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ケーススタディ
シーメンスにおける大改革
ミッシェル・R・ボイシャー、グレゴリー・J・ミルマン
各種の投資会社団体からの圧力を受け、エレクトロニクスとエンジニアリング
の巨大企業は、自社の財務情報・報告システムの全面的な見直しに踏み切り、
さらにはニューヨーク証券取引所に上場した。これらはすべて、わずか2年間
の出来事だ。
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1990年代後半は、シーメンスにとって厳しい時代だった
東南アジアの経済危機、重要なロシア市場の混乱、そして事業運営の各種の問
題によって、150年の歴史を持つ世界的なエレクトロニクスとエンジニアリングの
巨大企業は、40億ドイツマルク(18億米ドル)の費用をかけて、変革のための10
ポイント・プログラムを推進することを決意した。しかし、アナリストたちは懐疑的
であった。キャッシュフローは減退していた上、景気動向はスキーのゲレンデのよ
うに下り坂だったのだ。
ミュンヘンに本社を置くシーメンスは、同社の財務健全性について金融マーケット
に安心感を与える必要があったのだが、現実はタイムリーに質の高い財務情報を
提供できなかったことにより、投資家たちの信頼喪失を招いたことは明白だった。
「財務報告のスピードと透明性が、投資家にとってのシーメンスの魅力であり、資
本コストにも影響する」と、シーメンスの財務部で情報システム管理責任者を務め
るヘルマン・ギールは説明する。
シーメンスはニつの大がかりなイニシアティブにより、株主価値の維持・拡大とい
うニーズに応えた。それは、同社の財務情報・報告システムの全面的改革と、世
界で最も重要な証券市場であるニューヨーク証券取引所への上場である。16種
類の事業体と190か国以上に跨る1,200の完全連結子会社を通じて事業展開して
いる770億ドル規模の会社にとって、この改革はどちらか一つだけでも非常に困
難なものであった。だがシーメンスは、同時に両方の改革に取り組むことを決意
した。そして、何とわずか2年後には成功したのである。
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グローバルな資本移動やリアルタイム
企業プロフィール:
シーメンス
本社:ドイツ・ミュンヘン
代表取締役社長 兼 最高経営責任者:
どうしようもない違い
の越境取引の時代にあっても、ニュー
ヨーク証券取引所は相変わらず資本の
シーメンスの規模、そのグローバル・
中心地である。ニューヨーク証券取引
プレゼンス、そして事業の多様性を考
所への上場は企業にとっての威信とな
えると、同社の財務成績の評価・報告
るだけでなく、決済のコストが低く、流
方法を変更すれば−特にニつの国の異
Dr. ハインリッヒ・フォン・ピーラー
動的で効率的にアクセスできる市場で
なる会計慣行の調整を伴う場合には−
社員数:484,000人
もある。だがその国際的重要性にもか
難題が生じざるを得なかった。例えば、
業種:情報通信、オートメーション&
かわらず、ニューヨーク証券取引所は米
ドイツの慣行では、大規模な長期的プ
コントロール、エネルギー、運輸、医療
国の機関であり、紛れもなく米証券取
ロジェクトの会計については完成基準が
など
引委員会(SEC)によって規制されてい
求められる。対照的に、米国GAAPで
売上高:870億ユーロ
る。そしてSEC規則では、米国のいか
は完成比率法を使用することが求められ
純利益:20億ユーロ
なる取引所であれ、上場しようとする
る。ヘッジ会計、棚卸資産及び売上債
企業は、米国の一般会計原則(GAAP)
権の評価、年金会計、どれも皆、両国
に従って財務報告書を作成するよう義
では異なり、どうにもならない場合もあ
務づけてられている。
るのだ。
(資料:2001年度営業報告書)
ニューヨーク証券取引所上場によって
ニューヨーク証券取引所上場要件に
シーメンスは全く新しい顧客層(ウォー
加えて、財務改革では重要なコスト問
ルストリートのアナリストやトレーダーた
題にも取り組んだ。当時、同社は標準
ち)に直接、定期的に接触することに
的なヨーロッパの慣行に従って、2組の
なった。彼らは厳しくタイムリーな財務
別個の財務報告書を作成していた。実
情報の提供を要求する。それが、同社
際の事業を管理していくための内部管理
の財務プロセス合理化のスピードにさ
用の報告書と、投資家やアナリスト、貸
らに拍車をかけた。
し主をはじめとする外部向けに簡略化
された業績を提示する連結報告書であ
コンプライアンスという課題
る。この2種類の報告書を作成するた
めに要した時間と費用は法外のものに
シーメンスはこれまで常に、主に税
金を中心に考え、根本にあるビジネス
そこで、米国GAAP基準の準拠とド
の経済状況は一般に反映しないドイツ
イツの会計原則順守を継続する一方で、
の会計慣行に従ってきた。米国の会計
シーメンスの財務部の専門家は、管理
基準は歴然とした欠点があるものの、
報告と法定連結報告の統合という目標
企業の実際の経済的成果に関してはよ
を追加した。もしもシーメンスがこれに
り正確に反映している。だが株主資本
成功すれば、単一の組織が運営する
の効率的利用に注目が集まるようにな
一つのシステムで、米国GAAPに基づ
ると、米国GAAPでも不十分なのだ。
き統合されたグローバルな報告の流れ
1990年代後半の経済的打撃への対応
の一環として、シーメンスはEVA方法を
を創り出した、ヨーロッパで最初の企業
となるだろう。
採用した。経営陣は、最終目標は売上
欧州企業の中には、それよりも簡単
収益ないし会計的利益の増大ではな
なアプローチでニューヨーク証券取引所
く、株主が同社に預けている資本に価
上場を目指したところもある。彼らはド
値を付加することであるという点を重視
イツもしくは国際会計基準を使用して
するようになった。だが経済的利益や
それぞれ組織運営を続け、報告用には、
資本コストに基づいた会計は、同社が
数字を米国GAAPに変換している。
躊躇するような課題にさらに別の層の
複雑さを加えた。
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なった。
ボトムアップ
だがシーメンスは、意図的にボトムアッ
プ・アプローチを選択して、米国GAAP
を受けて、そのプロセスを設計し直した。
成はシンプルで、柔軟性も高い。個々
それまでは別々だった作業計画、フロー
のプロセスを統合したので、決算処理も
チャート、タイムフレーム、提出物が一
非常に速くなった」
。
つの結束したプロセスに統合された。
定量化できる利益としては、財務報
を取り入れた。
「シーメンスは今や米国
それは素晴らしいものだったが、新し
告・連結におけるサイクル・タイムの50%
GAAPの空気の中で生活し、これを
い技術は、社員に利用方法を教えなけ
短縮や、情報伝達の合理化による25%
吸っている」と、CFOのハインツ−ヨ
れば、ほとんど役に立たなかっただろう。
のコスト節約がある。月間及び四半期
アヒム・ノイバーガーは、同社がニュー
そのためシーメンスは、
「企業準備ツール
財務報告の件数は、3分の2以上減少し
ヨーク証券取引所に上場して間もなく、
(company readiness tool)
」に取り組
た。そして改革前には6週間もかかっ
Financial Executive誌に語った。
「こ
んだ。これはアクセンチュアが設計した、
ていた財務データの変更時間は、2時
の方法をとらなければ、弊社のような
教育カリキュラムの有効性をはじめ、
間未満と大幅に短縮している。
広範囲に及ぶ組織では相当複雑になっ
組織の全体的な準備状態を査定するパ
ていただろう。あらゆるものを一つの規
フォーマンス・シミュレーション方法論で
いる。
「数字の管理が改善された」
。そ
則の下に動かすほうが、はるかに整合
ある。付加的品質管理指標として、オ
して当然ながら、数字管理の改善の結
がとれる」
。
ンライン・ユーザー調査で、同社の個々
果、世界でも最も重要な株式市場の投
の事業体が必要としている具体的な
資家たちに近づくことができた。■
一方、ソリューションを整備したこと
で、全く異なった難題が提起された。
フォローアップ措置が確認された。
ミッシェル・R・ボイシャー
「この新しいビジネス機能を設計し、実
装するための技術的なスキルや人材が
ギールは次のように簡潔にまとめて
同一言語を話す
シカゴを拠点とするビジネス・ライター。
弊社にはなかった」と、情報システム
グレゴリー・J・ミルマン
主任のギールは当時を思い出して言っ
隅々までの全面的な変革は、1998年9
た。米国GAAPを採用すれば、世界中
月から2000年9月までの約2年間、4段階
ニュージャージーを拠点とするビジネス・
の組織全体を通じて広範囲に及ぶ文化
に分けて、予定通りのスケジュールと予
ライター。
的調整や社員の再教育が必要になるだ
算で完了した。そして、2001年3月12日、
ろうとギールは続けた。「このことは、
シーメンスは正式にニューヨーク証券取
具体化するときには正確に、十分に調
引所に上場した。
整し、徹底的にテストして、シーメンス
現在、世界中にあるシーメンスの財務
のビジネスリスクを事実上最小にし、切
部の3,000人に及ぶユーザーが、連結財
り抜けなければならないことを意味して
務データ(同一フォーマットで同一通貨
いた」
。さらに、一部の関連子会社では、
単位の同じ情報)に、確実にリアルタ
特にアフリカや中国の場合、そのための
イムでアクセスしている。勤務している
技術インフラが不十分であった。
場所にかかわらず、全員が同じ財務言
これらがいずれも、それほど困難な
ものではなかったかのように、シーメン
語を話す−ユーザー同士だけでなく、株
主や部外者ともである。
スは変革を実現しながら吸収・合併に
シーメンス インダストリアル・ソリュー
も着手していった。これが組織改革に
ションズ・アンド・サービスのC I O で、
加わった結果、プロジェクトは倍近い
SAPビジネス・インフォメーション・ウエ
広範なものになった。
アハウス・プロジェクトを率いたローラン
アクセンチュアと共同で、シーメンスは
ド・ロヒナーは、次のように語っている。
ウェブ・ベースの技術を利用したグロー
「我々の大きな目標は、集中管理された
バルmySAP.com機能を実装して、その
ウェブ対応システムでなければ達成でき
管理及び法定報告機能を統合した。
なかっただろう。今ではボタンを押すだ
SAP ビジネス・インフォメーション・ウエ
けで、誰がデータを報告したのか、デー
アハウスが、ウェブ経由のあらゆる財
タの質はどうか、データを改善して再提
務報告・決算を可能にした。一方、シー
出する必要があるのは誰かが分かる」。
メンスの財務部もアクセンチュアの支援
ギールは次のように言う。「システム構
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