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〈解説〉微細精密加工の動向と課題
解説 1 微細精密加工の動向と課題 東京大学名誉教授 木内 学* 世界的規模で急拡大する高度工業化社会と産業 問題の特質 の多元複相的連関の下、機械、電気、電子、通信、 情報、化学、医薬など、あらゆる産業・技術とそ の製品・部品の高機能化・高精細化が進んでいる。 (超)微細精密加工の進展に伴い、多くの面か 同時に、MEMS、遺伝子医薬機器、生命支援シ ら未知の問題・課題が生じている。すなわち、① ステム、超高速大容量通信端末、先進燃料電池、 被加工素材の微細な内部組織・構造と変形能・変 スパコンと関連機器、ヒューマノイドロボット、 形挙動、②工具・金型・加工機械の微細動加工機 低侵襲医療機器など時代を先導する機器・デバイ 能と被制御特性、③荷重・変位・速度・形状変 ス・ツールの開発に各国がしのぎを削っている 化・その他物理量の微細計測および微細寸法制御、 (図 1) 。かかる先端技術や革新製品に不可欠な素 ④被加工素材の超精密位置決め・固定・移送手段、 材および製造プロセスの開発と主導力獲得のデッ ⑤被加工素材と工具・金型の表面および界面の微 ドヒートは加熱する一方であるが、激烈な競争を 細構造および物理化学特性、⑥同界面における微 勝ち抜くためのキーテクノロジーの一つが、 (超) 細摩擦・摩耗・焼付き・凝着・腐食・他の相互作 微細精密加工である。以下、その現状と課題を概 用、⑦製品の微細形状・寸法、機械的・電気的特 説する。 性の微細計測などである(表 1) 。 * 的とする製品の要求寸法や精度に近づくに従って、 特に、被加工素材中の結晶粒や組織の寸法が目 (きうち まなぶ):木内研究室 代表 〒108−0014 東京都港区芝 5−30−1 藤和芝コープ 703 TEL : 03−5730−3135 FAX : 03−5730−3136 それら内部構造の異方性や不均一性が加工時の変 形や動きに大きな影響を与えるようにな り、同様に金型・工具・刃具・加工機械 LSI テスタープローブ 磁気センサーコア 材質:Ni-W 系 寸法:ピン径 40μm 用途:電子デバイス 検査機器 材質:Cu-Fe 系 寸法:外径 200μm 用途:位置姿勢 制御機器 インクジェット ヘッドノズル 材質:Ni-W 系 寸法:ノズル径 10μm 用途:プリンター 関連機器 極小スピンドル 超小型 マニピュレーター 材質:SUS 系 寸法:ギアピッチ 30μm 用途:内視鏡等 医療機器 が持つ微細な寸法誤差・ガタ・偏心など も許容できなくなる。したがって、微細 精密品の製造・加工には、①適切な内部 組織や表層・表面構造を有する素材、② 微細精密形状に適し、耐圧強度・摩耗強 材質:SUS 系 寸法:スピンドル径 120μm 用途:情報端末機器 マイクロコネクター 材質:Ni-W 系 寸法:ピン径 20μm ピン間隙40μm 用途:電子情報機器 度・耐焼付性・その他の物理化学的特性 に優れた金型・工具・刃具、③被加工素 材に対する超精密微動加荷重・把持・固 定・移送機能を有し、高感度被制御性・ 図 1 微細精密加工技術の応用製品(例) 22 ロバスト性を有する加工機械システム、 プ レ ス 技 術