアジ
ア地域や太平洋地域の国を支援し、そうした国々の防災能力を高める事で、日本が経験したよ
うな人的・物的被害の回避、又は軽減を目指しています。
このプログラム下の 10 件のグラントは、キリバスの 1 件を除いていずれも別のプロジェクト
との関連で実施されたものではなく、2014 年度に終了したネパールでのグラント以外は全て
実施中です。南アジア地域(SAR)及び東アジア・大洋州地域(EAP)の 10 カ国 8 の自然災
害に対する脆弱性の軽減支援を目的としており、沿岸・水資源管理の能力強化、災害への備え
強化と災害の影響軽減に向けた災害情報のより効果的な管理、気候変動への適応といったアプ
ローチが採られています。グラント配分額は合計 2,170 万ドル(図 12)で、2014 年度の累
積実行額は 290 万ドル(13%)でした。
8 南アジア地域のブータン、ネパール、パキスタン、スリランカ、及び東アジア・大洋州地域のキリバス、ラオス人民
民主共和国、モンゴル、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
27
数 字 で 見 る:
高いリスクにさらされた
アジア・大洋州の
4 ヶ国
配分額:
で災害に
2,170 万ドル
対する強靱性を強化
実行額:
290 万ドル
10 件
実施中のグラント:
10
カ国
440 人
の専門家 が防災、イン
フラ保護、強靱性強化へ
の新たなアプローチを
学習(モンゴル、
ラオス
人民民主共和国)
津波 早期警戒 センターを、
自然災害に対する
脆弱性の高さでは世界有数のバヌアツに新設
28
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
減災・復興:配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
12
図
25.0
20.0
21.7
20.3
15.0
配分額
累積実行額
10.0
5.0
2.9
2.8
1.4
14%
0.0
7%
進行中(9件)
13%
0.1
終了(1件)
合計(10件)
出典:DFPTF
このプログラムでは東アジア・大洋州地域の 6 カ国に対して 1,540 万ドル、南アジア地域の
4 カ国に対して 630 万ドルが配分されています。実行率はまだ低く、東アジア・大洋州地域
が 17%、南アジア地域は 4%です(図 13)。
DRR:地域別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
13
18.0
16.0
15.4
14.0
12.0
配分額
10.0
累積実行額
8.0
6.3
6.0
4.0
2.0
-
2.6
0.3
17%
4%
東アジア・大洋州地域
南アジア地域
出典:DFPTF
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
29
図
予想されたとおり、洪水対策(水・衛生・治水)に最も多くの資金が配分されており、全体の
2,170 万ドルの内 1,218 万ドルが配分されています(図 14)。その他、農業・漁業・林業、教
育、行政・法律・司法、運輸の各セクターがそれぞれ 137 万ドルから 273 万ドルの配分を受
けています。実行率はまだ大きくは伸びておらず、引き続き注視していく必要があります。
テーマ別に見ると、グラント配分額は主に、社会的保護・リスク管理と環境・天然資源管理に
分けられており、都市開発にも少額が割り当てられています(図 15)。主要 2 テーマの実行率
はまだ低く(21%以下)、都市開発については現時点では未実行です。
図
14
DRR:セクター別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
14.00
12.18
12.00
10.00
8.00
配分額
累積実行額
6.00
4.00
2.72
2.73
2.00
-
1.37
0.6
22%
農業・漁業・林業
0.1
7%
教育
2.67
行政・法律・司法
1.9
0.3
10%
16%
運輸
水・衛生・治水
出典:DFPTF
図
15
DRR:テーマ別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
14.0
12.6
12.0
10.0
8.2
配分額
8.0
累積実行額
6.0
4.0
1.7
2.0
21%
-
環境・天然資源管理
1.2
9%
社会保護・リスク管理
0.9
都市開発
出典:DFPTF
30
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
-
2014 年度の DDR グラントの実績
対象 10 カ国の防災能力の強化という目的の達成には、更なる努力が必要です(図 16)。開発
目標についての評価は、6 件のグラントが満足(「やや満足」を含む)、4 件が不満足(「やや
不満足」を含む)でした。進捗状況については 5 件が満足(「やや満足」を含む)、残り 5 件
が不満足(「やや不満足」を含む)でした。開発目標の評価よりも進捗状況の評価の方に、「不
満足」が多い事は、2,170 万ドルの配分額の内累積実行額が約 290 万ドル(13%)に留まっ
ているという進捗の遅さからも頷けます。10 カ国の内ソロモン諸島は、2014 年 4 月に大洪
水で壊滅的な被害を受け、それ以外の 9 カ国も自然災害に見舞われやすいため、このプログ
ラムの確実な実行は急務となっています。しかし、タスクチームによる努力にもかかわらず、
防災能力構築のためのグラント資金はまだ、効果的な形で十分に活用されるに至っていません。
気候変動などの要因によってこうした国々の災害に対する脆弱性が高まる可能性もあるため、
取組みの加速化が課題となります。状況の説明を受けたタスクチームが、パートナーと共にグ
ラントをより効果的に実施するための取組みを進めています。グラントの大半は 2015 年度か
ら 2016 年度にかけて終了予定であり、迅速な実施が極めて重要です。
DRR:パフォーマンス評価、2014 年度:開発目標と進捗状況
16
7
6
6
60%
5
4
4
5
5
50%
50%
満足
40%
不満足
3
2
1
0
開発目標の評価
進捗状況の評価
出典:DFPTF
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
31
図
囲み 12 DRR:
「やや不満足」の評価を受けたグラント
◦「TF011184:モンゴル-防災能力の向上」:ウランバートル市の洪水リスク・マップと防災計画が作成され、市議会によ
る採択を待っています。しかし、悪天候から家畜を守る早期警戒システム及び緊急飼料確保のシステムは計画が予定よりも遅
れており、担当チームはグラント終了日の延期を依頼しています。
◦「TF011452:ネパール-カトマンズ渓谷地域の学校の耐震性パイロット・プログラム」:本グラントは 2012 年 8 月に発
効し、チームはカトマンズ渓谷にある全ての公立学校の構造・耐震性の評価方法を策定しました。しかし、2014 年にリス
ク評価を請け負うコンサルタントの採用が難航したため、グラント終了予定日の 2014 年 6 月をもって終了する事が決定さ
れました。
◦「TF011617:スリランカ-コロンボ都市圏:洪水に強い都市環境の実現」:本グラントは 2012 年に開始されました。湿
地帯管理戦略及び洪水リスク評価策定に当たるコンサルタントの準備が進められており、少人数の職員を対象に洪水リスク管
理の研修も行われています。しかし、2 年以上が経過しても、満足な実施段階には至っておらず、2016 年 1 月のグラント
終了までに残りの能力開発活動を完了できる見込みは低いと言わざるをえません。
囲み 13 DRR:
「やや満足」の評価を受けたグラント(計 5 件から抜粋)
◦「TF011448:キリバス-防災・適応プロジェクト」
:このグラントは、気候変動による淡水供給、及び沿岸インフラへの
影響に対する強靱性強化を目指しています。開始から約 3 年が経ち、海岸の強靱性を高めるためのマングローブの植林はほぼ
完了しています。海面上昇からの保護が必要な 9 カ所については、防潮堤の設計は完了していますが 9 カ所全てを建設する
には予算が不足しているため、キリバス政府は、海面上昇のリスクが最も高い場所を選定する必要があります。一方、気候変
動や自然災害への全体的な計画も策定されており、政府はその実現のために投資家やパートナーを探しています。まだ多くの
課題が残されていますが、政府とタスクチームは、2016 年 8 月のグラント終了日までにこうした取組みを完了する予定です。
◦「TF011271:ラオス人民民主共和国-国家計画における災害・気候リスク管理の主流化」:本プロジェクトでは、運輸、
灌漑、都市計画についてのリスク評価完了に加え、災害リスク軽減を国家計画や予算の中で主流化するためのガイドラインも
策定されています。更に、公共事業省の国・県レベルの職員 90 人に対する研修が行われました。能力開発に関する残りの取
組みも 2015 年 1 月のグラント終了日までに完了の見込みです。
32
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
囲み 14 DRR:
「満足」の評価を受けたグラント
「TF012184:バヌアツ-災害リスク削減の主流化」は、国内の主要な都市部における都市計画及び津波への備えの強化を目標
としています。目標達成に向けた歩みは順調で、満足のいく進展が見られます。開始から 3 年後に早期警戒システムの設備が調
達され、先般オープンした津波警報センター及び国家緊急対応センターに設置されました。また、津波センターの改修工事も完
了しました。しかし、それ以外の工事については、プロジェクト・マネジメント・ユニット(PMU)での財務管理上の問題により、
実施の遅れが生じています。災害リスクの削減を図る活動や投資の増大に対応するため、PMU スタッフの業務遂行能力を高める
必要があり、現在そのための取組みが進行中です。こうした努力が功を奏し、進捗状況で「満足」の評価を受けられるかどうかは、
次回の進捗状況報告により明らかになるでしょう。
当初の予定通りには進んでいないプロジェクトがある場合には、
支援内容を定期的に見直し、実施状況次第では優先項目を変更
するなど、引き続き執行部の意思決定が求められています。また、
「減災・復興」のように明確に定義された領域であっても、グラ
ント支援を受けているプロジェクトによって、その内容は多様
で、ばらつきも存在します。こうした多様性ゆえに、効果的な実
パプア
ニューギニア:
ベダウ村にあるマギ・
ハイウェイ沿いのじゃ
かご工法
施を図る取組みが必要となります。グラントの金額は 130 万ドル
から 270 万ドルと比較的少額であるため、意識啓発キャンペー
ン、研修、災害への備えとなる設備の調達など、幅広く活動資
金を提供するのは困難です。更に、災害の影響を受けやすい国
の多くは、災害への備えを強化した経験が乏しく、そうした国
には必要な能力を構築するためのアプローチから始める必要が
あったと言えるでしょう。また、開発インパクトをもたらすため
に、政府や関連省庁からのコミットメントや協力が不可欠な事は言
うまでもありません。
ブータン
地震リスクへの
強靱性強化:
プナカ市内の伝統的住宅
-練り土を固めた建物の
類型調査
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
33
成果の実例
囲み 15 沿岸資源管理の強化
「TF011448:キリバス-防災・適応プロジェクト」は、気候変動が淡水の供給や沿岸インフラにもたらす影響に対し、強靱性
を高める事を目指しています。
◦ リスクの高い海岸保全区域 9 カ所についての詳細設計、図面、仕様書が完成し、環境ライセンスを交付- 9 カ所のうち 4 カ
所は、実施中のキリバス道路修復プロジェクト、2 カ所は実施中のキリバス航空インフラ整備プロジェクトの下でそれぞれ建
設予定
◦ コミュニティの参加とコンサルテーションが完了。3 カ所の防波堤の設計に際し有益な参考に。
囲み 16 災害への備えの強化
「TF014121:ブータン-地震リスクに対する強靱性の強化」は、地震の危険やリスク軽減に伴う機会と課題について、理解を
深める事を目標としています。
◦ 実施能力を強化するために様々なキャパシティ・ビルディングの研修を実施
◦ 地区レベルで計画されている 20 件の構造脆弱性評価のうち 3 件を実施
「TF011184:モンゴル-防災能力の向上」は、ウランバートルにおける災害への備えを強化し、ゾド(記録的な大寒波)が農
村の生計に及ぼす影響を軽減する事を開発目標としています。
◦ ウランバートルの自然災害、特に洪水に対する脆弱性の軽減に役立つ洪水リスク・マップを作成
◦ ウランバートルの災害への備えと効果的な対応を強化するため、洪水リスク管理に向けた投資計画の基礎となる洪水リスク管
理戦略を策定
◦ スタッフ 30 人を対象に研修を実施
◦ ゾドの予報やモニタリングのための情報システムを強化
◦ 21 のアイマーク(県)の水文気象部門の職員 202 人に対し、悪天候から家畜を守る早期警戒システムの説明を実施
「TF011452:ネパール-カトマンズ渓谷地域の学校の耐震性パイロット・プログラム」は、ネパールの地震リスク軽減を図る
もので、特に、政府による学校改修プログラムの実施能力強化を通じて、公立学校の脆弱性低減に力を注いでいます。
◦ 国の教育省や他の開発パートナーと協力して、カトマンズ渓谷地域の公立学校の構造安全性及び耐震性を評価する方法を開発
し、現在もこの取組みを継続中
「TF011267:パプアニューギニア-災害と気候変動に対する強靱性の高い運輸セクターの構築」は、運輸セクターのリスク評
価のためのキャパシティ・ビルディングを通じて、自然災害及び気候変動の影響に対する同セクターの強靱性強化を目指してい
ます。
◦ 国家海上保安庁やその他の機関によるデータ収集機能の向上を目指す取組みの一環としてキンベ湾に検潮器を設置
◦ 運輸インフラ資産に重点を置いたリスク評価を完了
「TF012184:バヌアツ-災害リスク削減の主流化」では、国内の主要な都市部における都市計画及び津波への備えの強化を計
画しています。
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
◦ 津波警報センターの改修・装備設置を完了。現在は全面的に機能
34
囲み 17 気候変動への適応
「TF011448:キリバス-防災・適応プロジェクト」では、気候変動が淡水供給や沿岸インフラに及ぼす影響に対する強靱性強
化を目指しています。
◦ 既存の給送水システムのマッピングと評価を実施
◦ 漏水箇所の修理やその他の対策の実施により 67 キロリットル / 日の節水を実現
◦ 北タラワの 6 カ所の雨水貯留システムに関するコミュニティとのコンサルテーション及び詳細設計を完了
「TF011271:ラオス人民民主共和国-国家計画における災害・気候リスク管理の主流化」では、防災及び気候変動への適応を
公共インフラ投資の中心に据えるために、中央・地方政府の制度面の権限と実施能力の強化を図り、気候変動や自然災害に対す
る人的・経済的な脆弱性の低下を目指します。
◦ 中央・県レベルの省庁職員を対象として、強靱性を伴うインフラ設計及び災害の影響を受けやすい地域のモニタリングに関し
て、研修を実施
◦ 災害の影響を受けやすい地域における住宅建設のガイドラインを策定
◦ 運輸、農村部の住宅・土地開発、灌漑セクターについてのリスク評価手順とガイドラインを策定
◦ 技術担当職員 102 人を対象に安全なインフラの設計、実施、モニタリングに関する研修を実施
◦ 県、地区、コミュニティの技術者・石工の合計 112 人を対象にリスク軽減の実務に関する研修を実施
◦ 防災を第 8 次国家社会経済開発計画(NSEDP)2016 〜 20 年の新草案に組み入れ
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
35
第6章
「障害と開発」(D&D)
数 字 で 見 る D & D:
配分額:
1,850 万ドル
実行額:
200 万ドル
身体障害児用に入口にスロープを設置した
パイロット校:
16 校(ギニア)
職業技能を学習した成人障害者:
160 人(ジャマイカ)
支援や治療を初めて受けた知的障害者:
進行中のグラント:
7件
D&D 実施国:
7 カ国
36
1,700 人(インド)
松葉杖や車椅子を支給された貧しい家庭の
身体障害児:
220 人(ギニア)
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
D&D プログラムの概要
「障害と開発」
(D&D)プログラムは、グラント受益国で障害者問題への理解を深める活動の
支援を目標としています。特に力を入れているのは、障害者問題に対する政策や開発支援策の
策定、及び障害者に直接的な恩恵をもたらすプログラムへの資金提供です。そのために日本政
府は、2012 年から 2014 年に、PHRD を通じて 7 カ国 9 で計 7 件のグラントを承認しました。
これらはいずれも独立したグラントで、現在も実施中です。日本政府から D&D への配分総額
は 1,850 万ドルでした(図 17)。2014 年度末現在の累積実行額は 200 万ドル(11%)で、
この内 120 万ドルが 2014 年度に実行されました。実行のペースが遅い理由の 1 つとして、
有効性確保の要件の充足やその他の障壁への対応の遅れによる実施開始の遅延が挙げられま
す。7 件のグラントは、各グラント受益国で何が最も必要かに応じて、障害をめぐる様々な側
面に取り組んでおり、例えばインドでは知的障害者の社会参加の促進、ルーマニアでは障害者
保護の向上、ギニアでは小学校における障害児の通常学級参加などが進められました。
D&D グラントの配分を地域別で見ると、ほぼ均等でした(配分のなかった東アジア・大洋州
地域を除く)が、ラテンアメリカ・カリブ海地域への配分額が他の地域をわずかに上回ってい
ます(図 18)。実行率は依然として低く、その中で実行率が最も高かったのはアフリカ地域
(35%)でした。
セクター別で見ると、通常、配分額が多いのは教育、保健・その他の社会サービス、運輸です
(図 19)。実行率はほとんどのセクターで 20%以下です。
ギニア、インド、ジャマイカ、モルドバ、モロッコ、ペルー、ルーマニア。
9
障害と開発:配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
20.0
17
18.5
18.0
実施中グラントの件数:7
16.0
14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
2.0
0.0
11%
配分額
累積実行額
出典:DFPTF
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
37
図
図
18
D&D:地域別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
6.0
5.4
5.0
4.6
4.0
3.0
2.9
配分額
2.9
2.8
累積実行額
2.0
1.0
1.0
-
35%
アフリカ地域
0.4
0.4
8%
7%
0.0
1%
ヨーロッパ・
ラテンアメリカ・
中東・
中央アジア地域
カリブ海地域
北アフリカ地域
0.3
10%
南アジア地域
出典:DFPTF
図
19
D&D:セクター別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
7.0
6.0
5.8
5.6
5.4
5.0
配分額
4.0
累積実行額
3.0
1.7
2.0
1.0
-
1.1
19%
教育
0.3
5%
保健・その他の社会サービス
0.4
0.3
20%
5%
行政・法律・司法
運輸
出典:DFPTF
テーマ別では、社会開発・ジェンダー・貧困層の参加支援の他、社会的保護・リスク管理が主
流でしたが、図 20 に示す通り、いずれのテーマでも実行率はあまり高くありません。
D&D への取組みにおける PHRD のアプローチ
D&D グラント 7 件の内 3 件は、障害者の教育参加を進める事で、障害者福祉全体の向上を目
指すものです。「TF011065:ギニア-包摂的な教育の構築」では、290 万ドルのグラントによ
38
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
D&D:テーマ別の配分額と実行額、2014 年度(単位:100 万ドル)
12.0
20
11.0
10.0
8.0
配分額
6.0
累積実行額
4.6
4.0
2.9
2.0
0.5
-
10%
社会保護・リスク管理
1.0
0.6
35%
5%
社会開発・ジェンダー・貧困層の参加支援
人間開発
出典:DFPTF
り、幼稚園や小学校に障害児を受け入れるために、学校や教員の能力開発が図られています。
このプロジェクトは 2012 年 5 月に開始され、パイロット校 16 校を選定し、25 人の教員・補
助スタッフの初期研修が実施されました。その後、障害児が通学できるよう、パイロット校で
入口にスロープが建設され、必要に応じて車椅子や松葉杖も購入されました。しかし、国家戦
略の策定、全国的な啓蒙活動、160 校へのプログラム拡大など、課題はまだ多く残されていま
す。プロジェクト終了時までにこれらの課題を克服できるかどうかは、2014 年度末現在、ま
だ判断はできません。同グラントは「やや満足」と評価されています。
「TF014258:ジャマイカ-障害者の社会・経済参加」による支援を受け、ジャマイカ
政府は障害者の雇用訓練と障害児の教育に力を注いでいます。しかし、290 万ドル
のグラントの内、これまでの実行額はわずか 10 万ドルに留まっています。実
行額は、全国で行う会議の費用及び障害者約 160 人の職業技能訓練に役立
てられています。さらに、地域レベルで職業技能訓練や障害児の通学を
可能にする活動の計画が NGO 7団体により立てられていますが、進
捗には遅れが見られます。同グラントは 2017 年に終了予定です。
290 万ドルのグラントを受けた「TF014855:モルドバ-障害児の通
ペルー
リマ市の包摂的な設計と
バリアフリー化
駅へのアクセス
常学級参加」も、進捗状況は、はかばかしくありません。モルドバ政
府は、複数の学校で障害児受け入れのためのパイロット・プロジェクト
を実施しています。障害児への授業中の対応に関する教員研修が計画・実
施され、授業計画も立てられています。これらプロジェクトのタスクチー
ムは、進捗のペースを上げて開発目標の達成を保証できるよう、それぞれ
の地元自治体と共同でのフォローアップを求められています。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
39
図
モロッコとペルーにおける 2 件のグラント、
「TF010735:モロッコ-身体障害者の物理的ア
クセス向上」と「TF011925:ペルー-リマ市の包摂的な設計とバリアフリー化」(それぞれ
290 万ドル、250 万ドル)は、都市や公共交通における障害者の移動支援を目指しています。
具体的には、建物やバスへのアクセスを容易にするスロープなどの設備が設計・設置されてい
ます。いずれのプロジェクトも、活動は 2012 年終盤に開始されましたが、これまでに達成さ
れた成果はマラケシュでの現状調査の完了とリマでの初期設計に留まっています。ペルーへの
グラントは既に終了し、モロッコへのグラントも 2016 年半ばに終了予定ですが、障害者を取
り巻く環境を改善して社会の生産的な一員となれるよう支援するためには、引き続き多くの課
題が残されています。
「TF010417:ルーマニア-障害者のための政策立案と制度的枠組みの改善・ラウンド 1」の下
での障害者のための政策、サービス、支援の向上を図る活動は、170 万ドルの PHRD グラン
トを得て、2012 年に開始されました。障害者認定のための一貫性のある基準の策定を中心に
取組みが続けられていますが、2 つの実施機関(障害者局と、医学専門知識・労働力回復のた
めの国立研究所)が、提案された基準に異議を唱えています。こうした意見の相違を解消する
ため政府は、障害者が幅広く支援サービスの対象となるよう組織の再編を決定しました。
280 万ドルの PHRD グラント「TF011450:インド-タミルナドゥ州エンパワーメント・貧困
削減プロジェクト(TNEPRP)における精神障害者問題への取組み拡大」は、地元コミュニティ
における精神障害者治療の試行に役立てられました。タミルナドゥ州内の 40 のコミュニティ
で 1,700 人以上の精神障害者が、特別な研修を受けた約 400 人のコミュニティ担当者を通じて、
支援と治療を受けています。精神障害者が治療によってどのように生活状況を改善できるかを
見極めるモニタリング・システムも構築されつつあります。
D&D グラントの全体的パフォーマンス
D&D グラントの全体的な進捗状況は、開発目標と進捗状況のいずれについても「満足」(4 件
が「やや満足」、3 件が「満足」)と評価されています。これらのグラントは、多くの開発課題
に直面する貧困国で障害者を支援するための新たな試行的アプローチに充てられます。残念な
事に、これまで世界の開発プログラムにおいて、障害者のニーズは注目も支援もほとんど受け
てきませんでした。障害者に関する理解、政策、そして障害者が置かれている状況改善のため
の政府の活動への支援は、開発においては比較的新しい問題です。それもあって、多くのグラ
ント活動で、承認時に想定された以上の遅れが生じ、実施が困難になっている可能性がありま
す。グラントの実行はあまり進んでいませんが、上述のような課題に直面しながらも全体とし
て「満足」の評価を得ている事は明るい材料です。
PHRD プログラムは、小規模な試行的アプローチを通じて、障害者を取り巻く問題に政府や
コミュニティが正面から取り組めるよう支援しています。そして最終的には、グラントのもた
らすインパクトをつぶさに評価し、様々な試行的アプローチから教訓を導き出す事を目指して
います。
40
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
成果の実例
囲み 18 障害者の社会参加の向上
「TF011065:ギニア-包摂的な教育の確立」は、障害児に対応する学校や教員の能力開発を図り、軽度の障害を持つ子供の健
常児の幼稚園や小学校への就学向上を目指しています。
◦ 障害児の数に関する診断調査を完了
◦ 対象区域内で学校に通っている軽度障害児 8,225 人の内 4,601 人(56%)を把握
◦ パイロット校 16 校を選定
◦ パイロット校 160 校で設備を整え、教職員研修を実施
◦ 障害者用補装具を必要とする児童 2,225 人の内 10%に補装具を支給
「TF011450:インド-タミルナドゥ州エンパワーメント・貧困削減プロジェクト(TNEPRP)における精神障害者問題への
取組み拡大」は、生計手段へのアクセスも含め、精神障害者のコミュニティ活動への参加の拡大を目的としています。
◦ コミュニケーション及び研修の活動を完了
◦ 精神障害者の当初の特定を完了
◦ 精神障害者の 24%への医療制度の紹介など、フォローアップ及びリハビリテーション・サービスを提供
◦ 特定された精神障害者の 40%に対し、治療を実施し職業技能習得を支援
「TF010735:モロッコ-身体障害者の物理的アクセス向上」は、マラケシュのパイロット・プロジェクトの実行可能性を実証
する事で、身体障害者の物理的アクセスの向上を目標としています。
◦ 対象となる職員 5 人の内 2 人が、規制面や技術面の知識を深め、共有する事により、都市交通インフラにおけるアクセスの
問題に対する意識を喚起
◦ 対象となる 4 つの組織の内 1 つで、アクセス改善策の一覧作成を完了
◦ 2 つの市において、アクセスの問題への取組みを支援。この 2 つの市を含む国内 3 つの市が、将来の交通インフラ・プロジェ
クトに障害者のアクセス改善を盛り込むよう検討を行っている。
「TF010417:ルーマニア-障害者のための政策立案と制度的枠組みの改善」は、労働・家族・社会保護省による効果的な障害
者保護の支援に向けて、政策立案のために障害認定の改善や障害者に関する情報の充実を図っています。
◦ 現行の障害給付制度の評価を完了
◦ 全国的な障害者データベースを完成。同データベースは現在既に稼働中で、月次モニタリング・レポートを作成
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
41
第7章
その他(TA 以外)の
プログラム
日本/世界銀行共同大学院奨学金制度
目標。日本/世界銀行共同大学院奨学金制度(JJ/WBGSP)は、1987 年の PHRD 設立以来、
その資金提供を受けています 10。JJ/WBGSP は、大学院教育を通じて技能や知識を伝え、途
上国における人材育成を促進・強化する事を目標としています。同プログラムの対象となるの
は、世界銀行グループ加盟国出身で、開発関連分野の専門職に就いている中堅の人材です。奨
学生は大学院での学習を通じて個人的に技能や知識を高めるだけでなく、新たな視野や見識を
得る事で、持続可能な社会経済改革への積極的な貢献が期待されています。
プログラムの内容。JJ/WBGSP には、(i)途上国で専門職に就いている中堅の人材が、経済・
社会開発に関係したテーマで修士号取得を目指す通常プログラム、(ii)通常プログラムと類
似していますが、JJ/WBGSP パートナーシップ・プログラムが専門教育を提供するパートナー
シップ・プログラム、(iii)日本国外の大学院で開発関係の研究をする少数の日本人を対象と
する日本人向け特別枠、という 3 つのサブプログラムがあります。JJ/WBGSP は、1987 年か
ら 2014 年までに 149 カ国の奨学生に 5,486 件の奨学金を提供しています(図 21)。1992 年
以降、世界有数の大学との提携により、パートナーシップ・プログラムを提供しており、個々
の奨学生のニーズに合わせ、経済・公共政策管理、財政・税制政策、インフラ管理の関連分野
における開発政策立案の実践的側面に関して、大学院教育の場を提供すると共に学問探究の機
会を提供しています。
このサブセクションは、The World Bank Group, FY2014 Annual Report:Japan/World Bank Graduate
Scholarship Program, Washington D.C. に基づいている。
10
42
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
JJ/WBGSP の通常プログラム及びパートナーシップ・プログラムの奨学生数、
1987〜 2014 年
21
32
1987
58
1988
54
1989
90
1990
87
1991
106
1992
117
1993
102
1994
111
1995
116
1996
122
1997
146
1998
179
1999
通常プログラム
274
2000
パートナーシップ・
107
2001
プログラム
117
2002
272
2003
303
2004
95
2005
83
2006
115
2007
165
2008
251
2009
218
2010
153
2011
121
2012
2013
138
2014
139
0
50
100
150
200
250
300
350
400
出典:LLIOP
また日本政府は、インドネシアの高等教育制度を支援する国際的取組みの一環として、2008 年、
日本/インドネシア大統領奨学金プログラム(JIPS)の奨学生に対して、PHRD を通じて 1,000
万ドルのグラントを一括で提供しました。このグラントは現在も JIPS で活用されていますが、
新規申込みの受付は行われていません。
2014 年度のプログラム。2014 年度、JJ/WBGSP は新たに 193 件の奨学金を提供しました。
その内訳は、通常プログラムと日本人向け特別枠が合わせて 139 件、パートナーシップ・プ
ログラムが 54 件でした。奨学生の多くはアフリカ出身者(43%)で、IDA 加盟国からの奨学
生が多数を占め、男女別では男性の方が 59%とやや多くなっています。奨学生の 70%は公共
部門、すなわち中央政府又は地方自治体で働いている人たちです。これまで JJ/WBGSP には、
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
43
図
ヨーロッパ・中央アジア地域と中東・北アフリカ地域からの応募者が少なかったため、2014
年度はこの両地域に焦点を当てた働きかけが行われました。しかし、両地域からの条件を満た
した応募者数の増加は見られず、応募者の地域別内訳はアフリカ地域が 63%、南アジア地域
が 15%、東アジア・大洋州地域が 8%、ラテンアメリカ・カリブ海地域が 7%、そして中東・
北アフリカ地域は 4%、ヨーロッパ・中央アジア地域は 3%でした。来年度、これらの地域か
らの応募者数が増加するよう更なる努力が求められます。
ASCEND イニシアティブ:ドナー、奨学生、元奨学生の関係構築。JJ/WBGSP は 2005 年、
元奨学生の参加を促し現役奨学生との間で開発知識交流とネットワークづくりの機会が生まれ
るよう、「奨学生・元奨学生の開発分野の能力向上ネットワーク(ASCEND)イニシアティブ」
を開始しました。今日、ASCEND イニシアティブは、学習、ネットワークづくり、アウトリー
チの場として、JJ/WBGSP の開発インパクト強化、プログラムの進捗状況や実績の取りまと
めを通じて、日本と世界銀行グループの結びつきを
強化しています。2014 年度、ASCEND イニシアティ
ブは、パートナー大学・優先大学、世界銀行グルー
表
1
JJ/WBGSP プログラムに
対する日本からの拠出
年 度
単位:100 万ドル
プのプログラムやイベント、日本理事室、世界銀行
東京事務所の関係強化に貢献しました。これまでの
経験から、こうした取組みが、全ての当事者にとっ
て有益であり、将来的により強固な知識共有の基盤
になる事は明らかです。
1987–92
12.23
1993–97
39.22
1998–2002
58.19
2003
12.52
学との戦略的パートナーシップ及びコミュニケー
2004
13.98
ションの強化(2014 年、これらの大学を通じて奨
2005
12.86
2006
25.24
2007
0.01
た元奨学生向けレセプションの回数は過去最高の 5
2008
11.87
回)、
(iii)応募者数の増加を図るためのコミュニケー
2009
16.32
2010
18.33
2011
20.17
2012
20.31
2013
16.35
2014
15.68
ン 総 局(LLI) が 管 理 し て い ま す。1987 年 か ら
合 計
293.28
2014 年までに JJ/WBGSP が受領した資金は、総額
出典:LLIOP
44
運営効率の向上と質の改善。2014 年度、運営効率
の向上とプログラムの質の改善を目指し、大規模な
戦略的取組みが行われました。具体的には、(i)大
学金の存在を知った応募者の割合は 25%)、(ii)ド
ナーと奨学生・元奨学生の間のコミュニケーション
の拡大と質的向上(2014 年度、ASCEND が開催し
ション向上(これにより、応募者が前年比で 56%
増加)、(iv)プロセスの改革(管理効率及び受託者
監視が向上)です。
プログラムの資金。JJ/WBGSP の全資金は PHRD
プログラムの一環として日本政府から提供されてお
り、世界銀行の学習・リーダーシップ・イノベーショ
で 2 億 9,300 万ドルに上ります(表 1)。
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
日本・世界銀行パートナーシップ・プログラム
日本・世界銀行パートナーシップ・プログラムの目標は、主要な開発問題に関して日本のステー
クホルダーと世界銀行グループのパートナーシップを構築し、地球規模の課題に対する日本国
民の関心を喚起し、援助協調を強化する活動を支援する事にあります。日本政府と世界銀行グ
ループの間で 1999 年に設立された同プログラムは、(i)日本の機関と世界銀行グループが共
同で計画・実施する調査、研究、セミナー、(ii)世界銀行グループが開催する開発援助政策
や援助協調に関する会議及びワークショップ、(iii)情報公開や世界銀行文書の翻訳など、日
本と世界銀行グループとのパートナーシップの強化、及び世界銀行グループの活動に対する日
本国民の理解促進を目指した活動、に資金を提供します。
2014 年度のグラント:2014 年度、総額 2,114 万ドルの 16 件のグラントが進められており
(表 2)、この内 3 件(283 万ドル)は 2014 年度に承認されたものです。16 件のグラントの
内 7 件が 2014 年度に終了し、9 件は現在も実行中です。累積実行額(開始から 2014 年度まで)
は 1,227 万ドルに達し、この内 421 万ドルが 2014 年度に実行されました。
日本・世界銀行パートナーシップ・プログラム:2014 年度のグラント概要
2
件数/金額
グラント件数(実施中と終了分)
16
金額(単位:100 万ドル)
21.14
累積実行額(単位:100 万ドル)-開始~ 2014 年度
12.27
2014 年度の承認(グラント件数)
3
2014 年度(単位:100 万ドル)
2.83
2014 年度の実行額(単位:100 万ドル)
4.21
出典:DFPTF
拠出。設立(1999 年度)から 2014 年度末までの累積拠出額は 6,613 万ドルであり、この内 1,521
万ドルが 2010 ~ 14 年度に拠出されました(図 22)。2014 年度の拠出額は 216 万ドルで、
累積拠出額の 3%に当たります。累積実行額は約 5,956 万ドルで、この内 30%(1,813 万ドル)
が 2010 ~ 14 年度に実行されました。2014 年度の実行額は 421 万ドルで、実行総額の 7%
を占めています。詳細は図 22 を参照。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
45
表
図
日本・世界銀行パートナーシップ・プログラム:拠出額と実行額、2010 〜14 年度
(単位:100
万ドル)
22
$7.00
6.10
$6.00
4.95
$5.00
4.58
4.21
3.98
$4.00
拠出額
3.24
実行額
$3.00
2.25
2.16
1.75
$2.00
$1.00
0.12
$0.00
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
出典:DFPTF
日本 PHRD スタッフ・ETC プログラム
日本人スタッフ・長期コンサルタント(ETC)グラント・プログラムは、世界銀行グループに
おける日本人の採用を促進するもので、中堅から上級職に就く日本人スタッフの資金を提供し
ています。このプログラムは、日本人スタッフが世界銀行グループの業務プロセスに加わり、
専門知識や経験を活かすと共に開発金融に関する知識の交換ができるよう、2003 年に日本政
府と世界銀行グループの間で設立されました。このプログラムでは ETC、有期雇用、無期雇
用のスタッフを支援しています。
採用。日本政府は 2010 ~ 14 年度、本プログラムを通じて 182 件(3,736 万ドル)の採用を
承認しました(図 23)。この内 82 件(45%)が有期雇用(2,694 万ドル)、100 件(55%)
が ETC(1,042 万ドル)でした。有期雇用の年間グラント件数は約 16 件と、安定して推移し
ています。世界銀行グループの機構改革により、2011 年度以降は ETC グラントの承認件数
が減少傾向にあります。
拠出額。設立(2003 年度)から 2014 年度末までの累積拠出額は 5,337 万ドルでした。近年
の傾向(図 24)を見ると、2010 年度からピークとなった 2012 年度の間に拠出額が大幅に増
加しましたが、2014 年度には 679 万ドルまで減少しています。拠出金は、日本円から米国ド
ルに換算されるため、為替レートの変動がドル建ての受領額に影響を及ぼし、この事が年度ご
との変動の一因となっています。
実行額。設立以降の累積実行額は約 4,097 万ドルで、この内 3,018 万ドル(74%)が 2010
~ 14 年度に実行されました。この期間の年間実行額は増加傾向にありました(平均約 659 万
ドル)。2014 年度は 671 万ドルでした。
46
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
日本人スタッフ・ETC グラント承認件数、2010 〜14 年度
35
23
図
31
30
27
25
20
18
19
17
19
15
10
18
ETC
13
5
0
有期雇用
15
5
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
出典:DFPTF
日本人スタッフ・ETC グラント:拠出額と実行額、2010 〜14 年度
24
$10.00
8.66
$9.00
8.39
$8.00
6.97
$7.00
6.79 6.71
5.57
$6.00
拠出額
$5.00
$4.00
7.11
3.64 3.82
実行額
4.11
$3.00
$2.00
$1.00
$0.00
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
出典:DFPTF
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
47
図
2014 年度のグラント。2014 年度に実施中のグラントは 72 件(総額 1,764 万ドル)で、
(表
3)、この内 20 件が 2014 年度に承認されたものです。72 件の内 36 件が 2014 年度に終了し、
残り 36 件は現在も実行中です。累積実行額は 1,180 万ドルで、この内 2014 年度の実行額だ
けで 671 万ドルに上りました。
地域別内訳。承認された採用は、6 つの地域全てにおよびます(図 25)。承認された 47 件(1,501
万ドル)の内、22 件(47%)はグローバルな業務に従事する職務であり、ETC では合計承認
件数 25 件(264 万ドル)の内 5 件(20%)がグローバルな業務に従事するものでした。
表
3
日本人スタッフ・ETC グラント:2014 年度のグラント
有期雇用
ETC
合計(100%)
採用件数(実施中・終了)
47
(65%)
25 (35%)
72
金額(単位:100 万ドル)
15.01(85%)
2.63(15%)
17.64
累積実行額(単位:100 万ドル)
9.91(84%)
1.89(16%)
11.80
2014 年度承認(採用件数)
15
5
20
2014 年度金額(単位:100 万ドル)
4.54(90%)
0.52(10%)
5.06
2014 年度実行額(単位:100 万ドル)
5.74(86%)
0.97(14%)
6.71
(75%)
(25%)
出典:DFPTF
図
25
日本人スタッフ・ETC の採用:地域別内訳、2014 年度
(各地域のカッコ内の数値は有期雇用グラント件数+ETCグラント件数)
7
6
有期雇用の配分額
5
有期雇用の累積実行額
4
有期雇用の2014年度実行額
ETCの配分額
3
ETCの累積実行額
2
ETCの2014年度実行額
1
0
アフリカ地域
(9+4)
東アジア・
大洋州地域
(5+3)
ヨーロッパ・ ラテンアメリカ・
中東・
南アジア地域
中央アジア地域 カリブ海地域 北アフリカ地域 (3+2)
(4+4)
(2+4)
(2+3)
グローバル
(22+5)
出典:DFPTF
48
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
その他のプログラム
グローバル・ディベロップメント・ネットワーク(GDN)
グローバル・ディベロップメント・ネットワーク(GDN)は、国際開発賞を支援しています。
国際開発賞は、経済学や社会科学の研究者の研究能力向上を図り、途上国で社会から取り残さ
れている人々に恩恵をもたらす革新的な社会開発プロジェクトに資金を提供するために設けら
れました。
日本政府は、GDN を通じて(a)リサーチ部門日本国際開発賞(ORD)と、(b)プロジェク
ト部門日本国際開発賞(MIDP)という 2 つの賞を支援しています。2014 年度、国際開発賞
には 40 カ国からの応募がありました。2014 年 6 月にアクラで開催された第 15 回 GDN 年次
総会では、最終選考に残った候補者が、200 人以上の研究者や実務者を前にプロポーザルと論
文を発表しました。
リサーチ部門日本国際開発賞 (ORD)
この賞は、貧しい新興国社会では、質の高い研究を公共政策に適用する事により、開発への見
通しを明るいものにできるという認識に基づいています。また、開発効果を加速するためには、
地元や地域レベルで数世代にわたって社会学者や研究者が協力し、相互に連携し合う事が必要
であるという考えも強調されています。
この賞の対象となるのは、途上国の若手研究者で、優れた成果がもたらされる可能性が高く、
開発課題への明確な政策を提案する研究に資金を提供します。
受賞者は、政策へとつながる研究プロポーザルのための助成金をグラントとして受領できます。
さらにグラント実施期間中、受賞者の研究能力の構築のために専門家による技術的なメンタリ
ングが提供されます。また、政策アウトリーチの強化や発信手段開発のために、研究に関する
情報交換の研修も行われます。
GDN は DFPTF と共同で、研究者や機関の認知度ばかりでなく、日本の認知度も高めるために、
次のような手段を設けています。
◦開発に向けた日本の貢献と支援の認知:賞に関する告知、応募手引き、受賞者への証書、
GDN 年次総会プログラムの全てに日本の財務省の支援について明記されています。
◦途上国の経済・社会開発への日本の貢献と支援の認知:GDN は、先進国・途上国から毎年
300 人以上が出席する GDN 年次総会で開催される授賞式において、日本政府に対する謝
意を表明しています。
◦日本が掲げる国際的な理解、交流、協力の促進という目標を確立:日本の財務省に代わ
り JICA 研究所(JICA - RI)の幹部が、MIDP 授与式の議長や MIDP 選考委員長を務
めます。授賞式での賞の贈呈もこの代表者が行います。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
49
◦人類の福祉の向上と国際研究開発分野の健全な発展に向けた日本の貢献に対する認知:受
賞者は、国際開発賞による資金提供を受けた全ての出版物や資料の中で、財務省及び日本
政府の支援に対する謝意を示す事が求められます。
◦日本が掲げる国際的な理解、交流、協力の促進という目標を確立:プロジェクト実施国の
日本大使館職員は、国際開発賞が支援するワークショップやイベントに招待されます。
2014 年度の成果を表 4 に示します。
表
4
リサーチ部門日本国際開発賞:2014 年度の成果
2014 年度の実績
応募国数
42
応募研究者数
124
応募者の内、女性研究者の割合
26%
受賞者の内、女性研究者の割合
50%
出典:DFPTF
プロジェクト部門日本国際開発賞 (MIDP)
この賞は、途上国や経済移行国で、社会から取り残されている人々や不利な立場に置かれてい
る人々を支援する社会的革新性を伴うプロジェクトに資金を提供するものです。受賞者は、様々
なテーマにおける革新的な社会開発プロジェクトを審査した上で選ばれます。また、社会的影
響が高く、他の途上国でも同様に実施可能なプロジェクトである事が条件です。プロジェクト
の代表者は研究に関する情報交換の研修にも参加します。
この賞では、研究に注目を集める事により受賞者の認知度を高めます。それが、新たな資金集
めにつながり、更なるキャリア・アップに役立つのです。
2014 年度の成果を表 5 に示します。
表
5
プロジェクト部門日本国際開発賞:2014 年度の成果
2014 年度の実績
応募国数
49
応募組織数
154
受賞プロジェクトの恩恵を受ける受益者の数
746
3 つの受賞組織の恩恵を受ける受益者の数
出典:DFPTF
50
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
107,400
PHRD が支援し、世界銀行が管理するその他のプログラム
日本政府はこの他にも、世界銀行グループが実施する国際的プログラムを支援していますが、
そうしたプログラムへの拠出は、PHRD プログラムを通じて個別の開発プログラムに提供さ
れます。2014 年度、日本は、表 6 に示す通り、世界銀行グループの実施するプログラム 13
件に 6,480 万ドルを拠出しました。
PHRD が支援するその他の世界銀行プログラム
6
PHRD が支援するその他の世界銀行プログラム(単位:100 万ドル)
金額
国際農業研究協議グループ(CGIAR)
4.0
貧困層支援協議グループ(CGAP)
0.3
国際エイズ・ワクチン推進機構への支援-センダイベクター(IAVI)
2.0
日本・世界銀行ディスタンス・ラーニング・パートナーシップ フェーズ 2(TDLC)
3.0
ドナー資金によるスタッフ採用プログラム(DFSP)
5.6
官民インフラ助言ファシリティ(PPIAF)
0.8
JSDF 経由、IFC -第 5 回アフリカ開発会議(TICAD V)
4.0
JSDF 経由、IFC -世界農業食糧安全保障プログラム(GAFSP)
10.0
緑の気候基金(GCF)
1.0
日本-世界銀行防災共同プログラム(GFDRR)
20.0
小島嶼開発途上国(SIDS)DOCK 支援プログラム
9.0
太平洋災害リスクファイナンス保険
1.1
中東・北アフリカ地域移行基金(MENA)
4.0
総額:
64.8
出典:DFPTF
ドナー資金によるスタッフ採用プログラム(DFSP/JPO)
ドナー資金によるスタッフ採用プログラム(DFSP)は、ドナー国政府が資金を提供するスタッ
フ採用プログラムで、その目的は、本部や現地事務所で働くジュニア・プロフェッショナル・
オフィサー(JPO)や中堅の人材の採用を通じて、世界銀行グループの多様性確保の達成及び
キャパシティ・ビルディングにあります。本プログラムにより、ドナーと世界銀行グループの
双方が、開発課題に戦略的に取り組む事が可能になります。
日本政府は本プログラムに設立時から参加しており、2014 年度現在、25 件のポジションに総
額 1,075 万ドルを提供しています。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
51
表
第8章
モニタリングと評価
P
HRD 技術協力プログラムの短・中期的な開発インパクトは、測定可能な開発成果指標を
用いて評価が行われます。日本政府と信託基金・パートナーシップ(DFPTF)局は、信
託基金が支援する活動について成果に重点を置いて報告を行います。PHRD プログラムの有
効性の評価は外部の第三者によって行われ、既に 2 度の評価が実施済みです。
PHRD グラントのパフォーマンスや成果を高めるためには、進捗状況報告書(ISR)及びグラ
ント報告・モニタリング(GRM)を通じて、継続的にモニタリングを強化していく必要があ
ります。2014 年度、数件のグラントについて、実施の遅れや、方針変更あるいは状況の変化
が生じました。グラントでは比較的小規模なコンポーネントや活動を支援するのが一般的であ
るため、グラントを管理するスタッフが方針、実施機関、あるいはグラント運用状況をコント
ロールするのは困難です。しかし、モニタリングの向上を図る事により、グラントのパフォー
マンスに影響する遅れや変化について、管理者や受益国政府、ステークホルダーらに注意喚起
する事ができます。このようにして、DFPTF の PHRD チームによる意見や軽減策提案の枠組
みが構築されます。プロジェクトが完了すると、タスクチームは、短期的・中期的な成果や、
得られた教訓を盛り込んで、実施完了メモランダム(ICM)を作成します。更に、信託基金の
全ての活動について、実績のモニタリングが世界銀行グループ全体の成果モニタリング枠組み
の一部として主流化され、世界銀行グループのコーポレート・スコアカードにおいても考慮さ
れます。
また、四半期ごとに未監査財務諸表が作成されます。これにより世界銀行グループとドナーは
拠出によるコミットメントのレベル、実行資金の配分とその状況を把握できます。また、独立
52
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
した外部監査者が各会計年度の終了時に財務諸表の監査報告書を作成し、その結果が日本政府
と共有されます。
日本/世界銀行奨学金制度は、世界銀行研究所(WBI)と協力して奨学生の追跡調査を行い、
学位取得件数、出身国に帰国した奨学生数とその後の雇用やキャリアなどをモニターしていま
す。こうした追跡調査を通じて、教訓も明らかになります。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
53
第9章
今後の展望
日
本と世界銀行グループの年次協議が、2013 年 10 月 28 ~ 29 日に東京で開催され、開発
を促進するパートナーシップとしての PHRD の価値が改めて確認されました。PHRD は、
日本にとっても世界銀行グループにとっても引き続き、柔軟性に富む意義ある開発手段となっ
ています。
年次協議の場では、PHRD プログラムが今後も力強さや柔軟性を維持するためには改革が必
要であるという点が確認されました。また、変化を続ける世界の開発環境の中で PHRD の意
義が失われないよう、それまでの進捗を考慮しながら改革を進める事も必要です。100%実施
済みの稲作研究・生産性プログラム(農業枠)は終了する事が合意され、「減災・復興」(DRR)
は、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)プログラムと連携して設立されるシングル・
ドナー信託基金の一部に組み込まれる事になります。「障害と開発」(D&D)も終了が決まり
ました。
また、新たな重点テーマの策定に当たっては、日本の重点課題を満たしつつ、世界銀行グルー
プ戦略の実施と整合性のとれたものとする事が合意されました。同戦略は、持続可能な開発の
促進を目指すため、2 大目標を掲げています。1 つめの目標は、1 日 1.25 ドル未満で生活し
ている人々の割合を 2030 年までに世界人口の 3%未満まで引き下げる事により、極度の貧困
を実質的になくす事です。2 つめの目標は、全ての国でそれぞれの人口の下位 40%の人々の
生活水準向上を図る事により、繁栄の共有を促進する事です。同世界銀行グループ戦略は更に、
地球とその資源の未来を持続可能な形で保証し、社会的包摂を促進し、これからの世代に受け
継がれる経済的負担を制限する方法で、この 2 つの目標を追求して行くよう強く求めています。
世界銀行グループでは、「グローバル・プラクティス」と、「世界銀行グループが一体となった」
54
日 本 開 発 政 策・人 材 育 成 基 金
アプローチ(2 大目標達成に向けた世界銀行グループ全体の統一アプローチ)を通じた機構改
革が進められており、PHRD 改革は今後、こうした機構改革も考慮しながら進められる事に
なります。
脆弱・紛争の影響を受けた国・地域(FSC)の統計機能の構築、アジア各国向けのプロジェク
ト準備能力強化、極度の貧困の撲滅及び繁栄の共有の促進という世界銀行グループの目標にお
ける目標値見直しの支援、ポスト 2015 の評価と統計的機能の強化、成果枠組みアジェンダに
対する支援など、試験的取組みのテーマ候補としていくつかのアイデアが提案されました。今
後の年次協議での話し合いを経て最終的に決定されます。
2 0 1 4 年 度 年 次 報 告
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