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滋賀県生物環境アドバイザー制度から
土木学会関西支部滋賀地方講演会テキスト 滋賀県生物環境アドバイザー制度から ∼公共事業と生物多様性保全の事例∼ 2011年2月 小林圭介 目 次 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 生物環境アドバイザー制度について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 生物環境の基本的考え方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 1 生物共同体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2 環境と生態系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 3 生態系の機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 4 多様な生態系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 5 生物多様性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 6 ビオトープとエコトープ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 1)ビオトープとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 2)エコトープとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 7 発信ビオトープと受信ビオトープ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 8 ビオトープの素材・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 ドイツの生物環境配慮型河川整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 1 流水エネルギーの分散による立地の安定・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 2 流れの構築・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 1)早瀬をつくる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 2)分流をつくる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 3 場の構築・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 4 再自然化施工と生物相の回復・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 1)施工の原則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 2)河川再自然化施工の10原則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 3)生物相の回復・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 滋賀県生物環境アドバイザー制度実施要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 国道421号道路改築事業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 1 国道421号道路改築事業概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2 モニタリング調査概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 1)調査目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 2)調査項目・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 3)調査方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 4)調査地点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 3 カルバート調査結果概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 1)哺乳類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2)底生動物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 4 階段植生工確認調査結果概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 1)調査概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 2)考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 3)クマタカの行動と工事の実施状況について・・・・・・・・・・・・・・・25 北船木勝野線(高島工区)道路改築事業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 1 事業の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 2 ソメイヨシノの移植について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 3 クロマツの保全対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 生態系配慮型水路石積み護岸の植生・動物相調査・・・・・・・・・・・・・・・・・33 1 調査地概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 2 生態系配慮型水路・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 3 調査方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 1)植生調査法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 2)動物調査法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 4 植生と動物相調査結果の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 1)調査地点2−A・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 2)調査地点6−B・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 5 動物相の推移の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 1)調査地点2−A・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 3)調査地点6−B・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 6 各調査地点における種類数の推移・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 自然環境保全の基本理念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 滋賀県生物環境アドバイザー制度から ∼公共事業と生物多 様性保全の事 例∼ はじめに 滋賀県生 物環境ア ドバイ ザー制 度は、 県が生 物環境に 配慮し た公共 事業を 推進して いくため に、県の 技術者 の生物 に関す る知識の 向上と 併せて 公共事 業の円 滑な執行 を 図るこ とを 目的 に、 平成 6年 度に 土木 交通 部に おい て創設 され た。 その 後、 平成 13 年度から は琵琶湖 環境部 や農政 水産部 の所管事 業へも 導入さ れて今 日にい たってい る。 一方、当 制度が導 入され る以前 までは 、環境 アセスメ ントが 適用さ れない 小規模の 河川事業 や道路事 業、森 林整備 事業、 農業農村 整備事 業など によっ て、貴 重動植物 の 消滅や生 物環境の 改変な どが容 易に行 われてい たため 、環境 保全と 公共事 業との間 に しばしば 軋轢が生 じてい た。し かし、 当制度の 導入以 降は、 県の公 共事業 において 、 設計時や 工事中、 工事後 にかか わらず 、アドバ イザー と担当 職員が 相互の 理解と協 力 のもとに 連携して 、生物 環境の みなら ず生物多 様性、 自然景 観など に対す る留意点 や 配慮事項 について 、実効 性のあ る適切 な保全対 応が実 施され ている 。 生物環境 アド バイザ ー制度 につい て 生物環境アド バイザー 制度の 導入は 、犬上川 の改修 計画の 策定が きっか けとなっ た。 犬上川は 川幅の狭 い下流 域の彦 根市市 街地にお いて、 過去か らたび たび氾 濫を起こ し ていたた め、河川 改修計 画では 、特に この下流 部の河 道の拡 幅とと もに河 床掘削を 行 い、疎通 能力を高 める計 画とし ていた 。 犬上川計 画緒元 1 犬上川下 流部の 貴重な 生物 犬上川の 改修は、昭和 5 4 年に全 体計画 を策定 したが、この時 の計画 では、安全な川 づくりに 主眼をお いたた めに、 生態系 や景観と いった 環境へ の配慮 が十分 ではなか っ た。そこで 、平成 6年度 に、改修 が最も 急がれて いた河 口から 1.8km の区間 において 、 自然環境 に配慮し た計画 の策定 を行っ た。この 改修計 画では 、本来 海岸に 生育する 滋 賀県では 極めて貴 重なタ ブノキ 林をい かいに保 全しな がら改 修を進 めるか を 1 年余 り 行政と議 論を行っ た。そ の結果 、河川 内にタブ ノキ林 を島と して残 すこと にし、流 水 は島を境 に本川側 と左岸 側の高 水敷を 切り下げ た分水 路側に 流すこ とにし た。しか し、 このよう な河道形 状とす ること にあた っては水 理的な 問題が 考えら れたた め、それ ら を解決す るために 、水理 模型実験 を行っ てタブ ノキ林 の島の 形状を幾 度とな く変更 し、 改修前 と改修 後の タブノ キ林 2 問題を解 決した。 このこと が、行政 と専門 家が議 論をし 、努力 すれば環 境保全 と公共 事業と の間の軋 轢も解決 できる、 という 自信に もつな がり、さ らに生 物環境 アドバ イザー 制度導入 の きっかけ にもなっ た。 生物環境 アドバイ ザー制 度が導 入され た当初 は、生物 種の固 有の生 息条件 等を踏ま えた専門 的見地か らの対 応が必 要であ ったため 、県内 各地域 を調査 ・研究 の活動フ ィ ールドと し、生物 環境に 精通し ている 小中高お よび大 学教員 、県機 関研究 員や一般 県 民等から 構成され た 27 名ほどの アドバ イザー で発足 した。 しかし、 平成 1 2 年度か ら 当制度の 本格実施 と併せ 、制度 適用事 業が 160 箇所に も及ん だこと から、 人材確保 の 観点から 後継者の 育成が 急務と なった 。そこで 、平成 12 年度 から、滋賀自 然環境研 究 会が主催 者となっ て生物 環境ア ドバイ ザー研修 を開催 し、毎 年植生 コース と動物コ ー スにおい て、それ ぞれ 3 0 名ほど の受講 生を対 象に研 修を行っ てきた 。その 結果、当 制 度の運営 に必要な 定員 5 0 名の人 材を確 保する ととも に、琵琶 湖総合 保全整 備計画で あ る「マ ザーレ イク 21 計画 」の指 導者の 育成へ の支援や 、農政水 産部の「み ずすまし 構 想」と「 世代をつ なぐ農 村まる ごと保 全向上対 策」の みずす ましア ドバイ ザーおよ び 指導者の 育成にも 大きく 寄与し てきた 。 生物環境 アドバイ ザー制 度の大 きな特 徴は、事 業の環 境影響 予測・評 価を行 う環境ア セスメン トとは異 なり、 生物環 境の保 全措置と しての ミティ ゲーシ ヨンの 円滑な執 行 を図るこ とにあっ た。し たがっ て、工 事による 生物環 境への 悪影響 を緩和 するため 、 回避、最 小化、修 復、保 護管理 、代償 という一 連の対 策につ いて、 工事着 手前の段 階 からアド バイザー の適切 な指導・ 助言の もとに、現場で の生物 環境へ の実効 性のある 対 応が実施 されてき た。対 象事業 も、土 木交通部 、琵琶 湖環境 部およ び農政 水産部が 実 施する河 川事業や 道路事 業、下 水道事 業、森林 整備事 業、農 業農村 整備事 業、漁場 保 全整備事 業など 1 4 事業 に及んで いる。最近は、制度適 用を受 けて工 事を実 施した事 業 で、完成 後原則2 年を経 過した 時点で の効果の 確認に 対して も制度 を適用 している 。 平成 22 年 度まで に制度 を適用し た事業 の箇所 数は、未 確定も 含めて 延べ 41 9 箇所に も 及んでい る。 滋賀県生 物環境ア ドバイ ザー制 度事業 区分別実 績箇所 経緯表 (H22.3.24 現在) 3 生物環境 の基 本的考 え方 生物環境 への配慮 の理念 とは、 単に植 物を植 えたり、 ホタル を放流 したり すること だとすれ ば、持ち 込んだ 生物は 、なぜ 数年で消 えてし まうの だろう か。ホ タルの餌 と なるカワ ニナがい ても、 それは 必要条 件であっ て十分 条件で はない からで ある。ホ タ ルが持続 的に繁殖 するに は、生 物と環 境の間に は有機 的な生 態的シ ステム が構成さ れ ている必 要がある 。ホタ ルの成 虫と幼 虫のすみ か、摂 食行動 、繁殖 行動、 個体群の 維 持などを 許容する 環境の 保証が 必要で ある。す なわち 、ホタ ルの生 息する 流水、微 地 形、土壌 などの無 機的環 境と、 生物共 同体のパ ートナ ーであ る植生 との、 相互に密 接 な関わり 合いを保 つこと が重要 である 。 1 生物 共同体 1 個体 、ある いは 1 種 だけで 生活を 維持でき る生物 は地球 上に存 在しな いといわ れ る。動植 物が生き ていく ために は、一 定数の個 体群と 複数種 からな る集団 で構成さ れ た共同体 が必要で ある。 ある共 同体の なかで、 種群同 士は食 物連鎖 をとお してつな が っていて 、資源を 循環さ せるこ とによ って生 活 を維持し ているの である 。生物 相互の 結びつ き は、それ ぞれの種 の食物 連鎖上 におけ る役割 分 担が存在 すること で決定 されて おり、 固有の 生 物共同体(bioco eno sis)を構成し ており 、生 物 群集とも いうこと ができ る。 生物共 同体の個 々の種 は、食 物連鎖 上の位 置 と三次元 的な生活 空間に おける 位置を 有して い るが、こ れは生 態的位 置(e co lo gic al n ic he)と 呼ばれて いる。い わば、 それぞ れの種 の役割 分 担を円滑 に行うた めの指 定席で あり、 この生 態 的位置を 確保しな い限り 、いか なる種 も生存 で きない。 つまり、 放流さ れたホ タルが カワニ ナ を餌とす る食物連 鎖上の 位置を 得ても 、繁殖 や 羽化のた めの生活 空間を 手に入 れない 限り、 持 続的な個 体群の維 持は不 可能と いうこ とにな る。 生物共同 体 2 環境 と生態系 生物種 がそろっ ていれ ば、生 物共同 体が維持 できる のかと いうと そうで もない。 も う一つ大 事なもの が欠け ている 。それ は生物共 同体を 取り巻 く環境 である 。我々の ま わりに当 たり前に ある水 、空気 、日射 、重力な ど、ど れ一つ 欠けて も生物 共同体は 崩 壊する。 ホタルに とって 幼虫時 代には 流水環境 が必要 だし、 羽化す るため には適度 な 湿度を伴 った土壌 環境も 必要と なる。 生物共 同体 と環 境とが 関係 する 機能系 は、 生態 系(e co syste m) と呼ば れて いる。 このよう な生態系 は、生 物共同 体と環 境の結び つきに よって 成立し ている 。 3 生態 系の機能 生物共 同体と環 境との 機能系 である 生態系を 動かし ている のは、 何であ ろうか。 生 4 物共同体 は生物種 相互の 資源を 分け合 っており 、食物 連鎖を 通して 物質と エネルギ ー が生態系 内を流れ ている 。正確 には物 質がエネ ルギー を運ん でいる のだが 、エネル ギ ーの源を たどって いくと 、生産 者(独 立栄養生 物)で ある植 物に行 き着く 。 生態系の 構造と 機能 植物は、 根から吸 収した 水と栄 養塩類 、葉か ら吸収し た二酸 化炭素 を材料 に、光エ ネルギー を使って ブドウ 糖を合 成する 。さらに 反応を 進めて 炭水化 物やた んぱく質 と いう有機 物をつく りだす 。この 反応は 光合成と 呼ばれ るが、 これは 植物が 光エネル ギ ーに変換 する仕事 を行い やすい 形にし ているの である 。単純 な分子 から複 雑な有機 物 をつくる ことによ り、多 くの分 子をつ なぎとめ る結合 子にエ ネルギ ーを蓄 えること が できる。 消費者 (従属栄 養生物 )であ る動物 の多くは 、有機 物を食 物とす ること でエネル ギ ーを取り 出してい る。し たがっ て、生 物を結び つける エネル ギーの 源は太 陽という こ とになる 。生物の なかに 取り入 れられ た太陽エ ネルギ ーは、 生産者 によっ て化学エ ネ ルギーと して蓄え られ、 消費者 、分解 者という 生物の 役割分 担作業 によっ て、生態 系 のなかを 流転して いる。 エネル ギーは 生活活動 に利用 され、 熱エネ ルギー として生 物 の体外に 放出され る。有 機化合 物がエ ネルギー を放出 するた びに、 より単 純な化合 物 へと変わ る。微細 な分解 者が利 用する 頃には、 単純な 分子に なって しまう 。これら 単 純化した 物質は水 溶性で あり、 植物の 根によっ て再び 吸収さ れ、光 合成の 原料とし て 再利用さ れる。 4 多様 な生態系 環境は 、生物共 同体が 生活し ていく 上で必要 だが、 十分で あると は限ら ない。そ の ため、生 物共同体 はより 良い環 境をつ くり出す ことに はげむ ことに なる。 つまり、 生 態系は、 生物と環 境との 作用・ 反作用 をとおし て、よ り多様 な機能 を有す る生態系 に 5 発展して いく。こ のよう に、生 態系の 発達は生 物共同 体自身 によっ て成し 遂げられ て いく。発 達の過程 を生物 共同体 の側で みれば、 種数の 増加、 生物の 大型化 、生物の 長 寿化、よ り複雑な 食物連 鎖網と してと らえるこ とがで きる。 また、 環境の 側からみ れ ば、有機 物蓄積量 の増加 、生活 空間の 拡大、小 規模の 多様化 と安定 として とらえる こ とができ る。 機能系 である生 態系は 、実際 、目で 見えるも のでは ないし 、その 大きさ もスケー ル のおき方 で異なっ ている 。例え ば、河 川でもよ どみ、 高水敷 、上流 、中流 、下流、 河 川という スケール によっ て生態 系のと らえ方も 変わっ てくる 。また 、生態 系が機能 す る場は、 概念的に 一つの 生態系 が完結 する閉鎖 的な空 間を生 活空間 として みること が できる。た だ、野 外では 実際に概 念的な 生活空 間を切 り出すこ とは難 しい。なぜなら 、 実際の空 間は連続 してお り、無 機的環 境や生物 の出入 りが日 常的に 起こっ ているか ら である。 5 生物 多様性 森林と いう多様 で安定 した生 態系を 維持する 山岳と 、不安 定な複 数の生 態系を維 持 する河川 とでは、 生物多 様性は どのよ うに評価 される のであ ろう。 一つの 生態系に おける 食物連 鎖上の 種の数で いけば 、生物 共同体 の構成 種数の多 い 森林の方 が多様性 は大き いとい える。 しかし、 ビオト ープと いう具 体的な 空間的広 が りを対象 とすると 、多数 の生態 系が機 能する河 川敷の 方が生 物多様 性は大 きいとい え る。前者 は種の多 様性、 後者は 生態系 の多様性 として 評価さ れてい る。 6 ビオ トープと エコト ープ 1)ビオ トープと は 流水環 境が支配 的な河 川には 、 さまざま な生活空 間が存 在して いるが、 しかし生 活空間 が閉鎖 的な生態 系の機能 する場 という 概念的な 言葉であ る以上 、具体 的に野外 でそれを 認識す ること は難しい 。しかし 、生物 共同体 の基盤と なる植生 の広が りをと おして、 この生活 空間を とらえ ることが できる。 つまり 、動物 社会と異 なり、植 生は空 間的な 認識が容 易である こと、 生産者 として生 態系の基 盤を構 成して いること 、環境の 総和を 指標し た存在で あること があげ られる ためであ る。 このよ うな植生 相観の 均質な ビオ トー プとエ コトー プ 広がりが ビオトー プ(bio to pe)とし て認識 される。そ のスケ ールは 生態系 のとらえ 方 によって 違うが、 人間の 視点で 最も認 識しやす いレベ ルに具 体的空 間をお いている 。 河川を例 にとれば 、河川 敷とい うスケ ールに相 当する ぐらい で、ビ オトー プが日本 語 6 で「生物小 空間」と訳さ れている ことか らも理 解でき る。もう 少し正 確に定 義すれば 、 生物的な 構造的、 形態的 均質性 を備え 、生物群 集(生 物共同 体)を とおし て確認で き る三次元 的生活空 間のビ オトー プとエ コトープ 広がり で、し かも人 間の視 点で最も 認 識しやす いレベル にビオ トープ をおい ている。 2)エコ トープと は ビオト ープは生 物共同 体が生 活する 具体的な 空間で 、おも に植生 という 生物要素 を 用いて区 分するが 、実際 は地形 や土壌 などの環 境も視 野に入 れて判 断して いる場合 が 多い。つ まり、正 確には 、生物 共同体 の広がり である ビオト ープに 、地理 的な要因 で ある地 形、 土壌 、気 候な どの 環境 的広 がり のゲ オト ープ (ge o to pe )を加 味し た空 間 がエコト ープ(e co to pe )である 。した がって 、ドイ ツでも日 本でも 慣用的 に使わ れ ているビ オトープ は、実 は内容 的に限 りなくエ コトー プに近 い。 7 発信 ビオトー プと受 信ビオ トープ ある地 域の生物 共同体 が健全 に存続 するた めには、他 地域共 同体と の交流 が欠かせ ない。 生物共同 体の存続 は、遺 伝学上 の多様 性が維 持される ことで成 立して いるか らであ る。自 然域の分 断が著し い今日 、相互 を結ぶ 生態回 廊(コリ ドー)の 存在は 極めて 重要で ある。 そうした 意味にお いて、 河川空 間は生 物の移 動経路と して重要 な位置 づけが なされ ねばな らない。 河川は 、ときに 洪水を もたら し、大 量の土 砂を移動 させるが 、また 土砂と 一緒に 、植物 の種子、 動物の卵 あるい は生き た動植 物その ものも運 搬、移動 させる 。こう して河 川流水 は、生物 を急速に 、そし て遠方 へと、 物理的 発信ビ オトー プと受 信ビオ トー プ な分布拡 大を助け ている 。 ドイツ のレヒ川 の場合 、その 源流は アルプス の山中 であり 、ユー ラー山 地近くを 流 れるドナ ウ川に合 流して いる。 主要な 生物の供 給源が アルプ ス山地 となっ ている。 こ の場合、 アルプス が発信 ビオト ープで あり、そ の下流 域とユ ーラー 山地は アルプス の 生物相の 受け入れ 側、す なわち 受信ビ オトープ の関係 にある 。 ビオト ープづく りのよ うに、 人工的 にビオト ープを 設置す る場合 でも、 こうした 発 信ビオト ープと何 らかの 連絡が あるか 、生物自 体によ る分布 拡大範 囲内に 発信ビオ ト ープが存 在するか どうか が重要 である 。 移動能 力の高い 鳥類、 移動能 力の比 較的小さ い両生 類、あ るいは 風散分 布型の植 物 と重力散 布型の植 物など 、個々 の生物 によって 移動・ 分布拡 大能力 が大き く異なっ て いる。し たがって 、特に 高度な 土地利 用地であ る都市 域では 、こう した野 生生物の 生 息空間が 日常的に 分断さ れるこ とが多 いため、 都市域 のビオ トープ の保全 と健全性 の 維持には ビオトー プネッ トワー クが必 要である 。 7 8 ビオ トープの 素材 健全で 真のビオ トープ を回復 させる ためには 、その 素材は その土 地(自然 ) ・地域 に あるもの を使うべ きであ る。海 外や遠 方からの 材料、 人工的 な材料 も極力 さけるべ き である。湿 地には 岩石は 向かない し、砂 岩地帯に 石灰岩 の岩石 を使う のも合 致しない 。 湿地や小 さな池を つくる 場合で も、自 然から供 給され る水の 量以上 の規模 のものを つ くるべき ではない 。 植物の 植栽樹種 や緑化 植物は 、土地 の自生種 を、複 数種用 いるこ とがド イツでの 土 木工事の 基本原則 である 。外部 からの 野生植物 の移入 、園芸 品種の 利用も 極力さけ な ければな らないの である 。 ドイツの 生物 環境配 慮型河 川整備 1 流水 エネルギ ーの分 散によ る立地 の安定 河川水の 流下エネ ルギー は位置 エネル ギーの 放出であ り、沢 の源頭 から出 発した流 水は流下 しながら 、支川 からの 合流を 受け、流 量を増 すごと にエネ ルギー を高めて い く。上流 の急流河 川は比 較的直 線的な 流路をと るが、 流量を 増して なだら かな平野 部 にでてく ると、蛇 行を繰 り返す ように なる。こ の蛇行 により 流水エ ネルギ ーは分散 さ れやすく なるが、 さらに 岸辺に ある挺 水植物群 落がエ ネルギ ーの分 散を助 ける。 流水や波 浪による エネル ギーは 蛇行部 分の浸 食を促す が、植 生が浸 食を緩 和する働 きもする。流水エ ネルギ ーは洪水 時最大 となり、増水は 河原や 自然堤 防に押 し寄せる 。 河川敷の 森林植生 は増大 した流 水エネ ルギーを 分散さ せる効 果もあ る。 したがっ て、従来 の流水 を直線 的にさ っと流 すのでは なく、 本来、 自然が やってい たように 涵養しな がら流 すべき である 。涵養さ れる流 水が生 物に栄 養塩類 などの資 源 を提供す る結果、 水質が 浄化さ れると いう大き なメリ ットも ある。 2 流れ の構築 州 1)早瀬 をつくる 水流を 速めたま まで浅 瀬を形 成、水 流に変 化 と乱れを 生じさせ る。こ の早瀬 は、流 水に酸 素 を供給、 流水の色 の変化 、水音 (せせ らぎ音 ) の発生を 意識した もので ある。 2)分流 をつくる 直線的 であった 流路に 変化を つけ、 自然の 河 川流路を 真似た曲 線の水 路をつ くるこ とも再 自 然化の基 本である 。さら に、水 流を分 流させ 、 小さな中 州や小島 をつく り、よ り多様 な変化 を つけるこ ともある 。 3 中州と水 制工の 設置 場の 構築 川づく りの主役 は川自 身であ って、 人間が行 うのは 単に「 場」の 設定で しかない 。 長期的あ るいは理 想的に ある べき自 然の姿 8 や 目 標とす る姿 に向け て「場」 を 設定する ことにあ る。河 原をつく りたい とき、工 事によ って河 原をつ くるの ではなく 、 石組みの 配置や水 制工を 施し、 自然と 河原が形 成され るよう な「場 」を施 工するこ と である。 水流には 瀬と淵 の存在 、すな わち浅瀬 やよど み、急 流部な ど流速 や水深に 変 化がある ことは、 景観上 も好ま しいこ とと、そ こに生 育する 生物の 生活の 場を広げ 、 生態系上 も好まし いこと である 。 また、 自然景観 に調和 した河 川への 再改修は 、自然 素材を 使うの が原則 である。 ヤ ナギ類な どの生物 素材は もちろ ん、岩 石や土砂 などの 無機的 素材も 、可能 な限り近 隣 の場所か ら調達さ れるべ きであ る。 4 再自 然化施工 と生物 相の回 復 1)施工 の原則 ドイツの 河川の再 自然化 では、 植物の 植栽な どを行わ ずに岩 石と土 砂の施 工だけで 終わって いたり、 むき出 しの土 砂と貧 弱な植生 のまま で工事 が終了 とされ るなど、 極 めて雑駁 で粗雑な もので ある。 これは 、人間が 行うの は「場 と条件 の設定 」だけで あ り、後は 河川自身 と自然 の再生 力によ って時間 をかけ て自然 な河道 が形成 され、自 然 の植生と 動物群集 が復元 してい くとい う考え方 である 。つま り、完 成は自 然が成し 遂 げるとい うことで ある。 2)河川 再自然化 施工の 10 原 則 ① 総合性: 河川は 水域、 陸域、 空域の 接点で あり、 流域全 体、地 域と有機 的につ ② ながる機 能的な統 一体と しての 理解が 必要。 多様性: 河道や岸 辺の構 造上の 多様性 を保持す ること が、多 様な植 物相と 動物 相の前提 条件であ る。 ③ 活動 力:河川 の豊か な構造 は、流 れの活 性に決定 的に影 響され る。で きるだけ 自然な浸 食、堆積 による 河床変 動が可 能になる よう努 力すべ きであ る。 ④ 個別 性:河川 の性質 は、地域 の自然 的要因 と文化的 要因に より決 定され ている。 計画・施 工はマニ ュアル 化、規 格化を さけて個 性的で あるべ きであ る。 ⑤ 継続 性:河川 水辺は 、生物 群集が 長い進 化の歴史 のなか で得た 居住、 移動の特 殊な生活 圏である という 観点で の、河辺 保護の 重要性 が強調 されるべ きであ る。 ⑥ 適切な保 護措置:自然 生態系の 人為的 な造成 より、現存す る自然 そのも のの保全 を第一主 義とすべ きであ る。 ⑦ 発展の方 向付け:自然 の再生力 や植生 遷移の 方向を 見極めた 、長・短期 の管理姿 勢が必要 とされる 。不 必要な人 的管理 が最小 限とな る目標 を得た計 画・施工方法 がとられ るべきで ある。 ⑧ 自然をい たわる工 法:自然の 樹木と 植物に よる工法 が従来 工法に 優先す べきであ る。 ⑨ 専門知識:計画に 際して は、自 然科学 と科学 技術の融 合・共 同作業 が必要 であり、 多方面の 専門家の 協力を 得るべ きであ る。 ⑩ 土地需要 と土地利 用:生態 学的な 視点によ る「河川 の再自 然化」には、自由裁量 の余地の ための十 分なス ペース が必要 である 。その 土地は 同時に 地域の 環境保 全 に寄与し ていると いう視 点が必 要であ る。 9 3)生物 相の回復 と評価 河川ら しい多様 な河川 構造を 施工す る目的は 、治水 上の意 味、河 川らし い景観の 構 築である 。こうし た、一 見純土 木的な 行為は、 長期的 目標と してそ の河川 にふさわ し い豊かな 生物集団 の回復 をめざ してい るのであ る。つ まり、 多様な 河川構 造、河床 構 造、流速 の大小、 水深の 大小、 水温の 高低など 多様な 水環境 を生み 、その ことが多 様 な生物集 団の生育 を可能 にする ことが 知られて いる。 また、 目標とす べき生 物相の 一例と して、潜 在的魚 類相の 概念を 入れ、 現況の魚 類 相との差 異から自 然度を 評価し 、生物 相再生の 目標値 とする 方法も ある。 滋賀県生 物環 境アド バイザ ー制度 実施 要綱 10 国道 421 号道路改築事業 (黄和 田工区 ) 1 国道 421 号道 路改築 事業概要 11 12 13 2 モニ タリング 調査概 要 1)調査 目的 2)調査 項目 3)調査方 法 14 4)調査 地点 15 3 カル バート調 査結果 概要 1)哺乳 類 2)底生 動物 16 17 18 19 20 4 階段 植生工確 認調査 結果概 要 1)調査 概要 21 22 2)考 察 23 4 猛禽 類調査結 果概要 1)調査 方法 2)調査 結果概要 24 3)クマ タカの行 動と工 事の実 施状況 について 25 北船木 勝野線 (高 島工区 )道路 改築事 業 1 事 業の概要 (平成 17 年2月) 2 ソメ イヨシの 移植に ついて 26 27 28 移植木: 112 本 から 98 本 伐採木: 38 本か ら 52 本 29 3 クロ マツの保 全対策 県道北 舟木勝野 線の高 島市永 田から 勝野区間 には、 日本の 渚百選 に選ば れた「萩 の 浜」が広 がってい る。こ の萩の 浜には 県道沿い から数 百本も のクロ マツが 天橋立に も 匹敵する ような松 林を形 成し、 湖岸の 砂浜とと もに白 砂青松 の景観 を醸成 している 。 松林のな かには 100 年以 上の樹齢 の大木 も多く 、そこ でこの クロマ ツの保 全対策の た めに生物 環境アド バイザ ー制度 が適用 された。 県道北船 木勝野 線沿道 と萩 の浜の クロマ ツ林 30 クロマツ 残存の ための 歩道 の決定 31 決定され た歩道 とクロ マツ の伐採 木数 32 生態系配 慮型 水路石 積み護 岸の植 生・ 動物相 調査 1 調査 地概要 調査対象 地域は、 滋賀県 北部の 金糞岳 を水源 とする杉 野川が 高時川 と合流 し平野部 に抜け出 てすぐの 水田地 帯に位 置し、 木之本町 と高月 町にま たがる 地域で ある。今 回 の調査対 象となっ たのは 、平成 1 1 年か ら 10 月 から平 成 12 年 3月に かけて 、木之本 町 千田地区 の上水井 川が生 態系配 慮型水 路として 整備さ れた総 延長 505 m の 区間であ る。 この生態 系配慮型 水路は 、水田 地帯の 中央を北 東から 南西に 流れる 直線水 路で、標 高 は 110mの 位置に ある。 調査は 、この生 態系配 慮型水 路に、 調査地点 1から 7まで の7箇 所の調 査地点を 設 けて実施 した。最 上流部 の調査 地点 1 から最 下流の 調査地点 7 ま では延長 350m、 調 査地点 1 から置石 落差工 上流の 調査地 点2まで が 50m 、調査 地点2 から調 査地点3 ま でが 40m 、調査地 点3か ら親水 空間の 整備され た調査 地点4 までが 50m、調査地点 4 から調査 地点5ま でが 70 m、調 査地点 5から調 査地点 6まで が 50m 、調査 地点6か ら 最下流の 調査地点 7まで が 90m 、とな ってい る(図1 )。 図1 2 石垣 生物調 査地点 位置図 生態 系配慮型 水路 この生態 系配慮型 水路は 、ホタ ル水路 として、 ①河床 はホタ ルの幼 虫が潜 土できる 砂礫質の 土とする 、②産 卵場所 の確保 のため水 際にコ ケが付 着しや すい石 等を配置 す る、③幼 虫が潜る ための 土が堆 積しや すい場所 や湿地 を設け る、④ 水際や 河床に変 化 を持たせ 、流速や 水深に 変化を おこし 、瀬や淵 をつく る、⑤ 護岸は 自然素 材であり 、 洪水時の 安全も確 保する 、⑥高 低木を 植栽し、 成虫の 休息空 間の確 保、人 工光の遮 断 を行う、 の6つの 設計条 件のも とに、 自然石空 石積護 岸の水 路構造 となっ ている( 写 真1)。 したがって、水路の壁面は、土羽護岸に自然石(玉石)の空石積み工法を用いて、多孔 33 質護岸による生息場所の確保に配慮している。つまり、石積みの空隙に植物が生えやすく、 植物体と石積みの石に流水が接触することによって溶存酸素を供給するなど、水路の水質 浄化に寄与する効果を考慮している。直接石積み護岸の上部は土羽の法面であり、さらに、 調査地点2から調査地点7の法面にはハンノキが植栽されている。水路内には、多様な流 速状況を創出することを意図して調査地点1部分の1箇所にだけ水路を堰き止めるよう な形で置き石の水制工がなされている。 整備前(1998.8撮影) 整備後(2001.5撮影) 整備前(2007.9撮影) 整備後(2010.11撮影) 生態系配 慮型 水路 の水制 工 生態系配 慮型水路 の空石 積み護 岸 (2010.11 撮影) (201 0.11 撮 影) 写真1 生態系配 慮型水 路の整 備前と 整備後 34 また、 低水敷には自然素材を使用した、間伐材杭護岸を整備して休息場所の確保も行 っている。一方、水路底には砂質土と玉石配置の整備を行って、生息場所の創出、流速 ・ 水深の変化による生き物の生息空間の多様性確保も考慮している。 3 調査 方法 1)植生 調査法 植生調 査は、石 積み護 岸とと もに植 生の被覆 が動物 相に及 ぶ影響 を評価 するため の 資料収集 として実 施した もので ある。 したがっ て、石 積み護 岸に設 置した 動物捕獲 用 のトラッ プを中 心に調 査区面 積2×5m の方形 枠を設 定して調 査を行 った。 方形枠 は ホタル水 路の7箇 所(図 1)に おいて 、北向き の左岸 (A) と、南 向きの 右岸(B ) において 、各1地 点の合 計 14 方 形枠を 設置し た。 植生調査 は、各方 形枠に おいて 、Z− M学派 の植物社 会学的 調査法 に基づ いて植生 調査資料 の収集を 行った 。立地 条件に ついては 、調査 区の海 抜、微 地形、 土壌、傾 斜 方位・角 度、日当 たり、 土湿な どの項 目に関し て記録 した。 次に、 方形枠 に出現す る 植物の全 種類につ いて、 草本層 の種の リストを 作成し 、出現 種した 種全て について 総 合判定法 (Braun- Blanqu et,196 4)に よる優占 度と群 度を判 定し記 録した 。また、 最 後に全植 被率につ いて判 定し記 録した 。 2)動物 調査法 調査地区 の水田用 排水路 は、右岸 の一部 に親水 空間の 整備さ れたホタ ル水路 として、 護岸は 空石 積工 法で 整備 され 、水 路底 か ら 30°の 傾斜 で立 ち上 がり 小段 をは さん で 45°の土斜面 が設けら れてい る( 図2)。斜面上 部は左 岸の調 査地点 1 から 調査地点 4 までがア スファル ト舗装 の農道 となっ ており、 調査地 点4か ら調査 地点5 までと右 岸 全域は水 田の畦畔 となっ ている 。 左岸: A 右岸: B 図2 生 態系配 慮型水路 の標準 断面 水田地帯 の中央を 流れる ホタル 水路の、石積み 護岸に おける 動物相を 解明す るため、 ゴキブ リ捕獲 用の 粘着シ ート トラッ プ( 10c m×16cm )を7 箇所 の地点 (図 1)の 北 向きの左 岸(A)と南向 きの右 岸(B)に各 1箇所、計 14 個 を石垣 の間に 設置した 。 粘着シー トは、石 積み護 岸の石垣 の隙間 に湾曲 に丸め て入れ、24 時 間放置 し捕獲を 実 施した。 捕獲対象 とした 動物は 、両生 は虫類、 甲殻類 、昆虫 類、ク モ類、 ミミズ類 、 35 多足類、 陸生貝類 などで ある。 捕獲し た動物に ついて は、室 内に持 ち帰っ たうえで 、 室内でト ラップご とに写 真撮影 を実施 した。 そして、トラップごとに種を確認・同定したうえで、それぞれの個体数を計測した。 確認・同定の対象となった個体は1mm 以上の個体についてのみで、1mm 以下のトビムシ 類、イシノミ類、ダニ類は各地点で確認されたが、同定不可能なため対象外とした。 4 植生 と動物相 調査結 果の事 例 1)調査 地点2− A この調査 地点は、最上流 部の調 査地点 1から 5 0m下流 にある 調査地 点2の 左岸側で 、 そのすぐ下流には置石落差工が設けられている。水路構造は石積み護岸の高さが 150cm で 、犬走り から上 部は土 羽とな っており 、石積 み護岸 の石垣 が一部 露出して い る。石垣 の上部は シダレ ヤナギ とハン ノキが植 栽され 、住民 憩いの 空間と してベン チ が設置さ れている 。 石積み部 の植生は 、植生 高が 0. 65m、 植被率 は 65% 、出現種 数は 1 3 種と なってい る。植生 構造は次 いでサ ツキ、 ヒロハ ノウシノ ケグサ 、イヌ ムギが 優占度 「3」で 優 占し、次 いでヒナ タイノ コズチ 、ヨモ ギ、ヌス ビトハ ギが優 占度「 2」で 、そのほ か 低い優占 度のカキ ドオシ 、ヘク ソカズ ラ、スギ ナ、ツ ユクサ 、アオ ツヅラ フジが優 占 度「1」 で、ギョ ウギシ バとト ウバナ が「+」 で生育 してい る(表 5、写 真4)。 2008 年度 のこの 地点で採 取でき た動物 は、シマヘ ビが1 個体 、アリ 科の一 種が7個 体、アミ メアリが 7個体 、ハエ 目の一 種が1個 体、ヒ メグモ 科の一 種が1 個体の、 5 種類類 17 個体で あった。これに 対して 、今年度 はハマ トビム シ科の 一種が 4個体と 最 も多く、 次いでア リ科の 一種、 キレワ ハハエト リ、ク モ目の 一種が それぞ れ2個体 、 表5 調 査地点2 −A 植生調査 票 調 査 地 点 : 2-A 調査日 調 査 地:滋 賀 県 伊 香 郡 木 之 本 町 千 田 ホタル 水路 : 2010/0 8/18 調 査 面 積 : 2.4 ㎡ 土壌:石 垣 土地の概 況 地形 :斜面 下 土湿:適 海 抜 : 110 m 風当り: 中 斜 面 方 位 : N23W 日当り: 陽 傾 斜 : 60° (階層) Ⅳ (優占種 ) (高さm ) (植被率 %) (出現種 数) サツキ 0.65 65 13 草本 層 階層 種名 被度・群 階層 種名 度 Ⅳ サツキ ヒロハノウシノケク ゙サ イヌムギ ヒナタイノコズチ ヨモギ ヌスビトハギ スギナ 被度・群 度 Ⅳ 3・3 3・3 3・3 2・3 2・2 2・2 1・2 36 ヘクソカズラ ツユクサ カキドオシ アオツヅラフジ ギョウギシバ トウバナ 1・2 1・2 1・2 1・2 +・2 + 表6調 査地点 2−A 動物相 目 ヨコエビ コウチュ ウ バッタ ハチ ハチ ハチ クモ クモ マイマイ 6目 写真4 種 類 ハマトビ ムシ科の 一種 コウチュ ウ目の一 種 バッタ科 の一種 アミメア リ アリ科の 一種 ハチ目の 一種 キレワハ エトリ クモ目の 一種 オカモノ アラガイ 9 種類 個体数 4 1 1 1 2 1 2 2 1 15 個体 調査地点 2−A そのほか コウチュ ウ目の 一種、 バッタ 科の一種 、アミ メアリ 、ハチ 目の一 種、オカ モ ノアラガ イが各1 個体の 、9種 類 15 個 体と多様 性に富 んだ種 類が採 取でき た(表6)。 今年度と 2 008 年 度との 動物相 の最も大 きな違 いは、2 008 年 度は石 積み護 岸の生態 系の頂点 に位置す るシマ ヘビの 生息が 確認でき たこと である 。石積 み護岸 に整備し た ことによ って、シ マヘビ の餌と なる小 動物や、 今年度 も採取 できな かった が石組み の 隙間に多 数確認さ れたカ エルな どが豊 かに生息 するよ うにな ったこ とで、 まさに生 態 系配慮型 水路の空 石積み 護岸の 効果を 裏づける 結果と なった 。 2)調査 地点6− B この調査 地点は 、調 査地点5 から 50 m下流 にある 調査地 点6の 右岸側で 、水路構造 は石積み 護岸の高 さが 11 0cm で 、犬走 りから上 部は土 羽とな ってい る。土 砂が水面 か ら上に 30 ∼40cm 、幅 100 ∼120c m 程度堆 積し、 石積み 護岸の 下部を 覆ってい る。堆 積 した土砂 の上には 植生が 発達し 、護 岸は植 被率が 8 5%の 被覆状 況となっ ており 、石 積 み護岸の 大部分は 植物で 被覆さ れてい る。 石積み部 および土 砂堆積 部の植 生は植 生高が 0 .8m 、植被 率は 85 % 、出現種 数は 13 種となっ ている。 植生構 造はス スキが 優占度「 5」で 優占し 、次い でツユ クサが優 占 度「3」で 、ヤブ ツルアズ キ、ヒ ロハノ ウシノケ グサ、ヒナタ イノコ ズチが優 占度「 2」 で、ヨモ ギ、ノチ ドメ、 アキエ ノコロ グサ、ミ ゾソバ が優占 度「1 」で、 そのほか オ ッタチカ タバミ、 チゴザ サ、ハ リエン ジュ、ア メリカ センダ ングサ が優占 度「+」 で 生育して いる( 表 23、写 真 13)。 2008 年度 のこの 地点で採 取でき た動物 は、ゾウム シ科の 一種が 3個体 、エ ンマコオ ロギが1 個体、ア ミメア リが 57 個体、ハチ目 の一種が 1個体 、ハエ トリグ モの一種 が 1個体、オ ナジマ イマイ 科の一 種が1個 体の、6 種類 6 4 個体で あった 。これ に対して 、 本年度の 採取でき た動物 は、シ マヘビ が1個体 、ツヅ レサセ コオロ ギが 1 個体、ア ミ メアリが 5個体、 アリ科 の一種 が 1 個 体、ハチ 目の一 種が5 個体、 コモリ グモ科の 一 種が1個 体、オカ ダンゴ ムシが 3個体、ヤケヤ スデが 1個体 の、8種 類 18 個体であ る (表 24)。 2008 年 度は、エンマコ オロギ 、ハエ トリグ モの一種 など、他の小 動物を 捕食する も ののほか 6種類 57 個体 が確認 された が、本 年度はこ の石積 み護岸 の生態 系の頂 点に 位置し、 捕食者の 代表で あるシ マヘビ が1個体 採取さ れたほ か、ク モやヤ スデ、コ オ ロギなど の食物連 鎖の捕 食者も 捕獲さ れた。こ のこと から、 この地 点はシ マヘビの 餌 37 となる小 動物など が豊か に生息 し、シ マヘビを 頂点と する生 態系が 成立し ているも の と考える 。 表 23 調 査地点 6−B 植生調 査票 調 査 地 点 : 6-B 調査日 調 査 地:滋 賀 県 伊 香 郡 木 之 本 町 千 田 ホタ ル 水路 : 2010/0 8/18 調 査 面 積 : 1.8 ㎡ 土壌:沖 積 土地の概 況 地形 :平地 土湿:適 海 抜 : 110 m 風当り: 中 斜面方位 :- 日当り: 陽 傾 斜 : 0° (階層) Ⅳ (優占種 ) (高さm ) (植被率 %) (出現種 数) ススキ 0.8 85 13 草本 層 種名 階層 被度・群 階層 種名 度 Ⅳ ススキ ツユクサ ヤブツルアズキ ヒロハノウシノケク ゙サ ヒナタイノコズチ ヨモギ ミゾソバ 被度・群 度 Ⅳ 5・4 3・3 2・3 2・3 2・2 1・2 1・2 ノチドメ アキノエノコログ サ アメリカセンダン グサ ハリエンジュ オッタチカタバミ チゴザサ 1・2 1・2 + + + + 表 24 調査地点6−B 動物相 写真 13 調査地 点6−B 目 トカゲ バッタ ハチ ハチ ハチ クモ ワラジム シ オビヤス デ 6目 種 類 シマヘビ ツヅレサ セコオロ ギ アミメア リ アリ科の 一種 ハチ目の 一種 コモリグ モ科の一 種 オカダン ゴムシ ヤケヤス デ 8 種類 個体数 1 1 5 1 5 1 3 1 18 個体 5動物相の推移の事例 1)調査 地点2− A 調査地点 2 -A の 2008 年 度まで の4回 の調査 で出現し た種類 は、シ マヘビ 、アミメ アリ、アリ 科の一 種、ハ チ目の 一種、カ 科の一 種、ハ エ目の一 種、チ ョウ目 の一種( ガ 類)、ヒメグ モ科の 一種、ゲ ジ、オカダ ンゴム シの 10 種類 である。 本年度 の調査で 新 たに採取 された種 類は、 ハマト ビムシ 科の一種 、コウ チュウ 目の一 種、バ ッタ科の 一 種、キレ ワハエト リ、ク モ目の 一種、 オカモノ アラガ イの6 種類で ある。 その結果 、 5年間に 合計 16 種類が 確認さ れたが 、本年度 はこの 地点の モニタ リング 調査開始 以 来、最も 多い6種 類が追 加され た(表 3 1)。 38 本調査地 点におい て、5 年間に 採取さ れた 16 種類の 全個体 数は、わ ずかに 43 個体 にすぎな かった。そして 、最も多 く採取 された 種類で も 2008 年度の アミメ アリとア リ 科の一種 の各7個 体であ る。ま た、最 も多くの 種類が 採取さ れたの は本年 度の9種 類 である。 表 31 目 トカゲ ヨコエビ コウチュ ウ バッタ ハチ ハチ ハチ ハエ ハエ チョウ クモ クモ クモ ゲジ ワラジム シ マイマイ 種 トカゲ ヨコエビ コウチュ ウ コウチュ ウ コウチュ ウ コウチュ ウ バッタ バッタ ハチ ハチ ハチ ハエ チョウ チョウ クモ クモ クモ ザトウム シ ゲジ ワラジム シ オビヤス デ マイマイ 類 シマヘビ ハマトビ ムシ科の 一種 コウチュ ウ目の一 種 バッタ科 の一種 アミメア リ アリ科の 一種 ハチ目の 一種 カ科の一 種 ハエ目の 一種 チ ョ ウ 目 の 一 種( ガ 類 ) キレワハ エトリ ヒメグモ 科の一種 クモ目の 一種 ゲジ オカダン ゴムシ オカモノ アラガイ 種 類 数 個 体 数 表 40 目 調 査地点 2 -A の 動物相の 経年変 化 種 2003 2006 2007 2008 2010 合計 1 4 1 1 1 2 1 7 7 2 1 1 1 1 1 2 1 2 3 2 4 6 0 0 3 5 5 17 1 9 15 16 43 2010 合計 調 査地点 6 -B の 動物相の 経年変 化 類 シマヘビ ハマトビ ムシ科の 一種 ハサミコ ムシ科の 一種 ゴミムシ ダマシ科 の一種 ゾウムシ 科の一種 コウチュ ウ目の一 種 エンマコ オロギ ツヅレサ セコオロ ギ アミメア リ アリ科の 一種 ハチ目の 一種 ハエ目の 一種 チョウ目 (ガ類) の一種 チョウ目 の一種 キレワハ エトリ ハエトリ グモ科の 一種 コモリグ モ科の一 種 ザトウム シ目の一 種 ゲジ オカダン ゴムシ ヤケヤス デ オナジマ イマイ科 の一種 種 類 数 個 体 数 2003 2006 2007 2008 1 1 1 2 3 1 1 1 1 57 82 17 3 39 1 1 5 1 5 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 2 6 88 8 28 39 3 1 5 43 1 6 64 8 18 22 241 2)調査 地点6− B 調査地点 6 -B の5 回の調 査で出 現した 種類は 、シマヘ ビ、ハ マトビ ムシ科 の一種、 ハサミコ ムシ科の 一種、 ゴミム シダマ シ科の一 種、ゾ ウムシ 科の一 種、コ ウチュウ 目 の一種、 エンマコ オロギ 、ツヅ レサセ コオロギ 、アミ メアリ 、アリ 科の一 種、ハチ 目 の一種、 ハエ目の 一種、 チョウ 目の一 種(ガ類 )、チ ョウ目 の一種、 キレワ ハエト リ、 ハエトリ グモ科の 一種、 コモリ グモ科 の一種、 ゲジ、 ザトウ ムシ目 の一種 、オカダ ン ゴムシ、ヤケヤ スデ 、オナジ マイマ イ科の 一種の 2 2 種類 である(表 4 0)。本調査地 点 の種類の 特徴は 、本 年度にシ マヘビ が採取 されて いるの と、2 006 年 度の他 の地点に お ける出現 種類は少 なくな ってい るが、 本調査地 点では 8種類 が採取 されて いる。本 調 査地点の 2 2 種類 の個体 数につい ては、5年間 に合計 2 41 個体 と、全 調査地 点のなか で 最も多く なってい る。ま た、最 も多く 採取され た種類 は 200 3 年度 のアリ 科の一種 で 82 個体、次い で多い のがア ミメアリで 2 008 年度の 57 個体 、そして 20 07 年度のア リ 科の一種 で 17 個 体とな っている 。 6 各調 査地点に おける 種類数 の推移 石積み護 岸の石垣 の隙間 に、10cm×16c m のゴ キブリ捕 獲用粘 着マッ トを湾 曲に丸め たトラッ プを設置 し、石 積み護 岸に生 息してい る小動 物の採 取を行 った。 その結果 、 極めてわ ずかな面 積にも かかわ らず多 くの小動 物を捕 獲でき た。ここで は、2 003 年 度、 2006 年度 、2007 年度、2 008 年 度、201 0 年度の 5回に わたっ て行っ た動物 相調査に つ いて、採 取した動 物の種 類の推 移を検 討した( 表 43)。 表 43 各 調査地 点におけ る種類 数の推 移 調査地点 2003 年 2006 年 2007 年 2008 年 2010 年 1−A 1−B 2−A 2−B 3−A 3−B 4−A 4−B 5−A 5−B 6−A 6−B 7−A 7−B 4 4 4 7 3 4 5 13 9 8 8 1 0 0 2 1 3 5 5 3 4 2 4 5 3 3 6 7 1 6 8 6 12 8 6 5 4 2 6 5 9 2 10 3 3 7 9 4 5 6 3 10 5 2 5 出現種 類総数 14 14 16 13 15 17 15 24 19 18 17 6 4 7 8 2 2 5 9 5 6 10 10 8 4 7 22 18 21 まず、最 も多くの 小動物 が採取 された のは 200 3 年度 の 4-B 地点で 1 3 種類 、次いで 2007 年 度の 6-A 地点 の 12 種類、 そし て 10 種類の 小動物 が採取さ れたの は 20 08 年 度 の 5-B、7-A、 7-B の各地 点と 2010 年度の 4-B 地 点であ る。また 、2008 年 度の調査 で は5地点 において 、本年 度と 200 3 年度 出は3 地点にお いて、それぞ れ採取 された種 類 数が最高 となって いる。一方、2 006 年 度は各 地点の種 類数が 全体的 に少な く、全く 捕 獲できな かった地 点が 1- B と 2- A の2 地点あり 、その ほかの 地点に おいて も 6-B 地 点 40 の8種類 を除き、全て5 種類以 下となっ ている 。この ように 2 006 年 度の小 動物の捕 獲 数が少な かったの は、ト ラップ の設置 時間の問 題不足 や農薬 の散布 、草刈 りの時期 な どさまざ まな要因 が考え られる 。 また、安 定してど の年度 におい ても種 類数が多 い地点 は 4-B 地点、 次いで 6 -B 地点 が5∼8 種類とや や種類 数が少 ないも のの安定 してい る。そ の他の 多くの 地点にお い て、種類 数の間に ばらつ きが認 められ る。 次に、5回 の調査 にわた って出 現した総 種類数 をみる と、初 回調査 の 2003 年度から 本年度ま で、概ね 種類数 が増加 傾向に あるが、 これは 年とと もに石 垣の植 物が増加 し て被覆率 が上がり 、動物 の生息に 適した 多様な 環境が 整って きたこと を反映 してい る。 一方、最 も多くの 種類が 出現し た地点 は 4-B 地 点の 2 4 種類、 次い で 6-B 地 点が 22 種 類、7-B 地 点の 2 1 種類、 5-A 地 点の 19 種類と なって いる。 また、各 地点は、 全体と して上 流地点 よりも下 流地点 の方が 多くの 種類が 出現する 傾向があ る。これ は、下 流地点 の水路 の両側が 耕作水 田とな ってい て法面 が短く、 そ のため水 路と水田 とが一 体化し た環境 となって いるこ とが主 たる要 因かも しれない 。 自然環境 保全 の基本 理念 自然環 境は、そ の基盤 となる 気候、 地形、土 壌等の 非生物 的自然 にも則 ったもの で あり、そ の可視的 な構造 は、直 接眼に は見えな い関係 が織り なす生 態的機 能によっ て 特徴づけ られてい る。し たがっ て、自 然環境を 保全す るため には、 可視的 構造を中 心 とする修 景の手法 だけに 頼る従 来の方 策ではな く、む しろそ の構造 を支え る生態的 機 能を保全 する方策 を実行 し、そ の結果 として自 然と人 間との 織りな す自然 の保護( プ リザーベ ーション:自然 度の高 いところ につい ては人 間の手 を加え ない)や 、回復( レ ストレー ション: 自然が こわさ れてい るところ につい て、過 去の履 歴を踏 まえて、 そ の生態的 機能をと りもど すべく 手を加 えること )を含 めた、 保全( コンサ ーヴェー シ ョン)へ とつなげ ていく ことが 重要で ある。 すなわ ち、保全 施策を 実施す る場合 には、各 生物の 保護に 注目す るだけ でなく、 そ れらの関 係の総体 として の生物 群集を 、その生 態的機 能や生 息空間 と合わ せて保全 す ることが 重要であ ること を十分 に認識 しなけれ ばなら ない。 以上に より、自 然環境 保全に 関する 基本的な 考え方 は、そ れぞれ に固有 な生態的 機 能をもつ ビオトー プを単 位とし 、生態 系に関す る知見 の集積 や土木 技術の 高度化を 統 合するこ とで可能 となっ てきた 生態系 に配慮し たさま ざまな 技術を 活用し ながら、 そ れらの量 的確保、 質的向 上、適 正な空 間配置を 図り、 それに 基づい て適正 なかかわ り 方を推進 すること である 。 このと き、自然 の複雑 性を十 分に理解 して自 然自体 に学ぶ 態度をと り、ま た科学 的・ 技術的な 知見には 今後の 試行錯 誤を通 じて充実 させて いかな ければ ならな いものも 多 く存在す ることを 踏まえ つつ、 自然環 境保全の ための 空間を 積極的 に創出 すること も 交えなが ら、何と か自然 に近い 方向に 向かいつ つ、そ の後は 自然み ずから が自然を つ くりあげ ていくこ との手 伝いを するよ うな対策 を、自 然環境 の状況 を眺め つつ、少 し ずつ「お ずおず」 と行う 姿勢が 重要で ある。 41 おわりに 当初、 講演に際 しての 配布資 料の作 成は予定 してい たが、 急遽、 事務局 からの指 示 により講 義テキス トを作 成する ことに なった。 そのた め、講 義の具 体的内 容もない ま ま、この 講義テキ ストは 作成さ れてお り、特に 、生物 環境ア ドバイ ザー制 度の事例 紹 介につい ては、生 物環境 アドバ イザー 制度地区 別連絡 会の会 議資料 や事業 実施後の 追 跡調査報 告書の一 部など を原稿 として おり、テ キスト として の体裁 はもと より、内 容 について も推敲さ れたも のでは ない。 しかし、 このテキ ストに は、講 演では 紹介で きない生 物環境 アドバ イザー 制度の運 営の実態 やその成 果、追 跡調査 のデー タなどが 一部で はある が掲載 されて おり、こ の テキスト が生物環 境に関 する知 識の向 上と併せ て公共 事業の 円滑な 実施に 対して有 効 に活用さ れ、貢献 できる ことを 期待し たい。 参考文献 国土庁大 都市圏整 備局・ 環境庁 水質保 全局・厚 生省生 活衛生 局・農 林水産 省構造改 善 局・林 野庁指 導部 ・建設省 河川局 .1999.琵 琶湖の総 合的な 保全の ための 計画調査 報告書( 本編). 348pp.国 土庁. 小林圭介 (編著).1997.滋 賀の植 生と植物 . 135pp. サンラ イズ出 版,彦根 . 佐々木寧 .1998.環 境の世 紀を目 前にして (2) 豊かな 住環境 をめざ して. 293pp. 生態環境 計画学会 ,浦和 . 佐々木寧・中村幸 人.1996.環 境の世 紀を目 前にし て(1)河を以っ て河を 制す.189pp. 生態環境 計画学会 ,浦和 . 滋賀県 生物環 境ア ドバ イザー 制度 運営事 務局 .2009.「環境 に配 慮した 公共 事業」 滋 賀県生物 環境アド バイザ ー制度 の取組 成果(平 成 10∼ 18 年度実 施分).346pp.滋 賀県. 42