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228 第 8 回群馬臨床ウイルス研究会 3.最近経験した急性網膜壊死の2例 向井 亮,岸 特別講演> 章治 (群馬大院・医・眼科学) 急性網膜壊死 (Acute Retinal Necrosis: ARN) は急性 の経過をたどるぶどう膜炎であり, 1971 年に浦山 (東北 大) らが最初に報告した疾患である. ヘルペスウイルス 1 型, 2 型あるいは帯状疱疹ウイルス (varicella-zoster 座長:岸 章治(群馬大院・医・眼科学) ウイルス性眼感染症の治療の現状 ―アデノウイルス,ヘルペスウイルスを中心に― 内尾 英一 (福岡大学医学部眼科 教授) virus: VZV) の眼内局所感染が生じていることが判明し アデノウイルスは流行性角結膜炎や咽頭結膜熱の原因 ているものの, その発生機序は未だ不明である. 今回異 ウイルスとして知られているが, アデノウイルス結膜炎 なる経過をたどった急性網膜壊死の 2 症例を経験したの は年間約 100 万人前後が罹患する感染性の高い疾患であ で報告する. 【症例1】 58 歳女性 既往歴に特記すべ り, 眼科だけでなく上気道感染症として, 小児科, 内科領 き異常はなかった. 数日前からの飛蚊症を訴え近医より 域にも関連がある. 免疫クロマトグラフィー法による迅 紹介受診となる. 初診時, 虹彩炎, 硝子体炎, 網膜炎 (周辺 速診断が広く行われ, 診断の精度は向上しているが, 院 網膜での黄白色の病巣) があり, 急性の悪化を認めてい 内感染をしばしば生じ, 臨床的にも重要なウイルスであ た. 前房水 PCR で VZV-DNA 陽性もあり,ARN と診断 る. 1990 年代後半から, 院内感染例から検出されていた し, 当日よりゾビラックス, ステロイドによる点滴療法 アデノウイルス 8 型変異株は, 詳細なシークエンス解析 と低容量アスピリンの治療を開始した. 1ヶ月の加療後, を経て, 最近, 53 型という新しい血清型であることが判 病巣は消失し視力も 0.9 と良好であった. 【症例2】 28 明し, 大きなトピックスとなっている. アデノウイルス 歳男性. 既往歴に特発性血小板減少性紫斑病 (ITP) が に対する特異的治療法は現在も確立されていないが, 骨 あった. 数週前からの霧視を訴え近医より紹介受診とな 髄移植後やエイズ症例などの免疫抑制例ではウイルス血 る. 初診時から症例 1 と同様の症状を認め, 亜急性の経 症を伴う急性出血性膀胱炎が致死的となるために, シド 過であっ燭海 倉ぢの診断し, 当日よりゾビラックス, フォビルの全身投与が行われている. このほかにもいく ステロイドによる点滴療法を始めた. 約 3 週間後には裂 つかの抗ウイルス薬にアデノウイルス増殖抑制作用があ 孔原性網膜剥離が生じ硝子体手術, シリコン注入術, 網 ることが in vitro の研究で報告されており, 全身投与あ 膜復位術の治療を施行し網膜剥離は復位した. しかしな るいは点眼薬としての治療薬の開発も進んでいる. 一方, がら最終視力は 0.08 となった. ヘルペスウイルスは単純ヘルペスウイルスや水痘帯状疱 疹ウイルスが角膜炎や虹彩毛様体炎の原因であることは よく知られていたが, 急性網膜壊死を引き起こすことが 報告され, 抗ヘルペス治療を行うことによって, 視力予 後が改善される症例も増加している. さらに, 最近原因 不明であった角膜内皮炎の症例の中において, サイトメ ガロウイルス DNA が前房から検出されることが報告さ れた. ヘルペス属ウイルスは, 神経節に潜伏感染する特 徴もあいまって, 多彩な眼炎症を生じていることが明ら かになっている. サイトメガロウイルス角膜内皮炎はバ ルガンシクロビル投与によって, 治療成績の向上も見ら れるようになっており, ウイルス学的解析法の進歩が今 後も診断, 治療法を変えていく感染症であるといえる.