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Yeast two-hybrid
熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
Yeast two-hybrid 法による複製開始蛋白質 orgin
recognition complex の構造・機能解析
Author(s)
松田, 和也
Citation
Issue date
2008-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/9408
Right
博士論文
平成十九年度
Yeast two-hybrid 法による
複製開始蛋白質 origin recognition complex
の構造・機能解析
熊本大学大学院薬学教育部 分子機能薬学専攻
創薬化学講座 薬学微生物学分野
松田 和也
Structural and functional analyses of origin recognition complex
using yeast two-hybrid system
Kazuya Matsuda
The initiation of chromosomal DNA replication must be tightly regulated, and
coordinated with cell division, to replicate the genome just once per cell cycle. To
understand this regulation, it is important to study the structure and function of the
initiator of chromosomal DNA replication. Origin recognition complex (ORC), a sixprotein complex (Orc1p to Orc6p), is the most likely initiator of chromosomal DNA
replication in eukaryotes. Although ORC of Saccharomyces cerevisiae has been studied
extensively from biochemical and genetic perspectives, its structure remains unknown.
Previous studies suggested that ORC has functions other than DNA replication, such as
gene silencing, but the molecular mechanisms of these functions remain unknown. In
this study, I used yeast two-hybrid analysis to search for ORC-binding proteins and to
examine interaction between ORC subunits.
I identified several proteins that interact with ORC subunits; Sir4p and Mad1p
interact with Orc2p; Cac1p and Ykr077wp interact with Orc3p; Rrm3p and Swi6p
interact with Orc5p; and Mih1p interacts with Orc6p. I discuss roles of these
interactions in functions of ORC. I also revealed strong interactions between Orc4pOrc5p, Orc2p-Orc3p, Orc2p-Orc5p, Orc2p-Orc6p and Orc3p-Orc6p and weaker
interactions between Orc1p-Orc4p, Orc3p-Orc4p, Orc3p-Orc5p and Orc5p-Orc6p.
Orc2p and Orc6p are phosphorylated in vivo, regulating initiation of DNA replication.
However, replacing the phosphorylated amino acid residues with others that cannot be
phosphorylated, or that mimic phosphorylation, did not affect subunit interactions.
Orc5p has a complete Walker A motif and bind to ATP. Yeast two-hybrid analyses
suggested that Orc5p interacts with Orc2p and Orc4p. In contrast, Orc5p containing a
mutation in the Walker A motif (Orc5-Ap), does not interact with Orc4p and Orc2p.I
suggest that the ATP binding domain of Orc5p is required for efficient interaction with
Orc2p and Orc4p. I consider that these result are important to study the structure and
function of ORC.
目次
頁
略語
4
第 1 章 序論
6
0
第 2 章 Yeast two-hybrid 法による ORC と相互作用する因子の網羅的解析
9
第 1 節 緒言
9
第 2 節 Yeast two-hybrid 法の原理
09
第 3 節 Yeast two-hybrid 法による ORC と相互作用する因子の同定
011
第 4 節 考察
014
0
第 3 章 Yeast two-hybrid 法による ORC サブユニット間相互作用の解析
17
第 1 節 緒言
17
第 2 節 β-galactosidase assay による ORC サブユニット間相互作用の解析 17
第 3 節 ロイシン栄養要求性の比較による ORC サブユニット間
相互作用の解析
19
第 4 節 考察
21
第 4 章 ORC のリン酸化及び ATP 結合活性のサブユニット間相互作用
への影響
23
第 1 節 緒言
23
1
313
第 2 節 Orc2p と Orc6p のリン酸化による ORC サブユニット間相互作用
への影響
023
第 3 節 Orc5p の ATP 結合活性による ORC サブユニット間相互作用
への影響
26
第 4 節 Orc5p と Orc4p の相互作用するドメインの同定
28
第 5 節 考察
31
第 5 章 総括と展望
33
第 6 章 実験材料と方法
35
第 1 節 試薬及び機器類
35
第 1 項 出芽酵母株
35
第 2 項 培地
35
第 3 項 プラスミド
36
第 4 項 プライマー
37
第 5 項 試薬
39
第 6 項 使用機器及び器具
40
第 2 節 実験方法
41
第 1 項 出芽酵母の培養
41
第 2 項 出芽酵母の形質転換
41
第 3 項 SDS-PAGE
42
第 4 項 イムノブロット法
42
2
第 5 項 Yeast two-hybrid 法 (β-galactosidase assay、ロイシン栄養要求性)043
第 6 項 免疫沈降法
44
第 7 項 酵母ゲノムライブラリーの構築
45
第 8 項 酵母ゲノムライブラリーのスクリーニング
46
0
参考文献
47
謝辞
51
3
略語
ATP
adenosine 5’-triphosphate
AD
activation domain
BD
binding domain
CAF-1
chromatin assembly factor 1
cdc
cell division cycle
DSC/MBF
DNA synthesis control/MluI cell cycle box binding factor
HA
hemagglutinin
MCM
minichromosome maintenance
O.D.
optical density
ONPG
2-nitrophenyl β-D-galactopyranoside
ORC
origin recognition complex
ORF
open reading frame
Pre-RC
pre-replicative complex
SC
synthetic complete
ssDNA
single stranded DMA
X-gal
5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactopyranoside
塩基配列
A: adenine
C: cytosine
G: guanin
4
T: thymine
アミノ酸表記 (数字は N 末端からのアミノ酸の順番を意味する。)
A: alanine
D: aspartic acid G: glycine
K: lysine
S: serine
T: threonine
5
第 1 章 序論
遺伝情報の子孫への伝達は生物にとって最も根本的な反応である。そのため、
この反応を担う DNA 複製の開始制御機構を明らかにすること、特に複製開始
蛋白質の構造や機能の解明は大変重要となる。
真核生物の DNA 複製研究におけるモデル生物としては、出芽酵母がよく用
いられている。これは、出芽酵母では遺伝学的解析が容易に行えることに加え、
染色体 DNA 上の複製開始点 (origin DNA) が明らかとなっているためである
(1,2)。この出芽酵母の研究から、真核生物の複製開始蛋白質として ORC (origin
recognition complex) が同定された。ORC は6つのサブユニット(Orc1p-Orc6p)
からなる蛋白質複合体として出芽酵母において同定され、ヒトに至る高等真核
生物にまで広く保存されている(3)。出芽酵母の ORC は、細胞周期を通して染
色体 DNA 上の複製開始点 (origin DNA) に結合している(4)。ORC は他の複製
関連因子である Cdc6p や Cdt1p、MCM を origin DNA 上に導いて、pre-RC (prereplicative complex) と呼ばれる複製開始反応に必須な複合体を形成すると考え
られている(5,6)。しかし、出芽酵母に関しては試験管内において origin DNA 上
で ORC と Cdc6p が結合することは示されているが(7)、複製開始反応を再構成
するには至っていない。この原因として、複製開始反応には機能未知の因子が
関与している可能性がある。
出芽酵母 ORC の 6 つのサブユニットの中で、Orc1p 及び Orc5p は ATP 結合
蛋白質に広く保存された Walker A motif を持っている(8)。これまで、Orc1p、Orc5p
の Walker A motif に変異を導入し、変異型 Orc1p、変異型 Orc5p が構築され、こ
6
れらを含む変異型 ORC (ORC1-A、ORC5-A)を用いて ORC と ATP に関する生化
学的解析が行われてきた。その結果、Orc1p と Orc5p は実際に ATP と結合する
ことが示された(9)。また、ORC1-A が origin DNA に結合できなかったことから、
Orc1p の ATP 結合活性は origin DNA への特異的な結合に必要なことが示された
(9)。一方、Orc5p の ATP 結合に関しては、当研究室において ATP と結合でき
ない変異 Orc5p である Orc5-Ap を発現する酵母変異株 orc5-A 変異株を構築し、
Orc5p の ATP 結合活性が細胞内での ORC の安定性に寄与していることを遺伝
学的解析により示唆している(10)。他にも、Orc1p は ATP 加水分解活性も持ち、
MCM の origin DNA への呼び込みに重要な役割を果たしていることが報告され
ている(9)。また、ORC の 6 つのサブユニットの中で、Orc2p と Orc6p が細胞周
期を調節する因子である Cdk(cyclin dependent kinase)によってリン酸化されるこ
とが報告されており、これが再複製反応を抑制していることが示唆されている。
(11-13)
このように、出芽酵母 ORC の機能に関して様々な報告が得られているが、
出芽酵母 ORC の構造に関しては未だ明らかとなっていない。ORC の構造に関
しては Cdc6p や ssDNA などによって構造が変化することが報告されており、
この構造変化が ORC の機能と関与していると考えられている(7,14)。しかし、
出芽酵母 ORC の X 線結晶構造解析は未だ報告されておらず、どのサブユニッ
トとどのサブユニットが相互作用しているかなど、その基本的な情報が得られ
ていない。ORC の構造が明らかとなれば、機能を理解する上でも重要になって
くると考えられる。
ORC には DNA 複製反応以外の関与についても報告されている。遺伝学的解
7
析により、温度感受性 orc2 変異株では、染色体の特定領域の遺伝子発現が不活
性化する silencing が抑制されることが報告されている(15)。また、Orc1p と
silencing を調節する因子の一つ Sir1p が相互作用することが示されており、ORC
が silencing において重要な役割を果たしていることが示唆されている(16)。ま
た、温度感受性 orc 変異株では、紡錘体上に染色体が適切に並ぶまで各染色
体が勝手に分離しないように抑制する紡錘体チェックポイントにも関わって
いることが示されている(17)。しかし、このような複製反応以外の機能に ORC
がどのようなメカニズムで関与するかは明らかになっていない。このメカニズ
ムを明らかにするためにも、ORC と相互作用する因子を検索することが重要に
なると考えられる。
蛋白質複合体のサブユニット間相互作用や、蛋白質と結合する因子の検索に
有用な方法として、yeast two-hybrid 法がある(18-21)。Yeast two-hybrid 法は酵母
細胞内で蛋白質の相互作用を検出できる方法で、蛋白質の精製を行わずに 2 つ
の遺伝子産物間の相互作用を測定することが出来る。
本研究では、ORC と相互作用する因子及び ORC サブユニット間の相互作用
を調べる目的で yeast two-hybid 法を用いて解析した。また、Orc2p、Orc6p のリ
ン酸化や Orc5p の ATP 結合が ORC サブユニット間相互作用に影響を与えるか
どうかを検討した。
8
第 2 章 Yeast two-hybrid 法による ORC と相互作用する因子の
網羅的解析
第 1 節 緒言
ORC は Cdc6p、Cdt1p、MCM などの他の複製関連因子を origin DNA 上に導
いて pre-RC を構築することで複製を開始させると考えられているが、未だ試
験管内で pre-RC を完全に再構成するには至っていない(5-7)。
また、ORC は複製開始反応以外にも、染色体の特定領域に存在する遺伝子の
発現が不活性化する silencing や細胞分裂期に起こる染色体凝縮、DNA の異常
な複製や DNA 損傷が起こった際に細胞周期を一旦停止させるチェックポイン
ト機構など、様々な反応への関与が報告されている(15,17,22,23)。しかし、これ
ら複製開始以外の反応において、ORC がどのようなメカニズムで関与している
のか明らかになっていない。
このように ORC の機能に関してはまだ不明な点が多い。その原因として、ORC
と未だ機能が明らかにされていない因子との相互作用が関与している可能性が
考えられた。そこで私は、yeast two-hybrid 法を用いて、ORC の各サブユニット
と相互作用する未知の因子を網羅的にスクリーニングした。
第 2 節 Yeast two-hybrid 法の原理
Yeast two-hybrid 法は酵母の転写因子が DNA binding domain (BD) と、転写を
9
活性化する activation domain (AD) が分割できることを利用している。相互作用
を調べたい蛋白質をそれぞれ BD と AD に融合させ、BD 融合蛋白質、及び AD
融合蛋白質として酵母細胞内で共発現させる。両者の相互作用は転写活性を指
標 と し て 検出さ れる。 Fig.1 に示 すよう に、 BD 結合領 域の下 流には 、 βgalactosidase やロイシンの遺伝子 (lacZ, LEU2) をレポーター遺伝子として導入
してある。もし、二つの蛋白質が相互作用しない場合は、BD と AD が近接し
ないため、下流のレポーター遺伝子は発現しない (Fig.1A)。しかし、もしこの
二つの蛋白質が相互作用する時は BD と AD が近接し、下流のレポーター遺伝
子が発現する(Fig.1B)。即ち、β-galactosidase 活性の上昇とロイシン栄養要求性
の消失を調べることで、相互作用の有無、及び強度を測定することができる。
本研究の系では BD として LexA、AD として B42 という共に大腸菌由来の蛋白
質を利用しているので、細胞内の酵母由来蛋白質と結合するリスクを減らし、
スクリーニング時の偽陽性を減らすことができる。さらに、B42 には HA タグ
が付加されているので、免疫沈降法を利用することが出来る。HA 抗体で AD
融合蛋白質を免疫沈降し、一緒に結合している BD 融合蛋白質を LexA 抗体を
用いて検出することが出来る。また、本研究における全ての BD、AD 融合蛋白
質が発現していることはイムノブロット法によって確認している。
10
Fig.1 Overview of yeast two-hybrid system
(A) If the fusion partners do not interact, the DB and AD can not activate transcription of reporter genes (lacZ or LEU2).(B) If the
fusion partners interact, the DB and AD are brought into proximity and can activate transcription of reporter genes (lacZ or LEU2)
第 3 節 ORC と相互作用する因子の同定
ORC サブユニットと相互作用する因子を検索するために、各 ORC サブユニ
ットを BD 融合蛋白質、酵母ゲノムライブラリーを AD 融合蛋白質として酵母
細胞内で共発現させ、yeast two-hybrid 法によりスクリーニングを行った。その
結果、最終的に選択された陽性クローンの数は、Orc1p で 0 個、Orc2p で 2 個、
Orc3p で 4 個、Orc4p で 0 個、Orc5p で 2 個、Orc6p で 1 個となった。これらの
クローンの塩基配列を調べた結果、下記の因子の遺伝子の一部であることが同
11
定された。β-galactosidase assay を行った結果を Fig. 2 に示す。Orc2p との相互
作用が考えられる因子として、silencing に関与する Sir4p と紡錘体チェックポ
イポイント複合体の構成因子 Mad1p が見出された (Fig.2A)。次に、Orc3p との
相互作用が考えられる因子として、CAF-1 (chromatin assembly factor-1) のサブ
ユニットである Cac1p と機能不明の因子である Ykr077wp が見出された (Fig.2B)。
Orc5p に関しては、複製フォーク進行に必要な因子 Rrm3p と DSC/MBF 複合体
の構成因子 Swi6p (Fig.2C)、Orc6p に関しては、phosphatase の一つである Mihp
が同定された (Fig.2D)。これらの中で、Cac1p 及び Mih1p の全 ORF を AD 融合
蛋白質を発現するプラスミドに挿入し、ORC サブユニットとの相互作用を yeast
two-hybrid 法によって調べたところ、AD-CAC1 は BD-ORC3 以外にも BD-ORC5、
BD-ORC6 との共発現で、コントロールよりも高いβ-galactosidase 活性を示した
(Fig.3A)。同様に、AD-MIH1 は BD-ORC2 以外にも BD-ORC3、BD-ORC5、BDORC6 との共発現で、コントロールよりも高いβ-galactosidase 活性を示した
(Fig.3B)。以上の結果から、Cac1p は Orc3p に加えて Orc5p、Orc6p と相互作用
し、Mih1p は Orc6p に加えて Orc2p、Orc3p、Orc5p と相互作用することが示唆
された。
12
A
B
D
C
Fig.2 Screening of yeast genomic libraries, to identify sequences of ORC-interacting
proteins
EGY48 cells were transformed with two plasmids: either a pEG202 derivative containing an ORC subunit (BD fusions) or an empty
vector (Vec), plus either a pJG4-5CmR derivative encoding a library-derived protein sequence believed to interact with ORC (AD
fusions) or an empty vector (Vec). The activity of β-galactosidase in cells is expressed as total units in 0.8 ml yeast cell culture with
OD600 value as 1.0. (A) pEG202-ORC2 plus pJG4-5CmR-sir4 or -mad1 (B) pEG202-ORC3 plus pJG4-5CmR-cac1, -yfr038w, ygr017w or -ykr077w(C) pEG202-ORC5 plus pJG4-5CmR-rrm3 or -swi6 (D) pEG202-ORC6 plus pJG4-5CmR-mih1.
13
A
B
Fig.3 Interaction of full length Cac1p or Mih1p with ORC subunits 1 to 6
(A) EGY48 cells were co-transfected with pSH18-34, a pEG202 derivative (pEG202 alone; or BD fusions pEG202-ORC1 to
pEG202-ORC6) and a pJG4-5CmR derivative (pJG4-5CmR alone or AD fusion pJG4-5CmR-CAC1). β-galactosidase activity was
determined as in Fig. 2. (B). As A, except the AD fusion was pJG4-5CmR-MIH1.
第 4 節 考察
私は yeast two-hybrid 法によって ORC と相互作用する因子をスクリーニング
した。今回 ORC との相互作用する因子として、Sir4p、Mad1p、Cac1p、Ykr077wp、
14
Rrm3p、Swi6p、Mih1p を見出した。
Sir4p は silencing を制御する Sir1-4p 複合体の中の 1 つで、接合型遺伝子座の
silencing に関わっている(24)。ORC もこの silencing に関わっており、Sir1p を接
合型遺伝子座に結合させるのに必要とされている(22)。一方で、Sir4p と Sir1p
の相互作用も、Sir1p が接合型遺伝子座に結合するのに必要とされている(16)。
このため、Orc2p と Sir4p が相互作用するのならば、接合型遺伝子座における Sir1p
の結合を安定化していることが考えられる。
Mad1p は紡錘体チェックポイント複合体の構成因子の 1 つである。温度感受
性 orc 変異株では非許容温度においてこのチェックポイント機構が働くことが
報告されている(25,26)。このため、Orc2p と Mad1p の相互作用がこのチェック
ポイント機構に関与していることが考えられる。
Cac1p はクロマチン形成に関与する CAF-I を構成する最も大きなサブユニッ
トである。DNA 複製及び DNA 修復過程においてヒストン H3-ヒストン H4 を
DNA に移行させる働きをしている(27,28)。また、CAF-I は接合型やテロメアの
silencing にも関与しており、Orc3p と Cac1p の相互作用からこれらの機能への
ORC の関与が考えられる。
Rrm3p は複製フォークの進行を促進する DNA helicase である。遺伝学的解析
により、rrm3 酵母変異株では DNA 複製反応の遅延が観察されている(29,30)。
このため、Rrm3p も複製関連因子のように ORC に呼び込まれていることが考
えられる。
Swi6p は DSC/MBF 複合体の構成因子である。DSC/MBF 複合体は DNA 複製
関連遺伝子の転写制御に重要な因子であることが報告されている(31,32)。Swi6p
15
と ORC との相互作用が DNA 複製関連因子の転写に関与していることが考えら
れる。
Mih1p は Cdc28p の phosphatase の一つであり、分裂期に入るのを正に制御し
ている(33)。さらに Cdc28p は Mih1p 等の phosphatase によって脱リン酸化され
ることで活性化し、活性化された Cdc28p は Orc2p と Orc6p をリン酸化するこ
とが報告されている(11,34)。Orc2p と Orc6p のリン酸化は再複製反応の抑制に
関与していると考えられているので(11)、Mih1p と Orc2p、Orc6p の相互作用も
この反応に何らかの形で関与しているのかもしれない。
今回の結果から、ORC には、未だ明らかとなっていない機能が存在する可能
性が考えられる。今回見出した因子との相互作用について、更なる解析を行う
ことで ORC の機能の全容が掴めることを期待する。
16
第 3 章 Yeast two-hybrid 法による ORC サブユニット間相互作用の
解析
第 1 節 緒論
出芽酵母の ORC に関して機能解析は行われているものの、その構造に関し
ては未だ良く分かっていない。これまで、出芽酵母 ORC の構造に関しては、
試験管内で ORC と origin DNA が結合した複合体において、origin DNA 上の相
対的な ORC サブユニットの位置関係は明らかにされている(35)。また、ORC
サブユニット間の結合に関しては、ORC を多量発現させた昆虫細胞から精製す
る際、Orc3p、Orc5p を欠くとそれぞれ Orc2p、Orc4p の減少を伴うことが報告
されている(35)。しかし、ORC の詳細な構造解析や構造変化について調べるに
は、全ての ORC サブユニット間の相互作用を明らかにしておく必要がある。
そこで、本章では yeast two-hybrid 法を用いて、ORC の各サブユニット間の
相互作用について検討した。
第 2 節 β-galactosidase assay による ORC サブユニット間相互作用の解析
相互作用を検討したい ORC サブユニットの組み合わせを、BD 及び AD 融合
ORC サブユニットとして酵母細胞内で共発現させ、β-galactosidase 活性を測定
した。
その結果を Fig.4 に示す。BD 融合 ORC5 (BD-ORC5)と AD 融合 ORC4 (AD17
ORC4)を共発現させた場合、コントロールと比較して非常に高いβ-galactosidase
活性を示した。また、逆の組み合わせである BD-ORC4 と AD-ORC5 を共発現
させた時も、高いβ-galactosidase 活性を示した。この結果から、Orc5p と Orc4p
が細胞内で強く相互作用していることが示唆された。同様に、Orc2p と Orc5p
及び Orc2p と Orc6p の組み合わせでもコントロールと比較してβ-galactosidase
活性が高かった。Orc2p と Orc3 及び Orc3p と Orc6p の組み合わせでは、高いβgalactosidase 活性を示したものの、BD と AD の組み合わせが逆になるとβgalactosidase 活性を示さなかった。以上の結果から、Orc5p-Orc4p、Orc5p-Orc2p、
Orc2p-Orc6p、Orc2p-Orc3p、Orc3p-Orc6p の 5 つの相互作用を見出した。
Fig.4 β-galactosidase assay of the interaction between subunits of ORC
EGY48 cells were transformed with pSH18-34, a pEG202 derivative (pEG202 alone or pEG202-ORC1 to -ORC6; BD fusions), and
a pJG4-5CmR derivative (pJG4-5CmR alone or pJG4-5CmR-ORC1 to -ORC6; AD fusions). β-galactosidase activity was determined
as in Fig. 2.
18
第 3 節 ロイシン栄養要求性の消失による ORC サブユニット間相互作用の
解析
前 節 では、相互作用の指標として、レポーター遺伝子 lacZ を用いたβgalactosidase 活性の上昇を調べた。そこで、前説で見出した相互作用を確認す
るために、本節ではレポーター遺伝子 LEU2 を用いたロイシン栄養要求性の消
失を調べた。前節で用いた酵母培養液を、ロイシンを含まない SC 寒天培地上
に滴下し、30˚C、4 日間培養して増殖を観察した。その結果、Fig.4 のβ-galactosidase
assay の結果と同様に、BD-ORC5 と AD-ORC4 を共発現させた酵母が顕著に増
殖していた (Fig.5)。また、BD と AD を逆にした BD-ORC4 と AD-ORC5 の組み
合わせも顕著に増殖していた。Orc3p-Orc6p、Orc2p-Orc3p の組み合わせにおい
ても増殖していた。Orc2p-Orc5p、Orc2p-Orc6p、Orc3p-Orc4p、Orc3p-Orc5p、
Orc5p-Orc6p の組み合わせでは、一方の組み合わせでは増殖したものの、BD と
AD の組み合わせが逆になると増殖できなかった。さらに、β-galactosidase assay
では確認できなかったが、Orc1p-Orc4p の組み合わせで増殖が確認された。こ
の Orc1p-Orc4p の組み合わせは BD と AD を入れ変えても増殖していた。βgalactosidase assay の結果とロイシン栄養要求性を比較した結果の両方で相互作
用が示されたのは、Orc4p-Orc5p、Orc2p-Orc3p、Orc2p-Orc5p、Orc2p-Orc6p、
Orc3p-Orc6p の 5 つの組み合わせとなった。以上の結果をもとに、Fig.6 に示す
サブユニット間相互作用に関するモデルを提唱した。
19
Fig.5 Leucine requirement assay of the interaction between subunits of ORC
As Fig.4, but cell suspensions of each strain were dropped onto agar plates without leucine and incubated for 3 days (4 times serial
dilution - from left to right- of a suspension with O.D.600=0.1) .
Fig.6 Interaction map for of Saccharomyces cerevisiae ORC
Lines or dotted lines show interactions revealed by β-galactosidase assay or leucine-requirement assay, respectively.
light lines show interactions confirmed by both combinations (BD and AD) or one combination only, respectively.
20
Heavy or
第 4 節 考察
ORC の構造を調べるために、yeast two-hybrid 法を用いてサブユニット間の相
互作用を検討した。その結果、Orc4p-Orc5p の相互作用が最も強く、Orc2p-Orc3p、
Orc2p-Orc5p、Orc2p-Orc6p、Orc3p-Orc6p の組み合わせが、β-galactosidase assay
及びロイシンの栄養要求性の消失の 2 つの assay において相互作用が示された。
また、Orc1p-Orc4p、Orc3p-Orc4p、Orc3p-Orc5p、Orc5p-Orc6p の相互作用がロ
イシンの栄養要求性の消失を調べた結果、明らかとなった。
出芽酵母の ORC サブユニット相互作用については、ORC を多量発現細胞か
ら精製する際、Orc3p や Orc5p を欠くとそれぞれ Orc2p、Orc4p の減少を伴うこ
と、及び試験管内で ORC と origin DNA が結合した複合体において、origin DNA
上の Orc2p、Orc3p、Orc4p、Orc5p の相対的位置が近いことが報告されており(35)、
これは本研究の yeast two-hybrid 法の結果とも一致する。また Fig.6 の結果から、
Orc2p、Orc3p、Orc6p で一つの subcomplex を形成していると示唆された。この
ような subcomplex の形成は、他の生物種でも報告されている (Fig.7)。例えば、
ヒトやシロイヌナズナの ORC では Orc2p、Orc3p、Orc4p、Orc5p で subcomplex
を形成すると考えられている (Fig.7A,B)(36,37)。また、マウスでは、Orc2p、Orc3p、
Orc5p (Fig.7C)(38)、トウモロコシでは Orc2p、Orc3p、Orc4p の subcomplex が報
告されている (Fig.7D)(39)。このように、Orc2p と Orc3p を含んだ subcomplex
が様々な種で見出されており、本研究の結果もそれと類似していると考えられ
る。このように、それまで全く不明であった出芽酵母の ORC の構造について
重要な情報が得られたと考えている。
21
B
A
1
6
2
5
3
(Ranjan, A.,et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 4865, 2006)
4
(Diaz-Trivino, S., et al., Nucleic Acids Res., 33, 5406, 2005)
D
C
(Kneissl, M., et al., J Mol Biol., 327, 112, 2003)
(Witmer, X., et al., Nucleic Acids Res., 31, 626, 2003)
Fig.7 Interaction map for of several species ORC
(A) Interaction map of human ORC.Interaction map emerging from the missing-subunit assay.(B) Interaction map of Arabidopsis
thaliana ORC. Lines indicate direct interaction in the pull-down assay.(C) Interaction map of murine ORC. Arrowheads indicate
interactions found with BD fusioned ORC subunit toward AD fusioned ORC subunit vice versa.(D) Interaction map of maize ORC.
The thickness of the connecting lines reflects the relative strength of the interaction as judged from the yeast two-hybrid assays.
22
第 4 章 ORC のリン酸化及び ATP 結合活性のサブユニット間
相互作用への影響
第 1 節 緒言
これまで ORC の機能について様々な報告がされている。ORC の 6 つのサブ
ユニットの中で、Orc2p と Orc6p が in vivo でリン酸化されることが報告されて
おり、これが再複製反応を抑制していることが示唆されている(11)。また、当
研究室では、ATP と結合できない変異 Orc5p を発現する酵母変異株 orc5-A 株に
おいて、ORC が不安定化することを見出している(10)。ORC は Cdc6p や ssDNA
によって構造が変化することが報告されており、この構造変化が ORC の機能
と関与していると考えられている(7,14)。そこで私は、これらの Orc2p、Orc6p
のリン酸化、及び Orc5p の ATP 結合活性が、ORC のサブユニット間相互作用
が変化するような構造的な影響を与えている可能性を考えた。本章では、yeast
two-hybrid 法を用いて Orc2p、Orc6p のリン酸化、及び Orc5p の ATP 結合活性
等のORCへの修飾が ORC サブユニット間相互作用に影響を与えるかを調べ
た。
第 2 節 Orc2p と Orc6p のリン酸化による ORC サブユニット間相互作用
への影響
Orc2p には 6 カ所 (S16, T24, T70, T174, S188, S206)、Orc6p には 4 カ所 (S106,
23
S116, S123, T146)、Cdk によってリン酸化される部位が存在する(11)。そこで、
本節では、これら全てのリン酸化部位をリン酸化を受けないアラニン残基に置
換した変異蛋白質 Orc2p-All-6A、Orc6p-All-4A を使用した。さらに、リン酸化
状態を模倣するために、全てのリン酸化部位をアスパラギン酸残基に置換した
変異蛋白質 Orc2p-All-6D、Orc6p-All-4D を使用した。これら 4 種類の変異蛋白
質を BD 融合蛋白質として、相互作用を検討する ORC サブユニットを AD 融合
蛋白質として酵母細胞内で共発現させ、β-galactosidase 活性を測定した (Fig.8)。
その結果、BD-ORC2、BD-orc2-All-6A、BD-orc2-All-6D をそれぞれ AD-ORC サ
ブユニットと共発現させても、β-galactosidase 活性は同程度であった (Fig8A)。
同様に、BD-ORC6、BD-orc6-All-4A、BD-orc6-All-4D をそれぞれ AD-ORC サブ
ユニットと共発現させてもβ-galactosidase 活性は同程度であった (Fig.8B)。以上
の結果から、ORC のリン酸化はサブユニット間相互作用に影響しないことが分
かった。
24
A
B
Fig.8 Effect of mutations in phosphorylation sites of Orc2p and Orc6p on their
interaction with other subunits of ORC
(A) EGY48 cells were transformed with pSH18-34, a pJG4-5CmR derivative (either empty vector or vector plus an ORC subunit),
and a pEG202 derivative (pEG202 alone, pEG202-ORC2, pEG202-orc2-All-D or pEG202–orc2-All-A). β-galactosidase activity was
determined as for Fig. 2. (B) As (A), but the pEG202 derivatives contained orc6 sequences instead of orc2 sequences.
25
第 3 節 Orc5p の ATP 結合活性による ORC サブユニット間相互作用
の影響
Orc5p の ATP 結合活性と ORC サブユニットとの相互作用が関与しているか
どうか調べるため、Orc5p の Walker A motif のリジン残基をグルタミン酸残基に
置換し、ATP と結合できない変異 Orc5p である Orc5-Ap を用いて他の ORC サ
ブユニットとの相互作用を yeast two-hybrid 法を用いて検討した。その結果、
BD-ORC5 は AD-ORC4、及び AD-ORC2 との共発現でβ-galactosidase 活性を示し
た 。 一 方 、 BD-orc-5A は ど の AD-ORC サ ブ ユ ニ ッ ト を 共 発現 さ せ て も βgalactosidase 活性はコントロールと同程度だった (Fig. 9A)。以上の結果から、
野生型の Orc5p は Orc2p、Orc4p と相互作用したが、ATP と結合できない Orc5Ap は Orc2p、Orc4p と相互作用できなかった。このことから、Orc5p と Orc4p
及び Orc2p との相互作用には Orc5p の ATP 結合ドメインが必要であることが示
された。
次に、Orc5p の ATP 結合ドメインが Orc4p との相互作用に必要かどうかを確
認するため、ロイシンを含まない SC 寒天培地上に滴下し、30˚C、4 日間培養
して増殖を観察した (Fig. 9B)。その結果、BD-ORC5 と AD-ORC4 を共発現させ
た場合は、ロイシンを含まない SC 寒天培地上でも増殖できた。一方、BD-orc5-A
と AD-ORC4 を共発現させた場合、増殖できなかった。この結果からも、Orc5p
の ATP 結合ドメインが Orc4p との相互作用に必要であることが示された。
26
A
B
BD
AD
ORC5 ORC4
orc5-A ORC4
ORC4
Vec
Fig.9 Yeast two-hybrid assay of the interaction between Orc5p and Orc4p, and its
dependency on the ATP-binding domain of Orc5p
(A) EGY48 cells were transformed with pSH18-34, a pEG202 derivative (pEG202 alone or pEG202-ORC5 or pEG202-orc5-A; BD
fusions), and a pJG4-5CmR derivative (pJG4-5CmR alone or pJG4-5CmR-ORC1 to -ORC6; AD fusions). β-galactosidase activity
was determined as for Fig. 2. (B) As (A), but cell suspensions of each strain were dropped onto agar plates without leucine and
incubated for 2 days (O.D.600=10, 5, 2.5, 1, 0.5, 0.1, 0.01, 0.001; from left to right) .
さらに yeast two-hybrid 法だけでなく、細胞粗抽出液を使った免疫沈降法で
Orc5p と Orc4p の相互作用を検討した。細胞抽出液は、AD-ORC4 と BD-ORC5
または、BD-orc5-A を共発現させた酵母から調製した。HA 抗体で AD 融合蛋白
27
質を免疫沈降し、そこに結合している BD 融合蛋白質を LexA 抗体で検出した。
Fig. 10 の結果から、HA 抗体依存的に AD 融合 Orc4p が免疫沈降されている。BD
融合 Orc5p は AD 融合 Orc4p と一緒に落ちてきており、このことからも Orc4p
と Orc5p が相互作用している事が示された。一方、
BD 融合 Orc5-Ap の方は Orc5p
と比べあまり落ちていないことが分かった。以上の結果から Orc5p の Walker A
motif に変異を導入すると Orc4p と相互作用が弱くなるが示された。これらの結
果から、Orc5p の ATP 結合ドメインは Orc4p と Orc5p の物理的な相互作用に必
要である事が示された。
Fig.10 Co-immunoprecipitation assay of the interaction between Orc5p and Orc4p, and
its dependency on the ATP-binding domain of Orc5p
Whole cell extract was prepared from EGY48 cells having pSH18-34, pEG202(vector) or its derivative (pEG202-ORC5 or pEG202orc5-A) and pJG4-5CmR-ORC4 and precipitated with or without antibody against HA (Orc4p is tagged with HA in pJG4-5CmRORC4).Each sample[7.5% input of whole cell extract and precipitates with (+) or without (-) antibody against HA] was analysed on
the same gel by immunoblotting with an antibody HA or LexA.
第 4 節 Yeast two-hybrid 法による Orc5p と Orc4p の相互作用するドメインの
同定
次に、Orc5p と Orc4p の相互作用に必要なドメインの同定を試みた。Orc5p
28
及び Orc4p の N 末端部分、中央部分、C 末端部分の 3 つの部分を発現するよう
な DNA を作製し Fig. 11A のように Orc51p、Orc52p、Orc53p、及び Orc41p、Orc42p、
Orc43p と定義した。これら Orc5p 及び Orc4p の 3 つの部分と Orc5p 及び Orc4p
の全長との相互作用を yeast two-hybrid 法によって調べた。その結果、Orc5p の
N 末端部分をコードする BD-ORC51 と AD-ORC4 を共発現させたときに、コン
トロールと比較して高いβ-galactosidase 活性を示した (Fig.11B)。また、Orc4p
の C 末端部分をコードする BD-ORC43 と AD-ORC5 を共発現させたときにもβgalactosidase 活性がコントロールよりも高かった (Fig.11C)。一方、Orc5p 及び
Orc4p の他の部分ではβ-galactosidase 活性はコントロールと同程度だった。これ
らの結果から、Orc5p の N 末端部分と Orc4p の C 末端部分が相互作用している
ことが示された。そこで、Orc5p の N 末端部分と Orc4p の C 末端部分との相互
作用を yeast two-hybrid 法で検討した (Fig. 11D)。しかし、BD-ORC43 と ADORC51 及び BD-ORC51 と AD-ORC43 を共発現させてもβ-galactosidase 活性はコ
ントロールと同程度だった。この原因として、Orc5p の N 末端部分と Orc4p の
C 末端部分で相互作用はするものの、相互作用の相手を認識するためには Orc5p、
及び Orc4p の全長が必要なのではないかと考えられた。
29
A
C
B
D
Fig.11 Mapping domains involved in the interaction between Orc5p and Orc4p, by
using a yeast two-hybrid assay
Scehmatic diagram of Orc5p, Orc4p and their partial fragments(A).Amino acid residues of full-length Orc5p and Orc4p and their
partial fragments were numbered(A).EGY48 cells co-transfected with pSH18-34, pJG4-5CmR derivatives.β-galactosidase activity
was determined as for Fig. 2.
30
第 5 節 考察
Orc2p、Orc6p のリン酸化部位をリン酸化を受けないアラニン残基、及びリン
酸化を模倣したアスパラギン酸に置換した変異蛋白質を使用し、ORC サブユニ
ットとの相互作用を検討した。その結果、いずれも野生型の Orc2p、Orc6p と
比較して変化しなかった。この結果は、Orc2p、Orc6p のリン酸化はサブユニッ
ト間相互作用に影響しないことを示唆している。一方、Orc5p の ATP 結合ドメ
インに変異を導入した場合、野生型の Orc5p と比較して Orc2p 及び Orc4p と相
互作できなくなった。また、Walker A motif のある Orc5p の N 末端側が Orc4p
との相互作用に必要なことも分かった。これらの結果は、Orc5p の ATP 結合ド
メインが Orc2p、Orc4p と相互作用するために必要であることを示唆している。
本研究により、Orc2p、Orc6p のリン酸化はサブユニット間相互作用に影響し
ないことが示唆された。このため、Orc2p、Orc6p のリン酸化による再複製反応
の抑制のメカニズムは、サブユニット間相互作用の変化ではなく、何か別の要
因があると考えられる。もしかすると、機能未知の因子が関与しているのかも
しれない。
当研究室では、野生型 Orc5p の代わりに Orc5-Ap を発現する酵母変異株 orc5A 株を用いた遺伝学的解析を行っている(10)。その結果、orc5-A 株においては、
非許容温度で ORC が不安定化することを見出した。さらに、この不安定化が、
Orc4p の多量発現によって抑制されることも明らかにしている。本研究では、
Orc5p の ATP 結合ドメインは Orc5p と Orc2p 及び Orc4p との相互作用に必要で
あることを示している。このため、Orc5p の ATP 結合活性は、Orc5 が Orc4p と
31
相互作用するために必要であり、ひいては細胞内における ORC の構造安定化
に寄与していることが示唆される。
32
第 5 章 総括と展望
真核生物の複製開始蛋白質である ORC は Orc1p から Orc6p の 6 つのサブユ
ニットからなる蛋白質複合体として出芽酵母で同定され、ヒトに至る高等真核
生物にまで広く保存されている(3)。出芽酵母の ORC は、細胞周期を通して染
色体 DNA 上の複製開始点 (origin DNA)に結合し、他の複製関連因子である
Cdc6p や Cdt1p、MCM を origin DNA 上に導いて、pre-RC (pre-replicative complex)
と呼ばれる開始反応に必須な複合体を形成すると考えられている(5,6)。また、
silencing 等の複製以外の反応にも ORC が機能していることが報告されている。
しかし、その分子メカニズムは明らかにされていない。また、ORC は生化学的
解析、遺伝学的解析によって機能が調べられているが、その構造については未
だ不明な点が多い。これらを明らかにするために、本研究では yeast two-hybrid 法
を用いて ORC と相互作用する因子、及びサブユニット間相互作用に付いて検
討した。
本研究において私は、ORC と相互作用する因子を検索したところ、silencing
の制御因子 Sir4p、紡錘体チェックポイントに関わる Mad1p、クロマチン集合
因子 CAF-I の構成物質である Cac1p、機能未知の因子 Ykr077wp、複製フォー
ク進行に関わる因子 Rrm3p、複製関連遺伝子の転写制御に重要な因子 Swi6p、
細胞周期制御に関与する因子 Mih1p を見出した。次に、ORC のサブユニット
間の相互作用について検討した結果、Orc4p-Orc5p、Orc2p-Orc3p、Orc2p-Orc5p、
Orc2p-Orc6p、Orc3p-Orc6p 等の ORC サブユニット間の相互作用が明らかとな
った。さらに、Orc2p と Orc6p のリン酸化が DNA の再複製反応の抑制に寄与し
33
ていることが報告されているので(11)、非リン酸化、及びリン酸化を模倣した
Orc2p、Orc6p と他のサブユニットとの相互作用が野生型 Orc2p、Orc6p と比較
して変化するかを調べた。その結果、野生型の Orc2p、Orc6p の相互作用と変
わらなかったことから、Orc2p、Orc6p のリン酸化はサブユニット間相互作用に
影響しないことが示された。Orc5p は ATP 結合活性を持っているため(9)、ATP
と結合できない Orc5-Ap を用いて他のサブユニットとの相互作用を検討した。
その結果、野生型の Orc5p は Orc2p、Orc4p と相互作用したが、Orc5-Ap は Orc2p、
Orc4p と相互作用できなかった。このことから、Orc5p の ATP 結合活性が Orc2p、
Orc4p との相互作用に必要であり、ORC の構造安定性に寄与していることが示
唆された。
本研究において、ORC との相互作用が考えられる因子が見出されたことから、
ORC には未知の機能があることが示唆される。また、Orc5p の ATP 結合活性が
相互作用に影響したことから、他のサブユニット間相互作用や subcomplex にも
何か ORC の機能との関連性があるのかもしれない。これを踏まえて生化学的
解析、及び遺伝学的解析を行えば、ORC の機能の全容解明に繋がるのではない
かと考えている。
34
第 6 章 実験材料と方法
第 1 節 試薬及び機器類
本実験に使用した実験材料は以下の通りである。
第 1 項 出芽酵母株
EGY48
Matαhis3,trp1,ura3,leu2::6LexAop-LEU2
EGY188
Mata his3,trp1,ura3,leu2::2LexAop-LEU2
第 2 項 培地
YPDA 培地
1% Bacto-Yeast Extract (Bacton Dickinson 社)
2% Bacto-Peptone (Bacton Dickinson 社)
2% Glucose (和光純薬)
0. 015% Adenine Sulufate (和光純薬)
2% Agar powder (和光純薬):寒天培地の場合
35
SC 培地
0. 67% Yeast Nitrogen Base without amino acids (Becton Dickinson 社)
2% Glucose (和光純薬)
0. 2% Yeast drop-out media (SIGMA 社)
0. 015% Adenine Sulfate (和光純薬)
2% Agar powder (和光純薬):寒天培地の場合
LB 培地
1% Bacto Tryptone (Bacton Dickinson 社)
0. 5% Bacto Yeast Extract (Bacton Dickinson 社)
1% NaCl (和光純薬)
100μg/mL 注射用ビクシリン (アンピシリンナトリウム) (明治製菓)
1.5% Agar powder (和光純薬) :寒天培地の場合
第 3 項 プラスミド
pSH18-34 (URA3, 2μm, ApR, 8ops.-lacZ, レポーター遺伝子)
pEG202 (HIS3, 2μm, ApR, constitutive な ADH プロモーターにより LexA あ
るいは LexA 融合型蛋白質を発現)
pJG4-5 (TRP1, 2μm, ApR, 誘導可能な GAL1 プロモーターによって
B42-HA タグあるいは B42-HA タグの付加された蛋白質を発現)
以上の 3 つの plasmid は OriGene Technologies, Inc.より購入した。
36
pJG4-5CmR(TRP1, 2μm, CmR, pJG4-5 の ApR 遺伝子を潰して CpR 遺伝子を
挿入)
pJG4-5CmR–ORC10 、 pJG4-5CmR–ORC20 、 pJG4-5CmR–ORC30 、 pJG45CmR–ORC40、pJG4-5CmR–ORC50、pJG4-5CmR–ORC60、pJG4-5CmR–CAC1、
pJG4-5CmR–MIH1 、 pEG202-ORC10 、 pEG202-ORC20 、 pEG202-ORC30 、
pEG202-ORC40 、 pEG202-ORC50 、 pEG202-ORC60 、 pEG202-ORC50A 、
pEG202-ORC41 、 pEG202-ORC42 、 pEG202-ORC43 、 pEG202-ORC51 、
pEG202-ORC52、pEG202-ORC53 は制限酵素処理した pEG202、pJG4-5CmR
に、各 ORC 遺伝子、CAC1、MIH1 の遺伝子を挿入した。変異 orc2 と orc6
遺 伝 子 (orc2-All-D 、 orc2-5d 、 orc2-All-A 、 orc6-All-D 、 orc6-All-A) は
STRATAGENE の QuickChange Site-Dilected Mutagenesis Kit を使い、そ
のマニュアルに従って作成した。これらを pEG202 に挿入した。
第 4 項 プライマー
ORC10U
5’-ATGGCAAAAACGTTGAAGGAT-3’
ORC10R
5’-CCGCTCGAGCGGCTATAAATTTCTCAATGTCTCAT-3’
ORC20U
5’-ATGCTAAATGGGGAAGACTTT-3’
ORC20R
5’-CCGCTCGAGCGGTTATAGAGTATTTAAAACGGTTTT-3’
ORC30U
5’-ATGAGCGACCTTAACCAATC-3’
ORC30R
5’-CCGCTCGAGCGGCTAAATTCCTCTCCAGACAC-3’
ORC40U
5’-ATGACTATAAGCGAAGCTCG-3’
37
ORC40R
5’-CCGCTCGAGCGGTCACAGTTGTGTCCAGGAG-3’
ORC50U
5’-CCGGAATTCCGGATGAATGTGACCACTCCGG -3’
ORC50R
5’- CCGCTCGAGCGGTCATTCGTGAATATCGCTGAA -3’
ORC60U
5’- ATGTCCATGCAACAAGTCCA -3’
ORC60R
5’- CCGGAATTCCGGTTATAAAGGTTCTGTTAATGCC -3’
ORC41R
5’- CCGCTCGAGCGGCTTTACCCTCTTTTCTAAATATT -3’
ORC42U
5’- AATGGGTTTATTCACTCCGAA -3’
ORC43U
5’- AGTAGATTTTCTCAAAGAGTGA -3’
ORC51R
5’- CCGCTCGAGCGGAATGAAGTTCGCAGCTACATT -3’
ORC52U
5’- CCGGAATTCCGGTCTTTGCAAGAAAAGACTTGC -3’
ORC52R
5’- CCGCTCGAGCGGTCTACCTTGTATGATACGTGT -3’
ORC53U
5’- CCGGAATTCCGGCACTTAATTGTGCAGGCTTTT -3’
RLF2U
5’- CCGGAATTCCCGATGGAGCAACATCTCAAATCA-3’
RLF2R
5’- CCGCTCGAGCGGTTACAAAGACGGGGTTGGC-3’
MIH1U
5’- CCGGAATTCCGGATGAACAATATATTTCATGGAA-3’
MIH1R
5’- CCGGAATTCCGGTCATTTTTTATCTTCAGTCTC -3’
EcoRI-linker 5’- CCGGAATTCCGG -3’
第 5 項 試薬
抗 HA 抗体 (12CA5)は米国 Cold Spring Harbor 研究所の Bruce Stillman 博
士から頂いた。
38
抗 LexA 抗体 (Invitrogen)
HRP 結合抗マウス IgG (GE Healthcare)
HRP 結合抗ラット IgG (Stressgen)
HRP 結合抗ラビット IgG (Stressgen)
SuperSignal (PIRECE)
Dynabeads ProteinG (DYNAL)
complete EDTA-free protease inhibitor mixture (Roche)
MgSO4 7H2O (ナカライテスク)
MgCl2 6H2O (ナカライテスク)
5-Bromo-4-chloro-3-indoryl-β-galactopyranoside (X-gal) (和光)
Chroramphenicol (CP) (和光)
PEG3350 (関東化学)
LiOAc 2H2O (ナカライテスク)
NaOAc (シグマ)
Dimethyl Sulfoxide (シグマ)
Glycerol (和光)
Triton X-100 (シグマ)
Tris (シグマ)
HCl (関東化学)
EDTA Na2 (ナカライテスク)
Na2HPO4 12H2O (ナカライテスク)
NaH2PO4 2H2O (ナカライテスク)
β-Mercaptoethanol (和光)
2-Nitrophenyl β-galactopyranoside (ONPG) (シグマ)
39
SDS (和光)
NaOH (片山)
Phenol (和光)
Chloroform (関東化学)
Isoamylalchol (半井化学)
Ethanol (和光)
Ethidium bromide (ナカライテスク)
第 6 節 使用機器及び器具類
Qiaprep Spin Miniprep kit (QIAGEN)
恒温インキュベーター (YAMATO. IJ201)
ウォーターバス震盪機 (Taitec, personal-11; YAMATO, BW400)
ウォーターバス恒温槽 (Yamato, Thermo-Mate BF-200)
遺伝子導入装置 (サーモエレクトロン, セルジェクト Duo)
冷却遠心機 (久保田製作所, KR-18000, 7930; Eppendorf, Centrifuge 5415R)
アガロースゲル電気泳動装置 (コスモ・バイオ, Mupid-2)
デンシトメーター (アトー, AE-6900M)
SDS-PAGE 電気泳動装置 (BIO CRAFT)
Transfer box (Bioscience, Mighty Small Transfor, Amersham)
UV トランスイルミネーター (フナコシ, TM36)
蛍光マイクロプレートリーダー (BMG, Fluo star)
40
100 mm 滅菌シャーレ (イナ・オプティカ)
24 cm
24 cm Bio-assay dish (Nunc)
遠心チューブ (250ml; Greiner bio-one, 50 ml, 15 ml; QSP, 2.0 ml, 1.5 ml)
96 穴プレート (Iwaki)
第 2 節 実験方法
第 1 項 出芽酵母の培養
酵母細胞は YPDA 培地もしくは SC 培地で培養した。イムノブロット解析に
おいては、細胞を 24℃で振盪し対数増殖期まで培養後、37℃へ培養温度を上げ、
10 時間後まで振盪培養した。
第 2 項 出芽酵母の形質転換(40)
一晩培養した酵母細胞を液体培地 300ml に O.D.600=0.2 となるように希釈し、
振盪培養した。O.D.600=0.6-0.8 まで培養後、遠心により細胞を回収した。滅菌
水で洗浄後、1.5ml の 0.1M 酢酸リチウム/ TE に懸濁しコンピテントセルとした。
0.1μg のプラスミド DNA、10μg の 2mg/ml 変性サケ精子 DNA をコンピテン
トセル 50μl と混合し、500μl 酢酸リチウム/ TE / 50% PEG4000 を添加し、30
分間振盪した。56μl の DMSO を加え 15 分間振盪した後、遠心 15000rpm, 10
分(Centrifuge 5415 R (Eppendorf)を行い、細胞を回収した。細胞を 100μl の滅
41
菌水に懸濁し、選択培地に塗抹し、培養した。
第 3 項 SDS-PAGE
蛋白質懸濁液に対し 3 分の 1 の量の sample buffer (200mM Tris-HCl (pH6.8), 8%
SDS, 0.4% bromophenol blue, 40% glycerol. 10% mercaptpethanol)を加え、95℃で 5
分間熱処理した。これを 7.5% SDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動 (200V 1
時間)した。
第 4 項 イムノブロット法
100ng の蛋白質を含む量に対し 3 分の 1 の量の sample buffer を加え、95℃で
5 分間熱処理した。これを 7.5% SDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、
TE22 Mini Tank Transphor Unit (Amersham Bioscience 社)を用いて PVDF 膜
(MILLIPORE 社)に蛋白質を転写し、0.05% Tween20 を含む PBS (137mM NaCl,
2.7mM KCl, 4.3mM Na2HPO4, 1.4mM KH2PO4)に溶解した HA 抗体、LexA 抗体と
4℃で一昼夜反応させた。PVDF 膜を 0.05% Tween20 を含む PBS により室温で 40
分間洗浄後、0.05% PBS に溶解した HRP 結合抗マウス IgG 抗体と反応させた。
PVDF 膜を 0.05% Tween20 を含む PBS により室温で 40 分間洗浄後、5 分の 1 に
希釈した SuperSignal を反応させ、オーオラジオグラフィーにより検出した。
42
第 5 項 Yeast two-hybrid 法 (18-21)
(β-galactosidase assay)
プラスミド pSH18-34 を導入した EGY48 株に、相互作用を検討する蛋白質の
遺伝子を挿入した pEG202 及び pJG4-5 CmR を形質導入した。それぞれの株の
コロニーをグルコースを含む SC 液体培地で 30℃、一昼夜培養後、遠心して上
清を除き酵母細胞を回収した。滅菌蒸留水で洗浄後、ガラクトースを含む SC
液体培地で 30℃、4 時間培養し、O.D.600 値を測定した。酵母懸濁液 0.8ml を遠
心して酵母細胞を回収後、1ml の Z buffer (60mM Na2PO4・12H2O, 40mM Na2PO4・
2H2O, 10mM KCl, 1mM MgSO4・7 H2O, 50mM β-mercaptoethanol)、CHCl3 3 滴、0.1%
SDS 1 滴を加えて撹拌し、37℃で 5 分間インキュベートした。0.2ml の 4mg/ml
ONPG を加え、37℃で時間を測定しながらインキュベートした。サンプルの色
が黄色に変化した時、0.5ml の 1M Na2SO4 を加えて反応を停止させ、上清を回
収し、その O.D.420 値を測定した。吸光度と反応時間から、β-galactosidase 活性
を算出した。
β-galactosidase (unit):1000 x O.D.420 /( O.D.600 x V x t)
V =assay volume (0.8mL)
t =インキュベーションの経過時間 (分)
(ロイシン栄養要求性消失の検討)
プラスミド pSH18-34 を導入した EGY188 株に、相互作用を検討する蛋白質
43
の遺伝子を挿入した pEG202 及び pJG4-5 CmR を形質導入した。これらのプラ
スミドを導入した EGY188 株を滅菌蒸留水に懸濁後、O.D.600 値を 0.1 に調製し、
さらに 1/4 希釈を繰り返して O.D.600 値が 1, 0.25, 6.25x10-2, 1.57x10-2, 3.91x10-3,
9.77x10-4, 2.44x10-4, 6.10x10-5 の懸濁液を調製した。これをグルコースあるいはガ
ラクトースを含むロイシン欠損培地に滴下し、30℃で 3 日間培養し、増殖する
か否かを調べた。Orc5p、及び Orc5-Ap と Orc4p との相互作用の検討の際には、
プラスミド pSH18-34 を導入した EGY48 株に、pEG202 のみ、pEG202-ORC5、
pEG202-orc5-A 及び pJG4-5CmR のみ pJG4-5CmR-ORC1 -ORC6 を形質導入した。
これらのプラスミドを導入した EGY48 株を滅菌蒸留水に懸濁後、O.D.600 値を 10
に調製し、希釈を繰り返して O.D.600 値が 10, 5, 2.5, 1, 0.5, 0.1, 0.01, 0.001 の懸濁
液を調製した。これをグルコースあるいはガラクトースを含むロイシン欠損培
地に滴下し、30℃で 2 日間培養し、増殖するか否かを調べた。
第 6 項 免疫沈降法(41)
pJG4-5 CmR-ORC40(HA-Orc4p を発現)を含む EGY48 株に、pEG202、pEG202ORC50、pEG202-ORC50A(LexA-Orc5p,Orc5-Ap を発現)をそれぞれ導入した。導
入した株をグルコースを含む SC 培地で一昼夜培養後、細胞を回収した。次に、
ガラクトースを含む SC で O.D.600 値が 0.7 になるように調製し、4 時間培養し
た。細胞を回収し、600μl の Lysis buffer (50mM HEPEs/KOH (pH7.5), 0.14M NaCl,
1mM EDTA (pH8.0), 1% Triton X-100, 0.1% Sodium deoxycholate)と 500mg のガラ
スビーズ、complete EDTA-free protease inhibitor mixture (Roche)を加え激しく撹
44
拌、遠心し上清を回収し液体窒素中で凍結させた。40μl の Dynabeads ProteinG
(DYNAL)を Magical Trapper (TOYOBO)に吸着させながら、0.2mg/ml BSA を含む
PBS で洗浄した。その後、PBS を 500μl 加え、抗 HA 抗体 (12CA5)を 5μl 加
え、4℃で 1 時間インキュベートした。その後、再び Magical Trapper に吸着さ
せて BSA を含む PBS で Dynabeasds を洗浄後、溶解させた細胞懸濁液 200μl を
加え、4℃で 1 時間インキュベートした。Magical Trapper に吸着させて 500μl
の Lysis buffer で 2 回、500μl の Wash
buffer (0.1M Tris-HCl (pH8.0), 0.25M NaCl,
1mM 0.5M EDTA (pH8.0), 0.5% NP-40, 0.5% Sodium deoxycholate)で 2 回洗浄した。
これに、40μl の sample buffer を加え、熱処理後、SDS-PAGE、イムノブロット
法を行った。イムノブロット法では、1 次抗体として、抗 HA 抗体 (3F10) (Roche)、
抗 LexA 抗体(invitrogen)を、2 次抗体として、HRP 結合抗ラット IgG (Stressgen)、
HRP 結合抗ラビット IgG (Stressgen)を用い、前述したイムノブロット法の方法
に従った。
第 7 項 酵母ゲノムライブラリーの構築
酵母 W303-1A 株の染色体 DNA を抽出し、制限酵素 AfaI, AluI, HaeIII で切断
した。切断した DNA をショ糖密度勾配 (5-30%)で分画し、平均 1kbp の切断 DNA
を回収した。この切断 DNA を EcoRI methylase でメチル化し、末端に EcoRI linker
をつけた。これを EcoRI で切断後、Sepharose CL-4B column を用いて不要な DNA
断片を除いた。EcoRI で切断した pJG4-5CmR に DNA 断片を挿入し、大腸菌に
形質転換した。酵母ゲノムライブラリーサイズは 8.6
45
106 となった。
第 8 項 酵母ゲノムライブラリーのスクリーニング
EGY48 株に pSH18-34 と pEG202-ORC、pJG4-5CmR 酵母ゲノムライブラリー
を形質転換し、2-6
106 個の形質転換体を得た。この形質転換体をロイシンを
含まない SC 寒天培地に塗布して 1 次スクリ−ニングを行い、生育したものだ
けを 選 択した。選択したコロニーを 0.008% 5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-Dgalactopyranoside (X-gal)を含む培地に塗布し、同時にロイシンを含まない SC 寒
天培地にも塗布して 2 次スクリーニングを行った。ガラクトース依存的に X-gal
培地で青色を呈し、かつガラクトース依存的にロイシンを含まない SC 寒天培
地で生育したコロニーを選択した。このコロニーからプラスミドを回収し、塩
基配列を調べ、含まれている遺伝子を同定した。
46
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50
謝辞
本稿を終えるに当たり、本研究の機会を与えて頂き、終止御指導、ご鞭撻を
賜りました、熊本大学大学院医学薬学研究部薬学微生物学研究室の水島徹教授
に心から感謝致します。
本研究を行うに当たり、有益な御助言と御指導を賜りました横浜薬科大学健
康薬学科感染予防学研究室の鈴木啓太郎教授に深く感謝致します。
本論文作成に当たり、有益な御助言と御閲覧を賜りました熊本大学大学院医
学薬学研究部構造機能物理化学研究室の寺沢宏明教授、同研究部機能分子構造
解析学研究室の山縣ゆり子教授に深く感謝の意を表します。
実験を進めるにあたり、御指導、御助言を頂きました熊本大学大学院医学薬
学研究部創薬研究センターの牧瀬正樹講師に深く感謝致します。
様々な協力をして頂きました熊本大学大学院薬学教育部薬学微生物学研究室
の末安由拓修士、竹原正也修士、浅野帝太学士、松井菜々子学士に深く感謝致
します。
また、様々な面で協力して頂きました熊本大学大学院薬学教育部薬学微生物
学研究室の教室員の皆様に心より感謝致します。
2008 年 3 月
松田和也
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