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自由民主党による「国際会計基準への対応について の提言」の公表

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自由民主党による「国際会計基準への対応について の提言」の公表
IFRS実務講座
自由民主党による「国際会計基準への対応について
の提言」の公表
IFRSデスク 公認会計士 岡部健介
• Kensuke Okabe
製造業の経理財務部門にて原価計算などの経理実務に従事。当法人入所後、公開業務部にて株式公開準備会社に対するIPO支援業務、
J-SOX導入支援等に携わった。IFRSデスクでは、IFRS導入支援、IFRS関連の研修講師や執筆活動などに携わっている。主な著書(共著)
(レクシスネクシス・ジャパン)がある。
に『IFRS国際会計の実務 International GAAP 2013』
Ⅰ はじめに
することで、日本の主張が受け入れられるよう最大限
の努力をすべきとしています。この観点から、IFRS
自由民主党の政務調査会及び企業会計に関する小委
財団等の関連組織における日本の議席の確保、及び人
員会は、2013年6月13日付で、「国際会計基準への
的・資金的な貢献が肝要であり、東京のサテライトオ
対応についての提言」(以下、提言)を公表しました。
フィスが他国に移転されないよう、万全の対応が必要
提言は、国際会計基準(IFRS)に関する経緯と現状を
であるとしています。現在、モニタリング・ボードの
概括した上で、IFRSへの今後の対応に関する基本的考
メンバーである金融庁が、今後もメンバーであり続け
え方、及びその具体的方向性について述べています。
るためには、IFRSの強制適用、又は任意適用を許容
し、結果として実際にIFRSが顕著に適用されている
こと等が必要です。提言は、ボードメンバーの要件を
Ⅱ IFRSへの今後の対応に関する基本的考え方
満たすためにも、わが国におけるIFRSの顕著な適用
を促進する必要があると述べています。
提言は、「単一で高品質な国際基準」を策定する目
標にわが国がコミットしていることを再確認し、主体
的に行動すべきとしています。この目標の実現は、日
Ⅲ 具体的方向性
本市場の国際的競争力確保のために重要で、わが国経
済の持続的成長にも有効であり、少なくとも国際的に
事業展開する企業や外国人株主が多い企業は自主的か
提言は、前述の基本的考え方を踏まえ、当面、<表1>
の具体的方向性に従って対応すべきとしています。
つ積極的なIFRSの適用が求められるとしています。
また、提言は、企業の予見可能性を高め、IFRS適
用を検討する際の前提を明確にするためにも、IFRS
への日本のスタンス及びIFRS適用のロードマップの
早期明確化が必要だとしており、その際「集中投資促
Ⅳ 「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方
に関する当面の方針」における言及との主
な相違
進期間」
(今後3年間)の早い時期に、適用に関するタ
イムスケジュールの決定、公表が必要だとしています。
提言は、IFRSへの対応に関する基本的な考え方、任
さらに、提言は、単一で高品質な国際基準づくりに
意適用要件の緩和、エンドースメントされたIFRSの採
積極的に協力する意思を表明し、IFRSの国際基準とし
用及び企業負担の軽減について、6月19日に企業会
ての品質の向上に積極的に関与していく姿勢を明確に
計審議会が公表した「国際会計基準(IFRS)への対
4 情報センサー Vol.85 Aug−Sep 2013
▶表1
•「単一で高品質な国際基準」を策定する目標にわが国がコミットしていることを改めて国際社会に表
明する。
•「集中投資促進期間」のできるだけ早い時期に、強制適用の是非や適用に関するタイムスケジュール
を決定するよう、各方面から意見を聴取し、議論を深める。
① 姿勢の明確化
•「IFRSの顕著な適用」の実現のため、この要件が審査される16年末までに、300社程度の企業が
IFRSを適用するよう明確な中期目標を立て、その実現に向けてあらゆる対策を検討し、積極的に環
境を整備する。
• 金融商品取引法における任意適用要件の緩和。①IPO促進の観点から上場企業要件を撤廃し②海外子
会社を有する企業等に限定しないこととする。
② 任意適用の拡大
• IFRS適用拡大に向けた実効性のあるインセンティブの検討。特に、取引所において、IFRSの導入、
独立社外取締役の採用など、経営の革新性等の面で国際標準として評価される企業で構成される新指
数(「グローバル300社」<仮称>)の創設の早期実現。
• IFRS策定に関わるポストの確保、日本の主張を明確にした積極的な意見発信、サテライトオフィス
の有効活用に努め、わが国の貢献と重要度を各国に十分知らしめる。
③ わが国の発言権
の確保
• 現行の指定国際会計基準制度に加え、企業会計基準委員会(ASBJ)がIFRSの個別基準を具体的に
検討し、わが国の会計基準として取り込むシステムも検討を進める。
④ 企業負担の軽減
• 過剰な開示負担を避けるため、開示負担の軽減策を検討する。
• 金融商品取引法における単体開示の簡素化。会社法の計算書類を活用し、可能な限り開示水準を統一
するなど、簡素化、効率化を図る。
応のあり方に関する当面の方針」(以下、方針)と同
Ⅴ おわりに
様の考えを述べていますが、次の2点でより踏み込ん
だ内容となっています。
このように提言は、より踏み込んだ内容となってい
IFRSをめぐっ
ますが、企業会計に関する小委員会では、
1. 強制適用について
て、さらに議論を深める必要があり、現時点で具体的
方針は「強制適用の是非等については、未だその判
な目標値の設定には慎重であるべきとの意見も示され
断をすべき状況にないものと考えられる」と述べるに
ました。これは自由民主党としての方針が必ずしも一
とどまっていたものの、提言では、今後3年間の「集
枚岩でないことを表しているのかもしれません。
中投資促進期間」のできるだけ早い時期に、強制適用
しかし、国際会計基準審議会(IASB)議長のハン
の是非や適用に関するタイムスケジュールを決定する
ス・フーガーホースト氏が6月に開催されたIFRS財団
ように、各方面から意見を聴取し、議論を深めること
の会議において、16年末までに300社程度の企業が
が重要と述べており、より早い段階での結論を求めて
IFRSを適用するようなロードマップを作成するよう自
います。
由民主党が働きかけていることに言及するなど、わが
国の動向は注視されています。政権与党が具体的な目
2. IFRSを任意適用する企業数について
方針は、IFRSを任意適用する企業数について具体的
な目標を述べていませんが、提言は16年末までに、国
際的に事業展開する企業など300社程度がIFRSを適用
標値を示した提言を対外的に公表したことは、停滞し
ていた議論を進展させる好機であり、活発で有用な議
論の再開が期待されます。
する状態になるよう明確な中期目標を立て、その実現
に向けてあらゆる対策を検討し、積極的に環境整備す
べきとしており、時期及び会社数も明記しています。
情報センサー Vol.85 Aug−Sep 2013 5
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