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大腸菌ワクチンによる内耳梅毒の治療2例

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大腸菌ワクチンによる内耳梅毒の治療2例
大 腸 菌 ワ ク チ ンに よ る内耳 梅 毒 の治療2例
岡 山 県 小
草
田 郡 矢 掛 病
川
〔昭 和28年6月3日
一
院
正
受稿 〕
梅 毒 反 応 は 村 田 氏 法,井
Ⅰ
緒
言
も強 陽 性.脳
内耳 梅 毒 の 様 な 実 質 型 神 経 梅 毒 に対 し て は
単 に砒 素 剤,蒼
出 氏 法,北
研 法何 れ
脊 髄 液 梅 毒 反 応 陰 性.細
胞数
16/3.
局 所 々 見:両
鉛 剤 に よ る慣 行 の 化 学 療 法 で
側 鼓 膜 軽 度 混 濁,鼻
は 完全 な 治 療 効 果 は 期 待 し得 ざ る こ と多 く,
口 腔,咽
随 つ て 更 に 多 元 的 な療 法,特
示 す 様 に 右 耳 は 大 声 で 話 して 接 耳 で よ うや く
に発 熱療 法 に 重
喉 に 異 常 を 認 め ず.聴
腔,
金 属 剤 乃 至 は 抗 菌 性 物 質 等 を 同 時 に併 用 して,
力 は 第1表
に
第1表
夫 等 の 合 斂 作 用 に よ り臨 牀 上,血 清 学 上 に よ
り満 足 す べ き成 果 を收 め 得 る と云 わ れ る.最
近 私 は 内 耳 梅 毒2例 に,大
腸 菌 ワ クチ ンを 作
成 して,之 を 砒 素 剤 との 併 合 療 法 を 行 う機 会
を 得 た ので 茲 に 其 成 績 に 就 て 報 告 す る.
Ⅱ 症
1)
耳 は 全 然不 能.前
庭 機能 検査 に
於 て 側 方 凝 視 性 眼 振 を 認 む.廻
例
患
者:岡
野, 46才,女
初
診:昭
和23年11月28日.
主
訴:高
度 難 聴,耳 鳴,眩
家 族 歴:夫
聴 取 可 能,左
子,無
職.
秒10回
転)は 右 方 廻 転 で 持 続 時 間21秒,振
盪 数40.左
50.温
暈.
は 現 在 造 船 工 員 で あ る が,
終戦 迄 貨 物 船 々 員 で 梅 毒 の 既 往 症 あ り.
既 往 歴:生
来 健 康 に して 著 患 な し.
現 病 歴:昭
和22年
転 性 眼 振(15
方 廻 転 で 持 続 時 間27秒,振
度 眼 振(水
温15℃,水
側 潜 伏 時 間24秒,持
時 間27秒,持
盪数
量20竓)は
続 時 間84秒.左
続 時 間112秒.身
側 潜伏
体均衡 障碍 と
し て 自然 的 に 偏 示 現 象 は 示 さな い が,開
夏 頃 か ら何 等 誘 因
右
眼,
閉 眼 時 の 単 脚 起 立 は 不 能.ロ
ンベル グ氏 症状
は 中 等 度 陽 性. Hennebert氏
症候 は発 現 せ ず
な く漸 進 性 の 聴 力障 碍 が あ つ た.又 時 折 高 調
の耳 鳴 を覚 え た が 其 儘 放 置 し て い た. 11月 頃
診断:後
天性 内耳梅毒
に な り身 体 を 無 理 す る と周 囲 が 廻 転 す る様 な
治 療 並 経 過:入
院 第1日
に 第1回 大
眩暈 が 起 り,特 に 夜 間 一 人 歩 き が 出 来 な くな
腸 菌 ワ クチ ン に よ る発 熱 療 法 を 開 始 す.即
つ た.聴 力 は 益 々低 下 す る一 方 で 殆 ど聾 同 然
ワ クチ ン0.1竰
と云 わ れ るに 至 つ た. 11月12日
脉 に 注 射,同
夜家 の入 口
を10%葡
ち
萄 糖 に 混 ぜ て肘 静
時 に 強 心 剤 の 皮 注 を 行 う.発 熱
で突 然 眩 暈 して 転 倒 し,其 際 激 し く側 頭 部 を
の 誘 起 は 最 初 の3∼5回
打 ち,近
次 い で 隔 日に 行 うが 可 と 云 わ れ て い るが,私
くの 医 師 に 処 置 を 受 け2週 間 近 く安
静 臥牀 した. 11月26日
朝 久 振 りに 畠 に 出 た
は 第2日
に0.2竰
は 可 及 的 毎 日行 い,
の ワ クチ ン 注 射 後 は 以 後 隔
が, 30分 位 して 急 に 眼 前 が 真 暗 に な り倒 れ,
日 に ワ クチ ン 量 を 略 々 倍 数 的 に 増 し,併 せ て
28日 当科 を 訪 れ 入 院 した.
副 作 用 並 に 体 力 の消 耗 を 考 慮 し て ヴ ィ タ ミン
現 症:体
格 肥 満,栄
養 良,顔
し脉 膊 緊 張 大 で あ るが 血 圧 最 高140,最
面紅 潮
低70 .
の 補 給 並 に 水 分 の 十 分 な 摂 取 を 行 わ せ た.其
間 蒼 鉛 剤 は 隔 日,砒 素 剤 は4日
全 身 に 特 別 の 変 化 な く,婦 人 科 的 診 察 の結 果
た.第2表
も何等 異 常 な し.智 能,精
発 熱 状 態 が 誘 起 され,其
神 状 態 正 常.血
液
に 示 す 様 に 第4日
目 毎 に併 用 し
目 よ り理 想 的 な
経 過 中多少 の食思 不
686 草
川
一
正
第2表
振 を 訴 え た が,其
か つ た.症
他 の 不 快 症 状 は 認 め られ な
状 は 第6日
日頃 よ り眩 暈,均
頃 よ り耳 鳴 消 失,第12
が 聞 え,耳 語50糎,会
頃 よ り時 計 音
話 音3米
分 は 快 くな つ た が,聴
力は聾
同 然 で 且 両 側 の耳 鳴 が 非 常 に強 くな つ て 居 り
衡 障 碍 症 状 消 退 し便 所 ヘ 一
人 で 行 け る様 に な つ た.第14日
に して い た.気
2月20日
頃 よ り悪 心,嘔 吐,頭
痛 を 覚 え25
日当 科 に 入 院 した.
現
の聴 取 可 能
症:体
格 中 等 度,栄
養 良.全 身
とな り,私 の 間 診 に 対 し全 く正 確 に 応 答 出 来
に 特 別 の所 見 な く,特 に産 婦 人 科 的 検 診 を 受
た.第11回
け た が 異 常 な し.智 能 正 常,精
発 熱 後 の梅 毒血清 反 応 は 尚 中等
度 陽 性 を 示 した が,然
し入 院 時 の 自覚 症 状 は
全 く消 失 し, 12月27日
一 時 退 院 す.退
の聴 力 検 査 に 於 て 耳 語70糎,会
恢 復 した.退
院 日
話 音9米
に
院 後 も引 続 き 駆 梅 療 法 を 行 い,
翌年1月18日
神状態陰 欝症
的.血 液 梅 毒 反 応 は 村 田 氏 法,井
研 法 何 れ も強 陽 性.脳
出氏 法,北
脊髄 液 梅 毒反応 は弱陽
性 を 示 し,細 胞 数24/3.グ
ロブ リン反 応 は弱
混 濁.
局 所 々 見:両
の梅 毒 血 清 反 応 は 弱 陽 性 の成
側 鼓 膜 正 常,鼻 腔,口
績 を 示 し,自 覚 的 に 何 等 障 碍 な く自 宅 よ り1
腔,咽
里 余 を 歩 い て 通 院 した.
左 右 耳 共 全 然 会 話 音 の 聴 取 不 能.前
中 止 し,以 後1ヶ
観 察 した が,
1月 末 を 以 て 治療 を
月 に1度 来 院 させ,経
過を
喉 異 常 な し.聴 力 は 第3表
に示す様 に
庭機 能検
第3表 (不 能 とは 音 叉音 聽 取 不 能)
6ヶ 月 後 辺 りよ り聴 力 が 稍 々低
下 した 傾 向 を 認 め た が,耳
鳴,眩
暈,均
衡障
碍 等 の 症 状 は 全 く訴 え な か つ た.
2)
患
者:十
河, 26才,女
初
診:昭
和24年2月25日.
査 に 於 て 廻 転 性 眼 振(15秒10廻
主
訴:高
度 難 聴,悪
廻 転 で 持 続 時 間24秒,振
家 族 歴:夫
子,ダ ン サ ー.
心,眩 暈.
は 造 船 所 工員 で 現 在 外 傷
の た め 入 院 治療 中.結
婚後夫 は 梅 毒治療 を 受
で 持 続 時 間31秒,振
温15℃,水
盪 数35.左
盪 数42.温
量20竓)は
持 続 時 間68秒.左
け た こ とあ り.
転)は
右 側 の 潜 伏 時 間30秒,
側 の潜 伏 時 間34秒,持
戦 後 呉 で 駆 梅 療 法 を 受 く.
時 間110秒.身
現 病 歴:昭
和24年1月
氏 症 候 は 陽 性 に 発 現 し, Hennebert氏
務 の夫 が 作 業 中 の 外 傷 に よ り当 院 外 科 へ 入 院
陰 性.開
の た め,其
た.
看 護 に附 添 い,夜 間 の み 舞 踏 場 に
勤 め て い た. 2月12日
塞 感,悪
夜 突 然病 院廊 下で 耳 閉
心 の 前 駆 症 状 あ り,暫
感 じ 倒 れ た が,過
く して 眩 暈 を
労 の た め と思 い2日
間 安静
診
続
体 均 衡 障 碍 検 査 は ロンベ ル グ
眼,閉
断:後
症候は
眼 時 の 単 脚 起 立 不 能 で あつ
天 性 内 耳 梅 毒.
治 療 並 経 過:治
じて 行 い,第4表
方廻転
度 眼 振(水
既 往 歴:終
下旬 造船 所 勤
右方
療 方 式 は 第1例 に準
に 示 す 様 に 第4日 目 よ り所
大 腸 菌 ワ ク チ ンに よ る 内 耳 梅 毒 の 治 療2例 687
第4表
期 の発 熱 状 態 を 呈 し,引 続 き39° ∼40°. 8Cを
よ り漸 次 去 り,第8回
適 確 に 上 昇 した.第4日
り,検 者 の 質 問 に 対 し明 瞭 に 笑 顔 で 応 答 出来
よ り食 慾 不 振,頭 痛
の不 快 症 状 に 苦 ん だ が,砒
素剤 注射 後 の胃腸
目頃 に は 気 分 も快 くな
る様 に な り,耳 鳴,眩
暈,悪
心,頭 痛 等 の入
障 碍 の 副 作 用 は 所 謂 ヘ ル ク スハ イ マ ー 反応 で
院 時 の 症 状 も消 退 し た.耳
あろ う と思 う.然 し該 反 応 は 一 過 性 で 後 遺 症
会 話 音7米 に 恢 復 し, 22日 目 に 一 時 退 院 し
状 を残 す こ と も寡 い の で,循
た.退 院 時 聴 力は 耳 語55糎,会
環 器 に重篤 な合
語 聴 取 力40糎,
話 音7.5米
併 症 で もな け れ ば 恐 れ る に値 しな い と云 わ れ
な り,血 液 梅 毒 反 応 は 中等 度 陽 性.退
て居 り,次 回 よ り 注 意 しつ ゝ砒 素 剤 を 続 け
梅 療 法 を す ゝめ た が 来 院 せ ず,
た.第5回
現 在 何 等 再 発 の 徴 な し と云 う.
目の発 熱後迄 は 前述 の不快 現象 に
終始 した が,第6回
目 の ワ クチ ン 注 射 終 了 後
治 療 成 績:
と
院 後駆
3ヶ 月 経 つ た
2症 例 の 治 療 成 績 を 第5
第5表
表 に ま とめ た.発
熱 が 理 想 的 に 誘 起 され,治
ず 健 康 人 の糞 便 の 大 腸 菌 を 以 て した.
療 中 の 合併 症,副 作 用 が 懸 念 した 程 現 れ ず,
2.
菌 量 は1cc中1mg.
然 も予 期 以 上 の 成 績 が 得 ら れ た 様 に 思 え るが,
3.
製 法 は 分 離 し た 大 腸 菌 を1cc 1mg含
然 し最 善 の 発 熱療 法 及 び 其 施 行 方 法,更
に臨
牀 上,血 清学 上 の最 後 的 な成 果 に 就 て は 尚 長
の如 く生 理 的 食 塩 水50ccに
リン1滴 を 滴 下 して15分
溶 か し,ホ
有
ルマ
間 遠 心 沈 澱 し,上
期 間 に 亘 つ て の 観 察 を基 と し て 導 か るべ き で
澄 を捨 て 更 に 生 理 的 食 塩 水 を 加 え 再 び15分
あ ろ う.
間 遠 心 沈 澱 し,此 菌 液 の 濾 過 を2回 繰 返 し,
更 に 之 を60℃
Ⅲ 大腸菌 ワクチ ンの製法
る後 に 冷 蔵 す.翌
私 が 治療 に 使 用 した 大 腸 菌 ワ ク チ ン の製 法
を簡単 に 述 べ る と
1.
60℃
間 入 れ,然
日及 び 翌 々 日 と都 合3日
の 重 湯 煎 中 に1時
間
間 後 冷 蔵 の 操 作 を行
う. 4日 目 に 普 通 寒 天 培 地 に 菌 液 を 移 し て,
菌 株 は 一 般 に 糞 便 よ りColi
よ り分離 して使 用 す るが,私
の 重 湯 煎 中 に1時
communis
は そ れ に限定 せ
24∼48時
間 観 察 し,其 結 果 陰 性 の も の を 合 格
と し て 使 用 した.
688 草
Ⅳ
1)
診 断:内
発 疹,骨
変 化,瘢
考
川
一
正
に よ る併 用 を 同 時 に 行 う方 が 人 工 熱 終 了 後 に
按
化 学 療 法 を す ゝめ る よ り成 果 が 得 られ る と発
耳 梅 毒 の診 断 は 勿 論 全 身 の
表 し, Dattner (1944)は8回
痕,淋
作 終 了後 慣行 の化 学 療 法 を 試 み た148例
巴 腺 腫 脹,鼻
咽 口腔
の マ ラ リヤ熱 発
と,
粘 膜 等 の 梅 毒 性 症 状 に 注 意 し,聴 器 の 機 能 検
発 熱療 法 後 直 ち に砒 素 剤0.06gmを
毎 日連 続
査,血
注 射 し て10日
とを6ヶ
液 及 び 脳 脊 髄 液 の梅 毒 反 応,発
病 状 態,
に及 ば し め た276例
症 候 等 の 綜 合 的 観 察 に 依 らね ば な ら な い.然
月 間 観 察 し て,両 者 の 間 に 其 差 異 を 認 め 得 な
し 昔 か ら 内 耳 梅 毒 に は 特 有 な 型 は な い と云 わ
か つ た し,後 者 の様 な精 力 的 な療 法 を 行 つ て
れ,例
も 安 全 で あ り,副 作 用 は 恐 れ る要 は な い と述
え ば 機 能 検 査 で 骨 伝 導 が 空 気 伝 導 とは
不 均 衡 に 異 常 に 障 碍 され て 居 る とか,又
聴力
べ て い る. Roseは
マ ラ リヤ,ワ クチ ン等 に よ
に 就 て は 所 謂 神 経 難 聴 像 を 呈 す る こ とが 多 い
る人 工 熱 の 成 果 を 比 較 検 討 し,人 工 熱 そ の も
と云 わ れ るが,之
の を 従 来 よ り更 に 短 期 間 に 且 頻 回 に 与 え,そ
な い.又
は 必 ず し も内 耳 梅 毒 に 限 ら
血 液 及 び 脳 脊 髄 液 の血 清 梅 毒 反 応 は
れ と併 行 し て 発 熱 期 間 中 に 慣 行 の 化 学 療 法 を
診 断 上 重 要 な 拠 り所 で あ る が,内 耳 梅 毒 に 於
行 う こ とを 強 調 して い る.中 江(1951)は
て 陰 性 の場 合 が あ り,陰 性 必 ず し も梅 毒 に 非
経 梅 毒 に 対 し沃 剥 内服,発
ず と立 証 す る も の で な く,む し ろ綜 合 的 に 所
チ ン発 熱 に よ る),砒 素,蒼 鉛 療 法 を 組 合 して
見 を 観 察 して 病 像 が 多 種 多様 で あ る こ と,症
治 療 期 間 を 約1ヶ
候 の 無 系統 性 こそ 内 耳 梅 毒 の 重 要 な 点 と見 做
の ワ クチ ン発 熱 後1ク
し得 る と迄 云 わ れ て い る.私 の2症 例 は 全 身
新 に 再 び ワ クチ ン療 法 を 行 う こ とを 奬 め て い
的 に 何 等 特 別 の梅 毒 性 症 状 は 認 め られ ず,発
る.尚 所 期 の 発 熱 を 得 る方 法 と し て 二 分 割
病 状 態 も第1例
は メニ エ ル 氏 症 状 様 の もの を
間 歇 的 に 繰 返 し漸 進 性 に 発 現 し た 様 で あ る
が,第2例
は 発 作 性 に 短 時 日に 進 行 して 出 現
し,初 診 時 の 聴 力 障 碍,前
庭 迷 路 症状 の 病像
も梅 毒診 断 に 絶 対 的 な 拠 り所 と断 定 出 来 な か
つ た が,幸
に 各 々 家 族 歴,既
往歴 に梅 毒を 認
め 且 血 液 梅 毒 反 応 が 両 者 共 強 陽 性 を証 明 し 得
た の で,其 他 の 炎 症 性 内 耳 炎,迷
(第1例
路震盪症
は頭 部打 撲 傷 を受 け たが 之は 本 症発
現 後 の こ とで あ る),聴 神 経 炎,耳 硬 化 症,メ
ニ エ ル 氏 病 等 と の 鑑 別 を 考 慮 し乍 ら,茲 に 内
耳 梅 毒 と診 断 した.
2)
治 療:神
法,即
熱療 法(主
神
に ワク
月 短 縮 し得 る と云 い, 10回
ー ル の 駆 梅 療 法 を続 け,
ち 前 回 の 発 熱 に 於 て の経 験 上 充 分 よ い
発 熱 を 得 る と思 わ れ る ワ ク チ ン 量 を 二 分 割
し,第1回
第1回
を70%量,第2回
注 射 後 約30分
を30%量
経 て 第2回
し,
目の 注 射 を
行 え ば 更 に 良 好 な 成 績 を 挙 げ 得 る と述 べ て い
る.扨 て 耳 鼻 科 領 域 に 於 て は 吉 田(1937)が
原 因 不 明 の難 聴 に 対 して 硫 黄 に よ る人 工 発 熱
と砒 素 剤 に よ る併 用 療 法 を 行 い,近
(1948)が
内 耳 梅 毒2例
くは 野本
に マ ラ リヤ菌 と砒 素
剤 療 法 を 行 い 共 に 良 い 治 療 効 果 を 收 めた と報
じ て い る が,大
腸 菌 ワ クチ ン に よ る発 熱療
法 は 耳 鼻 科 方 面 で は 未だ 報告が ない様であ
経 梅 毒 に 対 し発 熱 療 法 が 有
効 で るあ と唱 え た の はWagner
Jauregg (1917)
を 以 て 始 ま り,以 来 発 熱療 法+駆
梅療 法 の併
用 の 考 え は 本 邦 に 於 て は 大 森(1933)が
る.
最 後 に 発 熱 と砒 素 剤 併 合 療 法 の 作 用 機 転 に
就 て は 今 日尚 定 説 な く,発 熱療 法 が 主 に免 疫
脊髄
現 象 に 基 礎 を お く変 調 療 法 で あ り,こ れ に よ
癆 に 対 し て マ ラ リヤ及 び 砒 素 剤 に よ る併 用 療
つ て 微 弱 で あ つ た 神 経 組 織 の反 応 能 力が 賦 活
法 を,青
され る も の とす れ ば,同
島(1938)は
発 熱 療 治 に 加 え て硫 黄
時 に 併 用 す る砒 素剤
及 び 砒 素剤 療 法 を 以 て 夫 々 軽 快 せ しめ た と報
療 法 が 益 々其 特 長 を 最 大 限 に 発 揮 し,従 つ て
告 して い る.
症 状 の 緩 解 に 影 響 を 与 え る,即 ち発 熱 に よる
Adams,
Marn,
Benett
(1944)は
種 々の型
の 神 経 梅 毒 に 人 工 熱 を 誘 発 さ せ 乍 ら,砒
素剤
生 体 全 般 の 変 調 とそ れ に よつ て 有効 化 され た
化 学 療 法 と の 合 斂 作 用 に 帰 す べ き もので あ ろ
大 腸 菌 ワ クチ ンに よ る 内 耳 梅 毒 の 治 療2例 Ⅴ 結
うと説 明 され て い る.
3)
治 療 判 定:梅
689
毒 の 治 療 は 当 然 血清 反
1)
私 は 最 近46才,
語
26才 の女 子 の 後 天 性
応 の陰 性 化 を 以 て 治 療 効 果 の 判 定 の 指 標 とす
内 耳 梅 毒2例
べ きで あ るが,私 は2症
に よ る発 熱療 法 と砒 素 剤 療 法 を 併 用 し て 相 当
例共血 清 反応 が一 段
乃至 二 段 軽 快 して 全 く陰 性 とは な ら な か つ た
の成 果 を 收 め る こ とが 出 来 た.
が,経 費,治 療 日数 の 関 係 よ り一 応 症 状 の 自
覚 的,他 覚 的 な 効 果 を 以 て 治 療 を 中 止 し た の
で,第1例
は6ヶ
月後 の現在聴 力は 若干低 下
に 自 ら作 成 し た 大 腸 菌 ワ クチ ン
2)
然 し1例 は6ヶ
月後 の現 在聴 力が 低 下
しつ ゝあ る傾 向 か ら考 察 して,治 療 終 了 後 も
再 三 血 液 並 に 聴 器,聴
能,前 庭 迷 路 症 状 等 の
しつ ゝあ り,今 後 再 び 梅 毒 ス ピ ロヘ ー タ の 活
諸 検 査 を 行 い,若
動 性 の 開 始 され る こ と も考 え られ, 10回 程 度
再 治療 を 強 力 に 行 い 治療 の 徹 底 を 期 さね ば な
の 発 熱療 法 を 以 て 足 れ りとせ ず 更 に 反 覆 して
強 力 な 発 熱-化 学 療 法 の 必 要 な る事 を痛 感 し
た 次 第 で あ る.
し再 発 悪 化 の 徴 あ れ ば 反 覆
らな い と考 え る.
擱 筆 に際 し御 校 閣 を賜 わ つ た恩 師 高 原教 授 並 に 御
援 助 を 忝 う し た黑 住 講 師 に衷 心 よ り深 謝 い た し ます
本 論 文 の要 旨 は昭 和24年11月
に 日本 耳 鼻 咽 喉 科
学会 中 四国 地 方 会 に於 て 報 告 し た.)
主
1) 野 本:耳
鼻 咽,
20卷,
2) 切 替:日
臨 牀,
5卷,
11号,昭22.
3)
合 医, 8卷,
13号,昭26.
中 江:綜
4) 植 松:発
熱 療 法.
5号,昭23.
要
文
献
5) Wagner Jauregg:
Fieher-u.
rapie.
6) 白 木:神
経梅 毒 の発 熱 療 法.
Infektionsthe
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