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3.実証試験

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3.実証試験
3.実証試験
(1) 試験内容
実証試験は、国産のUAVの中から回転翼タイプのR-max(ヤマハ発動機)と固定翼タ
イプのカイトプレーン(佐藤建設工業)の2機種を対象として実施した。なお、試
験地は住民に対する危険性や周辺に与える騒音の影響などを考慮して、渡良瀬遊水
地とした。
表−3 試験項目一覧
項目
内
容
①飛行準備の容易性
WP2
②離着陸時必要スペースの測定
飛行性能
③プログラムの実行確認
コース1
プログラム追加地点
④自律飛行,マニュアル飛行へ
の切り替え
変更 WP
WP3
⑤離発着時,飛行時の騒音
⑥通信(データアップリンク)
が途切れた場合の処置
映像取得・
画像伝送
①巡航時,機体姿勢変更時およ
びホバリング時の映像状態
St.1
離発着地点および
WP4
②画質,カメラ操作性
WP1
[旋回、ホバリングの試験]
③防震性能
④通信(データダウンリンク)
可能範囲の計測
1km
1.5km
測位システム
コース2
①位置認識精度(GPS性能)
1km
②飛行設定ルートに対してのト
レース能力
St.2
0
1km
離発着地点および
WP5
図−4 試験飛行コース
試験飛行のコースは、飛行性能を重視するコース(№1)と離発着試験を重視するコー
ス(№2)の2コースで実施した。
コース1のWP1∼WP2にかけて河川巡視を想定して河川沿いにコースを設定し、
また、WP2∼WP3の途中にプログラム変更ポイントを設定した。
(2) 試験結果
1)飛行性能
トレース能力は、航跡図から判読できるとおり、DGPSを測位システムに取り入れて
いるRmaxは、GPSの精度と同等の誤差範囲であった。
R max
;V= 1m,H= 10m
カイトプレーン;V=50m,H=120m
なお、カイトプレーンの誤差が大きいのは、測位システムの精度以外に機体の姿勢制御
方式の違いも大きな要因となっており、開発コンセプトの差といえる。
プログラム割り込みはスムーズに行われ、復帰も問題なく行われた。
図−5 試験飛行時の航跡
R-max 試験時の風向
カイトプレーン試験時の風向
WP-2
WP-3
基地局
WP-1
WP-4
設定高度
60
250
50
200
40
150
30
100
20
50
10
0
0
20
150
コース内側
コース内側
15
100
10
50
5
0
0
-5
-50
-10
-100
-15
基地局
-20
コース外側
コース外側
W.P.1
W.P.2
W.P.3
W.P.4
基地局
-150
基地局上空
W.P.1
W.P.2
【R-max】
【カイトプレーン】
図−6 航跡グラフ(上段:高度/下段:水平)
W.P.3
W.P.4
2)映像取得・画像伝送
UAVの利用場面を想定し、それぞれの場面におい
て必要な撮影対象や取得したい情報について撮
影を行い、画像を評価した。
● 平常時の巡視
河川利用状況把握⇒親水活動状況 …{人
水質事故等の状況把握⇒河川の色の違い …{油膜等
不法投棄物の把握⇒ゴミ等の状況 …{タイヤ,TV
● 災害後の巡視
河道内の状況把握⇒河川の流況 …{流況,橋脚
〃
⇒被災の状況 …{堤防,護岸等
W.P.1 に設置した白黒版および対標
・白黒帯が全て把握できる
(最小幅 5cm、対標 50cm)
水防活動等⇒活動状況 …{人,土嚢など
図−7 取得映像の解像度把握
【人】(遊水地内道路)
・釣りをしていることがわかる
・服の色や大きな持ち物はわかる
【構造物】
(第一排水門)
・水門の開閉状況が把握できる
・流路部の水際が確認できる
【不法投棄】(タイヤ等)
・水深が浅い場合には、水中の状況
も把握できる
【水質汚染】(透明シート)
・位置、範囲、水泡の状況なども把握
できる
図−8 UAVからの取得映像
4.運用に向けて
(1) 運用計画
UAV実機による実証飛行試験結果を踏まえ、試験運用を経て本格運用に至るまでの概
略手順を下図に示す。また、河川管理として活用する上での基本性能と、本格運用
および将来に渡って期待される性能を次頁の表に示す。
試験運用の主な目的は、UAVを災害時のみならず日常的に使うための飛行実績を得る
ためであることから、模型飛行機や旅客機の事故率を基に安全と評価し得るフライ
ト数を実施する。
準備期間
オペレーター訓練 or 委託
2年間
UAV機体の購入
電波障害対策
試験運用
通信環境の一部整備
(中継局試験)
・安全性の把握(400フライト)
・操作性の把握
・洪水時巡視状況の確認
1出張所管内全域整備
(13局へ拡大)
1年間
試験運用の評価
機体・機器改良*
通信環境の整備
事務所管内148.5km
(100局程度へ拡大)
* 本格運用に必要な改良例
①
②
③
④
機体・機器の軽量化
安全対策の高度化
防振カメラの搭載
巡視システムとの連携
本格運用
図−9 本格運用までの手順
表−4 河川巡視に求められるUAV性能
評価項目
要 求 性 能
機体の飛行性能
検討基本性能
導入当初
将来目標
候補機種性能
(YAMAHA Rmax)
[a] 最高速度
30km/h
60km/h
75km/h以上
80km/h(性能値)
[b] 航続時間
1時間
2時間
3時間以上
1時間(公表値)
30km
120km
225km
未確認
30kg
31kg程度
判 定 項 目
[c] 航続距離([a]×[b])
[d] 積載能力
[e] 夜間飛行能力
[f] ホバリング・低速飛行・安定性
[g] プログラム飛行精度
[h] 自動離着陸
20kg
不要
必要
なし
安定した画像を取得可
能
一定時間で安定した画像を取得可能
ホバリング時に安定し
た画像を取得可能
水平:50m程度
高さ:20m程度
水平:堤防幅
高さ:堤防高
水平:管理用道路幅
高さ:桁下高(1/2)程度
水平:10m程度
高さ: 2m程度
手動
無風時完全自動
完全自動
無風時完全自動
通信機能
[i] 電波障害や妨害電波への対応
耐候性
[k] 耐風性能
10m/sec以上
20m/sec以上
10m/sec
[l] 耐雨性能
小雨
大雨
未対応
[j] 通信方式
必要
直接送受信
なし
有線中継局
光ファイバー中継局
直接送受信
候補機種において既に満たされている性能
候補機種において軽微な改良で実現できる性能
(2) 活動範囲
UAVは、予め飛行ルートをプログラミングすることで離陸から着陸まで自動的に実行
されるため、オペレーターの視界から外れても飛行上の問題はない。しかし、河川
巡視という行動を考えると常に機体からの映像を受信する必要があり、場合によっ
ては飛行計画を変更することがあるため、安全性の面からも制御信号の送信も常時
可能である必要がある。
また、現在の国産UAVは軍用と異なり、調査対象が事前に明確になっていることもあ
り、航続時間が1時間程度と短い。
以下に通信機器および機体おける活動範囲について、現在考えうる手法を述べる。
1)通信手段
地上局とUAV間の通信種類としては下表のとおりであり、免許の必要のない小電力無
線を使用している現状では概ね通信距離は1.5km程度と考えられる。このため、活
動範囲を拡大するためには、免許を取得し専用回線を確保するか、中継局をエリア
内に複数設置する方法が考えられる。現状では国土交通省が河川沿いに整備を進め
ている光ファイバー網を利用し、光コンセントに中継局を繋げる方法が有力である。
表−5 UAV運航に必要な通信
送信方向
アップリンク
(地上局→UAV)
ダウンリンク
(UAV→地上局)
通信内容
情報量
周波数帯
機体制御信号
少
73MHz
1.5km
自律,マニュアル
センサ制御信号
少
44MHz
1.5km
カメラの方向等
画像データ
多
1.2GHz
3.0km
指向性大
測位データ
少
400MHz
―
GPS
少
2.4GHz
―
回転数,排気温等
機体計器データ
通信距離
備
考
※ 通信距離は状況により異なる。
通信範囲
中継局アンテナ
→ 基地局へ
光コンセント
光ファイバー通信ケーブル
図−10 中継局による通信イメージ
2)航続時間
航続時間(距離)を延長するには、ペイロードをすべて燃料タンクとするか、あるいは
機体・の軽量化を図るかなどが考えられる。例えばR-maxではUAVに必要な機材
を搭載した場合、ペイロードは10kgとなっており、全てを燃料タンクとすると容量
は11㍑から20㍑程度に変更可能であり、現状の機体でも約2時間の航続時間とする
ことができる。
ただし、夜間撮影用の暗視カメラなど、目的に添ってセンサを別途搭載することも考え
られることから、機体および機器の軽量化は必要である。
5.今後の課題
現状のUAVは、河川管理に十分活用が期待されるものであると評価できるが、本格的
な運用にいたるまでには幾つかの課題が考えられる。
(1) 他の飛行物体との衝突回避
UAVにはあらかじめ地形データがインプットされているため、橋梁や電線といった既
存の構造物は避けることが可能である。しかし、航空法上の申請が必要でない他の
飛行物体(ラジコン飛行機や気球等)は、現状では前方カメラの映像で衝突の危険
性を把握した場合にマニュアル操縦に変更して回避する以外に方法がなく、機械操
作による衝突回避は困難であると判断される。
飛行ルートを占有するのが難しい場合には、他の利用者との空間利用に関する秩序ある
ルール作りが現実的な対応であり、また、ある程度の危険性を考慮した運用計画が
必要と考えられる。
UAVを日常の河川巡視として活用する場合には、航空法に則って飛行計画を空港事務
所に申請し、航路を確保するなどの対応も衝突確保の一案である。
(2) 電波障害対策
使用している電波が免許の不要な小電力無線であるため、UAVの運航に必要な通信の
うち機体制御信号がFM放送に近い73MHz帯を使用してことから(表−5参照)通
信環境が不安定となったり、過大な出力の違法電波による混線等の可能性がある。
UAV側で通常の機体制御信号が受信できなくなった場合には、通信が正常に戻るまで
その場で静止するなどプログラムにより対応可能であるが、送受信の通信チャンネ
ルを複数設けるか、信号に識別コードを付加するなどの対応によって更に安全性を
高めることが可能である。
今後は、電波障害の実情を把握し対応策の必要性を検討するために、実際の河川管理区
域における電波状況を調査する必要があるものと考えている。
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