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1. 腎RFA 適応と合併症

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1. 腎RFA 適応と合併症
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
RFA(腎臓)
1 . 腎 RFA 適応と合併症
川崎医科大学附属川崎病院 放射線科,岡山大学大学院 医歯薬総合研究科放射線医学
1)
三村秀文,郷原英夫 ,平木隆夫 ,藤原寛康 ,芝本健太郎 ,金澤 右
1)
1)
腎 RFA の適応
腎癌診療ガイドラインの記載
腎癌診療ガイドライン 2007 年版には「小さな腎癌に
対する経皮的局所療法は推奨されるか?」との CQ に
対して「推奨グレード C1(エビデンスは十分とはいえ
ないが,日常診療でおこなってもよい)
。全身状態や
合併症により根治的な治療が困難な場合や患者が手術
を拒否した場合に推奨される。
」と回答され,根拠と
して「小さな腎癌に対する経皮的局所療法としてのラ
ジオ波焼灼術および凍結療法は腎部分切除術との比較
検討および長期的評価が十分になされていないが,腫
瘍が小さく(3 ~ 5 ㎝以下)外方に突出する場合は制癌
が可能である。」と記載されている。
また,同ガイドラインには「腫瘍径 4 ㎝以下(T1a)の
腎癌患者において腎部分切除術は推奨されるか?」と
いう CQ があり,
「推奨グレード B(エビデンスがあり,
。制癌
推奨内容を日常診療で実践するように推奨する)
性は根治的腎摘除術と同等で,特に腎機能保持の面で
有用であり,腎部分切除術は推奨される。
」と回答され
ている。根拠としては「単腎症例,腎機能低下症例,
両側腎癌症例に対して腎部分切除術は絶対的適応であ
り,対側腎が正常で特に腫瘍径 4 ㎝以下の場合は選択
的適応である。腫瘍径 4 ㎝以下の腎癌症例に対する腎
部分切除術の 5 年癌特異的生存率は 97.8~100%,再発
率は 0.8 ~ 1.6%と根治的腎摘除術と比較して遜色ない
術式である。
」と記載されている。この適応は腎 RFA と
類似しており,成績は腎 RFA においても目標となる。
腎 RFA 適応決定のためのチェック項目
1 . 年齢,余命,パフォーマンスステイタス
(PS)
。
2 . 血液生化学所見,生理学検査所見など:腎機能(血
清クレアチニン,クレアチニンクリアランス),出
血凝固,肝機能。心肺機能
(心電図,胸部 X 線検査)
,
検尿。
3 . 腫瘍の画像診断:腎 CT,MRI。肺転移の除外のた
め,胸部 CT。骨転移が疑われれば骨シンチグラム。
4 . 病理組織:可能な限り採取する。RFA の術中(直前,
直後)でも可。
5 . 患者のコンプライアンス。
36(408)
1)
1)
1)
表 1 腎 RFA の適応
・5 ㎝以下の腫瘍
・併存疾患あるいは患者の拒否により手術不能
・片腎
・腎機能低下
・多発腫瘍(VHL など)
腎 RFA の適応・適応外となる患者・病態
適応(表 1)
1)腫瘍の大きさ:腫瘍径 5 ㎝あるいは 4 ㎝(T1a)以下
が適応と思われる。3 ㎝以下では完全壊死が得られ
やすく,1 回のセッションで完全壊死が可能である。
3 ㎝より大きい腫瘍に対しては多くは 2 回目のセッ
1)
ションを必要とし ,また TAE 併用も考慮される。
2)
手術不能あるいは切除により透析が必要となる患者。
・併存疾患(冠動脈疾患,心筋症,慢性閉塞性肺疾患
など)
があり,全身麻酔によるリスクが高い患者。
・片腎かあるいは腎機能低下があり,切除により透
析を要する可能性が高い患者。
3)新たな腎癌が出現する可能性が高く,最小限の侵襲
で腎を温存する治療が望ましい患者。
・VHL(von Hippel-Lindau 病)
,遺伝性腎癌など。多
くは小さい腫瘍で発見される。最終的には腎摘除
術が必要となりやすく,RFA により腎摘除術が必
要となるまでの期間を延長できる。
・両側腎癌で大きな腎癌を切除し,対側の小さな腎
癌に RFA を施行することにより,対側腎摘除術
が必要となるまでの期間を延長できる。
適応外
1)
肺転移・骨転移など,広範囲の転移性病変を有する。
限局した転移であれば RFA が有用となるかもしれ
ない。
2)
余命が限られている。
3 ヵ月以内の生命予後であるなど。
3)
急性感染症。
改善するまで延期する。
4)
出血凝固異常が補正できない。
血小板> 5 万 /μ
ℓ,PT-INR < 1.5 が望ましい。
5)適切な PS ではない。
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他
技術教育セミナー / RFA(腎臓)
補 足
1)腫瘍占拠部位
腫瘍占拠部位として外方発育型,実質型,中心型,
混合型に分類される。外方発育型の腫瘍は完全壊死
を達成し易い。中心型の腫瘍は残存しやすいが適応
1)
外ではない 。
2)片腎 RFA 後の腎機能変化
2)
片腎 RFA の際の腎機能の変化を Jacobson ら が以下
のとおり報告をしている。16例の片腎患者の平均3.4
㎝の充実性腎腫瘍に対して RFA を施行した。RFA
後一週間以内の血清クレアチニン値,クレアチニン
クリアランスの治療前と比較した低下率はそれぞれ
12.1%,13.3%,平均 15.3 ヵ月のフォローアップで
のそれらは 8.7%,9.1%であった。合併症としては
急性血栓性尿路閉塞が 3 例,腎周囲血腫が 1 例みら
れた。また,RFA 前後でクレアチニンクリアランス
に有意差はみられなかった,という報告もある。
3)VHL 患者における適応
3)
Duffey ら は 3 ㎝未満の腎細胞癌を有するVHL 108
患者を経過観察し,3 ㎝に達してから手術を勧めた
ところ,平均 58 ヵ月の経過観察中転移はなかった。
3 ㎝より大きい腎細胞癌を有する VHL 73 患者では
手術を勧め,平均 72.9 ヵ月の経過観察中 27.4%で転
移が出現した。彼らは転移の危険性を減らして腎機
能を温存するために,腎保存手術を実施する腫瘍の
大きさのしきい値を3㎝とすることを推奨している。
RFA でもこの成績は参考になるが,RFA は繰り返し
治療が可能であり,腫瘍がより小さい段階で治療す
れば正常腎を温存可能であり,早期の治療も検討す
べきかもしれない。
4)
生 検
4)
可能な限り生検を施行するべきである 。充実性腎
5)
腫瘍には少なからず良性病変が含まれる。Frank
らは 2770 人 2935 個の片側性の転移のない充実性腎
腫瘤を切除したところ,良性腫瘤の比率は全体で
13%,2 ㎝以上 3 ㎝未満では 22%,1 ㎝以上 2 ㎝未満
では 22%,1 ㎝未満では 46%であったと報告してい
る。生検の合併症として播種が問題とされるが,腎
細胞癌針生検による播種はまれで,0.01%未満の発
生率と報告されており,1994 年以来報告されていな
6)
い 。悪性の診断のための腎生検の感度は 80~92%,
6)
特異度83~100%であったと報告されている 。また,
多くの術者が RFA と同じセッション(直前あるいは
直後)
で生検を施行している。
5)TAE と RFA の併用
大きく,腎門に進展する RCC が良い適応と考えられ
7)
(3.5~9.0㎝)
る。Yamakadoら は 11 患者の 3.5 ㎝以上
の12個の腎細胞癌病変に対し,
TAEとRFAを併用し,
全ての腫瘍で 13 ヵ月の平均フォローアップ期間中局
所制御が得られ,major complication としては遅発性
膿瘍が 1 例でみられた,と報告している。
腎 RFA の合併症
Major complications として,多量の出血,尿管損傷,
腸管損傷,残存・再発腫瘍などがあり,minor complications として,疼痛,血腫,血尿,神経筋損傷,気胸,
梗塞,inflammatory tract mass などがある。
1)出 血
・血 腫
(図 1)
わずかな腎被膜下・腎周囲血腫はしばしば認めら
れる。RFA 直後に CT でチェックする。予防策と
しては不要な穿刺を避ける,tract ablation,RFA
前 TAE を施行する。電極針の方向や角度は血腫形
1)
成と関連はみられなかった 。
・血 尿
1)
頻度:4% 。多くは経過観察で 12 時間以内に消失
する。多量の血尿には bladder outlet obstruction
予防のため導尿,灌流が行われる。穿刺に起因す
る AVF による血尿に対しては動脈塞栓術を要す
るかもしれない。尿路出血に対する特別な予防策
はない。
・輸血を必要とする多量の出血(腎被膜下・腎周囲
血腫,尿路出血)
1,
8)
頻度:1 ~ 2% 。原因として大動脈・下大静脈・
腎茎部の機械的損傷なども挙げられる。その予防
策としては電極針先端をモニタリングすること。
2)
尿管狭窄
1,
8)
頻度:1 ~ 2% 。尿管狭窄の画像所見としては尿管
壁肥厚,尿漏出,水腎症が挙げられる。
治療としては内視鏡下尿管ステント,腎瘻造設,腎
摘除術が施行される。予防策としては腫瘍と尿管を
1)
,尿路内液体灌流を
2 ㎝以上離す(4)腸管熱傷参照)
9)
行う ,腹腔鏡下で尿管を離して RFA を施行するこ
とが有用である。
3)尿漏出
(Urine leaks)
1)
頻度:3%。臨床的に問題となる尿漏出の頻度は 1% 。
中心に位置する腫瘍で生じやすい。多くは経過観察
で 1 年以内に消失する。治療としては urinoma のド
レナージ,尿管狭窄があれば尿管ステントが留置さ
れる。
4)腸管熱傷
10)
頻度:症例報告がみられる 。予防策としては体位
変換,腫瘍と腸管の間の液体・CO2 の注入(図 2)が
11)
挙げられる 。しかし,凝固範囲が不十分となる可
能性がある。また電極針をテコとして使用し,腸管
から腫瘍を離すことも有用である。
5)
播 種
12)
頻度:症例報告がみられる 。原因として直接の播
種,血液その他の液体の tract 逆流を介しての播種
が考えられる。予防策としては tract ablation が有用
かもしれない。他に穿刺回数を少なくする,TAE を
併用するなどが挙げられる。
(409)37
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他
技術教育セミナー / RFA(腎臓)
図 1 RFA 後腎被膜下・腎周囲血腫
a : RFA 前 MRI T2 強調像:右腎下極腎癌は大部分が高信号を呈する腫瘍としてみられる。
b : RFA 直後 CT:腎被膜下血腫,腎周囲血腫が出現した。
c : RFA 後 6 時間 CT:腎被膜下血腫はやや増大しているが,腎周囲血腫の増大はみられない。
d : RFA 翌日 CT。血腫の大きさは RFA 後 6 時間 CT と同様である。輸血により対処可能であった。
a b
図 2 CO2 注入による腸管損傷の予防
a : RFA 前 CT:左腎癌と下行結腸が近接している。
b : CO2 注入後腹臥位 CT 透視:サーフロー針からの CO2 注入により両者を離し,安全に
RFA を施行可能であった。
38(410)
a b
c d
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技術教育セミナー / RFA(腎臓)
6)神経筋損傷
1,8)
頻度:1 ~ 2% 。症状としては慢性疼痛,知覚障害
があり,多くは一時的だが永続的となりうる。陰部
大腿神経損傷が原因と考えられている。陰部大腿神
経は腰神経叢上部を出て大腰筋外側を下降する。予
防策としては電極針をテコの要領で腎を外側に移動
させる,液体,CO2 を用いて腎と腰筋を離す,など
が挙げられる。
7)
気 胸
8)
頻度:2% 。腎上極腫瘍の RFA に際して問題となる。
予防策としては頭側方向に向けて穿刺する,CT ガン
トリーを傾ける,超音波,MRI ガイド下に行うなど。
8)Inflammatory tract mass
13)
頻度:2% 。播種性病変との鑑別が問題となる。RFA
後長期経過して tract 周囲に出現し,充実性,geographic な形態である。
9)
その他の合併症
その他尿路感染症,腎梗塞が挙げられる。腎梗塞は
小動脈の閉塞で生じ,腎機能障害がある患者には問
題となりうる。
【参考文献】
1)Gervais DA, McGovern FJ, Arellano RS, et al: Radiofrequency ablation of renal cell carcinoma: part 1,
Indications, results, and role in patient management
over a 6-year period and ablation of 100 tumors. AJR
Am J Roentgenol 185: 64 - 71, 2005.
2)Jacobsohn KM, Ahrar K, Wood CG, et al: Is radiofrequency ablation safe for solitary kidneys? Urology
69: 819 - 823, 2007.
3)Duffey BG, Choyke PL, Glenn G, et al: The relationship between renal tumor size and metastases in
patients with von Hippel-Lindau disease. J Urol 172:
63 - 65, 2004.
4)Clark TW, Millward SF, Gervais DA, et al: Reporting
standards for percutaneous thermal ablation of renal
cell carcinoma. J Vasc Interv Radiol 20: S409 - S416,
2009.
5)Frank I, Blute ML, Cheville JC, et al: Solid renal tumors: an analysis of pathological features related to
tumor size. J Urol 170: 2217 - 2220, 2003.
6)Brown DB, Gonsalves CF: Percutaneous biopsy
before interventional oncologic therapy: current status. J Vasc Interv Radiol 19: 973 - 979, 2008.
7)Yamakado K, Nakatsuka A, Kobayashi S, et al: Radiofrequency ablation combined with renal arterial
embolization for the treatment of unresectable renal
cell carcinoma larger than 3.5 cm: initial experience.
Cardiovasc Intervent Radiol 29: 389 - 394, 2006.
8)Zagoria RJ, Traver MA, Werle DM, et al: Oncologic
efficacy of CT-guided percutaneous radiofrequency
ablation of renal cell carcinomas. AJR Am J Roentgenol 189: 429 - 436, 2007.
9)Cantwell CP, Wah TM, Gervais DA, et al: Protecting
the ureter during radiofrequency ablation of renal
cell cancer: a pilot study of retrograde pyeloperfusion with cooled dextrose 5% in water. J Vasc Interv
Radiol 19: 1034 - 1040, 2008.
10)Weizer AZ, Raj GV, OConnell M, et al: Complications after percutaneous radiofrequency ablation of
renal tumors. Urology 66: 1176 - 1180, 2005.
11)Arellano RS, Garcia RG, Gervais DA, et al: Percutaneous CT-guided radiofrequency ablation of renal
cell carcinoma: efficacy of organ displacement by
injection of 5% dextrose in water into the retroperitoneum. AJR Am J Roentgenol 193: 1686 - 1690, 2009.
12)Mayo-Smith WW, Dupuy DE, Parikh PM, et al:
Imaging-guided percutaneous radiofrequency ablation of solid renal masses: techniques and outcomes
of 38 treatment sessions in 32 consecutive patients.
AJR Am J Roentgenol 180: 1503 - 1508, 2003.
13)Lokken RP, Gervais DA, Arellano RS, et al: Inflammator y nodules mimic applicator track seeding after
percutaneous ablation of renal tumors. AJR Am J
Roentgenol 189: 845 - 848, 2007.
(411)39
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:曽根美雪,他
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RFA(腎臓)
2 . 腎 RFA の治療成績
岩手医科大学 放射線科
曽根美雪,加藤健一,鈴木美知子,赤羽明生,田中良一
江原 茂,佐藤健介,大森 聡,藤岡知昭
はじめに
小径腎癌に対する標準的治療
近年,マルチスライス CT 等の画像診断技術の発達
と普及により,小径の腎癌が偶然発見される機会が増
1,2)
加している 。これに伴い,治療法は腎機能温存に寄
与する低侵襲治療へとシフトし,縮小手術,鏡視下
手術が増加するとともに,経皮的治療として thermal
ablation が台頭してきた。従来,腎癌に対する IVR と
して主に動脈塞栓術が行われてきたが,手術の補助
あるいは手術不能な場合の代替治療としての意義に
限定されていた。Thermal ablation は,小径腎癌の増
加,なかでも他に併存疾患を有することの多い高齢患
者の増加という患者構成の変化にともない,腎癌診療
の主軸となり得る IVR である。Thermal ablation は温
度変化によって腫瘍壊死をきたす抗癌治療で,ラジオ
波焼灼療法(radiofrequency ablation: RFA)と凍結治療
(cryoablation)が含まれる。このうち RFA は,画像ガ
イド下に IVR 医が行う手技としての認知度が高まり,
近年,施行数が増加している。本稿では,IVR 医が腎
癌の RFA を行う際に知っておきたい治療成績につい
て概説する。
腎癌診療ガイドライン(2007 年版)によると,遠隔
転移のない腎癌に対する標準的治療は,腎摘除術であ
3)
。RFA および cryoablation は,T1a 腎癌,す
る(図 1)
なわち最大径 4 ㎝以下で腎に限局する小径の病変が適
応となるが(表 1,2)
,その位置づけは“全身状態や合
併症により根治治療が困難な場合や手術拒否の場合に
推奨(推奨グレード C1)”というものであり,まだ標準
的治療とするエビデンスは十分に揃っていない。また,
T1a 腎癌では,内視鏡下腎摘除術(推奨グレード B)
,
開腹腎部分切除術(推奨グレード B),内視鏡下腎部分
切除術(推奨グレード C1)も適応となり,治療法の選
択肢が多い。さらに,画像で小径腎癌と診断されるも
のの中には組織学的に良性の病変も相当数含まれてい
ること,腎細胞癌の増大速度は年間 3 ㎜程度と緩徐で
あることから,特に腫瘍径 2 ㎝以下の場合,年齢や手
技に伴うリスクを総合的に判断して,6 ~ 12 ヵ月毎に
経過観察する“active surveillance”も選択肢の一つと
3)
してガイドラインに示されている 。
表 1 腎癌の TNM 分類
Stage
T: tumor stage
1a
1b
2
3a
3b
3c
4
(原発腫瘍)
最大径が 4.0 ㎝以下で,腎に限局する腫瘍
最大径が 4.0 ㎝を越えるが 7.0 ㎝以下で,腎に限局する腫瘍
最大径が 7.0 ㎝を越え,腎に限局する腫瘍
腫瘍は副腎または腎周囲脂肪組織または腎洞脂肪組織に浸潤するが,Gerota 筋膜を越えない
腫瘍は腎静脈または横隔膜下までの下大静脈内に進展する
腫瘍は横隔膜を越える下大静脈内に進展する
腫瘍は Gerota 筋膜を越えて浸潤する
N: node stage
0
1
2
(所属リンパ節)
所属リンパ節転移なし
1 個の所属リンパ節転移
2 個以上の所属リンパ節転移
M: metastasis stage (遠隔転移)
0
遠隔転移なし
1
遠隔転移あり
40(412)
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技術教育セミナー / RFA(腎臓)
図 1 腎癌診療のアルゴリズム(腎癌診療ガイドライン 2007 より:改変 )
3)
表 2 経皮的腎 RFA の治療成績
年
患者数
腫瘍数
平均腫瘍径
(㎝)
平均観察
期間(月)
重篤な有害
事象(%)
一次成功率
(%)
二次成功率
(%)
再発率
(%)
CSS
(%)
Levinson et al
2008
31
31
2
61.6
3
97
100
9.7
100
Zagoria et al
2007
104
125
2.7
13.8
2
87.2
92.8
3.4
98
Breen et al
2007
97
105
3.2
16.7
4.2
79
90
0
99
2005
85
100
3.2
28
6
90
98
7
100
Varkarakis et al
2005
46
56
2.2
27.5
2
89.3
100
7
RFS 86.4
Ahrar et al
2005
29
30
3.5
10
12
83
96
0
NA
著 者
17)
6)
9)
Gervais et al
7)
8)
18)
Abbreviations: CSS, cancer-specific survival; RFS, recurrence-free survival; NA, not available
(413)41
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技術教育セミナー / RFA(腎臓)
RFA の腫瘍学的治療成績
腎癌は,泌尿器腫瘍医が診療の中心となっている疾
患であり,新しい治療法の確立においては,腫瘍学
的なエビデンスが求められていることは言うまでもな
い。現時点では,腎 RFA の文献報告は大半が後ろ向
きのケースシリーズであり,
“有望な治療法であるが,
腫瘍学的評価が不十分”という表現が数多く認められ
る。 RFA は新しい治療法であり,中期成績が中心と
なることはやむを得ないが,われわれ IVR 医も腫瘍学
的な視点から 5 年ないし 10 年の長期成績や生存への寄
与を評価する必要があることを念頭におきたい。
T1a および T1b 腎癌に対して,標準的治療である
腎摘除術を施行した場合,癌特異的生存割合(cancerspecific survival: CSS)は,5 年 97%,10 年 94%ときわ
めて高く,腎部分切除術でも 5 年 95%,10 年 92%とい
4,
5)
う高い生存割合が示されている 。RFA においても,局
所制御は一次成功率 79~97%,二次成功率 90~100%,
癌特異的生存割合は,観察期間にばらつきがあるもの
の 98 ~ 100%と良好な成績が報告されており,手術と
比べて遜色ない(表 2)。今後,長期成績および手術と
の比較試験により,標準的治療とするに十分な強固な
エビデンスが構築されることが期待される。中でも,
高齢者や併存疾患を有する患者など,低侵襲治療の恩
恵が特に期待される対象におけるエビデンス構築が望
まれる。
治療成績に影響を及ぼす因子
腫瘍径は,RFA の局所効果に影響を及ぼす主要な
因子である。腫瘍径 3 ㎝以下での局所制御率はほぼ
100%であるのに対し,3 ㎝より大きい場合は 60 ~
6~8)
81%と低下する 。Gervais らは,100 腫瘍の治療経験
より,3 ㎝以下(n = 52)では 2 回以内の治療で完全焼灼
が得られたが,3 ~ 5 ㎝(n=39)では 92%,> 5 ㎝(n=
7)
8)では 25%であったと報告している 。Zagoria らの
125 腫瘍の検討では,3.5 ㎝以下(n = 95)の腫瘍におけ
る 1 回の治療での完全壊死は全例(100%)で達成され
たが,3.6 ~ 5.0 ㎝(n = 20)では 60%,5.1 ㎝以上(n =
6)
10)では 20%であった 。Breen らは 105 腫瘍の検討を
行い,1 回治療での完全焼灼に統計学的有意差をもっ
て影響する因子として,
“腫瘍径 3 ㎝以下”を挙げてい
9)
る 。腫瘍径 3 ㎝以下が RFA の最もよい適応であり,3~
5 ㎝でも複数回の治療により腫瘍壊死が期待できるが,
5 ㎝以上の場合 RFA 単独での局所制御は困難であると
いえる。
腫瘍の局在も,RFA の治療効果に影響する。外方突
出型と腎門型で治療効果に有意差はないという報告も
9)
あるが ,前出の Gervais らの検討では,外方突出型の
腫瘍(n=67)では全例で完全焼灼が可能であったが,
腎門型(n=7)では 78%,混合型(n=18)では 61%にと
7)
どまった 。腎門成分をもつ腫瘍では,腎動静脈の血
42(414)
流による不十分な焼灼や,尿路の焼灼による有害事象
が懸念されるため十分な焼灼範囲をとれないことか
ら,腫瘍残存が多くなると考えられる。
安全性と腎機能温存についての成績
腎 RFA において頻度の高い有害事象は,焼灼時の
疼痛と熱感,血尿である。血尿は,通常は一過性で治
療を要さず 24 時間以内に消失する。無症候性の乳び
尿も比較的多くみられる合併症で,41%に認めたとい
10)
う報告もある 。重篤な有害事象は 2 ~ 12%の頻度で
発生し
(表 2)
,出血,尿路損傷,尿瘻等が挙げられる。
また,稀ではあるが,消化管損傷や皮膚熱傷,穿刺経
11)
路への腫瘍播種の報告がある 。
RFA は高齢者や片腎など手術の適応となり難い全身
状態の患者を対象とすることが多いため,腎機能の変
化に注意が必要である。Salas らによると,RFA 後の血
12)
清クレアチニンの上昇は平均 0.14 ㎎と軽度であった 。
片腎患者については,Ramanらの16 名の検討において,
GFR 低下は術後 6 週間で平均 7%,平均 2.5 年間の観察
13)
期間全体では 11%の低下と報告されている 。
Quality-of-life: QOL
QOL は,患者が自覚することのできる重要なアウト
カムの一つであり,低侵襲治療の意義を正しく評価す
るためにも重視すべき事項である。腎 RFA で QOL を評
価した論文はまだ少ないが,Onishi らは,4 ㎝以下の
小径腎癌に対する経皮的 RFAと鏡視下腎摘出術の QOL
スコア(SF-36)を比較した非ランダム化比較試験にお
いて,RFA は手術と比べて QOL スコア低下が有意に少
なく,24 週の時点でも高い傾向があったと報告してい
14)
る 。また,米国からの報告であるため日本と医療事
情は異なるが,quality-adjusted life years(QALYs)を指
標として 4 ㎝以下の小径腎癌の費用対効用分析を行っ
た研究において,経皮的 RFA は開腹腎部分摘除術より
15)
も費用に対する効用が優るという結果が示された 。
RFA vs cryoablation
Kunkle らは,47 の論文で,cryoablation を施行した
600 腫瘍,RFA を施行した 775 腫瘍のメタ分析を行い,
16)
報告した 。局所の腫瘍増大は cryoablation(5.2%)と
比べて RFA(12.9%)で有意に多く,再治療も RFA に多
いという結果であった。2 つの治療法の間で年齢など
の患者因子や腫瘍径などの腫瘍因子に差はなかったが,
RFA は 93.7%が経皮的に行われたのに対し,cryoablation は経皮的アプローチは 23.2%にとどまり開腹手術が
64.8%という差異が関係している可能性がある。なお,
初期のcryoablationでは,
穿刺プローブの径が大きかっ
たために開腹手術が大多数を占めたと考えられる。
Cryoablation は,RFA と異なり,治療時の疼痛が少
なく,CT,MR,US の画像で治療範囲の正確なモニター
が可能であるという利点を持つ。昨年,アルゴンガス
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:曽根美雪,他
技術教育セミナー / RFA(腎臓)
を用いた凍結治療器が日本でも薬事承認され,普及に
向けての一歩を踏み出した。RFA での焼灼が困難な腎
門型の腫瘍における安全性と有効性などの臨床的疑問
について,臨床試験を遂行してエビデンスを構築して
いくことが望まれる。
おわりに
腎 RFA は,IVR 医が腎癌の診療に参画する新たな機
会をもたらした。腎癌診療の全体像を理解し,画像診
断と IVR の視点をもってチーム医療に参加するととも
に,RFA が腎癌診療ガイドラインのなかで高いエビデ
ンスレベルで推奨されるような研究を行い,患者に最
良の治療法を提供する姿勢が IVR 医に求められている
と考えられる。本稿が,腎 RFA の実臨床における現在
の“立ち位置”と,エビデンス生成の必要性を再確認
する一助となれば幸いである。
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(415)43
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RFA(腎臓)
3 . 腎 RFA の手技とそのコツ
三重大学 IVR 科
高木治行,山門亨一郎
はじめに
腎癌は,本邦では年間 7,000 例以上,米国では年間
50,000 例以上が新たに診断され,その罹患率は世界的
1)
に増加傾向である 。しかも腎癌患者のピークは 70 歳
代後半と高齢で全身麻酔や手術のリスクが高い患者が
1,2)
多く,腎機能低下例も少なくない 。このため,従来
の外科的治療に比べより低侵襲かつ腎機能温存能に優
れたラジオ波凝固療法(radiofrequency ablation,以下
RFA)への期待が高まっている。本稿では,腎 RFA の
手技とそのコツについて解説する。
前処置・麻酔
経口摂取は術前食事禁,飲水可としている。腫瘍が
結腸に隣接している症例では,適宜下剤投与や浣腸を
行う。RFA 施行時の発汗による脱水や血尿による尿閉
を回避するため,治療前後で十分な補液を行い利尿を
促す。術前より尿道カテーテルを留置して,治療中~
治療後の尿の正常および尿量に十分注意する。
患者の精神的緊張を緩和する目的で前投薬として塩
酸ヒドロキシジン(アタラックス P)を用いている。腎
RFA 手技は局所麻酔下に行い,RFA 電極刺入部の局所
麻酔としてリドカイン(キシロカイン)
,焼灼中の疼痛
に対してはフェンタニル
(フェンタネスト)
を用いる。
体 位
RFA 施行時に適切な患者の体位を選択することは,
その後の手技の行い易さに直接影響し,また合併症
を回避する上でもきわめて重要である。我々は腎 RFA
施行時の体位は腹臥位を基本としている。しかし,腎
上極に位置する腫瘍の場合には経胸腔穿刺となってし
まう場合があり,注意が必要である。このような場合,
CT のガントリーを手前に傾けて穿刺を行う gantry tilt
technique が有用である(図 1)
。また,患側臥位の体
位だと穿刺の際に腎が動きにくく,また経肺穿刺を回
避しやすいため,患側臥位を第一選択とするとの報告
3)
。
もある(図 2)
腫瘍が腎外側や背側に位置している場合には背臥位
で手技を行う場合がある。しかし通常は結腸が腎外側
に位置しており背臥位での手技可能例は限られる。腫
瘍が右腎上極に位置し他の穿刺経路での穿刺が困難な
場合には,背臥位・経肝的アプローチで RFA 施行可
a b c
図 1 60 代男性,右腎細胞癌
a : 右腎上極に径 4 ㎝の腎細胞癌を認める
(矢頭)
。
b : 腹臥位では,腫瘍背側に肺が位置している
(矢印)
。
c : CT の gantry を手前に約 15°
傾けて電極針を刺入。Gantry tilt technique により,経肺穿刺を
回避することが可能であった
(矢印)
。
44(416)
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能な場合がある。腎外側に位置する腫瘍が腸管に隣接
している場合には,体位を健側臥位とすることにより
腸管と腫瘍の間に十分な距離を保つことができ,安全
に RFA 施行可能な場合がある
(図 3)
。
腎 RFA 施行例の腎生検
腎 RFA の対象となることが多い 4 ㎝以下の充実性腎
4)
腫瘍のうち,約 20%が良性腫瘍と報告されている 。
また,RFA 後の経過観察のタイミングや追加治療の必
要性を検討する際に組織学的な診断確定が必要であり,
米国泌尿器科学会議(American Urological Association,
AUA)のガイドラインでも腎 RFA 施行例には腎生検を
5)
行うことが推奨されている 。しかし,実際には腎 RFA
の対象となる腫瘍の多くが多血性であり,腎生検に伴
う出血や播種が懸念される。このため,我々の施設で
は事前に十分なインフォームドコンセントを行い,ま
ず腎 RFA を行ってから直後に腎生検を行っている。す
でに RFA を行った部位からの生検なので出血や播種の
リスクは少なく,また RFA 直後~数ヵ月後までは組織
の形体が保たれているため,多くの場合組織学的診断
6)
が可能である 。
穿刺のコツ
腎 RFA 手技を成功させるためには,適切な位置に
RF 電極針を穿刺する必要がある。我々は RF 電極針の
穿刺は CT 透視下で行っている。超音波ガイド下で電
極を穿刺する施設もあると思われるが,超音波では隣
接する腸管や尿管の位置確認が困難な場合がある。更
に,一旦 ablation を開始すると bubble の発生により,
超音波では腫瘍の確認が困難となる。特に腎は血流の
豊富な臓器であるため 1 度の電極刺入で得られる凝固
7)
領域はかなり制限され ,数回の電極刺入が必要とな
る場合が多い。このため,腎 RFA の際の穿刺支援画
像としては CT 透視が最も適していると思われる。
RF 電極針を腫瘍に刺入する際には,正常腎実質を
介した腫瘍の穿刺を心がける(図 4)。これは,腫瘍を
a b
図 2 70 代男性,右腎細胞癌
a : 右腎に径 3 ㎝の腎細胞癌を
認める
(矢頭)
。
腹臥位では,
腫瘍背側に肺が位置してい
る
(矢印)
。
b : 患側臥位では経肺穿刺とな
らずに電極針を刺入するこ
とが可能であった
(矢印)。
a b
図 3 80 代男性,左腎細胞癌
a : 左腎に径 4 ㎝の腎細胞癌を認める
(矢頭)
。背臥位では,腫瘍のすぐ
外側に結腸が隣接している
(矢印)
。
b : 健側臥位では結腸が腹側に移動
(矢印)
。腫瘍と結腸の間に十分な
距離を確保でき,腸管を損傷する
ことなく安全に RFA が施行可能と
なった。本例では,事前に少量の
造影剤を静注して尿路を確実に識
別できるようにした後に電極針を
刺入している。
(417)45
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直接穿刺することによる出血や播種の危険を回避する
ためである。また,電極刺入の際に腎が動いてしまい,
目標とした部位にうまく電極針が到達しない場合があ
る。この様な場合には,最初に刺入した電極針はその
まま残しておいて,新たな RF 電極針を用いて目標と
した部位を穿刺する(図 5)
。こうすると最初に刺入し
た電極針により腎が固定されるため,次の穿刺が容易
となる。
焼灼範囲拡大のためのコツ
腎は血流の豊富な臓器であり,腎癌自体もほとんど
が多血性である。このため,1 回の治療で得られる凝
固領域には限界があり,overlapping ablation が必要と
なる場合が多い。この場合には,まず腫瘍の腎門側か
らの穿刺・焼灼を行い,続いて腫瘍の末梢側を穿刺・
焼灼する(図 6,7)。これは,腫瘍の血流を少しでも
落として凝固領域を拡大させようとするものである。
また,RFA の局所治療効果を左右する因子として腫
瘍径が重要であり,腫瘍径が 3.6 ㎝を超えた場合,腫
瘍径が 1 ㎝増加するごとに RFA 後の残存腫瘍の頻度が
8)
約 2 倍上昇するとの報告がある 。このような大型腎
癌に対しては動脈塞栓術併用 RFA の有用性が報告され
ており,Yamakado らは 3.5~9.0 ㎝(平均 5.2 ㎝)の大型
腎癌に対して動脈塞栓術併用 RFA を行い,全例で完
図 4 60 代女性,左腎細胞癌
a : 左腎上極に径 3.5 ㎝の腎細胞癌を認める
(矢頭)
。
b : 腹臥位での CT 像。腫瘍は腎上極の腎実質より腎外に突出している。
c : 正常腎実質を介して RFA 電極針を腫瘍内に刺入
(矢印)
。
a b c
図 5 腎が回転した場合の対応
RF 電極針を刺入する際に腎が腎門部の血管を軸に回転し,目標とした部位にうまく電極針
が到達しない場合がある。この様な場合には,最初に刺入した電極針(黒矢印)はそのまま
残しておいて,新たな RF 電極針
(点線矢印)
を用いて目標とした部位を穿刺する。最初に刺
入した電極針により腎が固定されているため,次の穿刺が容易となる。
46(418)
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全壊死が得られたと報告している 。
9)
合併症回避のためのコツ
米国での多施設共同研究において,腎 RFA の合併症
発生率は major complication が 2.2%,minor complica10)
tion は 6%であったと報告されている 。頻度の高い
major complication としては血尿と尿閉
(1 ~ 10%)
,尿
管損傷(1 ~ 2%)
,熱傷(1%)
,尿漏(<1%)等の報告
がある 。
特に腫瘍が腎洞に進展する central type の腎癌の場
合には,尿路の損傷に注意する必要がある。我々は腫
瘍が尿路と接するような場合には,少量の造影剤を静
注して尿路を確実に識別できるようにした後にRFAを
施行している(図 3)。また,腫瘍が尿路に隣接してい
る場合には事前に尿管カテーテルを留置しておいて,
冷却した 5%ブドウ糖液を還流させながら RFA を行う
10)
図 6 腎門側からの凝固
Overlapping ablation を行う場合には,まず腫瘍の腎門側から穿刺・凝固を行い(黒矢印)
,
腫瘍の血流を低下させておいてから腫瘍の末梢側を凝固する
(点線矢印)
。
a b
c d
図 7 60 代女性,右腎細胞癌
a : 治療前 MRI(T1 強調像)。右腎に径
2.5 ㎝の腎細胞癌を認める
(矢頭)。
b : まず腫瘍の腎門側から穿刺・凝固を
行う(黒矢印)
。
c : 次に,腫瘍の末梢側に RFA 電極針
を刺入
(白矢印)
。
d : 治療後 MRI(T1 強調像)。良好な凝
固領域が得られている
(矢頭)。
(419)47
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a b c
図 8 70 代女性,右腎細胞癌
a : 右腎に,結腸肝彎曲部に隣接する径 1.3 ㎝の腎細胞癌を認める
(矢頭)。
b : 前傍腎腔に 18G PTC 針を刺入し,少量の造影剤を加えた 5%ブドウ糖液を注入(黒矢印)
。腫瘍と
結腸が離れたことを確認した後に RFA を施行(白矢印)
。
c : RFA 後の CT では,良好な凝固領域が得られている
(矢頭)。
報告もある 。一方,腫瘍が腎外に突出する exophitic
type の場合には,隣接する腸管等の臓器損傷に注意す
る必要がある。我々は,腫瘍が腸管と隣接している場
合には,まず体位を工夫することで腫瘍と腸管との距
離を保つことができないかどうかを試みている。体位
変換後も腫瘍と腸管との距離が保てない場合には,前
傍腎腔または腎周囲腔に 5%ブドウ糖液を注入して腫
瘍と腸管とを離した後に RFA を施行している(図 8)。
この際,5%ブドウ糖液に少量の造影剤を混和するこ
とで,腫瘍と隣接臓器との位置関係の把握が容易とな
り,出血との鑑別にも役立つ。腫瘍と腸腰筋が接して
いる場合にも陰部大腿神経障害を回避するために 5%
3)
ブドウ糖液を注入する場合がある 。
治療後,電極針を抜去する場合には穿刺経路の凝固
(tract ablation)
を行い,出血や播種の合併を防ぐ。
3)
おわりに
腎 RFA の手技とそのコツについて解説した。腎癌
診療の中で,現時点での腎 RFA の位置づけは手術リス
クの高い症例や腎機能低下例に対する option とされて
5)
いる 。この様な症例に対して安全かつ確実に治療を
行い実績を積み上げてゆくことが,腎 RFA が今後ます
ます普及していく上での土台になると思われる。
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