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Title CTスキャナにおけるイノベーションI
Title Author Publisher Jtitle Abstract Genre URL Powered by TCPDF (www.tcpdf.org) CTスキャナにおけるイノベーションI : 業界の概況 八木橋, 彰(Yagihashi, Akira) 尤, 若安(Yu, Joann) 邢, 雅恵(Kei, Masae) 陳, 妍如(Chen, Yen-JuIshizuka, Kei) 石塚, 慧(Hamaoka, Yutaka) 濱岡, 豊 慶應義塾大学出版会 三田商学研究 (Mita business review). Vol.53, No.2 (2010. 6) ,p.149- 163 イノベーションはメーカーとユーザーなど多様な主体や制度が相互作用しながら発生,進化する という「共進化マーケティング」が提案されている(濱岡 1995,2004,2007b)。本研究ではこの観点からCT スキャナに注目し,1960年代以降の発展の経 緯を把握した。この結果,この産業では短い期間で分解密度の向上,スキャン速度の向上,その ためのスキャン方式の提案,ビーム配列の変更と多列化など,断続的,連続的イノベーションが 生じていることがわかった。さらに,リーダー企業が当初は入れ替わってきたが,その後のプレ イヤーは比較的安定していること,後発国であった日本が急速にキャッチアップし,国際競争力 を獲得してきたことが明 らかとなった。 Journal Article http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00234698-20100600 -0149 2010年 4 月13日掲載承認 三田商学研究 第53巻第 2 号 2010 年 6 月 CT スキャナにおけるイノベーション I ─業界の概況─ 八 木 橋 彰 尤 若 安 邢 雅 恵 陳 妍 如 石 塚 慧 濱 岡 豊 <要 約> イノベーションはメーカーとユーザーなど多様な主体や制度が相互作用しながら発生,進化 するという「共進化マーケティング」が提案されている(濱岡 1995,2004,2007b)。本研究で はこの観点から CT スキャナに注目し,1960年代以降の発展の経緯を把握した。この結果,こ の産業では短い期間で分解密度の向上,スキャン速度の向上,そのためのスキャン方式の提案, ビーム配列の変更と多列化など,断続的,連続的イノベーションが生じていることがわかった。 さらに,リーダー企業が当初は入れ替わってきたが,その後のプレイヤーは比較的安定してい ること,後発国であった日本が急速にキャッチアップし,国際競争力を獲得してきたことが明 らかとなった。 <キーワード> イノベーション,CT スキャナ,事例研究 がイノベーションの源泉となることが示されてき 1.はじめに た(Shah 2000; Luthje 2000; Franke and Shah 2003)。このようにユーザー「企業」からスポーツ, 企業がいかにイノベーションを製品,市場成果 さらにオープンソース・ソフトウエア・プロジェ につなぐかという観点から「技術マネジメント」 クト(濱岡 2007a)などへと研究対象は広がって においては,主に企業の視点からイノベーション いる。このようにユーザーが重要な役割を果たす の創造が論議されてきた。von Hippel(1988)は, こ と が 指 摘 さ れ て い る。 さ ら に,Chesbrough パワーショベルなどの業界ではサプライヤー企業, (2003)は,人材の流動化,技術変化の激しさ, 科学計測器などではユーザー 「企業や大学の教員」 ベンチャーキャピタルや大学など外部で利用可能 がイノベーションの源泉となることが多いことを な資源の蓄積などを踏まえて,外部の資源と内部 体系的に示した。そして,イノベーションの源泉 の資源を結びつける「オープン・イノベーション」 となるユーザーを「リードユーザー lead user」 が重要となることを提案している。このように企 と名付けた。その後,スポーツを中心とした消費 業の内部だけでなく外部と共同することが重要で 財の領域においてユーザーやライフスタイル企業 あることが指摘されている。一方,これらミクロ 三 田 商 学 研 究 な観点からの研究ではなく,国の産業競争力の比 のソフトウエアも重要であり,ハードウエアとソ 較というマクロな観点からは,企業のみならず, フトウエアというレベルでの共進化という観点か 大 学, 法 体 制, 人 々 の 価 値 観 な ど 様 々 な 制 度 らも興味深い対象である。 institution が相互作用することによって,競争力 また,英国で発明され,EMI によって商品化 の差異が生じるという National innovation system されたが,米国の GE が参入し,EMI が退出する と い う 視 点 も 提 示 さ れ て い る(Freeman 1987; 一方で,日本の東芝などが国際競争力を高めてき Lundvall 1992; Nelson 1993)。 た。このように日本の競争力のある産業である一 方,これらメーカーだけでなく,医師との共同開 これに関して筆者の一人は,創造しコミュニケ 発も活発に行われており,産学連携やユーザーイ ーションする消費者「アクティブ・コンシューマ」 ノベーション研究からも重要な分野である。さら と企業,政府・自治体,さらにはそれを構成する に,CT スキャナの原理は変わらないものの,ヘ 組織,戦略などが相互作用しながら進化するとい リカルスキャン,マルチスキャンといった技術的 う「共進化マーケティング」を提案した(濱岡 なイノベーションも短い期間で生じている。この 1995,2004,2007b)。本研究は,この共進化と ような CT スキャナについて厚い記述(Geertz, いう観点から CT スキャナという1970年代以降導 1973, ch. 1)によって,深い理解を行う予定である。 入されたイノベーションについて,その原理の発 本稿ではその端緒として先行研究をレビューし, 明から現在に至るまでのプロセスを追跡すること 技術や業界を概観する。なお巻末に年表をまとめ によって,いかにしてイノベーションが発生,普 たので併せて参照されたい。 及,さらなるイノベーションにつながっていくの かを明らかにすることを企図している。 濱岡(1995)は共進化マーケティングの研究の 2.研究対象としての CT スキャナ 方法として,「理論」 「歴史」「統計」「シミュレー 事例研究に先だって,CT スキャナを対象とし ション」の統合を提案している。歴史の研究につ た経済学,経営学の研究についてレビューしてお いては,比較的定性的になりがちである。例えば く。 沼上(1999)は,液晶と液晶ディスプレイについ て1888年の発明から1990年代までの発明,製品化 Trajtenberg(1989, 1990a, 1990b)は,CT スキ の軌跡を文献およびインタビュー調査によって追 ャナを分析対象とし,プロダクトイノベーション 跡した。ただし,特許や文献の数については時系 の価値を推定している。彼が CT スキャナを分析 列で集計する程度である。これに対して,近年は 対象として選んだのは,医療分野における重要な 特許データによって,イノベーションの財務的な イノベーションであり,撮影速度,密度など,属 価値の推定(Trajtenberg 1990b),社会ネットワ 性が明確に定義されているからであるという。イ ークにおける位置と創造性との関係の分析 ノベーションの価値を推定するための手法を開発, (Fleming et al. 2007),テキストマイニングの適 推定し,R&D 支出との関係を分析した。 用(安藤 2009)といった,理論的,実証的にも より進んだ方法論が用いられるようになっている。 Barley(1986)は経営学の観点から,イノベー ションが導入されたときに組織がどのように反応, CT スキャナ自体,後述するように物理学上の 変化するかを分析している。CT スキャナが導入 発見を医療に応用したものであり,理学,工学, された2つの病院において長期的な参与観察を行 医 学 な ど の 領 域 に 渡 る。 ま た,Gelijns and うことによって,初めは CT スキャナの操作に長 Rosenberg(1999)が指摘するように,ユーザー けた技術者 technologist が優位に立っていたが, は医者もしくは放射線技術者という極めて専門知 診療経験を蓄積することによって放射線医 識のレベルが高い者である。さらに,検出器とい radiologist に知識が蓄積され,優位になっていく うハードウエアのみでなく,それを処理するため ことを見いだしている。また2つの病院を比較す CT スキャナにおけるイノベーション I ることによって,権限が集中していない組織の方 Siemens, Phillips,日本は日立,東芝がメジャー が,このような移行が速く進むことを明らかにし なプレイヤーであり,これは1950年代から変わら ている。彼らの研究は,これらの事実を明らかに ないことを見いだした。さらに,医療診断機器の しているが,そのメカニズムなどについての考察 イノベーションについては,米欧では大学の下に は行われていない。Black et al.(2004)は,この ある academic medical center が重要な役割を果 研究に基づいて,プロセスを概念モデルとして提 たしたが日本ではそうではないことを指摘してい 案している。 る。これについて,米国ではライフサイエンス, バイオの研究に巨費が投入されたことが一因であ CT スキャナを世界で初めて発売した英国 EMI るとしている。また,医療診断機器の中でも超音 は,数年は優位であったものの,6年後には市場 波診断機器は欧州,CT は近年では日本が強くな から退出した。Teece(1986)は初めて製品を投 っていることなど国によって競争力が異なること 入したイノベータと,その後導入したフォローア を指摘した。これは,発生する病気の違いによっ が,その後,競争優位を長期的に構築したかしな て必要とされる診断機器が異なること,医療行動 いかによって4つに区分し,その原因を比較して の違い,知的所有権の違いなどを含めた national いる。CT スキャナはイノベータが失敗した例の innovation system の違いによると指摘している。 1つであり,テフロンを初めて投入したデュポン このように経済学,経営学の観点から CT スキ はイノベータが成功した例の1つである。このよ ャナそのものを対象とした研究は少ないものの, うな差が生じる原因として彼は,イノベーション 組織論,(技術)戦略論などの観点からも極めて の専有性 appropriability が重要であることを指摘 興味深い対象である。以下では,CT スキャナに している。つまり,化学物質などのように特許に ついて,技術的な発展,市場の動向を概観する。 よって保護できる場合には,それを先行して導入 さらに日本における CT スキャナ業界の主要なプ することが有利になるのに対して,保護しにくい レイヤーとして,主要なメーカーについてまとめ 場合には,フォローアの方がイノベータの行動か る。 ら学習し,よりよい戦略をとることができるとい 1) うのである。 3.CT スキャナとは CT スキャナは1975年の投入から短い期間で第 1) CT スキャナの原理 4 世 代 と い わ れ る ま で 進 化 し た。Lynn et al. CT(Computed Tomography,コンピュータ断 (1996)は,非連続的(discontinuous)イノベーシ 層撮影)はコンピュータ処理で,物体の内部画像 ョンの例として,CT スキャナ,携帯電話,光フ を構成する医用画像技術のことである。CT スキ ァイバーの長期的な事例研究を行った。連続的イ ャナは,それを行う機器のことを指す。基本原理 ノベーションの開発では顧客へのインタビューな は,デジタル幾何学プロセッシングを利用し,連 どが用いられる。非連続的イノベーションについ 続な2次元の X 線線源を単一の回転軸に沿って ては,顧客も理解していないために無効であり, 回転させることによって,物体内部の3次元映像 GE が行ったように,製品を発売してそこから生 を撮ることである。広義の CT は,核磁気共鳴画 じたことを学び改善していくという probing and 像法(MRI),ポジトロン断層法(PET)や単一光 learning が重要であることを指摘している。 子放射断層撮影(SPECT)など,コンピュータプ ロセッシングで断面像を得る各種検査法の総称で これらはミクロな観点からの分析だが,Gelijns ある。現在,CT は主に臨床検査の手段として広 and Rosenberg(1999) は MRI,CT ス キ ャ ナ な く用いられているほか,非破壊検査にも欠かせな どの医療診断機器について,日米欧の産業比較を 行った。発明からの展開を概観することによって, CT ス キ ャ ナ に つ い て, 米 国 は GE, 欧 州 は 1) この節については 、(Trajtenberg 1990b, ch. 1; 河野 1999;粟井 2000; 岡 2002)を参照した。 三 田 商 い方法の1つである。 学 研 究 of Applied Physics にて1963年と1964年に発表した 論文である。彼らは1979年のノーベル医学生理学 2) CT スキャナの歴史 賞を共に受賞した。 1900年代初期,イタリアの放射線科医 Alessandro 日本では,1975年に EMI によって開発された Vallebona が人体の断面を放射線用フィルムに現 頭部用スキャナが東京女子医科大学に設置された。 像する方法を発表した。しかし,この方法は当時 それ以降37台の CT スキャナが設置され,日本国 の技術にとっては非常に複雑であったため,1970 内の CT スキャナの開発が活発に行われてきてい 年代頃 CT スキャナが発明されるまで,この技術 る。 は普遍的に使用されていなかった。断層撮影が放 射線診断医学を支える柱になるきっかけは,1972 3) CT スキャナの技術発展(表1) 年に Thorn EMI 中央研究所で英国人の Godfrey 第1世代 CT は細くコリメートされた X 線を用 Hounsfield が最初の商業的な CT スキャナを発明 いている。1 刻みに回転をし,180 繰り返して したことである。 投影データを収集する。マトリクスは80×80であ 彼は,1967年 CT スキャナについてのアイデア り,スキャン時間は4分30秒ほどであった。 を考え出し,1972年に英国の Hayes にある EMI 第2世代 CT は3 ∼15 のナロー・ファンビー の中央研究所(Central Research Laboratories)で ム(扇状でやや広い角度で照射された X 線)を 世界初の X 線 CT スキャナを開発した。また,彼 用いる。これはその名のとおりビームを扇形に投 が開発の際に用いた理論はマサチューセッツ州の 影する。投影データのサンプリング角度は X 線 タフツ大学の Allan MacLeod Cormack が Journal のファン角や検出器の数によって変化する。スキ 表1 X 線 CT スキャナ技術革新の歩み 世代 技術の革新 ・細くコリメートされた X 線(ペンシルビーム)を用いる。 第1世代 CT T/R ・1回の投影データを収集後1 刻みに回転をし180 繰り返して投影デー 〈Translate(水平動作) / タを収集する。 Rotate(角度1 移動) 〉 ・マトリクス80×80,スキャン時間4分30秒。 第2世代 CT T/R ・ 3 ∼15 のナロー・ファンビームを用いる。 〈Translate(水平動作) / ・投影データのサンプリング角度は X 線のファン角や検出器の数で決まる。 Rotate(角度1 移動) 〉 ・スキャン時間が10秒台になり全身用 CT はこの方式で行われた。 ・ファンビームを用いる。X 線ファン角30 ∼40 。 ・ X 線管球と検出器が同時に回転をして投影データを得る。 第3世代 CT T/T ・検出器の数700∼1000個。 〈Translate(水平動作) / ・サンプリング数 700∼1000。回転検出器のバラつきによるアーチファ Translate(水平動作)〉 クトが起きやすい。 ・連続 X 線とパルス X 線方式がある。 ・ファンビームを用いる。X 線のファン角30 ∼50 。 第4世代 CT S/R ・円周上に固定された検出器の中を X 線管球が回転する。 〈Stationary/Rotate(角度1 ・検出器の数1000∼2000個。 移動) 〉 ・検出器のバラつきによるアーチファクトが起きにくく,検出器からの 信号が安定している。 ・基本構造は第4世代と同じで管球が検出器の外側を回転する。 新第4世代 CT N/R ・検出器のリング径を小さくでき,より高い空間分解能が得られる。 (Nutate(章動:地軸の振動) ・散乱線の影響を受けやすい。 / Rotate(角度1 移動)〉 ・検出器が歳差運動をする。 第5世代 CT ・X 線の発生系,データの収集系を機械的に行わずに電子制御で行うもの。 〈Electron Beam Tomography: ・50msec の超高速スキャンが可能なため,循環器系の撮影に適している。 電子ビーム偏向型〉 出所) 埼玉 Computed Imaging 研究会ホームページより作成。 http://members.jcom.home.ne.jp/ci-ken/ct-kisokouza.htm CT スキャナにおけるイノベーション I ャン時間が10秒台にまで縮まり,全身用 CT とし 来の撮影方法を用いるのが一般的である。 て使用された。 第3世代 CT では X 線管球と検出器が同時に回 5) 多列検出器 CT(MDCT) 転をして投影データを得る。X 線ファン角は30 ヘリカル CT よりも後に実用化されたもので, ∼40 で,検出器は700∼1000個である。サンプ ファンビームを照射し,検出器を対軸方向に一定 リング数は700∼1000で,回転検出器のバラつき 間隔(例えば0.5mm)刻みで分割する方式を採用 によるアーチファクトが起きやすいという問題を したものである。1回の線源の回転で従来よりも 抱えている。連続X線とパルスX線の2方式が存 より広い範囲を撮影することができる。わずかな 在する。 がら傾いた方向から X 線が入射されるため,X 線 第4世代 CT は円周上に固定された検出器の中 と移動軸は垂直ではない。そのため,検出と処理 を X 線管球が回転するタイプで,X 線のファン角 を行うデータはさらに複雑となる。2007年の時点 が30 ∼50 ,検出器が1000∼2000個内蔵されて で検出器を64列に分割した64列 CT が各社から製 いる。検出器のバラつきによるアーチファクトが 品化されており,320列 CT もすでに存在する。 起きにくいよう改良されており,検出器からの信 メーカーによって名称にバリエーションがあり, 号は以前よりも安定している。 マルチスライス CT(MSCT)とも呼ばれる。 第5世代 CT は X 線の発生系やデータの収集系 を電子制御で行う。つまり,スキャン時間を短縮 するため X 線管を回転する機械的な動きをなくし, 4.CT スキャナ業界の動向 X 線ビームを電子ビームの回転によって制御する。 本節では,CT スキャナの業界の動向について そのため,50∼100msec の超高速スキャンが可能 述べる。そのために,CT スキャナに関する業界 となり,動きのある循環器系の撮影にも適してい 全体の売上金額の推移,国際競争力,および業界 る。 における市場シェアの観点から考察を行う。なお, これらに関するデータおよび資料は,矢野経済研 4) ヘリカル CT 究所が毎年発行している『日本マーケットシェア 線源の1回転を撮影単位の基本とする従来の断 辞典』,『2008∼2009年版機能別 ME 機器市場の 層画像は,細かく寝台を動かしながら撮影を繰り 中期予測とメーカーシェア(診断機器編)』を参 返す必要があるため,長い撮影時間とアーチファ 照した。 クトが発生しやすいという2つの問題を抱えてい た。そこに注目して改良を進めた結果誕生したの 1) CT スキャナの業界の売上金額 が,寝台を一定の速度で動かしながら線源を回転 まず, CT スキャナの業界全体を把握するために, させ続ける撮影方式を用いたヘリカル CT(らせ CT スキャナの売上の動向を調査した(図1)。な ん CT・スパイラル CT)である。 お,矢野経済研究所が毎年発行している『日本マ 骨周辺などで特有のノイズが出るなどの注意点 ーケットシェア辞典』では,CT スキャナ単体で もあるが,全体的に見れば,撮影時間の短縮や, 調査が開始されたのは1985年が最初である。それ 一度の息止めで広範囲の撮影を実現するなど,旧 以前は,画像診断機器という項目で,CT スキャ 型からの改良によって得られたメリットは大きい。 ナだけでなく MRI なども混合して計算されてい 当初の懸念であったより複雑なデータ処理アルゴ たため,調査対象から除外する。 リズムも,進歩したコンピュータの解析技術で問 図1の売上金額は国内の売上をベースとしたも 2) 題なく処理することができる。しかし,画質に関 してはやはり従来の1スライスごとに寝台を移動 させる方式(コンベンショナルスキャン・クラス タースキャン)の方が優れているため,微妙なコ ントラスト差の判別が要求される脳画像では,従 2) 1986年と1988年に関しては,業界全体として の動向は記述されていたが,具体的な売上や市 場シェアの記載はないため,この年度に関して も調査は行っていない。 三 田 商 学 研 究 図1 CT スキャナの業界全体の売上 (億ドル) 700 650 600 550 500 450 400 350 (年) 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1987 1985 300 出所) 矢野経済研究所(1984∼2009) 『日本マーケットシェア辞典』矢野経済研究所,医療機器および装置の 企業別シェアを参照し,それをグラフ化したものである。 のであり,海外のものは含まれていない。 トシェア辞典』によれば,買換えの終息,政府か この売上の動向を見るといくつか急激な落ち込 らの医療費削減の要請,世界同時不況などの余波 み,あるいは回復がある。まず,1990年を境に が少しずつ浸透しているためだと述べられている。 1994年まで売上の急激な落ち込みが見られる。こ このように,売上高の増減は,日本全体の景気 れは日本が経済不況に突入し,設備投資の削減を の動向,医療制度の要因,製品の革新による買換 強いられたためだと考えられる。1995年になると えの要因が相互に関わっている。 急激に売上が伸びている。1997年度版の『日本マ ーケットシェア辞典』によると,1995年に突入す 2) 国際競争力 ると,デジタル化した製品が普及し始め,それに 前項では国内の金額ベースの動向であったが, よる買換えが生じたためだとされている。また, 次に国際的な視点から見た場合の日本の競争力を 大病院や大学病院だけでなく,中小の病院,ある 考える。まず,図2は,CT スキャナの国内マー いは個人診療所にも普及し始めた時期であり,設 ケットにおける国産品と輸入品の割合である。 備の面で大幅に進歩した時期でもある。その後比 この図を見ると年代が進むにつれ,国産品と輸 較的安定した売上が継続した。 入品の割合の差が縮小し,国内の製品が海外の製 2005年から2006年にかけても売上高が伸びてい 品に劣っているかのように見える。一方で,図3 る。『2008∼2009年版機能別 ME 機器市場の中期 に示すように,国内で生産された製品の6割以上 予測とメーカーシェア(診断機器編) 』によれば, が輸出されており,国際競争力があることがわか 2006年4月の診療報酬の改定により,単純 CT 撮 る。テクノリサーチ研究所(2002)によれば,医 影でマルチスライス型の点数850点が新たに新設 療用具・装置全体について見ると,輸出の割合は された。これにより,マルチスライス型 CT の買 約13%,輸入の割合が全体の約30%である。これ 換え需要の増加,さらに同じマルチスライス型 に対して,CT スキャナについては,輸出が約50%, CT でも,16列から64列への買換えが生じたため 輸入が約15%であり,他の医療用具・装置に比べ である。 ると高い割合で輸出されている。このように,日 それ以降の2007年,および2008年の下落は, 本で生産された CT の約半分以上は海外に輸出さ 2008年度版,および2009年度版の『日本マーケッ れており,近年ではその割合も高まっていること CT スキャナにおけるイノベーション I 図2 国内における CT スキャナの国産品・輸入品の割合 国産品 (年) 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 輸入品 1992 1991 (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 出所) 矢野経済研究所(2009) 『2008∼2009年版機能別 ME 機器市場の中期予測とメーカーシェア(診断 機器編) 』矢野経済研究所,24頁のデータをグラフ化したものである。 図3 国内の生産高に対する輸出高の割合 (%) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007(年) 出所) 矢野経済研究所(2009)『2008∼2009年版機能別 ME 機器市場の中期予測とメーカーシェア(診断 機器編) 』矢野経済研究所,22頁のデータをグラフ化したものである。 から,かなりの国際競争力を持っていると判断で 金額ベースで見た場合,調査が開始された1985 きる。 年から1990年代前半までは,東芝メディカルシス テムズ,GE 横河メディカルシステム,日立メデ 3) 市場シェア ィコ,島津製作所が上位4社であった。1990年代 CT の市場シェアは図4,表2のように推移し に入り,シーメンス旭メディテックが日立メディ ている。なお,この市場シェアは国内の売上高を コや島津製作所と3位争いを演じるようになった。 ベースとしている。 一方で東芝メディカルシステムズと GE 横河メデ 三 田 商 学 研 究 図4 CT スキャナにおける市場シェアの推移 (%) 50 東芝メディカルシステムズ 40 GE横河メディカルシステム 30 シーメンス旭メディテック 20 日立メディコ 10 島津製作所 0 その他 1985 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007(年) 出所) 矢野経済研究所(1984∼2009) 『日本マーケットシェア辞典』矢野経済研究所,医療機器および装置の 企業別シェアを参照し,それをグラフ化したものである。 ィカルシステムは,1位,2位を維持している。 顧客に向けて製品を展開している。そのため,販 2000年以降は,東芝メディカルシステムズ, 売台数から見た場合でもこの2社は1位と2位を GE 横河メディカルシステム,シーメンス旭メデ 占めている。 ィテックの上位3社で80%以上のシェアを占めて 2000年代に入り,シーメンス旭メディテックが いる。 「その他」のシェアも約10%となっているが, 台頭しているが,主に High−end クラスの製品を その中に以前上位であった,日立メディコや島津 展開している。販売台数は少ないが,売上金額が 製作所が含まれていると考えられる。 伸びたため,現在は市場シェア3位を維持してい ただし各社の販売戦略別は異なっている。東芝 る。 メディカルシステムズと GE 横河メディカルシス なお,矢野経済研究所(2009)によれば,2008 テムは High−end から Low−end にまでのフルラ 年の CT スキャナの販売単価は6500万円であった。 インでの製品を展開している。つまり,大病院や それに対し,東芝メディカルシステムズ,GE 横 大学病院,あるいは中小の病院といったあらゆる 河メディカルシステムの単価は,ともに約3700万 3) 4) 円である。これに対して,日立メディコは,Lowend の戦略をとっており,販売単価は約2000万円 3) 市場シェアに関して1994年度までは,上位4 社まで具体的な企業名が掲載されていたが,そ れ以降は上位3社までとなっているため不明な 点も多い。 4) High-end とは最新の技術を最大限に利用し, 高機能・高性能を追求した製品である。そのた め,最も性能が高く,価格も高くなる。一方, Low-end とは,低価格製品(今回の場合は CT スキャナ)である。機能や性能は High-end の 製品に劣るが,一般的な業務には支障のない性 能を保持しているため,素人から見た場合, High-end との違いが見分けにくい製品も存在 する。 であった。ただし,販売台数は,シーメンス旭メ ディテックを上回り3位である。 5.日本における主要なプレイヤー この節では日本における CT スキャナの主要メ ーカー2社の概要を把握する。 5) 1) 東芝メディカルシステムズ株式会 社 東芝メディカルシステムズ株式会社は1948年に 設立された,東芝グループに属する医療機器メー CT スキャナにおけるイノベーション I 表2 CT スキャナの市場シェアの推移 年度 1985 1987 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 1位(企業名) 41.3(東芝) 44.5(東芝) 48.0(東芝) 45.9(東芝) 38.9(東芝) 33.8(東芝) 40.0(東芝) 40.1(横河) 37.2(東芝) 43.3(東芝) 44.0(東芝) 45.0(東芝) 44.5(東芝) 45.7(東芝) 46.8(東芝) 49.1(東芝) 42.3(東芝) 43.1(東芝) 42.6(東芝) 40.3(東芝) 43.9(東芝) 43.5(東芝) 2位(企業名) 27.1(横河) 24.9(横河) 27.6(横河) 28.5(横河) 29.4(横河) 31.8(横河) 28.2(横河) 39.5(東芝) 32.9(横河) 28.2(横河) 28.3(横河) 26.2(横河) 30.8(横河) 32.3(横河) 30.9(横河) 26.8(横河) 25.4(横河) 24.3(横河) 24.0(横河) 26.4(横河) 24.4(横河) 24.6(横河) 3位(企業名) 21.6(日立) 12.0(日立) 13.9(日立) 13.2(日立) 19.3(日立) 15.9(日立) 10.2(シーメンス) 13.0(日立) 13.0(シーメンス) 9.9(シーメンス) 8.4(日立) 9.8(島津) 7.2(日立) 7.9(日立) 8.6(シーメンス) 10.7(シーメンス) 18.0(シーメンス) 19.5(シーメンス) 21.2(シーメンス) 17.5(シーメンス) 18.9(シーメンス) 18.3(シーメンス) (%) 4位(企業名) 6.4(島津) 4.7(島津) 9.0(島津) 9.9(島津) 9.3(島津) 9.8(島津) 10.0(日立) 5.2(島津) 17.0(その他) 18.6(その他) 19.3(その他) 19.0(その他) 17.4(その他) 14.1(その他) 13.7(その他) 13.4(その他) 14.3(その他) 13.1(その他) 12.2(その他) 15.8(その他) 12.8(その他) 13.6(その他) 注) 企業名については,以下のように省略して表記した。 東芝:東芝メディカルシステムズ,横河:GE 横河メディカルシステム,シーメンス:シーメンス旭メディ テック,日立:日立メディコ,島津:島津製作所 出所) 矢野経済研究所(1986 ∼ 2009)『日本マーケットシェア辞典』矢野経済研究所,医療機器および装置の 企業別シェアより作成。 カーである。主要な事業内容は医用機器の製造・ (英)と販売契約を結び,日本での販売を開始し, 販売および技術サービスなどである。X 線 CT 装 東京女子医大に CT 装置を納入した。これは日本 置などの医用機器分野では,数多くの医療機器を で初めて稼動した CT となる。その後,1976年に 展開しており,世界的にも大きな市場シェアを占 CT プロジェクトチームを発足させ,1978年に日 めている。 本初の全身用 CT スキャナを開発した。さらに 1985年に世界初のスリップリング連続回転 CT ス 1975年に同社は,CT 装置を製品化した EMI 社 キャナを完成した。このように,様々な CT 技術 を自社で開発し,最先端技術の開発に力を入れ, 5) この節については下記を参照して作成した。 東芝メディカルシステムズ株式会社ホームページ http://www.toshiba-medical.co.jp/tmd/index. html 先端医療の情報提供サイト http://www.medi-ka.com/ 医用画像電子博物館 http://www.jira-net.or.jp/vm/ 日経産業新聞 http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ 世界の CT 技術の先駆け的存在となった。 また,1986年から,藤田保健衛生大学医学部放 射線医学教室片田和広教授と共同開発を開始し, スキャン時間の高速化,画像の精細度の向上や, より薄いスキャン幅の実現など,医療現場からの 要求を満たした製品を次々と送り出した(日本経 済新聞デジタルメディア,2008) 。 1990年には世界初のヘリカルスキャン,1995年 三 田 商 学 研 究 には世界初の画像を動画としてリアルタイムに表 会社(YMS)が設立された。その後,1994年に 示できる「リアルテクノロジー」を開発した。 社名を GE 横河メディカルシステム株式会社に変 更した。外資系画像診断装置メーカーとして唯一, 近年は低被ばく CT の開発を進め,量子ノイズ 国内で CT(全身用コンピュータ断層撮影装置), 低減ソフトウエア,X 線モジュレーション技術や MR(磁気共鳴断層撮影装置),US(超音波診断 スキャンプランシミュレータなどの被ばく低減技 装置)およびプローブの開発・製造を行っている。 術を CT 装置に実装している。2005年に世界初のガ ントリー移動スキャン方式 PET-CT 装置「Aquiduo」 同社は2004年4月,英アマシャムを買収,ブラ の販売を開始し,2007年に革新的な機能を持つ320 ンド名を「GE ヘルスケア」に変更した。さらに 列エリアディテクター CT 装置「Aquilion ONE」 2009年8月には,バイオテクノロジー研究領域や を発表した。 創薬分野における最新鋭のノウハウを持つ GE ヘ ルスケアバイオサイエンス株式会社と統合し,社 最新機種の Aquilion ONE には,撮影幅を160mm 名を GE ヘルスケア・ジャパン株式会社と改称し とした320列のエリアディテクターが装備され, た。 1回転で臓器全体をカバーできるようになった。 連続回転撮影によってボリュームの動態観察とい 同社は CT 分野において,1975年に世界初オー う新たなイメージング診断ができるようになった。 プン架台 R-R 方式 CT を発表した。これは後年世 このシステムに対応して,検出器・データ収集装 界標準として普及した。1982年には全身用コンピ 置の容量向上やガントリの改良を行い,再構成エ ュータ断層撮影装置 CT8600を自社開発し発売し ンジンやアプリケーションソフトウエアも新たに た。さらに1998年には,世界初の4列マルチスラ 開発した。このように製品イノベーションに積極 イス CT を発売した。このように最先端の技術を 的に取り組んでいる。その結果,医療機器の製造 持ち,世界をリードすることによって,同社は日 販売では日本1位で,国内の CT シェアは40%強 本国内市場においても大きなシェアを占めている。 に達している。国外では,2009年に初めて GE, 一方,同社は常にユーザーの声に耳を傾け,それ シーメンス,フィリップスの3強を破って,シェ を反映した CT を開発し,ユーザーから大きな評 ア3位の24.5%を占めた。 価も得ている。例えば,2004年に発表した1回転 で64断面撮影可能な CT「LightSpeed VCT」がそ なお,同社の特許出願状況を見ると,医用画像 の一つである。 診断装置分野で,1995年頃に最も特許出願が多い のは超音波診断装置であった。しかし,1997年以 LightSpeed VCT の大きな特長としては,5心 降の出願数は全モダリティについて横ばいになっ 拍で心臓全体,ウィリス輪領域を1回転,全身を ている (テクノリサーチ研究所 2002)。したがって, 10秒以下,1秒で1臓器を撮影できることなどが 特定の分野に注力しているのではなく,全モダリ 挙げられる。同社はこの他,シングルから32列ま ティに均等に注力していると考えられる。 6) 2) GE 横河メディカルシステム 1982年,GE(ゼネラル・エレクトリック)と 株式会社横河電機製作所(現・横河電機株式会社) の合資会社として,横河メディカルシステム株式 6) この節は下記を参照して作成した。 GE 横河メディカルシステム株式会社ホームペー ジ http://japan.gehealthcare.com/cwcjapan/ static/index.html General Electric Company ホ ー ム ペ ー ジ「GE の新ビジネス戦略」 http://www.ge.com/jp/ docs/3031068_1242092640_healthyimagiation_ japn.pdf 日経 NET,プレスリリース, 「GE 横河メディ カルシステム,500スライス相当の4D 撮影が可 能な次世代マルチスライス CT を発売」http:// health.nikkei.co.jp/release/dr ug/index. cfm?i=2009051302729j5 CT スキャナにおけるイノベーション I での各種クラス製品も展開している。2008年10月 には1スライスごと分解能の飛躍的な向上を図り, 不安定狭心症リスクの早期診断と的確な治療方法 の選定や慢性閉塞症肺疾患の早期診断を可能にす る次世代 CT 技術「HDCT テクノロジー」を搭載 した「CT750HD」も発売した。 現在の最先端技術は,30cm 以上の広範囲を500 スライス相当の4D(3次元+時間)撮影が可能 なマルチスライス CT(LightSpeed VCT VISION) である。従来,頭部用 CT は1枚撮影するのに数 分かかっていた。1970年代後半から1980年代にか けては,2次元の全身用 CT は1枚10秒かかった。 1990年代には,3次元のヘリカル CT は1枚1秒 で撮影ができるようになった。2000年代に入ると, MDCT で 1 回 の 撮 影 で 4 枚, さ ら に 現 在 で は 30cm 以上の広範囲にわたる500スライス相当の 4D 撮影を可能とした。密度分解能を従来に比べ て40%向上することで高画質な画像が得られる。 さらに,従来と比較して50%の被ばく量削減が可 能ということから,患者の検査に対する様々な負 担を軽減することができる。 6.まとめと今後の課題 本稿では CT スキャナを長期的に記述する研究 の端緒として,先行研究のレビュー,技術および 業界を概観した。ここに示したように,この産業 では短い期間でイノベーションが発生しているこ と,後発国であった日本が急速にキャッチアップ してきたことなどが明らかとなった。 今後,医者というユーザーとの共同開発につい ての事例研究,特許データを用いた定量的な分析 を行い,イノベーションの発生,普及プロセスを 明らかにする予定である。 参 考 文 献 Barley, Stephen R.(1986) ,“Technology as an Occasion for Str ucturing: Evidence fr om Obser vations of CT Scanners and the Social Order of Radiology Departments,”Administrative Science Quarterly, 31(1) , 78−108. 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