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第3章 黄砂

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第3章 黄砂
第3章
黄砂
黄 砂 現 象 とは 、 ア ジ ア 大 陸 の 砂 漠や 半 乾 燥 地 帯 の 耕 地 等か ら 強 風 に よ り 大 気 中に 舞 い
上 が っ た 鉱物 粒 子 ( 黄 砂 ) が 浮 遊し つ つ 落 下 す る 現 象 であ る 。 黄 砂 粒 子 が 舞 い上 が る 場
所 と し て は、 タ ク ラ マ カ ン 砂 漠 、ゴ ビ 砂 漠 、 黄 土 高 原 が知 ら れ て い る 。 日 本 にお け る 黄
砂 現 象 は 、春 先 か ら 初 夏 に か け て、 東 ア ジ ア を 経 由 す る低 気 圧 の 通 過 に と も なっ て 観 測
さ れ る こ とが 多 い が 、 そ れ 以 外 の季 節 で も 発 生 す る 。
黄 砂 の 発 生源 で あ る 中 国 や モ ン ゴル な ど で は 、 大 規 模な 砂 塵 嵐 に よ り 人 的 被 害・ 健 康
被 害 を 受 ける こ と が あ る が 、 日 本で は 、 視 程 の 悪 化 に よる 交 通 障 害 、 洗 濯 物 や車 両 の 汚
れ 等 の 影 響が あ る 。 黄 砂 現 象 は 、こ の よ う な 社 会 的 影 響だ け で な く 、 日 射 の 散乱 ・ 吸 収
お よ び 赤 外放 射 の 吸 収 過 程、雲 の 生 成 な ど を 通 し て、世 界 の 気 候 に 影 響 を 及 ぼ し てい る 。
黄 砂 粒 子 は日 射 を 多 少 吸 収 し て 大気 を 加 熱 す る が 、 同 時に 日 射 を 散 乱 さ せ る 日傘 効 果 に
よ り 地 表 面に 達 す る 日 射 を 減 少 させ て い る 。 ま た 、 海 洋に 落 下 し た 黄 砂 粒 子 に含 ま れ る
化 学 成 分 は、 海 洋 表 層 の 植 物 プ ラン ク ト ン の 栄 養 分 と なる こ と な ど を 通 し て 、海 洋 の 生
態 系 に も 影響 を 与 え て い る と 考 えら れ て い る 。
3.1
沖縄県での黄砂現象
○ 沖 縄 県 では 、年 間 の 黄 砂 観 測 日数 は 年 々 の 変 動 が 大 きく 、長 期 的 な 変 化 傾 向は み ら
れない。
○ 黄 砂 は 春( 3 ~ 5 月 )に 観測 さ れ る こ と が 多 い が、条 件 が 揃 え ば 、秋 から 冬 に も 観
測 さ れ て いる 。
(1)黄砂観測日数の年々変動
気象台では、職員が目視により大気中に黄砂粒子が浮遊していると判断した場合に
「 黄 砂 」 とし て 記 録 し て い る 。図 3.1.1 に 1967~2013 年の 沖 縄 県 に お け る 黄砂 観 測 日
数 ( 各 地 方内 の 気 象 官 署 の い ず れか で 黄 砂 現 象 を 観 測 した 日 数 ) 、 図 3.1.2 に 黄砂 観 測
の べ 日 数 (各 地 方 内 の 気 象 官 署 で黄 砂 現 象 を 観 測 し た 日数 の 合 計 ) の 経 年 変 化を 示 す 。
黄 砂 観 測 日数 が 最 も 多 か っ た の は、1988 年 と 2010 年 の 15 日 であ る( 図 3.1.1)。また 、
黄 砂 観 測 延べ 日 数 が 最 も 多 か っ たの は 、 1988 年 の 41 日 で あ る ( 図 3.1.2) 。
黄 砂 発 生 源の ア ジ ア 大 陸 に お い ては 、 過 剰 放 牧 や 農 地 転換 に よ る 耕 地 の 拡 大 等の 人 為
的 要 因 に より 砂 漠 化 が 進 行 し て いる と の 指 摘 が あ る が 、黄 砂 観 測 日 数 や 黄 砂 観測 延 べ 日
数 は 年 々 の変 動 が 大 き く 、 沖 縄 県で は 長 期 的 な 傾 向 は みら れ な い 。
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図 3.1.1 年 別 の 黄 砂 観 測 日 数( 1967~ 2013 年 、沖 縄 県 4 地 点( 那 覇 、南 大 東 島 、宮 古
島、石垣島))
図 3.1.2 年 別 の 黄 砂 観 測 延 べ 日 数 ( 1967~ 2013 年 、 沖 縄 県 4 地 点 ( 那 覇 、 南 大 東 島 、
宮古島、石垣島))
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(2)月別の平均観測日数
沖 縄 県 に おけ る 1981~ 2010 年 の平 均 の 月 別 の 黄 砂 観 測 日数 を 図 3.1.3 に示 す 。春( 3
~ 5 月 ) に観 測 さ れ る こ と が 多 く、 黄 砂 観 測 日 数 が 最 も多 い 4 月 で は 、 約 1.7 日と な っ
て い る 。 春は 、 黄 砂 発 生 域 の 東 アジ ア 内 陸 部 で 積 雪 が なく 地 表 面 が 乾 燥 し て おり 、 ま だ
植 物 が 芽 吹き 始 め る こ ろ で あ る こと に 加 え 、 低 気 圧 が 数日 の 周 期 で 通 過 す る こと で 、 発
生 と 輸 送 の条 件 が 揃 い や す い た めで あ る 。た だ し、春 で な く て も こ れ ら の 条 件 が 揃え ば 、
黄 砂 が 観 測さ れ る 場 合 が あ る 。
図 3.1.3
沖 縄 県 の 月 別 の 黄 砂 観 測 日 数 ( 1981~ 2010 年 の 平 均 )
(3)日本における黄砂観測日数の分布
国 内 60 地 点 に お け る 1981~2010 年 の平 均 の 黄 砂 観 測 日数 を 図 3.1.4 に示 す 。西 日 本
で 多 く 、 沖縄 県 で は 2 ~ 5 日 程 度と な っ て い る 。
図 3.1.4
観 測 地 点 ご と の 年 間 の 黄 砂 観 測 日 数 ( 1981~ 2010 年 平 均 )
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解説コラム
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黄砂が気候に影響する
黄 砂 現 象は 、 中 国 や モ ン ゴ ル など ア ジ ア 大 陸 の 砂 漠 や半 乾 燥 地 帯 の 耕 地 等 から 強 風 に
よ り 大 気 中に 舞 い 上 が っ た 鉱 物 粒子 ( 黄 砂 ) が 浮 遊 し つつ 落 下 す る 現 象 で あ る。 東 ア ジ
ア で 発 生 した 黄 砂 は 太 平 洋 を 横 断し 、北 米 や グ リ ー ン ラ ンド で も 観 測 さ れ て い る。ま た 、
黄 砂 と 同 様に 、 サ ハ ラ 砂 漠 な ど 世界 の 砂 漠 は 大 気 中 に 浮遊 す る 鉱 物 粒 子 の 発 生源 と な っ
ている。
こ の よ うに 黄 砂 を 含 む 鉱 物 粒 子の 飛 散 は 地 球 規 模 の 現象 で あ り ( 図 C.4) 、 大 気 中 に
滞 留 す る 鉱物 粒 子 が 地 球 の 気 候 に与 え る 影 響 が 近 年 問 題と な っ て い る 。 大 気 中の 鉱 物 粒
子 は 、 日 射と 赤 外 放 射 の 吸 収 ・ 散乱 過 程 を つ う じ て 、 地球 の 大 気 を 加 熱 な い し冷 却 す る
効 果 が あ る。 日 射 の 反 射 率 が 高 い雪 氷 面 の 上 空 に 鉱 物 粒子 が 滞 留 す る と き に は吸 収 の 効
果 に よ っ て大 気 を 暖 め る 側 に 作 用す る が 、 日 射 の 反 射 率が 低 い 植 生 や 海 洋 上 では 逆 に 冷
却 効 果 ( 日傘 効 果 ) が 優 る た め 大気 を 冷 や す 側 に 働 く 。ま た 、 雲 の 生 成 や 雲 の寿 命 に 関
係 す る な ど、 気 候 に 間 接 的 に 影 響す る ほ か 、 海 洋 表 面 に沈 着 し た 鉄 分 は 、 プ ラン ク ト ン
の 微 量 栄 養素 と な り 、 大 気 ・ 海 洋中 の 二 酸 化 炭 素 や 酸 素の 量 な ど に 関 係 し て いる と 考 え
ら れ て い る。 IPCC 第 5 次 評 価 報告 書 ( IPCC,2013) で は 、 黄 砂 な ど の 大 気 中 に浮 遊 す
る 鉱 物 粒 子は 、 気 候 変 動 を も た らす 要 因 の 一 つ と し て 挙げ ら れ て い る 。
図 C.4
数 値 モ デ ル に よ り 再 現 さ れ た 春 季( 1974~2001 年 )の 大 気 中 の 鉱 物 粒 子
分布
大 気 上 端 か ら 下 端 ま で の 積 算 量 、 単 位 : g/m 2 ( 異 常 気 象 レ ポ ー ト ( 気 象 庁 ,2005) よ り )
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